Trademark Appeal Case
著名人名商標の公序良俗
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
基本情報
| 審判番号 | 不服2013−9262(T2013−9262/J1) |
|---|---|
| 審判種別 | 不服 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理由テキスト
第1 本願商標
本願商標は、「菅原道真」の漢字を標準文字で表してなり、第11類「電球類及び照明用器具,家庭用電熱用品類,加熱器,あんどん,ちょうちん,かいろ,家庭用浄水器,化学物質を充てんした保温保冷具」を指定商品として、平成23年7月20日に登録出願されたものである。
第2 原査定の拒絶の理由(要点)
原査定は、「全国各地の天満宮が独立して菅原道真を祭神としてまつり、かつ、祭神として敬愛され、これら各地域の人々に親しまれている著名な歴史上の人物名である『菅原道真』を、出願人が自己の商標として、その指定商品について独占的に使用することは、全国多数の天満宮や当該地域の人々の使用を抑制することにつながり、当該著名な故人の氏名を使用した観光振興や地域おこしなどの公益的な取り組みを阻害することとなり、社会公共の利益に反するものとみるのが相当である。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。
第3 当審における審尋(要点)
1 当審において、請求人に対して、原査定の拒絶の理由を補強する趣旨で、平成25年12月11日付けで、別掲のとおりの証拠を示した上で、要旨次の2のとおり、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するものである旨の審尋をし、期間を指定して、これに対する意見を求めた。
2 「菅原道真」の文字からなる本願商標が請求人の商標として登録された場合には、我が国の国民感情を害するおそれがあり、全国各地の「菅原道真」を活用した地域振興や観光振興等の遂行を阻害するおそれがあり、さらに、ゆかりの地や合格祈願に関連した各種の商品等を取り扱う多数の事業者に対して無用の混乱を招くおそれがあるものと判断するのが相当である。
してみれば、このような事情を招くおそれがある本願商標を請求人の商標として登録を認めることは、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するものというべきである。
したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものである。
第4 当審の判断
1 本願商標は、前記第1のとおり、「菅原道真」の漢字を標準文字で表してなるものであり、歴史上の人物名である「菅原道真」を容易に認識させるものである。
2 商標法第4条第1項第7号と歴史上の人物名について
商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、(1)その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、(2)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、(3)他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、(4)特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、(5)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるというべきであると判示されている(知的財産高等裁判所 平成17年(行ケ)第10349号判決)。
ところで、周知・著名な歴史上の人物名は、その人物の名声により強い顧客吸引力を有する。その人物の郷土やゆかりの地においては、住民に郷土の偉人として敬愛の情をもって親しまれ、例えば、地方公共団体や商工会議所等の公益的な機関が、その業績を称え記念館を運営していたり、地元のシンボルとして地域興しや観光振興のために人物名を商標として使用したりするような実情が多くみられるところであり、当該人物が商品又は役務と密接な関係にある場合はもちろん、商品又は役務との関係が希薄な場合であっても、当該地域においては強い顧客吸引力を発揮すると考えられる。このため、周知・著名な歴史上の人物名を商標として使用したいとする者も、少なくないものと考えられる。一方、敬愛の情をもって親しまれているからこそ、その商標登録に対しては、国民又は地域住民全体の反発も否定できない。
そして、前記判決では、商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するものとして、前記(1)ないし(5)の場合を例示として挙げており、その例示の一つとして、「(2)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合」が挙げられている。
そうとすれば、周知・著名な歴史上の人物名からなる商標は、(ア)当該歴史上の人物の周知・著名性、(イ)当該歴史上の人物名に対する国民又は地域住民の認識、(ウ)当該歴史上の人物名の利用状況、(エ)当該歴史上の人物名の利用状況と指定商品との関係、(オ)出願の経緯・目的・理由、(カ)当該歴史上の人物と請求人(出願人)との関係に係る事情を総合的に勘案して、当該商標を特定の者の商標としてその登録を認めることが、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するものと認められる場合には、商標法第4条第1項第7号に該当するというべきである。
3 商標法第4条第1項第7号の該当性について
(1)「菅原道真」について、職権による調査によれば、別掲の事実がある。
かかる事実及び請求人の主張から、次のことを認めることができる。
ア 「菅原道真」の周知・著名性
「菅原道真」は、歴史上の人物として、広辞苑、人名事典などの辞典に取り上げられており、また、全国各地に多数存在する天満宮にて祭神として信仰の対象とされるとともに、学問の神として親しまれていることから、全国的に周知・著名な歴史上の人物名といえる。
イ 「菅原道真」に対する国民又は地域住民の認識
「菅原道真」は、ゆかりの地において、碑や像が建てられており、また、前記アのとおり、全国各地に多数存在する天満宮にて祭神として信仰の対象とされるとともに、学問の神として親しまれていることから、ゆかりの地における地域住民はもとより、我が国の国民に広く敬愛されているといえる。
ウ 「菅原道真」の名称の利用状況
「菅原道真」は、全国各地において、地方公共団体や公益的な機関により地域振興や観光振興にその名称が活用され、関連の祭りが開催され、また、博物館等において関連の展示会等が開催されるとともに、ゆかりの地や合格祈願に関連した各種の商品等にその名称が活用されるなど、極めて広く利用されている。
エ 「菅原道真」の名称の利用状況と指定商品との関係
「菅原道真」の名称は、前記アのとおり、全国的に周知・著名な歴史上の人物名であるため、強い顧客吸引力を発揮するといえる。そして、前記ウのとおり、該名称は、極めて広く利用されているものであることからすると、本願の指定商品の分野においても、これをゆかりの地や合格祈願に関連して使用を欲する事業者は、少なくないものと考えられる。
オ 出願の経緯・目的・理由
本願商標は、請求人が所有していた「菅原道真」の文字からなる登録第2352646号商標について、請求人が新たに出願したものであるといえる。
カ 「菅原道真」と請求人(出願人)との関係
請求人は、「菅原道真」を祭神とする神社の一つである。
(2)判断
前記(1)のとおり、「菅原道真」は、周知・著名な歴史上の人物名であって、我が国の国民に広く敬愛されており、また、全国各地において、地域振興や観光振興に活用され、関連の祭りや博物館等における展示会等が開催されるとともに、ゆかりの地や合格祈願に関連した各種の商品等にその名称が活用されるなど、極めて広く利用されていることが認められる。
そして、たとえ、請求人が過去に「菅原道真」の文字からなる登録第2352646号商標を所有し、「菅原道真」を祭神とする神社の一つであるとしても、前記事情を総合的に勘案すれば、「菅原道真」の文字からなる本願商標が請求人の商標として登録された場合には、我が国の国民感情を害するおそれがあり、全国各地の「菅原道真」を活用した地域振興や観光振興等の遂行を阻害するおそれがあり、さらに、ゆかりの地や合格祈願に関連した各種の商品等を取り扱う多数の事業者に対して無用の混乱を招くおそれがあるものと判断するのが相当である。
してみれば、このような事情を招くおそれがある本願商標を請求人の商標として登録を認めることは、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するものというべきである。
したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものである。
4 請求人の主張について
(1)請求人は、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に関する知的財産高等裁判所判決(平成17年(行ケ)第10349号)が明示するどの基準にも該当しない旨主張している。
しかしながら、前記判決において「(2)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合」が挙げられていることからすれば、周知・著名な歴史上の人物名からなる商標は、(ア)当該歴史上の人物の周知・著名性、(イ)当該歴史上の人物名に対する国民又は地域住民の認識、(ウ)当該歴史上の人物名の利用状況、(エ)当該歴史上の人物名の利用状況と指定商品との関係、(オ)出願の経緯・目的・理由、(カ)当該歴史上の人物と請求人(出願人)との関係に係る事情を総合的に勘案して、当該商標を特定の者の商標としてその登録を認めることが、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するものと認められる場合には、商標法第4条第1項第7号に該当するというべきである。
(2)請求人は、地方公共団体や商工会議所等が行う「街や村おこし事業・観光事業」等々は、それ自体が目的事業であっても営利を伴うものであって、商標法第4条第1項第7号の趣旨によって保護されるものではない旨主張している。
しかしながら、前記3(2)のとおり、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとの判断は、前記3(1)の諸事情を総合的に勘案した上でのものであり、地方公共団体や商工会議所等が行う事業のみをその理由とするものではない。
(3)請求人は、本願商標と同じ商標が、現在も登録商標として登録されている旨主張している。
また、請求人は、既に登録された「菅原道真」の商標には、その更新時においてすら、商標法第4条第1項第7号の適用はされないのに、出願中の本願商標には、同号の適用をするというのは、法適用の不平等で、恣意的法の執行であり、法の下の平等(憲法第14条)の趣旨に反するのみならず、商標登録無効審判の請求原因の同号に除斥期間が設けられていない趣旨にも反する旨主張している。
しかしながら、登録出願に係る商標が商標法第4条第1項第7号に該当するか否かは、当該商標の査定時又は審決時における実状に基づき判断すべきものであるから、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するからといって、法の下の平等の趣旨に反するものではなく、また、商標登録無効審判に係る除斥期間の趣旨に反するものでもない。
(4)請求人は、「菅原道真」の登録商標の登録や使用に対し、現実に「国民又は地域住民全体」から反発や不快感の表示や、「地域振興や観光振興」等の遂行に障害が生じたというような事実は全く無い旨主張している。
しかしながら、たとえ、現実に反発や不快感の表示又は地域振興等の遂行障害が無いとしても、そのおそれがあること前記3のとおりである。
(5)請求人は、別掲の証拠は、全て記述的説明的使用であって、何ら商品及び役務に使用されているものはない旨主張している。
しかしながら、たとえ、記述的説明的な使用であるとしても、「菅原道真」の名称が極めて広く活用されていることに変わりないから、前記3のとおり判断するのが相当である。
(6)請求人は、前記3(1)エの「本願の指定商品の分野においても、これをゆかりの地や合格祈願に関連して使用を欲する事業者は、少なくないものと考えられる。」という点について、他の事業者を保護するために本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するというのであれば、論外である旨主張している。
しかしながら、請求人が指摘する点のみをもって、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当すると判断したのではなく、前記3のとおり、諸事情を総合的に勘案した上で、本願商標を請求人の商標として登録を認めることは、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するものというべきであると判断したものである。
(7)請求人は、公益の名において特定事業を保護しようとするのであれば、法の下の平等(憲法第14条)の規定及び職業選択の自由(憲法第22条)の規定に反し、許されない旨主張している。
しかしながら、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとの判断は、前記3のとおり、諸事情を総合的に勘案した上で、本願商標を請求人の商標として登録を認めることは、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するものというべきであると判断したものであるから、特定の事業を保護しようとするものでないこと明らかであり、また、法の下の平等や職業選択の自由に反するものでもないこと明らかである。
(8)したがって、請求人の主張は、いずれも採用できない。
5 むすび
以上のとおり、本願商標は商標法第4条第1項第7号に該当するものであるから、これを登録することはできない。
よって、結論のとおり審決する。
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