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Trademark Appeal Case

産地表示と識別力

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号平成6年審判第14941号
審判種別不服
結論勝訴(請求認容)

結論テキスト

登録第2434423号の登録を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする。

理由テキスト

第1 本件商標

本件登録第2434423号商標(以下「本件商標」という。)は、「母衣旗」の漢字を横書きし、その上に「ほろはた」の平仮名文字を横書きしてなり、平成1年7月3日登録出願、第32類「食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加工食料品」を指定商品として、同4年7月31日登録されたものである。

第2 請求人の主張

1 請求の趣旨

結論同旨の審決

2 請求の理由の要点

(1)審判請求人の利害関係

請求人たる石川町は、同町内にある母畑の地名の由来とされる「母衣旗」の文字を冠した年中行事の「母衣旗まつり」の協同主催の一人であり、開催会場の直売コーナーにおいては、食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加工食料品の販売も行うから、それらの商品について品質管理をする立場にある。

したがって、請求人は、石川町在の母畑の地名の由来とされ、同町が共催する年中行事の名称の一部に含まれる文字と同一文字よりなる本件商標が登録され保護を受けることによって不利益を被るおそれがある者に該当するから、本件商標の登録無効の審判を請求することについて法律上の利益を有する者ということができる。

(2)商標法第3条第1項第3号及び同第6号について

(ア)請求人は、昭和30年3月、旧石川町、母畑村、他4ヶ村との合併により成立、現在も母畑は請求人の大字名として存続し、母畑温泉は政財界や相撲界からの来訪がある温泉地として全国的に著名である。

母畑の由来は、源義家が傷ついた愛馬をこの温泉につからせて治し、そのお礼に山神に母衣と旗を奉納、これより「母衣旗」となり、後にこれが転訛して「母畑」となった。その由来は周知の事実で、毎年10月に請求人は、商工業者を主体として町をあげて「母衣旗まつり」を盛大に行っている。

したがって、「母衣旗」は、母畑に転訛する以前の著名な旧地名ということができ、現在も請求人周辺の市町村において、頻繁に使用されている。

(イ)本件商標を構成する「母衣旗」及びこれより生ずる「ホロハタ」の称呼は、母畑の旧地名で今なお一般に使用されている「母衣旗」と同文字、同音である。したがって、本件商標をその指定商品について使用した場合は、取引者、需要者は、単に該商品の産地、販売地であることを表示する文字と理解するにとどまり、自他商品の識別機能を果たすものとはいい得ない。

(ウ)地名等は、産地、販売地の表示として誰にでも普通に使用される性質のもので、「母衣旗」が転訛した「母畑」の地名が存在する福島県において、その指定商品である食肉、卵、野菜、果実等の容器、包装等に「母衣旗」なる本件商標を冠したとしても、それは生産地、販売地を表示するものとして、普通に用いられる方法で表示しているに過ぎないものであり、取引者、需要者は、その商品が母衣旗、つまり母畑において生産もしくは販売されているか、又は生産もしくは販売されているであろうと理解するに過ぎず、何人かの業務に係る商品であるかを認識することができない。

そして、請求人の産業は、葉タバコの農業が中心で野菜の栽培、酪農なども行われ(甲第5号証)、その特産品は、リンゴ、いしかわ牛、その郷土料理は、きじそば、きじ飯であるから、(甲第7号証)、被請求人が本件商標をその指定商品に使用したとしても、取引者、需要者は、産地、販売地として理解するに過ぎない。

(エ)被請求人は、「母衣旗」が伝説上の地名であり、現実に存在している地名でなく、産地や販売地を表わすものでないから、商標法第3条第1項第3号に該当しない、また、請求人である地方自治体が町をあげて毎年行っている「母衣旗まつり」は福島県内において殆ど知られていない旨を述べ、全国的に有名な「会津白虎まつり」「采女まつり」等の登録例を挙げている。

しかし、これら登録例はすべてまつりであり、語尾に「まつり」を付記することにより識別性を得ており、旧国名や現実に存在している町名をそのまま普通に用いられる方法で書された商標は識別性を有しないというべきである。「母衣旗」が福島県石川郡石川町の旧地名であり、今なお「母衣旗まつり」として伝承され、その祭りは特に特産いしかわ牛の振興をはかることを目的としているものであるから(甲第12号証)、「母衣旗」は食肉の産地、販売地として著名性を帯びている。

したがって、本件商標は、商品の産地、販売地を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であって、特別顕著性がなく、需要者は何人かの業務に係る商品であることを認識できない商標というべきである。

(3)商標法第4条第1項第7号について

(ア)地名等は、産地、販売地の表示として何人もこれを使用する必要があり、かつ、何人もその使用を欲するものである。加えて、請求人は、毎年10月「母衣旗まつり」を行い、その際には、「母衣旗」又は「母衣旗まつり」と冠した食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加工食料品の販売も行うから、この標章は、石川町として一般町民に広く開放しておく必要があり、これを特定人にその独占使用を認めることは公益に反し、公益を害する。

(イ)商標は商品の出所の表示機能をなすもので、「母畑」の語源ともなり、まつりを通して永々と町民に慣れ親しまれてきた旧地名を勝手に一私人が独占使用することは、公序良俗に反する。

被請求人がどのような理由で「母衣旗」なる商標を独占したいかは定かではないが、「母衣旗」なる商標は、前述した如く、請求人が昔から永々と守り続けてきた旧地名であり、被請求人独自の発想による造語とは到底思われず、被請求人が当該商標を使用した場合、当該指定商品である食肉等に対して、請求人は何ら品質等の保証をすることもできず、仮に品質等が劣悪である場合には、第三者は「母衣旗」なる旧地名に対して、悪印象を持つ蓋然性が高い。

したがって、被請求人が本件商標を独占使用することは、社会公共の利益に反し、又は社会の一般道徳観念に反するから、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある。

(4)商標法第4条第1項第15号について

「母衣旗まつり」の催しは、主として石川町の特産いしかわ牛の振興を図ることを目的とする「ふるさと産業おこし」であり(甲第12号証)、食肉等に「母衣旗」なる商標を付すとすれば、一般世人はあたかも石川町の生産販売にかかる商品と誤認するおそれがあり、出所の混同を生ずるから、商標法第4条第1項第15号に該当する。

以上のように、本件商標は商標法第3条第1項第3号及び第6号、同法第4条第1項第7号、第15号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号の規定により無効とされるべきで

ある。

3 証拠方法

請求人は、審判請求書記載のとおり証拠方法として甲第1号証ないし同第18号証を提出した。

第3 被請求人の答弁

1 答弁の趣旨

「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」旨の審決

2 答弁の理由の要点

(1)審判請求人の利害関係

請求人石川町が本件商標の指定商品である食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加工食料品について「母衣旗」なる商標を付して販売している事実は証明されていない。請求人が被請求人から本件商標の使用中止の警告を受け、販売を中止せざるを得なくなったなどの事実もないから、本件審判を請求するにつき、その利益は認められない。

したがって、本件審判請求は、利害関係がない者がしたものであるから、却下されるべきである。

(2)商標法第3条第1項第3号及び同第6号について

仮に、利害関係があるとしても、本件商標は有効であるので、以下、無効理由に対して答弁する。

(ア)請求人は、全国的に著名な「母衣旗」の旧地名をそのまま書したに過ぎないと述べているが、「母衣旗」の読み方でさえ難解であるのに、行政区画名でも旧国名でもなく、福島県内においてもほとんど知られていないと思われる「母衣旗」が全国的に著名であるなどとは全く考えられない。

(イ)請求人は、「母畑」が大字名として存続しており、「母畑温泉」は温泉地として全国的に著名であると述べているが、大字名として「母畑」が存在することは認めるが、これは都市名や市町村名でなく、大字名程度であれば証拠を挙げるまでもなく多数の登録商標が存在している。また、「母畑温泉」が全国的に著名であるかどうか不明であるが、福島県内の福島地方や会津地方では、その名や場所さえ知らない人が多い。乙第1号証によれば、母畑温泉は僅か2軒が会員旅館として登録されているだけであり、県内でも有名ではなく、全国的に著名であるとは言えない。

(ウ)請求人は、甲第3号証ないし同第5号証を示し、「母衣旗」が、後に転訛して「母畑」となったもので、その由来は天下周知の事実であると述べているが、このような伝説は弘法大師伝説と同様に全国各地にあり、この「母衣旗」が実際に存在した地名かどうかも証明されていない。「母衣旗」が後に転訛して「母畑」となったというのも、一つの仮説に過ぎない。

(エ)請求人は、本件商標はこれより生ずる称呼が「ホロハタ」であるから、福島県石川郡石川町の旧地名で今なお一般に使用されている「母衣旗」と同文字、同音である、と述べているが、「母衣旗」は、前述の如く伝説上の地名であり、乙第2号証(商標審査基準)に沿って「母衣旗」を見ると、国家名ではなく、行政区画名でもなく、旧国名でない伝説上の地名に過ぎず、商標法第3条第1項第3号に規定する産地または販売地に該当しない。

(オ)乙第3号証、同第5号証ないし同第7号証に示す登録例には、日本国の古語である「大和」あるいは日本の美称や別名である「日の本」は登録されており、商標審査基準では国家名や旧国名としてはみていない。本件商標のように伝説上の地名は、取引者、需要者が、産地、販売地としては認識せず、自他商品識別の機能を有することは明らかである。

(3)商標法第4条第1項第7号及び第15号について

(ア)請求人は、特定人に本件商標の独占使用を認めることは公益に反すると主張をしているが、石川町をあげて「母衣旗まつり」を開催していることは認めるが、前述の如く請求人が「母衣旗」又は「母衣旗祭り」を商標として付した食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加工食料品の販売も行っているとは考えられず、単に、祭りの旗や看板を立ててその傍で、焼き肉パーティーや植木市を開催している程度であると考えられる。このことは甲第11号証のポスターに「いしかわ牛焼き肉パーティー」及び「植木市」については記載されているが、食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加工食料品について「母衣旗」の商標を付して販売している事実が何ら記載されていないことからも明らかである。

(イ)「母衣旗祭り」は石川町の町起こしとして始められたものと思われるが、これは町内の祭りであり福島県内においても殆ど知られていない。乙第8号証(福島県民百科)の「スポーツ・観光 祭り・行事」の項には、福島県内の主な祭である「会津白虎まつり」や「采女まつり」は記載されているが、「母衣旗祭り」の記載はない。乙第9号証(95年度版民報年鑑)の「福島県の観光 観光歳時記」にも10月の行事として「母衣旗祭り」は記載されていない。

一方、乙第10、11号証に示すように、全国的に有名な「会津白虎まつり」「会津祭」「采女まつり」は、商標としても登録されている。「采女まつり」は、乙第8号証によれば、郡山市片平に伝わる采女伝説をもとに開催される祭りであるが、「采女まつり」が開催されているからといって、これを特定人にその独占使用を認めることは公益に反するなどという主張は、祭りの開催と商標の制度趣旨を混同したものである。

登録例として、乙第12ないし16号証に示すように、「江戸まつり」「祇園祭」「阿波おどり」「ねぶた祭」「博多どんたく祭り」など多数の有名なまつりの名前が、現実に存在していた旧国名や現実に存在している町名を含んだ商標として登録され、祭りの名前が商標と一致又は類似していたとしても、それらの趣旨が異なるかぎり、商標登録を認めることに何ら支障がない。

(ウ)また、石川町のイベントとして「母衣旗まつり」があり、新聞や広報にこれに関する記事が掲載されているとしても、「母衣旗」の地名の由来が周知の事実であることにはならない。母衣旗まつりは、母畑の由来名を表示したものであるというよりは、むしろ「母衣旗まつり」の文字全体として、町のイベントの名称を表示したと理解すべきであり、「母衣旗まつり」の開催をもって「母衣旗」が著名な旧地名であるとは認められない。

母衣旗が母畑の地名の由来であるとしても、「母衣旗まつり」の記事を掲載した福島民友新聞社、福島民報社は同イベントの後援者であり、広報の「広報いしかわ」はその文字からすれば、石川町の住民を対象に配布されたものであるから、その知名度は本件商標の登録査定日以前においては、石川町近在で知られている程度のものである。

3 証拠方法

被請求人は、答弁書記載のとおり証拠方法として乙第1号証ないし同第18号証を提出した。

第4 当審の判断

1 審判請求人の利害関係

本件審理に関し当事者間に利害関係について争いがあるので、まず、この点について判断する。

商標法第46条に規定する商標登録無効の審判を請求するについての法律上の利益を有する者とは、必ずしも当該登録商標と同一または類似の商標を同一または類似の商品について使用している者、あるいはその使用により現実に当該登録商標の権利者から販売中止の警告などを受けている者等に限られず、本条の立法趣旨、即ち、過誤による商標登録を存続させておくことは本来権利として存在することができないものに排他独占的な権利の行使を認める結果となるので妥当ではないという点を考慮すると、広くみるべきであって、元来無効とされるべき商標が登録され保護を受けることによって不利益を被るおそれのある者を含むと解するのが相当である。

そして、本件審判の請求理由及び甲第7号証ないし同第13号証を総合すると、請求人たる福島県石川郡石川町(以下「石川町」という。)は、同町内にある母畑の地名の由来とされる「母衣旗」の文字を冠した年中行事の「母衣旗まつり」の共同主催の一人と認められ、開催会場の直売コーナーにおいては「野菜、リンゴ、牛肉、川魚」等の商品が販売されていることが認められる。

そうすると、請求人石川町は、上記年中行事である「母衣旗まつり」の主催者の一人として、開催会場で販売される「野菜、リンゴ、牛肉、川魚」等の商品について、その品質を管理するなどの立場にあり、石川町在の母畑の地名の由来とされ、同町が共催する年中行事の名称の一部に含まれる文字と同一文字よりなる本件商標が登録され、保護を受けることによって、不利益を被るおそれがある者に該当するということができるから、本件商標登録無効の審判を請求するについて法律上の利益を有する者である。

そこで、本案に入って判断する。

2 本件商標が商標法第3条第1項第3号及び同第6号に該当するか否かについて

甲第3号証ないし同第13号証によれば、石川町は、昭和30年3月旧石川町と沢田・中谷・母畑・野木沢・山橋村の1町5村が合併して誕生した町(甲第5号証〈郷土資料事典福島県173頁〉、なお、同第6号証〈角川日本地名大辞典7福島県738頁〉には、「石川町ほか4か村」と記載されている。)で、そのうちの「母畑」は、現在石川町の大字名として存在していること、該「母畑」の名称の由来は古く鎌倉時代に遡り、源義家の母衣と旗とにまつわる「母衣旗」であったが、これが転訛したものとされていること、請求人石川町は、同人が共同主催者の一人となって行う町の行事である「母衣旗まつり」を昭和62年10月10日以降毎年開催していること、該「母衣旗まつり」の開催会場の直売コーナーにおいて、本件商標の指定商品中に含まれる「野菜、リンゴ、牛肉、川魚」が販売されたことが認められる。

しかしながら、現在の石川町の大字名である「母畑」の地名が「母衣旗」に由来し、これが転訛したものであるとしても、いつ頃から「母衣旗」から「母畑」に転訛したのか定かではなく、前出甲第6号証によれば、江戸期から昭和30年までは「母畑村」であり、江戸期以前に「母衣旗」の名称が地名として使用されていたかも不明である。結局、「母衣旗」の語は、「母畑」の地名の由来であったという伝承的な範囲内に止まるものといわざるを得ず、一般世人がこのような伝承的な範囲を越えて、これより直ちに商品の産地、販売地を表すものとして認識し得るものとは認め難いところである。

これが要するに、「母衣旗」の語が、「母畑」の旧地名を表すものとして、一般世人に広く認識されていたものとは認め難いばかりでなく、本件商標の指定商品との関係において、商品の生産地もしくは販売地を表示するためのものとして、本件商標の登録査定当時、普通に使用されていたものとも認めることができない。その他、前記認定を左右するに足る証左は見当たらない。

この点に関して、請求人は、「母畑」は石川町の大字名として存続しており、母畑温泉は全国的に著名、「母畑」は「母衣旗」が転訛したもので、その由来は周知の事実であり、石川町は「母衣旗まつり」を毎年行っているから、本件商標を構成する「母衣旗」は著名な旧地名である旨を主張する。

しかしながら、甲第3号証ないし同第6号証には、「母畑」ないし母畑温泉の名称の由来が掲載されているとしても、この記載のみをもって「母衣旗」の名称の由来が周知であり、「母衣旗」が旧地名として著名であると直ちに認めることはできない。

そして、甲第7号証ないし同第12号証によれば、石川町のイベントとして「母衣旗まつり」があり、新聞や広報にこれに関する記事が掲載されていることは認められるとしても、甲第8号証(平成5年10月13日付福島民友及び同年10月14日付福島民報の記事)は、本件商標の登録出願日(平成1年7月3日)ないし登録査定日(平成4年2月7日)以降発行された福島民友新聞社、福島民報社の扱う記事であって、両新聞社は、地方紙といえるばかりでなく、甲第9号証及び同第11号証(母衣旗まつりパンフレット)、同第12号証(’94母衣旗まつり開催要領)によれば、同イベントの後援者と認められる。

また、甲第10号証(広報いしかわ)は、「広報いしかわ」の文字からすれば、石川町の住民を対象に配布されるものと認められる。そうとすれば、母衣旗まつりが町をあげてのイベントであるとしても、本件商標の登録出願時ないし登録査定当時の「母衣旗まつり」の知名度は、石川町近在に止まるものと推認される。

さらに、前出甲第12号証によれば、「母衣旗まつり」自体その催しは、「母畑」の地名の由来に関することなど、その故事についての事柄と特に関係のあるものではなく、主として石川町の特産である、石川牛の振興を図ることを目的とする“ふるさと産業おこし”であると認められ、「母衣旗まつり」に「母衣旗」の文字が含まれているとしても、これに接する者は、「母畑」の由来名を表したと認識するというよりは、むしろ「母衣旗まつり」の文字全体として、町のイベントの名称を表したと理解していたとみるのが相当である。

そうしてみると、「母衣旗まつり」の開催をもって、「母衣旗」が著名な旧地名であるとすることはできない。

加うるに、甲第13号証の1ないし8の証明書は、同一の文面からなるものであるところ、例えば、「母衣旗が母畑に転訛したことは当県およびその周辺県において周知である」と記載されているが、如何なる根拠をもって認定したのか不明であるばかりでなく、その殆どの証明者が「母衣旗まつり」の共催、後援の代表者であり、該まつりに関係を有する者と認められるものであるから、これらの証明書によっては、「母畑」の地名の由来が周知の事実であるとすることについて、にわかに首肯し難いところである。

そうすると、「母衣旗」が「母畑」の地名の由来であるとしても、これが少なくとも福島県及びその近県に及ぶ範囲において、本件商標の登録査定日前より著名であったものとは、請求人の提出した証拠によっては認めることはできないから、上記に関する請求人の主張は採用できない。

したがって、本件商標は、これをその指定商品について使用しても、商品の産地、販売地を表示するものではないばかりでなく、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標ということもできない。

3 本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当するか否かについて

本商標登録無効審判事件につき当庁が平成9年11月28日に行った審決の取消訴訟(平成10年(行ケ)第18号審決取消請求事件)について、東京高等裁判所は、平成11年11月29日に言い渡した判決において、次のとおりの事実を認定し、本件商標は、公序良俗に反するものというべきであると判断して、本件の審決を取り消した。

(1)石川町(請求人)は、既に昭和47年4月から、母畑地区公民館が、その公民館だよりに、「母衣旗」の名称を付して地区住民に配布し現在に至っていること、

(2)石川町は、人口約2万1000人余りの地方自治体であるところ、同町で生産される牛肉(石川牛)の消費拡大を企図して、昭和61年10月に「石川牛肉まつり」なるイベントを催したが、翌昭和62年には、牛肉のみならず同町の産品の開発宣伝により、同町の経済の振興を図る、いわゆる町興しのための施策として、同イベントの名称を「母衣旗まつり」と改め、町内の業者に出店を呼びかけるとともに、同町の産品の知名度を向上させるため、町内の業者に対し、その商品に「母衣旗」との共通した標章を付することを奨励することとしたこと、

(3)そして、昭和62年10月10日、石川町内の業者約20店舗が出店し、約5000人の入場者を集めて第1回の「母衣旗まつり」が開催され、その後、「母衣旗まつり」は毎年1回10月に開催されて、本件商標の登録出願(平成元年7月3日)ないし登録査定(平成4年2月7日)当時に至っており、毎年数千人ないし1万人を超える程度の入場者を集めていたこと、

(4)また、「母衣旗まつり」に出店した業者等で、その販売に係る産品等に「母衣旗」の標章を付したものがあったほか、石川町の製麺業者である有限会社松山製麺所が平成2年ころから、菓子業者である有限会社よしだやが、平成7年ころから、それぞれの製造販売する商品の標章として「母衣旗」を採択したこと、

(5)被請求人の代表者は、石川町出身であり、同町内に住所を有していること、

(6)被請求人は、本件商標の設定登録を受けた後の平成9年11月、有限会社松山製麺所及び有限会社よしだやに対し、それぞれ内容証明郵便をもって、「母衣旗」の標章を付した商品を販売することが本件商標に係る商標権を侵害するとして、該標章の使用の中止と、有限会社松山製麺所に対しては3600万円、有限会社よしだやに対しては2400万円の損害賠償を請求し、これに対して、有限会社松山製麺所は該標章の使用を中止し、また、有限会社よしだやは、被請求人に対し、該標章を付した商品である饅頭が指定商品にふくまれないことを指摘して、請求を拒否する回答をしたものの、トラブルを回避すべく、結局、その使用を中止したこと、

以上の事実を認めることができる。

石川町の母畑地区(大字母畑)が、源義家の母衣と旗に因んで、かつて「母衣旗」と称されており、これが転訛して「母畑」の地名になったとの伝承が存在する。

しかるところ、請求人においては、同伝承に係る「母衣旗」の名称を、既に昭和47年から、同伝承に直接関係する母畑地区に限ってとはいえ、公共的な刊行物に使用してきたところ、昭和62年にいわゆる町興しの施策の一つとして、石川町の産品の開発宣伝により町の経済の振興を図る目的で、そのためのイベントを開催し、あるいは町の産品に共通の標章を付すことを業者に奨励してその知名度を向上させる方策を策定して、これを実行し始めたが、その際に、前示のような伝承を有する「母衣旗」を、イベントの名称や町の産品に付することを奨励する共通の標章にふさわしいものとして、選定採択し、いわば該施策の中心に位置付け、これにより地域周辺の業者等において、誰もが自己の商品に「母衣旗」の標章を使用できるとの認識を有する状態となっていたことが認められ、他方、被請求人は、その代表者が石川町に居住するから、請求人のこのような施策や、「母衣旗」の名称が該施策の中心に据えられ、町内の各業者に対し使用が奨励されていることを十分承知しているものと推認されるところ、それにもかかわらず、平成元年に本件商標の登録出願をし、平成4年にその設定登録を受けて、指定商品の範囲とはいえ、「母衣旗」の標章の独占的使用権限を取得して、他業者の使用を不可能又は困難とし、現に、請求人の奨励に応じて、これをその製造販売する商品に付して使用していた業者に対し、その使用を断念させたことが認められる。そして、これによると、被請求人は、本件商標出願が、請求人の行っている施策を阻害するに至ることを認識し、少なくともその結果の招来を是認していたものと認められる。

そうすると、被請求人による本件商標の取得は、仮に、本件商標を自ら使用する意思をもってその出願に及んだものであるとしても、請求人による、町の経済の振興を図るという地方公共団体としての政策目的に基づく公益的な施策に便乗して、その遂行を阻害し、公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら、指定商品が限定されるとはいえ、該施策の中心に位置付けられている「母衣旗」名称による利益の独占を図る意図でしたものといわざるを得ず、本件商標は公正な競業秩序を害するものであって、公序良俗に反するものというべきである。

4 結び

本件商標については、上記判決の認定、判断のとおりその商標登録が商標法第4条第1項第7号の規定に違反してされたものであるから、その余の無効事由につき検討するまでもなく、同法第46条第1項第1号に該当し、その登録を無効とすべきものである。

よって、請求人の審判請求は理由があるから認容することとし、審判費用の負担について商標法第56条第1項、特許法第169条第2項、民事訴訟法第61条を適用して、結論のとおり審決する。

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