結論テキスト
審判費用は、被請求人の負担とする。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 平成4年審判第4217号 |
|---|---|
| 審判種別 | 不服 |
| 結論 | 勝訴(請求認容) |
1.本件登録第1545360号商標(以下「本件商標」という。)は、「TANINO CRISCI」の欧文字を横書きしてなり、第17類「被服、布製身回品、寝具類」を指定商品として、昭和48年12月13日登録出願、同57年10月27日に設定の登録がなされ、その後、平成5年5月28日に商標権存続期間の更新登録がなされたものである。
2.請求人は、結論同旨の審決を求める、と申し立て、その理由を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証乃至同第39号証を提出して、本件商標は、商標法第53条に該当するものであるとしている。
(1)請求人は、第17類全類を指定商品としてアルファベット文字「TANINO CRISCI」と図形からなる商標を商願昭54ー76855として出願したところ、本件商標を引用して拒絶理由通知を受けた。従って請求人は、本件審判請求をなすにあたって、請求の利益を有する。
(2)請求人は、イタリア国に本店を有する世界的に著名な靴・革製品のメーカーである。
請求人は、イタリア国において初代アルフォンソ・クリスティーにより、靴のメーカーとして1919年創業された。その社名は創業者の父親の名前をとったものであり、現在の請求人代表者の幼年時からの通称でもある。創業以来、請求人は、「TANINO CRISCI」の商標、商号を用い、品質維持のため自社生産とし、手作りの品質本位の高級靴の製造を続け、その品質の高さにより、多くの愛好家を得て、現在では世界的に著名な高級靴のメーカーとなり、その製品はイタリア国から各国に輸出されている。現在請求人はフィレンツェ、ローマ、ミラノ、パリ、ニューヨーク、香港、東京、大阪に直系の販売店を有している。
請求人の製造した靴は、我が国には昭和40年から輸入が開始された。請求人が直接に日本に輸出した実績は昭和40年1500足、同41年2000足、同42年2500足、同43年3000足、同44年4000足、同45年4500足、同46年5000足、同4年4500足、同48年及び49年各6000足、同50年8000足、同51年10000足、同52年15000足、同53年19000足、同54年20000足、同55年及び56年16000足、同57年10000足、同58年7000足、同59年及び60年6000足、同61年6500足、同62年6000足、同63年7500足である。
以上の靴及びその包装用品、付属品、広告物等には請求人製品であることを示し、かつ請求人の営業活動の一環として販売されていることを示す表示として、又その販売店には請求人の製造した靴等の販売店であることを示す表示として請求人の名称である「TANINO CRISCI」という標章が単独もしくはジョッキースタイルの図柄と組み合わせて付されている。又、「TANINO CRISCI」という標章の自然な称呼は日本語で表記すると「タニノ クリスチー」「タニノ クリッシー」「タニノ クリスティ」であるが、請求人は請求人の営業、商品についてこれを表示するときは「タニノ クリスチー」という標章を使用している。なお、現在は請求人の許諾の下、東京都中央区銀座6丁目4番4号に「株式会社タニノ・クリステー・ジャパン」が設立され、請求人製品等の販売活動を行っている。
(3)請求人製品は日本国内においても、高級靴として、需要者に広く受け入れられてきた。請求人は日本においてはその製品は品質の優秀こそが最も優れた広告手段と考え、自らはマスコミを使っての宣伝広告はしなかった。しかしながら、世界の一流品として、請求人製品を記事として取り上げるマスコミが多く現れ、請求人とその製品の紹介を行った(甲第6号証乃至同第14号証)。
請求人の標章は元々イタリアで著名であったこともあり、その製品が日本で販売されるようになってまもなく請求人を表す「TANINO CRISCI」、その日本語表記である「タニノ クリスチー」という請求人標章は、請求人の製造した靴等を示す商品表示として著名になっている。
請求人は、「シルクハット姿の人物が乗馬している図形」の下部に「TANINO CRISCI」の文字を表してなる構成態様よりなり、昭和50年12月5日登録出願、第22類「くつ類、その他本類に属する商品」を指定商品として設定の登録がなされた登録第2049024号商標を有しており、さらに、「TANINO CRISCI」及び「タニノクリスチー」標章を使用している。
(4)本件商標の通常使用権者1(以下、「通常使用権者1」という。)は、大阪市此花区西九条3ー14ー6に所在し、商号をタニノクリスティインターナショナル株式会社としている。そしてその商号を取引書類等に用いて、下着、トレーナー、ネクタイ、バスローブ、セーター等の衣類及びスカーフ、タオル、ハンカチ、スリッパの販売あるいは別紙の(1)乃至(3)に示すとおりの本件商標、馬蹄形図形及び円形内に左横向き帽子風のものをかぶった人物の上半身の図形標章の許諾等の営業をしている。
ただし、請求人と通常使用権者1との間の大阪地方裁判所昭和63年(ヨ)第4790号不正競争行為差止等請求事件の結果、通常使用権者1はコモンズ株式会社と商号変更されている。
請求人と本件商標権者との間の昭和63年審判第5008号不使用取消審判において、被請求人は、通常使用権者の一人として通常使用権者1をあげ、その許諾商品として、「ランジェリー、ファンデーション、シルクブラウス、シルクガウン、シルクTシャツ、シルクナイティ、シルクシャツ(紳士、婦人)、シルク及び綿ローン商品」をあげ、本件商標権者との契約書を示すとともに昭和62年5月31日から同年8月30日にかけての取引書類をあげる。そして同審判審決によれば、通常使用権者の使用と認められた。
そして、請求人と通常使用権者1との大阪地方裁判所昭和63年(ヨ)第4790号事件において、通常使用権者1は、債務者の主張として「債務者は、申請外若林の有するTANINO CRISCIの商標の使用許諾を受け、ランジェリー、シャツ等の製造販売をなすもので、タオル、スリッパ等は申請外福田株式会社よりたまに仕入れ販売したことがあるが、債務者の商品として扱っていない。」とする。
したがって、通常使用権者1は、商品「ランジェリー、ファンデーション、シルクブラウス、シルクガウン、シルクTシャツ、シルクナイティ、シルクシャツ(紳士、婦人)、シルク及び綿ローン商品」についての本件商標権の通常使用権者である。
そして、通常使用権者1が販売している前記商品及び取引書類には、別紙の(2)乃至(3)に示す標章のいずれかが、商品それ自体もしくは包装および広告宣伝物に付されている(甲第22号証取引書類、同第23号証カタログ等参照。)。
(5)通常使用権者1は、昭和62年1月23日登記されたものであるが、その本店所在地は通常使用権者1会社監査役若林輝雄(被請求人)が経営するという株式会社アートデイレクターズアソシエイツなる会社の所在地にある。しかし、この会社は調査しても法人登記が見当たらず実質的には被請求人個人の営業と思われる。また、被請求人は監査役にすぎないが、通常使用権者1の本店所在地のビルは被請求人の各種活動の拠点となっていること電話番号が共通のものであること等からして通常使用権者1が同人の強い影響力の下にあることは明らかである。
被請求人が「TANINO CRISCI」という標章は請求人の略称であること、そして、「タニノ クリスティー」という表示はその日本語表記であることを十分承知していたことは疑いない。そしてその商標、商号を使用すれば当然請求人あるいは請求人と何等かの関係のある者の商品、営業と誤認されることも承知の上、通常使用権者1は敢えてその商標を使用している。
又、通常使用権者1は被請求人が出願していた「TANINO CRISCI」に関する商標出願8件の商標登録を受ける権利を譲り受ける等して自ら「TANINO CRISCI」という商標の出願人となっている。これは第29類についての「TANINO CRISCI」出願が請求人の著名な略称として需要者に広く認識されていることから拒絶されたため、通常使用権者1名義の出願に変更して、通常使用権者1が請求人と何等かの関係のある会社であるかのごとく装い登録することをはかっているものと思われる。この点からも被請求人と通常使用権者1の密接な関係が裏付けられるのである。
(6)元々「TANINO CRISCI」というような名称はイタリアにおいても一般的なものでなく、請求人の略称としてのみ知られているものであるが、これを日本において偶然に商号として選択するというようなことはありえないことである。その選択の意図は、請求人の標章と類似する商標、商号とすることで請求人の標章のイメージに便乗し、請求人と何等かの関係のある会社およびその商品であると一般消費者を誤認させて営業を行おうとするものといわざるを得ない。
(7)パンフレット「TASTE」(甲第24号証)は芦屋倶楽部人間行動研究所なるものの発行ということであるが、その事業所の住所、電話番号が同一であることからして、被請求人を中心とする通常使用権者1と密接な関連のある者の発行であることは明白である。そして、この表紙裏には全く無関係な写真の下に「TANINO CRISCI」との標章があり、通常使用権者1の電話番号が記載され、その標章の下には「LICENSED BY GIRUGI ITALY FOR ART DIRECTORS ASSOCIATES」の記載があり、いかにもイタリアの会社から許諾を受けているかのごとく装っている。イタリア法人である請求人が調査してもそこに記載のような会社がイタリアにあるとは分からないことからしてもそれが実在する会社であることは疑わしいが、少なくともその会社が「TANINO CRISCI」標章について何等かの許諾を与えられる立場にない。つまり、通常使用権者1は請求人がイタリア法人であることを十分承知の上、その関係者から許諾を受けたように誤認されるような記載をしているのである。さらに、「TANINO CRISCI」のTシャツをプレゼントする旨の広告があり、そこには「世界の1品、タニノクリスティのTシャツ」との記載があるが、これは「タニノ クリスティ」が世界的なものでありそのTシャツがいかにもそのような者によって製造されたものの如く述べたものである。なおこのパンフレットには、「TANINO CRISCI」外「PRI ROSSETY」、「IBIZA」等の記載があるが、これらもイタリアにある会社の許諾を受けたものとは到底思われないものである。
さらにこのパンフレットの被請求人の紹介では、同人はタニノクリスティ等のライセンスビジネスを行っていると記載されているが、請求人標章が著名であることからして請求人会社の著名標章のライセンスビジネスをしているものと考えることは疑いがない。タニノクリスティのライセンスビジネスなるものが通常使用権者1が現実に行っている業務と推測される。その他この記載にあるブランドメーカーや関係会社に問い合わせ、通常使用権者1と無関係であるという回答を得たところもある。
(8)被請求人は、本件商標についての昭和63年審判第5008号事件において、登録商標を使用していると主張し、その証明としてランジュドメゾンなるカタログを提出し(甲第23号証)、そのカタログ記載の商品を販売していると主張するが、このカタログの発行者も注文先も記載がないという異常なもので、これは責任の所在を暖昧にし、法的責任追及を免れようとしているものと考えられる。そのカタログの中の「TANINO CRISCI」の標章についての頁でもこれが誰の製造にかかるものか一切記載がない。その頁はいかにもヨーロッパ風の建物、インテリア等でレイアウトされており、「ステイタスのランジュドメゾン タニノクリスティ」と記載されている。これを見る者はヨーロッパの会社である請求人の製品と誤認する虞れが明らかである。なおこのカタログにはマリオバレンチノを初め、外国著名標章や著名人の氏名と同じ標章が用いられている製品が記載されているが、これらも当該外国権利者の許諾を得ているのか疑わしい。
そもそも被請求人は「ellesse」商標も勝手に出願し取得するなど、他人の外国著名商標を勝手に出願し取得しライセンスする商標ブローカー、ないし商標泥棒に外ならない(甲第26号証)。
(9)被請求人とその影響下にある通常使用権者1の一連の営業活動を見ると、通常使用権者1が「タニノクリスティインターナショナル」という商号を使用し、「TANINO CRISCI」外商標の使用をしているのは、請求人の標章の著名性を利用し、需要者をして請求人の商品と誤認させたり、あるいは請求人標章の使用について正当な許諾を与えられるとの誤認を生じさせるためであること明白であり請求人の営業と誤認されることは明白である。そして通常使用権者1が使用している別紙の(2)乃至(3)の標章はいずれも請求人の著名標章と同一もしくは類似していることは疑いない。「TANINO CRISCI」という文字に付加して若干の図柄が同時に用いられているものがあるが、標章の要部が文字部分にあることは疑いなく、これは請求人標章と同一であるから両者が類似することは明らかである。これを商品表示として使用するときは不正競争防止法第1条第1項第1号に該当し、営業表示として使用するときは、同号に該当する行為である。そして通常使用権者1によりこのような商標の使用がなされると、請求人が多年培ってきた高級ブランドとしてのイメージが壊れ、かつまた標章の識別力を失わせることになるから、請求人が営業上の利益を害される虞があることは明白である。
なお、請求人の標章は本来靴を中心とする皮革製品の商品表示として著名になったものであるが、そのブランドイメージを生かして本来の業務を越えて使用されることは顕著な事実であり、従って通常使用権者1が本件商標を使用すると、一般的には請求人がその分野に進出しているものと誤解されかねないものである。従って通常使用権者1のいかなる商品についての商品表示であっても、又いかなる営業についての営業表示であっても、それが不正競争行為であることは変わりがない。
(10)被請求人は昭和63年審判第5008号不使用取消審判において、通常使用権者の一人として、尼崎市武庫之荘8丁目6番25号 福田株式会社(以下、「通常使用権者2」という。)をあげ、その許諾商品として「ハンカチ、タオル、テーブルセンター、テーブルクロス、ナプキン、ランチョンマット、布製ポシェット、エプロン、バスローブ、マット、スリッパ類」をあげる。
そして、本件商標権者との間の契約書を示す(甲第33号証)。さらに、福田株式会社代表取締役福田雄次の平成2年2月付け報告書からも、本件商標権者の使用許諾を受けて、1986年から1988年迄本件商標の指定商品であるハンカチ、タオル他に使用していたことが明らかである(甲第35号証)。
したがって、通常使用権者2は本件商標権の商品「ハンカチ、タオル、テーブルセンター、テーブルクロス、ナプキン、ランチョンマット、布製ポシェット、エプロン、バスローブ、マット、スリッパ類」についての通常使用権者である。
そして、福田株式会社の行為は、通常使用権者1の行為同様、請求人の業務と混同を生ずるものである。
したがって、通常使用権者1と通常使用権者2は、被請求人の通常使用権者であり、両者は、本件指定商品について本件商標又はこれに類似する商標の使用を行った結果、請求人の業務に係る商品と混同を生ずるものであるので、商標法第53条1項に該当し本件商標登録は取り消されるものである。
3.被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は講求人の負担とする」との審決を求める、と答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として乙第1号証乃至同第9号証を提出した。
(1)被請求人の通常使用権者が使用している商標の使用形態は、別紙の(4)及び(5)に示すとおりである。この形態から明らかなように通常使用権者は登録商標そのものの使用をしているに過ぎない。
本来登録商標の権利は、商標見本に示された標章と同一でしかも指定商品の範囲内で使用権が発生する。従って、請求人の結合商標の文字部分の「TANINOCRISCI」のみの使用は、指定商品についてでさえ.使用権として認められているものではない。
すなわち、商標権者は、他人が自己の商標権のうち類似範囲の商標の使用をすることを禁止または排除する権利を持つ。他人の権利によって制限されない限り、商標権者がその部分を事実上使用するのは自由であるが、もしその範囲が商標権同士相互に重なり合ったり、他人の著作権、意匠権と抵触した場合には使用できず、もし使用すれば、権利侵害となるとされている。
従って、請求人の「TANINOCRISCI」の使用あるいは「タニノクリスチー」の使用については法律上の保護はなんら与えられていない。
(2)請求人は「タニノクリスチー」が著名であると述べているが、その証拠として提出しているのは革靴に関するものばかりであり、とりわけブーツが特徴的である。請求人の登録商標の乗馬姿に象徴されるように、ブーツにおいて特に有名である。
仮に「タニノクリスチー」がブーツについて著名で有るとしても、タオル、ランジェリーについての「TANINOCRISCI」の被請求人の通常使用権者の登録商標どおりの使用が(即ち、使用権により保護されている使用)、旧22類にしかも乗馬姿の図形との結合商標しか取得していない請求人のブーツ販売業務と混同を生じることとなるのであろうか。
被請求人の通常使用権者が例えば乗馬姿の図形とともに「TANINOCRISCI」の文字を使用したので有れば、これはたしかに被請求人の旧17類の登録商標「TANINOCRISCI」を不正に使用(被請求人が登録を持っていない他人の登録商標に類似する図形を使用したという点において)して、他人の業務と混同を生じたといえるかも知れない。しかし、被請求人の通常使用権者の使用形態は、全く被請求人の旧17類における2件の登録商標そのものの使用である。2件の登録商標を結合させたり、未登録のAを装飾・変形したような図形と共に使用されることもあるが、いずれも請求人の所有する登録商標とはより区別がし易くなる方向での使用である。
したがって、被請求人の通常使用権者の使用形態は、登録商標自体を指定商品に使用するにすぎないから、商標法第53条の要件のうち「不正な使用」に該当しないことが明らかである。
また、被請求人の通常使用権者の使用形態は、乗馬姿の人図形の有無又は全く異なる図形の付加という点で請求人の所有する登録商標とは明らかに異なる上、通常使用権者の使用商品が被服・布製身回品・寝具類であるのに対して、請求人の使用商品が革靴であって明確に相違するから、請求人の業務と混同を生じることはありえない。
(3)被請求人の通常使用権者タニノクリスティインターナショナル株式会社が「タニノクリスティインターナショナル」という商号を採択使用していたことは、請求人の存在を知らずにいたものであること、「TANINO CRISCI」の商標を商標権者から許諾を受けて使用していたことも明らかで、請求人の商品と混同させようという意思はなかったというべきである。上記商号の使用が商法二一条と不正競争防止法との関係において問題になるものであることを推認させるものであっても、ただちに、商標法53条の要件を充足するものとは言えない。商標法53条はあくまで登録商標及びこれに類似する商標の使用が要件となるのであるから、上記通常使用権者の商号の使用が対象とならないことは明らかであり、これを根拠とする請求人の出張は失当である。
また、上記通常使用権者は、和解調書において商号の変更を約束すると共に、被請求人から許諾を受けた商標の使用も中止すると約束しているが、前述したように請求人の存在を知らず、その商品と混同を生じさせる意思もなく使用していた上、仮処分が申請されれば直ちに許諾を受けた商標の使用まで差し控えたのであるから、上記通常使用権者が登録商標又はこれに類似する商標を不当に使用したものでないことも明らかである。3年以上も前の一時期において使用していたとしても、請求人の仮処分申請を受けただちに使用を中止したのであるから、本件のような場合を商標法53条の適用のある「不当に使用」したときと評価することは、この点からも失当と言うべきである。
(4)更に、通常使用権者福田株式会社においても、請求人から不正競争行為であるとの指摘を受け、本件商標の使用を中止すると述べていることからすると請求人の存在を知らず、その商品と混同する意思もなく本件商標を使用したことが明らかである。そして、通常使用権者タニノクリスティインターナショナル株式会社と同様、本件審判請求の3年以上も前の一時期使用し、指摘を受けて、直ちに使用を中止したにすぎないのである。
(5)被請求人は、本件商標を各通常使用権者に対し、契約書を締結して使用許諾しているが各通常使用権者は、「TANINO CRISCI」と図形2種類それ自体か、これらの組み合わせを使用していたにすぎず、契約書を逸脱した使用はなかったものである。
従って、仮に通常使用権者が商標法53条に抵触する行為を被請求人の知らないところで一部行っていたと仮定しても、被請求人は、上記契約書により使用形態を特定して登録商標自体を使用許諾していたにすぎないから使用許諾に際し、相当の注意をしていたと言うべきである。よって、この点からも商標法53条の適用はないものと思料される。
4.よって判断するに、本件商標は、「TANINO CRISCI」の欧文字よりなるものであり、第17類「被服、布製身回品、寝具類」を指定商品とするものである。
被請求人は、タニノクリスティインターナショナル株式会社(以下、「通常使用権者1」という。)及び福田株式会社(以下、「通常使用権者2」といい、「通常使用権者1」及び「通常使用権者2」を総称して「通常使用権者」という。)に対して、本件商標について、使用許諾をし、当該通常使用権者が、指定商品中の「タオル、ランジェリー」等について使用した商標は、別紙の(2)乃至(5)に示すとおり円形内に帽子風の飾りを被った人物の上半身の図形と「TANINO CRISCI」の欧文字との結合した構成態様よりなるもの及び馬蹄形風図形と「TANINO CRISCI」の欧文字との結合した構成態様よりなるものである。
そして、その使用時期は、被請求人が本件商標の商標登録の取消審判(昭和63年審判第5008号)事件において提出したと認め得る被請求人と通常使用権者との本件商標その他の商標についての使用許諾契約書の写しの記載に徴すれば、通常使用権者1は、1987年(昭和62年)から、通常使用権者2は1985年(昭和60年)から、それぞれ本件商標を使用したものと認められる。
他方、請求人は、商品「革靴」について使用し、昭和60年頃までには我が国において著名となっていたとして請求人の引用する登録第2049024号商標は、別紙の(6)に示すとおり、「シルクハットを被った人物が乗馬している図形」と「TANINO CRISCI」の欧文字との結合した構成よりなるものであり、さらに、別紙の(7)に示すとおり、「TANINO CRISCI」の欧文字よりなるもの及び別紙の(8)に示すとおり「タニノクリスチー」の仮名文字よりなるものである。
そこで、請求人が提出した甲各号証に徴すれば、請求人は、商品「履物(革靴)」について、別紙の(6)の商標、「TANINO CRISCI」の欧文字よりなる商標を使用し、我が国においては、さらに、上記商標の読みを表す「タニノ クリスチー」、「タニノ・クリスチィ」及び「タニノ・クリステー」の仮名文字により表示されたものが、請求人の名称の略称又は商標として紹介され、昭和60年頃までには、我が国において当該表示は、請求人に係る商標として認識され著名になっていたものと認められる。
そして、本件商標及び通常使用権者の使用商標と請求人の登録商標及び使用商標とは、「TANINO CRISCI」の文字及びその称呼において同一若しくは類似する商標であること明らかである。
そうとすれば、「TANINO CRISCI」、「タニノ クリスチー」、「タニノ・クリスチィ」及び「タニノ・クリスチー」よりなる商標は、前記のとおり請求人の商標として著名になっていた昭和60年以降に、請求人以外の者が使用すれば、これに接する取引者・需要者は、請求人の業務に係る商品、若しくは、請求人と何等かの関係を有する者あるいは請求人の承諾を得た者の業務に係る商品であるかのごとくその商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものと判断するのが相当である。
また、本件商標は、請求人の使用に係る「TANINO CRISCI」商標と同一の綴字よりなるものであり、偶然の一致とはいい得ず、これを被請求人自らが創作したものとは認め難いところであり、請求人が我が国において、第17類「被服、布製身回品、寝具類」の指定商品について当該商標の商標登録を受けていなかったことを奇貨として、被請求人が商標登録を受けたものであると判断するのが相当である。
そして、請求人が「TANINO CRISCI」商標を使用している商品「革靴」と本件商標の指定商品とは、ファッション関連商品として密接な関係を有し、近時の企業における取り扱う商品の多角経営化、ファッション関連商品の業界における取扱商品の多様化、更に、被請求人関係の記事、「TANINO CRISCI」商標に関するパンフレット「TASTE」(甲第15号証、同第24号証)等の通常使用権者の本件商標を使用した商品が外国の製品であるかのような記載内容及び請求人の使用に係る「TANINO CRISCI」、「タニノ・クリスティ」商標が昭和60年頃までには著名性を獲得していたことから、被請求人及び通常使用権者は、本件商標が本来請求人に係る商標であること及び請求人の存在を知っていたものというべきで、被請求人は、通常使用権者が請求人の存在を知らずに本件商標について使用していたものであると主張するところあるが、前記事実関係よりすればその主張は措信し難く採用できない。
そうとすれば、被請求人が昭和60年以降に通常使用権者に本件商標をその指定商品について使用許諾契約し、通常使用権者は、本件商標を「タオル、ランジェリー」等に使用したものであり、その商標の使用態様は、別紙の(2)乃至(5)のとおりであって、いわゆる著名商標の顧客吸引力にフリーライド(ただ乗り)するもので、公正な競争秩序を乱す行為といえ、これら使用商標が付された商品に接する者は、その構成中の本件商標「TANINO CRISCI」の文字部分に着目し、当該商品が、請求人若しくは請求人と何等かの関係を有する者乃至請求人の承諾を受けた者の業務に係る商品であるかのごとくその商品の出所について混同を生ずるものであるといわざるを得ない。
したがって、通常使用権者が本件商標若しくはこれに類似する商標をその指定商品について使用し、請求人の業務に係る商品であるかのごとくその出所について混同を生ずるものをしたといわざるを得ず、その事実について被請求人(商標権者)は認識していたものと認め得るから、本件商標は、商標法第53条の規定により、その登録を取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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