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Trademark Appeal Case

著名略称と符号の類否

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号異議2015−900076(T2015−900076/J7)
審判種別異議
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

登録第5722707号商標の商標登録を維持する。

理由テキスト

第1 本件商標

本件登録第5722707号商標(以下「本件商標」という。)は,「+1D」の記号及び文字を標準文字で表してなり,平成26年8月15日に登録出願,同年11月18日に登録査定,第9類「通信ネットワークを通じてダウンロード可能な画像・映像・音楽,地図・音声・音楽・画像・映像・文字情報を記憶させた記録媒体」,第35類「ダウンロード可能な音楽及び映像のオンラインによる小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,映像用のスタジオの提供に係る事業の管理」及び第41類「オンラインによる音楽・音声・映像・画像・文字情報の提供,移動体電話による通信を用いて行う映像の提供,音響・映像・静止画及び動画の制作」を指定商品及び指定役務として,同月28日に設定登録されたものである。

第2 登録異議申立ての理由

登録異議申立人(以下「申立人」という。)は,本件商標は,商標法第3条第1項第3号,同法第4条第1項第8号,同項第10号,同項第15号,同項第19号及び同項第7号に該当するから,同法第43条の2第1号により,その登録は取り消されるべきであると申立て,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第167号証(枝番を含む。)を提出した(なお,以下,枝番号のすべてを引用するときは,枝番号を省略する。)。

1 申立人の商標について

(1)申立人について

申立人である「1D メディア リミテッド(1D Media Limited)」は,世界的に著名なボーイ・バンドである,「ワン・ダイレクション(One Direction)」(略称で「1D」と呼ばれる。この点は,下記で詳述する。)のメンバーによって設立されたイギリスの法人である。

(2)ボーイ・バンド「ワン・ダイレクション」について

「ワン・ダイレクション」は,イギリス及びアイルランド出身のボーイ・バンドであり,2011年にデビューすると,デビュー・アルバムが世界17カ国で週間1位を獲得した他,ライブDVDが27カ国で,2012年に発表したセカンド・アルバム「テイク・ミー・ホーム」が37カ国で,2013年に発表したサード・アルバム「ミッドナイト・メモリーズ」が全米・全英・日本を含む31カ国で,週間チャート1位を獲得するなど,世界的に人気のあるボーイ・バンドである。

2013年のワールド・アリーナツアーでは,我が国を含め計23カ国で約200万人を動員するとともに,世界中で公開された映画「ワン・ダイレクション THIS IS US」も興業収入70億円を超えるヒットを記録し,我が国においても,サード・アルバム収録曲が「ドコモの学割」TVCMや日本映画「好きっていいなよ。」の主題歌に起用される等,大きな話題となった。

全世界におけるCDの累計売上枚数は4,600万枚を超え,「デビューから3作連続で全米チャート初登場1位を記録したグループ」として正式にギネス世界記録にも認定された。

2014年11月には通算4枚目のニュー・アルバム「FOUR」を,12月には劇場公開もされた最新ライブDVD/ブルーレイの発売,そして2015年2月には約15万のチケットが即日完売している2度目の来日公演も行った(甲4)。

また,我が国においては,その楽曲をテレビ番組,CM,テーマパークに提供している(甲5)。

(3)ワン・ダイレクションに対する評価

ワン・ダイレクションは,上記(2)の音楽や映像の発表によって,デビュー以来,国内外で多数の賞(複数の部門で受賞した例も多数ある。)を受賞している(甲6)。

ワン・ダイレクションは,世界中でその楽曲や映像ソフトが大ヒットしている。さらには,その来日した際の盛況ぶりからは,「まるでビートルズの再来」と言われるまで,我が国において非常に人気を博している(甲7及び甲8)。

また,我が国の洋楽市場は,ここ数年低迷していたにも関わらず,ワン・ダイレクションによる,ソーシャルメディアを巧みに利用したプロモーションと,その結果のブレイク,さらには,ワン・ダイレクションが昨今の我が国の洋楽市場の好況を牽引していることから,そのマーケティングにも注目されている(甲9ないし甲11)。

以上のとおり,ワン・ダイレクションは,我が国を含む世界中において,非常に人気のあるボーイ・バンドであり,このことは,インターネット,雑誌,ワン・ダイレクションのメンバーの半生を綴った書籍が複数刊行されている事実からも明らかである(甲12ないし甲21)。

(4)略称「1D」について

ワン・ダイレクションは,「1D」又は「ワンディー」との略称で指称されることが多い(甲22ないし甲57)。

(5)「1D」の商品・役務への使用について

「1D」の語は,楽曲,映像作品,出版物,被服,かばん類,袋物,電気通信機械器具の部品及び附属品等の各種商品,及び,商品の販売等の役務について,目立つような体裁で使用されており(甲58ないし甲145),また,宣伝広告資料についての使用は,甲第152号証ないし甲第167号証のとおりである。

2 商標法第3条第1項第3号について

本件商標は,「+1D」の語を標準文字で表してなるところ,本件指定商品・役務を含む映像分野においては,「数字」とともに「D」の文字が,普通に用いられる方法で使用されている場合,「D」は「Dimension」を意味すると認識されるのが通常であると考えられる。

すなわち,近年の撮影技術や映写技術の発展により,映像を立体的に見せる「3D」(3次元:3 Dimensions)による映像制作が増えており,多くの劇場映画が「3D」技術によって撮影されるとともに,一般家庭においても「3D対応」と明確に表示されたテレビが普及している。また,劇場映画においては,「2D」と「3D」のいずれで鑑賞するかを,需要者が選択できるようになっている場合が多い。

さらには近年,立体技術である「3D」はもちろん,それに加えて,映像以外の要素を付加した,「4D」(4次元:4 Dimensions)技術も現れ始めている(甲146)。

このように,本件指定商品・役務に係る映像分野においては,従来の平面の映像(2D:2 Dimenions)に,別の要素が加えられることを,次元(Dimenions)が増えると捉えて,数字と「D」の文字の組合せで表現することが広く行われている。つまり,「3D」であれば平面の映像(2D)に「奥行き」という新たな要素(次元)が,「4D」であれば立体映像(3D)に加えて,匂いや味覚,触覚といった要素(次元)が加わっていることを表している。

本件指定商品・役務に係る映像分野において,数字と「D」の文字が組み合わされ,普通に用いられる方法で使用されている場合には,それに接した需要者・取引者は,「D」を「Dimension」の頭文字として認識するのが一般的である。

現に,「+1D」は,映像機器と他の機器等を連動させて,その映像を観る者に視覚以外の感覚を与える技術の名称として使用されている(甲147)。

つまり,本件商標は,本件指定商品・役務を含む,映像分野において使用される場合には,「既存の映像に別の新しい要素を付加した」という,商品・役務の品質を表す語を普通に用いられる方法で表す商標であり,識別力を欠くものである。

以上より,本件商標は,商標法第3条第1項第3号に該当する。

3 商標法第4条第1項第8号について

甲第4号証ないし甲第21号証から,ワン・ダイレクションが,我が国はもちろん,世界的に著名なボーイ・バンドであることは明らかである。また,甲第22号証ないし甲第57号証からは,ワン・ダイレクションが映像及び音楽の分野において「1D」との略称で広く一般に親しまれていることから,「1D」がワン・ダイレクションの著名な略称であることは明らかである。

本件商標には,「+」が付加されているが,「+」の記号は,その構成自体が簡単なものであり,規格,型式,内容の種別等を表すための記号・符号として使用され,「・・・を加えた,・・・を付加した,・・・以上の」等の意味を表す記号としても使用されているところであって,これ自体は,自他商品及び役務の識別標識としての機能がないか,極めて低いものである(甲148)。

他方で,「1D」が上述のように著名な略称であって,さらに本件商標の指定商品・役務が映像や音楽に関係するものであり,ワン・ダイレクションが活躍する分野とも密接に関係している分野であることから,本件商標に接した需要者・取引者は,「+1D」のうち「1D」の部分に特に着目する。 よって,本件商標中にワン・ダイレクションの著名な略称である「1D」の語が客観的に把握され,想起,連想されることから,本件商標が使用されると,ワン・ダイレクションの人格権が毀損されるものである。

なお,本件商標の登録出願人がワン・ダイレクションより,「1D」の語をその商標中に使用し,登録することについて,承諾を得たという事実はない。

以上から,本件商標は,その構成中の一部に,著名なアーティストであるワン・ダイレクションの著名な略称である「1D」の語を有してなり,かつ,その者の承諾を得ているものとは認められないことから,商標法第4条第1項第8号に該当する。

4 商標法第4条第1項第10号について

(1)申立人の商標の周知・著名性について

甲第22号証ないし甲第57号証のとおり,「1D」は,ワン・ダイレクションの略称として著名である。他方で,ワン・ダイレクションのメンバーによって設立された法人である申立人の名称の一部でもある。

「1D」の語は,申立人の複数の作品に付されており,当該作品によって,申立人は,国内外で多数の音楽・映像分野における賞を受賞しており,その楽曲は,「1Dサウンド」や「1Dホップ」と呼ばれ,非常に高く評価されている。

さらには,申立人のマーケティング手法もまた,非常に注目されている。 その他にも,申立人は,商標「1D」を多岐にわたる商品・役務に使用しており,これらの商品・役務の全国の需要者・取引者の間で広く知られている(甲58ないし甲167)。

このように,「1D」の語は,申立人がその評価,信用が蓄積していることを前提に,品質をコントロールし,それを保証した,一連の作品や商品・役務に使用した結果,需要者・取引者の間に広く知られるに至っていることから,「1D」と同一又は類似の商標を,本件商標の指定商品・役務に係る,音楽・映像分野において使用されると,申立人の商品・役務と混同を生じるおそれがある。

(2)商標の類否

本件商標は,申立人の周知・著名商標「1D」に類似する商標であって,その周知・著名に係る商品・役務について使用をするものであるから,商標権者による本件商標の使用は,申立人の商品・役務と混同を生じるおそれがある。

したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当する。

5 商標法第4条第1項第15号について

商標「1D」は,申立人の周知・著名商標であるところ,音楽・映像に関係する業界において,我が国における認知度が極めて高い。

本件商標の指定商品・役務は,申立人の商標が周知・著名となっている音楽・映像・出版分野と全く同一か,あるいは密接に関係している他,申立人は,多岐にわたる商品・役務について,「1D」の語を使用している。そして,その分野は娯楽に関するものでもあり,その商品・役務は大量消費財であることが多いと考えられ,需要者・取引者の注意力も特別高いと認められる事情も見受けられない。

以上からすると,本件商標と申立人の商標は非常に類似しており,また申立人の商標は非常に著名である。さらに,本件商標の指定商品と申立人の業務に係る商品も全く同一か,共通しており,申立人の事業は,非常に多角化している。

よって,本件商標に接した取引者・需要者は,申立人の商標の著名性,需要者・取引者の注意力の程度も相まって,本件商標の「1D」部分に強く着目することが明らかであり,その結果,本件商標に係る商品について,申立人と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品であると誤認し,その商品又は役務の需要者が商品又は役務の出所について混同するおそれがあることは明らかである。

したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。

6 商標法第4条第1項第19号について

申立人の商品・役務は,世界中で展開されており,外国における知名度も非常に高いのは明らかであり,本件商標は,申立人の周知・著名商標「1D」を容易に連想させる態様で構成されていることから,本件商標に接した需要者は,申立人の周知・著名な商標に係る商品であるかのように認識し,その商品の出所について混同するのは明らかである。

よって,本件商標権者は,申立人の著名商標「1D」の顧客吸引力を利用(フリーライド)することを意図して,本件商標を取得したことが明らかであって,すなわち,不正の目的をもって使用をするものである。

したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当する。

7 商標法第4条第1項第7号について

本件商標は,「+」の記号と「1D」の語に分離して観察し得るものである。

そして,本件商標の指定商品との関係を考慮すれば,本件商標をその指定商品に使用した場合には,申立人の周知・著名商標と共通する「1D」の部分が極めて強い顧客吸引力を有することから,取引者・需要者は,必然,「1D」の部分に注目する。

「1D」の語は,申立人の創設者であって,世界的にも,ワン・ダイレクションの著名な略称であるから,「1D」の語については,申立人は本件商標の出願人よりも,密接な関係を有している。

よって,本件商標を登録し,当該指定商品について独占的に使用することは,申立人と,その創設者であって世界的に著名なボーイ・バンドであるワン・ダイレクションの名声に便乗するものであり,また,取引者・需要者に混同を生じさせ,申立人の利益を害する剽窃的な行為である。

したがって,本件商標権者が,本件商標を独占的に使用することは,公正な取引秩序を乱し,ひいては国際信義に反し,公の秩序又は善良の風俗を害するものであるから,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当する。

第3 当審の判断

1 商標法第3条第1項第3号該当性について

本件商標は,「+1D」の記号及び文字を標準文字で表してなるところ,申立人は,「3D」,「4D」の文字について,「映像分野においては,従来の平面の映像に,要素(次元)が加わっていることを表すものとして使用されているから,本件商標は,『既存の映像に別の新しい要素を付加した』という,商品・役務の品質を表す語である」旨主張する。

申立人提出の甲第146号証には,映像の分野において,体感型を「4D」と表示していること,及び甲第147号証には,「+1Dとは,DVDや映像ファイル(AVI等)を再生するだけで,様々な周辺機器やグッズを連動させる新技術です。映画等で『4D』という言葉をよく耳にしますが,これは3D映像(立体)に風や香り等を連動させることで,疑似体感をさせる技術です。当技術では2D/3D問わず,連動(1D)を付加(+)することが可能となり,『+1D』が誕生しました。」の記載,及び,「『+1D』の楽しみかた」には,「当ロゴのあるDVDであれば,無償のPC専用のDVDプレーヤー・・・で再生するだけで USBで接続された様々なグッズがDVDの映像と合わせて連動します。」の記載があることから,甲第147号証における「+」の記号は「付加する」ことを,「1D」の文字は,DVDの映像と合わせて連動させる「別の要素」を表すものといえる。

しかしながら,上記各号証は,本件商標の登録査定後のものであり,この2件のみにより,「+1D」の文字が,申立人が主張する,「既存の映像に別の新しい要素を付加した」商品の品質及び役務の質を表す語として,一般に使用されているとものと認めることができない。

そして,職権調査によっても,該文字が,本件商標の指定商品及び指定役務の映像分野において,「既存の映像に別の新しい要素を付加した」商品及び役務であることを表すものとして普通に使用され,取引者,需要者が,該文字を,商品の品質及び役務の質を表示したものと認識するというべき事情も見当たらない。

そうとすれば,本件商標は,これをその指定商品及び指定役務について使用しても,その商品の品質及び役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標とはいえないものである。

したがって,本件商標は,商標法第3条第1項第3号に該当しない。

2 「ONE DIRECTION(ワン・ダイレクション)」の略称「1D」について

「ONE DIRECTION(ワン・ダイレクション)」は,2011年にデビューした英国出身の男性5人による音楽バンド名であり,申立人は,このメンバーによって設立された英国法人である。

そして,「ONE DIRECTION(ワン・ダイレクション)」は,そのデビュー・アルバムが世界17カ国,ライブDVDが27カ国,セカンド・アルバムが37カ国,サード・アルバムが全米・全英・日本を含む31カ国の週間チャートで1位を獲得したこと,2013年のワールド・アリーナツアーでは,日本を含め計23カ国で約200万人を動員したこと,映画「ワン・ダイレクション THIS IS US」の興行収入が70億円を超えたこと,及び,日本においても,サード・アルバム収録曲が「ドコモの学割」TVCMや日本映画「好きっていいなよ。」の主題歌に起用された(甲4及び甲5)ものであり,また,「第28回日本ゴールドディスク大賞」の洋楽部門で初受賞した(甲6)こと等が認められることから,世界的に活躍している音楽バンドであるといえる。

また,「ONE DIRECTION(ワン・ダイレクション)」について,2012年ないし2015年のウェブサイト(甲11,甲28ないし甲39等)及び2013年2月ないし2014年11月に発行された(「non・no」(甲22),「WEEKLY THE TELEVISION」(甲23,甲27),「JUNON」(甲24)等の一部の雑誌において,該グループについて,「1D」の文字が使用され,ややデザイン化された「1D」の文字及び上下に線を配しデザイン化された「1D」の文字(別掲,以下「1D標章」という。)が表示されている。

そして,「ONE DIRECTION(ワン・ダイレクション)オフィシャル・ストア 1D WORLD」及び「ONE DIRECTION CLUB JAPAN」のウェブサイトにおいて,「1D WORLD」の表示がある(甲142,甲144,甲145)。

さらに,「1D」の文字は,「ONE DIRECTION(ワン・ダイレクション)」のアルバム(甲58ないし甲63,甲65,甲66,甲152ないし甲164),ポスターブック,楽譜,ポストカード,セーター,Tシャツ,スカーフ,ソックス,サンダル,バッグ等の各種商品の紹介に使用されている(甲72ないし甲141)。

上記によれば,「ONE DIRECTION(ワン・ダイレクション)」は,世界的な英国出身の男性5人の音楽バンドであることが認められるところ,1D標章が,そのアルバム等に使用されているが,その他の紹介記事や書籍等においては,「ONEDIRECTION」ないし「ワン・ダイレクション」により紹介されている場合が多く,該グループについては,我が国における洋楽部門における受賞・紹介記事であり,該グループを「ID」として紹介している雑誌等は,極一部の雑誌であるといわざるを得ない。また,米国等における各受賞,各国におけるCD,DVDの販売の事実のみにより,直ちに,「1D」の文字が,その略称として,各国において広く知られているということはできない。

そして,「ONE DIRECTION(ワン・ダイレクション)」に関連する各種商品の紹介に「1D」の文字が使用されていることが認められるものの,それらについて,我が国おいて「1D」の文字の使用を開始した時期,営業の規模,広告宣伝の方法,回数,内容等は,具体的に立証されていないものであり,そうすると,「1D」の文字についての需要者の認識を把握することができない。

したがって,「1D」の文字は,本件商標の登録出願時及び登録査定時に,申立人,「DIRECTION(ワン・ダイレクション)」及びその関連する商品及びライブ情報等を表示するものとして,そのファン層を中心とする洋楽市場の取引者,需要者の間において,ある程度知られていたものということができるとしても,我が国又は外国の音楽・映像及び各種商品の需要者の間に広く認識されていたものと認めることができない。

3 商標法第4条第1項第8号該当性について

申立人は,本件商標はその構成中の一部に,著名なアーティストであるワン・ダイレクションの著名な略称である「1D」の語を有してなり,かつ,その者の承諾を得ているものとは認められないことから,本件商標は商標法第4条第1項第8号に該当すると主張している。

商標法第4条第1項第8号にいう「著名な略称」に関しては,「人の名称等の略称が8号にいう『著名な略称』に該当するか否かを判断するについても,常に,問題とされた商標の指定商品又は指定役務の需要者のみを基準とすることは相当でなく,その略称が本人を指し示すものとして一般に受け入れられているか否かを基準として判断されるべきである」(最高裁第二小法廷 平成17年7月22日判決 平成16年(行ヒ)第343号)ところ,上記2のとおり,「1D」の文字は,ワン・ダイレクション及び申立人を指し示す略称として一般に受け入れられていたものということができない。

そして,本件商標は,「+1D」の記号及び文字を標準文字で表してなるところ,その構成文字数は3文字という短いものであり,外観上一体のものとして把握されるというのが自然であって,特定の語義を有しない造語として理解,認識されるとみるのが相当である。

そうとすれば,かかる構成からなる本件商標においては,その構成中の「1D」の文字部分が申立人の略称として独立して認識されるものとはいえず,これに接する者に,「ONE DIRECTION(ワン・ダイレクション)」を想起・連想させるものということができない。

したがって,本件商標は,他人の著名な略称を含む商標とはいえず,商標法第4条第1項第8号に該当しない。

4 商標法第4条第1項第10号,同項第15号及び同項第19号該当性について

前記2に記載のとおり,「1D」の文字は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,申立人及び「DIRECTION(ワン・ダイレクション)」に関連する商品等を表示するものとして,我が国又は外国の需要者の間に広く認識されていたものと認めることができない。

そうとすると,本件商標は,商標法第4条第1項第10号,同項第15号及び同項第19号該当性の前提を欠くものといわなければならない。

したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第10号,同項第15号及び同項第19号に該当しない。

5 商標法第4条第1項第7号該当性について

申立人は,「『1D』の語は,申立人の創設者であって,世界的にも,ワン・ダイレクションの著名な略称であるから,本件商標を登録し,当該指定商品について独占的に使用することは,申立人と,ワン・ダイレクションの名声に便乗するものであり,また,取引者・需要者に混同を生じさせ,申立人の利益を害する剽窃的な行為であるから,公正な取引秩序を乱し,ひいては国際信義に反し,公の秩序又は善良の風俗を害する。」旨主張する。

しかしながら,「1D」の文字は,「ONE DIRECTION(ワン・ダイレクション)」の著名な略称ということができないものであって,また,本件商標は,その構成自体がきょう激,卑わい,差別的又は他人に不快な印象を与えるような文字からなるものではなく,さらに,申立人提出の証拠からは,本件商標の出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠く等の事実,本件商標をその指定商品及び指定役務について使用することが,公正な取引秩序を乱し国際信義に反するものとすべき事情も見当たらない。

したがって,本件商標は,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標ということはできないから,商標法第4条第1項第7号に該当しない。

6 まとめ

以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第3条第1項第3号,同法第4条第1項第8号,同項第10号,同項第15号,同項第19号及び同項第7号に違反してされたものとはいえないから,同法第43条の3第4項に基づき,その登録を維持すべきである。

よって,結論のとおり決定する。

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