結論テキスト
審判費用は、請求人の負担とする。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 無効2015−890045(T2015−890045/J3) |
|---|---|
| 審判種別 | 無効 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
本件登録第5641300号商標(以下「本件商標」という。)は、「Design Thinking」の欧文字を横書きしてなり、平成25年4月19日に登録出願され、第35類「広告業,経営の診断又は経営に関する助言,市場調査又は分析,商品の販売に関する情報の提供,ホテルの事業の管理,文書又は磁気テープのファイリング,コンピュータデータベースへの情報編集,広告用具の貸与」及び第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,図書の貸与,興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。)」並びに第9類、第11類、第19類、第36類、第37類及び第42類に属する商標登録原簿記載の商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同年11月19日に登録査定、平成26年1月10日に設定登録されたものである。
請求人が引用する商標は、いずれも請求人又は請求人の前身である任意団体慶應義塾大学SFCデザイン思考研究会がデザイン思考に関する翻訳出版、ワークショップ、企業内研修、共同研究等の業務に使用してきたとする以下1ないし3の商標及びデザインコンサルティング会社のIDEO(以下「IDEO」という。)及びスタンフォード大学のHasso Plattner Institute of Design(以下「d.school」という。)(以下、上記3者を合わせて「請求人等」という場合がある。)が使用する4の商標である。
以下、使用商標1〜4を併せていうときは、「使用商標」という。
請求人は、本件商標の指定商品及び指定役務中、第35類及び第41類の全役務に係る登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第43号証を提出している。
本件商標は、商標法第4条第1項第8号、同項第10号、同項第15号、同項第19号、同法第3条第1項第3号及び同項第6号に該当し、同法第46条第1項第1号により、その登録を無効にすべきものである。
(1)商標法第4条第1項第8号該当性
ア 請求人及び請求人使用商標
請求人は、平成24年2月に任意団体慶應義塾大学SFCデザイン思考研究会として、活動を開始し、平成25年6月27日に一般社団法人デザイン思考研究所(英語表記:Design Thinking Institute)として登記された法人である(甲1)。
「デザイン思考」という文字列を含む表示「一般社団法人デザイン思考研究所(英語表記:Design Thinking Institute)」は、請求人がその活動開始以来、一貫して自らの役務の出所を示す商標として使用しているものであって、本件商標と類似しており、その指定役務も類似するものである。
イ 商標の類似について
本件商標は、上記第1に示すとおりのものであって、「Design Thinking」とは、その訳語が「デザイン思考」又は「デザインシンキング」とされる、ある種の思考法を示す言葉であると認識することができ、全体が不可分な概念を示しているため、その要部は商標全体である。一方、請求人が商標として使用している使用商標1及び2(以下まとめていうときは「請求人使用商標」という場合がある。)は、その要部が「デザイン思考」及び「Design Thinking」であって、両商標は要部において相互に観念が同一(使用商標2においては、外観及び称呼についても同一)であり、全体として見れば両商標は類似するものである。
以上によれば、本件商標は商標法第4条第1項第8号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第10号又は同項第15号該当性
ア 使用商標の周知性について
請求人は、上記(1)アで述べたとおりの法人であって、一貫してデザイン思考に関する翻訳出版(甲2〜5)、企業研修、共同研究等の業務を行っている。
請求人は、商標として請求人使用商標を使用し、デザイン思考に関する翻訳出版、ワークショップ、企業内研修、共同研究等の業務を行っている。インターネットで無料公開をした翻訳出版物は、2004年にスタンフォード大学に設置された著名なデザインスクールである、Hasso Plattner Institute of Design(http://dschool.Stanford.edu/)(d.school)が作成した公式教材であり、公開開始3日で2万件ダウンロードを超えた(2013年1月現在37,110件ダウンロード)。この翻訳出版物は2012年9月に京都大学のサマーデザインスクールにて、発行資料が使用され、ワークショップが行われた。また、2012年度秋学期に慶應義塾大学経済学部の武山政直ゼミ大でも補助教材として使用された。その他、2012年以降毎年東京理科大学イノベーション研究科において、また2013年3月には東京工業大学グローバルリーダー教育院でデザインシンキングテーマとする講義を行っている。
請求人の構成メンバーがd.schoolで学び、デザイン思考を実践できるイノベーターを育てることを目標に、ワークショップを提供している。2012年9月から月に1回、都内で開催し、毎回30名程度の受講者が集まっている。本ワークショップは、審議会、はてなブックマークやソーシャルニュースのLooopsで取り上げられ、広く知られるところとなっている(甲6〜8)。
さらに、2013年1月10日(木)、オンライン授業として有名なschooに出演し100分間の講義を担当した(甲9)。schooにおける視聴者数は3,602人であり(審判請求時点で延べ2万6000人以上)、2013年1月26日現在でそれまでに開催された全70回の講座中で最大数であった。
また、請求人のウェブサイト及びFACEBOOK PAGEは頻繁にアクセスされており、「一般社団法人デザイン思考研究所(英語表記:Design Thinking Institute)」との表示が広く知られていることを示している(甲10)。
このように、請求人使用商標は、請求人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標である。
イ 商標の類似について
本件商標は、上記第1のとおりのものであって、「Design Thinking」とは、その我が国における訳語が「デザイン思考」又は「デザインシンキング」とされる、ある種の思考法を示す言葉であると認識することができ、全体が不可分な概念を示しているため、その要部は商標全体である。一方、請求人が商標として使用している「一般社団法人デザイン思考研究所(英語表記:Design Thinking Institute)」は、その要部が「デザイン思考(英語表記:Design Thinking)」であって、両商標は要部において相互に観念が同一(英語表記においては、外観および称呼についても同一)であり、全体として見れば両商標は類似するものである。
ウ 役務の同一について
本件商標の指定役務中、第35類「経営の診断又は経営に関する助言」及び第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催」については、請求人が業務として提供している役務である。
エ 以上によれば、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。
仮に、請求人使用商標が未だ広く知られるに至っていないと判断されるとしても、本件商標を用いて指定役務中、第35類及び第41類の役務を提供する行為は、他人である審判請求人の業務に係る役務と混同を生ずるおそれがある商標であるから、本件登録商標は商標法第4条第1項第15号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第19号該当性
本件商標は、上記第1のとおり、平成25年4月19日に出願され、同26年1月10日に設定登録されたものである。
一方、IDEO(http://www.ideo.com/)は、1991年に創設されたデザインコンサルティングファームであり、Design Thinkingによるデザイン手法を用いた企業における製品、サービス、環境そしてデジタルエクスペリエンスのデザインへの支援サービスが世界的に広く知られている。
また、d.schoolは、2004年にスタンフォード大学に設置された著名なデザインスクールであり、Design Thinkingを含むデザイン教育を行っていることで知られている。
IDEO及びd.schoolは、コンサルティングサービスあるいは高等教育サービスに係るデザイン手法をDesign Thinkingと呼称、表示して提供しており、これらはいずれも、日本国内及び外国における需要者の間に広く認識されている商標である。
したがって、仮に、本件商標が商標法第4条第1項第10号又は同項第15号に該当しないとしても、本件録商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
(4)商標法第3条第1項第3号又は同項第6号該当性
本件商標に係る「Design Thinking」とは、その訳語が「デザイン思考」又は「デザインシンキング」とされる英語であり、原語、訳語とも我が国において広く知られた言葉である。
デザインとは「製品の材質・機能および美的造形性などの諸要素と、技術・生産・消費面からの各種の要求を検討・調整する総合的造形計画」(広辞苑第六版)のことであり、「思考」又は「シンキング」とは「ある課題の解決に関与する心的操作」のことであって、いずれも日常的に使用されている語である。そうすると、本願商標「Design Thinking」の文字からは、「デザインするような課題解決の考え方」の意味が容易に理解される。
そして、第35類「経営の診断又は経営に関する助言」又は第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催」の役務が提供されるコンサルティング、講座、セミナー等においては、その目的・内容等を端的に表す業務・職種などを冠してその診断若しくは助言、講座又はセミナー等の名称とすることがしばしば行われていることは公知の事実であって、現に「Design Thinking」、「デザイン思考」又は「デザインシンキング」を冠したコンサルティング、講座、セミナー等が実施・開催されており、本願商標「Design Thinking」を、その指定役務のうちの上記役務などに使用した場合には、需要者は、「デザインするような考え方」に基づくコンサルティング、又は「デザインするような考え方」を修得するための講座、セミナー等を表示したものであると認識する。
してみれば、本願商標をその指定役務中の上記役務等に使用しても、単に役務の質(内容)を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標となるにすぎない。
したがって、本願商標は、その指定商品・役務との関係で自他商品・役務の識別力を有しないものであって、商標法第3条第1項第3号に該当する。
さらに、本件商標に係る「Design Thinking」は「デザインシンキング」とも表記され、本件商標の出願前あるいは登録前に広く一般的に用いられてきた用語であって、新聞や雑誌等の記事中に使用されている(甲11〜17)。また、国立国会図書館の蔵書だけでも、本件商標「Design Thinking」をタイトル等に含む文献は極めて多数に及ぶ(甲18)。さらに、その訳語である「デザイン思考」又は「デザインシンキング」をタイトル等に含む文献は極めて多数となる。特に「デザイン思考」が広く一般的に用いられてきたものである証拠は、本件商標権者が同時期に行った商標登録出願である商願2013−29747号(「デザイン思考」)に対する情報提供として提出している。
これらの文献が属する分野は、ものづくりとサービス全般にわたる広範な領域にまたがっている。
以上の使用例から、本件商標は、一般に「デザインするような課題解決の考え方」の意味を持つものと理解され広く用いられていたということができる。
したがって、本件商標は、その指定商品・役務との関係で自他商品・役務の識別力を有しないものであって、商標法第3条第1項第3号に該当する。仮に商標法第3条第1項第3号に該当しないとしても、本件商標は、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標であって、第3条第1項第6号に該当する。
(5)答弁書に対する弁駁
ア 「本案前の答弁」に対する弁駁
(ア)請求人は、d.schoolおよびIDEOと密接な協力関係を持つとともに(甲14)、両者が作成した教育用公式テキストおよび啓蒙用書籍を、ライセンスを得て翻訳出版し(甲3〜6の許諾表示参照)、両者が開発し普及に努めている「Design Thinking」と呼ばれるイノベーション手法を我が国においても普及させるために、セミナー・講演等の教育サービスを提供している者であって(甲7〜10)、IDEOがコンサルティングサービスの提供において使用し、かつd.schoolが教育サービスにおいて使用している「Design Thinking」商標について、無償の通常使用権者の地位を有している。
(イ)請求人及びその前身である慶應義塾大学SFCデザイン思考研究会は、本件商標の出願前から、自らの役務の出所を示す商標として「Design Thinking」の文字と図形とを組み合わせた標章(使用商標3)を使用しているが(甲10、19〜22)、この商標において文字と図形とは分離して配置されており、「Design Thinking」の部分は、本件商標と称呼、観念の何れにおいても、本件商標と同一である。また、外観については「Design」と「Thinking」の各文字を、横一列に空白を置いて配置するか、上下二段に中央揃えで配置するかの違いがあるものの、いずれもその外観構成がまとまりよく一体に表されており、相互に類似する商標である。
(ウ)また、請求人は「一般社団法人デザイン思考研究所」(使用商標1)及び「Design Thinking Institute」(使用商標2)という標章を使用しているが(甲1、10、19〜22、43)、「一般社団法人デザイン思考研究所」から組織の種類を示す「一般社団法人」と「研究所」を除いた部分である「デザイン思考」の部分は本件商標と観念が同一であり、また「Design Thinking Institute」から組織の種類を示す「Institute」を除いた「Design Thinking」の部分は、本件商標と外観、称呼、観念の何れにおいても同一である。
(エ)さらに、請求人の運営するウェブサイトのURLの第3レベルドメインが「designthinking」である。このドメインは、2013年6月16日に登録され用いている(甲43)。
本ドメイン名を構成する前半部分「design」は、「デザイン」の意味を、後半部分「thinking」は、「思考」の意味を有する英単語であって、本ドメイン名は、この2つの単語からなるものである。そして、本ドメイン名と本件商標とを比較すると、「Design」及び「Thinking」の一文字目が大文字か小文字か、横一列に並べた各単語の間に空白があるか否かについての差異はあるものの、前半部分、後半部分がそれぞれ同一の単語であり、また、ドメイン名は小文字のみを用いて空白を設けずに構成することが一般的であることから、「Design Thinking」商標を使用する者のドメイン名として直ちに「designthinking」が想起されるところであることを考え合わせれば、「designthinking」と本件商標とは互いに類似するものである。
(オ)以上から、請求人は他人が本件商標を不正の目的をもって使用する行為によって法律上の利益に直接の影響を受ける可能性のある者であり、商標法第4条第1項第19号に関しても商標法第46条第2項に規定される利害関係人に該当する。
イ 商標法第4条第1項第19号について
(ア)商標としての周知性の欠如に対する弁駁
a 「Design Thinking」概念の形成・実践・普及と「Design Thinking」商標の使用に関する歴史的経緯は、イノベーション又はクリエイティブに関わり、多少なりとも「Design Thinking」に関心を持つ者には広く知られている、教科書レベルの事項である(甲25〜39)。
「Design Thinking」商標は、コンサルティングによって提供する「独特なイノベーション手法」の出所がIDEOであることを示す商標として、また、高等教育サービスの内容としての「独特なイノベーション手法」の出所がd.schoolであることを示す商標として、本件商標の出願時及び登録時の何れにおいても、国内外の需要者に広く知られていたものである。
請求人は、先達の長年にわたる努力と「Design Thinking」による独特なイノベーション手法の発展史に対し最大級の敬意を払うと同時に、公益のために普及・啓蒙活動を継続しているIDEOおよびd.schoolのスタンスに共感し、両組織との緊密な協力関係の下で、我が国においても「Design Thinking」による独特なイノベーション手法を普及させるべく、各種活動を非営利法人として行ってきた。
(イ)「不正の目的の欠如」に対する弁駁
a 上記(ア)に記載のとおり、本件商標は、その出願時及び登録時の何れにおいても、既にIDEO、d.schoolかつ/または本請求人の役務に係る商標として国内外において周知であったものである。
b 被請求人は、自らのウェブページにおいて、クライアントのビジネスの成長に貢献するために、自らのクリエイティビティと創造能力を発揮する総合広告会社として、多くの世界的著名企業がクライアントであることを誇示する企業であるから、本件商標の出願時及び登録時において、上記(ア)に記載の「Design Thinking」について、十分に知り得る立場にあった(甲40)。
c 現に、本件商標の出願日から僅か4月後の2013年8月9日に掲載された、被請求人ら執筆のDIAMOND・ハーバード・ビジネス・レビューのウェブサイト記事:「集合知とデザイン思考」(甲41)において、被請求人自身が「『デザイン思考』の生みの親は、デザイン・コンサルティング会社のIDEOのティム・ブラウン氏である。また『デザイン思考』の学術的な研究は、イノベーション教育で世界的に著名なd.schoolが中心である。そもそも『デザイン思考』とは何なのか?簡単に言えば、“人々の生活や価値観を深く洞察し、ユーザーが何を潜在的に求めているのかを感知しながら、プロトタイピングを通じて、新しいユーザー体験を提供するイノベーション・プロセス”である。慶應義塾大学SFCデザイン思考研究会が翻訳したd.schoolとIDEOのデザイン思考のツール集がダウンロードできるので、興味のある方はぜひダウンロードして試しにやってみて欲しい。」と述べており、リンク先には慶應義塾大学SFCデザイン思考研究会のウェブサイトを設定している(現在は、同サイトから請求人のサイトに自動転送される)。
一方、DIAMOND・ハーバード・ビジネス・レビューのウェブサイトに2013年8月14日掲載の被請求人ら執筆記事:「異なる知性とのコラボレーションとデザイン思考について」(甲42)においては、「『デザイン思考』のプロセスは、様々である。『デザイン思考』を学術的に研究しているスタンフォード大学d.schoolでは、プロセスを・・・と定義している。・・・一般社団法人デザイン思考研究所のサイトでダウンロード可能」としており、リンク先として本請求人が運営するウェブサイトを設定している。
d したがって、入稿から記事掲載までの期間を考えれば、被請求人が本件商標の出願時において、上述の「Design Thinking」概念の形成・実践・普及と「Design Thinking」商標(使用商標4)の使用に関する歴史的経緯を認識していたことは明らかであり、遅くとも2013年8月14日には、請求人の前身が「慶應義塾大学SFCデザイン思考研究会」であること、及び請求人の業務内容、使用商標並びにインターネット上のドメイン名を認識していたこととなる。
e 以上の事実関係から、被請求人は、他人の業務に係る役務を表示するものとして日本国内及び外国における需要者の間に広く認識されている「Design Thinking」商標(使用商標4)又は「Design Thinking」の文字と図形とを組み合わせた標章からなる商標(使用商標3)と、それぞれ同一又は類似の商標であることを承知のうえ、当該各商標が未だ日本において登録されていないことを奇貨として外国権利者の国内参入を阻止し、又は国内代理店契約を強制する目的、又は引用商標の顧客吸引力を希釈化若しくは便乗し不当な利益を得る等の目的のもとに出願し、「Design Thinking」商標(使用商標4)に係る商標権を取得したものであり、本件商標は、不正の目的をもって使用する商標に該当する。
ウ 商標法第4条第1項第10号又は同項第15号について
(ア)「一般社団法人デザイン思考研究所」商標が周知でないことに対する弁駁
a 商標法第4条第1項第10号の規定にある「需要者の間に広く認識されている」か否かの判断は、単に当該商標を認識している者の絶対数によって評価されるものではなく、当該商標に係る需要者の間で認識されている程度・比率により評価される。
b 日本において、第35類「経営の診断または経営に関する助言」に係る需要者のうち、「Design Thinking」商標(使用商標4)によって示される診断または助言を得ることに関心がある者(需要者)は、主として先端的イノベーション手法を経営改善に結びつけようとする経営者層である。その人数を正確に把握することは困難であるが、例えば上場企業数と同規模であるとするならば、2012年末時点で2,000〜3,000人程度であると推認される(甲23)。また、第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催」に係る需要者のうち、「Design Thinking」商標(使用商標4)によって示される技芸・知識の体得またはセミナー受講に関心がある者(需要者)は、主として企業経営に有益な先端的イノベーション手法を体系的に学ぼうとするイノベーターである。
これもまた、正確にその人数を把握することは困難であるが、「Design Thinking/デザイン思考」によるイノベーション手法に係る高等教育が、我が国においては少数の経営系・デザイン系の大学院において提供されている状況を踏まえ、大学院博士課程の年間修了者数と同規模であると想定するならば、2012年度修了者で16,000〜17,000人程度であると推認される(甲24)。したがって、両者を合わせても、想定される主たる需要者数は20,000程度の規模であると推認される。
c 後述のとおり、「Design Thinking」という標章は、1980年代よりd.schoolにより、同大が提供する教育サービスの内容としての「独特なイノベーション手法の体系」を示す商標として使用され、また、IDEOが提供するコンサルティングサービスの内容としての「独特なイノベーション手法の体系」を示す商標として使用されてきたものであり、本件商標が出願された2013年4月19日までに、「Design Thinking」商標(使用商標4)は、スタンフォード大学が提供する教育サービス、又は、IDEOが提供するコンサルティングサービスを示すものであると認識されるに至っていた(甲36)。
d したがって、本件商標の出願時および登録時において、我が国における、第35類「経営の診断または経営に関する助言」に係る需要者は、「Design Thinking」商標(使用商標4)の出所をIDEOまたはこれと経済的又は組織的に何等かの関係がある者であると広く認識し、第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催」に係る需要者は、「Design Thinking」商標(使用商標4)の出所をスタンフォード大学d.school又はこれと経済的又は組織的に何等かの関係がある者であると広く認識していたものである。
e 請求人の前身である慶應義塾大学SFCデザイン思考研究会が運営するウェブサイトに甲3号証に係る教材をアップロードした際に、公開開始3日間で20,000件以上のダウンロードがあった事実は、想定される需要者が高い比率で慶應義塾大学SFCデザイン思考研究会が運営するウェブサイトを訪れ、「Design Thinking」(使用商標4)、「Design Thinking Institute」(使用商標2)及び「慶應義塾大学SFCデザイン思考研究会」という標章を、本請求人の前身である慶應義塾大学SFCデザイン思考研究会が提供する役務に係る商標であると認識したことを示している。
f さらに、IDEO及びd.schoolが使用している「Design Thinking」商標(使用商標4)について無償の通常使用権者の地位を有している本請求人及びその前身である慶應義塾大学SFCデザイン思考研究会は、「Design Thinking」の文字と図形とを組み合わせた標章(使用商標3)を、自らの役務の出所を示す商標として一貫して使用し、ウェブサイト来訪者その他の希望者にニュースレター(甲19〜22)を頒布している。
g そして本件商標が出願された後の平成25年6月27日に、慶應義塾大学SFCデザイン思考研究会の一切の資産を承継して本請求人が設立された(甲1)。
h したがって、「Design Thinking」の文字と図形とを組み合わせた標章からなる商標(使用商標3)は、本件商標の出願時及び登録時に需要者の間に広く認識されていたものであり、「Design Thinking Institute」商標(使用商標2)及び「一般社団法人デザイン思考研究所」商標(使用商標1)は、遅くとも本件商標の登録時には、需要者の間に広く認識されていたものである。
i なお、被請求人は、「慶應義塾大学SFCデザイン思考研究会」商標又は「一般社団法人デザイン思考研究所」商標が単に編集者として表示されたものである旨主張しているが、請求人及びその前身である慶應義塾大学SFCデザイン思考研究会の業務内容とウェブサイトの記載事項から、アップロードされている翻訳テキスト・資料類が、本請求人が開催するセミナー、ワークショップ等で用いられるものであることは直ちに把握でき、これら役務の出所を表示しているものと需要者が認識するに十分な態様で表示されている(甲22)。
j さらに、被請求人はFacebookページの証拠能力について疑義を表明しているが、請求人が運営するFacebookページは、その仕様に従い、左上の最も目立つ位置に「Design Thinking Institute」の文字と図形とを組み合わせた標章及び「一般社団法人デザイン思考研究所」(本件商標登録出願時は「慶應義塾大学SFCデザイン思考研究会」)の表記があり、そのすぐ横の運営主体の属性を示す欄に「教育サービス」と記載しており、さらにページを送れば、本請求人が開催するセミナー、ワークショップ等の開催告知・報告、翻訳テキスト等のダウンロード案内などの記載があり(甲10)、自らの役務の出所を示す商標として「Design Thinking」の文字と図形とを組み合わせた標章(使用商標3)を使用して、ウェブサイト来訪者その他の希望者にニュースレター(甲第19〜22)を頒布していたから、本請求人が「Design Thinking Institute」(使用商標2)、「一般社団法人デザイン思考研究所」(使用商標1)及び「Design Thinking」の文字と図形とを組み合わせた標章(使用商標3)の各商標の下に教育サービスを行っている団体であることは明らかである。
(イ)「本件商標との類否」に対する弁駁
a 請求人は自らの役務の出所を示す商標として使用商標1〜3を使用している(甲1、10、14、19〜22)
b まず、「一般社団法人デザイン思考研究所」(使用商標1)のうち「デザイン思考」の部分が要部であって、「デザイン思考」は本件商標と観念が同一である。
c 一般に結合商標の類否は、識別力のない文字を除いた部分からなる商標と類似するものと判断されることから、一連一体に表示されていることのみをもって「デザイン思考」の部分のみを抽出することが恣意的であるとはいえない。
d また、同様に「Design Thinking Institute」(使用商標2)のうち、「Institute」は要部となり得ず、「Institute」を除いた「Design Thinking」の部分は、本件商標と外観、称呼、観念の何れにおいても全く同一である。
e さらに、「Design Thinking」の文字と図形とを組み合わせた標章(使用商標3)については、文字と図形とは分離して配置されており、「Design Thinking」の部分は、本件商標と称呼、観念の何れにおいても、本件商標と同一である。また、外観については「Design」と「Thinking」の各文字を、横一列に空白を置いて配置するか、上下二段に中央揃えで配置するかの違いがあるものの、いずれもその外観構成がまとまりよく一体に表されており、相互に類似する商標である。
(ウ)「役務の類否」に対する弁駁
a 請求人が運営するFacebookページは、運営主体の属性を示す欄に「教育サービス」と記載しており、さらにページを送れば、本請求人が開催するセミナー、ワークショップ等の開催告知・報告、翻訳テキスト等のダウンロード案内などの記載がある(甲10)。
b また、請求人は企業内研修の形式で、各企業の抱える経営問題を解決するためにセミナー、ワークショップ等を提供していることを、請求人が運営するウェブサイトにおいても表示している(甲22)。
c したがって、請求人が「Design Thinking Institute」商標(使用商標2)、「一般社団法人デザイン思考研究所」商標(使用商標1)及び「Design Thinking」の文字と図形とを祖み合わせた標章からなる商標(使用商標3)の各商標の下に提供する役務は、第35類「経営の診断または経営に関する助言」及び第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催」と、それぞれ同一又は類似である。
d なお、本件商標の出願時には、本請求人の前身である慶應義塾大学SFCデザイン思考研究会が「Design Thinking Institute」商標、「慶應義塾大学SFCデザイン思考研究会」商標、及び「Design Thinking」の文字と図形とを組み合わせた標章からなる商標の各商標の下に、同様の活動を行っていたことは、同Facebookページの過去分の記録および他の証拠方法より明らかである。
(エ)「商標法4条1項15号該当性について」に対する弁駁
a 本請求人は自らの役務の出所を示す商標として使用商標1〜3を使用している(甲1、10、19〜22)。
b 本請求人が使用している各商標と本件商標との関係は、上記(イ)のとおり相互に類似する商標である。
c また、請求人が使用している商標のうち、「Design Thinking」の文字と図形とを組み合わせた標章からなる商標(使用商標3)は、本件商標の出願時および登録時に需要者の間に広く認識されていたものであり、「Design Thinking Institute」商標(使用商標2)及び「一般社団法人デザイン思考研究所」商標(使用商標1)は、遅くとも本件商標の登録時には、需要者の間に広く認識されていたものである。
d さらに、本請求人及びその前身である慶應義塾大学SFCデザイン思考研究会が使用している各商標の下に提供する役務は、第35類「経営の診断又は経営に関する助言」及び第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催」と、それぞれ同一または類似である。
e 以上の事実から、被請求人による本件商標の使用は、需要者をして請求人の業務に係る役務であると誤認せしめ、その役務の需要者が役務の出所について混同するおそれがあり、または、請求人と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る役務であると誤認せしめ、その役務の需要者が役務の出所について混同するおそれがある場合に該当することは明らかである。
(6)商標法第3条第1項第3号及び同第6号について
請求人は、平成28年5月16日付け回答書において、論点の明確化を図るため、商標法第3条第1項第3号及び同第6号の無効原因に係る主張を取り下げる旨を述べている。
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証及び乙第2号証を提出した。
請求人は、商標法第4条第1項第19号に該当する理由として、「Design Thinking」という語が、IDEO又はd.schoolの業務に係る役務を表示するものとして周知であると主張する。
しかるに、商標法第46条第2項は、商標登録の無効審判は、利害関係人に限り請求することができると定められているところ、請求人とIDEO又はd.schoolとの関係(例えば、「Design Thinking」という語の使用許諾契約が存するのかなど)が全く不明であり、上記のような無効理由との関係において、請求人が「利害関係人」であるとはいえず、請求人適格を欠く。
(1)商標法第4条第1項第8号について
ア 著名性の欠如
(ア)主張自体失当
請求人の名称は、「一般社団法人デザイン思考研究所」である(甲1)。
ところで、請求人は商標法第4条第1項第8号該当性においては、請求人の名称のうちから、「一般社団法人」及び「研究所」の部分を除いた、「デザイン思考」という部分のみを本件商標と対比している。
法人の名称から、「株式会社」などの部分を除いた部分は、「他人の名称の略称」であるから(最判昭和57年11月12日。「月の友の会」事件。)、請求人の名称のうち「デザイン思考」の部分もまた、当然に請求人の名称の「略称」であり、商標法第4条第1項第8号に該当するというためには、その著名性が要求されるものである。
請求人は、この点について何らの主張立証を行っていないことから、請求人の主張は、それ自体失当である。
(イ)著名な略称ではない
商標法第4条第3項から明らかなとおり、同条第1項第8号該当性の判断基準時は、商標登録出願の時点であり、本件商標についていえば、「平成25年4月19日」である。当該時点において、「デザイン思考」が、請求人を示す略称として著名であったということはできない。
請求人が提出する甲号証のいずれにも、請求人を示す文言としては、「一般社団法人デザイン思考研究所」が記載されており、「デザイン思考」という略称をもって、請求人を表示したものは1つもない。なお、甲第4号証などに表示されている「慶應義塾大学SFCデザイン思考研究所」は、法人格として請求人と同一性を有するものではないが、その点を措くとしても、少なくともここでも「デザイン思考」という略称をもって当該「慶應義塾大学SFCデザイン思考研究所」を表示しているものではない。
以上のとおり、「デザイン思考」が請求人を示す略称として著名なものであるとはいえない。
イ 「デザイン思考」を含んでいない
本件商標は、「Design Thinking」であり、「デザイン思考」ではない。
請求人は、本件商標と「デザイン思考」の「類否」を縷々述べるが、商標法第4条第1項第8号は、「類似」ではなく「含む」か否かが問題となるのであり、両標章の「同一性」が要求されるものである。
そうすると、「Design Thinking」と「デザイン思考」では、少なくともその外観と称呼が異なることは明らかであるから、この点においても請求人の主張は失当である。
(2)商標法第4条第1項第10号又は同項第15号について
ア 商標法第4条第1項第10号該当性について
(ア)「一般社団法人デザイン思考研究所」商標が周知ではないこと
a 判断基準時と甲各号証
請求人は「一般社団法人デザイン研究所」という商標が需要者に広く知られた、周知のものであると主張するが、まず前提として、商標法第4条第1項第10号該当性の判断基準時は、商標法第4条第3項から明らかなとおり、商標登録出願の時、本件商標についていえば、「平成25年4月19日」である。
請求人が周知性を立証するものであるとして指摘する甲号証のうち、甲第6号証は平成25年5月20日付けの資料であり、甲第7号証は2013(平成25)年12月15日に開催されたセミナーに関する資料であり、本件商標登録出願の時点における周知性を、何ら立証し得るものではない。
また、甲第10号証についても、そこに表示されているのは2014(平成26)年1月8日時点の「いいね!」の数であり、これも本件商標登録出願時点における周知性を、何ら立証し得るものではない。
b 甲第2号証
甲第2号証には、請求人が主張する「一般社団法人デザイン思考研究所」という商標は1か所も記載されていない。
甲第2号証の題名としては「Pocket Guide of Design Thinking デザイン思考のポケットガイド」という語が記載されているが、かかる語は書籍の題号として表示されているものであり、商品・役務の出所を示すものとして表示されているものではない。
また、甲第2号証は、その配布部数なども明らかではなく、これにより何らかの商標の「周知性」を立証し得るものではない。
c 甲第3号証
甲第3号証では、「一般社団法人デザイン思考研究所」という語は、甲第3号証の編集を行った者を示すものとして表示されているものであり、請求人の主張する、第35類「経営の診断又は経営に関する助言」及び第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催」(以下、これらを併せて「本件役務」という。)の提供主体を示すものとして表示されているものではない。
また、甲第3号証は、2013年1月現在で3万7110件ダウンロードを超えたとされているが、無償で配布されている資料がわずか4万件弱ダウンロードされたところで、何ら周知性を立証し得るものでもない。
例えば、有償で取引される書籍(ビジネス書)における、2014年売上部数のランキング1位は65万4725部であり(乙1)、甲第3号証の2013年1月時点におけるダウンロード数の約20倍である。
さらに、甲第3号証がダウンロードされる主たる要因は、米国の著名な大学であるスタンフォード大学の編纂したものであり、その内容面が評価された点にある。
したがって、そのダウンロード数をもって、編集者として表示されている「一般社団法人デザイン思考研究所」の周知性を立証することはできないし、まして、本件役務の出所を示すものとして周知であるとはいえない。
d 甲第4号証及び甲第5号証
甲第4号証及び甲第5号証には、「一般社団法人デザイン思考研究会」という語は使用されておらず、「慶應義塾大学SFCデザイン思考研究会」という語が使用されているものであるが、その点を措くとしても、甲第4号証及び甲第5号証では「慶應義塾大学SFCデザイン思考研究会」という語は、甲第3号証における「一般社団法人デザイン思考研究所」の語と同様に、甲第4号証及び甲第5号証の「編集」者を示すものとして表示されており、本件役務の提供主体を示すものとして表示されているものではない。
また、甲第4号証及び甲第5号証は、その配布部数なども明らかではなく、これにより何らかの商標の「周知性」を立証し得るものではない。
e 甲第6号証
甲第6号証についても、「慶應大学SFCデザイン思考研究会」という語は、「デザイン思考家が知っておくべき39のメソッド」(甲3)の邦訳版の入手先として表示されているにすぎず、商品・役務の出所を示すものとして表示されているものではない。
また、甲第6号証は、その配布部数なども明らかではなく、これにより何らかの商標の「周知性」を立証し得るものではない。
このような資料に引用されていることをもって、「周知である」ということにはならないし、このような資料に引用されているのは米国スタンフォード大学の編纂した甲第3号証の内容に負うところであり、「慶應大学SFCデザイン思考研究会」という語が、商標として、周知であるからではない。
f 甲第7号証
前述のとおり、甲第7号証は、本件登録商標出願より約8か月も後の、2013年12月15日に行われたクラスの告知文であり、これをもって本件商標登録出願の時点における周知性を立証することはできないし、かかる告知がどの程度閲覧されたのかについても、明らかではない。
g 甲第8号証
甲第8号証も甲第4号証及び甲第5号証と同様、「慶應大学SFCデザイン思考研究会」という語は、甲第3号証の編集者を示すものとして表示されているにすぎず、本件役務の提供主体を示すものとして表示されているものではない。
また、甲第8号証のウェブサイトの閲覧数なども明らかではなく、これにより何らかの商標の「周知性」を立証し得るものではない。
h 甲第9号証
甲第9号証は、その表題部分に「柏野崇徳先生」と記載されているとおり、請求人ではなく、その代表者である柏野氏が個人として行った授業を紹介しているものである。
そこに記載された「一般社団法人デザイン思考研究所」という語は、柏野氏の所属団体を示すものにすぎず、請求人自身が本件役務を提供していることを示すものではない。
また、請求人は審判請求時点において述べ2万6000人以上が甲第9号証の授業を視聴していると述べるが、かかる数字は商標法第4条第1項第10号の判断基準時であるところの平成25年4月19日時点における視聴者数を示すものではない。
請求人の主張によれば、2013年1月10日時点の視聴者数は、わずか3602人にすぎず、これをもって到底周知性を立証することはできない。
なお、請求人は、3602人という視聴者数は、「schoo」というサービスにおける、2013年1月26日時点までに開催された講座の中で最大数であったことを主張するが、あるサービスの中で視聴者数が最大であるという相対的な事情をもって、3602人という絶対数の評価が変わるものではない。他の講座の視聴者数が、それよりもさらに少なかったということを示す事情にすぎない。
i 甲第10号証
甲第10号証は請求人のFacebookページであり、ここに記載されている「一般社団法人デザイン思考研究所」の語は、当該フェイスブックページが誰の頁であるかを示しているものにすぎない。かかる証拠から請求人が本件役務を提供していることはうかがえないし、まして、かかる「一般社団法人デザイン思考研究所」の語が、本件役務の提供主体を示すものでもない。
また、甲第10号証の3枚目に、請求人のFacebookページを「いいね!」と評価したユーザー数が6722人とされているが、その程度の数字をもって到底周知性を立証し得るものではない。
しかも、かかる数字は2014年1月8日時点の数字であり、商標法第4条第1項第10号該当性の判断基準時である、本件登録商標出願の時点(平成23年4月19日)時点の数字ではない。甲第10号証の3頁のグラフを見ると、6722人を示す右接片の高さが約4.5cm、平成23年10月8日の時点で「いいね!」の数を示す左接片の高さが約1cmであるから、平成23年10月8日時点での「いいね!」の数は、わずか1500人(6722人÷4.5cm×1cm≒1500人)程度にすぎない。
なお、Facebookの「いいね!」などのSNSの指数については、その数を増やすことを請け負う業者がおり(乙2)、必ずしも実際の着目度を示すものでもない。
j 小括
以上のとおり、請求人の指摘する甲第2号証ないし甲第10号証の何れも、「一般社団法人デザイン思考研究所」の語が、請求人の本件役務の出所を示す表示として、周知であることを示すものではない。
(イ)本件商標との類否
a 要部について
甲第2号証ないし甲第10号証の何れにおいても、「一般社団法人デザイン思考研究所」(又は「慶應義塾大学SFCデザイン思考研究会」)として、一連一体に表示されており、これら各甲号証で「デザイン思考」の部分のみを、請求人を示すものとして表示しているものはない。
したがって、一連一体の「一般社団法人デザイン思考研究所」という語から、「デザイン思考」の部分のみを恣意的に抽出して要部と捉えることは相当ではなく、「一般社団法人デザイン思考研究所」という語の要部は、「デザイン思考研究所」と把握されるべきである。
b 類否について
(a)外観
本件商標の「Design Thinking」というアルファベットの、2つの単語を分けて表示した外観と、「デザイン思考研究所」という片仮名及び漢字の、ひとつのまとまりとしての外観とは異なるのであり、両標章はその外観において相違する。
(b)称呼
本件商標の「デザイン シンキング」という称呼と、「デザインシコウ ケンキュウジョ」という称呼とでは、「デザイン」という音は共通するものの、全体の音(「デザインシンキング」と「デザインシコウ ケンキュウジョ」)や発音のリズム(「デザイン/シンキング」の2拍と、「デザイン/シコウ/ケンキュウ/ジョ」の4拍)、音節数などは全く異なるものであり、両標章はその称呼においても相違する。
(c)観念
後述のとおり、「Design Thinking」という語は、造語であり、そこから観念が生じ得るとすれば、「デザインに関する考え方」等であろうが、「デザイン思考研究所」という語からは、デザイン思考というものを研究する団体又は研究施設という観念(人や設備という観念)を生じるものであり、両標章はその観念においても異なる。
(ウ)役務の類否
請求人は、本件商標の指定役務中、前記定義したような本件役務が、請求人が業務として提供している役務と同一であると主張しているが、上記(ア)において述べたとおり、甲第2号証ないし甲第10号証において、「一般社団法人デザイン思考研究所」の語が、本件役務の出所を示すものとして表示されているものはないのであるから、請求人の主張には理由がない。
イ 商標法第4条第1項第15号該当性について
請求人は、仮に本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当しないとしても、請求人の業務と係る役務と混同を生じるおそれがあり、商標法第4条第1項第15号に該当する旨主張するが、具体的に混同が生じる理由については沈黙している。
上述のとおり、「一般社団法人デザイン思考研究所」なる語は、本件役務の提供主体として、請求人を示すものとして周知でもなければ、「一般社団法人デザイン思考研究所」という語と、本件商標にかかる「Design Thinking」という語とは、その外観、称呼、観念の全てにおいて異なるのであるから、両標章は混同を生じるものではなく、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。
(3)商標法第4条第1項第19号について
ア 商標としての周知性の欠如
請求人はIDEO又はd.schoolがDesign Thinkingというデザイン手法を提供しており、これらは日本国内及び外国における需要者の間で広く認識されていると主張するが、これらが周知されているという証拠はない。まして、請求人の主張によれば、「Design Thinking」はある「デザイン手法」であるとされているのであり、そうであるとすれば、そこにいう「Design Thinking」という語はある思考法(技法)を示すものにすぎず、IDEO又はd.schoolの商品や役務の出所を示すものとして使用されているものではない。
そうすると、請求人自身の主張によっても、「Design Thinking」という語がIDEO又はd.schoolの業務にかかる「商品又は役務を表示するものとして」日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されているとはいえないのであり、請求人の主張は失当である。
イ 不正の目的の欠如
「Design Thinking」の語は、他人の商品又は役務の出所を示すものとして周知ではなく、被請求人としても、本件商標登録出願の時点において、何ら不正の目的をもって使用するために出願を行ったものではない。
(4)商標法第3条第1項第3号又は同項第6号について
ア 他の無効理由との明らかな矛盾
請求人は、「デザイン思考」なる語が請求人の役務の出所を表示するものとして周知であると主張しつつ、その一方では商標法第3条第1項第3号又は同項第6号にかかる、出所識別機能を有しない商標であると主張しており、明らかに矛盾した主張を行っている。
イ 出所識別機能を有すること
(ア)造語であること
「Design Thinking」という語は、造語であり、請求人も指摘する、我が国において最も定評のある国語辞典である「広辞苑(第六版)」(岩波書店)にも、「デザイン」や「思考」などの語は収録されていても、それらが一体となった「デザインシンキング」又は「デザイン思考」という語は、収録されていない。収録項目26万を超える我が国最大級の英和辞典である「新英和大辞典(第六版)」(研究社)にも、「Design Thinking」という用語は収録されていない。
このような「Design Thinking」という造語は、役務の質を、普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものでもなければ、普通名詞のようにおよそ出所識別機能有しないような語でもなく、何ら商標法第3条第1項第3号又は同項第6号に該当するものではない。
(イ)甲第11号証ないし甲第18号証について
請求人は、「Design Thinking」という本件商標が商標法第3条第1項第3号又は同項第6号に該当することを示す根拠として、甲第11号証ないし甲第18号証を挙げているが、このうち甲第11号証ないし甲第17号証には、一定の方法論を示すものとして「デザインシンキング」又は「デザイン思考」という語が使用されている例が示されているものの、これらは主として海外において、このような考え方が活用されていることを紹介する記事であり、これらをもって未だ我が国において、造語である「Design Thinking」という語が、その出所識別能力を失うほど一般名称化しているとは、到底言うことはできない。
そして、甲第18号証においては、「Design Thinking」という語が書籍の題号に含まれる形で使用されている例であるが、書籍の題号としての使用においては、これらの語は商標として使用されているものではなく、それにより何ら「Design Thinking」という語の出所識別機能が薄まるものではない。SONY、HONDA、TOYOTAなどの語を題号に含む書籍は無数にあるが、それにより誰もこれらの商標の出所識別機能が薄まっているなどと評価しないのと同様である。
まして、甲第18号証に掲載されている書籍の多くは外国語で書かれたもの、又は、その翻訳物であり、上記で述べたのと同様、我が国において「Design Thinking」の語が出所識別機能を失うほど一般名称化しているとは、到底言うことはできない。
被請求人は、本件商標の無効理由として請求人が主張する商標法第4条第1項第19号該当性について、請求人とIDEO又はd.schoolとの関係が不明であるから、「利害関係人」であるとはいえず、請求人適格を欠くと主張している。
しかしながら、請求人の主張及び提出された証拠によれば、請求人は、本件商標と類似すると主張する「一般社団法人デザイン思考研究所」、「Design Thinking Institute」、図形と組み合わせた「Design Thinking」の文字を有する商標を使用しているとしており、本件商標の存在によって、不利益を受ける可能性のある者ということができる。
したがって、請求人とIDEO又はd.schoolとの関係が不明であるとしても、請求人は、本件審判を請求することについて、利益を有するものと解するのが相当である。
よって、請求人は、本件審判の請求について、請求人適格を有するものと認めるので、以下、本案に入って審理する。
請求人の提出に係る甲各号証及び主張によれば、以下の事実が認められる。
(1)請求人は、その名称を「一般社団法人デザイン思考研究所」とする法人であり、平成24年2月に活動を開始した任意団体「慶應義塾大学SFCデザイン思考研究会」を母体として、平成25年6月27日に登記設立された法人であって、人材育成を目的として、ワークショップ、講演会、シンポジウム、セミナー等のイベント、企業研修、教材開発等の事業を行う法人である(甲1)。
なお、提出された証拠中には、円図形と組み合わされた「Design Thinking」の文字(使用商標3)又は「Design Thinking Institute」(使用商標2)を含む商標や、請求人の略称として「Design Thinking Institute」の表示を紹介するもの(甲43)は認められるものの、請求人の名称又は略称として「Design Thinking」の欧文字のみで紹介しているものは見当たらない。
(2)請求人は、その名称である「一般社団法人デザイン思考研究所」及びその英語表記としての「Design Thinking Institute」の表示及び「Design Thinking」の文字とその周囲に円形図形を組み合わせた使用商標3(別掲)の表示が請求人の業務に係る商品若しくは役務を表示する商標として広く知られている旨主張している。
しかし、請求人提出の証拠によれば、請求人がd.schoolが作成した教材を請求人名称やその前身団体の名称を編集者として表示し翻訳していること(甲3、4、6、8)、該資料が無料公開され、公開から3日で2万ダウンロードされたこと(甲8)、請求人の構成メンバーがインターネットの生放送で授業を行っていること(甲9)、請求人の構成メンバーがネット等で紹介されていること(甲6〜8)、ウェブサイトには開設者として請求人の名称が表示されていること(甲10)は確認できるが、2012年9月から月1回30名規模のワークショップを行っていること、請求人が翻訳した印刷物が教材として、また、講義のテーマとして京都大学、慶應義塾大学、東京理科大学及び東京工業大学の4つの大学で使用されたこと、請求人の構成メンバーが2012年9月から月1回30名規模のワークショップを行っていること等の主張については、これを裏付ける証左の確認はできない。
(3)また、請求人は、「Design Thinking」商標(使用商標4)は、コンサルティング会社の「IDEO」が提供するコンサルティングの役務の商標として、d.schoolによる高等教育に関する役務の商標として、また、両者のイノベーション手法の普及を行ってきた請求人の商標として周知であると主張し、甲第25号証ないし甲第38号証を提出している(なお、甲第27号証ないし甲第29号証、甲第31号証ないし甲第33号証、甲第35号証、甲第37号証及び甲第38号証は外国語による文書であり翻訳文の提出もないことから、この内容は定かではない)。
ア 甲第25号証は、「デザイン戦略の教科書」と題する株式会社秀和システムが発行した書籍の写しであるところ、デザイナーのように考えて解決法を見いだすことを「デザイン思考」と称すること、この解決法をIDEOが開発し、d.schoolが人材の育成に活用している旨、また、請求人の前身団体が、その手法の普及を行っている旨の記載があるが、本書籍がどの程度頒布され、その記載内容がどの程度一般に知られているか等は明らかにされていない。
イ 甲第26号証は、「日本知財学会誌」と題する株式会社白桃書房が発行する書籍の写しであり、未来を創造する手法として「デザイン思考」の表記と「Design Thinking」の表記を併記して紹介している。
ウ 甲第30号証は、「特技懇(tokugikon)」と題する書籍に掲載された、甲第26号証の同じ著者による「デザイン思考の可能性(上)」と題する記事であり、甲第26号証と同様の紹介がされている。
エ 甲第34号証は「DIAMONDonline」のウェブページであるところ、「DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー」として「2011年9月28日 ティムブラウン」、「人間中心のイノベーションへ」「IDEO:デザイン・シンキング」及び「Design Thinking」の見出しで「デザイン思考」の解説が紹介され、末尾部分に「HBR 2008年6月号より、DHBR2008年12月号より」、「Design Thinking」の記載があるが、このウェブページがどの程度アクセスされ、その記載内容がどの程度一般に知られているか等は明らかにされていない。
オ 甲第36号証は、1葉目に「フロンティア人材研究会報告書」「2012年3月」及び「経済産業省」と記載されたプレゼン用資料と思しき書類と認められるところ、米国の動向として、d.schoolが「事業をデザインできる人材育成のために『型』としてデザインシンキングを教えており」との記載や、IDEOの紹介として「ビジネス領域にデザイン思考を浸透させた功績は大きい。」との記載がある。
(4)以上の事実を総合すると、請求人の名称として、書籍等の編集者として「一般社団法人デザイン思考研究所」(使用商標1)が表記され、英語表記として「Design Thinking Institute」(使用商標2)と紹介するものが存在することは認められるが、請求人が現在の名称として設立されたのは平成25年6月27日であって、本件商標の出願日である平成25年4月19日より後であるから、本件商標出願時に使用していたものと認めることができず、また、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国及びその他の外国の取引者、需要者の間で、請求人の業務に係る商品又は役務の出所を表示する商標として広く知られていたとは認めることができない。
また、図形と組み合わせた「Design Thinking」の文字を有する商標(使用商標3)は、請求人の前身である、「慶應義塾大学SFCデザイン思考研究会」の発行するニュースレター(甲14、19、20、21)において表示されていたのは認められるが、請求人が現在の団体となってから使用している証拠の提出はなく、また、このニュースレターがどの程度の量、どの程度の範囲に頒布されていたかの証左もないことから、このニュースレターへの使用をもって広く認識されていたと認めることはできない。
さらに、「design thinking」の表示(使用商標4)は、「IDEO」及び「d.school」によって開発され活用・普及されている、デザイナーのように考えて解決法を見いだす手法を表現するものとして使用されていること、請求人の前身である、平成24年2月に活動を開始した「慶應義塾大学SFCデザイン思考研究会」の頃から請求人により紹介され、使用されていることは認められるが、提出された証拠の数も少なく、その商品・役務等の需要者等も限定的なものと認められるから、上記の請求人の名称に対する認定と同様に、提出された証拠をもって、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、「IDEO」及び「d.school」の業務に係る商品又は役務の出所を表す商標として、我が国ないし米国及びその他の外国の取引者、需要者の間で広く認識されていたとも認めることはできない。
(1)請求人は、「一般社団法人デザイン思考研究所」として登記された法人であり、その英語表記を「Design Thinking Institute」とするものであって、「デザイン思考」という文字列を含む表示は、請求人がその活動開始以来、一貫して自らの役務の出所を示す商標として使用しているものであって、本件商標と類似しており、その指定役務も類似するものであると主張する。
しかしながら、商標法第4条第1項第8号は、「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)」と規定するものであるところ、本件商標「Design Thinking」は、請求人の名称とは認められない。
(2)また、請求人は、「デザイン思考」及び英語表記の「Design Thinking Institute」を請求人の商標として使用しており、本件商標と類似している旨述べるが、本号が適用されるのは、その名称や著名な略称等を含むものであり、請求人の提出に係る証拠によっては、請求人の略称として「デザイン思考」の文字が使用されているとは認められないし、「Design Thinking Institute」の文字が、請求人の略称として著名となっていることも認めることはできず、これらの表示が、本件商標に含まれているとも認められない。
(3)よって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当しない。
(1)上記2によれば、使用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人、「IDEO」及び「d.school」のいずれの者の業務に係る商品又は役務との関係においても、その出所を表す商標として、我が国及び外国の取引者、需要者の間で広く認識されていたとは認めることはできないものである。
(2)本件商標と使用商標の類否について
ア 本件商標
本件商標は、上記第1のとおり、「Design Thinking」の欧文字を横書きしてなり、構成する「Design」が「デザイン」を、「Thinking」が「考え」を意味する英語として広く一般に知られていることから、構成文字に相応して「デザインシンキング」の称呼を生じ、「デザインに関する考え」程の意味を想起させるものである。
イ 使用商標
(ア)使用商標1は、「一般社団法人デザイン思考研究所」の文字からなるものであって、構成中の「一般社団法人」の文字が、使用者が法人組織であるという事を表示するために、法人の名称中に共通して使用されていることから、簡易迅速を尊ぶ取引の実際においては、この部分を省略して「デザイン思考研究所」のみをもって使用される場合があるというのが相当である。
そうすると、使用商標1は、その構成文字に相応して「イッパンシャダンホージンデザインシコーケンキュージョ」及び「デザインシコーケンキュージョ」の称呼を生じ、「デザインに関する考え方の研究所」ほどの観念を生ずるものである。
(イ)使用商標2は、「Design Thinking Institute」の文字からなるものであって、構成する「Design」が「デザイン」を、「Thinking」が「考え」、「Institute」が「研究所」を意味する英語として広く一般に知られているものであるところ、構成文字が同じ書体、同じ大きさでまとまりよく表されており、これより生ずる「デザインシンキングインスティチュート」の称呼も格別冗長なものとまではいえず、よどみなく一連に称呼し得ることから、使用商標2からは、「デザインシンキングインスティチュート」の称呼のみを生じ、「デザインに関する考え方の研究所」ほどの意味を想起させるものである。
(ウ)使用商標3は、別掲のとおり「Design」及び「Thinking」の文字を二段に、その回りを取り囲むように円形の図形とを一体に表した商標であるところ、構成中の「Design」及び「Thinking」の文字からは、本件商標と同様に「デザインシンキング」の称呼を生じ、「デザインに関する考え」程の意味を想起させるものである。
(エ)使用商標4は、「Design Thinking」の文字からなることから、本件商標と同様に「デザインシンキング」の称呼を生じ、「デザインに関する考え」程の意味を想起させるものである。
ウ 本件商標と使用商標の類否
(ア)外観
本件商標及び使用商標は、上記ア及びイのとおりであるから、本件商標と使用商標1とは、構成文字が全く相違し、使用商標2とは、「Institute」の文字の有無という、それぞれ明確に区別されるものであり、使用商標3とも、文字部分が一連に横書きしてなるか2段に書してなるか及び図形部分の有無の相違により外観上明確に区別されるものである。
なお、使用商標4とは、構成文字を同じくするものであるから、外観上類似の商標である。
(イ)称呼
本件商標から生ずる称呼は「デザインシンキング」であるところ、使用商標1から生ずる「イッパンシャダンホージンデザインシコーケンキュージョ」及び「デザインシコーケンキュージョ」とは、構成音数、構成音が全く相違し、また、使用商標2から生ずる「デザインシンキングインスティチュート」の称呼とは、「インスティチュート」の音の有無という相違があり、それぞれ明確に区別されるものである。
なお、使用商標3及び4の称呼とは共通する。
(ウ)観念
本件商標より「デザインに関する考え」の観念が生ずるのに対し、使用商標1及び2から「デザインに関する考え方の研究所」の観念が生ずるものであるから、使用商標1及び2とは観念が異なり紛れるおそれはない。
なお、使用商標3及び4からは、それぞれ「デザインに関する考え」の観念が生じ本件商標と観念を共通にする。
(エ)小括
以上からすれば、本件商標と使用商標1及び2との比較においては、外観、称呼及び観念のいずれにおいても紛れるおそれのないものであるから、互いに非類似の商標である。
なお、本件商標と使用商標3は、外観において異なるものの、称呼及び観念を同じくするものであることから、これらを総合的に判断すれば、互いに類似の商標と認める。
また、使用商標4とは、外観において類似し、称呼及び観念を同じくするものであることから、互いに類似の商標と認める。
(3)上記(1)及び(2)のとおり、本件商標は、使用商標3及び4と類似の商標であるとしても、使用商標1及び2とは非類似の商標であり、使用商標が本件商標の登録出願時及び登録査定時において取引者、需要者の間に広く認識されていたものと認めることができないものであるから、本件商標は、その指定役務が使用商標の使用に係る役務と同一又は類似するものであるとしても、商標法第4条第1項第10号に該当するものとはいえない。
さらに、本件商標は、本件審判の請求に係る指定役務について使用されたとしても、これに接する取引者、需要者が、使用商標を想起又は連想することはないというべきであるから、該役務が請求人、「IDEO」及び「d.school」又はこれらの者と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように、役務の出所について混同を生ずるおそれのある商標ということはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。
上記2のとおり、使用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人、「IDEO」及び「d.school」の業務に係る役務を表示するものとして、日本国内及び外国における需要者の間に広く認識されていると認めることはできないものである。そして、請求人の提出に係る証拠を総合してみても、本件商標権者が、不正の目的をもって本件商標を登録出願し、商標登録を受けたと認めるに足る具体的な事実を見いだすことはできない。
そうとすれば、本件商標は、外国権利者の国内参入を阻止し、又は国内代理店契約を強制する目的、又は引用商標の顧客吸引力を希釈化若しくは便乗し不当な利益を得る等の目的、その他不正の目的をもって使用するものとは認めることはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当するものとはいえない。
請求人は、平成28年5月16日付けの回答書において、商標法第3条第1項第3号又は同項第6号を無効原因とする主張を取り下げる旨述べているが、請求人は、本件審判請求書において、本件商標が商標法第3条第1項第3号又は同項第6号に該当する旨主張し、これに対し被請求人も答弁書において答弁しているので、この点について、請求人の主張及び提出の証拠に基づいて検討する。
本件商標は、「Design Thinking」の欧文字を横書きしてなるところ、「Design」が「デザイン」を、「Thinking」が「考え」を意味する英語として一般に親しまれた英語であるものの、「Design Thinking」の一連の語として、辞書等に掲載された既成語ではなく、構成各語より「デザインに関する考え」程の意味合いを看取させる一種の造語と認められる。
そして、本件商標が商標法第3条第1項第3号又は同項第6号に該当するとして請求人の提出した、甲第11号証ないし甲第18号証をみても、「Design Thinking」の文字が、問題解決の考え方を表すために使用されている事実は認められるものの、一部の雑誌又は新聞のコラム等において、数回取り上げられたことをもって、「デザインに関する考え」程の意味合いから、本件指定役務の具体的な内容、質を表すものとして一般に認識されているとは認められないし、「Design Thinking」の文字をタイトルに含む書籍(甲18)があるとしても、どのような意味合いで役務の質を表しているのか、また、本件指定役務において識別機能のない表示として使用されているのか等も明らかで無いことから、請求人の提出に係る証拠のみをもって、本件商標が商標法第3条第1項第3号及び同項第6号に該当するということはできない。
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第8号、同項第10号、同項第15号及び同項第19号並びに同法第3条第1項第3号及び同項第6号のいずれにも違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効にすべきでない。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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