Trademark Appeal Case
立体商標の識別力
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
基本情報
| 審判番号 | 不服2015−23011(T2015−23011/J1) |
|---|---|
| 審判種別 | 不服 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理由テキスト
第1 本願商標
本願商標は、別掲1のとおりの構成からなり、第10類「はり治療用はり」を指定商品として、平成26年11月17日に立体商標として登録出願され、その後、指定商品については、当審における平成28年5月11日付け手続補正書により、第10類「円皮鍼」と補正されたものである。
第2 原査定の拒絶の理由の要点
原査定は、「本願商標の立体的形状は、円皮鍼の機能又は美感に資することを目的として採用されたものと認められ、また、円皮鍼の形状として、需要者において、機能又は美感に資することを目的とする形状と予測し得る範囲内のものといわざるを得ないことから、本願商標は、商品の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標であって、商標法第3条第1項第3号に該当する。また、出願人は、本願商標は出願人による継続的な使用の結果、本願指定商品との関係においては、出願人の商品を識別する標識として需要者の間に広く認識されている旨主張しているが、提出された証拠を総合的に考慮しても、本願商標が、その使用の結果、需要者に何人かの業務に係る商品であることを認識させるに至ったものとは認められず、本願商標は商標法第3条第2項の要件を具備するものとはいえない。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。
第3 当審においてした証拠調べ
当審において、本願商標が商標法第3条第1項第3号に該当するか否かについて、職権に基づく証拠調べをした結果、別掲2に示す事実を発見したので、同法第56条第1項で準用する特許法第150条第5項の規定に基づき、請求人に対して、平成28年8月29日付け証拠調べ通知書(以下「本件通知書」という。)によってこれを開示し、期間を指定して、これに対する意見を述べる機会を与えた。
第4 証拠調べ通知に対する請求人の意見(要旨)
1 本願商標は、他の同種の商品にはない、テープ部上部(皮膚に接しない側)に設けられた突起物である「ボタン部」という外観上の特徴を有しているため、需要者は、本願商標を使用した商品と他社製品とを容易に区別しうる。すなわち、この「ボタン部」を構成に有することにより、本願商標は、識別標識として十分機能している。
2 「円皮鍼」としての機能を発揮するためには、「ボタン部」を有する本願商標の構成である必要がないことは、本件通知書に掲載された他社製品から明らかである。したがって、本願商標が円皮鍼の機能又は美観に資することを目的としているとした原査定の認定は誤りである。
3 以上のとおり、本件通知書に挙げられた他社製品は、本願商標の識別力を否定する根拠となるものではなく、本願商標は、商標法第3条第1項第3号には該当しないものである。
第5 当審の判断
1 商標法第3条第1項第3号について
(1)立体商標における商品の形状について
商標法は、商標登録を受けようとする商標が、立体的形状(文字、図形、記号若しくは色彩又はこれらの結合との結合を含む。)からなる場合についても、所定の要件を満たす限り、登録を受けることができる旨規定する(商標法第2条第1項、同法第5条第2項参照)。
しかしながら、以下の理由により、立体商標における商品等の形状は、通常、自他商品の識別機能を果たし得ず、商標法第3条第1項第3号に該当するものと解される。
ア 商品の形状は、多くの場合、商品に期待される機能をより効果的に発揮させたり、商品の美感をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって、商品の出所を表示し、自他商品を識別する標識として用いられるものは少ないといえる。このように、商品の製造者、供給者の観点からすれば、商品の形状は、多くの場合、それ自体において出所表示機能ないし自他商品識別機能を有するもの、すなわち、商標としての機能を有するものとして採用するものではないといえる。また、商品の形状を見る需要者の観点からしても、商品の形状は、文字、図形、記号等により平面的に表示される標章とは異なり、商品の機能や美感を際立たせるために選択されたものと認識し、出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いといえる。
そうすると、商品の形状は、多くの場合に、商品の機能又は美感に資することを目的として採用されるものであり、客観的に見て、そのような目的のために採用されたと認められる形状は、特段の事情のない限り、商品の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、商標法第3条第1項第3号に該当すると解するのが相当である。
イ また、商品の具体的形状は、商品の機能又は美感に資することを目的として採用されるが、一方で、当該商品の用途、性質等に基づく制約の下で、通常は、ある程度の選択の幅があるといえる。しかし、同種の商品について、機能又は美感上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであれば、当該形状が特徴を有していたとしても、商品の機能又は美感に資することを目的とする形状として、商標法第3条第1項第3号に該当するものというべきである。その理由は、商品の機能又は美感に資することを目的とする形状は、同種の商品に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから、先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは、公益上の観点から必ずしも適切でないことにある。
ウ さらに、商品に、需要者において予測し得ないような斬新な形状が用いられた場合であっても、当該形状が専ら商品の機能向上の観点から選択されたものであるときには、商標法第4条第1項第18号の趣旨を勘案すれば、商標法第3条第1項第3号に該当するというべきである。その理由として、商品が同種の商品に見られない独特の形状を有する場合に、商品の機能の観点からは発明ないし考案として、商品の美感の観点からは意匠として、それぞれ特許法・実用新案法ないし意匠法の定める要件を備えれば、その限りにおいて独占権が付与されることがあり得るが、これらの法の保護の対象になり得る形状について、商標権によって保護を与えることは、商標権は存続期間の更新を繰り返すことにより半永久的に保有することができる点を踏まえると、特許法、意匠法等による権利の存続期間を超えて半永久的に特定の者に独占権を認める結果を生じさせることになり、自由競争の不当な制限に当たり公益に反することが挙げられる。
以上、知財高裁平成18年(行ケ)第10555号同19年6月27日判決、平成19年(行ケ)第10215号同20年5月29日判決及び平成22年(行ケ)第10253号同23年6月29日判決参照のこと。
(2)本願商標の商標法第3条第1項第3号該当性について
本願商標は、別掲1のとおり、不織布製と思しき肌色の薄い円盤状の基盤(以下「テープ部」という。)の中央に、当該基盤の約3分の1弱の直径からなる、樹脂製と思しき半透明で白いボタン状の円筒形の突起部分(以下「ボタン部」という。)を配し、当該ボタン部とは反対側の「テープ部」の中央に、金属製と思しき鍼状の突起部分(以下「鍼部」という。)を配した立体的形状からなるものである。
そして、本願商標の指定商品である「円皮鍼」は、鍼を施術するための商品であって、当該商品は、シート状の基盤に固定した短い鍼を、人体に刺して治療するためのものであるところ、別掲2のとおり、「円皮鍼」に一般に用いられる形状は、治療用の短い鍼がシート状の基盤中央部に固定されているものであって、その基盤部分の形状及び色彩も、円盤状で肌色のものがほとんどであり、また、当該鍼を基盤に固定する際に、ボタン上の突起物を配している形状の商品が広く販売されている事実がある。
以上を踏まえて、本願商標の形状についてみると、本願商標に係る立体的形状のテープ部及び鍼部は、商品「円皮鍼」が一般に有する形状と同様に、人体に貼り付けるためのシート状の基盤部中央に短い鍼を配したものであり、また、テープ部の中央に配されたボタン部は、鍼を基盤中央部に固定するために設けられたものであると容易に理解できるものである。
そうすると、本願商標は、その指定商品との関係において、商品の機能上、一般に要求される形状からなるといえるものであって、商品の機能に資することを目的として採択されたものとみるのが相当であり、また、たとえ、実際に本願商標に係る形状と同一の形状の商品が他者により製造、販売されている事実がないとしても、本願商標と機能面や形状の特徴を共通にする商品が取引されている前記の実情をも踏まえれば、取引者、需要者において、機能上の理由による形状の選択として予測し得る範囲のものである。
したがって、本願商標は、商品の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標であることから、商標法第3条第1項第3号に該当する。
2 商標法第3条第2項について
請求人は、本願商標が使用による識別力、いわゆる商標法第3条第2項の要件を具備していることを主張し、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第21号証(枝番号を含む。)を提出している。
(1)使用による自他商品識別力の獲得について
商標登録出願された商標が、商標法第3条第2項の要件を具備し、登録が認められるか否かは、使用に係る商標及び商品、使用開始時期及び使用期間、使用地域、当該商品の販売数量等並びに広告宣伝の方法及び回数等を総合考慮して、出願商標が使用された結果、判断時である審決時において、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものと認められるか否かによって決すべきものであり、商標法第3条第2項の要件を具備するためには、使用商標は、出願に係る商標と同一であることを要するものというべきである(知財高裁平成21年(行ケ)第10388号同22年6月29日判決参照)。
そこで、以上の観点を踏まえて、本願商標が商標法第3条第2項の要件を具備するか否かについて、出願人の提出した証拠及び主張を検討する。
(2)本願商標の商標法第3条第2項該当性について
請求人提出に係る証拠及び主張によれば、以下の事実が認められる。
ア 本願商標の使用実績
(ア)使用開始時期及び販売数量
請求人は、請求人の製造に係る商品(円皮鍼)について、本願商標に係る立体的形状の商品(以下「本願商品」という。)を「パイオネックス」又は「PYONEX」と称して、2002年(平成14年)に開発、2004年(平成16年)頃から上市していることが認められ(甲6の3)、「円皮針関係期別販売実績表」と題する証拠資料(甲10)によれば、本願商品の販売実績は、2002年(平成14年)から2014年(平成26年)までの累計が234,183,000本と記載されており、その注文書の一部(甲16の1、甲16の2)が提出されているが、その市場占有率等を証明する客観的な証拠の提出はされていない。
(イ)宣伝広告
請求人は、宣伝広告として、請求人作成に係る商品カタログ及び商品説明用パンフレット等(甲2、甲6の1〜甲6の7、甲6の9)、医療機械器具販売業者作成に係る商品カタログ(甲1の1、甲1の2、甲8の4、甲9の3)及び雑誌等の広告記事(甲8の5〜甲8の7、甲9の1〜甲9の5)に本願商品が掲載されていることが認められるが、いずれも他に識別力を有する「パイオネックス」や請求人の名称とともに掲載されている。
甲第7号証の「◆広告宣伝関連資料」によれば、広告として本願商品が掲載された雑誌又はカタログ関連の発行部数と、本願商品の2003年(平成15年)から20014年(平成26年)までの広告宣伝費の年次推移が金額と共に、棒グラフに表した表が掲載されており、その記載によれば、当該期間に係る広告宣伝費の累計は16,176,428円(2005年及び2006年は金額不明のため累計外となっている。)と記載されているが、広告における本願商品の掲載の態様が不明であるほか、広告費においても、一番多い2003年(平成15年)でも375万円ほどで、さして高額ともいえないばかりでなく、本願商品の上市前であることから、一般需要者を対象としたものであるのか定かではない。
甲第18号証の「医療機械器具の卸売り業者への広告内容の概要及び広告費の一覧表」によれば、2003年(平成15年)6月から20015年(平成27年)10月までにおいて、137件の広告及びその広告宣伝費が記載されているが、その広告における本願商品の掲載方法等は不明である。
(ウ)証明書及びアンケート調査
請求人は、医療機械器具販売業者による証明書(甲15の1〜甲15の6)を提出し、円皮鍼の販売に関し、当該企業における本願商品が占める販売数量の割合の平均は、2008年は約76%、2010年は約85%、2014年は約85%である旨主張しているが、当該証明書は、請求人の取引業者の一部にすぎず、これをもって、円皮鍼全体の市場における占有率も同様とまでは認めることはできない。
また、請求人は、民間企業を通じて、はり師若しくは以前はり師であった者を対象として、円皮鍼に関するアンケート調査を実施し(甲17の1ないし甲17の13)、異なる企業の製造に係る円皮鍼の正面図等5つの角度からとった写真を見せて、どの企業の商品であるか回答を求め、その結果、請求人の円皮鍼に対するアンケートについて、請求人の商品であると回答した者は約77%であったと主張するものの(甲17の1)、前記アンケートに使用した円皮鍼の写真(正面図等5つの角度からとったもの)は提出されておらず、アンケート対象者の選定方法も不明である。
また、「円皮鍼のメーカーといえば、どこのメーカーが思い浮かびますか」及び「あなたが現在最も頻繁にお使いになっている円皮鍼のメーカーをひとつだけお答えください。(回答は1つ)」との回答を求め、その結果、請求人の名称を挙げた割合は、前者が93%(甲17の5)、後者が約64%(甲17の6)であったと主張するが、メーカーの著名度が直ちに本願商品の著名度といえないばかりでなく、上記円皮鍼に関するアンケート調査と同様に、そのアンケート対象者の選定方法も不明である。
(エ)専門誌への掲載及び学会への出展
「第10回日本代替・相補・伝統医療連合会議(JACT) 第6回日本統合医療学会(JIM)合同大会 2006 in 名古屋 プログラム・抄録集」と題する証拠資料(甲5の1)には、請求人の商品である「PYONEXONE」に関する記事が掲載されているが、本願商標に係る立体的形状の掲載はされていない。また、「学会等参加状況一覧」と題する証拠資料(甲19)には、平成12年から平成27年の間に出展した学会の名称及び「PYサンプル配布数」等について記載されているが、本願商品と考えられる「PYサンプル配布数」が記載された学会は6大会のみであり、その他の大会において、本願商標に係る立体的形状について紹介されていたかは不明である。
(オ)その他
インターネットのウェブサイト上の鍼灸師及び鍼灸院等のブログにおいて、本願商品が「PYONEX」又は「パイオネックス」の名称とともに紹介されている事実が認められる(甲11の1〜甲11の4、甲12の1〜甲12の7、甲21の1〜甲21の18)。
イ 判断
前記アの事実によれば、請求人は、本願商標に係る立体的形状の円皮鍼を平成16年頃から市販していることが認められるものの、その市場占有率等に関する客観的証拠は提出されていない。
また、広告宣伝として、本願商品である「PYONEX(パイオネックス)」の名称が、鍼灸関連の専門誌の広告欄や医療機械器具販売業者作成に係る商品カタログ等に掲載されているものの、その記事等に本願商標の立体的形状(その形状の一部の場合を含む。)の掲載が確認できるものはおよそ20件程度とそれほど多いものとはいえず、かつ、他に識別力を有する「パイオネックス」や請求人の名称とともに掲載されている。その他の専門誌の記事及び前記の一覧表等の記載については、本願商標の立体的形状が掲載されていない、あるいは、使用されたかが不明なものであるから、請求人の提出に係る証拠からは、本願商標の立体的形状のみをもって、請求人の業務に係る商品であることが、日本国内で広く知られているとまでは認めることはできない。
また、請求人が民間調査会社に依頼したアンケート調査からは、請求人が、はり師の間で、円皮鍼の製造企業としてある程度広く知られているものといえるが、当該調査に使用したとされる各企業で製造された「円皮鍼」の写真(正面図等5つの角度からとったもの)の提出はなく、アンケート対象者の選定方法も明かではない。さらに、甲第12号証の1、甲第12号証の5、甲第21号証の5及び甲第21号証の11に記載のブログ記事にもあるとおり、円皮鍼は、はり師以外にも、自宅用として一般の需要者が、薬局、鍼灸院又は通信販売等で購入が可能なものであって、当該商品の需要者は、はり師に限られるものではないことから、当該アンケート調査から、本願商標が、請求人の事業に係る商品を表すものとして需要者の間で広く知られているとする事実を証するものとはいえない。
したがって、本願商標は、商標法第3条第2項の要件を具備するものではない。
3 請求人の主張について
請求人は、本願商標は、他の同種の商品にはない、テープ部上部(皮膚に接しない側)に設けられた突起物である「ボタン部」という外観上の特徴を有しているため、この「ボタン部」を構成に有することにより、本願商標は、識別標識として十分機能している旨、及び、「円皮鍼」としての機能を発揮するためには、「ボタン部」を有する本願商標の構成である必要がないことは、本件通知書に掲載された他社製品から明らかであり、本願商標の形状が円皮鍼の機能又は美観に資することを目的として採択されたものではない旨主張する。
しかしながら、治療用の鍼をシート状の基盤部に固定する方法として、ボタン状の突起物を設けて行っている他社の商品があることは、上記1(2)で述べたとおりであり、本願商標は、複数ある固定方法の中からボタン状の突起物を設けて固定することを採択したにすぎないといえ、テープ上部(皮膚に接しない側)に突起物を設けて固定することも、その方法としては、機能上の理由による形状の選択として予測し得る範囲のものであるといえる。
したがって、本願商標がテープ部上部にボタン部を有するからといって、識別標識として十分機能しているとはいえず、この請求人の主張は採用できない。
4 まとめ
以上のとおり、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当するものであって、かつ、同法第3条第2項の要件を具備するものではないから、登録することができない。
よって、結論のとおり審決する。
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