結論テキスト
審判費用は、請求人の負担とする。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 無効2014−890099(T2014−890099/J3) |
|---|---|
| 審判種別 | 無効 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
本件登録第5665365号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、平成25年8月15日に登録出願され、第16類「紙製包装用容器,紙製のぼり,紙製旗,紙類,印刷物,書画,写真,写真立て」、第41類「宗教教育,技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,図書の貸与,書籍の制作,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),娯楽施設の提供」及び第45類「婚礼(結婚披露を含む。)のための施設の提供,葬儀の執行,墓地又は納骨堂の提供,占い,身の上相談,祭壇の貸与,冠婚葬祭に関する相談,結婚に関する指導・助言,宗教集会の運営,葬儀に関する衣服の貸与」を指定商品及び指定役務として平成26年4月3日に登録査定、同月18日に設定登録されたものである。
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁の理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第28号証(枝番を含む。)を提出している。
本件商標は、商標法第3条第1項柱書、同法第4条第1項第6号、同項第7号、同項第8号、同項第10号、同項第15号及び同項第19号に該当し、同法第46条第1項第1号により、その登録を無効にすべきものである。
(1)「生長の家」の沿革
「生長の家」は、昭和5年3月1日に故谷口雅春(以下「A」という。)が修身書として個人雑誌「生長の家」1000部を自費出版して創始された哲学的精神的運動が出発点であり、その思想により支持者を増やし、各地で支部が設立されるなどして組織ができ、昭和11年1月に非法人である団体「教化團體生長の家」が設立されている(甲2)。
昭和20年12月28日、宗教団体法が廃止されて宗教法人令(昭和20年勅令第719号)が公布施行された。これにより、上記立教以来の宗教結社「教化團體生長の家」及び日本各地の宗教結社(宗教結社「生長の家○○教化部」等)は、当時の宗教法人令第3条に基づき、改めて単位宗教法人として設立された。上記宗教結社「教化團體生長の家」は、「宗教法人生長の家」(現在の宗教法人「生長の家本部練成道場」)として設立され、その他にも宗教法人「生長の家北海道綜轄教化部」(現在の宗教法人「生長の家札幌教化部」)、宗教法人「生長の家埼玉県教化部」、宗教法人「生長の家静岡県教化部」等、宗教法人令施行期間中に「生長の家」の名称を称した少なくとも29の単位宗教法人が設立された(甲3)。
(2)被請求人
昭和24年7月1日、当時の宗教法人令第2条に基づき、単位宗教団体の合同行為により宗教法人「生長の家教團」が設立され(甲2)、その後の宗教法人令の廃止及び宗教法人法(昭和26年法律第126号)の施行に伴い、同法に基づき、文部大臣の承継認証を受けて、昭和27年5月30日、宗教法人「生長の家教団」が設立された。
これが被請求人であり、その後の昭和32年8月5日に、現在の宗教法人「生長の家」に名称を変更した。
なお、被請求人は、同人と被包括関係を設定する単位宗教団体によって構成されている包括宗教団体である。
被請求人は、昭和60年6月17日にAが昇天し娘婿の谷口清超氏(以下「B」という。)が第2代総裁に就任し、平成2年にBの次男の谷口雅宣氏(以下「C」という。)が副総裁に就任すると、これまでの愛国的教義から距離を置くような転換を積極的に進め、2代総裁のBが死去した翌年の平成21年にCが第3代総裁に就任すると、地球環境問題を第一とする言動が目立ち、同教団の教義にもその意向が強く表れてきた。また、被請求人の教義がAの教えから逸脱してきたことにより、Cの宗教的資質に疑問を感じ、Aの真の教えに回帰すべく被請求人に包括される単位宗教団体から離脱する者が後を絶たない。脱退会員の多くは個人的に信仰活動を継続しているが、中には団体を作って信仰活動を継続している者もいる。請求人「谷口雅春先生を学ぶ会」もその一つであり、他に2代目総裁Bの二女夫妻を中核とする「ときみつる會」(代表者は宮澤潔、旧名称は「生長の家オーストラリア法人」、日本における主たる事務所を高知市におく。)や各地に「生命の實相」学習会、真理勉強会等(名称は様々である。)がある。このうちの請求人に所属する真理勉強会は「谷口雅春先生を学ぶ」誌(甲5の2)の62頁に記載がある。
なお、Aは立教以来多数の論文を「生長の家」誌で発表し、それらの論文は「生命の實相」等としてまとめられ、「生命の實相」の著作権は財団法人生長の家社会事業団(現・公益財団法人生長の家社会事業団)に寄付された。
Aの一人娘の谷口惠美子(以下「D」という。)は、信者であったBと婚姻し、Bは婚姻と同時にA夫妻の養子となって谷口姓を名のった。このBが2代総裁である。BとDは三男二女をもうけ、うち次男が3代総裁のCであり、次女寿美の夫が宮澤潔であり、現在夫妻で上記「ときみつる會」を運営し、Dを世話している。
(3)請求人の手続能力
請求人は、上記のとおり、被請求人に包括される全国各地の単位宗教団体の信者が脱退して、平成14年9月27日に設立した法人でない財団又は社団の「谷口雅春先生を学ぶ会」である。
法人でない財団と認められる要件について、最高裁判例(昭和44年11月4日昭和44年(オ)第198号:甲6の1)は、「個人財産から分離独立した基本財産を有し、かつ、その運営のための組織を有しているもの」とし、法人でない社団と認められる要件について、最高裁判例(昭和39年10月15日昭和35年(オ)第1029号:甲6の2)は、「団体としての組織をそなえ、そこには多数決の原則が行なわれ、構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、しかしてその組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているもの」としている。
請求人は、設立と同時に「谷口雅春先生を学ぶ会規約」(甲7の1)を制定施行し、同規約には、目的(第2条)、事務所所在地(第3条)、役員及びその選任方法(第4条、第5条)、会計に関する定め(第8条、第9条)がおかれ、適宜世話人会を開催して、各会計年度の決算の承認その他の財産の管理、代表者及びその他の役員の選任、その他の管理運営事項を決議している(甲7の2ないし4)。世話人会では当然のことながら多数決原則がとられている。また、設立当初から月刊誌「谷口雅春先生を学ぶ」を発行しており(甲5の1)、その年間購読者を請求人の構成員と定めている(規約第7条)。さらに、所得税法第230条及び同法施行規則第99条の規定に基づき、「給与支払事務所等の開設の届出」を所轄税務署長に対して提出し、請求人職員の給与等の源泉徴収納付を行っている団体であり(甲7の5)、現在は日本全国に多数の信者を有し、104の拠点(日本国内のほか、ブラジル、アメリカ合衆国及びペルー国の拠点を含む。)で活動している(甲5の2の62頁及び63頁)。
以上のとおり、請求人は、財団であるか社団であるかは決め難いものがあるが、いずれにしろ最高裁判所判例がいう法人でない財団又は社団の要件を満たしており、代表者の定めもあるから、特許法第6条を準用する商標法第77条第2項の規定により無効審判請求につき手続能力を有する。
(4)生長の家の教義の宣布及び儀式の執行の方法
「生長の家教規」(甲2)には、この宗教を設立する目的は、1)A創始の生長の家の教義に基き、その主著「生命の實相」を鍵として、万教共通の宗教真理を開示し、これを宣布することによって、人類光明化につくすこと、2)教化道場及び礼拝施設を備え、この宗教の教義に基いて儀式行事を行い、信者を教化育成すること、等にあるとされている(第2条)。
そして、本尊について、正しき宗教の救いの本尊たるものはいかなる名称の神仏もこの宗教の本尊として礼拝するとし(万教帰一)、社殿、仏殿等を設けず、あらゆる宗教の本尊の奥にある「實相」(唯一の真理)を礼拝の対象とし、そのために礼拝に際しては「實相」の書を掲げるとされている(第6条)
さらに、この宗教の儀式は、礼拝、祈り、神想観及び聖経読誦をする方法によるとされ(第8条)、この「礼拝」は、本尊である「實相」の書(審決注:本件商標と同一の構成からなる。以下「實相の書」という。)に対し奉り、二拝、二拍手、一揖の作法をもって行う儀式である。
礼拝に際して「實相の書」を掲げるのは、Aの教えに従ったものである(甲8の1ないし4)。
(5)本件商標の構成
本件商標の構成は、礼拝の対象である「實相の書」そのものである。すなわち、被請求人は、神聖かつ尊厳な生長の家の宗教の本尊であり礼拝の対象であるものを商標として出願し、登録を得たものである。
(6)請求人の教義の宣布及び儀式の執行の状況
請求人は、前記のとおり、平成14年9月27日、被請求人に所属していた単位宗教法人の信者が脱退して設立した法人でない財団又は社団であり、平成25年全国大会に際して頒布したパンフレット「谷口雅春先生を学ぶ会10年の歩み」(甲9の1)の「谷口雅春先生を学ぶ会」略年表に記載のとおり、本件商標の出願日(平成25年8月15日)ないし登録日(平成26年4月18日)までに、「實相の書」を掲げて様々な宗教的行事を行った。
以上の行事は、必ず「實相の書」を掲げこれに礼拝する方法をとり、多くにおいて別掲2のとおりの構成からなる標章(以下「光輪卍十字架図」という。)を掲げている(甲9の2)。
このように、請求人は、平成14年9月27日に設立後、毎月「谷口雅春先生を学ぶ」誌を発行し(甲5)、全国各地で講演会を開催し、各種の勉強会を開催し、各種の出版物を発刊し、平成16年6月からは伊勢見真会を行って伊勢神宮のご神前にて宗教的行事を実修し、その他東京靖国一日見真会、Aの月命日墓前祭、聖使命菩薩感謝祝福祈願祭、先祖供養祭等の多数の宗教儀式を行い、それらの講演会や宗教儀式には「實相の書」及び「光輪卍十字架図」を掲げてきた。現在においても、毎日各種行事を行っている(甲5の2の60頁)。
(7)請求人以外の団体及び信者による教義の宣布、儀式の執行の状況
ア 被請求人に包括される単位宗教法人
現在、被請求人に包括される単位宗教法人は日本国内に約70法人ある(甲10)。これらの宗教法人は、いずれも生長の家の教義を広め、信者を育成教化することを目的として、礼拝施設を備え、「實相の書」を掲示して宗教儀式を行っている。Webで検索すると、宗教法人「生長の家宇治別格本山」、宗教法人「生長の家本部練成道場」、宗教法人「生長の家愛知県教化部」などが上位にヒットするが、いずれにおいても「實相の書」及び「光輪卍十字架図」を掲げて宗教儀式を行っている(甲11)。
イ ときみつる會
前記ときみつる會は、その前身である生長の家オーストラリア法人が平成14年7月に被請求人との被包括関係を解消し、それ以降現在まで「實相の書」を掲げて宗教活動を行っている(甲12)。
ウ 公益財団法人生長の家社会事業団
公益財団法人生長の家社会事業団は、Aが「生命の實相」等の著作権を寄附して昭和21年1月8日設立された「財団法人生長の家社会事業団」を平成24年4月1日に公益財団法人に組織変更したものであり、要保護児童の収容、生活指導、宗教的情操教育による健全な育成等を目的としており、設立以来約70年にわたって、その設置運営する児童養護施設である生長の家神の国寮内に「實相の書」を掲げて、入所児童の宗教的情操教育及び児童の先祖供養等の宗教集会のために使用してきた長い歴史がある(甲13の1) エ 信者
被請求人に包括される単位宗教法人の信者及び同宗教法人を脱退した信者たちは、自宅等で「早朝神想会の集い」や「先祖供養祭」等を行い、「実相の書」を掲げて礼拝している(甲5の3)。
(8)生長の家の宗教の現在
生長の家の宗教は、現在、日本国内において、包括宗教法人である被請求人、被請求人に包括される約70の単位宗教法人、それを脱退した信者が設立した請求人、ときみつる會、全国各地の「生命の實相」学習会や真理勉強会等様々な名称の宗教団体、さらに個人の信者から成り立っており、いずれも「実相の書」を掲げ、多くにおいて「光輪卍十字架図」も掲げて宗教活動を行っている。
(9)裁判闘争
前記のとおり、Aから「生命の實相」や「聖経 甘露の法雨」等の著作権を寄付された公益財団法人生長の家社会事業団は、これまでは株式会社日本教文社(以下「日本教文社」という。)に対してそれらの著作権の使用を許諾してきたが、これを解消して新たに株式会社光明思想社(以下「光明思想社」という。)に出版権を設定し、同社が「古事記と日本の世界的使命ー甦る『生命の實相』神道篇」を出版した。すると、被請求人は、「生命の實相」の著作権は被請求人に帰属するとか、生長の家社会事業団は被請求人の管理権に服すべきなのに被請求人の意思に反して日本教文社との間の著作権使用許諾契約を解消したのは無効であるなどと主張して、生長の家社会事業団と光明思想社を被告として、光明思想社の上記出版の差止請求等の訴訟を提起した(東京地裁平成21年(ワ)第17073号)。同裁判は、日本教文社と生長の家社会事業団らとの間の他2事件と併合審理され、地裁及び知財高裁の判決を経て、平成25年5月27日最高裁決定で被請求人の全面敗訴が確定した(最高裁平成24年(オ)第830号、同(受)第10006号事件)。
(10)請求人と被請求人の間の係争
ア 被請求人は、平成26年5月14日付書面により、請求人に対して、Aの「實相の書」(本件表示1:本件商標)及び山根八春氏が著作したシンボルマークである「光輪卍十字架図」(本件表示2:商標登録第5704789号(別掲2))は被請求人を示すものとして広く知られているところ、請求人が集会においてこれらを掲示して使用する行為は不正競争防止法第2条第1項第1号に該当する不正競争行為であり、本件表示1及び2は商標出願中であり近く登録される予定であるなどとして、使用行為の中止と今後使用しないことの書面による誓約を要求した(甲14の1)。
イ これに対して、請求人は、同年5月27日付け「要求拒絶及び厳重抗議書」により、被請求人に対して、本件表示1は宗教上の礼拝の対象であるから、宗教活動においてその使用を禁止することは憲法第20条で保障された信教の自由の侵害であること、本来的宗教活動は不正競争防止法の適用対象外であることは最高裁判例であること、請求人は被請求人と誤認混同させるような伝道活動等を全く行っていないことを理由に、被請求人の要求を拒否して被請求人に対して厳重抗議した(甲14の2)。
ウ すると、被請求人は、同年9月9日付け書面により、本件表示1が商標登録されたから商標権に基づいてその使用を差止める、請求人の指摘した最高裁判例は本件とは事案を異にしており、請求人による集会の開催は被請求人のそれと誤認混同するおそれが十分にある、本件表示2については商標権を侵害することを請求人が自認したなどと主張した(甲14の3)。
エ これに対して、請求人は、同年10月22日付け「再返答書」により、被請求人に対して、本件表示2については言及しなかっただけで自認したものではないことを説明し、重ねて、本件商標登録は明白に違憲かつ無効であり、被請求人の要求は信教の自由を侵害する言語道断なものである旨を回答した(甲14の4)。
(11)宗教活動は「営業」ではない(最高裁判決:甲6の3)
最高裁判所平成18年1月20日判決(民集60巻1号137頁)は、不正競争防止法第2条第1項第1号、第2号の「他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの)」の「営業」とは、取引社会における競争関係を前提とするものとして解釈されるべきであり、したがって、宗教法人の本来的な宗教活動及びこれと密接不可分の関係にある事業を含まないとしている。
すなわち、「商号や商標等の商品又は営業を表示するもの」の「営業」には、宗教法人の本来的な宗教活動及びこれと密接不可分の関係にある事業を含まないとしているのだから、宗教法人の本来的な宗教活動及びこれと密接不可分の関係にある事業を表示するものは不正競争防止法第2条第1項第1号及び第2号の「商標」にはあたらない。
商標法は不正競争防止法の特別法であり、その目的は「産業の発達に寄与する」点にあり(商標法第1条)、不正競争防止法と相携えて、営業の自由の保障の下で自由競争が行われる取引社会を前提に経済活動を行う事業者間の競争秩序の維持を目的とする法律であるから、最高裁が説示する「宗教儀礼の執行や教義の普及伝道活動等の本来的な宗教活動に関しては、営業の自由の保障の下で自由競争が行われる取引社会を前提とするものではなく、不正競争防止法の対象とする競争秩序の維持を観念することはできないものであるから、取引社会における事業活動と評価することはできず、同法の適用の対象外であると解するのが相当である。また、それ自体を取り上げれば収益事業と認められるものであっても、教義の普及伝道のために行われる出版、講演等本来的な宗教活動と密接不可分の関係にあると認められる事業についても、本来的な宗教活動と切り離してこれと別異に取り扱うことは適切でないから、同法の適用の対象外であると解するのが相当である。」はそのまま商標法にも妥当する。したがって、宗教法人の本来的な宗教活動及びこれと密接不可分の関係にある事業は商標法上の「商品」や「役務」ではなく、それに用いられる標章は「商標」ではない(商標法第2条第1項の「商標」の定義に当たらない。)。
(1)宗教法人法の規定
宗教法人法第1条、第2条、第6条、第10条、第12条及び第26条によれば、宗教法人法によって法人格を与えられる宗教団体は、宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、及び信者を教化育成すること(本来的宗教活動)を主たる目的とする団体であり、当該宗教法人は、本来的宗教活動以外の公益事業を行うことができ、さらにその目的に反しない限り収益事業(公益事業以外の事業)を行うことができるとされる。
そして、宗教法人が公益事業及び収益事業を行うときは、当該宗教法人の規則で定める手続を経て、事業の種類、管理運営及び収益処分の方法を規則変更案に定め、所轄庁に対して認証申請を行い、所轄庁の厳正な審査にパスしたときに初めて認証書の交付が受けられ、さらに法務局での登記及び信者への公告(被請求人規則第51条第2項)をしなくてはならない。従前の規則に記載していない種類の新たな収益事業を行うときも同様である。
そして、宗教法人は、本来的宗教活動及び厳格な手続をもって規則で定め所轄庁の厳正な審査にパスした公益事業及び収益事業の範囲内においてのみ権利能力を有するとされる(宗教法人法第10条)。
民法第34条は、「法人は、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う」と定めており、宗教法人法第10条は民法第34条に基づく規定である。そして、民法第34条の「目的の範囲」の解釈において、営利法人は広く解釈し、宗教法人のような公益法人は営利法人と比較して狭く解釈するのが最高裁判例である。すなわち、会社がする政治献金は目的の範囲内とされる(最高裁判決昭和45年6月24日・八幡製鉄事件)に対して、同じ政治献金でも税理士会が行うものは目的の範囲外とされる(最高裁判決平成8年3月19日:甲6の4)。
被請求人は、公益法人たる宗教法人であり、規則で定める目的欄も会社のように「前○号に附帯する一切の業務」の記載はない(甲15)。以上、被請求人が行いうる業務はその履歴事項全部証明書に記載された目的の範囲に限られる。判例(東京地判平10・4・24判決平成6年(ワ)19702号、判例タイムズ1029号254頁:甲6の5)においても、宗教法人の代表者が商品先物取引を行った事案で、「前記認定の原告の宗教法人としての目的に照らすと本件原告名義取引がおよそ宗教法人である原告の目的の範囲外の行為であること、したがって文彰の行った本件行為が原告の代表役員の権限に属する業務執行行為といえないことはいずれも明らか」と判示している。
(2)被請求人が行っている事業
被請求人は、その履歴事項全部証明書(甲15)によれば、公益事業として専門学校「生長の家養心女子学園」を設置経営すること、公益事業以外の事業(収益事業)として、1)図書、ビデオ・テープその他の物品の販売、2)境内建物内の公衆電話の受託業務、3)機関誌等の出版、4)無体財産権の提供等、5)不動産の貸付を掲げている。
このうち、公益事業である生長の家養心女子学園の設置経営は、同学園のホームページ(甲16)には、「生長の家のみ教えを全生活に実践する真の信仰者としての自覚を深める教育を行う」(1枚目)とあり、卒業式や早朝行事では「實相の書」と「光輪卍十字架図」を掲げて礼拝しているところから、これは生長の家の教義の普及と信者育成の教育であって、前記最高裁判決(甲6の3)がいう本来的宗教活動であり、しかも平成23年3月18日をもって閉校されている。
次に、収益事業のうち「図書、ビデオ・テープその他の物品の販売」及び「機関誌等の出版」は、被請求人は生長の家の教義普及と信者育成のための物品販売及び機関誌等の出版をしており、同「無体財産権の提供等」は、被請求人は生長の家の教義を説いた図書を出版するための著作権を出版社に提供している。これらは前記最高裁判決(甲6の3)がいう本来的宗教活動と密接不可分の関係にある事業である。その他「境内建物内の公衆電話の受託業務」については被請求人は総本山の境内に公衆電話を設置しており、「不動産の貸付」については被請求人は業務を行っていない。
以上が被請求人が過去及び現在において行った公益事業及び収益事業のすべてであり、被請求人はそれ以外の事業を行ったことはない。また、将来行うための規則を作成していないし、規則作成の準備もしていないし、ましてや規則について所轄庁の認証を申請してもいない。
(3)本件商標を構成する文字及び図は「商標」ではなく、また被請求人はそれを「指定商品(役務)」に使用する意思がない。
ア 指定役務「宗教教育」(第41類)及び「宗教集会の運営」(第45類)について
前記最高裁判決(甲6の3)がいうとおり、商標法の「役務」には「宗教法人の本来的な宗教活動」を含まないから、本件商標の指定役務である「宗教教育」(第41類)は一般的な宗教的情操を養うための教育や宗教に関する学問的な教育をいい、「宗教集会の運営」(第45類)も一般的な宗教的情操を養うための集会や宗教に関する学問的なセミナーの運営をいい、特定宗教の教義を広め信者を育成する教育や集会の運営はこれらに当たらない。
そして、被請求人は、過去において生長の家の教義の普及と信者育成の教育を行ったことはあったが(生長の家養心女子学園)、過去及び現在において、一般的な宗教的情操を養うための教育、学問としての宗教の教育並びにこれらのための集会の運営を行ったことはない。また、将来これらを行うためには公益事業として規則を作成して所轄庁に対して認証の申請をしなくてはならないが、そのような準備もしていない。
そもそも、本件商標は、神聖かつ尊厳な生長の家の本尊であり礼拝の対象である「實相の書」そのものであるから、これを一般的な宗教的情操を養うための教育、学問としての宗教の教育並びにこれらのための集会の運営の標識として使用することなど不可能である。
以上、本件商標をその指定役務「宗教教育」(第41類)及び「宗教集会の運営」(第45類)の標識として使用することは被請求人の権利能力の範囲外であり、被請求人はそれらに本件商標を使用していないし、将来も使用する意思はない。
イ その他の指定商品及び指定役務について
上記最高裁判決(甲6の3)がいうとおり、商標法の「商品」及び「役務」には「宗教法人の本来的な宗教活動と密接不可分の関係にある事業」を含まないから、被請求人が行っている収益活動のうち「図書、ビデオ・テープその他の物品の販売」、「機関誌等の出版」及び「無体財産権の提供等」は商標法上の「商品」及び「役務」ではなく、またそれらに使用される標章は「商標」ではない。また、「機関誌等の出版」、「無体財産権の提供等」、「公衆電話の設置」及び「不動産の貸付け」は本件商標の指定役務に含まれない。そして、被請求人は、上記以外の収益事業を行う予定はなく、そのための規則変更について所轄庁に認証の申請もしていない。さらに、本件商標は、神聖かつ尊厳な生長の家の本尊であり礼拝の対象である「實相の書」そのものであるから、これを指定商品(役務)のための標識として使用することなどあり得ない(それらに使用することは宗教法人としての被請求人にとって自殺行為である。)。
以上、本件商標を「宗教教育」(第41類)及び「宗教集会の運営」(第45類)以外の指定商品(役務)の標識として使用することは被請求人の権利能力の範囲外であり、被請求人はそれらに本件商標を使用していないし、将来も使用する意思はない。
すなわち、指定役務中の第45類「婚礼(結婚披露を含む。)のための施設の提供,葬儀の執行,墓地又は納骨堂の提供,占い,身の上相談,祭壇の貸与,冠婚葬祭に関する相談,結婚に関する指導・助言,葬儀に関する衣服の貸与」は宗教法人が行う可能性のある事業であるが、被請求人は、それらの事業を過去及び現在において行ったことはないし、将来行うための規則変更の申請もしていない。もっとも、被請求人は、信者の希望により神前結婚式のための施設(結婚披露宴の会場の提供を含まない。)を提供したことがあるが、そのための規則も制定しておらず、所轄庁の認証も受けておらず、法務局での登記及び信者への公告(被請求人規則第51条第2項)も行っていないから、これは前記最高裁判決(甲6の3)がいう「本来的宗教活動」として行ったものであって「商標」の「使用」に該当しない。仮に、被請求人が、将来、第45類の指定役務に係る上記事業を行うとしても、「實相の書」を掲げて行う限りは宗教的色彩を帯び「本来的宗教活動」となるから「商標」の「使用」に該当しない。
ウ 小括
上記のとおり、本件商標を構成する文字及び図は、被請求人の「業務に係る商品又は役務について」「使用をする」「商標」ではないから、本件商標は商標法第3条第1項柱書に該当する。
(4)以上のとおり、本来的な宗教活動及びこれと密接不可分の関係にある事業は商標法上の「商品」「役務」ではなく、これに使用する標章は「商標」ではないが、以下においては、仮にこれらが「商品」「役務」ないし「商標」であると仮定したときにも本件商標は無効理由を有していることを説明する。
「宗教団体」とは、宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、及び信者を教化育成することを主たる目的とする団体をいう(宗教法人法第2条)から、「公益に関する団体であって営利を目的としないもの」に該当し、宗教活動は「公益に関する事業であって営利を目的としないもの」に該当する。この点は、特許庁の審査基準においても、宗教団体は商標法第4条第1項第6号の主体に該当するとされている(甲17)。
したがって、被請求人のみならず、それに包括される単位宗教法人、請求人、ときみつる會、日本各地の「生命の實相」学習会、真理勉強会等の生長の家の宗教を信奉する諸団体は商標法第4条第1項第6号の対象となる。
次に、前記のとおり、「實相の書」は、生長の家の宗教の礼拝対象であって生長の家の宗教の活動やその上記した諸団体を想起させるものであるから、生長の家の宗教の活動やそれら諸団体を表示する「標章」である。
また、「著名なもの」は指定商品・役務に係る一商圏以上の範囲の取引者、需要者に広く認識されているレベルと解されるが(日南市章事件の知財高裁判決:平24・10・30判時2184・130)、生長の家の宗教は我が国において広く知られているから、生長の家の宗教の礼拝対象である「實相の書」は少なくとも宗教関係者の間において「著名なもの」である。
最後に、本件商標は、かかる「實相の書」そのものである。
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第6号に該当する。
なお、商標法第4条第1項第6号は同号に規定の団体や事業主体が出願人であるときは適用されないところ(商標法第4条第2項)、被請求人は同号に規定の団体及び事業主体である。しかし、同号に規定の団体及び事業主体は、被請求人のみではなく、上記のとおり被請求人に包括される単位宗教法人、請求人、ときみつる會、日本各地の「生命の実相」学習会、真理勉強会等の生長の家の宗教を信奉する諸団体があるのだから、本件商標に商標法第4条第2項は適用されない。この点について以下説明する。
前記のとおり、生長の家の宗教はAにより創始され、「實相の書」はAが揮毫し、「光輪卍十字架図」は山根八春により著作されたものであり、昭和27年5月30日に被請求人が設立される以前から、多数の宗教法人が「生長の家○○○」の名称を名乗り、「實相の書」や「光輪卍十字架図」を掲げて礼拝していた。被請求人は、単に単位宗教団体の合同行為により設立された包括宗教法人であって、生長の家の宗教及びその名称、「實相の書」及び「光輪卍十字架図」を独占する権利はない。
したがって、本件商標を構成する文字及び図が「商標」ないし「標章」であるとしたならば、前記のとおり、被請求人のみならず生長の家の宗教を信奉する上記諸団体を表示する著名な「標章」ないし「商標」であるから、それらの承諾を得ないで被請求人のみに登録された本件商標には商標法第4条第2項は適用されない。
本件商標は、第1に生長の家の宗教の尊厳を棄損しその信者の宗教感情を害すること、第2に信教の自由を侵害すること、第3に請求人らの活動を妨害する目的で登録を得たものであること、第4に法令に違反することから、本件商標を構成する文字及び図が「商標」であると仮定したならば、公序良俗を害するおそれのある商標であって商標法第4条第1項第7号に該当する。以下、説明する。
(1)本件商標は、生長の家の宗教の尊厳を棄損し、その信者の宗教感情を害するものであること
「實相の書」は、前記のとおり、信者たちが宗教的作法をもって礼拝する対象であり、最も尊貴な信仰の対象として奉祭すべきものである。そのような神聖なものが「紙製包装用容器」等の商品や役務の標章(目印)として使用されたときは、生長の家の宗教の尊厳を棄損し、信者たちの宗教感情を台無しにし、社会の一般的道義観念に反するから(このような高貴なものを商品や役務の目印として使用した者は、刑法第188条第1項「神祠、仏堂、墓所その他の礼拝所に対し、公然と不敬な行為をした者」に該当する可能性もある。)、「實相の書」そのものを構成とする本件商標は公序良俗を害するおそれがある商標である。審決においても、「Buddha」「仏陀」の文字を二段書きにしてなる商標を、仏陀の尊厳を損ない信者の信仰上の感情を害するものであるとして商標法第4条第1項第7号に該当すると判断している(甲18)。
(2)本件商標は、信教の自由を侵害するものであること
周知のとおり、憲法第20条は、「信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない」「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない」と定めており、憲法第89条は「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない」と定めている。
この憲法規定を受けて、宗教法人法第1条第2項は、「憲法で保障された信教の自由は、すべての国政において尊重されなければならない。従って、この法律のいかなる規定も、個人、集団又は団体が、その保障された自由に基いて、教義をひろめ、儀式行事を行い、その他宗教上の行為を行うことを制限するものと解釈してはならない」と定め、同法第85条は「この法律のいかなる規定も、文部科学大臣、都道府県知事及び裁判所に対し、宗教団体における信仰、規律、慣習等宗教上の事項についていかなる形においても調停し、若しくは干渉する権限を与え、又は宗教上の役職員の任免その他の進退を勧告し、誘導し、若しくはこれに干渉する権限を与えるものと解釈してはならない」と定めており、また刑法第188条第2項は「説教、礼拝又は葬式を妨害した者」は処罰されることを定めている。
このように信教の自由を保障すること、すなわち教義をひろめ、儀式行事を行い、その他宗教上の行為を行うことを保障すること、また公権力が特定の宗教団体に加担したり抑圧したりしないことは我が国の公序をなし、これらに違反することは我が国の公序を害する。
ところが、前記のとおり、被請求人は、本件商標を根拠として、請求人に対して、生長の家の信徒その他関係者を対象とする集会において「實相の書」を正面に展示し、その横に「光輪卍十字架図」を表示する旗を掲げる行為の中止を要求している(甲14)。しかし、前記のとおり、Aは「この宗教の儀式は社拝、祈り、神想観及び聖経読誦とし」(生長の家教規第8条:甲2)、この「礼拝」は本尊である「實相の書」に対して奉り、二拝、二拍手、一揖の作法をもって行う儀式とされるから、「實相の書」の掲示は生長の家の「神想観」「聖経読誦」等の宗教行事に際して必須の儀式であって、多数の信者たちが自宅等でも「實相の書」を掲げて、「早朝神想観の集い」や「先祖供養祭」等を行っているところである。被請求人の要求は、たとえるならば、礼拝対象の十字架や曼荼羅等を商標登録してキリスト教や仏教の宗教儀式を禁圧するに等しく、明白な信教の自由の侵害であり、これを商標登録して独占権を与えることは公権力による信教の自由の抑圧にほかならない。
(3)本件商標は、請求人らの活動を妨害する目的で登録を得たものであること
前記のとおり、被請求人は、Aの教えからの脱却を図っており、その流れの中で最近では「實相の書」及び「光輪卍十字架図」を用いることが少なくなり、「鳩マーク」(図案化された鳩の図形と「SEICHO−NO−IE」の文字からなる標章)を多用するようになっている。平成26年3月1日に行った被請求人の立教記念式典においても、「實相の書」は白布で覆い隠し、「光輪卍十字架図」は使用せず、「鳩マーク」を表示した旗を使用している(甲19の1)。
このことは、Web等において、Aの教えを曲げるものであるとして批判されているところである(甲19の2)。
被請求人がこのようにAの教えから逸脱してきたことにより、前記のとおり、平成14年7月に第2代総裁Bの二女夫妻を中核とする「生長の家オーストラリア法人」(現在の「ときみつる會」)が被請求人と包括・被包括関係を解消して独立し、同年9月には多くの信者が被請求人及びその単位宗教法人を脱退して請求人を設立し、その後も多数の信者が脱退して各地において「生命の實相」学習会、真理勉強会等様々な名称で宗教活動を行っており、被請求人に所属する信者の数は減少の一途を辿っている。
本件商標は、上記のとおり、被請求人自身は「實相の書」の使用を後退させ「光輪卍十字架図」の使用をほぼ中止したのに、脱退信者たちの宗教活動を妨害し、信者のさらなる脱退を防ぐ意図のもとに出願し、登録を得たものである。
すなわち、被請求人は、昭和27年5月に設立されてから60年の間商標権を全く有しておらず、ましてや礼拝の対象である「實相の書」及び「万教帰一」の教義の象徴である「光輪卍十字架図」について商標権を取得することなど思いもよらなかったが、脱退信者が後を絶たない事態に鑑みて、平成25年8月15日に使用を後退させている「實相の書」について、平成26年3月31日にほとんど使用を中止した「光輪卍十字架図」についてそれぞれ商標出願を断行し、平成26年5月14日付け内容証明便をもって、請求人に対して、「(「實相の書」及び「光輪卍十字架図」を)商標出願しており(商願2013−63644及び商願2014−24752)、近く登録される予定です」などと述べて、それらを宗教儀式に使用することを禁止しており(甲14の1)、その後設定登録の事実を知ると、「上記商標権に基づき、改めての使用中止を求め」た(甲第14号証の3)。
以上の経緯に照らせば、被請求人は、請求人その他の諸団体が「實相の書」及び「光輪卍十字架図」を掲示して宗教活動を行っていることを百も知りながら、それらの宗教活動を禁圧し、これ以上の信者の脱退を防ぐためには礼拝対象である「実相の書」及び「万教帰一」の教義の象徴である「光輪卍十字架図」そのものについて独占権を取得することが効果的であると考え、そのとおりに実行したものであり、著しく社会的正義に反する行為である。
なお、現在、被請求人は、1)商標登録第283304号「生長の家」、2)同第433003号「光輪卍十字架図」、3)同第2009567号「生長の家」、4)同第4030542号「SEICHO−NO−IE」、5)同第4068627号「鳩マーク+SEICHO−NO−IE」、6)同第5628907号「山と木と家の図形」、7)本件商標、8)同第5704789号「光輪卍十字架図」及び本件商標を有し、さらに、「光輪卍十字架図」の標章について商標登録出願中(商願2014−24753号)であるが、1)〜5)はかつては被請求人の教義等の図書の出版会社である日本教文社が「印刷物」や「写真」等を指定商品として保有しており、被請求人が、本件商標の出願審査において通知された拒絶理由を解消するために、1)及び3)ないし5)の登録商標を、また、8)「光輪卍十字架図」の出願審査において通知された拒絶理由を解消するために、2)の登録商標をそれぞれ日本教文社から譲り受けたものであり、被請求人自身は平成25年11月8日に、6)の登録商標を保有するまで登録商標を保有したことはない。
(4)本件商標は、法令に違反して登録されたものであること
著作者の名誉又は声望を害する方法により著作物を利用する行為は著作者人格権を侵害する行為とみなされ(著作権法第113条第6項)、著作者人格権を侵害する行為は、その行為の性質及び程度、社会的事情の変動その他によりその行為が著作者の意を害しないと認められる場合以外は、著作者の死亡後においてもしてはならない(著作権法第60条)。
本件商標は、Aが著作し、礼拝の対象とした「實相の書」そのものを構成としており、このような尊貴なものを「紙製包装用容器」等の商品や役務の標識(目印)として使用することはAを汚しその名誉又は声望を害するものであり、A昇天後30年近く経った現在においてもAの意を害することはいうまでもない。したがって、本件商標を使用する行為は著作者人格権侵害行為として民事罰(著作権法第112条、民法第709条)のみならず刑事罰(著作権法第119条第2項第1号)が課される行為である。
このように本件商標を使用する行為は刑罰をもって禁止されているのであるから、その登録を認めることは法秩序の統一を害するものである。
本件商標には「雅春書」の落款と落款印が付されており、このうちの「雅春」はAの氏名の略称であり、宗教関係者において著名なものであるから、本件商標は商標法第4条第1項第8号に該当する。第8号の「他人」は生存者に限るとの見解もあるが、人の名誉が死亡を境にして直ちに要保護性を喪失するなどということはなく死亡後相当期間は残存すると解すべきところ、一大宗教の創始者であり国の内外において広く知られたAの名誉は、その昇天後30年も経過していない本件商標の出願時点では優に要保護性があり、少なくとも「紙製包装用容器」等の出所標識として使用されることからは保護されるべきであるから、第8号の「他人」に該当すると解するべきである。
したがって、本件商標を構成する文字及び図が「商標」であると仮定したならば、それを登録することは商標法第4条第1項第8号に違反する。
請求人は、前記のとおり、その設立から現在に至るまで、本件商標を構成する文字及び図である「実相の書」を掲げて宗教活動を行ってきており、本件商標を構成する文字及び図が「商標」であり宗教活動が「役務」であると仮定したならば、本件商標は請求人を表示する商標として広く知られている。
また、請求人のみならず、本件商標を構成する文字及び図は、前記のとおり、被請求人に包括される単位宗教法人、ときみつる會、さらには日本各地の「生命の実相」学習会、真理勉強会等の諸団体の信者の礼拝の対象として広く知られているから、本件商標を構成する文字及び図が「商標」であり宗教活動が「役務」であると仮定したならば、それを登録することは商標法第4条第1項第10号に違反する。
本件商標を構成する文字及び図は、前記のとおり、請求人の礼拝の対象として、又は被請求人に包括される単位宗教法人、ときみつる會、さらには日本各地の「生命の實相」学習会、真理勉強会等の諸団体の信者の礼拝の対象として広く知られているから、被請求人が本件商標をその指定商品又は指定役務に使用したときは、生長の家の宗教を信奉する上記の諸団体の商品又は役務であるとの出所の混同を生じるから、商標法第4条第1項第15号に該当する。
前記のとおり、本件商標を構成する文字及び図は請求人の礼拝の対象として、又は被請求人に包括される単位宗教法人、ときみつる會、さらには日本各地の「生命の實相」学習会、真理勉強会等の諸団体の信者の礼拝の対象として広く知られており、被請求人は、前記のとおり、他人に損害を加える目的その他の不正の目的のために本件商標の登録を得たものであるから、本件商標を構成する文字及び図が「商標」であると仮定したならば商標法第4条第1項第19号に該当する。
(1)被請求人が保有する「實相の書」の著作権の帰属について
被請求人は、Bの遺言によりBが有した著作権全部を被請求人が承継したと主張する。
しかし、A以降の家系図によれば、Bの相続人は6名であり、この遺言は相続人の遺留分を損害している。
相続人中2名は、被請求人に対して、遺留分減殺請求の意思表示をするとともに、被請求人が同相続に係る著作権を行使するときは両名と合意の上行うべきことを要求している(甲20)。このように、「實相の書」の著作権は、相続人中の2名が著作権を主張しているのだから、これが被請求人に帰属するというのは正しくない。
(2)「實相の書」の無断使用との主張について
Aはその生涯において極めて多数の「實相の書」を揮毫された。
Aは、昭和31年5月からの半年間で、計47回、枚数にして5458枚(月約900枚)の書を書かれ、この半分以上が「實相の書」であると推察され、その総数は1万枚を超えると推察している。
被請求人は、「被請求人は、その包括する単位宗教法人には、『實相の書』の使用を許諾しているが、ときみつる會及び請求人に対しては、許諾をしたことはない。」(それらの団体による使用は無断使用に該当する。)などと述べているが、被請求人に包括される単位宗教法人は「實相の書」をAから本尊として下付を受けたものであって、被請求人から使用を許諾されたものではなく、また請求人はAから直接下付を受けた「實相の書」を譲受けて使用しており、その他の団体や個人もAから直接に下付を受けたものや被請求人から下付を受けたものを使用している。
著作権を譲受けていないとしても、美術著作物である「實相の書」の所有権を譲受けた者はその原作品を展示することができるのだから、請求人並びにそれ以外の諸団体は適法に「實相の書」を掲示しているのであって、無断使用している者は誰もいない。
(3)「實相の書」が礼拝対象物たる本尊であること
被請求人は、「Aの教えによれば、宗教法人法の要請として便宜上『實相の書』を本尊としたものであり、第一義的な本尊は大宇宙の本体者の応現又は化現、すなわちあらゆる宗教の本尊の奥にある『實相』(唯一の真理)であって、『實相の書』ではない。」などと述べている。
しかし、被請求人も、「本尊『實相』下付等についての通達」(甲8の1)を発し、「實相本尊奉祭に就いて」と題して、「礼拝の対象として、Aの『實相』軸を交付する。『實相』軸は生長の家大神(宇宙神)の象徴であるから、教化部長を迎えて本尊奉祭式を行う」旨を通達し、「實相礼拝に始まり 實相礼拝に終わる」實相本尊奉祭式の詳細を取り決め、通達している。
さらに、生長の家教規(甲2)には、「この宗教を設立する目的は、・・・教化道場及び礼拝施設を備え、この宗教の教義に基づいて儀式行事を行い、・・・等にあり(第2条)、礼拝に際しては『實相の書』を掲げる(第6条)。」としている。
以上のとおり、「實相の書」が「生長の家」の宗教における礼拝対象物たる本尊であることは自明なことである。
(4)最高裁判決について
被請求人は、「不正競争防止法は権利を設定するものではなく、行為規制法であり、商標法は不正競争防止法の特別法ではない、天理教事件最高裁判決は、商標登録の可否とはなんら関係がなく、およそ請求人の主張を支持するものではない」などと述べている。
しかし、不正競争防止法と商標法は、前者は不法行為構成、後者は絶対権構成とその手段は異なるものの、ともに公正な競業秩序を維持するための行為規制法であり、後者が前者の特別法であるというのは一般の理解である。
次に、被請求人は、「宗教法人の活動についても、その標識である商標を登録、その保護を図ることは、商標法が当然予定しているところであり、これまでの実務においても、宗教法人の取り扱う商品・役務について、指定商品・役務として商標登録を行うことも認めてきた」と主張するが、最高裁判決は、不正競争防止法したがって商標法の対象外とされるのは、1)宗教儀礼の執行や教義の普及伝道活動等の本来的な宗教活動と、2)それ自体を取り上げれば収益事業と認められるものであっても、教義の普及伝道のために行われる出版、講演等の本来的な宗教活動と密接不可分の関係にあると認められる事業であり、それ以外の、3)宗教法人が行う収益事業(宗教法人法6条2項参照)としての駐車場業などは不正競争防止法の対象となる得るというべきであり、したがって商標法の対象になるとしているのである。
このように、宗教法人の活動については一切商標登録の対象とならないというのではなく、上記1)及び2)の事業についてのみ、少なくとも上記最高裁判決が言い渡された平成18年1月20日以降は商標登録の対象とならないのである。
(5)無効理由1(商標法第3第1項柱書違反)について
被請求人は、「宗教法人の権利能力の範囲を、所轄庁の審査を受けて認められた公益事業及び収益事業の範囲内に厳格に限定されると解釈すると、かえって取引の安全を害することになるため、そのような解釈を採るべきではない」と主張する
しかし、被請求人が規則に定めた以外の収益事業を行ないえないことは、宗教法人法及び所轄庁たる文化庁の指導からも明らかなことであり、被請求人も当然に知っていることであり、その当然の結果として被請求人は規則に定めていない事業を行う意思はなく、そのような事業に本件登録商標を使用する意思はない。
また、被請求人は、本件商標の指定商品のうち、第16類の各商品は規則の「図書,ビデオ・テープその他の物品の販売」に含まれる。また、第41類及び第45類の各役務は規則の目的に「生長の家の教義をひろめ、教化道場及び礼拝施設を備えて、儀式行事を行い、信者を強化育成すること」が挙げられている以上、当然にその目的の範囲に含まれると主張する。
しかし、規則には「紙製包装用容器」などの販売まで含まれるものではない。また、被請求人は第41類及び第45類の指定役務のいずれも規則に制定していないから、これらを行ないえないことは明らかなことである。
宗教法人の目的から当然に許される事業(規則に制定しなくても許される事業)は本来的宗教活動だけであるところ、第41類及び第45類の指定役務のうち本来的宗教活動といえるのは「宗教教育」と「宗教集会の運営」だけである。しかし、最高裁判決が説示するとおり、本来的宗教活動並びにそれと密接不可分の関係にある事業は「営業」ではないのだから、また本来的宗教活動を行う者は「業として商品を生産等する者」「業として役務を提供等する者」(商標法2条第1項第1号、第2号)にあたらないから、それらは商標法の指定役務として認められない。以上から、指定役務中の「宗教教育」「宗教集会の運営」は指定役務として認められないとともに、それ以外の役務は規則に規定していないのだから行いえない。
さらに、被請求人は、「本件商標は礼拝の対象である『實相の書』そのものであるが、これを一般的な宗教的情操を養うための教育等の標識として使用することはなんら不可能ではない」と主張する。
しかし、本件商標を構成する「實相の書」は「生長の家」の宗教の本尊であって何人もここから「生長の家」の宗教であると認識するから、それを一般的な宗教的情操を養うための教育等の標識として使用することなどできない。
以上、本件商標の指定商品(役務)は、いずれも被請求人の規則に規定がないから被請求人が行い得ない商品(役務)であること、また、本尊である「實相の書」をそれら指定商品(役務)の目印として使用するなどは考えられないこと、被請求人も過去100年近い歴史において「實相の書」を商品や役務の目印として使用したことはないことから、被請求人には本件商標をその指定商品(役務)に使用する意思はなく、本件商標は商標法第3条第1項柱書きにより無効とされるべきである。
さらに、新規主張として、「指定役務中の『宗教教育』『宗教集会の運営』については、本来的な宗教活動ないしそれと密接不可分の関係にある役務であって『指定役務』として認められないから、本件商標は同指定役務に関しては商標法第3条第1項柱書きにより無効とされるべきである。」を追加する。
(6)無効理由2(商標法第4条第1項第6号違反)について
被請求人は、「『實相の書』は周知なものであるといえても『著名なもの』とまでは言えない」と主張する。
しかし、「生長の家」の宗教は、我が国に数多存在する宗教団体の中で天理教、PL教団、世界救世教に次いで多数の信者を擁しているのだから、その礼拝対象である「實相の書」が「著名なもの」に該当することは明らかなことである。
また、被請求人は、「被請求人は本件商標を構成する『實相の書』の著作権を有していてそれを独占できる立場にあるのだから、これを請求人その他の団体が無断使用してきたからといって商標法第4条第2項の適用を受けられなくなることはない」と主張する。
しかし、前記(1)のとおり、被請求人は「實相の書」について単独で著作権を有していないのだから、他の共有者の合意を得ないでその著作権を行使することはできない。
さらに、請求人その他の団体は決して「實相の書」を無断使用してきたのではなく正当な権限をもって使用してきたものであり、被請求人とそれ以外の者による使用が相まって「實相の書」が著名になったのであるから、それについて被請求人が単独で商標出願をしても商標法第4条第2項は適用されない。また、被請求人が「實相の書」の使用を独占できる法的根拠はなく、被請求人以外にも多くの者が宗教儀式の執行において正当に使用しているのだから、本件商標は商標法第4条第2項の適用を受けることはできない。
(7)無効理由3(商標法第4条第1項第7号違反)について
ア 「生長の家」の宗教の尊厳を毀損し、信者の宗教感情を害すること
被請求人は、「公序良俗を害するかどうかは、出願人が誰か、商標の具体的態様、指定商品・役務等を踏まえ、公衆がどのように考えるかによって判断されるべきものであるところ、本件商標は、『實相』の書の著作権者である宗教法人本人が、宗教活動に関連して使用してきた個性的な態様の書について商標登録を得たのであるから、『生長の家』の宗教の尊厳を既存し、信者の宗教感情を害しない。」と主張する。
しかし、宗教の本尊として礼拝されるものを商品・役務の目印として使用することが宗教の尊厳を毀損することはいうまでもないことである。
イ 信教の自由を侵害すること
被請求人は、「『生長の家』の宗教の本尊はあらゆる宗教の奥にある『實相』(唯一の真理)であって『實相の書』ではないのだから、(請求人は『實相の書』を掲示しないで宗教活動を行なえばよいのであり)、被請求人は、本件商標の登録を得たとしても、(請求人が『實相』の書を掲示しないで宗教活動を行なうかぎりは)請求人の信仰を妨げたり、宗教的な儀式や集会を行うことを妨げるものではないから、請求人の信仰の自由を侵害するものではない」と主張する。
しかし、「生長の家」の宗教において「實相の書」が礼拝対象たる本尊であることは審判請求書に記載のとおりであり、本尊として礼拝するために、Aは多数の「實相の書」を揮毫されて信者に配布し、また被請求人は有料で「實相の書」を下付してきた(甲8の1)。「生長の家」の宗教において、「礼拝」の儀式はAが揮毫された「實相の書」を本尊として、これに対し奉り、二拝、二拍手、一揖の作法をもって行う儀式であり、「實相の書」を掲示しないで儀式を執行することはできないのだから、そして被請求人以外の者は前記正当な権限をもって「實相」の書を礼拝してきたのだから、被請求人が「實相の書」の使用権を独占することは他者の信仰の自由を害する。
ウ 請求人らの活動を妨害する目的
被請求人は、「本件商標を出願したのは、自己の権利を保全する目的であって請求人の業務を妨害する目的ではない」と主張する。
しかし、被請求人が請求人の儀式の執行を妨害する目的で本件商標の登録を得たことは、審判請求書の「10請求人と被請求人の間の係争」に記載した事実と証拠(甲14)、同38頁〜40頁に記載した事実から明らかなことである。
エ 法令違反
被請求人は、「請求人は、Aの相続人に該当しないからAの著作者人格権侵害を主張する法的地位にはない」と主張する。
しかし、著作者の死後にその人格的利益を侵害する者に対して民事制裁を請求できるのは遺族であるが、著作者の死後にその人格的利益を侵害する行為は犯罪とされており、しかも同罪は非親告罪であるから、請求人が告発することもできる。
また、被請求人は、「被請求人は、Aの著作権を正当に承継しているから、第三者による不当な使用に対して権利を保全する行為はなんらAの名誉又は声望を害する方法による著作物の利用に該当しない」とも主張する。
しかし、前記のとおり、被請求人は単独では著作権を承継していないし、また著作権者であっても著作者人格権を侵害する行為をすることはできない。 さらに、被請求人は、第三者に対して不当行為をする目的で本件商標の登録を得たのであって、「第三者による不当な使用に対して権利を保全する」目的で登録を得たのではない。
(8)無効理由4(商標法第4条第1項第8号違反)について
被請求人は、「商標法第4条第1項第8号の『他人』は生存者に限るから本件に同号を適用することはできず、また被請求人は『實相の書』の著作権を正当に承継しているからAの名誉を棄損することはありえない」と主張する。
しかし、Aが8号の「他人」にあたるか否かに関しては審判請求書に記載のとおりであり、前記のとおり、被請求人は「實相の書」の著作権を正当に承継してはいないし、著作権の点を措くとしても、著作権を承継していることと他人の氏名を含む商標を出願できることとは別問題である。
(9)無効理由5(商標法第4条第1項第10号違反)
被請求人は、「本件商標を構成する『實相の書』は、被請求人がその著作権を承継しており、かつ被請求人のものとして知られているから、商標法第4条第1項第10号の『他人の役務を表示するもの』にあたらない」と主張する。
しかし、被請求人が「實相の書」の著作権を完全に承継していないことは既に述べたとおりであり、またAが揮毫された「實相の書」は極めて多数に上り、請求人以外にも、被請求人に包括される単位宗教法人、ときみつる會、さらには日本各地の「生命の實相」学習会、真理勉強会等の諸団体が、Aから下付を受けた或いは被請求人から下付をうけた(甲8の1)「實相の書」を礼拝する宗教活動を行っているから、「實相の書」はそれらの者の役務を表示する商標としても広く知られており、本件商標は商標法第4条第1項第10号に該当する。
(10)無効理由6(商標法第4条第1項第15号違反)について
被請求人は、「本件商標は、被請求人のものとして広く知られているから15号の『他人の業務に係る商品又は役務と混同を生じるおそれ』はない」と主張する。
しかし、「實相の書」は上記の者の役務を表示する商標としても広く知られているから、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当する。
(11)無効理由7(商標法第4条第1項第19号違反)
被請求人は、「本件商標は、『他人の商品(役務)表示する商標』ではなく、また被請求人は自らの権利を保全する目的で出願した者であるから『不正の目的』はない」と主張する。
しかし、「實相の書」は上記請求人らの役務を表示する商標であり、被請求人は上記のとおり「不正の目的」で出願したものであるから、本件商標は商標法第4条第1項第19号に該当する。
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1ないし第14号証を提出している。
請求人が「2 前提となる事実」の項において主張するところは、事実に反し、更に誤導的な記述が多々見られる。被請求人としては、本件審判請求における無効理由の審理に関連性がないと考えられる主張について、敢えて事細かく認否しないが、請求人が前提事実として主張する以下の点については、およそ事実に反することについて強く反論しておく。
(1)被請求人及び「實相の書」の権利について
請求人は、生長の家の信者が、被請求人のほかにも、被請求人に包括される約70の単位宗教法人、請求人、ときみつる會、全国各地の「生命の實相」学習会や真理勉強会等、数多く存在し、被請求人はその中の一部に過ぎず、本件商標を構成する「實相の書」を独占して使用することが許されないかのように主張する。
しかし、本件商標を構成する、A著作に係る「實相の書」については、Aが総裁を務めた包括宗教法人である被請求人が所蔵しており、所有権を有するところ、その著作権も、Aから被請求人に遺贈ないし譲渡されており、被請求人はこれについての正当な権利者である。
すなわち、著作者であるAの相続人は、谷口輝子、谷口清超(B)及び谷口惠美子(D)の三名のみであるところ(乙1ないし乙3)、Aの著作権は、同人の死亡により、昭和60年12月13日付遺産分割協議書に基づき、その2分の1が相続人谷口輝子に、その4分の1が、相続人B及び相続人Dに、それぞれ分割された(乙5)。さらに、谷口輝子の相続人はD及びBの2名であるところ(乙1、乙2及び乙4)、谷口輝子の死亡により、同人の持分である2分の1が、D及び養子であるBに、それぞれ半分ずつ相続されて、同人らの持分はそれぞれ2分の1ずつとなった。
その後、Bの持分は、同人の死亡により、平成18年3月8日付け遺言書(平成21年1月9日検認調書のとおり検認済み)に基づき被請求人に遺贈された(乙6)。また、Dの持分は、平成22年7月12日付けの著作権譲渡契約に基づき被請求人へ譲渡された(乙7)。
以上のとおりであり、被請求人は、本件商標を構成する「實相の書」の著作権を保有している。
よって、被請求人が生長の家の信者が構成する団体の一部に過ぎず、「實相の書」を独占すべきでないかのような請求人の主張は、不正確といわざるを得ない。
なお、被請求人は、その包括する単位宗教法人には、「實相の書」の使用を許諾しているが、ときみつる會及び請求人に対しては、許諾をしたことはない。また、その他の勉強会等については、その存在も認識しておらず、請求人との異同についても確認できない。
(2)生長の家における礼拝の対象について
請求人は、本件商標について、「被請求人は、神聖かつ尊厳な生長の家の宗教の本尊であり礼拝の対象であるものを商標として出願し、登録を得たものである。」などと主張している。
しかし、生長の家の本尊について、生長の家教規(甲2)第6章「本尊」の第6条には、「この宗教の本尊は生長の家の大神と仮に称するも、その教義にては生長の家とは『大宇宙』の別名なれば、大宇宙の本体者の応現又は化現とみとめられる。正しき宗教の救いの本尊たるものは如何なる名称の神仏もわが宗教の本尊として礼拝するのである。但しこの宗教には社殿、仏殿等を設けず、あらゆる宗教の本尊の奥にある『實相』(唯一の真理)を礼拝の対象とするため『實相』の書を掲げるものとする。」と規定されているとおり、この宗教の本尊は、大宇宙の本体者の応現又は化現であり、あらゆる宗教の本尊の奥にある「實相」(唯一の真理)を礼拝の対象とするものである。
請求人の提出した各著作の中で、Aは以下のように述べ、物質的な偶像崇拝を否定し、礼拝の対象は「實相」(唯一の真理)であって、「實相の書」そのものではない、としている。
「生長の家は、物質的な偶像的なものを何一つ置かないで、『内在の位に立つ神が超越の位に立つ神を“実相”として礼拝し、“個”即“普遍”、“普遍”即“個”の自己を、今ここのわが身に自覚するを主目的とする最も純粋な、一宗一派に偏らない宗教』なのである。...生長の家ではいかなる形ある本尊も安置しないことにしてあったのである。」(甲8の2)
「その文字は僕が書いた文字だから尊敬して拝むというんじゃなくって、それは自分の“内にある神”−“実相”を外に移入して、自分の“実相”が神であるということを拝む」(甲8の4)
甲第8号証の2には、本尊として何かの安置仏をおかなければ文部省は宗教団体を宗教法人として認証しないということで「實相」という文字を選んだ旨のことが書かれているが、これは宗教法人法上の要請として便宜上「實相の書」を本尊としたものであり、第一義的な本尊は大宇宙の本体者の応現又は化現、すなわちあらゆる宗教の本尊の奥にある「實相」(唯一の真理)であって、「實相の書」ではない。
したがって、請求人の主張は、Aの教えに照らし、不正確である。
(3)最高裁判所平成18年1月20日判決(以下「天理教最高裁判決」という。)について
請求人は、天理教最高裁判決を引用した上で、商標法は不正競争防止法の特別法であるから、「宗教法人の本来的な宗教活動及びこれと密接不可分の関係にある事業」は商標法上の「商品」や「役務」ではない、などと主張する。
しかし、不正競争防止法は権利を設定するものではなく、行為規制法であり、商標法が不正競争防止法の特別法であるという請求人の主張は誤りである。
そして、天理教最高裁判決は、従前被包括法人であった宗教法人に対して、包括法人が包括被包括の関係でなくなったことを根拠に、不正競争防止法に基づいて、従前からの名称の使用の中止を求めた事案であり、商標登録の可否とは何ら関係がない。更に、この最高裁判決においては、宗教法人が名称に関する権利を有することは当然としており、およそ商標登録に関する本件での請求人の主張を支持するようなものではない。
宗教法人の活動についても、その標識である商標を登録し、その保護をはかることは、商標法が当然予定しているところであり、これまでの実務においても、宗教法人の取り扱う商品・役務について、指定商品・役務として商標登録を行うことも認めてきた。
したがって、天理教最高裁判決を引用する請求人の主張は、誤りである。
請求人は、「宗教法人は本来的宗教活動及び厳格な手続きをもって規則で定め所轄庁の厳正な審査にパスした公益事業及び収益事業の範囲内においてのみ権利能力を有する」とした上で、本件商標を指定役務についての標識として使用することは被請求人の権利能力の範囲外であり、被請求人は本件商標を指定役務に使用する意思がない、と主張する。
(1)宗教法人法の規定について
請求人は、宗教法人法の規定及び過去の裁判例に基づけば、被請求人の権利範囲は、所轄庁の審査にパスした公益事業及び収益事業の範囲内に限定される旨主張する。
しかし、請求人の言及する最高裁の判例(甲第6号証の4)は、税理士法人における目的の範囲の判断は営利法人と同一に論ずることはできないとし、政治献金は目的の範囲外の行為であるとした事案であるが、「政治献金」という具体的問題に関して、税理士法人が法によって設立を義務付けられた法人であって、かつ、強制加入団体である、と判断したものであり、「政治献金」以外の問題について、また性格の異なる公益法人については何ら参考になる判断ではない。
また、宗教法人についての裁判例(甲6の5)は、当該宗教法人の代表者が、自らを主体とする意思で、法人名義で「明らかに原告の目的の範囲外の行為である」商品先物取引をしたという事案であり(甲6の5、6頁下から2行)、宗教法人の権利能力の範囲について何ら詳細に論じたものではない。
結局、請求人の指摘する各裁判例において、公益法人である場合には、その権利能力の範囲が、規則に記載された目的の範囲に厳格に限定される、と判示したものや、まして「所轄庁の審査にパスした公益事業及び収益事業の範囲内」にまで厳格に限定される、と判示したものは存在しない。
請求人は、「宗教法人は、本来的宗教活動及び厳格な手続きをもって規則で定め所轄庁の厳正な審査にパスした公益事業及び収益事業の範囲内においてのみ権利能力を有する」として、公益法人の場合には、目的の範囲よりもさらに権利能力の範囲が厳格に限定されると主張するが、裁判例に鑑みても、その主張は明らかに誤りである。
公益法人のような非営利法人の場合に、その権利能力の範囲を、営利法人よりも限定的に解釈すべきであるとしても、所轄庁の審査を受けて認められた公益事業及び収益事業の範囲内に厳格に限定されると解釈することは、かえって取引の安全を害することになるため、そのような解釈を採るべきではない。
よって、請求人の主張は理由がない。
(2)被請求人の行っている事業について
請求人は、被請求人が過去及び現在行っている事業について述べた上で、それ以外の事業を行ったことはなく、将来行うための規則を作成も準備もしていないから、その他の事業は行うことができない、と主張する。
しかし、公益法人としての権利範囲は、被請求人が過去及び現在に行っている事業に限られるものではないことは、前述のとおりである。
(3)指定商品(役務)について本件商標を使用する意思について
請求人は、本件商標の指定商品(役務)について本件商標を使用することは、被請求人の権利能力の範囲外である旨主張する。
しかし、前述のとおり、被請求人の権利能力の範囲は、請求人の主張する「所轄庁の審査をパスした公益事業及び収益事業」の範囲に限定されるものではない。
被請求人の規則に定める「目的」、「公益事業」及び「収益事業」は、履歴事項全部証明書(甲15)に記載のとおりである。
これに対し、本件商標の指定商品・役務は、第16類、第41類及び第42類(審決注:「第42類」とあるのは「第45類」の誤記と認められるので、以下、訂正する。)に属する商品及び役務である。
これらを対比すれば明らかなとおり、本件商標の指定商品・役務は、いずれも被請求人の規則に定める「目的」の範囲内に含まれている。
すなわち、第16類の各商品は、「公益事業以外の収益事業」の一つとして挙げられている「図書,ビデオ・テープその他の物品の販売」及び「機関誌等の出版」に含まれる。
また、第41類及び第45類の各役務は、規則において、その目的に、「生長の家の教義をひろめ、教化道場及び礼拝施設を備えて、儀式行事を行い、信者を強化育成すること。」が挙げられている以上、当然にその目的の範囲に含まれる。
したがって、本件商標の指定商品・役務を取り扱う行為は、そもそも被請求人の目的の範囲内の行為であって、非営利法人の権利能力の範囲をどのように考えるべきかを論ずるまでもなく、いずれも被請求人の権利能力の範囲内の行為である。
なお、請求人は、「本件商標は神聖かつ尊厳な生長の家の本尊であり礼拝の対象である『實相の書』そのものであるから、これを一般的な宗教的情操を養うための教育、学問としての宗教の教育並びにこれらのための集会の運営の標識として使用することなど不可能である」とも主張するが、本件商標を標識として使用することは何ら「不可能」ではないから、請求人の主張はそもそも理由がない。
(4)以上のとおりであるから、本件商標が商標法第3条第1項柱書に基づき認められないとする請求人の主張は、理由がない。
(1)請求人は、「實相の書」は、少なくとも宗教関係者の間において「著名なもの」であると主張する。
しかし、「實相の書」は、宗教関係者の間において周知なものであったとしても、生長の家を表示する標章として「著名なもの」とまではいえない。
よって、本件商標は商標法第4条第1項第6号の要件を充足しないから、請求人の主張は理由がない。
(2)仮に、本件商標が「著名なもの」であるとしても、商標法第4条第1項第6号において、非営利公益団体又は非営利公益事業を表示する著名な標章と同一又は類似の商標の登録を認めない趣旨は、その公共性に鑑みて、当該団体等の権威を尊重するとともに、出所混同を防いで需要者の利益を保護するべく、無関係者による登録を排斥する点にあるから、同号に規定の団体や事業主体が自ら望んで出願する場合には適用されない(商標法第4条第2項)。
本件商標について検討するに、本件商標は、被請求人の標章として著名な標章を、被請求人自身が望んで出願するものであるから、商標法第4条第2項により、同条第1項第6号は適用されない。
請求人は、被請求人のみならず、それに包括される単位宗教法人、請求人、ときみつる會、日本各地の「生命の實相」学習会、真理勉強会等の生長の家の宗教を信奉する諸団体が存在し、被請求人が設立される以前から、「生長の家○○○○」の名称を名乗る団体が本件商標を礼拝に使用しているから、被請求人が独占する権利はない、などと主張して商標法第4条第2項の適用を否定する。
しかし、前述のとおり、本件商標を構成する「實相の書」はそもそも著作物に該当するところ、当該著作物に係る著作権を、著作者であるAから、その相続人を介して承継したのは被請求人である。よって、本件商標を被請求人が独占する権利はない、との請求人の主張はそもそも誤りである。
「實相の書」について権利を有する被請求人は、請求人の列挙する団体のうち、被請求人に包括される単位宗教法人にはその使用を許諾したが、それ以外の団体については使用を許諾したことはなく、それらの団体による使用は無断使用に該当する。第三者が当該団体に無断で使用した事実が存在したとしても、そのことを理由に商標法第4条第2項の適用が否定されることはない。
したがって、本件において商標法第4条第2項が適用されることはない、とする請求人の主張は誤りである。
(3)したがって、本件商標が商標法第4条第1項第6号に該当するとの請求人の主張は、理由がない。
請求人は、(1)生長の家の宗教の尊厳を棄損しその信者の宗教感情を害すること、(2)信教の自由を侵害すること、(3)請求人らの活動を妨害する目的で登録を得たものであること、(4)法令に違反することを理由に、本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当する旨主張するが、いずれも理由がないか、主張自体失当である。
(1)生長の家の宗教の尊厳を棄損しその信者の宗教感情を害することについて
前述のとおり、被請求人は、「實相の書」の著作権を、生長の家の宗教の創始者であるAから、その相続人を介して、被請求人が権利を承継している。その被請求人自身が従前からの使用が害されないように本件商標を出願したのであり、およそ生長の家の宗教の尊厳を棄損し、信者の正当な宗教感情を害することはありえない。
なお、請求人は、「Buddha」及び「仏陀」の文字を二段書きにしてなる商標を本条に該当するとした審決例(甲18)を挙げて、その主張の根拠とするようであるが、同審決はそもそも、仏教ないし仏教徒、さらには宗教とは何ら関係のない「有限会社仏陀」と称する会社が仏教の開祖の名前を標準の文字により独占しようとして商標出願した事例である。本件は、宗教法人本人が、自らが権利を有し、当該宗教法人の活動に関連して使用して来た著作物である個性的な態様の「實相」という語の書について商標を出願したのであり、まったく事情の異なる審決例である。
すなわち、審決が正しく指摘するように、公序良俗を害するかどうかは、「査定時または審決時における社会通念に基づき認定、判断すべき」であって、出願人が誰か、商標の具体的態様、指定商品・役務等を踏まえ、公衆がどのように考えるかによって判断されるものであるから、この審決が本件の参考とならないことは当然である。
よって、請求人の主張は理由がない。
(2)請求人の信教の自由が侵害されることについて
被請求人が本件商標を出願し、登録を得ることは、何ら請求人の信教の自由を奪うことにはならない。すなわち、被請求人が本件商標を出願し、登録を得たとしても、被請求人は、請求人が生長の家の宗教を信仰することを妨げるものでも、宗教的な儀式や集会を行うことを妨げるものでもないことは、上記1(2)から明らかである。
なお、請求人は、「實相の書」を、キリスト教における十字架や、仏教における曼荼羅等に相当する礼拝対象である、と主張するが、前述のとおり、そもそも「實相の書」は礼拝対象ではない。
仮に、ある標章が何人かの礼拝対象に関連するとしても、そのことから直ちに当該標章の登録が公序良俗に違反することにはならない。この点、キリスト教における十字架や、仏教における曼荼羅等に関連する商標が数多く登録されていることは、乙第8号証ないし乙第14号証のとおりである。
よって、請求人の主張は誤りである。
(3)請求人らの活動を妨害する目的で本件商標を出願し登録を得たことについて
被請求人は、本件商標を、自己の権利を保全する目的で出願したものに過ぎず、請求人の活動を妨害する目的で出願したものではない。
よって、請求人の主張は誤りである。
(4)法令に違反することについて
請求人は、本件商標を指定商品・役務に使用することが、著作者であるAの名誉又は声望を害する方法による著作物の利用であるとして、著作者人格権を侵害する旨主張する。
しかし、Aは故人であるから、同人の著作者人格権に基づく請求はそもそも観念できない。また、請求人はAの相続人にも該当しないから、いずれにしても同人の著作者人格権侵害を主張する法的地位にはない。
よって、請求人の主張は、その主張自体失当である。
なお、付言すれば、Aの著作物について正当に著作権を継承し、生長の家本部として活動を行っている被請求人が、本件商標を、その活動に必要な範囲の指定商品、役務について出願し、第三者による不当な使用に対して権利を保全する行為は、何ら同人の名誉又は声望を害する方法による著作物の利用ではないから、請求人の主張は実質的にも理由がない。
請求人は、本件商標の「雅春著」の落款と落款印のうち、「雅春」はAの氏名の略称であり、宗教関係者において著名であるから、商標法第4条第1項第8号に該当する、と主張する。
しかし、請求人自身も指摘するとおり、本条項の趣旨は生存者の名誉声望を保護する点にあるため、故人には適用されない。審査基準においても、「本条における『他人』とは、現存する者とし」と明記されている。
この点について請求人は、「一大宗教の創始者であり国の内外において広く知られたAの名誉は、死後30年も経過していない本件商標出願時点では、未だ要保護性がある」旨主張するが、そもそも被請求人は、Aの相続人から「實相の書」の著作権を譲り受けた上で出願しているのであるから、いずれにしてもAの名誉を棄損することはありえない。
よって、本件商標が商標法第4条第1項第8号に該当するとの請求人の主張は、主張自体失当である。
請求人は、本件商標が、請求人や被請求人に包括される単位宗教法人、ときみつる會、さらには日本各地の「生命の實相」学習会、真理勉強会等の諸団体の信者の礼拝の対象として広く知られているから、商標法第4条第1項第10号に該当すると主張する。
しかし、繰り返し述べているとおり、本件商標を構成する「實相の書」の著作権は被請求人が、著作者であるAから、相続人を介して継承したものであり、生長の家本部である被請求人のものとして知られているのであるから、そもそも本条項における「他人の役務を表示するもの」に該当しない。
よって、本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当するとの請求人の主張は、理由がない。
請求人は、本件商標が、請求人や被請求人に包括される単位宗教法人、ときみつる會、さらには日本各地の「生命の實相」学習会、真理勉強会等の諸団体の信者の礼拝の対象として広く知られているから、商標法第4条第1項第15号に該当すると主張する。
しかし、前述のとおり、本件商標は、被請求人のものとして知られているものであるから、そもそも本条項における「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれ」は存在しない。
よって、本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当するとの請求人の主張は、理由がない。
請求人は、本件商標が、前述のとおり、諸団体の信者の信仰の対象として広く知られており、被請求人は、他人に損害を加える目的その他不正の目的のために本件商標の登録を得たものであるから、商標法第4条第1項第19号に該当すると主張する。
しかし、前述のとおり、本件商標はそもそも「他人の商品(役務)を表示する」商標ではない。
また、この点も前述のとおり、被請求人は自らの権利を保全する目的で出願したにすぎず、何ら「不正の目的」はない。
よって、本件商標が商標法第4条第1項第19号に該当するとの請求人の主張は、理由がない。
以上に述べたとおり、請求人の主張する無効理由は、いずれも理由がないか又はその主張自体失当なものであるから、本件審判請求は成り立たない。
請求人の提出に係る証拠によれば、請求人は、「谷口雅春先生を学ぶ会」と称し、平成14年9月27日に設立された法人でない財団又は社団であって、規約を設け、代表者、会計担当者その他の役員を定めていることが明らかである(甲7の1及び2)。
したがって、請求人は、商標法第77条第2項において準用する特許法第6条第1項の規定に基づき、本件審判の請求をすることができるものといえるから、本件審判の請求人適格を有するものである。
請求人は、商標法上の役務には宗教法人の本来的宗教活動は含まれないこと、本件商標を構成する文字及び図は、礼拝対象そのものにつき、役務の標識として使用することは不可能であるから「商標」ではないこと、被請求人はそれを指定商品・役務に使用する意思がないこと、などから本件商標は商標法第3条第1項柱書に該当する旨主張している。
ところで、本件商標は、別掲1のとおり、文字、図形及び色彩の結合からなるものである。また、被請求人は、宗教法人であって、公益事業として、学校教育法第82条の2の規定に基づき、山梨県南都留郡富士河口湖町5027番地1に、専門学校「生長の家養心女子学園」を設置経営すること、公益事業以外の事業として、(ア)図書、ビデオ・テープその他の物品の販売、(イ)境内建物内の公衆電話の受託業務、(ウ)機関誌等の出版、(エ)無体財産権の提供等、(オ)不動産の貸付を行うことを定めており(甲15)、本件商標の指定商品及び指定役務は上記事業と密接な関係を有するものといえるものである。
そうすると、商標法上の役務には宗教法人の本来的宗教活動が含まれないか否かはさておき、本件商標は、上記構成からなるものであって、上記事業を行う被請求人が自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標というべきものである。そして、被請求人は、上記事業との関係において指定商品又は指定役務に係る業務を行うことについて合理的疑義があるものともいえない。
なお、商標法第3条第1項柱書にいう「使用」とは、自己の業務に係る商品又は役務について現実に使用していることまでを要求するものではなく、自己の業務を行う蓋然性及び使用の意思をもって足りると解され、法令上の制限等により指定商品又は指定役務に係る業務を行わないことが明らかな場合を除き、同項柱書には該当しないというべきである。
また、「商標」とは、文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩の結合であって、業として商品を生産等する者又は業として役務を提供等する者がその商品又は役務について使用をするものをいうことは商標法第2条第1項の規定から明らかであり、礼拝対象であることのみをもって「商標」ではないということはできない。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項柱書に違反して登録されたものとはいえない。
宗教法人法によれば、「宗教団体」とは、宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、及び信者を教化育成することを主たる目的とする団体をいい、「宗教法人」とは、宗教法人法により法人となった宗教団体をいい、宗教法人は、公益事業を行うことができるとされている(同法第2、第4条及び第6条)。
そうすると、請求人及び被請求人はもとより、被請求人に包括される単位宗教法人等は公益に関する団体であって営利を目的としないものに相当し、それら団体が行う活動は公益に関する事業であって営利を目的としないものに相当するものといえる。
請求人の提出に係る証拠によれば、請求人、被請求人に包括される単位宗教法人、ときみつる會、公益財団法人成長の家社会事業団等が、本件商標と同一の構成からなる「實相の書」を掲げて宗教儀式等の様々な活動を行っていることが認められ(甲9及び甲11ないし甲13(各枝番を含む。))、これらの活動は公益に関する事業であって営利を目的としないものに相当するともいえるから、本件商標は公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章とみる余地はある。
しかしながら、「實相の書」は、生長の家宗教の信者の間には知られているとしても、広く一般に知られているものとは認め難く、公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章として著名なものとはいえない。
また、当事者の提出に係る証拠を精査してみても、請求人及び被請求人(被請求人に包括される単位宗教法人を含む。)自体を表示するために「實相の書」が使用されている事実は見いだせないから、「實相の書」は、公益に関する団体であって営利を目的としないものを表示する標章ということはできない。
したがって、本件商標は、上記「實相の書」と同一の構成からなるものであるとしても、商標法第4条第1項第6号に該当するものではない。
仮に、本件商標が同法第4条第1項第6号に該当するものであるとしても、本件商標は、同号に規定する団体又は事業を行っている者に該当する被請求人自身によって登録出願されたものであるから、同号が適用されないことは同条第2項の規定から明らかである。
請求人は、本件商標は(1)生長の家宗教の尊厳を棄損し信者の宗教感情を害すること、(2)信教の自由を侵害すること、(3)請求人等の活動を妨害する目的で登録されたこと、(4)法令に違反して登録されたこと、を理由として本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当するものである旨主張しているので、以下、順次検討する。
(1)生長の家宗教の尊厳を棄損し信者の宗教感情を害することについて
本件商標は、別掲1のとおりの構成からなるものであって、被請求人が自己の業務に係る商品及び役務について使用する商標として登録出願されたものである。
ところで、被請求人の提出に係る乙第1ないし第7号証によれば、「實相の書」はAが著作したものであり、その著作権は、他の著作物に係る著作権とともに、Aからその相続人を介して被請求人に遺贈ないし譲渡されていることが認められる。
また、商標は、商品又は役務の出所識別標識として使用されるものであり、宗教の教義を広め、儀式行事を行い、信者を教化育成するための本来的な宗教活動の一環として使用される礼拝対象等とは本質的に別異のものである。
そうすると、たとえ、「實相の書」が生長の家宗教の信者の礼拝対象等となっているとしても、被請求人は、生長の家宗教を主宰する団体といえるものであり、自己の判断により、礼拝対象等として使用することと商標として採択し使用することとは別異のものとして、本件商標を登録出願したものというべきであるから、本件商標が直ちに生長の家宗教の尊厳を棄損し信者の宗教感情を害することにはならないといわなければならない。
(2)信教の自由を侵害することについて
前示のとおり、商標は、商品又は役務の出所識別標識として使用されるものであり、宗教の礼拝対象等とは本質的に別異のものであるから、被請求人が本件商標を出願し登録を得たとしても、生長の家宗教を信仰することを妨げたり、生長の家の宗教的儀式や集会を妨げるものではなく、信教の自由を侵害することにはならないというべきである。
(3)請求人等の活動を妨害する目的で登録されたことについて
被請求人は、本来的な宗教活動とは別異のものとして自己の業務に係る商品又は役務について使用する商標として本件商標を出願し登録を受けたものというべきであり、それが直ちに請求人の宗教的活動を妨害するものとはいえない。
(4)法令に違反して登録されたことについて
請求人は、本件商標が法令に違反して登録されたものである根拠として、著作者の名誉又は声望を害する方法により著作物を利用する行為は著作者人格権を侵害する行為とみなされること(著作権法第113条第6項)、著作者人格権を侵害する行為は特定の場合以外は著作者の死亡後においてもしてはならないこと(同法第60条)、本件商標を使用する行為は著作者人格権侵害行為として民事罰のみならず刑事罰が課されること(同法第112条及び第119条、民法第709条)を挙げている。
しかしながら、もともと著作者人格権は著作者の一身専属的な権利であり、Aの死去により消滅しているというべきであるし、Aの著作に係る「實相の書」の著作権はAの遺族から被請求人が承継していることは前示のとおりであり、また、請求人の提出に係る証拠(甲2及び甲3等)によれば、被請求人はAの創始に係る生長の家の教義に端を発していることが認められ、Aの関係者ともいえる立場にある。
そうすると、被請求人が「實相の書」を商標として採択し使用することが直ちにAの名誉又は声望を害する方法による著作物の利用に当たるものとはいえず、著作権法第60条に該当するものとも認められない。
他に、本件商標が法令に違反して登録されたものであることを具体的に示す証左はない。
(5)小括
以上のとおり、請求人の主張はいずれも理由がなく、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものとは認められない。
請求人は、本件商標には「雅春書」の落款と落款印が付されており、このうちの「雅春」がAの氏名の著名な略称であるから、本件商標は商標法第4条第1項第8号に該当する旨主張しているので、以下、検討する。
本件商標の構成中の落款と落款印と称される部分は、崩し字や小さな刻印であって必ずしも鮮明でなく、直ちに「雅春書」又は「雅春」と判読することは困難である。
たとえ、「雅春書」及び「雅春」と判読できるとしても、請求人の提出に係る証拠を精査してみても、Aが「雅春」と略称されて著名となっている事実は見いだし難く、「雅春」がAの氏名の略称として著名であるとは認められない。
もとより、商標法第4条第1項第8号の趣旨は他人の人格的利益を保護することにあると解され、同号にいう「他人」とは現存する者に限られるから、死去していることが明らかなAは、同号でいう「他人」には該当しないものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当するものではない。
請求人は、本件商標と同一の構成からなる「實相の書」が請求人のみならず生長の家宗教の信者の礼拝対象として広く知られているから、本件商標は商標法第4条第1項第10号に該当する旨主張しているので、以下、検討する。
宗教における礼拝対象と商品又は役務の出所識別標識としての商標とは本質的に別異のものであることは前示のとおりである。そして、請求人の提出に係る証拠を精査してみても、また、職権をもって調査しても、「實相の書」が請求人の業務に係る商品又は役務を表示する商標として取引者、需要者の間に広く認識されている事実を発見することができない。
したがって、本件商標は、「實相の書」と同一の構成からなるものであるとしても、商標法第4条第1項第10号に該当するものではない。
請求人は、本件商標と同一の構成からなる「實相の書」が請求人のみならず生長の家宗教の信者の礼拝対象として広く知られているから、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当する旨主張しているので、以下、検討する。
請求人の提出に係る証拠(甲2、甲5及び甲8ないし甲13等)によれば、「實相の書」は、請求人のみならず被請求人や被請求人に包括される単位宗教法人等によっても礼拝されていることが認められるばかりでなく、被請求人は生長の家宗教を主宰するものといえることからすると、被請求人が商標法第4条第1項第15号にいう「他人」に該当するものと断定することはできない。
また、前示のとおり、宗教における礼拝対象と商品又は役務の識別標識たる商標とは本質的に別異のものであり、「實相の書」が生長の家の宗教を信奉する諸団体の業務に係る商品又は役務を表示する商標として取引者、需要者の間に広く認識されている事実を発見することができないし、「實相の書」が上記団体自身を表示するものとして広く知られているものとも認められない。
そうすると、「實相の書」が生長の家宗教の信者の間にはある程度知られているとしても、本件商標をその指定商品及び指定役務について使用した場合、これに接する取引者、需要者が請求人又は被請求人以外の生長の家の宗教を信奉する諸団体を連想、想起するようなことはないというべきであり、該商品又は役務が請求人又は被請求人以外の生長の家の宗教を信奉する諸団体と何らかの関係を有する者の業務に係る商品又は役務であるかの如く、その出所について混同を生ずるおそれはないものと判断するのが相当である。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。
請求人は、本件商標と同一の構成からなる「實相の書」が請求人のみならず生長の家宗教の信者の礼拝対象として広く知られており、被請求人が他人に損害を加える目的その他の不正の目的のために本件商標の登録を得たものであるから、本件商標は商標第4条第1項第19号に該当する旨主張しているので、以下、検討する。
前示のとおり、「實相の書」は、請求人又は被請求人以外の生長の家の宗教を信奉する諸団体の業務に係る商品又は役務を表示する商標として取引者、需要者の間に広く認識されているものといえないし、まして外国における需要者の間に広く認識されているものとも認められない。
そうすると、本件商標は、「實相の書」と同一の構成からなるものであるとしても、不正の目的をもって使用をするものであるかについて検討するまでもなく、商標法第4条第1項第19号に定める要件を欠くものといわなければならない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当するものではない。
以上のとおり、本件商標は、商標法第3条第1項柱書、同法第4条第1項第6号、同項第7号、同項第8号、同項第10号、同項第15号及び同項第19号のいずれにも違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項の規定に基づきその登録を無効にすべき限りでない。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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