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Trademark Appeal Case

著名フレーズの周知性と類否

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号異議2016−685012(T2016−685012/J7)
審判種別異議
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

国際登録第1261460号商標の商標登録を維持する。

理由テキスト

第1 本件商標

本件国際登録第1261460号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(A)のとおりの構成からなり、2014(平成26)年11月28日にSwitzerlandにおいてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権を主張し、2015年5月22日に国際商標登録出願され、第9類及び第14類に属する別掲(B)に記載したとおりの商品を指定商品として、平成28年1月15日に登録査定、同年3月11日に設定登録されたものである。

第2 登録異議の申立ての理由

登録異議申立人(以下「申立人」という。)は、本件商標の登録は取り消されるべきであると申し立て、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第30号証を提出した。

1 「ONE MORE THING」標章の周知著名性

申立人は、iMac、MacBook等のパーソナルコンピュータ、多機能携帯電話機iPhone、デジタルオーディオプレーヤーiPod、タブレット型コンピュータiPad、腕時計型コンピュータApple Watch、音楽・映像配信サービスiTunes等を製造・販売・提供することで全世界において広く知られた米国の法人である。申立人は、「世界の最も価値あるブランドランキング」で首位を獲得するなど(甲2)、全世界で最も高い知名度を有しており、申立人の動向や、申立人がリリースする新製品・新サービスに全世界の消費者・メディアが注目しているといっても過言ではない。

申立人は、「ONE MORE THING」の文字からなる商標(以下「引用商標」という場合がある。)を引用する。申立人は、毎年、自身の新製品について発表会を開催しているところ、同発表会で初公開される申立人の新製品・新サービスは、全世界から注目・期待を集めており、申立人の創業者である故スティーブ・ジョブズは、遅くとも1999年の発表会から、プレゼンテーションの終盤で、発表会参加者が想定し得ない新商品やサービスを発表する前振りの言葉として「ONE MORE THING...」(訳:もう1つ...)を頻繁に使用してきた(甲3〜24)。この事実は、特に、甲第3号証に係るウェブサイト上(https://www.youtube.com/watch?v=hyCZbXXgi−M)で公開されている故スティーブ・ジョブズによる「ONE MORE THING」の動画からも明らかである。

そして、発表会を重ねるにつれ、プレゼンテーション終盤に「ONE MORE THING」という台詞が飛び出すこと、その次には画期的な商品やサービスが発表されることは、会場参加者も承知のこととなり、その台詞が発せられると、会場からは「待ってました」とばかりに大きな歓声があがることがもはやお約束となっている。

その結果、「ONE MORE THING」は、故スティーブ・ジョブズの「十八番」「決めぜりふ」「お決まりのフレーズ」「名台詞」「代名詞」「専売特許とも言える言葉」などと称され、故スティーブ・ジョブズ、ないし、故人がCEOであった申立人の業務に係る商品・役務の商標として広く知られている(甲4〜11,19〜22)。

そして、発表会において「ONE MORE THING」の台詞とともに予想だにしない新製品が発表されるという流れは、CEOが交代した現在においても引き継がれており(甲10)、引用商標「ONE MORE THING」に蓄積した業務上の信用、新製品への高い期待、出所表示力、顧客吸引力は、申立人に極めて強く結びついている。

すなわち、引用商標「ONE MORE THING」が、申立人の商標として周知著名であり、その周知著名性は、現在においても維持されていることは明らかである。

なお、商標権者は全世界で本件商標を出願(国際出願)しているところ、トルコ特許庁の審決においては、申立人の商標「one more thing(図形)」が長年にわたり使用されており、同商標が周知となっているとして、本件商標は、申立人の商標との混同のおそれを引き起こすものと認定されている(甲28〜30)。

2 商標権者の行為

商標権者は、腕時計の製造・販売を業とするスイス国の法人である。

申立人は、腕時計型コンピュータ「Apple Watch」を製造・販売しているところ(甲25)、商標権者と申立人とは、「腕時計」という商品分野において競合関係にある。実際、商標権者は、申立人が腕時計市場に参入したことを快くは考えておらず、過去に「もし製品名がiWatchだったら、世界各地でアップルを訴える」とまで表明していた(甲19)。

このような競合関係や、商標権者から申立人に対しての攻撃的な発言などに加え、引用商標「ONE MORE THING」が申立人の商標として周知著名であったことから、商標権者が本件商標「SWATCH ONE MORE THING」を国際出願することについては、各種メディアが次のとおり指摘している。

・ただ、もしかすると商標を使うつもりはまったくなく、アップルがApple Watchを発売し、腕時計分野に参入したことへの単なる意趣返しといった意味合いがあるのかもしれない(甲19)。

・スウォッチとしては、牽制として商標登録を行なったのかもしれません(甲20)。

・少なからずアップルに対する“牽制”ないし“嫌がらせ”のような意味が込められているようにも思えるのは邪推なのでしょうか(甲21)。

・Swatchが「One More Thing」の商標を何に使うのかは不明ですが、Appleに対し存在感を示そうとしているのは明らかです(甲22)。

さらに、申立人は1997年から2002年まで広告キャンペーンのスローガンとして「Think different」というフレーズを用いていたが、商標権者は、これを剽窃した商標「Tick different」をも国際出願しており(国際登録第1279757号(甲26)、国際登録第1280843号(甲27))、この事実も各種メディアで指摘されている(甲19,20,23)。

また、現在まで、商標権者が本件商標を自己の商品に使用した事実は全くない。

これらの事情を総合考慮すると、商標権者は、本件商標を自己の商品に使用する目的ではなく、申立人の業務を妨害ないし阻止することのみを目的として登録出願したことは明らかである。

3 商標法第3条第1項柱書について

上記2のとおり、商標権者は、申立人が引用商標を使用していることを知りながら、申立人の業務を妨害ないし阻止することのみを目的として、引用商標を剽窃して登録出願したものであり、現在、商標権者が本件商標を使用している事実はなく、また、将来において自己の業務に係る商品に使用する意思がないことも明らかであるから、本件商標は、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」に当たらず、商標法第3条第1項柱書に違反する。

4 商標法第4条第1項7号について

上記2のとおり、商標権者は、申立人が引用商標を使用していることを知りながら、申立人が引用商標について商標登録を取得していないことを奇貨として、申立人の業務を妨害ないし阻止するという不正の目的をもって、引用商標を剽窃して登録出願したものである。

商標法は、「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」(商標法第1条)ところ、商標権者が本件商標を使用しないことは明らかであるから、本件商標には保護に値すべき業務上の信用が蓄積し得ないことは明白であって、また、本件商標が使用されれば、著名な引用商標との混同が生じることは必至であり、需要者の利益を損なうこともまた明白である。

すなわち、本件商標の出願・登録は、著しく社会的妥当性を欠くものであり、商標法の趣旨にもとるものであって、本件商標について商標登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものであるから、本件商標は、公序良俗に反するおそれのある商標であり、商標法第4第条1項第7号に該当する。

5 商標法第4条第1項第10号について

本件商標は、「SWATCH ONE MORE THING」の文字からなるところ、その構成中の「SWATCH」は商標権者の商号であり、「ONE MORE THING」は、引用商標「ONE MORE THING」と同一である。そうすると、本件商標に接する取引者・需要者は、本件商標を「SWATCH」と「ONE MORE THING」との2つの言葉が結合して構成されているものと認識することは明白である。加えて、上記のとおり、引用商標は申立人の商標として周知著名であるから、本件商標の構成中の「ONE MORE THING」の文字部分は、取引者・需要者に対し、商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えることは明らかである。したがって、本件商標の要部は「ONE MORE THING」の文字部分にあり、引用商標と外観上同一であって、同一の称呼及び観念を生じるものであるから、本件商標と引用商標とは類似する。

実際、上記のとおり、トルコ特許庁の審決においては、申立人の商標「one more thing(図形)」は長年使用され周知となっており、本件商標が混同を生じさせるおそれがあるものと認定されており(甲28〜30)、この点からも、引用商標が周知であり、本件商標が取引者・需要者の誤認混同を生じさせる類似の商標であることは明白である。

また、引用商標は、申立人の業務に係る商品・役務(コンピュータ、デジタルオーディオプレーヤー、多機能携帯電話機、タブレット型コンピュータ、腕時計型コンピュータ等の電気通信機器ないし電子機器並びに音楽・映像等配信サービス等)に使用され、本件商標の出願時及び査定時に、需要者の間に広く認識されていたことは明らかである。

よって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。

6 商標法第4条第1項第15号について

上記のとおり、本件商標と引用商標とは類似の商標である上、本件商標はその構成中に引用商標をそのまま含むものであるから、その類似性は極めて高く、また、引用商標は本件商標の出願時及び査定時において周知著名となっていたものであるから、需要者・取引者が商品の出所を混同するおそれが極めて高い上、本件商標は、著名商標の希釈化・汚染化が生じるおそれがあるといわざるを得ない。

実際、上記のとおり、トルコ特許庁の審決においては、申立人の商標「one more thing(図形)」は長年使用され周知となっており、本件商標が混同を生じさせるおそれがあるものと認定されており(甲28〜30)、この点からも、引用商標が周知であり、本件商標が取引者・需要者の誤認混同を生じさせる商標であることは明白である。

よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。

7 商標法第4条第1項第19号について

上記のとおり、本件商標と引用商標とは類似の商標であり、商標権者が、申立人の著名商標に依拠する意図をもって本件商標を登録出願したことは明らかである。

つまり、申立人商標が著名であり極めて大きな顧客吸引力を有する事実を考慮すれば、本件商標は、申立人商標のもつ強大な顧客吸引力・名声へのただ乗りによって不正の利益を得る目的を有するか、申立人の商標の有する強い識別力・表示力・顧客吸引力を希釈化することによって申立人に損害を加える目的を有するかのいずれかの不正の目的をもって使用するものと解さざるを得ないものである。

よって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。

8 むすび

以上のとおり、本件商標は、商標法第3条第1項柱書の要件を具備しない、また、同法第4条第1項第7号、第10号、第15号及び同第19号に該当するものであるから、本件商標の登録は、同法第43条の2第1号により取り消されるべきである。

第3 当審の判断

1 引用商標の周知著名性について

(1)申立人の提出に係る証拠及び当審における職権調査によれば、以下の事実が認められる。

ア 申立人は、スマートフォンのiPhone、タブレット型情報端末のiPad、パーソナルコンピュータのMacintosh(Mac)、携帯音楽プレーヤーのiPod、腕時計型コンピュータのApple Watch、オペレーティングシステムのmacOS、iOSなどの開発・販売を行い、また、直営店のApple StoreとApple Online Storeにおいてハードウェアとソフトウェアの販売を行っているほか、音楽、映画、テレビ番組、アプリ、電子書籍などのデジタルコンテンツのダウンロード販売を提供しているなどインターネット関連製品・デジタル家庭電化製品及び同製品に関連するソフトウェア製品を開発・販売するアメリカ合衆国カリフォルニア州に本社を置く多国籍企業である。

なお、現社名の「Apple Inc.」は、1977年10月3日に設立されて以来名乗っていた「Apple Computer,Inc.」から2007年1月9日に改称したものである。

(以上、フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」より)

イ 2016年5月12日付け「『世界で最も価値あるブランド』全100社ランキング」(Forbes JAPAN)において、「フォーブスがこのほど発表した2016年版『世界で最も価値あるブランド』ランキングでは、アップルは依然として首位を維持した。ブランド価値は・・・1,541億ドル(約16兆7,969億円)となっている。」との記載がある(甲2)。

ウ スティーブ・ジョブズ(スティーブン・ポール・ジョブズ(Steven Paul Jobs,1955年2月24日生誕・2011年10月5日死没)は、1976年6月、スティーブ・ウォズニアックと共に初期のホームコンピュータ「Apple 1(ローマ数字で表されたもの)」の販売を開始した。その後、マイク・マークラが加わり、1977年1月3日、アップルコンピュータを法人化した。1977年6月5日に発売された「Apple 2(ローマ数字で表されたもの)」は1980年には10万台、1984年には200万台を超える売上で、莫大な利益をアップルにもたらした。1984年に発売された「Macintosh」が搭載したグラフィカルユーザインターフェースは当時のあらゆるパソコンを凌駕する洗練されたもので、新たなコンピュータ像を想像した。しかし、本人の立ち居振舞いが社内を混乱させたとして、1985年にアップルから追放された。

1996年、スティーブ・ジョブズは、業績不振に陥っていたアップル社に復帰、1997年には、暫定CEOとなる。2000年、正式にCEOに就任。2001年から2003年にかけてMacintoshのOSをNeXTの技術を基盤とした「Mac OS X」へと切り替える。その後は、iPod、iPhone、iPadといった一連の製品群を軸に、アップル社の業務範囲を従来のパソコンからデジタル家電とメディア配信事業へと拡大させた。

2011年10月5日、アップルはジョブズが死去したと発表した。56歳没。2012年2月11日、第54回グラミー賞で、特別功労賞の一つ「トラスティーズ賞」が授与された。

(以上、前出「ウィキペディア(Wikipedia)」より)

エ YouTube(ユーチューブ)のサイトにおいて、「Steve Jobs“One more thing...”complete compilation(1999−2011)」の記載がある(甲3)。

オ 日経トレンディネット(2006年1月12日付け)において、「ソニーはiPodに勝てるか? ウォークマンの“One more thing...”探求」の見出しの下、「“One more thing...”−−言わずと知れた、アップルコンピュータのスティーブ・ジョブズCEOの決めぜりふだ。」の記載がある(甲5)。

カ マイナビニュース(2014年9月9日付け)において、「Apple発表会の『One more thing』って深い意味があるの?−いまさら聞けないiPhoneのなぜ」の見出しの下、「Jobs氏によるプレゼンが終盤に差し掛かったとき、思い出したかのように『One more thing』と始まるのです。会場が一瞬どよめいたあとスクリーンには想定外の新製品が映し出され、大きな歓声があがるという流れがおきまりのパターンになっていました。」の記載がある(甲6)。

キ PRESIDENT Online(2013年5月20日付け)において、「なぜS・ジョブズのプレゼンは聴衆の心を刺したのか」の見出しの下、「プレゼンの名手といえば、真っ先に浮かぶのは、今は亡きスティーブ・ジョブズ氏だろう。『もう一つ(One more thing)』といって、ステージ中央に戻ってくるのが、お得意のやり方だった。」の記載がある(甲7)。

ク iPhone Maniaにおいて、「発表イベントでのサプライズは故スティーブ・ジョブズ氏の代名詞でもありました。大きな発表が終わった後、少し間をとってから“One more thing”とプレゼンを再開します。」の記載がある(甲8)。

ケ Yahoo!知恵袋(2011年10月7日付け)において、「決まり文句でもあるし、数回の講演で“One more thing”を使うことで、次回から聴衆は最後になにかある!と期待して、最初から最後まで講演に集中するというプレゼンの作戦でもあるのでしょう。」の記載がある(甲11)。

コ 特報ガジェQ(2011年10月6日付け)において、「10月5日に死去した、Apple前CEOスティーブ・ジョブズ氏が、新製品発表イベントで驚きの発表の前に必ずといっていいほど口にする『One more thing』のシーンをまとめた動画が感動的と話題。YouTubeのコメント欄には世界中から追悼コメントが寄せられている。」の記載がある(甲12)。

サ ITmedia(2009年9月10日付け)において、「ジョブズCEOによる『One more thing...』――目玉はiPod nano!」の見出しの下、「・・・さらに終了間際にはステージ上でジョブズ氏による『One more thing...』のコールが――。ここで発表された目玉製品とは『iPod nano』であり、・・・」の記載がある(甲13)。

シ exciteニュース(マイナビニュース2014年9月9日付け)において、「Apple発表会の『One more thing』って深い意味があるの?−いまさら聞けないiPhoneのなぜ」の見出しの下、「『One more thing』を直訳すると『もうひとつ』程度の意味合いですが、AppleのCEOが発表会で発する『One more thing』は少々ニュアンスが異なります。意訳すれば『実はまだあるんだ・・・・・・』であり、これから未発表の製品を紹介するときに発する、サプライズの導入役を果たす“お約束”です。このフレーズは、前CEOのSteve Jobs氏が好んで使用していました。WWDCの基調講演や製品発表会のとき、Jobs氏によるプレゼンが終盤に差し掛かったとき、思い出したかのように『One more thing...』と始まるのです。会場が一瞬どよめいたあとスクリーンには想定外の新製品が映し出され、大きな歓声があがるという流れがおきまりのパターンとなっていました。」の記載がある(甲17)。

ス 週間アスキー(2013年7月7日付け)において、「Apple基調講演17 ジョブズが登壇した最後のキーノート Mac」の見出しの下、「iCloudの詳細とOne more thing」の項において「『One more thingについても話そう』とジョブズがお約束の一言を発すると、会場はどっと沸いた。」の記載がある(甲18)。

セ ニュースイッチ(2015年8月23日付け)において「“One more thing・・・”(そして、もう一つ・・・)というのは、アップル共同創業者、スティーブ・ジョブズのお決まりのフレーズ。」の記載(甲19)、ギズモード・ジャパン(2015年8月25日付け)において「『One More Thing』といえば、故スティーブ・ジョブズの名セリフ。」の記載(甲20)、ガジェット速報(公開日:2015年8月24日)において「One more thingと言えば、かつてアップルでその手腕を大いに振るったカリスマCEOである故スティーブ・ジョブズ氏が発表会の中で度々使用したことで一躍有名になったフレーズとしても知られています。」の記載(甲21)、ライブドアニュース(2015年8月21日付け)において「Appleの故スティーブ・ジョブズCEOが、新しいサプライズ製品やサービスを最後に紹介するときにしばしば使った『One More Thing』の名台詞を、・・・」の記載(甲22)、ツイナビ(2015年8月25日付け)において「『One More Thing』といえば、故スティーブ・ジョブズの名セリフ。新製品発表会最後に、このフレーズが飛び出せば、サプライズが起きます。」の記載(甲23)がそれぞれある。

ソ インターネット上のブログにおいて、「2013.02.26」の表示及び「Steve Jobsの十八番といえば基調講演での“One more thing...”というセリフ。」の記載(甲4)、「2015年03月02日」の表示及び「そしてこの『One more thing』ですが、アップルのスティーブ・ジョブスもプレゼンで同じように使っていました。商品発表がひと通り終わり、舞台から消えるか、と思いきやこのフレーズを口にして、びっくりする商品の説明をするのです。」の記載(甲9)、「2014.09.10」の表示並びに「重要なのは『One more thing・・・』があったこと」及び「『One more thing・・・』はジョブズ氏の専売特許とも言える言葉です。」の記載(甲10)、「2005年12月28日」の表示及び「GQ JAPAN 2005年12月号/・・・そして重要な発表は講演の終盤に切り出される。『And one more thing...』この一言が新製品のサインだ。」の記載(甲14)、「2005.10.05」の表示及び「ジョブズからの手紙『One more thing...』」の記載並びにその他9件の「One more thing...」に係る記載(甲15)、「2016年3月20日」の表示及び「明日、“One more thing”はあるか」の記載(甲16)、「2015/08/21」の表示及び「故スティーブ・ジョブズCEOが、新しいサプライズ製品やサービスを最後に紹介するときにしばしば使った『One More Thing』の名台詞を、スイスの腕時計メーカーSwatchが商標登録していることが明らかになりました。」の記載(甲24)がそれぞれある。

(2)上記(1)によれば、申立人が、インターネット関連製品・デジタル家庭電化製品及び同製品に関連するソフトウェア製品を開発・販売する企業として著名であり、同社の共同設立者の一人である故スティーブ・ジョブズは、CEOも務め、その業績に貢献したことで世界的に広く知られていることが認められるところ、申立人の新製品の発表会において、申立人の創業者である故スティーブ・ジョブズは、遅くとも1999年の発表会から、プレゼンテーションの終盤で、新商品やサービスを発表する前振りの言葉として「One more thing...」を使用してきたことがうかがわれる。

そして、申立人は、引用商標「ONE MORE THING」に蓄積した業務上の信用、新製品への高い期待、出所表示力、顧客吸引力は、申立人に極めて強く結びついており、引用商標が申立人の商標として周知著名である旨主張する。

しかしながら、「One more thing...」の言葉は、通常の会話において使用され得るものであり、申立人が提出する証拠も、インターネットから得られたニュースやブログ等の情報であって、新商品の発表会において故スティーブ・ジョブズがプレゼンテーション中に発する言葉として使用していたことを挙げているのみであり、そのことにより申立人又は申立人が使用する商品についての商標として使用していることと関連付けるような証拠は提出されていない。

してみれば、申立人の提出に係る証拠によっては、引用商標が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品を表示するものとして、日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されているとまでは認めることはできない。

2 本件商標と引用商標との類似性について

引用商標は、「ONE MORE THING」の欧文字からなり、その周知著名性の評価は上記1のとおりであるところ、該文字部分は、「もう一つのもの」の意味を認識させる英語を表したものといえることから、「もう一つのもの」の観念、「ワンモアシング」の称呼を生じるものである。

他方、本件商標は、別掲(A)のとおり、「SWATCH ONE MORE THING」の欧文字を横書きしてなるものであるところ、その構成中の「SWATCH」の文字部分が商標権者の商号の略称として、又は同人の取り扱う商品の商標として、需要者の間に広く認識されているものである一方、同じく「ONE MORE THING」の文字部分は、上記のとおり、「もう一つのもの」の意味を認識させる英語を表したものであり、日常の会話において使用されるような語句である。そうすると、本件商標は、その構成中において、「SWATCH」の文字部分が取引者、需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる。してみれば、本件商標は、その構成全体から「スウォッチワンモアシング」の称呼が生じるほか、「SWATCH」の文字部分から、「スウォッチ」の称呼を生じ、また「スウォッチ(Swatch)のもう一つのもの」程度の観念が生じるというのが相当である。

そこで、本件商標と引用商標との類似性についてみるに、外観上、「SWATCH」の文字の有無において明らかに区別し得るものであり、称呼上も「スウォッチ」の音の有無によって明確に聴別し得るものである。本件商標から生じる「スウォッチ」の音と引用商標から生じる「ワンモアシング」の音においては比較するまでもなく相違するものであり、明確に聴別し得るものである。さらに、観念については、本件商標からは「スウォッチ(Swatch)のもう一つのもの」が生じ、引用商標からは「もうひとつのもの」が生じるものであるから、明らかに相違するものであり、相紛れるものとはいえない。

したがって、本件商標と引用商標とは、外観、称呼、観念のいずれの点からみても相紛れることのない非類似の商標であるといえる。

3 本件商標の商標法第4条第1項第10号該当性について

本件商標と引用商標とは、上記2のとおり、非類似の商標であるといえる。

また、上記1のとおり、引用商標が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品を表示するものとして、需要者の間に広く認識されているとまでは認めることはできない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号所定のほかの要件について論及するまでもなく、同号に該当しない。

4 本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について

本件商標と引用商標とは、上記2のとおり、非類似の商標であるといえる。

また、上記1のとおり、引用商標が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品を表示するものとして、需要者の間に広く認識されているとまでは認めることはできない。

そうとすれば、本件商標は、これをその指定商品について使用しても、これに接する取引者、需要者をして、該商品が申立人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように連想、想起することはなく、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないというべきである。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。

5 本件商標の商標法第4条第1項第19号該当性について

本件商標と引用商標とは、上記2のとおり、非類似の商標であるといえる。

また、上記1のとおり、申立人の提出に係る証拠によっては、引用商標が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品を表示するものとして、日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されているとまでは認めることはできないものである。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号所定のほかの要件について論及するまでもなく、同号に該当しない。

6 本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性について

申立人は、商標権者は、申立人が引用商標を使用していることを知りながら、申立人が引用商標について商標登録を取得していないことを奇貨として、申立人の業務を妨害ないし阻止するという不正の目的をもって、引用商標を剽窃して登録出願したものであり、その行為は、著しく社会的相当性を欠き、商標法の予定する秩序に反するものである旨述べている。

しかしながら、申立人の提出に係る証拠によっては、引用商標が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品を表示するものとして、日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されているとまでは認めることができないものであることは、上記1のとおりである。

また、申立人は、商標権者と申立人とが競合関係にあること、商標権者から申立人に対して攻撃的な発言があったこと、本件商標を国際出願することについての各種メディアの指摘があること(甲19〜24)、商標「Tick different」を国際出願している事実に対する各種メディアの指摘があることを挙げているが、これらが直ちに申立人の業務を妨害ないし阻止するという不正の目的によるものともいえない。

してみれば、商標権者が不正の利益を得るために使用する目的で本件商標を登録出願し、商標登録を受けたものということはできないから、かかる行為が、直ちに公正な取引秩序を乱すものであって、ひいては商標法の精神に反し、商取引の秩序に反するものともいえない。

その他、本件商標が、不正な意図をもって登録出願されたものとして、その経緯において著しく社会的妥当性を欠くものがあるということもできない。

したがって、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標といえないから、商標法第4条第1項第7号に該当しない。

7 本件商標が商標法第3条第1項柱書の要件を具備していたかについて

申立人は、商標権者が申立人の業務を妨害ないし阻止することのみを目的として、引用商標を剽窃して登録出願したものであり、現在、商標権者が本件商標を使用している事実はなく、また、将来において自己の業務に係る商品に使用する意思がないことも明らかである旨主張している。

しかしながら、商標法第3条第1項柱書の「自己の業務に係る商品又は役務について使用する商標」として登録を受けられる商標は、現に使用している商標だけでなく、使用する意思があり、かつ、近い将来において使用する予定のある商標も含まれるものと解すべきであるところ、申立人のいう商標権者が申立人の業務を妨害ないし阻止することのみを目的として引用商標を剽窃して登録出願したものであると直ちにいうことができないことは、上記6のとおりであり、また、現に、主として腕時計の製造・販売を業とする商標権者が、該商品及びそれと何ら関係のないものともいえない商品について、本件商標に係る登録出願をして登録を得ているのであるから、上記主張及びそれに係る証拠のみによっては、近い将来において、商標権者が本件商標をその指定商品について使用する意思がないことまでを具体的に裏付けるものとは認められない。

したがって、本件商標は、商標法第3条第1項柱書の要件を具備しないということができない。

8 まとめ

以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第3条第1項柱書の要件を具備せずにされたものではなく、同法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第15号及び同項第19号のいずれにも違反してされたものでないから、同法第43条の3第4項の規定により、維持すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

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