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Trademark Appeal Case

流紋の商標登録の可否

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号異議2017−900344(T2017−900344/J7)
審判種別異議
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

登録第5974714号商標の商標登録を維持する。

理由テキスト

1 本件商標

本件登録第5974714号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1のとおりの図形からなり,平成29年5月26日に登録出願,第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,図書の貸与,書籍の制作,娯楽の提供,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供,録音済み記録媒体の貸与,録画済みビデオテープの貸与」を指定役務として,同年7月25日に登録査定され,同年8月25日に設定登録されたものである。

2 引用商標

登録異議申立人(以下「申立人」という。)が引用する商標は,別掲2のとおりの図形からなる「河藤流という日本舞踊の流派の流紋」であり,書籍,会則,免状,舞扇,手ぬぐいなどに使用するものである。

3 登録異議の申立ての理由

申立人は,本件商標は,商標法第4条第1項第7号,同第10号及び同第15号に該当するものであるから,その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきものであるとして,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第10号証(枝番号を含む。)を提出した。

(1)河藤流について

河藤流は,河野達郎(明治35年5月9日出生,昭和60年4月7日死亡。以下「達郎」という。)が創流した,日本舞踊の流派の一つである。

達郎は,6歳ころから,日本舞踊の流派の一つである花柳流・藤間流で舞踊をしていた。その後,「河野たつろ」という芸名で全国を回って児童舞踊を広めるなどしたが,昭和30年ころ,河藤流を起こし,家元「河藤たつろ」を襲名した(甲1)。

河藤流は,舞踊のことを意味するほか,河藤流家元を頂点とする,河藤流に属する師範や門弟からなる団体も意味する。団体としての河藤流は,各種公演・大会や本部研修会を開催するなどし,舞踊の流派としての活動を行っていた。

達郎は,その功績が認められ,昭和49年,藍綬褒章を授章した。翌50年,達郎は河藤流の宗家に就任し,同時に,達郎の長女である金子陽子(昭和9年1月6日出生,平成28年7月3日死亡。以下「陽子」という。)が達郎の指名により河藤流の家元を継承し,陽子は河藤流二代目家元として「河藤涌光」を襲名した(甲2,甲4)。なお,申立人は,陽子の夫である(甲3)。

達郎及び陽子は,自らの芸の精進に努めるとともに,河藤流の発展・普及・門弟指導などに努め,昭和56年,達郎は勲五等双光旭日章(甲4)を,陽子は紺綬褒章をそれぞれ授章した(甲4)。

達郎は昭和60年4月7日に亡くなり,その後,陽子は,河藤流の家元として,河藤流のさらなる発展・普及・門弟指導などに努めた(甲4)。また,陽子は,河藤流の会報である「藤の輪」(河藤ニュース。年4回発行)を編集・発行する河藤流創作邦舞株式会社の代表取締役も務めた(甲5)。

(2)河藤流の流紋について

河藤流では,別掲2のとおりの構成からなる「藤水(ふじすい)」と呼んでいる流紋と,「輪藤(わふじ)」と呼んでいる流紋の二つの流紋を使用している。

「藤水」は,陽子が創案した流紋であり,藤の花及び葉と川の流れを組み合わせて図案化したものである。また,「輪藤」は,達郎が創案した流紋であり,藤の垂れ下がって咲く花を二重の円で図案化したものである。

河藤流の流紋は,着物,河藤流の基本技法を著した書籍(甲6),会則(甲7),免状(甲8),舞踊で用いられる舞扇(甲9),同手ぬぐい(甲10)などで使用されている。本件商標は,流紋「藤水」と同一の紋である。

(3)陽子の死亡

陽子は,平成28年7月3日,亡くなった。陽子は,亡くなる直前まで,病床から開催予定の公演等について指示等を行っていたものの,河藤流家元の継承者について,誰かを指名することはなかった。陽子の相続人は,申立人ただ一人である。申立人は,陽子の死亡後,河藤流創作邦舞株式会社の代表取締役に就いた(甲5)。

(4)本件商標の登録出願

本件商標の商標権者である星野登美子(以下「星野」という。)は,河藤流の門弟の一人であり,「河藤雅音」という舞踊名を与えられ,活動を行っていた。

星野は,陽子の死亡後,申立人から「河藤流のことは雅音さんに委ねます。」などと言われたとして,河藤流の三代目家元として「河藤涌光」を襲名する旨を表明した。また,平成29年5月26日,本件商標の出願申請を行った。

しかしながら,申立人は星野に対し,河藤流の三代目家元に指名したことも,継承するよう言ったこともなく,「河藤涌光」を襲名してよいと言ったこともないのであって,星野が勝手に名乗っているものである。また,申立人は星野に対し,河藤流の流紋の使用権限を付与したことはなく,まして,本件商標を出願申請することについて,申立人は星野に対し,承認・了解したことはない。

(5)商標法第4条第1項第7号の該当性

河藤流は,上記述べたとおり,初代家元・宗家である達郎が創流し,二代目家元である陽子が発展させた舞踊の流派の一つを意味し,また,家元を頂点とする団体を意味するのであって,家元ではない一個人が独占的に使用できるものではない。

河藤流の流紋も,達郎及び陽子がそれぞれ創案した著作物であって,権利者の許諾なく他の第三者が独占的に使用できるものではない。

しかしながら,星野は,陽子の唯一の相続人である申立人の承認・了解なく,勝手に家元を継承したなどとして,本件商標の出願に及んだというのである。

星野による本件商標の登録出願の経緯には著しく社会的妥当性を欠くものがあり,また,他人の著作物の登録を認めることは商標法の予定する秩序に反するものとして容認し得ないというべきであるから,商標法第4条第1項第7号に違反してなされたものというべきである。

(6)商標法第4条第1項第10号の該当性

「藤水」は河藤流の流紋であるところ,星野と河藤流とは同一性を有さないから,商標法第4条第1項第10号にいう「他人」に該当することは明らかである。したがって,「藤水」と同一の紋である本件商標は,星野との関係では「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するもの」に該当する。

また,「藤水」は,本件商標の登録出願時及び査定時の各時点において,河藤流という日本舞踊の流派の流紋を表示するものとして,需要者の間に広く認識されている商標となっていたと認められる。

本件商標の指定役務と「藤水」が使用される役務とが同一又は類似であることは明らかである。

よって,本件商標は,他人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標であって,その役務について使用をするものであるから,商標法第4条第1項第10号に該当する。

(7)商標法第4条第1項第15号の該当性

河藤流は星野と同一性を有さないので,河藤流の構成員らの芸術活動は,「他人の業務にかかる役務」に該当する。

また,河藤流の流紋である「藤水」は需要者の間に広く認識されているところ,本件商標はこれと同一であるから,本件商標が河藤流の流紋を表示する商標であると混同するおそれがある。

したがって,仮に,本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当しない場合であっても,同第15号に該当する。

4 当審の判断

(1)商標法第4条第1項第7号該当性について

ア 商標法第4条第1項第7号は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は商標登録をすることができないとしているところ,同号は,商標自体の性質に着目したものとなっていること,商標法の目的に反すると考えられる商標の登録については,同法第4条第1項各号に個別に不登録事由が定められていること,商標法においては,商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されていることを考慮するならば,商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法第4条第1項第7号に該当するのは,その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである。

そして,同号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは,商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので,特段の事情のある例外的な場合を除くほか,許されないというべきである。 また,特段の事情があるか否かの判断に当たっても,出願人と,本来商標登録を受けるべきと主張する者との関係を検討して,例えば,本来商標登録を受けるべきであると主張する者が,自らすみやかに出願することが可能であったにもかかわらず,出願を怠っていたような場合や,契約等によって他者からの登録出願について適切な措置を採ることができたにもかかわらず,適切な措置を怠っていたような場合は,出願人と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は,あくまでも,当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから,そのような場合にまで,「公の秩序や善良の風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でない(平成14年(行ケ)第616号,平成19年(行ケ)第10391号)。

イ 申立人の主張について

(ア)申立人は,本件商標の出願の経緯について,「申立人は星野に対し,河藤流の三代目家元に指名したことも,継承するよう言ったこともなく,『河藤涌光』を襲名してよいと言ったこともないのであって,星野が勝手に名乗っているものである。また,申立人は星野に対し,河藤流の流紋の使用権限を付与したことはなく,まして,本件商標を出願申請することについて,申立人は星野に対し,承認・了解したことはない。」旨を主張している。

しかしながら,申立人の主張する「本件商標の商標権者である星野は,河藤流の門弟の一人であり,『河藤雅音』という舞踊名を与えられ,活動を行っていた。星野は,陽子の死亡後,申立人から『河藤流のことは雅音さんに委ねます。』などと言われたとして,河藤流の三代目家元として『河藤涌光』を襲名する旨を表明した。また,平成29年5月26日,本件商標の出願申請を行った。」との経緯をみると,本件商標の出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような事情が存在したと,直ちに判断することはできない。

(イ)申立人は,「『藤水』は,陽子が創案した流紋であり,藤の花及び葉と川の流れを組み合わせて図案化したものである。・・・河藤流の流紋も,達郎及び陽子がそれぞれ創案した著作物であって,権利者の許諾なく他の第三者が独占的に使用できるものではない。」旨を主張している。

しかしながら,提出された証拠には「著作物」とされている図形(「河藤流の流紋」)が書籍の裏表紙,免状,扇等に表示されている(甲6ないし甲10)が,いつ,だれが,どのようにこれを創作したものであるか,どのように管理されてきたか等,「著作物」とされている当該図形に係る権利関係を示す事実が具体的,客観的に示されているとはいえない。

ウ 判断

以上からすると,本件商標について,商標法の先願登録主義を上回るような,その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあるということはできないし,「著作物」とされている図形に係る権利関係も明確ではなく,公の秩序又は善良の風俗を害するというような事情があるということはできない。そして,商標権者と申立人との間の,家元の地位や商標権の帰属等を巡る問題は,あくまでも,当事者間の私的な問題として解決すべきものである。

その他,本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標と認めるに足る証拠もない。

してみると,商標権者が,本件商標の登録出願をし,登録を受ける行為が「公の秩序や善良の風俗を害する」という公益に反する事情に該当するものということはできない。

したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当しない。

(2)商標法第4条第1項第10号及び同第15号該当性について

申立人提出の証拠によれば,引用商標は,書籍の裏表紙,免状,扇等に表示されている(甲6ないし甲10)ことが認められるが,これらの証拠等を検討しても,引用商標が使用された役務の範囲,当該役務の取引量,引用商標の使用開始時期及び使用期間,使用地域,宣伝広告の事実等が明らかとはいえないことから,引用商標の周知性の程度を推し量ることができない。

してみれば,引用商標は,本件商標の登録出願時及び査定時に,他人(「団体としての河藤流」)の業務に係る役務を表示するものとして,需要者の間に広く認識されていたと認めることはできないものである。

そうすると,本件商標は,他人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって,その役務又はこれに類似する役務について使用をするものということはできない。

また,引用商標は,他人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていると認められないものであるから,商標権者が本件商標をその指定役務について使用をしても,取引者,需要者をして他人の業務に係る商標を連想又は想起させることはなく,その役務が,他人の業務と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように,役務の出所について混同を生ずるおそれがある商標ということもできない。

その他,本件商標と引用商標とが取引者,需要者において現実に出所の混同を生じている事実を認め得る具体的,客観的証拠は見いだせないものである。

したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第10号及び同第15号に該当しない。

(3)むすび

以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第7号,同第10号及び第15号のいずれにも違反してされたものとはいえないから,同法第43条の3第4項の規定により,その登録を維持すべきである。

よって,結論のとおり決定する。

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