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Trademark Appeal Case

歴史上の人物名と公序良俗

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号不服2017−5898(T2017−5898/J1)
審判種別不服
結論勝訴(請求認容)

結論テキスト

原査定を取り消す。
本願商標は、登録すべきものとする。

理由テキスト

第1 本願商標

本願商標は、「次郎長」の文字を縦書きしてなり、第33類に属する願書記載のとおりの商品を指定商品として、平成28年2月26日に登録出願され、その後、本願の指定商品については、原審における同年9月23日付け手続補正書により、第33類「清酒」に補正されたものである。

第2 原査定の拒絶の理由(要点)

原査定は、「本願商標は、『次郎長』の文字よりなるところ、『次郎長』とは、『幕末・維新期の侠客。駿河清水港の人で、本名山本長五郎。任侠で有名となり、晩年富士山麓の開墾に力をつくした(1820〜1893)』、歴史上の著名な人物である『清水次郎長』の略称と認められる。そして、一般に、歴史上の著名な人物にゆかりのある地等では、当該人物の氏名や略称などの標章を観光や土産物販売等の事業に用いて地域振興等を図っている場合が少なくなく、かつ、その人物の名声により強い顧客吸引力を有している。また、『清水次郎長』のゆかりの地においては、銅像が建てられ、祭り等が開催されている実情がうかがえる。そうすると、歴史上の著名な人物である『清水次郎長』に通じる本願商標を、一出願人に、指定商品について独占使用を認めることは、公正な競業秩序を害するものであって、商取引の秩序又は社会公共の利益に反するおそれがあるといわざるを得ない。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

第3 当審の判断

1 商標法第4条第1項第7号と歴史上の人物名について

商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、(1)その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、(2)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、(3)他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、(4)特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、(5)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるというべきであると判示されている(知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)第10349号判決)。

ところで、周知・著名な歴史上の人物名は、その人物の名声により強い顧客吸引力を有する。その人物の郷土やゆかりの地においては、住民に郷土の偉人として敬愛の情をもって親しまれ、例えば、地方公共団体や商工会議所等の公益的な機関が、その業績を称え記念館を運営していたり、地元のシンボルとして地域興しや観光振興のために人物名を商標として使用したりするような実情が多くみられるところであり、当該人物が商品又は役務と密接な関係にある場合はもちろん、商品又は役務との関係が希薄な場合であっても、当該地域においては強い顧客吸引力を発揮すると考えられる。このため、周知・著名な歴史上の人物名を商標として使用したいとする者も、少なくないものと考えられる。一方、敬愛の情をもって親しまれているからこそ、その商標登録に対しては、国民又は地域住民全体の反発も否定できない。

そして、上記判決では、商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するものとして、上記(1)ないし(5)の場合を例示として挙げており、その例示の一つとして、「(2)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合」が挙げられている。

そうすると、周知・著名な歴史上の人物名からなる商標は、(ア)当該歴史上の人物の周知・著名性、(イ)当該歴史上の人物名に対する国民又は地域住民の認識、(ウ)当該歴史上の人物名の利用状況、(エ)当該歴史上の人物名の利用状況と指定商品との関係、(オ)出願の経緯・目的・理由、(カ)当該歴史上の人物と請求人(出願人)との関係に係る事情を総合的に勘案して、当該商標を特定の者の商標としてその登録を認めることが、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するものと認められる場合には、商標法第4条第1項第7号に該当するというべきであるから、以下、本願商標について、上記(ア)ないし(カ)について検討する。

2 商標法第4条第1項第7号該当性について

(1)「次郎長」について、職権による調査(別掲)及び請求人の主張によれば、以下のとおりである。

ア 「次郎長」の周知、著名性

「次郎長」は、別掲1のとおり、辞書、辞典、その他書籍において取り上げられたり、同人にまつわる映画、テレビ番組が制作されるなど、全国的に周知、著名な歴史上の人物名である「清水次郎長」を表すものとして、広く一般に知られている。

そうすると、「次郎長」の文字は、全国的に周知、著名な歴史上の人物名である清水次郎長を表示したものと容易に認識されるものといえる。

イ 清水次郎長(次郎長)に対する国民又は地域住民の意識

清水次郎長(次郎長)は、上記アのとおり、歴史上の人物として全国的に知られているほか、別掲2及び3のとおり、同人の出生地である静岡市清水区には、「次郎長通り商店街」と名付けられた商店街があり、当該商店街が主催する「次郎長フェスティバル」や静岡市等が主催する「清水みなと祭り」において、市民役者が街を練り歩く「次郎長道中」が開催されている。

また、清水次郎長(次郎長)の功績伝承に取り組む「次郎長翁を知る会」のウェブサイトには、同人について「次郎長は清水が生んだ偉大な民衆のヒーローです。」から始まる紹介文や次郎長の略年譜、次郎長にまつわる遺跡として、静岡市清水区所在の「次郎長生家」、「壮士の墓」、「波止場と次郎長堤」、「次郎長資料館『船宿末廣』」、「梅蔭禅寺」及び「美濃輪稲荷神社」等が紹介が掲載され、「しずおか観光情報 駿府静岡市 最高の体験と感動を」と題するウェブサイトにおいても、上記施設の紹介等がされている。

さらに、平成30年には、上記「次郎長生家」が国登録有形文化財に正式登録される。

以上からすると、清水次郎長(次郎長)は、その出生地である静岡市清水区において、地域住民に広く敬愛されているといえる。

ウ 清水次郎長(次郎長)の利用状況

清水次郎長(次郎長)の出生地である静岡市清水区においては、上記イのとおり、地域振興や観光振興のために、同人の名称を利用していることが認められる。

また、別掲4(1)ないし(3)のとおり、静岡市清水区で販売する土産物、茶、菓子に同人の名称を利用していることが認められる。

エ 清水次郎長(次郎長)の利用状況と指定商品との関係

本願の指定商品は、上記第1のとおり、第33類「清酒」であるところ、当審において職権をもって調査するも、本願の指定商品を取り扱う分野において、請求人以外に、清水次郎長(次郎長)の名称が利用されている事実を見いだすことができなかった。また、清水次郎長(次郎長)が、本願の指定商品と関連の深い人物であるとの事情も見いだすことができなかった。

オ 出願の経緯・目的・理由

請求人は、大正時代に登録された登録第177867号商標(指定商品第38類「日本酒類及其ノ模造品」)を保有していたが、書換の意味を理解できず、その指定商品についての書換申請をせず、平成28年2月22日に存続期間が満了してしまったため、その商標とほぼ同一の態様からなる本願商標を出願したと主張している。

職権による調査によれば、登録第177867号商標は、別掲5のとおりの構成からなり、大正14年3月30日に登録出願、第38類「日本酒類及其ノ模造品」を指定商品として、同15年2月22日に設定登録され、平成28年2月22日に存続期間が満了したこと、存続期間満了時の権利者は、請求人であったことが認められる。

また、請求人は、「次郎長」の文字を、「清酒」に使用していることがうかがえる(別掲4(4))。

カ 清水次郎長(次郎長)と請求人(出願人)との関係

清水次郎長と請求人との関連性は、何ら見いだすことはできない。

(2)判断

本願商標は、上記第1のとおり、「次郎長」の文字を縦書きしてなるところ、当該文字は、上記(1)アのとおり、全国的に周知、著名な歴史上の人物名である清水次郎長を表示したものと容易に認識されるものである。

そして、清水次郎長(次郎長)は、上記(1)イのとおり、同人の出生地である静岡市清水区において、地域住民に広く敬愛され、上記(1)ウのとおり、静岡市清水区では、地域振興や観光振興及び土産物、茶、菓子に清水次郎長(次郎長)の名称を利用していることが認められる。

しかしながら、上記商品以外に、土産物や当該地域の特産品など観光客を対象としたといえる商品に、清水次郎長(次郎長)の名称が利用されている事情はうかがえず、上記(1)エのとおり、本願の指定商品(第33類「清酒」)を取り扱う分野において、請求人以外に、同人の名称が利用されている事実も見いだせない。

また、本願商標は、「清酒」についてのみ使用するものであることからすれば、本願商標をその指定商品に使用することが、地域振興や観光振興のためのイベントや史跡での紹介等に同人の名称を利用することに支障を生じさせるとまではいえない。

さらに、請求人が、上記(1)カのとおり、清水次郎長(次郎長)とは何ら関連性のない企業であるとしても、上記(1)オのとおり、本願の登録出願の経緯に、社会的妥当性を欠くというべき事情を見いだせず、かつ、請求人は、「次郎長」の文字を「清酒」に使用している実情がうかがえる。

以上の事情を総合的に勘案すれば、「次郎長」が周知、著名な歴史上の人物名である清水次郎長を表示したものと認識されるとしても、本願商標は、その指定商品に使用した場合に、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するとはいえないというのが相当である。

したがって、本願商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標というべきものではない。

3 むすび

以上のとおり、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものではないから、これを理由として本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。

その他、本願について拒絶の理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。

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