結論テキスト
審判費用は,その2分の1を請求人の負担とし,2分の1を被請求人の負担とする。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 無効2015−890027(T2015−890027/J3) |
|---|---|
| 審判種別 | 無効 |
| 結論 | 勝訴(請求認容) |
本件登録第5640687号商標(以下「本件商標」という。)は,「AKA」の文字を標準文字で表してなり,平成25年8月1日に登録出願,同年11月18日に登録査定,第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,図書の貸与,書籍の制作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供,録画済み磁気テープの貸与」を指定役務として,同年12月27日に設定登録されたものである。
そして,本件審判の請求により,本件商標の指定役務のうち,第41類「医業に関する知識の教授,医業に関するセミナーの企画・運営又は開催」についての登録を無効とする旨の審決が平成28年12月5日に確定し,その確定審決の登録が同29年3月31日にされたものである。
また,本件審判の請求について,本件商標の指定役務のうち,第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,図書の貸与,書籍の制作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供,録画済み磁気テープの貸与,但し,医業に関する知識の教授 ,医業に関するセミナーの企画・運営又は開催,医業に関する電子出版物の提供,医業に関する図書及び記録の供覧,医業に関する図書の貸与,医業に関する書籍の制作,医業に関する教育用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),医業に関する教育研修のための施設の提供,医業に関する録画済み磁気テープの貸与を除く」についての請求は成り立たない旨の審決が平成29年7月12日に確定し,その確定審決の登録が同年7月26日にされたものである。
本件商標については,平成27年4月3日に「本件商標の登録を無効とする。」旨の無効審判の請求があったところ,当該請求については,平成28年10月25日付けで「本件商標の指定役務中,第41類『医業に関する知識の教授,医業に関するセミナーの企画・運営又は開催』についての登録を無効とする。その余の指定役務についての審判請求は成り立たない。」旨の審決(以下「第一審決」という。)がされた。
請求人は,第一審決のうち,本件商標の指定役務のうち,第41類「知識の教授(医業に関するものを除く。),セミナーの企画・運営又は開催(医業に関するものを除く。),技芸・スポーツの教授,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,図書の貸与,書籍の制作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供,録画済み磁気テープの貸与」に係る部分の取消しを求めて知的財産高等裁判所に出訴し,これが平成28年(行ケ)第10253号事件として審理された結果,平成29年6月28日に「1 特許庁が無効2015−890027号事件について平成28年10月25日にした審決のうち,登録第5640687号の指定役務『医業に関する電子出版物の提供,医業に関する図書及び記録の供覧,医業に関する図書の貸与,医業に関する書籍の制作,医業に関する教育用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),医業に関する教育研修のための施設の提供,医業に関する録画済み磁気テープの貸与』に係る部分を取り消す。2 原告のその余の請求を棄却する。」との判決が言い渡された。
そして,上記判決が確定した結果,第一審決で審判請求は成り立たないとされた本件商標の指定役務のうち,第41類「医業に関する電子出版物の提供,医業に関する図書及び記録の供覧,医業に関する図書の貸与,医業に関する書籍の制作,医業に関する教育用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),医業に関する教育研修のための施設の提供,医業に関する録画済み磁気テープの貸与」に係る部分については第一審決が取り消され,それ以外の指定役務に係る部分については第一審決が確定した。
請求人は,本件商標の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,審判請求書,審判事件弁駁書及び上申書等において,その理由及び答弁に対する弁駁等を要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第51号証(枝番を含む。)(平成29年9月1日付け回答書により提出された甲第16号証ないし甲第51号証を含む。)を提出した。
本件商標の登録は,その指定役務との関係において,商標法第3条第1項第3号若しくは同項第6号又は同法第4条第1項第16号に該当するから,同法第46条第1項第1号により,無効にすべきものである。
(1)本件無効審判の請求に係る事情
ア 請求人は,「関節運動学的アプローチの治療法」を用いた整骨・整体・柔道整復等の業務を行っており,「とみおか整骨院」,「アクティブデイサービス笑顔」,「メディカル整骨アカデミー」,「前原フィットネスボクシング」,「治療家専門筋膜系・関節系セミナー」の企業をもって,この「関節運動学的アプローチの治療法」の活用,普及,セミナー企画を行っている。
そして,請求人は,先人者のセミナー等から「関節運動学的アプローチの治療法(AKA治療法)」を学んで,平成23年から上記業務を行っている。
イ 請求人は,「日本関節運動学的アプローチ(AKA)医学会」から,「AKA」,「AKA−博田法」の商標を保有しているので,「AKA」,「AKA療法」の名称を使用しないようにとの平成25年9月5日付け警告状(甲2)を受けた。
これに対し,請求人は,「AKA−博田法」の商標に対しては非類似であり,同一類似のものを使用しておらず,また,「AKA」,「AKA療法」は,治療法を示す普通名称又はその略称・慣用商標であり,商標権の侵害でない旨及び先使用権がある旨を回答していた。
ウ 請求人は,「AKA とみおか療法」の商標登録出願(商願2014−53443号)をしたが,これは,本件商標及び登録第5525468号商標と類似するとの拒絶理由を受けた。
エ 上記アないしウに述べた事情により,請求人は,本件商標についての無効審判を請求するに至った。
(2)「AKA」の標章についての追加説明及び立証資料
ア 「AKA」は,平成4年の頃又はそれ以前の昭和末において,既にこの業界の関係者にとっては,関節運動学的アプローチ「arthrokinematic approach」の略称又は長い文字に代わる名称(同意語)として使用されてきた。すなわち,「AKA」,「AKA療法」は,その「AKA」による治療法を意味する略称,慣用商標又は普通名称として使用されてきた。
上記治療法は,理学療法士の宇都宮初夫氏及び千代和寿氏を中心とするグループが欧州に研修に行って習得したものであり,欧州では「アルスロキネマチック(arthrokinematic)」を「AK」と略していたものを「approach」を付けて「AKA」と命名されたとされている。
そして,昭和58年末に,宇都宮初夫氏及び千代和寿氏が上田しんじ氏に掛け合った結果,東京において日本理学療法士主催の第1回AKAセミナーが行われた。このセミナーの内容は,第9回運動療法研究会講演論文集(1984年(昭和59年))の19−21に,宇都宮初夫氏及び被請求人による「運動療法における関節運動学的アプローチ」として発表されている(甲3の62頁の[文献]の項番6参照)。
したがって,平成の初め頃には既に,業界においては,「AKA」が,治療法「arthrokinematic approach」の略称又は同義の名称であり,日本語で「関節運動学的アプローチによる治療法」を意味する略称,普通名称,慣用商標及びその内容を示す表示として認知されるに至っていた。
なお,甲第3号証は,「日本リハビリ研修センター」による「関節モビリゼーション:AKA/実技セミナー」と題するセミナーの資料(テキスト)であり,その一つ「『関節運動学的アプローチ』/Arthro−Kinematic Approach(A.K.A)(秋津鴻池病院 植松光俊作成)」のセミナーテキストのタイトルの頁,その目次の上のタイトル「『AKA(関節運動学的アプローチ)』」の表示,1頁目の18行目及び19行目の「『関節運動学』を基礎理論とする関節運動学的アプローチ(arthrokinematic approach,以下AKAと略す)はこの関節包内運動障害に対する治療法であり,・・・」の記載,12頁,61頁から分かるように,「AKA」は,「arthrokinematic approach」の略称として知られていた。また,63頁の[文献]の項番32では,「宇都宮初夫,井端康人:関節運動学的アプローチ(AKA),『理学療法ハンドブック』細田多穂ら(編),協同医書出版,1991,199−238」の記載で「AKA」が略称で使用されている。
イ 上記アで述べたように,「関節運動学的アプローチ」の治療法について「AKA」の略称(名称)を使用することは,平成4年以前の昭和末頃から始まっていた。また,その治療法の研究及び開発は,それ以前の昭和の時代から宇都宮初夫氏,千代和寿氏,植松光俊氏,井端康人氏等の先人の医業関係者によってなされ,そのセミナーも企画されていた。
そして,被請求人も「AKA」の研究者の有力な1人であり,このことは,宇都宮初夫氏,千代和寿氏,農端芳之氏,中村健一氏及び被請求人の共著であり,被請求人が編集した「関節運動学的アプローチ AKA」(医歯薬出版株式会社/1990年6月20日第1版第1刷発行)(甲4)の序文の15行目から22行目において,「この治療法は欧米の関節モビリゼーションと異なり,関節運動学に基づく関節包内運動の治療法であるとの意味を正確に表現するため,関節運動学的アプローチ(arthrokinematic approach,AKA)という名称を用いることとした。」と明白にしている。同著には,その表紙や本文中において,「AKA」の語が極めて多数使用されている。
したがって,被請求人も明白に,「AKA」とは「関節運動学的アプローチ」の略称,普通名称又は慣用商標であり,また,「AKA療法」,「AKA」は,関節運動学的アプローチの治療法を示すものと理解しているはずである。
ウ 甲第5号証は,刊行物「痛みの治療革命」住田憲是著(株式会社冬青社/1995年4月15日第1刷発行)であり,「AKA(Arthro Kinematic Approach)という療法が生まれてきました。これは“関節運動学的アプローチ”の略です。」として,そのプロローグ(13頁)の12行目から13行目において明記されている。その上で,本文で「AKA」,「AKA療法」が略称として多数使用されている。
エ 甲第6号証は,刊行物「SJF/関節ファシリテーション」宇都宮初夫編(丸善出版株式会社/平成24年(2012年)1月20日発行)であり,「AKA」が,関節運動学的アプローチの略称,普通名称又は慣用商標として使用されている。また,甲第6号証の1は,甲第6号証の他社による初版本の表紙(シュプリンガージャパン社/2008年11月発行)である。
オ 甲第7号証は,刊行物「仙腸関節の痛み」村上栄一著(株式会社南江堂/2012年3月20日第1刷発行)であり,その69頁には,「AKA」の定義について,「関節運動学的アプローチ(arthrokinematic approach:AKA)とは,関節の機能を徒手的に回復させる方法で,“関節運動学に基づき,関節神経学を考慮して,関節の遊び,関節面の滑り,回転,回旋などの関節包内運動の異常を治療する方法,および関節面の運動を誘導する方法”と定義されている.」と記載されている。そして,その70頁及び71頁には,「AKA−博田法」のその関節運動学による手技が具体的に説明されている。このように,「AKA−博田法」は,「AKA」治療法の一つとして紹介されている。
カ 甲第8号証は,「日本AKA(エーケーエー)医学会」のインターネットホームページ(平成27年(2015年)3月20日印刷)であり,このホームページにも,「AKA」が「関節運動学的アプローチ」の略称として表記されている。
キ 上記のとおり,「関節運動学的アプローチ」,「AKA」の治療法は,複数人の先人の医業関係者による研究,開発に係るものであり,また,その研究,開発の過程で,この治療法について「AKA」を略称として使用することが約束されていたものである。
したがって,「AKA」治療法は,被請求人一人が研究,開発した治療法ではない。
(3)無効原因
「AKA」は,本件商標の登録出願時,登録査定時及び現在のいずれにおいても,医治療法の「関節運動学的アプローチ(arthrokinematic approach)」の略称として,昭和の末の時期から長く使用され,医業業界では当該療法を示す著名な略称,普通名称又は慣用されていた周知の標章(商標)である。
そして,「AKA」,「AKA療法」は,上記療法を示す普通名称,慣用商標又は著名な略称として,上記のいずれの時点でも認識されるに到っていたものである。
したがって,本件商標は,その指定役務中の第41類「知識の教授」,「セミナーの企画等」,「電子出版物の提供」,「図書及び記録の供覧」,「図書の貸与」,「書籍の制作」,「教育用ビデオの制作」,「教育研修のための施設の提供」,「録画済み磁気テープの貸与」について使用されると,当該役務の提供に係る対象物又はその内容を単に表示する普通名称,慣用商標又はその周知の略称,あるいは,当該役務の質,使用の方法を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であり,商標法第3条第1項第3号又は同項第6号に該当する。
また,本件商標は,上記以外の指定役務に使用するときは,役務の質の誤認を生じるおそれがあるから,商標法第4条第1項第16号に該当する。
(1)「arthrokinematics」(関節運動学と訳す)は,1927年(昭和2年)にThomas Walmsleyによって提唱され,その後,1949年(昭和24年)にMennellが関節内運動及び治療法を紹介,1955年(昭和30年)にSteindlerが関節内運動の詳細について紹介をし,MacConaillらが更に研究を進めて,1970年代後半に運動学の中で肢の動きを骨運動(osteokinematics)とし,関節内での関節面相互の動きを関節運動学として確立したとされる。
そして,Kaltenborn,FMらが,1976年(昭和51年)に,「Manual Therapy for The Extremity Joints, Specialized Techniques」の論文を発表した。
このように,「arthrokinematics」の治療法は,1970年代には欧米で研究開発され,よく知られるようになっており,「arthrokinematic approach」及びその略語として「AKA」が使用されるようになった。
また,1979年(昭和54年)の論文において,Parisは,「AKA」の技術を分類表に整理して説明を行っている(以上,甲3,甲4,甲6)。
以上のとおり,「AKA」,「arthrokinematic approach」,「arthrokinematic(s)」なる文字は,欧米では,1980年において医学用語を示す「普通名称」又はその技術手法(役務の質)を示す用語又は略語として確立していた。
(2)「arthrokinematic approach」,「arthrokinematics」,「AKA」の技術,治療法は,欧米では1970年代に発展,深化されており,我が国において,これが紹介され,研究開発が始まるのは,1979年(昭和54年)4月の宇都宮初夫氏による帰国報告の前後からとされている。
我が国においては,医学用語の「AKA」は,そのまま「AKA」として使用され,また,「arthrokinematic approach」及び「arthrokinematics」の各医学用語は,それぞれ,「関節運動学的アプローチ」及び「関節運動学」という直訳に近い訳語が使用された。そして,「AKA」,「関節運動学的アプローチ」及び「関節運動学」の訳語が示す技術内容は,欧米の原語の医学用語が示す技術内容とほぼ同じ技術内容のものとして定義,説明されている(以上,甲3,甲4,甲6,甲8)。
(3)上記(1)及び(2)のとおり,「AKA」は,1970年代前後に長く欧米で使用されてきていた「arthrokinematic approach」の医学用語の英熟語の略語である。そして,その英熟語は,日本語では,その原語のとおり,「関節運動学的アプローチ」と訳されるものであり,また,欧米では,「関節運動学的アプローチによる治療法」という普通名称又は「関節運動学的アプローチ」という治療手段(役務の質)を表示する用語である。
したがって,「AKA」は,上記原語(英熟語)と同じ内容を簡略に表現したものであり,「普通名称」及び「役務の質を表示する語」というべきものであるから,本件商標は,関節運動学的アプローチに関する指定役務について使用するときは,その役務の内容や対象といった役務の質を表示するものであって,商標法第3条第1項第3号に該当するものであり,その該当の結果,同項第6号にいう何人の役務であることを認識することができないものでもあり,また,それ以外の指定役務について使用するときは,役務の質の誤認を生じるおそれがあるものであって,同法第4条第1項第16号に該当するものである。
「AKA」は,「関節運動学的アプローチ」,「関節運動学的アプローチを用いた治療法」という広い概念の用語(普通名称)であるから,「AKA」が登録されると,被請求人以外のAKA研究開発者は,「AKA」の用語を使用できなくなる。これは,法律上,不当なことであるし,医学会に悪影響を与える。
(4)被請求人は,「『Arthrokinematic Approach』という英熟語は,被請求人が,昭和57年(1982年)に発行されたアメリカ合衆国の医学雑誌に掲載されているのを発見し,これを『関節運動学的アプローチ』と訳したものである」旨主張する。
しかし,「関節運動学的アプローチ(Arthrokinematic Approach)」について,被請求人が他人の医学雑誌記載の「Arthrokinematic Approach」の用語を初めて発見し,それを「関節運動学的アプローチ」と訳したとしても,その発見したとする用語は,欧米ではよく知られた医学用語であり,その訳も直訳のものであるし,また,研究開発者であればそのように日本語訳するものである。そして,当該用語を発見し,訳したことでは,何ら独占排他の権利は発生しない。
(5)被請求人が提出した「日本関節運動学的アプローチ医学会 理学・作業療法士会」のウェブサイト(乙11)には,「関節運動学的アプローチ(AKA)の名称について」の表題の下,「関節運動学的アプローチ(arthrokinematic approach:AKA)は関節包内運動の治療技術として紹介されてきたが,海外ではarthrokinematic approachは一般に,関節包内運動を治療する技術の総称で,joint mobilizationなど全てを含む呼称である。それ故,我々の使ってきたAKAが,他と違った特殊な術であることを示すため,日本語は関節運動学的アプローチ−博田法,英語はarthrokinematic approach−Hakata methodという名称を用いることとした(2003年4月)。なお,省略形としてそれぞれAKA−博田法またはAKA−Hakata methodと呼ぶこととする。」との記載がある。
被請求人が関係する上記ウェブサイトにおいては,海外で発展してきた「関節運動学的アプローチ(arthrokinematic approach:AKA)」が関節包内運動の治療技術の一般名称であると認め,「AKA」をその英熟語の略語としており,その上で,被請求人は,その改良した技術を「AKA−博田法」,「AKA−Hakata method」としている。これは,AKA技術であるとともに,その改良とノウハウによって発展させた技術として,単なる「AKA」ではないことを明確にしたものである。
既述のとおり,欧米では,古くから「AKA」の略語(略称)を使用している事実があるところ,被請求人の「AKA」は,欧米での同じ用語の「AKA」の定義とは違っている。
したがって,被請求人の独自改良のAKA技術を命名するならば,乙第17号証の英語表記にあるように「AKA−博田法」,「AKA−Hakata method」とすべきである。
(6)被請求人は,「AKA」の使用は被請求人の門下及び指導によるものであるから,一般的な使用でなく,また,「AKA」の開発は全て被請求人がした旨主張するが,それならば,被請求人の名義がない研究開発者によるAKA技術に関する研究開発の論文や刊行物はないはずであるが,被請求人名がない刊行物も複数ある。また,共著が複数あることも,一人で全て開発したものでないことを証している。
本件商標を構成する「AKA」の文字が「arthrokinematic approach」(関節運動学的アプローチ又は関節運動学的療法)を意味する療法の医学用語の普通名称又は略称(普通名称)であることは,既に提出している甲第3号証ないし甲第8号証のほか,新たに提出する「最新医学略語辞典<第5版>」(2010年(平成22年)5月1日発行,甲11),「プラクティカル医学略語辞典<第6版>」(2011年(平成23年)1月15日発行,甲12),「理学療法学事典」(2006年(平成18年)4月1日発行,甲13),「理学療法ハンドブック<改訂第4版>/第2巻治療アプローチ」(2010年(平成22年)2月26日発行,甲14),「医学略語辞典 改訂4版」(2011年(平成23年)2月20日発行,甲15)の記載内容からも明白である。
したがって,本件商標は,その指定役務中,「AKA」技術に関する又はその技術のための「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,図書の貸与,書籍の制作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供,録画済み磁気テープの貸与」に使用するときは,その役務の提供の質,態様若しくは提供の方法を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標又は,その指定役務との関係において,自他役務識別力のない商標であり,また,それ以外の役務に使用するときは,役務の質の誤認を生じるおそれがある商標ともなる。
被請求人は,本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求めると答弁し,答弁書,第2回答弁書及び意見書において,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として,乙第1号証ないし乙第22号証(枝番を含む。)を提出した。
(1)「関節運動学的アプローチ(Arthrokinematic Approach)」について
ア 「Arthrokinematic Approach」という英熟語は,被請求人が,昭和57年(1982年)に発行されたアメリカ合衆国の医学雑誌「Physical Therapy」第62号1754頁に掲載されているのを発見し(乙1),これを「関節運動学的アプローチ」と訳したものであり,昭和59年(1984年)3月30日締切の第21回日本リハビリテーション医学会での発表用の抄録用紙に「腰痛,腰下肢痛と仙腸関節のarthrokinematic dysfunction」との表題の下,「関節包内運動の回復手段という本質を表わす関節運動学的アプローチ(arthrokinematic approach,以下AKAと略す)という用語を使用することとする。」と記載されているとおり,同医学会において開示したのが端緒である(乙2)。
イ 「関節運動学的アプローチ」は,被請求人によって開発された治療法である。被請求人は,その治療法について,昭和54年(1979年)から研究開発に着手し,理論構築は,全て被請求人が行った。また,その治療法の技術開発には疾病の診断及び治療を伴うことから,その技術の開発及び改良は,医師である被請求人が行い,理学療法士は,その助手を務めたにすぎない。
すなわち,「関節運動学的アプローチ」の技術開発は,ほとんど被請求人が行い,理学療法士の宇都宮初夫,中林健一,農端芳之,井端康人及び植松光俊は,被請求人の指示の下,関節運動学的アプローチを用いた治療を行い,また,理学療法士の千代和寿は,被請求人の下でその治療法を学んだのであって,当該6名の理学療法士は,全て被請求人の門下である。
なお,植松光俊は,関節運動学的アプローチの開発には全く関与していない。
ウ 平成2年(1990年)に「関節運動学的アプローチ,AKA」(医歯薬出版)が出版された後,被請求人は,平成11年(1999年)9月20日に「関節運動学的アプローチ 最新の技術」(第1版)を,平成12年(2000年)12月18日に「同」(第2版)を,平成13年(2001年)9月26日に「同」(第3版)をそれぞれ発行し,平成19年(2007年)には,被請求人のみの編著に係る「AKA 関節運動学的アプローチ 博田法(第2版)」を出版している(乙4〜乙6)。
エ 平成2年(1990年)10月27日に「日本AKA研究会」が設立され,平成5年(1993年)9月26日に「日本関節運動学的アプローチ(AKA)研究会会則」を発行し,「日本AKA研究会」が正式に発足した。その後,当該研究会は,平成16年(2004年)12月1日に名称を「日本関節運動学的アプローチ(AKA)医学会」に変更した(乙7)。
日本AKA研究会(現「日本関節運動学的アプローチ(AKA)医学会」)は,平成2年(1990年)10月27日及び28日に第1回学術集会を開催して以来,平成26年(2014年)10月12日までに36回の学術集会を開催しており(乙8),また,平成11年(1999年)12月1日に「日本AKA研究会誌」創刊号を発行し,その後,平成17年(2005年)12月20日の第6号からは,その題号を「日本関節運動学的アプローチ医学会誌」に変更した上で,現在に至っている(乙9)。
日本AKA研究会(現「日本関節運動学的アプローチ(AKA)医学会」)は,平成10年(1998年)より指導医専門医制度を設け,同年3月20日に,14名の認定医を創出して以来,平成27年度は,58名の指導医,29名の専門医を認定している(乙10)。
オ 日本AKA研究会(現「日本関節運動学的アプローチ(AKA)医学会」)は,医師のみの団体であったが,平成11年(1999年)3月には,理学療法士及び作業療法士に対する関節運動学的アプローチの普及及び発展を目的とする日本AKA研究会理学療法士会が発足し,その会員数は,作業療法士も含め,現在1,500名に迫ろうとしている。その後,同会は,平成17年(2005年)8月1日に名称を「日本関節運動学的アプローチ医学会 理学・作業療法士会」に変更した(乙11)。
カ 本件商標の商標権者は博田節夫個人であるが,これは,日本関節運動学的アプローチ(AKA)医学会が法人格を有しないため,その代表者である博田節夫の名義で出願及び登録をせざるを得ないからであり,博田節夫個人が本件商標の独占的使用を図っているわけではない。
(2)商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号の非該当性について
ア 各種医学用語辞典において,「AKA」が英熟語「Arthrokinematic Approach」の略語又は「関節運動学的アプローチ」を意味するものと掲載されている事実は,1件も見当たらない。
また,「ステッドマン医学大辞典」(改訂第5版)(乙12)はもとより,インターネット上で検索できる「医学用語辞典:翻訳のためのインターネットリソース」(http://www.kotoba.ne.jp/n.cgi?k=80fsz)に掲載されている全ての医学用語辞典(ただし,会員登録が必要なものは除く。)においても,一切掲載されていない(乙13の1〜31)。
さらに,日本医学会の医学用語辞典においても,「AKA」及び「関節運動学」なる用語は見当たらず,「kinematics」が「運動学」と記載されているだけである(乙14)。
イ インターネットで「AKA」の語を検索すると,被請求人が会頭を務める「日本関節運動学的アプローチ(AKA)医学会」のホームページがヒットし,そこには「関節運動学的アプローチ」を「AKA」と略している事実が掲載されているが,これは,あくまでも,当該医学会並びに当該医学会が認定した指導医及び専門医が使用しているものであり,医学業界において「AKA」の語が一般に広く使用されているものではない。
また,請求人が提出した甲第3号証ないし甲第8号証は,いずれも被請求人の門下生又は日本関節学的アプローチ(AKA)医学会の会員による文献であり,これらをもって,医学会において「AKA」の語が一般に使用されているということはできない。
ウ 以上によれば,本件商標は,「関節運動学的アプローチによる治療法」を直接,かつ,具体的に表示するものではなく,また,医学業界において,「AKA」の語が,「関節運動学的アプローチによる治療法」を意味するものとして,広く一般に使用されているものではない。
そして,本件商標の指定役務は,医学業界に限らず,広く教育や娯楽に関するものである。
そうすると,本件商標をその指定役務について使用した場合,これに接する需要者が,役務の質(内容)を表したものと直ちに理解,認識することはなく,また,本件商標が「関節運動学的アプローチによる治療法」を意味するものでない以上,役務の質について誤認を生じさせるおそれはない。
したがって,本件商標は,商標法第3条第1項第3号に該当せず,同法第4条第1項第16号にも該当しない。
(3)請求人の主張に対する反論
ア 請求人は,「『AKA』は,『関節運動学的アプローチ(arthrokinematic approach)による治療法』の略称として,昭和の末から長く使用されており,医業業界では,『関節運動学的アプローチによる治療法』を示す著名な略称,普通名称又は慣用されていた周知の標章(商標)である。『AKA』,『AKA療法』は,『関節運動学的アプローチによる治療法』を示す『普通名称』,『慣用商標』又は著名な略称として,本件商標の登録出願時,登録査定時及び現時点でも認識されるに至っていた。」旨主張している。
しかし,「AKA」を「関節運動学的アプローチ(arthrokinematic approach)」の略称として昭和58年頃から使用しているのは,被請求人及びその門下生である。「AKA」は,「『関節運動学的アプローチ』(arthrokinematic approach)による治療法」ではなく,「関節運動学的アプローチ」(arthrokinematic approach)の略称として,被請求人又はその門下生,日本AKA研究会及び日本関節運動学的アプローチ(AKA)医学会並びにその指導医及び専門医が使用してきたのであるから,特定の出所に係る役務を表示するものであって,広く一般に使用されているわけではない。本件商標の指定役務との関係上,「AKA」が「関節運動学的アプローチ」であることを認識し得る場合があるとしても,その役務の出所は,日本関節運動学的アプローチ(AKA)医学会又は同医学会が認定した指導医等である。
また,本件商標の指定役務の取引者,需要者は,医療関係者に限らないから,単に「AKA」という欧文字に接した場合,直ちにそれが一種の治療法を意味するものと認識,理解するとは限らない。
したがって,本件商標が商標法第3条第1項第3号又は同項第6号に該当するとする請求人の主張は,失当である。
イ 請求人は,関節運動学的アプローチ(Artrokinematic Approach)」の意味について,甲第7号証の文献から,「関節の機能を徒手的に回復させる方法で,“関節運動学に基づき,関節神経学を考慮して,関節の遊び,関節面の滑り,回転,回旋などの関節包内運動の異常を治療する方法,および関節面の運動を誘導する方法”と定義されている」と記述しているが,これは,著者である村上栄一の引用時の誤記である。この定義の引用文献は,「博田節夫(編著):AKA関節運動学的アプローチ−博田法.第2版,医歯薬出版,2007」となっているが,当該文献には「AKA」の定義は書かれておらず,同書75頁の「第4章 基本原理」の冒頭に,「関節運動学的アプローチ(arthorokinematic approach:AKA)−博田法」の定義として,「関節運動学的アプローチ(arthrokinematic approach:AKA)−博田法は関節運動学に基づき,関節神経学(articular neurology)を考慮して,関節の遊び,関節面の滑り,回転,回旋などの関節包内運動の異常を治療する方法,および関節面の運動を誘導する方法と定義される.」と書かれている(乙15)。
つまり,「AKA−博田法」は,請求人がいうような「AKA」治療法の一つではなく,日本関節運動学的アプローチ(AKA)医学会の認定した指導医及専門医によって提供される「関節運動学的アプローチによる治療法」そのものである。
ウ 請求人は,「『AKA』による治療法は,理学療法士の宇都宮初夫氏及び千代和寿氏を中心とするグループが欧州に研修に行って習得したものであり,欧州では『アルスロキネマチック(arthrokinematic)』を『AK』と略していたものを『approach』を付けて『AKA』と命名されたとされている。」と主張する。
しかし,宇都宮初夫は,アメリカ合衆国に短期留学はしたものの,ヨーロッパには行っておらず,千代和寿は,海外留学をしていない。
また,当時,ヨーロッパでは,「arthrokinematic」を「AK」と略していない。平成16年(2004年)9月に開催されたヨーロッパを中心とした医師のみの徒手医学に関する国際的な学術会議(FIMM)の第14回学術会議において,被請求人による「arthrokinematic approach(AKA)−Hakata method」の紹介と研究発表が行われた(乙16)後,ドイツの出版社Springer社から被請求人へ執筆依頼があり,雑誌「Manuelle Medizin」(2005年)にドイツ語に翻訳された論文が掲載された(乙17)際に,英語の「arthrokinematic approach(AKA)−Hakata method」をドイツ語の「arthrokinematische(AK−)Hakata Methode」に訳されたのが「AK」が用いられた最初である。
すなわち,「AK」は,既存の略語ではなく,被請求人の研究発表の際,ドイツ語に翻訳されたのが端緒である。
エ 請求人は,甲第3号証及び甲第4号証の引用文献のタイトルにも「AKA」の文字が使用されている旨主張するが,これらの引用文献は,全て被請求人の門下により書かれたものであり,一般的な使用であるということはできない。
また,甲第5号証の「痛みの治療革命」の著者である住田憲是医師は,被請求人の下で「関節運動学的アプローチ」を学び,日本関節運動学的アプローチ(AKA)医学会の認定した指導医,専門医であり,同著の執筆は,被請求人の許可を得て行われたものである。
(1)「arthrokinematics」,「arthrokinematic」,「arthrokinematic approach」の研究開発の歴史について,請求人の主張に係るThomas Walmsleyによる「arthrokinematics」の提唱(1927年(昭和2年))からKaltenborn,FMらによる論文発表(1976年(昭和51年))までの事柄が甲第6号証に記載されていることは認めるが,これらは,あくまでも伝聞証拠であり,それが事実であるか否かは不明である。
また,上記歴史に関連して,「arthrokinematics」の治療法が1970年代には欧米で研究開発され,よく知られるようになっていたとの請求人の主張に係る事実は,何ら立証されていない。
さらに,上記歴史に関連して,1970年代には「arthrokinematic approach」及びその略語として「AKA」が使用されるようになったとの請求人の主張は,甲第6号証をもって立証しようとするものであるが,甲第6号証に係る文献は平成24年1月20日に発行されたものであるから,その主張事実は,何ら立証されていない。
そうすると,「『AKA』,『arthrokinematic approach』,『arthrokinematic(s)』なる文字は,欧米では,1980年において医学用語を示す『普通名称』又はその技術手法(役務の質)を示す用語又は略称として確立していた」との主張事実は,何ら立証されていない。
(2)請求人は,我が国における「AKA」の用語及びその定義は,欧米における医学用語「AKA」の技術内容とほぼ同じものである旨主張するが,その主張に係る「欧米における医学用語『AKA』」がいかなる内容を有するものであるか特定していない。
(3)請求人は,「『AKA』は,1970年代前後に長く欧米で使用されてきていた『arthrokinematic approach』の医学用語の英熟語の略語である。そして,その英熟語は,日本語では,その原語のとおり,『関節運動学的アプローチ』と訳されるものであり,また,欧米では,『関節運動学的アプローチによる治療法』という普通名称又は『関節運動学的アプローチ』という治療手段(役務の質)表示する用語である」と主張する。
しかし,先の答弁書においても述べたとおり,「AKA」は,「関節運動学的アプローチ(arthrokinematic approach)による治療法」ではなく,「関節運動学的アプローチ」(arthrokinematic approach)の略称として,被請求人又はその門下生,日本AKA研究会及び日本関節運動学的アプローチ(AKA)医学会並びにその指導医及び専門医が使用してきたものであり,特定の出所に係る役務を表示するものであって,広く一般に使用されているわけではない。
また,商標法第3条第1項各号に該当するというためには,いかなる役務の普通名称,慣用商標又は質を表示するものであるかを特定しなければならないが,請求人は,その役務を特定していない。
さらに,請求人は,「AKA」が,欧米において「関節運動学的アプローチによる治療法」を意味する旨主張するが,その立証がなされていないばかりか,仮に,欧米においてそのような意味合いで通用していたとしても,我が国で通用している旨の主張すらしていない。
したがって,本件商標を構成する「AKA」の文字は,その指定役務の普通名称,慣用商標又は質表示のいずれにも該当しない。
(4)請求人は,本件商標を関節運動学的アプローチに関する指定役務以外の役務について使用するときは,役務の質の誤認を生じるおそれがあるものであって,商標法第4条第1項第16号に該当するものである旨主張する。
しかし,そもそも,本件商標は,その指定役務との関係上,役務の質表示ではないから,商標法第4条第1項第16号に該当するものではない。
(5)請求人は,「『AKA』が登録されると,被請求人以外のAKA研究開発者は,『AKA』の用語を使用できなくなる。これは,法律上,不当なことであるし,医学会に悪影響を与える。」旨主張している。
しかし,先の答弁書において言及したとおり,日本関節運動学的アプローチ(AKA)医学会が任意団体であり,法人格がないため,元理事長であり,「関節運動学的アプローチ」の研究開発を行ってきた被請求人の名義で商標登録をしているのである。
実際,「AKA」は,被請求人又はその門下生,日本AKA研究会及び日本関節運動学的アプローチ(AKA)医学会並びにその指導医及び専門医が使用してきたのである。
(6)請求人は,「被請求人の名義がない研究開発者によるAKA技術に関する研究開発の論文や刊行物はないはずであるが,被請求人名がない刊行物も複数ある。また,共著が複数あることも,一人で全て開発したものでないことを証している。」旨主張する。
しかし,問題は,誰が研究開発をしたかという点ではなく,本件商標が,その指定役務との関係上,自他役務識別力を有するか否かであるところ,被請求人は,本件商標が,被請求人,日本関節運動学的アプローチ(AKA)医学会又は同医学会の認定した指導医若しくは専門医が提供する役務を指称するものであり,特定の者の業務に係る役務であることを認識,理解し得るものであって,自他役務識別力を有するものである,と主張しているのである。
(7)請求人は,甲第11号証ないし甲第14号証により,「AKA」が医学用語の普通名称であることを立証しようとしているところ,請求人の主張する「医学用語の普通名称」なる意味が不明であるが,甲第11号証ないし甲第13号証は,本件商標の登録査定時前の発行に係る医学略語辞典であるから,それらの発行時において,本件商標が登録されていなかったことは事実である。
しかし,上記略語辞典に掲載されているからといって,「AKA」が,医学用語の略称として広く一般に知られていたということはできない。とりわけ,当該略語辞典の発行部数については,何ら立証されていない。
また,甲第11号証は昭和62年(1987年)7月15日,甲第12号証は平成3年(1991年)1月25日がそれぞれ初版であるが,その初版本にも同様の記載があったのかは不明である。
(1)本件商標の商標法第3条第1項第3号及び同項第6号並びに同法第4条第1項第16号非該当性について
請求人は,甲第3号証ないし甲第8号証及び甲第11号証ないし甲第15号証をもって,「AKA」が「arthrokinematic approach」(関節運動学的アプローチ又は関節運動学的療法)を意味する療法の医学用語の普通名称又は著名な略称であるから,本件商標は,商標法第3条第1項第3号若しくは同項第6号又は同法第4条第1項第16号に該当する旨主張する。
しかし,そもそも,本件商標が商標法第3条第1項第3号又は同項第6号に該当するというためには,本件商標の指定役務との関係において,役務の質を表示するもの又は自他役務識別力がないといえるものでなければならないところ,請求人は,その指定役務である「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,図書の貸与,書籍の制作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供,録画済み磁気テープの貸与」のうち,どの役務の普通名称又は質を表示するものであると主張しているのか不明である。
また,自他役務識別力がないとする指定役務を特定できなければ,それ以外の役務も特定できないのであるから,本件商標が商標法第4条第1項第16号に該当するということもできない。
仮に,「AKA」が,「arthrokinematic approach」(関節運動学的アプローチ)を意味する医学用語又はその略称であるとしても,医学用語又はその略称であることによって,直ちに本件商標の指定役務との関係を特定できるものではなく,また,その指定役務の質を表示するものになるものでもない。
したがって,医学用語又はその略称である旨の文献や記述が存在することによって,直ちに本件商標の指定役務との関係が特定できるものでもなく,また,その指定役務の質を表示するものであるとか,その指定役務との関係上,識別力がないとかいえるものではないことは明らかである。
なお,被請求人は,「AKA」を「arthrokinematic approach」(関節運動学的アプローチ又は関節運動学的療法)を意味する旨の記述をした出版社に対し,「AKA」は登録商標であり,かかる記述は登録商標の普通名称化を招来しかねないので,かかる記述を削除するか,登録商標であることを明記するよう要請をし,既に一部の出版社から削除する旨の回答を得たことを付言する。
(2)請求人の利害関係について
請求人は,福岡県糸島市前原において「とみおか整骨院」を営んでいる者であり,そのウェブサイトによれば,「当院について」の説明中に「とみおか整骨院は各種保険取り扱い医院です」との見出しがあり,また,「健康保険を適用しての診療の場合は,社会保険庁の『柔道整復師の施術に係る療養費の算定基準』に準じた料金となります。」との記載(乙22の1)があることからすると,「柔道整復師」であると考えられ,少なくとも「医師」の資格を有している事実はうかがえない。
請求人が「医師」でないのであれば,本件商標の指定役務中,少なくとも「医業」に関連する役務,例えば,「医学に関する知識の教授」については,本件審判を請求する利害関係を有しておらず,請求人適格を欠くから,当該審判の請求は,審決をもって却下されるべきである。
(3)まとめ
以上述べたとおり,請求人は,本件審判を請求することについて請求人適格がないので,審決をもって請求が却下されるべきであり,また,仮に,請求人適格があるとしても,本件商標は,被請求人,日本関節運動学的アプローチ(AKA)医学会又は同医学会の認定した指導医若しくは専門医が提供する役務を指称するものであり,特定の者の業務に係る役務であることを認識,理解し得るものであって,本件商標の指定役務との関係上,自他役務識別力を有するものであるから,商標法第3条第1項第3号又は同項第6号に該当せず,かつ,役務の質について誤認を生じさせるおそれがないから,同法第4条第1項第16号に該当するものでもないことは明らかである。
請求人は,「関節運動学的アプローチの治療法」を用いた整骨・整体・柔道整復等の業務を行っており,「AKA とみおか療法」の文字からなる標章を商標登録出願(商願2014−53443号)したが,本件商標及び登録第5525468号商標を引用商標として拒絶理由通知を受けた旨を主張している。
他方,被請求人は,請求人について,少なくとも「医師」の資格を有している事実はうかがえず,請求人が「医師」でないのであれば,本件商標の指定役務中,少なくとも「医業」に関する役務,例えば,「医学に関する知識の教授」については,本件審判を請求する利害関係を有していない旨主張する。
そこで,当審において職権をもって調査したところ,請求人は,上記商標登録出願に係る商標について,本件商標を含む登録商標との関係において,商標法第4条第1項第11号に該当する旨を理由とする平成26年10月7日付け拒絶理由通知を受けた。
そうすると,請求人は,本件商標の商標権の存否によって,その権利に対する法律的地位に影響を受けるものであるから,本件商標の登録を無効にすることについて法律上の利害関係を有するものであって,本件商標登録の無効の審判を請求する請求人適格を有するというべきである。
(1)刊行物,ウェブサイト等による「AKA」の文字について
ア 被請求人が関与又は編集したもの
(ア)昭和59年3月30日(金)締切りの「第21回 日本リハビリテーション医学会 抄録用紙」(写し)によれば,「腰痛,腰下肢痛と仙腸関節のarthrokinamatic dysfunction」に,「今回から,関節包内運動の回復手段という本質を表す関節運動学的アプローチ(arthrokinematic approach,以下AKAと略す)という用語を使用することとする。」の記載がある(乙2)。
(イ)「関節運動学的アプローチ/AKA」(博田節夫編 1993年10月10日第1版第6刷発行,医歯薬出版株式会社)によれば,その「序」には,「この治療法は欧米の関節モビリゼーションと異なり,関節運動学に基づく関節包内運動の治療法であるとの意味を正確に表現するため,関節運動学的アプローチ(arthrokinematic approach,AKA)という名称を用いることとした。」の記載があり,その第1章「概要と歴史」には,「関節運動学的アプローチ(arthrokinematic approach,AKA)とは,『関節運動学(arthrokinematic)にもとづく治療法で,関節面の滑り(sliding),回転(rolling),回旋(spin)などの関節包内運動を改善する手段である』と定義される新しい運動療法の治療技術である。」の記載がある。
また,その85頁ないし87頁の「4 治療」には,「・・・AKAの治療対象は痛みそのものではなく,障害された関節包内運動であり,関節包内運動が回復する結果,症状である痛みが消失するということである。」の記載とともに,一般原則,慢性期治療,急性期治療等についての記載があり,さらに,その89頁以降には,「第5章 治療技術」について記載されている(甲4)。
(ウ)「関節運動学的アプローチ/最新の技術/博田節夫/Arthrokinematic approach(AKA)/Techniques in the latest use」(1999年9月20日第1版第1刷発行と主張)によれば,その1頁には,「AKAの定義」として,「関節運動学的アプローチ(arthrokinematic approach,AKA)は関節運動学に基づき,関節の遊び,関節面の滑り,回転,回旋などの関節包内運動の異常を治療する方法であると定義される。」の記載があり,また,同書中には,「評価と診断」及び「技術」等についての記載がある(乙4)。
(エ)「<新改訂版>関節運動学的アプローチ/最新の技術/博田節夫/Arthrokinematic approach(AKA)/Techniques in the latest use」(2001年9月26日第3版第1刷発行,日本AKA研究会)においても,上記(ウ)の書物と同様の記載があり,さらに,その17頁以降の「<追補>」中にある「関節運動学的アプローチ(AKA)−痛みにおける治療関節の選択」と題する書面の「要旨」には,「AKAを用いて関節原性の痛みを治療するには,・・・」,「AKAは単なる痛みの治療に止まらず,・・・」の記載がある(乙5)。
(オ)「AKA PT OT会」のウェブサイト(全3葉,2015年6月9日印刷)によれば,「日本関節運動学的アプローチ医学会/理学・作業療法士会」の表示があり,「運動療法の再生」の表題の下,その2葉目の「はじめに」には,「わが国で誕生した関節運動学的アプローチ(AKA)も1979年の開発段から30年,・・・」の記載とともに,「関節運動学的アプローチ(AKA)の名称について」として,「関節運動学的アプローチ(arthrokinematic approach:AKA)は関節包内運動の治療技術として紹介されてきたが,・・・日本語は関節運動学アプローチ−博田法,英語はarthrokinematic approach−Hakata methodという名称を用いることとした(2003年4月)。なお,省略形としてそれぞれAKA−博田法またはAKA−Hakata methodと呼ぶこととする。」の記載がある。
また,その1葉目の「入会のご案内」には,「各講習会への優先的受講や各種情報・資料提供等の会員限定の特典があります。」の記載があり,「研修会のご案内」には,「・・・日本全国各地の研修会をご案内いたします。」の記載がある(乙11)。
イ 被請求人以外の者によるもの
(ア)日本リハビリ研修センターの「関節モビリゼーション:AKA/実技セミナー」(講師 理学療法士 植松光俊)によれば,その1頁の「【はじめに】」には,「『関節運動学』を基礎理論とする関節運動学的アプローチ(arthrokinematic approach,以下AKAと略す)はこの関節包内運動障害に対する治療法であり,また従来からある運動療法技術との併用により,他の障害のより円滑な治療を可能にした。」の記載があるほか,「1.AKAとは」として,「○関節運動学的アプローチの定義」の記載の下,「関節運動学的アプローチは関節包内における関節面の動き,滑りや回転,すなわち関節包内運動に着目し,この動きの異常により起こる(関節機能異常−joint dysfunction)を治療する手段であり,他動的に行われる」の記載がある。
そして,その4頁の「2.AKAへの経緯」には,「AKAは,・・・関節モビリゼーションのうち,宇都宮等によって導入されたParis(同書62頁の【文献】によれば,1979年)の『関節モビリゼーション(joint mobilization)』から出発し,その技術を参考にしながらも,それらがもつ問題点・・・を改善し,そのための独自の治療技術が開発されてきた。それとともに関節運動学に基づいた新しい評価,治療法であることをより明確にするためにAKAと名称も変更され,運動療法の中に位置づけられた。(同書62頁の【文献】によれば,「運動療法における関節運動学的アプローチ.第9回運動療法研究会講演論文集,1984年)」の記載がある(甲3)。
(イ)「痛みの治療革命 AKAで腰,肩,膝,手,足の痛みが消えた」(住田憲是著 2005年3月20日第5刷発行,株式会社冬青社)において,その表紙の帯には,「本職の整形外科医が悩みに悩んだあげく出会った痛みの究極療法『AKA療法』。」の記載があり,その13頁には,「整形外科の一分野として,AKA(Arthro Kinematic Approach)という療法が生まれてきました。これは“関節運動学的アプローチ”の略です。」の記載があり,その15頁には,「近年,AKA療法を行う医師が増えてきました。」の記載がある(甲5)。
(ウ)「SJF 関節ファシリテーション」(宇都宮初夫編 平成24年12月30日第3刷発行,丸善出版株式会社)において,その276頁の「3.3.関節運動学的アプローチ(arthrokinematic approach:AKA)」には,「AKAというのは関節内運動を治療に用いたアプローチの総称であり,・・・」の記載があり,その281頁の「表6.筋機能に対する運動治療法技術の発達」の「1970年代」には,「AKA」及び「関節運動学の応用」の記載があり,その283頁の「表10.運動の要素と運動療法」の「運動療法技術」には,「関節運動学的アプローチ/arthrokinematic approach(AKA)」の記載がある。
そして,同書の奥付の下段には,「本書は,2008年11月にシュプリンガー・ジャパン株式会社より出版された同名書籍を再出版したものです.」の記載がある(甲6)。
(2)辞典類等による「AKA」の文字について
ア 「理学療法学事典」(2006年4月1日第1版第1刷,2011年10月1日第1版第4刷発行,株式会社医学書院)によれば,その164頁には,「関節運動学的アプローチ arthrokinematic approach:AKA 関節運動学に基づく治療法で,関節の遊び(joint play),関節面の滑り(sliding),回転(rolling),回旋(spin)などの関節包内運動を改善する目的で行う徒手的治療技術。」の記載がある(甲13)。
イ 「理学療法ハンドブック [改訂第4版]/第2巻 治療アプローチ」(2010年2月26日第1刷,2015年1月31日第6刷発行,株式会社協同医書出版社)によれば,その6頁の「3)技術の改良」には,「・・・滑膜性の関節のみを治療対象とし,体幹においても単関節に対する技術のみを使用し,治療の効果が特定の関節を治療することで得られるということを証明できるようにした。1984年,これらの技術は関節モビリゼーションと異なることから,その名称を“関節運動学的アプローチ(AKA)”とした。」の記載があり,「4)新しい技術の開発」には,「・・AKAは医師にはなくてはならない治療技術となっている。」の記載がある。
そして,その21頁の「表12 運動療法の歴史」には,「運動療法」の治療対象を「Joint関節」とする「基礎医学」の欄に,「1970/Arthrokinematic Approach(AKA)/関節運動学的アプローチ」の記載がある(甲14)。
ウ 「最新 医学略語辞典<第5版>」(2010年5月1日第5版,2014年11月15日第5版第3刷発行,中央法規出版株式会社)によれば,その40頁の「AKA」の項には,「〔arthrokinematic approach〕関節運動学的アプローチ 関節面の滑りや回転などの関節包内運動の障害を改善する方法。」の記載がある(甲11)。
エ 「プラクティカル医学略語辞典 第6版」(2011年1月15日発行,株式会社南山堂)によれば,その19頁の「AKA」の項には,「関節運動学的療法 arthro kinematic approach[整形]関節や骨格,背骨の歪みを矯正することにより痛みを取り除こうという治療法.」の記載がある(甲12)。
オ 「医学略語辞典 改訂4版」(2011年2月20日改訂第4版第1刷発行,株式会社金芳堂)によれば,その34頁には,「AKA=arthro kinematic approach(関節運動学的療法)」の記載がある(甲15)。
(3)まとめ
上記(1)及び(2)によれば,被請求人は,1984年(昭和59年)3月頃に,日本リハビリテーション医学会の抄録において,「関節運動学的アプローチ(arthrokinematic approach)」の略として「AKA」の文字を使用し(乙2),1993年10月(甲4),1999年9月(乙4)及び2001年9月(乙5)には,その関節包内運動の治療法について記載した刊行物を発行した。また,被請求人が関与する「AKA PT OT会」のウェブサイトには,関節運動学的アプローチ(AKA)の名称について,関節包内運動の治療技術として紹介されてきたこと,日本語では,関節運動学アプローチ−博田法という名称を用いることとしたことが記載され,入会及び研修会の案内が掲載された(乙11)。
他方,「AKA」の文字は,1984年の文献「運動療法における関節運動学的アプローチ.第9回運動療法研究会講演論文集」に「関節運動学に基づいた新しい評価,治療法」を表すものとして記載され(甲3),「整形外科の一分野として,AKA(Arthro Kinematic Approach)という療法が生まれた」こと(甲5)等,2005年以降,被請求人と同様の意味合いを表すものとして,各種の刊行物等に記載された(甲6)。また,2006年4月以降に発行された複数の辞典,ハンドブック等に,関節運動学に基づく治療法,治療技術であることが掲載された(甲11〜甲15)。
そうすると,本件商標の登録査定時において,「AKA」の文字は,「関節運動学的アプローチ(arthrokinematic approach)」の略であって,関節の機能の治療を行う場合がある整形外科等に係る役務との関係においては,「関節運動学を基礎にして開発された治療法・治療技術」を表すものとして理解,認識されていたということができる。
本件商標は,「AKA」の文字を標準文字で表してなるところ,該文字は,上記2のとおり,本件商標の登録査定時において,「関節運動学的アプローチ」を表す「arthrokinematic approach」の略であって,関節の機能の治療を行う場合がある整形外科等に係る役務との関係においては,「関節運動学を基礎にして開発された治療法・治療技術」を表すものとして理解,認識されていたと認められる。
そうすると,本件商標は,その指定役務中,第41類「関節運動学を基礎にして開発された治療法・治療技術を内容とする医業に関する電子出版物の提供,関節運動学を基礎にして開発された治療法・治療技術を内容とする医業に関する図書及び記録の供覧,関節運動学を基礎にして開発された治療法・治療技術を内容とする医業に関する図書の貸与,関節運動学を基礎にして開発された治療法・治療技術を内容とする医業に関する書籍の制作,関節運動学を基礎にして開発された治療法・治療技術を内容とする医業に関する教育用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),関節運動学を基礎にして開発された治療法・治療技術を内容とする医業に関する教育研修のための施設の提供,関節運動学を基礎にして開発された治療法・治療技術を内容とする医業に関する録画済み磁気テープの貸与」について使用するときは,単にその役務の質(内容)を表示するにすぎず,自他役務の識別標識としての機能を果たさないものであるから,商標法第3条第1項第3号に該当する。
また,上記治療法・治療技術以外を内容とする「医業に関する電子出版物の提供,医業に関する図書及び記録の供覧,医業に関する図書の貸与,医業に関する書籍の制作,医業に関する教育用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),医業に関する教育研修のための施設の提供,医業に関する録画済み磁気テープの貸与」について使用するときは,役務の質(内容)について誤認を生じさせるおそれがあるから,商標法第4条第1項第16号に該当する。
以上のとおり,本件商標は,その指定役務中の第41類「医業に関する電子出版物の提供,医業に関する図書及び記録の供覧,医業に関する図書の貸与,医業に関する書籍の制作,医業に関する教育用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),医業に関する教育研修のための施設の提供,医業に関する録画済み磁気テープの貸与」については,商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に違反して登録されたものであるから,同法第46条第1項の規定に基づき,その登録を無効にすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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