sokuhyo

Trademark Appeal Case

先使用商標と悪意登録

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号無効2017−890072(T2017−890072/J3)
審判種別無効
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は,請求人の負担とする。

理由テキスト

第1 本件商標

本件登録第5962660号商標(以下「本件商標」という。)は,「MoguraVR」の欧文字を横書きした構成からなり,平成28年10月5日に登録出願され,第41類「インターネット・携帯電話による通信を用いて行うゲームの提供,インターネット・携帯電話による通信を用いて行うゲームの提供に関する情報の提供,娯楽施設の提供,セミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,電子出版物の提供に関する情報の提供,図書及び記録の供覧,書籍の制作,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏」及び第42類「コンピュータプログラム及びコンピュータゲーム用ソフトウェアの作成・設計・開発又は保守及びこれらに関する情報の提供,ウェブサイトの作成・設計・開発又は保守及びこれらに関する情報の提供,インターネットにおける検索エンジンの提供又はこれに関する情報の提供,サーバーのホスティング,デザインの考案,電子計算機用プログラムの提供,通信ネットワークを利用したアプリケーションソフトウェアの提供又はこれに関する情報の提供,コンピュータソフトウェアの開発及び試験」を指定役務として,同29年5月12日に登録査定,同年7月14日に設定登録されたものである。

第2 引用商標

本件審判請求人(以下「請求人」という。)が,本件審判の請求の理由において引用する商標(以下「引用商標」という。)は,別掲に示すとおり「MoguraVR」の文字を横書きした構成からなり,請求人の業務に係る「VRヘッドマウントディスプレイ機器やその周辺機器に関するニュースやインタビュー記事,技術コラム情報といった各種情報を専門的に取り扱うニュースメディアサイトの提供」に使用しているものである。

第3 請求人の主張

請求人は,本件商標の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第32号証を提出した。

1 商標法第4条第1項第7号について

(1)請求人の事業内容と経緯

請求人の代表取締役である久保田瞬氏(以下「K氏」という。)は,2015年(平成27年)2月に,VRヘッドマウントディスプレイ機器やその周辺機器に関するニュースやインタビュー記事,技術コラム情報といった各種情報を専門的に取り扱うニュースメディアサイト「MoguraVR」を立ち上げ,現在までウェブサイト上での情報発信を継続している(甲3〜甲5)。2016年(平成28年)8月に法人化するまではK氏が運営し,法人化後は請求人である株式会社Moguraが運営主体となっている。当初より,「MoguraVR」の名称・屋号にて使用を開始し,現在に至るまで継続使用している。「MoguraVR」のロゴタイプについても,同様に,立ち上げ当初より継続使用している。

(2)本件審判被請求人の事業内容と経緯

本件審判被請求人(以下「被請求人」という。)は,2016年(平成28年)3月16日に,「VR Inside」と称するメディアサイトを立ち上げ,VRヘッドマウントディスプレイ機器の業界にいる企業へのニュース情報を中心として,VR業界の最新トレンド情報やカンファレンス情報など,VRに関する情報を提供しているものである(甲6)。

その後,現在に至るまで,「VR Inside」の名称・屋号にて当該事業を運営している。

(3)被請求人は,請求人の運営するメディアサイト「MoguraVR」という名称,及び,請求人の代表取締役を知っていたという事実

下記のとおり,「MoguraVR」という名称,請求人の代表取締役に関する告知情報や取材記事が,被請求人のメディアサイト「VR Inside」において複数回にわたり掲載されている。

まず,平成28年5月10日に,「Japan VR Summit」という国内初の大型のVRに関するカンファレンスがグリー株式会社によって開催されたが,このカンファレンスに,請求人の代表取締役(K氏)が登壇している。かかる登壇告知情報が,被請求人のメディアサイト「VR Inside」において,平成28年3月17日付けで発信されている(甲7)。ここでは,K氏の氏名とともに「(MoguraVR/共同代表・編集長)」と記載されている。

また,当該カンファレンスの開催後の平成28年5月11日付けで,登壇内容が掲載されており,Moderatorとして,K氏の氏名とともに「(MoguraVR/共同代表・編集長)」との記載が明記されている(甲8)。

「MoguraVR」が主催した国内最大規模のVRコンテンツの制作に関するイベント「Japan VR Hackathon」が平成28年6月18日,19日に開催されたが,被請求人のメディアサイト「VR Inside」において平成28年6月9日に当該イベント情報の告知記事が掲載され,請求人メディアサイトの名称・屋号の「MoguraVR」が明記されている(甲9)。

「MoguraVR」がパートナーとなったVRインキュベーションプログラム「TECH LAB PAAK VRコース」が平成28年7月8日に開始されるに当たり,被請求人のメディアサイト「VR Inside」で,同年7月6日にその情報が告知されている(甲10)。ここで,「MoguraVR」がパートナーとなっていることを示す記事が掲載されている。なお,被請求人のメディアサイト「VR Inside」も,「MoguraVR」と同様に,パートナーとなっている。

「Japan VR Summit 2」というカンファレンスが平成28年11月16日に,グリー株式会社及び一般社団法人VRコンソーシアムによって開催されたが,被請求人のメディアサイト「VR Inside」において平成28年9月29日付けで,株式会社Moguraの代表取締役,かつ,MoguraVRの編集長として,K氏が登壇する旨が紹介されている(甲第11号証)。なお,請求人は平成28年8月に法人化されたため,ここでは,「株式会社Mogura/代表取締役MoguraVR編集長」として紹介されている。

以上の事実より,本件商標の権利者である被請求人は,K氏,法人化後は株式会社Moguraが運営するメディアサイト「MoguraVR」の名称を知っていたこと,及び,K氏・株式会社Moguraは「MoguraVR」というメディアサイトにおいて,VRに関するニュースやインタビュー記事といった各種VR関連情報を提供していることを知悉していたことは明白である。

さらに,被請求人の現執行役員である村山章氏(以下「M氏」という。)は,平成28年9月27日付で,株式会社Moguraの代表取締役のK氏に接触を図っている。

請求人は,「MoguraVR」事業の展開に当たり,ウェブサイトの他にFacebookページも運営しているが(甲12),このサイトにおいてメッセージの受信・送信ができるところ,被請求人のメディアサイト「VR Inside」の編集長で,被請求人の現執行役員のM氏より,K氏に宛てた挨拶のための時間が欲しい旨のメッセージを受けているものである(甲13,甲14)

上記状況は,本件商標の出願日(平成28年10月5日)の直前に起こったことであり,請求人の競合関係にある被請求人であればなおさら,「MoguraVR」という名称及びその事業内容を知っていたということについて,疑念を差し挟む余地はない。

そもそも,本件商標の出願前の時期において,同種情報を専門に取り扱うメディアサイトは数少なかった中で,請求人の「MoguraVR」はVRが注目され出した初期に立ち上げられ,代表取締役のK氏のイベント参加・主催といった積極的な普及活動とも相まって,本件商標の出願時には相当程度,広く知られた標章となっていたものである。

また,本件商標の構成中,「VR」の語は「VR機器」の略称であって一般的に用いられている言葉であるとしても,「Mogura」の語についてはVRの業界においても,「インターネットを介して行う電子新聞・電子雑誌の提供」その他の情報提供の分野においても,一般的に用いられているようなものではない。請求人代表のK氏が2015年(平成27年)2月にニュースメディアサイトを立ち上げる際,まだVRがさほど注目を浴びていない黎明期にあって,日の目を見ない暗闇に存在しているVRの面白さ・可能性を探り当て,掘り出して,光を当てるというコンセプトから,動物の「土竜」に着想を得て,独自に採択したものであって,独創性の程度は極めて高いものである。したがって,請求人の運営するメディアサイト「MoguraVR」と偶然に一致したとは考えられない。

加えて,本件商標の指定役務中には,請求人の使用に係る「インターネットを介して行う電子新聞・電子雑誌の提供」と類似する第41類の役務「電子出版物の提供,電子出版物の提供に関する情報の提供,図書及び記録の供覧」が含まれている。また,VRは一般的に,ゲーム用ソフトウェアその他のソフトウェアを実行する際にも用いられるものであり,請求人メディアサイト「MoguraVR」でも関連する情報の提供を行っているところである。よって,請求人に係るVRに関する広範な情報の提供と,下記役務とは密接な関連を有するものである。

第41類「インターネット・携帯電話による通信を用いて行うゲームの提供,インターネット・携帯電話による通信を用いて行うゲームの提供に関する情報の提供」

第42類「コンピュータプログラム及びコンピュータゲーム用ソフトウェアの作成・設計・開発又は保守及びこれらに関する情報の提供,電子計算機用プログラムの提供,通信ネットワークを利用したアプリケーションソフトウェアの提供又はこれに関する情報の提供,コンピュータソフトウェアの開発及び試験」

(4)小活

以上より,被請求人は,「MoguraVR」という商標を請求人が採択し,その商標の下で「VRに関連する各種情報の提供」(「インターネットを介して行う電子新聞・電子雑誌の提供」)がなされていることを知悉していた同業者であるにもかかわらず,「MoguraVR」が,本件商標の出願時に出願・登録されていないことを奇貨として,請求人に無断で出願・登録したことは不正の目的に基づいた剽窃的行為と評価されるべきものであり,社会の一般的道徳観念に反し,公正な商取引の秩序を乱すものであって,公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標である。

したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものである。

2 商標法第4条第1項第10号について

引用商標は,前述のとおり,本件商標の出願日より前に,この種役務の業界において,請求人の出所標識として需要者の間に広く認識されていたものである。

そして,請求人の使用している商標と本件商標とは,書体において多少の違いはあるが,つづりは同一である。その態様において,「Mogura」の頭文字のみを大文字にしている点,「VR」の文字を大文字で表し,「Mogura」の後ろに配している点も,完全に共通している。

また,本件商標の指定役務中,第41類の役務「電子出版物の提供,電子出版物の提供に関する情報の提供,図書及び記録の供覧」は,請求人の使用に係る「インターネットを介して行う電子新聞・電子雑誌の提供」と類似する。

したがって,本件商標は,他人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標に類似する商標であって,その役務又はこれに類似する役務について使用するものに該当する。

したがって,本件商標登録は,商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものである。

3 商標法第4条第1項第15号について

引用商標は,本件商標の出願日より前に,この種役務の業界において,請求人の出所標識として需要者の間に広く認識されていたものであり,著名となっていたものである。

(1)前述のとおり,本件商標は引用商標とほぼ同一であること,(2)「MoguraVR」はそもそも請求人によって独自に採択された独創性の高い造語であるということ,(3)本件商標に係る指定役務と請求人に係る役務とは極めて密接な関連性があること,それゆえに(4)需要者の共通性を有すること,といった理由から,本件商標は,請求人の業務に係る役務と混同を生ずるおそれがある商標である。

仮に,本件商標の登録を認める場合には,周知表示又は著名表示へのただ乗り及び当該表示の希釈化を防止し,商標の自他識別機能を保護することによって,商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り,需要者の利益を保護するという商標法第4条第1項第15号の規定の趣旨を無に帰することになる。

したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。

4 答弁に対する弁駁

(1)商標法第4条第1項第7号について

ア 被請求人は,答弁書において,『「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域までに拡大解釈することは特段の事情のある場合に限定されるが,本体商標登録を受けるべきであると主張する者が自ら速やかに出願することが可能であったにもかかわらず,出願を怠っていたような場合には特段の事情には当たらない。』と主張し,種々の点を挙げて理由を述べているが,これに対し以下の反論をする。

商標法は先願主義を採用し,悪意による出願自体を明文で禁止しているわけではないものの,その行為態様によっては,商標登録を認めること自体が信義則や社会公共の利益,社会一般の道徳観念に反する場合がある。また,出願人とは無関係の他人の商標に化体した信用・名声・顧客吸引力へのフリーライド,そのような商標の出所表示機能の稀釈化といった問題を生ずる場合もある。

このような場合にあっても,商標権という独占排他権の付与を認めることは,商標保護を目的とする商標法の精神にもとり,健全な商品流通社会の一般的な秩序というものを害するものである。

この点において,例えば,専らライセンス料を要求したり,売却を持ちかけることなどを目的とした,いわゆる「悪意の出願」による商標は,正に「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」がある商標に該当し,登録は認められるべきものではなく,登録を認められた商標にあっては,当然ながらその登録は是正されるべきである。

本件において,被請求人は,「MoguraVR」という商標を請求人が採択し,その商標の下で本件商標に係る指定役務と同一又は関連性の極めて高いサービスを提供していることを知悉していた同業者であるにもかかわらず,本件商標の出願時に「MoguraVR」が出願・登録されていないことを奇貨として,商標登録を受けたものである。「VR」に関する情報を提供するというメディア事業は,まだまだその規模が限られている状況において,被請求人が先行者の請求人のメディアサイト「MoguraVR」を知っていたことは,既に提出している甲第7号証ないし甲第11号証からも明らかである。殊に,被請求人は,本件商標の出願日の直前に,「MoguraVR」事業を展開している請求人の代表取締役に接触を図っている。これは,請求人が2015年2月から開始しているメディア事業に関する何らかの提案に関するものであったことも予測されるところである。

にもかかわらず,請求人が約3年にわたり継続してきているメディア事業の名称である「MoguraVR」と同一商標について出願・登録をした被請求人の一連の行為は,信義誠実を旨とすべき商取引上の慣行を反故にするものといわざるを得ず,公正な取引秩序を損なうおそれのある行為と評価されるべきものである。その代表的なサービスについて継続的に使用しているが故に,需要者の一定の認知を得ている他人の商標について,競業者が無断で商標出願・登録をすることは,当該他人の利益を損なうことになるだけでなく,これに接する需要者において混乱を来し,むやみやたらに競業者の未登録商標の出願が氾濫・横行し,健全な競争秩序が保てなくなることは明らかである。すなわち,被請求人の出願・登録に係る商標は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」がある商標と評価されるべきものであるということになる。

特に,他人の商標の先取りとなるような出願が特定の者によって大量に行われていることが問題となっている現在の状況において,同一業界の極めて近しい関係にある競業者による明らかな先取り商標出願の帰趨にあっては,もはや単に私人間の紛争にとどまるものではなく,一般国民に十分に影響を与えるものである。

そもそも,答弁書にて挙げられた判決(平成19年(行ケ)10391)は,商標法第4条第1項8号,10号,15号,19号などの該当性の有無と密接不可分とされる事情については,専ら,当該条項の該当性の有無によって判断すべきであって,それらの判断をすることなく,商標法第4条第1項第7号の該当性の判断のみを進めてしまった原審を取り消したものである。出願の経緯よりして,正に「社会的相当性欠くものがある」といった事情が認められる場面において,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に,商標法第4条第1項第7号の適用を認めることまで否定するものではない。

この点,商標法第4条第1項第19号の要件を満たさない悪意の出願に対して,商標法第4条第1項第7号が適用された判断例も複数存在しているところである(東京高平成10年(行ケ)18号,東京高平成10年(行ケ)185号,知財高平成21年(行ケ)第10297号,知財高平成23年(行ケ)10386号,など)。

特に,知財高平成21年(行ケ)第10297号では,「被告の本件商標の出願は,ASUSTeK社若しくはASRock社が商標として使用することを選択し,やがて我が国においても出願されるであろうと認められる商標を,先回りして,不正な目的をもって剽窃的に出願したものと認められるから,商標登録出願について先願主義を採用し,また,現に使用していることを要件としていない我が国の法制度を前提としても,そのような出願は,健全な法感情に照らし条理上許されないというべきであり,また,商標法の目的(商標法1条)にも反し,公正な商標秩序を乱すものというべきであるから,出願当時,引用商標及び標章『ASRock』が周知・著名であったか否かにかかわらず,本件商標は『公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標』に該当するというべきである。」として,商標法第4条第1項第7号に該当するとし,原審の判断が取り消されている。

本件においても,被請求人は,「MoguraVR」が本件商標の出願時に出願・登録されていないことを奇貨として,請求人に無断で出願・登録したことは不正の目的に基づいた剽窃的行為と評価されるべきものである点で同一の状況であることから,商標法第4条第1項第19号とは別に,商標法第4条第1項第7号の適用が認められてしかるべきものである。

したがって,本件商標登録は,商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものである。

イ 被請求人は,答弁書において,「請求人は商標MoguraVRはその選択に独創性がある旨を主張するが,ゲーム・エンターテインメント分野では商標MoguraVRはその選択が困難な文字ではない。」と主張し,種々の点を挙げて理由を述べているが,これに対し以下の反論をする。

被請求人は,「Mogura」の語はゲームの主題として関連付けられていることなどを述べ,「MOGURA」の表記は造語ではなく,尊重すべき独創性もない旨を主張する。

しかしながら,請求人は審判請求書においてゲームの分野については全く言及しておらず,「インターネットを介して行う電子新聞・電子雑誌の提供」その他のVRに関するメディアサイトを介して行う情報の提供に関するサービス分野においては,「Mogura」の語は一般的に用いられているようなものではない旨を説明したものである。

審判請求書でも主張したとおり,請求人はまだVRがさほど注目を浴びていない黎明期にあって,日の目を見ない暗闇に存在しているVRの面白さ・可能性を探り当て,掘り出して,光を当てるというコンセプトから,動物の「土竜」に着想を得て,ニュースメディアサイトの名称として独自に採択し使用したものである。

なお,被請求人は,「MOGURA」の語が遊び場の主題としても採用されている事実を示すべく「MOGURA in VR」に言及しているが,「遊び場の主題」ではなく,ゲームのタイトルとして用いられているにすぎないものである。これをもって,エンターテインメント分野全体で「MOGURA」の語が広く用いられていることを示すことにはならない。

したがって,「MoguraVR」の表記は,業界において一般的に用いられているようなものではなく,採用の経緯に照らしても,独創性を有するものである。むしろ,VRのメディアサイトの分野で,他社が「Mogura」の表記を用いていることはないことから,「Mogura」は請求人又はその提供するサービスの出所を指称するものとして,商標法による保護を受けるに十分値する独自性・識別性を備えているものである。

以上より,被請求人の主張は誤りであり,本件商標について請求人に無断で出願・登録した被請求人の行為は不正の目的に基づいた剽窃的行為と評価されるべきものであり,社会の一般的道徳観念に反し,公正な商取引の秩序を乱すものであるから,商標法第4条第1項第7号に該当するものである。

(2)商標法第4条第1項第10号及び第15号について

被請求人は,答弁書において,「商標登録出願の出願日において需要者の間に広く認識されていることが要件であるが,請求人は需要者の間に広く認識されていることについての証拠を実質的に全く挙げていない。」と主張するが,これに対し以下の反論をする。

ア 「MoguraVR」と題するウェブサイトについて

本件商標の出願日(2016年10月5日)の時点で,請求人と同様の事業(VRに関するメディアサイト事業)を行っている業者は,請求人を含め,4社存在した。

・「MoguraVR」(請求人,甲3〜甲5)

・「VRInside」(被請求人,甲15)

・「Social VR info」(株式会社ビジブル,甲16)

・「Panora vr」(株式会社パノラプロ,甲17)

VR機器が日本に普及し始まってごく間もない状況において,VR機器に関する情報の提供を行う業界・市場は極めて限られたものであったため,基本的には上記の4つの業者によってほぼ独占されていた。なお,日本において,2016年がVR元年といわれている。

中でも,請求人の運営するメディアサイト「MoguraVR」は,2015年6月以降のほぼ全期間わたってトップの人気を誇るものであり,本件商標の出願日(2016年10月5日)の時点においても最も多くユーザーを抱え,閲覧されているものである(甲18)。特に,2015年6月から2016年12月の期間においては,請求人メディアサイト「MoguraVR」はトップの人気を集めていることが分かる(甲19)。

なお,甲第18号証及び甲第19号証は,Googleが蓄積している膨大な検索データをもとにした,人気急上昇のキーワードや特定のキーワードの検索回数の推移をグラフで表したものであり,Google Inc.によって提供されているシステムを利用して作成されたものである。当該グラフの数値は,特定の期間について,グラフ上の最高値を基準として検索インタレス卜を相対的に表したものであって,100の場合はそのキーワードの人気度が最も高いことを示し,50の場合は人気度が半分であることを示すものである。また,0の場合はそのキーワードに対する十分なデータがなかったことを示すものである。

また,請求人のメディアサイト「MoguraVR」の2015年2月〜2016年9月30日の期間における,当該サイトを訪れたユーザー数は248万で,それらユーザーによって閲覧されたページ数を表すPV(ページビュー)は約700万となっている(甲20)。競合他社の数字を見ることはできないが,2016年のVRヘッドセットの国内出荷台数が11.7万であり,そのうち8.1万台を占めるPlayStationVRの発売日は本件商標の出願日後の2016年10月13日であるから,それ以前の出荷台数が3.6万台ほどであることを勘案すると,極めて多くの方に閲覧されていることになる(甲21)。

当該事実より,本件商標の出願日(2016年10月5日)以前において,請求人メディアサイトは,VR機器に関する情報メディアというニッチな市場において,圧倒的にトップの人気を有していたことが分かる。当該ウェブサイトの名称・商標である「MoguraVR」が広くユーザーに認識されていたことを示すものである。

イ 雑誌,ウェブ雑誌

以下に示す資料は,本件商標の商標登録出願日前に,請求人,及び,「MoguraVR」の語がVR専門メディア事業を行っているものとして紹介された事実を示すものである。

(ア)国内雑誌(甲22)

・週刊東洋経済(2016年4月16日発行)

(イ)国内ウェブ雑誌(甲23〜甲29)

・Game Watch Impress(2015年9月4日投稿)

・ファミ通APP(2016年5月11日投稿)

・CNET Japan(2016年5月25日投稿)

・PR TIMES(2016年5月30日投稿)

・Engadget日本版(2016年6月9日投稿)

・窓の杜 杜のVR部(2016年6月28日投稿)

・窓の杜 杜のVR部(2016年7月5日投稿)

(ウ)外国ウェブ雑誌(甲30,甲31)

・Road to VR(2015年12月16日投稿)

・Techly(2016年7月7日投稿)

請求人は,VR自体が未成熟なために限られた日本のメディア市場において,自社サイトを介して情報発信をするメディア自体を運営しているものであり,業界紙,その他の媒体に広告を出すような性質のものではないという状況にあっては,自社のウェブサイト自体の人気度や閲覧頻度こそが周知性の判断において重要な要素を占めると考えるべきものである。

この点,請求人は2015年2月24日より,「MoguraVR」と題するメディアサイトの提供を開始し,国内外のVRに関する様々の情報発信を継続している(甲3)。VRに関する幅広い最新情報を逐次発信しているものであり,その情報量や先見性,正確性などが高く評価され,ユーザーの信頼を獲得しているものである。また,海外の主要なVRイベントには必ず現地に足を運び,取材やネットワーク構築を行っており,海外の状況に関するニュースもその都度取り上げて発信していることが一つの特徴となっている。その結果,VR専門のメディア業界において先駆者としての地位を獲得しているのであって,本件商標の出願日(2016年10月5日)の時点において最も多く閲覧されるメディアへと成長しているのである。なお,外国ウェブ雑誌のRoad to VR(2015年12月16日投稿)においては,請求人の「MoguraVR」は日本で最も大きなVRメディアであるとして紹介されている。

また,その発信情報の量と質が評価され,多くのイベントでの登壇や雑誌などの取材を受けるに至っており,各種媒体において取り上げられているものである。2016年10月以降も多くの媒体に取り上げられている(甲30)。

以上のことから,請求人の使用に係る「MoguraVR」は,メディアサイトの提供の開始から2016年10月までの短期間に,目新しい新鮮な情報の発信を日々繰り返すことにより,VR機器の我が国での急速な普及と相まって,広く注目を集め,同メディアサイトの名称若しくは請求人の使用する商標として需要者・取引者の間で広く知られるに至っているものである。よって,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当する。

実際,2017年9月27日に,VR専門のコンテンツ制作会社である株式会社ハシラスの代表取締役社長A氏より,当該会社で提供予定のゲームコンテンツのタイトルとしての「もぐらVR」の採用の可否につき,請求人に対して打診があったところである。よって,現に,本件商標につき,請求人の業務に係る商品又は役務と混同を生じているものであることから,本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当するものである。

第4 被請求人の主張

被請求人は,結論同旨の審決を求める,と答弁し,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として乙第1号証及び乙第2号証を提出した。

1 商標法第4条第1項第7号に該当するとの主張について

(1)「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することは特段の事情のある場合に限定されるが,本来商標登録を受けるべきであると主張する者が自ら速やかに出願することが可能であったにもかかわらず,出願を怠っていたような場合には特段の事情には当たらない。

商標法は「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」について商標登録を受けることができず,また無効理由に該当する旨定めている(法4条1項7号,46条1項1号)が,商標登録を受けることができない要件を法4条各号で個別的具体的に定めていることから,法4条1項7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは,商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので,特段の事情のある例外的な場合を除くほか,許されないというべきである(平成19年(行ケ)第10391号)。特段の事情があるか否かの判断に当たっても,出願人と,本来商標登録を受けるべきと主張する者との関係を検討して,例えば,本来商標登録を受けるべきであると主張する者が自ら速やかに出願することが可能であったにもかかわらず,出願を怠っていたような場合,出願人と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は,あくまでも,当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから,そのような場合にまで,「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でない(同上)。

我が国は先願主義を採用することから,同一若しくは類似の標章について同一若しくは類似の指定商品若しくは指定役務の権利については先に出願した者が権利を得ることとされており,これは諸外国の使用をもって独占的な権利を認める使用主義とは対峙する制度である。先願主義のもと,我が国では仮に先願主義制度について不知であっても原則商標登録出願を怠っていたような者を救済するような制度にはなっていない。請求人はMoguraVRと称するサイトを2015年2月に立ち上げ,株式会社Moguraを2016年8月に設立したと主張するが,その主張が正しいのであれば本件商標登録出願の出願日である2016年10月5日よりも前の時点でMoguraVRについて自ら商標登録出願をすることができたはずであり,出願をすることができなかったことについての合理的な事情などは平成29年10月23日提出の審判請求書にはその記載がない。すなわち,出願をしなかったという自己の懈怠には全く触れずに被請求人の出願行為を一方的に不正目的としており,その主張は先願主義を採用する我が国では受入れらない。

(2)請求人は,メディアサイトMoguraVRの存在を知っていたことをもって本件登録が社会の一般的道徳観念に反し公正な商取引の秩序を乱すと主張するが,該メディアサイトの存在を知っていたことは何ら被請求人に出願を断念すべき契約関係等の法的な関係を生じさせるものではない。

請求人は本件商標登録出願前において被請求人の運営するサイトの編集者がメールのやりとりや記事によりメディアサイトMoguraVRの存在を知っていたと主張し,知っていたのに出願したので社会の一般的道徳観念に反し公正な商取引の秩序を乱すと主張するが,単に知っていることをもって相手に出願を断念するような道徳観念が形成されることはなく,本件の商標登録によって公正な商取引の秩序が乱れることは全くない。自己のサイトについてメールなどを知らせたことにより,それだけをもって相手に何らかの法的に不作為を義務付ける関係に入るものではなく,出願させない関係とするのは少なくとも何らかの法的に有効な契約が必要であって,請求人の主張にはそのような契約などについては一切触れられておらず,被請求人もそのような法的な関係にあるとの認識は全くない。仮に,競合相手に自分の業務を知らせるだけで他人に商標に関する権利が奪われることがないとの秩序が形成されるとするならば,そもそも商標登録制度自体不要であり,商標登録の法的安定性は崩壊することにもなる。この点についての請求人の主張は失当であり,被請求人が競合メディアのサイト名を知っていたとしても,商標登録出願を断念しなければならない理由はない。

(3)請求人は商標MoguraVRはその選択に独創性がある旨を主張するが,ゲーム・エンターテインメント分野では商標MoguraVRはその選択が困難な文字ではない。

商標MoguraVRは,「Mogura」と「VR」の組合せからなる文字商標であり,そのうちの「VR」については,Virtual Realityの略語であって一般的な用語であることは言うまでもない。さらに「Mogura」の部分については,単に「もぐら」や「土竜」を普通にローマ字表記したものであり,動物のもぐらは,ゲーム・エンターテインメント分野では30年以上も前から,もぐら叩きゲームと呼ばれるようなゲームの主題として関連付けられている。詳しくはもぐら叩きゲームは1980年代あるいはそれ以前より,複数の穴から飛び出すモグラを制限時間内にハンマー等で叩くゲームであり,ゲームセンターなどに置かれたほか,卓上に置けるサイズの小さいものは玩具屋でも販売されてきている。乙第1号証に示すもぐら叩きゲームの様子の動画のスクリーンショットでは,「UFO MOGURA」の文字が衝立のごとき部分やその側部などに表示されていることが分かる。また,VRに関連した分野のゲームとしても最近の報道があり,「MOGURA in VR」なる表題の遊び場(乙2)も最近では知られてきている。すなわち,「MOGURA」なる表記はゲームや遊び場などのVRでの応用が期待される業務分野では,人口に膾炙した「もぐら」ないし「土竜」の文字を単純にローマ字に変換しただけの言葉にすぎず,造語ではないことはもちろんのこと,尊重すべき独創性があるものでなく,本件商標登録の出願時では標章を構成する文字として自由に選択できる文字であることが分かる。

(4)請求人はMoguraVRについて広く知られていると主張するが,その証拠は実質的に全く挙げられていない。

請求人はMoguraVRについて広く知られていると主張するが,代表者がイベント活動をしていたと述べているだけであり,例えば,雑誌や新聞での告知や広告,メディア露出の種類,時期(期間),回数,反響などの周知性を立証する資料は全くない。したがって,請求人が何を根拠にMoguraVRが広く知られていると主張しているのか全く不明である。さらに,他人に商標登録出願時に広く知られていたか否かは,本来商標権の侵害訴訟における先使用の抗弁での要件の1つであり,仮に広く知られていたとしても限定的な使用が許容される先使用権が与えられるだけであって,我が国の先願主義では,周知性が登録商標の無効をもたらすものではない。使用して広く知られていた場合にのみ抗弁権が存在するのであるから,他人への周知性が広く知られた状態よりも明らかに低い状態である当事者が知っているという状態が無効理由ではないことはもちろんで,出願を怠った自己の懈怠を他人の剽窃とするのは偏見であって,誤った考え方である。

(5)以上のように,本件商標については,我が国の先願主義のもと,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域まで拡大するだけの特段の事情はないのであるから,商標法第4条第1項第7号に該当することはなく,登録が無効となるものではない。

2 商標法第4条第1項第10号に該当するとの主張について

(1)商標法第4条第1項第10号を適用する際には,商標登録出願の出願日において需要者の間に広く認識されていることが要件であるが,請求人は需要者の間に広く認識されていることについての証拠を実質的に全く挙げていない。

請求人は本件商標の出願日よりも前に,この種役務の業界において,請求人の出所標章として需要者の間に広く認識されていたと主張している。しかしながら,請求人提出の審判請求書の内容を精査すると,代表者がイベント活動をしていた程度の内容であり,例えば,雑誌や新聞での告知や広告,メディア露出の種類,時期(期間),回数,反響などの周知性を立証する資料は全くない。請求人が何の根拠をもってMoguraVRの商標が本件商標の出願日よりも前に請求人の出所標識として広く認識されているとしているのか全く不明である。

(2)以上のように,本件商標については,本件商標の出願日よりも前に,請求人の出所標章として需要者の間に広く認識されていたことについては,その証拠がなく,したがって,商標法第4条第1項第10号に該当することはなく,登録が無効となるものではない。

3 商標法第4条第1項第15号に該当するとの主張について

(1)商標法第4条第1項第15号を適用する際にも,商標登録出願の出願日において需要者の間に広く認識されていることが要件であるが,請求人は需要者の間に広く認識されていることについての証拠を実質的に全く挙げていない。

請求人は本件商標の出願日よりも前に,この種役務の業界において,請求人の出所標章として需要者の間に広く認識されていたと主張している。しかしながら,請求人提出の審判請求書の内容を精査すると,例えば,雑誌や新聞での告知や広告,メディア露出の種類,時期(期間),回数,反響などの周知性を立証する資料は全くない。請求人が何の根拠をもってMoguraVRの商標が本件商標の出願日よりも前に請求人の出所標識として広く認識されているとしているのか全く不明である。

(2)請求人は標章「MoguraVR」を独創性の高い造語であると主張するが,該標章は選択が困難な文字ではない。

商標MoguraVRは,「Mogura」と「VR」の組合せからなる文字商標であり,そのうちの「VR」については,Virtual Realityの略語であり,VRに関するメディアサイトとしては造語ではない。そして「Mogura」の部分については,単に「もぐら」や「土竜」を普通にローマ字表記したものであり,ゲーム・エンターテインメント分野に馴染んだ動物の「もぐら」からの言葉の選択にすぎない。動物のもぐらは,ゲーム・エンターテインメント分野では30年以上も前から,もぐら叩きゲームと呼ばれるようなゲームの主題として関連付けられており(乙1),最近では「MOGURA in VR」なる表題の遊び場(乙2)も知られてきている。すなわち,「MOGURA」なる表記はゲームや遊び場などのVRでの応用が期待される業務分野では,人口に膾炙した「もぐら」ないし「土竜」の文字を単純にローマ字に変換しただけの言葉にすぎず,独創性の高い造語ではないことは断言できるものである。

(3)以上のように,本件商標については,本件商標の出願日よりも前に,請求人の出所標章として需要者の間に広く認識されていたことについては,その証拠がなく,また,標章自体も自由に選択し得る範囲のものである。したがって,商標法第4条第1項第15号に該当することはなく,登録が無効となるものではない。

第5 当審の判断

1 引用商標の周知著名性について

(1)請求人は,引用商標は,請求人の業務に係る「インターネットを介して行う電子新聞・電子雑誌の提供」を表示するものとして,需要者の間に広く認識されている商標である旨主張し,甲各号証を提出しているので,以下,検討する。

ア 甲第3号証及び甲第4号証は,「MoguraVR」のウェブサイト(http://www.moguravr.com/)であり,「2015.02.24」の日付で,「VRヘッドマウントディスプレイOculus Riftとは何か?」と題する見出しの下,「ゴーグル型ディスプレイ」に関する記事が掲載され(甲3),また,同サイトには運営会社として「株式会社Mogura」,編集長としてK氏の氏名の記載がある(甲4)。

イ 甲第5号証は,「株式会社Mogura」のウェブサイト(http://www.mogura.co/ja/about/)であり,「企業情報」として,「設立日 2016年8月4日」,「代表者 代表取締役社長」としてK氏の氏名,「事業内容 ・VR・AR・MR及びゲームに関するメディアの企画・運営」,「メディア事業」として「MoguraVR」の見出しの下,「VR/AR/MR専門ニュースメディア『MoguraVR』では日々多数の情報発信を行っております。」等の記載がある。

ウ 甲第15号証ないし甲第17号証は,それぞれ,「VRInside」(https://vrinside.jp/),「Social Game info」(https://gamebiz.jp/corporate),「PANORA」(https://panora.tokyo/company/)と題するウェブサイトであり,VRに関する情報提供を行うサイトが,MoguraVR以外に3つ存在することがうかがわれるが,サイトの設立の時期について記載がないものもあり,これらが全て本件商標の登録出願時から存在したかを確認することはできない。

エ 甲第18号証及び甲第19号証は,「Google Trends 比較」と題する資料であり,「人気度の動向」のタイトルの下,折れ線グラフ及び,凡例として,「MoguraVR」,「VRInside」,「Social VR info」,「Panora vr」等の記載がある。

オ 甲第20号証は,「すべてのウェブサイトのデータ」と題する資料であり,「ユーザーサマリー」,「ユーザー2,482,570」,「ページピュー数6,964,051」等の記載がある。

カ 甲第21号証は,「IDCJapan株式会社」が提供するウェブサイト(https://www.idcjapan.co.jp/Press/Current/20170405Apr.html)であり,「AR/VRヘッドセット市場2016年の国内/世界出荷台数および世界市場予測を発表」の記事において,「2016年の国内出荷は11.7万台,うちPlayStationVRは8.1万台」等の記載がある。

キ 甲第22号証ないし甲第32号証は,国内雑誌(甲22,甲32),国内ウェブ雑誌(甲23〜甲29,甲32)及び外国ウェブ雑誌(甲30,甲31)であり,それぞれの記事において,VRゲーム専門メディアとして「MoguraVR」の名称が記載されている。

(2)以上によれば,MoguraVRは,VR(「バーチャル・リアリティ」以下,単に「VR」という。)に関する情報を専門的に取り扱うニュースメディアサイトの名称であり,遅くとも2015年(平成27年)2月頃には当該メディアサイト(以下「請求人サイト」という。)をスタートし,そして,現在,その運営を請求人が行っていること,そして,請求人サイトにおいては,VRヘッドマウントディスプレイ機器やその周辺機器に関するニュースやインタビュー記事,技術コラム情報といった各種情報を専門的に取り扱う記事が編集され,定期的に提供されており(以下「請求人役務」という。),政令で定める商品及び役務の区分第41類に属する役務「インターネットを介して行う電子雑誌の提供」と同様の役務が提供されていることが確認できる。また,請求人は,2016年8月4日に設立された株式会社であり,その代表者は,K氏である(甲3〜甲5)。

(3)引用商標の周知著名性について

ア 使用期間

請求人サイトでの開始時期は,2015年2月24日であり,出願日(2016年10月5日)までの期間は,1年8か月程度であり,該期間は決して長いものとはいえず,請求人サイトで使用されていた引用商標は,長年使用されていたとはいえないものである。

イ 請求人サイトの閲覧回数

(ア)請求人の主張によれば,甲第18号証,甲第19号証は,インターネット上の特定のキーワードの検索回数を比較した折れ線グラフと見受けられる。

しかしながら,元データや,該グラフの詳細な説明はなく,このグラフから何らかの具体的事情を読み取ることはできない。

(イ)請求人は請求人サイトの閲覧数について甲第20号証を引用し,「2015年2月〜2016年9月30日の期間における,当該サイトを訪れたユーザー数は248万で,それらユーザーによって閲覧されたページ数を表すPV(ページビュー)は約700万となっている」と主張している。

しかしながら,甲第20号証によって閲覧されたとされるウェブサイトの内容は明らかではなく,実際に引用商標が使用されたことを確認することはできない。

また,請求人は,上記のPV(ページビュー)数が,2016年のVRヘッドセットの国内出荷台数(3.6万)と比較し極めて多くの方に閲覧されていることになる旨主張しているが,引用商標の周知著名性の認定において,VRヘッドセットの国内出荷台数を比較の根拠とする理由は明らかでなく,閲覧数の多寡について比較すべき客観的な資料とはいえないから,請求人の主張は採用できない。

ウ 雑誌等での請求人サイトの記事

甲第22号証ないし甲第32号証において,請求人サイトの名称が記載された記事が確認できるが,これらは,必ずしも引用商標が商標として使用されていることを表すものではなく,また,その件数も決して多いものとはいえないものであるから,引用商標が請求人役務の分野において周知著名性を獲得したことを裏付けるのに合理的なものとはいえない。

また,英語による記事も2件確認できる(甲30,甲31)ものの,引用商標が外国で周知著名であることを裏付ける具体的な根拠は不明である。

エ その他,本件商標の登録出願日及び登録査定時における引用商標を使用した請求人役務の我が国及び外国における売上げ,業界における市場占有率,広告宣伝の回数や広告宣伝費の額等,引用商標の周知著名性を客観的に示す資料は見当たらない。

オ なお,請求人は,「VR自体が未成熟なために限られた日本のメディア市場において、自社サイトを介して情報発信をするメディア自体を運営しているものであり、業界紙、その他の媒体に広告を出すような性質のものではないという状況にあっては、自社のウェブサイト自体の人気度や閲覧頻度こそが周知性の判断において重要な要素を占めると考えるべき」旨を主張しているが,上記認定のとおり,引用商標へのアクセス回数や,同業他者との比較等について,引用商標の周知性を認め得るような明確な資料の提出がなく,十分立証されているとはいえないから,請求人のかかる主張は採用できない。

カ 以上を総合的に判断すれば,引用商標が請求人の業務に係る請求人役務を表すものとして,本件商標の登録出願時において,我が国及び外国における取引者,需要者の間に広く認識されていたものとは認めることができないものである。

2 商標法第4条第1項第7号該当性について

(1)被請求人の事業内容と経緯

被請求人であるスパイーシーソフト株式会社は,2016年(平成28年)3月16日に,「VR Inside」と称するウェブサイトを立ち上げ,VRに関する情報の提供を行っていること(甲6)。そして,被請求人の執行役員M氏は,2016年3月17日頃には,引用商標及びK氏の存在を知っていたと認め得るものである。

そして,被請求人の執行役員であるM氏は,facebookにより,2016年9月27日,2016年9月28日及び2016年10月5日に,請求人代表取締役のK氏との接触を図っていることが確認できる(甲12号〜甲14)。

(2)商標法第4条第1項第7号の趣旨

商標法第4条第1項第7号は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は商標登録をすることができないとしているところ,同号は,商標自体の性質に着目したものとなっていること,商標法の目的に反すると考えられる商標の登録については,同法第4条第1項各号に個別に不登録事由が定められていること,商標法においては,商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されていることを考慮するならば,商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法第4条第1項第7号に該当するのは,その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである。

また,同号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは,商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので,特段の事情のある例外的な場合を除くほか,許されないというべきである。

そして,特段の事情があるか否かの判断に当たっても,出願人と,本来商標登録を受けるべきと主張する者との関係を検討して,例えば,本来商標登録を受けるべきであると主張する者が,自らすみやかに出願することが可能であったにもかかわらず,出願を怠っていたような場合や,契約等によって他者からの登録出願について適切な措置を採ることができたにもかかわらず,適切な措置を怠っていたような場合は,出願人と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は,あくまでも,当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから,そのような場合にまで,「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でない(平成14年(行ケ)第616号,平成19年(行ケ)第10391号)。

(3)判断

請求人は,「被請求人は,本件商標の出願日(平成28年10月5日)より前に,請求人が本件商標と類似する商標を本件指定役務と同一又は類似する役務について使用していることを知りながら,商標出願・登録されていないことを奇貨として,自ら出願し登録を得たものである。当該行為は,剽窃的行為と評価されるべきものであり,社会の一般的道徳観念に反し,公正な商取引の秩序を乱すものであって,公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標である。」旨主張している。

しかしながら,引用商標は,上記1のとおり,本件商標の出願日において,我が国及び外国において請求人役務を表すものとして広く認識されているということができないものであり,商標権者による引用商標の使用が,その著名性に便乗するものということはできない。

また,請求人提出に係る全証拠を勘案しても,被請求人が本件商標を登録出願し,登録した行為は,引用商標の顧客吸引力にただ乗り(フリーライド)することを意図し,引用商標を剽窃して出願されたものと認めるに足る具体的事実を見いだすことはできない。

そのほか,本件商標は,その構成文字からして,きょう激,卑わい,差別的又は他人に不快な印象を与えるようなものではなく,他の法律によってその使用が制限又は禁止されているものでもない。

しかも,請求人は,引用商標の使用開始に当たって,その商標を自ら登録出願する機会は十分にあったというべきであって,自ら登録出願しなかった責めを被請求人に求めるべき具体的な事情を見いだすこともできない。

そうすると,本件商標について,商標法の先願登録主義を上回るような,その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあるということはできないし,そのような場合には,あくまでも,当事者間の私的な問題として解決すべきであるから,公の秩序又は善良の風俗を害するというような事情があるということはできない。

なお,請求人は,過去の裁判例(知財高平成21年(行ケ)第10297号等)を引用し,引用商標が「周知・著名であったか否かにかかわらず,本件商標は『公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標』に該当するというべき」旨主張している。

しかしながら,該判決は,不正な利益を得る目的を裏付ける具体的な事実を前提として認定した上で判断したものであるところ,本件においては,被請求人が,本件商標の出願日の直前に,請求人の代表取締役にfacebookで接触を図っており,そこには「一度ご挨拶させて頂ければと思っております。お伺いいたしますので,お時間頂ければ幸いです。」等と記載されており,この接触が「請求人が2015年2月から開始しているメディア事業に関する何らかの提案に関するものであったことも予測される」としても,当該facebookの内容には,請求人に対し,専らライセンス料を要求したり,売却を持ちかけることなどをうかがわせる記載はなく,また,その他に,被請求人が剽窃的行為と評価されるべき具体的な行為をしたことを確認できる証拠も見当たらない。

また,上記1のとおり,本件商標の登録出願時において,引用商標が周知著名なものではなく,請求人に,当時,引用商標の商標登録出願の意思があったと認めることもできないから,これらの点からしても,本件商標は,先回りして不正な目的をもって剽窃的に商標登録出願されたものとはいえない。

してみれば,たとえ,被請求人が請求人の商標を知っていたとしても,上記接触があったことのみに基づいて,本件商標の登録出願の経緯に,社会的相当性を欠き,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような事情があったとまでは断定することはできないから,本件商標が「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」がある商標に該当するということはできない。

(4)小括

したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものとはいえない。

3 商標法第4条第1項第10号の該当性について

(1)本件商標と引用商標との類否について

ア 本件商標

本件商標は,前記第1のとおり,「MoguraVR」の欧文字を横書きしてなるところ,その構成文字は,「Mogura」及び「VR」の2語を結合したと理解されるものであり,これに応じて「モグラブイアアル」の称呼を生じ,また,「MoguraVR」は,全体として特定の意味合いを有する語として親しまれているものではないから,特定の観念を有しない造語を表したとみるのが相当である。

イ 引用商標

引用商標は,別掲のとおり,「MoguraVR」の文字をややデザイン化してなるものの,全体の構成は,上記アと同じであるから,その構成文字に相応して「モグラブイアアル」の称呼を生ずるものであって,特定の観念を有しない造語を表したとみるのが相当である。

ウ 本件商標と引用商標の類否

本件商標と引用商標を比較するに,本件商標と引用商標とは,観念において比較することができないとしても,外観において類似し,称呼を同一にするものであるから,これらを総合すれば,両者は相紛れるおそれのある類似の商標と判断するのが相当である。

(2)本件商標の指定役務と引用商標の使用に係る役務との類否について

本件商標の指定役務中には,第41類「インターネット・携帯電話による通信を用いて行うゲームの提供,インターネット・携帯電話による通信を用いて行うゲームの提供に関する情報の提供,電子出版物の提供」及び第42類「コンピュータプログラム及びコンピュータゲーム用ソフトウェアの作成・設計・開発又は保守及びこれらに関する情報の提供」が含まれており,一方,引用商標の使用に係る役務は「VRヘッドマウントディスプレイ機器やその周辺機器に関するニュースやインタビュー記事,技術コラム情報といった各種情報を専門的に取り扱うニュースメディアサイトの提供」であるところ,本件商標の上記指定役務と引用商標の使用に係る請求人役務は,提供の目的,手段,需要者等を共通にするものであるから,これらの役務は,類似の役務ということができる。

(3)判断

本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当するものというためには,引用商標が,申立人役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていることが求められるところ,上記1のとおり,引用商標は,本件商標の登録出願時において我が国の需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできないものであるから,本件商標と引用商標とは,上記(1)のとおり類似するものであり,上記(2)のとおり本件商標の指定役務と引用商標の請求人役務とが類似するとしても,商標法第4条第1項第10号の要件を欠くものである。

したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当しない。

4 商標法第4条第1項第15号の該当性について

本件商標の登録出願時において,引用商標が我が国及び外国の需要者の間に広く認識されていたものとは認められないことは,上記1のとおりである。

また,引用商標の独創性の程度については,「もぐら」のローマ字表記である「Mogura」は,我が国において親しまれている動物の一種である「もぐら」を容易に想起させるものであり,また,「VR」の文字は「仮想現実感。バーチャルリアリティ(Virtual reality)」の略語(「コンサイスカタカナ語辞典(第4版)」株式会社三省堂)であることからすれば,その構成自体が極めて独創的なものとはいえない。

してみれば,本件商標と引用商標とは,上記3(1)のとおり互いに類似する商標であり,上記3(2)のとおり本件商標の指定役務と引用商標の請求人役務とが類似し,需要者が共通するとしても,引用商標は,我が国の需要者の間に広く認識されていたものではなく,かつ,その独創性の程度も極めて高いものではないから,本件商標をその指定役務中のいずれの役務に使用しても,これに接する需要者が,引用商標を想起し連想して,当該役務を,請求人あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように,役務の出所について混同を生じるおそれがある商標ということはできない。

なお,請求人は,実際に混同が生じているとして,VRコンテンツ制作会社より,「もぐらVR」の採用について問合せがあった事例を挙げているが,これを裏付ける証拠の提出はなく,かつ,わずか1件にすぎないから,上記判断を覆し得ない。

したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。

5 むすび

以上のとおり,本件商標は,本件審判の請求に係る指定役務について,商標法第4条第1項第7号,同第10号及び同第15号のいずれにも違反して登録されたものとはいえないから,同法第46条第1項の規定により,その登録を無効とすることはできない。

よって,結論のとおり審決する。

Next Action

次の一手につながるサービス

類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。

次の一歩へ

商標の登録可能性を無料で確認するか、費用の目安を料金表・シミュレーターで把握できます。