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Trademark Appeal Case

キャッチフレーズの識別力

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号平成9年審判第14829号
審判種別不服
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

登録第3186326号の指定商品中「第33類 日本酒」についての登録を無効とする。
その余の指定商品についての審判請求は成り立たない。
審判費用は、被請求人の負担とする。

理由テキスト

1.本件登録第3186326号商標(以下、「本件商標」という。)は、「一杯やっか」の文字を横書きしてなり、第33類「日本酒、洋酒、果実酒、中国酒、薬味酒」を指定商品として、平成5年5月13日に登録出願、平成8年8月30日に登録されたものである。

2.請求人は、「本件商標の登録を無効とする、費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を概略次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証乃至甲第111号証を提出した。

(1)本件商標は、「一杯やっか」の文字を横書してなるところ、「一杯やっか」の語は、本件の指定商品に使用される場合には、「(気軽な気持ちで)ちょっとお酒を飲もうよ」という意味合いを容易に認識させるものである。そして、このような表現は、その商品の購買を促すために消費の動機を表したにすぎないものであって、通常、人の注意を惹きつけようとするキャッチフレーズの類として看取され、自他商品の識別標識として機能するものではない。このことは、特許庁の審査例(甲第2号証)からも明らかである。

したがって、本件商標は商品の購買意欲を高めるためのキャッチフレーズであって、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができないものである。

よって、本件商標は商標法第3条第1項第6号に該当する。

(1−1)被請求人は、「一杯やっか」の語は、キャッチフレーズではなく、酒をいっぱい飲もうと誘う挨拶の言葉であり、一般の商取引に伴う常套語として普通に使用されていない言葉であるから、本件商標をその指定商品に使用しても自他商品識別標識としての機能を有すると主張し、証拠として複数の審決例を挙げている。

しかし、このような被請求人の主張は、請求人が永年に亘って、多大な費用と努力を重ね、新聞広告、テレビコマーシャル等で使用してきた事実を看過したものであり、到底容認できるものではない。すなわち、請求人が提出した証拠で明らかなように、「一杯やっか」の語はまさに人の注意を惹きつける宣伝文句として使用されているものであり(甲第5号証、甲第8号証、甲第9号証)、一般にもキャッチフレーズとして認知されている(甲第3号証)。さらに、被請求人が審決例として示した「おたべやす」「おまちどうさま」「おやつですよ」「ごちそうさま」等の言葉は、それぞれの出願に係る指定商品との関係でいえば、必ずしも特定の商品について注意を喚起させるものとはいえないのに対し、「一杯やっか」の語は本件商標に係る指定商品に特定して注意を喚起させるものであって、被請求人の示す審決例は本件と事案を異にすること明らかである。そして、本件商標が特定の商品「酒」を想起させることは、被請求人の答弁からも認められるところである。

(1−2)被請求人は、「一杯やっか」の語は酒でも一杯飲もうと誘う挨拶の言葉であり、商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料などを直接表示するものではなく、これを指定商品「酒類」に使用しても自他商品識別機能を発揮するものである旨主張する。

しかしながら、「一杯いやっか」の語は、酒でも飲もうと誘う言葉、すなわち、飲酒を促す表現として使用されるものである。特許庁審決例にも示されているように、このような飲酒、飲食を促す文言は、商品の試飲を勧めるための宣伝文句として使用されること等があり、本来、自他商品識別機能を有するものでない(甲第11号証乃至甲第13号証)。

(2)本件商標は、請求人の業務に係る商品を表示するものとして取引者、需要者間で周知、著名となっている商標に類似する商標であって、その商品と同一又は類似の商品について使用するものである。

請求人の主要な製品である清酒「神聖」は、延宝5年(1677年)から現在に至るまで300年以上の歴史を持ち、伏見の銘酒として広く需要者間で親しまれている。

請求人は、この「神聖」のキャッチフレーズとして、「かあちゃん いっぱいやっか」を昭和37年頃から使用し(甲第3号証)、地方色を盛り込んだ独特の表現と、コマーシャルキャラクターとして採用したタレント(伴淳三郎)の親しみやすいキャラクターとが相俟って、親しみをもって広く需要者に受け入れられた。このキャッチフレーズは当時大きな注目を浴び、ひとつの流行語として認識されていた程である。

また、請求人の「かあちゃん いっぱいやっか」は、方言を使ったキャッチフレーズとして先鞭をつけ、他のキャッチフレーズにも大きな影響を与えた程流行し、この商品の愛好者のみならず、一般の人々にも良く知るところとなったものである。

そして、請求人は、同じく「神聖」のキャッチフレーズとして、昭和40年頃より「一っぱいやっか」(以下、「引用A商標」という。)を使用し、さらに、昭和51年頃から、「いっぱいやっか」(以下、「引用B商標」という。)及び「いっぱいやっか(ロゴ)」(以下、「引用C商標」という。)を「清酒」の肩張りに付して使用し、現在に至っている。引用C商標の態様は甲第4号証を参照されたい。

而して、「いっぱいやっか」は、商品の購買を促すためのキャッチフレーズの類いとして、自他商品識別力を有しない商標であるところ、請求人によって、永年に亘り継続使用された結果、提出の甲第3号証並びに甲第5号証乃至同第10号証に示すとおり、「清酒」について請求人を示す識別標識として需要者間に広く認識されるに至った周知著名な商標である。

そこで、本件商標と引用のA、B、C各商標とを比較すると、各商標の構成は上記のとおりであり、称呼及び観念を同じくする類似の商標であって、同一又は類似の商品について使用するものである。

よって、本件商標は指定商品「清酒」について、商標法第4条第1項第10号に該当する。

さらに、本件商標は、前述のとおり、引用の各商標が本件商標出願時において既に周知著名であったことは提出の証拠に照らし明らかである。

したがって、被請求人が本件商標を「清酒以外の日本酒、洋酒、果実酒、中国酒、薬味酒」に使用すると、取引者、需要者をして該商品が請求人と何らかの関係がある者の製造販売に係る商品と誤認し、商品の出所の誤認を生ずること必定である。

以上の、本件商標は、商標法第3条第1項第6号、商標法4第条第1項第10号、第15号に該当し、同法第46条により無効とされるべきである。

(2−1)被請求人は、請求人の引用する商標は、その使用態様が特定されていないため、周知性の成立要件を満たさない旨主張する。

しかし、商標が永年に亘って継続使用されている間に、その使用態様に若干の変更が加えられることは日常的に行われており、高度に情報化した今日においては、商標を識別するに当たって、商標の称呼、観念が重要な要素となっている。

而して、請求人の引用する商標「一杯やっか」(引用A商標)、「いっぱいやっか」(引用B商標)、「いっぱいやっか(ロゴ)」(引用C商標)は、いずれの商標も相当期間に亘って使用してきたものであり、また、各引用商標は称呼、観念において同一である。そして、取引者・需要者は、「いっぱいやっか」という特定の称呼、観念のもとに30年以上に亘って引用の各商標に慣れ親しんできたのである。

そうとすれば、各引用商標の態様に若干の相違があるとしても、それが周知性の認定に大きな影響を与えるものではない。

(2−2)被請求人は引用の商標は何れも周知商標となっているとは認められない旨主張する。

しかしながら、引用の各商標は何れも需要者間で請求人に係る識別標識として広く認識されているものであり、一連の「一っばいやっか」「いっぱいやっか」「いっぱいやっか(ロゴ)」の周知性については、既に提出した証拠より明らかである。

そもそも、請求人は、清酒「神聖」のキャッチフレーズとして、「かあちゃん いっぱいやっか」を採用して、昭和40年頃からは「一っぱいやっか」(引用A商標)を使用し、昭和42年4月28日付けで商標「一っぱいやっか」を旧第28類「清酒その他本類に属する商品」について出願したところ、この出願に係る商標は、商標法第3条第1項第6号に該当することを理由に昭和46年5月25日付けで拒絶査定された。その後、引用各商標が請求人により「清酒」について継続的に使用した結果、これら商標を付した商品が請求人に係る商品であることを示す識別標識として需要者間で広く認識されるに至ったため、平成7年2月14日付けで引用C商標「いっぱいやっか(ロゴ)」(平成7年商標登録願12657号)を出願し、識別性を欠く旨の拒絶理由通知に備えて、公的機関・同業者組合及び取引者より証明書を入手したものである。これら証明書のうち、引用A商標「一っぱいやっか」に係る伏見酒造組合の証明書(甲第5号証)及び引用B商標「いっぱいやっか」及び引用C商標「いっぱいやっか(ロゴ)」に係る京都商工会議所の証明書(甲第6号証及び甲第7号証)は既に提出したとおりである。

これに対し、被請求人は、証明書に添付された新聞等の年月日が不明であるから、その証明がなされていない旨主張しているが、請求人は、引用A商標を昭和40年頃より、日本経済新聞、朝日新聞、サンケイ新聞等の広告に掲載しており(甲第14号証乃至甲第20号証)、また、引用B商標及び引用C商標は、取引者、需要者間において、請求人に係る商標として広く認識されているものである(甲第21号証乃至甲第108号証)。これらの証明資料は、前記請求人の出願において識別力を欠く旨の拒絶理由通知に備えて準備したものであるが、原本はいつでも提出する用意がある。

被請求人は、各引用商標の使用態様が相違し、称呼、観念が当初使用と相違する以上、周知の認定に大きな影響を与えると主張する。

しかしながら、商標が周知であるためには、使用態様が特定されていなければならないかのような被請求人の主張は、商標法第3条第2項の適用要件を形式的に述べているにすぎないものであって当を失している。すなわち、商標が周知であるかどうかは、取引者、需要者の認識であって、当該商標が取引者、需要者間で広く知られているかどうかの問題である。そして、商標が長年に亘り使用されている間に使用態様に多少の変更があるとしても、取引の実情等を考慮して周知性を総合的に認定すべきことは判例の示すところである(甲第109号証及び甲第110号証)。本件商標が使用される酒類の分野においては、例えば、瓶からボトルタイプへ、あるいは瓶から紙パッケージへと容器が変更されるに伴い、商標の使用態様に多少の変更がなされることは日常的に行われているのであって、「一っぱいやっか」「いっぱいやっか」「いっぱいやっか(ロゴ)」と表された一連の引用商標はすべて同一の称呼、観念を生ずること明らかである。

また、文字商標であってもラジオ、テレビ等の音声及び動的映像を媒介して宣伝されるされる場合には、音声によつて認識される称呼、観念により、商標の外観よりも周知となる場合があることは、被請求人も認めているところであるが、請求人に係る「いっぱいやっか」は、伴淳三郎によるテレビ・ラジオコマーシャルを通じて、その地方色を盛り込んだ独特の表現と相俟って、請求人に係る称呼、観念の識別標識として、取引者、需要者間のみならず広く大衆に親しまれたものであり、現在においても懐かしのコマーシャルソングしとて音楽CDに取り上げられているほどである(甲第111号証)。

このように、引用各商標が昭和40年代より30年以上に亘り、請求人により間断なく使用されていた状況に鑑みれば、「いっぱいやっか」の標章は請求人に係る識別標識として需要者の間に広く認識されていること明らかである。

3.被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、との審決を求め、その理由及び弁駁に対する答弁を概略次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証乃至乙第11号証を提出した。

(1)本件商標「一杯やっか」が商品の購買意欲を高めるためにのキャッチフレーズであるかどうかについて検討する。

a.本件商標は「一杯やっか」は関西弁で言えば「一杯やろか」、「一杯やろうか」又は「一杯やりまひょか」が訛った言葉で、人を酒に誘う挨拶語である。

しかし、この言葉は酒でも飲もうと誘う挨拶の言葉であり、「一杯」「やろか」が訛って「一杯やっか」といっているところに一般の商取引に伴う常套語として普通に使用されていない言葉てあり、人を呼びかける挨拶に用いられる言葉であり、本件商標をその指定商品に使用しても、自他商品の識別標識としての機能を充分有している。

したがって、請求人の主張するような人の注意を引き付けようとするキャッチフレーズではない。

b.請求人は審査例として拒絶文字商標集(甲第2号証)を挙げているが、これは単に審査の段階で「いっぱいやっか」が拒絶となつた事実があったというに止まり、本件審判を左右する証拠とはなりえないものである。

c.更に、本件商標においても審査過程において「この商標登録出願に係る商標は、指定商品との関係において『酒などを飲む時によく用いられる語句』である『一杯やっか』の文字を書してなるから、これをその指定商品に使用しても需要者が何人かの業務に係る商品であるかを認識することができないものである。したがって、この商標登録出願に係る商標は、商標法第3条第1項第6号に該当する。」旨の拒絶理由通知(乙第1号証)に対し、出願人は前述のような意見書(乙第2号証)を提出して登録されたものである。

d.次に審決例においても、指定商品との関係において、需要者が何人かの業務に係る商品であるかを認識することができない商標には該当しないとされた審決例がある。

(1)「おたべやす」 旧30類 (乙第3号)

(2)「おまちどうさま」旧33類 (乙第4号)

(3)「おまちどうさま」旧28類 (乙第5号)

(4)「おやつですよ」 旧30類 (乙第6号)

(5)「ごちそうさま」 旧30類 (乙第7号)

(6)「いらっしゃい」 旧32類 (乙第8号)

(7)「おつかれさん」 旧28類 (乙第9号)

(1−1)本件商標「一杯やっか」の語は久しぶりに出会った人に呼びかける挨拶に用いられる言葉であり、商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料などを直接表示するものではない。

してがって、本件商標「一杯やっか」の語は商品「酒類」のキャッチフレーズではない。

そもそもキャッチフレーズとは、「広告などで相手方に強い印象を与えるために使う、短い効果的な言葉、うたい文句など」をいい「一杯やっか」を指定商品「酒類」に対して使用しても自他商品の識別標識を充分に有するものであって、需要者が何人かの業務に係る商品であると認識できないと断定することはできない。

(1−2)被請求人の商標「一杯やっか」は、久しぶりに親しい人に出会った際に、酒でも一杯飲もうと誘う挨拶の言葉であり、「一杯やろか」が訛って「一杯やっか」というところに一般商取引に伴う常套語として普通に使用されていない言葉であり、商品の普通名称、産地、版ばて地、品質、原材料を直接表示するものではない。

また、本件商標「一杯やっか」は指定商品「酒類」のキャッチフレーズではない。

(2)次に、請求人の商標が周知商標であるかについて検討するに、

a.周知商標であるかどうかの認定に当たっては、その使用期間、使用方法、態様、商標を付した商品の販売数量、取引範囲などに基づき判断されるが、請求人が使用していたと立証する商標は、商標の態様が変更されている。

即ち、昭和37年頃からの使用は「かあちゃん いっぱいやっか」(甲第3号証)であり、昭和40年年頃からの使用は「一っぱいやっか」(甲第4号証)であり、昭和51年頃からの使用は「いっぱいやっか!」(甲第9号証)「いっぱい やっか」二段書(甲第10号証)と、それぞれ使用態様が変遷して統一して使用されていない。

b.請求人の清酒「神聖」のすべてに現在も「いっぱいやっか」を使用しているものではなく、現在使用の甲第10号証の商品カタログによれば、清酒「神聖」の金印1.8l詰、紙パック入り「源さん」1.8l詰、紙パック入り「上撰源さん」1.8l詰の三品種のみであり、酒類食品統計月報1997(平成9)年2月号記載の清酒上位出荷状況(乙第10号証)によれば、請求人の清酒の内、銘柄「神聖」の平成8年の出荷料は2939Kl、16292石であり、平成7年の出荷料は2986Kl、16554石であり、平成6年の出荷料は2910Kl、16131石であり、「神聖」という銘柄の清酒すべてでこの程度であり、甲第10号証に掲げる42銘柄の内、前記三品種即ち、清酒の肩張り大きく二段書に「いっぱい やっか」と「神聖」1.8l詰に使用し、紙パック入り「源さん」1.8l詰、紙パック入り「上撰源さん」1.8l詰の中央部分斜め縦書で小さく「いっぱいやっか」と三種類のみ使用されているもので、果たしてこれらの三種類でどの程度の販売数量があるのか全く不明であるから、この程度の使用で周知商標となったといえるかどうか疑問である。

また周知商標の使用も前記の如く、その使用態様が一定でなく、三度もその態様が変更されていることから、到底、周知商標ということはできない。

即ち、周知商標が成立するためには、商標が最初にその使用態様が特定されていることが必要であり、請求人の商標「かあちゃん 一っぱいやっか」(甲第3号証)、「いっぱ いやっか」と二段書(甲第7号証)「一っぱい やっか」と横書(甲第8号証)、「いっぱいやっか!」縦書(甲第9号証)に、その使用態様が度々変更されているから、商標の使用態様が特定されていないもので、周知商標の成立する要件を満たしていないものである。

c.そして、文字商標であっても最近のようにラジオ、テレビなどの称呼、観念を媒介として宣伝される場合は一定の態様の商標より、特定の称呼、観念のものとして周知となる場合もあるが、本件の場合、請求人が立証しているのは新聞、雑誌、商品カタログ等の場合であるから、文字商標の特殊の態様が特定されないで、時代の変化により種々の変更した態様をあげて商標の使用を立証している。

そのため、特に甲第5号証の商標の使用は、商標の使用態様が特定されていないものと判断される。

したがって、請求人の商標「いっぱい やっか」はこれらの資料に基づき長期の間、使用され、周知の商標になったとは認められないものである。

よって、本件商標は、指定商品「清酒」について、商標法第4条第1項第10号には該当しないものである。

d.また、請求人の商標は本件商標出願前、未だ周知商標とはなっていないから、本件商標を被請求人が「清酒以外の日本酒、洋酒、果実酒、中国酒、薬用酒」に使用しても、取引者、需要者をして該商品が請求人と何らかの関係ある者の製造販売に係る商品と誤認させず、商品の出所の混同を生ずるものではなく、本件商標は商標法第4条第1項第15号には該当しないものである。

(2−1)請求人の使用する「いっぱいやっか」の語は、永年使用して取引者、需要者間で周知、著名となっているとして、甲第5号証乃至甲第10号証で立証しているが、そもそもの使用開始は甲第3号証から昭和37年頃からであり、その当時の使用は「かあちゃん いっぱいやっか」(甲第3号証)から始まり、その後、昭和40年頃からの使用は「一っぱいやっか」(甲第4号証)、昭和51年頃からの使用は横書き「いっぱいやっか」(甲第6号証)、昭和60年頃からの使用は斜め二段横書き「いっぱい やっか」(甲第7号証)に使用態様が変更され、これを指定商品「清酒」に使用して取引者、需要者間で周知、著名となっている旨主張するが、

周知商標が成立のためには、商標が最初にその使用態様が、特定されていることが必要であり、提出された証拠から検討すると、請求人の使用態様は最初は「かあちゃん いっぱいやっか」(甲第3号証)から始まり、「いっぱいやっか」と「一っぱいやっか」斜め二段書き、「いっぱいやっか」縦書き、「いっぱいやっか」横書きと甲第5号証で立証されているが、これらの記載は新聞、雑誌の切り抜きであり、年月日が不明であり、たとえ記載されていても、その証明がされていないから証拠としては不十分である。

また、甲第8号証、「一っぱいやっか」と横書き、甲第9号証、「いっぱいやっか!」縦書きは新聞の年月日は記載されているが、その証明書のものと使用態様が相違するもので、使用態様が最初から特定されていないからその使用も度々変更されているものである。

そして、甲第10号証においては「神聖」清酒 金印 1.8l詰と「上撰源さん」1.8l詰の各紙パック詰の容器には右から左に斜め縦書き「いっぱいやっか」を使用しているもので、これらの使用は必ずしも使用の態様が特定されていないものであるから、周知商標の成立する要件を満たしていないものである。

使用により識別力が認められる商標は、現実に使用されていた商標自体であり、類似の商標にまで及ばないとされるのが審査、審判の慣例であり、テレビ、ラジオの情報化時代であっても縦書きを横書きに変更、平仮名を片仮名に変更することは認められるとしても、最初使用の「かあちゃん いっぱいやっか」から現在使用の「いっぱい やっか」までは一連の使用は使用態様が特定された使用と認められるものではない。

即ち、甲第3号証では昭和37年当時に清酒「神聖」に「かあちゃん いっぱいやっか」を使用していたことが窺えるから最初の使用は「かあちゃん いっぱいやっか」から始まり、次に昭和40年頃に「一っぱいやっか」と変更され、次に昭和51年頃から「いっぱいやっか」昭和60年頃から「いっぱい」「やっか」斜め二段書きと「いっぱいやっか」右から左に斜め縦書きに変更され使用されたものであるから、使用開始時期から現在に至るまで少なくとも4度以上もその使用態様か変更されているから、請求人が主張する如く、いくら高度情報化した今日であって、且つ、称呼、観念が重要だとしても、使用開始時の「かあちゃん いっぱいやっか」と現在使用の縦書きの「いっぱいやっか」と斜め二段横書きの「いっぱい やっか」と右から左に斜め縦書きの「いっぱいやっか」では、使用当初とは称呼は勿論、観念も相違するから到底同一性は認められず、本件商標は周知、著名の商標ということはできない。

そのため、引用各商標の使用態様が相違し、称呼、観念が使用当初と相違する以上、周知の認定に大きな影響を与えるものである。

したがって、引用各商標は何れも周知商標となつているとは認められないものである。

(2−2)請求人の使用する「いっぱいやっか」の標章は、長年使用して取引者、需要者間で周知著名となっている旨主張しているが、請求人の前記商標の使用開始が昭和37年頃は「かあちゃん いっぱいやっか」(甲第3号証)から始まり、昭和40年頃からは漢字平仮名混じりの「一っぱいやっか」(甲第5号証)と使用態様が変わり、昭和51年頃からは横書きで「いっぱいやっか」(甲第6号証)と使用態様が変わり、昭和60年頃からは二段弓状横書き「いっぱい」「やっか」(甲第7号証)に変更使用している。

そして、請求人は商標が周知であるかどうかは、取引者、需要者の認識であって、当該商標が取引者、需要者間で広く知られているかどうかの問題である旨の主張をしている。

そして、請求人は、商標が長年に亘り使用されている間に使用態様が多少変更があるとしても、取引の実情を考慮して周知性を判断すべきであると主張する。

しかしながら、商標法第3条第2項の使用による識別性の商標審査基準によれば、

イ、出願された商標が草書体の漢字であるのに対し、証明書に表示された商標が楷書体又は行書体である場合

ロ、出願された商標が平仮名であるのに対し、証明書に表示された商標が片仮名、漢字又はローマ字である場合

ハ、出願された商標が縦書きであるのに対し、証明書に表示された商標が横書きである場合

出願された商標と証明書に表示された商標とが同一でない場合は、使用により識別力を有するに至った商標とは認められないものとすると規定されている(乙第11号証)。

したがって、請求人が今回提出甲第14号証乃至甲第108号証はいずれも使用態様が統一して使用されていないものであるから使用による顕著性は認められない。即ち、漢字の「一」と平仮名行書体横書きの「一杯やっか」の証明書(甲第14号証乃至甲第20号証)、平仮名横書きの「いっぱいやっか」の証明書(甲第21号証乃至甲第64号証)、平仮名行書二段弓状書きの「いっぱい」「やっか」の証明書(甲第65号証乃至甲第108号証)は何れも三種類の使用態様があり、統一して使用されていないから、これらの証明書はいずれも使用により識別力を有するに至った標章の使用しは認められない。

そのため請求人が今回立証している上記証明書に係る「一っぱいやっか」「いっぱいやっか」二段弓状書きの「いっぱい」「やっか」の各標章は、使用態様が統一されておらないから周知商標の標章とは認められないものである。

4.当審の判断

本件商標は、「一杯やっか」の文字を書してなるものである。

しかして、「一杯」の語は、〔さかずき〕一つ、一つのコップ・茶わんなどに入れる分量、すこしの酒(を飲むこと)、〔船が〕一そう、〔イカなどが〕一ぴき等の意味を有するものであるところ、「すこしの酒を飲むこと」の意味合いを表す用例として「一杯やる」の言葉が示されている(「大きな活字の三省堂国語辞典」参照)。

そして、「一杯やっか」は、「一杯やる」から派生したものと看取されるから、これよりは容易に「すこしの酒を飲みましょう、すこし酒を飲みませんか」等の意味合いを表現したと理解されるものであり、知人や友人に酒を飲もうと誘うおりに挨拶言葉として使用される言葉というのが相当である。

してみると、本件商標は、これをその指定商品に使用しても、酒の購買意欲を高めたり、試飲のためのキャッチフレーズとして認識されるものとはいえず、自他商品の識別標識としての機能を果たしえるというのが相当である。

請求人は、「いっぱいやっか」は、拒絶文字商標集(甲第2号証)によれば、拒絶例として例示されていると主張するが、それは昭和51年に発行されものであって、20数年以前の拒絶の例あり、取引の実情の推移により、当時の事例が必ず現在においても妥当するものでないことも少なくないから、この点の請求人の主張は採用できない。

つぎに、請求人の提出した甲各号証をみるところ、昭和37年頃、「かあちゃん いっぱいやっか」の文字を清酒「神聖」の宣伝に使用していたことは甲第3号証にみられる。そして、昭和40年頃より、横書きした「一っぱいやっか」の文字を清酒「神聖」について使用していたことが、サンケイ新聞、日本経済新聞、朝日新聞等の各種新聞(甲第8号証及び甲第14号証乃至甲第20号証)みられ、昭和51年頃より、縦書きした「いっぱいやっか!」の文字を「神聖」に使用していたことが日本証券新聞(甲第9号証)にみられ、昭和51年頃より、横書きした「いっぱいやっか」の文字を「清酒」に使用していたことが、京都商工会議所の証明書(甲第6号証)及び取引先又は代理店の証明書(甲第21号証乃至甲第64号証)にみられ、昭和60年頃より、二段に表示した「『いっぱい』『やっか』」の文字を「清酒」に使用していたことが、京都商工会議所の証明書(甲第7号証)及び取引先又は代理店の証明書(甲第65号証乃至甲第108号証)にみられる。そして、伏見酒造組合の証明書(甲第5号証)をみると、これには、二段に表示した「『いっぱい』『やっか』」、縦書きした「いっぱいやっか」、横書きした「いっぱいやっか」、縦書きした「いっぱいやっか!」等を表示したものが添付されてなるものであって、昭和40年頃から現在に至るまで使用されている「一っぱいやっか」が周知の商標であることを証明したものであり、添付されたうちの、二段に表示した「『いっぱい』『やっか』」には、「京都・伏見 伝統三百年」の記載がみられ、横書きした「いっぱいやっか」には「創業延宝五年(1677年)」の記載がみられる。そして、請求人の商品カタログ(甲第10号証)をみると、請求人は、清酒「神聖」を初め種々の酒を取り扱っていことがみられる。

そして、上記の事実よりすれば、請求人の創業は、延宝五年(1677年)に始まり現在に至っているところ、取扱いに係る商品の清酒「神聖」の販売にあたり、昭和40年頃よりは横書きした「一っぱいやっか」を使用し、昭和51年頃よりは横書きした「いっぱいやっか」又は縦書きした「いっぱいやっか!」を使用し、昭和60年頃よりは二段に表示した「『いっぱい』『やっか』」の文字よりなる各商標を使用していたことが認められる。

しかして、被請求人は、清酒「神聖」について使用されている上記各商標は、それぞれに商標の態様が異なっているものであり、清酒「神聖」の取扱数量も少ないものであるから、これらの商標は、周知、著名な商標としての要件を有しないものである旨主張する。

そこで、昭和40年頃より使用された「一っぱいやっか」、昭和51年頃より使用された「いっぱいやっか」、「いっぱいやっか!」、昭和60年頃より使用された二段に表示した「『いっぱい』『やっか』」の各商標をみるところ、これらの商標はそれぞれその態様を異にするものであるが、商標の同一性を失わない程度に変化をもたせることは通常行われていることからすれば、昭和51年頃より使用された「いっぱいやっか」、「いっぱいやっか!」は、「いっぱいやっか」を横書きにしたり、「いっぱいやっか」を縦書きしたり、又はこの縦書きに「!」を付したりしたものであり、昭和60年頃より使用された二段に表示した「『いっぱい』『やっか』」は「いっぱい」の「ぱい」の下段に「やっか」を配したものであって、この程度の変化は、商標の同一性を失う程の差異とはいい難いものである。

そして、これら商標は、いずれも昭和40年頃より使用された「一っぱいやっか」の商標を基調としてなると容易に看取されるものである。

しかして、これらの各商標は、いずれも「イッパイヤッカ」の称呼及び「酒を飲みましょう、酒を飲みませんか」等の意味合いを表し、その称呼、観念を同一にするものであるから、外観上においてその態様に差異を有するとしても、これらの各商標は、社会通念上、同一の範疇に属する商標として認識される(以下、これらを合わせて「引用商標」という。)と判断するのが相当である。

そして、上記の甲各号証によれば、引用商標は、請求人の業務に係る商品、清酒「神聖」について継続して使用されているものであり、その取扱数量が少ないとしても、使用された結果、本件商標の登録出願時前より取引者、取引者間において広く知られていたものと認められる。

そこで、本件商標と引用商標との類否についてみるに、本件商標は、「一杯やっか」の文字を書してなるものであるから、これより前記したように「イッパイヤッカ」の称呼及び「すこしの酒を飲みましょう、すこし酒を飲みませんか」の観念が生ずるのに対して、引用商標は、その構成に相応して「イッパイヤッカ」の称呼及び「酒を飲みましょう、酒を飲みませんか」の観念が生ずるものである。

してみると、本件商標と引用商標とは、その称呼、観念を共通にする類似の商標と認められ、そして、請求人の取扱いに係る商品清酒は本件商標の指定商品中の日本酒の範疇に包含されているものと認められる。

したがって、本件商標は、その指定商品中「日本酒」については、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものであるから、上記商品について同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきである。

つぎに、本件商標と引用商標について商品の出所の混同のおそれがある点についてみるに、「清酒」について使用する引用商標が本件商標の登録出願時以前より広く知られていたとしても、本件商標の指定商品中の「洋酒、果実酒、中国酒、薬味酒」と「清酒」とは商品の品質及び生産者等において相違する商品であるから、本件商標を洋酒、果実酒、中国酒、薬味酒について使用しても、これに接する取引者、需要者をして、これが恰も請求人の取扱いに係る商品のごとく、商品の出所について混同を生じさせるおそれはないものとみるのが相当である。

したがって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものとはいえないから、この点についての請求は成り立たないというべきである。

よって結論のとおり審決する。

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