Trademark Appeal Case
色彩商標の慣用性と識別力
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
基本情報
| 審判番号 | 不服2018−3718(T2018−3718/J1) |
|---|---|
| 審判種別 | 不服 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理由テキスト
第1 本願商標
本願商標は,別掲1のとおり,色彩の組合せからなる色彩のみからなる商標であり,第10類に属する願書記載のとおりの商品を指定商品として,平成27年8月6日に登録出願されたものであるが,その指定商品については,原審における同29年1月23日付け手続補正書により,第10類「自動体外式除細動器,半自動除細動器」と補正されたものである。
第2 原査定の拒絶の理由(要点)
原査定は,「本願商標の指定商品は,生命の危機が生じている事態が発生した際に緊急に使用されるものであり,医療機関はもとより,空港,駅,学校,商業施設等の公共施設にも設置される商品であることから,このような商品に付される色彩は,より人々の注意をひく必要があるため,赤又は赤系の色彩が使用されることが一般的であるといえる。そして,本願商標の指定商品を取り扱う業界において,実際に商品を使用する際,慎重に操作することが求められることから,操作ボタンに付される色彩は,筐体(きょうたい)の主たる色彩とは異なる色彩(筐体の主体が赤系の色彩の場合,対象的な青系や緑系の色彩,筐体の主体が青系の色彩の場合,対照的な赤系の色彩)が採用される実状がうかがえる。そうすると,本願商標をその指定商品に使用しても,これに接する取引者,需要者は,商品に通常使用される又は使用され得る色彩を表したものと認識するにとどまり,本願商標は,単に商品の品質(色彩)を普通に用いられる方法で表示するにすぎないものと認める。したがって,本願商標は,商標法第3条第1項第3号に該当する。また,本願商標は,出願人により,永年の間,独占排他的に継続使用した実績を有するものとは認められないこと,提出された証拠における本願商標の使用状況や使用態様からは,色彩のみからなる本願商標が独立して識別力を有するに至っているとはいえないことから,本願商標は,同法第3条第2項に規定する要件を具備するものとは認められない。」旨認定,判断し,本願を拒絶したものである。
第3 当審における審尋
当審において,平成31年2月19日付けで通知した審尋により,別掲2のとおり,色彩の誘目性及び視認性,本願の指定商品の分野において,誘目性及び視認性の高い色彩が使用されている実情を新たに提示した上で,本願商標が自他商品の識別力を有しない旨の見解を示して請求人に意見を求めるとともに,色彩の割合(オレンジ色85%,青紫色15%)及び請求人に係る自動体外式除細動器等の年度別販売実績について,その数字の裏付けとなる資料の提出を求めた。
第4 審尋に対する請求人の意見(要旨)
1 審尋にて指摘された色彩及びその使用例について
上記第3の審尋において指摘された色彩は,いずれも本願商標のオレンジ色(PANTONE:165C)や青紫色(PANTONE:2114C)について具体的に言及するものではない。加えて,指定商品の分野において,誘目性及び視認性の高い色彩が使用されている例示として挙げられたいずれの商品も,販売実績台数や業界におけるシェアの推移が不明であるため,本願商標が自他商品の識別力を有するか否かを判断するための証拠としては機能しない。
2 色彩の割合について
自動体外式除細動器(型番AED−3100)について,計測器にて表面積を計測した結果,オレンジ色と青紫色の割合は,84.50%対15.50%であり,他の型番についても,オレンジ色ほぼ85%,青紫色がほぼ15%である。
3 審尋にて指摘された「AED年度別販売実績」(甲4)に関する証拠について
甲第4号証には,請求人および他社の販売台数が棒グラフで表示されており,全体の販売台数に対する請求人の販売台数の割合,すなわち,請求人の業界におけるシェアが,2007年(平成19年)以降45%前後の高い割合で推移していることが十分に読みとれる。
第5 当審の判断
1 商標法第3条第1項第3号該当性について
(1)本願商標は,上記第1のとおり,色彩の組合せからなる色彩のみからなる商標であって,商標の詳細な説明として,「商標登録を受けようとする商標(以下「商標」という。)は,色彩の組合せのみからなるものである。色彩の組合せとしては,オレンジ色(PANTONE:165C),青紫色(PANTONE:2114C)であり,配色は,上から順に,オレンジ色が商標の85%,同じく青紫色が15%となっている。」旨の記載がなされている。
(2)本願商標の大部分を占める高彩度の暖色であるオレンジ色は,別掲2(1)のとおり,視認性(発見しやすいこと)及び誘目性(目立って人の目を引きつけること)が高く,多様な色覚を持つ人々においても判別可能な色彩であることより,安全標識や自己・人体への危険防止・緊急事態への対応を迅速かつ正確に行うことを目的として日本工業規格(JIS)によって「安全色」の1つに定められており,その規定において,色の種類「黄赤」は「注意警告」を意味する色彩であり,安全標識をはじめ,さまざまな表示や製品の塗り分けに広く利用されている。
なお,上記の日本工業規格(JIS)によって定められた安全色には,黄赤を含め,赤,黄,緑,青,赤紫の6つの色に対比色としての白と黒が規定されている。
(3)実際に,本願の指定商品「自動体外式除細動器,半自動除細動器」(以下,これらの商品をまとめて「AED等」という場合がある。)の分野において,請求人以外の第三者が取り扱う商品においても,商品本体の大部分に視認性及び誘目性の高い色彩,例えば,オレンジ色,赤,黄,青等が使用されており,また,AED等のハンドル部分や電源ボタン,インジケーター周辺部分等,操作時に手を触れる部分(以下「操作部分」という。)の背景等には,異なる色彩で色分けがなされている(別掲2(2))。
(4)以上よりすると,救命機器である本願商標の指定商品の分野においては,請求人以外の第三者によっても,その本体の大部分にオレンジ色等の視認性,誘目性が高い色彩が使用され,また,ハンドルや操作部分等,操作時に手を触れる部分をわかりやすくするため,異なる色彩が採用されていることがうかがえる。
したがって,本願商標のようにオレンジ色と青紫色を組み合わせて,緊急時に使用される医療機器関連の商品の一つであるAED等に使用しても,その指定商品に接する需要者等は,視認性及び誘目性の高い色彩であるオレンジ色と操作部分をわかりやすくするために採用された青紫色を組み合わせたにすぎないものと認識するにとどまるというのが相当である。
よって,本願商標は,商品の特徴(色彩)を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであり,商標法第3条第1項第3号に該当する。
2 商標法第3条第2項該当性について
(1)使用による識別性
ある標章が商標法第3条第2項所定の「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるもの」に該当するか否かは,出願に係る商標と外観において同一とみられる標章が指定商品とされる商品に使用されたことを前提として,その使用開始時期,使用期間,使用地域,使用態様,当該商品の販売数量又は売上高等,当該商品又はこれに類似した商品に関する当該標章に類似した他の標章の存否などの事情を総合考慮して判断されるべきである(知財高裁平成24年(行ケ)第10285号,平成25年1月24日判決参照)。
(2)請求人は,本願商標は,使用により識別力を獲得しており,商標法第3条第2項の要件を具備しているため登録されるべき商標である旨主張し,証拠として,原審において甲第1号証ないし甲第16号証(枝番を含む。)を提出している。
そこで,上記(1)の観点から,請求人提出の証拠の内容に照らし,本願商標が使用をされた結果,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至っているか否かについて,以下検討する。
証拠及び請求人の主張からすると,以下の事実が認められる。
ア 請求人並びに本願商標の使用態様及び使用開始時期について
(ア)請求人は,1951年(昭和26年)に創業した医用電子機器及び変成器の開発,製造,販売を事業内容とする法人である(甲6の15・16)。
(イ)請求人提出の「出願商標の各指定商品と使用商標の各商品(商品型番)との関係性を示す一覧表」(甲1)によると(以下「使用商標の各商品」のことを「使用商品」という場合がある。),本願の指定商品中「半自動除細動器」の範ちゅうに属する商品「AED−9100シリーズ」(甲1の7)の本体に,本願商標と同一性を損なわないものと認められるオレンジ色(以下「本願オレンジ色」という。)が付され,また,ハンドル部分及び操作部分には,本願商標と同一性を損なわないものと認められる青紫色(以下「本願青紫色」という。)を付して,2002年(平成14年)から販売したことが認められる(甲3)。
上記のほか,本願の指定商品中「自動体外式除細動器」の範ちゅうに属する商品「AED−1200」(甲1の1),「AED−3100」(甲1の6)及び「TEC−2601」(甲1の8)並びに「半自動除細動器」の範ちゅうに属する商品「TEC−2500シリーズ」(甲1の9)及び「TEC−2603」(甲1の10)の本体には,本願オレンジ色が付され,また,操作部分には,本願青紫色が使用されている。
また,「自動体外式除細動器」の範ちゅうに属する商品「AED−2100」(甲1の2),「AED−2150シリーズ」(甲1の3・4),「AED−2152」(甲1の5)及び「AED−9200シリーズ」(甲1の7)並びに「半自動除細動器」の範ちゅうに属する商品「AED−9100シリーズ」(甲1の7)は,その本体に本願オレンジ色が付されているが,操作部分のほか,ハンドル部分の全部又は一部にも本願青紫色が付されている。
イ 請求人の取扱いに係る商品の販売実績,業界におけるシェアについて
請求人は,2002年(平成14年)度から2015年(平成27年)度のAEDの累計販売台数が,14年間で約34万台であり,業界におけるシェアは,2007年(平成19年)度以降45%前後の高い割合で推移している旨述べている。
しかしながら,請求人が提出する「AED年度別各社販売実積」(甲4)は,請求人が作成したグラフであって,その裏付けとなる客観的な証拠の提出はなく,しかも,同じく請求人が商品型番ごとに管理している社内システムの電子台帳(以下「納入リスト」という。)によると,「自動体外式除細動器」の合計が約22万台,「半自動除細動器」の合計が約2万台であり(甲8,甲9),その2つの販売台数をあわせると約24万台となるが,そもそも,納入リスト上の販売期間は不明であることに加えて,当該販売台数の合計と,上記累計販売台数約34万台とは,約10万台の差がある。
ウ 使用地域
請求人のAED等は,日本全国の空港,交通機関,学校,公共施設,商業施設,企業など一般市民が多く集まり,人目に触れやすい場所に設置されていることが認められる(甲11)。
エ 広告宣伝について
(ア)請求人は,請求人に係るAED等が2016年(平成28年)に全国放送された5つのテレビドラマ内で映像として写し出されたと主張するが(甲12),その数は僅か5つであり,また,当該ドラマにおいて,請求人に係るAED等がどのように使用されたかについては明らかでない。
(イ)請求人は,2008年(平成20年)から2016年(平成28年)までの間,東京マラソンの全国番組放送中のテレビCMにおいて,請求人に係るAED等について,年に1回合計9回程度宣伝広告を行い,当該テレビCM中には,請求人に係るAED等の商品画像が表示された(甲12の1〜5)。また,請求人は,2007年(平成19年)から2018年(平成30年)までの間,東京マラソン主催者にAEDの貸出を行った(甲12の6)。
(ウ)請求人は,2002年(平成14年)から2016年(平成28年)にかけて,複数の団体に請求人に係るAED等を寄贈し,その合計は約100台である(甲12の7)。
(エ)請求人に係るAED等が,2002年(平成14年)から2014年(平成26年)の間に書籍,雑誌,新聞等で紹介,広告された例が18件示されているが(甲6),それらの記事の多くは,AEDの商品説明(心臓が止まった人を救う緊急時に使用する救命機器であること)やAEDの操作方法,早く見つけられるようよく目立ち,操作しやすい機能的な配色デザインを採用したことなどに関する内容である。
オ その他
(ア)請求人のAED等により救命された事例が各種新聞に掲載されたことを示す8件の証拠のうち,請求人に係るAED等の商品の写真が掲載されている記事も見受けられるが(甲14の1・2・4〜8),色彩を確認できる証拠は一部(甲14の4・7)である。
(イ)請求人は,請求人の自動体外式除細動器(AED−2100)について,2009年(平成21年)度のグッドデザイン賞を受賞(甲15),及び半自動除細動器(TEC−2603)について,2016年(平成28年)度のグッドデザイン賞を受賞した(甲16)。
(3)以上認定した事実を総合すれば,以下のとおり,判断できる。
ア 請求人は,2002年(平成14年)から,半自動除細動器「AED−9100シリーズ」に本願オレンジ色及び本願青紫色を使用したことが認められる。
しかしながら,上記(2)ア(イ)のとおり,実際に,その配色が,商標の詳細な説明(上から順にオレンジ色が商標の85%,同じく青紫色が15%)と同一性を損なわないものと認められる使用例はなく,また,使用商品の大部分を占めている色彩は本願オレンジ色であり,ハンドル部分又は操作部分等にしか付されていない本願青紫色は,目立つ態様とはいえず,本願青紫色がその指定商品の取引者,需要者の印象に残るものとは認められない。
また,使用商品の大部分を占めているオレンジ色は視認性及び誘目性の高さから,救急救護等に用いる商品に採用されていることに加え,請求人以外の第三者に係るAED等にも使用されている色彩である。
イ 請求人に係るAED等の販売実積及び業界におけるシェアは,2007年(平成19年)度以降45%前後の高い割合で推移している旨主張するが,その裏付けとなる客観的な証拠の提出はないから,結局,当該販売実積及び業界におけるシェアは明らかであるとはいえない。
ウ 使用地域については,請求人に係るAED等が全国で使用されているものと認め得るとしても,広告宣伝については,テレビドラマへの使用は僅か5つ程度であり,また,東京マラソンの全国放送番組中のテレビCMで,請求人の商品が放映されたことは認められるが,当該テレビCMは東京マラソンの開催にあわせ,年に一回の放送であるため9回程度であり多いとはいえない。
また,書籍,雑誌,新聞等に請求人に係るAED等が掲載された例として提出された紹介,広告記事が,2002年(平成14年)から2014年(平成26年)の間に18件あることからすると,その数は年平均1〜2件程度で多いとはいえないことに加え,その内容はAEDの操作方法の紹介や目立ち,操作しやすい機能的な配色デザイン等の説明が記載されているにすぎず,請求人に係るAED等の色彩が独立して自他商品を識別するための出所表示として機能している事実を示しているものとはいえない。
エ 請求人に係るAED等が,グッドデザイン賞を受賞した事実は,受賞した商品の色彩や形状等が美感又は機能に資するために採用されたものであることを認め得るとしても,本願オレンジ色及び本願青紫色が商品の出所を表示し,自他商品を識別する標識として機能することを証明するものとは認められない。
オ 以上からすると,使用商品の大部分には,本願オレンジ色が付されており,商品の一部にしか付されていない本願青紫色が目立つ態様で使用されているといえず,取引者,需要者の印象に残るものとはいえないこと,使用商品の大部分を占めているオレンジ色は,請求人以外の第三者に係るAED等にも使用されていること,AED等の販売実績及びシェアが明らかであるとはいえないこと,広告宣伝の回数が多いとはいえないことに加え,その内容の多くは,操作方法の紹介や機能性の観点から配色されたデザインであること等を示しているにすぎないことなどを踏まえると,本願商標は使用をされた結果,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものとは認められない。
したがって,本願商標は,商標法第3条第2項の要件を具備するものではない。
3 請求人の主張について
(1)請求人は,「審尋で挙げられたいずれの書籍,ニュースリリース,ウェブサイトにおいても,本願商標のオレンジ色(PANTONE:165C)や青紫色(PANTONE:2114C)について具体的に言及するものではない」旨主張する。
しかしながら,別掲2(2)に示したAED等に係る色彩が,本願オレンジ色や本願青紫色という色彩の組合せと同一でないとしても,請求人以外の第三者に係るAED等の本体に,視認性及び誘目性の高い色彩が使用されており,また,操作部分等をわかりやすくするために異なる色彩が採用されていることに変わりない。
(2)請求人は,「請求人の使用商標の中には,出願商標以外の標章(白色文字等)が含まれているが,商品のほぼ全面または全てがオレンジ色であり,オレンジ色が需要者に強い印象を与えるような態様で使用されており,実際にそれを目印に救命に使用され,色彩部分のみが独立して自他商品識別標識として機能している。」旨主張する。
しかしながら,本願オレンジ色が,商品のほぼ全面に使用されているとしても,オレンジ色は,視認性及び誘目性の高さから請求人以外の第三者に係るAED等にも使用されている色彩であることからすると,取引者,需要者をして,請求人の識別標識として理解されるというより,緊急時に使用する救命器具であることを示すオレンジ色と認識されるというのが自然である。
(3)したがって,請求人の上記主張は,いずれも採用することができない。
4 まとめ
以上のとおり,本願商標は,商標法第3条第1項第3号に該当し,かつ,同条第2項に規定する要件を具備するものではないから,登録することができない。
よって,結論のとおり審決する。
Next Action
次の一手につながるサービス
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。