結論テキスト
審判費用は被請求人の負担とする。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 平成10年審判第35186号 |
|---|---|
| 審判種別 | 不服 |
| 結論 | 勝訴(請求認容) |
本件登録第2696310号商標(以下「本件商標」という。)は、平成1年4月21日に登録出願され、別掲のとおりの構成よりなり、第26類「書籍、その他本類に属する商品」を指定商品として、平成6年9月30日に設定登録されたものである。
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、本件商標は、商標法第4条第1項第6号、第7号及び第15号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定によりその登録は無効とされるべきであると主張して、その理由を要旨次のように述べるとともに、証拠方法として甲第1号証ないし同第11号証(枝番を含む)を提出している。
(1)本件商標の態様について
本件商標の態様を見ると、外周は真円状であり、その円の頂点部分から下方へ左右に60度展開する扇状の線が描かれる。線の数は都合7本、円の外周にまで達する線で、外周の処では一定の太さ(幅)があるが、円の頂点部分を扇の要とするので個々の線自体が細長い扇状となる。この線は(及び図形全体も)中心の線(第4番目の線)を軸として線対称になる態様で描かれ、各々黒塗りされ(塗り潰され)ている。この7本の線の更に外側には、やはり円の頂点部分を要として左右に均等幅の塗り潰さない部分をおき、その外側が黒塗りされている。
(2)請求人のシンボルマークについて
請求人のシンボルマーク(別掲のマーク。以下「体協マーク」という。)は、やはり外周は真円状である。その円の真下の点から円周上に30度左上方に上がった1点を扇の要として、右斜め上方へ左右に60度展開する扇状の線が描かれる。線の数は都合7本、円の外周にまで達する線で、外周の処では一定の太さ(幅)があるが、円の頂点部分を扇の要とするので個々の線自体が細長い扇状となる。この線(及び図形)も中心の線(第4番目の線)を軸として線対称になる態様で描かれ、各々塗り潰されている。ちなみに、カラー印刷等が可能な場合にはこの体協マークは赤で描かれるが、それ以外の場合は黒塗りされる。この7本の線の更に外側には、やはり円の頂点部分を要として左右に均等幅の塗り潰さない部分をおき、その外側が塗り潰されている。
(3)本件商標と体協マークの比較
本件商標と体協マークは、真円を外周の基調とすること、円周上の一点を扇の要とし、そこから扇状に左右きっちり60度の範囲に7本の線が展開されること。線の数も同じなら、4本目の線を中心として左右に線対称の図形として描かれていることも同じである。扇状の部分の更に外側の左右の部分(花の額に見えるような部分)もまた、塗り潰されていること、すべて同一である。唯一の相違と言えるのは、扇の要の位置のみである。しかし、体協マークを回転させれば、若しくは違う位置から見れば、本件商標と体協マークが外観上同一の商標と見受けられることは明らかで、本件商標と体協マークとが商標法上類似の商標と判断されるべきことは、疑う余地がない。
(4)請求人、財団法人日本体育協会について
請求人、財団法人日本体育協会(いわゆる“体協”)は、日本のアマチュアスポーツ界の統一組織として国内国外の体育スポーツ事業を行い、スポーツを通じて国民の体育文化の向上を図ることを目的とする財団法人である。請求人は、明治44年(1911年)現代日本柔道の始祖とも言うべき嘉納治五郎氏らの主唱により、大日本体育協会の名称で創立された。その設立の契機となったのは、日本がストックホルムオリンピックへの参加を計画したことであったが、単にオリンピック参加のみでなく、当初から国民スポーツの振興が団体の目的となっていた。昭和2年“体協”は財団法人として許可され、昭和21年、戦後すぐに現在の財団法人日本体育協会となった。
請求人は、上述の如き団体であって、我が国のスポーツの振興に寄与することを最も大きな目的としており、その意味でスポーツに関連する公的な事業を多々手掛けている。その中でも、最も大きな事業は、国民体育大会(いわゆる“国体”)の開催である。このことは、昭和36年法律第141号として定められたスポーツ振興法に明示されている。国体(国民体育大会)は、“スポーツを普及しスポーツ精神を高揚し国民の健康増進と体力の向上をはかる目的を持った、国民スポーツの祭典”として、昭和21年から毎年開催される国内の総合的なスポーツ競技大会である。この“国体”は、上述のようにスポーツ振興法に定める国の事業であり、日本体育協会、国(文部省)、及び開催地都道府県の3者共催で開催されることになっている(甲第4号証)。
請求人は、また、我が国における各種スポーツの振興及び競技力の向上に資するため、社会体育指導者に関する審査及び証明事業を行っている(甲第5号証の1及び2)。
このように、請求人は国家が行う公的事業を支援する公的色彩の強い公益団体であり、我が国では請求人の名を知らぬ筈はないといっても過言ではない。
(5)請求人を表象する体協マーク、及びその周知・著名性について
請求人の体協マークが制定されたのは、昭和49年(1974年)であった。この体協マークの作者(デザイナー)は永井一正氏であり、札幌オリンピック(冬季五輪)の公式マークや、沖縄海洋博の公式マークの作者でもある(甲第6号証)。
この体協マークは制定時の昭和49年以降請求人の実施する各種事業に明示されており、様々な機会に公衆の目に触れて、日本中で周知・著名となっているのである。例えば、上述した請求人の発行する雑誌「体協時報」、これはスポーツに関連する全国の各団体・学校・役場その他で購入され、閲覧されるが、これには必ず体協マークが表示されている。
また、請求人が文部省の委嘱を受けて“社会体育指導者”の審査及び証明事業を行っている旨述べたが、その公認スポーツ指導者の認定証の写を甲第8号証として提出する。このスポーツ指導者も地域に密着した者、競技力向上を主目的として選出される者等あり、それぞれに上級・中級・初級と段階に分けて審査・認定されるのだが、その認定証には“文部大臣認定”の文字とともに、請求人と各競技団体の名称が表示されその背景に大きく請求人の体協マークが印刷されるのである(甲第8号証)。
そして、我々が最も良く、体協マークを見る事例としては“体協スポーツニュース”が挙げられる。“体協スポーツニュース”とは、請求人財団法人日本体育協会と株式会社時事通信社の共同事業として昭和59年6月から編集・発行されるポスターニュース(壁新聞の一種)であり、この事業は現在も引き続き活発に運営されている。現在の発行部数は1回につきおよそ55,000セット(4枚一組の意味)に及び、発行先が学校等公共の場であることに鑑みて少なくも2000万人の耳目に触れる効果があると言われている。また、発行回数は原則として月に3回、年間32回である(甲第9号証ないし甲第11号証の5)。
このように、体協マークは、既に24年間に渡って全国各地のスポーツ振興事業に関連して大々的に使用されてきており、十分な周知・著名性を獲得している。
(6)本件商標が商標法第4条第1項第6号に該当することについて
請求人の体協マークが我が国で周知・著名であることは、叙上の如く顕著な事実である。この周知・著名性が、本件商標の出願された平成1年4月21日以前に確立されたことも、明白である。而して、繰り返すが、本件商標が、請求人の体協マークと酷似していることも明らかな事実である。
本件商標は、長年に渡り公的にスポーツ振興事業・その他の事業を実施してきた公益団体と認められる請求人の周知・著名な体協マークと酷似する。従って、本件商標は、商標法第4条第1項第6号に該当する。
(7)本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当することについて
この体協マークを用いて行われる請求人の事業の公的色彩や、体協マークの創作・制定の経緯を考えても、これほど酷似したマークが請求人の体協マークの存在を知らずに偶然に採択されたものであるとは、到底信じ難い。このように本件商標からは、請求人の体協マークの公益性の高いイメージに“ただ乗り”しようとした意図が見受けられ、請求人はその立場からしても、このような商標が登録され使用されることを黙認することはできない。また、請求人の体協マークを創作された永井一正氏にとっても、本件商標の存在はその著作権を侵害するものと理解されよう。従って、本件商標は公の秩序に反することが自明であるから、商標法第4条第1項第7号にも該当する。
(8)本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当することについて
更に、請求人は、スポーツ振興事業をより一般に促進する為に、スポーツ振興に関連する各種情報の提供を行い、また体協スポーツニュースも一部有償で販売している。従って『書籍、パンフレット、カレンダー等』や『写真、(情報を記録した)録画済みビデオテープ・ビデオディスク』などを指定商品に含み、構成上は請求人の体協マークとほぼ同一といっても過言でない本件商標が、その指定商品に使用されて流通したとするならば、深刻な混同が懸念される。その意味から、本件商標は商標法第4条第1項第15号にも該当する。
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べた。
(1)両者の構成及び呈する印象
(イ)本件商標の構成態様及び呈する印象
本件商標は、黒色のほゞ椀形状の2個の肩部を、「左右対称」にやゝ外方に傾斜して配し、その中に黒色の「複数本の直線を放射状に均等に配して」構成されている。そして、この構成を有することにより、本件商標からは、「白い頂きを有する富士山」の印象、「くす玉が割れた状態」の印象、「放射状に下放された状態」の印象、「物が下方にこぼれ落ちる状態」の印象、「左右対称な図形」の印象、「黒色」の印象、等の顕著かつ具体的な印象を呈している。
(ロ)体協マークの構成・態様及び呈する印象
一方、請求人の体協マークは、その制作の意図が「のぼる太陽のイメージを基調にして、若いスポーツマンの結集した力が、より高く、たくましく伸びていくさまをシンボライズした。色彩については、若々しい体力と情熱を、ストレートに赤1色で表現してみた。(甲第4号証)」と述べられているように、赤色の複数本の「直線部」が右斜め「上方に拡散上昇」する構成・態様を有している。
この構成及び制作の意図より、体協マークからは、「太陽がまさに地平線又は山の頂から昇ろうとしている状態」の印象、「御来光が射し始めた状態」の印象、「朝日」、「旭日」、「旭日旗」又は「旭日章」等の印象、「斜め上方に拡散し、伸びていくが如く、放射状に上放れ」の印象、「左右非対称な図形」の印象、「赤色」の印象、等の顕著かつ具体的な印象を呈している。
(2)両者の差異
本件商標と体協マークとは、その構成・態様が全く異なることより、その印象、イメージ等において、前記のように顕著な違いが認められ、両者は、外観、観念(特定の称呼は生ぜず)において相互に非類似である。
(3)請求人の主張に対する反論
(イ)不自然な使用による類似性
請求人は、「本件商標と体協マークは、正に酷似する。すべて同一である。唯一の相違と言えるのは、扇の要の位置のみである。しかし、請求人の体協マークを回転させれば、若しくは違う位置から見れば、本件商標と請求人の体協マークが外観上同一の商標と見受けられることには、疑義を挟む余地がないであろう(請求書第4頁)。」と主張する。
しかし、請求人のこの主張は、請求人の体協マークの制作の意図を全面的に否定するものと思料される。体協マークは、「回転させ」あるいは「違う位置から見」た場合には、それは体協マークとはいえないのである。
加えて、扇の要の位置を合致させるために、すなわち他人の商標と類似させるために、体協マークを「回転させて使用する」ことはあり得ないのであり、取引社会においてそのようなことはおよそあり得ない。更に、簡易迅速を尊ぶ通常の商取引において商品に付された商標を、わざわざ無理に引っ繰り返したり、回転させたりする等という不自然なことを、敢えてする必要性はないものと思料される。同時に「違う位置から見る」必然性もないものと思料される。
本件商標も体協マークもそのまゝの状態で使用されるのであり、他人の商標に無理に似させるために、意図的に「回転させ」たり、「違う位置から見」たりすることは、およそ商取引の社会において、考えられないことである。
(ロ)本件商標が商標法第4条第1項第6号に該当することについて
請求人は、体協マークが周知・著名であり、しかも本件商標と体協マークとは酷似しており、本件商標は、商標法第4条第1項第6号に該当する旨主張される。しかし、仮に、体協マークが著名であったとしても、本件商標と体協マークとは、前記した如くその構成・態様が全く非類似であるので、本件商標は、商標法第4条第1項第6号には該当しない。
(ハ)本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当することについて
請求人は、本件商標は、請求人の体協マークの公益性の高いイメージに“ただ乗り”しようとした意図が見受けられ、また、著作権の侵害であり、公の秩序に反すること自明である、と主張される。しかしながら、本件商標と体協マークとは、前記した如く、その構成・態様が、全く非類似でありますので、“ただ乗り”の意図は見受けられず、また、著作権の侵害はないものと容易に理解され、いわんや、公の秩序に反しないことは自明である。よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号には該当しない。
(ニ)本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当することについて
請求人は、「書籍、パンフレット等」に本件商標が使用された場合、深刻な混同が懸念され、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する、と主張される。しかし、本件商標と体協マークとは、前記した如くその構成・態様が非類似であります。そして、立証の事実はないが、仮に請求人が商品を取扱っていたとしても、請求人の業務に係る商品と誤認されるおそれは全くなく、現に被請求人の業務に係る「書籍等」と請求人の「体協スポーツニュース」の混同の事実はないのであり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号には該当しない。
(4)このように本件商標と体協マークとは、誰が観察しても非類似としか言いようがないほど、顕著な相違点があり、本件商標は、体協マークとは非類似の商標である。
請求人の提出した甲第1号証乃至甲第11号証(枝番を含む。)によれば、以下の事実が認められる。
(1)財団法人日本体育協会について
請求人である財団法人日本体育協会は、明治44年(1911年)大日本体育協会の名称で創立され、その後昭和2年財団法人として許可され、昭和21年、現在の財団法人日本体育協会となったものである。その目的は、国内国外の体育スポーツ事業を行い、スポーツを通じて国民の体育文化の向上を図ることであり、スポーツに関連する公的な事業を多々手掛けている。その中でも、最も大きな事業は、国民体育大会(いわゆる“国体”)の開催であり、これは、財団法人日本体育協会、国及び開催地の都道府県が共同して昭和21年より毎年開催している。また、請求人は、地域スポーツ活動の振興及び競技力の向上に資するため、社会体育指導者に関する審査及び証明事業を行っている。
(2)財団法人日本体育協会を表象する体協マークについて
請求人は、別掲のとおりの財団法人日本体育協会を表象する体協マークを昭和49年(1974年)に制定した。
この体協マークは、外周は真円状であり、その円の斜め左下の1点からその反対側に7本の、徐々に太くなる線、及びそれらの線を挟んで対称に一対の半月形の図形で構成されている。
請求人は、この体協マークを請求人が毎月発行している「体協時報」に表示している。この「体協時報」は、スポーツに関連する全国の各団体・学校・役場その他で購入され、閲覧されている。
また、請求人は、体協マークを昭和59年6月から株式会社時事通信社と共同で発行している「体協スポーツニュース」にも表示しているが、この「体協スポーツニュース」は、B4版の写真ニュース4枚一組で構成され、その配布先は全国各地の公立の小・中・高等学校、役場、市役所、体育館、銀行等々で、それぞれ掲示板などに挙げられている。現在の発行部数は1回につきおよそ55,000セット(4枚一組の意味)に及び、発行先が学校等公共の場であることに鑑みて少なくも2000万人の目に触れる効果があると言われている。そして、発行回数は原則として月に3回、年間32回にも及ぶ。
さらに、請求人は、体協マークを社会体育指導者の認定証等、請求人の実施する各種事業に使用していることが認められる。そして、請求人は、体協マークを実際には場合に応じて赤色のみならず黒色でも使用しているものである。
以上の事実を総合すれば、体協マークは、遅くても本件商標の出願時である平成1年頃までには財団法人日本体育協会を表示する標章として広く認識されていたものと認められ、その状態は現在においても継続しているというのが相当である。
(3)本件商標について
本件商標は、外周は真円状であり、その円の頂点部からおよそ60度に展開する7本の、下方に向けて徐々に太くなる線、及びそれらの線を挟んで対称に一対の半月形の図形で構成されている。
(4)体協マークと本件商標との類否について
体協マークと本件商標は、別掲のとおりの構成よりなるものである。両者は、外周は真円状であり、その円の1点を頂点としておよそ60度に展開する7本の、頂点部分から反対に向けて徐々に太くなる線、及びそれらの線を挟んで対称に一対の半月形の図形で構成されている点において構成の軌を一にしており、かつ、いずれも特定の事物、事象を表現したものとは認められない。
してみれば、両者は、展開する7本の線の頂点部分の白い部分の大きさ、その頂点部分が本件商標は真上にあり、体協マークは左下に位置する点、及び色彩において差異を有するものであるとしても、両者の外観上の印象は極めて近似したものというのが相当である。
被請求人は、両者は、外観、観念において相互に非類似であり、さらに、商標を意図的に回転させたり、違う位置から見たりすることは商取引の社会において考えられない旨述べているが、そのいずれもが真円状の図形の中に7本の展開する線、及びそれらを挟んで対称の一対の半月形の図形を描いたものであるとの印象が強く、両者は類似するものといえるから、被請求人の主張は認められない。
以上のとおり、本件商標は、公益に関する団体であって営利を目的としないものと認められる財団法人日本体育協会を表示する標章であって著名なものである体協マークと類似するものである。
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第6号に違反して登録されたものであるから、請求人の主張する他の無効理由について判断するまでもなく、同法第46条第1項の規定により、その登録は無効とされるべきである。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
商標の登録可能性を無料で確認するか、費用の目安を料金表・シミュレーターで把握できます。