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Trademark Appeal Case

歴史人物名商標の公序良俗

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号不服2018−15451(T2018−15451/J1)
審判種別不服
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

本件審判の請求は、成り立たない。

理由テキスト

第1 本願商標

本願商標は、「尚巴志」の文字を標準文字で表してなり、第33類「泡盛,合成清酒,焼酎,白酒,清酒,直し,みりん,洋酒,果実酒,酎ハイ,中国酒,薬味酒」を指定商品として、平成29年3月22日に登録出願されたものである。

第2 原査定の拒絶の理由

原査定は、「本願商標は、『尚巴志』の文字よりなるところ、『尚巴志』は、『15世紀、琉球で最初の統一王朝を樹立した国王』であり、現在もそのゆかりの地域等において、ドラマの制作、地域活性化の取り組み等がなされている実情がある。そして、著名な歴史上の人物は、その人物の名声により強い顧客吸引力を有するものであり、その人物の郷土やゆかりの地においては、住民に郷土の偉人として敬愛の情をもって親しまれ、地元のシンボルとして地域興しや観光振興のために人物名を商標として使用する実情も多く認められる。そうすると、歴史上の著名な人物である『尚巴志』の文字からなる本願商標を、出願人が自己の営利を目的とするために出願人の商標として登録し使用することは、『尚巴志』の名称を使用した観光振興や地域興しなどの公益的な施策の遂行を阻害することとなり、公正な競業秩序を害するものであって、商取引の秩序又は社会公共の利益に反するおそれがあるといわざるを得ない。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

第3 当審における証拠調べ通知

当審において、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するか否かについて、職権に基づく証拠調べをした結果、別掲2に示すとおりの事実を発見したので、同法第56条第1項で準用する特許法第150条第5項の規定に基づき、請求人に対して,令和元年7月30日付け証拠調べ通知書によって通知し、期間を指定してこれに対する意見を求めた。

第4 証拠調べ通知に対する請求人の回答の要旨

1 歴史上の著名な人物について、地元のシンボルとして地域興しや観光振興のためにその人物名を使用する事実が存在するにもかかわらず、当該人物に関する過去の登録例及び審決例が存在するから、証拠調べにおいて提示された「尚巴志」の文字が使用されている事実が直ちに商標法第4条第1項第7号に該当するものではない。

2 歴史上の人物名をお酒の商標として使用することが、需要者、取引者をして直ちに社会公共の利益、又は一般的道徳観念に反する、との認識には結びつかない。

第5 当審の判断

1 商標法第4条第1項第7号と歴史上の人物名について

商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、(1)その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、(2)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、(3)他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、(4)特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、(5)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるというべきであると判示されている(知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)第10349号判決)。

ところで、周知・著名な歴史上の人物名は、その人物の名声により強い顧客吸引力を有する。その人物の郷土やゆかりの地においては、住民に郷土の偉人として敬愛の情をもって親しまれ、例えば、地方公共団体や商工会議所等の公益的な機関が、その業績を称え記念館を運営していたり、地元のシンボルとして地域興しや観光振興のために人物名を商標として使用したりするような実情が多くみられるところであり、当該人物が商品又は役務と密接な関係にある場合はもちろん、商品又は役務との関係が希薄な場合であっても、当該地域においては強い顧客吸引力を発揮すると考えられる。このため、周知・著名な歴史上の人物名を商標として使用したいとする者も、少なくないものと考えられる。一方、敬愛の情をもって親しまれているからこそ、その商標登録に対しては、国民又は地域住民全体の反発も否定できない。

そして、上記判決では、商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するものとして、上記(1)ないし(5)の場合を例示として挙げており、その例示の一つとして、「(2)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合」が挙げられている。

そうすると、周知・著名な歴史上の人物名からなる商標は、(ア)当該歴史上の人物の周知・著名性、(イ)当該歴史上の人物名に対する国民又は地域住民の認識、(ウ)当該歴史上の人物名の利用状況、(エ)当該歴史上の人物名の利用状況と指定商品との関係、(オ)出願の経緯・目的・理由、(カ)当該歴史上の人物と請求人(出願人)との関係に係る事情を総合的に勘案して、当該商標を特定の者の商標としてその登録を認めることが、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するものと認められる場合には、商標法第4条第1項第7号に該当するというべきであるから、以下、本願商標について、上記(ア)ないし(カ)について検討する。

2 商標法第4条第1項第7号該当性について

(1)本願商標は、前記第1のとおり、「尚巴志」の文字を標準文字で表してなるところ、原審において示した別掲1のとおりの事実及び当審における証拠調べ通知で開示した事実(別掲2)等から、次のことを認めることができる。

ア「尚巴志」の周知・著名性

「尚巴志」は、15世紀、琉球で最初の統一王朝を樹立した国王であり、沖縄県において、広く知られた歴史上の人物といえる。

イ 尚巴志に対する国民又は地域住民の意識

文化庁が推進する「南城市【沖縄県】歴史文化基本構想」の下、南城市出身の偉人「尚巴志」に係る文化遺産を包括的に活用していく「尚巴志活用マスタープラン」と称する計画書が平成23年に策定され、現在も同計画書に基づき、市内文化遺産を活用した事業など、同人に関連した観光振興や地域興しといった取組みがなされていることが認められる。

また、那覇市や那覇市環境協会等から構成される那覇大綱挽まつり実行委員会による主催であり、内閣府沖縄総合事務局、沖縄県等が後援する「那覇大綱挽まつり」に「尚巴志」の名称が使用されている。

さらに、尚巴志の郷土である沖縄県南城市やゆかりの地を中心として、自治体等の公益的な機関による「尚巴志」の名を冠したマラソン大会や人材育成を目的とした塾、「尚巴志」を紙芝居で学ぶ事業が開催されるほか、ドラマや舞台等で「尚巴志」を取り扱うなどされている。

そして、沖縄県南城市や伊平屋島等に存在する尚巴志の祖先の墓や尚巴志に由来する史跡が、観光の名所となっており、それらの地を訪ねる観光コースも存在するなど、「尚巴志」の名称は広く利用されている。

そうすると、「尚巴志」は、同人の郷土である沖縄県において、地域住民に広く敬愛されているといえる。

ウ 「尚巴志」の名称の利用状況

「尚巴志」の郷土である沖縄県南城市やゆかりの地においては、上記イのとおり、国や地方公共団体等の公益的な機関により、地域振興や観光振興のために、「尚巴志」の名称が利用されていることに加え、別掲3のとおり、同人の名称は、上記イで挙げたマラソン大会のオリジナルTシャツや琉球宮廷料理店内の個室名において利用され、また、沖縄県の土産物、特産品である菓子や泡盛といった商品についても、当該商品が同人にちなんだ商品であることをアピールするために利用されていることが認められる。

エ 「尚巴志」の名称の利用状況と指定商品との関係

本願の指定商品である「泡盛」等の酒類は、一般に土産物及び特産品としても、生産、販売されているものであるところ、上記ウのとおり、本願の指定商品に含まれる「泡盛」においても、商品のアピールポイントとして「尚巴志」の名称が利用されている。

オ 出願の経緯・目的・理由

職権による調査によれば、請求人は、「尚巴志」の名称を、「泡盛」に使用していることがうかがえる。

カ 尚巴志と請求人(出願人)との関係

請求人と尚巴志との関連性は、何ら見いだすことはできない。

(2)判断

上記(1)のとおり、「尚巴志」は、同人の郷土やゆかりの地である沖縄県において、広く知られた歴史上の人物であって、沖縄県民に敬愛されており、沖縄県内に点在するゆかりの地においては、「尚巴志」の名称が、観光振興や地域興しに広く活用されているほか、本願の指定商品「泡盛」をはじめ、各種商品、サービスにもその名称が活用されていることが認められる。

上記実情を総合して検討すれば、「尚巴志」の文字からなる本願商標を、請求人の商標として登録することは、「尚巴志」の名称を活用した公共性を有する各種施策、地域振興、観光振興等の遂行を阻害するおそれがあり、ひいては社会公共の利益の妨げになるおそれがあるものというべきである。

したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。

3 請求人の主張について

(1)請求人は、歴史上の人物に関する過去の登録例及び審決例(沖縄に因んだものを含む)を挙げ、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当しない旨主張する。

しかしながら、本願商標が、同号の規定に該当するか否かは、当該商標の査定時又は審決時において、個別具体的に判断されるべきものであるところ、請求人の挙げる登録例及び審決例は、その構成、態様が本願商標の事案と異なるものであって、同列に論ぜられるものではなく、また、該登録例及び審決例が存在することによって、前記認定が左右されるものではない。

(2)請求人は、歴史上の人物名をお酒の商標として使用することが、需要者、取引者をして直ちに社会公共の利益、又は一般的道徳観念に反する、との認識には結びつかない旨主張する。

しかしながら、上記2(2)で述べたとおり、郷土やゆかりの地において、広く知られた歴史上の人物である「尚巴志」は、その人物の名声により強い顧客吸引力を有することからすれば、誰もがそれを商標として使用をすることを欲するものであるから、一私人がこれを独占的な使用を得ることは、社会公共の利益の妨げになるおそれがあるものといわざるを得ないものである。

したがって、請求人の上記主張は、いずれも採用することができない。

4 むすび

以上のとおり、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当し、登録することができない。

よって、結論のとおり審決する。

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