結論テキスト
審判費用は被請求人の負担とする。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 無効2019−890052(T2019−890052/J3) |
|---|---|
| 審判種別 | 無効 |
| 結論 | 勝訴(請求認容) |
本件登録第5823948号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成よりなり、平成27年6月10日に登録出願、第41類「予備校・学習塾における教授,進学予備校又は学習塾における学習用試験又は進学用模擬試験の企画・運営又は開催,パーソナルコンピューターによる通信を用いて行う学習塾における教授,技芸・スポーツ又は知識の教授,インターネットを利用した文化・芸術・スポーツ・情報技術に関する講習会・教育改革・生涯学習・学位制高校に関する情報の提供,資格検定試験及び教育・学習講座に関する情報の提供,学習支援に関するセミナーの企画・運営又は開催,進学説明会の企画・運営・開催,セミナーの企画・運営又は開催,子供と教育に関する図書及び記録の供覧,資格検定試験の学習用の電子出版物の提供,幼児教育に関する電子出版物の提供,英会話学習に関する図書の貸与,インターネットを利用した小学生向け英語教育用電子出版物の提供,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,図書の貸与,セミナー・教育研修・講座・人材開発のテキストの制作,学習支援に関する書籍の企画・制作,教育・文化・娯楽・スポーツに関する電子出版物の制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),教育研修用テキスト及び指導マニュアル書の制作,教育分野で使用する問題集の制作,書籍の制作,スポーツ・娯楽・文化・教育用ビデオ・DVD・CD−ROM・スライドの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),英会話学習用ビデオ・DVD・CD−ROMの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),家庭教師による教育用ビデオ・DVD・CD−ROMの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),英会話学習のための施設の提供,教育研修のための施設の提供及びこれに関する情報の提供,セミナー・シンポジウムのための施設の提供及びこれらに関する情報の提供,絵画及び美術品の展示施設の提供,図書室の提供,英会話学習用の録音済み磁気テープ・ICカード・磁気ディスク・光ディスク・光磁気ディスクの貸与,英会話学習用の録画済み磁気テープ・ICカード・磁気ディスク・光ディスク・光磁気ディスクの貸与,レコード又は録音済み磁気テープの貸与,録画済み磁気テープの貸与」を指定役務として、同28年1月15日に登録査定、同年2月5日に設定登録されたものである。
請求人が本件商標の登録の無効の理由において引用する商標は、以下のとおりである。
商標:別掲2のとおり
指定商品及び指定役務:第9類、第14類、第16類、第18類、第21類、第24類、第25類、第26類、第39類、第41類及び第43類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務
登録出願日:平成19年3月15日
設定登録日:平成19年11月2日
更新登録日:平成29年6月27日
商標:早稲田大学(標準文字)
指定役務:第41類に属する商標登録原簿に記載のとおりの役務
登録出願日:平成26年4月25日
設定登録日:平成26年11月7日
商標:別掲3のとおり
使用役務:大学及び大学院における教授,セミナーの企画・運営又は開催
以下、これらをまとめて「引用商標」という場合がある。
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第27号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)本件商標は、引用商標1及び引用商標2に類似し、かつ、その指定役務も同一又は類似するから、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(2)早稲田大学及び「早稲田」の文字とは何ら縁がない無関係な被請求人が、早稲田大学の校章と同じ稲穂をモチーフとする図形の中央に「早稲田大学」の略称である「早稲田」の文字を表した本件商標を採択、使用する行為は、引用商標が有する顧客吸引力に便乗するものであるから、公序良俗を害するおそれがあり、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(3)本件商標は、請求人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている引用商標3に類似する商標であって、その役務又はこれに類似する役務について使用するものであるから、商標法第4条第1項第10号に該当する。
(4)本件商標は、早稲田大学の象徴である校章図形と同じ稲穂のモチーフを用いた図形の中央に「早稲田大学」の著名な略称である「早稲田」を大書してなり、その使用は引用商標へのただ乗りであり、引用商標の希釈化を招くものであるから、本件商標は請求人の業務に係る役務と混同を生ずるおそれがあり、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(5)本件商標は、請求人の業務に係る役務を表示するものとして我が国の需要者の間に広く認識されている引用商標に類似の商標であって、これらの商標の出所表示機能を希釈化させ、また、その名声を毀損させるという不正の目的をもって使用をするものであるから、商標法第4条第1項第19号に該当する。
被請求人は、「早稲田教育ゼミナール」なる名称及び本件商標を用いて学習塾のフランチャイズ事業を行う企業であり、本件商標の登録前から山形県山形市に本社を置き、宮城県仙台市に支店を構えている(甲5の1)。
本件商標権者が「早稲田教育ゼミナール」及び本件商標を表示して展開する学習塾は、平成28年(2016年)1月時点で、教室が宮城県に6室、山形県、福島県、秋田県及び青森県にそれぞれ1室ずつあり、小学生から高校生の生徒の学習指導をしており、通塾生や同塾に関心を持つ児童又は生徒及びその保護者に対する案内を「WASEDA NEWS」なる名称を使用して同塾のウェブサイトに掲載していた(甲5の2)。
被請求人の所在地は「早稲田」なる語とは全く関係がない。
また、被請求人会社の代表取締役は、早稲田大学の卒業生でもなく、被請求人が蓮営する学習塾の名称に「早稲田」の文字を使用する必然性は全くない。
請求人は、我が国を代表する大学のひとつである早稲田大学に加えて、付属校である早稲田大学高等学院、同中学部及び早稲田大学本庄高等学院並びに早稲田大学芸術学校を運営する学校法人である(甲6の1、甲6の2)。
早稲田大学は、明治15年(1882年)10月21日に創設された「東京専門学校」を前身とし、明治25年(1892年)頃には、「早稲田学校」なる別名でも呼ばれるようになり、明治35年(1902年)9月2日付で「早稲田大学」に名称を変更した後、昭和24年(1949年)4月21日付で新制早稲田大学となり、創立140年弱の歴史を有する(甲6の3、甲6の4)。
(1)はじめに
請求人が運営する早稲田大学は、永年にわたり「早稲田」と略称されており、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、「早稲田」なる語は、教育・学究分野にとどまらず、我が国の一般需要者の間で、早稲田大学を指称する語として認識、使用されており、現在に至っている。
加えて、東京専門学校が早稲田大学へ改称する前においても、「早稲田」なる語は、東京専門学校を指称するものとして理解されていたが、このことは、同専門学校の別名が「早稲田学校」であったこと、及び、東京専門学校の組織や出版物の名称に「早稲田」の文字が使用されていたことから明らかである。
(2)東京専門学校時代
現在も発行されている文芸雑誌「早稲田文学」は、明治24年に東京専門学校文学科の機関紙として創刊されている(甲6の4、甲8)。
このように、東京専門学校時代に同校文学科の機関紙の名称に「早稲田」の文字が使用されていたことは、「早稲田」の文字が、単なる地名ではなく、早稲田大学の前身である東京専門学校を指称する語として認識されていたことを示すものであり、早稲田大学ウェブサイト上の「1892年ころには、専門学校の別名として『早稲田学校』と呼ばれるようになりました。」(甲6の3)という説明を裏付けている。
また、東京専門学校時代の明治28年4月には、早稲田大学体育部の前身である「早稲田倶楽部」が発会し、同年10月には、欧米の名著を翻訳した「早稲田叢書」が創刊されている(甲6の4)。
「早稲田叢書」は、校外の研究者の研究にも役立つよう、東京専門学校講師が欧米の最新の名著を翻訳して刊行したものであり(甲9)、同校以外の学生や研究者の間においても「早稲田叢書」が同校の刊行物であるとの認識があったことを示すものである。
明治29年には「早稲田法学会」が発足し、明治30年3月には政治、経済、法律、文学を学術的に講究し、学理と実際の調和を図ることを目的として「早稲田学会」が設立され、機関誌「早稲田学報」を発刊している(甲6の4、甲9)。
さらに、明治30年11月には「早稲田経済会」が、明治32年には「早稲田政学会」(明治34年以降、「早稲田政治学会」)がそれぞれ組織され、東京専門学校が「早稲田大学」に改称した明治35年には「早稲田外国語学会」(英語会の前身)が発足している(甲6の4)。
このように、遅くとも明治25年頃には、東京専門学校が「早稲田学校」と呼ばれていたことに加えて、その後も、同校又は同校関係者によって設立された複数の組織や発行された出版物の名称に「早稲田」の文字が冠され、かかる組織の少なくとも一部が東京専門学校外の学生や研究者にも門戸を開いていたことは、東京専門学校から早稲田大学への改称前に既に、「早稲田」の文字が前身の東京専門学校を指称する語として理解されていたことを示している。
(3)「早稲田大学」への改称後
「早稲田大学」への改称(明治35年)後も、早稲田大学及びその学生らによる組織や出版物の名称に「早稲田」の文字が使用されている。
研究室の拡充・整備が進み、大学令による帝国大学と同等の大学への昇格などの環境が整うと、昭和初めにかけて早稲田大学内に多くの学会が創設され、その中には、「早稲田」の文字を冠した学会名称が多数あり、機関誌を刊行するものも見られた(甲11)。
昭和23年には、明治30年3月に第1号が発行された「早稲田学報」が復刊され(甲6の4)、本件商標の登録出願時及び登録査定時の双方において、校友及びその父母のほか、一般の者も購読可能となっている(甲12の1、甲12の2)。
昭和24年には、現在も開催されている「早稲田祭」の準公認第1回が開催され(甲6の4)、その後、平成9年から平成13年の5年間を除いて現在に至るまで、毎年「早稲田祭」が開催されており、たとえば、「早稲田祭2013」及び「早稲田祭2014」には約400にのぼる学生団体の企画参加があり、延べ約16万人の来場者があるなど、常に一般来場者を含む大勢が来場している(甲13の1、甲13の2)。
このように、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、「早稲田祭」は早稲田大学の大学祭の名称として広く知られていた。
また、早稲田大学は、毎年、入学案内を作成し、これを学外の者に対して配布しているが、たとえば、早稲田大学入学案内2015年版及び同2016年版の表紙裏には「早稲田からWASEDAへ」と表示されているほか、同案内中の記述において早稲田大学又はその卒業生が「早稲田大学」を「早稲田」と略称している(甲13の1、甲13の2)。
なお、上記入学案内は、いずれも、入試要項に同封されたほか、資料請求に応じて郵送され、夏休み期間中に開催されたオープンキャンパス、47都道府県の全てで開催された学校説明会や進学相談会でも配布されており、配布部数は2015年版、2016年版ともそれぞれ合計33万部にのぼる。
加えて、これらの入学案内は、早稲田大学ウェブサイト上でダウンロード可能であったため、早稲田大学に関心を持つ多くの者がウェブサイトを通じて閲覧したといえる。
早稲田大学は、永年にわたり、全国紙に単独又は他大学とともに広告を掲載しており、当該広告において、早稲田大学自らが、「早稲田大学」を「早稲田」と略称している(甲14の1〜甲14の8)。
また、「文藝春秋」2015年3月号(発行部数:488,000部)に早稲田大学から提供され掲載された対談記事でも「早稲田大学」を「早稲田」と略称している(甲15の1)。
さらに、たとえば、東京箱根間往復大学駅伝競走では、「早稲田大学」を「早稲田」と略称して「早稲田アスリートプログラム」なる表示を用いた広告が掲載された公式プログラム(甲15の2)が、スタート地点、フィニッシュ地点のほか、中継所数か所で販売された。
また、平成27年9月頃に、大学、短期大学及び専門学校についての情報を掲載したフリーマガジン「COLLECTION STYLE」No.1掲載の広告でも、「早稲田大学」が「早稲田」と略称されている(甲15の3)。
以上の事実より、「早稲田大学」への改称後、早稲田大学並びにその学生らによる組織や出版物の名称に「早稲田」の文字が使用され、また、早稲田大学の広告において「早稲田」の文字が「早稲田大学」の略称として使用されており、かかる使用は一般の者にも知られていることは明らかであるが、マスコミにおいても、「早稲田大学」が略称される場合、明治期より現在に至るまで「早稲田」とされることが多い(甲16〜甲19)。
このように、明治時代からたびたびされた早稲田大学に関する新聞報道において「早稲田大学」が「早稲田」と略称されていることは、「早稲田」の文字が「早稲田大学」を指称するものと読者に理解されることを前提としている。
新聞に加えて、各種雑誌でも「早稲田大学」を指称して「早稲田」の語が使用されている(甲20、甲21)。
なお、進学塾や予備校の中には、その名称に「早稲田」の文字を有するものが見られるが、「早稲田アカデミー」(略称:早稲アカ)、「早稲田予備校」(略称:ワセヨビ、WASEYOBI)、「早稲田育英ゼミナール」(略称:ワセイク)、「早稲田ゼミナール」(略称:早ゼミ)、「早稲田進学ゼミナール」(略称:waseshin)、「早稲田進学会」(略称:早稲進)のように、自らの名称を「早稲田」と略してはいない。
(4)まとめ
以上のとおり、本件商標の登録出願日よりも前から登録日に至るまで、大学をはじめとする教育分野にとどまらず、我が国では「早稲田」の語から「早稲田大学」を指すと理解できない者がいないといっても過言ではないほど、「早稲田」なる文字は、請求人が運営する「早稲田大学」の略称として広く認識されている。
引用商標3は、早稲田大学の校章を表した図形からなり、引用商標1は、創始者である大隈重信がどんなところでも早稲田の学生と分かるようにと作らせたため、他の学生帽よりも頭上の天井部分のひし形が大きく角ばった角帽の特徴を表現したひし形図形の中に校章を表し、早稲田レッドと呼ばれるスクールカラーで着色したシンボルマークであり(甲4)、引用商標1の構成中に引用商標3が表示されている。
引用商標3に係る校章は、明治39年に原型が作られ、明治期から使用されており、戦前より多くの学生がかぶってきた角帽正面に表示されており、早稲田大学の広報活動でも使用されている(甲15の2、甲22)。
引用商標1も、平成19年3月に採択後、早稲田大学の広報活動で使用される種々の媒体に表示され使用されてきた(甲23の1〜甲23の7)。
早稲田大学に関心を持つ多くの者が同大学ウェブサイト及び入学案内において「WASEDA University」又は「早稲田大学」の文字ともに引用商標1を目にすることにより、引用商標1が早稲田大学の代表的出所標識であることを容易に認識できたことは間違いない。
さらに、引用商標1は、一般需要者が購読あるいは閲覧する全国紙や雑誌での広告でも表示されている(甲14の1〜甲14の5、甲14の6、甲14の8、甲24の1、甲24の2、甲25の1〜甲25の3)。
引用商標1及び引用商標3は、早稲田大学に関心を有する者に限らず、多くの需要者が目にし得る種々の広報媒体において表示されており、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、これらの商標は早稲田大学のシンボルマークとして我が国で広く知られていた。
被請求人は、早稲田大学とも「早稲田」なる文字とも何ら縁がないのであるから、被請求人が運営する学習塾の名称に「早稲田」の文字を使用する必然性は全くないにもかかわらず、早稲田大学の校章と同じ稲穂をモチーフとする図形の中央に「早稲田大学」の略称である「早稲田」の文字を大書した本件商標を第41類の役務について採択、使用している。
早稲田大学は、私学の雄であって難関校のひとつであり、早稲田大学への入学を目指す児童生徒は少なくなく、また、子弟を早稲田大学に入学させたいと希望する保護者は数知れない。被請求人が本件商標を表示してフランチャイズ事業として展開する学習塾は、このような児童生徒を含む小学生から高校生を対象とするものである(甲5の2)。
そのため、早稲田大学の校章の特徴である稲穂のモチーフの図形の中央に「早稲田」の文字が大書された本件商標に接する需要者は、容易に早稲田大学を連想、想起し、被請求人の学習塾が早稲田大学と同じ教育理念に基づき学習指導を行っているか、あるいは、主に早稲田大学卒業生が学習指導を行うものと誤解する可能性が高い。
したがって、被請求人による本件商標の採択、使用は、引用商標へのすり寄り行為であり、早稲田大学及びその建学の精神に基づいて教育活動を行う教育機関が形成するグループの一員であるかのように見せかけ、引用商標が有する顧客吸引力に便乗するものであることは明らかである。
このように、早稲田大学を中核とするグループの一員であるかのように見せかけることは、商標法第1条に掲げられている需要者の利益の保護に反し、また、引用商標の顧客吸引力に便乗してビジネスを行うことは商秩序に反するから、本件商標は、公序良俗を害するおそれがある商標にあたり、商標法第4条第1項第7号に該当する。
本件商標は、稲穂をモチーフとする図形の中央に早稲田大学の略称として広く知られている「早稲田」の文字を大きく表したものである。
他方、引用商標3は、明治時代から永きにわたり使用されている早稲田大学の稲穂をモチーフとした校章を表した図形からなる商標であるが、我が国の大学が使用する校章ないしシンボルマークで、ほかに稲穂をモチーフとするものは見当たらず、稲穂のモチーフは早稲田大学の校章の顕著な特徴であり、永年にわたり使用された結果、引用商標3は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の需要者に早稲田大学を象徴するシンボルマークとして広く認識されるに至っており、引用商標3に接する需要者はこれより容易に「早稲田大学」を認識できた。
本件商標と引用商標3を比較すると、両商標はともに、中央部分に漢字を大きく表した、稲穂をモチーフとする図形からなり、両商標は稲穂の印象を需要者に強く与えるため、両商標は稲穂の印象によって記憶され、両商標を離隔観察した場合には混同されるおそれが高い。
加えて、本件商標は、早稲田大学の校章の特徴として広く知られている稲穂図形と同じく稲穂をモチーフとする図形の中央に「早稲田大学」の著名な略称である「早稲田」の文字を表してなるため、本件商標からは容易に早稲田大学が連想、想起される。
一方、引用商標3は、早稲田大学の校章として広く知られている商標であるため、これより早稲田大学が容易に想起される。
したがって、本件商標がたとえ称呼において引用商標3に類似するものでないとしても、本件商標は、引用商標3と稲穂のモチーフを共通にする図形中央に漢字を表すという構成において類似し、早稲田大学の校章と同じ稲穂のモチーフの図形と「早稲田」の文字との結合により、早稲田大学を容易に連想、想起させ、役務の出所の混同を生じるおそれがあるから、本件商標は、需要者の間で広く認識されている引用商標3に類似する商標である。
また、本件指定役務中、「予備校・学習塾における教授,進学予備校又は学習塾における学習用試験又は進学用模擬試験の企画・運営又は開催,パーソナルコンピューターによる通信を用いて行う学習塾における教授,技芸・スポーツ又は知識の教授,インターネットを利用した文化・芸術・スポーツ・情報技術に関する講習会・教育改革・生涯学習・学位制高校に関する情報の提供,資格検定試験及び教育・学習講座に関する情報の提供,学習支援に関するセミナーの企画・運営又は開催,進学説明会の企画・運営・開催,セミナーの企画・運営又は開催」は、引用商標3の使用役務と同一又は類似する役務である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。
本件商標は、早稲田大学の校章と同じく稲穂をモチーフとする図形の中央に早稲田大学の略称として広く知られている「早稲田」の文字を大きく表したものである。
引用商標1は、早稲田レッドと称されるえび茶色で表されたひし形図形の中に、早稲田大学の校章として使用され、認知されている、稲穂をモチーフとする図形の中央に「大學」の文字を有する図形を表した商標であり、平成19年に早稲田シンボルとして採択されて以来、早稲田大学のウェブサイトのほか、広報活動において頻繁に使用され、本件商標の登録査定時には既に、早稲田大学の象徴として需要者に認知されていた。
引用商標2は、「早稲田大学」からなる商標であるが、早稲田大学の前身である東京専門学校の時代には既に、「早稲田」の語は東京専門学校を指称する語として使用され認知されており、本件商標の登録査定時には、「早稲田」の語は、「早稲田大学」の略称として使用され、広く認知されていた。
本件商標と引用商標1を比較すると、本件商標と引用商標1の要部、すなわち、早稲田大学の校章として広く知られている図形はともに、稲穂をモチーフとし、稲穂図形の中央に漢字が表されるという構成が共通しており、両商標は稲穂の印象を需要者に強く与える。
加えて、本件商標は、早稲田大学の校章の特徴として広く知られている稲穂図形と同じ稲穂モチーフの図形に「早稲田」の文字を表したものであるため、本件商標からは容易に早稲田大学が連想、想起される。
一方、引用商標1は、早稲田大学の校章として広く知られている図形を要部とする商標であり、各種広報活動で表示され使用されているから、引用商標1からも早稲田大学が容易に想起される。
したがって、本件商標が、たとえ称呼において引用商標1に類似するものでないとしても、本件商標と引用商標1は、稲穂のモチーフを共通にし、図形中央部に漢字を表すという構成の類似性に加え、ともに早稲田大学を容易に連想、想起させるから、本件商標は引用商標1に類似する商標である。
また、本件指定役務は全て、引用商標1の指定役務と同一又は類似である。
次に、本件商標と引用商標2を比較すると、本件商標は稲穂をモチーフとする図形の中央に「早稲田」と大きく表されており、「ワセダ」なる称呼を生じる。
また、「早稲田」の文字は、「早稲田大学」の略称として広く認識されていることから、本件商標からは早稲田大学が容易に連想され、「早稲田大学」の観念が生じ得る。
さらに、本件商標の構成が永年にわたって使用されている早稲田大学の校章と同じく稲穂をモチーフとする図形と大書された早稲田大学の略称「早稲田」の組合せであることは、本件商標から「早稲田大学」が容易に連想、観念されることを助長する。
一方、引用商標2は、「早稲田大学」を標準文字で表してなり、これより「早稲田大学」の観念に加えて「ワセダダイガク」の称呼が生じるほか、永きにわたり「早稲田大学」は「早稲田」と略称され、「ワセダ」と称呼されていること、また、教育分野においては、「大学」の文字は教育機関のひとつを表す語であるため、「早稲田」と「大学」の語の間は軽重の差が生じることから、引用商標2からは「ワセダ」の称呼も生じる。
したがって、本件商標と引用商標2は、「ワセダ」の称呼を共通にし、かつ、ともに「早稲田大学」を観念させるため、互いに類似する商標である。
また、本件商標の指定役務と引用商標2の指定役務は、同一又は類似する。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。
被請求人が本件商標を表示してフランチャイズ事業として展開する学習塾は、小学生から高校生を対象としており(甲5の2)、被請求人の教育サービスの需要者は、小学生から高校生である児童生徒及びその保護者である。
そもそも、早稲田大学は私学の雄であって難関校のひとつであるから、子弟の早稲田大学入学を望む保護者は少なくなく、また、「早稲田大学」なる名称及び商標(引用商標2)、「早稲田大学」の略称として我が国で認識されている「早稲田」並びに早稲田大学の象徴である校章及び校章を表した商標(引用商標1及び引用商標3)は、本件商標の登録出願時及び登録査定時においてすでに著名となっており、これらのブランド価値が極めて高いことは疑う余地がない。
請求人は、早稲田大学を中核として、「早稲田」の名の下に同じ教育理念に基づく教育を行う一つのグループを形成しているのである。
被請求人が提供する役務及びその需要者、並びに、請求人の上記状況に照らせば、本件商標を使用することは著名な引用商標へすり寄り、周知著名な引用商標にただ乗りし、これら引用商標の希釈化を招くものであって、本件商標は請求人の業務に係る役務と混同を生ずるおそれがある商標である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
本件商標の登録出願時及び登録査定時において、引用商標は日本国内における需要者の間に広く認識されている商標であった。
本件商標は、早稲田大学のシンボルとして広く知られ、「早稲田大学」を観念、想起させる引用商標3及び引用商標1の要部、すなわち、早稲田大学の校章として広く知られている図形と同様に、稲穂をモチーフとする図形の中央に漢字を表してなるものであり、早稲田大学の校章の特徴である稲穂の印象を引用商標1及び引用商標3と共通にする。
本件商標は、このように引用商標1及び引用商標3と同じモチーフ、構成を用いた図形の中央部分に、引用商標1及び引用商標3に表された「大學」の文字の代わりに早稲田大学の略称として周知著名である「早稲田」の文字を表しているため、本件商標からは容易に早稲田大学が連想、想起される。
特に、本件商標と引用商標3を離隔観察した場合、両商標はともに稲穂の印象によって記憶されるため、誤認混同されるおそれが高い。
よって、本件商標は、引用商標1及び引用商標3と稲穂のモチーフを共通にし、図形中央部に漠字を表すという構成の類似性に加え、ともに早稲田大学を容易に連想、想起させるから、本件商標は引用商標1及び引用商標3に類似する商標である。
また、本件商標は、図形の中央に大書された「早稲田大学」の略称「早稲田」の文字より「ワセダ」なる称呼を生じ、「早稲田大学」なる観念を生じるから、同じく「早稲田大学」の観念を有し、「ワセダ」とも称呼され得る引用商標2と称呼及び観念において同一である。
よって、本件商標と引用商標2は、「ワセダ」の称呼を共通にし、かつ、ともに「早稲田大学」を観念させるため、互いに類似する商標である。
本件商標は、早稲田大学とも「早稲田」の文字とも何ら縁のない者によって採択、使用される商標であり、その構成は、早稲田大学の校章を表した引用商標1及び引用商標3の特徴である稲穂のモチーフを用いた図形の中央に「早稲田大学」の略称である「早稲田」の文字を大書したものである。
本件商標中の「早稲田」の文字それ自体が、「早稲田大学」を容易に想起させる上に、当該文字が早稲田大学の校章と同じ稲穂をモチーフとする図形の中央部に表されているため、本件商標からは「早稲田大学」以外の意味合いを把握することができないほどである。
このように、本件商標は、その登録出願時及び登録査定時において、既に我が国における需要者の間に広く認識されていた引用商標の出所表示機能を希釈化させ、また、引用商標に化体する、早稲田大学の長い歴史と建学の精神及び創設者である大隈重信の教育理念に基づく名声を毀損させるという不正の目的をもって使用されるものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第5号証を提出した。
(1)本件商標における「早稲田」の文字部分について
ア 原審における「早稲田」の判断について
本件商標における文字部分の「早稲田」は、本件商標の指定役務との関係においても地名として認識されるのであって、これから直ちに「学校法人早稲田大学」が認識されるものではない。仮に「早稲田」が「学校法人早稲田大学」の略称として認識されたとしても、「大学」の語句を伴わない「早稲田」は、本件商標の指定役務との関係においても著名とはいえない。
審査段階において、商標法第4条第1項第8号の拒絶理由に対し、「(ア)一般的に『早稲田』の語句は、地域の名称として理解されているものであり、本願指定役務との関係においても『学校法人早稲田大学』の著名な略称と認識されているものではない。(イ)『早稲田』を含む多くの登録例を挙げた上で、『早稲田』の語句を含む商標の登録の事実は、『早稲田』の語句が『学校法人早稲田大学』の著名な略称でない事実を示しており、『早稲田』の語句が『学校法人早稲田大学』の著名な略称でない。(ウ)本件商標は長年の使用実績が存在し、需要者においても『学校法人早稲田大学』とは区別して認識されていることから、『学校法人早稲田大学』とは出所の混同が生じることはない。」旨主張し、登録を受けた。
本件商標における「早稲田」の文字は、「学校における知識の教授」の役務においては、その記事の内容との関係から「早稲田大学」の略称であると認識される場合もあり得るであろうが、到底、著名であるとまではいえない。
イ 「早稲田」の文字部分は、地名として認識されることについて
「早稲田」の語句は、「最初に刈り取りが行われる田、最初に田植えが行われる田を意味する。転じて、早く収穫する品種の稲が植えられた田のことをいうこともある。早田と書くこともあり、この場合、『はやた』と読むこともある。」の意味である(乙1)。
そして、この意味に加えて「元々は普通名詞だが、転じて、地名となったところもある。地名のとおり、元々田が多かった場所が多い。わずかだが人名としても存在する。」ものとなっているのも事実である。
さらに、請求人が運営する「早稲田大学」の学校名についても「早稲田の地名」に由来している事は明白である(乙2)。
以上のとおり、「早稲田」の文字が、実際に地名として使用されており、早稲田大学の名称も、早稲田の地名に基づくものであるから、当該「早稲田」が地名として認識されないはずはない。
確かに、「学校における知識の教授」の役務において、「早稲田」又は「WASEDA」の語は、これ等の語句が使用されている記事との関係において、「早稲田大学」のことであると理解されることはあると認める。
しかしながら、これは「学校における知識の教授」に限っていえることであり、学校以外の知識の教授においてまで、「早稲田」又は「WASEDA」が「早稲田大学」の略称として認識されているものではない。
このことは、「早稲田」又は「WASEDA」の語句を含む商標が、「技芸・スポーツ又は知識の教授」を指定役務として多数登録を受けていることからも明らかである。
何よりも、本件商標は、単に「早稲田」だけで識別されるものではなく、前記稲穂を環状に表示した稲穂リングの図形(以下「稲穂リング図形」という。)と共に認識されるものである。
そして、稲穂リング図形は、早稲田大学が使用している校章とは明らかに相違するのであるから、本件商標に接した取引者・需要者が、「早稲田」の文字部分を「早稲田大学」の略称として認識することもない。
この図形要素を伴った本件商標の全体を考慮すれば、当該「早稲田」の文字は、「最初に刈り取りが行われる田、最初に田植えが行われる田」「早く収穫する品種の稲が植えられた田」、あるいは「地名」として認識されるのが普通であり、早稲田大学の校章とは明らかに異なる稲穂リング図形を無視した上で、「早稲田」の文字部分だけから「早稲田大学」又は「学校法人早稲田大学」と認識されることは取引実情に沿わないといわざるを得ない。
ウ 「早稲田」の語が、周知・著名商標ではないことについて
「早稲田」の語句は、本来「最初に刈り取りが行われる田、最初に田植えが行われる田」「早く収穫する品種の稲が植えられた田」、あるいは「地名」として認識されるものである。
一方で、「学校における知識の教授」に限っていえば、「早稲田」又は「WASEDA」の語句は、「早稲田大学」の略称として使用されているのも事実である。
しかしながら、これは大学に関する記事に限って、記事やタイトルのスペースやデザインとの関係から「早稲田」又は「WASEDA」が略称として使用されているものであり、しかもそのような略称が使用される場合もあるという程度にすぎない。すなわち、「早稲田大学」を指称するために使用されているのは、そのほとんどが「早稲田大学」、「WASEDA University」又は「WASEDA Univ」であり、「早稲田」又は「WASEDA」が単独で使用されているのは稀である。
このような状況下において、「早稲田」又は「WASEDA」を周知又は著名な商標と認めることはできず、せいぜい「早稲田大学」の略称として使用されることもある程度の商標といわざるを得ない。
仮に、「早稲田」又は「WASEDA」の語が、「早稲田大学」の略称として周知又は著名であるとするならば、少なくとも「技芸・スポーツ又は知識の教授」において、これらの語句を含む商標は登録が受けられないはずである。
エ 本件商標における「早稲田」の選択理由について
本件商標は、昭和59年9月に設立された株式会社早稲田教育ゼミナールによって、当該法人の役務を示すロゴとして使用され始めたものである(乙3)。
この乙第3号証については、納品書などの日付を示す書類は存在しないが、実際に平成10年(1998年)頃から使用していたパンフレットであり、この中に、当該株式会社早稲田教育ゼミナールの役務を表示するものとして、本件商標が使用されている。
そして、この株式会社早稲田教育ゼミナールは、「東京都新宿区西新宿7−10−20 早稲田S・Tビル」を本社住所として「早稲田教育ゼミナール」を運営していたものであり、当該本社住所にちなんで「早稲田」の文字を使用したのは明らかであり、被請求人は、株式会社早稲田教育ゼミナールから、本件指定役務に係る事業を譲り受けたものである(乙4)。
本件商標における「早稲田」の文字は、前身の株式会社早稲田教育ゼミナールが、その所在地にちなんで選択したものであり、その事業を譲り受けた被請求人は、当然に本件商標を使用しているにすぎない。
オ 小括
本件商標は、稲穂リング図形の中に、「早稲田」の文字を配置してなる商標であり、単に「早稲田」の文字部分だけで構成されるものではない。
そして、仮に「早稲田」の文字部分が看取されたとしても、この語句は本来「最初に刈り取りが行われる田、最初に田植えが行われる田」「早く収穫する品種の稲が植えられた田」、あるいは「地名」として認識されるものであり、「早稲田大学」だけを想起させるような周知、著名な商標ではない。
仮に、「早稲田」が「早稲田大学」の略称として認識されたとしても、本件商標は単に「早稲田」だけで識別されるものではなく、稲穂リング図形と共に認識されるものである。そして、当該稲穂リング図形は、早稲田大学が使用している校章とは明らかに相違するから、本件商標に接した取引者・需要者が、「早稲田」の文字部分を「早稲田大学」の略称として認識することもない。
早稲田大学の校章とは明らかに異なる稲穂リング図形を無視した上で、「早稲田」の文字部分だけから「早稲田大学」又は「学校法人早稲田大学」と認識されることは取引実情に沿わない。
(2)本件商標における稲穂リング図形部分について
本件商標は、稲穂を環状に表示した稲穂リング図形の中に、「早稲田」の文字を配置してなる商標である。そして、この稲穂リング図形は、早稲田の意味に基づいて、これを象徴付けるように創造した図形であり、何ら早稲田大学の校章に関連するものではない。
実際に、「稲」を含む学校名の校章として、稲穂を図案化した校章はいくつも存在している(乙5)。
そして、稲穂をモチーフとする校章は、「早稲田」の語は、本来「最初に刈り取りが行われる田、最初に田植えが行われる田」「早く収穫する品種の稲が植えられた田」の意味であることから、これを象徴的に図案化したものと考えられる。
請求人は、本件商標における稲穂リング図形が、早稲田大学の校章に類似する旨を主張しているが、共通しているのは稲穂をモチーフにしている点だけであり、その構図、全体形状及び印象は明らかに相違している。
本件商標における稲穂リング図形は、葉・茎と穂を交互に配置した円形であり、これに対して早稲田大学の校章は、下側に葉・茎を配置し、その上に穂をまとめて配置した全体略半円形状となっている。両者は、その輪郭や構図において明らかに相違しており、混同されるおそれはない。
付言すれば、校章の由来として「明治39年に『弧形の稲葉上に大学の二字を置く』という今日の校章の原型が作られたが、字体、稲穂の数等々が不統一であったため、創立100周年を機に現在の形に統一された。稲穂の数は左右とも10個。」と記載されている(甲22)。すなわち、早稲田大学の校章は、「弧形の稲葉上に大学の二字を置く」のが原型であって、稲穂の図形と「大學」の文字が不可分一体であって、しかも当該「大學」の文字は、「弧形の稲葉上」に置かれるものとなっていることから、当該稲穂の図形は半円形状にならざるを得ない。
さらに、早稲田大学の校章は、稲穂を中央下側で束ねたリボンを伴っており、これに対して、本件商標は、このようなリボンを伴っていない。そのため、本件商標の稲穂は、リング状の枠として認識されるものとなっているが、早稲田大学の校章を構成する稲穂は、本件商標における稲穂のような枠としての印象を看取させるものではない。
よって、本件商標は、その図形部分においても、何ら早稲田大学の校章と共通するものではなく、両者は何ら類似するものではない。
(3)本件商標について
本来、商標はその全体で判断されるべきものである。
本件商標についていえば、前記稲穂リングの中に「早稲田」の文字を表記してなり、特に「早稲田」における「早」の文字部分は、内側の稲穂の先端同士の間に配置している。このため、当該「早」の部分は、稲穂リングに溶け込んでしまい、「稲田」の文字部分がより明確に看取されるように構成している。
これに対して、請求人が示した引用商標1は、学帽を表したとする菱形の下側に早稲田大学の校章を表示したものであり、本件商標と共通するのは稲穂をモチーフにしている点だけである。
そして、「稲」を含む学校において、稲穂をモチーフにした校章が多数使用されている事実からも明らかなように、「稲穂」のモチーフが共通することだけをもって、両者が類似するとの主張は、相当に無理がある。
本件商標は、外観、称呼、観念のいずれの観点においても、引用商標1と類似しない。
また、請求人が示した引用商標2は「早稲田大学」であり、本件商標とは何ら関連するものではない。
本件商標は「早稲田」の文字を含んでいるが、これは地名などでもあることから、特定の大学を意味する商標「早稲田大学」に類似するものではない。
特に、本件商標は、単に「早稲田」の文字だけで構成しているのではなく、稲穂リング図形と不可分一体に認識されるものである。
そして、この稲穂リング図形は、何ら早稲田大学の校章と類似するものではなく、早稲田大学を想起させるものではないことから、本件商標は、外観、称呼、観念のいずれの観点においても、引用商標2と類似しない。
引用商標3は、早稲田大学の校章を表した図形であり、「弧形の稲葉上に大学の二字を置く」ものとして構成されている。これに対して、本件商標は、稲穂リング図形内に「早稲田」を表記したものであり、本件商標と引用商標3とでは、文字部分において「早稲田」と「大學」の違いがあり、図形部分においても「稲穂リング」と「弧形の稲葉」の違いがある。
両者で共通するのは、稲穂をモチーフにしている点だけであり、これだけでは両者を類似するといい得ない。
よって、本件商標は、外観、称呼、観念のいずれの観点においても、引用商標3と類似しない。
(1)商標法第4条第1項第7号について
そもそも商標の選択に際しては、選択した語句と商標権者との関連性は必要ではない。
そして、「早稲田」は本来「最初に刈り取りが行われる田、最初に田植えが行われる田」「早く収穫する品種の稲が植えられた田」、あるいは「地名」として認識されているのであるから、誰でも選択し得る語句である。
本件商標は、「東京都新宿区西新宿7−10−20 早稲田S・Tビル」を本社住所として「早稲田教育ゼミナール」を運営していた株式会社早稲田教育ゼミナールから、事業譲渡を受けて使用している商標であり、当該商標の選択において、何ら公序良俗に反するものではない。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
(2)商標法第4条第1項第10号について
本件商標と引用商標3とで共通するのは、稲穂をモチーフとしている点だけである。
そして、稲穂をモチーフとした校章は、「稲」の文字を含む学校等においては頻繁に使用されているのである(乙5)から、稲穂をモチーフとするだけで早稲田大学と出所の混同が生じることはあり得ない。
そして、文字部分についても、「早稲田」と「大學」とで相違しており、図形自体も何ら類似するものではないから、本件商標と引用商標3とでは、外観、称呼、観念のいずれの点においても何ら類似するものではない。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しない。
(3)商標法第4条第1項第11号について
本件商標と、引用商標1とは、単に稲穂をモチーフとしている点で共通するだけであり、図形部分の構成や印象は明らかに相違し、かつ、文字部分も「早稲田」と「大學」で明確に相違するから、両者が類似することはあり得ない。
本件商標は、「早稲田」の文字と、早稲田大学の校章とは非類似の稲穂リング図形とを不可分一体に組み合わせた商標であり、「ワセダ」の称呼だけで特定されるものではない。本件商標が引用商標1と共通するのは、稲穂をモチーフとしている点だけであり、これをもって両商標が類似するとの主張は、著しく妥当性を欠く。
引用商標2は、「早稲田大学」(ワセダダイガク)であり、その称呼の特定に際して略称が考慮されるものではない。
加えて、商標は全体で判断されるのであるから、指定商品及び指定役務との関係で各語に軽重があるとしても、その字句どおりに「ワセダダイガク」の称呼が生じるものであり、当該称呼は7音節であって、冗長ともいえないのであるから、「ワセダ」の称呼が生じることはない。
よって、本件商標と引用商標1又は引用商標2とでは、外観、称呼、観念のいずれの点においても何ら類似するものではないから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
(4)商標法第4条第1項第15号について
本件商標に含まれる稲穂リング図形は、早稲田大学の校章とは明らかに異なっており、さらに、当該図形と組み合わせている文字も「早稲田」と「大學」で相違している。
早稲田大学は、慶応大学と共に私学の雄として知られており、その略称として「早稲田」又は「WASEDA」も使用する場合があることは認める。
しかし、これらの略称は、記事の内容やタイトル等において、デザインや文字数の関係で使用する場合がある程度の名称であって、到底周知商標といい得るものではない。
そして、本件商標の選択は、前身の株式会社早稲田教育ゼミナールが、その所在地にちなんで選択したものであり、その事業を譲り受けた被請求人は、当然に本件商標を使用しているにすぎないのであるから、早稲田大学へのすり寄り等ではない。
そもそも、本件商標と引用商標とでは、外観、称呼、観念のいずれの点においても何ら類似するものではないから、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(5)商標法第4条第1項第19号について
本件商標と引用商標1及び引用商標3は、稲穂のモチーフが共通なだけで、その他の構図や構成文字、及びその全体印象が明確に違うのであるから、類似するものではない。
加えて、引用商標2から生じる称呼は「ワセダダイガク」であって、「ワセダ」ではないから、本件商標に類似することはない。
そして、本件商標は、前身の株式会社早稲田教育ゼミナールが、その所在地にちなんで選択したものであり、その事業を譲り受けた被請求人は、当然に本件商標を使用しているにすぎないのであるから、その権利の取得において何ら不正の意図は存在しない。
被請求人は、宮城県、山形県、福島県、秋田県及び青森県において、「早稲田教育ゼミナール」を開設し、正当に学習塾を運営しているのであるから、これが不正の目的となり得るものではない。
請求人が本件審判を請求するにつき、利害関係について争いがないから、本案について判断する。
(1)引用商標の周知性について
ア 請求人の提出した証拠及びその主張によれば、以下のとおりである。
(ア)請求人は、我が国を代表する大学のひとつである早稲田大学に加えて、付属校である早稲田大学高等学院、同中学部及び早稲田大学本庄高等学院並びに早稲田大学芸術学校を運営する学校法人である(甲6の1、甲6の2)。
早稲田大学は、明治15年(1882年)10月21日に創設された「東京専門学校」を前身とし、明治25年(1892年)頃には、「早稲田学校」なる別名でも呼ばれるようになり、明治35年(1902年)9月2日付で「早稲田大学」に名称を変更した後、昭和24年(1949年)4月21日付で新制早稲田大学となり、創立140年弱の歴史を有する(甲6の3、甲6の4)。
(イ)引用商標2は、「早稲田大学」の文字を標準文字で表してなるところ、「早稲田大学」の前身である「東京専門学校」時代から「早稲田大学」への改称(明治35年)後も、早稲田大学及びその学生らによる組織や出版物の名称に「早稲田」の文字が使用されている(甲8〜甲12)。
また、早稲田大学の広告において「早稲田」の文字が「早稲田大学」の略称として使用されている(甲16〜甲21)。
(ウ)引用商標1は、平成19年3月に採択された早稲田大学のシンボルマークであり(甲4)、同大学ウェブサイト及び入学案内に表示されると共に、全国紙や雑誌での広告において表示されている(甲13〜甲15、甲23〜甲26)。
(エ)引用商標3は、早稲田大学の校章を表した図形であるところ、明治39年に原型が作られ、明治期から使用されており、戦前より多くの学生がかぶってきた角帽正面に表示されている。
イ 判断
(ア)引用商標1は、平成19年3月に採択された早稲田大学のシンボルマークとして、同大学ウェブサイト及び入学案内に表示されると共に、全国紙や雑誌での広告において表示されていることがうかがえる。
しかしながら、請求人の提出したこれらの証拠は、主に早稲田大学への進学を希望する者や受験に関心を有する者が目にする限定的なものであることに加え、引用商標1がシンボルマークとして採択されてからの10年程度の期間において、具体的な周知活動を見いだせないことからすれば、引用商標1が、請求人の業務に係る役務を表示するものとして、需要者、取引者の間に広く認識されているものと認めることはできない。
(イ)引用商標2は、「早稲田大学」の文字よりなるところ、早稲田大学は、創立140年弱の歴史を有する我が国の著名な大学の名称であり、早稲田大学高等学院、同中学部及び早稲田大学本庄高等学院等の付属校を有することも広く知られているといえるから、引用商標2は、教育に関連する役務において、周知著名性を有しているというのが相当である。
また、「早稲田大学」に関連する広告、出版物等において、「早稲田大学」を「早稲田」の略称をもって表記されることもあり、この点に関しては、被請求人も、「学校における知識の教授」の役務において、「早稲田」又は「WASEDA」の語は、これ等の語句が使用されている記事との関係において「早稲田大学」のことであると理解されることはあると認めている。
(ウ)引用商標3は、早稲田大学の校章を表した図形であり、明治期から使用され、角帽正面に表示されてきたことがうかがえるものの、請求人の提出した証拠からは、それ以外に、引用商標3が請求人の業務に係る役務を表示するものとして、使用されてきた状況を把握できる証拠はわずかであり(甲22)、また、引用商標3が、請求人の業務に係る役務を表示するものとして、需要者、取引者の間に広く認識されていることを確認することのできる証拠は見いだせないから、引用商標3が、請求人の業務に係る役務を表示するものとして、需要者、取引者の間に広く認識されているものと認めることはできない。
(2)本件商標と引用商標の類似性について
ア 本件商標と引用商標1及び引用商標3との類似性について
本件商標は、別掲1のとおり、稲穂とおぼしき図形を環状に表し、その中央に「早稲田」の文字を縦書きした構成よりなるところ、これと同様に、稲穂をモチーフとした図を環状に表し、その中央に漢字を配した構成からなる標章が校章として採択されていることも少なくないという実情(乙5)にかんがみれば、本件商標は、校章を表した一類型と認識されるというのが相当である。
引用商標3は、別掲3のとおりの構成よりなるところ、本件商標とは、その構成態様が明らかに異なるものであるから、類似性の程度は低いものである。
また、引用商標1は、その構成中に、引用商標3に酷似する図形を有するものであるから、引用商標1の全体としても、また、引用商標3に酷似する図形部分をみても、いずれにおいても、本件商標とは、その構成態様が明らかに異なるものであるから、類似性の程度は低いものである。
イ 本件商標と引用商標2の類似性について
本件商標は、その構成中に「早稲田」の文字を有するものであるから、「早稲田大学」の文字よりなる引用商標2とは、「早稲田」の文字が共通し、ある程度の類似性を有するものである。
(3)本件商標の指定役務と請求人の業務に係る役務との関連性について
本件商標の指定役務中には、「技芸・スポーツ又は知識の教授」が含まれており、当該役務中には、請求人の業務に係る「大学における知識の教授」が含まれるものである。
また、その他にも、本件商標の指定役務中には、「予備校・学習塾における教授」等、教育に関する役務が含まれている。
そうすると、「大学における知識の教授」や教育に関する役務が含まれる本件商標の指定役務と請求人の業務に係る「大学における知識の教授」とは、同一又は類似の関係にあり、関連性の高い役務である。
(4)需要者の共通性について
上記(3)のとおり、本件商標の指定役務と請求人の業務に係る役務とは、関連性の高い役務であるから、需要者の範囲を共通にすることも多いものである。
(5)出所の混同のおそれについて
ア 本件商標は、上記(2)アのとおり、校章を表した一類型とみるのが相当であり、一般に、校章に表された漢字は、これを校章とする学校の名称若しくはその一部が採択されることも少なくないものである(甲27、乙5)。
イ 本件商標構成中の「早稲田」の文字は、その指定役務(教育関連の役務)との関係において、「早稲田大学」の略称として使用されることも少なくないものであり、この点に関して、被請求人も、「学校における知識の教授」の役務において、「早稲田」又は「WASEDA」の語は、これ等の語句が使用されている記事との関係において「早稲田大学」のことであると理解されることはあると認めている。
ウ 一方で、早稲田大学の校章(引用商標3)は、請求人の提出した証拠によっては、その使用期間は長いものであるとしても、これが早稲田大学の校章として、早稲田大学の関係者以外の者に広く知られていることを裏付けるような客観的な証拠は見いだせない。
エ そうすると、早稲田大学の校章が広く一般に知られているとはいい難い状況において、校章の一類型として認識される構成態様に「早稲田大学」の略称として使用されることの多い「早稲田」の文字を顕著に表してなる本件商標は、早稲田大学又は同大学に関連する学校の校章であるかのように認識され、これに接する需要者等は、本件商標から「早稲田大学」を連想、想起するというのが相当である。
(6)小括
上記(1)ないし(5)を総合勘案して判断するに、本件商標権者が、本件商標をその指定役務に使用した場合、これに接する需要者、取引者は、「早稲田大学」を連想又は想起し、その役務が他人(請求人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その役務の出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(1)本件商標と引用商標1は、上記1(2)アのとおり、その構成態様が明らかに異なるものであるから、互いに相紛れるおそれのない非類似の商標である。
(2)本件商標は、上記1(2)アのとおり、校章の一類型と認識されるというのが相当であることからすれば、構成全体をもって認識され、把握されるというのが相当であり、一方、引用商標2は、「早稲田大学」の文字を標準文字で表してなるものである。
本件商標と引用商標2を比較すると、ともに「早稲田」の文字を構成中に含んでいるとしても、全体の構成態様が明らかに異なるものであるから、互いに相紛れるおそれのない非類似の商標である。
(3)上記のとおり、本件商標と引用商標1及び引用商標2とは、互いに相紛れるおそれのない非類似の商標であるから、その指定役務が同一又は類似するとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
引用商標3は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、前記1(1)イ(ウ)のとおり、請求人の業務に係る役務を表示するものとして、需要者、取引者の間に広く認識されているものと認めることはできないものであり、かつ、前記1(2)アのとおり、本件商標とは、その構成態様が明らかに異なるものであるから、両者は、明らかに異なる非類似の商標である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しない。
本号は、「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)」と規定されている。
そして、引用商標は、上記2及び3のとおり、本件商標とは互いに相紛れるおそれのない非類似の商標であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第19号を適用するための要件を欠くものといわざるを得ない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号所定の他の要件を判断するまでもなく、同号に該当しない。
請求人は、早稲田大学及び「早稲田」の文字とは何ら縁がない無関係な被請求人が、早稲田大学の校章と同じ稲穂をモチーフとする図形の中央に「早稲田大学」の略称である「早稲田」の文字を表した本件商標を採択、使用する行為は、引用商標が有する顧客吸引力に便乗するものであるから、公序良俗を害するおそれがある旨主張している。
しかしながら、上記のとおり、引用商標1及び引用商標3は、請求人の業務に係る役務を表示するものとして、需要者、取引者の間に広く認識されているものと認めることはできないものであって、たとえ、引用商標2の「早稲田大学」が、教育に関連する役務において、周知著名性を有し、顧客吸引力を有するものであるとしても、何より、本件商標と引用商標は、互いに相紛れるおそれのない非類似の商標であるから、本件商標は、引用商標が有する顧客吸引力に便乗するものであるとはいい難い。
また、本件商標権者が、本件商標を不正の目的をもって出願したと認め得るような証拠の提出はないから、本件商標は、引用商標の周知性に化体した信用、名声及び顧客吸引力へのただ乗りをするものであるということはできない。
さらに、請求人の主張及び同人の提出に係る甲各号証を総合してみても、本件商標の登録出願の経緯に社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底認容し得ないような場合に該当すると認めるに足りる具体的事実を見いだすこともできない。
加えて、本件商標を、その指定役務について使用することが、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するということもできず、他の法律によってその使用が禁止されているものでもなく、本件商標の構成自体が、非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような構成態様でもない。
その他、本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標と認めるに足りる証拠の提出はない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同第10号、同第19号及び同第7号に該当しないとしても、同第15号に該当するものであり、その登録は、同条第1項の規定に違反してされたものであるから、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効とすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
【別掲1】
本件商標
【別掲2】
引用商標1(色彩については、原本参照)
【別掲3】
引用商標3
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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