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Trademark Appeal Case

著名商標と不正目的

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号無効2016−890011(T2016−890011/J3)
審判種別無効
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

本件審判の請求は,成り立たない。
審判費用は,請求人の負担とする。

理由テキスト

第1 本件商標

本件登録第5040036号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1のとおりの構成からなり,平成17年6月21日に登録出願,同19年3月6日に登録審決,第25類「Tシャツ,帽子」を指定商品として,同年4月13日に設定登録されたものである。

第2 引用商標

請求人が,被服,帽子等の商品に使用しているとして引用する登録第3324304号商標(以下「引用商標」という。)は,別掲2のとおりの構成からなり,平成6年12月20日に登録出願,第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として,同9年6月20日に設定登録されたものであり,該商標権は,2回にわたり商標権の存続期間の更新登録がされ,現に有効に存続しているものである。

第3 請求人の主張

請求人は,本件商標についての登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,審判請求書及び弁駁書において,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第30号証(枝番号を含む。)を提出した。

1 請求の理由

本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当し,同法第46条第1項第1号により,無効にすべきものである。

(1)引用商標の周知著名性

請求人であり,引用商標の商標権者であるドイツ連邦共和国のプーマ エスイー(以下「プーマ社」という。)は,スポーツシューズ,被服,バッグ等を世界的に製造販売している多国籍企業である。1920年(大正9年)にアディ・ダスラー及びルドルフ・ダスラーの兄弟が靴を販売する「ダスラー兄弟商会」を設立したのが始まりであり,その後,兄弟が1948年(昭和23年)にそれぞれ独立し,兄ルドルフがプーマ社を設立した。

引用商標の由来は,「俊敏に獲物を追いつめ,必ずしとめるプーマのイメージ」をそのまま表現し,ブランドマークとしたものである。(なお,プーマ(PUmA)は,「ピューマ」ともいい,ヒョウくらいの大きさのネコ科の哺乳類である。)。

引用商標は,遅くとも1980年代から我が国でブランドの出発点ともいえるサッカーシューズを始め,各種スポーツシューズ,被服,バッグ等幅広い商品に使用された結果,本件商標の登録出願時である平成20年頃までには,請求人に係る商品を表示するものとして我が国のみならず世界的に周知かつ著名になっていた。

(2)被請求人における不正の目的

ア 被請求人における本件商標の使用態様

本件商標は,上記のとおり,世界的に著名な商標である引用商標が持つ顧客吸引力にただ乗りし,その出所表示機能を希釈化させ,あるいは,その名声を毀損させるなど,不正の目的をもって出願されたものである。

本件商標は,横長の長方形の枠の中一杯にはめ込まれたような横書きの「SHI−SA」の欧文字(各文字は角部分に丸みを持たせた縦長の書体で表されている。),当該欧文字の右肩上方に配した,右側から当該欧文字部分に向かって跳びかかるかのように左方向を向いた四つ足動物を側面からシルエット風に描いた図形(以下「本件商標の動物図形」という場合がある。),「SHI−SA」の欧文字の下方に配した,上段の横書きの「OKINAWAN ORIGINAL」の欧文字及び下段の横書きの「GUARDIAN SHISHI−DOG」の欧文字の二段構成からなるデザイン文字から構成される。

そして,被請求人は,自身が経営する観光土産品等の販売等を行う有限会社沖縄総合貿易を通じて,半袖Tシャツ,タオル及びトランクスを販売しており,当該Tシャツには,別掲3ないし別掲7に示すとおりに構成された標章(以下,それぞれ「使用例1標章ないし使用例5標章」といい,まとめて「使用例標章」という。)が付されている(甲6〜甲10)。

イ 使用例標章と引用商標との類似性

本件商標は,「SHI−SA」の欧文字の下方に,上段の横書きの「OKINAWAN ORIGINAL」の欧文字及び下段の横書きの「GUARDIAN SHISHI−DOG」の欧文字の二段構成からなるデザイン文字が配置されているところ,使用例標章は,かかるデザイン文字を取り除くことによって,横長の長方形の枠の中一杯にはめ込まれたような横書きの「SHI−SA」のデザイン文字(各文字は角部分に丸みを持たせた縦長の書体で表されている。),右側から当該欧文字部分に向かって跳びかかるかのように,左方向を向いた四つ足動物をシルエット風に描き,「SHI−SA」の欧文字の右側かつ四つ足動物の足元に配した円内に,アルファベットの「C」を記した図形のみから構成されている。

そうすると,使用例標章と引用商標とは,横長の長方形の枠の中一杯にはめ込まれたような欧文字,右側から当該欧文字に向かって跳びかかるかのように左方向を向いた四つ足動物を描いた図形,当該欧文字の右側かつ当該四つ足動物の図形の足下に配した円内にアルファベットを記した図形から構成されるという点において,その構成態様が共通し,非常に紛らわしい外観を有している。

本件商標の指定商品が「Tシャツ,帽子」等の衣料品であり,被請求人が経営する有限会社沖縄総合貿易は衣料品を取り扱う小売業者であることに鑑みれば,被請求人は,本件商標を出願した当時,衣料品関連の事情に精通していたことは明らかである。

そうであれば,被請求人は,本件商標の出願当時の2011年(平成23年),請求人の引用商標の著名性を知り,あるいは容易に知り得たことはいうまでもない。

そして,引用商標の中央下寄りにある,横長の長方形の枠の中一杯にはめ込まれたような特異な「PUmA」のロゴ(各文字は,縦線を太く,横線を細く,かつ,角部分に丸みを持たせた縦長の書体で表されている。)からなる欧文字と,その右方の跳躍する動物のシルエットの図形との組み合わせ及び配置は,請求人の商標以外の商標においてみられるものではないことから,引用商標は,極めて独創的なものといえる。

そのため,一見して引用商標の独創的な構成態様を想起させる本件商標及びそれを変容させた使用例標章が,引用商標と無関係に採択されたとは到底考えることができない。

また,「SHI−SA」とは,沖縄の獅子像であるシーサーを意味すると解されるところ,このシーサーとは一般に「沖縄で,屋根瓦などにとりつける素朴な焼物の唐獅子像」(甲14)をいい,巨大な頭部に,大きな目や開いた口が配され,全体に胴体が短く太いずんぐりとした体型をした,鎮座する守り神として描かれるのが通常であって,その姿勢としては,上体を起こした状態で前足をついたものが多く(甲15),一般人は,かかる特徴をもってシーサーとして認識している。

それにもかかわらず,本件商標及び使用例標章においては,頭部が比較的小さく,目が描かれず,口も閉じており,胴体が長くて細い精悍な体型をした,前足を上げて跳躍しているシーサーを横から描いているところ,本件商標及び使用例標章におけるシーサーの図形では,前述のようなシーサーの本来的特徴はほとんど看取されない。

むしろ,本件商標及び使用例標章におけるシーサーの図形は,引用商標における「俊敏に獲物を追いつめ,必ずしとめるプーマのイメージ」を表現したプーマの図形の特徴が多く看取されるのであって,本件商標及び使用例標章は,引用商標に近づけるためにシーサー本来の特徴から逸脱した描き方が用いられている。

このように,被請求人は,意図的に著名な引用商標の特徴を一見してわかる程度に残したまま外観を変え,本件商標及び使用例標章に接する需要者に引用商標を連想・想起させ,著名な引用商標の持つ顧客吸引力にただ乗り(いわゆるフリーライド)する不正な目的で本件商標及びそれを変容させた使用例標章を採択したものといわざるを得ない。

(3)公の秩序を害するおそれ

以上のとおり,本件商標は,被請求人の不正な目的により,使用例標章のように,引用商標を強く想起させる態様にて使用されている。

この点,実際に,使用例標章を始めとする本件商標に類似する標章が付された被請求人の商品は,需要者から又は需要者に対して,「プーマ→シーサー」,「プーマじゃなくてシーサ」(甲16)等と説明されているところ,使用例標章に接した需要者が,引用商標を直ちに想起していることは明らかであり,ひいては,使用例標章が引用商標を想起させることが,被請求人の商品の購入動機となっていることがうかがえる。

このように,著名な商標に化体した信用・名声及び顧客吸引力に便乗し,不当な利益を得る等の不正な目的で登録されたいわゆるパロディ商標については,私的利害関係を超えて,公正な競争を図り,取引秩序を維持することを目的とする競争秩序を維持する側面を有する商標法上の公序が問題になり得ることから,かかるパロディ商標には厳格な態度をもって臨むべきとするのが今や国際標準であるところ,かかる国際標準に逆行して,本件商標のような世界的に著名な商標に便乗すべく登録されたパロディ商標の使用を認めることは,我が国の国際的な信頼をも損ないかねないものである。

よって,本件商標は,登録出願の経緯に社会的相当性を欠き,これを使用することは,社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反するのみならず,我が国の国際的な信頼を損ない,ひいては国際信義に反することにもなるので,商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものというべきである。

2 答弁に対する弁駁

(1)はじめに

被請求人の審判事件答弁書における主張は,知的財産高等裁判所平成21年2月10日判決(平成20年(行ケ)第10311号)(以下「平成21年判決」という。)及び知的財産高等裁判所平成22年7月12日判決(平成21年(行ケ)第10404号)(以下「平成22年判決」といい,平成21年判決と併せて,「別件判決」という。)の存在を理由に,本件商標に関する商標法第4条第1項第7号違反を否定するものである。

しかしながら,別件判決は,本件商標について,商標法第4条第1項第7号該当性について判断したものではなく,専ら,商標法第4条第1項第11号,同項第15号及び同項第19号について判断したものであるから,別件判決における判断内容は,本件審判における本件商標及び引用商標についてそのまま当てはまるものではない。

それにもかかわらず,被請求人は,別件判決を度々引用し,別件判決の「判決文から明白」であるから本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当しないと繰り返すのみで,請求人の審判請求書に対する実質的な反論を一切していない。

(2)「被請求人における不正の目的」について

審判請求書においても述べたように,本件商標は引用商標を想起させるような態様で使用されている。また,下記(3)の市場調査の結果からいっても,本件商標のような商標に接した一般消費者は,請求人又は引用商標を含む請求人の商標を想起し,出所が請求人であると混同することは明らかであり,被請求人も当然同様の認識があったと考えられる。

したがって,あえて本件商標のような商標を出願するのは,不正の目的をもって行ったと考えるのが自然であり,実際に需要者をして引用商標を含む請求人の登録商標を想起させ,それが本件商標を付した商品の購入動機となっているものであるから,引用商標に化体した顧客吸引力に便乗しているものである。

(3)調査の結果

甲第19号証は,大手インターネット調査会社である株式会社マクロミル(以下「マクロミル」という。)が,インターネット上で実施した消費者調査の結果(以下「本件調査結果」という。)であり,甲第20号証は,同調査にあたって調査対象者に提示された調査票である。

同調査は,登録第5392944号商標(別掲8,以下「調査対象商標」という。)に関し,平成28年9月2日及び同3日の2日間,マクロミルに登録されたモニタの中から,一定の条件を元に抽出された回答者を対象に,合計700名のサンプルが得られるまで実施された。

実際に得られた有効回答者数は721名である。

本件調査結果によると,少なくとも全回答者721名のうち37.6%に当たる合計271名もの回答者が,調査対象商標から「プーマ」,「PUMA」又は「puma」を想起したこと,すなわち,調査対象商標が請求人を示すものと誤認混同していることを示すものである。

これに対して,調査対象商標から「シーサー」を想起した者は,「シーサー」と共に「プーマ」とも回答した者を含めても,全回答者のわずか1.2%に留まる。

本件調査結果は,本件商標のうち調査対象商標の図形のみでも請求人を示すものとの誤認混同を生じさせることを示すものであるから,本件商標から「OKINAWAN ORIGINAL」及び「GUARDIAN SHISHI−DOG」の欧文字の二段構成からなるデザイン文字を取り除き,さらに調査対象商標の内部から花柄をとり除いて引用商標における四つ足動物の図形に近付けた使用例標章は,被請求人が,意図的に著名な引用商標の特徴を一見してわかる程度に残したまま外観を変え,本件商標及び使用例1標章及び使用例2標章に接する需要者に引用商標を連想・想起させ,著名な引用商標の持つ顧客吸引力にただ乗り(いわゆるフリーライド)する不正な目的で本件商標及びそれを変容させた事実の存在を一層裏付けるものである。

したがって,甲第19号証及び甲第20号証(審決注:「甲第22号証及び甲第23号証」は誤記と認められる。)は,本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当することを示す証拠ともなる。

第4 被請求人の主張

被請求人は,結論同旨の審決を求め,審判事件答弁書において,その理由を次のように述べ,証拠方法として,乙第1号証及び乙第2号証を提出した。

1 平成20年(行ケ)第10311号商標登録取消決定取消請求事件

この事件は,本件商標(商標登録第5040036号)に対して,プーマ社が登録異議の申立てをしたところ,特許庁が本件商標は引用商標に類似するとして本件商標の商標登録を取消しする旨の決定をした。

しかしながら,この異議決定に対して知的財産高等裁判所は,特許庁の異議決定を取消した(乙1)。

2 平成21年(行ケ)第10404号商標登録取消決定取消請求事件

この事件においては,プーマ社は補助参加人として加わっている。

この事件についても,知的財産高等裁判所は再度,異議2007−900349号事件について特許庁の異議決定を取消した(乙2)。

3 商標法第4条第1項第7号該当性について

(1)不正の目的

本件商標は,引用商標の顧客吸引力にただ乗りしたり,その出所表示機能を希釈化させ,あるいはその名声を毀損させる等不正の目的をもって出願したものでもない。

(2)公の秩序を害するおそれ

請求人は,本件商標についてパロディ商標に言及して「本件商標は,登録出願の経緯に社会的相当性を欠き,これを使用することは,社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反するのみならず,我が国の国際的な信頼を損ない,ひいては国際信義に反することにもなるので,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものというべきである。」と主張しており,これについても上記判決文で明確に述べられている。

上記判決文において明白なように,本件商標は,不正の目的をもって商標権を取得したものではなく,また公の秩序を害するおそれのある商標でもなく,商標法第4条第1項第7号に該当するものではない。

第5 当審の判断

1 引用商標の著名性について

請求人の主張及び同人が提出した証拠によれば,引用商標の商標権者であるドイツ連邦共和国のプーマ社は,1948年(昭和23年)に設立したスポーツシューズ,被服,バッグ等を世界的に製造販売している多国籍企業であり,引用商標を表示した各種のスポーツシューズ,スポーツウェア,スポーツバッグ,帽子,ソックス等は,申立人のカタログに掲載され(甲23),各種雑誌に掲載され,紹介等された(甲24)。

そして,プーマ社の各種商品は,2004年5月から2006年2月にかけて,フジテレビジョン,テレビ朝日,日本テレビ,TBSテレビ,関西テレビ放送,静岡放送等において,多数テレビスポット放送がされた(甲25)。

また,2004年版のスポーツ産業白書(甲26の2)によれば,「プーマ」ブランドは世界市場において急激な伸びを見せていること,2006−2007年版及び2007年−2008年版のスポーツアパレル産業白書(甲26の6及び7)によれば,プーマは,2004年ないし2006年にスポーツアパレル/ブランド別国内出荷金額ランキングにおいて4位であり,出荷金額が227億円ないし272億円及び構成比が6%程度であること,スポーツシューズビジネス2011(甲26の8)によれば,2008年ないし2010年にスポーツシューズ/メーカー別国内出荷金額において5位であり,出荷金額が159億円ないし183億円及び構成比が6%程度であること等が認められる。

そうすると,引用商標は,本件商標の登録出願時には既に,請求人の業務に係るスポーツシューズ,被服,バッグ等を表示する商標として,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されて周知・著名な商標となっており,それは本件商標の登録査定時及びそれ以降も,継続していると認められる。

2 本件商標と引用商標との類否について

(1)本件商標について

ア 外観について

本件商標は,別掲1のとおり,「SHI−SA」の文字は横書きで大きく表示され,その右上方に,首飾りのような模様,前足と後足の関節部分にも飾りないし巻き毛のような模様,及び尻尾は全体として丸みを帯びた形状で先端が尖っており,飾りないし巻き毛のような模様が描かれている四足動物が右側から左上方へ向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いている様子が側面から見た姿でシルエット風に描かれる(本件商標の動物図形)と共に,「SHI−SA」の文字の下に2段にわたって「OKInAWAn ORIgInAL」及び「gUARDIAn ShIShI−DOg」という文字が,比較的小さく表記されているものである。

イ 観念について

(ア)本件商標の動物図形からは,直ちに特定の動物を想起しうるものではないが,「OKInAWAn ORIgInAL」,「gUARDIAn ShIShI−DOg」,「SHI−SA」の文字及び本件商標の動物図形と相まって,沖縄にみられる伝統的な獅子像である「シーサー」の観念が想起される。

(イ)これに対し,請求人は,沖縄の伝統的な獅子像である「シーサー」は沖縄で瓦屋根などにとりつける素朴な焼物の唐獅子像であり,本件商標のような跳躍するイメージとは程遠いものであると主張する。

「シーサー」とは,「(獅子さんの意)沖縄で,瓦屋根などにとりつける素朴な焼物の唐獅子像。魔除けの一種。」(広辞苑第六版,甲14)である。

そして,「シーサー」は,形状には様々なものがあるが,概ねその特徴とされる点を挙げれば,たてがみないし首飾り,剥き出した牙,前足・後足の関節部分の毛,太くふっくらとした尻尾などである。また,その姿勢としては,上体を起こした状態で前足をついたものが多いが,四つん這いになったもの,前かがみのものなど様々な形態がある(甲15)。

(ウ)そこで,本件商標の動物図形を上記の一般的な「シーサー」と比べると,本件商標の動物図形は,上方へ向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いているところ,このような姿勢は「シーサー」の形態として一般的なものとはいえない。

他方,本件商標の動物図形に描かれた,首飾りのような模様,前足・後足の関節部分における飾りないし巻き毛のような模様,尻尾の全体的に丸みを帯びて先端が尖った形状等は,いずれも一般的な「シーサー」の特徴とされているところと一致する。

そうすると,本件商標の動物図形は,「シーサー」の特徴とされているいくつかの点を備えているということができ,本件商標の動物図形だけをみて直ちに「シーサー」と理解されることがないとしても「SHI−SA」,「OKInAWAn ORIgInAL」及び「gUARDIAn ShIShI−DOg」の文字とあわせて見れば,「シーサー」を描いたものと理解することができるものである。

したがって,本件商標からは,沖縄にみられる獅子像である「シーサー」の観念が想起される。

ウ 称呼について

本件商標は,「SHI−SA」の文字あるいは上記のような沖縄の獅子像の観念から「シーサ」又は「シーサー」の称呼が生じる。

(2)引用商標について

ア 外観について

引用商標は,別掲2のとおり,「PUmA」の文字が横書きで大きく表示され,その右上方に,全体的に黒く塗りつぶされ,尻尾は全体に細く,右上方に高くしなるように伸び,その先端だけが若干丸みを帯びた形状となっている四足動物が右側から左上方へ向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いている様子が側面から見た姿でシルエット風に描かれているものである。

イ 観念について

引用商標には,「PUmA」と大きく表示されており,上方へ向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いた動物の図形と相まって,動物の「ピューマ」の観念が想起される。

「ピューマ」(puma,日本語の外来語表記では「プーマ」とも表記される。)とは,南北アメリカに分布するネコ科の哺乳類で,アメリカライオン,ヤマライオン,クーガーなどの別名がある。体長は1.5mほどになり,運動活発で跳躍力に強く,シカなどを捕食する(広辞苑第六版)。

また,引用商標は,上記1のとおり,ドイツのスポーツシューズ,スポーツウェア等のメーカーであるプーマ社の業務を表す「PUmA」ブランドの商標として著名であるから(甲23〜甲26),引用商標からは「PUmA」ブランドの観念も生じる。

ウ 称呼について

引用商標は,「PUmA」の文字から「ピューマ」又は「プーマ」の称呼が生じる。

(3)本件商標と引用商標の対比

ア 外観について

(ア)共通点

本件商標と引用商標は,アルファベットの文字「SHI−SA」と「PUmA」が横書きで大きく表されている点,その右上方に,四足動物が右側から左上方へ向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いている様子が側面から見た姿でシルエット風に描かれている点で共通する。

また,本件商標における「SHI−SA」の文字と引用商標における「PUmA」の文字は,いずれも横長の長方形の枠内にはめ込まれたかのごとく太字で表記され,個々の文字は縦長となっている点で共通する。

そして,両商標における動物の図形は,その向きや基本的姿勢のほか,跳躍の角度,前足・後足の縮め具合・伸ばし具合や角度,胸・背中から足にかけての曲線の描き方について,似通った印象を与える。

(イ)差異点

本件商標において大きく表示された文字は,「SHI−SA」であり,引用商標において大きく表示された文字は,「PUmA」であって,アルファベットの文字数,末尾の「A」を除き使用されているアルファベットの文字が異なるほか,本件商標においては「SHI」と「SA」の間にハイフン(−)が表記されている点で異なっている。

そして,両商標における動物の図形については,本件商標の動物図形の方が引用商標の動物の図形に比べて頭部が比較的大きく描かれているほか,本件商標の動物図形においては,口の辺りに歯のようなもの,首飾りのような模様,前足と後足の関節部分にも飾りないし巻き毛のような模様,及び尻尾は全体として丸みを帯びた形状で先端が尖っており,飾りないし巻き毛のような模様が描かれている。

これに対し,引用商標の動物の図形には,模様のようなものは描かれず,全体的に黒いシルエットとして塗りつぶされているほか,尻尾は全体に細く,右上方に高くしなるように伸び,その先端だけが若干丸みを帯びた形状となっている。

このように,本件商標と引用商標とは,「SHI−SA」ないし「PUmA」の文字と動物の図形との組合せによる全体的な構成は共通しているものの,両商標の違いは,明瞭に看て取れるものである。

イ 観念について

本件商標からは沖縄にみられる獅子像である「シーサー」の観念が生じ,引用商標からはネコ科の哺乳類「ピューマ」又は「PUmAのブランド」としての観念が生じるから,両商標は,観念を異にする。

ウ 称呼について

本件商標は,「シーサ」又は「シーサー」の称呼が生じ,引用商標は,「ピューマ」又は「プーマ」の称呼が生じるから,両商標は,称呼を異にする。

(4)まとめ

以上のとおり,本件商標と引用商標とは,外観,観念及び称呼において異なるものであり,本件商標及び引用商標が同一又は類似の商品に使用されたとしても,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえないから,本件商標は,引用商標に類似するものではない。

3 請求人の主張(生活に関するアンケートについて)

請求人は,商標登録第5392944号商標を調査対象(調査対象商標)とした,マクロミルのインターネット上での消費者調査(甲20)及びその結果(本件調査結果)を提出し(甲19),「全回答者721名のうち37.6%に当たる合計271名もの回答者が,調査対象商標から『プーマ』,『PUMA』又は『puma』を想起したこと,すなわち,調査対象商標が請求人を示すものと誤認混同していることを示すものである。」旨主張する。

本件調査結果は,マクロミルが行った「生活に関するアンケート」と題する書面であり,当該調査は,本件商標の動物図形とほぼ同一の調査対象商標(調査対象商標には,本件商標の動物図形が有さない花柄の模様及び白色の輪郭線を有している。)を対象とした,「有効回答者数:721名」,「調査対象者:20歳以上の男女」,「調査期間:2016年9月1日(木)〜9月3日(土)」及び「調査方法:インターネット調査」の結果を示すものである。

これによれば,「Q1AC:このマークを見て何を想起しますか? ※知らない方のイメージでお答えください。複数回答」の質問には,38種類の回答があり,「獅子・ライオン」と答えた者は「63(8.7%)」及び「シーサー」と答えた者は「9(1.2%)」であるのに対し,「ピューマ」と答えた者は「16(2.2%)」及び「プーマ」と答えた者は「258(35.8%)」 である。

そして,「Q2AC:どうして前問のように想起したのですか?」の質問には,26種類の回答があり,「そう見える・似ている」と答えた者は「253(35.1%)」及び「かたち/ポーズ・動き」と答えた者は「186(25.8%)」である。

また,「Q3:今回のアンケート以前に,このマークを見たことはありますか?」の質問に対する回答には,「見たことがある」と答えた者は「52(7.2)%」及び「見たことがない」と答えた者は「669(92.8%)」である。

さらに,「Q3」で「見たことがある」と答えた者に対して行った「Q4:あなたはこのマークが付いた商品を購入したことがありますか?」の質問に対する回答には,「ある」と答えた者は「19」及び「ない」と答えた者は「33」であり,「Q4」で「ある」と答えた者に対して行った「Q5AC:どうしてそのマークが付いた商品を購入したのですか?」の質問に対する回答には,「スポーツウェア・スニーカーを購入した」と答えた者は3名,「(有名な)スポーツメーカー」と答えた者は2名である。

本件調査結果によれば,該生活アンケートの回答者の中には,調査対象商標の外観から,「ピューマ」及び「プーマ」を連想,想起し,また,その商品を購入した理由について「スポーツウェア・スニーカーを購入した」,「(有名な)スポーツメーカー」と回答した者がいたことがうかがえる。

しかしながら,当該生活に関するアンケートは,調査対象商標のみについて,2016年(平成28年)9月1日から3日(本件商標の登録査定後)に行われたものであって,本件商標について行われたアンケートではないから,本件商標に接した需要者が,その外観から,「ピューマ」及び「プーマ」を連想,想起するものということはできない。

そして,請求人の主張によれば,本件商標権者は,別掲3ないし別掲7のとおりからなる使用例標章を商品「Tシャツ」に表示しているものであるが,使用例標章と,その外観が明らかに異なる調査対象商標についての本件調査結果をもって,使用例標章に接した需要者が,これらから,「ピューマ」及び「プーマ」を連想,想起したものということもできない。

そうすると,調査対象商標から,「ピューマ」及び「プーマ」を連想,想起する場合があるとしても,本件商標から,直ちにこれらを連想,想起するものということはできない。

4 商標法第4条第1項第7号該当性について

(1)商標法第4条第1項第7号について

商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には,(ア)その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合,(イ)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも,指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反する場合,(ウ)他の法律によって,当該商標の使用等が禁止されている場合,(エ)特定の国若しくはその国民を侮辱し,又は一般に国際信義に反する場合,(オ)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合,などが含まれる(知財高裁平成17年(行ケ)第10349号,平成18年9月20日判決参照)。

(2)本件商標は,別掲1のとおりの構成態様からなるものであるから,その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形でないことは明らかである。

(3)請求人が提出した証拠からは,本件商標が,他の法律によって,その使用等が禁止されている事実,その指定商品について使用することが社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反するものすべき事情,及び特定の国若しくはその国民を侮辱し又は一般に国際信義に反するものすべき事情は見あたらない。

(4)本件商標権者は,主として沖縄県内の店舗及びインターネットの通信販売で使用例標章を付したTシャツ等を販売する者と認められる(甲11)。

そして,請求人が提出した本件商標権者に関する証拠からは,本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあったとか,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないものとすべき具体的事情は見あたらず,かつ,本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,商標法の予定する秩序に反するものとすべき事情も見あたらない。

(5)請求人の主張について

ア 請求人は,「本件商標は,世界的に著名な商標である引用商標が持つ顧客吸引力にただ乗りし,その出所表示機能を希釈化させ,あるいは,その名声を毀損させるなど,不正の目的をもって出願したものである。」旨主張する。

しかしながら,引用商標は,本件商標の登録出願時には既に,請求人の業務に係るスポーツシューズ,被服,バッグ等を表示する商標として,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されていたとしても,本件商標と引用商標とは,上記2のとおり,非類似の商標であって別異のものと認められ,請求人が提出した証拠からは,引用商標が持つ顧客吸引力にただ乗りし,その出所表示機能を希釈化させ,あるいは,その名声を毀損させるなど,不正の目的をもって本件商標を出願したものとすべき具体的事実は見あたらない。

そして,本件商標権者が,商品「Tシャツ」の前面に,使用例標章のようなデザインを施している事実があるとしても,該商品についてのこれらの表示が,直ちに,別掲1のとおりの構成からなる本件商標の構成を変更して引用商標を想起させることを前提としたとまでは,いうことができない。

また,本件商標権者のウェブサイト(甲11)において,「SHI−SA.COM/し〜さ〜どっとこむ」及び「JUMPING/SHI−SA/SHI−SA OFFICIAL SITE」及び動物の図形を表示して,商品「Tシャツ」が紹介されているものの,これらの各文字及び動物の図形と,引用商標を対比しても,十分に区別することができる別異のものと認められる。

イ 請求人は,「本件商標は,被請求人の不正な目的により,使用例標章のように,引用商標を強く想起させる態様にて使用されている。」及び「著名な商標に化体した信用・名声及び顧客吸引力に便乗し,不当な利益を得る等の不正な目的で登録されたいわゆるパロディ商標については,・・・厳格な態度をもって臨むべきとするのが今や国際標準であるところ,・・・,本件商標のような世界的に著名な商標に便乗すべく登録されたパロディ商標の使用を認めることは,我が国の国際的な信頼をも損ないかねないものである。」旨主張する。

確かに,本件商標の構成中の本件商標の動物図形及び「SHI−SA」の文字を,やや構成を変更してTシャツに表示したもの(使用例1標章),また,該表示の「SHI−SA」の文字の上部に「JUMPING」の文字を表示したもの(使用例2標章),これらの表示を,黒,緑及び黄色を用いて表示したもの(使用例3標章)及び該表示の動物図形部分の柄のような模様が描かれていないもの(使用例4標章及び使用例5標章)が見受けられる(甲6)。

しかしながら,これら使用例標章は,概ね,本件商標の主要部分である「SHI−SA」の文字部分と本件商標の動物図形とを,構成を変更してデザイン化し,各種商品に表示したものであって,商品の意匠的な機能を果たしているものということができる。

そして,使用例標章と引用商標とを対比しても,上記2に述べた旨と同様に,外観,観念及び称呼において異なるものであるから,使用例標章は,引用商標の構成態様を題材とし外観を変え,引用商標を強く想起させる態様ということができない。

また,本件商標は,引用商標とは,上記2に記載のとおり,外観,観念及び称呼において異なる非類似の商標であるから,引用商標を題材として構成し,不当な利益を得る等の不正な目的で登録出願されたものということができない。

ウ 請求人は,本件調査結果につき,「市場調査の結果からいっても,本件商標のような商標に接した一般消費者は,請求人又は引用商標を含む請求人の商標を想起し,出所が請求人であると混同することは明らかであり,被請求人も当然同様の認識があったと考えられる。したがって,あえて本件商標のような商標を出願するのは,不正の目的をもって行ったと考えるのが自然であり,実際に需要者をして引用商標を含む請求人の登録商標を想起させ,それが本件商標を付した商品の購入動機となっているものであるから,引用商標に化体した顧客吸引力に便乗しているものである。」旨主張する。

しかしながら,前述のとおり,本件調査結果は,調査対象商標のみを対象としたものであって,本件商標及び使用例標章について行われた調査ではなく,また,請求人が提出した本件商標権者に関する証拠(甲6〜甲11)からは,本件商標権者が,どのような認識又は目的を持って,使用例標章を商品に使用しているものであるかを推し測ることはできない。

また,使用例標章と引用商標とは,上記のとおり,外観,観念及び称呼において異なるものである。

そうすると,本件商標及び使用例標章は,これに接する需要者に,引用商標を想起させるものということができず,引用商標に化体した顧客吸引力に便乗しているものということもできない。

(6)まとめ

以上のとおり,本件商標は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するものということができず,その登録がされた後においても該当するものということもできないから,商標法第4条第1項第7号に該当しない。

5 むすび

以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものではないから,同法第46条第1項の規定により無効とすることができない。

よって,結論のとおり審決する。

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