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Trademark Appeal Case

地理的表示の不正使用

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号無効2017−890025(T2017−890025/J3)
審判種別無効
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。

理由テキスト

第1 本件商標

本件登録第5799791号商標(以下「本件商標」という。)は、「SAPUTO ASIAGO」の文字を標準文字により表してなり、平成27年4月15日に登録出願、第29類「『アズィアーゴ』の原産地称呼で保護されているイタリア産のチーズ」を指定商品として、同年9月1日に登録査定、同年10月16日に設定登録されたものである。

第2 引用商標

本件審判請求人(以下「請求人」という。)が、本件審判の請求の理由において引用する国際登録第1133014号商標(以下「引用商標」という。)は、別掲に示すとおりの構成からなり、2013年(平成25年)5月23日に国際商標登録出願(事後指定)、第29類「Cheese made in/originated in Asiago in the Province of Vicenza in the Veneto Region in Italy.」を指定商品として、平成26年9月19日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。

第3 請求人の主張

請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は、被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第110号証(なお、甲第19号証は、欠番である。)を提出した。

1 請求の利益について

請求人は、世界知的所有権機関(WIPO)が管理する国際条約「原産地名称の保護及び国際登録に関するリスボン協定」に基づく原産地名称「ASIAGO」の国際登録及び日本を含む複数の国で、「ASIAGO」に関する商標及び地理的表示の登録を有している。

また、請求人は、イタリア共和国政府と欧州連合(以下「EU」という場合がある。)政府から、イタリア共和国の町である「Asiago」の領域で生産された特定の製品仕様に従って生産される世界的に有名なチーズであるAsiago産チーズの保護につき、責任を負う団体であると認識されており、「ASIAGO」の名声を悪用し、模倣し、又は不正使用することを目的とする本件商標に対する無効審判を請求することにつき、利害関係を有している。

2 地理的表示保護制度及び原産地保護称呼制度について

EUは、原産地呼称に関する理事会規則農産物及び食品に係る品質スキームに関する2012年11月21日の欧州議会及び理事会規則(EU)No.1151/2012(以下「EU法」という。)において地理的表示保護制度(Geographical Indication Protection System。原産地の伝統や文化、地理に深く根付いた製品の地理的表示を保護することにより、地域コミュニティに文化的・経済的な価値を創出し、消費者に信頼できる情報を伝達するという観点から採用された制度。以下「GI制度」という。)として、特定の地理的領域で受け継がれたノウハウに従って、生産・加工・調整の全てが一定の地理的領域内でなされた農産物、食品、飲料のみを対象とする最も厳しい基準である「原産地称呼保護」(Protected designation of origin、略称PDO(以下「PDO」という場合がある。)、及び、定められた地域原産品を定められた製法で生産又は加工、又は調整しているものでなければならないという「地理的表示保護(Protected Geographical Indication、略称PGI(以下「PGI」という。))」を定めている(甲7)。これらの制度により登録を受けた原産地表示は、定められた産地や品質等の要件を満たした産品にのみ使用をすることが認められており、EU法第II編「原産地称呼保護及び地理的表示保護」第13条(1)において、「(a)登録の対象でない産物であって、当該登録名称の下で登録された産物に類似するもの又は当該名称を使用することが保護名称の評判を利用することになるものについての登録名称のすべての直接的又は間接的な使用」、「(b)当該産物若しくはサービスの真正の原産地が表示されている場合であっても、また、保護名称が翻訳されているか若しくは『様式』、『タイプ』、『方法』、『にプロデュースされた』、『模倣』、『類似』の表現を伴う場合でも、すべての濫用、模倣又は誘発。それらの産物が一要素として使われる場合を含む。」、「(c)産物の出所、原産地、性質又は本質的属性に関する他のすべての虚偽の又は誤解を生じさせる表示であって内側若しくは外側の包装、当該産物に関する広告材料又は書類に用いられているもの並びに原産地について虚偽の印象を与える虞がある容器に入れた産物の梱包」及び「(d)産物の真正の原産地に関して消費者に誤解を生じさせる虞がある他のすべての行為」から保護されると規定されている(甲8)。

そして、PDO製品は、原産地との絆が非常に強く、伝統に深く根ざしていることから(甲9)、PDO製品の保護協会は、それぞれの認証商標を所有し、これにより製品の原産地、製造方法、品質等全てを保証している。

欧州等における原産地称呼保護制度に対応するものとして、我が国においても「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律」(地理的表示法)が成立したところである(甲61)。

このような地理的表示が、一般名称として有象無象の製品に使用された暁には、原産地表示保護制度が目指す地域産業の発展、及び需要者が抱く産品への信頼の保護は失われることになることから、欧州及び我が国において、地理的表示保護制度により保護された名称は、原産地及び品質について極めて厳しい基準を満たし、公的に保護された商品についてのみ使用が許されるものであり、その主体的要件、及び使用対象である商品の条件は極めて厳格に解されるべきである。

3 ASIAGOについて

EU加盟国であるイタリア共和国の地であるヴェネト州ヴィチェンツァ県北部のアズィアーゴ(ASIAGO)におけるチーズ生産の歴史は古く、1,000年以上もの昔から作られてきたチーズの生産地として、我が国においても度々書籍等に取り上げられている(甲31〜甲60)。イタリア共和国ヴェネト州ヴィチェンツァ県にある基礎自治体(コムーネ)にて1979年に設立された請求人による永年にわたる厳格な品質の維持、製造実績が認められた結果、「ASIAGO」は、1996年6月12日にPDOの登録を受けるに至った(登録番号:IT/PDO/0117/0001)(甲5)。

すなわち、PDOに登録された「ASIAGO」は、生産地及び品質等が保証された正当な「『アズィアーゴ』の原産地称呼で保護されているイタリア産のチーズ」(以下「アズィアーゴ産チーズ」という場合がある。)にのみ使用されることが認められていることから、「ASIAGO」の語は、商品の生産地や原材料等を表すのみならず、それが付されたチーズの出所及びPDOの登録時に提出された明細書に記載されたとおりの製法で製造された高品質のチーズであることを保証するために使用されるものである。

4 請求人について

請求人である「CONSORZIO PER LA TUTELA DEL FORMAGGIO ASIAGO」は、イタリア共和国ヴェネト州ヴィチェンツァ県の基礎自治体(コムーネ)に所在する1979年に設立されたチーズ生産者協会の会員であり、PDOに保護される「アズィアーゴ産チーズ」の品質等を保証すると同時に「アズィアーゴ産チーズ」の不正使用を取り締まる監視機関であることから、イタリア共和国における地域産業及び農産業の発展を支える肝心要の存在であり、「アズィアーゴ産チーズ」の品質に責任を負う唯一の組織である。

そして、請求人は、世界知的所有権機関(WIPO)が管理する国際条約「原産地名称の保護及び国際登録に関するリスボン協定」に基づく原産地名称「ASIAGO」の国際登録を有し(甲84)、後に詳述する国際登録第1133014号の領域指定等により、日本を含む複数の国で、「ASIAGO」に関する商標を有している(甲85〜甲102)。

5 商標法第3条第1項柱書該当性について

(1)「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」について

商標法第3条は、第1項の柱書において、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる」と定めている。「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする」商標とは、現在使用をしているもの及び使用をする意思があり、かつ、近い将来において信用の蓄積があるだろうと推定されるものの両方を含み(甲10)、いいかえれば、現に自己の業務に係る商品又は役務に使用している商標か、あるいは、将来自己の業務に係る商品又は役務に使用する意思のある商標でなければ、商標登録を受けることはできない(甲11)。

我が国の商標法は登録主義を採用し、登録の要件として、出願商標の使用を必要とせず、使用の意思を有すれば足りることとしている。一方、将来においても使用されることのない商標までも登録して保護するものでないことは、第1条の商標法の目的及び第50条等からしても首肯されるものと考えられる(甲12)。

登録を受け得る商標は、出願人の自己の業務に係る商品役務について使用をする商標であることとしているのは、自己の業務(近い将来開始の業務を含む。)が存在しないところに、自己の業務(近い将来開始の業務を含む。)に係る商品又は役務について、その商標を使用することはあり得ないからである(甲12)。なお、「近い将来」とは、目安として出願後3〜4年以内であると考えることができる。

すなわち、本件商標について、商標法第3条第1項柱書で定める無効理由が存しないとすれば、被請求人は、「アズィアーゴ産チーズ」について業務を行っているか、又は近い将来(目安として出願日である平成27年4月15日から3〜4年以内)に「アズィアーゴ産チーズ」に係る業務を開始する予定があるところ、PDOによって保護されている「ASIAGO」の語を付すことができる製品は、全ての真正な「アズィアーゴ産チーズ」の品質に責任を負う団体である請求人の定める厳格な基準を満たして製造された高品質の「アズィアーゴ産チーズ」のみであるから、被請求人は、現在請求人に属する生産者であるか、出願日から目安として3〜4年以内に請求人に加盟する必要があるか、又はその製品が請求人の定める基準を満たしている必要がある。

本件商標の権利者である被請求人は、請求人とは全く無関係のカナダを本拠地とするチーズ等の乳製品の製造販売会社であり(甲14)、「アズィアーゴ産チーズ」の生産者等ではない。なお、被請求人は「ASIAGO」という名称のチーズを生産しているところ、これは米国で生産等されたチーズである(甲15)。

被請求人が、現在請求人に所属しておらず、請求人と一切の関係を有さず、請求人に加盟するための資格も有していないうえ、「アズィアーゴ産チーズ」の供給及び生産等を代理して行う者でもないことは、請求人の宣誓からも明らかである。さらに、被請求人が近い将来請求人に加盟する計画があるならばまだしも、被請求人は、請求人に加盟する意図を表明したことはなく、請求人に加盟するための条件を満たさない(甲16)。

したがって、被請求人が、本件商標の指定商品「アズィアーゴ産チーズ」に係る業務を行う予定もないことは明白である。

さらに、「ASIAGO」が所在するイタリア共和国が加盟しているEUは、PDO及びPGIで保護されている地名を自国において厚く保護するのみならず、他国に対してもこれらの地名に対し保護を与えるよう要請しており(甲20)、例えば、EUと韓国との自由貿易協定(以下「自由貿易協定」を「FTA」という。)においては、韓国によりイタリア産チーズに係る「ASIAGO」の名称の保護が明示的に約束されている(甲21)。

また、我が国と、EU諸国と同じく欧州の国であるスイス連邦との関係で2009年9月1日に発効された「日本国とスイス連邦との間の自由な貿易及び経済上の連携に関する協定(JSFTEPA)」においても、スイス連邦で保護されるべき表示の内容として、チーズの名称が列挙されており(甲24〜甲30)、我が国は、スイス連邦における真正の原産地以外の商品について上記の地理的表示を用いる者に対し、それを防止すべく法的手段を確保する義務を負っている。これは、我が国が地理的表示に対して厳格な態度を採るという姿勢の表れである。なお、かかる取り決めを商標登録出願の審査に反映させるべきことは、商標審査便覧88.01に表されたとおり、特許庁も認めるところである(甲23)。

加えて、EUと我が国とのFTAの交渉でも、我が国におけるGI制度の重要性が認識されており、結果として、我が国において2014年6月に「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律」(地理的表示法)が成立し、今や我が国におけるGI制度への注目はこれまでになく高まっている。

原産地称呼保護制度で保護されている地域の名称は、EU内外を問わず、今後も世界中において、当該原産地で生産・加工等された厳しい基準を満たしている商品にのみ使用が許される旨定められることに疑いはなく、とりわけ地理的表示法を導入した我が国においては、厳しく遵守し、産地・品質の保護に努めることは必須である。

以上より、原産地称呼保護への注目が集まっている今日、欧州諸国と我が国の間での協定に鑑みても、「アズィアーゴ産チーズ」を指定商品とする本件商標「SAPUTO ASIAGO」が、請求人又は請求人に加盟する生産者以外の者により出願された場合には、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」ではないと判断されるべきである。

したがって、本件商標は、被請求人が「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」ではないから、商標法第3条第1項柱書違反により無効とされるべきである。

(2)被請求人の主張について

ア 被請求人は、商標法第3条第1項柱書においては、将来において使用をする意思があれば登録を認めるものと解されるのが通例であり、「自己の業務」には、被請求人本人の業務に加え、被請求人の支配下にあると実質的に認められる者の業務を含むとされていることを前提に、近年の乳製品業界において、被請求人のような乳業大手メーカーが、EU諸国やアジア諸国の競合他社を買収するという事象があるため、被請求人が将来的にEU諸国の企業を買収し、本件商標を付した「アズィアーゴ産チーズ」の製造販売を開始することも考え得るものであり、被請求人又は被請求人の支配下にあると実質的に認められるものが、本件審判請求に係る指定商品についての業務を行う蓋然性を、本件商標の登録査定時において否定することは不可能であるから、登録査定の判断に誤りはなく、また、請求人が被請求人の将来における使用意思を否定する証拠を提出していないから、本件商標は商標法第3条第1項柱書の要件を満たすと主張する。

請求人は、商標法第3条第1項柱書の適用において、出願人が将来において使用をする意思があれば登録を認めるものと解されるという点、及び、商標審査基準[改定第13版]に記載のとおり、同柱書の「自己の業務」には、いわゆるライセンシーの業務を含むという点について異論はない。

しかしながら、請求人が審判請求書において述べ、また、被請求人の提出する乙第2号証にも記載があるとおり、「使用意思には、単にその意思が表明されているということでは不十分であり、将来に使用する蓋然性があることが必要」である。

ここで、法が蓋然性をもって、未だ使用を開始されていない商標についてまで保護を与えるのは、出願人に商標の使用をする意思があるならば、近い将来にその商標が使用され、それにより信用の蓄積があるだろうと推定されるからである(甲10)。

すなわち、商標法が求める蓋然性の証明とは、単なる一般的な傾向に基づく抽象的な可能性を述べるだけでは足りず、信用の蓄積があるだろうという推定が可能な程度に、何らかの客観的な証拠をもって、個別具体的な事情が証明されるべきである。

本件についていえば、被請求人が本件商標の指定商品につき具体的に事業を行う蓋然性があることを客観的な証拠で示さなければ、使用意思があることの証明にはならないところ、被請求人は、自社が乳業大手メーカーであり、乳製品業界の傾向によれば、そのようなメーカーが将来的にEU企業を買収することは傾向として起こり得るといった一般論を述べるにとどまり、具体的な事業計画等を証明していない。このような一般的な業界の傾向の説明をもってして、被請求人が、近い将来本件商標の指定商品に係る事業を行う予定があり、更にはその事業において本件商標を使用することで信用が蓄積するであろうと推定される(=使用意思がある)と述べるのはあまりに論理が飛躍しているといわざるを得ない。むしろ、これはまさに「単にその意思が表明されている」(乙2)状態に該当する。

また、被請求人は、請求人が被請求人の将来における使用意思までを否定するに足る証拠も提出していないと述べているところ、まず、請求人は、被請求人が2016年5月10日の時点において、「アズィアーゴ産チーズ」につき責任を負う団体である請求人とは一切の関係を持っていない点、被請求人には会員資格もない点等を示しており、登録査定時から1年弱経った時点では、被請求人に使用の事実がないことを証明している(甲16)。

そして、請求人は被請求人の将来における事業計画など知る由もないのであり、将来的に使用をする意思の不存在の証明を請求人に求めることは、不可能を強いるに等しいというべきである。

仮に、被請求人に本当に事業を行う意思があるのならば、その意思を証明するに足る証拠を提出するべきであるが、被請求人がそのような証拠を提出していない以上、被請求人には、商標法が商標の登録を認めるに値する使用意思がないといわざるを得ない。

さらに、本件商標の態様を見ても、被請求人が指定商品について本件商標を使用することができないことは自明である。

すなわち、「アズィアーゴ産チーズ」の保護協会である請求人は、PDOに保護される「アズィアーゴ産チーズ」の品質等を保証すると同時に「アズィアーゴ産チーズ」の不正使用を取り締まる監視機関としての役割を持っている(甲6)。請求人が、商品の品質を維持するためにも、「アズィアーゴ産チーズ」を示す標識の使用について厳しい基準を設けており、「REGOLAMENTO D’USO DEL MARCHIO“ASIAGO”」(和訳:商標「アジアーゴ」等の使用等の規制)、第6条「Modailita di utilizzazione」(和訳:商標の使用要件)において、「ASIAGO」の使用方法についても「許諾対象者が生産者である場合、本件商標の使用許諾を定める条項及びPDOで保護されたアジアーゴチーズの仕様書を遵守しなければならない。」、「本件商標(請求人注:甲第67号証「エンクロージャー1」に示されている商標を指す。)の使用は、本件商標の有効性を損なうものであってはならない。また、本件商標を希釈化させるものであってはならない。」、「本件商標は、消費者が誤認するおそれがある声明と関連づけることはできない。許諾対象者が、本件商標及び本協会の名声を損ない、脅かし、改竄し又は失墜させうる行為又は省略を行うことは禁止される。」及び「許諾対象者は、本件商標が指す製品について、混同のおそれ或いは解釈の困難を生じさせることなく本件商標を使用しなければならない。」等定めている(甲67、甲104)。

これを踏まえて本件商標をみると、「ASIAGO」に「SAPUTO」の語が付され、「SAPUTO ASIAGO」という表示になった場合には、全体として「サプート社のイタリア共和国ヴェネト州ヴィチェンツァ県北部のアズィアーゴ」の観念が生じるから、本件商標に触れた消費者は、本件商標が用いられる商品は、あたかも「サプート社の製造に係るアズィアーゴ産のチーズ」であると誤認し、真正なアズィアーゴ産チーズと出所の混同を生ずるおそれがある。よって本件商標の使用は、まさに「消費者が誤認するおそれがある声明と関連づけ」、「混同のおそれ或いは解釈の困難を生じさせ」る使用に該当する。

したがって、本件商標は、「アズィアーゴ産チーズ」についての使用が禁止されている商標である。

以上より、被請求人が、その指定商品である「アズィアーゴ産チーズ」に本件商標を使用したいと希望した場合でも、請求人はそのような使用を禁止するし、仮に被請求人が原産地名称保護制度で保護されたアズィアーゴチーズの生産のための所定の領域に存在する企業を買収し、真正の「アズィアーゴ産チーズ」を生産できるような状態になったとしても、被請求人が「アズィアーゴ産チーズ」に「SAPUTO ASIAGO」なる本件商標の使用をすることはできない。

さらに、「ASIAGO」の名称の使用を希望する者は、請求人に対し、甲第105号証として提出する所定の申込書を提出する必要があるところ、被請求人はそのような申し込みをしていない。

よって、被請求人は指定商品につき、本件商標の使用をすることができないから、本件商標は商標法第3条第1項柱書の要件を満たさない。

イ 被請求人は、「『ASIAGO』の文字をチーズの一般名称として使用する意思を持って本件商標の登録出願をしたにすぎない。」と述べているから、本件指定商品である「『アズィアーゴ』の原産地称呼で保護されているイタリア産のチーズ」について、もとより使用意思を有さないことは客観的に明らかである。

上記主張は他の主張との関係で矛盾をはらんでいるが、このような自白が商標法第3条第1項柱書の要件を満たさないことの証拠となることは、過去の審決例において明示されている(甲106)。

被請求人は、出願時・登録査定時はもとより、現在においても、PDOというEUにおける地理的表示保護制度のなかでも最も厳しい基準である「ASIAGO」の文字を「チーズの一般名称として使用する意思」を持っているのであるから、その指定商品が「『アズィアーゴ』の原産地称呼で保護されているイタリア産のチーズ」と補正された以上、被請求人が本件商標を指定商品に使用する意思がないことは明らかである。

ウ 被請求人は、「日本国とスイス連邦との間の自由な貿易及び経済上の連携に関する協定(JSFTEPA)」は、当該二国間の関係にすぎず、イタリア共和国の産品に対する保護とは無関係であると述べる一方、オーストラリアや米国の例を挙げ、これらの国では「ASIAGO」が一般名称化しているから、その生産量等に鑑みると、我が国においても「ASIAGO」が一般名称となっていると述べる。

しかしながら、本件商標の指定商品は、「『アズィアーゴ』の原産地称呼で保護されているイタリア産のチーズ」であり、産地が特定されているのであるから、「ASIAGO」の語の一般名称化の是非を論じたところで、カナダの法人であり、イタリア企業等と何ら関係を持たない被請求人には、本件商標の指定商品に係る業務を行うことはできない。よって、本件商標は商標法第3条第1項柱書の要件を満たさない。

また、本件商標は、日本の商標法に基づき、我が国でのみ効力を有するものであるから、我が国における一般名称化の是非を論じるべきであり、本件無効審判が米国における商標登録に関する事件でない以上、米国等における一般名称化は議論の中心とすべきでない。仮に米国産チーズの生産量が大きかったとしても、被請求人は我が国において「ASIAGO」は一般名称であるという事実を認定するに足る証拠を提出していないのであるから、我が国における「ASIAGO」の一般名称化は証明されていない。近年の地理的表示の一般名称化を問う新聞記事等でも、「Parmesan」や「Camembert」といったチーズの名称について疑問視される例がある一方、一般名称化しているチーズの代表として「ASIAGO」が取り上げられることが無いことからも、日本において「ASIAGO」は一般名称ではないことは明らかである。

さらに、請求人が本件商標との関係において、JSFTEPAの例を挙げたのは、同じヨーロッパ地域に属するスイス連邦との関係であれば、我が国におけるイタリア共和国の産品保護の重要な参考になると考えたからであるところ、「ASIAGO」は我が国において、スイス連邦の産品と同様に保護を受けることとなった。

すなわち、平成29年7月6日に、我が国とイタリア共和国が加盟するEUは、経済連携協定(EPA)につき大枠合意したところ(甲107)、同月11日に、農林水産省により公示された地理的表示法第28条に基づき指定の実施をしようとする外国の産品のなかに「ASIAGO」の表示が含まれている(甲108)。したがって、EPA発効後には、我が国とイタリア共和国間で「ASIAGO」が地理的表示として保護されることは明らかである。

したがって、本件商標は商標法第3条第1項柱書の要件を満たさないうえ、「ASIAGO」が我が国において一般名称化していないことも明らかである。

6 第4条第1項第7号及び同項第19号について

(1)前提となる事実

ア イタリア共和国におけるPDOの役割

PDO製品は、その特定の原産地で製造されたものでなくてはならず、その原料もその地で生産され、その製造技術は何世紀もの間その地で代々伝授された伝統的なものでなければならず、「このようにDOP(Denominazione Origine Protetta(PDOのイタリア語表記))製品はその原産地との絆が非常に強く、伝統に深く根ざしていること、そして、こういった製品が評価され、保護されることにより、社会的、また環境保護上、さらに郷土意識に重要な影響を与えることも事実である。こうした保護規制により、急激に過疎化する狭い渓谷の村といった人が居着かないような地域においても、製造業が保証され、ローカルメーカーの収入維持が可能となり、人々は豊かな暮らしを営むことができる」(甲9)のであるから、PDO製品の品質の保証は、EUの地域産業を支えるための肝心要であるというほかない。裏を返せば、PDO製品の品質の保証がなされなくなることは、PDO製品への需要者及び取引者の不信感を引き起こし、その生産者の業務への信頼は失われ、結果として、伝統ある地域産業を支えてきたローカルメーカーの事業は廃業を余儀なくされることから、イタリア共和国における地域産業は後退の路を辿ることとなり、果ては国家の経済活動の衰退を招くこととなる。

さらに、我が国とEU間でのFTAにおいては、原産地名称保護が要請されており、先のスイス連邦とのFTAに鑑みると、我が国においてイタリアのPDOの保護が約束されることは自明である。すなわち、PDOの保護は、我が国とイタリア共和国との関係を左右するといっても過言ではなく、我が国においてイタリアのPDOに保護が与えられず、濫用されるようであれば、我が国とイタリア共和国との関係性は悪化の一路を辿り、我が国とイタリア共和国との商取引が潰えることにつながりかねない(甲9)。

以上より、イタリア共和国におけるPDO製品は、イタリア共和国における地域産業に不可欠な製品であり、同時に我が国とイタリア共和国との関係性をも左右するものである。

イ 「ASIAGO」の保証機能

PDO製品の保護協会は、それぞれの認証商標を所有し、これによりチーズの原産地、製造方法、品質等全てを保証しているところ、「アズィアーゴ産チーズ」の保護協会である請求人も、引用商標に代表される商標を有している。認証商標は、チーズに焼印として付されたり、刻印されたり、あるいは包装紙に印刷されるなどの方法で付されている(甲31〜甲37、甲40〜甲47、甲65)。「アズィアーゴ産チーズ」の製品規格は厳密に定められており、チーズ製造時の温度、水分量の管理から、チーズの原料となる牛に与える飼料の種類まで、その製品規格にこと細かく定められている。

PDOで保護される「アズィアーゴ産チーズ」は、その製造手順や品質が維持されなければならず、請求人は定期的に「ASIAGO」についての適正な使用を行っていることを証明すべく書面を提出する義務を負っている。

すなわち、引用商標及び「ASIAGO」は、それが使用される商品が、その製法及び製品の原産地が厳密に管理され、PDOの保護を維持し続けているこの上なく品質の高い「アズィアーゴ産チーズ」であることを保証することから、原産地のみならず、生産における基準及び管理の厳格さや、徹底した品質管理のもとに生産されたチーズであることを保証する機能を有するということができる。そして、前述のとおり、保護協会たる請求人は、国から製造及びその製品の営業販売に関し、厳しい監視役の権限をも委託されており、設立以来40年に渡り、イタリアの酪農乳製品業界の保護発展に重要な貢献をし続けてきたのであるから(甲9)、イタリア共和国にとっては、農産業を発展させ、イタリア共和国産を騙る粗悪な商品等から自国の農産業を守る機能を有し、我が国の需要者にとっては、商品選択の判断をする重要な手がかりとして機能するという重要な役割を果たすものである。

したがって、引用商標及び「ASIAGO」は、もはや単にその生産地を示すのではなく、製造工程や品質の管理について農林水産省の認可を受けた「イタリア共和国政府お墨付き」を表す保証章というべきである。

(2)第4条第1項第19号該当性について

ア 上記(1)を踏まえて本件商標をみると、本件商標は、上記のとおりイタリア共和国でPDOの登録を受けた「ASIAGO」の文字を有してなるものであるところ、被請求人は、「アズィアーゴ産チーズ」を生産することができる請求人に加盟しておらず、請求人に接触し、加盟の意思表示をするなどもしていない。また、カナダ及び米国にのみ拠点を有する被請求人が、PDOに登録された「ASIAGO」に対応する明細書に合致したチーズを製造していることはあり得ない(甲62)。したがって、被請求人は、「アズィアーゴ産チーズ」について本件商標を使用することができない。

しかしながら、それにもかかわらず、被請求人が「ASIAGO」の名声にあやかろうとして本件商標を出願したことは、被請求人のウェブサイトから客観的に明らかである。

すなわち、被請求人のウェブサイトにおける「ASIAGO」というチーズの商品紹介ページを参照すると、「ASIAGO」と冠されたチーズの画像が掲載されているところ、該チーズのラベルには、「Asiago」の文字と共に、米国の国旗及び「PRODUCT OF U.S.A」の文字が描かれている(甲15)。被請求人は、本件商標の指定商品を「アズィアーゴ産チーズ」に補正しているのであるから、本件商標に含まれる「ASIAGO」の語がイタリア共和国の地名であり、PDOにより原産地称呼の保護を受けていることについて悪意であるにもかかわらず、米国産チーズに「Asiago」の文字列を使っている。これに鑑みると、被請求人は、「Asiago」がイタリア共和国の伝統ある高品質なチーズの生産地として知られていることに鑑みて、「Asiago」を自己の商標に採用すれば、その名声にあやかって事業を行うことができると考え、さらに自己の製造・販売する商品があたかも真正の「アズィアーゴ産チーズ」であるかのように誤信させるべく、「ASIAGO」の文字を使用しているというほかない。これは、被請求人が著名な引用商標及び「ASIAGO」をひょう窃し、また、引用商標及び「ASIAGO」の有する顧客吸引力へ“ただ乗り”して引用商標、及び「ASIAGO」の有する莫大な顧客吸引力を不当に利用しようとする不正の意図を持って、本件商標を出願したことの裏付けというべき事実である。

被請求人のウェブサイトによると、被請求人は、欧州諸国には拠点を有さない一方、米国やカナダに拠点を有していることから、米国等で生産された商品に本件商標を使用するであろうことはほぼ疑いが無いと思われる。それにもかかわらず、被請求人がいかにも本件商標を「アズィアーゴ産チーズ」に使用するかのごとく指定商品を補正し、登録に至らしめたのは、「米国産のチーズ」であっても、少なくとも本件指定商品の「アズィアーゴ産チーズ」の禁止権の及ぶ範囲に含まれることから、商標権の庇護の下、他人の使用を排除しつつ、同時に他人の権利を侵害するおそれを弱めて、米国産のチーズに「Asiago」を用いてその名声にあやかることが可能であるからと考えられる。

かかる意図の下に指定商品を補正し、本件商標を「米国産チーズ」に使用することは、結果として需要者の間に品質の誤認を生ずる(商標法第4条第1項第16号)。そのような意図のもと出願された商標の登録を認め、商標権という半永久的に存続する強力な権利を生じさせることは、断じて許されるべきではない。

請求人とは何の関わりもなく、請求人の販売する高品質の「アズィアーゴ産チーズ」とはその原産地及び品質の両方が全く異なるチーズを販売する米国企業である被請求人に、本件商標の登録が認められるとするならば、イタリア共和国が1,000年以上にわたり高品質の「アズィアーゴ産チーズ」を生産し続けてきた努力が水泡に帰すことは明らかである。のみならず、これに端を発し、我が国においては、「ASIAGO」と名のつくものの、原産国も品質も保証されていない有象無象のチーズが流通する事態へとつながる。結果として、我が国におけるイタリア共和国産のチーズに関する取引の安全性はもろくも失われる。

すなわち、指定商品に使用する予定はないものの、その禁止権の範囲のみを抑えることを目的として出願された「ASIAGO」を含む本件商標に登録を与えることは、結局、品質誤認の問題を生じさせるにとどまらず、イタリア共和国及び請求人にとって何ら謂れのない他国のチーズの品質を原因として、引用商標及び「ASIAGO」に化体したイタリア共和国産及び請求人に対する需要者の信頼を失墜させることを意味する。さらに、請求人の著名な引用商標及び「ASIAGO」が有する出所識別機能(指標力)は希釈化されてしまう。我が国においてかかる商標の登録を認めることは、イタリア共和国がPDOによって厚く保護する「ASIAGO」の有象無象の商品への使用を助長し、「ASIAGO」に化体した上質なイメージが著しく汚染される自体を野放しにすることを意味するから、これが我が国とイタリア共和国の関係の悪化を引き起こすことは自明である。結果として、特に経済的側面において、我が国とイタリア共和国との間に修復不可能な溝が生じ、国家間の友好関係における危機を招来する。

かかる事態は、欧州諸国と手を取りあって経済発展に努め、我が国の産業を発展させる目的の下に長らく行われているFTA交渉に暗雲をもたらし、ひいては我が国とEU加盟国全てとの関係に多大な悪影響を及ぼすといっても過言ではない。

以上より、本件商標は、他人の業務に係る役務を表示するものとして日本国内及び外国において著名である申立人の引用商標及び「ASIAGO」に類似する商標であって、不正目的をもって使用するものに他ならないから、商標法第4条第1項第19号に該当する。

イ 被請求人の主張について

(ア)被請求人は、イタリア共和国でPDO登録された産品の保護を我が国が同様に保護すべき内容の条約等が批准されていないから、イタリアのPDO登録が我が国で保護されるという請求人の主張が失当であると述べ、

また、被請求人は、EU・カナダ包括的経済貿易協定(CETA)においては、Asiagoを含む5種類のチーズの名称について、既にカナダ市場で当該名称が使用されている商品は、その継続使用が認められることとなっていることから、米国同様カナダでも「ASIAGO」の文字がチーズの一般名称として認識され、使用されていると述べ、加えて、被請求人は、「ASIAGO」の文字はチーズの一種類を示す一般名称にすぎず、被請求人は「ASIAGO」をチーズの一般名称として使用する意思を持って出願したのであるから、不正の目的はないと述べている。

しかしながら、本件商標の出願経過及び被請求人の主張には、以下のとおり大きな矛盾点が存在する。

すなわち、まず出願過程において、被請求人は平成27年7月27日に特許庁より拒絶理由を受けているところ、該拒絶理由通知内で明確に「(本願商標は)『SAPUTO ASIAGO』の文字(標準文字)から成るところ、その構成中に『ASIAGO』の文字を有しています。ところで、上記の文字はイタリア産(ヴィチェンツァ産など)のチーズを表すものであって、欧州における原産地称呼保護がなされているものです。」との指摘を受け、そのうえで指定商品を「『アズィアーゴ』の原産地称呼で保護されているイタリア産のチーズ」と補正している。したがって、被請求人は本件商標に含まれる「ASIAGO」はイタリア産(ヴィチェンツァ産など)のチーズを表すものであって、欧州における原産地称呼保護がなされているものであると認識している。

さらに、被請求人は、商標法第3条第1項柱書に関する主張において、「例えば、被請求人が近い将来、EU諸国の企業を買収し、本件商標を付した『アズィアーゴ産チーズ』の製造販売を開始することも十分考えうる。」と述べているから、被請求人は「アズィアーゴ産チーズ」は原産地名称保護制度で保護されたアズィアーゴチーズの生産のための所定の領域でしか生産できない商品であると認めている。

他方、被請求人は、「『ASIAGO』の文字をチーズの一般名称として使用する意思を持って本件商標出願をしたにすぎない。」とも述べている。

これらの主張は明らかに矛盾しており、被請求人が、本件商標に内在する各無効理由を逃れるため、その場その場で都合のよい主張をし、特許庁を欺こうとしていることは客観的に明らかである。

それどころか、被請求人は「ASIAGO」がPDOで保護された地理的表示であることに悪意であり、特許庁による拒絶理由通知において、本件商標を「本願の指定商品中、『アズィアーゴ』の名称で保護されているイタリア共和国産のチーズ以外の商品について使用するときは、その商品について品質の誤認を生じさせるおそれがあります。」と指摘されているにもかかわらず、本件商標に含まれる「『ASIAGO』の文字をチーズの一般名称として使用する意思を持って」いるのであるから、被請求人は、まさに「その商品について品質の誤認を生じさせる」使用をする意思があると宣言している。

以上より、被請求人の主張には矛盾があるうえ、被請求人には、需要者に対し害をなす悪質な使用をする意思があることが明らかである。

(イ)上記(ア)を前提に検討すると、まず平成29年7月6日に、我が国とEUは、経済連携協定(EPA)につき大枠合意し、「ASIAGO」は、地理的表示保護対象として公示されている。

したがって、我が国における地理的表示の保護に関する被請求人の主張は失当である。

また、被請求人は、カナダでは「ASIAGO」が一般名称化しているから、「ASIAGO」をチーズの一般名称として使用する意思をもって本件商標の登録出願をしたにすぎないと述べている。

しかしながら、前述のとおり、被請求人は「ASIAGO」がイタリア共和国の伝統ある高品質なチーズの生産地として知られていることに悪意であり、そのうえで「ASIAGO」の名声にあやかって事業を行うことを意図して本件商標を出願し、補正手続を行い、登録を受けたものである。そして、登録が取り消されかねないとなれば、「ASIAGO」はチーズの一般名称と認識していたなどというその場しのぎの主張によって登録を維持しようとしているのであるから、不誠実極まりなく、取引上の信義則にも反し、まさに不正の意図を持って出願された商標といわざるを得ない。

かかる商標登録を維持することは、被請求人に対し、「アズィアーゴ産チーズ」の禁止権の範囲における有象無象のチーズの安易な製造を許すことと同義であるから、結果として「アズィアーゴ産チーズ」の生産者が築きあげてきた商品への信頼を瞬く間に失わせ、ひいては我が国における取引の安全性が失われる。

以上より、本件商標は、他人の業務に係る商品を表示するものとして日本国内及び外国において著名である請求人の引用商標及び「ASIAGO」に類似する商標であって、不正目的をもって使用するものに他ならないから、商標法第4条第1項第19号に該当する。

(3)第4条第1項第7号該当性について

ア PDOによる保護を維持するための品質等に関する基準を満たさないチーズについて、「ASIAGO」の使用をせんとする者に商標登録を認めることは、イタリア共和国の製品に対する尊厳性が便乗商標の悪用により害されてしまうのを看過するのと同義であるから、国際信義に反するうえ、それこそ、我が国の商標法が第4条第1項第1号で保護しようとする「国家の尊厳」を適切に保護し得ない結果となる(甲63)。

「ASIAGO」の語を含む本件商標は、指定商品の表示が「『アズィアーゴ』の原産地称呼で保護されているイタリア産のチーズ」と補正されたことから、一見品質誤認の問題は生じえないようにも思えるが、その被請求人(商標権者)の性質をみれば、被請求人が前記指定商品について本件商標を使用することなど有り得ないことは明らかである。それにもかかわらず、チーズの原産地から始まり、その製造方法や品質までも保証する保証章として機能する「ASIAGO」を目印に、その商品が「イタリア共和国政府お墨付き」のチーズであると期待して「アズィアーゴ産チーズ」を買い求める需要者及び取引者は、本件商標「SAPUTO ASIAGO」が付された商品も「アズィアーゴ産チーズ」であると期待(誤信)して購入に至り、その結果、需要者の期待は裏切られ、イタリア共和国を原産国とするチーズの品質についての信用は失墜する。裏を返せば、単純に指定商品の表示が出願商標の示す品質と矛盾しないことのみをもって、本件商標に登録を与え、本件商標が「アズィアーゴ産チーズ」以外の商品に使用されることに目をつぶることは、我が国の行政機関である特許庁が、「ASIAGO」を冠したチーズを生産する資格を有さない者に対して「ASIAGO」に化体する名声・信用へ便乗することを認めるばかりか、「ASIAGO」の文字を手掛かりにチーズを購入する需要者に害をなすことを許容することを意味する。結果として、需要者は不測の損害を被ることになり、需要者の購買意欲は低下し、ひいては我が国の経済発展の阻害につながる。

我が国において、平成26年、第186回通常国会で「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律」(地理的表示法)が成立し、平成27年6月1日から施行されたことから、地理的表示に対する保護の姿勢は一層厳格になされるべきところ、かかる地理的表示を含む商標については、単に指定商品の表示が「アズィアーゴ産チーズ」とされたのみで登録が認められるべきではなく、その指定商品が、本当にその出願人の業務に係る商品であるか、あるいは、将来その出願人の業務に係る商品又は役務に使用される蓋然性があるかについてまで検討のうえ、登録の是非の判断がされるべきである。そうでなければ、単に指定商品の表示を補正することのみで、何ら「アズィアーゴ産チーズ」に関わりのない者に商標権が付与される事態が起こる。このように、商品の出所表示機能や品質保証機能を有しない商標が登録され、その商標が用いられた商品が世の中に流通することは、我が国の取引秩序を混乱させるおそれがあるから、本件商標は社会公共の利益に反するというべきであり、国際調和の理念に反するのみならず、我が国の産業の発展を目的とする商標法の趣旨(第1条「この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。」)にももとる結果となる。

さらに附言すれば、我が国において原産地称呼の保護義務が未だ課せられていないことを奇貨として、PDOで保護されている「ASIAGO」を冒用せんとする本件商標は、まさに我が国が、これからの日本の産業の活性化のために、政策として採用した「地理的表示保護制度」と真っ向から対立するものである。それにもかかわらず、特許庁において、「ASIAGO」と何らかかわりのない被請求人により出願された本件商標について登録を与え、これを維持するとすれば、それ即ち、地域ブランドの活性化を図るため、基準を満たした産品についてのみ登録を与え、産品の適切な評価を維持し、財産的価値の維持向上及び需要者が抱く産品への信頼の保護の実現を目的とする「地理的表示保護制度」とは方針を真逆にすることを宣言するにほかならない。そうとすれば、我が国の農産業の発展を支える生産者は、長年の地道な努力の結果、その品質が評価され、名声を得た地域ブランドについて、商標法によってはその保護を図ることができないと理解し、地理的表示法にその保護を求めることとなる。結果として、商標法が地域団体商標登録制度(第7条の2)で達成せんとする「地域の産品等についての事業者の信用の維持を図り、地域ブランドの保護による我が国の産業競争力の強化と地域経済の活性化」を図ること(甲64)はついに叶うことはなく、結果として、「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護すること」たる法目的(第一条)は、未来永劫実現不可能となる。

したがって、被請求人が出願した本件商標に登録を与え、これを維持することは、国際信義上不適切であり、社会公共の利益に反するうえ、地理的表示法及び商標法の目的達成を妨げるものであるから、本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当する。

イ 被請求人の主張について

被請求人は、商標法第4条第1項第7号の適用については、「ある商標が『矯激、卑猥な文字、図形からなるものである場合』、『商標の構成自体がそうでなくとも、指定商品について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般道徳観念に反するような場合』、あるいは、『他の法律によって、その使用が禁止されている商標、特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反するような商標である場合』等の限定された場合においてのみ適用されるべきであって、むやみに解釈の幅を広げるべきではない。」と述べ、本件商標はそのいずれにも当てはまらないし、被請求人には指定商品について使用意思があるため、被請求人に使用意思がないことを前提とする請求人の主張は誤りであると主張する。

しかしながら、被請求人の使用意思を前提にした上記主張については以下のとおり反論する。

まず、被請求人は、自社が大手乳業製品メーカーであることや、その業界の一般的な傾向の説明をしているにとどまり、具体的な事業計画等を示していないのであるから、被請求人には商標法が商標の登録を認めるに値する使用意思がないことは前述のとおりである。

また、被請求人は、「本件商標の使用が、イタリア共和国の権威と尊厳を損ねるものではなく、一般に国際信義に反するものとはいえない。」と述べるが、被請求人は、イタリア共和国で生産されたチーズでなければ「アズィアーゴ産チーズ」ということができないと知りながら、「被請求人は、『ASIAGO』の文字をチーズの一般名称として使用する意思を持って本件商標の登録出願をしたにすぎない。」と述べ、自ら本件商標をPDOで保護された「アズィアーゴ産チーズ」に使用する意思を有さないと認めている。これは、被請求人がイタリア共和国及び請求人にとって何ら謂れのないチーズにつき本件商標を使用するという宣言と同義である。

我が国とイタリア共和国が加盟するEUは、経済連携協定(EPA)につき大枠合意し、農林水産省により公示された地理的表示法第28条に基づき指定の実施をしようとする外国の産品のなかに「ASIAGO」の表示が含まれている。このような状況下で、我が国の行政機関である特許庁が、PDOで保護された「ASIAGO」を冠したチーズを生産する資格を有さない被請求人の本件商標の登録を維持することは、EUの地域産業を支える要であるPDO製品の価値を失わせることにつながり、イタリア共和国の権威と尊厳を損ねるうえ、まさに国際信義に反するものというべきである。

加えて、商標法第4条第1項第16号の趣旨は、「商標とその使用商品等との不実関係、すなわち、商標が表す観念と使用商品等とが符合しないために、需要者が誤った商品を購入し又は役務の提供を受けることなどの錯誤を防止するために、商品の品質等について誤認を生ずる虞のある商標は登録できないものとして、需要者の保護を図ったものである」(甲109)ところ、被請求人により、本件商標が「アズィアーゴ」の名称で保護されているイタリア共和国産のチーズ以外の一般的なチーズに使用された場合には、「ASIAGO」の文字を手掛かりにチーズを購入する需要者は、誤った商品を購入するという事態に陥る。結果として、需要者は不測の損害を被ることになり、我が国の取引秩序が混乱するおそれがあるから、本件商標は社会公共の利益に反し、社会の一般道徳観念に反する商標である。

ところで、商標法第4条第1項第7号に関する知財高裁平成18年9月20日判決によると、同号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に関し、以下の内容を考慮すべきである(甲110)。

商標法第4条第1項第7号は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は、商標登録を受けることができないと規定する。ここでいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、(i)その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、(ii)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、(iii)他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、(iv)特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、(v)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるというべきである。

すなわち、(v)「当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合」には、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」としてその登録を無効とされるべきである。

これを踏まえて本件商標の出願経過及び答弁の内容をみると、被請求人は、審査の過程で本件商標を「アズィアーゴ」の名称で保護されているイタリア共和国産のチーズ以外の商品について使用したならば、その商品について品質の誤認を生じさせるおそれがあると知ったにもかかわらず、商標登録を受けるためだけに指定商品の補正を行い、その後無効審判を請求された際には、登録が取り消されることを避けんがために、各無効理由に対し一貫性のない主張で反論を行い、その実、需要者に対する不測の損害を省みずに、品質誤認を生ずる方法で本件商標を使用すると宣言している。

これはまさしく「出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある商標」に該当する。

加えて、被請求人が「ASIAGO」は「アズィアーゴ産チーズ」を指すと認識していても、逆に「ASIAGO」をチーズの一般名称であると認識していても、被請求人に使用意思がないことは前記5(2)のとおりである。

商標法の目的は「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護すること」(第1条)であり、商標法の登録制度は、商標の使用をするものが商標の継続的な使用により獲得した業務上の信用に価値を認め、登録という形で保護を与えんとするものである。

上記のとおり、被請求人が「アズィアーゴ産チーズ」について本件商標を使用することはあり得ないのだから、本件商標に登録という形で保護を与えたとしても、本件商標に使用によって信頼が蓄積することは起こり得ず、法が予定する秩序に反するといわざるを得ない。

したがって、本件商標は、その出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることは、商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないから、本件商標は、商標法第4条第1項第7号該当するものである。

7 商標法第4条第1項第10号、第11号及び同第15号について

(1)引用商標及び「ASIAGO」の著名性について

イタリア共和国ヴェネト州ヴィチェンツァ県北部のアズィアーゴにおけるチーズ生産の歴史は古く、1,000年以上もの昔から作られてきたチーズの生産地として、我が国においても度々書籍等に取り上げられている(甲31〜甲60)。イタリア共和国ヴェネト州ヴィチェンツァ県にある基礎自治体(コムーネ)にて1979年に設立された請求人は「アズィアーゴ産チーズ」の保護につき責任を負う団体であり、請求人による厳格な品質の維持、製造実績が認められた結果、「ASIAGO」は、1996年6月12日に、生産・加工・調整の全てが一定の地理的領域内でなされた農産物、食品、飲料のみを対象とする最も厳しい基準であるPDOの登録を受けた(甲5)。

このような「アズィアーゴ産チーズ」は、キャセインコード・シリアルナンバー等の識別標識を付した上で、我が国をはじめとし、英国・仏国・独国等の欧州各国、米国、韓国、中国等、世界中に輸出・販売されており(甲65)、2014年の生産量は、162万6000個にも及んでいる(甲66)。これらの全てを生産するのが、請求人に属する「アズィアーゴ産チーズ」の生産者である。先述のとおり、請求人は、「アズィアーゴ産チーズ」の保護協会であるから、商品の品質を維持するためにも、引用商標及びその他の態様の「ASIAGO」商標、及び他の真正な「アズィアーゴ産チーズ」を示す標識の使用について厳しい基準を設けている(甲67)。

したがって、アズィアーゴ産チーズの購入を欲する需要者は、否応なしに引用商標及び「ASIAGO」の文字からなる標章(以下「引用標章」という。)を目にするのであるから、引用商標は「アズィアーゴ産チーズ」を購入する全ての需要者に知られている著名商標である。また、「ASIAGO」は、もはや単にその原産地名を表すにとどまらず、「ASIAGO」が使用されるチーズの品質を保証すると同時に、出所表示機能を有する著名ブランドである。

(2)本件商標と引用商標との類似性について

ア 観念

まず、引用商標についてみると、引用商標は、第4文字目が大きく表示された横書の欧文字「ASIAGO」6文字の上部に、切り込みを入れた円を配した構成から成る商標である。したがって、引用商標からは、「イタリア共和国ヴェネト州ヴィチェンツァ県北部のアズィアーゴ」の観念が生じる。

他方、本件商標は、欧文字の「SAPUTO ASIAGO」の12文字から成る商標である。前述のとおり、「ASIAGO」はチーズについてPDOの登録を受けた著名ブランドであるから、「ASIAGO」を含む商標に接した看者は、「ASIAGO」の文字列から、「イタリア共和国ヴェネト州ヴィチェンツァ県北部のアズィアーゴ」の観念を読み取る。また、「SAPUTO」は造語のようであるが、被請求人のウェブサイトによると、「SAPUTO」はもともと被請求人の創業者であるSAPUTO家の名であり、それを社名に採用したもののようである(甲69)。したがって、「SAPUTO」からは「SAPUTO社」の観念が生じる。

ところで、我が国におけるバターや牛乳などの乳製品の商品名をみると、「北海道牛乳」や「北海道バター」といった地名を用いた商品が多数あるところ、これらの商品を販売する企業は、他社製品と区別する方法として、「雪印メグミルク 北海道牛乳」、「明治 北海道牛乳」若しくは「森永 北海道牛乳」、又は「雪印 北海道バター」、「明治 北海道バター」若しくは「森永 北海道バター」といったように、産地等を表示する語の前に企業名を付すという慣行があるようである(甲70〜甲77)。これに鑑みると、同じく乳製品であるチーズを指定商品とする本件商標についても同様の判断がされると考えてしかるべきである。

これを踏まえると、本件商標からは、「サプート社のイタリア共和国ヴェネト州ヴィチェンツァ県北部のアズィアーゴ」の観念が生じる。

さらに、本件商標を構成する「SAPUTO」と「ASIAGO」の間にはスペースがあることから、「SAPUTO」と「ASIAGO」は分離しやすく、さらに、前述のとおり、「ASIAGO」は本件商標の指定商品について、需要者の間に広く認識された請求人の著名ブランドであるから、「SAPUTO」と結合した商標であったとしても、「ASIAGO」部分がきわだって認識されやすいということができる。したがって、「ASIAGO」の著名性に鑑みても、本件商標からは、「イタリア共和国ヴェネト州ヴィチェンツァ県北部のアズィアーゴ」の観念が生じる。

以上より、本件商標から生じる観念の一つである「サプート社のイタリア共和国ヴェネト州ヴィチェンツァ県北部のアズィアーゴ」の観念は、サプート社があたかも「アズィアーゴ産チーズ」を生産する生産者の一つであるかのような印象を与えるものであるから、引用商標と観念において相紛らわしく、さらに本件商標から生じる「イタリア共和国ヴェネト州ヴィチェンツァ県北部のアズィアーゴ」の意味合いは、引用商標から生じる観念と同一であるから、本件商標と引用商標とは観念においてほぼ同一といい得るほど似通った類似商標である。

イ 外観

上掲の引用商標の構成からも明らかなとおり、引用商標と本件商標とは、外観においても類似する。

すなわち、引用商標には欧文字の「ASIAGO」が明瞭に大きく記載されている一方、本件商標の「SAPUTO」と「ASIAGO」の間にはスペースが存在し、両語が分離しやすい構成から成る。加えて、上記(1)で述べたとおり、「ASIAGO」が著名ブランドであることに鑑みると、本件商標に接した需要者は、その観念からも、本件商標の「ASIAGO」部分に注目するというほかない。よって、本件商標は、「ASIAGO」の文字を構成要素とする引用商標と外観において相紛らわしい類似商標である。

ウ 称呼

さらに、両商標を称呼において比較すると、まず、引用商標からはその文字構成に従い、「アズィアーゴ」の5音の称呼が生じる。他方の本件商標全体の文字列からは「サプートアズィアーゴ」の称呼が生じるところ、これは全体で9音と冗長であることに加えて、上記ア及びイで述べたとおり、「SAPUTO」と「ASIAGO」は、観念及び外観において分断して認識されるから、本件商標からは、「サプート」の4音と「アズィアーゴ」の5音から成る称呼がそれぞれ生じる。

以上より、本件商標と引用商標とは、称呼においても相紛らわしく、類似関係にある。

(3)商標法第4条第1項第11号該当性について

上記(2)のとおり、本件商標は引用商標と外観・称呼及び観念において相紛らわしい類似の商標である。

加えて、本件商標の補正後の指定商品は「『アズィアーゴ』の原産地称呼で保護されているイタリア産のチーズ」であり、他方の引用商標の指定商品は「Cheese made in /originated in ASIAGO in the Province of Vicenza in the Veneto Region in Italy.(特許庁における日本語訳:イタリアのヴェネトのビチェンザ地方アズィアーゴ製/アズィアーゴ産チーズ)」であるから両商標の指定商品は類似関係にある。

以上より、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当する。

(4)商標法第4条第1項第10号該当性について

引用商標及び引用標章が、「アズィアーゴ産チーズ」について長年にわたり使用され、本件商標の出願時において、その商品の取引分野においても広く知られるに至っていたこと、及び、請求人の今後の継続使用に鑑みても、登録査定時においてもその著名性は高まり続けていることは前記の事実から明らかであると思料する。そうとすれば、引用商標及び引用標章と類似する本件商標をその指定商品に使用した場合、需要者は請求人の著名な引用商標及び引用標章を直ちに想起し、本件商標が使用された商品を、請求人又はその構成員の前記事業に係る商品であると誤信する(=狭義の混同が生じる)おそれがあるから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。

(5)第4条第1項第15号該当性について

請求人は、前記のとおり、本件商標と引用商標及び引用標章との間には、狭義の混同を生ずるおそれが存し、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当すると考えるが、仮に、狭義の混同のおそれが存しないとしても、本件商標と引用商標及び引用標章とは、外観・称呼・観念において類似する程度が高いものといわなければならず、また、引用商標及び引用標章が、「アズィアーゴ産チーズ」を指標するものとして1,000年以上にわたり使用され、その結果、本件商標の出願日である平成27年4月15日の時点において我が国において著名に至っていたことは、甲第31号証ないし甲第60号証から明白である。加えて、引用商標及び引用標章は、実質的に請求人に属する生産者のみが用いることのできる商標であるから、世界に唯一の商標であるということができ、その独創性は高く、本件商標が引用商標及び引用標章に依拠して採用されたものであることには疑いが無い。さらに、前述のとおり、本件商標の指定商品は、「『アズィアーゴ』の原産地称呼で保護されているイタリア産のチーズ」であるから、引用商標及び引用標章が使用される「アズィアーゴ産チーズ」との間には「混同を生ずるおそれ」が極めて強く存在する。さらに、前記したとおり、本件商標からは、「イタリア共和国ヴェネト州ヴィチェンツア県北部のアズィアーゴ」か、少なくとも「サプート社のイタリア共和国ヴェネト州ヴィチェンツア県北部のアズィアーゴ」の観念が生じるから、本件商標に接した需要者は、被請求人であるサプート社があたかも請求人に加盟している「アズィアーゴ産チーズ」を生産する生産者の一つであるかのような印象を与える。すなわち、本件商標が、その指定商品について使用された場合、著名な引用商標及び引用標章との関係で、被請求人が提供する商品が、あたかも請求人の事業に係るものか、又は請求人又はその構成員が承認したものであるか、あるいは請求人と業務上あるいは組織上何らかの特殊な関係がある団体又は企業体が提供する商品であるかのごとく誤認・混同されることは必至である。

よって、本件商標と引用商標及び引用標章との間には、少なくとも「広義の混同を生ずるおそれ」があるから、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当する。

(6)被請求人の主張について

被請求人は、「ASIAGO」は指定商品の品質等を表すと述べ、それを前提に、本件商標と引用商標とは外観及び称呼において非類似であり、観念においては比較できないため、非類似の商標であると主張する。

また、被請求人は、我が国のナチュラルチーズの総輸入量が合計241,647トンであり、それに比して「アズィアーゴ産チーズ」の我が国における流通量が少ないと考えられることから、引用商標及び引用標章の周知性を否定し、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、第11号及び同第15号には該当しないと主張する。

しかしながら、「アズィアーゴ産チーズ」の保護協会である請求人による厳格な規律のもと、商品の品質を維持するためにも、正当な「アズィアーゴ産チーズ」の本体や、あるいはその包装には本件商標に代表される認証商標や「ASIAGO」の文字が刻印・印刷されている(甲31〜甲60)。

かかる使用実績により、「ASIAGO」は、もはや単にその原産地名を表すにとどまらず、「ASIAGO」が使用されるチーズの品質を保証すると同時に、出所表示機能を有する著名ブランドである。したがって、「ASIAGO」の文字が出所識別標識として機能しないという被請求人の主張は失当である。

なお、被請求人は、我が国のナチュラルチーズ一般の総輸入量と「アズィアーゴ産チーズ」の我が国における推定の流通量とを比して「ASIAGO」の著名性を否定しているが、請求人は「ASIAGO」を実際に使用している商品である「アズィアーゴ産チーズ」に関する著名性を示しており、その他のナチュラルチーズ一般の総輸入量はかかる「ASIAGO」の著名性に影響しない。

そうとすれば、引用商標からは、「イタリア共和国ヴェネト州ヴィチェンツァ県北部のアズィアーゴ」の観念が生じる一方、本件商標からは、「サプート社のイタリア共和国ヴェネト州ヴィチェンツァ県北部のアズィアーゴ」の観念、又は「イタリア共和国ヴェネト州ヴィチェンツア県北部のアズィアーゴ」の観念が生じるから、本件商標と引用商標とは観念においてほぼ同一といい得るほど似通った類似商標である

また、我が国において引用商標及び引用標章は著名性を獲得しているのであるから、「ASIAGO」を含む本件商標が指定商品に使用された場合には、請求人の業務に係る商品と出所の混同を生ずることは明白である。

以上より、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同項第11号及び同項第15号に該当する。

8 結語

以上のとおり、本件商標は、商標法第3条第1項柱書並びに同法第4条第1項第7号、同項第19号、同項第11号、同項第10号、及び同項第15号に該当するにもかかわらず、誤って登録されたものであるから、その登録は同法第46条第1号の規定により無効とされるべきものである。

第4 被請求人の主張

被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第23号証を提出した。

1 商標法第3条第1項柱書該当性について

(1)商標法第3条第1項柱書の趣旨

商標法第3条第1項柱書は、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。」と定めている。

ここで、自己の業務に係る商品又は役務について「使用をする商標」について、商標審査基準〔改訂第13版〕に以下の記載がある。

『「使用をする」とは、指定商品又は指定役務について、出願人又は出願人の支配下にあると実質的に認められる者が、出願商標を現に使用している場合のみならず、将来において出願商標を使用する意思(以下「使用意思」という。)を有している場合を含む。』とされている(乙1)。

加えて、「使用をする商標」については、以下の解釈が通説である。

『「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする」商標とは、現在自己が使用している商標に限らないのであって、将来使用しようとする商標でよい。出願から登録までは時間が掛かり、また、業務中にも、新規展開の事業計画が発生してくるのであるから、将来の業務のために新しい商標を予め登録を受けておく必要もある。』(乙2)。

さらに、我が国の商標法は登録主義を採用しており、「登録主義」について、工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第20版〕に以下のとおり解説されている。

『登録主義においては、現実に商標の使用をしていることを商標登録の要件とすると、折角使用をしてその商標に信用が蓄積しても、出願した場合に不登録理由があることによって不登録となるような事態が予想されるから、あらかじめ使用者に将来の使用による信用の蓄積に対して法的な保護が与えられることを保証すべきであり、そのためには現実にその商標の使用をする予定のある者には、近い将来において保護に値する信用の蓄積があるだろうと推定して事前に商標登録をすべきだというのである。そして、一定期間以上使用をしなければ事後的に商標登録を取り消せばよいというのである。』(乙3)。

以上によれば、商標法第3条第1項柱書においては、出願人が現に商標をその指定商品等に使用をする場合のみならず、将来において使用をする意思があれば登録を認めるものと解されるのが通例である。

また、同項柱書の「自己の業務」については、商標審査基準[改訂第13版](乙1)において、『「自己の業務」には、出願人本人の業務に加え、出願人の支配下にあると実質的に認められる者の業務を含む。』とされている。ここで、出願人の支配下にあると実質的に認められる者の業務の例として、(i)出願人がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社の業務、(ii)(i)の要件を満たさないが資本提携の関係があり、かつ、その会社の事業活動が事実上被請求人の支配下にある場合の当該会社の業務、(iii)出願人がフランチャイズ契約におけるフランチャイザーである場合の加盟店(フランチャイジー)の業務、が明示されている。

(2)被請求人の業務

被請求人である「サプート デアリー プロダクツ カナダ ジーピー」は、カナダ国モントリオールに本社を置く1954年創業の乳製品・食品雑貨メーカーであり、カナダ、米国、アルゼンチン、オーストラリアなど世界40力国以上に製品を供給している巨大企業である(乙4〜乙6)。

被請求人の事業規模は、2017年の年間売上高が約11.2億カナダドル(約9,900億円)であり、従業員数は約12,800人にものぼる(乙4)。

また、被請求人は、2013年に米国のディーン・フーズ社のモーニングスター・ブース部門(2012年9月期の年間売上高約1,320億円)を約14億5,000万米ドル(約1,200億円)で買収し(乙7)、2014年にオーストラリアのフーナンプール・チーズ・アンド・バター社を約4億4,880万豪ドル(約410億円)で買収しており(乙8)、その事業規模を拡大させている。

さらに、被請求人は、ブラジルの食品会社大手であり世界140力国以上に製品を輸出しているブラジルフーズ社(2010年度の年間売上高約22,681百万レアル(約1兆1,100億円))の買収候補元として名乗りを挙げていた(乙9、乙10)。

一般に寡占化が進んでいるといわれる食品業界の中でも、特に乳業は寡占化が進んだ分野であり、世界の乳業メーカーの売上高ランキングをみると、上位10社は年間売上高1兆円を超す企業ばかりである。その中で被請求人は、2010年度年間売上高世界11位、2012年度年間売上高世界9位、2014年度年間売上高世界8位とその事業規模を年々拡大させている(乙11)。

そして、近年の乳製品業界の再編においては、被請求人を含む乳業大手メーカーが、EU諸国やアジア諸国の競合他社を買収する案件が目立つ(乙12)。

以上のように、被請求人はカナダや米国等の北米地域に留まらず、世界各地でその事業を展開しており、今後、その事業規模をさらに拡大していくことが容易に想像できる。例えば、被請求人が近い将来、EU諸国の企業を買収し、本件商標を付した「アズィアーゴ産チーズ」の製造販売を開始することも十分考え得る。

(3)商標法第3条第1項柱書の該当性

被請求人に関する上記事実及び事業展開の可能性に鑑みれば、被請求人又は被請求人の支配下にあると実質的に認められる者が、本件審判請求に係る指定商品についての業務を行う蓋然性を、本件商標の登録査定時において否定することは不可能であり、登録査定の判断に誤りはない。また、被請求人の将来における使用意思までを否定するに足る証拠も提出されていない。

よって、請求人の「被請求人が、本件商標の指定商品『アズィアーゴ産チーズ』に係る業務を行う予定もないことは明白である。」との主張は失当である。

(4)我が国と諸外国との協定等

請求人は、「日本国とスイス連邦との間の自由な貿易及び経済上の連携に関する協定(JSFTEPA)」を示して、「スイス連邦のチーズにもまして我が国で広く知られている『ASIAGO』については、我が国が保護を与える義務を負うことは明らかである。」と主張するが、これは失当である。なぜなら、当該協定はスイス連邦と我が国の間のみで効力を発するものであり、これを以て、我が国がスイス連邦における原産地称呼保護制度と同様の保護をイタリア共和国の産品に与えるとする理由はないからである。

また、請求人は、2012年4月開催の農水省の地理的表示保護制度研究会において、米国の「食品一般名称コンソーシアム」の意見を示して、「『ASIAGO』の語がチーズの種類を示す一般名称になっていないことが明らかである。」(甲78)と主張している。

しかしながら、2014年8月3日開催の農水省の第5回地理的表示保護制度研究会においては、以下のとおり、(i)チーズの名称に対する保護レベル、(ii)チーズの一般名称の取扱い、(iii)チーズの名称の保護範囲について、我が国のチーズ業者及び我が国へのチーズ輸出業者並びに我が国の需要者の利益の保護の観点から、チーズの名称に対する過剰な保護の悪影響を懸念する多くの意見や見解が出ている(乙13)。

まず、(i)我が国におけるチーズの名称に対する保護レベルとEU諸国における保護レベルとの違いについて、我が国におけるチーズの名称に対する保護レベルとEU諸国における保護レベルを同等には考えられない旨の意見や見解が出ている。

また、(ii)チーズの一般名称の取扱いについて、我が国におけるチーズの一般名称化の基準と、EU諸国におけるチーズの一般名称化の基準を同様に扱うことは考えられない旨の意見や見解が出ている。

さらに、(iii)チーズの名称の保護範囲(単一名称にまで及ぶか、複合名称か)について、チーズの一般名称の自由な使用を阻むEUの制度は、日本を含む世界各国で受け入れられないという意見や見解が出ている。

加えて、以下のような、米国やオーストラリアを代表するチーズ関係者の意見が公表されている。「地域的表示(GI)を使用する権利を持っている企業が、GIの範囲に於ける個別の語として使われることの多い『パルメザン』、『ゴルゴンゾーラ』、『アジアーゴ』そして『フェタ』のような一般名称にまで保護対象を拡大しようとするのであれば、それは競争を阻害することを目論んだ過剰適用に他なりません。」(乙14)。「EUは概して、EU以外では一般名称とされているものや一般名称である要素を含んだものも、地理的表示として数多く保護してきました。例えば、(中略)アジアーゴ(ASIAGO)、(中略)などがあげられます。我々は、日常的に使われるようになった名称に誰も排他的『権利』を主張すべきでない、と信じています。規制によって特定の名称に特別な価値を与えることは、ヨーロッパだけに利益を与えるものです。(中略)さらに、すでに確立された地域ブランドが明確な理由もなく新たなブランドへ変更を余儀なくされた場合、消費者に混乱をもたらします。特に、このことは普段から高品質の国産もしくは輸入チーズを幅広く選択できる日本の消費者に当てはまります。」(乙15)。

ここで、オーストラリアは、我が国における2015年度ナチュラルチーズ国別輸入量第1位(89,344トン)であり、日本に輸入されるナチュラルチーズの約3分の1は豪州産である(乙16)。以下、第2位ニュージーランド(57,074トン)、第3位アメリカ(36,645トン)と続く(乙16)。これら3力国からの輸入量が、我が国におけるナチュラルチーズ輸入総量の約4分の3を占めることになることから、我が国においてオーストラリア産や米国産のチーズが広く一般に普及しており、我が国の需要者にとっては、EU諸国のチーズよりもオーストラリア産や米国産のチーズの方がより馴染み深いことが分かる。

すなわち、上述のオーストラリア産業界代表や米国産業界代表の意見は、我が国のチーズ産業及び我が国の需要者にとって重要な意味を持つといえる。

以上より、「ASIAGO」の語は、日本においてもチーズの種類や品質を示す一般名称として需要者に認識されるものと考えることが妥当である。よって、請求人の主張には理由がない。

(5)米国における「ASIAGO」の一般名称化

請求人は、我が国において「ASIAGO」が付された米国産チーズが販売されたことに対し、引用商標の商標権等を根拠として警告状を送付し、その販売が中止された事案を述べている。しかしながら、本件商標は「SAPUTO ASIAGO」であって、当該事案に係る商標とは非類似の商標であるから、当該事案の本件への援用には理由がない。また、当該警告状への回答書において、「ASIAGO」が付されたチーズを製造していた米国のアーサー・シューマン・インクは、米国における「ASIAGO」の名称の取扱いについて、以下のように回答したとされている。「本件チーズのパッケージに『ASIAGO』の文字を付したのは、本件チーズの種類及び品質を示す意図でありました。といいますのも、米国において、『ASIAGO』の文字が、チーズの風味若しくは食感を表す言葉、あるいは、そのような風味若しくは食感を有するチーズそのものを示す言葉と理解されているからです。」(甲82)。これは、米国において「ASIAGO」の文字は、チーズの一般名称を示すものにすぎないことを示す一例にほかならない。なお、当該アーサー・シューマン・インクは、「Hand Crafted ASIAGO」チーズを製造する創業70年以上の老舗チーズメーカーであり、当該「Hand Crafted ASIAGO」チーズは、世界チーズ選手権等で何度も入賞を果たしている質の高い製品である(乙17)。よって、上記回答書における同社のコメントは、米国のチーズ産業における「ASIAGO」の取扱いを端的に示すものであると考えられる。

また、米国におけるチーズに関するコンテスト(「United States Championsip Cheese Contest」や「世界チーズ選手権大会(WORLD CHAMPIONSHIP CHEESE CONTEST)」)において、チーズの部門を表す名称として、「FRESH ASIAGO」(フレッシュアジアーゴ部門)や「AGED ASIAGO」(熟成アジアーゴ部門)の表記が使われているというのである(乙18)。このことからも、米国における「ASIAGO」の文字は、特別な保護対象ではなく、チーズの一般名称として認識され、使用されていることが分かる。

以上、本件商標は、商標法第3条第1項柱書を根拠に、同第46条第1項第1号により無効とされるべきではない。

2 商標法第4条第1項第7号及び同項第19号について

(1)請求人の主張する前提となる事実への反論

請求人は、イタリア共和国におけるPDOの役割について述べているが、イタリア共和国でPDO登録された産品の保護を我が国が同様に保護すべき内容の条約等が批准されていない状況下、我が国とスイス連邦との自由貿易協定(FTA)を根拠に、「イタリアのPDO登録の保護が我が国において約束されることは自明である。」との請求人の主張は失当である。まして、被請求人の本件登録の維持が、我が国とイタリア共和国との関係を左右するとはいえない。

(2)被請求人の主張する前提となる事実

被請求人が居所を有するカナダ及びEU諸国間において、カナダ・EU包括的経済貿易協定(CETA)が2016年10月調印された(2013年基本合意、2014年正式合意、未発効)。これによれば、カナダ市場にとりわけ広く流通していた5種類のチーズ(アジアーゴ(Asiago)、ゴルゴンゾーラ(Gorgonzola)、フェタ(Feta)、フォンティーナ(Fontina)、ミュンスター(Munster)の名称については、既にカナダ市場で当該名称が使用されている商品は、その継続使用が認められることとなっている(乙19)。これは、カナダにおいても米国と同様に、「ASIAGO」の文字がチーズの一般名称として認識され、使用されていることを示すものである。

(3)商標法第4条第1項第19号該当性

ア 不正の目的について

前述のとおり、本件商標に係る指定商品についての被請求人の使用意思は否定されるべきものではない。

また、前述のとおり、米国やカナダにおける「ASIAGO」の文字は、チーズの一種類を示す一般名称にすぎない。カナダ法人である被請求人は、「ASIAGO」の文字をチーズの一般名称として使用する意思をもって本件商標の登録出願をしたにすぎない。

よって、被請求人が不正の目的を持って本件商標の登録出願をしたものと認める理由はない。

イ 商標の類否判断について

商標法第4条第1項第19号は、出願商標の同一又は類似を要件の一とするところ、後記3(1)のとおり、本件商標と引用商標及び「ASIAGO」とは、非類似の商標である。

以上より、本件商標は、商標法第4条第1項第19号を根拠に、同第46条第1項第1号により無効とされるべきではない。

(4)商標法第4条第1項第7号該当性

商標法第4条第1項第7号の適用については、「ある商標が『矯激、卑猥な文字、図形からなるものである場合』、『商標の構成自体がそうでなくとも、指定商品について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般道徳観念に反するような場合』、あるいは、『他の法律によって、その使用が禁止されている商標、特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反するような商標である場合』等の限定された場合においてのみ適用されるべきであって、むやみに解釈の幅を広げるべきではない。」とされている(乙20、乙21)。

これを本件についてみれば、本件商標は欧文字からなる「SAPUTO ASIAGO」であり、矯激、卑猥な文字、図形には該当しない。また、本件商標に係る指定商品についての使用意思は否定できないことから、指定商品について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般道徳観念に反するような場合には該当しない。さらに、本件商標の使用が、イタリア共和国の権威と尊厳を損ねるものではなく、一般に国際信義に反するものとはいえない。

以上より、本件商標は、商標法第4条第1項第7号を根拠に、同第46条第1項第1号により無効とされるべきではない。

なお、請求人は、「本件商標がその指定商品以外に使用されることに特許庁が目をつぶることが、『ASIAGO』に化体する名声・信用へ便乗することを認めるばかりか、『ASIAGO』の文字を手掛かりにチーズを購入する需要者に害をなすことを許容する。」と主張している。

しかしながら、前述のとおり、本件商標に係る指定商品についての被請求人の使用意思が否定されるべきものではない以上、不使用を前提とする請求人の主張は失当である。

3 商標法第4条第1項第10号、同項第11号及び同項第15号について

(1)本件商標と引用商標との類似性

ア 外観

本件商標は、横書きの欧文字「SAPUTO ASIAGO」のみからなる商標である。一方、引用商標は、横書きの欧文字「ASIAGO」の上部に「切れ込みを入れた円」を配した構成からなる商標であり、第4文字目の「A」が大きく表示されている。

以上より、本件商標と引用商標とは、その構成態様、図形の有無及び構成文字が相違することから、両商標は外観上非類似の商標というべきである。

イ 称呼

本件商標の構成中、指定商品の品質等を表す「ASIAGO」の文字は出所識別標識として機能せず、需要者の注意を惹く部分は「SAPUTO」の文字であることから、識別力のない「ASIAGO」の語は捨象され、本件商標からは、「SAPUTO」のみから「サプート」の称呼が生ずる。

一方、引用商標の構成中、「ASIAGO」の部分が出所識別標識として機能しない以上、引用商標の要部は「切れ込みを入れた円」の図形部分であることから、引用商標からは、何ら称呼を生じない。

よって、両商標は称呼上比較ができない。

なお、請求人は欧文字からなる「ASIAGO」(国際登録第456465号)を出願しているが、該出願は、識別力欠如(商標法第3条第1項第3号)を理由に拒絶査定が確定している(乙22)。

ウ 観念

本件商標からは、識別力のない「ASIAGO」部分が捨象され、「SAPUTO」から被請求人の略称である「サプート」の観念が生じる。

一方、引用商標からは特定の観念が生じない。

よって、両商標は観念上比較ができない。

以上アないしウより、本件商標と引用商標を比較すると、両商標の外観は非類似であり、称呼及び観念は比較ができない。したがって、両商標は互いに非類似の商標というべきである。

(2)引用商標及び「ASIAGO」の周知著名性

請求人は、引用商標及び「ASIAGO」の著名性を示す根拠として、我が国における書籍への掲載記事(甲31〜甲60)及び2014年の生産量(162万6,000個)を示している(甲66)。

しかしながら、該証拠にみられる使用商標のうち、引用商標と同一のものは一つとしてない(甲31〜甲37、甲40〜甲47)。また、「ASIAGO」が出所識別標識として機能を発揮する態様で使用されているものは一つとしてない(甲31〜甲60)。

さらに、我が国における輸入量や売上高については言及されていないことから、請求人が生産する「アズィアーゴ産チーズ」の我が国における流通量は不明である。

ここで、前述のとおり、我が国の2015年度チーズ国別輸入量実績は、約241,647トンであり、そのうち、イタリア共和国からの輸入量は、8,372トンである(乙16)。請求人が生産する「アジアーゴ・チーズ」の重さを1つ約9kg(甲31)とすると、その生産量は年間約14,634トン(9kg×162万6,000個)となる。また、イタリア共和国のチーズの生産量は、2004年度約1,000,000トンである(乙23)ことから、請求人の生産する「アズィアーゴ産チーズ」の生産量は、イタリア共和国のチーズ生産量の約1.5%程度であり、我が国がイタリア共和国から輸入するチーズに1.5%を乗じてみても、約126トン程度である。

これらより、請求人の生産する「アズィアーゴ産チーズ」の我が国における流通量は、我が国のナチュラルチーズの総輸入量(合計241,647トン:乙16)と比較して、非常に少ないと考えられる。

以上より、引用商標及び「ASIAGO」の周知著名性を認める理由はない。

(3)商標法第4条第1項第11号該当性

上述のとおり、本件商標と引用商標とは、互いに非類似の商標である。

よって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号を根拠に、同法第46条第1項第1号の規定により無効とされるべきではない。

(4)商標法第4条第1項第10号該当性

上述のとおり、本件商標と引用商標とは、互いに非類似の商標であり、かつ、引用商標の周知著名性は認められない。また、「ASIAGO」の文字は他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている識別標章には該当せず、かつ、本件商標との類似性が高いものとは認められない。

よって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号を根拠に、同法第46条第1項第1号により無効とされるべきではない。

(5)商標法第4条第1項第15号該当性

上述のとおり、本件商標と引用商標とは、互いに非類似の商標であり、かつ、引用商標の周知著名性は認められない。また、使用標章は他人の業務に係る商品表示として周知著名であるとはいえない。したがって、本件商標が、請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれはない。

よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号を根拠に、同第46条第1項第1号により無効とされるべきではない。

4 結論

以上のとおり、本件商標は、商標法第3条第1項柱書の要件を具備するものであり、かつ、同法第4条第1項第7号、同項第19号、同項第11号、同項第10号、及び同項第15号に該当するものではない。

したがって、本件商標は、商標法第46条第1項第1号により無効とされるべきものではない。

第5 当審の判断

請求人が本件審判を請求するにつき、利害関係を有する者であることについては、当事者間に争いがないので、本案に入って審理し、判断する。

1 「ASIAGO」の文字について

(1)甲第5号証は、1996年6月21日付けの欧州委員会による証明書であって、そこには、「Asiagoは、Protected Designation of Origin(PDO)として登録された。」との記載がある。

(2)甲第84号証は、2014年3月24日付けの世界知的所有権機関(WIPO)による「原産地名称の保護及び国際登録に関するリスボン協定」における登録証であって、原産国をイタリア、原産地名称の使用に関する権利者を請求人とする原産地名称「ASIAGO」の記載がある。

(3)請求人が提出した証拠によれば、以下の事実がある。

ア 書籍

(ア)「ラルース・チーズ辞典」(三洋出版貿易株式会社、1979年8月25日発行:甲48)には、「Asiago(アズィアーゴ)」の表題のもと、「イタリア」及び「ヴィチェンツァ県Vicenzaにあるアジアーゴという村で作られ、」の記載がある。

(イ)「世界のチーズ百科」(株式会社鎌倉書房、昭和56年10月15日初版発行:甲57)には、「アシアーゴ(Asiago:イタリア)」の表題のもと、「原産地はヴィチェンツァ州のアシアーゴという村である。」の記載がある。

(ウ)「世界のチーズ要覧」(三洋出版貿易株式会社、1982年2月25日発行:甲49)には、「アジアゴ(Asiago)」の表題のもと、「元来地名に由来した名称であり」の記載がある。

(エ)「チーズ 魅力の全て」(チーズ&ワインアカデミー東京、1993年2月20日初版発行:甲50)には、「B群:原産国内に於て名称を保護されている次のチーズは、下記の条件で加盟国により、その名称を使用できる。」の記載中に「Asiago アジアーゴ イタリア」の記載がある。

(オ)「CHEESE」(株式会社西東社、1996年6月15日発行:甲34)には、「アジアゴ(Asiago)」の項に「原産国/イタリア」の記載がある。

(カ)「世界極上 アルチザンチーズ 図鑑」(ガイアブックス、2010年2月15日発行:甲35)には、「アジアーゴ・プレッサート(Asiago Pressato)」の項に「ヴィチェンツァとトレントの低地で作られるシンプルなチーズ。(中略)ざらりとした食感が強まるアジアーゴ・チーズである。」の記載がある。

(キ)「ヨーロッパのチーズ120ベスト・セレクション いま、チーズがおいしい!」(駿台曜曜社、1997年9月29日第1版第1刷発行:甲36)には、「同名なのに味も性格も大違い、の二タイプ アズィアーゴ」の表題のもと、「〔イタリア〕−Asiago」「一方、熟成したアズィアーゴ・ダッレーヴォを求めてアズィアーゴ村へも行ってみました。」の記載がある。

(ク)「フロマージュ 上手にチーズを選ぶために」(株式会社柴田書店、2000年5月15日初版発行:甲37)には、「Asiago(アズィアーゴ)」の項に「イタリア」「ヴェネト州ヴィチェンツァ」の記載がある。

(ケ)「C.P.Aチーズプロフェショナル教本2001」(チーズプロフェショナル協会事務局、2001年4月15日発行:甲38)、「C.P.Aチーズプロフェショナル教本2002」(チーズプロフェショナル協会事務局、2002年4月20日発行:甲39)、「C.P.Aチーズプロフェショナル教本2003」(チーズプロフェショナル協会、2003年4月20日発行:甲40)、「C.P.Aチーズプロフェショナル教本2006」(NPO法人チーズプロフェショナル協会、2006年3月15日発行:甲41)、「C.P.Aチーズプロフェショナル教本2008」(NPO法人チーズプロフェショナル協会、2008年2月1日発行:甲42)には、「Asiago(アジアーゴ)」の欄に「D.O.C取得年1978年12月21日」「D.O.P取得年1996年6月12日(審決注:甲第5号証によれば、1996年6月21日、以下同じ)」の記載とともに、「アジアーゴの故郷は山の麓にあるアジアーゴ村」の記載があり、「C.P.Aチーズプロフェショナル教本2010〜11」(NPO法人チーズプロフェショナル協会、2010年2月18日発行:甲43)、「C.P.Aチーズプロフェショナル教本2013」(NPO法人チーズプロフェショナル協会、2013年2月20日発行:甲44)、「C.P.Aチーズプロフェショナル教本2014」(NPO法人チーズプロフェショナル協会、2014年3月22日発行:甲45)、「C.P.Aチーズプロフェショナル教本2015」(NPO法人チーズプロフェショナル協会、2015年3月1日発行:甲46)には、「Asiago(アジアーゴ)」の欄に「D.O.C取得年1978年の記載とともに、「アジアーゴの故郷は山の麓にあるアジアーゴ村」の記載がある。

(コ)「伊和中辞典」(株式会社小学館、2002年2月10日第2版4刷発行:甲58)には、「asiago」の項において「アジアーゴ山地のチーズ」の記載がある。

(サ)「こだわりのチーズ」(株式会社ネコ・パブリッシング、2003年12月5日第1刷発行:甲60)には、「アジアーゴ・ダッレーヴォ」の表題のもと「1000年以上も前から、イタリア北東部のアジアーゴ高原で作られてきたチーズです。」の記載がある。

(シ)「世界チーズ大図鑑」(株式会社柴田書店、2011年1月25日初版発行:甲53)には、「Asiago PDO アジアーゴPDO」の表題のもと「公式に認可された生産地でのみ作られる、アジアーゴ高原と同名のチーズ」の記載がある。

(ス)「知りたかったチーズの疑問Q&A」(飛鳥出版株式会社、2011年4月1日初版印刷:甲54)には、「Q65 イタリアのDOPチーズを教えてください。」の欄に「DOP指定のイタリアチーズは現在(2011年2月)33種類」及び「アジアーゴ(Asiago)」の記載がある。

(セ)「イタリア料理用語辞典」(株式会社白水社、2013年1月30日第23刷発行:甲51)には、「Asiago(アズィアーゴ)」の項において「ヴェネト州で作られる牛乳製チーズ」の記載がある。

(ソ)「イタリアチーズの故郷を訪ねて」(株式会社旭屋出版、2015年2月6日初版発行:甲32)には、「Asiago(アズィアーゴ)」の表題のもと「DOP取得1996年6月12日」の記載がある。

(タ)「チーズの図鑑」(株式会社KADOKAWA、2015年3月6日初版第1刷発行:甲55)、「Asiago」「アズィアーゴ(プレッサート)」の表題のもと、PDOの認証マークとともに「イタリアのチーズには、同名で数種類のタイプが存在するものがいくつかある。アズィアーゴもそのひとつ。」の記載がある。

(チ)「世界のチーズ図鑑」(株式会社マイナビ、2015年9月30日初版第1刷発行:甲33)には、「Asiago(アズィアーゴ)」の表題のもと「ヴェネチアの北、標高1000mの山のふもとにあるアズィアーゴ村を故郷にもつチーズ。」の記載がある。

(ツ)「チーズの教本2016」(株式会社小学館クリエイティブ、2016年2月10日初版第1刷発行:甲47)には、「Asiago(アズィアーゴ)」の表題のもと「アズィアーゴの故郷は山の麓にあるアズィアーゴ村」の記載がある。

イ 平成28年5月12日印刷されたインターネットサイト「オーダーチーズ・ドットコム」(甲59)における「アジアーゴ」に関するページにおいて、「『アジアーゴ』といういうチーズの存在もお忘れなく」の表題のもと「ちょっと有名な”イタリアDOPチーズ”なんです。」「アジアーゴという名前は、ここのヴェネト州ヴィチェンツァ県アジアーゴ村という村の名前に由来しています。」の記載がある。

(4)引用商標及び引用標章の周知著名性について

上記(1)ないし(3)によれば、「ASIAGO」の文字は、イタリア共和国ヴェネト州ヴィチェンツァ県北部のアズィアーゴの地名を表すほか、当該地において生産されるチーズであって、EUにおいてPDOの対象として登録がされており、各種書籍等において1979年頃から「アズィアーゴ産チーズ」を指称する語として紹介されていることからすれば、我が国において一定程度知られているものと認められる。

しかしながら、我が国における「アズィアーゴ産チーズ」の輸入開始時期、輸入量及び売上高等については、請求人から客観的、具体的な資料の提出もなく、請求人が生産する「アズィアーゴ産チーズ」の我が国における流通量は不明であり、PDOとして登録された事実のみをもって請求人が「アズィアーゴ産チーズ」に付したとする引用商標及び引用標章が、本件商標の登録出願の日及び登録査定日において、我が国の需要者、取引者の間で広く認識されているものと認めることはできない。

2 請求人について

(1)甲第6号証は、2011年5月13日付けの請求人の定款と主張する書面の写しであって、「2.本部」の項において、「Consortiumは、その法上の本部をアジアーゴに有し、ビチェンツァの18コーソ フォガッツァーロにその行政上の本部を有し」の記載があり、「4.目的」の項において「Consortiumは非営利」の記載とともに「b)PDO(原産地名称保護制度)により保護されているアジアーゴを悪用から守る」「d)製品の価値を評価する」「f)PDOにより保護されているアジアーゴについての一般的利益を管理する」「h)PDOにより保護されているアジアーゴの規格を修正することを提案することができる」などの記載がある。

(2)甲第84号証は、世界知的所有権機関(WIPO)が管理する国際条約「原産地名称の保護及び国際登録に関するリスボン協定」に基づく原産地名称の登録証であって、その二葉目には、「原産国名」の項目に「イタリア」、「原産地名称」の項目に「ASIAGO」、「原産地名称の使用に関する権利者」の項目に「請求人」の名称がそれぞれ記載されている。

(3)上記(1)、(2)及び前記1(1)並びに請求人の主張によれば、請求人は、1979年にイタリア共和国ヴェネト州ヴィチェンツァ県に設立された団体であり、イタリア共和国の「Asiago」の領域で生産された特定の製品仕様に従って生産されるチーズ「ASIAGO」について、1996年にEUで原産地保護指定(PDO)としての登録(甲5)及び世界知的所有権機関(WIPO)が管理する国際条約「原産地名称の保護及び国際登録に関するリスボン協定」に基づく原産地名称「ASIAGO」の国際登録を有していることから、PDOにより保護されている「ASIAGO」の名称の保護及び普及活動を行っている非営利の団体と認められる。

3 被請求人について

(1)乙第7号証は、2012年12月4日付け、Bloomberg L.P.ウェブサイトにおける「被請求人の事業活動」に関する掲載ページであり、「カナダ最大の乳製品加工会社サプートは、米同業ディーン・フーズのモーニングスター・フーズ部門を14億5,000万ドル(約1,200億円)で買収することに合意した。」との記載がある。

(2)乙第8号証は、2013年11月13日付け、日本経済新聞社ウェブサイトにおける「被請求人の事業活動」に関する掲載ページであり、「オーストラリアのホッキー財務相は12日、カナダの乳業大手サプトによる豪乳業4位ワーナンブール・チーズ・アンド・バター(WCB)の買収案を承認すると発表した。」との記載がある。

(3)また、「SAP:Toronto株価−サプート−Bloomberg Markets」のウェブサイト(乙6)において「企業概要」として、「サプート(Saputo Inc.)は乳製品・食品雑貨メーカー。」「流通ネットワークを運営し、同ネットワークを通して各種輸入チーズと非乳製品を販売することで、自社製品のチーズの品ぞろえを補完する。」の記載がある。

(4)上記(1)ないし(3)及び被請求人の主張によれば、被請求人は、1954年に創業されたカナダ最大の乳製品加工会社であって、カナダ、米国、アルゼンチン、オーストラリアなど世界40か国以上に製品を供給している企業であり、2013年及び2014年に海外の企業を買収(乙7、乙8)するなど、その事業規模を拡大させていることがうかがえる。

4 商標法第3条第1項柱書該当性について

商標法第3条第1項柱書の「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」とは、少なくとも登録査定時において、現に自己の業務に係る商品又は役務に使用をしている商標、あるいは、将来、自己の業務に係る商品又は役務に使用する意思のある商標と解される(平成24年5月31日 知財高裁 平成24(行ケ)第10019号)。

この点、請求人は、被請求人が2016年5月10日の時点において、「アズィアーゴ産チーズ」につき責任を負う団体である請求人とは一切の関係を持っていない点、被請求人には会員資格もない点等を主張し(甲16)、登録査定時から1年弱経った時点では、被請求人に本件商標をその指定商品に使用している事実がなく、また、その意思もない旨主張する。

しかしながら、商標法第3条第1項柱書にいう「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする」とは、現に行っている業務に係る商品又は役務について、現に使用している場合のみならず、将来行う意思がある業務に係る商品又は役務について将来使用する意思を有する場合も含むと解される。

そうすると、被請求人が、本件商標の登録査定時において、本件商標を自己の業務に係る指定商品について現に使用をしていなくとも、将来においてその使用をする意思があれば、商標法第3条第1項柱書の要件を具備するといえるところ、被請求人は、1954年に創業されたカナダ最大の乳製品加工会社であって、カナダ、米国、アルゼンチン、オーストラリアなど世界40か国以上に製品を供給している企業であり、その事業規模を拡大していることよりすれば、本件商標の登録査定時において、将来自己の業務に係る本願指定商品に本件商標を使用する意思を有していたことを否定することはできない。

また、請求人は、「ASIAGO」が、「『アズィアーゴ』の原産地呼称で保護されているイタリア産のチーズ」であるにもかかわらず、被請求人が「ASIAGO」はチーズの一般名称と主張することからしても、本件商標をその指定商品に使用する意思がないのは明白である旨主張する。

しかしながら、被請求人は、「『アズィアーゴ』の原産地呼称で保護されているイタリア産のチーズ」を本件商標の指定商品としていることよりすれば、その主張に関わらず、請求人の主張に係る商品、すなわち、「『アズィアーゴ』の原産地呼称で保護されているイタリア産のチーズ」について、本件商標の使用をする意思を有していたものといわざるを得ない。

上記のとおりであるから、本件商標は、その登録査定時において、商標法第3条第1項柱書の要件を具備していなかったということはできず、請求人の主張は理由がない。

5 引用商標及び引用標章について

(1)引用商標は、別掲のとおり、円輪郭の下部中央から当該円輪郭内中央へ3分の2程度伸びる縦に長い二等辺三角形で切り取った図形を配し、当該図形の下部に「ASIAGO」(4文字目の「A」の文字は当該二等辺三角形に入り込む形で書されている。以下同じ。)の文字を配した構成よりなるものである。

そして、引用商標の構成中「ASIAGO」の文字は、「アズィアーゴ産チーズ」あるいは当該チーズを生産するイタリア共和国ヴェネト州ヴィチェンツァ県北部のアズィアーゴの地名を表すものであり、引用商標の指定商品との関係においては、商品の出所識別標識としての機能を果たさない部分といえる。そうとすれば、引用商標のうち、図形部分が、取引者、需要者に対し商品の出所識別機能を有するものとして、強く支配的な印象を与えるものといえるところ、当該図形からは、特定の称呼及び観念を生じないものである。

(2)引用標章は、「ASIAGO」の文字からなり、「アズィアーゴ産チーズ」に使用する標章である。

そして、引用標章である「ASIAGO」の文字は、上記(1)と同様に、「アズィアーゴ産チーズ」あるいは当該チーズを生産するイタリア共和国ヴェネト州ヴィチェンツァ県北部のアズィアーゴの地名を表すものといえる。

6 商標法第4条第1項第11号該当性について

(1)本件商標は、前記第1のとおり、「SAPUTO ASIAGO」の文字よりなるものであるところ、その構成中「ASIAGO」の文字は、上記1(4)のように、「アズィアーゴ産チーズ」あるいは当該チーズを生産するイタリア共和国ヴェネト州ヴィチェンツァ県北部のアズィアーゴの地名を表すものであり、本件商標の指定商品との関係においては、商品の出所識別標識としての機能を果たさない部分といえる。

そうとすれば、本件商標は、その構成中「SAPUTO」の文字部分が、取引者、需要者に対し商品の出所識別機能を有するものとして、強く支配的な印象を与え、独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものといえるから、本件商標は「SAPUTO」の文字部分を要部として抽出し、この部分だけを他人の商標(引用商標)と比較して商標の類否を判断することが許されるというべきである。

そして、本件商標の構成中「SAPUTO」の文字は、辞書などに掲載されている語ではなく、特定の意味を有さない造語として把握、認識されるものであり、これより「サプト」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。

(2)引用商標は、上記5(1)のとおり、その構成中「ASIAGO」の文字は、引用商標の指定商品との関係においては、商品の出所識別標識としての機能を果たさない部分といえ、一方、その構成中の図形部分が、取引者、需要者に対し商品の出所識別機能を有するものとして、強く支配的な印象を与える要部であるといえるところ、当該図形からは、特定の称呼及び観念を生じないものである。

(3)そこで、本件商標の要部である「SAPUTO」の文字部分と引用商標の要部である図形とを比較すると、両者は、観念において比較できないとしても、称呼及び外観において互いに紛れるおそれのない非類似の商標である。

したがって、本件商標と引用商標とは、相紛れるおそれのない非類似の商標であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものではない。

7 商標法第4条第1項第10号該当性について

請求人は、本件商標と引用商標及び引用標章とが類似するものとして、商標法第4条第1項第10号該当すると主張するが、本件商標と引用商標とは上記6(3)のとおり相紛れるおそれがない非類似の商標である。

また、本件商標と引用標章とは、「ASIAGO」の文字を共通にするとしても、外観における「SAPUTO」の文字の有無、称呼、観念を総合的に判断すれば、両者は、互いに相紛れるおそれはないものといえる。

そして、上記1(4)のとおり、引用商標及び引用標章は、いずれも本件商標の登録出願の日及び登録査定日において、我が国の需要者、取引者の間で広く認識されているものと認めることもできない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しない。

8 商標法第4条第1項第15号該当性について

本件商標と引用商標とは、上記6のとおり、非類似であってその類似性の程度も低いものである。

また、本件商標と引用標章とは、上記7のとおり、非類似であって、その類似性の程度も低いものである。

そして、上記1(4)のとおり、引用商標及び引用標章は、いずれも本件商標の登録出願の日及び登録査定日において、我が国の需要者、取引者の間で広く認識されているものと認めることはできない。

加えて、上記5のとおり、引用標章及び引用商標の構成中の文字部分である「ASIAGO」は、「『アズィアーゴ』の原産地呼称で保護されているイタリア産のチーズ」あるいは当該チーズを生産するイタリア共和国ヴェネト州ヴィチェンツァ県北部のアズィアーゴの地名を表すものであることからすれば、被請求人が本件商標をその指定商品について使用する限りにおいては、商標法第4条第1項第15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」ということはできない。

その他、本件商標が請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標とすべき特段の事情はない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。

9 商標法第4条第1項第19号該当性について

本号は、「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)」と規定されている。

これを本件について当てはめると、本件商標と引用商標及び引用標章とは、上記6及び7のとおり、非類似であり、かつ、上記1(4)のとおり、引用商標及び引用標章は、いずれも本件商標の登録出願の日及び登録査定日において、我が国の需要者、取引者の間で広く認識されているものといえず、また、「ASIAGO」の文字部分が、「『アズィアーゴ』の原産地呼称で保護されているイタリア産のチーズ」としてEU域内でも一定程度知られているとしても、被請求人が本件商標をその指定商品について使用する限りにおいては、正当な商標の使用であって、不正の目的があるものとはいえない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。

10 商標法第4条第1項第7号該当性について

本件商標は、「SAPUTO ASIAGO」の文字よりなり、その構成自体が矯激、卑猥、差別的な文字ではなく、その商標を使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するものということはできない。

また、本件商標の本件指定商品についての使用は、他の法律によって禁止されているものでもない。

そして、本件商標ないしその使用が特定の国若しくはその国民を侮辱し又は一般に国際信義に反するものでもなく、本件商標の登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものともいえないことから、その商標登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合ということはできない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものではない。

11 むすび

以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第3条第1項柱書並びに同法第4条第1項第7号、同項10号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号のいずれにも違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきでない。

よって、結論のとおり審決する。

別掲 引用商標(国際登録第1133014号)

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