Trademark Appeal Case
位置商標の識別性と普通性
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
基本情報
| 審判番号 | 不服2018−11666(T2018−11666/J1) |
|---|---|
| 審判種別 | 不服 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理由テキスト
1 本願商標
本願商標は,別掲1のとおりの構成からなり,商標法第5条第4項に基づく「商標の詳細な説明」を願書記載のとおりに記載して,第25類に属する「ジャケット」を指定商品として,平成28年11月1日に位置商標として登録出願されたものである。
その後,原審における平成30年2月28日付けの手続補正書により,商標の詳細な説明については,別掲2のとおりに補正された。
2 原査定の拒絶の理由(要旨)
(1)本願商標は,別掲1のとおりの構成からなる位置商標で,願書記載のとおりの商標の詳細な説明により特定されるものである。
本願商標の指定商品「ジャケット」については,前身頃や後身頃の中央部分に,線で構成される装飾,模様が付されているジャケット(腰丈ほどの上着)が製造,販売されている実情がある。
また,ジャケットには,通気性向上のため,後身頃の中央部分にベンチレーションが付されているものが一般に製造,販売されており,それらにおいてベンチレーションの縁は複数の膨らみを有する波線のように認識される。
そうすると,本願商標の図形部分は,その位置を考慮しても,本願商標の指定商品の取引者,需要者においては,商品の装飾,模様を表したもの,又はベンチレーションの縁を図形として表したものと理解,認識されるというべきであり,自他商品の識別標識として認識されるものではない。
(2)本願商標は,「BARACUTA」の「G9」と称するジャケットに同様の図形が用いられているが,当該図形は商品の特徴の一つとして紹介されているにすぎず,その販売数量,使用地域,広告宣伝状況等が明らかではないから,仮に出願人が本願商標を約80年使用していたとしても,本願商標の指定商品に使用された結果,その需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識するに至っているということはできない。
(3)したがって,本願商標は,商標法第3条第1項第6号に該当する。
3 当審においてした証拠調べ
当審において,本願商標が商標法第3条第1項第6号に該当するか否かについて,職権に基づく証拠調べをした結果,ジャケット等の背面に,小さな山状の膨らみが複数連続する波線状のラインを有する事例(別掲3)を発見したので,同法第56条第1項で準用する特許法第150条第5項に基づき,請求人に対して,その結果を通知し(令和元年5月17日付け証拠調べ通知書),意見を求めた。
4 証拠調べに対する請求人の意見の要点
(1)証拠調べ通知で挙げた事例は,本願商標とは,膨らみや先端部の数が相違する,明らかに異なる形態のものであり,本願商標が特異な図形であることに変わりない。
(2)請求人は,本願商標の図形を,約80年にわたって一貫して使用し,「G9ジャケットのアンブレラヨーク」として需要者に認識されている。証拠調べ通知で挙げられた事例には,請求人の商品の特徴をあえて取り入れたものもあり,むしろ,本願商標が顕著性ある標章として機能していることを示唆しており,また,請求人の商品のように伝説ともいえる名品については,その知名度ゆえに模倣も多く,このような模倣を根拠に知名度の高い商品の特徴部分の識別力が否定されるのは妥当ではない。
5 当審の判断
(1)本願商標の構成(図形及び位置)の識別性
ア 本願商標は,別掲1のとおり,(ア)小さな山状の膨らみが6つ連続し,下方に突出した5つの先端部を有する波線(図形)を,(イ)ジャケットの後身頃の中央部分の位置に配してなる位置商標である。
イ 本願商標のように,ジャケット等の背面の中央部分の位置に,アンブレラカットやアンブレラヨークと称されるようなヨーク(衣服の立体化や装飾のために,肩・胸やスカートの上部などに入れる切替え布;「広辞苑 第6版」岩波書店)を設けて,その切替え布の縁などによって,小さな山状の膨らみが複数連続し,下方に突出した先端部も有する波線状のライン(膨らみの数や下方の先端部の数は一定ではない)を施すことや,その他の縫製手法などによって同様のラインを装飾や模様などとして施すことは,取引上普通に採択されているデザイン手法である(別掲3)。
また,上記のデザイン手法は,「雨滴をスムーズに流す,傘のような波形の深いバックヨーク。通気式にもなっていてベンチレーションの役目」(甲18)も果たすという機能的な役割をも果たし得る形状でもある。
ウ 以上を踏まえると,本願商標は,これに接する需要者をして,商品の美感又は機能(雨滴を流す,通気する)に資することを目的とするデザイン手法に則して,上記ア(ア)のような図形を,上記ア(イ)のような位置に,布の縁又はその他の縫製手法などによって表してなる装飾と認識,理解されるにすぎないというべきであり,その図形の形状及び位置には,直ちに出所識別標識として認識されるような顕著な特徴はない。
(2)本願商標の使用による識別性
ア 請求人による本願商標の使用について
(ア)英国BARACUTA(バラクータ)社により,1948年に発表された「G9ジャケット」(以下「請求人商品」という。)は,ハリントンジャケット(スウィングトップ,ゴルフ用ジャンパー)の原型となったもので(甲9,甲10),日本では,遅くとも2004年以降に,国内代理店を通じて輸入・販売されている(甲5)。
(イ)請求人商品は,裏地(フレイザー・タータン),生地(エジプト綿),スリーブ(ラグランスリーブ),袖口や裾の仕上げ(リブ仕上げ),背面のヨーク(アンブレラカット),襟(ドッグイヤー)などの特徴が盛り込まれているとされるが,オリジナルの雰囲気を再現したとされる「Icon Models」及び「BLUE label」の背面には,小さな山状の膨らみが6つ連続し,下方に突出した5つの先端部を有する波線によるライン状の装飾が確認できるが,「IVORY label」の背面には,そのような装飾の代わりに,中央を横切るような直線によるライン状の装飾が確認できる(甲14)。
(ウ)請求人商品は,2013年以降に発行,掲載された雑誌,新聞,ウェブサイトなどに,商品紹介記事があるものの(甲6〜甲21,甲33,甲69〜甲71,甲73〜甲75),背面の波線によるライン状の装飾全体が確認できる写真を掲載した記事(甲11,甲14,甲15,甲21)も確かにあるが,それ以外は,背面のライン状の装飾の一部は確認できるが全体形状は確認できないもの,写真から背面が確認できないもの,背面デザインの抽象的な特徴(アンブレラカットやアンブレラヨーク)に言及しても形状の子細(膨らみの数や先端の数)は言及しないものである。
(エ)請求人商品は,3半期(2018年秋冬,2019年春夏,秋冬)の販売数は,6千9百着であり,1年1月(2018年8月〜2019年8月)の間の広告換算額は約2千8百万円とされる(甲79)。
イ 検討
本願商標の図形(小さな山状の膨らみが6つの連続し,下方に突出した5つの先端部を有する波線)及び位置(後身頃の中央部分)の特徴を備える請求人商品は,我が国において,遅くとも2004年以降,15年以上にわたり,国内代理店を通じて輸入・販売され,雑誌,新聞及びウェブサイトなどに,商品紹介記事が掲載されてはいる。
しかしながら,(ア)請求人商品は,複数の箇所に特徴を備えるとされ,背面のヨークの形状のみが特段着目される特徴ではないこと,(イ)雑誌やウェブサイト等における商品紹介において,背面のヨークの漠然とした特徴(アンブレラカットやアンブレラヨーク)への言及があるとしても,本願商標の形状の子細(膨らみや先端部の数)に着目して紹介する記事はないこと,(ウ)請求人商品の写真を掲載する際も,背面のヨーク形状の全体を描写する写真はわずかで,多くは背面の写真すら掲載せず,掲載するとしても全体形状は確認できないこと,(エ)請求人商品には本願商標とは異なるデザインの背面のヨークを採択する商品もあり,必ずしも一貫して本願商標が使用されているものではないことなどを鑑みると,本願商標のような構成の図形の露出は限定的であり,その具体的形状と請求人商品との結びつきは散漫なものとなる。
さらに,請求人商品の販売実績及び広告宣伝規模は必ずしも明らかではないが,ファッション業界という市場全体を前提とすると,主張される販売数(3半期で6千9百着)も,必ずしも販売規模としては大きいものではなく,また,広告換算額なる金額(1年1月で約2千8百万円)が広告宣伝費のことであるとしても,広告宣伝手法が明らかではないものの,我が国において大規模な広告宣伝がなされたものとは考えにくい。
以上を踏まえると,請求人商品の使用実績を鑑みても,その使用態様における本願商標のような図形及び位置が自他商品識別標識として着目される程度,大規模とはいえない販売実績や広告宣伝規模などを勘案すれば,我が国におけるファッション関連商品の需要者の間において,本願商標の形状及び位置をして,請求人又は請求人商品との具体的関係をもって周知,著名となるに至っているものとはいえず,自他商品の識別標識としての機能を獲得したものとは認められない。
(3)本願商標の独占適応性について
本願商標のように,ジャケット等の背面の中央部分の位置に,アンブレラカットやアンブレラヨークなどと称されるようなヨークを設けて,その切替え布の縁などによって,小さな山状の膨らみが複数連続し,下方に突出した先端部も有する波線状のライン(膨らみの数や下方の先端部の数は一定ではない)を施すことや,その他の縫製手法などによって同様のラインを装飾や模様などとして施すことは,取引上普通に採択されているデザイン手法にすぎない。
したがって,本願商標のような形状及び位置について,請求人がその使用を独占することは,本来自由なデザイン手法を過剰に制限する結果となり得るものだから,独占適応性を欠くというべきである。
(4)請求人の主張
請求人の主張は,以下のとおり,いずれも採択できない。
ア 請求人は,本願商標は,山状の膨らみが左右に均等に6つ配置され,各膨らみの間に下方に突出する5つの先端部を有する傘周縁様図形であって,証拠調べ通知で挙げられた事例(先端部が2つ又は3つで構成された波線状ライン)とは異なる形態であり,本願商標は特異な図形である旨を主張する。
しかしながら,アンブレラカット又はアンブレラヨークと称されるデザイン手法が,上記(1)イのとおり,波線状のラインの膨らみや先端部の数を問わず,取引上普通に採択されている実情を踏まえると,波線状のラインの膨らみの数や先端部の数が,自他商品識別標識として機能し得るものとは考え難く,本願商標のような装飾は,直ちに出所識別標識として認識されるような顕著な特徴はない。
イ 請求人は,請求人商品は,爆発的な人気を契機に,世界中で広く知られるようになった有名ブランドであり,ハリントンジャケット(又はスイングトップ)の代名詞となっているもので,本願商標は請求人商品の特徴として約80年にわたって一貫して使用され,「G9ジャケットのアンブレラヨーク」として需要者に認識されている旨を主張する。
しかしながら,請求人商品は,上記(2)イのとおり,雑誌等における紹介記事においても本願商標の形状の具体的特徴について特段強調する工夫に乏しいことなどを鑑みると,その需要者における本願商標の形状と請求人商品との結びつきは散漫なものになるから,請求人商品の販売実績や広告宣伝規模などを勘案しても,本願商標の形状及び位置をして,請求人又は請求人商品との具体的関係をもって周知,著名となるに至っているものとはいえない。
ウ 請求人は,別掲3の事例には,請求人の商品の特徴をあえて取り入れたものや,模倣したものもあるもので,請求人の商品のように伝説ともいえる名品については,その知名度ゆえに模倣も多いから,このような模倣を根拠に知名度の高い商品の特徴部分の識別力が否定されるのは妥当ではない旨を主張する。
しかしながら,請求人商品が原型となったとされるハリントンジャケットなる商品のジャンルが既に確立している中では,第三者の商品が,当該商品ジャンルにおいて普遍化している装飾やデザインを採択することは自然なことである上,別掲3の事例は,アンブレラカットやアンブレラヨークと称される漠然としたデザイン手法に則した装飾や模様と理解できても,本願商標の模倣とは直ちに理解し得ないから,これら事例を本願商標の識別性の判断にあたり参酌することは,特段問題となるものではない。
(5)まとめ
以上のとおり,本願商標は,その構成(図形及び位置)は,単なる装飾と認識,理解されるもので,自他商品識別標識としての機能を発揮するような特徴を備えず,請求人商品における使用実績等を勘案しても,本願商標の特徴(図形及び位置)をもって,我が国の需要者の間において,請求人又は請求人商品との具体的関係をもって周知,著名となるに至っているものとはいえず,自他商品の識別標識としての機能を獲得したものではない。
したがって,本願商標は,その構成及び使用実績並びに独占適応性を勘案しても,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標であって,商標法第3条第1項第6号に該当するから,これを登録することはできない。
よって,結論のとおり審決する。
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