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Trademark Appeal Case

二段併記商標の同一性判断

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号取消2018−300880(T2018−300880/J2)
審判種別取消
結論勝訴(請求認容)

結論テキスト

登録第3226022号商標の商標登録を取り消す。
審判費用は、被請求人の負担とする。

理由テキスト

第1 本件商標

本件登録第3226022号商標(以下「本件商標」という。)は、「美玉」及び「みたま」の文字を2行に縦書きしてなり、平成6年2月24日に登録出願、第30類「菓子及びパン」を指定商品として、同8年11月29日に設定登録されたものである。

そして、本件審判の請求の登録日は、平成30年12月5日であり、この登録前3年以内の期間を以下「要証期間」という。

第2 請求人の主張

請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第9号証を提出した。

1 請求の理由

本件商標は、その指定商品第30類「菓子及びパン」について、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。

2 答弁に対する弁駁

(1)本件商標の使用について

ア 本件商標は、前記第1のとおり、二段併記であるが、被請求人が主張するとおり、「みたま」及び「美玉」のいずれか一方の標章を含む「みたまやの黒みつだんご」及び「美玉屋」を使用しており(乙2)、二段併記の標章を使用していない。

そして、二段併記の本件商標を審判便覧(甲3、乙14)に当てはめると、「みたま」は、広辞苑第七版(甲4)では「みたま【御霊】・・・(1)神の霊。神霊。(2)死者の霊の尊称。(3)おかげ。みかげ。恩恵。」と記載され、また、「みたま」には「御霊」以外に「三珠」、「御魂」、「三玉」、「光珠」、「美珠」等の漢字があり、それぞれ別異の観念が生じることから、「みたま」と「美玉」は観念が同一ではなく、「登録商標が二段併記等の構成からなる場合であって、上段及び下段等の各部が観念を同一とするときに、その一方の使用」には該当せず、これは、社会通念上同一とは認められない商標である、「同一の称呼を生ずる場合があって、平仮名及び片仮名と漢字のいずれかに別異の観念が含まれるときの相互間の使用」に該当する。

さらに、本件商標の指定商品が「菓子及びパン」であるのに対し、「美玉屋」及び「みたまや」は屋号であるため役務の名称であることも考慮すると、指定商品との関係上、本件商標と使用商標である「みたまやの黒みつだんご」又は「美玉屋」とは、社会通念上同一とはいえない。

以上のことから、本件商標と使用商標である「みたまやの黒みつだんご」又は「美玉屋」とは、社会通念上同一と認められる商標とはいえず、使用商標の使用をもって、本件商標の使用には該当するとはいえない。

イ 2段又は4段書きの構成からなる商標に関して、東京高判平成12年9月4日 平成11年(行ケ)第154号審決取消請求事件(甲5)、知財高判平成30年1月15日 平成29年(行ケ)第10108号審決取消請求事件(甲6)、知財高判平成30年12月20日 平成30年(行ケ)第10103号審決取消請求事件(甲7)の判決があり、これらと同様に、使用商標は本件商標と社会通念上同一といえない。

(2)被請求人の主張について

ア 美玉屋の歴史と商標権取得の経緯について

美玉屋の先代である請求人の父(以下「先代」という場合がある。)は、前商標権者に美玉屋の営業権の譲渡はしていない。

また、先代の相続人であるも、先代の妻及び子2名(請求人、ほか1名)も前商標権者に美玉屋の営業権を譲渡していない。

さらに、客観的に判断しても、「譲渡」というからには、譲渡契約書等の明確な意思表示が必要であるところ、そのような契約書もなく、かつ、「暖簾を守ってくれないか」という言葉が「営業権の譲渡」ということに直接つながらず、また、客観的にもそのような解釈にならない。

そして、譲渡契約書等の証拠も提示せずに、このような虚偽の主張を行うことは、本件審判とは関係ない内容であるとはいえ、請求人としては看過できない内容である。

イ 請求人適格について

(ア)そもそも美玉屋は、2018年10月21日に亡くなった先代の妻がオーナーとして、前商標権者に店舗ごと商標(屋号や商品名)も貸与していたものであり、「みたまやの黒みつだんご」も創業者である先代が、昭和30年代に独自に考案した商品であり、前商標権者及び本件商標権者(以下、これらをまとめていうときは、「商標権者ら」という。)が考案したものではない。

被請求人は、前商標権者が「みたまやの黒みつだんご」を考案し、世に広め、請求人がさもひょう窃的行為を行っているかのように主張しているが、そもそも寺井家が商標権者らにいわゆる営業権を貸与しているのである。

(イ)被請求人が主張する、美玉屋店舗の土地・建物についての新たな賃貸契約の締結の経緯の内容は正しいものではない。

(ウ)被請求人は、一連の交渉経緯を考慮すると、請求人は商標登録出願に係る商標(乙10〜乙12)を指定商品又は指定役務について使用する意思がなく、所有する美玉屋店舗の土地・建物の賃貸料の高額な値上げを前商標権者に同意させる目的で商標登録出願をし、本件不使用取消審判を請求したものと解され、このような場合は、審判便覧の請求人適格の記載における「当該審判の請求が請求人を害することを目的としていると認められ得る場合には、その請求は、権利濫用として認められない。」という事由に該当する、と主張している。

しかし、本件の請求人と前商標権者の交渉経緯が、「使用意思がない」という理由にはならず、被請求人の論理は崩壊している。そもそも請求人に使用意思はあり、また、その使用意思自体も本件不使用取消審判には不要な内容であり、上記主張は失当である。

そして、当該審判便覧には、「平成8年改正前の商標法では、不使用取消審判の請求人適格についての明示の規定がないことから、その反対解釈として請求人適格は、『利害関係人』に限られていたが、改正商標法では、『何人』にも認めることとし、その旨を法文上明示している。なお、請求人適格を『何人』にすることとしても、当該審判の請求が被請求人を害することを目的としていると認められる場合には、その請求は、権利濫用として認められない。」と記載されているが、これは、請求人適格を「利害関係人」から「何人」に緩和する際に、権利濫用で審判請求するのを防止するために明記されたものである。

請求人を始めとする寺井家は、商標権者らに美玉屋を貸与しており、そもそも利害関係を有しているから、上記主張は失当である。

第3 被請求人の答弁

被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると主張し、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第17号証(枝番号を含む。)を提出した。

1 答弁の理由

(1)美玉屋の歴史と商標権取得の経緯

ア 美玉屋は、先代(故人、請求人の父)が京都府京都市左京区の所在地(店舗)において昭和15年に創業し、昭和53年12月まで営業していた。本件商標権者の父である前商標権者は、昭和38年頃より、美玉屋で従業員として働いていたが、先代が営業を辞める昭和53年に、先代から「子供達が家業を継ぐ意思がなく、美玉屋を承継してくれる者がいないので、あなたが美玉屋の暖簾を守ってくれないか。暖簾を守ってくれるならば、店舗(土地・建物)を貸すから。」と相談されたので、美玉屋を引き継ぐことにした。

イ 2代目である前商標権者は、昭和54年1月より現在に至るまでの約40年間、上記所在地の店舗を借り受けて、「みたまやの黒みつだんご」等の和菓子の製造販売を継続しつつ、美玉屋の暖簾を守り、商品の創意・工夫と営業努力を重ねて、事業を大きく発展させてきた。

前商標権者は、先代より美玉屋の営業を引き継いでから15年後、商号「美玉屋」の商標権の取得の必要性に気付き、商標「美玉」について、第30類の「菓子及びパン」を指定商品として、平成6年2月24日に商標登録出願をし、同8年11月29日に本件商標権を取得した。

ウ 商標登録から20年後の2回目の更新に際して、平成14年5月より美玉屋の従業員として働き、美玉屋の家業を手伝っていた息子に商標権を譲渡すべく、商標権移転登録申請書を提出した。美玉屋店主の前商標権者が息子に商標権を譲渡したのは、息子を美玉屋の運営に積極的に関与させるとともに、将来美玉屋を継がせて暖簾を守ってもらうことを希望しているためであり、本件商標の権利者は前商標権者の息子の個人名義になっているが、商標権を父の経営する美玉屋のために使用しており、実質的には商標権者の使用といえる。

(2)本件商標の使用について

ア 本件商標は、本件商標権者の父である前商標権者(家族)がその指定商品第30類「菓子及びパン」に含まれる「和菓子」に使用している。

イ 美玉屋の販売に係る商品「みたまやの黒みつだんご」は、その販売状態を示す写真(乙1の1)に示すように、透明のプラスチック容器に入れて、その上蓋に「みたまやの黒みつだんご」(平仮名「みたまやの」と「黒みつだんご」の2行で表記)のラベルをゴムバンドで留めた後、包装用紙で包装(乙1の2)して、販売している。

なお、撮影日は平成31年2月6日であるが、本件商標の使用時期が要証期間であることは他の証拠(乙2〜乙9)によって立証する。

ウ 「みたまやの黒みつだんご」のラベル(乙2)は、京都市下京区に営業所を置く株式会社岡野太陽堂(以下「岡野太陽堂」という。)によって印刷されたものであり、当該ラベルには、平仮名で「みたまやの」と表記した左横に文字「黒みつだんご」を表記するとともに、その左横に漢字で「美玉屋」と表記している。

「みたまやの黒みつだんご」用の包装用紙(乙3)は、岡野太陽堂によって印刷されたものであり、当該包装用紙は、商品を包装したときの表面となる位置(包装用紙の中央)に商品名を表す「みたまやの黒みつだんご」の文字を表示するとともに、商品を包装したときの裏面となる位置(包装用紙の左上角と右下角)に店の商号である「美玉屋」の文字を表記し、商品を包装したときの裏面の左側に品名「黒みつだんご」と製造者「美玉屋」及び前商標権者の氏名を記載しており、美玉屋の店主が前商標権者であることを包装用紙に明記している。

「みたまやの黒みつだんご」のラベルの納品書(乙4)は、岡野太陽堂によって印刷され、美玉屋に納品されたときの納品書であり、当該納品書には、品名に「黒みつだんごラベル」と記載しているが、納品先が「美玉屋」であることから、「みたまやの」の文字を省略している。納品日が平成28年3月16日、平成29年4月7日、平成30年4月19日の納品書であり、これらは一例として示したものであって、これによって、ラベル(乙2)が1回の納品時に約15,000枚納品されていることを証明するものである。

「みたまやの黒みつだんご」の包装用紙の納品書(乙5)は、岡野太陽堂によって印刷され、美玉屋に納品されたときの納品書であり、納品書には、品名に「黒みつだんご用包装用紙」と記載しているが、納品先が「美玉屋」であることから、「みたまやの」の文字を省略している。納品日が平成29年2月2日、平成29年7月27日、平成30年1月10日の納品書であり、これらは一例として示したものであって、納品書には納品数量「2R」と記載されているが、これは包装用紙(乙3)が1回の納品時に2,000枚納品されていることを証明するものである。

これらのラベルの納品書(乙4)及び包装用紙の納品書(乙5)は、いずれも要証期間のものである。

エ 販売の事実を証明するために、デパートからの発注書を証拠として提出する。

乙第6号証は、取引先から美玉屋に対して「みたまやの黒みつだんご」を注文した発注書のコピーである。特に、乙第6号証の1は、平成30年(2018年)1月8日付けの高島屋日本橋店地下1階「銘菓百選」売場からの発注書、乙第6号証の2は、同月31日付けの新宿高島屋店からの発注書(発注表)、乙第6号証の3は、同年3月24日付の高島屋柏店和菓子売場からの発注書及び乙第6号証の4は、同月19日付の広島三越店食品催事からの注文書である。

これらの乙第6号証の1ないし4に示すデパートからの発注書は、いずれも要証期間のものである。

オ 乙第7号証は、美玉屋の店主(代表者)である前商標権者の平成28年分確定申告書Bのコピーである。これによれば、美玉屋の営業所在地である京都市左京区の住所において美玉屋を営業しているのは、請求人ではなく、前商標権者であることが明らかである。

カ 被請求人は、使用に係る補強証拠として、販売の事実を紹介した雑誌やネット記事(乙8、乙9)を提出する。

(3)本件商標と使用商標「美玉屋」の関係

請求人は、本件商標が「美玉/みたま」であるのに対して、使用している商標が「美玉屋」であり、使用している商品が「みたまやの黒みつだんご」であるため、登録商標「美玉/みたま」と完全同一の商標を使用していない理由で、本件商標が取り消されるべきと主張しているものと解される。

しかしながら、乙第1号証ないし乙第3号証に示すように、美玉屋が使用している商標(商号でもある)「美玉屋」は、本件商標のうちの漢字部分「美玉」をそのまま使用したものであり、末尾に商号を表す「屋」を付加したにすぎない。

また、乙第1号証ないし乙第3号証に示す、美玉屋の使用している商標「みたまやの黒みつだんご」は、平仮名「みたまやの」の左横に「黒みつだんご」の文字を付加したものである。「みたまやの」の部分には本件商標の平仮名部分の「みたま」をそっくりそのまま使用した後に、文字「やの」を付加したものであり、屋号を示す「や」及び美玉屋製であることを示す「やの」の文字は、識別力のない文字であるから、出所識別力を発揮するのは「みたま」の文字部分である。

本件商標のように、漢字「美玉」とその称呼を示す平仮名「みたま」の2段表記の商標は、審判便覧の「登録商標の不使用による取消審判」の記載を参照すると、「上段及び下段の各部が観念を同一とするときの、その一方の使用」であり、また「横書きと縦書きによる表示態様の相互間の使用」に該当する。

さらに、商標(商号でもある)「美玉屋」は、一般的な店舗の商号であることを示す文字「屋」(又は「や」)自体に識別力がなく、他の商号と区別するのは識別力のある漢字「美玉」又はその称呼である平仮名「みたま」の部分であり、「美玉」又は「みたま」が強い識別力を発揮する部分である。この強い識別力を発揮する文字部分「美玉」又は「みたま」の末尾に、それ自体に識別力のない商号を示す「屋」又は「や」を付加した「美玉屋」又は「みたまや」を使用したとしても、本件商標と社会通念上同一と認められる使用に該当する。

したがって、乙第1号証の写真に示す商品に、乙第2号証のラベルを付すとともに、乙第3号証の包装用紙で包装して販売している以上、本件商標を指定商品「菓子(だんご)」に使用していることにほかならず、本件商標は不使用による取消理由に該当しないものである。

(4)本件商標の商標権者と使用者との関係

前商標権者と本件商標権者は親子であり、本件商標権者が父の経営している美玉屋の従業員であることを考慮すれば、本件商標権者と同視できる者(前商標権者)の使用といえる。

また、仮に、本件商標権者と同視できる者の使用が認められないとしても、父(前商標権者)が息子(本件商標権者)に本件商標権を譲渡する際の譲渡の理由が上記(1)ウに記載のとおりであるから、前商標権者が美玉屋店主であって、本件商標を使用することを前提としており、両者の間で黙示的な通常使用権を認めたものと解されるから、本件商標は、通常使用権者である前商標権者の使用ともいうことができ、いずれにしても、商標権者又は使用権者の何れかの者が使用していることに相違ない。

(5)請求人適格について

ア 請求人は、美玉屋の先代の子であって、美玉屋の店舗の土地及び建物の所有者であり、美玉屋の店主である前商標権者に店舗を貸している家主に当たる。そして、請求人は、前商標権者が商品「だんご」に商標「美玉」又は「みたま」を使用していることを熟知しており、商品「みたまやの/黒みつだんご」が需要者に人気の高いことを知った上で、本件取消審判を請求している。

しかも、請求人は、商願2018−138026号(商標「美玉屋」、第35類)(乙10)、商願2018−145915号(商標「みたまやの黒みつだんご」、第30類)(乙11)及び商願2018−138025号(商標「黒みつだんご」、第30類)(乙12)の3件の商標登録出願をしており、請求人は、上記商標登録出願(乙10、乙11)を登録する目的で、商標法第4条第1項第11号の拒絶理由を解消するために、本件取消審判の請求人適格を満たしているようにみえ、また、不使用取消審判の請求人適格は、平成8年改正法で緩和されて、「何人も」と規定されている。

しかしながら、請求人は、昨年、前商標権者に対して美玉屋店舗の土地・建物につき新たに賃貸契約を締結することを提案し、美玉屋店舗の土地・建物の賃貸料と美玉屋の商号(暖簾)代を合わせて家賃を要求したが、余りにも高額の値上げだったため、「美玉屋店舗の土地・建物の賃貸料と、美玉屋の商号(暖簾)代を分けて、提示して頂けないか」と要望したが、交渉が打ち切られた。

その後、前商標権者は、本件取消審判の請求を知り、さらに、商標登録出願(乙10〜乙12)の存在を知った。

この一連の交渉経緯を考慮すると、請求人は、商標登録出願(乙10〜乙12)に係る商標を指定商品又は指定役務について使用する意思がなく、所有する美玉屋店舗の土地・建物の賃貸料の高額な値上げを前商標権者に同意させる目的で商標登録出願をし、本件不使用取消審判を請求したものと解される。

イ 請求人の請求人適格について

請求人は、商標登録出願(乙10〜乙12)に係る商標を指定商品又は指定役務に自ら使用するために本件取消審判を請求したものではなく、所有する美玉屋店舗の土地・建物の賃貸料の値上げを前商標権者に同意させる目的で本件取消審判を請求したものと思われ、このような場合、審判便覧の請求人適格に関する記載における「当該審判の請求が被請求人を害することを目的としていると認められる場合には、その請求は、権利濫用として認められない。」という事由に該当する。

したがって、請求人の本件取消審判は、請求人適格を欠く理由で、本件商標の取消が認められない。

(6)本件商標の周知性と請求人適格について

ア 美玉屋の店主(前商標権者)が製造・販売する「みたまやの黒みつだんご」は、乙第8号証及び乙第9号証の1ないし乙第9号証の5だけでなく、それ以前に発行され又は掲載された各種雑誌、書籍、新聞及びネット記事により、「美味しい黒みつだんご」と評判になり、一般需要者の間に広く知れ渡り、全国的に有名になっている。

また、乙第15号証ないし乙第17号証により、商標「みたまやの黒みつだんご」及び商標「美玉屋」が周知となり、その要部である識別力の顕著な本件商標「美玉/みたま」が周知性を発揮している事実を立証する。

以上のとおり、商号商標「美玉屋」及び美玉屋の人気商品「みたまやの黒みつだんご」は、二代目である前商標権者が美玉屋を承継した後に、雑誌・書籍、新聞記事及びネット記事等で大々的に紹介され、ユーザーに広く支持され人気を博しており、周知商標となっていることが明白である。

イ 商標「みたまやの黒みつだんご」及び商標「美玉屋」の周知性を考慮すれば、請求人の商標出願(乙10〜乙12)は、商標法第4条第1項第10号によって拒絶理由に該当し、拒絶査定を免れないものであるから、請求人は拒絶理由に該当することの明らかな商標出願(乙10〜乙12)により生じた権利を消失することになり、本件取消審判の請求人としての請求人適格を有しないことが明白である。

仮に、請求人の商標登録出願が登録されると、美玉屋店主の前商標権者以外の者が商標「美玉屋」又は商標「みたまやの黒みつだんご」を使用権者の製造販売に係る商品「だんご」に付して合法的に販売できることになり、本件商標権者である被請求人の利益を著しく害するのみならず、需要者が美玉屋(店主は前商標権者)の製造・販売に係る商品と出所の混同及び品質誤認を生じ、需要者の利益も害されることになる。

このような周知商標の使用者や需要者の利益を害する目的の本件取消審判は、上記審判便覧の請求人適格に関する記載の「当該審判の請求が被請求人を害することを目的としていると認められる場合には、その請求は、権利濫用として認められない。」という事由に該当するため、請求人は請求人適格を有しないというべきである。

ウ 商標法の目的は、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図るとともに、あわせて需要者の利益を保護することにある(商標法第1条)。

請求人が商標「美玉屋」及び商標「みたまやの黒みつだんご」について商標登録を受けるならば、商標権者の利益(業務上の信用)が著しく害されるのみならず、需要者の利益も害されるため、本件取消審判の請求は商標法の目的に照らしても認めるべきではない。

2 弁駁に対する意見

(1)請求人は、「美玉屋」の先代の妻がオーナーとして前商標権者に店舗ごと商標(屋号や商品名)も貸与していた、と主張するが、前商標権者は、和菓子屋「美玉屋」の二代目店主として、自ら当該店舗を経営し営業していた。

また、前商標権者が「みたまやの黒みつだんご」を考案した旨の主張はしていないが、商標「美玉屋」及び商標「みたまやの黒みつだんご」が需要者に広く知られるようになり、周知商標に至ったのは、二代目である前商標権者の営業努力によるところが大きいのであり、先代でも相続人である請求人でもない。

(2)請求人は、請求人適格について、「寺井家は、商標権者らに美玉屋を貸しており、利害関係を有しており、主張は失当である。」と主張しているが、前商標権者は、美玉屋の店舗(土地・建物)の賃借人であって、商標「美玉屋」及び「みたまやの黒みつだんご」を周知商標とした未登録の周知商標の使用者である。

仮に、審判便覧(乙14)の「請求人適格」に該当せず、本件商標が取消を免れないとすれば、請求人の出願に係る後願(乙10〜乙12)が商標登録されることになり、その場合には、本件商標権者の父親(雇用主)である前商標権者は、未登録の周知商標「美玉屋」及び「みたまやの黒みつだんご」の使用を制限され、利益を著しく害されることになり、請求人の父親(雇用主)である前商標権者は、請求人の後発的な登録商標によって、未登録の周知商標の使用を制限されることになるので、著しい不利益(害)を受けることになるから、「当該審判の請求が被請求人を害することを目的としている場合」に該当するものである。

なお、被請求人は、父(家族)であり和菓子店経営者である前商標権者に雇用されており、当該和菓子店を将来承継するときのために、父の店舗が本件商標を使用することに合意の上で、本件商標権の譲渡を受けており、名義上だけの商標権者にすぎず、父の経営する和菓子店「美玉屋」が周知商標「美玉屋」「みたまやの黒みつだんご」を使用できなくなれば、将来、和菓子店「美玉屋」の三代目を承継できなくなるという不利益を受けることとなる。

また、請求人は、「美玉屋」の商号権に基づいて、利害関係を有しており、被請求人の主張は失当である、と主張しているが、商号権の及ぶ地域的効力は「同一市町村、特別区、政令指定都市の各区内」に限られるが、商標権の効力は全国的に及び、しかも、商標「美玉屋」及び「みたまやの黒みつだんご」は、上述したように、前商標権者が何十年もの年月をかけて営業努力してきた結果として、周知商標に至らしめたものである。

商号権という「同一市町村、特別区、政令指定都市の各区内」に限られる権利を拠り所として、前商標権者が獲得している周知商標を使用できなくする行為は、商号権の本来的な効力範囲を著しく超えて、商標権の全国的な効力を取得しようとすることに等しく、まさに「被請求人を害することを目的としている場合」に該当することに他ならず、権利濫用として認められない。

第4 当審の判断

1 請求人適格に関する被請求人の主張について

被請求人は、前商標権者は、商標「美玉屋」及び「みたまやの黒みつだんご」を周知商標とした未登録周知商標の使用者であること、請求人は商標権者らの使用に係る当該未登録周知商標と同一の商標を出願しており、本件商標が取り消され、請求人の出願に係る商標が登録された場合に商標権者らが周知商標である「美玉屋」を使用できなくする行為は、「被請求人を害することを目的としている場合」に該当することに他ならず、権利濫用として認められない旨主張している。

しかしながら、商標法第50条第1項で規定される審判請求は、「継続して三年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」と規定されており、当該登録商標を使用する意思を要する規定もなく、商標法上、これを制限する規定はない。

また、登録商標の不使用による取消審判の請求が、専ら被請求人を害することを目的としていると認められる場合などの特段の事情がない限り、当該請求が権利の濫用となることはないと解するのが相当であるところ、被請求人の主張及び提出された証拠からみても、請求人による本件審判の請求が被請求人を害することを目的としていると認められる場合などの特段の事情は見いだせないし、被請求人は、それを立証する証拠の提出もしていない。

そうすると、本件商標が取り消された場合に請求人に係る商標が登録されるか否かなどは、本件審判請求に何ら関係のないものといわざるを得ないものである。

したがって、請求人は本件審判についての請求人適格に欠けるものということはできない。

2 本件商標の使用について

(1)被請求人の提出に係る乙各号証及び被請求人の主張によれば、以下の事実が認められる。

ア 本件商標は、前記第1のとおり平成8年11月29日に設定登録されたものであり、その権利者は平成28年7月12日付けで前権利者から現在の権利者である本件商標権者に移転されているところ、本件商標権者は前商標権者の息子であって、前商標権者は、「美玉屋」なる名称で、和菓子を製造、販売しており、本件商標権者は、当該和菓子店の従業員である(乙3、乙7)。

イ 乙第1号証の1の上段の写真及び乙第2号証のラベルには、「みたまや」及びそれに続けて小さく「の」の文字を筆書き風に縦書きに書し、その左に「黒みつだんご」の文字が表示され、さらに、その左側には、「美玉屋」の文字並びに住所及び電話番号が記載されている。

そして、平成28年3月16日、同29年4月7日及び同30年4月19日に、岡野太陽堂から美玉屋に「名物黒みつだんごラベル」が、それぞれ、15,525枚、15,255枚及び15,120枚納品された(乙4)。

ウ 乙第3号証の包装紙には、「みたまやの元祖黒みつだんご」及び「美玉屋」の表示がある。また、名称として「和生菓子」、品名として「黒みつだんご」、製造者として「美玉屋」及び前商標権者の氏名及び住所が記載されている。

そして、平成29年2月2日、同年7月27日及び同30年1月10日に、岡野太陽堂から美玉屋に「黒みつだんご用包装紙」が、それぞれ、2,000枚納品された(乙5)。

エ 平成30年1月8日に、同月26日を納品日として、「品名 黒蜜団子」60ケースが日本橋高島屋から発注され(乙6の1)、また、同年1月31日に、同年3月7日から12日の期間の催事のために「品名/黒みつだんご」5本入りが各日60ケース、合計360ケースが新宿高島屋から発注され(乙6の2)、同年4月7日を納品日として、「品名 黒蜜団子」5本入り30ケースが高島屋柏店から発注され(乙6の3)、2018年3月19日に、同年3月29日ないし4月1日を到着日として、「商品名 黒蜜だんご(5本入り)」が各日30ケース、合計120ケースが広島三越から発注された(乙6の4)。

(2)判断

ア 上記(1)によれば、要証期間内である平成28年3月16日から同30年4月19日の期間に、「美玉屋」及び「みたまや」の文字が表示されたラベル及び包装紙が岡野太陽堂から前商標権者に係る和菓子屋「美玉屋」に納品されたこと及び当該ラベル及び包装用紙を使用した商品「だんご」が、上記美玉屋から、平成30年3月26日に日本橋高島屋に、同年3月7日ないし12日に新宿高島屋に、同年4月7日に高島屋柏店に及び同年3月29日ないし4月1日に広島三越に販売(譲渡)されたことを推認することができる。

イ 本件商標と使用商標との社会通念上同一性について

(ア)被請求人は、乙第1号証及び乙第2号証の商品ラベル及び乙第3号証の包装用紙に記載されている「美玉屋」及び「みたまやの黒みつだんご」の表示中の「美玉」及び「みたま」の記載をもって、本件商標の使用と主張する。

(イ)そこで、商品ラベル(乙1の1、乙2)及び包装用紙(乙3)に記載された標章について検討すると、当該ラベルには、筆書き風に縦書きした「美玉屋」の文字が表示され、また、当該包装用紙には、筆書き風に横書きされた「美玉屋」の文字及び製造者の欄に横書きした「美玉屋」の文字が表示されている。

また、当該ラベル及び包装用紙には、筆書き風に「みたまや」の文字が表示されているところ、その構成中の「の」文字は、格助詞であって、次の行に続く商品名等と認識され得る「黒みつだんご」及び「元祖黒みつだんご」の生産者、販売者である「みたまや」を限定するものであり、「みたまや」の文字部分が強く看者の注意を惹く要部として理解されるものというべきである。そして、「みたまや」の文字が、当該ラベル及び当該包装用紙に「美玉屋」の文字とともに表示されていることからすれば、当該「みたまや」の文字は「美玉屋」の読みを表したと理解されるものといえる。

よって、当該ラベル及び当該包装用紙には、「美玉屋」及び「みたまや」の標章(以下「美玉屋」及び「みたまや」の文字を「本件使用商標」という。)が使用されているとみるのが相当である。

そして、本件使用商標は、いずれも、同じ書体、同じ大きさ及び間隔で、まとまりよく一体に表されており、これより「ミタマヤ」の称呼を生じ、また「美玉屋」の構成中「屋」の文字は、「屋号や雅号、書斎に用いる語。」の意味を有する語であることからすれば、一つの店舗の名称を表したと理解されるものであるから、本件使用商標は、その構成文字に相応して「ミタマヤ」の称呼を生じ、「店舗名としての美玉屋」といった観念を生じるというのが相当である。

なお、この点について、被請求人は、一般的な店舗の商号であることを示す文字「屋」(又は「や」)自体に識別力がなく、他の商号と区別するのは識別力のある漢字「美玉」又はその称呼である平仮名の「みたま」の部分であるから、「美玉」又は「みたま」が強い識別力を発揮する部分であり、この強い識別力を発揮する文字部分「美玉」又は「みたま」の末尾に、それ自体に識別力のない商号を示す「屋」又は「や」を付加した「美玉屋」又は「みたまや」を使用したとしても、本件商標と社会通念上同一と認められる使用に該当する旨主張する。

しかしながら、上記構成からなる本件使用商標にあっては、その構成文字全体をもって、一つの店舗名を表すものと理解されるものであることは、上記のとおりであり、また、被請求人の提出に係る証拠を総合してみても、本件使用商標が「美玉」又は「みたま」の文字部分のみが要部として認識されるというべき証拠は見いだすことができないから、被請求人の上記主張は、採用することができない。

(ウ)本件使用商標と本件商標との同一性

本件商標は、「美玉」の漢字及び「みたま」の平仮名を2行に縦書きしてなるものであるところ、その構成中の「みたま」の平仮名は、当該漢字の読みを表したものと理解されるものであり、本件商標は、その構成文字に相応して、「ミタマ」の称呼を生じ、また、「美玉」の文字は、辞書に掲載されている既成語ではないものの、これを構成する各漢字の持つ意味合いからすれば、「美しい玉」ほどの意味合いを想起させるものである。

そこで、本件商標と本件使用商標とを比較してみるに、本件商標から生じる「ミタマ」の称呼と本件使用商標から生じる「ミタマヤ」の称呼とは、「ヤ」の音の有無の差異を有するものであり、また、「美しい玉」といった意味合いを想起させる本件商標と「店舗名としての美玉屋」といった観念を生じる本件使用商標とは、その称呼及び観念が異なるものである。

そうすると、本件使用商標は、本件商標と社会通念上同一の商標と認めることができない。

(3)小括

以上のとおり、本件使用商標は、本件商標と社会通念上同一の商標と認めることができず、他に、被請求人が提出した証拠を総合してみても、要証期間内に本件商標をその指定商品について、使用していることを証明するものは見いだすことができない。

3 むすび

以上のとおりであるから、被請求人は、要証期間内に日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが、その指定商品について、本件商標(社会通念上同一の商標を含む。)の使用をしていたことを証明したということはできないし、また、使用していないことについて正当な理由があることも明らかにしていない。

したがって、本件商標の登録は、商標法第50条の規定により、取り消すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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