Trademark Appeal Case
位置商標の装飾性
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
基本情報
| 審判番号 | 不服2018−8775(T2018−8775/J1) |
|---|---|
| 審判種別 | 不服 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理由テキスト
1 本願商標
本願商標は,別掲1のとおりの構成からなり,商標法第5条第4項に基づく「商標の詳細な説明」を願書記載のとおりに記載して,第21類に属する願書記載のとおりの商品を指定商品として,平成28年3月28日に位置商標として登録出願されたものである。
その後,原審における平成29年8月7日付けの手続補正書及び当審における同30年8月11日付けの手続補正書により,その指定商品については,第21類「毛髪カット用くし」と,商標の詳細な説明については,別掲2のとおりに補正された。
2 原査定の拒絶の理由(要旨)
(1)本願商標は,別掲1のとおりの構成からなる位置商標で,商標の詳細な説明の記載により特定されるものであるところ,本願商標の指定商品の分野においては,需要者の目を引くための装飾等を目的として,くし素材をくりぬいて文様を表したものが多く販売されている実情がある(別掲3)。
また,本願商標に係る貫通孔は,左右にそれぞれ7つずつあるが,その形状及び数,その配置場所には,格別特徴はない。
そうすると,本願商標に係る図形の構成と,その付される位置とを総合して,本願商標全体として考察しても,本願商標は,その指定商品に使用しても,これに接する取引者,需要者において,商品の装飾や模様を表したものと理解,認識するにとどまるため,自他商品の識別標識として機能を果たし得ず,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識できないというのが相当である。
(2)請求人の主張及び提出証拠によれば,本願商標は,美容関係者においてはある程度知られていることが伺えても,我が国の「くし」の需要者全般においては,本願商標が,その指定商品に使用された結果,何人かの業務に係る商品であることを認識するに至っているということはできないというのが相当である。
(3)したがって,本願商標は,商標法第3条第1項第6号に該当する。
3 当審における職権証拠調べ通知
当審において,本願商標が商標法第3条第1項第6号に該当するか否かについて,職権に基づく証拠調べを実施した結果,別掲4及び5に掲げる事実を発見したので,同法第56条第1項で準用する特許法第150条第5項の規定に基づき,その結果を請求人に通知し(平成31年4月26日付け証拠調べ通知書),意見を求めた。
4 職権証拠調べ通知に対する請求人の意見
請求人は,上記3の通知に対して,要旨以下のとおり意見を述べた。
(1)本願商標は,貫通孔により通過する光も看者に強い印象を与えるところ,別掲4に掲げる事例は,点状模様にすぎないものや,窪みにより構成されるものであり,本願商標の構成とは全く異なるもので,中には廃番又は取扱終了されて市場に出回っていないものもあるから,本願商標の商標法第3条第1項第6号の該当性の判断に影響を与えない。
(2)別掲5に掲げる事例は,いずれもコピー商品であるため,本願商標の商標法第3条第1項第6号該当性の判断に影響を与えない。そればかりか,多数の模倣がなされるほど,本願商標がブランド力のあるもの,すなわち識別性を有することを明らかにする証拠となる。
5 当審の判断
(1)本願商標の図形の識別性
ア 本願商標は,別掲1及び別掲2のとおり,(ア)複数本の櫛歯を有するくし本体の長辺方向の,中央を除いた左右部分の位置に配置した位置商標であって,(イ)それぞれ一定間隔で横並びに配された,楕円型にくりぬかれた7個の貫通孔を組み合わせた図形からなるものであり,図形全体としては,小さな楕円を連続して,中央を除いて7個ずつ(計14個)横一列に配置した線状模様との印象を与えるものである。
イ そして,本願商標の指定商品に係るくしとの関係においては,本体の櫛歯根元の位置に,様々な模様や文様を装飾として施すことは取引上普通に行われていることで,その装飾手法として「透かし彫り」(彫刻手法の一つ。板金・木材・石材などをくりぬいて図案をあらわすこと。参照「広辞苑 第6版」岩波書店)を採択するものも多く見られる(別掲3)。
また,装飾や機能(目盛,グリップ)を果たすことを目的として,くし本体の櫛歯根元の長辺方向の位置に,小さな点状模様や楕円状の窪みなどを,一定間隔で連続して配置することで,全体として連続した小さな点又は楕円による線状模様(中には,中央部を空白又は点の形状を変えて,左右に連続模様を横一列に配置するような構成のものもある。)との印象を与えるような装飾を施したくしが製造,販売されている実情もある(別掲4)。なお,請求人のカタログにおいても,「コームも健康な人間と同じで,歯は丈夫で身体はしなやか,Y.S.PARKコームは,ホール(穴)を作ることによって,実現しました。その上,1cm間隔のメジャーになっています。」(甲3(3葉目))の記載があるなど,その貫通孔に機能的な役割もあることが明示されている。
さらに,本願商標と同様に,くし本体の櫛歯根元の長辺方向の位置に,連続した複数の貫通孔を,一定間隔で横一列に配置してなるくしも製造,販売されており,例えば,連続した複数(片側7個,片側9個)の貫通孔を,中央を空けて左右に横一列に配置するもののほか,連続した複数(7個,8個)の貫通孔を横一列に配置するものなどもある(別掲5)。
ウ 以上のような取引の実情を踏まえると,本願商標は,その指定商品であるくしとの関係において,装飾又は機能を果たすことを目的として模様又は窪みが取引上普通に施されている位置に,連続した貫通孔を横一列に配置した図形(線状模様)を表したものであり,全体として,装飾又は機能を果たす目的の模様であるとの印象を与える。
そうすると,本願商標は,その図形の構成及び位置をして,その指定商品に係る需要者においても,単なる装飾又は機能を果たす目的の模様との印象を与えるにすぎず,自他商品の識別標識として機能するような特徴は見出し難い。
エ(ア)請求人は,本願商標は,多数の楕円型の貫通穴を一定間隔で横並びに配することで,「多数の楕円穴が細長い部位に一列で規則的に並んだ」又は「一列に並んだ楕円穴が細長い部位にぴったりと収まった」という印象を看者に与えるものであること,別掲3の「つげ櫛」の事例は,本願の指定商品とは,くしとしてのジャンル,用途及び需要者等が根本的に異なり,さらに文様も異なることから,本願商標は自他商品の識別機能を有する旨を主張する。
しかしながら,上記イのとおり,貫通孔によって模様や文様を装飾する透かし彫りの手法は,広く一般的に採択されている装飾手法であるから,貫通孔により装飾を施すこと自体は,自他商品の識別標識として機能する特徴とはいえないこと明らかであるし,線状模様をくしに施すことも,一般的に採択されているような装飾手法にすぎないもので,加えて,本願商標と同様の線状模様を施すくしが請求人以外の者によって製造,販売されている実情も鑑みれば,本願商標は,上記ウのとおり,装飾目的の模様との印象を与えるにすぎないから,その主張は採択できない。
(イ)請求人は,本願商標の指定商品の需要者層は,美容師や理容師,美容・理容用品を扱う業者であり,一般消費者に比べて遙かに高い注意力及び観察力を仕事に使う道具に向けることから,本願商標のような構成であれば,自他商品識別機能を発揮する旨を主張する。
しかしながら,本願商標の指定商品「毛髪カット用くし」は,特に業務専用品などとしてその流通における制限があるわけではないため,主にヘアカットを行う美容師や理容師だけではなく,一般の需要者も購入する可能性は十分あるところ,本願商標のような形状及び位置の特徴は,上記ウのとおり,装飾又は機能を果たす目的の模様との印象を与えるにすぎず,美容師や理容師においてはこれとは異なる印象が生じる理由や具体的な根拠も明らかではないから,その主張は採択できない。
(ウ)請求人は,別掲4に掲げる事例は,点状模様にすぎないものや,窪みにより構成されるものであり,本願商標の構成とは全く異なるもので,中には廃番又は取扱終了されて市場に出回っていないものもあるから,本願商標の商標法第3条第1項第6号の該当性の判断に影響を与えない旨を主張する。
しかしながら,別掲4のような事例は,装飾や機能(目盛,グリップ)を果たすことを目的として,点状模様や窪みなどを一定間隔で連続して配置することが,取引上普通に採択されているデザイン手法であることを示すような取引の実情であり,また,現時点において製造,販売されていない商品であっても,少なくともウェブサイトでの掲載は確認できる上,過去又は最近まで製造販売されていた商品であるから,本願商標の指定商品に係る需要者の認識に影響を与え得る取引の実情として参酌することに何ら問題はなく,その主張は採択できない。
(エ)請求人は,別掲5に掲げる事例は,いずれも請求人又は他社製品のコピー商品であるため,本願商標の商標法第3条第1項第6号該当性の判断に影響を与えない旨を主張する。
しかしながら,本願商標と同様の特徴を備える別掲5に掲げる事例についても,貫通孔よりなる図形の構成及び位置をして,単なる装飾又は機能を果たす目的の模様との印象を与えるにすぎず,自他商品の識別標識として機能するような独創的な特徴はないのだから,本願商標の自他商品の識別標識力の有無を判断するにあたり,別掲5に掲げる事例を参酌してはならないとの事情は見出し難く,その主張は,採択できない。
オ 以上のとおり,本願商標は,その構成中の図形及び位置をして,商品の模様又は装飾を普通に用いられる方法で表してなる標章のみからなる商標と看取されるもので,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することはできない。
(2)本願商標の使用による識別性
ア 請求人による本願商標の使用について
請求人の提出する証拠(請求人が原審及び当審において提出した資料1ないし資料159は,甲第1号証ないし甲第159号証と読み替える。)及び主張によれば,以下の事実が認められる。
(ア)請求人は,くし本体の長辺方向の,中央を除いた左右の位置に,一定間隔で7個の貫通孔を横一列に配置したくし(以下「請求人商品」という。)を製造,販売しているところ,7個(計14個)の貫通孔を有する商品名又は品番としては,「Y.S.334」,「Y.S.339」,「Y.S.402」,「Y.S.452」,「Y.S.−A52」,「Y.S.−A02」,「Y.S.−A39」などがある(甲3)。
なお,請求人商品と同様の形状で,貫通孔の数を8個(計16個)以上としたくし(以下「請求人類似商品」という。)の商品名又は品番としては,「Y.S.333」,「Y.S.335」,「Y.S.336」,「Y.S.337」,「Y.S.338」,「Y.S.−A33」,「Y.S.−A37」などがある(甲3)。
(イ)請求人商品は,1989年に販売開始したと主張されるが,請求人商品の特徴(7個(計14個)の貫通孔)を備える商品「YS−CL337」は,平成14年(2002年)3月1日現在の価格を表示する問屋カタログでの掲載が確認できる(甲13)。
(ウ)請求人商品及び請求人類似商品は,国内及び海外において商品展開されており(甲20〜甲24),それらを合わせた年間の売上げは,約17万本(2012年度),約20万本(2013年度),約22万本(2014年度),約27万本(2015年度),約27万本(2016年度)である(甲49〜甲53)。
(エ)請求人は,2004年から2018年にかけて海外を含めて美容・理容用品の展示会に出展しているが,そのうち国内の展示会への出展は,2018年に1回(横浜),2014年に1回(横浜),2013年に1回,2010年に1回(横浜)である(甲128)。
国内の展示会(2010年及び2014年)では,請求人商品の写真が「Y.S.PARK」の文字などともに表示されているのぼりも設置した(甲18,甲19)とされるが,それ以外の請求人商品の広告態様は明らかではない。
(オ)請求人商品及び請求人類似商品は,書籍や雑誌,テレビ番組等において,コームの見本として掲載されたり,それを利用してヘアカットしている様子を示す写真の中に写り込んでいるものがあるが,記事中に請求人商品を紹介する記述や,その形状を出所識別標識として印象付けるような記述は見当たらない(甲60〜甲64,甲66)。また,請求人商品を取り上げたテレビ番組においても,「220°Cの熱まで耐えられる」,「曲げても折れない」,「プロ御用達のMade in Japanとは?」などのように,海外でも販売されている請求人商品及び請求人類似商品の機能的特徴や産地等について紹介しており,貫通孔により構成される図形を出所識別標識として印象付けるような紹介は見当たらない(甲69)。
イ 検討判断
本願商標の図形としての特徴を備える請求人商品は,我が国において17年以上の販売実績があり,請求人類似商品と合わせた販売数量も毎年少しずつ増加していることが伺える。
しかしながら,請求人は,請求人商品と請求人類似商品という,同様の形状をしながらも貫通孔の数が異なる商品を,並列したラインナップの中で特段区別せずに取り扱っているため,これに接する需要者において,貫通孔の数に関する記憶は散漫となり,多数の貫通孔により構成される模様という漠然とした印象を与えるとしても,請求人商品に係る貫通孔により構成される図形(7個(計14個)の貫通孔を横一列に配置したもの)として,需要者の間において認識,記憶されるものとは考えにくい。
また,請求人商品(又は請求人類似商品)の広告宣伝においても,新聞,雑誌等のメディアを通じた大規模な宣伝実績はなく,国内における展示会も数年に一度の頻度で,そこでの広告態様も不明だから,請求人商品に係る貫通孔により構成される図形部分の認知度の向上にどの程度貢献したのかも明らかではない。
さらに,請求人商品(又は請求人類似商品)の我が国における新聞,雑誌等における掲載も,多くがヘアカット時の使用態様を示す写真や映像に写り込んでいるにすぎず,その貫通孔の構成や数まで確認することは困難であるし,その機能的特徴や産地等を紹介する記事によっては,請求人商品に係る貫通孔により構成される図形部分の認知度が向上したとは考えにくい。
そうすると,本願商標は,請求人商品に係る使用実績を勘案したとしても,貫通孔により構成される図形部分(7個(計14個)の貫通孔を横一列に配置したもの)をして,その指定商品に係る需要者の間において広く認知されているとは認めることはできず,請求人による使用の結果,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至ったものとはいえない。
ウ 請求人の主張
(ア)請求人は,一般的なエンドユーザー向けの広告等を行っておらず,基本的にプロの美容師・理容師と直接会って商品説明等を行うことを広報活動のメインにしており,海外における展示会への出展やセミナー及び実技指導等を含めて,約1千万円を支出していることや,研修会において請求人商品を用いて講師を行っていることを主張する。
しかしながら,海外における広告宣伝実績は我が国における需要者の認識に直接影響しないこと明らかで,上記イのとおり,我が国における展示会の出展も数年に一度の頻度にすぎず,請求人商品に係る広告態様も明らかではない。また,セミナーや実技指導などにおいては,受講者は技術や知識に着目することがあり得るとしても,講師の使用している請求人商品(又は請求人類似商品)の貫通孔により構成される模様に着目し,出所識別標識としての記憶や印象を形成することは,直ちに想定し難いものであるため,その主張は採択できない。
(イ)請求人は,美容師や理容師等を対象とするアンケート回答書(平成29年5月24日〜6月28日,平成30年5月14日〜8月9日)を提出し(甲77,甲87),本願商標を構成する標章である貫通孔(穴)は,請求人商品を他の商品と識別する目印として,需要者に認識されている旨を主張する。
しかしながら,上記アンケート調査は,実施者,実施場所,回答者の抽出手法,総回答数,質問方法等が明らかではなく,その指定商品に係る需要者の認識を,公正かつ客観的な方法でなされたアンケート調査によって示したものとは認め難い。
なお,当該アンケートの質問は,本願商標に相当する図面(本願商標の点線部も実線とする。商標の説明文はない。)からブランド名(メーカー名)やその分かった理由を尋ねるものであるところ,当該図面からは小さな楕円を連続して横一列に配置した模様が判読できても,その楕円が貫通孔(穴)のように立体的に表されていないにも関わらず,アンケート回答書の中には,ブランド名を分かった理由として「穴」に関する回答をするものが多いことは,その場で楕円部分が貫通孔であることを意識させる何かしらの外的要因が介在した可能性を強く示唆するもので,アンケート調査の客観性や公平性に強く疑問を生じさせるものである。また,それぞれの回答も「穴」という非常に抽象的な認識を示しており,少なくとも,本願商標の構成中の図形部分に相当する,7個(計14個)の貫通孔を横一列に配置した図形としては認識されていないことは明らかである。
(ウ)請求人は,請求人商品又は請求人類似商品について,海外における展示会の出展実績,カタログ,雑誌掲載等を示して,海外の美容業界においても,本願商標は,広く知れ渡っている旨の主張をする。
しかしながら,海外における広告宣伝は,我が国の需要者の間における認識に直接影響しないことは明らかであり,本願商標が,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至ったものといえるか判断するにおいて考慮すべきは,我が国の需要者の間における認識を前提とすべきであることを勘案しても,その主張は採択できない。
(エ)請求人は,請求人商品又は請求人類似商品のコピー商品(請求人のブランド名を表記しないものを含む。)が出回っている状況は,くし本体に形成された多数の楕円型の貫通穴が一列に並んだ図形そのものが既に自他商品識別機能を発揮していることを裏付ける旨を主張する。
しかしながら,周知著名な商標は模倣品の被害を受ける可能性が高いとしても,模倣品の被害を受けているから商標が周知著名であるとの論理づけはできないこと明らかで,上記イのとおり,本願商標の構成中の図形及び位置が,その需要者の間において広く知られているとはいえないのだから,その主張は採択できない。
エ 小括
以上のとおり,本願商標は,その構成中の図形及び位置をして,我が国の需要者の間において,請求人又はその業務に係る商品との具体的関係を連想,想起させるに至っているものとはいえない。
したがって,本願商標は,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至ったものということができない。
(3)まとめ
以上のとおり,本願商標は,その構成中の図形及び位置並びに請求人による使用実績を勘案しても,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標であって,商標法第3条第1項第6号に該当するから,これを登録することはできない。
よって,結論のとおり審決する。
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