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Trademark Appeal Case

結合商標の称呼・要部類似性

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号無効2020−890013(T2020−890013/J3)
審判種別無効
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

本件審判の請求は,成り立たない。
審判費用は,請求人の負担とする。

理由テキスト

1 本件商標

本件登録第6173271号商標(以下「本件商標」という。)は,「DRIP ON THE WORLD」の文字を標準文字で表してなり,平成30年9月7日に登録出願,第30類「アイスクリーム用凝固剤,家庭用食肉軟化剤,ホイップクリーム用安定剤,食品香料(精油のものを除く。),茶,コーヒー,ココア,砂糖・クリームを含有したインスタントコーヒー,砂糖・クリームを含有したインスタント紅茶,砂糖・クリームを含有したココア,焙煎したコーヒー豆,コーヒー飲料,ココア飲料,ミルクコーヒー,ミルク入りココア,ミルク入り紅茶,ミルク入り茶,氷,菓子,パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ,調味料,ガムシロップ,砂糖,角砂糖,香辛料,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,コーヒー豆,穀物の加工品,チョコレートスプレッド,ぎょうざ,しゅうまい,すし,たこ焼き,弁当,ラビオリ,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,即席菓子のもと,パスタソース,食用酒かす,食用粉類」を指定商品として,令和元年8月23日に設定登録されたものである。

2 引用商標

請求人が,本件商標の登録の無効の理由として引用する商標は,以下の2件の登録商標であり,いずれも現に有効に存続しているものである(以下,これらをまとめて「引用商標」という。)。

(1) 登録第5113457号商標(以下「引用商標1」という。)

商標の構成:DRIP ON

出 願 日:平成19年8月29日

設定登録日:平成20年2月22日

指定商品 :第30類「コーヒー及びココア,茶」

(2) 登録第4926797号商標(以下「引用商標2」という。)

商標の構成:ドリップオン(標準文字)

出 願 日:平成17年6月20日

設定登録日:平成18年2月3日

指定商品 :第30類「茶,コーヒー及びココア」

3 請求人の主張

請求人は,本件商標の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第62号証(枝番号を含む。)を提出した。

(1)無効事由

本件商標は,商標法第4条第1項第7号,同項第11号,同項第15号及び同項第19号に該当し,同法第46条第1項第1号により,その登録は無効にすべきものである。

(2)無効原因

ア 請求人について

請求人は,1920年に創設,資本金46億2800万円のコーヒー及びコーヒー関連商品を消費者,飲食店及び食品問屋,飲料メーカー等に対し販売等を行うコーヒーに関する総合企業(甲3〜甲12)であり,コーヒー業界で非常に知られた法人である。

イ 引用商標の周知・著名性について

(ア)具体的使用態様

請求人は,カップの上に,フィルターとひいたコーヒー豆がセットになった紙製の小型ドリッパーを載せ,お湯を注ぐだけで手軽に本格的なレギュラーコーヒーの味を楽しむことができる簡易抽出型コーヒーを考案し,「DRIP ON」簡易抽出型コーヒー(以下「本件商品」という。)として1997年9月に商品の販売を開始(甲13)し,以来22年間継続して販売されており,「DRIP ON」の文字を,常に商品の包装中央の目立つ位置に配し販売してきた(甲14)。

現在の包装においても,「DRIP ON」の文字は,商品の正面及び背面に付されており(甲15,甲16),正面に至っては,需要者の最も目を引く真ん中の位置に,請求人のハウスマークであるKEY COFFEEの2倍以上の大きさで表されている(甲15)。

加えて,「DRIP ON」の文字は,商品の個包装(甲17)及びドリップパック自体(甲18)にも需要者の目を引く態様で使用されている。

(イ)宣伝広告実績(広告手法,期間,地域及び規模)

請求人は,1997年の販売開始時から現在まで22年間継続して,キャンペーン,雑誌,新聞記事及びテレビコマーシャルを利用して,日本全国及び海外で,引用商標について宣伝広告活動を行ってきた(甲19〜甲43)。

(ウ)販売規模

本件商品は,全国の総合小売店で販売されているものであり,日本国内ではイトーヨーカ堂,コスモス,生活協同組合コープこうべ等の2515社の企業が取り扱っており,導入店舗総数は,2万8026店舗に上る(甲44)。また,公式ウェブサイト,アマゾン社,楽天社,価格.com社,株式会社ヨドバシカメラ,アスクル社等を通じて,全国規模で販売されている(甲46の1〜甲46の6)。

(エ)販売数量,売上高

請求人が自社システム「EZCUBE」により管理しているデータによれば,1997年の発売開始から3年後の2000年には,1パック又は1箱の本件商品は,中元や歳暮のギフトとしての販売を含め,900万個販売され,売上高は44億2130万円,2001年及び2002年には,過去最高である940万個販売し,その売上高は,48億5080万円及び48億3250万円であった(甲47の2)。本データが示すとおり,2000年から2019年上半期までの期間には,1億4040万個販売し,697億5920万円の売上高であった。

本件商品は,販売開始から現在まで,少なくとも1億4040万個の販売数,697億5920万円の売上高を優に超えている(甲47の2)。

(オ)市場シェア

市場調査を行う株式会社インテージによる集計データによれば,本件商品は,2009年12月から2019年11月までの10年間の簡易抽出型コーヒー市場において,上位10位以内に入る高いシェアを有している(甲48)。

また,日本国内の簡易抽出型コーヒー産業の主要メーカーであるキーコーヒー株式会社,味の素AGF株式会社(以下「味の素AGF」という。),ユーシーシー上島珈琲株式会社,片岡物産株式会社,小川珈琲株式会社の5社について,2014年から2019年上半期の市場シェアをインテージ社のデー夕により比較すると,当該5年半の期間において,ユーシーシー上島珈琲株式会社が継続して首位を占める一方,2015年度から請求人と被請求人である味の素AGFが近似した売上高で2位及び3位を占めている(甲52)。

(カ)海外における商標権

請求人は,シンガポール,中国,マレーシア,韓国,アメリカ合衆国,ロシア,台湾及びインドネシアにおいて「DRIP ON」について商標権を保有しており(甲55の1〜甲55の13),2019年7月12日にはフィリピンに出願をしている(甲56の1及び甲56の2)。

(キ)以上の事実より,引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時にて日本において請求人の商標として広く知られた商標であることは明らかである。

ウ 商標法第4条第1項第11号該当性について

(ア)本件商標の要部 ,

本件商標は,「DRIP ON THE WORLD」の文字を標準文字で横書きしてなるところ,「DRIP」,「ON」,「THE」及び「WORLD」の各語を組み合わせた結合商標である。そして,本件商標を構成する各語は非常に平易な英単語であり,これらの各語自体は識別力がないか,極めて低いものであり,いずれかの語それ自体が独立して支配的な印象を与えるものではない。

しかし,本件商標の構成中,語頭の「DRIP ON」部分は,請求人の業務に係る「コーヒー」について使用する商標として,我が国の取引者及び需要者の欄で広く認識されているため,本件商標が付された商品「コーヒー」に接する者は,その構成中「DRIP ON」の文字部分に着目し,当該文字が請求人の業務に係る商品の出所識別標識として強く支配的な印象を受けるということができる。そして,「THE WORLD」は単に「世界」という意味であり,商品役務の世界観を示す言葉として広く一般的に用いられている識別力のない語である。(甲57の1〜甲57の14)。

他方,「DRIP」と「ON THE WORLD」で構成されているとの考えは,「ON THE WORLD」は慣用句として正しくないために,自然ではない。それにもかかわらず,あえて「DRIP ON THE WORLD」と表現したことは,被請求人の強い作為意思があるかといえる。被請求人のような大企業における商標採択は,千思万考して決定されるところ,本件商標のような不自然な英語表現をあえて商標として採択されたとは考えられない。加えて,慎重な検証の結果であったとするならば,その思考過程において国内同業者である請求人のロングセラー商品である「DRIP ON」コーヒーの存在の認知に至らなかったとは考えられない。

以上のとおり,本件商標は「DRIP ON」部分の強い識別力から当該部分を要部として抽出し,他人の商標と比較して類否を判断することは許されるというべきである。

(イ)商標の類否

本件商標の要部である「DRIP ON」の文字部分と,引用商標の類否を検討すると,本件商標の要部からは,その構成文字に相応して「ドリップオン」の称呼が生じる。そして,引用商標の周知・著名性を考慮すると,当該部分からは「請求人の業務に係るDRIP ONコーヒー」の観念を生じるものといえる。

これに対し,引用商標1は,「DRIP ON」の欧文字からなるところ,その構成文字全体に相応して「ドリップオン」の称呼が生じ,「請求人の業務に係るDRIPONコーヒー」の観念が生じる。さらに引用商標2は,片仮名の「ドリップオン」の文字からなるところ,その構成文字に相応して「ドリップオン」の称呼,「請求人の業務に係るDRIP ONコーヒー」の観念が生じる。

そうすると,本件商標の要部と引用商標1とは,文字のつづり及び書体を同一にし,同一の称呼及び観念を生じさせるものであるから,両商標を商品「コーヒー」に使用した場合,両者は誤認混同を生じさせるおそれがある類似の商標というべきことは明らかである。

また,引用商標2にあっては,片仮名の「ドリップオン」の文字で表されているものの,請求人及び新聞記事等においても,請求人の「DRIP ON」商品を指標する際に片仮名文字の「ドリップオン」が使用されており(甲19,甲20,甲24〜甲28,甲30,甲31,甲34〜甲36),請求人も「ドリップオン」の片仮名を商品及び宣伝に使用している(甲15〜甲17,甲21の1〜甲21の9,甲22,甲23,甲32,甲33)。さらに,片仮名表記の「ドリップオン」で取引が行われている実情もある(甲46の1〜甲46の6)。

このような,取引の実情を考慮すると,本件商標の要部と引用商標2は,称呼及び観念を共通にし,外観においても,文字種の差異はあるものの,いずれも標準文字で表してなるものであって,その差異が両者の類否に大きく影響を及ぼすものとはいえず,両商標について総合勘案するときは,両者は,相紛れるおそれがある類似の商標というべきである。

(ウ)商品の類否

本件商標の指定商品と引用商標の指定商品は同一商品「コーヒー」を含むものである。

(エ)小括

以上より,本件商標は,引用商標と同一又は類似の商標であり,かつ,指定商品も同一のものを指定するため,商標法第4条第1項第11号に該当する。

エ 商標法第4条第1項第15号該当性について

上述のとおり,引用商標は,請求人によって22年間継続して使用されてきた結果,請求人を表示するものと理解されるところ,本件商標は,その周知商標の文字を取り込んだ構成からなるものである。

(ア)出願商標とその他人の標章との類似性の程度

本件商標は,外観,称呼及び観念を引用商標1と共通にし,また,引用商標2とは,称呼及び観念を共通にし,外観上も近似した印象を与えるから,本件商標と引用商標は,極めて類似性の高い商標といえる。

(イ)その他人の標章の周知度

請求人の引用商標は周知著名といえる。

(ウ)その他人の標章が造語よりなるものであるか,又は構成上顕著な特徴を有するものであるか

引用商標は,欧文字の「DRIP ON」又は片仮名の「ドリップオン」から構成され,「DRIP ON」又は「ドリップオン」は,辞書等に掲載のない請求人が考案した造語である。

(エ)その他人の標章がハウスマークであるか

引用商標は請求人のハウスマークには該当しないが,請求人の主力ブランドの名称として使用されており,需要者,消費者の認知度は非常に高いといえる。

(オ)企業における多角経営の可能性

請求人は,コーヒー提供を伴う飲食事業やコーヒー関連事業を運営する14社の連結子会社,3社の持分法適用関連会社を有しており,多角経営の可能性は十分に認められる(甲4)。

(カ)商品間,役務間又は商品と役務間の関連性

本件商標は,第30類において,請求人の主力商品である「コーヒー」を指定するものである。

(キ)商品等の需要者の共通性その他取引の実情

本件商標に係る商品のうち「コーヒー」は,引用商標に係る商品に含まれているものであり,需要者を共通にする。特に,引用商標1は,商品自体に需要者の目を引く態様で付されており,本件商標が使用されると出所混同の可能性がある。

(ク)小括

請求人及び引用商標の周知性,商品間の関連性及び需要者の共通性を考慮すると,本件商標がその指定商品「コーヒー」に使用された場合,本件商標に接する取引者,需要者は,請求人のDRIP ONブランドの下で提供されるコーヒー等を想起することは必至であって,その出所について混同を生じさせるおそれが極めて高いというべきである。

したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当することは明らかというべきである。

オ 商標法第4条第1項第19号該当性について

引用商標と本件商標の類似性は上記のとおりであり,引用商標が造語であることに鑑みれば,請求人と全く関係ない被請求人が偶然に「DRIP ON」の文字を簡易抽出型コーヒーについて使用する商標として採用しなければならない必然性ないし必要性は全くない。

そして,「in the world」が「世界中で,一体全体,全然,ちっとも」等の意味を表し,「to the world」が「世界へ」の意味を表す語であるが(甲61),「on the world」といった慣用句は存在せず,本件商標の構成に「ON」を使用することは不自然である。

被請求人は,引用商標が請求人の周知商標であることを知りながら,「DRIP ON」の文字に「THE WORLD」の文字を付加させて,「DRIP ON」の文字を語頭に含ませることで,請求人の人気商品を想起させ,本件商品の高級性に便乗するような構成として本件商標を出願したものと考えられる。

このような行為は,請求人の製品ないし請求人が関係しているかのような誤認,混同を惹起させ,請求人が培ってきた本件商品のブランド価値を希釈化させるものである。

上記の事実及び引用商標が周知であって,極めて大きな顧客吸引力を有する事実を考慮すれば,本件商標は,引用商標の持つ顧客吸引力,名声へのただ乗りによって不正の利益を得る目的,ないし引用商標の有する強い識別力,表示力,顧客吸引力を希釈化することによって請求人に損害を与える目的で出願されたものと考えられる。

さらには,仮に,本件商標と引用商標を混同し,被請求人の商品を購入した需要者は,請求人の商品として期待した品質やサポート体制を得られないことになり,需要者の不利益となるおそれがあり法目的に反することになる。

すなわち,本件商標は不正の目的をもって使用するものであることが客観的に明白である。

したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当する。

カ 商標法第4条第1項第7号該当性について

引用商標は,1997年以降大々的に簡易抽出型コーヒーに関し使用されており,引用商標は,請求人の製品を示すものとして,広く知られているものである。そして,本件商標と引用商標は極めて類似するものである。

被請求人の子会社である味の素AGFはコーヒーを主力商品としており(甲62),被請求人は請求人と実質的に同業者であって,本件出願時の時点で周知な引用商標の存在を知っていたことが十分に考えられる。また,引用商標は,請求人が独自に考案した造語商標であって,被請求人がこれと極めて類似する文字を偶然採択したものとは到底認められないものである。

さらに,本件商標が出願されたのは引用商標が周知となった後であるから,本件商標は,引用商標が簡易抽出型コーヒー業界において広く知られている商標であることを承知の上で,引用商標に化体した信用,名声及び顧客吸引力に便乗し,不当な利益を得る等の目的のもとに,引用商標の有する特徴を模倣して出願したものといわざるを得ず,かかる行為によって,引用商標に化体した信用・名声及び顧客吸引力を希釈化させ,かつ汚染するものといえる。

また,本件商標のように不自然な語である「ON THE WORLD」を付加させただけで,引用商標とは非類似のものとして財産権を認めて,引用商標と肩を並べて同一の保護を付与することは,保護のバランスを失するもので,商標法の精神に反するものである。

以上のとおり,本件商標は,請求人が築き上げた引用商標の周知著名性にフリーライドすることや,その著名性や名声を希釈,毀損することなど不正の目的をもって出願したものであるから,商取引の秩序を乱し,ひいては社会公共の利益に反し,又は社会の一般的道徳観念に反するというべきである。そして,本件商標をその指定商品に使用することは社会公共の利益,社会の一般的道徳観念に反し,また,その登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものであるから,その登録を認めることは商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認できない。本件商標を登録することは,「商標を保護することにより,商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り,もって産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益を保護する」(商標法第1条)という商標法の精神に反し,社会公共の利益に反するというべきである。

したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当する。

4 被請求人の答弁

被請求人は,結論同旨の審決を求めると答弁し,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第17号証(枝番号を含む。)を提出した。

(1)はじめに

無効にされるべき対象は,行政処分としての一つの登録処分であって,登録商標ではない。また,商標登録を無効にできるのは,商標登録が商標法第46条第1項各号のいずれかに該当するときであって,同法第46条第1項第1号の規定ではない。さらに,同法第4条第1項第15号及び同項19号に括弧書きが規定されている法体系からすれば,同法第4条第1項第7号,同項第11号,同項第15号及び同項第19号が重畳的に適用されることはあり得ない。

このような不明確で,かつ不正確な無効審判の請求は,不適法な手続であってその補正をすることができないものであるから,本来,商標法第56条で準用する特許法第133条の2の規定により,決定却下されるべきものである。

(2)請求人及び引用商標の周知・著名性について

ア 具体的使用態様について

無効審判の対象である商標登録に係る商標を「本件商標」と定義する以上,「本件商品」と定義すべきものは,本来,「本件商標を使用する商品」ないし「本件商標登録に係る指定商品」であるべきであるが,請求人は,自己の製造,販売に係る商品を「本件商品」と定義してしまったため,本件無効審判の請求の理由ないし無効原因の理解を困難にしている。

請求人は,自己の製造,販売に係る商品を「本件商品」と定義しているところ,この定義は不適当であるので,以下,「引用商標」が付された簡易抽出型レギュラーコーヒーを「請求人商品」として言及することとする。

ところで,引用商標1は,「請求人商品」の販売開始から約10年,また引用商標2は,同「請求人商品」の販売開始から約8年経過した後に出願されている。したがって,引用商標の出願前の事実は,本件と何ら関連がない。

なお,請求人は,欧文字「DRIP ON」を特定の書体で表した商標について,商標登録を受けていた(商標登録第4236400号)が,請求人による2回目の更新がされることなく,2019年2月5日に存続期間が満了し,既に抹消登録されている(乙2)。

したがって,請求人の主張する引用商標の出願前の事実は,自ら更新せずに抹消登録された商標の使用事実であって,引用商標の使用事実とは何ら関連がない。

さらに,請求人は,1997年の発売から現在に至るまでの請求人の主力商品として22年間継続して「請求人商品」を販売している旨を,また,「DRIP ON」の文字を常に商品の包装中央の目立つ位置に配していた旨を主張し,甲第14号証を提出している。

しかし,1997年の発売時及び10年後の2007年秋冬の書体と,2010年秋冬以降の書体は異なっており,前者のそれは,自ら更新せずに抹消登録された商標と同一であり,本件とは関連がない。また,後者の「DRIP ON」の文字は年々小さく書されている一方,請求人のハウスマークは,常に「DRIP ON」の上部に表されており,「請求人商品」の商品パッケージに接する需要者,取引者は,それを「キーコーヒーのドリップオン」と認識,理解していたと考えられる。

イ 宣伝広告実績(広告手法,期間,地域及び規模)について

請求人が証拠として提出する新聞記事は,2007年が4件,2008年が2件,2010年が1件,2014年が1件と「請求人商品」がさほど取り上げられているわけではなく,記事広告と思われるものが含まれている。特に,「請求人商品」の需要者は,家庭で飲用する一般需要者であるにもかかわらず,大衆紙の記事は2件しかなく,しかも,その内の1件は「請求人商品」が話題として取り上げているのではないし,他の1件も他社製品とともに紹介されているだけである。

また,「請求人商品」の需要者は,家庭で飲用する一般需要者であるところ,かかる一般需要者を対象とした広告宣伝活動は,断続的・間欠的というよりは,単発的にすぎず,かかる事実をもって,引用商標が広く知られていたということは到底できない。

結局,請求人は,引用商標が広く知られたものであることを何ら立証しておらず,引用商標の著名性はもちろん,引用商標の周知性を認めることは到底できない。

ウ 販売規模について

平成10年の経済産業省の「商工業実態基本調査」によると,日本全国の小売企業は,112万682社あり,仮に飲食料品の小売に限ってみても,42万8626社あり,その内,「請求人商品」を取り扱っている割合は,6%程度にすぎない(乙9)。

また,「請求人商品」が「一等地」に陳列されているからといって,引用商標が需要者の目を引くわけではない。

そして,通販サイトにおいて「請求人商品」が販売されていることは認めるが,その商品表示には,ほぼすべてにおいて「キーコーヒー」の文字とともに引用商標が表示されている。また,「キーコーヒー カフェインレスコーヒー」とのみ表示されているものもある(甲46の6)。

したがって,需要者にとって「請求人商品」の購入の際の目印は,請求人のハウスマークである「キーコーヒー」であって,引用商標ではないことは客観的に明らかである。

エ 販売数量,売上高について

「請求人商品」の販売数量,売上げは,2003年以降,徐々に売上個数が減じており,近年になって,やや持ち直しているものの,600数十万個で推移している。また,GRPの数値からすると,1999年から2001年,及び,2004年は,積極的にCM放映をしていたと認められるが,2005年以降は,ほぼゼロに等しい。いずれにしても,引用商標出願前の事実は,本件と何ら関連がない。

加えて,請求人は,2017年にはキャンペーンを張り,9月に新製品が発売されたと主張しているが,翌2018年の売上げは下がっており,キャンぺ−ンの効果はさほどなかったということができる。

オ 市場シェアについて

請求人が,ランキング上位10位に入っている「請求人商品」と主張しているのは,2009年12月から2014年11月までの「KEY Dオンバラエテイパック BGX12」「KEY ドリップオンスペシャルB BGX6」,2014年12月から2019年11月までの「KEY Dオンバラエテイパック BGX12」及び「KEY ドリップオンスペシャルB BX10」だけであり,かつ,その金額シェアについても,「請求人商品」は単価が高いにもかかわらず,それぞれ,1.92,0.67,1.79及び1.07とさほど高いシェアではない。

また,甲第51号証に関しては,「請求人商品」と思われる最もランキングが高い商品の販売シェアは「2.08」とさほど高いものではない。

さらに,甲第52号証についても,「簡易抽出」として集計されているが,これは,「請求人商品」と「ドリップパック商品」の合計であり,「請求人商品」のそれではない。

いずれにしても,「請求人商品」の市場シェアが高いということは到底できない。

カ 海外における商標権について

海外において商標権を所有している事実は,本件商標の登録出願時及び登録査定時に,日本国内において請求人の商標として広く知られていた商標であることを立証していることにはならない。

キ 小括

よって,引用商標が一定程度使用されている事実はあるものの,引用商標が周知,著名であるとは到底認めることができない。

(3)商標法第4条第1項第11号非該当性について

ア 本件商標について

引用商標は周知,著名な商標であるということはできないから,「本件商標の構成中,語頭の『DRIP ON』部分は,(中略)請求人の業務に係る『コーヒー』について使用する商標として,我が国の取引者及び需要者の間で広く認識されている」との請求人の主張,及び,「本件商標が付された商品『コーヒー』に接する者は,その構成中の『DRIP ON』の文字部分に着目し,当該文字が請求人の業務に係る商品の出所識別標識として強く支配的な印象を受ける」との請求人の主張は誤りであり,本件商標の構成中,「DRIP ON」を殊更に抽出することはできない。

本件商標は,「DRIP」,「ON」,「THE」及び「WORLD」の各欧文字の間に1字分のスペースを空けて,標準文字をもって「DRIP ON THE WORLD」と横一列に書してなるものである。本件商標は,その構成全体から「ドリップオンザワールド」の称呼を生ずるものである。

商品「コーヒー」を取り扱う業界において,欧文字「DRIP」及びその表音である片仮名文字「ドリップ」は,ドリップ式というレギュラーコーヒーの淹れ方又はその淹れ方によるレギュラーコーヒーを意味するものとして広く一般的に使用されており,商品の品質を表示するにすぎず,それ自体,自他商品識別力を有しないものである(乙10の1,乙11)。

他方,本件商標における欧文字「ON」は「前置詞」であるから,それに続く定冠詞「THE」及び名詞「WORLD」と一体となり,「ON THE WORLD」で一つの句を形成する関係にあるものである。実際,「ON THE WORLD」の用例が存在する(乙12)。したがって,「ON THE WORLD」が句として正しくない,不自然な英語表現であるというのは,請求人の明らかな誤謬である。

本件商標は「DRIP」と「ON THE WORLD」からなるものであって,本件商標の全体構成,及び,「ON THE WORLD」部分は,十分なる自他商品識別力を有するものであるから,全体称呼「ドリップオンザワールド」が生ずるほか,識別力のない「DRIP」を除き,「オンザワールド」の称呼をも生じ得るものである。

また,本件商標は,その全体構成からは,「世界の上でドリップ式のコーヒーを淹れること」のごとき意味合い,印象を看取せしめるものである。

イ 引用商標について

引用商標からは,「ドリップオン」の称呼を生ずるものであるが,特定の観念を生ずるものではない。

しかし,引用商標の構成中「DRIP」及び「ドリップ」部分は,上記したとおり,ドリップ式というレギュラーコーヒーの淹れ方又はその淹れ方によるレギュラーコーヒーを意味するものであり,それ自体,自他商品識別力がない。

また,引用商標は,「ON」又は「オン」で終止しており,その後に名詞又は代名詞がないから,「ON」は前置詞ではなく,副詞である。本件商標と引用商標とは,この「ON」の品詞が前置詞であるか副詞であるかの点で,明らかに異なる。

さらに,「DRIP」と「ON」,又は,「ドリップ」と「オン」を組み合わせた引用商標は,指定商品「コーヒー」との関係上,「DRIP」は,「ドリップ式でコーヒーを淹れる」の意味を有するものであって,「ON」は「上に,上へ,載せて」等の意味を有するものであるから,「何かを上に置いてドリップ式のコーヒーを淹れる」のごとき,商品の品質(使用方法)を表示する程度の意味合いを看取せしめ,あるいは,そのような印象を与えるものである。

いずれにしても,引用商標は,商品「コーヒー」との関係上,元々,さほど強い識別力を有するものではない。

ウ 本件商標と引用商標との類否について(取引の実情)

本件商標と引用商標を比較するに,本件商標は,「DRIP」「ON」「THE」「WORLD」という4つの平易な英単語で,14文字の欧文字からなるのに対し,引用商標は,「DRIP」「ON」という2つの平易な英単語で,6文字の欧文字からなり,又は,「ドリップオン」という片仮名文字6文字からなるものであるから,両商標は,外観を異にするものである。

また,本件商標からは,「ドリップオンザワールド」の称呼を生じ,「世界の上からドリップ式でコーヒーを淹れる」程の意味合い,印象を与えるのに対し,引用商標からは,単なる「ドリップオン」の称呼を生じ,「何かを上に置いてドリップ式でコーヒーを淹れる」程の意味合い,印象を与えるものであるから,称呼及び観念において類似するものではない。そして,冒頭が「DRIP」である点で,両者が共通するにしても,当該欧文字又はその片仮名文字は,商品「コーヒー」との関係上,「ドリップ式でコーヒーを淹れる」という商品の品質を表示するにすぎず,識別力を有するものではない。

したがって,本件商標と引用商標は,外観,称呼及び観念のいずれの点においても,類似するところのない非類似のものである。

なお,取引の実情に関して,最も重要視されるべき点は,欧文字「DRIP」及びその片仮名文字「ドリップ」は,「ドリップ式でコーヒーを淹れる」という意味を有する語であって,商品「コーヒー」との関係上,識別力を有しないという点であり,この点は決して看過されるべきではない。

ところで,商品「コーヒー」に関連する商品について,「DRIP ON」及び「ドリップ オン」が「コーヒー」に関する品質表示として使用されている例がある(乙17)。つまり,引用商標自体,商取引上,本来的に識別力が強くないものである,といわざるを得ず,また請求人自らも,そのことを認識しているのか,様々な場面で,引用商標を商品の品質表示(使用方法)として使用している。

その他,請求人は,本件商標,引用商標からともに「請求人の業務に係るDRIP ONコーヒー」の観念を生ずると主張しているが,味の素AGFが「AGF」とともに「世界一周旅行」をイメージさせる本件商標を使用した場合に,需要者が引用商標を思い浮かべ,商品の出所を誤認混同することは微塵もあり得ない。

したがって,取引の実情を考慮したとしても,本件商標は,引用商標との間で相紛れるおそれのない,非類似のものである。

エ 小括

本件商標は,引用商標との間で,商品の出所について誤認混同を生じさせるおそれのない,非類似のものであり,商標法第4条第1項第11号に該当するものではない。

(4)商標法第4条第1項第15号非該当性について

ア 本件商標とその他人の標章との類似性の程度

本件商標が引用商標と,外観はもちろん,称呼及び観念の点においても,何ら類似するところがない。したがって,本件商標は,引用商標との間で類似性が高い,ということはできない。

イ その他人の標章の周知度

引用商標が周知著名でないことは明らかである。

ウ その他人の標章が造語よりなるものであるか,又は構成上顕著な特徴を有するものであるか

「DRIP」の欧文字は,本来「滴る,ポタポタと落ちる」等を意味する英単語であり,請求人が主張する商品「コーヒー」との関係上,「drip coffee」及びその片仮名表記である「ドリップコーヒー」のように,商品の品質を直接表示するにすぎないものであり,自他商品識別力がないか,極めて弱いものである。

エ その他人の標章がハウスマークであるか

引用商標は請求人のハウスマークではない。しかも,引用商標の認知度はさほど高くない。

オ 企業における多角経営の可能性

多角経営の可能性が考慮されるのは,商品(役務)が相違する場合であるから,請求人が商品同一と主張する本件においては,考慮すべき事情ではない。

カ 商品間,役務間又は商品と役務間の関連性

本件商標と引用商標の指定商品中,請求人が主張するのは「コーヒー」であるから,少なくとも,「他人の著名な商標と類似しないと認められる場合又は他人の著名な商標と類似していても商品等が互いに類似しないと認められる場合において,商品等の出所の混同を生ずるおそれがあるとき」における「商品等が互いに類似しないと認められる場合」ではなく,結局は,本号の適用はあり得ない。

キ 商品等の需要者の共通性その他取引の実情

需要者を共通にすることは,被請求人も認めるが,請求人のいう「引用商標1は,商品自体に需要者の目を引く態様で付されており,本件商標が使用されると出所混同の可能性がある。」との主張は,本考慮事由とは何ら関連がない主張にすぎない。

ク 本号に該当するというためには,「他人の著名な商標と類似しないと認められる場合」又は「他人の著名な商標と類似していても商品等が互いに類似しないと認められる場合」であって,「商品等の出所の混同を生ずるおそれがあるとき」に限定されるのである。商品が類似する以上,「他人の著名な商標と類似しないと認められる場合」でなければならない。

しかし,引用商標は,「他人の著名な商標」に該当するものではなく,かつ,本件商標を指定商品に使用したとしても,引用商標との間で商品等の出所の混同を生ずるおそれもない。

ケ したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。

(5)商標法第4条第1項第19号非該当性について

引用商標は,請求人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標ではない。また,本件商標は,引用商標と同一又は類似の商標ではないし,不正の目的をもって使用するものでもない。

したがって,本件商標が本号に該当するということができないことは火を見るよりも明らかである。

以上,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当するものではない。

(6)商標法第4条第1項第7号非該当性について

ア 引用商標が使用されている事実は認めるが,請求人の製品を示すものとして広く知られているとはいえない。また,本件商標は引用商標に類似しない。

イ 味の素AGFが被請求人の子会社であること,同社がコーヒーを主力商品としていること,請求人と同業者であることは認めるが,引用商標が周知であることは否認する。

ウ 引用商標が,請求人が独自に考案した造語商標であること,及び,本件商標が引用商標と極めて類似することは否認する。

エ 引用商標が簡易抽出型コーヒー業界において広く知られている商標であること,引用商標に化体した信用,名声及び顧客吸引力に便乗したこと,不当な利益を得る等の目的を有していたこと,引用商標の有する特徴を模倣して出願したこと,並びに,引用商標に化体した信用,名声及び顧客吸引力を希釈化させ,かつ汚染するものであることは否認する。

オ 本件商標は,請求人が築き上げた引用商標の周知著名性にフリーライドすることや,その著名性や名声を希釈,毀損することなど不正の目的をもって出願したものであるから,商取引の秩序を乱し,ひいては社会公共の利益に反し,又は社会の一般的道徳観念に反するとの主張については,全面的に否認する。

カ 本件商標をその指定商品に使用することは社会公共の利益,社会の一般的道徳観念に反し,また,その登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものであるから,その登録を認めることは商標法の予定する秩序に反するものであるとの主張については,全面的に否認する。

キ 本件商標を登録することは,商標法第1条にいう商標法の精神に反し,社会公共の利益に反するとの主張については,全面的に否認する。

ク 商標法は,出願人からされた商標登録出願について,当該商標について特定の権利利益を有するものとの関係ごとに,類型を分けて,商標登録を受けることができない要件を,法4条各号で個別的具体的に定めているから,このことに照らすならば,当該出願が商標登録を受けるべきでない者からされたか否かについては,特段の事情がない限り,当該各号の該当性の有無によって判断されるべきであるといえる。また,当該出願人が本来商標登録を受けるべき者であるか否かを判断するに際して,先願主義を採用している日本の商標法の制度趣旨や,国際調和や不正目的に基づく商標出願を排除する目的で設けられた法4条1項19号の趣旨に照らすならば,それらの趣旨から離れて,法4条1項7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは,商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので,特段の事情のある場合を除くほか,許されないというべきである(知財高判平成20年5月29日 平成19年(行ケ)10391)。

この点について,請求人の主張するところを検討すると,特段の事情のある例外的な場合に該当しないことは,明らかである。

ケ よって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当しない。

5 当審の判断

(1)本件審判請求について

請求人が,「無効事由」として,「本件登録商標は,商標法第4条第1項第7号,同項第11号,同項第15号及び同項第19号に該当し,同法第46条第1項1号により無効にすべきもの」である旨を主張している点について,被請求人は,本件審判の請求は,不明確でかつ不正確なものであるから,本件審判は商標法第56条で準用する特許法第133条の2の規定により,請求手続を却下すべきである旨主張している。

しかしながら,商標法第46条(商標登録の無効の審判)の立法趣旨は,過誤による商標登録を存続させておくことは,本来権利として存続することができないものに排他独占的な権利を認める結果となり妥当ではない,という点にある。

また,同法第46条第1項においては,「商標登録が次の各号のいずれかに該当するときは、その商標登録を無効にすることについて審判を請求することができる。」と規定し,同項第1号において,「その商標登録が第3条、第4条第1項(中略)の規定に違反してされたとき。」と規定されており,同法第4条第1項各号のいずれかに該当する場合には,同法46条第1項に基づき,商標登録を無効にすることについて審判を請求することができるのである。

そして,本件審判請求書において,「本件登録商標が,商標法第4条第1項第7号,同項第11号,同項第15号及び同項第19号に該当し,同法第46条第1項1号により無効にすべきもの」と記載されているとしても,当該審判請求書によれば,請求人は,本件商標の登録が商標法第4条第1項第7号,同項第11号,同項第15号又は同項第19号に違反するものであって,同法第46条第1項第1号に該当するものであるから,当該商標登録を無効にすべきものであると主張していると解されるから,本件審判請求が不明確でかつ不正確なものとまではいえない。

そうすると,本件審判請求書における記載が,商標法第4条第1項第7号,同項第11号,同項第15号及び同項第19号が重畳的に適用されることがあるように読める場合があるとしても,それだけをもって,本件審判請求が不明確かつ不正確とまではいうことができないし,何ら商標法の法理に反するものではない。

さらに,本件無効審判は,除斥期間内(商標法第47条)に請求されたものであって,その請求を却下すべき理由はないから,この点についての被請求人の主張は採用できない。

したがって,本件審判の請求は,違法として却下されるべきものではない。

(2)請求人の主張する引用商標の周知性について

ア 請求人の提出に係る証拠及び同人の主張によれば,以下のとおりである。

(ア)請求人は,1920年8月24日に創業,資本金46億2800万円,海外におけるコーヒー農園事業から,コーヒーの製造,販売並びにコーヒー関連事業経営に至るまでのコーヒーに関する総合企業である(甲3〜甲7)。

(イ)請求人は,請求人の業務に係る「カップの上に,フィルターとひいたコーヒー豆がセットになった紙製の小型ドリッパーを載せ,お湯を注ぐだけで手軽に本格的なレギュラーコーヒーの味を楽しむことができる簡易抽出型コーヒー」(以下「請求人使用商品」という。)に引用商標を付して1997年に販売を開始し(甲13,甲25,甲26),請求人使用商品は,販売時期によって商品パッケージが異なり,特に1997年発売時のものや2005年販売のものと近年販売のものとは「DRIP ON」の文字(書体)及び態様が異なっている(甲14)。

また,当該引用商標は,商品の包装中央の位置に配されている(甲14〜甲17)。

(ウ)請求人使用商品の広告宣伝は,新聞記事,新聞広告,商品ポスター,テレビコマーシャル,商品キャンペーンの案内,インターネット広告,雑誌広告,請求人のウェブサイトにおいて,請求人使用商品とともに引用商標が使用されていることがうかがえる(甲19〜甲39,甲41,甲46,甲53)。

また,本件商品は2010年ないし2016年に「モンドセレクション」,2017年以降は「International Taste institute」(食品・飲料品の評価・認定)に出品(甲39,甲41)し受賞していることがうかがえる。さらに,台湾,アメリカ,フィリピン,中国における展示会にも出展していることがうかがえる(甲43)。

(エ)請求人使用商品は,日本全国で販売され,当該商品を取り扱っている企業は,2515社,取り扱っている店舗数は,2万8026店舗に上り(甲44,甲45),請求人の公式ウェブサイト,Amazon,楽天,価格.com,ヨドバシカメラ,アスクルのウェブサイトを通じて販売されていることがうかがわれる(甲46)。

(オ)請求人は,1997年から2019年までの売上個数,売上金額等について,「1997年の発売開始から3年後の2000年には,900万個販売し,売上高は44億2130万円,2001年及び2002年には,940万個販売し,その売上高は,48億5080万円,48億3250万円,2000年から2019年上半期までの間には,1億4040万個販売し,697億5920万円の売上高」となり,販売開始から現在まで,少なくとも1億4040万個の販売数,697億5920万円の売上高を優に超えている(甲47の2)と主張しているが,当該主張を裏付ける証拠は提出されていない。

(カ)請求人が株式会社インテージによるSRI(全国小売店パネル調査)の集計データと主張する資料(甲48)によれば,2009年12月ないし2014年11月に,「KEY Dオン バラエティパック 8GX12」が2位,「KEY ドリップオン スペシャルB 8GX6」が10位,「KEY ドリップオン スペシャルB8X10」が13位,「KEY Dオン マロヤカコウミマイルドB 8X10」が32位,「KEY ドリップオンモカブレンド8GX10」が42位であったこと,また,2014年12月ないし2019年11月に「KEY Dオン バラエティパック 8GX12」が5位,「KEY ドリップオンスペシャルB BX10」が9位であったことがうかがえる(甲48)。

また,2015年ないし2019年上半期の「簡易抽出型コーヒー」の市場シェアは,請求人と被請求人(味の素AGF)が,売上高で「主要メーカー」とされる5社のうちで,2位又は3位となっていることがうかがえる(甲52)。

(キ)請求人は,シンガポール,中国,マレーシア,韓国,アメリカ合衆国,ロシア,台湾及びインドネシアにおいて「DRIP ON」についての商標権を保有し(甲55),フィリピンに出願をしている。(甲56)。

イ 上記アにおいて認定した事実によれば,請求人は1997年から請求人使用商品を小売店やインターネットショップ等を通じて販売しており,引用商標は,請求人使用商品の商品名として,コーヒーの取引者やコーヒーに精通している愛飲家の間に,ある程度知られていたことはうかがい知ることができる。

しかし,提出された証拠からは,広告宣伝等を行っていることはうかがえるとしても,新聞記事においては,1997年及び1999年のものが各1件,2007年と主張するものが3件,2008年と主張するものが2件,2010年及び2014年と主張するものが各1件であり,わずか数年程度単発的に掲載されたもののみであり,その掲載回数はさほど多いものとはいえないばかりか,その記事内容も請求人使用商品が主体となっていないものも含まれる。

また,商品ポスターやテレビコマーシャル等の広告宣伝におけるその周知性の度合いを客観的に判断するための資料,すなわち,請求人使用商品を広告宣伝した時期,回数,あるいはどの時期に,どの地域で,どのくらい提供したものか等は不明であり,その取引状況を具体的に示す取引書類の提出はない。そして,我が国における売上高など販売実績を示す証拠は,請求人の自社管理システムのデータを元に作成した代表取締役の宣誓供述書付きの1997年から2019年までの販売データと称する表形式の一枚紙(甲47)であり,当該内容が事実であることを裏付ける証拠の提出はない。そして,請求人使用商品の市場シェアを証明すべく提出した証拠(甲48,甲52)は,インテージ社のデータを元に作成した資料であるところ,これらには,請求人が出典元とする「株式会社インテージ」の記載も,作成者名の記載もないばかりか,インテージ社が認証したような証拠の提出もないし,その他に本件商品の市場シェアを裏付ける証拠の提出もない。

したがって,我が国における市場占有率(販売シェア)等の量的規模を客観的な使用事実に基づいて,引用商標の使用状況を把握することができず,その周知性の程度を推し量ることができないものといわざるを得ない。

仮に,上記売上高及び販売高が事実であるとしても,当該実績がその周知性を基礎づける程多数,多額であると認めるに足りる証拠は見いだせない。

また,請求人使用商品が外国において展示会へ出展されたことはうかがえるものの,請求人使用商品の展示ブースへの来場者数は不明であり,引用商標がどの程度一般人の目に触れる機会があったかは不明であることなどから,当該イベントによって,引用商標がその一般需要者にどの程度認識されるに至ったかはうかがい知ることはできない。

そして,「DRIP ON」の文字からなる商標又は「DRIP ON」の文字を含む商標が外国において登録又は出願されていることは認められるが,そのことをもって,直ちにその商標が需要者の間に広く認識されているものとはいえない。

その他に,我が国及び外国において,請求人使用商品についての売上高,市場シェアなどの販売実績並びに引用商標に係る広告宣伝の費用,方法,回数及び期間などについては,その事実を客観的に把握することができる証拠は提出されていない。

そうすると,提出された証拠によっては,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,引用商標が請求人使用商品を表示するものとして,我が国及び外国の需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。

(3)商標法第4条第1項第11号該当性について

ア 本件商標

本件商標は,「DRIP ON THE WORLD」の文字を標準文字で表してなるところ,その構成中「DRIP」の文字は「ぽたぽた落とす」等の,「ON」の文字は「・・・の上に」等の意味を有する英語であり,「THE」の文字は定冠詞を表す英語,「WORLD」の文字は「世界」等の意味を有する英語(いずれも「ランダムハウス英和大辞典」小学館発行)であるとしても,これらの文字を結合した上記構成においては,特定の意味合いを有する語として知られているとも認められない一種の造語を表したものといえる。

そして,本件商標は,同じ書体,同じ大きさで外観上まとまりよく一体的に表され,また,本件商標の構成文字全体から生ずる「ドリップオンザワールド」の称呼も,格別冗長なものではなく,無理なく一連に称呼し得るものである。

したがって,本件商標は,その構成全体をもって一体不可分のものというのが相当であるから,その構成文字に相応して「ドリップオンザワールド」の称呼のみを生じ,特定の観念は生じないものである。

なお,請求人は,「DRIP ON」の文字が請求人の業務に係る商品を表示するものとして広く知られていること,「THE WORLD」の文字が「世界」を意味する語として一般に用いられており識別力のない語であると主張している。

しかしながら,前記(2)イのとおり「DRIP ON」の文字は,請求人の業務に係る商品を表示するものとして広く知られているとは認められないものであり,「THE WORLD」の文字が「世界」を意味する語として用いられていることがあるとしても,本件商標の構成においては,「THE WORLD」の文字部分が商品の品質,特徴を表したものと理解,認識させるとはいい難いものである。そして,当審において職権をもって調査するも,本件商標の指定商品を取り扱う業界において,「THE WORLD」の文字が,自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないといえるほどに,取引上一般に使用されている事実を発見することができず,さらに,本件商標の指定商品の取引者,需要者が,「THE WORLD」の文字を自他商品の識別標識と認識することができないというべき事情も発見できない。

したがって,請求人の主張は採用できない。

イ 引用商標

引用商標1は,「DRIP ON」の欧文字を横書きしてなり,引用商標2は,「ドリップオン」の文字を標準文字で表してなるものであるから,それぞれその構成文字に相応して,「ドリップオン」の称呼を生じるものである。また,両者とも特定の意味合いを表す語として知られているとも認められない一種の造語を表したものといえるから,特定の観念を生じないものである。

ウ 本件商標と引用商標との類否

本件商標と引用商標とを比較すると,本件商標は,上記アのとおり,「DRIP ON THE WORLD」の欧文字14字からなるのに対し,引用商標は,上記イのとおり,「DRIP ON」の欧文字6文字からなるもの又は「ドリップオン」の片仮名6字からなるものであって,両者は,構成文字及び文字数において明らかな差異があるから,外観上,判然と区別し得るものである。

次に,称呼においては,本件商標から生じる「ドリップオンザワールド」の称呼と引用商標から生じる「ドリップオン」の称呼とは,後半部における「ザワールド」の音の有無という顕著な差異を有するものであるから,それぞれを称呼するときは,明瞭に聴別し得るものである。

さらに,観念においては,両者は,特定の観念を生じないものであるから,観念上,比較することができないものである。

以上によれば,本件商標と引用商標は,観念において比較することができないとしても,外観においては,判然と区別し得るものであり,称呼においても,明瞭に聴別し得るものであるから,これらが需要者に与える印象,記憶,連想等を総合してみれば,両商標は,相紛れるおそれのない非類似の商標というのが相当である。

したがって,本件商標と引用商標とは非類似の商標であるから,その指定商品が同一又は類似であるとしても,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当しない。

(4)商標法第4条第1項第15号該当性について

引用商標は,上記(2)イのとおり,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人の業務に係る商品を表すものとして,我が国の需要者の間に広く認識されていたものと認めることができないものであり,上記(3)ウのとおり,本件商標は,引用商標と相紛れるおそれのない非類似の商標であって,別異のものというべきであるから,両者の類似性の程度は低いものである。

そうすると,本件商標は,本件商標権者がこれをその指定商品について使用しても,需要者をして引用商標を連想又は想起させることはなく,その商品が他人(請求人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように,その商品の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。

その他,本件商標が出所の混同を生ずるおそれがあるというべき事情は見いだせない。

したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。

(5)商標法第4条第1項第19号該当性について

本件商標と引用商標とは,上記(3)ウのとおり,非類似の商標であり,また,上記(2)イのとおり,引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人の業務に係る商品を表すものとして,我が国及び外国における需要者の間に広く認識されていたとは認められないものである。

また,請求人の提出に係る証拠及び同人の主張からは,本件商標権者が,本件商標を不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的及びその他の不正の目的をもって使用をするものと認めるに足りる具体的事実も見いだせない。

したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当しない。

(6)商標法第4条第1項第7号該当性について

請求人は,請求人が築き上げた引用商標の周知著名性にフリーライドすることや,その著名性や名声を希釈,毀損することなど本件商標は不正の目的をもって登録出願したものであるから,商取引の秩序を乱し,ひいては社会公共の利益に反し,又は社会の一般的道徳観念に反する旨主張している。

しかし,上記(2)イのとおり,引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人の業務に係る商品を表すものとして,我が国及び外国の需要者の間で広く認識されていたものと認められないものであり,商品の出所について混同を生ずるおそれはないから,本件商標が,引用商標の持つ顧客吸引力(名声・信用・評判)にただ乗り(フリーライド)することや,信用・名声・顧客吸引力等を毀損(希釈化)するなどの不正の目的をもって使用するものであると認めることもできないものである。また,請求人の提出した証拠からは本件商標権者が請求人の事業を妨害し,不正の目的があることを裏付ける証拠は見いだすことができない。

そして,上記(5)のとおり,請求人の提出に係る証拠及び同人の主張からは,本件商標の登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠く等の事実は認められないものであって,本件商標をその指定商品について使用することが,社会の一般道徳観念に反し,商取引の秩序を乱すものともいえず,その他,本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標であると認めるに足りる具体的事実も見いだせない。

さらに,本件商標は,その構成自体が非道徳的,きょう激,卑わい,差別的又は他人に不快な印象を与えるようなものではなく,その構成自体がそのようなものではなくとも,それを指定商品に使用することが社会公共の利益に反し社会の一般的道徳観念に反するものともいえない。

そして,本件商標は,他の法律によって,その商標の使用等が禁止されているものではないし,特定の国若しくはその国民を侮辱し,又は一般に国際信義に反するものでもない。

してみると,本件商標は,その登録を維持することが商標法の予定する秩序に反し,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標に該当するとまではいえないものである。

したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当しない。

(7)まとめ

以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第7号,同項第11号,同項第15号及び同項第19号のいずれにも違反してされたものではないから,同法第46条第1項の規定により,その登録を無効とすることはできない。

よって,結論のとおり審決する。

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