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Trademark Appeal Case

PASCUAとPASQUAの周知性・類否

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号無効2019−890081(T2019−890081/J3)
審判種別無効
結論勝訴(請求認容)

結論テキスト

登録第5980585号の登録を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする。

理由テキスト

第1 本件商標

本件登録第5980585号商標(以下「本件商標」という。)は、「PASCUA」を標準文字で表してなり、平成28年2月24日に登録出願、第33類「ぶどう酒,発泡性のぶどう酒,洋酒,果実酒」を指定商品として、同29年8月31日に登録査定、同年9月15日に設定登録されたものである。

第2 引用商標

請求人が、本件商標の登録の無効の理由として引用する商標は、次のとおりであり、請求人の業務に係る商品「ワイン」に使用して、本件商標の登録出願時及び登録査定時において広く知られた商標であるとするものである。

1 登録第4261273号商標(以下「引用商標1」という。)

商標の態様:別掲1のとおり

指定商品及び区分 第33類「果実酒,洋酒,薬味酒」

登録出願日:平成9年10月6日

設定登録日:平成11年4月9日

2 国際登録第1121090号(以下「引用商標2」という。)

商標の態様:別掲2のとおり

指定商品及び区分 第33類「Alcoholic beverages (except beers).」

優先権主張:2012年4月13日 Italy

登録出願日:2012年7月23日(事後指定)

設定登録日:平成25年5月2日

以上、引用商標1及び引用商標2はいずれも現に有効に存続している。

3 請求人使用商標1(以下「引用商標3」という。)

商標の態様:別掲3のとおり

4 請求人使用商標2(以下「引用商標4」という。)

商標の態様:別掲4のとおり

以下、引用商標1ないし引用商標4をまとめて「引用商標」という。

第3 請求人の主張

請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第85号証(枝番号を含む。)を提出した。

1 請求の理由

本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号により、その登録を無効にすべきものである。

2 利害関係について

請求人は、引用商標を含む「PASQUA」の文字からなる商標(以下「『PASQUA』商標」という。)を付した種々のワインを製造販売しており、「PASQUA」商標は、本件商標の出願日(平成28年2月24日)前から、請求人の製造販売するワインの出所を表示するものとして、ワインの需要者・取引者に広く知られている。よって、請求人は、「PASQUA」商標と類似する本件商標を無効にすることにつき、重大な利害関係を有する。

3 「PASQUA」商標の周知著名性について

(1)請求人について

請求人は、イタリア北東部に本拠を構える1925年創業で、イタリアで五指に入る生産量を誇る(甲6)。請求人は、テーブルワインからDOCGまで幅広く展開し、50ヶ国以上の国々に輸出され、数多くのワインが国際的な賞を多数受賞するなど、世界中で高い評価を受けている(甲7)。また、近年では、世界最大のワインコンクール「インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)2016」において、請求人のワインが金賞等を獲得するなど活躍を続けている(甲8、甲9)。

(2)請求人による「PASQUA」商標の使用

「PASQUA」は、請求人の社名の一部であるとともに(甲10)、請求人は、請求人が製造・販売するワインのボトルに「PASQUA」商標を付して、50ヶ国以上の国々でワインを販売している。

(3)請求人商品の我が国での販売について

「PASQUA」商標の使用されたワイン(以下「請求人商品」という。)は、我が国では、国分グループ本社株式会社(旧国分株式会社)を代理店として、1983年からその販売が開始されて以来、35年近く継続して販売されている(甲11〜甲14)。そして、請求人商品は、全国のスーパーマーケット(甲15)や酒店、インターネットによる通信販売(甲16〜甲20)、生活協同組合(甲21)、百貨店(甲22)等により販売・紹介されている(甲23、甲24)。

(4)請求人商品の売上高及び販売数量について

国分グループ本社株式会社で請求人商品の輸入を担当しているA氏による証明書(甲25)等によれば、請求人商品の売上高及び販売数量は、2014年ないし2016年において、約4億6千万円ないし6億3千万円及び約90万本ないし約120万本である。

また、請求人は、請求人商品を我が国に安定的に供給しており、請求人商品は、少なくとも、2013年から2016年までは、我が国において流通するイタリア産ワインの中で10位以内を確保している(甲26)。

(5)市場占有率について

請求人商品の2015年の輸入数量又は販売数から、請求人商品の2015年の輸入イタリア産ワイン市場における占有率は、約1.6%であると推測される(甲26の3、甲27)。2010年現在、イタリアの70軒以上のワイナリーが日本において紹介されていること(甲28〜甲34)、食品産業新聞に掲載されている2015年のイタリア産ワインの1位から3位までが、複数のワイナリーの合計実績であることに鑑みると、請求人商品の占有率は、他の銘柄と比して、突出しているということができる。

(6)日本における受賞歴

請求人は、日本女性によるワイン審査会「“SAKURA”Japan Women’s Wine Awards(サクラアワード)」に、2014年から2017年まで、全年度において受賞していて(甲35、甲36)、各種出版物等で紹介されている(甲37)。

(7)新聞・雑誌掲載等について

請求人商品は、これまで多数の新聞や雑誌等で紹介されている(甲38〜甲43)。

4 ヨーロッパにおけるワインの保護

請求人が本拠地を置くイタリアは、ワイン造りの歴史が長く、全世界のワイン愛好家の憧れである「旧世界」に分類されており(甲46)、1963年に、フランスのAOCに倣った原産地統制称呼のワイン法が導入された(甲49)。フランスのAOCに相当するものがDOCであり、その上にDOCGがあり、それぞれの銘柄に産地や品種、栽培方法、収穫量、熟成期間などの規定がある(甲45)。

DOCGは、イタリアワインの格付けの中で最上位に分類されており、最も厳正な規定がある(甲47)。DOCGを得るためには、下位となるDOCの条件を満たした上、さらに農林省と商工会議所の検査を受ける必要がある。当該検査に合格したものには政府が認可(カランティーク)したことを証明するシールがボトルに貼られる(甲47)。DOCGの下位となるDOCを得るためには、生産地、栽培方法、ブドウ品種、熟成方法など、すべての生産過程に設けられた条件を満たす必要があり、その下位となるIGTを得るためには、その地域で生産されるブドウを規定以上使用した土地の特性を持つワインであることが必要である(甲48)。

5 本件商標の商標法第4条第1項第11号該当性

(1)本件商標と引用商標1及び引用商標2の類否

本件商標は「PASCUA」の欧文字を横書きしてなる。

他方、引用商標1は、「PASQUA」の欧文字を横書きしてなり、その構成中「PAS」及び「UA」の文字の直下にアンダーラインが配されている。また、引用商標2は、上段に縦長の楕円図形を配し、中央に大きく「PASQUA」の欧文字を横書きし、下段に小さく「A FAMILY PASSION」の欧文字を横書きしてなる。

まず、本件商標の外観について検討すると、本件商標「PASCUA」と引用商標1及び引用商標2の中段に大きく書された「PASQUA」部分とは、共に6文字の欧文字から構成される点において共通し、6文字中5文字「PAS*UA」において共通し、相違点は、4文字目の1字のみである。また、相違する文字も中間に位置するため、外観上容易に区別することができない類似の商標である。

次いで、本件商標の称呼について検討すると、被請求人は、本件商標の審査時の平成28年11月2日付意見書において、本件商標からは「パスキュア」の称呼が生じると主張している。しかしながら、「PASCUA」がスペイン語で「パスクア」と発音されることから(甲49)、本件商標からは「パスクア」の称呼が生じ得る。

仮に、スペイン語の知識が十分にない需要者によって本件商標が英語読みされるとしても、通常レベルの英語力を有する日本人であっても、本件商標「PASCUA」から常に一定の称呼で発音することができるとは思われない。他方、「c」が「ca1orie(カロリー)」「club(クラブ)」などのように、力行の子音としても綴られることを考慮すれば、「cua」と綴られた場合、むしろ日本人に馴染みのあるヘボン式ローマ文字の発音方法に倣い(甲50、甲51)、「クア」と発音する可能性も否定することはできない。また、ローマ字で日本語を入力する場合、「cu」と入力すると「く」の日本語に変換されることからみても(甲52、甲53)、「cu」を「ク」と発音すると認識する者も相当程度存在すると考えられる。そうすると、少なくとも、「PASCUA」から「パスキュア」と専ら称呼されると断定することはできず、「パスクア」と称呼される蓋然性も相当程度に存在するというべきである。

そして、引用商標1及び引用商標2の称呼について検討すると、引用商標1からは、構成文字に相応して、また、上述のような我が国におけるこれまでの販売実績に従えば、イタリア語で「パスクア」の称呼が生じ(甲54)、引用商標2は、被請求人の上記意見書で述べるとおり、その要部は中段に大きく書された「PASQUA」部分であることから、引用商標2からもイタリア語で「パスクア」の称呼が生じる(甲57)。事実、上述のように、請求人商品は我が国において長年にわたり販売され、関連する需要者・取引者間で「パスクア」と称呼されてきた。

他方、「Q」が「キュー」と発音されることから、引用商標中「QUA」部分が「キュア」と発音される可能性も否定できず、この場合、引用商標は「パスキュア」と称呼される。

すなわち、引用商標1及び引用商標2からは、「パスクア」のみならず「パスキュア」の称呼も生じ得る。

以上より、本件商標並びに引用商標1及び引用商標2は、両商標とも「パスクア」又は「パスキュア」の称呼を生じさせ得る。よって、両商標は、称呼上相紛らわしいというべきである。

仮に、本件商標から「パスキュア」、引用商標1及び引用商標2から「パスクア」の称呼が生じたとしても、両称呼は、第3音において「キュ」と「ク」を相違している以外は、他の構成音は同じであり、該差異音は、極めて近似する音として聴取されるといえる。両者をそれぞれ一連に称呼した場合、全体の語感、音調が極めて近似したものとなる。

したがって、本願商標と引用商標1及び引用商標2とは、称呼において紛らしいというべきである。

さらに、観念については、両商標ともキリスト教の「復活祭(イースター)」の観念が生じる(甲49、甲54)。よって、両商標の観念は共通する。

ところで、被請求人がチリ法人であること(甲1)、チリ共和国の言語はスペイン語であること(甲59)、本件商標が正しくスペイン語に由来すること(甲60)を考慮すれば、本件商標が「パスクア」と称呼されることを意図して採択されたことは疑いなく、本件商標が付されたワインは、スペイン語の読み方で「パスクア」と称呼され取引されると考えられる(甲55〜甲58)。

そして、この考え方に従えば、引用商標1及び引用商標2はイタリア語であることから、引用商標1及び引用商標2が付されたワインは、イタリア語の読み方で「パスクア」と称呼されるのが自然と考えられる。

すなわち、両商標は、共に「パスクア」と称呼することを意図したものであって、かつ、ワインの一般的・恒常的な取引の実情を考慮すると、両商標は、いずれも「パスクア」の称呼をもって取引に供されることが容易に推測可能である。

また、本件商標がワインに付されて販売される場合、ワインボトルの裏面に付される日本語のラベル、プライスカード、ウェブサイト等には、本件商標のスペイン語読みである「パスクア」が記載されることが容易に推測可能である(甲5、甲45、甲60〜甲71)。

商標法第4条第1項第11号に係る商標の類否は、最高裁昭和39年(行ツ)第110号(同43年2月27日第三小法廷)判決、特許庁の審査基準においても、指定商品又は指定役務における一般的・恒常的な取引の実情を考慮する旨記載されている。

上述の取引実情は、本件商標、引用商標1及び引用商標2の指定商品の分野における一般的・恒常的な取引の実情であり、本件商標と引用商標1及び引用商標2の類否判断において考慮すべきである。したがって、スペイン語が我が国において一般的に親しまれているとはいえないことをもって、本件商標がその指定商品の分野においてスペイン語読みの「パスクア」の称呼で取引される可能性を排除すべきではない。実際に、商標公報や特許情報プラットフォームでは、本件商標の称呼として「パスクア」も付与されている(甲1、甲72)。

また、ワインの取引場面においては、称呼以外にも、商標の外観も重視されるというべきである(甲45、甲47、甲56、甲73〜甲77)。

さらに、ワインの取引場面においては、日本人は、ワインの銘柄を覚える手がかりとして、ワインの銘柄の由来を覚えることが挙げられ(甲78)、ワインをプレゼントする際にワインの意味から考えることが紹介され(甲79)、実際に、出産祝い、母の日のプレゼントなど、その状況に合った由来があるワインを提供している店もある(甲80)。このように、需要者・取引者は、ワインの名称(銘柄)の起源や由来を知ろうとする傾向にあることから、称呼や外観だけでなく、その意味合いも重要視され得る。この点、両商標は、いずれもキリスト教の「復活祭(イースター)」を意味し(甲49、甲54)、その観念を共通にする。したがって、本件商標と引用商標1及び引用商標2のようにその意味合いが共通する場合、ワインの需要者・取引者は、単に一方が他方の翻訳にすぎないと認識すると考えられる。

よって、本件商標が引用商標1及び引用商標2の指定商品と同一又は類似の商品、とりわけ「ワイン」に使用されるときは、相紛らわしい類似する商標であるといえる。

以上より、本件商標と引用商標1及び引用商標2とは、外観、称呼、観念のいずれにおいても相紛らわしく、互いに類似する商標である。

(2)本件商標と引用商標1及び引用商標2の商品の類否

本件商標の指定商品は「ぶどう酒,発泡性のぶどう酒,洋酒,果実酒」であり,引用商標1の指定商品「果実酒,洋酒,薬味酒」,及び引用商標2の指定商品「Alcoholic beverages (except beers).」と同一である。

(3)小括

以上のとおり、本件商標は、引用商標1及び引用商標2に類似する商標であり、かつ、同一の指定商品に用いるものである。よって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものである。

6 本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性

上記3で述べたとおり、「PASQUA」商標は請求人の業務に係るワインを表す商標として、少なくとも我が国のワイン業界の需要者及び取引者の間で広く知られている。そして、「PASQUA」商標は遅くとも本件商標の出願日の時点においては周知・著名性を獲得しており、その周知・著名性は今日に至るまで維持されている。

また、上記5(1)で述べたように、本件商標と「PASQUA」商標は類似する。

さらに、本件商標の指定商品と「PASQUA」商標の使用商品は、上記5(2)で述べたように、商品は同一である。

以上より、本件商標と「PASQUA」商標とは類似する商標であり、商品も同一であることから、本件商標がその指定商品に使用された際には、これに接する取引者・需要者は、あたかも請求人又は請求人と経済的若しくは組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品であるかのごとくその商品の出所について混同を生ずるおそれがある。

よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。

7 本件商標の商標法第4条第1項第19号該当性

上述したように、本件商標は、請求人の業務に係る商品を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている「PASQUA」商標と類似する。また、「PASQUA」が請求人の社名の一部であり、請求人商品が、世界中で高い評価を得ており、日本において長年にわたり販売されていることに鑑みると、被請求人は、「PASQUA」商標が請求人によって採択され、使用されていることを、本件商標の出願時点において認識していたことは明らかである。したがって、本件商標は、「PASQUA」商標が有している顧客吸引力へのただ乗り又は希釈化を意識した、不正の目的をもって出願されたものといわざるを得ない。

よって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものである。

8 本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性

請求人は、イタリアワインの格付けの中で最も厳正な規定があるDOCG(統制保証つき原産地呼称ワイン)、DOC(統制原産地呼称ワイン)等の格付けを受けているワインについて「PASQUA」商標を多数使用している(甲9、甲81)。一方で、被請求人は、ワインの生産の歴史が浅く、ワインの生産国としては世界的にまだ知名度の低い「新世界」に分類されるチリに本拠地を置くものである(甲1、甲82)。

そして、本件商標がスペイン語で「パスクア」と称呼され、我が国においても「パスクア」、と称呼され得ること、及び、本件商標と「PASQUA」商標は共にキリスト教の「復活祭(イースター)」の観念を有し、我が国のワインの需要者・取引者はワインの名称(銘柄)の意味合いを知ろうとする傾向にある。

以上のような状況において、本件商標がチリ産のワインに使用された場合、当該商品があたかもイタリアにおいて格付けを受けている請求人商品であるかのごとく需要者・取引者に認識され、商取引の秩序を混乱させるおそれがある。また、請求人の長年の企業努力にただ乗りするものであり、社会公共の利益に反することとなりひいては公の秩序を乱すおそれがある。

さらに、イタリアにおいて格付けを受けているワインに使用される請求人の「PASQUA」商標と共通の称呼及び観念を有する本件商標の存続を認めることは、国を挙げてぶどう酒の原産地名称又は原産地表示の保護に努めているイタリア国民の感情を害するおそれがあり、ひいては国際信義に反するものといわざるを得ない。

よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものである。

9 結語

以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第11号、同項第15号又は同項第19号に違反して登録されたものである。よって、本件商標の登録は無効とされるべきものである。

なお、請求人は、台湾において、商標「PASCUA」の登録(台湾商標登録第01801456号)に対して異議申立てを請求したところ、当該商標は請求人が使用する商標「PASQUA」と類似すること等を理由に取り消された(甲83〜甲85)。

第4 被請求人の答弁

被請求人は、本件審判請求に対して、何ら答弁していない。

第5 当審の判断

1 請求人適格について

請求人が本件審判を請求する利害関係を有することについては、被請求人はこれについて争っておらず、また、当審は請求人が本件審判を請求する利害関係を有するものと認める。

以下、本案に入って審理する。

2 商標法第4条第1項第7号該当性について

(1)商標法第4条第1項第7号について

商標法第4条第1項第7号は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は商標登録を受けることができない旨規定するところ、ここでいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、(a)その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、(b)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、(c)他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、(d)特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、(e)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるというべきである(知財高裁平成17年(行ケ)第10349号、平成18年9月20日判決言渡)。

(2)請求人及び「ワイン」に関する取引の実情について

請求人の主張及び提出に係る証拠によれば、以下の事実を認めることができる。

ア 請求人について

請求人は、ワインの生産地であるイタリア国に本拠を構える1925年創業のワインの製造・販売を主な業務とする法人であり、同国で豊かな生産量を誇り、テーブルワインからDOCGまで幅広く展開し、同人の業務に係る「ワイン」は多数の国々に輸出され、数多くのワインが国際的な賞を多数受賞している(甲6〜甲9)。

「PASQUA」は、請求人の社名の一部であるとともに、請求人が製造・販売するワインのボトルに付されている商標であって、請求人は「PASQUA」商標を付して(以下「PASQUA」ワインという場合がある。)、我が国をはじめ多数の国々でワインを販売している(甲6、甲7)。

「PASQUA」ワインは、イタリアにおける原産地統制称呼のワイン法によって、ワインの格付けの中で最上位に分類されて、銘柄に産地や品種、栽培方法、収穫量、熟成期間など最も厳正な規定がある「DOCG」を得ている。この「DOCG」を得るためには、その下位となる「DOC」の条件を満たした上、さらに農林省と商工会議所の検査を受ける必要がある(甲45、甲47、甲48)。

他方、我が国において「PASQUA」ワインは、国分グループ本社株式会社を代理店として1983年頃から販売が開始されて以来継続して、全国のスーパーマーケット、百貨店、インターネットによる通信販売等により紹介、販売されている(甲11〜甲24)。

イ ワインにおける取引の実情について

(ア)日本における、国別ワイン輸入量の上位は、チリ、フランス、イタリア等であって(甲55)、ワインに貼付されるラベル(以下「ワインラベル」という。)には生産国の言語で記載されることが多く(甲56)、ワイン業界では、英語以外にでも、イタリア語、フランス語、スペイン語等が使用されることから、ワインラベルが生産国の言語で記載されていれば、ワインの銘柄は、我が国においても当該ワインの産地の言語の読み方で称呼される商慣行が存在する(甲57、甲58)。

(イ)また、日本において外国産のワインが販売される場合、ワインボトルの裏に輸入者及び取引先の情報等が記載された日本語のラベル(以下「日本語ラベル」という。)が貼られているのが一般的であり、そのラべルには、ワインの名称(銘柄)の現地語表記とその読み方が片仮名で併記されていて(甲61〜甲63)、さらに、スーパーマーケットやコンビニエンスストア等でワインが販売される場合には、プライスカードにワインの名称(銘柄)が片仮名で表記されており(甲64〜甲66)、ウェブサイトやカタログでワインが販売される場合には、ワインの名称(銘柄)の現地語表記とともにその読み方が片仮名で表記されている(甲45、甲67〜甲70)。

(ウ)さらに、ワインを取引する際には、日本人は、ワインの銘柄を覚える手がかりとして、ワインの銘柄の由来を覚えること(甲78)、ワインをプレゼントする際にワインの意味から考えること(甲79)、実際に、プレゼントの目的に合った由来があるワインを提供している店もある(甲80)ことなどから、ワインの需要者・取引者は、ワインの名称(銘柄)の起源や由来を知ろうとする傾向にあるといえる。

(3)本件商標と引用商標との比較について

ア 本件商標について

本件商標は、上記第1のとおり「PASCUA」を標準文字で表してなり、その指定商品中に「ワイン」を含むものである。また、本件商標の商標権者(被請求人)はチリ共和国所在の法人であって、チリ共和国の言語はスペイン語である(甲59)。

そして、上記(2)イのとおり、我が国におけるワインの取引において、外国のみならず我が国においても当該ワインの産地の言語の読み方で称呼される商慣行が存在すること、ワインのボトルの裏面に付される日本語ラベルにはワインの名称(銘柄)の現地語表記とその読み方が片仮名で併記されていることなどといった実情を認め得ることができる。

以上を踏まえて、本件指定商品の産地となり得るチリ共和国の言語であるスペイン語に倣ってみると、本件商標を構成する「PASCUA」の文字は、キリスト教の「復活祭(イースター)」の意味を有する語であるから、「パスクア」と発音されるということができる(甲49)。

そうすると、本件商標は、「パスクア」と称呼され得るものであって、またワインの需要者等は、ワインの名称(銘柄)の起源や由来を知ろうとする傾向にあることから、キリスト教の「復活祭(イースター)」の観念を有するというべきである。

イ 引用商標について

引用商標は、それぞれの構成態様は異なるものの、いずれもその構成中に「PASQUA」の文字が顕著に表示されていることから、当該文字をもって取引に資されるということができる。また、引用商標1及び引用商標2は共にその指定商品中に「ワイン」を含み、さらに、引用商標3及び引用商標4は請求人の製造・販売に係る「ワイン」のボトルの表面又は裏面に貼付されるラベルに表示されて使用されているものである。

そして、本件商標と同様にワインの取引の実情等を考慮し、「PASQUA」ワインが製造されている産地の言語であるイタリア語に倣って引用商標をみると、「PASQUA」の文字は、キリスト教の「復活祭(イースター)」の意味を有する語であって、「パスクア」と発音されること明らかである(甲54)。なお、引用商標2ないし引用商標4は、請求人によって現に「PASQUA」ワインに使用され、「パスクア」と呼称されて、書籍等で紹介されたり、ワインの取引者や愛好家の間において、取引されている実情が確認できる。

したがって、引用商標は、いずれも「パスクア」と称呼されて、キリスト教の「復活祭(イースター)」の観念を有しているものである。

ウ 本件商標と引用商標との比較について

本件商標と引用商標とは、上記ア及びイのとおり、共に「パスクア」と称呼されて、キリスト教の「復活祭(イースター)」の観念を共通にするものである。

(4)検討

上記(2)ないし(3)からすると、請求人は、イタリア国内においてワインの格付けの中で最も厳正な規定があるDOCG(統制保証付き原産地呼称ワイン)の格付けを受けているワインについて「PASQUA」の商標を使用していることが認められ、当該「PASQUA」ワインは我が国においても35年余り継続して一定量販売されていることがうかがえる。

一方、本件商標は、「パスクア」と称呼され得ること、キリスト教の「復活祭(イースター)」の観念を有することが認められ、その称呼及び観念は、「PASQUA」ワインに使用されている引用商標のそれと共通にする。

以上を踏まえて検討すると、本件商標がその指定商品、特にワインに使用された場合、本件商標「PASCUA」から生じる称呼及び観念が、請求人の業務に係る「PASQUA」ワインのラベル等に使用されている引用商標から生じる称呼及び観念と共通することから、当該商品があたかもイタリアにおいて最高位の格付けを受けている請求人の「PASQUA」ワインであるかのごとく、我が国の取引者・需要者に認識されて商取引の秩序を混乱させるおそれがあり、また、請求人の長年の企業努力にただ乗りするなど、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反することとなり、ひいては公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標と判断するのが相当である。

なお、被請求人は、請求人の主張に対して何ら答弁していない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。

3 まとめ

以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものである。なお、請求人は、上記理由のほか、本件商標が商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第19号に該当する旨主張しているが、請求人の主張及び提出に係る証拠によっては、上記理由に該当するものと認めることはできない。

したがって、本件商標は、商標法第46条第1項第1号により、その登録は無効とされるべきである。

よって、結論のとおり審決する。

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