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Trademark Appeal Case

F-ZEROとP ZEROの類似性

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号無効2020−890037(T2020−890037/J3)
審判種別無効
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。

理由テキスト

第1 本権商標

本件登録第6170078号商標(以下「本件商標」という。)は、「F−ZERO」の文字を標準文字で表してなり、平成30年10月15日に登録出願、第12類「自動車用ホイール,自動車並びにその部品及び附属品」を指定商品として、令和元年7月18日に登録査定、同年8月9日に設定登録されたものである。

第2 引用商標

請求人が、本件商標の登録の無効の理由として引用する登録第4067471号商標(以下「引用商標」という。)は、「P ZERO」の文字を横書きしてなり、平成6年6月28日に登録出願、第12類「自動車用タイヤ・車輪・チューブ及びリム、その他の自動車並びにその部品及び附属品,二輪自動車・自転車用タイヤ・車輪・チューブ及びリム、その他の二輪自動車・自転車並びにそれらの部品及び附属品,航空機用タイヤ・車輪・チューブ及びリム、その他の航空機並びにその部品及び附属品」を指定商品として、同9年10月9日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。

第3 請求人の主張

請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第20号証(枝番号を含む。)を提出した。

1 請求の理由

本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号に該当し、同法第46条第1項第1号により、その登録は無効にすべきものである。

2 本件商標登録を無効とすべき理由

(1)利害関係について

請求人は、引用商標、すなわち「P ZERO」の文字を付した自動車用タイヤを製造販売している。後述するように、引用商標は、本件商標の登録出願日である平成30年10月15日前から、請求人の業務に係る自動車用タイヤの出所を表示するものとして、関連する需要者、取引者の間で広く知られるに至っている。

よって、請求人は、引用商標と混同するほどに類似し、また、その指定商品と同一または類似する商品に使用する本件商標に係る登録を無効にすることにつき、重大な利害関係を有する。

(2)請求人及び引用商標について

ア 請求人について

請求人は、1872年に創業されたイタリア、ミラノを本拠とする法人であって、世界有数の自動車用タイヤメーカーの一である(甲3)。

請求人製品は、外国車、とりわけフェラーリ、ポルシェ、マセラティ、ランボルギーニ、マクラーレン、ベントレーなどの高級スポーツカーの標準装備夕イヤとして採用されており(甲4)、さらに、請求人は、F1(フォーミュラ・ワン)、のオフィシャルタイヤサプライヤーを長年務めており、モータースポーツ用のタイヤを供給する代表的なタイヤメーカーとして名をはせている(甲5)。

請求人製品は、自動車メーカーのみならず、タイヤ販売店を通じて我が国を含む世界各国に供給されており、その年間売上高は、約52億ユーロ(約6280億円)におよび、資料(甲6)によれば、世界の数あるタイヤメーカーの中で第6位、世界市場の約3.6%の市場占有率を占めている。

請求人は、タイヤの営業活動のみならず、イタリアサッカークラブとして著名な「インテル・ミラノ」のメインスポンサーでもあり、その名声は広く伝播している(甲3、甲7)。

イ 引用商標について

引用商標は、欧文字「P ZERO」を横一行に書したものである。引用商標は、請求人によって、長年にわたって製造販売されてきた自動車用タイヤの商標として使用されている。

引用商標に係る自動車用タイヤ「P ZERO」は、当初、1987年に開発されたフェラーリ社のスポーツカー「P40」に装備するために開発されたが、それ以降は量産化され、現在では、請求人のフラッグシップモデル(象徴的製品)としての位置付けで販売されている(甲3)。

同タイヤは、主にフェラーリ、ポルシェ、マセラティ、ランボルギーニ、メルセデスAMGといった高級スポーツカーや、アウディ、BMW、ジャガー、フォルクスワーゲン、ボルボなどの主要な外国製乗用車ブランドに採用、承認されている(甲8)。

また、同タイヤは、F1などのモータースポーツ用タイヤとしても長年採用されてきた。とりわけ、F1では、スペックの異なるC1ないしC5の所定のタイヤが使用されるレギュレーションになっており、これらのタイヤは、専ら請求人から提供されるものである。実際に提供されるタイヤの側面部には、引用商標が常に付されている(甲5)。

すなわち、引用商標に係る自動車用タイヤ「P ZERO」は、請求人を象徴する製品として販売され、多数の自動車メーカーによって承認、採用されているのみならず、F1の公式タイヤとしても長年採用されてきた、他メーカーにはない絶大な実績を有する。同タイヤが、これまでの長年の販売活動ないしF1での活動を通じて、請求人の技術力や名声の代表格として、全世界的に評価され続けてきたことは想像に難くない。

ウ 引用商標の周知著名性について

上記のとおり、引用商標を付した自動車用タイヤは、世界有数の自動車メーカーによって採用、承認され、我が国を含む世界各国において、関連高い知名度を博してきたことは容易に想像可能である。

引用商標に係るタイヤは、新車の標準装備として自動車メーカーに納入されることはもちろん、主にメンテナンスのために当該メーカーの国内正規ディーラーに納入されることもあれば、タイヤ量販店を通じて市販されることもある(甲9)。

引用商標に係るタイヤの我が国における2014年から2019年10月までの売上高は、年間売上高で、約67万本ないし74万本、約53億円ないし66億円のレンジで安定推移していることがわかる。

この売上高は、たとえば2017年の我が国の乗用車用タイヤの輸入実績(約2386万本/約911億円:甲9)と対照すれば、本数ベースにして約3%、売上金額ベースにして約6.4%にあたり、決して少なくないことがわかる。

これまで引用商標に係るタイヤの納入実績のある我が国の業者は、約260業者以上であり、その中には、オートバックス、イエローハットなどの主要なタイヤ量販業者や、多数のオンライン通販業者が含まれる。甲第10号証の1ないし6は、代表的な国内タイヤ販売業者のウェブサイトの写しであり、引用商標に係る自動車用タイヤが、多数の業者によって我が国において実際に販売されていることの証左である。甲第10号証の7は、価格比較サイト「価格.COM」にて、自動車用タイヤ及び引用商標について検索した結果の一部抜粋を示す。タイヤの製品シリーズブランドとして、「P Zero ピレリ(619)」と記載されているように、他社の製品ブランドに比して最も多い検出数となっていることがわかる。また、その中でも「P Zero」を冠したタイヤが、多くの販売業者を通じて販売されていることがわかる。

甲第11号証の1ないし7は、2013年から2019年の7年間に、請求人の子会社である「ピレリジャパン株式会社」により、国内486店舗のカー用品小売店「オートバックス」を運営する株式会社オートバックスセブン向けに発行された請求書の写しであって、「P ZERO」の取引に係るページのみを抽出したものである。

甲第12号証の1ないし5は、2015年から2019年の5年間に、請求人の子会社である「ピレリジャパン株式会社」により、国内728店舗のカー用品小売店「イエローハット」を運営する株式会社イエローハット向けに発行された請求書の写しであって、「P ZERO」の取引に係るページのみを抽出したものである。

甲第13号証の1ないし5は、2015年から2019年の5年間に、請求人の子会社である「ピレリジャパン株式会社」により国内業者3社(株式会社服部モータース(滋賀県)、有限会社保崎タイヤ商会(埼玉県)、有限会社村上タイヤ(福岡県))、向けに発行された請求書の写しである。このうち、株式会社服部モータースは、ドイツの自動車製造業者BMWの正規ディーラーである(甲14)。

なお、これらのインボイスにおいて、「商品名」欄に「P ZERO」と記載された品目が、引用商標の付された自動車用タイヤの取引を示す。およそ、卸売価格にして、1本あたり2万円台から5万円台で取引されており、他の型番と比較して高い価格帯であることがわかる。

このように、主要なタイヤ小売業者から自動車ディーラーに至るまで、継続的かつ大規模に引用商標に係る自動車用タイヤが我が国において販売され続けてきたことがわかる。また、引用商標に係る自動車用タイヤが、請求人のフラッグシップモデルとして認識されていることや、実際に取引されている価格帯を考慮すると、一般に取引されるタイヤよりも格式の高い位置付けで取引されてきたことが推察される。

ところで、引用商標に係るタイヤは、F1などのモータースポーツや、自動車愛好家に人気の高い高級スポーツカーに採用されていることもあり、関連するメディアによって、様々なニュースが報じられることも少なくない。

甲第15号証の1ないし4は、引用商標に係る自動車用タイヤに関して、各種メディアで報じられた記事(新聞、雑誌、インターネット)の写しである。

これらの記事にあるように、長年にわたり、引用商標に係る自動車用タイヤが、i)各自動車メーカーの新規モデルに採用されており、新規採用、あるいは新製品が発表される都度、メディアによって紹介されていること、ii)東京モーターショー、フランクフルトモーターショーなどの世界的イベントにて展示されていること、iii)主にF1の記事において引用商標の表示とともに紹介されており、高い注目を受けたことがわかる。

甲第16号証の1ないし3は、引用商標に係る自動車用タイヤに関して、インターネットにおける評価、評判をまとめたウェブサイ卜、ブログの写しである。

これらの資料にあるように、引用商標に係る自動車用タイヤは、市販品についても高い評価を受けており、また、一般消費者のみならず、販売業者の間でも高い注目を受けていることがわかる。

このように、引用商標に係る自動車用タイヤは、高級スポーツカーへの搭載やF1への供給などの実績を通じて、ありふれたタイヤ製品にはないプレミア感と相まって、実際の売り上げ本数や金額以上に、一般より格上の高い名声を築き上げ、その名声は、実際に上記の高級スポーツカーや外国車を所有する富裕層やタイヤを実際に購入する乗用車の取引者、需要者のみならず、これまで購入機会を持たなかった自動車やモータースポーツの愛好家(将来の購入者になり得る)にも及んでいるということができる。

自動車に関するビジネスにおいて、多くは、自動車本体のブランドやエンジンなどの性能に着目されて取引される中、タイヤ自体がここまで注目を受けるのは尋常ではない。

すなわち、引用商標に係る自動車タイヤの名声は、他のタイヤメーカーの製品ブランドと比して、突出しているということができる。

以上のことから、引用商標は、請求人の業務に係る自動車用タイヤの商標として、遅くとも本件商標の登録出願日には、我が国を含む世界各国における関連する需要者及び取引者の間で周知著名に至っていたというべきであり、その周知、著名性は、現在に至るまで維持されている。

(3)本件商標の商標法第4条第1項第11号該当性

ア 本件商標と引用商標との類否

本件商標は、「F−ZERO」の文字からなる。

他方、引用商標は、「P ZERO」の文字からなる。

本件商標「F−ZERO」と、引用商標「P ZERO」とは、構成中「ZERO」の文字部分において共通し、相違点は先頭1字のみであり、両商標ともに、先頭に欧文字1字を配して、直後に英単語「ZERO」を伴う構成で共通している。かかる文字構成の一致は、外観上相紛らわしく、極めて近似する印象を看者に与えるというべきである。

また、本件商標の「F」と「ZERO」との間に配される「−(ハイフン)」、は、単なる分離記号であって、特定の称呼、観念はおろか、外観上の印象に与える影響は皆無であり、これをもって、「P」と「ZERO」とが1文字分のスペースを空けてなる引用商標との区別に必ずしも役立つものではない。

さらに、相違する先頭文字「F」と「P」とは、アルファベット26文字の中でも字形が比較的近似する2文字であり、水平方向に延びる上下2本の直線がU字状に結合するか、あるいは当該2本の直線が結合せずに右方向に若干切り欠いてなるかの相違にすぎないため、一見して見紛うおそれがある。

また、欧文字1字が、自動車を含む機械産業においてしばしば型番や等級に用いられることは顕著な事実である。とすれば、両商標の構成中「ZERO」部分が強く支配的な印象を与え、要部として認識される蓋然性が相当程度あり、この場合、「ゼロ」の称呼や「数字の0」、「無」の観念をもって取引に供され得る。すなわち、両商標は、称呼、観念においても相紛れるおそれがある。

上述のとおり、引用商標は、請求人の業務に係る商品(自動車用タイヤ)の出所を表示するものとして、我が国自動車関連業界において広く知られるに至っている。事実、欧文字1字に「ZERO」を伴う文字構成からなる商標を付したタイヤ製品は請求人のもの以外に見当たらない。主要タイヤメーカー上位8社(ピレリ、ブリヂストン、ミシュラン、グッドイヤー、コンチネンタル、住友ゴム、ハンコック及び横浜ゴム)と、その製品ブランド名は甲第17号証のとおりである。

本件商標と引用商標の類否を判断するにあたり、引用商標の周知著名性及び各指定商品の取引実情を無視することはできない。

上記のとおり、「ZERO」、「ゼロ」を含む製品ブランド名を有するタイヤメーカーは、請求人以外になく、欧文字1字に「ZERO」を伴う構成からなるものは、引用商標ただ一つである。

これは、引用商標「P ZERO」ないし構成中の「ZERO」部分が、当該業界において唯一無二の存在で、その識別力が、その語自体の持つ本質的な識別力以上に、際立って強いことを示唆するものである。換言すれば、かかる状況において、引用商標の周知著名性と相まって、「P ZERO」ないし「欧文字1字に『ZERO』」といえば「ピレリ」(請求人)である、という認識が、関連業界において相当程度浸透していることが推察される。

これらの事実に鑑みれば、本件商標がその指定商品、特に自動車用タイヤに使用される場合、関連する需要者、取引者は、本件商標を、あたかも引用商標の兄弟ブランドのように誤解して認識し、引用商標との間で出所の誤認混同を生じるおそれがあるといえる。

したがって、本件商標と引用商標とは互いに類似する。

イ 指定商品の類否について

本件商標の指定商品、第12類「自動車用ホイール,自動車並びにその部品及び附属品」は、引用商標の指定商品中、少なくとも「自動車用タイヤ・車輪・チューブ及びリム、その他の自動車並びにその部品及び附属品」と同一または類似する。

ウ 小括

以上のとおり、本件商標は、引用商標に類似する商標であり、かつ、同一又は類似の指定商品に用いるものである。

よって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものである。

(4)本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性

ア 本件商標と引用商標との類似性の程度

上述のとおり、本願商標と引用商標とは、欧文字1字の直後に英単語「ZERO」を伴う態様で一致し、外観上相紛らわしい上に、構成中「ZERO」が強く支配的な印象を与え、要部として認識され得ることから、称呼、観念においても相紛れるおそれがある。

よって、両商標の類似度は極めて高いというべきである。

イ その他人の標章の周知度

上述のとおり、引用商標は、請求人の業務に係る自動車用タイヤの商標として広く知られるに至っており、遅くとも本件商標の登録出願日には、我が国における関連する需要者及び取引者の間で周知著名に至っていたというべきであり、その周知、著名性は、現在に至るまで維持されている。

ウ その他人の標章が造語よりなるものであるか、又は構成上顕著な特徴を有するものであるか

引用商標は、辞書に掲載されるような既存の熟語ではなく、また、上述のとおり、関連する業界において、請求人以外によってありふれて使用されていないものである。

よって、その造語性、顕著性は極めて高いというべきである。

エ その他人の標章がハウスマークであるか

引用商標は、厳密にはハウスマークとはいえないとしても、上述のとおり、フラッグシップブランドとして、請求人を象徴する自動車用タイヤに使用されている。

オ 企業における多角経営の可能性

本願商標と引用商標は、ともに第12類の商品を指定しており、下記に示すように互いに高い関連性を有することから、当該要因は本件において重要な意味を持たない。

カ 商品間、役務間又は商品と役務間の関連性

本件商標の指定商品、第12類「自動車用ホイール,自動車並びにその部品及び附属品」は、引用商標の使用されている商品「自動車用タイヤ」と重複するか、あるいは高い関連性を有する。

とりわけ、「自動車並びにその部品及び附属品」は、「自動車用タイヤ」を包含し、「自動車用ホイール」は、「自動車用タイヤ」とともに自動車の車輪部分の重要な構成要素として常に一体的に組み合わせて使用され、機能、用途においても密接な関連性を有する。

よって、両商標の商品は、高い関連性を有する。

キ 商品等の需要者の共通性その他取引の実情

本件商標の指定商品、第12類「自動車用ホイール,自動車並びにその部品及び附属品」の需要者は、自動車を取引する、あるいは所有する者であって、これは、引用商標の使用されている商品「自動車用タイヤ」のそれと共通する。

上述のとおり、欧文字1字の直後に「ZERO」を伴う構成からなるブランド名はとりわけ自動車用タイヤの分野において請求人製品以外に存在せず、引用商標は、独自性、顕著性の高い商標である。

また、引用商標の自動車用タイヤ業界における名声ないし周知著名性は高く、顕著である。

そして、本件商標と引用商標とは、欧文字1文字の直後に、「ZERO」を伴う構成で一致し、とりわけ外観において極めて近似する印象を与え、また、「ZERO」部分が支配的な要部として認識される場合、その称呼、観念も共通するほど類似度が高い。

かかる事情に鑑みれば、本件商標がその指定商品、とりわけ自動車用タイヤに使用される場合、需要者が、その出所を請求人の取り扱う商品それ自体ないしその兄弟ブランドの一ではないかとの誤解、すなわち、請求人の業務に係る商品の出所と誤認混同するおそれがあるというべきである。

ところで、一般に、自動車用ホイールに商標が付される場合、商標は、ホイール側面の中央部(車輪軸位置に対応する部分)か、同面の外周縁部に円周方向に刻印される場合が多い。他方、自動車用タイヤも、滑り止めの溝が設けられる接地面ではなく、側面部に円周方向に沿って印字ないし刻印される場合が大半である。すなわち、タイヤ装着時にはタイヤの商標と、ホイールの商標とは近接した位置に、かつ、ともに同一平面ないし同一方向に表示されることが通常である。

よって、ホイールとタイヤとは、機能、用途が密接に関連し、また、需要者が共通するのみならず、実際に刻印される場所やその表示方法も近似するという、商標の使用局面において、相互に密接な関係性を有する。

したがって、ホイールとタイヤにある程度の類似度を有する商標がそれぞれ付される場合、共通する需要者は、一方の商標から、その商品の出所を、比較的周知著名性のある他方の商標の出所と誤認混同することが懸念される。

すなわち、本件商標が自動車用ホイールに付される場合であっても、その需要者、取引者は、そこから引用商標を想起する蓋然性は極めて高く、仮に請求人自身の製品であると誤認することがないとしても、請求人から何らかの許諾を受けて使用していると誤認する可能性は相当程度あるというべきである。

以上のことから、本件商標をその指定商品に使用した場合、これに接した需要者及び取引者は、請求人又は同人と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように商品の出所について混同を生ずるおそれがある。

よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。

(5)本件商標の商標法第4条第1項第19号該当性

引用商標は、上述のとおり、長年における、かつ全世界的な営業販売活動ないしF1などにおける活動を通じて、請求人の業務に係る自動車用タイヤの商標として、遅くとも本件商標の登録出願日には、我が国を含む世界各国における関連する需要者及び取引者の間で周知著名に至っていたというべきであり、その周知、著名性は、現在に至るまで維持されている。

また、上述のとおり、本件商標は、引用商標と類似する。

よって、本件商標は、請求人の業務に係る商品を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている引用商標と同一又は類似する。

さらに、本件商標の権利者(以下「本件商標権者」という。)は、日本において自動車用ホイールなどの自動車関連商品を販売し(甲18)、自動車用ホイールについて、「F ZERO」の文字を図案化した商標を使用している(甲19)。

また、本件商標権者の使用する「F ZERO」の表示は、請求人の使用する「P ZERO」と同様、斜体(イタリック体)で表示されており、極めて近似した印象を与える。

引用商標の自動車用品分野における周知著名性と実際の使用態様における商標の近似性、さらに、本件商標権者が自動車関連商品の販売業者であることを考慮すると、引用商標が請求人によって採択され、使用されているものであることを、本件商標権者が本件商標の登録出願時点において認識していたか、少なくとも知り得る立場にあったことは明らかである。

したがって、本件商標に係る登録出願は、不正の目的をもって行われたものであることが容易に推認される。

よって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものである。

(6)本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性

上述のとおり、本件商標権者は、引用商標が請求人によって採択され、使用されているものであることを知りながら、引用商標と酷似する本件商標を、請求人の承諾を得ることなく、登録出願したものである。

かかる状況において、先願主義原則に拘泥し、本願商標の登録出願を一部でも正当化すれば、商標登録制度に対する信頼は損なわれ、また、市場流通秩序を乱し、需要者を混乱に陥らせることになりかねない。すなわち、本件商標の登録出願は、その経緯に社会的相当性を欠くものであって、また、指定商品に関する本件商標の使用は、社会公共の利益に反する。

よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものである。

3 答弁に対する弁駁

(1)本件商標の商標法第4条第1項第11号について

ア 本件商標の「F」と「ZERO」との間に配される「−(ハイフン)」についても、被請求人は、「『−(ハイフン)』の有無によって商標全体の『まとまり感』ないしは『一体感』に差異が生じているのは明らかである」と述べるが、商標の類否判断において、「−(ハイフン)」の有無が視覚上の区別において重要な要素として機能する例は稀であること自体、これまでの特許庁、裁判所の判断例を参照しても、顕著な事実である。

イ 被請求人は、「『F』と『P』の文字を見間違うはずがない」と主張するが、アルファベット26文字の中で、「F」と「P」とが字形や一見した印象が比較的近似するものがあることは否定できない事実である。簡易迅速な取引を尊ぶ中にあって、これら両文字を一見して見紛う可能性があることは否定できず、また、被請求人によってその証左も示されていない。

ウ 被請求人は、フェラーリ社の「F40」、本田技研工業株式会社の「N−ONE」を引き合いに、「先頭の1文字は省略されることはない」と述べているが、本件商標において「F」の文字と「ZERO」部分との間で識別力における軽重の差は確かに存在するものであり、英文字1文字と「ZERO」という文字構成が、自動車関連業界においてありふれて用いられていないことからしても、それが一致する本件商標と引用商標とは、その取引の実情に鑑みると、互いに相紛らわしいものといえる。

エ 被請求人は、答弁書において、「先頭に位置する『F』や『P』の文字から全く何らの観念も生じ無いとはいえない。」、「引用商標の『P』の文字からは『ピレリ社』という観念が明確に生じ得る。」と述べる。

しかしながら、かかる請求人の主張は、むしろ本件商標の構成全体としての周知著名性について争わない趣旨と理解することができる。「ZERO」を伴った引用商標「P ZERO」自体の周知著名性を考慮すれば、両商標間の出所の誤認混同の蓋然性は、依然として高いというべきであって、周知商標保護の観点から、引用商標の保護範囲も自ずと拡張されるべきということができる。先頭の文字のみをもって両商標の出所を区別できるとの被請求人の論旨には、根拠がなく、また、論理の飛躍がある。

オ 被請求人は、答弁を裏付ける登録例として、2件の登録を引用しているが、本件とは事件が異なるものであり、考慮に値しない。

以上のとおり、本件商標は、引用商標に類似する商標であり、かつ、同一または類似の指定商品に用いるものである。

(2)本件商標の商標法第4条第1項第15号について

被請求人も認めるように、引用商標が周知著名であることを前提とすれば、周知商標保護の観点から、引用商標の保護範囲も自ずと拡張されるべきであり、周知著名であるからこそ、混同の可能性も高まるというべきである。

本件商標と引用商標とを比較すべき本件事案において、ひたすらに引用商標の先頭文字の需要者認識に固執して言及する被請求人の主張は、根拠がなく、また、当を得ていないというべきである。

以上のことから、本件商標をその指定商品に使用した場合、これに接した需要者及び取引者は、請求人又は同人と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように商品の出所について混同を生ずるおそれがある。

(3)本件商標の商標法第4条第1項第19号について

被請求人は、「引用商標の実際の使用態様と比較すると受ける印象は全く異なる。」等と述べるが、無数に存在する図案化の選択肢の中で、周知著名な引用商標と同様の斜体表記を選択しており、これは明らかな不正の意図の証左といえる。

審判請求書において述べたように、引用商標の自動車用品分野における周知著名性と、実際の使用態様における商標の近似性、さらに、本件商標権者が自動車関連商品の販売業者であることを考慮すると、引用商標が請求人によって採択され、使用されているものであることを、本件商標権者が本件商標の登録出願時点において認識していたか、少なくとも知り得た立場にあったことは明らかである。

したがって、本件商標に係る登録出願は、不正の目的をもって行われたものであることが容易に推認される。

(4)本件商標の商標法第4条第1項第7号について

他人の商標の名声にただ乗りする意図で、その利益の剽窃を意図して登録出願する行為は、社会的相当性を欠くのであって、かかる行為を認めることは、商標制度の信頼性に関わることになる。よって、被請求人の主張は失当である。

(5)追加提出の証拠について

甲第20号証として、2015年ないし2017年に日本で開催されたF1レース(日本グランプリ)会場の鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)において撮影された写真であって、引用商標が会場内で表示された事実を示す写真を提出する。 F1のグランプリレースは、世界の自動車関係者にとって注目のレースであり、会場内で大きく際立って表示された本件商標の知名度や名声の高さをうかがい知ることができる。

(6)結語

以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第11号、同項第15号又は同項第19号に違反して登録されたものである。

第4 被請求人の主張

被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第7号証を提出した。

1 商標法第4条第1項第11号について

(1)外観について

請求人は、「F」と「P」はアルファベット26文字の中でも字形が比較的近似する2文字であることを理由に本件商標「F−ZERO」と引用商標「P ZERO」とは一見して見間違うおそれがある旨主張しているが、これらの文字は最も目立つ先頭位置に配置される2文字であり、かつ、続く「ZERO」の部分とはそれぞれ「−(ハイフン)」やスペースによって分離されており、商標の構成上視覚的に目立つ存在であること明白である。複数の文字列の途中に位置する「F」と「P」の文字の相違であるならまだしも、視覚上不可避的に注目する部分である先頭に配置された「F」と「P」の文字を見間違うはずがない。

また、請求人は、「−(ハイフン)」は単なる分離記号であって、外観上の印象に与える影響は皆無と主張するが、「−(ハイフン)」の有無によって商標全体の「まとまり感」ないしは「一体感」に差異が生じているのは明らかである。

このように、本件商標と引用商標は、一見しただけで外観上の違いを把握できるのであり、全くもって相紛らわしいものではない。

(2)称呼について

本件商標からは「エフゼロ」の称呼を生じ、引用商標からは「ピーゼロ」の称呼を生じる。

わずか4音で構成される称呼のうち、50%に相当する2音が相違している。またこの相違する2音は「語頭の2音」であり、更に、相違する語頭2音が「母音と摩擦音」で構成される本件商標と、「半濁音と長音」で構成される引用商標との称呼上の差異は極めてインパクトの大きなものである。

このように、本件商標と引用商標は、称呼上極めて大きな違いを有しており相紛らわしさは皆無である。

(3)観念について

請求人は、欧文字1文字が、自動車を含む産業機械においてしばしば型番や等級に用いられることを理由に「ZERO」の部分が要部となり「数字の0」、「無」の観念が生じると主張する。確かに「ZERO」の部分から「数字の0」、「無」といった観念が生じ得る点はそのとおりであり認める。

しかしながら、先頭に位置する「F」や「P」の文字から全く何らの観念も生じないとはいえない。特に、引用商標である「P ZERO」は、請求人が審判請求書において主張しているように、1987年に開発されて以降現在でもピレリ社のフラッグシップモデル(象徴的製品)として販売される製品に付されて使用されているものであり、その使用実績によって引用商標が周知性を獲得しているのであるならば、なおさら、引用商標の「P」の文字からは「ピレリ社」という観念が明確に生じ得る。特にピレリ社は、引用商標以外にも「P4」、「P6」、「P7」、「P3000」、「P5000」、「P6000」及び「P7000」といった、「先頭に『P』の文字を配置した銘柄のタイヤ製品」を半ばシリーズのように販売してきた実績がある(乙6)。また、この点は、請求人が提出した甲第10号証の1からも一部見てとれる。その結果、「タイヤ銘柄において『P』といえばピレリ社」という程にイメージが定着している。このことは、引用商標の周知性が高ければ高いほど顕著なものとなる。なお、上記以外にも「P1」、「P3」、「P4000」といったシリーズのタイヤ銘柄も存在するが、その事実は請求人自身が最もよく知るところで証拠を出すまでもない。

一方、「F」の文字は、自動車業界において多用される文字の1つである。その理由の1つはF1に代表される「フォーミュラカー」の頭文字であり、商品名等に「F」の文字を冠することで「レース由来の製品」といった印象を発揮させるためである。ゆえに、本件商標の指定商品でもある自動車やその部品等について「F」の文字が冠されていると、それに触れる取引者、需要者は「フォーミュラカー」、「レース由来の」といった観念を生じさせる。

その結果、「ZERO」の部分から「数字の0」、「無」といった共通する観念が生じるとしても、「P」の文字から生じる「ピレリ社」のイメージ、「F」の文字から生じる「フォーミュラカー」、「レース由来の」といったイメージの存在によって、両商標は十分に識別可能であり、相紛らわしいものではない。

(4)上記答弁を裏付ける登録例

なお、上記答弁の内容が正しいことを裏付けるように、「ZERO」(登録第4419215号)や「Nゼロ\N ZERO」(登録第6215461)といった商標が問題なく登録されて存在している事実は無視できるものではない。

以上のとおり、本件商標と引用商標とは、外観、称呼、観念のいずれの点においても明確な相違点を有しており、出所混同を生じる程の紛らわしさは皆無である。

すなわち、両商標は非類似の商標であり、商標法第4条第1項第11号が適用される余地はない。

2 商標法第4条第1項第15号について

上記1(3)でも述べたとおり、請求人は先頭に「P」の文字を配した銘柄の自動車タイヤを長きにわたって多数販売している実績がある。少なくとも引用商標「P ZERO」に関しては、請求人自身が審判請求書において多くの使用実績を証拠と共に示している。

一方で、請求人によって、頭文字に「P」以外のローマ字1文字を付した構成の商標が付された製品が製造販売された実績はない。

その結果、請求人の長年の実績によって、「ピレリ社のタイヤといえば『P』シリーズ」という極めて強い印象が自動車関連業界においては広く浸透しているのである。

よって、取引者、需要者は、「P」の文字が冒頭に付されたタイヤ製品であれば請求人(ないしは少なくとも請求人と何らかの資本関係、提携関係がある者)から市場へと流出した製品であると認識する可能性があることは容易に想像できるが、逆にそれ程までに『ピレリ社のタイヤといえば「P」シリーズ』という印象が定着しているからこそ、「P」の文字が付されていない場合はそのような出所混同は生じないのである。すなわち、本件商標を本件商標に係る指定商品に使用しても、請求人の業務に係る商品等と混同を生ずるおそれはなく、商標法第4条第1項第15号には該当しない。

3 商標法第4条第1項第19号について

上記1で述べたとおり、本件商標と引用商標とは明らかに非類似の商標であり、そもそも本号が適用される余地はない。

なお、請求人は、甲第19号証として示した本件商標の実際の使用態様と、引用商標の実際の使用態様とを並べて極めて近似する旨主張している。

しかしながら、共通しているのは文字を斜体表記としている点のみである。ローマ字を斜体表記すること自体は極めて一般的な表現方法にすぎずこの点のみで取引者、需要者が極めて近似した印象を受けることはあり得ない。さらに、本件商標は「F」の文字を明らかに大きく表示した上で、文字自体を直線的かつ鋭利な印象を受けるデザイン処理を施して使用しており、引用商標の実際の使用態様と比較すると受ける印象は全く異なるものである。

4 商標法第4条第1項第7号について

請求人は、本件商標の登録出願が社会的相当性を欠き、かつ、本件商標の使用が社会公益の利益に反する旨主張しているが、単なる私権同士のぶつかり合いにすぎず、社会的な問題が生じている事実やそのおそれもないことから、適用の余地がない。

5 指定商品について

本件商標に係る指定商品と、引用商標に係る指定商品とが同一又は類似する点については争わない。

6 結論

上記のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号のいずれにも該当するものではない。

第5 当審の判断

請求人が本件審判を請求する利害関係を有することについては、当事者間に争いがなく、また、当審は請求人が本件審判を請求する利害関係を有するものと認める。

以下、本案に入って審理する。

1 引用商標の周知性について

(1)請求人の提出の証拠及び主張によれば以下のとおりである。

ア 請求人について

請求人は、1872年に創業されたイタリアの自動車用タイヤメーカーであって、F1(フォーミュラ・ワン)、のオフィシャルタイヤサプライヤーを長年務めている(甲3、甲5)。

また、請求人の自動車用タイヤは、タイヤ販売店を通じて我が国を含む世界各国に供給されており、「ブリヂストンデータ2019(ブリヂストン株式会社発行)」によれば、請求人は、世界のタイヤ市場シェア(売上高ベース)において、第6位で3.6%の市場シェアがある(甲6)。

イ 引用商標について

引用商標に係る自動車用タイヤ「P ZERO」は、当初、1987年に開発されたフェラーリ社のスポーツカー「P40」に装備するために開発され、その後は量産化され販売されている(甲3)。また、同タイヤは、F1などのモータースポーツ用タイヤとしても採用されてきたものであり、そのタイヤの側面部には、引用商標が常に付されている(甲5)。

請求人は、引用商標に係るタイヤの我が国における2014年から2019年10月までの売上高は、年間販売数量で、約67万本ないし74万本、売上金額で約53億円ないし66億円で推移していると主張するとともに、この売上高、売上本数は、2017年の我が国の乗用車用タイヤの輸入実績(約2386万本、約911億円)と対照すれば、数量ベースにして約3%、売上金額ベースにして約6.4%にあたると主張する。

しかしながら、それら主張の内容が事実であることを裏付ける客観的な資料の提出はなく、我が国における市場占有率(販売シェア)等の量的規模を客観的な使用事実に基づいて、引用商標の使用状況を把握することができない。

さらに、引用商標に係るタイヤの納入実績のある我が国の業者は、約260業者以上であり、その中には、オートバックス、イエローハットなどの主要なタイヤ量販業者や、多数のオンライン通販業者が含まれるとするが(甲10の1〜7)、この数字を裏付ける客観的な資料の提出はなく、これらの量販業者やオンライン通販業者のウェブサイトには、引用商標のそばに、常に自動車用タイヤメーカーの名称を表した「ピレリ」又は「PIRELLI」の文字又はロゴが記載されている。

その他に、新聞記事は、1990年6月から2002年3月までに8件が掲載があるものの、その多くは、「ピレリーP―ZERO」、「ピレリー社製P―ZEROタイヤ」等と記載されており、また、インターネット記事は、2011年2月から2019年3月までに22件が掲載があるものの、その多くは、「ピレリPZero」、「ピレリ P ZERO」等と記載されている(甲15、甲16)。

(2)上記(1)によれば、請求人は、1872年創業のイタリアの自動車用タイヤメーカーであり、F1(フォーミュラ・ワン)のオフィシャルタイヤサプライヤーを長年務め、2019年の「世界のタイヤ市場シェア(売上高ベース)」によれば、世界第6位で3.6%の市場シェアあることからすれば、自動車用タイヤメーカーとしてタイヤを取り扱う業界やモータースポーツの愛好家の間において、ある程度知られていることがうかがえる。

しかしながら、請求人は、引用商標を使用した自動車用タイヤについて、その売上高、市場シェアを挙げて、引用商標の周知性を主張するものの、それを裏付ける客観的な証拠の提出はなく、宣伝広告については、宣伝広告費、宣伝広告回数やその頻度、またその頒布数、頒布先、頒布地域等示す証拠の提出もない。

そうすると、請求人は、イタリアの自動車用タイヤメーカーとして、自動車用タイヤを取り扱う業界やモータースポーツの愛好家の間ではある程度知られているとしても、引用商標については、売上高、市場シェア及び宣伝広告費などに関する具体的な証拠の提出がないから、請求人提出の上記証拠によっては、引用商標の使用状況を把握することができず、引用商標の周知性の程度を推し量ることができない。

その他、請求人の提出に係る甲各号証を総合してみても、引用商標が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国及び外国の取引者、需要者の間で、請求人の業務に係る商品を表示するものとして広く認識されていたと認めるに足る事実は見いだせない。

なお、請求人は、世界有数のタイヤメーカーである請求人の業務に係る商品(自動車用タイヤ)の商標として、引用商標が大規模かつ継続的に使用され、引用商標は、請求人のフラッグシップモデルとして各自動車メーカーの標準装備タイヤとして、また、数多くのタイヤ販売店を通じて販売された結果、引用商標は遅くとも本件商標の登録出願日には、我が国における関連する取引者、需要者の間で周知著名に至っていたというべきであり、その周知著名性は、現在に至るまで維持されている旨主張している。

しかしながら、請求人は、引用商標に係るタイヤの売上高、市場シェアについて、2014年ないし2019年10月までの売上高の金額を示しているが、その金額について具体的な裏付けとなる証拠の提出はない。

また、請求人は、2017年の我が国の乗用車用タイヤの輸入実績から、数量と売上高の市場シェアを算出しているが、引用商標に係るタイヤは、輸入タイヤ中の数量で約3%、売上金額ベースで約6.4%しかなく、我が国全体の自動車用タイヤの市場からみればそれほど多いものとはいえない。

してみれば、これらの証拠からは、引用商標が周知であるということを推し量ることはできない。

したがって、提出された証拠によっては、引用商標が、請求人の業務に係る商品を表示するものとして我が国及び外国の需要者の間に広く認識され、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、周知性を獲得していたと認めることはできない。

2 本件商標の商標法第4条第1項第11号該当性について

(1)本件商標

本件商標は、「F−ZERO」の文字を標準文字で表してなり、その構成文字は「F」の欧文字と「ZERO」の欧文字を「−(ハイフン)」で結合したものと認識されるところ、当該構成文字は、同じ書体、同じ大きさで等間隔に表されており、構成全体としてまとまりよく一体的なものとして看取、認識されるものというのが相当である。

そして、本件商標は、その構成中にハイフンがあるとしても、かかる構成においてはアルファベット「F」に続いて、「ゼロ、零」等の意味を有する親しまれた英語「ZERO」を結合したものと看取され、その構成全体をもって把握されるとみるのが自然であり、また、「F−ZERO」の文字は、辞書等に載録されているものではなく、全体として、特定の観念を生ずることのない一種の造語として認識されるものというのが相当である。

そうすると、本件商標は、その構成文字より「エフゼロ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。

(2)引用商標

引用商標は、「P ZERO」の文字を横書きしてなるところ、その構成は、「P」と「ZERO」の文字の間にスペースを有するとしても、横一連の欧文字表記として同じ書体、同じ大きさで一体的に表されており、いずれかの文字部分が取引者、需要者に対し、商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるというべき事情も見いだせず、全体の文字から生じる「ピーゼロ」の称呼は一連に称呼し得るものであるから、引用商標はその構成を一体のものとして認識されるとみるのが自然であり、また、「P ZERO」の文字は、一連の語として辞書等に載録されているものではなく、全体として特定の観念を生じることのない一種の造語として認識されるものというのが相当である。

そうすると、引用商標は、その構成文字より「ピーゼロ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。

(3)本件商標と引用商標との類否について

本件商標と引用商標とを比較すると、まず、外観においては、両者の1文字目の「F」と「P」の文字に差異を有し、さらに2文字目の「−」(ハイフン)の有無という差異を有してなるから、この差異が6文字と5文字という比較的短い文字構成である両者の外観全体から受ける視覚的印象に与える影響は少なくなく、両者を離隔的に観察しても、相紛れるおそれのないものと判断するのが相当である。

次に、称呼においては、本件商標からは「エフゼロ」の称呼を生じ、引用商標からは「ピーゼロ」の称呼を生じるものであり、構成音中の語頭の2音が異なることから、両者は、称呼上、明瞭に聴別できるものであって、相紛れるおそれのないものと判断するのが相当である。

さらに、観念においては、両者は特定の観念を生じないものであるから、観念上、比較できない。

以上のことを総合して全体的に勘案すれば、本件商標と引用商標は、外観、称呼において相紛れるおそれがなく、観念において比較できないものであるから、両者の外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は相紛れるおそれのない非類似の商標といわなければならない。

したがって、たとえ本件商標の指定商品と引用商標の指定商品が同一又は類似であるとしても、本件商標と引用商標は非類似の商標であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。

3 本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について

引用商標は、上記1のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品を表示するものとして、需要者の間に広く認識されているものと認めることはできないものである。また、本件商標と引用商標とは、上記2のとおり、非類似の商標であるから、本件商標をその指定商品について使用したときに、取引者、需要者をして、これを請求人又は請求人と組織的若しくは経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれがある商標とはいえない。

その他に、本件商標と引用商標とが取引者、需要者において出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情は見いだせない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。

4 本件商標の商標法第4条第1項第19号該当性について

引用商標は、上記1のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国及び外国の需要者の間に広く認識されているものと認めることはできず、引用商標が需要者の間に広く認識されていた商標であることを前提に、本件商標は不正の目的をもって使用するものであるとする請求人の主張は、その前提を欠くものである。

また、本件商標は、引用商標とは、上記2のとおり、非類似の商標である。

さらに、請求人が提出した証拠からは、本件商標権者が、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的、その他の不正の目的を持って本件商標を登録出願し、登録を受けたと認めるに足りる具体的事実を見いだすこともできない。

そうすると、本件商標は、引用商標の出所表示機能を希釈化し又は名声を毀損させるなど不正の目的をもって使用をするものと認めることはできない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。

5 本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性について

本件商標は、上記4のとおり、引用商標の信用、名声に便乗するものといえず、かつ、引用商標の顧客吸引力を希釈化させ、その信用、名声を毀損するなど不正の目的をもって使用をするものというべき証拠は見いだせない。

また、本件商標は、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるようなものでないこと明らかであり、さらに、その登録出願の経緯に社会的相当性を欠くなど、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合等、本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標と認めるに足りる具体的な証拠も見いだせない。

してみると、本件商標権者が、引用商標と類似するとはいえない本件商標の登録出願をし、登録を受ける行為が「公の秩序又は善良の風俗を害する」という公益に反する事情に該当するものということはできない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。

6 むすび

以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第11号、同項第15号、及び同項第19号のいずれにも該当せず、同条第1項の規定に違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。

よって、結論のとおり審決する。

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