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Trademark Appeal Case

ILIASとILARISの称呼類似

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号異議2021−900049(T2021−900049/J7)
審判種別異議
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

登録第6318014号商標の商標登録を維持する。

理由テキスト

第1 本件商標

本件登録第6318014号商標(以下「本件商標」という。)は、「ILIAS」の欧文字を横書きしてなり、2019年3月6日に大韓民国においてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張し、令和元年8月21日に登録出願、別掲のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同2年11月9日に登録査定、同月18日に設定登録されたものである。

第2 引用商標

登録異議申立人(以下「申立人」という。)が、本件登録異議の申立ての理由において、引用する登録商標は、次の2件の商標であり、いずれも現に有効に存続しているものである。

1 登録第5353085号商標(以下「引用商標1」という。)は、「ILARIS」の欧文字を標準文字で表してなり、平成22年4月9日に登録出願、第5類「薬剤」を指定商品として、同年9月10日に設定登録され、その後、令和2年3月13日に商標権の存続期間の更新登録がされたものである。

2 国際登録第905871号商標(以下「引用商標2」という。)は、「ILARIS」の欧文字を横書きしてなり、2007年(平成19年)4月27日に国際商標登録出願(事後指定)、第5類「Pharmaceutical preparations, vaccines, pharmaceutical preparations for diagnostic use.」を指定商品として、2008年(平成20年)4月11日に設定登録されたものである。

以下、上記の引用商標1及び引用商標2をまとめていうときは、「引用商標」という。

第3 登録異議の申立ての理由

申立人は、本件商標は、その指定商品及び指定役務中、第5類「多様な薬物の送達を促進する化合物からなる薬物送達用剤,免疫系疾病及び疾患の診断剤,細胞治療用薬剤,獣医科用幹細胞,薬物送達システムを適用した薬剤,薬物送達用剤,薬物の送達を促進する薬物送達用剤,医療用診断剤,化学的製剤,医療用又は獣医科用の生物学的及び化学的試薬,医療用又は獣医科用の微生物調製剤,医療用の遺伝子検査用試薬,医療用又は獣医科用の生化学製剤,医療用及び獣医科用のバクテリア調製剤,医療用試薬,医療用幹細胞,医療用薬剤,薬剤(人用のもの),免疫系疾病及び疾患の治療用薬剤,生物学・遺伝子・医薬研究用の診断剤,生物学・遺伝子・医薬研究用のエキソソームを含む診断剤」及び第35類「科学用又は研究用試薬の卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,科学用又は研究用試薬の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,科学用及び研究用の細胞の卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,科学用及び研究用の細胞の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,多様な薬物の送達を促進する化合物からなる薬物送達用剤の卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,多様な薬物の送達を促進する化合物からなる薬物送達用剤の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,生物学的薬剤の分析用実験装置の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,生物学的薬剤の分析用実験装置の卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,細胞治療用薬剤の卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,細胞治療用薬剤の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,プローブ(「医療用機械器具」に属するものを除く。)の卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,プローブ(「医療用機械器具」に属するものを除く。)の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,医療機器の卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,医療機器の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,医療用又は獣医科用の生化学製剤の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,医療用又は獣医科用の生化学製剤の卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,幹細胞の卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,幹細胞の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(以下「申立商品及び申立役務」という。)について、商標法第4条第1項第11号に該当するものであるから、同法第43条の2第1号により、その登録は取り消されるべきである、と申立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第26号証を提出した。

以下、証拠の表記に当たっては、「甲第○号証」を「甲○」のように省略して記載する。

1 商標法第4条第1項第11号について

(1)本件商標と引用商標の先後願関係及び本件商標の指定商品と引用商標の申立商品及び申立役務との類否について

本件商標は、申立商品及び申立役務などを指定商品及び指定役務として令和元年8月21日に商標登録された(決定注:「商標登録出願された」の誤記と思われる。)ものである。

これに対し、申立人の所有に係る引用商標1は、平成22年4月9日に商標登録出願され、国際分類第5類「薬剤」を指定商品として同年9月10日に商標登録されたものであり、引用商標2は、同19年4月27日に国際登録(事後指定)され、国際分類第5類「Pharmaceutical preparations, vaccines, pharmaceutical preparations for diagnostic use.」を指定商品として、同20年4月11日に我が国において登録されたものである。

したがって、引用商標が本件商標よりも先願に係る登録商標であること、及び、第5類における本件商標の申立商品と引用商標の指定商品が薬剤の類似範囲で抵触することは明らかである。

また、本件商標の第35類の申立役務中、「多様な薬物の送達を促進する化合物からなる薬物送達用剤の卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,多様な薬物の送達を促進する化合物からなる薬物送達用剤の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,細胞治療用薬剤の卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,細胞治療用薬剤の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」は、薬剤の卸売・小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供に含まれ、引用商標の指定商品である「薬剤」と類似する。

(2)本件商標と引用商標の外観について

本件商標は、欧文字「ILIAS」を左から横書きした構成であり、他方、引用商標は、欧文字「ILARIS」の構成からなるものである。

本件商標を構成する欧文字「ILIAS」と引用商標の欧文字「ILARIS」とは、中間に「IA」「ARI」の相違があるが、語頭の「IL」及び語尾の「S」を共通にするものである。中間において「I」と「A」の文字の存在を共通にし、相違は見過ごされ易いものである。

よって、本件商標と引用商標を構成する欧文字は、外観上の印象が全体として極めて近似している。

ところで、通常の商取引においては、商標は直接並べて対比されるわけではなく、時と処を異にしてその商標に接した者の曖昧な記憶とイメージに基づいて認識・判断されるので、商標の類否判断はいわゆる離隔的観察によるべきものとされている。上記のとおり、本件商標と引用商標とは、語頭「IL」・語尾「S」・中間における文字「I」「A」を共通し、曖昧な記憶とイメージに基づいて時と処を異にして両商標に接した場合には、本件商標と引用商標を即座に明確に区別することは困難である。

すなわち、本件商標と引用商標は、外観上紛らわしいというべきである。

以上のとおり、本件商標は、外観上、引用商標と混同を生じるおそれのある類似の商標である。

(3)本件商標と引用商標の称呼について

本件商標は、「イリアス」と称呼され、これに対し、引用商標は、「イラリス」と称呼される。

本件商標と引用商標の称呼を比較すると、両称呼は、共に称呼識別上重要な要素を占める語頭音の「イ」及び語尾の「ス」の音を同じくするものである。

中間において、「リア」と「ラリ」の差異を有するが、相違する「ア」と「ラ」は母音を共通にする近似音であり、「リ」の音を共通にするので、中間における相違は、明瞭に聴取されにくく、両者の音の差が全体に与える影響は少ないものである。

よって、両商標を一連に称呼したときは、これらがいずれも造語であることとも相まって、語調・語感が近似し、聞き誤るおそれがあるというべきである。

(4)本件の場合の抵触する商品及び役務について

本件の場合の抵触する商品及び役務は、人体・生命に関わる安全性が重視されるべき薬剤及び関連商品並びに役務であるから、上述した本件商標のような紛らわしい商標の使用・登録は、避けられるべきである。

これに関し、異議2003−90397の決定においては、「薬剤」に関して、「CELEMAC/セレマック」と「ZELMAC」、「ゼルマック」、「ZELMAC/ゼルマック」の商標(の称呼)が類似と判断されている(甲4)。この商標類似判断において、当該決定では、「指定商品の“薬剤”の取引の実情及び、近年医療事故その中でも投薬のミスによる事故の増加が社会問題している事情がある。」として、同決定の3「取消理由の要旨」の中の段落1.〜7.で、新聞記事からの医療事故例を挙げ、「このような事情をも合わせ考慮すれば、前記各商標の上記差異(「セレマック」と「ゼルマック」)が両称呼の全体に及ぼす影響は小さいものであって、両称呼を一連に称呼するときは、全体の語調、語感が近似したものとなり、彼此聞き誤るおそれがあるものといわなければならない。」と結論付けている。この先例では、聴覚上印象の強い語頭部の2音の相違であっても、両称呼は類似と判断されている。

(5)医療の現場において、医薬品関連の医療事故発生を踏まえ、例えば、日本病院薬剤師会のリスクマネジメント特別委員会によって、医療事故報道のあった事例、又は、厚生労働省のヒヤリハット報告で誤処方・調剤エラー・誤投与の報告が比較的多くみられた事例を、「処方点検や調剤時、病棟への供給時に注意を要する医薬品」として医薬品各商標を挙げる等して、これらの“混同による医療事故等発生の防止”を図るべく、関係者への注意・警告が継続的かつ積極的に行われてきている(甲11)。

さらに、他の刊行物等(甲12、甲14、甲15、甲20、甲23〜甲25)にも医薬品商標類似に因る誤認事例について掲載されている。

上記各事例に鑑みれば、本件の「ILIAS」(本件商標)と「ILARIS」(引用商標)においても、薬剤の誤処方・調剤エラー・誤投与の可能性がある。

引用商標は、日本において既に使用されているが(甲26)、本件商標が登録され、取り違えることによってリスクの高い医薬品について使用されると、誤処方・調剤エラー・誤投与により、医療事故が起きるおそれがある。

なお、前述した“混同による医療事故発生の防止”は、現在に至るまで、厚生労働省、医師、薬剤師、医薬品業者等の関係者において積極的に取り組まれている課題である(甲12〜甲14、甲19、甲22)。

このための具体的な解決手段の1つとして、東京医科歯科大学(附属病院)の・・・氏によって「類似名称検索システム」が開発され、係るシステムを利用することにより、医薬品承認申請前に類似名称の発生を防止するための事前調査ができるようになっている(甲12、甲14、甲18、甲21、甲23)。また、このシステムは、事実上、上記承認の基準としても大きな役割を果たしている。

このシステムは、上述したような「医療事故報道例、誤処方・調剤エラー・誤投与の報告例」に基づいて開発・作成されたもので、このシステムの設立趣旨及び検索結果は、特許庁においても、(甲4の異議決定の中で一部示されたのと同じように、)「薬剤」及び関連商品・役務に関する商標の登録性について十分勘酌されるのが適当と考える。

すなわち、医薬品商標の誤認は医薬品の誤処方・投与等を引き起こし、人体・生命を脅かすものであるから、特許庁の商標登録における商標の混同・類似の判断にも、誤用例等の上記経験則が十分に生かされるべきである。

(6)過去の審決例においても、2つの商標(の称呼)が各々類似と判断されている(甲5〜甲10)。

このように対比する商標において2音が相違しても、相違音が近似していれば類似すると判断されるべきである。

2 むすび

本件商標と引用商標は、称呼・外観において類似し、及び、これらの指定商品・指定役務が抵触するから、本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当する。

第4 当審の判断

1 商標法第4条第1項第11号該当性について

(1)本件商標について

本件商標は、前記第1のとおり、「ILIAS」の欧文字を横書きしてなるところ、当該文字は、「古代ギリシャの長編英雄叙事詩」を意味する語(「デジタル大辞泉」(小学館)https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E3%82%A4%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%82%B9/#jn-15418)であるとしても、我が国においてなじみの無い語であって、特定の意味合いを直ちに想起させるものではないから、その構成文字に相応して、「イリアス」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。

してみれば、本件商標は、「イリアス」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。

(2)引用商標について

引用商標1及び引用商標2は、書体は異なるものの、いずれも、「ILARIS」の欧文字よりなるところ、当該文字は、辞書等に載録のないものであって、特定の意味合いを想起させることのない一種の造語として認識されるものである。

そして、欧文字からなる造語の場合は、我が国で一般に普及したローマ字又は英語の読みに倣って称呼されるのが自然であるから、引用商標からは、当該文字に相応して「イラリス」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。

してみれば、引用商標は、いずれも「イラリス」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。

(3)本件商標と引用商標の類否について

本件商標と引用商標とを比較すると、両者は、語頭の「IL」及び語尾の「S」の文字を共通にするものの、本件商標においては3文字目及び4文字目の「IA」、引用商標においては3文字目ないし5文字目の「ARI」の文字とで異なるものであって、両者は構成文字数が相違する上、本件商標においては5文字中2文字、引用商標においては6文字中3文字が相違するものであり、これらの差異が、比較的少ない5文字又は6文字から構成される両商標の外観全体に及ぼす影響は決して小さいものとはいえず、需要者がたやすく見間違えるものとはいい難いものである。

してみると、本件商標と引用商標は、いずれも外観上、十分に区別し得るものというのが相当である。

また、称呼においては、本件商標から生じる「イリアス」の称呼と引用商標から生じる「イラリス」の称呼とは、全体で4音という短い称呼にあって、そのうち第2音及び第3音の「リア」と「ラリ」という差異を有しており、両商標をそれぞれ一連に称呼するときは、全体の語感、語調が相違し、称呼上、明確に聴別できるものである。

そして、観念においては、両者は、いずれも特定の観念を生じないものであるから、観念上、比較することができない。

したがって、本件商標と引用商標とは、観念において比較できないとしても、外観及び称呼において明らかに区別し得るものであるから、これらを総合的に勘案すれば、取引者、需要者に与える印象、記憶が異なり、両商標を同一又は類似の商品に使用した場合においても、商品の出所について混同を生ずるおそれのない非類似の商標というのが相当である。

その他、本件商標と引用商標が類似するというべき事情は見いだせない。

(4)小括

本件商標と引用商標とは、上記(3)のとおり、非類似の商標であるから、申立商品及び申立役務と引用商標の指定商品の類否について判断するまでもなく、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。

2 申立人の主張について

申立人は、引用商標の指定商品と抵触する本件商標の申立商品及び申立役務は、人体及び生命に関わる、安全性が重視されるべき薬剤及び関連の商品及び役務であって、本件商標は引用商標と紛らわしい商標であるから、本件商標の使用・登録は、避けられるべきである旨、及び、混同による医療事故発生の防止の課題は、現在に至るまで、厚生労働省、医師、薬剤師、医薬品業者等の関係者において積極的に取り組まれており、このための具体的な解決手段の1つとして開発された「類似名称検索システム」の利用により、医薬品承認申請前に類似名称の発生を防止するための事前調査ができることに触れ、当該システムは、「医療事故報道例、誤処方・調剤エラー・誤投与の報告例」に基づいて開発・作成されたものであるから、当該システムの設立趣旨及び検索結果は、特許庁においても、「薬剤」及び関連商品・役務に関する商標の登録性について十分勘酌するのが適当である旨主張している。

しかしながら、「商標の類否判断は、諸種の社会的要請をも考慮しなければならないとしても、混同しやすい名前の医薬品から生じるであろう危険を回避し、国民の生命、健康を保護するのは、医薬品の製造承認の権限を有する厚生省の所管に属することであるから、いかなる医薬品に類似した名前を使用した場合に、混同を生じて国民の生命、健康に影響を及ぼすかは、厚生省に判断を委ねるべきであり、商品の出所について誤認混同を生じるおそれを防止すべき商標の登録の当否の判断に、かかる事項までをも考慮し、一般の商標の類否判断とは異なる基準に基づき判断すべきではない(東京高等裁判所 平成2年9月10日判決 平成2年(行ケ)第72号参照)」ことからすれば、本件商標は引用商標と非類似の商標であること、上記1(3)のとおりであるから、請求人の上記主張を採用することはできない。

3 むすび

以上のとおり、本件商標は、その指定商品及び指定役務中、申立商品及び申立役務について、商標法第4条第1項第11号に該当するものでなく、その登録は、同条第1項の規定に違反してされたものではないから、同法第43条の3第4項の規定により、その登録を維持すべきである。

よって、結論のとおり決定する。

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