Trademark Appeal Case
道路名と事務所名の識別力
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
基本情報
| 審判番号 | 不服2019−11255(T2019−11255/J1) |
|---|---|
| 審判種別 | 不服 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理由テキスト
第1 本願商標
本願商標は、「六本木通り特許事務所」の文字を標準文字で表してなり、第35類、第41類、第42類及び第45類に属する願書記載のとおりの役務を指定役務として、平成30年3月14日に登録出願され、その後、指定役務については、原審における同31年2月10日付け手続補正書、当審における令和元年8月27日付け手続補正書及び同2年7月25日付け手続補正書により、最終的に、第45類「スタートアップに対する特許に関する手続の代理」に補正されたものである。
第2 原査定の拒絶の理由の要点
原査定は、本願商標の「六本木通り」の文字は、「東京都千代田区霞が関から渋谷区渋谷までの道路の呼び名」であり、「特許事務所」の文字は、特許等の業務を行う事務所名を表したものと認められるところ、インターネット情報によれば、提供の場所と特許の事務所名を組み合わせた名称を使用している事実があることから、本願商標は、需要者に提供の場所と特許等の事務所名を組み合わせたものと認識させるにすぎないものであり、さらに、上記の構成からなる本願商標が、出願人により使用をされた結果、需要者が出願人の業務に係る役務であることを認識することができる商標に至っているとはいえず、これをその指定役務に使用しても、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができないので、本願商標は、商標法第3条第1項第6号に該当する旨認定判断し、本願を拒絶したものである。
第3 当審においてした審尋
審判長は、請求人に対し、令和2年6月10日付け審尋において、特許事務所がスタートアップに対して役務を提供していることを示す別掲1のとおりの事実と、法律家によって提供される法律事務に関する役務を取り扱う分野において、「○○通(り)」という呼び名の道路に近接する場所に所在する事務所の名称として、「○○通り」の文字と当該役務を提供する事務所の一般的な名称である「□□事務所」の文字とを結合させた「○○通り□□事務所」の文字が採択、使用されていることを示す別掲2のとおりの事実を通知し、さらに、本願商標は、これが使用をされた結果、全国的に周知であるとはいい難く、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができるに至っているものとは認められない旨の見解を示した上で、本願商標をその指定役務について使用した場合、これに接した取引者、需要者は、本願商標を、「六本木通りという呼び名の道路に近接する場所に所在する、弁理士の事務所」程の意味合いとして理解、認識するにとどまり、このような本願商標は、単に、役務の提供場所あるいは役務を提供する者の所在を表すものであるから、本願の指定役務について特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、自他役務の識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであるといわざるを得ない旨の見解を示し、相当の期間を指定して、これに対する回答を求めた。
第4 審尋に対する請求人の回答の要点
上記第3の審尋に対し、請求人は、令和2年7月25日付けの意見書を提出し、要旨、以下のように主張した。
1 別掲2で提示された使用例はすべて「〇〇通り法律事務所」であり、「特許事務所」の名称として「〇〇通り」が使用された例が一例たりとも示されていないから、取引の実情が、実際の事情を離れて、恣意的に抽象化して認定されている。
2 別掲2で提示された使用例は、いずれも特段、本願商標の指定役務の提供に際してなされた使用例であることが示されておらず、本願商標の指定役務における取引実情を示すものとは言えない。
3 別掲1で提示された使用例は、「〇〇通り□□事務所」の文字が、広く採択、使用されている実情存否の判断において、関連がなく、無意味である。
4 別掲2で提示された使用例は、いずれも、個別の法律事務所の名称であり、各法律事務所の出所を示すものである。
5 別掲2で提示された使用例のうち、「骨董通り法律事務所」の例と「青山通り法律事務所」の例につき、「骨董通り」と「青山通り」は互いに接する通りであるから、同一の場所を包含し、同一の意味合いを取引者、需要者に理解させ得るところ、そのように理解する者は、社会通念上存在しない。
6 「○○通り」の文字が、特定の場所ではなく、当該文字を呼び名とする道路全体を指し示すとすれば、そのような広域を表す文字は、そもそも特定の役務の提供の場所を表す語であると取引者、需要者に理解されない。
7 本願商標は、既存の事務所の名称であることから、法令等に基づいて他者が一般に用いる余地のないものである。
第5 当審の判断
1 商標法第3条第1項第6号該当性
(1)本願商標について
本願商標は、上記第1のとおり、「六本木通り特許事務所」の文字を標準文字で表してなるものであり、指定役務は、第45類「スタートアップに対する特許に関する手続の代理」である。
(2)本願の指定役務を取り扱う業界等における取引の実情
ア 別掲1で提示した事実によれば、特許事務所が、広く、スタートアップに対して役務を提供している実情が認められる。
イ 別掲2で提示した事実によれば、「海岸通り法律事務所」、「西堀通り法律事務所」、「国会通り法律事務所」、「骨董通り法律事務所」、「並木通り法律事務所」、「新虎通り法律事務所」、「平成通り法律事務所」、「土佐堀通り法律事務所」、「長良橋通り法律事務所」、「錦華通り法律事務所」、「夷川通り法律事務所」及び「青山通り法律事務所」のように、法律家によって提供される法律事務に関する役務を取り扱う分野において、「○○通(り)」という呼び名の道路に近接する場所に所在する事務所の名称として、「○○通り」の文字と当該役務を提供する事務所の一般的な名称である「□□事務所」の文字とを結合させた「○○通り□□事務所」の文字が、広く採択、使用されている実情が認められる。
(3)請求人による本願商標の使用について
ア 請求人は、本願商標が使用をされた結果、自他役務識別力を獲得するに至っている旨主張するので、この点について以下のとおり検討する。
請求人が提出した証左(甲3)及び請求人の主張の全趣旨によれば、請求人が本願商標を平成29年1月5日より使用していることが認められる。
しかしながら、本願商標の使用期間は未だ3年余りにすぎないし、請求人による広告物及びその実績ないし本願商標に関する請求人以外の者による紹介記事等が把握できる客観的事実が不明であることから、本願商標は、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができるほど広く認識されていたとまではいい得ないものであり、その他、この認定を覆すに足りる証左は提出されていない。
イ そうすると、本願商標は、これが使用をされた結果、全国的に周知であるとはいい難く、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができるに至っているものとは認められない。
(4)判断
ア 本願商標の構成中の「六本木通り」の文字の意味は、「東京都千代田区霞が関から渋谷区渋谷までの道路の呼び名」(デジタル大辞泉(小学館、https://kotobank.jp/word/六本木通り-674215))であり、また、本願商標の構成中の「特許事務所」の文字の意味は、「弁理士の事務所」(広辞苑第七版(2018年1月12日、株式会社岩波書店発行))であるところ、「弁理士」の語の意味は、「特許・実用新案・意匠または商標に関する登録出願等の代理もしくは鑑定などを業とする者。一定の資格と弁理士登録簿への登録を要する。」(広辞苑第七版(同上))である。よって、本願商標は、「六本木通り」の文字と「特許事務所」の文字とが結合してなるものと認識、把握されると認められる。
そして、特許事務所が、広く、「特許に関する手続の代理」についての役務を提供している実情があることは、「特許事務所」の上記字義に照らして明らかであり、また、上記(2)アのとおり、特許事務所が、広く、スタートアップに対して役務を提供している実情もある。そうすると、「特許事務所」の文字は、本願の指定役務を提供する者を意味する一般的な名称といえるものである。
さらに、上記(2)イのとおり、法律家によって提供される法律事務に関する役務を取り扱う分野において、「○○通(り)」という呼び名の道路に近接する場所に所在する事務所の名称として、「○○通り」の文字と当該役務を提供する事務所の一般的な名称である「□□事務所」の文字とを結合させた「○○通り□□事務所」の文字が、広く採択、使用されている実情がある。
また、本願商標は標準文字で表してなるから、その態様上顕著な特徴は認められない。
イ 以上を踏まえると、本願商標をその指定役務について使用した場合、これに接した取引者、需要者は、本願商標を、「六本木通りという呼び名の道路に近接する場所に所在する、弁理士の事務所」程の意味合いとして理解、認識するにとどまり、このような本願商標は、単に、役務の提供場所あるいは役務を提供する者の所在を表すものであるから、本願の指定役務について特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、自他役務の識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであるといわざるを得ない。
したがって、本願商標は、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができない商標であるから、商標法第3条第1項第6号に該当する。
2 請求人の主張について
(1)請求人は、別掲2で提示された使用例がすべて「〇〇通り法律事務所」であり、「特許事務所」の名称として「〇〇通り」が使用された例が一例たりとも示されていないから、取引の実情が、実際の事情を離れて、恣意的に抽象化して認定されている旨主張する。
しかしながら、「法律事務所」は、「弁護士が法律に関する諸事務を取り扱う所」(広辞苑第七版(同上))を意味する語であり、「弁護士」は、「当事者その他の関係人の依頼または官公署の委嘱によって、訴訟に関する行為、その他一般の法律事務を行う者。」(広辞苑第七版(同上))を意味する語であるから、本願の指定役務の取引者、需要者は、弁護士が本願の指定役務を提供できることを認識、把握するといえる。実際、本願の指定役務である「スタートアップに対する特許に関する手続の代理」には、特許に係る訴訟事件や審判事件の代理等が含まれるところ、これらの代理等に係る役務を提供する弁護士が広く存在することは明らかであり、また、これらの弁護士が、スタートアップであることを理由に当該役務を提供しないというわけでもない。
このように、本願の指定役務の取引者、需要者は、弁理士のみならず弁護士からも当該役務の提供を受けることができると認識、把握するから、弁護士の事務所である「法律事務所」の名称の実情をも踏まえた上で、本願商標に接するとみるのが相当である。
(2)請求人は、別掲2で提示された使用例は、いずれも特段、本願商標の指定役務の提供に際してなされた使用例であることが示されておらず、本願商標の指定役務における取引実情を示すものとは言えない旨主張する。
しかしながら、当該各使用例に係る法律事務所が、本願の指定役務を提供することを明示的に標榜していないとしても、当該法律事務所には弁護士が所属している以上、上記(1)で説示したとおり、本願の指定役務の取引者、需要者は、当該法律事務所が本願の指定役務を提供できると認識、把握するといえる。そして、本願の指定役務の取引者、需要者が、法律事務所の名称の実情をも踏まえた上で、本願商標に接することについても、上記(1)で説示したとおりである。
(3)請求人は、別掲1で提示された使用例は、「〇〇通り□□事務所」の文字が、広く採択、使用されている実情存否の判断において、関連がなく、無意味である旨主張する。
しかしながら、上記1(4)アで認定したとおり、本願商標は、「六本木通り」の文字と「特許事務所」の文字とが結合してなるものと認識、把握される。そして、そのうちの「特許事務所」の文字が本願の指定役務の取引者、需要者にどのように認識、把握されるのかについて、別掲1で提示された使用例に基づき認定することに問題はないというべきである。
(4)請求人は、別掲2で提示された使用例は、いずれも、個別の法律事務所の名称であり、各法律事務所の出所を示すものである旨主張する。
しかしながら、当該各使用例がいずれも個別の法律事務所の名称に係るものであるとしても、法律家によって提供される法律事務に関する役務を取り扱う分野において、「○○通り□□事務所」の文字が、「○○通(り)」という呼び名の道路に近接する場所に所在する事務所の名称として広く採択、使用されている実情が認められることを左右するものではない。そして、そうである以上、上記1(4)イで認定判断したとおり、本願商標は、単に、役務の提供場所あるいは役務を提供する者の所在を表すものであるから、本願の指定役務について特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、自他役務の識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものである。
(5)請求人は、別掲2で提示された使用例のうち、「骨董通り法律事務所」の例と「青山通り法律事務所」の例につき、「骨董通り」と「青山通り」は互いに接する通りであるから、同一の場所を包含し、同一の意味合いを取引者、需要者に理解させ得るところ、そのように理解する者は、社会通念上存在しない旨主張する。
しかしながら、本願の指定役務の取引者、需要者は、「骨董通り法律事務所」を「骨董通り」という道路に近接する場所に所在する法律事務所の名称として認識、把握する一方、「青山通り法律事務所」を「青山通り」という道路に近接する場所に所在する法律事務所の名称として認識、把握するだけのことであり、「骨董通り」と「青山通り」が互いに接する通りであるとしても、前記認識、把握を左右するものではない。
(6)請求人は、「○○通り」の文字が、特定の場所ではなく、当該文字を呼び名とする道路全体を指し示すとすれば、そのような広域を表す文字は、そもそも特定の役務の提供の場所を表す語であると取引者、需要者に理解されない旨主張する。
しかしながら、「六本木通り」という道路に近接する場所が広域であるとしても、それが場所を意味する概念であることに変わりない。そして、上記1(2)イのとおりの実情が認められることからすれば、本願の指定役務の取引者、需要者は、「六本木通り」という道路に近接する場所をもって、役務の提供場所あるいは役務を提供する者の所在であると認識、把握するといえる。
(7)請求人は、本願商標が、既存の事務所の名称であることから、法令等に基づいて他者が一般に用いる余地のないものである旨主張する。
しかしながら、弁理士法において、弁理士又は特許業務法人でない者は、特許事務所又はこれに類似する名称を用いてはならないこと、また、日本弁理士会の「事務所名称に関するガイドライン」において、「他の既存の事務所と誤認混同を生じるおそれがある名称」が使用してはならない名称であることが定められているとしても、上記1(3)のとおり、本願商標の「六本木通り特許事務所」の文字が既存の特許事務所の名称であることが、本願商標の取引者、需要者の間に広く認識されているということはできないことからすると、本願商標に接した取引者、需要者が、これを「六本木通りという呼び名の道路に近接する場所に所在する、弁理士の事務所」程の意味合いとして理解、認識しない、ということにはならない。よって、請求人の主張は、上記1(4)でした認定判断を左右するものではない。
(8)請求人は、「六本木通り」の文字と「特許事務所」の文字の組み合わせは、独自の意外性のある造語であり、過去にかかる組み合わせの名称が用いられた例は一例も存在しない旨主張する。
しかしながら、過去に「六本木通り」の文字と「特許事務所」の文字の組み合わせの名称が用いられた例が存在しないとしても、上記1(2)イのとおりの実情が認められることからすれば、本願商標が独自の意外性のある造語ということはできないし、いずれにせよ、請求人の主張は、上記1(4)の認定判断を左右するものではない。
(9)請求人は、「外苑西通りビル」や「天神西通りスクエア」のような過去の登録例が存在する旨主張するが、これらの登録例は、本願商標とは、構成文字や構成態様が異なるものであって、かつ、具体的事案の判断においては、過去の登録例等に拘束されることなく、当該商標登録出願の査定時又は審決時において、当該商標の構成態様と取引の実情に応じて個別的に判断されるべきであるから、これらの事例の存在によって、上記1の認定判断が左右されるものではない。
(10)請求人は、本願商標の指定役務の需要者との関係において、通りの名称に特許事務所の一般的な名称を組み合わせた名称が識別力を欠く具体的根拠が見当たらない旨主張するが、上記1で認定判断したとおりである。
3 まとめ
以上のとおり、本願商標は、商標法第3条第1項第6号に該当するものであるから、これを登録することはできない。
よって、結論のとおり審決する。
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