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Trademark Appeal Case

歴史上の人物名と商標法4条7号

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号不服2020−7905(T2020−7905/J1)
審判種別不服
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

本件審判の請求は、成り立たない。

理由テキスト

第1 本願商標

本願商標は、「ゴッホ」の文字を標準文字で表してなり、第16類「紙類,文房具類」を指定商品として、平成30年9月4日に登録出願されたものである。

第2 原査定の拒絶の理由の要点

原査定は、「本願商標は、『ゴッホ』の文字を表してなるところ、これは世界的に著名なオランダの画家である『Vincent van Gogh』(1853〜1890)の著名な略称であり、死後、ゴッホ美術館(オランダ)が設立され、また、我が国も含め、世界中でゴッホの絵画を展示するゴッホ展等が開催されている実情があることから、故ゴッホは、少なくとも我が国及びオランダにおいて、広く親しまれ敬愛されている人物ということができる。してみれば、故ゴッホの子孫あるいは、同人を顕彰する団体等と何ら関係のない出願人が、本願商標をその指定商品について登録することは、故ゴッホの著名な略称をもって、その名声に便乗し、指定商品についての使用の独占をもたらすことになり、故ゴッホの名声、名誉を傷つけるおそれがあるばかりでなく、公正な取引秩序を乱し、ひいては国際信義に反するものとして、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

第3 当審における手続の経緯

当審において、請求人に対し、令和2年12月21日付けで、別掲1の事実を示した上で、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものである旨の審尋を発し、期間を指定して、これに対する意見を求めた。

第4 審尋に対する請求人の回答

請求人は、前記第3の審尋に対し、令和3年1月27日付け回答書を提出し、要旨以下のように主張した。

請求人は、約130年の歴史ある企業であって、「ゴッホ」の商標を60年以上もの長きにわたって誠実に使用し、取引業者との間での混乱なく長年良好な商取引を継続している事実がある。

このことは、請求人が、歴史上の名称を使用した公益的な施策等に便乗したことがなく、公益的な施策等の遂行を阻害したこともないことを裏付けるものであるから、公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら、利益の独占を図る意図で商標出願を行ったものではないことは明らかである。

よって、本願は、歴史上の周知・著名な人物名について、特許庁が公表している審査基準・審査便覧における「歴史上の名称を使用した公益的な施策等に便乗し、その遂行を阻害し、公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら、利益の独占を図る意図をもってした商標登録出願」に該当しないものである。

また、これより、本願商標の使用が、商標法第4条第1項第7号に該当する場合の類型である(知的財産高等裁判所 平成17年(行ケ)第10349号判決)、社会公共の利益に反するものではなく、社会の一般的な道徳観念に反するものではないこと、及び、特定の国若しくはその国民を侮辱し、一般に国際信義に反するといった現実的な事実はこれまでに存在せず、それらのおそれもないことは明確である。

よって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものではない。

第5 当審の判断

1 商標法第4条第1項第7号と歴史上の人物名について

商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、(1)その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、(2)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、(3)他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、(4)特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、(5)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるというべきであると判示されている(知的財産高等裁判所 平成17年(行ケ)第10349号判決)。

ところで、周知・著名な歴史上の人物名は、その人物の名声により強い顧客吸引力を有する。その人物の郷土やゆかりの地においては、人々に郷土の偉人として敬愛の情をもって親しまれ、例えば、国等の公益的な機関が、その業績を称え記念館を運営していたり、観光振興のために人物名を商標として使用したりするような実情が多くみられるところであり、当該人物が商品又は役務と密接な関係にある場合はもちろん、商品又は役務との関係が希薄な場合であっても、当該地域においては強い顧客吸引力を発揮すると考えられる。このため、周知・著名な歴史上の人物名を商標として使用したいとする者も、少なくないものと考えられる。他方、周知・著名な歴史上の人物であるが故に敬愛の情をもって親しまれているからこそ、特定個人による商標登録に対しては、国民又は地域住民全体の反発も否定できないところである。

そして、前記判決では、商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するものとして、前記(1)ないし(5)の場合を例示として挙げており、その例示の一つとして、「(2)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合」及び「(4)特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合」が挙げられている。

そうすると、周知・著名な歴史上の人物名からなる商標は、「当該歴史上の人物の周知・著名性」、「当該歴史上の人物名に対する国民又は地域住民の認識」、「当該歴史上の人物名の利用状況」、「当該歴史上の人物名の利用状況と指定商品との関係」、「出願の経緯・目的・理由」及び「当該歴史上の人物と請求人(出願人)との関係」に係る事情を総合的に勘案して、当該商標を特定の者の商標としてその登録を認めることが、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するものと認められる場合や、一般に国際信義に反する場合には、商標法第4条第1項第7号に該当するというべきである。

2 商標法第4条第1項第7号該当性について

(1)「ゴッホ」について、職権による調査によれば、別掲1の事実があり、当該事実及び請求人の主張からは、次のことが認められる。

ア 「ゴッホ」の周知・著名性

「Vincent van Gogh(ビンセント・バン・ゴッホ)」は、印象派と日本の浮世絵の影響を受け、主にフランスで活動した、後期印象派を代表するオランダの画家として、世界的に著名な存在であり、令和2年に国立西洋美術館で開催された展覧会において、フェルメールやモネ等の作品もある中、作「ひまわり」が当該展覧会ポスターに採用され(別掲1の3(1))、平成23年に没後120年を記念した展覧会が九州国立博物館で開催されるなど(別掲1の3(6))、現在においても、我が国の国民(一般需要者)の間に、広く認識されている存在であることは明らかである。

そして、「Vincent van Gogh(ビンセント・バン・ゴッホ)」が、広辞苑第七版を始め、複数の辞書類において「ゴッホ」の見出し語で表示され(別掲1の1)、また、数多くの展覧会や関連する商品等において、いずれも「ゴッホ」と表示されていることからすれば(別掲1の3及び4)、「ゴッホ」の語は、同人の略称として、現在に至るまで、著名であると認めることができる。

イ 「ゴッホ」に対する人々の認識

「ゴッホ」に関しては、母国であるオランダにおいて、「全作品を国に永久に貸与するかわりに、国はゴッホのための独自の美術館を建設するという、ゴッホ財団とオランダ政府の取り決めに基づいて建てられたのがゴッホ美術館である。」(別掲1の2(2))のように、国を挙げて、「ゴッホ」の描いた絵画(以下「ゴッホ作品」という。)を保管・陳列する美術館が存在し、また、制作活動の拠点となった、オランダ国、ベルギー国、フランス国において、およそ25の組織や美術館(前記ゴッホ美術館を含む。)が、「ゴッホ・ヨーロッパ」という名の下で団結して積極的に「ゴッホ」の遺産を維持し、促進することに携わっており(別掲1の2(1))、これらの地では、ゴッホ作品を所蔵する美術館が存在し、「ゴッホ」が画題とした建造物及びその碑、「ゴッホ」の銅像等が観光振興に活用され、ゴッホ作品やゆかりの建造物等を見るために世界中から多くの人々が訪れている。また、我が国においても、例えば、作「ひまわり」を所有する美術館では、毎年約17万人が国内外から訪れ、平成29年に東京都美術館で開催された「ゴッホ展 巡りゆく日本の夢」の総入場者数が約37万人であったことなど、ゴッホ作品を鑑賞するために多くの人が、ゴッホ作品を所蔵する美術館やゴッホ作品に焦点をあてた展覧会を訪れており、さらに、「ゴッホ」の銅像等も建てられており、「ゴッホ」の画風が日本の浮世絵の影響を受けたこともあいまって、「ゴッホ」は、我が国の国民にも広く敬愛されているものといえる(別掲1の2)。

ウ 「ゴッホ」の名称の利用状況、及び当該利用状況と指定商品との関係

「ゴッホ」については、我が国において、ゴッホ作品を所蔵する美術館やゴッホ作品に焦点をあてた展覧会等のテーマに、例えば「ゴッホ、最愛の≪ひまわり≫」「ゴッホ展 ハーグ、そしてパリ。ゴッホへの道−」等、その名称が利用されている。また、「『ゴッホ展』コラボグッズ」等、各種商品等にも「ゴッホ」の名称が極めて広く利用されており、本願の指定商品である「文房具類」においても、ノート、ポストカード、筆記具等について、実際に利用されているものである(別掲1の3及び4)。

エ 出願の経緯・目的・理由、及び「ゴッホ」と請求人(出願人)との関係

請求人は、別掲2のとおりの構成からなる登録第538795号商標を有しており、昭和34(1959)年7月6日に設定登録されてから約60年間トラブルはなく、長きにわたって築き上げた信頼があるから、社会公共の利益に反するような行為を行うことはありえないと主張し、令和2年6月11日付け手続補足書に添付の甲第1号証及び甲第2号証を提出しているところ、これらの証拠によれば、請求人は、昭和33年より「ゴッホ画用紙」という商品の販売を開始したこと(甲第1号証)、及び2003年4月から2020年3月まで継続して、当該商品がA社に販売されたこと(甲第2号証)がうかがえるものの、「ゴッホ」と請求人とを関連づけるような事実は発見できない。

(2)判断

前記(1)のとおり、「Vincent van Gogh(ビンセント・バン・ゴッホ)」は、印象派と日本の浮世絵の影響を受け、主にフランスで活動した、後期印象派を代表するオランダの画家として、世界的に著名な存在であり、現在においても、我が国の国民(一般需要者)の間に、広く認識されている存在であることは明らかである。そして、前記のとおり、「ゴッホ」の語は、同人の略称として、現在に至るまで、著名であると認められ、ゴッホ作品は、我が国の国民はもとより世界中の人々から広く敬愛されており、また、観光振興に活用されていることからすると、オランダ国、フランス国、ベルギー国の誇る重要な文化的遺産というべきである。さらに、我が国においてもゴッホ作品を所蔵する美術館が存在し、日本各地において、ゴッホ作品に焦点をあてた展覧会等が開催されるとともに、国内外から多数の人々が訪れており、「ゴッホ」の名称は、当該美術館及び展覧会に関連した各種の商品及びイベント等にその名称が活用されるなど、極めて広く利用されていることが認められるものである。

そうすると、「ゴッホ」の語は、オランダ国、フランス国、ベルギー国、我が国等において、一個人という私的な立場を超えて、公共的な財産的価値を有するに至っているというのが相当である。

以上によれば、「ゴッホ」の文字よりなる本願商標は画家である「Vincent van Gogh(ビンセント・バン・ゴッホ)」を想起させるものと認められるものであるところ、同人は、印象派と日本の浮世絵の影響を受け、主にフランスで活動した、後期印象派を代表するオランダの画家として、世界的に著名な存在であり、現在に至るまで「ゴッホ」の語は同人の著名な略称であることから、本願商標を一私人が自己の商標として登録し、独占的に使用することは、前記のようなゴッホ作品を活用した観光振興等の公益的遂行を阻害するおそれがあり、さらに、ゴッホ作品に関するイベントを行う多数の事業者に対して無用の混乱を招くおそれがあるものというのが相当である。

してみれば、本願商標を特定の者の商標としてその登録を認めることは、社会公共の利益に反するものというべきである。

また、商標権は、専用権であるとともに、第三者に対する禁止権でもあることからすれば、前記のように、公共的な財産的価値を有するに至っているというべき「ゴッホ」の文字からなる本願商標を、商標として採択し、これを、特定の者に、商標権として商標登録を認めることは、オランダ国、フランス国、ベルギー国、我が国の団体(公益的な団体を含む)等が行っている活動に伴う各種商品への「ゴッホ」の語の使用を制限することとなる。

加えて、ゴッホ作品は、オランダ国、フランス国、ベルギー国の誇る重要な文化的遺産というべきものであり、我が国においても、広く親しまれ、我が国とオランダ国、フランス国、ベルギー国の友好関係に重要な役割を担ってきたというべきものであるから、本願商標の登録を認めることは、我が国とオランダ国、フランス国又はベルギー国の国際信義に反し、これらの公益を損なうおそれがあるというべきである。

そして、たとえ、請求人が登録第538795号商標を有しており、遅くとも2003年から2020年まで継続して、少なくとも1社に、「ゴッホ画用紙」という商品を販売していることはうかがえるとしても、前記のとおり、本願商標の登録を認めることは、公益を損なうおそれがあるというべきであるから、これらの事情によってその判断が左右されるものではない。

以上からすると、本願商標をその指定商品について登録することは、世界的に著名な「Vincent van Gogh(ビンセント・バン・ゴッホ)」の著名な略称をもって、その名声に便乗し、指定商品についての使用の独占をもたらすことになり、故人の名声、名誉を傷つけるおそれがあるばかりでなく、公正な取引秩序を乱すおそれがあることから、社会公共の利益に反し、ひいては国際信義に反するものとして、公の秩序又は善良の風俗を害するものといわざるを得ない。

したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。

3 請求人の主張について

請求人は、本願は、別掲2のとおりの構成からなる本願商標と類似する商標(登録第538795号商標)を、60年以上誠実に使用し、取引業者との間での混乱なく長年良好な商取引を継続している事実があるから、歴史上の名称を使用した公益的な施策等に便乗し、その遂行を阻害し、公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら、利益の独占を図る意図をもってした商標登録出願には該当しない旨主張している。

しかしながら、本願商標と類似する商標が、現実に商取引の混乱や海外からの反発が無いとしても、本願商標にそのおそれがあること前記2のとおりである。

したがって、請求人の主張は、採用することができない。

第6 むすび

以上のとおり、本願商標は商標法第4条第1項第7号に該当するものであるから、これを登録することはできない。

よって、結論のとおり審決する。

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