結論テキスト
本件審判の請求は、成り立たない。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 2023013552 |
|---|---|
| 審判種別 | 記載はありません。 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理 由
本願は、2017年(平成29年)4月11日(パリ条約による優先権主張 2016年4月13日 米国(US)、2016年9月16日 米国(US))を国際出願日とする外国語特許出願である特願2018-553355号の一部を令和3年12月13日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和4年12月 9日付け :拒絶理由通知書
令和5年 3月 8日 :意見書及び手続補正書の提出
同年 4月 3日付け :拒絶査定(以下、「原査定」という。)
同年 8月10日 :審判請求書及び手続補正書の提出
[補正の却下の決定の結論]
令和5年8月10日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)本件補正後の請求項1の記載
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、次のとおり補正するものである。
「 【請求項1】
細胞培養器具であって、
細胞培養表面を有する高分子基板、および
前記高分子基板の細胞培養表面上に配置された、0.01~5μm厚の範囲の溶ける炭水化物コーティング、
を備え、
被覆された前記細胞培養表面に水性細胞培養培地を加えた際に、前記溶ける炭水化物コーティングが該水性細胞培養培地中に溶け、
前記溶ける炭水化物コーティングを有する高分子基板が、該溶ける炭水化物コーティングの不在下での前記高分子基板の接触角より小さい接触角を有し、
前記高分子基板が、親水性特徴を有し細胞に対して非接着性の
単分子層または0.01~100μm厚の
コーティングを備える、器具。」(下線は補正箇所を示す。)
(2)本件補正前の請求項1の記載
本件補正前の請求項1の記載は次のとおりである。
「 【請求項1】
細胞培養器具であって、
細胞培養表面を有する高分子基板、および
前記高分子基板の細胞培養表面上に配置された、0.01~5μm厚の範囲の溶ける炭水化物コーティング、
を備え、
被覆された前記細胞培養表面に水性細胞培養培地を加えた際に、前記溶ける炭水化物コーティングが該水性細胞培養培地中に溶け、
前記溶ける炭水化物コーティングを有する高分子基板が、該溶ける炭水化物コーティングの不在下での前記高分子基板の接触角より小さい接触角を有し、
前記高分子基板が、親水性特徴を有し細胞に対して非接着性のコーティングを備える、器具。」
(1)補正の目的について
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「非接着性のコーティング」について、その厚さを「単分子層または0.01~100μm厚の」と限定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(2)独立特許要件について
ア 本件補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
イ 引用文献の記載事項等
(ア)引用文献1
a 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された特表2015-521293号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある(下線は当審で付した。以下同様。)。
「【0004】
単細胞解像度での細胞培養およびアッセイのための有用なプラットフォームであるマイクロウェルアレイ
は、気体閉じ込めフィーチャーを有する微細加工デバイスの例である。
2、11
マイクロウェルアレイは、多くの場合、それらの本来の形態が疎水性またはわずかだけ親水性のいずれかである
PDMSなどのポリマーから作製されているので、アレイが水溶液で覆われるときはいつでもマイクロウェル内の気泡の閉じ込めに遭遇する。
この問題を解決するために、表面を親水性にするためのプラズマ処理が一般に使用される。しかしながら、一般的なポリマーの多くにおいて、この親水化は一時的であり、疎水性の部分的または完全な回復のいずれかが通常観察される。
14、15
表面酸化に加えて、真空の適用、加圧、遠心分離、振動および超音波処理を含むいくつかの方法が、現在、キャビティ内に閉じ込められた気泡を除去するために使用されている。
10、16-18
あるいは、水(γ=72.9mN・m
-1
)または水性緩衝液との交換に先立って、低表面張力液体(例えば、エタノール、γ=22.4mN・m
-1
)を使用して最初に表面を湿潤することができる。
19、20
マイクロウェルアレイに加えて、マイクロ流体チャネルの隅および行き止まりには、表面の湿潤および気泡形成に関連する同様の問題がある。メニスカスピン留め効果を用いた液体-空気界面の段階的前進に基づく、フェーズガイドと呼ばれる新しいマイクロ流体設計は、隅および深い角度の構造など複雑なマイクロ流体の形状において気泡を閉じ込める可能性を効果的に排除することができる。
6
しかしながら、この方法は、前進する流体の方向に沿って壁に材料のストリップを作成することに依存するため、マイクロキャビティ、マイクロウェルまたは行き止まりに閉じ込められた空気を除去することは困難である。」
「【0023】
本発明のデバイスは、シリカ系基板、例えば、ガラス、石英、シリコンまたはポリシリコン、および他の基板材料、例えばガリウムヒ素などを含む任意の適切な基板材料から形成することができるが、これらに限定されない。他の適切な材料として、ポリマー材料、例えば、プラスチック、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン(例えばテフロン(登録商標))、ポリ塩化ビニル(PVC)、
ポリジメチルシロキサン(PDMS)
、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリイミド、環状オレフィンコポリマー、ポリメチルペンテン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンコポリマー(ABS)など、および重合されたフォトレジスト、例えば、SU-8、1002Fなどが挙げられるが、これらに限定されない(例えば、米国特許第6,103,446号参照)。」
「【0030】
犠牲残留物は、任意の適切な技術によって適用することができる。一実施形態において、犠牲残留物は、溶媒および溶質を含む選択された溶液をプライミングされる気体閉じ込めフィーチャーと接触させ、その上で溶液を乾燥させ、それによって
気体閉じ込めフィーチャーと接触して溶質を堆積させる水性または非水性溶媒に溶解される適切な溶質である
。別の実施形態において、犠牲残留物の材料は、適切な水性または非水性溶媒中に溶解するのではなく分散させることができる。さらに別の実施形態において、犠牲層は、微粒子ダストとしておよび/または適切な温度で固体を溶融することによって気体閉じ込めフィーチャーと接触させることができる固体材料から構成される。」
「【0033】
使用時に、プライミングされた微細加工デバイスは、典型的には、その使用目的に応じて、水性または非水性すすぎ溶液を用いて、好ましくは該気体閉じ込めフィーチャーを該すすぎ溶液で湿潤させながら、該気体閉じ込めフィーチャーから犠牲残留物を溶解除去するのに十分な時間、量および温度ですすがれる。次いで、デバイスは、第2の水性または非水性溶液(例えば、増殖培地、アッセイまたは試薬媒体、反応媒体等)ですすいで、先のすすぎ溶液をそこから除去し、その使用目的のためのデバイスを準備してもよい。」
「【0037】
急速および完全に疎水性を回復することが知られているポリマーであるPDMS
15
をマイクロウェルおよびマイクロ流体チャネルの構造化表面を作成するための材料として選択した。
マイクロウェルアレイ
およびマイクロ流体チャネル
は、従来のソフトリソグラフィーによりSU-8マスター上にPDMSをマイクロ成型することによって製作した。
21
SU-8マスターは、55μm厚のSU-8層をスピンコートしたガラススライド上で標準のフォトリソグラフィーによって製作した。
22
マスターモールドは、蒸気相シラン化プロセスにおいてポリカーボネートデシケーター(Fisher Scientific)中でオクチルトリクロロシラン50μLで処理した:デシケーターは、オイルフリーポンプにより2分間脱気した後、16時間閉じ、PDMSプレポリマー(Sylgard184キットのベース:硬化剤の10:1混合物)をマスターモールド上に広げ、ポリマーから気泡を除去するために真空下で脱気した。PDMSを硬化させるために、マスターをホットプレート上で100°Cで30分間焼いた。次いで、マイクロウェルアレイまたはマイクロチャネルを形成するPDMSをマスターからそれを剥離することによって得た。マイクロウェルアレイについては、
マイクロウェルの深さは55μmであり、直径は10μmから3mmの範囲であった。
マイクロ流体チャネルについては、溶液リザーバーとして機能するように、PDMS上のパターンの端部で直径2mmの穴をまず打ち抜いた。PDMSおよびガラススライドは、密閉したマイクロ流体チャネルを形成するためにそれらを密封する前に空気プラズマクリーナー(Harrick Plasma、Ithaca、NY)で2分間処理した。」
「【0045】
グルコースを用いた親水性のマイクロウェルのプライミングにより、溶解に誘導される湿潤を介してマイクロキャビティ内に気泡が閉じ込められるのを防止することができ
、このことによって標準的な生物学の実験室用のマイクロウェルアレイを使用する際の大きな不快感を排除する。一般的に、エンドユーザーは、生物学的応用の直前に前処理を必要とせずにすぐに使用できる状態のデバイスであることを好む。マイクロウェルアレイの場合、プラズマ酸化、高真空曝露、またはエタノールなどの有毒で低粘度の液体を用いた前処理を必要とせずに完全に湿潤することができる表面は、それらの使用および受け入れを容易にする。犠牲残留物の一例としてグルコースを用いた気体閉じ込めフィーチャーのプライミングは、完全に湿潤したままで長期間保存できる微細加工デバイスを提供するという目標を達成する。PDMSマイクロウェルは、まず、親水性表面を生成するために空気プラズマで酸化した。表面にウェンゼル状態の湿潤を形成するマイクロウェルに水溶性材料の溶液を添加した。過剰の液体は吸引により除去した。乾燥時に、固体材料のコンフォーマルコーティングがマイクロウェル内に生成された。
水(または適切な水溶液)は、グルコースの犠牲残留物をマイクロウェル内で溶解し、したがってマイクロキャビティ内の気泡を防止または排除することによって、プライミングされたマイクロウェルを後になって完全に湿潤する可能性がある。
多くの水溶性材料が利用可能であるが、好ましい実施形態は、水中での溶解速度が速い非毒性、生体適合性材料を使用する。生物学で用いられる一般的な塩溶液であるリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を使用することもできるが、ウェルの壁上のコンフォーマルコーティングの代わりに場違いに突出が現れることがあるので、ウェルに形成される大きな塩の結晶の形成を回避するために注意が必要である。D-グルコースおよびD-ソルビトールなどの固体糖ポリオールは、水に急速に溶解し生体適合性であるため犠牲残留物のために好ましい材料である。一実施形態において、
PDMSマイクロウェルアレイを水性グルコース溶液(37%体積濃度)で湿潤し、次いでウェルを超える過剰の体積を除去した。溶媒を蒸発させた後、固体グルコースのコンフォーマルコーティングがマイクロウェルの壁および床を覆った
(図2)。濃度30%のグルコースでプライミングされたマイクロウェルについては、グルコース層はマイクロウェルの壁および床の一部分のみを覆ったように見えた(図2)。より低いグルコース濃度(22%)では、マイクロウェル表面の被覆はより少なかった。側壁のグルコース層の角度もまた、より低いグルコース濃度においてより急勾配であった。この観察は、乾燥したグルコース層の輪郭の形状が楕円とみなされるものと仮定して理論計算と一致している。マイクロウェル内の乾燥グルコースの相対的な被覆は、マイクロキャビティの寸法(直径および高さ)ではなく、グルコースcの濃度のみに依存する。したがって、マイクロキャビティをプライミングするために犠牲残留物としてグルコースを用いる場合、好ましい実施形態は、幅広いサイズ(10μm~3mm)および深さのマイクロキャビティを有する構造化表面のために、c>33%であるグルコース溶液を使用することである。」
「【0065】
水(または水性緩衝液、媒体)がアレイに添加されたときに気泡が現れる。気泡の閉じ込めはPDMSの疎水性表面によって引き起こされる
(図11-A-ii)。アレイは、プラズマで処理してPDMS表面を一時的に親水性に変えることができるが、PDMS表面はすぐに数日でその本来の疎水性を回復することができる。例えば、プラズマ処理の2週間後、水が添加されたとき、気泡がアレイ上に現れる(図11-A-iii)。気泡は、細胞がウェルに沈降し、ラフトに付着することを妨げるため、除去される必要がある。」
「【0067】
グルコースは無毒性であり、細胞のエネルギー源として機能する。グルコースは、細胞培養培地の主要成分の1つであり、例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)は4.5グラム/リットルのグルコース濃度を有する。グルコースは、生体細胞に関わる用途に使用される微細加工デバイスにおいて湿潤を誘導するためのおそらく最も安全な犠牲残留物の1つである。
減衰全反射(ATR)FTIR分光法によって確認されるように、グルコースは水ですすいだ後にPDMS表面にとどまらない。細胞培養においてグルコース犠牲残留物の悪影響がないことを実証するために、上記のようなグルコース犠牲残留物を用いて調製されたマイクロラフトアレイをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3回すすいだ後、ヒト非小細胞肺癌細胞株H1299細胞でプレートした。細胞の増殖および形態は正常であり、マイクロラフトアレイ上でグルコース犠牲残留物なしで培養された細胞のものと同一であった。この結果は、グルコース残留物が培養細胞の成長および健康に悪影響を及ぼさないことを示した。」
b 引用文献1に記載の発明
上記aで摘記した記載から、引用文献1には、次の発明が記載されていると認められる。
「単細胞解像度での細胞培養のための有用なプラットフォームであるPDMSマイクロウェルアレイであって、(【0004】、【0045】)
PDMSマイクロウェルアレイを水性グルコース溶液で湿潤し、次いでウェルを超える過剰の体積を除去し、溶媒を蒸発させた後、固体グルコースのコンフォーマルコーティングがマイクロウェルの壁および床を覆ったものである(【0045】)
PDMSマイクロウェルアレイ。(【0045】)」(以下、「引用発明」という。)
(イ)引用文献2
原査定の拒絶の理由で引用された国際公開第2014/179196号(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。
「[0030] The formation of uniformly-sized spheroids of, for example, tumor cells, can be facilitated if the cells are cultured in a round-bottom vessel that has low-adhesion properties.
Researchers from the Institute of Cancer Research in Sutton, UK, used Corning, Inc.'s, ultra- low-adhesion (ULA)-coated 96-well clear, round-bottom, polystyrene microplates to produce tumor spheroids that enabled target validation and drug evaluation
(see Vinci et al., BMC Biology, 2012, 10:29)
.
The spheroids enhanced the biological relevance of the tumor cell cultures and facilitated a range of functional assays. The round-bottom well shape along with gravity and the ultra-low attachment coat or coating, encouraged the cells to come together and self-assemble into the spheroid shape rather than to form a monolayer of cells.」
(下線部当審訳:英国サットンにある癌研究所(Institute of Cancer Research)の研究者らは、コーニング社の超低付着性(ULA)コートが施された96ウェル透明丸底ポリスチレンマイクロプレートを使って腫瘍スフェロイドを作製し、標的の検証や薬剤評価を可能にした。)
「[0079] Non-adhesive coating The interior well-bottom surface, walls, or both can optionally be made non-adhesive to cells by coating those surfaces with a polymer that does not have any characteristics that promote cell attachment, such as a perfluorinated polymer, olefin, or like polymers, and mixtures thereof. Alternatively,
following assembly of the opaque multiwell plate with clear, round or cupped well-bottoms, the interior well-bottom may be coated with a non-binding material such as an ultra-low attachment material, agarose, nonionic hydrogel, or like materials, that can inhibit cell attachment.
Coatings can also be applied to the clear well bottom portion of the multiwell plate prior to joining with the opaque portion. The combination of, for example, a low-attachment substrate, the well curvature in the body and the base portions, and gravity, can induce cells to self-assemble into spheroids, which cell clusters are known to maintain differentiated cell function indicative of a more in-vivo like response (see Messner, et al., Archives of Toxicology, Nov. 1 1, 2012). Perfluorinated polymers or polymers such as poly 4-methylpentene also provide gas permeability at thicknesses normally used in molding processes, which gas permeability can be beneficial for metabolically active cell types. Representative thickness and ranges of gas permeable polymer can be, for example, from about 0.001 inch to about 0.025 inch, from 0.0015 inch to about 0.03 inch, including intermediate values and ranges (where 1 inch = 25,400 microns; 0.000039 inches = 1 micron). Additionally or alternatively, other materials having high gas permeabilities, such as polydimethylsiloxane polymers, can provide sufficient gas diffusion at a thickness, for example, of up to about 1 inch.」
(下線部当審訳:透明、円形またはカップ状のウェル底を持つ不透明マルチウェルプレートを組み立てた後、内部のウェル底を超低付着性材料、アガロース、非イオン性ヒドロゲルなど、細胞付着を阻害しうる非結合性材料でコーティングしてもよい。)
(ウ)技術常識
a 引用文献3
原査定の拒絶の理由で引用された米国特許出願公開第2014/0017721号明細書(以下「引用文献3」という。)には、次の記載がある。
「[0037] “Ultra-low attachment” refers to culture conditions on a surface that minimizes cell attachment of cultured cells.
One example of an ultra-low attachment surface is a culture vessel wherein the culture surface is coated with a covalently bound hydrogel layer that is hydrophilic and neutrally charged, such as CORNING
TM
brand ultra-low attachment (ULA) culture dishes and flasks.
」
(当審訳:「超低付着性」とは、培養細胞の細胞付着を最小限に抑える表面での培養条件を指す。
超低付着表面の一例は、コーニング
TM
ブランドの超低付着(ULA)培養ディッシュやフラスコなど、培養表面が親水性で中性荷電を有する共有結合ハイドロゲル層でコーティングされた培養容器である。
)
b 引用文献4
原査定の拒絶の理由で引用された米国特許出願公開第2014/0377233号明細書(以下「引用文献4」という。)には、次の記載がある。
「[0067] For culture under non-adherent conditions, mesenchymal dental pulp cells of approx. 2
nd
to 8
th
passage are passaged two days prior to use, were harvested and resuspended in DMEM+10% FCS to yield up in a single cell suspension of 106 cells per ml.
The cell suspension (1 ml per well) was given to 24 well low attachment plate (Ultra Low Cluster Plate, Corning, Germany). In contrast to the negatively charged, hydrophilic surface of standard tissue culture dishes the ultra low attachment plates possess a neutral, hydrophilic hydrogel coated surface that greatly minimizes the binding of attachment proteins. By using this specialized culture dishes the mesenchymal dental pulp cells do not settle down through cell adhesion as in micromass culture.
The formation of a 2D monolayer culture was prevented and the cells retained a round shape under this suspension culture maintaining non-adherent conditions. Furthermore, in contrast to methods relying on an external scaffold or carrier, the low attachment culture system provides the opportunity for free cell movement and cell cell interaction during an initial condensation process. Condensation process starts shortly after seeding and is observed macroscopically by cells forming aggregates. To ensure constant culture conditions medium was changed regularly every 3 days.」
(下線部当審訳:この細胞懸濁液(1ウェル当たり1ml)を24ウェル低付着性プレート(Ultra Low Cluster Plate、コーニング社、ドイツ)に与えた。標準的な組織培養ディッシュのマイナス電荷を帯びた親水性表面とは対照的に、超低付着プレートは、中性で親水性のハイドロゲルでコーティングされた表面を持っており、付着タンパク質の結合を大幅に最小化する。この特殊な培養皿を用いることで、間葉系歯髄細胞はマイクロマス培養のように細胞接着によって沈殿することはない。)
c 周知技術の認定
上記a及びbにおいて摘記したように、「コーニング社のULAコーティングが、中性で親水性のハイドロゲルによる表面を有し、細胞の付着を最小限に抑えるものであること」は、本願優先日前の当該技術分野における技術常識である。
ウ 対比
本件補正発明と引用発明を対比する。
a 「細胞培養器具であって、」について
引用発明の「PDMSマイクロウェルアレイ」は、「単細胞解像度での細胞培養およびアッセイのための有用なプラットフォームである」から、細胞培養器具と認められるので、引用発明の「PDMSマイクロウェルアレイ」は、本件補正発明の「細胞培養器具」に相当する。
b 「細胞培養表面を有する高分子基板」について
引用発明の「PDMSマイクロウェルアレイ」は、「マイクロウェルアレイ」が「PDMS」で構成されていることを意味し、「PDMS」は、引用文献1の【0023】の「ポリジメチルシロキサン(PDMS)」という記載から「ポリジメチルシロキサン」であると認められ、「ポリジメチルシロキサン」は高分子であることは技術常識である。また、「PDMSマイクロウェルアレイ」が細胞培養に用いるものであるから、細胞培養表面を有すること、「アレイ」であるから、基板形状を有することは、明らかである。そうすると、引用発明の「PDMSマイクロウェルアレイ」は、本件補正発明の「細胞培養表面を有する高分子基板」に相当するものである。
c 「前記高分子基板の細胞培養表面上に配置された、0.01~5μm厚の範囲の溶ける炭水化物コーティング」について
引用発明の「マイクロウェルの壁および床を覆」う「固体グルコースのコンフォーマルコーティング」は、引用文献1の【0045】に「水(または適切な水溶液)は、グルコースの犠牲残留物をマイクロウェル内で溶解し、したがってマイクロキャビティ内の気泡を防止または排除することによって、プライミングされたマイクロウェルを後になって完全に湿潤する可能性がある。」と記載されていることから、「溶ける」ものであることは明らかであり、また、「グルコース」が炭水化物であることは技術常識である。引用発明の「マイクロウェル」は、「PDMSマイクロウェルアレイ」の主要部分であり、上記(b)の検討を踏まえると、引用発明の「マイクロウェルの壁および床を覆」う「固体グルコースのコンフォーマルコーティング」と、本件補正発明の「前記高分子基板の細胞培養表面上に配置された、0.01~5μm厚の範囲の溶ける炭水化物コーティング」は、「前記高分子基板の細胞培養表面上に配置された、溶ける炭水化物コーティング」である点で共通する。
そうすると、本件補正発明と引用発明は、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
「細胞培養器具であって、
細胞培養表面を有する高分子基板、および
前記高分子基板の細胞培養表面上に配置された、溶ける炭水化物コーティング、
を備える器具。」
<相違点>
相違点1:「溶ける炭水化物コーティング」の厚さについて、本件補正発明は、「0.01~5μm厚の範囲」であるのに対して、引用発明は、厚さが不明である点。
相違点2:本件補正発明は、「被覆された前記細胞培養表面に水性細胞培養培地を加えた際に、前記溶ける炭水化物コーティングが該水性細胞培養培地中に溶け」るものであるのに対して、引用発明は、水性細胞培養培地を加えた際の「固体グルコースのコンフォーマルコーティング」の挙動について特定されていない点。
相違点3:「接触角」について、本件補正発明は、「前記溶ける炭水化物コーティングを有する高分子基板が、該溶ける炭水化物コーティングの不在下での前記高分子基板の接触角より小さい接触角を有」するのに対して、引用発明は、「固体グルコースのコンフォーマルコーティング」の存在しない「PDMSマイクロウェルアレイ」との比較が不明である点。
相違点4:本件補正発明は、「前記高分子基板が、親水性特徴を有し細胞に対して非接着性の単分子層または0.01~100μm厚のコーティング」を備えるのに対して、引用発明は、そのようなコーティングを備えていない点。
エ 判断
a 相違点1について
引用発明において、「固体グルコースのコンフォーマルコーティング」は、引用文献1の【0045】に「グルコースを用いた親水性のマイクロウェルのプライミングにより、溶解に誘導される湿潤を介してマイクロキャビティ内に気泡が閉じ込められるのを防止することができ」と記載されているように、気泡の閉じ込めが生じることを防止するためであり、その厚さは、この目的を達成しうる範囲で当業者が適宜決定しうるものであり、必要以上に厚いと後の培養工程への影響が生じやすくなる可能性が大きくなることは自明であることを踏まえれば、「0.01~5μm厚の範囲」内に設定することは当業者が容易になし得ることである。
また、本願の明細書の記載を参酌しても、炭水化物コーティングを「0.01~5μm厚の範囲」とすることにより、格別な作用効果が奏されるとは認められず、数値範囲の上下限値に臨界的意義も認められない。
b 相違点2について
グルコースは水溶性であり、引用文献1の【0045】に「水(または適切な水溶液)は、グルコースの犠牲残留物をマイクロウェル内で溶解し」と記載されていることを踏まえると、水性細胞培養培地を加えた場合には、「固体グルコースのコンフォーマルコーティング」が水性細胞培養培地注に溶解する蓋然性が高いので、相違点2は実質的な相違点ではない。
c 相違点3及び相違点4について
相違点3及び相違点4を合わせて検討する。
上記イ(イ)で摘記したように引用文献2には、「内部のウェル底を超低付着性材料、アガロース、非イオン性ヒドロゲルなど、細胞付着を阻害しうる非結合性材料でコーティング」すること([0079])、「コーニング社の超低付着性(ULA)コートが施された96ウェル透明丸底ポリスチレンマイクロプレートを使って腫瘍スフェロイドを作製」すること([0030])が記載されており、「コーニング社の超低付着性(ULA)コート」は、上記イ(ウ)で認定した技術常識のとおり、「中性で親水性のハイドロゲルによる表面を有し、細胞の付着を最小限に抑えるもの」である。
細胞を培養して、腫瘍スフェロイドのような細胞塊を得ることは本願優先日において広く行われていることであり、引用発明において、細胞塊を効率的に作製できるように引用文献2に記載の技術手段を適用して、コーニング社のULAコーティングのような、中性で親水性のハイドロゲルによる表面を有し、細胞の付着を最小限に抑えるコーティングを「PDMSマイクロウェルアレイ」に施すことは、当業者が容易に想到しうることである(この場合、当然、使用時には溶解される「固体グルコースのコンフォーマルコーティング」と「PDMSマイクロウェルアレイ」の間に位置するように該コーティングが施されることになる。)。その際、当該コーティングの厚さは、コーティングが機能する範囲で当業者が適宜決定しうる事項であり、「単分子層または、0.01~100μm」の範囲内に設定することに格別の困難性はない。
また、本願の明細書の記載を参酌しても、該コーティング厚を「単分子層または、0.01~100μm」とすることに格別な作用効果が奏されるとは認められず、数値範囲の上下限値に臨界的意義も認められない。
そして、前段落で検討したように、引用発明にULAコーティングのような、中性で親水性のハイドロゲルによる表面を有し、細胞の付着を最小限に抑えるコーティングを適用することは当業者にとって容易であり、その場合の接触角は、「ULAコーティングのような、中性で親水性のハイドロゲルによる表面を有し、細胞の付着を最小限に抑えるコーティングされ、固体グルコースのコンフォーマルコーティングされていないPDMSマイクロウェルアレイ」(本件補正発明の「該溶ける炭水化物コーティングの不在下での前記高分子基板」に相当する。)の接触角より小さい蓋然性が高い。これは、「固体グルコースのコンフォーマルコーティング」と「ULAコーティング」の接触角について、本願の明細書の【0052】の表2において、「ULAが被覆された平らなポリスチレン表面」の接触角が40°、「ULAが被覆された、マイクロキャビティのアレイを含むポリスチレン表面」の接触角が48°であり、【0064】の表3において、「グルコース/ULAが被覆された平らなポリスチレン表面」の接触角が10°、「グルコース/ULAが被覆された、マイクロキャビティのアレイを有するポリスチレン表面」の接触角が30°であることが記載されていることからも支持されることである。
d 効果について
気泡の形成が減少すること(【0068】)、炭水化物コーティングが生体適合性であること(【0088】)、3D細胞凝集体(例えば、多細胞スフェロイド)の形成を誘発できる(【0004】)といった本件補正発明が奏する効果は、引用文献1の【0045】の「グルコースを用いた親水性のマイクロウェルのプライミングにより、溶解に誘導される湿潤を介してマイクロキャビティ内に気泡が閉じ込められるのを防止することができ」、引用文献1の【0067】の「グルコースは、生体細胞に関わる用途に使用される微細加工デバイスにおいて湿潤を誘導するためのおそらく最も安全な犠牲残留物の1つである」という記載、及び引用文献2~4に記載されているULAコーティングの効果から当業者が十分に予想しうる範囲内の効果である。
e 審判請求人の主張について
審判請求書における請求人の主張をまとめると、
1.本件補正発明と引用発明は、上記相違点4で相違する。
2.引用文献2~5には、親水性特徴を有し細胞に対して非接着性のコーティングの具体的厚さについて一切開示も示唆もない。
という以上2点の主張がなされている。
これらの主張についての当審の判断は、上記cで検討したとおりであり、いずれも採用できない。
f 小括
以上から、本件補正発明は、引用発明、引用文献2に記載された技術的事項及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
オ 独立特許要件についてのまとめ
よって、本件補正発明は、引用発明、引用文献2に記載された技術的事項及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
以上のとおり、本件補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができない。したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1~19に係る発明は、令和5年3月8日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~19に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された事項、及び、引用文献3、4にみられる周知技術に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
<引用文献等一覧>
1.特表2015-521293号公報
2.国際公開第2014/179196号
3.米国特許出願公開第2014/0017721号明細書(周知技術を示す文献)
4.米国特許出願公開第2014/0377233号明細書(周知技術を示す文献)
引用文献1には、前記第2の2(2)イ(ア)bにおいて認定したとおりの引用発明が記載されていると認められる。引用文献2には、前記第2の2(2)イ(イ)のとおりの記載がある。
また、技術常識は、前記第2の2(2)イ(ウ)cにおいて認定したとおりである。
本願発明は、本件補正発明における「非接着性のコーティング」の厚さについての「単分子層または0.01~100μm厚の」という特定が付されていないものに対応し、本件補正発明をその範囲に含むものであるところ、前記第2の2(2)ウ及びエで本件補正発明について説示したものと同様、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載された技術的事項及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
商標の登録可能性を無料で確認するか、費用の目安を料金表・シミュレーターで把握できます。