sokuhyo

Trademark Appeal Case

特許訂正の要件

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号2024700353
審判種別記載はありません。
結論勝訴(請求認容)

結論テキスト

結 論
特許第7375148号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の〔1-3〕について訂正することを認める。
特許第7375148号の請求項1~3に係る特許を取り消す。

理由テキスト

理 由

第1 手続の経緯

特許第7375148号の請求項1~3に係る特許についての出願は、平成30年7月2日を出願日(以下「遡及日」という。)とする特願2018-125910号の一部を特許法第44条第1項の規定により、令和4年11月18日に新たな特許出願(特願2022-184871号)として分割したものであって、令和5年10月27日にその特許権の設定登録がされ、同年11月7日に特許掲載公報が発行された。

本件特許異議の申立ての経緯は、概略次のとおりである。

令和6年 4月17日 :特許異議申立人伊藤裕美(以下「申立人」という。)による請求項1~3に係る特許に対する特許異議の申立て

同年 5月22日 :申立人による手続補正書(方式)の提出

同年 9月27日付け:取消理由通知書

同年11月22日 :特許権者により意見書及び訂正請求書の提出

同年12月25日 :申立人により意見書の提出

令和7年 3月25日付け:取消理由通知書(決定の予告)

同年 5月23日 :特許権者による意見書及び訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)の提出

同年 7月 2日 :申立人による意見書の提出

なお、令和6年11月22日に提出された訂正請求書については、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。また、令和6年5月22日に申立人により提出された手続補正書(方式)は証拠説明書についてのものである。

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容

本件訂正請求書による請求の趣旨は、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを求めるものであり、その内容(訂正事項)は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示している。

(1)訂正事項1

特許請求の範囲の請求項1である「未硬化状態のコンクリート又はモルタルに複数の繊維を混入させて繊維入りコンクリートを生成する繊維入りコンクリート生成工程と、前記繊維入りコンクリートを付加製造装置のノズルから所定の位置に押し出して繊維補強コンクリート体を施工する繊維補強コンクリート体施工工程と、を備え、前記繊維補強コンクリート体施工工程では、高さ方向において隣接する前記繊維入りコンクリートの施工方向が平面視で互いに90°ずらしながら施工する、繊維補強コンクリート部材の製造方法。」を

「未硬化状態のコンクリート又はモルタルに複数の繊維を混入させて繊維入りコンクリートを生成する繊維入りコンクリート生成工程と、前記繊維入りコンクリートを付加製造装置のノズルから所定の位置に押し出して繊維補強コンクリート体を施工する繊維補強コンクリート体施工工程と、を備え、

前記繊維入りコンクリー卜生成工程と前記繊維補強コンクリート体施工工程は、並行して行うものであり、

前記繊維補強コンクリート体施工工程では、高さ方向において隣接する前記繊維入りコンクリートの施工方向が平面視で互いに90°ずらしながら施工する、繊維補強コンクリート部材の製造方法。」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2及び3も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2

特許請求の範囲の請求項3に「前記ノズルの押出口の長さは」とあるのを「前記ノズル

に備えられた小径部

の長さは」に訂正する。

2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)について

(1)訂正事項1について

訂正事項1は、「繊維入りコンクリート生成工程と、」「繊維補強コンクリート体施工工程と、を備え」る「繊維補強コンクリート部材の製造方法」において、前記両者の工程を「前記繊維入りコンクリー卜生成工程と前記繊維補強コンクリート体施工工程は、並行して行うものであ」ることに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、そして、当該限定は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

さらに、当該限定は、願書に添付した明細書の【0027】に「また、設置工程は施工工程前に行うが、

生成工程と施工工程は、並行して行ってもよい

。」と記載されていることから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(2)訂正事項2について

訂正事項2は、取消理由通知書(決定の予告)において、訂正前の請求項3の「前記ノズルの押出口の長さは、前記複数の繊維の平均長さより長い」との記載における「ノズルの押出口」と、取り下げられた令和6年11月22日に提出された訂正請求書により訂正(以下「取下訂正」という。)された請求項1の「ノズルに備えられた小径部」との対応関係が不明確であるとの指摘を受けて、「ノズルの押出口」を「ノズルに備えられた小径部」に訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、それによって、実質上特許請求の範囲を拡張するものでもなく、又は変更するものでもない。

そして、本件特許明細書等の【0021】には「

ノズル10は

、大径部12と、大径部12の押出方向Pの先端に連結された

小径部14と、を備える

。大径部12及び小径部14は略四角柱状に形成され、大径部12の中空部と小径部14の中空部とは連結部16で接続されている。」、【0023】には「小径部14の押出方向Pの先端には、押出口18が設けられている。押出口18の幅(大きさ、すなわち、ノズル10の長手方向及び押出方向Pに直交する方向の幅)gは、本実施形態では幅wに等しい。幅gは、複数の繊維Fの平均長さより短いことが好ましい。小径部14において押出方向Pに沿って押し出されるコンクリート材料中の複数の繊維Fを確実に整列させる点から、

小径部14の長さ

(すなわち、ノズル10の長手方向及び押出方向Pに平行な方向の大きさ)

は、複数の繊維Fの平均長さより長い

ことが好ましい。」と記載されているから、訂正事項2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。

3 一群の請求項について

訂正前の請求項2及び3は請求項1を直接的又は間接的に引用するものであり、請求項1~3は一群の請求項であるところ、上記訂正事項1及び2は、当該一群の請求項に請求されているものであるから、訂正事項1及び2は、特許法第120条の5第4項に適合するものである。

4 訂正についてのまとめ

上記のとおり、訂正事項1及び2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

よって、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。

第3 本件発明

本件訂正請求により訂正された請求項1~3に係る発明(以下順に「本件発明○」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正特許請求の範囲の各請求項に記載された次の事項により特定されるものである。

「【請求項1】

未硬化状態のコンクリート又はモルタルに複数の繊維を混入させて繊維入りコンクリートを生成する繊維入りコンクリート生成工程と、

前記繊維入りコンクリートを付加製造装置のノズルから所定の位置に押し出して繊維補強コンクリート体を施工する繊維補強コンクリート体施工工程と、

を備え、

前記繊維入りコンクリー卜生成工程と前記繊維補強コンクリート体施工工程は、並行して行うものであり、

前記繊維補強コンクリート体施工工程では、高さ方向において隣接する前記繊維入りコンクリートの施工方向が平面視で互いに90°ずらしながら施工する、

繊維補強コンクリート部材の製造方法。

【請求項2】

前記繊維の直径は、0.005mm以上1.0mm以下であり、

前記繊維の平均長さは、3mm以上30mm以下である、

請求項1に記載の繊維補強コンクリート部材の製造方法。

【請求項3】

前記ノズルの押出口の幅は、前記複数の繊維の平均長さより短く、

前記ノズルに備えられた小径部の長さは、前記複数の繊維の平均長さより長い、

請求項1または請求項2に記載の繊維補強コンクリート部材の製造方法。」

なお、本件特許明細書は訂正されていないことから、本件特許明細書を以下「本件明細書」という。

第4 取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由について

令和7年3月25日付けで通知した取消理由通知書(決定の予告)は、取下訂正された特許請求の範囲の請求項1~3について通知されたものであり、概略以下のとおりである。

1 取消理由1(進歩性)

請求項1~3に係る発明は、甲第2号証に記載された発明、並びに甲第1、2及び6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

<甲号証> 以下、甲第○号証は「甲○」という。

甲1:M. Hambach, et al.,“Properties of 3D-printed fiber-reinforced Portland cement paste” Cement and Concrete Composites, Vol.79, pp.62-70, Available online: 10 February 2017

甲2:M. Hambach, et al.,“Portland cement paste with aligned carbon fibers exhibiting exceptionally high flexural strength (> 100 MPa)”,Cement and Concrete Research, Vol.89, pp.80-86, Available online: 25 August 2016

甲6:特開2000-309011号公報

ここで、甲1及び甲2は、特許異議申立書に添付された証拠であり、甲6は、令和6年12月25日に申立人によって提出された意見書に添付された証拠である。そして、甲6については、取下訂正によって請求項1に「前記ノズルに備えられた小径部の内壁面の幅は、前記ノズルの長手方向及び前記繊維入りコンクリートの押出方向に沿って均一である」との事項が追加されたことにより提示されたものであるところ、

本件訂正では当該事項が存在しない

ことから、以下、甲6について言及しないこととする。

第5 甲号証の記載について

1 甲2について

(1)記載事項

本件特許出願の遡及日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2には以下の事項が記載されている。なお、訳文に付した下線は当審において付与したものである(以下同様)。

(甲2a)「ABSTRACT

Here, we introduce a nozzle injection technique for carbon fiber-reinforced cement paste leading to unidirectional alignment of cement-embedded short carbon fibers that follow the movement direction of the guided nozzle. In comparison to non-reinforced cement pastes, this novel material exhibits a tremendous increase of its flexural strength upon admixing and aligning 1 to 3 percent (by volume) of chopped carbon fibers. Cement pastes containing carbon fibers aligned in the stress direction thus acquire high compressive and flexural strength values at the same time. Mechanical tests prove the material to withstand flexural loads larger than 100 MPa, in conjunction with a deflection hardening behavior resembling that of high performance fiber-reinforced cementitious composites at relatively low fiber volume content. Insights into the preparation, fiber alignment, rheology and the fracture behavior of this material are presented in this study.」(80頁上欄)

訳文「要約

ここでは、ガイド付きノズルの移動方向に沿ってセメントに埋め込まれた炭素短繊維を一方向に整列させる、炭素繊維強化セメントペーストのノズル射出技術を紹介する。非強化セメントペーストと比較して、この新しい材料は、1~3パーセント(体積比)の裁断炭素繊維を混合して整列させると、曲げ強度が大幅に向上する。応力方向に整列した炭素繊維を含むセメントペーストは、こうして高い圧縮強度を獲得する。機械試験により、この材料は、繊維体積含有量が比較的低い高性能

繊維強化セメント複合材料

のたわみ硬化挙動に似たたわみ硬化挙動と併せて、100 MPa を超える曲げ荷重に耐えることが証明されている。この研究では、繊維体積含有率が比較的低い高性能

繊維強化セメント複合材料の調製

、繊維配列、レオロジー、破壊挙動についての考察が示されている。」

(甲2b)「2. Materials and methods

2.1. Carbon fiber treatment

Carbon fibers were obtained from Toho Tenax Co., Ltd.(Tokyo, Japan). Carbon fibers type Tenax(R)-J HT C261 (PAN type, 7 μm in diameter) were pre-chopped having an average length of 3 mm.・・・

2.2. Cement paste specimen preparation

61.5 wt% of type I 52.5 R Portland cement was used in conjunction with 21 wt% silica fume (Elkem Microsil), 15 wt% of water and 2.5 wt% of a water reducing agent (BASF Glenium ACE 430). The silica fume improves coupling of fibers to the cementitious matrix [29]. Water cement ratio was 0.28 (including water in the water reducing agent). All solid components, apart from carbon fibers, were mixed in dry state. Water and water reducing agent were added and mixed with a rotary mixer at 600 rpm until a homogeneous mixture was obtained. Finally the carbon fibers were added and the mixture was stirred again at 50 rpm until the fibers were dispersed uniformly.・・・

The approach used in this study towards fiber alignment is implemented by injecting the cement paste (containing admixed short fibers) through a nozzle, which will lead to a specific fiber orientation if the nozzle diameter is smaller than the average length of the fibers. The orientation of the fibers is thus parallel to the direction of flow through the nozzle, as illustrated in Fig.2a. For the prepared samples in this study a syringe having a nozzle diameter of 2mm along with 3mm long carbon fibers was used. The ready mixed cement paste containing carbon fibers was filled into a 20 mL disposable syringe (B. Braun Melsungen AG, Melsungen, Germany) and injected into 60 x 13 x 3 mm(±0.3mm) Teflon molds for 3-point-bending tests and into a 60 x 50 x 15 mm(±0.3mm) mold for uniaxial compressive strength test. For a coalescence of the cylinders of cement paste( which were extruded from the syringe) into a solids sample a plate vibrator was used to densify the material for about 1 min for each sample.」(80頁右欄19行~81頁左欄39行、当審注:登録商標であることを示す丸付きRを、括弧付きの(R)で代用して表記している。)

訳文「2.材料と方法

2.1.炭素繊維処理

炭素繊維は、東邦テナックス株式会社(東京、日本)から入手した。

炭素繊維

タイプ Tenax(R) J -HT C261(PAN タイプ,

直径7 μm)を平均長さ3 mm

にあらかじめ切断した。・・・

2.2.セメントペースト試験片の作製

61.5重量%のタイプI52.5R

ポルトランドセメントを、21重量%のシリカフューム

(Elkem Microsil)

、15重量%の水及び2.5重量%の減水剤

(BASF Glenium ACE 430)

と組み合わせて使用した。

シリカフュームは繊維のセメント質マトリックスへの結合を改善する [29]。水セメント比は0.28(減水剤中の水を含む)であった。炭素繊維を除くすべての固体成分は乾燥状態で混合された。

水及び減水剤を添加し、均質な混合物が得られるまでロータリーミキサーを用いて600 rpmで混合した。最後に炭素繊維を加え、繊維が均一に分散するまで混合物を50 rpmで再度撹拌した。

・・・

この研究で使用された繊維整列に対するアプローチは、

ノズルを通してセメントペースト(混合された短繊維を含む)を注入する

ことによって実行される。これにより、ノズル直径が繊維の平均長よりも小さい場合、特定の繊維配向が得られる。したがって、

図2aに示すように、繊維の方向はノズルを通る流れの方向と平行になる。この研究で調製したサンプルには、長さ3 mmの炭素繊維とともに、2 mmのノズル直径を有するシリンジが使用された。炭素繊維を含む生セメントペーストを20 mLの使い捨てシリンジ

(B. Braun Melsungen AG、メルズンゲン、ドイツ)

に充填し、3点曲げ試験用の60×13×3 mm(±0.3 mm)のテフロン型枠及び一軸圧縮強度試験用の60×50×15 mm(± 0.3 mm)の型枠に注入した。セメントペーストのシリンダー(シリンジから押し出された)

を固体サンプルに融合させるために、プレートバイブレーターを使用して各サンプルについて約1分間材料を緻密化した。・・・」

(甲2c)「2.4. Flexural strength measurement

Flexural strength measurements were carried out with at least 6 specimens for each testing series in a 3-point bending testing setup.・・・

2.5. Compressive strength measurements

For compressive strength measurements six specimens for each testing series were tested.・・・」(81頁左欄5行~右欄11行)

訳文「2.4.

曲げ強度測定

曲げ強度の測定は、3点曲げ試験セットアップで各試験シリーズに少なくとも6つの試験片を使用して実行された。・・・

2.5.

圧縮強度測定

圧縮強度の測定では、各試験シリーズに6つの試験片が試験された。・・・」

(甲2d)Fig.2(a)及び説明文(82頁)

60

88

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Fig.2.(a) By applying force(F) on the syringe fiber alignment in the extruded cement paste can be achieved ; 」

訳文「図2.(a)シリンジに力(F)を加えることで、押出セメントペースト内の繊維の整列を実現できる;」

(甲2e)「With respect to common concrete technology we are facing different challenges of the presented fiber-aligning technique : Since the cement mixture used in the presented study is containing only Portland cement, silica fume and carbon fibers, filling aggregates have to be admixed to the cement paste in order to reduce costs. However, the aggregate size in concrete is commonly greater than the average fiber length employed in our study (3 mm) and, consequently, extrusion nozzles for concrete mixtures would become too large for obtaining good fiber alignment by extrusion. Thus fine grained fillers have to be used (e.g. sand) in order to reduce nozzle sizes for short fibers or longer fibers could ensure fiber alignment for larger nozzle sizes. Another technological challenge rests upon the up-scaling of the process into dimensions of construction yard compatible fabrication, since a band guided nozzle technique seems illusive for large-scale applications. 3-D (parallel) printing might be employed as a solution, which is gaining increasing popularity in material fabrication processes in the past years [45-49].」(85頁右欄43~58行)

訳文「一般的なコンクリート技術に関して、私たちは、提示された繊維整列技術のさまざまな課題に直面している。

提示された研究で使用されたセメント混合物にはポルトランドセメント、シリカフューム、炭素繊維のみが含まれているため、コストを削減するためには骨材をセメントペーストに混合する

必要がある。しかし、コンクリート中の骨材のサイズは一般に、今回の研究で採用した平均繊維長(3 mm)よりも大きいため、コンクリート混合物の押出ノズルは、押出によって良好な繊維の整列を得るには大きすぎる。したがって、粒子の細かい充填剤(砂など)を使用する必要がある。短い繊維または長い繊維のノズルサイズを小さくすることで、より大きなノズルサイズでも繊維の位置合わせを確実に行うことができる。もう一つの技術的課題は、手動誘導ノズル技術は大規模用途には現実的ではないと思われるため、プロセスを建設現場で適合する製造の寸法にスケールアップすることにかかっている。

解決策として 3-D(パラレル)プリンティングが採用される

可能性があり、材料製造プロセスではここ数年で人気が高まっている [45~49]。」

(2)甲2発明について

ア 記載事項の整理

(ア)甲2には、前記(甲2a)によれば、「繊維強化セメント複合材料の調製」について記載されており、前記(甲2b)によれば、その「方法」として、「ポルトランドセメントを」、「15重量%の水及び2.5重量%の減水剤」「と組み合わせて使用し」たこと、「均質な混合物が得られるまでロータリーミキサーを用いて600 rpmで混合し」、「最後に炭素繊維を加え、繊維が均一に分散するまで混合物を50 rpmで再度撹拌した」こと、及び「ノズルを通してセメントペースト(混合された短繊維を含む)を注入する」ことが記載されている。

(イ)また、前記(甲2b)によれば、「炭素繊維を含む生セメントペーストを」「シリンジから押し出」し、「3点曲げ試験用の60×13×3 mm(±0.3 mm)のテフロン型枠及び一軸圧縮強度試験用の60×50×15 mm(± 0.3 mm)の型枠に注入し」、すなわち「型枠に注入し」たこと、及び「2 mmのノズル直径を有するシリンジが使用された」こと、及び前記「炭素繊維」は、「直径7 μm」、「平均長さ3 mm」のものであることが記載されている。

(ウ)さらに、前記(甲2e)によれば、「骨材をセメントペーストに混合する」ことが記載されている。

(エ)そして、前記(甲2d)の図2(a)によれば、「ノズル」の長さが、「セメントペースト」内の「繊維」の長さよりも長いことが看取できる。

イ 甲2発明

上記(1)の記載事項及びアで述べたその整理を踏まえると、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

「ポルトランドセメントを、水及び減水剤と組み合わせて使用し、骨材をセメントペーストに混合し、均質な混合物が得られるまでロータリーミキサーを用いて600 rpmで混合し、最後に直径7 μm、平均長さ3 mmの炭素繊維を加え、繊維が均一に分散するまで混合物を50 rpmで再度撹拌し、2 mmのノズル直径を有するシリンジのノズルを通してセメントペースト(混合された短繊維を含む)を押し出し、型枠に注入する、繊維強化セメント複合材料の調製方法であって、

前記ノズルの長さが、セメントペースト内の繊維の長さよりも長い、方法。」

2 甲1について

本件特許出願の遡及日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1には、以下の事項が記載されている。

(甲1a)「ABSTRACT

First insights into a 3D-printed composite of Portland cement paste and reinforcing short fibers (carbon, glass and basalt fibers, 3-6 mm) are presented, resulting in novel materials that exhibit high flexural (up to 30 MPa) and compressive strength (up to 80 MPa). Alignment of the fibers, caused by the 3D-printing process is observed, opening up the possibility to use the print path direction as a means to control fiber orientation within the printed structures. Apart from completely dense cementitious bodies, hierarchically structured bodies, displaying precisely adjusted macroporosity, are presented, the latter exhibiting a unique combination of strength and materials efficiency.」(62頁上欄)

「概要

ポルトランドセメントペーストと強化用短繊維(カーボン、 ガラス繊維と玄武岩繊維、3-6 mm)の3Dプリント複合材料に関する最初の洞察が提示され、その結果、高い曲げ強度 (最大30 MPa) と圧縮強度 (最大80MPa)を示す新しい材料が得られる。3Dプリンティングプロセスによって引き起こされる繊維の整列が観察され、プリントされた構造内の繊維の配向を制御する手段としてプリントパスの方向を使用できる可能性が開かれた。完全に緻密なセメント体とは別に、正確に調整されたマクロ気孔率を示す階層構造の体が示されており、後者は強度と材料効率の独自の組み合わせを示す。」

(甲1b)「3. Results and discussion

3.1. Properties of 3D-printed fiber-reinforced cement paste

A small scale setup (specimen dimensions up to several centimeters, Fig.1a) is used to investigate in fluence of layer orientation, density and porosity on the strength of 3D-printed Portland cement paste. Furthermore, short fibers (carbon-, glass- or basalt fibers) were used to report on the influence of fiber reinforcement on distinct mechanical properties, namely flexural and compressive strength, in 3D-printed fiber-reinforced Portland cement paste. ・・・

・・・.Cubic specimens (18 mm edge length) and beam specimens (60 mm in length, 12 mm in width and 6mm in height) were 3D-printed to obtain samples for uniaxial compressive strength tests and 3-point bending tests, respectively. Two different print patterns, namely a parallel shaped (print path A for 3-point bending tests, print path C for uniaxial compressive strength tests) and a crosshatch shaped pattern (print path B for 3-point bending tests, print path D for uniaxial compressive strength tests) were employed (Fig.2a,b) in order to investigate the influence of different fiber orientations along predetermined print paths. For print path A and C( parallel shape) each layer was printed identical to the layer below and above, for print path B and D (crosshatch shape) each layer was twisted by 90° with respect to the layers beneath and above, resulting in a sandwich-like structure, as illustrated in Fig.2b and d.」(63頁右欄33行~64頁右欄20行)

訳文「3.結果と考察

3.1. 3Dプリントした繊維強化セメントペーストの特性

小規模なセットアップ(試験片の寸法は最大数センチメートル、図1a)を使用して、3Dプリントしたポルトランドセメントペーストの強度に対する層の配向、密度、空隙率の影響を調査する。さらに、短繊維(カーボン、ガラス、または玄武岩繊維)を使用して、

3Dプリントされた繊維強化ポルトランドセメントペーストの独特の機械的特性、つまり曲げ強度と圧縮強度に対する繊維強化の影響

を報告した。・・・

・・・立方体試験片(辺の長さ18 mm)と梁試験片(長さ60 mm、幅12 mm、高さ6 mm)を3Dプリントして、それぞれ一軸圧縮強度試験と3点曲げ試験用のサンプルを取得した。所定のプリント経路に沿った異なる繊維配向の影響を調査するために、異なる二つのプリントパターン、つまり平行形状のパターン(3点曲げ試験の場合はプリント経路A、一軸圧縮強度の場合はプリント経路C)と

クロスハッチ形状のパターン(3点曲げ試験の場合はプリント経路B、一軸圧縮強度の場合はプリント経路D)を採用した

(図2a、b)。プリント経路A及びC(平行形状)では、各層は上下の層と同一にプリントされ、

プリント経路B及びD(クロスハッチ形状)では、図2b及びdに示すように、各層が上下の層に対して90°ねじられ、サンドイッチ状の構造が得られた。

(甲1c)Fig.2(b),(d)及び説明文(65頁)

81

46

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49

65

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Fig. 2. Top view of the print paths for specimens used for 3-point bending test ・・・(b) Illustration of "print path B" samples having 2 different layers (rotated 90°to each other). Top view of print paths for specimens used for uniaxial compressive strength test・・・(d) being printed in a crosshatch shape called "print path D" (90° rotated to each other layers were used).」

訳文「図2. 3点曲げ試験に使用される試験片のプリント経路の上面図であって、・・・(b)は2つの異なるレイヤー(互いに90°回転)を持つ「プリント経路B」の図である。一軸圧縮強度試験に使用される試験片のプリント経路の上面図であって、・・・(d)は「プリント経路D」と呼ばれるクロスハッチ形状でプリントされたもの(各層に対して90°回転したものが使用された)である。」

3 周知事項を示す甲号証について

(1)上記第2の1(1)で記載したように、本件訂正の訂正事項1によって本件発明1に「前記繊維入りコンクリー卜生成工程と前記繊維補強コンクリート体施工工程は、並行して行うものであ」ることが追加されたことを受け、申立人は、令和7年7月2日に提出の意見書において、前記追加された事項が周知な事項であることを示すために甲7~甲12を添付してきた。

そのうち、本件特許出願の遡及日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものは甲9~甲12であるところ、前記追加された事項が周知な事項であることを示すものとして、以下の甲9~11を提示する。

甲9:国際公開2017/149040号

甲10:韓国登録特許第10-1815513号公報

甲11:特表2015-502870号公報

なお、甲9として申立人は特表2019-511972号公報を提示しているが、職権探知主義のもと、それに対応する国際公開である国際公開2017/149040号を甲9とした。

(2)甲号証の記載内容

上記甲9~甲11については、周知事項を示すものであることに鑑み、開示されている技術内容とその記載箇所のみを記載することとする。

ア 甲9について

甲9には、第1の要素20(例えば、粉状要素)と第2の要素(例えば、液体)をミキサ1のドラムで混合し、得られた混合物をミキサ1の出口25、36を通して搬送すること(12頁21行~13頁9行、図4、図5等)、第1の要素及び第2の要素は、建設材料を製造するためにミキサに供給され得ること(6頁12~21行)、第1の要素が例えばコンクリートであり、第2の要素が例えば

コンクリート混和剤

であること(7頁1~4行等)、その混和剤が

繊維混和剤(例えば、炭素繊維、金属繊維、又は合成繊維)

であること(2頁32行~3頁4行)、

繊維が添加されたコンクリート

について試験を行つたこと(9頁13~17行)、建築材料に適用するシステム30の移動装置31が

3Dプリンタとして構成される

こと(7頁20~23行、12頁32行~13頁13行、図5等)、建築材料から壁などを製造できること(10頁12~18行)などが開示されている。

すなわち、甲9には、第1の要素及び第2の要素をミキサ1に供給して繊維を含有したコンクリート混合物等の建設材料を製造しつつ(コンクリート生成工程)、ミキサ1の出口から建設材料を所定位置に押し出して壁等を施工する(コンクリート体施工工程)、そして、その際、3Dプリンタを用いて施行する、という製造方法が開示されている。

イ 甲10について

甲10には、セメント、砂、添加材、水、ポリマーの各材料を配合機(20)に供給して撹拌することによリコンクリート材料を生成すること([0014]、[0021]、[0022]、[0025]、図1等)、配合機(20)で生成されたコンクリート材料を噴射ノズル(50)から押し出して構造物を施工すること([0045]、[0046]、[0049]、図1)、その際、

3Dプリンタを利用して施行する

こと([0001]、[0009]、[0014]、[0021]、[0040]、[0051])が開示されている。

すなわち、甲10には、セメント、砂、水などを配合機(20)で混合攪拌してコンクリート材料を製造し、製造したコンクリート材料を噴射ノズル(50)に供給しつつ(コンクリート生成工程)、噴射ノズル(50)からコンクリー卜材料を所定位置に押し出して構造物を施工する(コンクリート体施工工程)、そして、その際、3Dプリンタを用いて施行する、という製造方法が開示されている。

ウ 甲11について

甲11には、セメント系材料で形成された構造物を

3Dプリンタで「印刷」する

こと(【0003】、【0035】、図1等)、セメント材料をノズル13に搬送すること(【0035】、図1等)、結合剤と砂を混合チャンバ115で混合すること(【0055】、図5)、混合された材料がノズル12を通じて押し出されること(【0056】、図5)などが開示されている。

すなわち、甲11には、結合剤と砂を混合チャンバ115で混合しつつ(コンクリート生成工程)、ノズル12を通じて混合された材料を所定位置に押し出して構造物を施工する(コンクリート体施工工程)、そして、その際、3Dプリンタを用いて施行する、という製造方法が開示されている。

第6 当審の判断

1 取消理由1(進歩性)について

(1)本件発明1について

ア 対比

本件発明1と甲2発明とを対比する。

(ア)甲2発明の「ポルトランドセメントを、水及び減水剤と組み合わせて使用し、骨材をセメントペーストに混合し、均質な混合物が得られるまでロータリーミキサーを用いて600 rpmで混合し」たものは、少なくとも「ポルトランドセメント」、「水」及び「骨材」を均質に混合したものであるから、本件発明1の「未硬化状態のコンクリート又はモルタル」に相当する。

(イ)甲2発明の「直径7 μm、平均長さ3 mmの炭素繊維を加え、繊維が均一に分散するまで混合物を50 rpmで再度撹拌」することは、上記(ア)を踏まえると、本件発明1の「複数の繊維を混入させて繊維入りコンクリートを生成する繊維入りコンクリート生成工程」に相当する。

(ウ)甲2発明の「2 mmのノズル直径を有するシリンジ」及び「ノズル」は、それぞれ、本件発明1の「ノズル」及び「ノズルに備えられた小径部」に相当し、甲2発明の「型枠」は、本件発明1の「所定の位置」に相当する。

(エ)甲2発明の「2 mmのノズル直径を有するシリンジのノズルを通してセメントペースト(混合された短繊維を含む)を押し出し、型枠に注入する」ことは、上記(ア)~(ウ)を踏まえると、本件発明1の「前記繊維入りコンクリートを」「ノズルから所定の位置に押し出して繊維補強コンクリート体を施工する繊維補強コンクリート体施工工程」に相当する。

(オ)そして、甲2発明の「繊維強化セメント複合材料の調製方法」は、本件発明1の「繊維補強コンクリート部材の製造方法」に相当する。

(カ)上記(ア)~(オ)を踏まえると、本件発明1と甲2発明とは、

(一致点)

「未硬化状態のコンクリート又はモルタルに複数の繊維を混入させて繊維入りコンクリートを生成する繊維入りコンクリート生成工程と、

前記繊維入りコンクリートをノズルから所定の位置に押し出して繊維補強コンクリート体を施工する繊維補強コンクリート体施工工程と、

を備える、

繊維補強コンクリート部材の製造方法。」

の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>

ノズルが、本件発明1では、「付加製造装置の」ノズルであるのに対して、甲2発明では、「付加製造装置の」ノズルであるとは特定されていない点。

<相違点2>

繊維補強コンクリート体施工工程において、本件発明1では、「高さ方向において隣接する前記繊維入りコンクリートの施工方向が平面視で互いに90°ずらしながら施工する」のに対して、甲2発明では、そのように施工することが特定されていない点。

<相違点3>

繊維入りコンクリー卜生成工程と繊維補強コンクリート施工工程について、本件発明1では、「並行して行うもの」であるのに対し、甲1発明では、並行して行うものか不明である点。

イ 相違点の判断

(ア)相違点1及び2について

まず、相違点1及び2について合わせて検討する。

a 甲2には、(甲2e)によれば、「もう一つの技術的課題は、手動誘導ノズル技術は大規模用途には現実的ではないと思われるため、プロセスを建設現場で適合する製造の寸法にスケールアップすることにかかっている。解決策として

3-D(パラレル)プリンティングが採用される

可能性があり、

材料製造プロセスではここ数年で人気が高まっている

」ことが記載されていることから、3Dプリンティングを採用することが十分示唆されているといえる。そして、一般に、3Dプリンティングと付加製造は同義である。

したがって、甲2発明のノズルを付加製造装置のノズルとすることは、甲2における上記示唆に従い適宜なし得たことにすぎない。

b また、上記甲1は、(甲1a)に記載されているとおり、ポルトランドセメントペーストと強化用短繊維の3Dプリント複合材料に関する洞察が提示されているものであり、プリントされた構造内の繊維の配向を制御する手段としてプリントパスの方向が使用でき、高い曲げ強度と圧縮強度を示すことが記載されている。そして、(甲1b)及び(甲1c)によれば、プリントパスの方向パターンとして、各層が上下の層に対して90°ねじられ、サンドイッチ状の構造を有することが記載されている。

一方、甲2発明について、(甲2c)において「曲げ強度」及び「圧縮強度」を測定していることから、高い曲げ強度と圧縮強度に着目しているものであり、上記aで述べた3Dプリンティングすなわち付加製造装置を採用して繊維補強コンクリート体の施工工程を行う際に、上記甲1の記載を参照して、各層が上下の層に対して90°ねじられ、サンドイッチ状の構造を有するように施工すること、すなわち「高さ方向において隣接する前記繊維入りコンクリートの施工方向が平面視で互いに90°ずらしながら施工する」ことは、当業者が容易になし得たことである。

c よって、甲2発明において、上記相違点1及び2に係る構成とすることは、甲1及び甲2の記載に基づいて、当業者が容易になし得たことである。

(イ)相違点3について

a 本件発明1の「前記繊維入りコンクリー卜生成工程と前記繊維補強コンクリート体施工工程は、並行して行うもの」であることについて、本件明細書の【0027】に「また、設置工程は施工工程前に行うが、

生成工程と施工工程は、並行して行ってもよい。

例えば、製造対象の繊維補強コンクリート部材の製造に必要とされる繊維入りコンクリートFCの総量に対して、ノズル10の中空部に収容可能な繊維入りコンクリートFCの量が少ない場合は、

生成工程で生成された繊維入りコンクリートFCをノズル10の中空部に供給しつつ、施工工程でノズル10から繊維入りコンクリートFCを所定の位置に押し出してもよい

。」と記載されていることから、「並行して行う」とは、生成されたコンクリー卜をノズルに供給しつつ、ノズルからコンクリートを押し出すことを意味しているといえる。

b 一方、いわゆるフレッシュコンクリートは、練り上がりから時間が経つに連れてワーカビリティ(流動性)が低下する材料であり、作り置きができないから、生成作業(コンクリート生成工程)を行いつつ打設作業(コンクリート体施行工程)を行い、ポンプ圧送などにより打設場所にフレッシュコンクリートを供給する必要があるものであるところ、当該技術的事項は、例えば、上記第5の3で記載した甲9、甲10及び甲11に記載されているように、付加製造装置(3Dプリンタ)を用いる場合においても周知の事項である。特に、甲9には、繊維が添加されたコンクリートであるものについても、上記技術的事項を行うことが記載されている。

c そして、甲2発明の「ポルトランドセメントを、水及び減水剤と組み合わせて使用し、骨材をセメントペーストに混合し、均質な混合物が得られるまでロータリーミキサーを用いて600 rpmで混合し、最後に直径7 μm、平均長さ3 mmの炭素繊維を加え、繊維が均一に分散するまで混合物を50 rpmで再度撹拌し」(繊維入りコンクリートの生成工程)たもの(すなわちフレッシュコンクリート)も、練り上がりから時間が経過するに連れてワーカビリティが低下する材料であって、一般的なコンクリートと同じく「作り置き」ができないから、「押し出し、型枠に注入する」(繊維補強コンクリート体施工工程)する際に、一般的なコンクリート部材を製造する場合と同様に、生成作業(コンクリート生成工程)を行いつつ打設作業(コンクリート体施行工程)を行うこと、すなわち、「繊維入りコンクリー卜生成工程と繊維補強コンクリート体施工工程」を「並行して行うもの」とすることは当業者が容易になし得たことであり、そして、甲2発明が3Dプリンティングすなわち付加製造装置で行うものとしても、上記bで述べたように、当業者が容易になし得たことに変わりはない。

加えて、(甲2b)に「試験片」と記載され、(甲2d)の図2(a)を参照すると、「繊維入りコンクリー卜生成工程と繊維補強コンクリート体施工工程」を「並行して行うもの」であるようには描かれていないが、(甲2e)に「手動誘導ノズル技術は大規模用途には現実的ではないと思われるため、プロセスを建設現場で適合する製造の寸法にスケールアップすることにかかっている」と記載されており、「プロセスを建設現場で適合する製造の寸法にスケールアップする」場合には、まさに上記bで述べた周知の事項が適用され、生成作業(コンクリート生成工程)を行いつつ打設作業(コンクリート体施行工程)を行い、ポンプ圧送などにより打設場所にフレッシュコンクリートを供給するものであるから、「繊維入りコンクリー卜生成工程と繊維補強コンクリート体施工工程」を「並行して行うもの」とすることは当業者が容易になし得たこととの判断に変わりはない。

d よって、甲2発明において、上記相違点3に係る構成とすることは、周知の事項に基づいて、当業者が容易になし得たことである。

ウ 効果について

本件明細書には、本件発明の効果について、

「【0012】

本発明の繊維補強コンクリート部材の製造方法によれば、繊維の配向を容易に制御できる。」と記載されている。

甲2発明は、(甲2a)に記載されているとおり「ここでは、ガイド付きノズルの移動方向に沿ってセメントに埋め込まれた

炭素短繊維を一方向に整列させる

、炭素繊維補強セメントペーストのノズル射出技術」に関するものであり、そして、甲1を参照して、甲2発明のノズルを付加製造装置のノズルとしても、甲1には、(甲1a)に「

3Dプリンティングプロセスによって引き起こされる繊維の整列が観察され、プリントされた構造内の繊維の配向を制御する手段としてプリントパスの方向を使用できる

可能性が開かれた」と記載されているから、上記本件発明の効果は、甲1及び甲2の記載から予期されることであり、何ら格別顕著な効果ではない。

エ 特許権者の主張

(ア)特許権者は、令和7年5月23日に提出の意見書において、

「訂正後本件発明1と甲2発明とを対比すると、令和7年3月25日付けの取消理由通知の「第6 1(2)イ」に記載の相違点1及び2に加え、甲2発明には、訂正後本件発明1の「前記繊維入リコンクリート生成工程と前記繊維補強コンクリート体施工工程は、並行して行うものであり」(以下「相違点A」という。)との発明特定事項については、記載や示唆されていない。

また、甲第1、2及び6号証をみても、上記相違点Aについての記載や示唆はなされていない。

そして、上記相違点Aに係る訂正後本件発明1の発明特定事項を、当業者において設計事項とする根拠もない。

しかも、特に相違点Aに係る訂正後本件発明1の発明特定事項により、「作業時間を減じることができる」(段落【0029】)、つまり、繊維入リコンクリート生成工程及び繊維補強コンクリート体施工工程を効率的に行うことができ、作業時間を減じることができるとの格別の作用効果を奏するものである。

したがって、訂正後本件発明1は、甲2発明及び甲第1、2及び6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。」

と、相違点Aによって本件発明1が当業者が容易に発明をすることができたものではないことを主張している。

(イ)特許権者の主張に対する当審の判断

上記「相違点A」は上記「相違点3」と同じであり、相違点3に係る事項は、甲1、2及6(なお、甲6は、上記第4で述べたとおり、取下訂正によって追加され、その後削除された事項に対するものである。)には記載されていないものの、イ(イ)で述べたように、当業者において周知の事項であり、甲2発明において、上記相違点3に係る構成とすることは、周知の事項に基づいて、当業者が容易になし得たことであるから、「上記相違点Aに係る訂正後本件発明1の発明特定事項を、当業者において設計事項とする根拠もない。」との主張は当を得ないことである。

また、コンクリート生成工程とコンクリート体施工工程を並行して行えば、それだけ作業時間を減じることができることは当業者において自明のことであり、特許権者が主張する「格別の作用効果」とまではいえない。

したがって、特許権者の主張によって、上記イ及びウで述べた当審の判断が覆ることはない。

オ まとめ

以上のことから、本件発明1は、甲2発明、甲1及び2の記載事項、並びに周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件発明2について

甲2発明の「炭素繊維」は、「直径7 μm、平均長さ3 mm」であるから、本件発明2の「前記繊維の直径は、0.005mm以上1.0mm以下であり、前記繊維の平均長さは、3mm以上30mm以下である」という発明特定事項を充足する。

よって、本件発明2と甲2発明との間に新たな相違点は存在しない。

したがって、本件発明2は、甲2発明、甲第1及び2に記載された事項、並びに周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)本件発明3について

ア 甲2発明の「ノズル直径」は、本件発明3の「ノズルの押出口の幅」に相当するから、甲2発明の「2 mmのノズル直径」及び「平均長さ3 mm」の「炭素繊維」は、本件発明3の「前記ノズルの押出口の幅は、前記複数の繊維の平均長さより短」いという発明特定事項を充足する。

また、上記(1)ア(ウ)で述べたように、甲2発明の「ノズル」は、本件発明1の「ノズルに備えられた小径部」に相当し、甲2発明の「前記ノズルの長さが、セメントペースト内の繊維の長さよりも長い」ということは、ノズルの長さがセメントペースト内の複数の繊維の平均長さよりも長いことを満たすことから、本件発明3の「前記ノズルに備えられた小径部の長さは、前記複数の繊維の平均長さより長い」という発明特定事項を充足する。

よって、本件発明3と甲2発明との間に新たな相違点は存在しない。

したがって、本件発明3は、甲2発明、甲1及び2に記載された事項、並びに周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ なお、仮に、上記第5の1(2)ア(エ)で述べたように(甲2d)の図2(a)から「ノズル」の長さが、「セメントペースト」内の「繊維」の長さよりも長いことが看取できず、甲2発明において「前記ノズルの長さが、セメントペースト内の繊維の長さよりも長い」ことが認定できないとしても、ノズルの長さが繊維の長さより短いと、ノズルから繊維が一方向にそろってスムーズに押し出されないことになるから、ノズルの長さをセメントペースト内の繊維の長さよりも長くする、すなわち、「前記ノズルに備えられた小径部の長さは、前記複数の繊維の平均長さより長い」という事項を充足するようにすることは当業者が容易になし得たことであるといえる。

(5)まとめ

本件発明1~3は、甲2発明、甲1及び2に記載された事項、並びに周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

2 取消理由2(明確性)について

取消理由2については、本件発明3が、上記第2の1(2)で記載した訂正事項2によって「ノズル

に備えられた小径部

の長さは」となったことから、解消された。

第7 むすび

以上のとおり、本件発明1~3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

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