sokuhyo

Trademark Appeal Case

周知商標と後願の無効

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号2022890004
審判種別記載はありません。
結論勝訴(請求認容)

結論テキスト

結 論
登録第6412641号の登録を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする。

理由テキスト

理 由

第1 本件商標

本件登録第6412641号商標(以下「本件商標」という。)は、「マイオフォーカス」の片仮名と「MYOFOCUS」の欧文字とを2段に表してなり、令和元年9月27日に登録出願、第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供,歯科及び歯列矯正の分野における訓練,歯科用の機器の使用における訓練,矯正歯科専門医の資格の検定及び認定」、第42類「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明,歯科医療に関する研究,歯列矯正に関する研究,歯列矯正機械器具に関する試験又は研究,通信回線を利用した歯科医師用・歯科医院用のコンピュータプログラムの提供」及び第44類「歯列矯正治療,歯科医療情報の提供,歯列矯正治療に関する情報の提供」を指定役務として、同3年6月24日に登録査定、同年7月7日に設定登録されたものである。

第2 引用商標

請求人が、本件商標の登録の無効の理由において、引用する商標は、別掲1のとおりの構成からなる商標(以下「引用商標1」という。)及び別掲2のとおりの構成からなる商標(以下「引用商標2」といい、これらを併せて「引用商標」という。)であり、請求人が「歯科矯正に関する知識の教授,歯科矯正に関する情報の提供」等について使用をしているとするものである。

第3 請求人の主張

請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第50号証(枝番号を含む。)を提出した。

1 本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当し、同法第46条第1項第1号により、その登録を無効にすべきものである。

2 引用商標の創作及び使用開始時期について

(1)引用商標の文字「Myofocus」採択の経緯

引用商標の「Myofocus」の文字は、請求人の2017年の法人設立に際し、請求人の共同創設者によって独自に創作された社名商標であり、会社の根幹事業である「歯科医療,歯科矯正に関する知識の教授,歯科矯正に関する情報の提供」等に使用することを目的として創作されたものである。

当該「Myofocus」の文字は、「筋肉」を意味する接頭語である「myo」の文字(甲1)と、「焦点」を意味する「focus」の文字(甲2)を結合させた商標であって、商標全体で「(顔、あご、舌の)筋肉の機能に注目した口腔の健康管理モデル」といった意味合いを込めて創作された、極めて独創性の高い文字要素により構成されるものである。請求人の平成29年12月4日付け「Facebook」投稿記事に掲載の画像にも、「Myofocus」の文字に当該意味合いが込められていることが明記されている(甲3)。

(2)引用商標のロゴデザイン採択の経緯(請求人とデザイナーとのやりとり)

引用商標のロゴデザインは、オーストラリアのグラフィックデザイナー(甲6)によって創作されたものであり、請求人と同氏の間で2017年5月22日のロゴデザインの依頼から約4か月間にわたってやり取りを重ねた上で完成したロゴデザインである(甲7~甲11)。

(3)引用商標の使用について

引用商標の文字部分は、遅くとも2017年5月22日の時点で請求人によって採択され、引用商標のロゴデザインは、2017年9月18日の時点で請求人のロゴとして完成していたものである。

その直後、請求人は、自社のホームページやクリニックにおいて引用商標の使用を開始した(甲12、甲13)。請求人による2017年9月30日付けの「Facebook」での投稿内容により、請求人が遅くとも2017年9月30日までにオーストラリアにおいて引用商標の使用を開始していたことが確認できる(甲14)。

そして、請求人は、2017年10月28日付けでオーストラリアにおいて商標「Myofocus」の出願を行った(甲15)。

その後、請求人は、2018年7月から2019年8月にかけて、オーストラリアで引用商標を使用した「歯科矯正に関する知識の教授,歯科矯正に関する情報の提供」等に関するセミナーを計6回開催している(甲16~甲21)。

さらに、請求人は、我が国においても、引用商標を使用した「歯科矯正に関する知識の教授,歯科矯正に関する情報の提供」等に関するセミナーを開催している(甲22~甲24)。

3 本件商標について

(1)本件商標の出願時期について

本件商標が出願されたのは、2019年9月27日であって、請求人による愛知県常滑におけるセミナー開催期間(2019年9月22日~26日)の翌日である。

約4か月間にわたるデザイナーとのやりとりを経てようやく完成した引用商標のロゴと、本件商標の構成が偶然に一致したものとは考え難いことなどに鑑みれば、被請求人が、本件商標出願前より、請求人及び引用商標の存在を認識しながら、請求人の日本におけるビジネスを妨害する目的で、引用商標を剽窃して我が国で商標登録出願を行ったものであることが明らかである。

(2)本件商標の作成について

ア 領収書について

(ア)被請求人は、平成27年11月24日に乙第22号証の領収書の交付を受けたと主張するが(乙16)、収入印紙の形式(デザイン)は平成30年7月1日に改正されているところ、乙第22号証に添付されている収入印紙は、平成30年7月1日の改正後の収入印紙である(甲41~甲43)。このため、乙第22号証は平成27年11月24日当時に作成されたものではなく、被請求人の平成27年11月24日に乙第22号証の領収書の交付を受けたとの主張に信用性がないことは明らかである。

被請求人が平成27年11月24日に乙第22号証の交付を受けたとの主張に信用性がないということは、被請求人がA氏(審決注:被請求人が本件商標を作成したと主張する者を本審決において「A氏」と表す。)に対して50万円を支払ったとの請求人の主張や、当該支払いの前提であるロゴデザインに関する業務委託契約が締結されていたとの主張もまた信用性がない。

(イ)被請求人は、「領収書」(乙22)に2018年7月1日から適用開始となった収入印紙が貼付されている理由について、乙第22号証が、実際には2015年当時に発行されたものではなく、2018年10月にデザイナーであるA氏から再発行を受けたものであるためと主張している。

しかしながら、2015年当時の領収書を約3年後の2018年に再発行することは通常考え難いものである。

被請求人のような個人事業主が経費処理を行う場合、毎年12月が決算月となり、翌年3月に確定申告をすることになるため、2015年11月24日の領収書は、2015年の経費として2016年3月の確定申告の際に使用され、他の領収書とともに保管されるためである。

したがって、既に2016年3月に確定申告を終えているはずの乙第22号証の領収書について、2018年になって突然、再度領収書が必要となり、A氏から再発行を受けたとする被請求人の主張は、極めて不自然であるといわざるを得ない。

そもそも、乙第22号証が2018年に再発行されたものであるならば、被請求人は初めからその旨説明すべきである。

(ウ)被請求人は、再発行した領収書(乙22)を税務調査のために保管していたと主張し、領収書の再発行の経緯をるる主張している。

しかしながら、乙第22号証に再発行である旨が明記されていないという不自然な点に加え、本件商標の作成日を証明するために高い信用性が求められる証拠であるにもかかわらず、被請求人は、乙第22号証の領収書が再発行に係るものであることを初めから開示しなかったこと、被請求人が「元の領収書だけでなく、再発行の領収書(乙22)も原本を紛失して提出できない」と述べていることなどに鑑みると、乙第22号証が再発行に係るものであるとの被請求人の主張は、全く信用できないものである。

乙第22号証の領収書に貼付された収入印紙は、被請求人が、当該領収書を含めた一連の証拠を作り上げる際に、当該領収書の信用性を高めるために貼付されたものであると推察されるが、平成30年7月1日付けで収入印紙のデザインが変更されていることに気が付かなかったがために、かえって証拠の信用性を失う結果となったものである。

以上のことから、乙第22号証の領収書は信用できないものであり、当該領収書を含めた証拠に基づいた本件商標の作成についての主張は、極めて疑わしいものである。

なお、被請求人は、宣誓供述書(乙57)を提出し、A氏の宣誓内容の信用性が極めて高いなどと主張しているが、本件商標の作成に係る一連の証拠がA氏の協力の下に作出されたものである疑念が極めて強いものである以上、乙第57号証は証拠力を欠くものである。

イ 銀行口座からの支払記録について

被請求人は、乙第21号証をもって、「銀行口座からの支払記録」があると主張するが、乙第21号証は、被請求人個人の銀行口座から平成27年11月24日に支払機経由で50万円が出金されたことを示すにすぎない。また、一般的に、事業者間の契約における支払方法は振込みであり、乙第21号証からも被請求人は振込みによる支払を多用していることが確認できるにもかかわらず、本件商標の創作に係る契約に対する支払方法のみが現金交付であったということはいかにも不自然である。乙第22号証が事後的に作成されたものであることを踏まえると、当該50万円は、別途の目的に使用された可能性が極めて高い。

ウ 以上を踏まえると、乙第17号証から乙第20号証及び乙第22号証は、平成27年11月24日に支払機経由で金50万円が出金された記録があることを奇貨として、被請求人が、A氏の協力の下、事後的に作成したものである疑いが極めて強いものである。

以上のとおり、請求人による引用商標のロゴデザイン創作の経緯に不自然な点がない一方で、被請求人の主張内容や証拠には極めて不自然な点が多いことを踏まえると、引用商標が請求人によって真に創作されたものであることが明らかである。

エ 仮に被請求人が本件商標のロゴを平成27年8月1日の時点で採択していたとしても、採択から約4年以上も経過した令和元年9月27日の時点で本件商標を出願する動機は、請求人の日本でのビジネスを妨害すること以外考えられず、また、現在に至るまで「MYOFOCUS」の商標を一切使用していないことからしても、本件ロゴ採択に関する請求人の主張は極めて不合理である。

(3)本件商標の使用について

ア 被請求人は、乙第33号証から乙第38号証を挙げて、本件商標の使用実績があるなどと主張する。

しかしながら、乙第33号証、乙第34号証のチラシに掲載された本件商標は、本件商標とその上の「Spring」の「p」の文字との間隔が、他の部分における行間に比べて極端に小さく、レイアウト上極めて不自然である。

また、乙第35号証のチラシに掲載された本件商標も、2段書きで右上の空白部に孤立して配置されている点で、チラシの内容との関連性が見いだせず、レイアウト上極めて不自然である。

加えて、乙第33号証から乙第35号証が歯科用マウスピースのセール情報に関するチラシであることからして、サービス商標である本件商標(区分:41類、42類、44類)を使用するのも不自然である。

とすれば、乙第33号証から乙第35号証は、2016年から2018年に発行されたものというよりも、被請求人が既存のチラシに本件商標を追加する加工を行った疑念が強いといわざるを得ず、証拠力を欠くものである。

さらに、乙第36号証、乙第37号証は、被請求人がスプリングセールのチラシを作成した際の見積書及び請求書であったとしても、実際に乙第33号証から乙第35号証のチラシが作成されたであることを示す資料足り得ず、証拠力を欠くものである。

イ 請求人は、株式会社オーティカ・インターナショナル(以下「オーティカ社」という。)が2016年から2018年に実際に歯科医等に配布していたチラシを入手したため、甲第44号証から甲第50号証として提出する。

甲第44号証、甲第45号証及び甲第50号証は乙第33号証と、甲第46号証、甲第48号証及び甲第49号証は乙第34号証と、甲第47号証は乙第35号証と、チラシ上端のタイトル部分を除いてほぼ同一の構成である。

甲第44号証から甲第50号証は、表面、裏面共に何ら不自然な点が見られないのに対し、乙第33号証から乙第35号証は、本件商標の表示態様のみならず、本件商標の表示行為そのものが極めて不自然であることや、被請求人が本件商標を請求人よりも前に作成した被請求人オリジナルのものであるとする主張に強い疑念があることなどを考慮すると、乙第33号証から乙第35号証は、オーティカ社発行の甲第44号証から甲第50号証等の既存のチラシを基に、被請求人が本件商標を追加する加工を行った信用性の低い証拠であるといわざるを得ない。

ウ チラシの制作部数について

被請求人は、チラシについて、印刷物として相当数を制作し配布したものではないから、原本も存在しない、などと主張している。

しかしながら、被請求人は、乙第33号証のチラシを3,500枚制作し、歯科医師向けに配布したと主張しており、乙第33号証のチラシが業者に制作依頼された事実を示す証拠として見積書(乙36)及び請求書(乙37)を提出している。

したがって、チラシについて、印刷物として相当数を制作し配布したものではないとする被請求人の主張は、自らの主張と矛盾するものであり、また、たとえ印刷物の部数が少なかったとしても、被請求人がチラシの原本を提出できないことを正当化する理由とはならない。

エ 乙第33号証ないし乙第35号証のチラシについて、被請求人は、「チラシ(乙33~乙35)の制作が正当に行われたことを立証する。」と主張して、「御見積書」(乙36)及び「請求書」(乙37)を提出しているが、被請求人は、口頭審理において、これらは、乙第33号証ないし乙第35号証のチラシのものではないと主張している。

また、被請求人は、「様々な歯科矯正訓練の適応症例や習癖を紹介し、歯科矯正治療・訓練の方法や歯科矯正情報の提供に資するために使用したものである」として、本件商標が指定役務との関係で乙第33号証ないし乙第35号証のチラシに使用されており、乙第33号証のチラシについて、3,500部制作されたと主張している。

それが一転して、被請求人は、「出願前のまだ指定商品、指定役務が決定される前に、付記的かつ試み的に使用し、かつ限定された枚数に使用した商標にあっては、必ずしも、チラシに表示された商品やサービスと一致していなくても、何ら不自然ではない。」などと主張し、乙第33号証ないし乙第35号証のチラシが、付記的、試み的、限定的に配布されたものであると主張している。

このように、被請求人の主張に一貫性がないことからも、乙第33号証ないし乙第35号証のチラシは極めて不自然である。

加えて、被請求人は、「乙第33号証から乙第35号証のチラシは、甲第44号証から甲第50号証のチラシを配布した顧客等のうち、オーティカ社と懇意の限られた大口顧客にスプリングセールが実施されていることを再度認知してもらうために小部数配布したもの」であると主張している。

しかしながら、スプリングセールの実施期間はほんの1か月程度であり、この短期間に、甲第44号証から甲第50号証のチラシと異なる乙第33号証ないし乙第35号証のチラシを、2016年から2018年の3年連続で、チラシ制作会社にわざわざ制作依頼するというのはいかにも不自然である。また、セールの再周知のためであるとしても、わざわざチラシの裏面を削除する理由はなく、乙第33号証ないし乙第35号証の原本が存在しないという点も、極めて不自然である。

以上を踏まえると、乙第33号証ないし乙第35号証のチラシは、平成28年に甲第44号証のチラシが制作された際の「御見積書」(乙36)及び「請求書」(乙37)があることを奇貨として、甲第44号証ないし甲第50号証のチラシを基にして後から加工して本件商標を表示したものである疑いが極めて強いものである。

4 本件商標と引用商標の類否

本件商標と引用商標は、同一の商標である。

5 本件商標の指定役務と引用商標の使用に係る役務

本件商標の指定役務は、上記第1のとおりであるのに対し、引用商標の使用に係る役務は、「歯科矯正に関する知識の教授,歯科矯正に関するセミナーの企画・運営又は開催,歯科矯正に関する情報の提供」等であって、両者の役務は重複するものである。

6 請求人の引用商標の使用を阻止するための被請求人からの警告書送付について

請求人は、被請求人より、令和3年11月24日付けで、請求人が引用商標を日本向けのウェブサイトで使用する行為が、本件商標及び登録第6412652号商標に係る商標権侵害に該当するなどとして、引用商標の使用中止を求める旨の同年10月27日付け警告書(郵送)を受領した(甲40)。

7 創作過程の証拠に疑念が生じる余地のない極めて信憑性の高い引用商標と本件商標が全く同一の商標であること、本件商標の登録出願日は引用商標の使用開始時期よりも遅く、請求人が初めて日本で行ったセミナーの直後であること、被請求人が本件商標を2015年8月1日に採択したとは到底考えられないこと、本件商標の指定役務は、被請求人自らが過去の商標登録出願で指定したことのない役務であって、引用商標の使用に係る役務と重複するものであること、被請求人が代表を務める会社と請求人が共に歯科矯正に関するビジネスを行っていること、実際に、被請求人から請求人に対する本件商標に係る警告書の送付(請求人の日本におけるビジネスを阻止する行為)が生じたこと等を併せて考慮すれば、本件商標は、被請求人が偶然に引用商標と酷似したものをその要部として登録出願したものとは到底考えられず、引用商標の存在を承知しながら引用商標が我が国において商標登録されていないことを奇貨として、請求人が引用商標を使用することを阻止し、あるいは使用契約締結を強制するなどの目的で、引用商標と同一の商標を出願したものであると解すべきである。

このような出願の目的及び経緯に鑑みれば、被請求人による本件商標は、適正な商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠く行為というべきであり、これに基づいて、被請求人を権利者とする商標登録を認めることは、公正な取引秩序の維持の観点からみても不相当であり、「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護する」という商標法の目的(商標法第1条)にも反するというべきである。

以上のことから、本件商標は、その出願の目的及び経緯に照らし、その登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものであり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に該当し、商標法第4条第1項第7号に該当するものであることが明らかである。

8 「どちらかが剽窃したかを問うまでもないこと」について

被請求人は、請求人と被請求人のいずれが本件商標を剽窃したかを問うまでもなく、被請求人が本件商標について商標登録を得たことが商標法第4条第1項第7号に該当しない旨主張する。

かかる主張は、仮に被請求人が引用商標を剽窃していたとしても、被請求人が本件商標について商標登録を得たことが商標法第4条第1項第7号に該当しない、と主張しているのと同じことである。

しかしながら、被請求人が引用商標を剽窃したことが事実であれば、本件ロゴの作成・使用に係る被請求人の主張及び提出証拠が全て虚偽のものであるということになる。

すなわち、被請求人は、審査段階では、意見書提出時に、虚偽の主張及び証拠に基づいて審査官を欺いて商標登録を得たことになり、また、本件審判請求においても、審判合議体を欺いて、商標登録の無効を免れようとしていることになる。

このような行為は、商標法第79条の詐欺の行為の罪に該当するものであり、かかる行為が公序良俗に反しないことなどあり得ない。

第4 被請求人の答弁

被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第57号証(枝番号を含む。)を提出した。

1 商標法第4条第1項第7号該当性について

請求人の主張は、被請求人が、本件商標の出願日(2019年9月29日)より前に、請求人及び引用商標の存在を認識しながら、請求人の日本におけるビジネスを妨害する目的で、引用商標を剽窃して我が国で商標出願を行ったものであり、これは、当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠き、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものである、というものである。

しかしながら、請求人こそが、被請求人の採択した商標を剽窃して、まずオーストラリアで商標登録し、その後、日本への進出に伴い、我が国へも商標出願した疑いが極めて強い。

2 引用商標の創作及び使用開始時期について

(1)引用商標の文字「Myofocus」採択の経緯

請求人は、引用商標は、2017年の法人設立に際し、請求人の共同創設者によって創作された社名商標であること、「Myofocus」の文字は、「筋肉」を意味する接頭語の「Myo」と「焦点」を意味する「focus」を結合した語であることなどと述べているが、そのような事実は不知である。

被請求人は一貫して「筋肉」を表す「Myo」に由来する「Myosouce」、「Myobrace」などの「Myo」シリーズの商標を採択してきたのであり、本件商標「Myofocus」もそのシリーズ商標の一つである。つまり、「Myofocus」が採用されたことに必然性があり、本件商標は、請求人の「Myofocus」と偶然の一致で採用されたものではないことをうかがわせるものであって、ましてや請求人の商標を剽窃したものでないことは明らかである。

(2)引用商標のロゴデザイン採択の経緯(請求人とデザイナーとのやり取り)

請求人は、請求人の設立前にオーストラリアのグラフィックデザイナーとの間で2017年5月22日から約4か月間にわたってやりとりを重ねた上でのロゴデザインであると述べ、メールでのやり取りを証拠として提出している。

しかしながら、上記ロゴデザインの制作過程において、極めて不自然な点がある。

(3)引用商標の使用について

被請求人は、請求人が2017年9月30日までに引用商標をオーストラリアで使用したことについては、これを否定するものではないし、また、同年10月28日付けでオーストラリアにおいて商標「Myofocus」の出願を行ったことについては、そのとおりである。

(4)請求人による引用商標の使用に至る経緯

ア Myofunctional Research Corporation Pty.Limited(以下「MRC社」という。)は、「MYO」を接頭語とする商標について国際商標登録を複数得ているが(乙12~乙14、乙49~乙54)、それ以外の商標にも、将来使用する必要が生じることに備えて「MYO」シリーズ商標を多数準備していた。

イ 被請求人がMRC社を訪れた際に、「MYO」シリーズ商標の一部を見る機会があり、それを見た被請求人は「MYO」シリーズ商標のデザインイメージがひらめき、「MYOFOCUS」の文字商標等について商標登録出願を行ったものである。

ウ 他方、請求人は引用商標を自ら作成したものと主張し、その根拠として甲第7号証の3、5、7及び9の提案書(以下「提案書(1)」という。)及び甲第7号証の12及び14の提案書(以下「提案書(2)」という。)を提出しているが、提案書(1)と提案書(2)のロゴデザインは全く別物であり、提案書(1)のロゴデザインから提案書(2)のロゴデザインが導かれるとは考え難い。

しかも、最終的に提案書(2)により引用商標を選択し、請求人の商標として使用するのであれば、引用商標や引用商標を構成するロゴについてもオーストラリアにおいて商標権による保護を受けることを欲し、商標登録出願がなされるはずであるが、単なる文字商標のみが商標登録出願されているだけで(甲15)、不自然である。

以上からして、上記提案書により、請求人が引用商標を自ら作成したという主張は信用できない。

エ また、請求人の代表者は、2013年から2017年までMRC社に歯科医として勤務しており、MRC社の承諾なく、同社が著作権を保有する筋機能矯正療法の写真等が記載された冊子を請求人が実施したセミナーで配布している(乙41)。

オ これらのことからすると、請求人が被請求人の本件商標を剽窃したのでなければ、少なくとも請求人はMRC社の商標のロゴデザインの構成を見た上で、それに着想を得て引用商標を作成したものと考えざるを得ない。

いずれにしても、上記の経緯から明らかなように、被請求人は、引用商標を剽窃して本件商標の商標登録を得たものではない。

3 本件商標について

(1)本件商標の出願時期について

請求人は、被請求人が本件商標の出願前から請求人及び引用商標の存在を認識しながら、請求人の日本におけるビジネスを妨害する目的で、引用商標を剽窃して商標登録出願をしたなどと述べている。

しかしながら、そもそも偶然の一致とは考えられないオリジナルなMyofocusのロゴと図形は、請求人が採択する2017年9月の約2年前の2015年10月に被請求人がデサイナーに委託して完成させていたものである(乙16~乙22)。

したがって、被請求人が請求人の引用商標を剽窃したなどとは到底考えられず、逆にMyofocusのロゴと図形の制作時期が約2年早い被請求人の上記ロゴと図形を請求人が剽窃したと推測する方が説得力があり、かつ、その可能性は極めて高いといわなければならない。

(2)本件商標の作成について

ア 印紙について

(ア)請求人は、被請求人が提出した乙第22号証の「領収書」に貼付された印紙は、平成30年7月に改正後の印紙であるから、平成27年11月24日当時に作成されたものではなく、同日に「領収書」の交付を受けたとの主張は、信用性がないなどと述べている。

上記「印紙」の件について、被請求人は、平成29年8月に事務所を移転する際に、「領収書」を紛失したため、その後、平成30年10月にA氏に再発行してもらったものである。

そこで、被請求人の会社が事務所を移転したことを証する書類(乙42)、及び被請求人の会社が交わした「貸室賃貸借契約証書」(乙43)を提出するとともに、デザイナーのA氏が「領収書」が再発行されたものであることを立証する書類(乙44)を提出する。

以上のとおりであるから、A氏の領収書に新しいデザインの印紙が貼付されていたとしても、何ら不自然ではない。

(イ)領収書は、再発行しないことが一般的であり、再発行する場合は、「再発行」と明記することが多いとの点について

確かに、経費水増し等、悪用される可能性の観点から、領収書の再発行はしない場合があることは、必ずしもこれを否定するものではないし、また、再発行する場合は、「再発行」と明記する場合があることも否定するものではない。

しかしながら、いずれも、原則論に基づくものであり、全てのケースにおいて、また、いかなる場合においても再発行しないなどのことはあり得ないし、同様に、再発行する場合は、例外なく「再発行」と明記されるというものでもない。

ましてや、本件は、個人対個人の「ロゴデザインに関する業務委託契約書」(乙17)に基づき発行された「領収書」の再発行に係るものである。

このように、個人対個人の間で再発行された「領収書」のケースにおいてまで、しかも、50万円という(大企業等からみれば)比較的、少額の商取引において、原則どおりに「領収書は再発行しない。」、「再発行する場合は、「再発行」と明記される。」のが普通であり、この原則に合致しない本件の再発行の事例は、極めて疑わしい、との判断は、やや厳格にすぎるものといわざるを得ない。

したがって、本件再発行の「領収書」について、上記の原則論に従っていないから疑わしい、との判断には納得できない。

さらに、上記の再発行「領収書」が疑わしいとの一点のみをもって、他の乙第16号証「ロゴデザインに関する業務委託契約書」ないし乙第21号証「銀行口座からの支払記録」までもが、すなわち、これらは、全て日付が記載され、また、捺印がされ、全て時系列的にも整合し、平仄も合っている証拠までもが、全てが「疑わしい」としている点については、到底承服することができない。

(ウ)領収書(乙22)は、税務調査のために保管していた。

(エ)領収書の再発行の経緯

a 被請求人は、領収書をまち付き保管紙袋に入れて机の中に保管しており、乙第22号証の領収書が再発行される元の領収書(以下「元領収書」という。)も、同保管紙袋に入れて机の中で保管していたところ、平成29年8月に事務所の引越しが行われたが(乙42)、他の書類と一緒に箱詰めされ、新事務所に持ち込まれた。

b その後、A氏にロゴデザインを依頼していた商標のうち「マイオソース」について平成30年9月25日に商標登録出願を行うこととなり、念のためシンボルロゴの提案書、契約書、請求書、領収書を確認したところ、元領収書を入れた同保管紙袋が紛失していることが発覚した。

c しかし、被請求人は個人事業者としての金銭の支出自体が少ないため紛失した同保管紙袋に入っていた領収書の枚数も少なく、その多くは領収金額も低額であり、それについて手間と時間をかけて再発行を求めることはしなかった。

また、少数あった低額といえない支払については銀行振込の履歴等(乙21)で支払を証することができ領収書の再発行を求める必要はなかったが、元領収書の支払は現金のため、銀行振込の履歴等で支払の事実を証することができず、しかも、金額が50万円と大きかったことから、元領収書については再発行を依頼することとなったものである。

d 被請求人としては、A氏が被請求人から2015年(平成27年)11月24日にロゴデザインの代金として50万円を領収したという事実をA氏が自己の認識に基づき認めているということでは、再発行した領収書と元領収書でその証明力に差異はないと考え、乙第22号証の領収書を提出した際に、あえて再発行したものと述べなかったにすぎず、当該領収書の信用性を害することになるものではない。

(オ)宣誓供述書

乙第57号証のA氏の宣誓供述書は、公証人の面前で、証書の記載が真実であることを宣誓した上で署名押印したものであり、その信用性は極めて高く、同宣誓供述書記載の各事実を認めることができる。

よって、同宣誓供述書の記載から、平成27年(2015年)に被請求人がA氏に本件商標のロゴデザインの制作を依頼したことは明らかである。

イ 銀行口座の出金記録の件

請求人は、被請求人の銀行口座の記録(乙21)について、「単に口座から50万円の出金があったことを証明するにすぎず、また、本件商標の創作に係る契約に対する支払方法のみが現金であったことは不自然である。」などと述べている。

しかしながら、現金での支払は、デザイナーの要望によるものであり、その求めに応じて銀行口座から現金で出金し、支払ったものであるから、何ら不自然なところはない。むしろ、全ての支払は振込みであるべきで、現金での支払を疑問視し、現金での支払を一切否定することこそ不自然である。

以上のとおり、単に被請求人とデザイナーとのやり取りがないことや、領収書の印紙のデザインの相違等々の点を捉えて、前記の乙各号証の全てを否定し、証拠力がないなどとする請求人の主張は明らかに誤りである。

(3)本件商標の使用について

ア 被請求人は本件商標を一切使用していない、との主張について

請求人は、仮に被請求人が本件商標のロゴを2015年10月に採択したとしても、採択から4年を経過した2019年9月に本件商標を出願する動機は、請求人の日本でのビジネスを妨害すること以外考えられず、また、現在に至るまで本件商標の使用を一切していない、などと主張している。

しかしながら、請求人の上記の主張は全く誤りである。

まず、「現在に至るまで本件商標を一切使用していない」との主張に対し、被請求人は、2016年3月、2017年3月及び2018年3月に本件商標を付したチラシを制作し、歯科医向けに配布した(乙33~乙35)。

また、上記チラシの制作が正当に行われたことを「御見積書」(乙36)、「請求書」(乙37)、「履歴事項全部証明書」(乙38)により立証する。

上記のとおり、被請求人は、2016年3月、2017年3月、2018年3月の3回にわたり、「Spring Sale」と称して本件商標を付したチラシを制作し配布している。

なお、本件商標は、チラシ上部に使用されており、その下の「口腔筋機能Trainer」に記載されているとおり、様々な歯科矯正訓練の適応症例や習癖を紹介し、歯科矯正治療・訓練の方法や歯科矯正情報の提供に資するために使用したものである。また、個々の歯科矯正器具には「Myobrace」商標が使用されている。

イ チラシについて

請求人は、被請求人が本件商標及びそのロゴを使用していたとして提出した乙第33号証ないし乙第35号証は、不自然であり、信用性の低いものである、としている。

また、請求人が歯科医師から入手したチラシ(甲44、甲48、甲49)と上乙第33号証ないし乙第35号証とは、同一のチラシと思料するが、後者は不自然な点が見られないのに、前者は不自然である、などと述べている。

まず、被請求人の作成したチラシは、多種類にわたり、全て同一のチラシを配布したわけではないし、加えて、乙第33号証ないし乙第35号証は、いずれも本件商標及びそのロゴの商標出願前のものであるから、出願前に本件商標やロゴを表示したチラシを大量に配布するわけがない。その配布はごく少数にとどまり、また、その形態も「ペラ1枚」のものである。

よって、請求人が歯科医師から入手したものとは別物である可能性が高く、また、そもそも本件商標及びそのロゴが使用されていたか否かについては、本件審判の結論に何ら影響を及ぼすものではない。

ウ 見積書(乙36)及び請求書(乙37)は、チラシ(乙33~乙35)のものではない。

エ チラシの配布

(ア)甲第44号証から甲第50号証のチラシは、顧客ないし顧客となる可能性がある者に配布されたもので、厚紙に印刷され、裏面にはオーティカ社で販売する用途に応じた各製品について複数の色、サイズ、価格が表示され、注文書として使用する態様のもので、実質はカタログ兼注文書というべきもので、当該チラシにより注文を受けることが想定されているものである。

(イ)これに対して、乙第33号証から乙第35号証のチラシは、甲第44号証から甲第50号証のチラシを配布した顧客等のうち、オーティカ社と懇意の限られた大口顧客にスプリングセールが実施されていることを再度認知してもらうために小部数配布したもので、配布した紙片により顧客からの注文を受けることを想定されていなかったため、1枚表面刷りの簡易なチラシという態様となったにすぎず、甲第44号証から甲第50号証のチラシのように裏面に記載がないからといって何ら不自然なものではない。

(ウ)また、乙第33号証から乙第35号証のチラシの上欄には本件商標が記載されている。これは、この時点では本件商標は商標登録出願されておらず、広く使用する状況にはなかったが、平成27年(2015年)に本件商標のロゴデザインを作成し、顧客の反応も確認する必要があったことから、限られた顧客に小部数のみ配布されるチラシに本件商標を記載して試験的に使用することとしたもので、当該チラシに本件商標の表記がなされ、甲第44号証から甲第50号証のチラシに本件商標の表記がなされていないことは何ら不自然なものではない。

4 請求人と被請求人のいずれが剽窃したかを問うまでもなく、被請求人が本件商標について商標登録を得たこことが商標法第4条第1項第7号に該当しないことは明らかである。

(1)先願登録主義が妥当し公序良俗を害するものでないこと

請求人は、日本においてセミナーを令和元年(2019年)9月22日から26日の間開催しているが(甲22)、当該セミナーの開催には少なくとも数か月の準備期間を要するため、同開催日の数か月前には日本で引用商標を使用することが決定されており、請求人が日本で引用商標を他に妨げられることなく使用することを欲するのであれば、当該決定時点で、引用商標を商標登録出願することが可能であった。しかも、請求人はそれ以前にオーストラリア国内で引用商標を商標登録出願し、商標登録を得ており(甲15)、自ら使用する標章を他に妨げられることなく登録商標として保護を受けるためには商標登録出願が必要なことも認識していた。

それにもかかわらず、請求人は当該セミナーの期間が終了するまでに日本で引用商標の商標登録出願を怠ったため、それより後の同月27日にたまたま被請求人により行われた本件商標の商標登録出願が先願となり商標登録されたものであって、商標法が規定している先願登録主義(商標法第8条)からは当然の帰結であり、商標法第4条第1項第7号の公序良俗を害することとなるものではない。

(2)請求人の商標法第4条第1項第7号に該当するとの主張は信義則に反し許されないこと

ア MRC社は、1989年から筋機能習癖を改善するための研究を行い、矯正前筋機能矯正療法(以下「MRC社矯正前筋機能矯正療法」という。)を開発し、MRC社の知的財産権を用いて、自社で当該療法を実施するとともに当該療法に用いる装置の製造販売、歯科医師向けのセミナーを行い、オーティカ社を日本の総代理店として日本国内で当該装置の販売(乙5、乙6)、同セミナーを行っている(乙7~乙11)。

イ MRC社は、「MYOBRACE(myobrace)」の文字からなる商標(以下「MYOBRACE商標」という。)、接頭「MYO」の3文字を共通にする商標、自ら実施した療法の状況を撮影した写真(以下「MRC社写真」という。)の著作権などの知的財産権(以下「MRC社知的財産権」という。)を保有し、同知的財産権をオーティカ社に対して日本国内での独占的使用権を許諾している(乙45)。

ウ ところが、請求人は、日本において2020年1月31日から2月4日までの間に開催されたセミナー(甲23の1。以下「第2回セミナー」という。)において配布した冊子(以下「請求人冊子」という。)には、引用商標とともに、MYOBRACE商標及びMRC社写真等が繰り返し記載されていた(乙41、乙41の2)。そのため、請求人冊子の配布を受けた受講者において、あたかも請求人がMRC社のグループ企業ではないかなどの誤認混同を生じさせていた。

また、オーティカ社の関連会社である株式会社オーティカマイオソースによるMRC社矯正前筋機能矯正療法の広告宣伝のウェブページにおいても、接頭「MYO」の3文字を共通にする商標が併記されており(乙55)、「MYO」シリーズ関連商標と認識される状況にあるところで、請求人冊子でも、接頭「MYO」3文字で共通する引用商標とMYOBRACE商標が強く関係付けられ、あたかも、引用商標がMRC社の「MYO」シリーズ関連商標であり、MRC社の出所を示す商標かのような誤認混同を生じさせている。

このセミナーの4か月前に日本で開催された請求人による令和元年(2019年)9月22日から26日までの間のセミナーでも、請求人冊子と異なる内容の冊子を使用することは考え難く(乙41の2、甲22の2)、請求人冊子と同じ記載がなされていることが強く推認され、また、第2回セミナーの5日後の令和2年(2020年)2月9日から11日までの間に請求人により名古屋で開催されたセミナーも請求人冊子が使用されていると考えざるを得ず、上記のような誤認混同が生じることとなっていたと考えられる。

このように請求人は、引用商標の名の下で、MRC社知的財産権を侵害する請求人冊子をセミナーに用いてMRC社やその日本の総代理店であるオーティカ社の事業を繰り返し妨害する行為を行っており、請求人による当該引用商標の使用こそ適正な商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠く行為であり、保護する必要はない。それにもかかわらず、請求人がオーティカ社や関連会社の事業のために被請求人により行われた本件商標の商標登録が適正な商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠く行為であるとして商標法第4条第1項第7号に該当するとの主張は信義則に反し許されない。

(3)本件商標の商標登録は社会的妥当性を欠く行為とはいえないこと

ア 被請求人が請求人に対し、商標権に基づき警告書を送付することは、商標権の行使として当然のことであり、それだけで被請求人が引用商標を使用することを阻止することのみを目的として商標登録出願したことになるものではない。また、当該警告においては、日本国内で引用商標を使用しないように求めるだけで、使用契約を締結するように強制するようなことはなされておらず、他に被請求人が請求人に対して使用契約締結を強制するなどの事実も認められず、請求人が主張するような目的で被請求人が商標登録出願を行ったということはできない。

イ オーティカ社と請求人の間で紛争が生じることとなったのは、MRC社知的財産権を侵害する行為がなされた第2回セミナーの後であり、このような状況において、本件商標の商標登録出願がなされた令和元年(2019年)9月27日の時点で被請求人が請求人による引用商標の使用を阻止することを目的として商標登録出願を行うような事情にはなく、被請求人が当該目的で、商標登録出願を行うことは唐突で不自然であり、考えられない。

ウ 本件商標の商標登録出願は、請求人が主張するような請求人による引用商標の使用を阻止することを目的としたものでもなければ、請求人に使用契約締結を強制する目的でなされたものではなく、「適正な商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠く行為」というものではない。

(4)裁判例による商標法第4条第1項第7号の事由が認められないこと

ア 被請求人は、請求人に対し日本国において本件商標の使用をしないよう警告をしたが(甲40)、それは商標権者として当然の権利行使であって、不当に高額な代金で商標権を買い取るように求めるようなことなどはしておらず、被請求人には不正な利益を得る目的は認められない。

イ オーティカ社、その関連会社は、筋機能矯正療法を開発し、同療法の第一人者で、日本でも小児矯正歯科業界で広く知られているMRC社の日本総代理店として、同社からMRC社知的財産権の日本国内での独占的使用権の許諾を得ており、筋機能矯正療法に関して他社標章の名声にフリーライドする必要はない。

そもそも、上記のように本件商標の商標登録出願時に請求人との関係で引用商標は日本で広く知られておらず、請求人の出所を示すものとして引用商標に何らの信用も形成されていなかった。

このように引用商標には何らの名声もなく、フリーライドする前提を欠いており、オーティカ社や被請求人がわざわざ引用商標の名声にフリーライドすることを目的として、本件商標の商標登録出願をするようなことはない。

ウ 被請求人は、請求人と代理店契約を含め一切取引関係はなく、日本国内での請求人による引用商標の使用を保護、維持するような法的義務も信義則上の義務も負っておらず、被請求人による本件商標について商標登録を得ることは請求人に対する背信的行為となるものではない。

エ 以上のように、裁判例で商標法第4条第1項第7号の公序良俗を害するとされたような事由は被請求人には認められない。

5 請求人は、「審査官を欺いて商標登録を取得し、あるいは、審判合議体を欺いて商標登録の無効を免れる行為は、商標法第79条の詐欺の行為の罪に該当するものであり、かかる行為が公序良俗に反しないことなどあり得ない。」と主張している。

しかし、請求人の主張は、当初の請求の理由として記載した「権利を無効にする根拠となる事実」とは実質的に異なる無効事由の事実を主張するものであり、請求の理由の要旨変更となり、許されない。

第5 当審の判断

1 商標法第4条第1項第7号該当性について

(1)本件商標と引用商標との比較

本件商標は、前記第1のとおり、「マイオフォーカス」の片仮名と「MYOFOCUS」の欧文字とを2段に表してなるものであり、他方、引用商標は、別掲1及び2のとおり、左に特徴的な図形、その右に「mYofocUs」の文字を配した構成からなるものである。

そうすると、両者は、大文字か小文字かの違いはあるものの、その構成文字を共通にするものである。

そして、被請求人は、本件商標の登録出願の日と同日(令和元年9月27日)に別掲3のとおりの構成からなる登録第6412642号商標(以下「関連商標」という。)を登録出願しているところ、関連商標及び引用商標は、いずれも左に図形、その右に欧文字を配した構成からなるものであるが、両者の図形は特徴的な図形であるにもかかわらずほぼ同一であり、また、欧文字部分についても、2文字目及び後ろから2文字目のみが大文字で、他の文字が小文字という特徴を含め、その構成文字が同一である。

このように特徴的な部分を同一にする関連商標と引用商標とが偶然に一致したものとは到底いえない。

そうすると、請求人の引用商標と被請求人の関連商標とは、どちらかが他方を剽窃したものといわなければならず、このことともあいまって、関連商標と同日に登録出願された本件商標についても同様に、引用商標との関係では、どちらかが他方を剽窃したものといわなければならない。

(2)引用商標の作成及び使用について

ア 請求人は、平成29年(2017年)5月22日から同年9月18日までに引用商標を作成した旨主張するとともに、遅くとも同年9月30日までにオーストラリアにおいて引用商標の使用を開始していたと主張している。

イ 請求人の提出に係る証拠によれば、請求人は、遅くとも平成29年(2017年)9月30日には、オーストラリアにおいて、自社のウェブサイト及びクリニックに引用商標を使用していたことが認められ(甲12~甲14)、このことは、前記第4の2(3)のとおり、被請求人も争っていない。

(3)本件商標の作成及び使用についての被請求人の主張

被請求人は、請求人よりも2年前の平成27年(2015年)10月には本件商標を作成した旨主張するとともに、同28年(2016年)3月、同29年(2017年)3月及び同30年(2018年)3月に本件商標を使用していた旨主張している。

(4)前記(1)のとおり、本件商標と引用商標とは、どちらかが他方を剽窃したものといわなければならないところ、前記(2)及び(3)によれば、請求人による引用商標の使用が認められる平成29年(2017年)9月30日以前、加えて、請求人が主張する引用商標の作成開始時である同年5月22日以前において、被請求人による本件商標の作成又は使用を認めることができれば、本件商標は、引用商標を剽窃したものではないということができ、反対に、当該作成又は使用を認めることができなければ、本件商標は、平成29年(2017年)9月30日までにオーストラリアにおいて使用されていた引用商標を剽窃したものということができる。

(5)本件商標が平成27年(2015年)10月に作成されたかについて

ア 両当事者の提出に係る証拠及び同人の主張(以下「証拠等」という。)によれば、次の事実を認めることができる。

(ア)被請求人とA氏との間で、平成27年(2015年)8月1日付けで締結されている「ロゴデザインに関する業務委託契約書」には、被請求人がA氏に「MYOFOCUS」等のロゴデザイン制作に関する業務を委託すること、業務委託費は50万円(消費税及び地方消費税を含む。)とすることが記載されている(乙17)。

(イ)平成27年(2015年)9月20日付けの「シンボルロゴのご提案」と題する書類には、多数の標章が記載されており、その中には、関連商標とほぼ同一の標章が含まれている(乙18)。

(ウ)平成27年(2015年)10月付けの「シンボルロゴの最終案」と題する書類には、関連商標とほぼ同一の標章が記載されている(乙19)。

(エ)A氏が被請求人に宛てた平成27年(2015年)10月30日付けの「請求書」には、「件名」として「ロゴデザイン費(計4種)」の記載があり、また、「御請求金額」として「¥500,000(税込)」の記載がある(乙20)。

(オ)被請求人の銀行口座通帳には、平成27年(2015年)11月2日から同月25日までの間に、多数の振込記録があり、また、同月24日に50万円の出金記録がある(乙21)。

(カ)A氏が被請求人に宛てた「領収書」(以下「本件領収書」という。)には、「現金」、「¥500,000-」、「ロゴデザイン代として」及び「2015年11月24日 上記正に領収いたしました」の記載があり、また、200円の収入印紙が貼付されている(乙22)。なお、本件領収書には、「再発行」である旨の記載はない。

(キ)本件領収書に貼付されている収入印紙は、平成30年(2018年)7月1日から適用開始となったデザインのものである(甲41~甲43)。

(ク)被請求人が代表取締役を務める会社が平成29年(2017年)8月9日に移転した(乙38、乙42、乙43)。

(ケ)被請求人は、前記(ク)の移転の際に、本件領収書の元の領収書(元領収書)を紛失し、その後、平成30年(2018年)10月にA氏に再発行してもらい、税務調査のために保管していたと主張している。

(コ)A氏が被請求人に宛てた令和5年(2023年)8月9日付けの書面には、被請求人が元領収書を紛失したため、被請求人の依頼により、2018年(平成30年)10月に当初の日付を付した本件領収書を再発行したことを証明する旨が記載されており(乙44)、また、A氏による同年12月1日付けの宣誓供述書(公証人による認証がされている。)にも同様の内容が記載されている(乙57)。

(サ)被請求人は、令和4年4月11日付け提出の審判事件答弁書においては、本件領収書が再発行のものである旨は特段述べておらず、同日付け提出の証拠説明書においても、本件領収書である乙第22号証の作成年月日について、「平成27年(2015)11月24日」と記載されていた。

(シ)請求人が、令和4年9月27日付け提出の審判事件弁駁書において、本件領収書に貼付されている収入印紙は平成30年(2018年)7月1日から適用開始となったデザインのものである旨主張したところ、被請求人は、令和5年8月21日付け提出の審判事件答弁書(第二回)において、本件領収書は再発行されたものである旨を主張し、また、同年12月19日期日の第1回口頭審理において、同4年4月11日付け証拠説明書における本件領収書である乙第22号証の作成年月日を「平成30年10月中旬」に訂正した。

(ス)本件領収書である乙第22号証は、写しを原本として提出されている。

イ 判断

前記アによれば、本件商標及び関連商標の作成までの経過としては、平成27年8月1日にロゴデザインの業務委託契約、同年9月20日のシンボルロゴの提案、同年10月のシンボルロゴの最終案、同月30日の代金請求、同年11月24日の銀行口座からの出金及び代金領収といった一連の時系列に一応矛盾はないといえる。

しかしながら、本件領収書には200円の収入印紙が貼付されているところ、貼付されている収入印紙のデザインは、平成30年7月1日から適用開始となったデザインであり、同27年11月24日付けの本件領収書に当該収入印紙が貼付されていることは、極めて不自然といわなければならない。

この点について、被請求人は、事務所移転の際に元領収書を紛失したため、A氏に再発行してもらった旨主張している。

ところで、領収書の再発行は、経費の水増しといった悪用をされる可能性があるため、多くの事業者は、再発行しないのが一般的と考えられる。また、そのような悪用を防ぐために、領収書を再発行する場合には、その書面に「再発行」である旨を明記する場合が多いと考えられる。

しかしながら、本件領収書には、「再発行」である旨の記載はない。

また、被請求人は、領収書を再発行しない場合があることや、再発行する場合にはその旨明記する場合があることは、原則論に基づくものである旨主張している。

確かに、領収書が再発行される場合があり、その際に再発行である旨が記載されない場合もあり得るといえる。

しかしながら、被請求人は、当初、本件領収書が再発行のものである旨は特段述べていなかったが、請求人から収入印紙のデザインについて主張されると、本件領収書は再発行されたものであるとその主張を変え、本件領収書である乙第22号証の作成年月日を訂正したものであり、また、被請求人は、本件領収書の原本を提出していない。

そうすると、たとえ、本件領収書が再発行のものである旨のA氏からの書面(乙44)及び宣誓供述書(乙57)を踏まえても、本件領収書の信用性は低いものといわなければならない。

そして、被請求人は、振込による取引が多い中、本件商標の作成に関してのみ現金で支払を行っていることについても不自然さがある。

以上のとおり、本件商標の作成について、被請求人の主張には信用性の低い点や不自然な点があることからすると、本件商標が平成27年(2015年)10月に作成されたという点については、にわかには認めることができない。

(6)本件商標が平成28年(2016年)3月及び同29年(2017年)3月に使用されたかについて

ア 証拠等によれば、次の事実を認めることができる。

(ア)被請求人は、オーティカ社の顧問であり(乙2)、また、株式会社J&Jマーケティング(以下「J&J社」という。)の代表取締役である(乙38、乙42)。

(イ)「Spring Sale 2016」と題するチラシ(乙33。以下「チラシ乙33」という。)、「Spring Sale 2017」と題するチラシ(乙34。以下「チラシ乙34」という。)、「Spring Sale」と題するチラシ(乙35。以下「チラシ乙35」といい、チラシ乙33ないし乙35をまとめて「チラシ乙」という。)は、オーティカ社の取扱いに係る歯科矯正器具のチラシであり、「口腔筋機能Trainer」、「T4K Trainer」、「マイオブレース」及び「Myobrace」の商品名(商標)とともに商品の図又は写真が掲載されている。また、「口腔筋機能Trainer」の商品名(商標)の上には、「歯列矯正用咬合誘導装置」の記載がある。

チラシ乙33及び34には、その右上に「3/1~3/31」の記載があり、また、上部のタイトル部分に、「Spring Sale 2016(2017)」の表題における「p」の文字とほとんど間隔を空けずに円形の図形が配置されるように別掲4のとおりの構成からなる商標(以下「本件使用商標1」という。)が表示されている。

チラシ乙35は、その右上に「2018 3/1~31」の記載があり、当該記載の上の端に別掲5のとおりの構成からなる商標(以下「本件使用商標2」といい、本件使用商標1及び2をまとめて「本件使用商標」という。)が表示されている。

(ウ)ナガタプランニング株式会社(以下「ナガタ社」という。)がJ&J社に宛てた平成28年2月12日付けの「御見積書」には、件名として「DM「Spring Sale 2016」ほかチラシ6点、原稿制作、印刷費の件。」の記載があり、また、部数の欄には千単位の数字が記載されている(乙36)。

また、ナガタ社がJ&J社に宛てた平成28年2月18日付けの「請求書控」には、品名として「DM「Spring Sale 2016」ほかチラシ6点、原稿制作、印刷費の件」の記載があり、また、数量の欄には千単位の数字が記載されている(乙37)。

(エ)「Spring Sale 2016」と題するチラシ(甲44。以下「チラシ甲44」という。)、「日本矯正歯科学会特別価格」と題するチラシ(甲45。以下「チラシ甲45」という。)、「Spring Sale 2018」と題するチラシ(甲46。以下「チラシ甲46」という。)、「日本矯正歯科学会特別価格」と題するチラシ(甲47。以下「チラシ甲47」という。)、「Spring Sale 2018」と題するチラシ(甲48。以下「チラシ甲48」という。)、「Convention Special 2017」と題するチラシ(甲49。以下「チラシ甲49」という。)及び「Spring Sale 2017」と題するチラシ(甲50。以下「チラシ甲50」といい、チラシ甲44ないし甲50をまとめて「チラシ甲」という。)は、オーティカ社の取扱いに係る歯科矯正器具のチラシであり、「口腔筋機能Trainer」、「T4K Trainer」、「マイオブレース」及び「Myobrace」の商品名(商標)とともに商品の図又は写真が掲載されている。また、「口腔筋機能Trainer」の商品名(商標)の上には、「歯列矯正用咬合誘導装置」の記載がある。

チラシ甲の裏面は、注文書のような構成となっており、「Trainer」及び「Myobrace」の表題の下、各商品の価格表が掲載されている。

なお、チラシ甲には、本件使用商標は表示されていない。

(オ)チラシ乙33はチラシ甲44、甲45、甲49及び甲50と、チラシ乙34はチラシ甲46及び甲48と、チラシ乙35はチラシ甲47と、それぞれ上部のタイトル部分以外は、表面のデザインがほぼ一致している。

(カ)被請求人は、チラシ乙について、「口腔筋機能Trainer」の記載があるとおり、様々な歯科矯正訓練の適応症例や習癖を紹介し、歯科矯正治療・訓練の方法や歯科矯正情報の提供に資するために本件使用商標を使用していると主張している。

(キ)被請求人は、令和4年4月11日付け提出の審判事件答弁書においては、チラシ乙の制作が正当に行われたことを「御見積書」(乙36)及び「請求書控」(乙37)により立証すると主張していたが、同5年12月19日期日の第1回口頭審理においては、「御見積書」(乙36)及び「請求書控」(乙37)はチラシ乙のものではないと主張している。

(ク)請求人は、オーティカ社が平成28年(2016年)から平成30年(2018年)に実際に歯科医等に配布したチラシを入手したとして、チラシ甲の原本を提出しているが、被請求人は、チラシ乙について、本件商標の登録出願前にごく少数配布したにとどまるとして、表面のみ、写しを原本として提出している。

イ 判断

前記アによれば、チラシ乙及び甲は、いずれも、被請求人が顧問を務めるオーティカ社の取扱いに係る歯科矯正器具のチラシであるところ、両者は、上部のタイトル部分以外は、表面のデザインがほぼ一致しているものである。

また、チラシ乙には、その上部のタイトル部分又は右上の端に、本件使用商標が表示されているのに対し、チラシ甲には、そのような表示はない。

そして、チラシ乙における本件使用商標は、上部のタイトル部分において、「Spring」の「p」の文字とほとんど間隔を開けずに本件使用商標1の円形の図形が表示されていること(チラシ乙33、チラシ乙34)、また、上部のタイトル部分の右上の端に本件使用商標2が表示されていることから(チラシ乙35)、チラシ乙のレイアウトが不自然といえる。

また、チラシ乙及び甲は、歯科矯正器具のチラシであるところ、掲載されている歯科矯正器具は、「口腔筋機能Trainer」、「T4K Trainer」、「マイオブレース」又は「Myobrace」の商品名(商標)によって広告されているとみるのが自然であり、そのため、上部のタイトル部分又は右上の端に、前記商品名(商標)とは異なる本件使用商標が表示されていることも不自然といえる。

この点について、被請求人は、「口腔筋機能Trainer」の記載があるとおり、様々な歯科矯正訓練の適応症例や習癖を紹介し、歯科矯正治療・訓練の方法や歯科矯正情報の提供に資するために本件使用商標を使用していると主張している。

しかしながら、「口腔筋機能Trainer」の記載は、その上に「歯列矯正用咬合誘導装置」の記載があることからすると、当該装置、すなわち歯科矯正器具の商品名(商標)とみるのが自然である。

また、チラシ乙の裏面は提出されていないが、チラシ甲の裏面には、「Trainer」の表題の下、商品の価格表が掲載されている。

仮に、チラシ乙の裏面がチラシ甲の裏面と同様であれば、やはり、「口腔筋機能Trainer」の記載は、歯科矯正器具の商品名(商標)とみるのが自然である。

そうすると、様々な歯科矯正訓練の適応症例や習癖を紹介し、歯科矯正治療・訓練の方法や歯科矯正情報の提供に資するために本件使用商標を使用しているとの被請求人の主張は、不自然といわなければならない。

さらに、被請求人は、当初、チラシ乙の制作が正当に行われたことを、部数又は数量の欄に千単位の数字が記載されている「御見積書」及び「請求書控」により立証すると主張していたが、被請求人は、チラシ乙について、本件商標の登録出願前にごく少数配布したにとどまるとして、当該「御見積書」及び「請求書控」はチラシ乙のものではないと主張を変えている。

加えて、チラシ甲は、請求人から原本が提出されているが、チラシ乙は、表面のみの写ししか提出されていない。

以上よりすると、チラシ乙は不自然なものといわなければならず、また、被請求人の主張に不自然な点があること、被請求人は当初の主張を途中で変えていること、チラシ乙が表面のみ写しで提出され、他方、チラシ甲は原本で提出されていることをも踏まえれば、チラシ乙は、チラシ甲を基にして後から加工して本件使用商標を表示したものという疑いを拭えない。

そうすると、チラシ乙が平成28年3月、同29年3月及び同30年3月の時点において存在していたかは疑わしいものであり、そのため、チラシ乙に基づく平成28年3月、同29年3月及び同30年3月に本件商標を使用していたという被請求人の主張は信用できないものといわなければならない。

したがって、本件商標が平成28年(2016年)3月及び同29年(2017年)3月に使用されたと認めることはできない。

(7)本件商標は引用商標を剽窃したものかについて

前記(5)及び(6)のとおり、本件商標は、平成27年(2015年)10月に作成されたとは、にわかには認めることができず、また、同28年(2016年)3月及び同29年(2017年)3月に使用されたと認めることもできない。

そして、前記(1)のとおり、本件商標と引用商標とは、どちらかが他方を剽窃したものといわなければならない。

そうすると、前記(4)のとおり、本件商標は、引用商標を剽窃したものといわなければならない。

(8)本件商標は公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標かについて

ア これまでに認定した事実のほか、甲第40号証及び請求人の主張によれば、被請求人は、令和3年(2021年)10月27日付けで、請求人に対し、本件商標及び関連商標に基づき、引用商標の使用中止を求める警告を行ったことが認められる。

イ 以上を踏まえれば、被請求人は、請求人がオーストラリアで使用していた引用商標が我が国において商標登録されていないことを奇貨として、我が国における引用商標の使用を阻止することを目的として、引用商標を剽窃し、関連商標とともに本件商標の登録を得たものと判断するのが相当である。

そうすると、本件商標の登録出願の経緯には社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に当たるというべきである。

そして、商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、「当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合」が含まれるというべきである(知財高裁平成17年(行ケ)第10349号同18年9月20日判決)。

したがって、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標というべきである。

(9)小括

以上のとおり、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標というべきであるから、商標法第4条第1項第7号に該当する。

2 被請求人の主張について

(1)ア 被請求人は、前記第4の4(1)のとおり、先願登録主義が妥当し、公序良俗を害するものではない旨主張している。

イ 甲第22号証及び請求人の主張によれば、請求人は、本件商標の登録出願の日前である令和元年9月22日から同月26日までの間に、我が国において、引用商標を使用したセミナーを開催したことが認められる。

そうすると、請求人が当該セミナーの開催前に、我が国において、引用商標の登録出願を行うことを怠っていたことは否めない。

しかしながら、前記1(8)イのとおり、被請求人は、請求人がオーストラリアで使用していた引用商標が我が国において商標登録されていないことを奇貨として、我が国における引用商標の使用を阻止することを目的として、引用商標を剽窃し、関連商標とともに本件商標の登録を得たものと判断するのが相当であることからすれば、たとえ、請求人が引用商標の登録出願を行うことを怠っていたとしても、本件商標の登録出願の経緯には社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に当たるというべきである。

(2)ア 被請求人は、前記第4の4(2)のとおり、請求人による商標法第4条第1項第7号に該当するとの主張は信義則に反し許されないと主張している。

イ 証拠等によれば、MRC社がMYOBRACE商標を有していること(乙12、乙49~乙53)、同社及びその関連会社が語頭に「MYO」の3文字を有する商標を有していること(乙13、乙14、乙54)、MRC社はオーティカ社に対してMRC社が保有する知的財産権の使用を許諾していること(乙45)、請求人が令和2年(2020年)1月31日から同年2月4日までの間に開催したセミナー(第2回セミナー)において配布した冊子(請求人冊子)には、引用商標とともにMYOBRACE商標が掲載されていること(甲23、乙41、乙41の2)が認められる。

しかしながら、請求人冊子によって、請求人とMRC社のとの間で出所の混同を生じたことを示す証拠はないばかりか、MRC社の商標が需要者の間に広く認識されていることを示す証拠もなく、請求人とMRC社との間で出所の混同を生ずるおそれがあったというべき事情も見いだせない。

また、請求人が令和元年(2019年)9月22日から同月26日までの間に開催したセミナーでも請求人冊子が使用されたとの被請求人の主張は、被請求人の憶測にすぎず、これを認めるに足る証拠はない。

さらに、本件商標、関連商標及び引用商標は、いずれも「MYOFOCUS(mYofocUs)」の文字からなるものであり、これとは異なるMYOBRACE商標の使用の有無が本件商標に対する登録無効の審判の請求について信義則に反するというべき特段の事情は何ら見いだせない。

したがって、請求人による商標法第4条第1項第7号に該当するとの主張は信義則に反し許されないという被請求人の主張は理由がない。

(3)ア 被請求人は、前記第4の4(3)のとおり、本件商標の商標登録は社会的妥当性を欠く行為とはいえない旨主張している。

イ 確かに、被請求人が主張するように、商標権を有する者が当該商標権に基づいて権利行使することは当然のことといえる。

また、前記1(8)アのとおり、被請求人が請求人に対して引用商標の使用中止を求めたことは認められるものの、高額な買取りを要求したり、ライセンス契約を強制したりするようなことをした事実は認められない。

しかしながら、前記1(7)のとおり、本件商標は引用商標を剽窃したものといわなければならないことからすると、たとえ、被請求人が請求人に対して引用商標の使用中止を求めたことにとどまるとしても、前記1(8)イのとおり、本件商標の登録出願の経緯には社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に当たるというべきである。

(4)ア 被請求人は、前記第4の4(4)のとおり、裁判例による商標法第4条第1項第7号の事由が認められない旨主張している。

イ しかしながら、本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当することは前記1のとおりである。

(5)ア 被請求人は、前記第4の5のとおり、請求人による商標法第79条の詐欺の行為の罪に該当する旨の主張は、当初の請求の理由とは実質的に異なる無効事由の事実を主張するものであり、請求の理由の要旨変更となり、許されないと主張している。

イ しかしながら、当該事実について判断するまでもなく、かつ、当該要旨変更について判断するまでもなく、本件商標は、前記1のとおり、商標法第4条第1項第7号に該当するものである。

(6)その他、被請求人は、るる主張するところがあるが、いずれも前記1の判断を左右するものではない。

(7)したがって、被請求人の主張は、いずれも採用することができない。

3 まとめ

以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものである。

したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項の規定に違反してされたものであるから、同法第46条第1項第1号により、無効とすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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