sokuhyo

Trademark Appeal Case

他人著名略称の無断登録

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号2023890048
審判種別記載はありません。
結論勝訴(請求認容)

結論テキスト

結 論
登録第6056640号の登録を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする。

理由テキスト

理 由

第1 本件商標

本件登録第6056640号商標(以下「本件商標」という。)は、「МОDYF」の欧文字を横書きしてなり、平成29年9月21日に登録出願、第25類「乳幼児用パンツ(下着),海浜用衣服,運動用特殊ブーツ,ブーツ及び運動用特殊ブーツ,帽子,被服,サイクリング競技用衣服,釣り用ベスト,履物及び運動用特殊靴,ガードル,手袋(被服),ガロッシュ,体操用靴,着物,ニット製被服,仮装用衣服,マフラー(ネックスカーフ),ネクタイ,サンダル靴及びサンダルげた,靴及び運動用特殊靴,ソックス,履物の底及び運動用特殊靴の底,ジャージー製運動用衣服及びジャージー製運動用特殊衣服,運動靴及び運動用特殊靴,ストッキング及びユニホーム用ストッキング,スーツ,水泳着,ズボン,下着,制服及びユニフォーム,水上スキー用ウエットスーツ」を指定商品として、同30年4月23日に登録査定、同年6月29日に設定登録されたものである。

第2 引用商標

請求人が、本件商標の登録の無効の理由として引用する商標は、請求人の名称に含まれる請求人の著名な略称であり、かつ、請求人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたと主張する「Wurth Modyf」(「u」の上にウムラウトがある。以下同じ。)(以下「引用商標1」という。)又は「Мodyf」(以下「引用商標2」という。)の欧文字からなる商標(以下、引用商標1及び引用商標2をまとめて「引用商標」という。)である。

第3 請求人の主張

請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第19号証(枝番号を含む。甲9の6は欠番となっている。)を提出した。

以下、証拠の記載に当たっては、「甲第〇号証」を「甲〇」のように記載し、枝番号を全て記載する場合は、枝番号を省略して記載する。

1 請求の理由

本件商標は、商標法第4条第1項第8号、同項第10号、同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号の規定により、その登録は無効とされるべきである。

2 具体的理由

(1)商標法第4条第1項第8号違反について

ア 商標法第4条第1項第8号について

商標法第4条第1項第8号は、「・・・他人の氏名若しくは名称・・・若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)」商標については、商標登録を受けることができないと規定し、同号の立法趣旨は人格権の保護にある(特許庁編「工業所有権法逐条解説」第21版)。

イ 他人について

「他人の氏名若しくは名称若しくはこれらの著名な略称」とは、自己以外の氏名又は名称を意味し、商号も含まれる。

「MODYF」は請求人の商号である「Wurth Modyf Gmbh & Co. KG」の一部であり、請求人の著名な略称である。本件商標は請求人が権利者となっておらず、被請求人と請求人とは資本等の提携関係にもないから、本件商標の「MODYF」は他人の名称(商号)の著名な略称に該当し、この要件を満たす。次に、この「他人」とは現存する者(法人を含む。)であり、外国人を含む。請求人は、現に存在するドイツ国の法人であるから、この要件を満たす。

したがって、本件商標は「・・・他人の氏名若しくは名称・・・若しくはこれらの著名な略称を含む商標」に該当する。

ウ 「(その他人の承諾を得ているものを除く。)」について

商標法第4条第1項第8号は、人格権を保護するための規定であるから、他人の氏名又は名称、及びそれらの著名な略称をその他人の承諾なしに登録した場合には、無効理由となる旨が規定されている。

本件商標は、請求人の商号の著名な略称であるから、それを他人が商標登録出願し、登録を受けるためには、請求人の承諾が必要であるが、請求人は本件商標について被請求人及び被請求人に本件商標を譲渡した泉州経済技術開発区興誠電子商務有限公司にも商標登録出願を承諾した事実はない(甲3)。

承諾した事実のない証拠として別に中国での商標登録無効審判を挙げることができる。被請求人は、本件商標の出願に先立って、請求人の欧州登録商標(甲4の1)と同一の構成態様の中国登録商標第9592374(甲4の2)を、福建省晋江市日腔皇鞋業有限公司(以下「A社」という。審決注:「腔」「業」は中国語表記。)(甲4の3)から譲り受けている(甲4の4)。

譲渡人であるA社は、請求人が2008年に安全靴の製造を依頼したT.O.M.LEITE(ポルトガル法人)(以下「TOM社」という。)がA&J Import & Export Co.,Ltd(以下「A&J社」という。)を介して製造を委託したOEMの靴製造会社であって、被請求人が株主である会社である(甲5)が、請求人は、A社が甲第4号証の2の1に係る商標の登録出願をすることについて、何らの承諾を与えていない(甲3)。

そのため、請求人は中国において上記中国登録商標第9592374を無効にすべく審判及び訴訟を提起し、その登録商標を無効にした(甲6の1)ことからも、被請求人が請求人の承諾を得ずに、本件商標を出願していることは明らかである。

また、請求人は、自らの社名の略称について、マーケットとして重要と考えた国については、自ら商標登録出願を行うか又は国際登録商標出願の領域指定(事後指定を含む)を行っているという事実がある(甲4の1、甲6の2~5)から、第三者が商標登録出願を行うことを承諾することはなく、また、第三者に商標権の取得を依頼することもない。

以上述べたように、被請求人は、請求人の承諾を得ることなく、上記の商標を出願し、商標権を取得した。

したがって、本件商標は、請求人の著名な略称である「MODYF」について何らの承諾もなしになされたものであり、被請求人は上記の商標の出願後にも権利を取得した後にも、請求人に対して承諾を求めることはせず、何らの連絡もしてきていないことから、承諾を求める意思がなかったことは明らかである(甲3)。

エ 「著名な略称」について

請求人の名称に含まれる「Wurth Modyf」又は「Modyf」が請求人の著名な略称であることを述べる。

(ア)請求人はWurth Group(ドイツ最大の非上場企業の1つ)に属する企業であること

請求人はドイツ最大の非上場企業の1つであるWurth Groupに属する企業であり、Wurth Groupは、1945年にアドルフ・ヴュルトによってキュンツェルザウに設立されたWurthが発展して形成されたグループである。Wurth Group(以下、単に「Wurth」ということがある。)は、Wurth Industrie Service、Wurth Electronik、Wurth Solar、Wurth Woodなどを含む幅広い分野でグループ会社400社以上を保有しており、ドイツ本国500支店以上のほか、世界86か国にて事業展開している。その中には日本も含まれており、Wurth Japanとして1987年から事業を開始し、Wurth Groupの製品を販売している。従業員数は全世界で約7万8千名(うち約4万名は営業職:2020年2月現在)を超える、ドイツ最大の非上場企業の1つである。Wurth Groupの総売上高は、事業年度2019年には約1兆7千億円を記録した(甲7の1)。

Wurth Group各社は、各国において多様な事業展開を行っており、自動車をはじめ運送・金属・電機・住宅・建設などの事業分野において、組立部品・メンテナンス・修理用品など10万点に及ぶ商品を取り扱っている(同号証)。そして、中核事業として、ボルト・ネジ等のファスナー、工具、ケミカル商品や被服品などを取り扱っている(同号証)。

特に、自動車業界において、Wurthの商品は、ダイムラー・クライスラー社から全世界推奨認定を、またBMW AG社からはドイツ本国推奨認定を受けており、モータースポーツ界でもその品質の高さを評価され、F1やWEC、APRC参戦チームに採用されてきた(同号証)。

Wurthは、スポーツの世界においても、自転車ロードレース、サッカー・ブンデスリーガ(ドイツ)、スキー(DSV)、フェンシングなどのサポートを行っている(甲7の2~4)。モータースポーツ界においてはF1のBMWサウバーやトヨタF1(パナソニック・トヨタ・レーシング)(甲7の3)、ドイツツーリングカー選手権(DTM)などのスポンサーとしてサポートを行っており、2013年からはFIAアジアパシフィックラリー選手権(APRC)に対しオフィシャルスポンサーとしてレースをサポートしている。毎年ニュージーランドを皮切りに、ニューカレドニア、オーストラリア、マレーシア、日本そして中国と、APRCを全般的にバックアップし、シリーズ参戦チームにブレーキ&パーツクリーナーや各種ケミカル、工具などのプロ仕様プロダクトを提供するほか、全戦にスタッフを派遣しテクニカルサポートを行っている。そして、日本においては全日本ラリー同時開催のラリー北海道にて、チームサポートと合わせて来場者向けに販売ブースを出店し、大会を盛り上げるよう協力している(甲7の2)。

Wurthは芸術分野でもスポンサー活動を行っており、絵画、彫刻、デッサン等を含む12,000点以上の美術品をウルトコレクションとして所蔵し、ウルト美術館をヨーロッパ9か国に所有するとともに、本社1階にもこれらを展示する美術館を設立している(甲7の5) 。

また、Wurthは、1987年にCarmen及びReinhold Wurthによって設立されたWurth Foundation(Wurth財団、Stiftung Wourth、甲7の6)を支援している(甲7の8)。この財団は、2008年からスペシャルオリンピックを支援しており(甲7の9)、ユニセフに対しても12万ユーロの寄付を行っている(甲7の10)。また、ヨーロッパ文学のためのウルト賞、ジュネス・ミュージカル・ドイツのウルト賞等、様々な賞を授与している(甲7の8)。

また、Wurth財団は学校や大学への資金提供も行っており、2005年に、ハイルブロン大学のキュンツェルサウ応用科学大学は、ラインホルトヴュルト大学に改名されている(甲7の7)。

(イ)Wurth ModyfはWurth本社のワークウェアとワークギアのブランドとして1997年に誕生したこと

Wurth Modyfは、Wurth本社のワークウェアとワークギアのブランドとして1997年に誕生し(甲8の1)、2007年には甲第8号証の2(Wurth Modyf France等のカタログ)に示すような製品を、フランス、イタリアを始めとする各国で取り扱っていた(甲8の3)。甲第8号証の2には、本件商標の文字部分と同一の「MODYF」の文字列がロゴデザインした「M」の文字とともにはっきりと示されている。

また、ドイツのカタログが2006年には11万部(甲8の4)、2007年にも11万部(甲8の5)、クリアランスセール及び棚ざらえセールのチラシが2007年にそれぞれ2万部(甲8の6、7)、2008年のカタログが20万部(甲8の8)、2010年のFLEXITEC BROCHUREが1,000部(甲8の9)、ウルト65周年(ラインホルト・ウルトの75歳の誕生日の祝賀)の展示ブースの画像(甲8の10)、2011年のPROFI TIPPのプロジェクトが3,000部(甲8の11)、2006年に“Security & Safty”awardを受賞したExtraflexのチラシ(甲8の12)、2008-2009のイタリアのカタログのゲラ(甲8の13~15)でも分かるように、WURTH MODYFは2006年の時点で欧州においては複数の国において周知となっていた。

さらに、フランスの2017年のカタログ(甲9の1)に示されたStrech X SIPシリーズが、2018年にはGerman Design Award Goldを受賞した(甲9の2~4)。German Design Awardは、国際的に権威あるドイツ連邦の公式デザイン賞で、厳格な審査により優れたデザインであると認められた作品にだけ与えられる(甲9の5)。そして、2019年には、「スポーツ、アウトドアと娯楽部門」に寄せられた5,000点の中からWURTH MODYFのNEONコレクションがGerman Design Awardに選定された(甲9の6)。

上述したように、Wurthは積極的にスポーツや芸術、教育などの分野に関わりを持ってきたが、それはグループ会社であるWurth Modyfも同じである。Wurth Modyfはドイツ・ブンデスリーガのVfB(フェアアイン・フュル・ベヴェグンクッシュピーレ・シュトウットガルト)にスポンサーとして参加している(甲8の16)。2016年8月8日開催の試合の写真から分かるように、WURTHと同様にWORTH MODYFもサッカースタジアムバナーとなっていたから(甲8の16)、テレビ放送又はYouTube等での配信の際に映される回数も多く、広告宣伝効果は高い。

なお、ドイツにおける1試合の平均動員数は写真にあるスタジアムで約4万5千人であり、東京ドームにおける巨人戦の1.5倍である。また、Wurth Modyfは欧州陸上競技大会やフランスのサッカーチームのスポンサーとなっており、その名前が大々的に宣伝されている(甲8の17~19)。このように、Wurth Modyfの名前は、本件商標の出願前から一般人を含めて広く目にされている名前であり、ひいては欧州において著名であり、現在も著名であるといえる。

(ウ)請求人は、ドメイン名として「https://www.modyf.com」を保有していること及び複数の国に支社を有していること

請求人は、ドメイン名として「https://www.modyf.com」を保有しており、「modyf」と入力すると、Wurth MODYFのサイトが表示され、Wurth Modyfはドイツ本社以外に、フランス、イタリア、オーストリア、スペイン、オランダ、ノルウェー、スイス、ポルトガル等に支社を有している欧州では著名な企業である(甲8の3)。

そして、Wurth MODYFのドメイン名であるmodyf.comは、トップレベルドメインとなる「.com」とセカンドレベルドメインとなる「MODYF」とから構成されており、企業名をセカンドレベルドメインとするという一般的な例に従うものとなっている(甲9の7)。これらのことから、「Modyf」は請求人の著名な略称であることが裏付けられる。

以上のように、Wurthは、ドイツ国内のみならず欧州では著名な企業であり、そのグループメンバーである請求人もまた、上述した受賞歴などに示されるように著名な企業である。

したがって、「Wurth Modyf」又は「Modyf」はいずれも、請求人の著名な略称である。

以上より、「Modyf」は商標法第4条第1項第8号の「著名な略称」に該当し、同号の要件を満たす。

オ 小括

以上より、本件商標は商標法第4条第1項第8号に該当する。

(2)商標法第4条第1項第10号違反について

ア 商標法第4条第1項第10号について

商標法第4条第1項第10号は、「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用するものは、商標登録を受けることができない」旨を規定する。

この規定は、以下の理由から設けられたものである。まず、登録主義の国においては、登録商標は全国的に独占排他権を有するから、これと抵触する商標が重複して使用される場合には、需要者・取引者が商品の出所について混同・誤認し取引を混乱させる。こうした混乱を防止するため、商標法は抵触する商標が重複して登録されることを禁止している。しかし、周知商標は商標登録されていなくとも取引上商標としての機能を営み、世人のイメージに強く刻み込まれている。ゆえに、もしこれと抵触する商標が登録されると、取引社会において世人は登録された商標が付されている商品を周知商標が付されている商品であると誤認するものが多く、商品の出所の混同が生じ、取引を混乱させるからである(甲10の1)。

イ 「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標」について

(ア)「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標」について

「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標」とは、我が国において、全国民的に認識されていることを必要とするものではなく、その商品の性質上、需要者が一定分野の関係者に限定されている場合には、その需要者の間に広く認識されていれば足りるものであるとされている(東京高平成3年(行ケ)第29号)。

また、商標法第4条第1項第10号に規定する周知商標には、主として外国で商標として使用され、それが我が国において報道、引用された結果我が国において周知となった商標を含むと解するのが相当である(東京高平成3年(行ケ)第29号及び甲10の2)。

(イ)WIPO一般総会で採択された「周知商標の保護規則に関する共同勧告」(概要)について(甲10の3)

周知性については、1999年9月に、WIPO一般総会で採択された「周知商標の保護規則に関する共同勧告」(概要)の周知の決定に関する部分に以下の記載がある。

「第2条 周知商標の決定(1)周知商標の決定に際しては、周知性に言及するいかなる資料をも考慮しなければならない。特に、周知商標決定の要因として、関連する公衆における商標の知識・認識の程度、商標使用の期間、商標使用の地理的範囲、広告・宣伝等の期間、広告・宣伝等の地理的範囲、世界的に獲得している登録の数・期間、権限ある当局で周知と認められた記録等を考慮する。(2条(1))「関連する公衆には消費者、流通経路に携わる者、類似商品(役務)を扱うものを含むが、限定されない。(2条(2)(a))」

さらに、同勧告には、「当該国において周知でなくても、あるいは知られていなくても周知と決定できる(2条(2)(d))この場合は、当該国以外の一若しくはそれ以上の他国において周知であることを要求することができる。(2条(3)(b))」と述べられている(甲10の2、3)。

(ウ)請求人の登録商標は遅くとも2016年頃には欧州で周知商標となっていたこと

Wurth Modyfの商品は厚い信頼を獲得しており、様々な企業に採用されている。その一例がイベリア航空である(甲10の4)。イベリア航空はスペイン最大の航空会社であり、元国営のいわゆるフラッグキャリアである。2011年にはイギリスのブリティッシュエアウェイズと経営統合し、世界6位、欧州3位の航空会社となっている。このような大きな航空会社であるイベリア航空において、Wurth Modyfの製品が採用されている(甲10の5)。この他にもイタリアの電動バイクの企業やフランスの建築関係の企業でもWurth Modyfの製品が採用されている。このように、Wurth Modyfが作業用具の分野では欧州各国で広く知られていたことは、欧州各国に支社があることからも自明である。

そして、Wurthは、ドイツ国内のみならず欧州では著名な企業であり、そのグループメンバーである請求人もまた、上述した受賞歴などによって明らかなように著名な企業である。そして、Wurth Modyf又はModyfは、請求人の著名な略称である。

そうすると、本願商標は、「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く知られた商標」に該当するといえる。

ウ 商品の類似性について

商標第4条第1項第10号は、「周知商標と同一又は類似の商標を、その商品・・・と同一又は類似の商品に使用をするものについては登録を受けることができない」旨を規定する。この規定は、いうまでもなく商品又は役務の出所の混同防止とともに、一定の信用を蓄積した未登録周知商標の既得の利益を保護するところにもある。

(ア)日本国内における本件商標の商品への使用状況

被請求人による日本国内における本件商標の商品への使用状況を見ると、以下の3種類のスニーカー(S1~S3)にそのまま、又は「M MODYF」の「M」と「MODYF」とが分離された商標が付されて販売されており、その販売サイトには、「ブランド:MODYF」と表示されている。

(S1)請求人の欧州登録商標であって図形(ロゴ化されたMの文字)及びMODYFの組み合わせた商標(甲11の1)(以下、この商標を「MMODYF」ということがある。)と類似する商標及び本件商標を付したスニーカー(甲11の1~3)

(S2)甲第6号証の1と同一の商標及び類似する商標を付したスニーカー(甲11の4~6)

(S3)甲第6号証の1と同一の商標を付したスニーカー(甲11の7、8)

(イ)中国内における商品への使用状況

中国のアリババグループのサイトにおいても、上記(S2)と同じ構成態様の商標を付した安全靴が販売されていた。この販売サイトの1頁目は日本語で表示されていることから、このサイトの掲載された商品は、日本の需要者向けの商品であることに疑いの余地はない(甲11の9、10)。

なお、被請求人は、履物の製造に携わっている企業の法定代表者であり、中国に工場を有しており(甲11の11、12)、2008年~2012年の間、請求人の製品をOEMで製造する製造工場の株主でもあった(甲4の3、甲5)。

(ウ)販売品と請求人の商品との類似性

一方で、請求人がドイツで商標登録を受けた「MODYF」の指定商品には「履物」及び「安全靴」が含まれており、請求人は「安全靴」等を製造販売している。近年、「安全靴」の態様は「スニーカー」その他の「履物」に近くなっており、実際に「スニーカータイプの安全靴」が審査で採用された商品名として挙げられている。

したがって、被請求人の販売した商品である「安全靴」及び「スニーカー」は、請求人が製造販売する「安全靴」と同一又は類似の商品といえる。

エ 小括

以上より、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。

(3)商標法第4条第1項第15号違反について

ア 商標法第4条第1項第15号

商標法第4条第1項第15号は、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第十号から前号までに掲げるものを除く。)については、商標登録を受けることができない」旨を規定する。

イ 被請求人の行為について

請求人は、「MODYF」が欧州では周知・著名商標であることから「MMODYF」又は「MODYF」の商標を「履物」に付して販売する者はいないと考えていたため、請求人は類似群コードの異なる「履物」については、指定商品に含めていなかった。一方で、近年、「安全靴」の態様は「スニーカー」その他の「履物」に近くなっている。

被請求人は、被請求人の会社であったA社が「私たち(A&J社)を通じて、サンプル生産や大量生産に関わるなど、モダイフブランド全体について知ることができた」という立場にあり(甲13の1、2)、このことを利用して、請求人及び請求人の工場でA社は、中国において不正に請求人の商標を出願して商標登録を取得し、中国国内において「安全靴」を製造・販売した(甲11の9、10)。一方、我が国においては上記「MMODYF」を付した商品である「スニーカー」を、Amazonその他のサイトを介して販売し、その際にはブランド名を「MODYF」と表示していた(甲11の1~8)。

そして、甲第11号証の10の10頁には、「DEVELOPMENT TEAM」、「PRODUCTION WORKSHOP」、「WAREHOUSE CENTER」と英文で表記され、この「WAREHOUSE CENTER」には「MMODYF」のロゴが大きく付されている。一方で、この「WAREHOUSE CENTER」の所在地については何らの記載もないから、これらに示された製品が欧州で製造されたかのような印象を与えるものとなっている。

請求人は、甲第11号証の10の10頁に掲載されたような工場を保有してはいないから、これらの画像は「MMODYF」の製造元が、あたかも請求人であるかのような誤認を需要者に与えるために掲載されたものと考えられる。こうした画像を掲載することによって、商品の出所の混同を生じさせることを意図したものといわざるを得ない。

また、甲第11号証の10の1頁目には、「申し訳ございません。この項目はもはや利用できません。」と日本語で表示されているから、何らかの理由によってこのサイトを通じた販売ができなくなっていることを意味している。

なお、「申し訳ございません。この項目はもはや利用できません。」という表示が日本語でなされているということは、これらの商品が日本に向けて販売されていたことを裏付けるものでもある。

ウ Google検索の結果について

また、Googleで「MODYF」をキーワードとして検索をすると、「Wurth Modyf」と「MODYF:シューズ&バッグ Amazon.co.jp」、「MODYFスニーカー-メルカリ」、及び「Modyf-Amazon.co.jp」が混在する態様でリストアップされ、さらに、「関連キーワード」として「Wurth Group」及び「Wurth Germany」が記載されており、あたかも請求人と「MODYF」又は「Modyf」をブランド名として使用している者とが、何らかの関係を有するかのような誤解を与えるようになっている(甲11の14)。

しかし、実際には、請求人と被請求人とは、過去には依頼者とOEMの製造者という関係があったとはいえ、仲介業者を介した間接的な関係であり、直接的な関係を持ったのは、被請求人の会社が商標登録を中国において不正に取得していたことが判明した後のことである(甲5、甲13の4)。そして、被請求人の工場であるA社は、こうした商標を手放すことを拒んだため(甲13の4)、請求人は無効審判請求し、これらの商標登録を無効にすることによって商標権を消滅させている(甲6の1)。このため、請求人と被請求人とは、中国の訴訟で対峙する当事者であるという以外に、何らの関係を有さない。

このため、本件商標が「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」となっていることに疑いはない。

エ 小括

以上より、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当する。

(4)商標法第4条第1項第19号違反について

ア 商標法第4条第1項第19号について

商標法第4条第1項第19号は、「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)については、商標登録を受けることができない」旨を規定する。

この規定は、主として外国で周知な商標について外国での所有者に無断で不正の目的をもってなされる出願・登録を排除することを目的の一つとして設けられたものである。

イ 「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして・・・外国における需要者の間に広く認識されている商標」について

Wurthは、ドイツ国内のみならず欧州では著名な企業であり、そのグループメンバーである請求人もまた、上述した受賞歴などによって明らかなように欧州では著名な企業である。

また、請求人は、自らのドメイン名として親会社である「Wurth」と区別するために、「Modyf」を登録している(甲8の3)。すなわち、欧州において「Wurth Modyf」又は「Modyf」は、請求人を表示する著名な商標又はその略称なのである。そうすると、本件商標は、「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして外国における需要者の間に広く認識されている商標」に該当するといえる。

ウ 「不正の目的」について

「不正の目的」は、「不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的」と条文で定義されている。そして、この「不正の目的」は、図利目的・加害目的をはじめとして取引上の信義則に反するような目的のことをいう。したがって、この意義は不正競争防止法19条1項2号と同じである。そして、取引上の競争関係を有しない者による出願であっても、信義則に反するような不正の目的による出願については登録すべきでないため、「不正の目的」と規定されている(工業所有権法逐条解説第21版)。

(ア)不正の目的の認定に当たって十分に勘案されるべき資料について

「不正の目的の認定に当たっては、例えば、以下のaないしfに示すような資料が存する場合には、当該資料を十分に勘案するものとする。」と甲第12号証の1に記載されている。ここで、同号証の1の「以下のaないしf」を以下に列挙する。

a その他人の商標が需要者の間に広く知られている事実(使用時期、使用範囲、使用頻度)を示す資料

b その周知商標が造語よりなるものであるか、若しくは、構成上顕著な特徴を有するものであることを示す資料

c その周知商標の所有者が、我が国に進出する具体的計画(例えば、我が国への輸出、国内での販売等)を有している事実を示す資料

d その周知商標の所有者が近い将来、事業規模の拡大の計画(例えば、新規事業、新たな地域での事業の実施等)を有している事実を示す資料

e 出願人より、商標の買い取り、代理店契約締結等の要求を受けている事実を示す資料

f 出願人がその商標を使用した場合、その周知商標に化体した信用、名声、顧客吸引力を毀損させる恐れがあることを示す資料

そして、工業所有権法逐条解説第21版には、「不正の目的」があるとして本号が適用される具体的な事例として、3つの想定事例が挙げられているが、本件はその3つ目の「外国で周知な商標について信義則に反する不正の目的で出願した場合」に該当する。

以下、その点について述べる。

(イ)本件商標は、「外国で周知な商標について信義則に反する不正の目的で出願した場合」であること

a 本件商標が請求人の外国周知商標であること

本件商標は欧州においては著名な請求人の登録商標である。

また、「MODYF」は「modern,dynamisch,funktionell」という3つのドイツ語から請求人によって作られた造語であり(甲12の2)、請求人の社名の一部であり、略称でもある。このような造語商標は、偶然に採択されることはなく、仮にあったとしても非常に稀であろう。このため、このような商標は、それが周知・著名であるときは、出所表示力が強く、出所の混同のおそれを生ずる範囲が広い。そして、被請求人が行ったような態様で使用されると、ダイリューションが起こりやすいのである(甲12の1)。

請求人は、事業展開を目的として2006年にロゴ化した「M」の文字と上記略称である「MODYF」とを組み合わせた商標(MMODYF)をデザインし、2006年8月に発行された2006-2007秋/冬作業安全・アウトドアカタログに使用した。

そして、請求人は、上述したようにアイスホッケー及びサッカーのスポンサーとして、それらの試合が行われる会場及び選手が着用しているユニフォームに商標(MMODYF)のロゴが掲載されていた(甲13の1、甲8の16~19)。このため、「Wurth Modyf」は遅くとも2008年には欧州で周知・著名な商標となっており、その略号である「MODYF」もまた、本件商標の出願時において周知・著名な商標になっていたのであり、本件商標の登録時にも周知・著名な商標であったのである。

b 本件商標が「信義則に反する不正の目的で出願した場合」に該当すること

本件商標の商標権者は中国人であるが、靴を製造する中国法人の株主及び代表であり、本件商標の出願時に請求人とは資本関係もなく何らの商取引の関係もなかった。また、請求人は、本件商標の商標登録出願を請求人に依頼したこともない。本件商標出願が「信義則に反する不正の目的で出願した場合」に該当する理由について、以下に詳述する。

(a)請求人による商標権の取得の状況について

(a-1)日本国

請求人は、請求人の社名の著名な略称である「WURTH MODYF」を1997年7月9日に国際登録出願し、この出願は同日付けで国際登録683939として国際登録された(甲6の3)。この国際登録に係る商標権は更新され、現在も存続している。

そして、国際登録に基づいて、請求人は2017年12月18日に日本国を事後指定し、2019年5月24日に国内登録がなされた(甲6の4)。

(a-2)ドイツ

請求人は、「MODYF」の文字列について、2004年5月6日付けでドイツ特許庁に対して商標登録出願をし、30425078号として同年11月5日に登録を受けている。なお、この商標は2014年5月31日に更新され、現在も商標権が存在している(甲6の5)。30425078号は2014年6月1日に更新登録され、その存続期間の満了日は2014年5月31日である(甲6の5)。

(a-3)スイス、ノルウェー及び中国

請求人はまた、甲第4号証の1に示す商標(MMODYF)について、第3類、第8類ないし第11類、第18類、第20類、第21類、第24類、第25類、第36類及び第45類に属する商品又は役務を指定して2006年3月22日に国際登録出願第893320号を出願し、同日付けで国際登録が認められた(以下「893320号」と略す。甲6の2)。そして上記893320号の領域指定は、スイス、ノルウェー及び中国である。893320号は、第25類の指定商品として「clothing,footwear,headgear」を指定しており、また、この国際登録に係る商標権は、更新されて現在まで存続している。

(a-4)欧州

出願人は、2006年2月14日に欧州商標として商標「MMODYF」を出願し、2007年3月29日に004901112号として商標登録を受けている(甲4の1)。そして、この出願は上記893320号の基礎出願となっている。

(a-5)小括

以上のように、請求人は、自らの社名の略称について、マーケットとして重要と考えた国については、自ら商標登録出願を行うか又は国際登録商標出願の領域指定(事後指定を含む)に含めることとし、第三者が商標登録出願を行うことを承諾したことはなく、また、第三者に商標権の取得を依頼したこともない(甲3)。

したがって、本件商標は、他人の外国における登録商標であって周知なものについて出願されたものであるから、「信義則に反する不正の目的で出願した場合」に該当することは明らかである。

(b)被請求人と請求人との関係について

(b-1)被請求人の背景

被請求人は中国の福建省在住の人物で、同省の晋江市にある靴製造に関する会社、福建五持恒科技友展有限公司(以下「B社」という。審決注:「友」は中国語表記。)の法定代表人であり、かつA社の監査役兼株主であった(甲4の1、2)。

被請求人はまた、「B社が現在の新素材の会社である」こと、及び「A社が靴の工場である」ことを認め、自らがこれら「両方の会社の責任者」であることも認めている(甲13の2の1)。さらに、A社は被請求人の父親によって設立され、現在、被請求人及び被請求人の兄によって引き継がれており、請求人が代表であるB社と同一敷地内にあることから、これら2つの会社が家族経営されていることが分かる(甲13の2の2)。

したがって、被請求人はA社の経営者であると考えられる(甲13の2)。

(b-2)被請求人が請求人の製品をOEM生産していた事実について

被請求人はA社の責任者であり、同社は、請求人の製品のOEM生産を行っていた。

請求人は安全靴の製造をTOM社に委託した。TOM社は、中国国内における安全靴のOEM生産をA&J社に依頼した。A&J社は、この依頼を受けてA社に請求人の安全靴の製造を委託し、A社は製造した安全靴をTOM社に納品し、TOM社は受領した安全靴を請求人に納品していたのである。

2008年11月20日付けで、請求人のイタリア支社のロリス・バルド氏から、TOM社のテオフィリオ・レイト氏に宛てて、無償サンプル100足を2009年の1月に納品すること、1.1000足の靴(2月に500足、3月に500足納品)、2.1000足の靴(4月に500足、5月に500足納品)等を内容とするメールが出されており、正式な注文書が2008年12月22日に発行されている(甲13の3の1)。このことから、A社は2008年には請求人の依頼をA&J社経由で受けて製造を開始していたことが分かる。

(c)中国における「MODYF」の文字列を含む商標の登録状況について

(c-1)被請求人による「MODYF」の文字列を含む商標の登録状況

中国において製造する製品に付する商標を知っていたのは、A&J社、A社、及び被請求人の三者である。A社及びその責任者であった被請求人は、請求人が欧州で著名な企業であることを製品サンプルの製造の時(2008年11月)には知っていたはずであり、中国で安全靴に使用される請求人の商標がどのようなものであるかを知り得る立場にあった。

被請求人は請求人の商標が中国で登録されていないことを奇貨として、「MODYF」に関する商標を請求人の承諾を受けることなく出願し、登録を受けたのである。OEMの注文日が2008年12月であり、被請求人による「MODYF」に関する商標の最初の出願が2009年7月であった事実を考慮すると、OEMの依頼により本件商標の存在を知り、請求人に無断でその商標登録出願を行ったと考えるのが自然である。

請求人が本件商標の取得を許諾した事実がないことは甲第3号証の宣誓書により示されているが、実際に許諾した事実がないことを客観的に示す証拠として、甲第13号証の3の2のメールがある。このメールは2018年3月15日付でTOM社のトム・レイテ氏が請求人のイタリア支社のロリス・バルド氏及びA&J社のJolineに宛てたもので、そのメールでは「Lorisは私たちがA&J社に2008年~2012年の間にModyfのジャンパー(靴)に関して注文をした時の顧客で、Modyf Italiaの人間である。彼は、中国におけるModyfブランドの登録に関して激怒している。即座に彼が連絡をするだろう。どのように彼を手助けできるかを連絡してほしい」ということが伝えられており、それに対してJolineから「手助けにベストを尽くします。」という返信があった。つまりは、中国でModyfに関する商標が、請求人の一切与り知らぬところで登録されていたから激怒しているのであって、もし事前に商標登録出願を許諾していれば、このようなメールはあり得ないのである。2018年の時点で中国における「MODYF」の文字列を含む登録商標を保有していたのは、A社及びその責任者であった被請求人であるから、「中国におけるModyfブランドの登録」はこのことを指すと考えるほかなく、このメールから、TOM社がA&J社に発注していた事実も確認することができる。

(c-2)中国における「MODYF」の文字列を含む登録商標に対する無効請求の状況

請求人は現在、「MODYF」に関する商標の全ての案件について無効審判を請求しており、既に無効が決定している9592374号についての経緯を以下に説明する。

9592374号は、請求人のEU登録商標004901112に係る商標と同一である。請求人は、2018年10月8日に中国国家知識産権局に対して本件登録商標権の無効宣言の申請を提出した。また、請求人は、同局に対して本件登録商標に係る商標である「M MODYF」について著作権登録の申請を行い、その登録日が2012年9月24日であると認められた。最終的に上記9592374号の有効性は中国における行政訴訟で争われ、(2021京行終4763号)判決によって著作権に基づきその登録は無効とされた(甲6の1)。

現時点において、登録商標9592374号のみならず、他の「MMODYF」商標については商標登録が無効とされている。

また、A社はこれらの商標を取り下げることについて同意しなかった(甲13の4)ため、請求人はこれらの案件全てについて無効審判を請求し、現在一部の商標登録が無効となっている(甲6の1)。

(d)被請求人が悪意を持って「MODYF」に関する商標登録出願をした証拠

請求人は、「MODYF」に関する登録商標に係る商標権を消滅させるために、無効審判の請求及び訴訟の提起を行っている。この訴訟のために、請求人は様々な証拠を入手しており、それらの証拠により被請求人が悪意を持って本件商標を出願したことが明らかとなっている。これについて以下で説明する。

(d-1)被請求人が本件商標を出願前に知っていたことについて

被請求人は2008年の時点で請求人の依頼を受けて製品をOEMとして製造していた。この点に関連するA&J社の社員による証言の記録が2020年11月27日に作成され、中国での訴訟において証拠として提出されており(甲13の4)、この記録によれば、以下のことが明らかにされている。

・A&J社は請求人と直接の取引はないこと(203頁)

・A社は被請求人の所有する工場であること(198頁)

・TOM社は工場見学に来たが、その後Modyfに関する注文がなくなったこと(198頁)

・請求人の上海事務所からA社に対して侵害商標の取下げの申入れをしたが、A社がこれに応じなかったこと(198頁)

・OEMの依頼は2009年頃と思われること(198頁)

・A社は、A&J社を通じて、商標を付したサンプル生産や大量生産に関わるなど、Modyfブランド全体について知ることができたこと(201頁)

以上より、被請求人は、本件商標を取得した2019年以前から、本件商標が請求人の商標であることを承知しており、その上で本件商標を取得したと考えられる。そして、被請求人がA社という靴の製造工場を有しており、A社は、A&J社を通じて、サンプル生産や大量生産に関わるなどModyfブランド全体について知ることができたのである。

そうすると、被請求人の本件商標取得も不正の目的をもって行われたことは明白である。

以上から、本件商標は、不正の目的で出願されて取得され、その後も不正の目的をもって使用されてきたことは明らかである。

(d-2)被請求人が本件商標が周知であることを事前に知っていたことについて

請求人は調査員(公証人)に依頼して被請求人及び被請求人とA社との関係を2020年7月28日に調査した。この調査の報告書(甲13の1、2の1)を見ると、「このブランド(MODYF)の輸出は問題ないでしょう?」という調査員の質問に対して、被請求人は「現在、このブランドは中国で販売しています。」と答えており(2頁)、「このブランドは自社で登録したのですね?」という調査員の質問に対して、被請求人は「はい、中国で登録しています。」と回答している(2頁)。さらに、被請求人は、「これは中国で私達(請求人等)が登録し、ドイツとフランスで別の会社が登録したものです。」と述べている(2頁)。すなわち、被請求人は、請求人が「MODYF」の登録商標を中国以外で保有していることを知っていたことは明らかである。このことは、「この海外ブランド(MODYF)は、ヨーロッパかどこかのはずですが、いつからやっているのでしょうか?このMODYFはヨーロッパで海外展開しているのですか?」という調査員の質問に対して、「ヨーロッパだと思います。」と回答し(3頁)、さらに「海外で登録されているから輸出はしていない。」と述べていることによっても裏付けられる(2頁)。

また、被請求人は、「日本で登録されている。」ことも認めている。加えて、「これは外の誰かが登録したもので、・・・私たちは彼のためにやったわけではありません。」と述べており(2頁)、請求人の承諾を受けていないことも認めている(甲13の2の1)。

言うまでもなく、これらの商標登録出願は請求人が行ったものでもなく、請求人は中国におけるこれらの商標登録出願を、被請求人に依頼したこともなく、第三者に依頼したこともない(甲3)。

以上のように、被請求人は、中国において請求人の著名な略称について請求人から何らの許諾も承諾をも得ることもなくこれらの商標登録出願を行い、それらについて商標権を取得していることが明らかである。

(d-3)被請求人が請求人の商標の信用に便乗しようとしていることについて

甲第13号証の2の2は、請求人の中国での訴訟における代理人弁護士が被請求人の会社を調査した際のやり取りを書き起こしたものであり、被請求人は、この調査の際に「MODYF」の安全靴は欧州でよく知られているブランドであると述べている(甲13の2の2)。

A社は、A&J社を通じてMODYFのブランド全体についての情報を入手する立場にあったから、その責任者の立場にあった被請求人は、「MODYF」は欧州でよく知られているブランドであることを当然知っていたはずである。そしてその上で、「MODYF」の文字列を含む商標をA社の名の下に出願し、商標登録を受けたことになる。なお、中国では1区分1出願であるため、7件となっている。

また、この報告書によれば、被請求人はiphone XSMAXを操作して請求人の公式サイトを開き、中国語のサイトがないのは「中国で商標権を持っているのは我々だからだ」と胸を張って述べている(甲13の2の2)。その後、調査員が「他人の商標を無断で登録しているため、協力した場合にリスクはないのか」と尋ねた際には、「リスクはなく、協力すれば、今後、MODYFは中国における安全靴の一流ブランドになる」とまで述べており(同号証)、明確な不正の意図があるというほかない発言である。その後、被請求人は、2015年から2022年までの契約でオンラインショップを開設し、MODYFの文字列を含む商標を付した製品を販売した(甲13の2の2)。

(e)本件商標が「信義則に反する不正の目的で出願」されたことに関する小括

以上のように、請求人は自己の商標に関しては自ら商標登録を行っており、他人にその取得を許諾したことはないにもかかわらず、被請求人は中国において「MODYF」に関する登録商標を複数所有している。また、中国で行われた調査の報告書によれば、被請求人は「MODYF」がヨーロッパの安全靴のブランドであること、及び複数の外国で登録されていることも知っていた。その上で、中国と日本で商標を登録したと述べた。

そうすると、本件商標は、「外国において周知な商標と同一又は類似の商標について、我が国において登録されていないことを奇貨として、商額で買い取らせたり、・・・国内代理店契約を強制したりする等の目的で、先取り的に出願した場合」、「外国で周知な商標について信義則に反する不正の目的で出願した場合」に該当し、不正の目的をもって出願され、登録を受けたことは明らかである。

被請求人は、その出願当時は、靴を製造する企業の法定代表者であったから、請求人の業務上の信用にただ乗りをして利益を得ることを目的としていたことは、上述したとおりである。そして、こうした他人の業務上の信用へのただ乗りは、「不正の目的」以外の何物でもない。このため、本件商標は、信義則に反する不正の目的で出願されたものである。

c 日本の登録商標

日本において平成30年(2018年)6月29日に本件商標を出願(審決注:「登録」の誤記と認める。)したのは泉州経済技術開発区与誠電子商務有限公司(以下、「本件出願人」ということがある。審決注:「経済」「発区与」は中国語表記。)であるが、請求人は本件商標の出願を本件出願人に許諾していない。

その後、被請求人が平成31年2月15日に特定承継による本件の移転を申請し、被請求人が現在に至るまで本件商標の権利者となっている(甲1)。

本件出願人は請求人の承諾を得ることなく本件商標を2017年9月21日に日本国に出願し、2018年6月29日に商標登録を受けている(甲1)。本件出願人の名称をGoogle検索にかけてみても、該当する会社は検索結果に見当たらなかった(甲13の5)。また、本件出願人は日本において本件商標とは別に3件の商標登録出願を行っており、そのうちの1つは本件商標と同日出願となっている(甲13の6。商標「LARNMERN」、商願2017-126553、登録6070024)。「LARNMERN」をGoogle検索してみると「LARNMERN work」というホームページや、Amazonの販売ページがヒットした。「LARNMERN work」のホームページには会社名「YUNJING INTERNATIONAL TRADING LIMITED」、住所「6/F MANULIFE PLACE 348 KWUN TONG RD HONG KONG」と記載されており、中国本土ではなく香港に所在の企業である(甲13の7)。これらの情報と甲第1号証に記載の本件出願人の情報を比較すると、このホームページは本件出願人が運営しているものとは考えられない。

また、アマゾンで販売されている商品を見ると(甲13の8)、レビューの欄に商品タグの画像が挙げられており、その画像には製造が「JIN JIANG YUEFENG SHOES CO.,LTD.」とある(甲13の9)。JIN JIANG YUEFENG SHOES CO.,LTD.について調べてみると中国企業であることが分かったが、その住所等の情報は本件出願人の住所とは異なっている(甲13の10)。そうすると、本件商標と同日に出願された商標「LARNMERN」についても、本来の商標の使用者と異なる者であり、本件出願人が出願しているといえる。

以上のように、商標を出願していることから商売を行っているはずである本件出願人の詳細は一切不明であり、なおかつ他人が使用している商標を出願していることを考慮すると、本件出願人は他人の商標を無断で出願し登録するためのペーパーカンパニーのような存在であるとも考えられる。このような場合には、「MODYF」が我が国において登録されていないことを奇貨として高額で買い取らせたり、Wurth Modyfの国内参入を阻止したり、国内代理店契約を強制したりする等の目的で先取り的に出願したものと考えられる。そして、請求人は本件商標の出願について何らの許諾も承諾も与えていないから、信義則に反する不正の目的があったことは疑いがない(工業所有権逐条解説第22版)。このため、本件商標については、出願時及び登録時の両時点において不正の目的があったといえる。

d 本件商標を付した商品の販売等について

(a)販売された商品について

日本国内においては、甲第11号証の1~10に示す靴が販売され、中国国内では、甲第11号証の9及び10に示す靴が製造されて中国国内で販売された。これらの靴には、甲第4号証の1に示す商標と同一であるか、又はそれに類似する商標が付されている。

そして、これらの靴については、現在、「在庫切れ」となっているものの「販売停止」等の表示はされておらず、「入荷未定」となっていることから中国で販売している「MODYF」という登録商標を付した靴を日本でも販売することを意図していると考えられる。また、甲第11号証の10に掲載された靴には、上記のM MODYFの商標からロゴデザインされた「M」のみが切り離されて付されている。

上述したように、本件商標は、上記9592374号に係る文字列と同じ「MODYF」の文字列のみで構成されている。このため、本件商標は、請求人の著名な略称の1つである「MODYF」と同一であり、ドメイン名とも同一の商標となっている。さらに、請求人の著名な略称である「Wurth Modyf」から著名商標である「Wurth」を除いた商標構成ともなっている。

そして、被請求人は、B社という50人ほどの規模で「靴、服装、服飾」等を製造販売している(甲11の1)会社の法定代表人(日本の代表取締役に相当)であった。

さらに、請求人は、上記9592374号の出願及び譲渡を承知しておらず、かつ承諾もしていない。

したがって、本件商標は、権原なき第三者による出願であり、不正の目的で出願し登録を受けたものに他ならない。

なお、M MODYF(請求人の欧州登録商標と同一の構成を有する登録商標と類似する商標)が付された安全靴が中国で販売されていたことは明らかであり、しかもそれらはアリババグループが運営しているサイトを通じて販売されたものである(甲11の9、10)。そして、これらの商品が掲載されているサイトは日本語で表示されている(甲11の9)から、日本向けに商品を販売することを意図したものであることには疑いの余地はない。

(b)Amazon.co.jpにおける販売について

日本では、Amazon.co.jpで2017年6月1日から甲第11号証の1~3に示す靴が「ブランド名 MODYF」として販売されている。また、同サイトで2017年6月16日から甲第8号証の4~6に示す靴が同じく「ブランド名 MODYF」として販売されている。

さらに、同サイトで2018年9月8日から甲第11号証の7及び8に示す靴が、「ブランド名MODYF」として販売されている。

また、上記9592374号に係る商標を付した商品である「スニーカー」が、Amazonその他のサイトを介して販売されており(甲11の1~8)、その際には「ブランド:MODYF」と表示されていたが、この「ブランド:MODYF」をクリックすると、ミドリ安全株式会社のサイトに飛ぶようになっており(甲11の13)、「ブランド:MODYF」の実態がたどれないようになっている。このことは、「ブランド:MODYF」として製造されている商品の製造元を明らかにすると都合の悪い事態が生じるため、製造元を隠そうとするものにほかならない。

そもそも商標法は、「商標を保護することにより、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与するとともに、需要者の利益を保護することを目的とする」と規定している(商標法第1条)。そして、商標は、自他の商品・役務を区別するために使用する標識であり、その標識に業務上の信用を化体させてブランド化を図るためにしようすることが本来の使い方である。そうすると、ある商品を販売しながら、自らがどのような企業であるのかが分からないようにするということ自体が、商標法の法目的に反するものとなっている。さらに、他人の著名な略称を使用しながら、その商品の出所をトレースすることができないようにするということは、その他人の信用にただ乗りするという意図を明確に示すものである。

甲第11号証の1~8に示された靴に付されている商標は、甲第4号証の1に示すEU商標と同一の構成を有するものであるが、これらは請求人が製造した商品でもなく、請求人が第三者に製造を委託した商品でもない。

そして、「ブランド名 MODYF」として販売されている上記の商品の現物を入手したところ、被請求人が代表者であった上記企業(B社)によって製造されたということが確認された(甲14の1、2)。このため、(a1)被請求人が本件商標の商標権者であること、(a2)被請求人が中国に保有していた自らの靴等を製造する工場で生産されたものであること、(a3)「ブランド名 MODYF」が販売している商品(甲11の1~8)には「MODYF」、「MMODYF」が登録商標であることを示す「R」(「R」に○が囲まれている。以下同じ。)が付されていることが明らかになった。また、(a4)被請求人から甲第11号証の1~8に示す商品の製造販売等の差し止めに関して何らかの対応がされたという形跡もない。

以上の4つの点を勘案すると、被請求人が自ら甲第11号証の1~8に示される靴を製造し、それらに「MODYF」を「R」とともに付した製品を製造し日本で販売しているか、又は第三者にそれらの製造を委託し、納品された製品を日本で販売していたことは明らかである。

そうすると、本件商標は、「外国における周知商標について信義則に反する不正の目的で出願し、登録を受けた場合」に該当するものといえる。

e 「不正の目的」の小括

(a)被請求人はたまたま「MODYF」の文字列を選択したものではないこと

本件商標に係る商標は、請求人の著名な略称である「MODYF」であり、この「MODYF」の文字列は、請求人の欧州登録商標004901112からロゴ化された「M」を除いた文字列と同一であり、かつ国際登録第683939号の「WURTH MODYF」から「WURTH」を除いたものと同一の文字列である。そして、MODYFは請求人の著名な略称であり、請求人はドメイン名としてMODYFを取得している(甲6の5)。また、「MODYF」は造語であり、汎用される文字列ではないから、被請求人がたまたまその字列を選択したという可能性は桁外れに低いといわざるを得ない。

また、中国における被請求人の商標登録が無効にされたにもかかわらず、他人の外国登録商標をそのまま、又はその商標の構成要素、すなわち「ロゴデザインされたMの文字」及び欧文字で記載された「MODYF」の文字列に分けて商品に付し、それら商品をインターネットのサイトを通じて販売していた(甲11の1~10)。

こうした行為は、上述した中国の訴訟において提出された証拠(甲13の1、2)に示されているように、請求人が我が国で商標登録を受けていないことを「知らないで行った」のではなく、「知っていて行った」ものである。とりわけ、上述したように中国において被請求人による商標権侵害の事実があり、被請求人の工場であったA社に対して、侵害商標の取下げについての話があった後、本件商標の特定承継が行われている。しかし、請求人は、本件商標が存続していることについて、被請求人からも原商標権者からも何らの連絡を受けていない。このことは、被請求人及び原請求人ともに、本件商標が請求人の周知・著名な略称であることを知っており、さらに、請求人の承諾を得ることなく商標権を取得していたことを示すものに他ならない。

このことからも、「外国において周知な他人の総評と同一又は類似の商標について、我が国で登録されていないことを奇貨として・・・先取り的に出願した」ものであり、「信義則に反する不正の目的で出願した」ものに他ならないことが支持される。

さらにいえば、請求人という「他人の信用にただ乗りする」ことを意図して行ったものと考えるほうが自然である。

(b)被請求人はモダイフブランド全体について知ることができる立場にあったこと

被請求人は請求人のOEM会社であったという過去の経緯もあり、被請求人の会社であったA社が「私たち(A&J社)を通じて、サンプル生産や裁量生産に関わるなど、モダイフブランド全体について知ることができた」という立場にあったことから(甲5、甲13の4)、本件商標の指定商品が請求人の上記の登録商標で指定された指定商品と同一の商品を含んでいることは偶然ということはできない。

そして、被請求人は、「MODYF」がWurth Modyfという欧州で周知・著名な他社の社名の一部であることを知った上で、上記欧州登録商標004901112及び国際登録商標683929の指定商品と同一又は類似の商品を指定商品として含む商標登録出願を行ったという結論に帰着せざるを得ない。

そうすると、本件商標は、Wurth Modyfの業務上の信用にただ乗りするという不正の目的でなされたものと考えざるを得ない。

(c)被請求人の中国における商標登録は不正の目的をもってなされたものであること

被請求人は中国本土で当該商品を製造し、請求人の承諾を得ることなく出願し登録を受けた商標を付して日本に輸入していたが、中国登録商標の一つは2021年10月20日に、著作権法違反として商標登録が無効になっている。そして、商標登録が無効になるということは、この登録商標の登録日である2012年8月27日の時点に遡及して商標権が消滅することになるから、被請求人は安全靴等の商品に「MMODYF」のうち、ロゴデザインされた「M」及び「MODYF」の文字列を含む商標を合法的に付す権原を有していないことになる。被請求人は上記訴訟の当事者であるから、当然にこのことを知っているはずであるにもかかわらず、製造を続けてきたのである。

したがって、中国においてロゴデザインされた「M」のマークを付した製品を製造すると、製造された商品はすべて著作権法違反のマークが付された商品、すなわち不法付着商品という不正商品を製造していることになる。被請求人はこのことも承知していたはずであるが、それにもかかわらず、中国における製造と中国国内及び日本における販売を続けていたことによっても、被請求人が「不正の利益を得る目的」を有していることを裏付けるものである。

なお、請求人は、2018年1月25日に国際登録商標683939号について日本国を事後指定し、2019年5月24日に登録を受けている。上記登録商標の要部は、「WURTH」及び「MODYF」の2つであるから、上記の商標が不法付着された商品であって、2017年12月18日以降に日本国に輸入された商品は、上記登録商標の商標権を侵害するものとなっている。

(d)被請求人が行ったロゴデザインされた「M」の文字と「MODYF」の文字列との組合せを靴に付す行為は、虚偽表示に該当すること

商標法はまた、「何人も登録商標以外の商標を使用する場合において、その商標に商標登録表示又はこれと紛らわしい表示を付する行為をしてはならない」と規定している(商標法第74条第1号)。このため、被請求人が、上記欧州登録商標004901112のロゴデザインされた「M」の文字と「MODYF」の文字列との組合せに登録表示を付す行為、とりわけ、この組合せにおいて「M」の文字と「MODYF」の文字列と色を変えて付す行為、又はこれらを切り離して付す行為は、国際登録商標683939に係る登録商標と紛らわしい表示となることから上記第74条第1号の要件を満たし、虚偽表示となる。虚偽表示を付した製品を堂々と販売する行為もまた、被請求人が「不正の目的」を有していることを裏付けるものである。

なお、請求人が上記欧州商標の指定商品に「履物」を含めていなかったのは、請求人の販売する商品が「安全靴」であり、一般的に使用されるスニーカーその他の「履物」は「作業靴」として工事現場等で使用されないからである。一見スニーカーのように見えても、1t程度の重量物がつま先に落下したときでもつま先を保護できるように鉄板などの保護部材が組み込まれた「安全靴」は、スニーカーとは構造が全く異なっており、当然のことながら履いている人の足を保護する強度も次元が相違する。

そして、請求人の販売する安全靴はEUの厳しい規格に合致したものであり、安全性に対する信頼度は非常に高い。請求人は、需要者の安全を図るために、技術的にも改良を重ねた製品に請求人の登録商標を付しているから、品質の劣る商品に請求人の著名な略号が付されて、あたかも請求人の商品のように販売されることは需要者の利益を損なうものに他ならない。

また、被請求人が指定商品に含めた「履物」の類似群コードは22A01及び22A03であり、「安全靴」の類似群コードは22A01であるから、商標法上、これらは類似商品といえる。

さらに、本件商標に係る「MODYF」の文字列は、欧州登録商標004901112「MMODYF」に含まれる文字列である。上述した中国における侵害訴訟においては、上記「MMODYF」のうち「MODYF」の文字列については「著作物ではない」と判断された。

したがって、被請求人が取得した商標は、請求人の社名の一部であるとともに著作権侵害に該当しない部分のみを抜き出したものとなっている。

そして、被請求人は「MODYF」の文字列が請求人の著名な略称であることを知っており、日本では原出願人(原権利者)が請求人の承諾を得ることなく先駆け出願をして取得した登録商標であることも知っていた(甲13の2)。そうすると、このような被請求人の行為は、不正な利益を得る目的でなされたものにほかならず、商標第4条第1項第19号に規定する「不正の目的」という要件を充足する。

エ 商標法第4条第1項第19号の小括

以上より、本件商標は商標法第4条第1項第19号に該当する。

本件商標は、その出願時及び登録時において不正の目的をもってなされたものであり、被請求人は本件商標の出願前から本件商標が、外国における請求人の周知・著名な略称であることを知っていた(甲13の2の2)。

なお、被請求人による上記の行為によって、被請求人は不正の利益を得たが、それによって請求人の甲第4号証の1に示す商標(MODYF)に化体した信用は毀損されたため、請求人は使用する商標を変更することとして上記商標権を放棄し、改めて甲第9号証の1のカタログ表紙にある商標について登録をし直さざるを得なくなり、請求人には多大な損害が発生しているのである。

3 結論

以上より、本件商標は、商標法第4条第1項第8号、同項第10号、同項第15号及び同項第19号に該当する。

第4 被請求人の答弁

被請求人は、請求人の主張に対し、何ら答弁していない。

第5 当審の判断

請求人が本件審判を請求するにつき、利害関係について争いがないから、本案について判断する。

1 商標法第4条第1項第19号該当性について

(1)請求人及び引用商標の周知性について

ア 請求人の提出に係る甲各号証及び同人の主張によれば、以下の事実を認めることができる。

(ア)請求人は、1945年に設立されたドイツの企業であるWurth Groupに属する企業であり、同グループは、グループ会社400社以上を保有し、ドイツ本国で500支店以上のほか、世界86か国で事業を展開している(甲7の1、請求人の主張)。

また、Wurth Groupは、1990年頃からドイツ国内及び外国のモータースポーツ、サッカー(ブンデスリーガ)などのスポーツ界のスポンサー活動を行っており(甲7の2~4)、9か国(ベルギー、デンマーク、フランス、イタリア、オランダ、ノルウェー、オーストリア、スペイン、スイス)にウルト美術館を所有し、一般に公開し(甲7の5)、1987年にウルト財団を設立し、大学教育や難民支援などを行っていることがうかがえる(甲7の6~8)。

(イ)請求人は、1997年設立のワークウェア、ワークギアのブランド「WURTH MODYF」を所有する企業であり、2017年にWurth Groupのメンバーとなり(甲8の1、甲17)、ドイツ、イタリア、フランス、スペイン、ポルトガルの5か国で事業展開し、従業員は約220人であり、2016年の年間売上高は、8,000万ユーロとされ(甲8の1、甲9の2の2、請求人の主張)、2010年から2019年の請求人全体の売上高及び販売実績として、年間約52万足の安全靴を製造している(甲19の2)。

(ウ)ドイツ、フランス及びイタリアのカタログ(2006年~2017年)に安全靴や被服等の商品(以下「請求人商品」という。)が掲載されており、これらのカタログには、引用商標1と同じつづりの「WURTH」と「MODYF」の二段書きの商標(別掲1参照。)及び図形(ロゴ化されたMの文字)及び引用商標2と同じつづりの「MODYF」の文字を組み合わせた商標(別掲2参照。別掲1及び別掲2の商標を併せて「使用商標」という。色彩が異なるものも含む。)や「MODYF」を含む文字が使用されている(甲8の2、4~9、11~15、甲9の1)。

(エ)請求人商品は、2017年ないし2019年のドイツデザイン賞及び2018年ドイツブランド賞を受賞している(甲8の1、甲9の2~4)。

(オ)ドイツ及び欧州におけるスポーツの試合会場の広告や選手が着用しているユニフォームなどに「MODYF」の文字や別掲2に示す使用商標「WURTH MODYF」が使用されている(甲8の16、18、19)。

イ 以上によれば、請求人はドイツを含む欧州の複数の国で事業を展開し、「Modyf」「Wurth Modyf」の文字からなる引用商標は、少なくとも2006年のカタログにおいて、請求人商品について使用されたことが確認でき、ドイツにおいて、請求人商品は2017年及び2018年に複数の賞を受賞し、ドイツを含む欧州の複数の国において、2006年ないし2017年にカタログ、スポーツの試合会場の広告や選手が着用しているユニフォームなどを通じて広告宣伝され、2010年から2019年まで継続的に販売されたことがうかがえること等を踏まえれば、引用商標は、本件商標の登録出願前において、請求人の業務に係る商品の名称として、ドイツを含む欧州における需要者の間に広く認識されていたものと判断するのが相当であり、当該認識は、本件商標の登録出願時及び登録査定時においても継続していたものと推認できる。

(2)本件商標と引用商標との類否について

本件商標は、上記第1のとおり、「MODYF」の欧文字を横書きしてなるところ、その構成文字に相応して、「モディフ」の称呼を生じるものである。

また、観念については、「MODYF」の文字は、辞書に載録のない語であり、特定の意味を有する語として認識されているものともいい難く、一種の造語としてみるのが相当であることから、特定の観念を生じないものである。

一方、上記第2のとおり、引用商標1は、「Wurth Modyf」の欧文字、引用商標2は、「Modyf」の欧文字を横書きしてなるところ、それぞれの構成文字に相応して、「ウルトモディフ」及び「モディフ」の称呼を生じ、いずれも辞書に載録のない語であり、特定の意味を有する語として認識されているものともいい難く、一種の造語としてみるのが相当であることから、特定の観念を生じないものである。

そこで、本件商標と引用商標を比較すると、本件商標と引用商標2とは、外観においては「MODYF(Modyf)」の構成文字を共通にし、称呼においては「モディフ」の称呼を共通にするものであり、特定の観念を生じないものであるから、観念において比較することはできない。

また、本件商標と引用商標1とは、称呼においては「ウルト」の音の差異により、区別し得るものであり、観念においては、いずれも特定の観念を生じないものであるから比較することはできないとしても、外観においては、本件商標と引用商標1の構成中の「MODYF(Modyf)」の構成文字を共通にするから近似した印象を与えるものである。

そうすると、本件商標と引用商標とは、観念において比較することができないとしても、引用商標2とは、外観及び称呼を共通にするものであり、引用商標1とは、称呼において区別し得るとしても、外観において、類似又は近似した印象を与えるものであり、これらを総合的に判断すると、両者は類似の商標というべきである。

(3)不正の目的について

ア 請求人は、2004年5月6日付けでドイツ特許庁に対して「MODYF」の文字からなる商標登録出願し、同年11月5日に登録(30425078号)を受け、現在もその商標権は存続している(甲6の5)。

イ 請求人は、別掲2の使用商標と同一の図形(ロゴ化されたMの文字)及び「MODYF」を組み合わせた商標(以下「MMODYF商標」という。別掲3参照)を2006年2月14日に欧州商標として出願し、2007年3月29日に登録(004901112)を受けた(甲4の1)。

ウ 請求人は、2006年3月22日に上記イの欧州商標を基礎出願とし、スイス、ノルウェー及び中国を領域指定して、MMODYF商標の国際登録(国際登録第893320号)を受けた(甲6の2)。

エ 被請求人又は被請求人が監査役兼株主となっているA社(甲4の3)は、被請求人所在の中国において、2009年から2019年にかけて、「MODYF」の文字からなる商標、「MODYF」の文字を構成中に含む商標、MMODYF商標及びMMODYF商標の図形部分のみからなる商標を出願し、登録を受けた(甲15の1、2、6、7、甲16)。

オ 2017年6月1日、同月16日、2018年9月8日にAmazonのウェブサイトで取扱いが開始された「MODYF」ブランドのスニーカーには、「MODYF」の文字からなる商標、MMODYF商標又はMMODYF商標の図形部分のみからなる商標が付され(甲11の1~8)、上記ウェブサイトで請求人が購入したとする商品は被請求人が代表を務めるB社の製造に係るものであることがうかがえる(甲14、請求人の主張)。

なお、被請求人は、2022年8月30日時点でもB社の法廷代表者であった(甲11の11、12)

カ 我が国において、平成29年(2017年)9月21日に本件出願人により本件商標が登録出願、同30年(2018年)6月29日に登録され、同31年(2019年)2月15日に特定承継による本件の移転により被請求人が権利者となった(甲1)。

キ 中国におけるMMODYF商標(9592374号、2011年6月14日にA社によって出願され、2018年1月6日に被請求人に譲渡、甲4の2の1)について、請求人を上訴人とし、被請求人を被上告人とする中国人民共和国北京市高等人民法院における無効審判におけるMMODYF商標に係る判決((2021)京行終4763号)によれば、「請求人は、本件著作物の商標としての登録を欧州連合で申請し、2006年にその国際登録を申請したことが証明できる。この事実は、請求人が本件著作物について権利を有することを証明するものである。これに反する証拠がない限り、本件で入手可能な証拠に基づいて、請求人が本件著作物の著作権を有すると結論づけることができる。本件商標と本件著作物は、いずれも芸術的に加工された外字「M」と外字からなり、基本的に区別がつかず、実質的な類似性を構成する。また、問題となった商標マークが被請求人によってデザインされたものであること、又は被請求人が法的譲渡によって当該作品の権利を取得したことを証明する証拠はない。したがって、第一審裁判所は、請求人が中国国外で商標登録することにより当該著作物を公開し、被請求人が当該著作物に請求人商標にアクセスできたと認定したことに誤りはないとして、係争商標(被請求人が所有する(甲4の4)MMODYF商標(登録第9592374号))は請求人の先行著作権の侵害に該当する」旨判示され、上記係争商標は2021年10月21日に無効とされた(甲6の1の2)

ク 上記アないしキの事実によれば、請求人が2006年3月22日に上記イの欧州商標を基礎出願として、MMODYF商標の国際登録を受けた後に、上記エのとおり、被請求人又は被請求人が監査役兼株主となっているA社は、2009年から2019年にかけて、MMODYF商標及びMMODYF商標の図形部分のみからなる商標を出願し、登録を受けたこと、請求人と被請求人との間に直接的なビジネス関係があった事実を具体的に確認できないものの、上記オのとおり、ドイツを含む欧州において需要者の間に広く認識されていたものと認められる請求人に係る当該商標を付したスニーカーを被請求人が代表を務めるB社が製造し、その周知性にフリーライドしたことがうかがえること、「Modyf」の文字は、中国における被請求人所有のMMODYF商標(9592374号)について、請求人を上訴人とし、被請求人を被上告人とする中国人民共和国北京市高等人民法院における無効審判における上記キの判決により、被請求人が所有するMMODYF商標は、請求人が2006年3月22日に上記イの欧州商標を基礎出願として国際登録し、公開することにより、被請求人が請求人商標にアクセスできたと認定し、請求人の先行著作権の侵害に該当すると判断され、無効にされたこと及び請求人の主張等を併せ考慮すれば、被請求人は、請求人及び引用商標の存在を知り得る立場にあったものとみることができ、請求人との間の商標をめぐる交渉を有利に運ぶための意図をもって、請求人の日本における事業拡大を阻止、又は事業を妨害するという不正の目的で設定登録を受けたものと推認せざるを得ない。

(4)本件商標の商標法第4条第1項第19号該当性について

上記(1)のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品を表示するものとして、ドイツを含む欧州における需要者の間に広く認識されていたものであり、上記(2)のとおり、本件商標は、引用商標と類似の商標である。

そして、「Modyf」の文字は、特定の意味を有する既成の語ではなく造語である。

また、上記(3)のとおり、請求人が2006年3月22日に、MMODYF商標の国際登録を受けた後に、被請求人又は被請求人が監査役兼株主となっているA社は、2009年から2019年にかけて、MMODYF商標及びMMODYF商標の図形部分のみからなる商標を出願し、登録を受けたこと、ドイツを含む欧州において需要者の間に広く認識されていたものと認められる請求人に係る当該商標を付したスニーカーを被請求人が代表を務めるB社が製造し、その周知性にフリーライドしたことがうかがえること、中国における被請求人所有のMMODYF商標(9592374号)について、請求人を上訴人とし、被請求人を被上告人とする中国人民共和国北京市高等人民法院における無効審判における上記(3)クの判決により、被請求人が所有するMMODYF商標は、請求人が2006年3月22日に上記(3)イの欧州商標を基礎出願として国際登録し、公開することにより、被請求人が請求人商標にアクセスできたと認定し、請求人の先行著作権の侵害に該当すると判断され、無効にされたこと及び請求人の主張等を併せ考慮すれば、被請求人が、引用商標及びMMODYF商標と外観及び称呼において類似する本件商標を偶然に採択したとはいい難く、むしろ、本件商標の登録出願時において、請求人及び引用商標の存在を認識した上で、引用商標が我が国において商標登録されていないことを奇貨として、引用商標と類似する本件商標を登録出願し、設定登録を受けたものと推認せざるを得ない。

そして、本件商標は請求人の周知商標を不正の目的をもって出願された旨の請求人の主張に対して、被請求人は、何ら反論していない。

したがって、本件商標は、その登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品を表示するものとして、ドイツを含む欧州における需要者の間に広く認識されている引用商標と類似の商標であって、不正の目的をもって使用をするものというべきであるから、商標法第4条第1項第19号に該当する。

2 むすび

以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものであるから、その余の請求の理由について検討するまでもなく、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効とすべきである。

よって、結論のとおり審決する。

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