結論テキスト
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 2023890077 |
|---|---|
| 審判種別 | 記載はありません。 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理 由
本件登録第6573769号商標(以下「本件商標」という。)は、「JMAC」の文字を標準文字で表してなり、令和3年11月22日に登録出願、第28類「ミニチュアカー,おもちゃ,人形」を指定商品として、同4年6月3日に登録査定がされ、同月17日に設定登録されたものである。
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第50号証を提出した。
本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。
(1)ミニカー愛好家団体「JAPAN MINIATURE AUTOMOBILE CLUB」について
ア 沿革
請求人が会長を務める団体「JAPAN MINIATURE AUTOMOBILE CLUB」(以下「本件団体」という。)は、ミニチュアカー(以下「ミニカー」という。)文化の普及と発展を目的とした活動を推進し、同時にミニカーを通じて会員間の親睦を図る非営利団体であり、権利能力なき社団である。
本件団体は、1961年(昭和36年)にミニカーコレクターの有志が集まって結成されたものであり、後に、初代会長としてN氏(以下「N氏」という。)を選出し、1969年(昭和44年)に東京支部及び関西支部、1977年(昭和52年)に中部支部、1990年(平成2年)に静岡支部を発足した。
本件団体は、ミニカー関連イベントを開催するなどの活動を行うほか、ミニカーに関するN氏の著書が発行されるなどした(甲2~甲21)。
イ 請求人と本件団体との関係
請求人は、現在本件団体の代表である会長を務めており、設立初期より在籍している最古参の会員でもある。
N氏からは、その人間性とミニカーに関する博識から信頼され、謝意が示されている(甲5)。
ミニカーを特集する雑誌には、N氏とともに度々請求人も登場し、ミニカーのコレクションに関するアドバイスや取材などに応じている(甲6、甲18、甲22~甲24等)。
このように、本件団体には、N氏と請求人が中心となって牽引してきた歴史がある。
そして、2008年(平成20年)にN氏が逝去した後は、しばらく会長不在の時期が続いたが、その間、東京支部長であった請求人が会長代行を務め、令和元年(2019年)会長に就任した。請求人は会長代行時代を含め、会長として本件団体の発展に尽力し、本部や東京支部のみならず、各支部(関西・中部・静岡)へも積極的に足を伸ばし、本件団体の親睦・融和にも貢献してきた。したがって、本件団体の略称「JMAC」に対する本件団体の元会員による本件商標登録に関して、請求人は正に利害関係人であり、請求人たる適格性を有するものである。
ウ 本件団体の略称「JMAC」
本件団体の名称は「JAPAN MINIATURE AUTOMOBILE CLUB」であり、単語の頭文字をとって「JMAC」の略称も併用している。本件団体の会則「A 総則 第1条」にその旨の規定がある(甲25)。
本件団体の略称「JMAC」は、本件団体の活動において日常的に使用されている。
例えば、公式ホームページには「JMAC」の文字が大きく表示されている。
また、昭和53年以降継続してほぼ毎月発行される会報誌もそのタイトルは「JMAC NEWS」になっている(甲26)。
エ 「JMAC」の認知度
本件団体は、ミニカー愛好家による私的な集団にすぎないが、1961年(昭和36年)の結成以来、60年以上にわたり活動を続けて、会員間の親睦の他に、対外的な活動も行うことで、ミニカー愛好家を中心にその存在が認知されている。
例えば、ミニカー専門誌「ミニチュア・カー」に本件団体の記事や会員の寄稿が度々掲載されている(甲10、甲12、甲27、甲28等)。なお、同誌を継承する形で刊行されたミニカー専門誌「ミニカーマガジン」にも会員の寄稿が掲載されている(甲29~甲34)。
また、本件団体の設立40周年と50周年の節目の年には、雑誌でその特集が組まれたり(甲18、甲7)、請求人が登場した雑誌やミニカー専門誌に、本件団体について紹介するものもある(甲24、甲35)。
さらに、雑誌以外でも、昭和の頃には、百貨店などの商業施設や公益施設等でミニカーの展示イベントを行っている(甲3、甲4、甲7、甲8等)。
ミニカーコレクターの「・・・JMACへの入会もまた私にとっての目標だったんです。」との発言(甲7)は、ミニカー愛好家にとって本件団体がよく知られ、羨望の的であったかを物語っている。
また、陳述書(甲36)においても、本件団体がこれまで日本のミニカー文化に果たした役割を高く評価している。
オ 初代会長N氏
本件団体は、N氏を抜きに語ることはできず、N氏は、日本を代表するミニカーコレクターであり、ミニカーに関する数多くの書籍を残している。
その中でも1967年(昭和42年)に初版が出版された「世界のミニカー」(甲5)は、ミニカー愛好家にとってバイブル的存在の一冊である(甲7)。
また、N氏の名声は、日本のミニカー愛好家に限られるものではなく、海外のミニカーコレクターからも一目置かれている(甲42)。
このようにミニカーコレクター界のカリスマともいうべきN氏は、会長として、本件団体の発展と会員間の親睦に寄与された。記念写真をみても(甲7)、本件団体が単なるミニカー愛好家の集団ではなく、ミニカーを媒介とした洗練された大人のためのクラブであることが理解できる。
N氏が本件団体のみならず広く長年にわたりミニカー愛好家の間で尊敬・思慕されているのは、ミニカーのコレクションに明確な哲学が存在するからである(甲5)。
そして、本件団体はこうしたN氏や請求人の下で結束を固め、その理念を失うことなく活動を続けて現在に至る。
(2)本件商標の商標権者について
本件商標の商標権者(以下「本件商標権者」という。)は、本件団体の元会員である。2002年(平成14年)に本件団体の関西支部に入会し、2008年頃に「会の趣旨に反する行為」により当時の関西支部長から退会処分を受けたものの、同氏の逝去後に再入会し、その後、関西支部において互選により関西支部長になる。そして、2022年12月に会全体への非協調性により「会員資格取消処分」となっている(甲43)。
したがって、本件商標の登録出願時に、本件商標権者は本件団体の会員であった。
本件商標権者は、指定商品に「ミニチュアカー」を含む商標登録出願を行うに際し、事前に本件団体に対して一切相談・承諾を求めることはなかった。
したがって、本件商標権者による本件商標の登録出願は、会員として所属する本件団体に無断で行ったものといわざるを得ない。
(3)商標法第4条第1項第7号該当性について
ア 本件商標は、本件団体の略称そのものである。しかも、指定商品に「ミニチュアカー」を含むものであるから、本件団体の愛好対象であるミニカーと共通する。
仮に、本件商標の出願人が、本件団体の存在を知らずに商標登録出願を行ったのであれば、商標審査基準に挙げられている「当該商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある」とまではいえないであろう。
しかしながら、本件商標の出願人は、出願当時、本件団体の会員かつ関西支部長の立場であり、当該団体の存在を知らずに商標登録出願を行った場合とは明らかに次元が異なる。しかも、出願人は商標登録出願を行うに際し、本件団体に対して事前の相談・報告も何ら行うことなく無断で行ったものである。これは、本件団体への背任行為であり、ひょう窃行為に他ならない。
イ そもそも、本件団体は、営利を目的としない非営利団体であるため、業としてミニカーに「JMAC」の文字を使用することはない。したがって、「JMAC」を商標とはいえない。ただし、会員間の親睦を図るために、年2回オリジナル記念モデルを製作し、会員に配布しており、このオリジナル記念モデルにはミニカーに「JMAC」の文字やロゴを入れている(甲41)。
このような事情があるため、仮に業として「JMAC」の文字をミニカーに使用した場合、需要者に対してそのミニカーは本件団体に関わる商品であるかのような誤認混同のおそれを与えかねない。
ウ 一方で、本件商標登録に関して、某支部会計担当の会員より、請求人を含む本件団体の執行部等に対して、電子メールの送付があり(甲44)、混乱を招いている。また、SNSにも投稿があった(甲45)。
さらに、SNSで「JMAC KANTO支部設立記念モデルを製作」(甲46)、「JMAC本部2023夏モデルが配布」(甲47)した旨の投稿が2023年7月に立て続けにあった。
本件団体としては、「KANTO支部」(関東支部)設立の相談を受けたことはなく、ましてや「KANTO支部」(関東支部)設立など認めたことは一切ない。
また、これらSNSで紹介されているミニカーのパッケージ(ケース)やミニカー本体に「Japan/Miniature/Automobile/Club」が表記されており(甲45~甲47)、ボンネット部分にロゴマークを付したミニカーもある(甲45、甲47)。本件団体が関知していないこれらのミニカーに需要者が接した場合、これらミニカーが本件団体に関連したミニカーであると誤認されてもおかしくない。
上記電子メール(甲44)では、請求人と東京支部長に対する名誉毀損とも受け取れる事実無根の主張が一会員によって繰り返され、現執行部(会長、東京支部長)の辞任を求める内容となっている。さらに、その後のSNSへの投稿(甲45~甲47)を見る限り、この一連の行為は、本件商標を悪用した、本件団体の乗っ取り行為と受け止めざるを得ず、社会的に許容できる範囲を逸脱している。
このように、本件商標登録に端を発した出来事は、本件団体の運営に障害を来し、本件団体の運営者である当事者(現執行部)に精神的な強迫と苦痛を与えるとともに、本件団体の存続に関わる状況を招いている。そのため、現執行部の請求人は、本件団体の代表・責任者として、やむなく今回の審判請求を決断したものである。
(4)結語
以上のように、本件商標は、その出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合に該当し、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標といわざるを得ない。よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(1)被請求人の主張に対する反論
ア 被請求人が本件商標登録をした理由に係る主張について
被請求人は、請求人に対して、JMACの名称や標章を商標登録すべきではないかと相談したとあるが、請求人は相談を受けていない。これは、「新年会」(開催日:2020年1月12日)での出来事とあるが、当該新年会では、各支部が会員向けに配付するJMACオリジナルのミニカーの制作版数については、被請求人から相談を受け、これに関して、請求人は同年1月31日に回答をしている(甲48)。請求人が、意図的に上記についてのみ回答し、商標の相談については無回答とする必要性はないことからして、このことは被請求人からの相談を受けていないことの証左に他ならない。もし、被請求人が相談しているのであれば、その相談について回答がないことを請求人(本部)あるいは各支部に問合せがあってしかるべきである。
そもそも、商標登録の必要性については会則(甲25)に照らしても明白に「会役員会」で審議すべき事項であり、請求人からの回答がないことをもって、本件団体に事前の了解もなく出願をしていい理由にはならない。ましてや、被請求人は2019年頃に自薦して関西支部長になったものの、2019年の合同例会で初めて「関西支部長」の承諾を受けたばかりの新任者という立場であり、本件団体の運営を大きく逸脱した暴挙といわざるを得ない。
商標の出願前も出願後も被請求人から請求人のみならず本部や各支部へ一切の連絡・報告はない。
被請求人は、関西支部会員で協議し、商標登録をしておくべきとの結論に至った旨を主張するが、会全体の名称・標章であるから本部の役員会に挙げて諮問すべき事項であって(会則第8条:甲25)、一支部で判断すべき事項ではないことは明らかである。
イ 本件商標登録後の被請求人の対応に係る主張について
本件商標の濫用によって会の運営のみならずミニカー愛好家、関連業界の間でも混乱を招き、精神的に甚大な被害を受けている(甲49)から、被請求人の主張する「本件団体が安心して本件商標を使用できる状況」は詭弁である。
本件団体の混乱を象徴する電子メール(甲44)は、被請求人も答弁書で引用しており(乙2)、この存在を知っていながらも黙認しているといわざるを得ない状況は、その主張と明らかに矛盾するものである。
ウ 被請求人に対する処分に係る主張について
被請求人は殊更に、本件無効審判の請求と会員資格取消処分とを結び付けたがるが、請求人が本件商標登録を知ったのは、会員資格取消処分(2022年12月末:甲43)後である。本件団体の代表者として本件無効審判を請求するのは当然である。結果的には、本件無効審判請求と会員資格取消処分が被請求人に課せられたことになっているが、それは結果論であり、両者の間に関連性はない。
会員資格取消処分は請求人の独断で行ったものではなく、被請求人とやりとりを行い、役員会にも諮ったもので、「何ら根拠もない」ものではない(甲50)。
(2)商標法第4条第1項第7号の該当性(補足)
ア 本件団体は、ミニカー愛好家の集まりである「趣味の会」に他ならない。したがって、そこで用いられる名称やロゴの標章を「商標」ということはできない。
したがって、商標の使用を前提とする商標登録に、本件団体の名称・ロゴは馴染まない。本件商標登録は、その盲点を突かれた商標登録であるといわざるを得ない。
そうとすると、商標の存在を前提とした商標法第4条第1項第10号、同項第15号及び第19号は適用できない。
イ しかし、本件団体は長年の活動によりミニカー愛好家の間では老舗クラブとして認知されている(甲7、甲18、甲36ほか)ため、本件団体以外の第三者による本件商標の使用は、いたずらにミニカー愛好家、関連業界の間に不信・混乱を招く結果となっている。
そのため、それを放置しておくことは商標法の趣旨である商取引の秩序を乱すこととなり、その解消を図る必要性があると考え、請求人は、商標法第4条第1項第7号に基づき、本件審判請求を行ったものである。
ウ なお、被請求人は、同人が関西支部長等として本件商標を使用する利益並びにこの商標登録を行うべき道徳的な義務及び利益がある旨を主張するところ、本件商標の登録出願時及び登録時において、被請求人は本件団体の会員であったが、現在、会員資格取消となった被請求人は、本件団体と全く関係のない第三者であり、商標登録後、事後的に商標法第4条第1項第7号に該当するに至った場合にも、本号の適用はあるので(商標法第46条第1項第6号)、被請求人の上記主張をもって本号の適用を免れ得るものではない。
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証及び乙第2号証を提出した。
(1)本件団体の構成等
本件団体は、1961年(昭和36年)頃にN氏らが中心となって設立された団体である。関西支部は1969年(昭和44年)頃に結成されたが、団体としての準備期間であるとの認識もあったようであり、関西支部では、会員数8人で第1回例会を開催した旨の記録が残る1973年(昭和48年)7月7日を支部結成の時と考えてきた。
N氏の著作によれば、その発刊年である1977年当時、本部が東京にあり、静岡支部、関西支部、中部支部があったことが分かる。現在、本件団体には、東京支部、静岡支部、中部支部及び関西支部が存在している。2022年6月期の決算によれば、会員数は東京支部22人、静岡支部27人、中部支部15人、関西支部32人のようである。
本件団体は、各支部ごとにそれぞれ活動を行うとともに、年に1度、全支部合同での例会を行っていた。
会費については本部会費と各支部会費を各支部において徴収し、各支部の人数分の本部会費を各支部から本部に納入していた。
請求書では、2008年(平成20年)にN氏が亡くなった時から請求人が会長代行を務めている旨述べているが、組織として決定された訳ではない。
(2)被請求人の入会と活動
被請求人は、2002年(平成14年)1月に本件団体の関西支部に入会した後、2008年(平成20年)に一度退会し(請求人は退会処分と主張するが、被請求人は自主的に退会している。)、2015年(平成27年)に再度入会した。
関西支部は、2013年(平成25年)頃から当時の支部長が出席できなくなり、支部長不在の状態で活動を続けてきた。2016年(平成28年)頃、支部長を新たに選出することとなり、同年、被請求人が関西支部長となった。
被請求人は、本件団体関西支部会員として、また関西支部長として、本件団体の会員となって以降、本件商標を使用して活動をしてきた。
(3)被請求人から請求人に対する商標登録の進言
被請求人が関西支部の活動をする中で、JMACに関して過去に商標登録をしていた旨聞き及んだが、調査したところ、商標の登録はなく、存続期間満了により消滅しているものと考えられた。
2020年(令和2年)1月12日に開催した関西支部の新年会に、請求人が参加したことから、その席で、被請求人は、請求人に対して、第三者が商標登録をしてしまうと本件団体本部や各支部の活動に支障を来す可能性があるので、本部において商標登録をしてもらいたい旨述べた。これに対して、請求人は、持ち帰って検討する旨述べた。
(4)請求人による放置
被請求人は、請求人が検討して商標登録出願を行うものと考えてしばらく請求人の対応を待っていたが、1年以上経過してもなお、請求人が行動を起こさないことから、請求人には商標登録を行う意思がないものと考えられた。そこで、第三者による商標登録出願が先になされてしまうことをおそれた被請求人は、関西支部会員で協議し、関西支部として費用を支出してでも商標登録をしておくべきとの結論に至った。関西支部は権利能力を有しないので、関西支部長である被請求人において商標登録出願を行うことを決定した。
(5)被請求人による商標登録
上記のような経過で、被請求人は、請求人に対して商標登録をしてもらうよう進言してから1年10か月以上経過した2021年(令和3年)11月22日、3件の商標登録出願を行い、これらは、商標登録第6573769号(審決注:本件商標「JMAC」)、同第6573770号(審決注:商標「JAPAN MINIATURE AUTOMOBILE CLUB」)及び同第6573771号(審決注:商標「別掲1の構成からなるもの」)(以下、これらをまとめていうときは「本件各商標」という。)として2022年(令和4年)6月17日に商標登録がなされた。
(1)本部や各支部が商標を利用することについて異議を唱えたことがないこと
上記のようにして被請求人は商標登録を完了したことから、各支部や本部は安心して「JAPAN MINITURE AUTOMOBILE CLUB」や「JMAC」の名称やロゴを使用して活動ができるものと考えた。被請求人は、他の支部や本件団体本部がJMACの名称やロゴを使用することについて一切異議を唱えたことはないし、また金銭を要求したこともない。これは、被請求人が第三者による妨害を排除する目的で本件各商標の登録を行った以上当然の対応である。
また、請求人は、本件各商標の登録後、被請求人に対して本件各商標について何らかの話合いを持ちかけてきたことはなかった。被請求人は、請求人に対して商標登録を進言したにもかかわらず請求人や本件団体本部は何らの行動も採ろうとしなかったため、請求人や本件団体本部は本件各商標について特に関心はないものと認識していたことから、被請求人から請求人や本件団体本部に対して話を持ちかけることもなかった。
(2)無効な除名処分
被請求人にはその意図が判然としないが、請求人は、2022年(令和4年)の終わり頃から被請求人を敵視し始め、2022年(令和4年)1月ころの関西支部の活動を理由に被請求人を「厳重注意」などと称して非難し、会員らに対して電子メールを送るなどした。
最終的に、請求人は、正当に理由を付すこともなく、かつ告知聴聞の機会をもうけることなく、正当な手続を経ないまま、2023年(令和5年)1月16日、被請求人以外の会員らに対して電子メールにより、被請求人の会員資格を取り消した旨の連絡を一方的に行った。ただし、被請求人に対する直接の連絡はなかった。
この資格取消処分には理由がなく、また手続違背があり無効である。
(3)関西支部について
関西支部は従前と変わらず存続しているはずである。しかるに、請求人は、関西支部について一方的に組織改編中である旨ホームページに掲示した(乙1)。なお、このホームページは、その後、工事中となっており現在は閲覧できない状態である。
本件団体は、本部各支部ともに被請求人の本件各商標の登録後も何ら問題なく活動しており、また、被請求人が本件団体や請求人に対して金銭を要求したこともない。請求人が、本件無効審判を申し立てた理由は本件団体の活動のためではないことは、これらから明白である。
請求人が、審判請求書において主張している一会員のメール(乙2)で触れられている件について、請求人その他責任ある地位の者から会員に対する説明は一切なく、会員の中には不満を持つ者も存在するようである。
また、被請求人から請求人に対して、JMACに関する商標登録を行うよう進言があったにもかかわらず、本件団体の会長である請求人はこれに対応しようとしなかったことから、やむなく被請求人の名で本件各商標の登録を行うに至ったのである。
請求人は、これらの事実等によって本件団体本部の責任ある地位にある者にふさわしくないと一部会員から指摘されていることに対して、会員の不満をそらすために、被請求人について会員資格停止処分とし、本件請求を提起している可能性が否定できない。
(1)「商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合」とは
知財高裁平成27年8月3日判決から明らかなとおり、まず、第三者による商標取得の防止という目的が認められる場合には商標法第4条第1項第7号に該当する一場面である「当該商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある等、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合」には該当しないということである。
また、この裁判例が述べるとおり、同号の「当該商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある等、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合」に該当するのは、「契約上の義務違反のみならず」、「金銭的な交渉」を「自己に有利な交渉材料として利用し不当な利益を得る」ことを目的としていることから「適正な商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠く行為」であるため「公正な取引秩序の維持の観点からみても不相当」な場合である。
(2)本件は商標法第4条第1項第7号に該当しないこと
ア 被請求人自身、また関西支部が本件各商標を使用してきた者であること
本件団体の関西支部は、1969年(昭和44年)に結成されて以降、長く本件各商標を使用してきた。被請求人は、関西支部の支部長として、関西支部として、また個人としても本件各商標を使用してきた者である。
被請求人は、関西支部の支部長として、個人会員として、本件各商標を使用する利益を有している。また、被請求人は関西支部長として、関西支部の活動に支障を来さないように、支部会員に対して本件各商標の登録を行うべき少なくとも道徳的な義務を負っていた。また、被請求人は個人としても関西支部長としても、第三者を排除するために本件各商標を登録する利益を有していた。
被請求人は、関西支部長として、請求人に対して、本件団体本部及び各支部のために、本件各商標を登録するよう求めたものの、請求人がこれに対応しようとしなかった。そのため、関西支部長として関西支部会員に対する義務を果たし、関西支部や会員個人としての利益を守るために、関西支部の意思決定に基づき本件各商標の登録出願を行ったのである。
イ 第三者排除目的であること
被請求人は、本件各商標に係る登録出願を行う前に、第三者を排除する目的で商標登録をすべきであると本件団体本部会長である請求人に進言していた。そして、請求人が対応しないことから関西支部の費用と労力により本件各商標の登録を行い、これを行った後、被請求人は、請求人に対しても、本件団体本部に対しても、本件団体各支部に対しても、本件各商標の使用を制限することはなかったし、金銭を要求したこともない。
この経過からしても、被請求人の出願目的が第三者を排除するものであったことは明らかである。
ウ 請求人に対する契約上の義務を負う者ではないこと
被請求人は、請求人に対して、本件各商標に関して何らかの契約上の義務を負う者ではない。
エ 何らかの不当な利益を得る目的はないこと
被請求人が不当な利益を得る目的がないことは、本件各商標の登録後の被請求人の行動から明らかである。
オ まとめ
以上のとおり、被請求人の本件各商標の出願の目的や経緯からして、「当該商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある等、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合。」に該当しないことは明白である。
出願の目的や経緯等から明らかなように、本件各商標については、その他の無効原因(例えば商標法第4条第1項第10号、同項第15号や同項第19号)も存在しないことは明らかである。
請求人が本件審判を請求することについて、被請求人は利害関係について争っておらず、また、当審は請求人が本件審判を請求する利害関係を有するものと認める。
よって、本案に入って審理し、判断する。
(1)商標法第4条第1項第7号の解釈について
商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、<1>その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、<2>当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、<3>他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、<4>特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、<5>当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるというべきである(参考:知的財産高等裁判所 平成17年(行ケ)第10349号 平成18年9月20日判決)。
しかしながら、先願主義を採用している日本の商標法の制度趣旨などからすれば、商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは、商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので、特段の事情のある例外的な場合を除くほか、許されないというべきである。
そして、特段の事情があるか否かの判断に当たっても、出願人と、本来商標登録を受けるべきと主張する者との関係を検討して、例えば、本来商標登録を受けるべきであると主張する者が、自ら速やかに出願することが可能であったにもかかわらず、出願を怠っていたような場合や、契約等によって他者からの登録出願について適切な措置を採ることができたにもかかわらず、適切な措置を怠っていたような場合は、出願人と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は、あくまでも当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから、そのような場合にまで「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でない(参考:知的財産高等裁判所 平成19年(行ケ)第10391号 平成20年6月26日判決)。
(2)商標法第4条第1項第7号該当性について
ア 両当事者提出の証拠及び同人の主張によれば、次のとおりである。
(ア)「JAPAN MINIATURE AUTOMOBILE CLUB」(本件団体)は、昭和36年(1961年)に結成された、通称を「JMAC」とし、その活動趣旨を、ミニカー文化の普及と発展を目的とした活動を推進し、同時にミニカーを通じて会員間の親睦を図ることとする会である(請求人の主張、甲25、乙1)。
本件団体の会則(2021年1月改訂)には、その本部を東京都におき、東京、関西、中部、静岡の各支部を置くこととされるが(甲25)、関西支部については、開示時期は不明ながら「JMACの概要」の下、「旧関西支部 現在組織編成中」との記載がある(乙1)。
本件団体の会員数は、昭和44年(1969年)5月頃に46名(甲35)、創立から50年を迎える平成23年(2011年)時点で約110名であり(甲7)、令和4年(2022年)6月頃に96名とされる(被請求人の主張)。
ミニカー専門誌には、本件団体に関する記事や本件団体の会員の寄稿が掲載されている(甲6、甲10、甲12、甲24、甲27~甲35)。
本件団体の活動として、昭和39年(1964年)5月(甲3)、昭和43年(1968年)6月(甲4、甲7)及び同年9月(甲8)のミニカーに関するショーの開催、平成23年(2011年)の50周年記念のポロシャツ及びウインドブレーカーの制作(請求人の主張)並びにミニカーの制作(甲20)、令和3年(2021年)の60周年記念のポロシャツの制作(請求人の主張)及びミニカーの制作(甲21)などがあった。
昭和44年(1969年)5月25日発行の冊子(甲35)及び本件団体の会報誌(甲13、甲26、甲41、甲43)や上記活動などにおいて、「JMAC」及び「JAPAN MINIATURE AUTOMOBILE CLUB」(小文字表記及びその表音の片仮名表記を含む。)の文字や、別掲2の構成からなる図形(色彩が異なるものを含む。)が表示されている。
(イ)請求人は、本件団体の初代会長とされるN氏が平成20年(2008年)に逝去した後、会長代行を務め、令和元年(2019年)に本件団体の会長として承認され、現在に至るまで会長を務めているとされる(請求人の主張)。なお、被請求人は、N氏の逝去後に請求人が会長代行を務めているとの点につき、組織として決定されたものではない旨を主張している。
請求人は、昭和42年(1967年)6月1日発行のN氏を著者とする書籍において「友人」と言及されるなど、N氏と永年にわたる繋がりがあったことがうかがえ(甲5、甲22~甲24)、例えば、平成12年(2000年)5月20日発行の雑誌ではJMAC東京支部長である旨(甲18)、平成23年(2011年)6月1日発行の雑誌では1962年にJMACに入会し現在はJMAC東京支部長である旨(甲7)が記載されている。
(ウ)被請求人(本件商標権者)は、平成27年(2015年)に本件団体に再入会し、平成28年(2016年)に関西支部長になった(被請求人の主張)。
被請求人は、本件商標の登録出願時において、本件団体の会員かつ関西支部長であった(当事者間に争いのない事実)。
令和5年(2023年)2月1日発行の本件団体の会報誌に、被請求人を令和4年(2022年)12月末で会員取消とした旨が記載されている(甲43)。なお、被請求人は、この会員取消につき、組織として決定されたものではなく無効である旨を主張している。
(エ)本件商標を含む本件各商標は、被請求人によって、令和3年11月22日に登録出願され、同4年6月17日に設定登録された(甲1、職権調査)。
イ 判断
前記アからすれば、本件商標の登録出願は、本件商標を構成する文字である「JMAC」を通称とする本件団体の会員かつ関西支部長である被請求人によって、令和3年11月22日にされたものであって、被請求人が本件団体の会員取消を受けたとされる令和4年12月末以前になされたものと認められる。
また、本件商標の登録出願について、特段の契約等があったとは認められず、請求人自ら速やかに出願を行うことを妨げる事実も認められない。
そうすると、本件商標については、その出願は被請求人を出願人として、被請求人が本件団体の関西支部長であった時期にされたものであり、本件団体の会長とされる請求人との関係においては、同じ団体で活動する関係にあった者の間における商標権の帰属等をめぐる問題であり、あくまでも当事者同士の私的な問題として解決すべきであって、「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合には該当しないものと判断するのが相当である。
そして、他に本件商標が「指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合」や「当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合」など、商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するというべき事情は見いだせない。
なお、請求人が主張する本件団体の認知度について検討しても、本件団体は、結成から60年以上経過したミニカーに関する活動を行う団体であることは認められるものの、その規模は必ずしも大きいものとはいえず、本件団体を表示する「JMAC」及び「JAPAN MINIATURE AUTOMOBILE CLUB」の文字や別掲2の構成からなる図形が広く認識されているということはできず、上記判断を左右するものともいえない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
(3)請求人の主張について
ア 請求人は、被請求人による本件商標の登録出願は、関西支部長の立場でありながら事前に本件団体に相談・承諾を求めることなく無断で行った背任行為・ひょう窃行為であって、仮に被請求人が相談をしたのであれば、その回答がないことを請求人(本部)あるいは各支部に問い合わせるべきであり、また、そもそも商標登録の必要性については会則(甲25)に照らしても明白に「会役員会」で審議すべき事項である旨主張する。
しかしながら、本件商標の登録出願について、被請求人から事前の相談があったか否かは必ずしも明らかでないところ、少なくとも本件商標の登録出願時において、被請求人は本件団体の会員かつ関西支部長であったのであるから、本件商標を登録出願することそれ自体が直ちに不合理であるとまではいえず、前記判断のとおり、当事者同士の私的な問題として解決すべきであるというのが相当である。なお、本件団体の会則からは、商標の登録出願について特段の取決め等があったと認めるに足る記載は見いだせない。
イ 請求人は、電子メールやSNSの投稿を挙げ(甲44~甲47、甲49)、本件商標登録に関して、本件団体に混乱を招き、その運営に障害を来しており、本件団体の乗っ取り行為と受け止めざるを得ない旨を主張する。
しかしながら、上記電子メールやSNSの投稿と被請求人の行為との関係が明らかではない上、乗っ取り行為といえる具体的事実も見いだせないから、前記判断を左右するものとはいえない。
ウ なお、請求人は、被請求人の、同人が関西支部長等として本件商標を使用する利益及びこの商標登録を行うべき義務等がある旨の主張に対し、現在、会員資格取消となった被請求人は、本件団体と全く関係のない第三者であるから、商標登録後、事後的に商標法第4条第1項第7号に該当するに至った場合にも同号の適用はあるので、当該主張をもって同号の適用を免れ得るものではない旨を主張するところがあるが、前記判断のとおり、本件商標の登録出願時において、被請求人が本件団体の会員かつ関西支部長であったことに変わりはなく、かつ、商標登録後、事後的に同号に該当するに至ったことを認めるに足る具体的な事実を認めることはできないから、本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当しないものである。
エ したがって、請求人の前記主張は、いずれも採用することができない。
オ 以上のほか、請求人は、無効理由についての争点を明確なものにして迅速な審理を期することなどを理由として口頭審理を求める旨を申し立てているが、本件については、前記のとおり両当事者から提出された書面をもって判断できるものであるから、口頭審理は行わないこととした。
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
商標の登録可能性を無料で確認するか、費用の目安を料金表・シミュレーターで把握できます。