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Trademark Appeal Case

カスクセレクションの識別力

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号2024890062
審判種別記載はありません。
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。

理由テキスト

理 由

第1 本件商標

本件登録第6765114号商標(以下「本件商標」という。)は、「カスクセレクション」の文字を標準文字で表してなり、令和5年6月13日に登録出願、第33類「清酒,日本酒,焼酎,泡盛,洋酒,ウイスキー,蒸留酒,ウォッカ,ジン,ブランデー,ラム,リキュール,カクテル,スピリッツ,果実酒,酎ハイ,中国酒,薬味酒」を指定商品として、同年10月11日に登録査定され、同年12月22日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張

請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、審判請求書及び審判弁駁書において、その理由(商標法第3条第1項第3号)を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証から甲第14号証(枝番号を含む。以下証拠に当たっては「甲○」と表記する。枝番号の全てを引用するときは、枝番号を省略する。)を提出した。

1 請求の理由

本件商標は、商標法第3条第1項第3号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号の規定により無効とされるべきである。

2 審判請求書における主張

(1)「カスク」及び「セレクション」の意味

ア 「カスク」の意味

「カスク」の文字は、“樽,桶;一樽(の量).”という意味を有する英単語の「cask」の発音をカタカナで表記したものである(「リーダーズ英和辞典第3版」(株式会社研究社刊))(甲2)。

イ 「セレクション」の意味

「セレクション」の文字は、“(ア)選択。選抜。淘汰。(イ)選ばれた品々。精選品。選集。”という意味を有する(「広辞苑第七版」(株式会社岩波書店刊)(甲3))。

(2)酒類における審査例

ア 「バレルセレクション」の文字が商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するとの拒絶審査例がある(甲4)。

当該商標構成中の「バレル」はバーボンなどのアメリカンウイスキーに使われる樽を、一方、「カスク」はスコッチウイスキーに使われている樽を意味している。“バーボンウイスキー用”“スコッチウイスキー用”という違いはあるものの、「バレル」も「カスク」もどちらもウイスキーを熟成するための“樽”という点で共通する。

そうとすると、本件商標「カスクセレクション」も“樽にはいった精選品の酒”あるいは“特定の樽から精選された酒”等の意味合いを容易に想起させるものであって、指定商品との関係において単に商品の品質を普通に用いられる方法で表示したにすぎないものといえる。

イ 「カスク」、あるいはそれに通ずる英単語の「cask」の文字が酒類において品質表示であると指摘された審査例がある(甲5)。

ウ 「セレクション」、あるいはそれに通ずる英単語の「selection」の文字が酒類において品質表示であると指摘された審査例がある(甲6)。

(3)酒類分野における使用例

「カスクセレクション」の文字が酒類の販売現場において品質表示として使用されている。

ア ウェブサイト「amazon.co.jp」

「【ギフトに】ザ・グレンリベット14年[シングルモルトスコッチウイスキー40度 イギリス750ml][ギフトボックス入り]」との商品が販売されている(甲7の1)。また、「商品の説明」において、“「ザ・グレンリベット14年コニャックカスク・セレクション」は・・・、厳選した高品質なコニャックカスクを使用した、主要なシングルモルトブランドのウイスキーには珍しい商品です。”との説明書きがあり、“特定のカスク(樽)から選りすぐられたもの”という意味合いで使用されていることがうかがえる。

なお、Amazon.co.jpでの取り扱い開始日は2020/11/15となっている。

イ ウェブサイト「RUDDER LTD.SEEK THE ULTIMATE」

「イタリアで設立されたインディペンデント・ボトラーHIDDEN SPIRITS社より、日本向け限定ボトル「WILLIAMSON 2015 8YO」9月15日(金)正午よりリリースいたします。\「最上級の樽を選び出し、驚くべき忘れられないボトルをリリースする」を同社のミッションに掲げ、情熱的で慎重なカスクセレクションによる高品質なボトリングで、新興ボトラーながらもドイツやフランスを中心に熱い注目を集めています。」との記載がある(甲7の2)。なお、リリース日は9月15日(金)とあることから2023年であることがうかがえる。

ウ ウェブサイト「信濃屋」

「フォースクエア デタント エクセプショナル・カスク・セレクション 2020エディション(直輸入)」との商品が販売されている(甲7の3)。商品説明において“フォースクエア蒸留所から2020年秋に発売された「エクセプショナル・カスク・セレクション」の14番目のリリース。”との記載がある。

エ ウェブサイト「BARTIMES」

“Remy Cointreau Japan株式会社(レミーコアントロー ジャパン/東京都港区)は、バルバドス島産のプレミアムラム「マウントゲイ」より、「マウントゲイ 1703 オールド・カスク・セレクション」から一新された「マウントゲイ 1703 マスター・セレクト」を1月9日(火)から数量限定で発売開始いたします。”との記載がある(甲7の4)。

(4)「カスクセレクション」の文字が、酒類の品質表示として各種メディアにおいて使用されている例を示す。

ア 書籍「最新版ウイスキー完全バイブル」(ナツメ社刊)

「シングルカスクセレクションロングモーン1969」というウイスキーが紹介されている(甲8の1)。

イ ウェブサイト「共同通信PRワイヤー」

平成29年(2017年)9月11日付の記事「Kavalanがスピリッツ・インターナショナル・レビューで5つのプラチナ賞を獲得」において、“The Solist Port Single Cask Strength Single Malt Whisky(ソリスト・ポート・シングルカスク・ストレングス・シングルモルト・ウイスキー)は部門最高の98ポイントで2017年最高のウイスキーに指名された\KavalanのYTリー最高経営責任者(CEO)は、審査員はPortを「ぜいたくな深みと、複雑さ、長さそして魂」を持つカスクセレクションでの「他の模範となる研究」と認めた、と述べた。”との記載がある(甲8の2)。

また、令和2年(2020年)5月4日付の記事「カバランが広範な市場獲得へ初心者向け商品群を新設[カバラン(Kavalan)]」において、“Kavalan Distillery Select Series(カバランディスティレリー・セレクトシリーズ)の台北101ビル型ボトルは濃いアースカラーで、カバランの基本的なカスクセレクションとブレンド技術の強力さを象徴する。”との記載がある(甲8の2)。

(5)本件商標「カスクセレクション」の自他商品識別力、及び第3条第1項第3号の該当性について

ア 本件商標を構成する「カスクセレクション」は、“樽,桶;一樽(の量).”の意味を有する英単語の「cask」をカタカナで表記した「カスク」と、“(ア)選択。選抜。淘汰。(ィ)選ばれた品々。精選品。選集”の意味を持つ「セレクション」を組み合わせたものであるところ、酒類のうちウイスキーは樽で熟成されることで風味や香りが形成されるが、その際に使用された樽の種類や素材(オーク樽、ミズナラ樽、バーボン樽、シェリー樽、等々)、熟成期間などによって味わいが異なるため(甲10)、「カスク(cask)」の文字は品質表示として認識されている。一方、「セレクション」の文字も、“選りすぐりの物、逸品”を意味する言葉として、酒類全般において品質表示として用いられている言葉である。そして、現に、特定のカスク(樽)から選りすぐられた酒(ウイスキー)を表す言葉として、実際に使用されている事実がある。

そうとすると、本件商標は全体で、“特定のカスク(樽)から選りすぐられたもの”であることを示すものであり、指定商品との関係において単に商品の品質を普通に用いられる方法で表示したにすぎず、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものとみるのが相当である。「カスクセレクション」が「取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであって、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないもの」であることは明らかである。

イ 実際の使用例の有無について

商標の自他商品識別力の有無が争われた平成12年(行ケ)第76号審決取消請求事件(甲9の2)では、「商標が、その指定商品の取引過程において使用されている事実がないとしても、将来、商品の品質、機能等を表す表示として使用され、取引者、需要者に商品の品質表示等であると認識される可能性がある場合には、商標法3条1項3号が適用される」と述べられている。「当該商標の使用事実がない」からといって、当該商標が自他商品識別力を有するとは限らないのであり、取引者・需要者における「カスクセレクション」の文字の使用例が少なかったとしても、そのような事実を根拠に“本件商標は自他商品識別力を有している”と判断すべきではないのである。

3 審判弁駁書における主張

(1)請求人適格について

ア 請求人である「日本洋酒酒造組合」は、昭和28年に「酒税法」とともに制定された「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律」により、同年7月に大蔵大臣(当時)の認可を受けて設立された法人である(同法第3条(甲11の1))。

請求人の設立の目的は以下のとおりである(「日本洋酒酒造組合定款」より(甲11の2))。

「第1条(目的)

組合は、組合員の緊密な連絡親和と相互扶助の精神に基づき、酒税の円滑な納税を促進し、酒類業界の安定と健全な進歩発展のために必要な事業を行い、組合員の自主的、かつ、自由公正な事業活動の機会を確保し、もって酒税の保全に協力し、及び共同の利益増進を図ることを目的とする。」

請求人の事業は「日本洋酒酒造組合定款」の第4条、請求人の組合員資格は同定款の第9条に記載のとおりである(甲11の2)。

イ ところで、請求人の組合員である「組合の地区内において洋酒を製造する酒類製造業者」は、本件商標が有効である限り、その指定商品について本件商標を使用することが出来ないため、本件商標の有効性は、請求人の組合員にとって利害関係があるのは明らかである。そして請求人は、上記の第1条を目的としているから、酒類業界の安定と健全な進歩発展のための事業を行う場合や、組合員の自主的、かつ、自由公正な事業活動の機会を確保する場合は、商標使用に関し組合員と同様の立場であるのみならず、組合員が本件商標を使用することが出来るかどうかは、上記目的の実現に関連した事項であるということができる。

したがって、請求人が、「その他組合の目的達成のために必要な事業」(「日本洋酒酒造組合定款」第4条(16))として、本件無効審判請求をすることにつき利害関係を有し、請求人適格を有しているのは明らかである。

ウ ちなみに、社団法人全日本コーヒー協会が登録商標「イルガッチェフェ」に請求した商標登録無効審判の審決取消訴訟(平成22年3月29日判決言渡、平成21年(行ケ)第10229号審決取消請求事件(甲12))において、社団法人全日本コーヒー協会は、当該協会の会員、設立目的及びその事業内容から、請求人適格を有することを認めている。

(2)商標法第3条第1項第3号の該当性について

ア 本件商標は、上記2(5)アのとおり、「カスク(cask)」の文字は品質表示として認識されている。一方、「セレクション」の文字も、酒類全般において品質表示として用いられている言葉であり、現に、特定のカスク(樽)から選りすぐられた酒(ウイスキー)を表す言葉として、実際に使用されている事実がある。そうとすると、本件商標は全体で、“特定のカスク(樽)から選りすぐられたもの”であることを示すものであり、指定商品との関係において単に商品の品質を普通に用いられる方法で表示したにすぎず、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものとみるのが相当である。

イ 上記2(5)イのとおり、「カスクセレクション」の使用事実がないからといって、本件商標が自他商品識別力を有するとは限らない。

ウ 上記2(2)の審査例は、指定商品を取り扱う業界において「カスク」の文字を含む商標に対する審査において、“「カスク」の文字は、「樽。」の意味で認識されている”と指摘されており、同様に、「セレクション」の文字を含む商標に対する審査において、“「セレクション」の文字は、「選りすぐりの物、逸品」の意味で認識されている”と指摘されており、このような特許庁の判断は、同種商品を指定商品とする本件商標にも十分当て嵌まるものと考え、例示したのであって、「カスク」「セレクション」の文字を含む商標が数多く登録されているから、本件商標も登録されるべきとの被請求人の主張とは根拠が異なる。

エ 上記2(3)における使用例「コニャックカスク・セレクション」に関する指摘は、「コニャック」は「フランス南西部、コニャック地方に産するブランデー」であるから(甲14の1)、「コニャック」「カスク」「セレクション」それぞれの意味を考えると、「コニャックカスク・セレクション」は、「特定のカスク(樽)から選りすぐられたコニャック」という意味合いに認識されると捉えるのが自然である。このような意味合いが生じることを考えると、「カスクセレクション」のみを切り出して、これを「カスクセレクション」の使用例として取り上げることは恣意的なものではない。

また、「情熱的で慎重なカスクセレクション」の場合も、“情熱的で慎重な”は記述的な表記であり、当該部分を省略して「カスクセレクション」だけを取り上げることは何ら恣意的ではない。同様に、「エクスセプショナル・カスク・セレクション」の「エクセプショナル(exceptional)」は「例外的な,異例な,まれな,珍しい;ひときわすぐれた,別格の」という意味の英単語で(甲14の3)、商品の品質を表した語にすぎないし、「オールド・カスク・セレクション」の「オールド」も、「シングルカスクセレクション」の「シングル」も同様で、いずれの文字も商品の品質を表す言葉として広く一般的に使用されている言葉であり、そのような識別力に欠ける言葉を省略して「カスクセレクション」だけを取り上げることは何ら恣意的ではないし、強引な主張でもない。

オ 被請求人は、「本件商標は、漠然としており、仮に、「カスク」と「セレクション」とを分離して判断したとしても、「カスク」は「樽」との意味(甲2)、また、「セレクション」は「選ばれたもの」を意味するのであるから(甲3)、記述的な意味合いは「選ばれた樽」の意味にとどまるのであって、その意味合い自体が曖昧である。」と主張するが、「セレクション」の文字が“選りすぐりの物、逸品”を意味する言葉として、酒類全般において品質表示として用いられており、なおかつ、特定のカスク(樽)から選りすぐられた酒(ウイスキー)を表す言葉として、実際に使用されている事実があることからすると、被請求人の主張は失当である。

カ ウイスキーの熟成において一般的に使用されている「バレル」と呼ばれる樽の場合、一樽当たり約180~200リットルであり、大量のウイスキーを熟成する場合、多量の樽が用いられる。ウイスキーの風合いは、樽の状態、また、貯蔵庫の温度・湿度等に影響されるため、多量の樽を用いて熟成する場合、樽ごとに風合いが異なることがある。「カスクセレクション」は、まさにそのような複数の樽(カスク)の中からいくつかの特定の樽を選ぶことを意味するのであり、甲7の1においても「厳選したコニャックカスクを使用した」と記載されているから、本件商標が「特定の樽(カスク)から選りすぐられたもの」の意味であることは明らかである。明確で具体的な特定の内容を示しており、需要者、取引者が、様々な意味合いを想像する可能性は低いといえる。

キ 被請求人が挙げた「カスクの材質の種類が複数あること」、「熟成する樽の数も様々あること」、「カスクの選び方として、熟成期間、銘柄等があること」、「シングルカスクは、「単一の樽」から直接瓶詰めされたウイスキーをさし、樽ごとの風味の違いを味わう方法もあること」というような事実はあるのかもしれないが、これら事実は、本件商標から「特定の樽(カスク)から選りすぐられたもの」の意味合いが認識されることとは、直接的な関係はない。

(3)まとめ

本件商標を構成する「カスク」及び「セレクション」の意味、そして、主としてウイスキー業界における使用状況に鑑みれば、本件商標は全体として「特定の樽(カスク)から選りすぐられたもの」といった意味を容易に想起し得るものであり、酒類の品質を表示するにすぎず、自他商品識別標識として機能し得ないものである。

第3 被請求人の答弁

1 答弁の趣旨

被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙1及び乙3(枝番号を含む。)を提出した。

2 答弁の理由(要旨)

(1)商標法第3条第1項第3号の該当性について

ア 本件商標は、同じ書体、同じ大きさ、同じ間隔に横一連に表してなるものであり、その構成全体から生じる「カスクセレクション」の称呼も格別冗長というべきものでなく、よどみなく一連に称呼し得るものである。かかる構成からなる本件商標は、これに接する取引者、需要者をして、その構成全体をもって一体不可分の一種の造語として認識されるとみるのが自然であり、ほかに、その構成中の「カスク」又は「セレクション」の文字部分のみが独立して認識されるとみるべき特段の事情は見いだせない。そうすると、本件商標は、その構成全体をもって、特定の観念を生じることのない一体不可分の一種の造語とみるのが相当である。

さらに、本件商標は、辞書にも掲載されておらず、インターネット上で検索した場合にも、本件商標の記載は散見されないから、本件商標は、一連一体で判断されるべきであり、被請求人による造語であるといえる。

イ また、「カスク」や「セレクション」という文言を含む商標が数多く登録されている(乙1)。

なお、請求人が挙げる、「カスク」又は「セレクション」の文字を含む商標の審査例は、いずれも本件商標とは異なる文字要素との組み合わせに関する例であり、「カスク」又は「セレクション」の文字を含むからといって直ちに品質表示と指摘されるわけではない。

ウ また、請求人は、「カスクセレクション」に関する使用例を挙げているが、乙2に挙げるように、「ザ・グレンリベット14年 コニャックカスク・セレクション」に関連する商品に関する情報のみが検出され、「カスクセレクション」そのものに関する情報は検出されない。特に甲7の1の「ザ・グレンリベット14年 コニャックカスク・セレクション」に関連する商品は、あくまで「コニャックカスク・セレクション」の文字を含むものであり、一連一体に表された当該文字から「カスクセレクション」のみを切り出して、これを、「カスクセレクション」の使用例として取り上げることは恣意的である。その他の使用例「情熱的で慎重なカスクセレクション」(甲7の2)、「エクスセプショナル・カスク・セレクション」(甲7の3)、「オールド・カスク・セレクション」(甲7の4)、「シングルカスクコレクション」(甲8の1)、「「ぜいたくな深みと、複雑さ、長さそして魂」を持つカスクセレクション・・・」(甲8の2)に表されるように、他の文字要素と結合された名称または記述を含む中で、「カスクセレクション」のみを切り出して、これを、「カスクセレクション」の使用例として取り上げることは、強引な主張であるといわざるをえない。

以上より、「カスクセレクション」そのものとしての使用例が少なく、「カスク」又は「セレクション」を含む文字の登録例が多数存在する背景において、あえて本件商標を需要者・取引者が使用する必要性は全く無く、特定人に独占使用を認めたからといって公益に反するとも思われず、むしろ本件商標は請求人が主張する品質を普遍的に具体的記述的に表しているとは思われないため、品質表示として使用するには極めて不適切である。

エ 特に、本件商標は、漠然としており、仮に、「カスク」と「セレクション」とを分離して判断したとしても、「カスク」は「樽」との意味(甲2の1)、また、「セレクション」は「選ばれたもの」を意味するのであるから(甲3)、記述的な意味合いは、「選ばれた樽」の意味にとどまるのであって、その意味合い自体が曖昧であり、本件商標からの想像の一つにすぎない。

すなわち、本件商標と関連して、「カスクセレクション」が、具体的に、複数の樽の中から特定の樽を選ぶことをさすのか、異なる材質の樽のうち、どの材質の樽を選ぶのか、どの銘柄の樽を選ぶのか、樽からボトリングされたウイスキーから特定のボトルを選ぶことをさすのか、請求人が主張する「特定の樽から選りすぐられたもの」の意味と使用例(甲7、甲8)を参照しても、その意味は漠然としており、何ら明確で具体的な特定の内容を示していないから、需要者、取引者が、様々な意味合いを想像する可能性がある商標である。

オ 例えば、カスクの材質の種類は複数種類あり、シングルカスク、ダブルカスク等のウイスキーを熟成する樽の数も様々な選択肢があり(乙3の1)、また、カスク投資においては、カスクの選び方として、熟成期間、銘柄等が挙げられる(乙3の2)。さらに、シングルカスクは、「単一の樽」から直接瓶詰めされたウイスキーをさし、樽ごとの風味の違いを味わう方法もある(乙3の3)。このように本件商標は、造語として、漠然とした「カスクセレクション」といった意味合いを表すものの、そこから様々な想像が喚起されるが故に需要者・取引者が興味関心を持ち記憶に残るものであり、まさに識別力を有する造語の商標である。

(2)請求人適格について

商標法において、無効審判は利害関係人に限り請求することができる(46条2項)。ここで、請求人は、請求書において、本件商標に対して、どのような利害関係を有しているのか、何ら言及しておらず、利害関係を有することを証明する証拠も提出されていない。さらに、請求人が本件商標をすでに使用しているという事実も無いことから、請求人は本件審判事件の利害関係人とは認められない。

第4 当審の判断

1 利害関係について

本件審理に関し、当事者間において利害関係について争いがあるので、以下、検討する。

(1)請求人が提出した証拠(甲11)及び主張によれば、以下のことが認められる。

請求人は、昭和28年7月「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律」により設立された法人である(甲11の1)。

(2)請求人の設立の目的は、「組合は、組合員の緊密な連絡親和と相互扶助の精神に基づき、・・・酒類業界の安定と健全な進歩発展のために必要な事業を行い、組合員の自主的、かつ、自由公正な事業活動の機会を確保し、・・・共同の利益増進を図ることを目的とする。」(甲11の2、定款第1条)ものである。

(3)請求人の組合員は、「組合員たる資格を有する者は、組合の地区内においてウイスキー、ブランデー・・・を製造する酒類製造業者とする。」(甲11の2、定款第9条)とされている。なお、ここでいう「組合の地区」とは「全国一円の区域」(同第3条)である。

(4)上記(1)ないし(3)によれば、請求人の組合員は、日本国内において「ウイスキー、ブランデー・・・を製造する酒類製造業者」であるところ、酒類製造業者は、本件商標が有効な権利として存続している限り、本件商標を「ウイスキー,ブランデー」等を始めとするその指定商品に使用することができないから、請求人の組合員は利害関係があるということができる。そして、請求人は、その「組合員の自主的、かつ、自由公正な事業活動の機会を確保」することを目的としていることから、本件商標の登録の可否は、「組合員の自由公正な事業活動の機会の確保」の実現に関連した事項であるということができる。

そうとすれば、請求人は、本件商標の登録の可否について利害関係があるというべきである。

したがって、請求人は、本件商標登録無効審判請求をするにつき利害関係を有し、請求人適格を有すると認めるのが相当である。

2 商標法第3条第1項第3号該当性について

(1)本件商標について

本件商標は、「カスクセレクション」の文字を標準文字で表してなるところ、請求人の主張及び提出された証拠並びに職権調査によれば以下のとおりである。

ア 「カスク」と「セレクション」の意味について

「カスク」の文字は、「樽,桶;一樽(の量)」という意味を有する英単語の「cask」の発音をカタカナで表記したものであり(甲2)、「セレクション」の文字は、「選択。選抜。選ばれた品々。精選品。」の意味を有する(甲3)。

そして、「カスク」は「樽」を意味する語であるところ、「樽」は、例えばウイスキーの製造過程で用いられるもので、異なる材質のものが存在し(甲10)、「セレクション」の文字は、酒類の取引においては、「ワインセレクション」のように「選ばれた品々。精選品。」の意味で用いられることがあるといえるものである。

イ 酒類分野における使用例(甲7、甲8)について

(ア)「amazon.co.jp」のウェブサイトに「ザ・グレンリベット14年」という商品が販売されており、商品説明に「「ザ・グレンリベット14年 コニャックカスク・セレクション」は・・・厳選した高品質なコニャックカスクを使用した、主要なシングルモルトブランドのウイスキーには珍しい商品」との記載があり、(イ)「www.rudd.jp」のウェブサイトには、日本向け限定ボトル「WILLIAMSON 2015 8YO」の商品説明に「情熱的で慎重なカスクセレクションによる高品質なボトリング」との記載があり、(ウ)「信濃屋」のウェブサイトには、「フォースクエア デタント エクセプショナル・カスク・セレクション 2020エディション(直輸入)」の商品の説明に「「エクセプショナル・カスク・セレクション」の14番目のリリース。」との記載があり、(エ)「BARTIMES」のウェブサイトには、「「マウントゲイ 1703 オールド・カスク・セレクション」から一新された」との記載がある。そして、(オ)書籍「最新版ウイスキー完全バイブル」(ナツメ社刊)には、「シングルカスクセレクションロングモーン1969」という商品が掲載されており、(カ)ウェブサイト「共同通信PRワイヤー」の令和2年(2020年)5月4日付の記事に「カバランの基本的なカスクセレクションとブレンド技術の強力さ」と記載されている。

ウ 上記ア及びイを踏まえ、本件商標について検討する。

本件商標は、「カスクセレクション」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字は、「カスク」の文字と「セレクション」の文字とを結合したもので、同じ大きさ及び書体で、字間なく横書きしたまとまりの良い構成よりなるから、一連一体の語を表してなると看取されるものである。

そして、上記アによれば、「カスク」は「樽。」の意味を有する語であり、「セレクション」は、「選択。選ばれた品々。」の意味を有する語であり、酒類を取り扱う業界においては、「選ばれた品々。精選品。」の意味で用いられることが多いといえるかもしれないが、「樽」の単位で「選ばれた品々」が一般に取引されている事情を見いだすことはできないことから、本件商標は、各語が有する語義から、構成全体より「樽の選択」ほどの漠然とした意味合いを想起するというのが自然である。

また、上記イの酒類を取り扱う業界における「カスクセレクション」の使用例について検討すると、(ア)の「コニャックカスク・セレクション」は「コニャックを熟成していた樽」からのセレクション(選択又は精選品、以下同じ。)、(イ)の「情熱的で慎重なカスクセレクション」は、醸造家が情熱的で慎重に「樽」をセレクション、(ウ)の「エクセプショナル・カスク・セレクション」は「例外的な、特別な樽」からのセレクション、(エ)の「オールド・カスク・セレクション」は「古い樽」からのセレクション、(オ)の「シングルカスクセレクション」は「単一の樽から瓶詰めされたウイスキー」からのセレクション (シングルカスクについての参考https://www.whiskymesi.com/singlecask/)、(カ)の「カスクセレクション」は、ウイスキー製造会社の醸造家による「樽」のセレクションほどの意味合いで使用されているものと認められる。

そうすると、これらはいずれも酒類の取引において「カスクセレクション」の語を含む表示における使用例ではあるものの、その前の語等により「カスクセレクション」を含む全体の意味が特定されるものであって、それぞれの使用例の意味は異なるものである。そうとすれば、酒類の取引において、単に「カスクセレクション」の語のみをもっては、特定の意味合いを表すものとして使用されているとはいえない。

そして、当審において職権をもって調査するも、本件商標登録時に、本件商標の指定商品を取り扱う業界において、「カスクセレクション」の文字が、具体的な商品の品質を表示するものとして、取引上一般に使用されている事実を発見することができず、取引者、需要者が「カスクセレクション」の文字を商品の品質を表示したものと認識するというべき事情も発見できなかった。

そうすると、本件商標は、その指定商品との関係において、これ接する取引者、需要者に「樽の選択」ほどの漠然とした意味合いを認識させるにとどまることから、商品の品質を直接的かつ具体的に表したものとして理解、認識されるとまではいえないものであって、これをその指定商品に使用した場合には、自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものというべきである。

したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に該当しない。

(2)請求人の主張について

ア 請求人は、「カスク」及び「セレクション」の文字が「ウイスキー」において品質表示であると指摘された審査例や「カスクセレクション」の使用例を挙げて、本件商標よりは、「特定のカスク(樽)から選りすぐられたもの」といった意味を容易に想起し得るから、酒類の品質を表示するにすぎず、自他商品識別標識として機能し得ない旨を主張する。

しかしながら、請求人が挙げる審査例は、「カスク」及び「セレクション」の文字を含むものであるものの、本件商標と構成文字が相違しており、それぞれの審査例は、その構成全体で商品の品質を表示するものと判断されたものであるから、この審査例が本件商標を判断するにあたり適切な事例とはいえない。

また、「カスクセレクション」の使用例は、上記(1)イのとおり、それぞれ異なる語を伴い、異なる意味合いで使用されているものであり、その他、請求人の主張及び提出された証拠を参酌したとしても、本件商標は、請求人が主張する「特定のカスク(樽)から選りすぐられたもの」の意味合いを想起させるとはいい難く、「樽の選択」ほどの漠然とした意味合いを想起するにとどまるというのが相当であるから、商品の品質等を具体的に表示するものとはいえない。

イ 請求人は、判決例を挙げて、本件商標の使用事実がないからといって、本件商標が自他商品識別力を有するとは限らない旨主張する。

しかしながら、請求人が挙げる判決例(甲9の2)は、その商標を構成する各文字について、指定商品との関係から、その意味を認定し、それらが結合してもなお、構成全体から生じる意味合いが取引者・需要者に商品の品質を認識させるものであるから、商標法第3条第1項第3号に該当する旨判断したもので、本号の適用にあっては、取引者・需要者の認識をもとに判断されるものであり、商標が実際に使用されていることを要しないとされたものである。

そして、本件商標は、上記(1)ウのとおり、各構成文字について取引の実情をも踏まえその意味合いを認定した上で、それらが結合した構成文字全体の意味合いが漠然としたものにとどまり、請求人が主張する具体的な品質を表すものとはいえないと判断したものであって、単に使用例がないといった事情をもって商標法第3条第1項第3号に該当しないと判断したものではない。

したがって、請求人が挙げる判決例があるとしても、本件商標が自他商品識別標識として機能し得ないとはいえない。

以上より、請求人のいずれの主張も採用できない。

(3)小括

以上によれば、本件商標は、その指定商品について、商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章とはいえず、商標法第3条第1項第3号に該当しない。

3 まとめ

以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第3条第1項第3号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項第1号の規定により、無効とすることはできない。

よって、結論のとおり審決する。

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