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Trademark Appeal Case

プライベートモルトの識別力

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号2024890063
審判種別記載はありません。
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。

理由テキスト

理 由

第1 本件商標

本件登録第6765115号商標(以下「本件商標」という。)は、「プライベートモルト」の文字を標準文字で表してなり、令和5年6月13日に登録出願、第33類「清酒,日本酒,焼酎,泡盛,洋酒,ウイスキー,蒸留酒,ウォッカ,ジン,ブランデー,ラム,リキュール,カクテル,スピリッツ,果実酒,酎ハイ,中国酒,薬味酒」を指定商品として、同年10月11日に登録査定され、同年12月22日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張

請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、審判請求書及び審判弁駁書において、その理由(商標法第3条第1項第3号)を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証から甲第11号証(枝番号を含む。以下証拠は「甲(乙)○」と表記する。枝番号の全てを引用するときは、枝番号を省略する。)を提出した。

1 請求の理由

本件商標は、商標法第3条第1項第3号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号の規定により無効とされるべきである。

2 審判請求書における主張

(1)「プライベート」及び「モルト」の意味

ア 「プライベート」の意味

「プライベート」の文字は、“個人的。私的。”の意味を有する(「広辞苑 第七版」(株式会社岩波書店刊))(甲2)。また、“私の,個人に関する[属する];私用の”等を意味する英単語の「private」をカタカナで表記したものでもある(「リーダーズ英和辞典 第3版」(株式会社研究社刊))(甲3)。

イ 「モルト」の意味

「モルト」は、“麦芽”を意味する他、「モルト・ウィスキー」の略語としても認識されている(「広辞苑第七版」(株式会社岩波書店刊))(甲2)。

(2)審査例

令和5年に出願された商標「プライベートカスク」が、指定商品「ウイスキー」に使用した場合、「ウイスキーを樽単位で販売するサービスの商品」といった“商品の品質を表示するにすぎないから、商標法第3条第1項第3号に該当する”として拒絶されている(甲4)。

(3)酒類分野における販売形態について

本件商標の指定商品を取り扱う分野、特にウイスキーにおいて、ウイスキーを樽単位で特定して販売するサービスについて「プライベートカスク」と称されているように、自分専用(=private)のウイスキーであること売りにして取引されている実情がある(甲5)。

ア 「プライベート」の使用例について

酒類業界では “自分専用の”という意味合いで使用される他に、「プライベート・ブランド」に代表されるような、“独自に企画された”といった意味合いを表す言葉として「プライベート」の文字が使用されている。

(ア)「プライベートブランド【private brand】

“スーパー・マーケットや百貨店などの大手商業者が自ら企画開発して売り出す独自のブランド商品。商業者商標。流通業者商標。PB”(「広辞苑 第七版」(株式会社岩波書店刊))(甲2)。

(イ)プライベート・ブランド

“ブランドは大別して2種類あり、1つはナショナル・ブランド(NB NationalBrand)、もう一つはプライベート・ブランドという。・・・プライベート・ブランドとは流通業者が独自に企画・開発し、生産を委託して製造された商品のブランドを指す。プライベート・ブランドは、消費者の意向を反映するために、モニター顧客と共同開発された商品が百貨店を中心に増加している。また、量販店を中心に低価格商品のラインアップが補強・拡大されている”(「2016現代用語の基礎知識」)(甲6の1)

(ウ)ウェブサイト「BAR TIMES」において、「“2021.06.28 Mon/ウイスキープライベートブランド「DRAMLAD」始動/ウイスキーに精通したテイスター達が厳選 新プライベートウイスキー7月末発売予定/DRAMLAD合同会社”」の記載がある(甲6の2)。

(エ)ウェブサイト「グランドニッコー東京台場」において、「“2024.03.26 グランドニッコー東京 台場「プライベートワイン2023」”“2017年より販売を続けているプライベートワインは、この度、2023年ビンテージの販売を開始いたします。”」の記載がある(甲6の3)。

(4)本件商標「プライベートモルト」の自他商品識別力、及び第3条第1項第3号の該当性について

ア 本件商標を構成する「プライベートモルト」は、“専用の,会員制の”等の意味を有する英単語の「private」に通じる「プライベート」の文字と、“麦芽”の意味を有する他、“モルト・ウイスキー”の略語として本件商標の指定商品の分野において認識されている「モルト」の文字を組み合わせたものであるところ、本件商標の指定商品を取り扱う分野、特にウイスキーに関しては、樽で蒸留中のウイスキーを樽単位で特定して販売するサービスについて「プライベートカスク」と称されているように、自分専用(=private)のウイスキーであることを売りにして取引されている実情がある。

「プライベート」の文字が“自分専用の”、あるいは“あなただけの”という意味合いで使用され、そして、ウイスキーにおいては、「モルト」=「モルト・ウイスキー」と認識されている状況を踏まえると、これに接する需要者は、「自分専用のモルト(ウイスキー)」、「あなただけのモルト(ウイスキー)」であることを認識、すなわち、指定商品との関係において単に商品の品質を普通に用いられる方法で表示したにすぎず、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものとみるのが相当である。あるいは、「プライベート」の文字は“独自に企画された”といった意味合いを表す言葉としても使用されている実情もある。そうとすると、これに接する需要者は、「独自に企画されたモルト(ウイスキー)」であることを認識、すなわち、本件商標は指定商品との関係において単に商品の品質を普通に用いられる方法で表示したにすぎないともいえる。

いずれの意味合いを想起されるにせよ、本件商標が「取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであって、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないもの」であることは明らかである。

イ 実際の使用例の有無について

商標の自他商品識別力の有無が争われた平成12年(行ケ)第76号審決取消請求事件(平成12年7月5日口頭弁論終結)(甲7の2)では、「商標が、その指定商品の取引過程において使用されている事実がないとしても、将来、商品の品質、機能等を表す表示として使用され、取引者、需要者に商品の品質表示等であると認識される可能性がある場合には、商標法3条1項3号が適用される」と述べられている。「当該商標の使用事実がない」からといって、当該商標が自他商品識別力を有するとは限らないのであり、取引者・需要者における「プライベートモルト」の文字の使用例が少なかったとしても、そのような事実を根拠に“本件商標は自他商品識別力を有している”と判断すべきではないのである。

3 審判弁駁書における主張

(1)請求人適格について

ア 請求人である「日本洋酒酒造組合」は、昭和28年に「酒税法」とともに制定された「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律」により、同年7月に大蔵大臣(当時)の認可を受けて設立された法人である(同法第3条(甲8の1))。

請求人の設立の目的は以下のとおりである(「日本洋酒酒造組合定款」より(甲8の2))。

「第1条(目的)

組合は、組合員の緊密な連絡親和と相互扶助の精神に基づき、酒税の円滑な納税を促進し、酒類業界の安定と健全な進歩発展のために必要な事業を行い、組合員の自主的、かつ、自由公正な事業活動の機会を確保し、もって酒税の保全に協力し、及び共同の利益増進を図ることを目的とする。」

請求人の事業は「日本洋酒酒造組合定款」の第4条、請求人の組合員資格は同定款の第9条に記載のとおりである(甲8の2)。

イ ところで、請求人の組合員である「組合の地区内において洋酒を製造する酒類製造業者」は、本件商標が有効である限り、その指定商品について本件商標を使用することが出来ないため、本件商標の有効性は、請求人の組合員にとって利害関係があるのは明らかである。そして請求人は、上記の第1条を目的としているから、酒類業界の安定と健全な進歩発展のための事業を行う場合や、組合員の自主的、かつ、自由公正な事業活動の機会を確保する場合は、商標使用に関し組合員と同様の立場であるのみならず、組合員が本件商標を使用することが出来るかどうかは、上記目的の実現に関連した事項であるということができる。

したがって、請求人が、「その他組合の目的達成のために必要な事業」(「日本洋酒酒造組合定款」第4条(16))として、本件無効審判請求をすることにつき利害関係を有し、請求人適格を有しているのは明らかである。

ウ ちなみに、社団法人全日本コーヒー協会が登録商標「イルガッチェフェ」に請求した商標登録無効審判の審決取消訴訟(平成22年3月29日判決言渡、平成21年(行ケ)第10229号審決取消請求事件(甲9))において、社団法人全日本コーヒー協会は、当該協会の会員、設立目的及びその事業内容から、請求人適格を有することを認めている。

(2)商標法第3条第1項第3号の該当性について

ア 本件商標は、上記2(4)アのとおり、本件商標の指定商品を取り扱う分野においては、自分専用(=private)のウイスキーであることを売りにして取引されている実情があり、また、“独自に企画された”といった意味合いを表す言葉としても「プライベート」の文字が使用されているから、本件商標に接する需要者は、「自分専用のモルト(ウイスキー)」であること、あるいは「独自に企画されたモルト(ウイスキー)」であると認識するにすぎない。それはすなわち指定商品との関係において単に商品の品質を普通に用いられる方法で表示したにすぎないから自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものとみるのが相当である。

イ 上記2(4)イのとおり、「プライベートモルト」の使用事実がないからといって、本件商標が自他商品識別力を有するとは限らない。

ウ 上記2(2)の審査例は、指定商品を取り扱う業界において「プライベートカスク」の文字が、「ウイスキーを樽単位で販売するサービス」について使用されている実情があるので、「ウイスキーを樽単位で販売するサービスの商品」程度の意味合いを理解、認識されると判断されており、このような判断は、同種商品を指定商品とする本件商標にも十分当てはまるものと考え、例示したのであって、当該事実は、本件商標が品質表示であることを示す証拠になり得るものと考える。

エ 被請求人は、請求人が主張する「自分専用のモルト(ウイスキー)」、あるいは「独自に企画されたモルト(ウイスキー)」は、「自家製ウイスキー」「プライベートボトル」(乙2)などの文言で表現されていると主張するが、「自家製ウイスキー」(乙2の1)からは“自ら醸造したモルト(ウイスキー)”あるいは“自らブレンドしたモルト(ウイスキー)”を意味するものであり、また、「プライベートボトル」(乙2の2)の場合、被請求人が挙げた使用例は 1 件のみであり、このような事実だけで、「独自に企画されたモルト(ウイスキー)」は、「「プライベートボトル」という名称で表現され、不自由なく取引されている」と判断するのは早計である。

オ 甲5で挙げたように「ウイスキーを樽単位で販売するサービスの商品」は現に存在しており、被請求人自身もそのような商品を販売しているように見受けられる(甲11)から、このような状況を見る限り、本件商標からは「自分専用のモルト(ウイスキー)」、あるいは「独自に企画されたモルト(ウイスキー)」の意味合いが生じ得る。

(3)まとめ

本件商標を構成する「プライベート」及び「モルト」の意味、そして、主としてウイスキー業界における使用状況に鑑みれば、本件商標は全体として「あなただけのモルト(ウイスキー)」あるいは「独自に企画されたモルト(ウイスキー)」といった意味を容易に想起し得るものであり、酒類の品質を表示するにすぎず、自他商品識別標識として機能し得ないものである。

第3 被請求人の答弁

1 答弁の趣旨

被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙1及び乙2(枝番号を含む)を提出した。

2 答弁の理由(要旨)

(1)商標法第3条第1項第3号の該当性について

ア 本件商標は、同じ書体、同じ大きさ、同じ間隔に横一連に表してなるものであり、その構成全体から生じる「プライベートモルト」の称呼も格別冗長というべきものでなく、よどみなく一連に称呼し得るものである。かかる構成からなる本件商標は、これに接する取引者、需要者をして、その構成全体をもって一体不可分の一種の造語として認識されるとみるのが自然であり、ほかに、その構成中の「プライベート」又は「モルト」の文字部分のみが独立して認識されるとみるべき特段の事情は見いだせない。そうすると、本件商標は、その構成全体をもって、特定の観念を生じることのない一体不可分の一種の造語とみるのが相当である。

さらに、本件商標は、辞書にも掲載されておらず、インターネット上で検索した場合にも、本件商標の記載は散見されないから、本件商標は、一連一体で判断されるべきであり、被請求人による造語であるといえる。

イ また、「プライベート」という文言を含む商標が数多く登録されている(乙1)。

なお、請求人が挙げる、「プライベートカスク」の文字が指定商品において品質表示であると指摘された審査例は、本件商標とは異なる文字要素との組み合わせに関する例であり、「カスク」と「モルト」の文字からは異なる意味が生じる。さらに、「プライベートカスク」の使用例は、本件商標とは異なる文字の使用例であり、本件商標の使用例については何ら言及していない。

以上より、請求人が挙げている審査例および使用証拠は、本件商標が品質表示であることを示す証拠にはなり得ない。

ウ また、審査基準において、実際に一般的に使用されていることは必要とされないとはいえ、請求人が主張している「自分専用のモルト(ウイスキー)」であること、あるいは「独自に企画されたモルト(ウイスキー)」は、現在、「自家製ウイスキー」「プライベートボトル」、などの文言で表現されて不自由なく取引されている(乙2)。

エ 以上のことから、あえて本件商標を需要者・取引者が使用する必要性は全く無く、特定人に独占使用を認めたからといって公益に反するとも思われず、むしろ、本件商標は請求人が主張する品質を普遍的に具体的記述的に表しているとは思われないため、品質表示として使用するには極めて不適切である。

オ さらに、本件商標は、漠然としており、仮に、「プライベート」と「モルト」と分離して判断したとしても、英単語「プライベート」は、個人的な、内密な、私的な、「モルト」は大麦の麦芽、モルトウイスキー、を意味するのであるから、記述的な意味合いは、「自分だけの麦芽、もしくはモルトウイスキー」の意味にとどまるのであって、請求人のいう「あなただけのモルト(ウイスキー)」あるいは「独自に企画されたモルト(ウイスキー)」は、本件商標の上記意味合いからは飛躍しており、本件商標からの想像の一つにすぎない。

すなわち、本件商標が「自分だけの麦芽やモルトウイスキー」を意味するとしても、モルトを意味するには「麦芽」なのか「モルトウイスキー」なのか、さらに、自分で「作る」のかもしくは「購入」するのか、など、何ら明確で具体的な特定の内容を示していないから、需要者、取引者が、様々な意味合いを想像する可能性がある商標である。

カ このように本件商標は、漠然と「自分だけのモルトウイスキー」という意味合いを表すものの、そこから様々な想像が喚起されるが故に需要者・取引者が興味関心を持ち記憶に残るものであり、まさに識別力を有する造語の商標である。

(2)請求人適格について

商標法において、無効審判は利害関係人に限り請求することができる(46条2項)。ここで、請求人は、請求書において、本件商標に対して、どのような利害関係を有しているのか、何ら言及しておらず、利害関係を有することを証明する証拠も提出されていない。さらに、請求人が本件商標をすでに使用しているという事実も無いことから、請求人は本件審判事件の利害関係人とは認められない。

第4 当審の判断

1 利害関係について

本件審理に関し、当事者間において利害関係について争いがあるので、以下、検討する。

(1)請求人が提出した証拠(甲8)及び主張によれば、以下のことが認められる。

請求人は、昭和28年7月「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律」により設立された法人である(甲8の1)。

(2)請求人の設立の目的は、「組合は、組合員の緊密な連絡親和と相互扶助の精神に基づき、・・・酒類業界の安定と健全な進歩発展のために必要な事業を行い、組合員の自主的、かつ、自由公正な事業活動の機会を確保し、・・・共同の利益増進を図ることを目的とする。」(甲8の2、定款第1条)ものである。

(3)請求人の組合員は、「組合員たる資格を有する者は、組合の地区内においてウイスキー、ブランデー・・・を製造する酒類製造業者とする。」(甲8の2、定款第9条)とされている。なお、ここでいう「組合の地区」とは「全国一円の区域」(同第3条)である。

(4)上記(1)ないし(3)によれば、請求人の組合員は、日本国内において「ウイスキー、ブランデー・・・を製造する酒類製造業者」であるところ、酒類製造業者は、本件商標が有効な権利として存続している限り、本件商標を「ウイスキー,ブランデー」等を始めとするその指定商品に使用することができないから、請求人の組合員は利害関係があるということができる。そして、請求人は、その「組合員の自主的、かつ、自由公正な事業活動の機会を確保」することを目的としていることから、本件商標の登録の可否は、「組合員の自由公正な事業活動の機会の確保」の実現に関連した事項であるということができる。

そうとすれば、請求人は、本件商標の登録の可否について利害関係があるというべきである。

したがって、請求人は、本件商標登録無効審判請求をするにつき利害関係を有し、請求人適格を有すると認めるのが相当である。

2 商標法第3条第1項第3号該当性について

(1)本件商標について

本件商標は、「プライベートモルト」の文字を標準文字で表してなるところ、請求人の主張及び提出された証拠並びに職権調査によれば以下のとおりである。

ア 「プライベート」と「モルト」の意味について

「プライベート」は、「個人的。私的。」の意味を有する語であり、「モルト」は、「麦芽。」、「モルト・ウィスキー」の略語の意味を有する語である(いずれも「広辞苑 第七版」(株式会社岩波書店刊))(甲3)。

イ 酒類分野における販売形態について

(ア)プライベートカスクについて

「プライベートカスク」とは、ウイスキーを樽単位で特定して販売するサービス形態であり、「高木酒店」のウェブサイトに「プライベートカスクは、・・・カスクオーナー側で味を確認し、熟成の進み具合を見極めボトリングのタイミングを決定することができる・・・」及び「プライベートカスクには、カスクオーナー制度があり、お好みの味にウイスキーをカスタマイズできることはもちろん、貯蔵庫の見学やカスクのサイズ選定、ボトリングのタイミングなどを確定することができます。だからこそ、オーナー様にとっての唯一のウイスキーを作ることができます。」(甲5の1)との記載があり、また、静岡蒸溜所のウェブサイトに「プライベートカスク」の見出しの下、「あなただけのプラベートカスクで、夢を叶えませんか?・・・全く違う個性を持った原酒、サイズや履歴の違う樽、産地の違う大麦麦芽などから自分がチョイスして、世界にひとつだけのウイスキーを手にすることができます。」(甲5の2)と記載されている。

(イ)酒類の取引における「プライベート」の使用例

「プライベートブランド」は、「スーパー・マーケットや百貨店などの大手商業者が自ら企画開発して売り出す独自のブランド製品。」(「広辞苑 第七版」(株式会社岩波書店刊))(甲2)、「プライベート・ブランドとは流通業者が独自に企画・開発し、生産を委託して製造された商品のブランドを指す。」(「2016現代用語の基礎知識」)(甲6の1)を意味するもので、その構成中の「プライベート」の文字は、「独自に企画された」ほどの意味合いを表す語であるといえる。

そして、酒類分野においては、「BAR TIMES」のウェブサイトにおいて、「ウイスキーに精通したテイスター達が厳選 新プライベートウイスキー7月末発売予定」の見出しの下、「DRAMLAD(ドラムラッド)合同会社では、スコットランドのウイスキー原酒を樽ごと買い付けボトリングした、プライベートブランドを7月中旬以降に発売予定。・・・まずは、3つのプライベートラベルとその特徴、さらに今後ますますプライベートブランドウイスキーを拡大していく予定というDRAMLADについてご紹介いたします。」(甲6の2)と記載され、また、「グランドニッコー東京台場」のウェブサイトにおいて「グランドニッコー東京 台場「プライベートワイン2023」」の見出しの下、「ホテル内の豊富なお食事とマリアージュを愉しむ」及び「2024年3月29日(金)より販売開始/~プロジェクト初となる3年7ヶ月長期成熟のシャルドネ2019も登場!~」(甲6の3)の記載が認められる。

ウ 上記ア及びイを踏まえ、本件商標について検討する。

本件商標は、「プライベートモルト」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字は、同じ大きさ及び書体で、字間なく横書きしたまとまりの良い構成よりなるから、一連一体の語を表してなると看取されるものである。そして、上記アによれば、「プライベート」は「個人的。私的。」の意味を有する語であり、「モルト」は、「麦芽。」「モルト・ウィスキー」の意味を有する語と理解されるものであるところ、「プライベートモルト」の語は、辞書等に載録されている語ではないことから造語といえるものであるが、各語が有する語義から、構成全体より「個人的な麦芽」又は「個人的なモルトウイスキー」ほどの漠然とした意味合いを想起するというのが自然である。

また、上記イによれば、酒類を取り扱う業界において「プライベートカスク」及び「プライベートウイスキー」の使用例は、ウイスキーを樽ごと買い付けるという、特殊な取引の形式において、その樽のオーナーがボトリングなどを実施できることに使用されているものであり、「プライベートワイン」の使用例は、ホテルのレストランで取り揃えられたワインを紹介する際に使用されているにすぎないものである。

そうすると、これらはいずれも酒類の取引において「プラベート」の語を含む表示における使用例ではあるものの、その構成中の「プライベート」の語から生じる意味合いを特定できるものとはいい難いことから、酒類の取引において、「プライベート」の語が、その語が本来的に有する意味を超えて、特定の意味合いを生じるとはいえないものである。

そして、当審において職権をもって調査するも、本件商標登録時に、本件商標の指定商品を取り扱う業界において、「プライベートモルト」の文字が、具体的な商品の品質を表示するものとして、取引上一般に使用されている事実を発見することができず、取引者、需要者が「プライベートモルト」の文字を商品の品質を表示したものと認識するというべき事情も発見できなかった。

そうとすれば、本件商標は、その指定商品との関係において商品の品質を直接的かつ具体的に表したものとして理解、認識されるとまではいえないものであって、これをその指定商品に使用した場合には、自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものというべきである。

したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に該当しない。

(2)請求人の主張について

ア 請求人は、「プライベートカスク」の文字が「ウイスキー」において品質表示であると指摘された審査例を挙げるとともに、「プライベート」の文字が「独自に企画された」との意味合いで使用された例として「プライベートブランド」「プライベートウイスキー」「プライベートワイン」を挙げて、本件商標よりは、「あなただけのモルト(ウイスキー)」又は「独自に企画されたモルト(ウイスキー)」といった意味を容易に想起し得るから、酒類の品質を表示するにすぎず、自他商品識別標識として機能し得ない旨を主張する。

しかしながら、請求人が挙げる審査例は、「プライベートカスク」の文字からなる商標であり、その構成全体で「ウイスキーを樽単体で販売するサービスの商品」を表すものとしてウイスキーを取り扱う業界において使用されている実情が認められることから、商品の品質を表示するものと判断されたものであり、この審査例において「プライベートカスク」と書してなる構成中の「プライベート」の文字より単独で生じる意味合いについては、何ら言及がされていないものであるから、この審査例が本件商標を判断するにあたり適切な事例とはいえない。

また、「プライベートウイスキー」及び「プライベートワイン」については、上記(1)ウのとおり、「プライベート」の語が本来的に有する意味を超えて、特定の意味合いを生じるとはいえないものである。

したがって、請求人の主張及び提出された証拠を参酌したとしても、本件商標は、請求人が主張する「あなただけのモルト(ウイスキー)」又は「独自に企画されたモルト(ウイスキー)」の意味合いを想起させるとはいい難く、上記(1)のとおり、「個人的な麦芽」又は「個人的なモルトウイスキー」ほどの漠然とした意味合いを想起するにとどまるというのが相当であるから、商品の品質等を具体的に表示するものとはいえない。

イ 請求人は、判決例を挙げて、本件商標の使用事実がないからといって、本件商標が自他商品識別力を有するとは限らない旨主張する。

しかしながら、請求人が挙げる判決例(甲7の2)は、その商標を構成する各文字について、指定商品との関係から、その意味を認定し、それらが結合してもなお、構成全体から生じる意味合いが取引者・需要者に商品の品質を認識させるものであるから、商標法第3条第1項第3号に該当する旨判断したものであり、本号の適用にあっては、取引者・需要者の認識をもとに判断されるものであり、商標が実際に使用されていることを要しないとされたものである。

そして、本件商標は、上記(1)ウのとおり、各構成文字について取引の実情をも踏まえその意味合いを認定した上で、それらが結合した構成文字全体の意味合いが漠然としたものにとどまり、請求人が主張する具体的な品質を表すものとはいえないと判断したものであって、単に使用例がないといった事情をもって商標法第3条第1項第3号に該当しないと判断したものではない。

したがって、請求人が挙げる判決例があるとしても、本件商標が自他商品識別標識として機能し得ないとはいえない。

以上より、請求人のいずれの主張も採用できない。

(3)小括

以上によれば、本件商標は、その指定商品について、商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章とはいえず、商標法第3条第1項第3号に該当しない。

3 まとめ

以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第3条第1項第3号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項第1号の規定により、無効とすることはできない。

よって、結論のとおり審決する。

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