結論テキスト
本件審判の請求は、成り立たない。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 2023000469 |
|---|---|
| 審判種別 | 記載はありません。 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理 由
本願は、2018年(平成30年)3月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2017年3月28日、2017年7月14日、2017年10月26日及び2017年11月1日、いずれも米国)を国際出願日とする出願であって、その主な手続の経緯は、次のとおりである。
令和4年 3月15日付け 拒絶理由の通知
同年 8月26日 意見書及び手続補正書の提出
同年 9月 1日付け 拒絶査定
令和5年 1月12日 審判請求書の提出
同年 3月 2日 手続補正書(方式)の提出
令和6年 9月 3日付け 当審による拒絶理由の通知
令和7年 3月 6日 意見書及び手続補正書の提出
本願の請求項22に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和7年3月6日提出の手続補正書(以下「本件補正」という。)により補正された特許請求の範囲の請求項22に記載された以下のとおりのものである。なお、下線は補正された箇所を示す。
「【請求項22】
アルツハイマー病(AD)
を有する個体におけるTauタンパク質、非リン酸化Tauタンパク質、リン酸化Tauタンパク質、または高リン酸化Tauタンパク質のレベルを低下させるための医薬であって、
ヒ
トTauに結合するモノクローナル抗体を含み、
前記抗体が4500mgの単位用量で投与され、
前記抗体が、
配列番号26または配列番号27のアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号28のアミノ酸配列を含む軽鎖と、
を含み、
前記抗体が、2週間に1回、少なくとも3回投与され、その後は4週間に1回投与される、
医薬。」
当審が、令和6年9月3日付けで通知した拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)のうち、本願発明に対応する本件補正前の請求項28に係る発明(以下「補正前発明」という。)に対する拒絶理由の概要は、補正前発明は、以下の引用文献1に記載された発明、引用文献1及び2に記載の事項並びに本願優先日当時の技術常識に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
<引用文献等一覧>
1.国際公開第2016/196726号
2.C2N Diagnostics News Release (C2N Diagnostics website),"C2N Diagnostics Reports Phase 1 Study Results of C2N-8E12(ABBV-8E12) - Anti-Tau Antibody - in Subjects with Progressive Supranuclear Palsy" , 2016.12.09
3.Guidance for Industry - Estimating the Maximum Safe Starting Dose in Initial Clinical Trials for Therapeutics in Adult Healthy Volunteers, 2005, pp. 1-27
4.The FASEB Journal, 2007, Vol. 22, pp. 659-661
(1) 引用文献1に記載された事項
当審の拒絶の理由で引用され、本願優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1には、以下の事項が記載されている(引用文献1は英文のため、当審合議体による訳で記載する。下線は、当審合議体で付したものであり、「・・・」は記載の省略を意味する。)。
・摘記1a(特許請求の範囲)
「【請求項1】
ヒトTauに結合する単離抗体
であって、モノマーTau、オリゴマーTau、非リン酸化Tau、及びリン酸化Tauに結合する、前記抗体。
・・・
【請求項12】
前記抗体が、配列番号342のアミノ酸配列を含むHVR-H1;配列番号343のアミノ酸配列を含むHVR-H2;配列番号344のアミノ酸配列を含むHVR-H3;配列番号345のアミノ酸配列を含むHVR-L1;配列番号346のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び配列番号347のアミノ酸配列を含むHVR-L3を含む、先行請求項のいずれか一項に記載の単離抗体。
・・・
【請求項14】
前記抗体が、
a)配列番号348もしくは配列番号602の配列と少なくとも95%、少なくとも97%、もしくは少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む重鎖、及び配列番号349の配列と少なくとも95%、少なくとも97%、もしくは少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む軽鎖;または
b)配列番号348もしくは配列番号602のアミノ酸配列を含む重鎖、及び配列番号349のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む、先行請求項のいずれか一項に記載の単離抗体。
【請求項15】
ヒトTauに結合する単離抗体であって、配列番号348
または配列番号602
のアミノ酸配列を含む重鎖、及び配列番号349のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む、前記抗体
。
・・・
【請求項23】
前記抗体が、IgG1またはIgG4抗体である、先行請求項のいずれか一項に記載の単離抗体。
【請求項24】
前記抗体が、IgG4抗体である、請求項23に記載の単離抗体。
【請求項25】
前記抗体が、M252Y、S254T、及びT256E変異を含む、請求項24に記載の単離抗体。
【請求項26】
前記抗体が、S228P変異を含む、請求項24または請求項25に記載の単離抗体。
・・・
【請求項28】
前記
抗体が、モノマーTau、リン酸化Tau、非リン酸化Tau、及びオリゴマーTauのそれぞれに、100nM未満、75nM未満、または50nM未満のKDで結合する
、先行請求項のいずれか一項に記載の単離抗体。
・・・
【請求項35】
請求項1~29のいずれか一項に記載の単離抗体と、薬学的に許容される担体と、を含む、薬学的組成物。
【請求項36】
Tauタンパク質関連疾患の治療方法であって、請求項1~29のいずれか一項に記載の抗体、または請求項33に記載の薬学的組成物を、Tauタンパク質関連疾患を有する個体に投与することを含む、前記方法
。
【請求項37】
前記
Tauタンパク質関連疾患が、タウオパチーである
、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記
タウオパチーが、神経変性タウオパチーである
、請求項37に記載の方法。
・・・
【請求項40】
前記
タウオパチーが、アルツハイマー病
または進行性核上性麻痺
である
、請求項37~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
個体における認知記憶容量の保持もしくは増加方法、または記憶喪失の減速方法であって、請求項1~29のいずれか一項に記載の抗体、または請求項35に記載の薬学的組成物を投与することを含む、前記方法。
【請求項42】
個体におけるTauタンパク質、非リン酸化Tauタンパク質、リン酸化Tauタンパク質、または高リン酸化Tauタンパク質のレベルの低減方法であって、請求項1~29のいずれか一項に記載の抗体、または請求項35に記載の薬学的組成物を投与することを含む、前記方法。
・・・」
・摘記1b(【0003】~【0005】)
「背景技術
【0003】
神経原線維変化及び神経絨毛糸(NT)は、アルツハイマー病(AD)の主要な神経病理学的特徴である。NTは、リン酸化を含む翻訳後修飾を受けた微小管関連Tauタンパク質から構成され、高リン酸化Tauコンフォマーの凝集によって発達する。ADは、多くの神経変性タウオパチーと、特に特定の種類の前頭側頭型認知症(FTD)とこの病理を共有する。Tauタンパク質は、AD及び関連する神経変性タウオパチーにおける認知崩御における主要な役者であるようである。
【0004】
Tauタンパク質を標的とする治療アプローチはほとんどなく
、主にTauのリン酸化を病理学的レベルまで増加させると考えられるキナーゼの阻害剤、及び高リン酸化Tauタンパク質の細胞質凝集を遮断する化合物を含む。これらのアプローチは、特異性及び有効性についての様々な欠点に悩まされる。神経変性障害を引き起こすことが知られる、または推定される、
病理学的タンパク質コンフォマーを標的とする追加の治療剤に対する必要性が存在
する。
概要
【0005】
本開示は、抗Tau抗体及びその使用方法を提供する。
」
・摘記1c(【00359】)
「【00359】
疾患の予防または治療について、
本発明の抗体の適切な投薬量は(単独で、または1つ以上の他の追加の治療剤と組み合わせて使用される場合)、治療される疾患の種類、抗体の種類、疾患の重症度及び経過、抗体が予防目的または治療目的で投与されるかどうか、以前の療法、患者の病歴及び抗体への応答、ならびに主治医の裁量に依存するだろう。
抗体は、1回で、または一連の治療にわたって患者に好適に投与される。疾患の種類及び重症度によって、例えば、1回以上の別個の投与によるものであれ、連続注入によるものであれ、約1μg/kg~15mg/kg(例えば、0.1mg/kg~10mg/kg)の抗体が、患者への投与のための初回候補投薬量であり得る。
1つの典型的な1日用量は、上記に言及される要因によって、約1μg/kg~100mg/kg以上の範囲であり得る。
病態によって数日間以上にわたる反復投与について、治療は一般に、疾患症状の所望される抑制が生じるまで持続されるだろう。抗体の一例示的な投薬量は、約0.05mg/kg~約10mg/kgの範囲内であるだろう。したがって、約0.5mg/kg、2.0mg/kg、4.0mg/kgもしくは10mg/kg(またはこれらの任意の組み合わせ)の1回以上の用量が、患者に投与され得る。
そのような用量は、断続的に、例えば毎週または3週間毎(例えば、患者が約2~約20回、または例えば約6回の用量の抗体を受容するように)投与されてもよい。より高い初回負荷用量、続いて1回以上のより低い用量が、投与されてもよい。しかしながら、他の投与量レジメンも有用であり得る。
この療法の進行は、従来の技法及びアッセイによって容易に監視される。」
・摘記1d(【00392】)
「YTE(M252Y/S254T/T256E)変異を、特定のIgG4抗体に組み込んだ。
M252Y、S254T及びT256E(YTE)などのFc受容体新生児(FcRn)結合ドメイン変異が、FcRn結合を増加させ、したがって、抗体の半減期を増加させるために説明されている。
米国公開特許出願第2003/0190311号及びDall’Acquaet al.,J.Biol.Chem.281:23514-23524(2006)を参照されたい。」
・摘記1e(【00402】~【00405】:実施例6)
「【00402】
実施例6:ヒト化抗Tau抗体選択及び特性評価 抗体選択及び特性評価:ヒトTauタンパク質への結合
Biacore T200機器、GE BiacoreヒトIgG捕捉キット及びCM5 SeriesSチップを使用して、
選択された抗体の親和性を25°Cで評価した。
・・・
表15:選択されたヒト化抗Tau抗体変異形の動態データ
69
140
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【00403】
抗体特性評価:hIgG4.S228P.YTE形式のヒトTauタンパク質への結合
Biacore T200機器、GE BiacoreヒトFAb捕捉キット及びCM5 SeriesSチップを使用して、親和性を25°Cで評価した。・・・
表16:表面プラズモン共鳴による、モノマーヒトTauへのhu37D3-H9.v28.A4 hIgG4.S228P.YTEの結合動態
36
135
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・・・」
・摘記1f(【00436】~【00450】:実施例12、13)
「【00436】
実施例12:カニクイザルにおける
hu37D3.v28.A4 hIgG4-S228P及び
hu37D3.v28.A4 hIgG4-S228P.YTEの薬物動態及び薬力学
インビボでの
hu37D3.v28.A4 hIgG4.S228P及び
hu37D3.v28.A4 hIgG4-S228P.YTE抗体の薬物動態及び薬力学を評価するために
、1群当たり5匹の意識のあるカニクイザル(Macaca fascicularis)に、第1相において
50mg/kgの用量で単回静脈内ボーラス注入により投与した。
同様に50mg/kgの用量で、抗gDhIgG4を対照として使用した。用量後最大35日目までの様々な時点で、血漿及びCSF試料を収集して、抗Tau抗体濃度を決定した。最終試料収集後、第2相の開始前に動物を63~64日間回復させた。第2相において、第1相の15匹の動物+追加の3匹の動物を2つの群に分け、第1の群(n=9)に抗体hu37D3.v28.A4hIgG4.S228Pを投与し、第2の群(n=9)にhu37D3.v28.A4hIgG4-S228P.YTE抗体を、
ともに50mg/kgで投与した。
用量後2日目及び10日目に、1群当たり4または5匹の動物の脳を採取した。
・・・
【00438】
薬物動態分析の結果を、図19A(血漿)及び19B(CSF)、ならびに表23及び24に示す。抗治療抗体陽性(ATA+)であると疑われた動物は、分析から除外した。
これらのデータは、hu37D3.v28.A4 hIgG4.S228PのFc領域へのYTE変異の導入が、約2倍だけ、抗体の末梢及びCSFクリアランス率を減速させたことを示す。
表23:単回静脈内ボーラス用量後の平均(±標準偏差)血漿クリアランス及びCmax推定
46
151
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表24:単回静脈内ボーラス用量後の平均(±標準偏差)CSFCmax推定
50
100
0001430344000004.jpg
【00439】
注射後2及び10日目の抗体の脳濃度を、以下のように決定した。・・・その実験の結果を図21A~Dに示す。
脳内の抗体hu37D3.v28.A4 hIgG4-S228P.YTEの濃度、及びhu37D3.v28.A4 hIgG4-S228P.YTE抗体の脳:血漿濃度の比率は、抗体hu37D3.v28.A4 hIgG4.S228Pよりも高い傾向にあった。
・・・
【00441】
薬力学的分析の結果を図20に示す。ATA+であると疑われた動物、及びベースライン値を欠いた別の動物を除外した後、1群当たり3匹の動物が存在した。驚くべきことに、投薬の第1日目の間に、
血漿Tauレベルは、非YTE変異形で治療した動物に対して、YTE変異形で治療した動物において、より大きな程度まで上昇する。
更に、初期時点では変異形間でPKは同様であるため、その結果は薬物動態応答(図20)からは予想されていない。
試料採取の期間全体にわたってYTE変異形で治療した動物では、より頑強な応答が持続される。
【00442】
実施例13:カニクイザル脳内のhu37D3.v28.A4 hIgG4-S228P.YTEの薬物動態及び薬力学
脳内の抗体薬物動態を評価するために、1群当たり12匹の意識のある
カニクイザル
(Macacafascicularis)
に、50mg/kgの用量でhu37D3.v28.A4 hIgG4-S228P.YTEの単回静脈内ボーラス注入により投与した。
同様に50mg/kgの用量で、抗gD hIgG4を対照として使用した。用量後最大42日目までの様々な時点で、血漿試料を収集して、抗Tau抗体濃度を決定した。更に、最大42日目までの様々な時点で、2匹のサルを屠殺し、抗体の脳及びCSF濃度を決定した。
・・・
【00446】
実験の結果は、単回静脈内注射後の、抗体hu37D3.v28.A4hIgG4-S228P.YTEへの、脳の様々な領域の曝露を示す。脳内の全体的曝露は2つの群にわたって同等であったが、
血漿中での観察と同様に、抗gDを投薬した動物と比較して、抗体hu37D3.v28.A4 hIgG4-S228P.YTEを投薬した動物において、終了時点で、脳内の抗体濃度の約2倍の増加が存在した。
図23を参照されたい。これらの結果は、YTE抗体の投薬後、脳内でのより高いトラフ(終了時)濃度の維持を示唆する。
・・・
【00448】
再び、血漿及び脳薬物動態と同様に、
抗gDを投薬した動物と比較して、抗体hu37D3.v28.A4 hIgG4-S228P.YTEを投薬した動物において、終了時点で、CSF及び血漿中、約2倍の抗体濃度の増加が存在した。
図23を参照されたい。
【00449】
カニクイザルから収集された血漿試料を使用して、単回静脈内50mg/kg用量後の、抗体hu37D3.v28.A4 hIgG4-S228P.YTE及び対照抗体の血漿薬力学を評価した。
実施例12において考察したElecsys(登録商標)イムノアッセイを使用して、血漿Tauを定量化した。
【00450】
薬力学的分析の結果を図24A~Bに示す。図24Aは、ベースラインに対して正規化された平均総血漿Tau濃度を示す。図24Bは、本研究の個々のサルにおける、ベースラインに対して正規化された総血漿Tau濃度を示す。
実施例12において観察された結果と同様に、抗体hu37D3.v28.A4 hIgG4-S228P.YTEの投与は、有意な血漿Tauレベルの増加をもたらした。
いかなる特定の理論によっても拘束されることを望むものではないが、
これらのデータは、hu37D3.v28.A4 hIgG4-S228P.YTEが脳内でTauに結合し、結果としてTauが脳から末梢へと除去されることを示唆する。これらの結果は、hu37D3.v28.A4 hIgG4-S228P.YTEによる脳内の標的結合と一貫する。
」
・摘記1g(配列表)
「
13
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・・・
90
151
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191
151
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」
・摘記1h(図20、図24A、B)
「図20
86
153
0001430344000008.jpg
図24A
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0001430344000009.jpg
図24B
94
153
0001430344000010.jpg
」
・摘記1i(【0055】~【0059】)
「【0055】
図20は、50mg/kgの示される抗体の単回静脈内注射後の、カニクイザルにおける血漿総Tau濃度及び血漿抗体濃度を示す。
・・・
【0059】
図24A-Bは、50mg/kgの示される抗体の単回静脈内注射後の、カニクイザルにおける血漿総Tau濃度の経時的な平均値(A)及び個体値(B)を示す。」
(2) 引用文献1に記載された発明
引用文献1には、「個体におけるTauタンパク質関連疾患」を治療するための「薬学的組成物」に用いられる、「ヒトTauタンパク質」に結合する「ヒト化抗Tau抗体」として、配列番号342~344のアミノ酸配列を含むHVR-H1~3及び配列番号345~347のアミノ酸配列を含むHVR-L1~3を含む、「hu37D3-H9.v28.A4hIgG4.S228P」及び「hu37D3-H9.v28.A4hIgG4.S228P.YTE」が記載されており(摘記1a、1d~1g)、これらヒト化抗Tau抗体を「カニクイザルに、50mg/kgの用量で」「単回静脈内ボーラス注入により投与」したこと(摘記1f)、当該投与が「有意な血漿Tauレベルの増加をもたらし」たことが、実施例の裏付けをもって記載され(摘記1f、1h、1i)、当該血漿Tauレベルの増加は、当該抗体が「脳内でTauに結合し、結果としてTauが脳から末梢へと除去されることを示唆する」ことが記載されている(摘記1f)。
そうすると、引用文献1には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「個体におけるTauタンパク質関連疾患を治療するための薬学的組成物であって、カニクイザルに対して50mg/kgの用量のヒトTauタンパク質に結合するhu37D3-H9.v28.A4 hIgG4.S228P又はhu37D3-H9.v28.A4 hIgG4.S228P.YTEを含み、前記抗体が、配列番号342のアミノ酸配列を含むHVR-H1、配列番号343のアミノ酸配列を含むHVR-H2、配列番号344のアミノ酸配列を含むHVR-H3、配列番号345のアミノ酸配列を含むHVR-L1、配列番号346のアミノ酸配列を含むHVR-L2、及び配列番号347のアミノ酸配列を含むHVR-L3を含む、薬学的組成物。」
当審における拒絶理由で引用された、本願優先日前に発行された引用文献3は、「成人健康ボランティアを対象とした治療薬の初回臨床試験における最大安全開始用量の推定」と題する産業界向けガイダンスであって、以下の事項が記載されている(引用文献3は英文のため、当審合議体による訳で記載する。下線は、当審合議体で付したものである。)。
・摘記3a(6頁4行~7頁4行、表1)
「V. ステップ2:ヒト等価用量計算
A. 体表面積に基づく換算
関連する動物実験のNOAELが決定された後、それをHEDに換算する。動物用量をヒト等価用量に外挿するための最も適切な方法について決定する必要がある。
MTDのような動物に全身投与される治療薬の毒性エンドポイントは、通常、投与量を体表面積(すなわち、mg/m
2
)で正規化した場合、種間でうまくスケールすると仮定される
(EPA 1992; Lowe and Davis 1998)。この仮定の根拠は、主にFreireichら(1966)とScheinら(1970)の研究にある。これらの研究者は、抗悪性腫瘍薬について、投与量を同じ投与スケジュールで正規化し、mg/m
2
で表した場合、げっ歯類の10%に致死する用量(LD10)と非げっ歯類におけるMTDが、ともにヒトのMTDと相関することを報告した。その後、この一連の薬剤のMTDは、投与量をW
0.67
ではなくW
0.75
に正規化した場合(体表面積正規化特有のもの)に、動物種間で最も良好にスケールすることが解析で示されたにもかかわらず(Travis and White 1988; Watanabe et al. 1992)、
体表面積正規化は、動物の投与量に基づいてHEDを推定するための広範な慣行として残っている。
動物用量をHEDに換算する際のアロメトリック指数が及ぼす影響の分析が行われた(付録A参照)。この分析に基づき、また、体表面積を補正することで、より保守的な開始用量推定値が得られ、臨床試験の安全性が高まるという事実に基づき、成人の健康なボランティアを対象とした初期試験の開始用量を選択する際には、
体表面積補正係数(すなわち、W
0.67
)に基づいてNOAEL用量をHEDに換算するアプローチを維持すべきであるとの結論に達した。
しかし、状況によっては、ヒトの投与量をmg/kg単位でNOAELと直接等しくするなど、別の用量正規化方法を用いることが適切な場合もある。動物用量をHEDに換算する場合、体表面積法からの逸脱は正当化されるべきである。mg/kgの直接換算を正当化する根拠と、他の正規化方法が適切な例については、以下の小節で述べる。
体表面積への正規化は、生物種間の用量を外挿するための適切な方法であるが、mg/kgからmg/m
2
への用量の換算には一貫した係数が必ずしも用いられていない。体表面積の標準化がHEDを推定するための合理的な方法であることを考えると、各生物種の用量を換算するための係数は標準化されるべきである。体表面積はW
0.67
によって変化するため、換算係数は試験動物の体重に依存する。しかし、体重が実際のBSA-CFに及ぼす影響に対処するために行われた分析では、
標準的な係数を用いれば、ヒトと動物の体重の広い範囲にわたってHEDの妥当な推定値が得られることが示された(付録B参照)。従って、表1に示す換算係数と除数を、NOAELの種間用量換算に用いる標準値として推奨する。
(これらの係数は、比較のための他のデータ(すなわち、AUC)が入手できないか、比較に不適切な場合に、他の毒性エンドポイント(例えば、生殖毒性や発がん性)の安全マージンを比較する場合にも適用できる)。
137
151
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a
体重60kgの人間を想定
。リストにない種または標準範囲外の体重の場合、HEDは以下の式から算出できる:
HED=動物用量(mg/kg)×(動物体重(kg)/ヒト体重(kg))
0.33
。
b
健康な小児が第1相試験のボランティアになることはまれであるため、このkm値は参考としてのみ提供する。
c
例えば、カニクイザル
、アカゲザル、ベニガオザル。
(当審合議体注:
「Table 1:Conversion of Animal Doses to Human Equivalent Doses Based on Body Surface Area」の訳は「表1:体表面積に基づく動物用量からヒト等価用量への変換」、
「To Convert Animal Dose in mg/kg to HED
a
in mg/kg, Either:」の訳は「mg/kg単位の動物用量をmg/kg単位のHED
a
に変換するには、次のいずれかを行う。」、
「Divide Animal Dose By」の訳は「動物の用量を割る」、
「Monkeys
c
」の訳は「サル
c
」)」
当審における拒絶理由で引用された、本願優先日前に発行された引用文献4は、「動物実験からヒトへの用量変換の再検討」と題する学術文献であって、以下の事項が記載されている(引用文献4は英文のため、当審合議体による訳で記載する。下線は、当審合議体で付したものである。)。
・摘記4a(アブストラクト)
「新薬が開発される際には、ある動物種から別の動物種への薬物投与量を適切に換算することが不可欠である。特に新しい動物試験や臨床試験を開始する際には、等量線量の適切な換算方法について誤解が存在するようである。ブドウや赤ワインに含まれるレスベラトロールという化合物がマウスの健康と寿命を改善することを著者が示した最近の研究に対するメディアの反応からも、適切な用量変換に関する教育の必要性は明らかである。これらの論文のオンライン発表直後から、科学界と一般紙は、著者らが使用したレスベラトロールの用量の妥当性について懸念を表明した。報告されたように、体重に基づく単純な換算によって動物用量をヒト等価用量(HED)に外挿するべきではない。
動物試験からヒト試験への薬物用量の換算をより適切に行うには、体表面積(BSA)正規化法を用いることを提案する。BSAはいくつかの哺乳動物種において、酸素利用、カロリー消費、基礎代謝、血液量、循環血漿蛋白、腎機能などの生物学的パラメータとよく相関している。我々は、動物からヒトへの用量変換、特に第I相および第II相臨床試験において、BSAを因子として使用することを提唱する。
」
・摘記4b(図1)
「
45
151
0001430344000012.jpg
図1:BSAに基づいた用量変換の式」
・摘記4c(表1)
「表1. BSAに基づく動物用量のHEDへの換算
91
150
0001430344000013.jpg
FDAドラフトガイドライン(7)のデータに基づく値。mg/kg単位の投与量をmg/m
2
単位の投与量に換算するには、Km値を乗じる。」
(1) 参考文献Aに記載された事項
本願優先日前に発行され、当審において、本願優先日当時における技術常識を示す文献として提示する参考文献Aには、以下の事項が記載されている(下線は、当審合議体で付したものである。)。
・摘記A1(〔別添〕第一章の1~3行)
「
臨床試験の目的は、治療薬の疾患又は症候に対する治療的ないし予防的効果や、さらにその使用に際しての危険性や副作用をヒトについて検討し、最終的には治療効果と副作用の相対的評価などに基づいて、臨床における有用性を評価することにある。
」
・摘記A2(〔別添〕第二章第八1の1~2行)
「
ごく初期の臨床試験の目的は、薬効又は副作用の面から投与量を徐々に上げながら決定して行くことである。
」
・摘記A3(〔別添〕第二章第一○の1~2行)
「
最小有効量のみならず、有効で安全な最大量をできるだけ検討し、有効量と安全量の範囲を明らかにしておくことが望ましい。
」
・摘記A4(〔別添〕第五章第二2の3)の1~11行)
「
非臨床試験での全成績を詳細に検討、整理記録し、同効薬、類似構造薬に関する従来の知識、経験をも加味し、ヒトに対して十分に安全と見込まれる用量を推定して、初回投与量とする。次に段階的に用量を増し、推定臨床単回投与量を上回るまで単回投与し、用量増加に関連した薬理作用、薬物動態、副作用を調べ、可能ならば有効性の初期徴候を集める。これらの成績に基づいて反復投与量、投与期間を決定する。
反復投与試験は、血中濃度が測定可能な治験薬については、血中濃度が定常状態に達するまで行う。血中濃度が測定し得ない治験薬については、臨床における将来の使用状況を推定し、薬効や副作用の出現に注意しながら適切な期間行われるべきである。いわゆる有害反応発現までの用量の範囲を求めることは行い難い状況にあることが少なくないが、その場合には、それまでに得られている非臨床試験成績との関連において、ヒトでの忍容性についての十分な根拠を綿密に検討しておくべきである。」
(2) 参考文献Aの記載に基づいて認定される技術常識(以下「技術常識1」という。)
摘記A1~4から、本願優先日当時、研究開発された薬物の臨床における有用性を評価するために、ヒトへ薬物を投与する臨床試験を行うに際し、ヒトに対して十分に安全と見込まれる用量を推定して初回投与量とし、次に段階的に用量を増しながら、用量増加に関連した薬理作用、薬物動態、副作用を調べ、これらの成績に基づいて、最小の副作用の下で最大の薬効・薬理効果が得られるような用量の検討を行うことが、技術常識となっていたと認められる。
(1) 参考文献B(BRAIN, 2015, Vol. 138, pp. 2716-2731)に記載された事項
本願優先日前に発行され、当審において、本願優先日当時における技術常識を示す文献として提示する参考文献Bは、「認知症患者における脳脊髄液中のタウおよびアミロイドβ
1-42
」と題する学術文献であって、以下の事項が記載されている(参考文献Bは英文のため、当審合議体による訳で記載する。下線は、当審合議体で付したものであり、「・・・」は記載の省略を意味する。)。
・摘記B1(アブストラクト)
「
進行性の認知機能低下と、脳脊髄液中の
アミロイドβ
1-42
低値、
総タウ高値及びリン酸化タウ高値のバイオマーカーパターンの組み合わせは、アルツハイマー病の典型的所見である。
しかしながら、いくつかの神経変性疾患は、臨床症状および神経病理の両面においてアルツハイマー病と重複する可能性がある。我々は、他に類を見ない大規模認知症患者コホートにおいて、アルツハイマー病の分子病理学的脳脊髄液バイオマーカーと、臨床的認知症診断及び疾患重症度との関連性を検討した。・・・前頭側頭型認知症では、脳脊髄液中のアミロイドβ
1-42
濃度が最も高く、総タウ及びリン酸化タウ濃度が最も低かった。
アルツハイマー病では、総タウ及びリン酸化タウ濃度が最も高く
、アミロイドβ
1-42
およびアミロイドβ
1-42
:リン酸化タウ比が最も低かった。
アルツハイマー病において、
アミロイドβ
1-42
の低値、
総タウの高値、及びリン酸化タウの高値は、ミニメンタルステート検査(Mini-Mental State Examination)の低スコアと相関していた。
・・・脳脊髄液バイオマーカーは、特定の臨床的認知症診断と強く関連しており、アルツハイマー病と前頭側頭型認知症ではバイオマーカー値の差が最も大きかった。さらに、
脳脊髄液
アミロイドβ
1-42
、
総タウ、リン酸化タウ
、アミロイドβ
1-42
:リン酸化タウ比
は、いずれもアルツハイマー病における認知機能低下と相関しており
、パーキンソン病性認知症及び血管性認知症における脳脊髄液アミロイドβ
1-42
も同様であった。これらの結果は、臨床現場において認知症を鑑別し、重症度を推定するために脳脊髄液バイオマーカーを用いることを支持するものである。」
・摘記B2(図1B、図1C)
「
76
151
0001430344000014.jpg
78
151
0001430344000015.jpg
(当審合議体注:
「Total tau」の訳は「総タウ」、
「Phosphorylated tau」の訳は「リン酸化タウ」、
「Early onset Alzheimer‘s disease」の訳は「早発性アルツハイマー病」、
「Late onset Alzheimer‘s disease」の訳は「晩発性アルツハイマー病」、
「Mixed Alzheimer‘s and vascular dementia」の訳は「アルツハイマー病と血管性認知症の混合群」)
図1 すべての診断におけるバイオマーカーの分布
中央値は赤線、95%信頼区間(CI)は黄線で示されている。p値は表2に示本研究で使用したアミロイドβ1-42(530ng/L)、総タウ(350ng/L)、リン酸化タウ(60ng/L)のカットオフ値は緑線で示されている。されている。(A)・・・
(B)アルツハイマー病では、脳脊髄液(CSF)中の総タウ濃度が高い。早発性アルツハイマー病、晩発性アルツハイマー病、及びアルツハイマー病と血管性認知症の混合群の被験者は、他の認知症患者よりも総タウ濃度が高い。(C)アルツハイマー病では脳脊髄液(CSF)中のリン酸化タウ濃度が高い。アルツハイマー病群(早発性アルツハイマー病、晩発性アルツハイマー病、及びアルツハイマー病と血管性認知症の混合群)では、他の認知症患者よりもリン酸化タウ濃度が高い。
(D)・・・」
・摘記B3(図3B、図3C)
「
95
116
0001430344000016.jpg
94
114
0001430344000017.jpg
(当審合議体注:
「Total tau」の訳は「総タウ」、
「Phosphorylated tau」の訳は「リン酸化タウ」、
「MMSE Score」の訳は「MMSEスコア」)
図3
アルツハイマー病におけるバイオマーカーとMMSEスコア(晩発性アルツハイマー病、早発性アルツハイマー病、アルツハイマー病と血管性認知症の混合型)。
グラフのマーカーは、見やすさを考慮し、凡例に従って分類されている。傾向線は線形回帰を用いて算出された。(A)・・・
(B)総タウ量は、MMSEスコアの低下とともに増加する(B=-8.22)。(C)リン酸化タウ濃度は、MMSEスコアの低下とともに増加する(B=-0.42)。
(D)・・・」
(2) 参考文献C(Nat. Rev. Neurol., 2010, Vol. 6, pp. 131-144)に記載された事項
本願優先日前に発行され、当審において、本願優先日当時における技術常識を示す文献として提示する参考文献Cは、「アルツハイマー病における脳脊髄液及び血漿バイオマーカー」と題する、技術常識を示す総説であって、以下の事項が記載されている(参考文献Cは英文のため、当審合議体による訳で記載する。下線は、当審合議体で付したものである。)。
・摘記C1(アブストラクト)
「集中的な学際的研究により、アルツハイマー病(AD)の分子病態に関する詳細な知見が得られた。この知見は、疾患修飾効果が期待される新たな治療戦略に活かされている。アミロイドβ免疫療法やセクレターゼ阻害など、最も有望な治療法のいくつかは、現在臨床試験で検証されている。疾患修飾治療は、アミロイドプラークや神経変性が広範囲に及ぶ前の、ADのごく初期に開始した場合に最も効果的である可能性がある。そのため、認知症前段階、あるいは理想的には発症前の段階でADを検出できるバイオマーカーが必要である。
本レビューでは、ADの主要な脳脊髄液(CSF)バイオマーカーである総タウ、リン酸化タウ、
及び42アミノ酸型アミロイドβの根拠と診断性能
を紹介する。
これらのバイオマーカーはアルツハイマー病の病態を反映しており、健常者における将来の認知機能低下や、認知機能障害のある患者における認知症への進行を予測するための候補マーカーである。また、新たに出現した血漿及び髄液バイオマーカーについても考察し、さらなる髄液マーカーを同定するためのプロテオミクスに基づく新たな戦略を探る。さらに、創薬及び臨床試験における髄液バイオマーカーの役割を概説し、アルツハイマー病バイオマーカーの発見と臨床応用に向けた検証の展望を示す。」
・摘記C2(132頁左欄「要点」)
「要点
・アルツハイマー病(AD)の現在の臨床診断基準では、診断を下す前に患者が認知症を呈していることが求められ、主に他の疾患の除外に基づいている。
・ADの疾患修飾薬が利用可能になったとしても、神経変性が重度化して広範囲に及ぶ前に、病気のごく早期に投与する必要がある。
・軽度認知障害(MCI)患者ではエピソード記憶に軽度の障害しか見られないため、前駆期ADを特定する臨床的方法は存在しない。
・脳脊髄液(CSF)バイオマーカーである総タウ、リン酸化タウ(p-tau
181
及びp-tau
231
)
、βアミロイド
1-42
は、AD及びMCI患者の前駆期ADの診断精度が高い。
・CSFバイオマーカーは、ADの診断において臨床でますます利用されており、臨床試験でも有用となるであろう。純粋なAD症例を含む患者集団の拡充を可能にする。
・候補薬がADの中核的な病態プロセスに影響を及ぼすことを示すバイオマーカー証拠は、認知機能への有益な効果と相まって、その薬を疾患修飾薬として分類するために不可欠となる。」
・摘記C3(133頁左欄29~45行)
「様々な研究のデータから、
CSFの総タウ濃度(t-tau)は、脳内の神経細胞、軸索の変性及び損傷の強度を反映していることが示唆されている。
脳卒中や脳外傷などの急性疾患を経験した患者では、CSFのt-tau が一時的に増加することが報告されており、その程度は組織損傷の程度と臨床転帰不良の可能性の両方と相関していた。
19-21
CSFのt-tauの高値は、MCI からADへの急速な進行
22
や、AD患者の急速な認知機能低下及び高死亡率との関連も指摘されている。
23、24
CSFのt-tauレベルの最も高い上昇は、クロイツフェルト・ヤコブ病などの最も急速な神経変性を伴う疾患で報告されている。
25
ある研究では、CSFのt-tauが死後神経原線維変化量と相関していることが明らかになっており、
16
これは神経原線維変化を有するニューロンが CSFのt-tauレベルに寄与している可能性を示唆している。」
・摘記C4(表1)
「表1
ADの脳脊髄液バイオマーカー
72
151
0001430344000018.jpg
(当審合議体注:
「total tau」の訳は「総タウ」、
「Change in biomarker level in AD」の訳は「
アルツハイマー病におけるバイオマーカーレベルの変化
」、
「Marked increase in AD and prodromal AD」の訳は「
アルツハイマー病及び前駆アルツハイマー病における顕著な増加
」)」
(3) 参考文献D(Alzheimer’s & Dementia, 2014, Vol. 10, pp. 713-723)に記載された事項
本願優先日前に発行され、本願優先日当時における技術常識を示す文献として提示する参考文献Dは、「脳脊髄液の「アルツハイマープロファイル」:簡単に言うけど、どういう意味か?」と題する技術常識を示す文献であって、以下の事項が記載されている(参考文献Dは英文のため、当審合議体による訳で記載する。下線は、当審合議体で付したものであり、「・・・」は記載の省略を意味する。)。
・摘記D1(表1)
「表1 研究対象集団のベースライン特性
29
151
0001430344000019.jpg
略語:MMSE(ミニメンタルステート検査)、APOE(アポリポプロテインE)、
CSF(脳脊髄液)
、Aβ42(アミロイドβ42)、
p-tau(スレオニン181がリン酸化されているタウ)、AD(アルツハイマー病)、MCI(軽度認知障害)、MCI-non-AD(ADによる認知症に移行していないMCI患者)、MCI-AD(ADによる認知症に移行したMCI患者)。
・・・」
・摘記D2(716頁右欄13~24行)
「3.結果
表1は、研究対象集団のベースライン特性を診断別に示している。対照群は他の群よりも若年であった(p<0.01)。AD群では他の群と比較して女性が多かった。MMSEは診断群間で異なっていた。AD患者はAPOEε4キャリアの割合が高く、髄液バイオマーカーの異常値が最も高かったのに対し、他の認知症及びMCI患者の値は対照群とAD患者の中間であった。
MCI-AD患者はMCI-non-AD患者と比較して、
わずかに年齢が高く、APOEε4キャリアの割合が高く、Aβ42値が低く、
タウ及びp-タウ値が高かった。
」
(4) 参考文献B~Dに記載された事項に基づいて認定される技術常識
摘記B1~3、C1~4、及びD1~2から、本願優先日当時、アルツハイマー病患者の脳脊髄液中のタウ量が、非アルツハイマー患者に比べて高いことは、技術常識となっていたと認められる。
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「ヒトTauタンパク質に結合するhu37D3-H9.v28.A4hI gG4.S228P.YTE」は、配列番号342のアミノ酸配列を含むHVR-H1、配列番号343のアミノ酸配列を含むHVR-H2、配列番号344のアミノ酸配列を含むHVR-H3、配列番号345のアミノ酸配列を含むHVR-L1、配列番号346のアミノ酸配列を含むHVR-L2、及び配列番号347のアミノ酸配列を含むHVR-L3を含むものであって、引用文献1の摘記1gによれば、当該HVR-H1、HVR-H2及びHVR-H3を含む重鎖と、当該HVR-L1、HVR-L2及びHVR-L3を含む軽鎖は、それぞれ、配列番号348及び配列番号349のアミノ酸配列を有するものであるところ、当該配列番号348及び配列番号349のアミノ酸配列は、本願発明における、重鎖のアミノ酸配列として特定された配列番号26及び軽鎖のアミノ酸配列として特定された配列番号28のアミノ酸配列と、それぞれ同一である。そうすると、配列番号348及び配列番号349のアミノ酸配列を含む引用発明の「ヒトTauタンパク質に結合するhu37D3-H9.v28.A4hI gG4.S228P.YTE」は、本願発明の「配列番号26のアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号28のアミノ酸配列を含む軽鎖と」を含む「ヒトTauに結合するモノクローナル抗体」に相当する。
また、引用発明における「薬学的組成物」は、本願発明の「医薬」に相当する。
さらに、アルツハイマー病はTauタンパク質関連疾患の一種であることから(前記第4の1(1)摘記1aの請求項36~40)、引用発明の「Tauタンパク質関連疾患」と本願発明の「アルツハイマー病」は、「Tauタンパク質関連疾患」である点で共通する。
そうすると、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、また相違する。
<一致点>
個体におけるTauタンパク質関連疾患を治療するための医薬であって、ヒトTauに結合するモノクローナル抗体を含み、前記抗体が、配列番号26のアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号28のアミノ酸配列を含む軽鎖と、を含む、医薬。
<相違点1>
本願発明においては、Tauタンパク質関連疾患が、「アルツハイマー病」であり、「アルツハイマー病を有する個体におけるTauタンパク質、非リン酸化Tauタンパク質、リン酸化Tauタンパク質、または高リン酸化Tauタンパク質のレベルを低下させるため」のものであることが特定されているのに対し、引用発明においては、「個体におけるTauタンパク質関連疾患を治療するため」のものである点。
<相違点2>
本願発明においては、「抗体が4500mgの単位用量で投与され」、「抗体が、2週間に1回、少なくとも3回投与され、その後は4週間に1回投与される」ことが特定されているのに対し、引用発明においては、「カニクイザルに対して50mg/kgの用量」で投与されるものである点。
(1) 相違点1について
引用発明は、引用文献1の摘記1bに示されるとおり、「神経原線維変化及び神経絨毛糸(NT)は、アルツハイマー病(AD)の主要な神経病理学的特徴であ」って、「NTは、リン酸化を含む翻訳後修飾を受けた微小管関連Tauタンパク質から構成され、高リン酸化Tauコンフォマーの凝集によって発達」し、「ADは、多くの神経変性タウオパチーと」「この病理を共有」し、「Tauタンパク質は、AD及び関連する神経変性タウオパチーにおける認知崩御における主要な役者である」(【0003】)が、「Tauタンパク質を標的とする治療アプローチはほとんどなく」、「病理学的タンパク質コンフォマーを標的とする追加の治療剤に対する必要性」が存在していた(【0004】)との背景技術のもと、引用発明に係るヒト化抗Tau抗体の投与が、「個体におけるTauタンパク質、非リン酸化Tauタンパク質、リン酸化Tauタンパク質、または高リン酸化Tauタンパク質のレベル」を低減し、これにより「Tauタンパク質関連疾患」を治療し得ることを見出しなされた発明である(摘記1aの請求項36~42)。
そして、前記第4の5(4)のとおり、アルツハイマー病患者の脳脊髄液中のタウ量が、非アルツハイマー患者に比べて高いことは、本願優先日当時の当業者において技術常識であったところ、引用文献1には、ヒト化抗Tau抗体を「カニクイザルに、50mg/kgの用量で」「単回静脈内ボーラス注入により投与」したことにより(摘記1f)、「有意な血漿Tauレベルの増加をもたらし」たことが、実施例の裏付けをもって記載されるとともに(摘記1h、1i)、当該血漿Tauレベルの増加は、当該抗体が「脳内でTauに結合し、結果としてTauが脳から末梢へと除去されることを示唆する」(摘記1f)ものであることが説明されている。
そうすると、引用文献1のこれらの記載に接した当業者であれば、引用発明に係る薬学的組成物の適用対象として、Tauタンパク質関連疾患のうち「アルツハイマー病」を有する個体に特定することは、むしろ自然に想起し得たことであって、引用発明に係る抗体を、アルツハイマー病を有する「個体におけるTauタンパク質、非リン酸化Tauタンパク質、リン酸化Tauタンパク質、または高リン酸化Tauタンパク質のレベルを低下」させるための医薬用途に適用し、相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものである。
(2) 相違点2について
まず、1日当たりの用量について検討する。
引用文献3及び4に記載されているように、体表面積正規化法により、動物への投与量に基づいてヒト等価用量(HED)を算出することは、本願の優先日当時に技術常識であって(摘記3a、摘記4a~4c)、カニクイザルを含むサルにおける用量を3.1で除することによりヒト等価用量が算出されることもまた摘記3aの表1から明らかであるところ、引用発明に係るヒト化抗Tau抗体のカニクイザルに対する投与量である50mg/kgを、3.1で除することにより算出されるヒト等価用量は50/3.1=16.1mg/kgである。そして、この値を、成人の一般的な体重が60kgとして換算すると約970mg程度となる。
この点、引用文献1には、ヒト化抗Tau抗体の投薬量について、「治療される疾患の種類、抗体の種類、疾患の重症度及び経過、抗体が予防目的または治療目的で投与されるかどうか、以前の療法、患者の病歴及び抗体への応答、ならびに主治医の裁量に依存する」こと、「1つの典型的な1日用量は、上記に言及される要因によって、約1μg/kg~100mg/kg以上の範囲であり得る」ことが記載されており(摘記1c)、当該「典型的な1日用量」は、成人の一般的な体重が60kgであるとして換算すると(摘記3a)、個体あたり0.06mg~6000mg以上となることと符合する。
そして、前記第4の4(2)で認定した技術常識1のとおり、本願優先日当時、研究開発された薬物の臨床における有用性を評価するために、ヒトへ薬物を投与する臨床試験を行うに際し、ヒトに対して十分に安全と見込まれる用量を推定して初回投与量とし、次に段階的に用量を増しながら、用量増加に関連した薬理作用、薬物動態、副作用を調べ、これらの成績に基づいて、最小の副作用の下で最大の薬効・薬理効果が得られるような用量の検討を行うことが、技術常識となっていたと認められる。
そうしてみると、引用文献1に、ヒト化抗Tau抗体の典型的な1日用量の範囲として示された「0.06mg~6000mg以上」との用量を参考に、最小の副作用の下で最大の薬効・薬理効果が得られるような用量を決定するために、前記カニクイザルに対する50mg/kgの投与量のヒト等価用量である16.1mg/kg(60kgの成人では約970mgに相当)を起点として、用量を漸増させ、「4500mg」程度の「単位用量」とすることは、当業者が容易に為しえたことである。
次に、投与間隔について検討する。
引用文献1には「そのような用量は、断続的に、例えば毎週または3週間毎(例えば、患者が約2~約20回、または例えば約6回の用量の抗体を受容するように)投与されてもよい。より高い初回負荷用量、続いて1回以上のより低い用量が、投与されてもよい。しかしながら、他の投与量レジメンも有用であり得る。」と記載され(摘記1c)、投与量レジメンについて当業者が適宜柔軟に設定し得ることを前提とする記載があるところ、断続的に複数回投与することや、高い負荷用量の後に低い用量を投与することは、当業者にとり十分に動機付けられたものであるといえる。そして、引用文献1には、毎週又は3週間毎という投与間隔が具体的に例示されているのであるから、その中間の2週間毎という投与間隔を採用する程度のことも、当業者が特段の困難なく想起し得る事項といえる。
そうすると、引用発明の「薬学的組成物」の投与間隔につき、「抗体が、2週間に1回、少なくとも3回投与され、その後は4週間に1回投与される」という構成に至ることに、格別の困難性を見いだせない。
(3) 本願発明の効果について
ア 本願明細書の実施例1には、「ヒト化抗Tauモノクローナル抗体の安全性及び忍容性を健康なボランティア及び軽度~中等度のアルツハイマー病を有する患者において評価するための臨床試験」の結果が記載されており、ヒト化抗Tauモノクローナル抗体として用いたhMTAUが十分に忍容性であることや、その生物学的利用能や薬物動態(PK)及び薬力学(PD)プロファイルが記載されている。特に、【図2】~【図5】には、225mg、675mg、1200mg、2100mg、4200mg、8400mg及び16800mgの各用量でのhMTAUの単回または複数回投与後の血清中又はCSF中のhMTAUの濃度-時間プロファイルが示され、また、【図6】には、8400mgIVでのhMTAU投与後の血清中のTAU平均濃度-時間プロファイル及び血漿中のTAUの平均濃度-時間プロファイルが示されている。また、【図6】からは、健康なボランティア(HV)よりもアルツハイマー病(AD)患者において、血漿中のTAUの平均濃度が高いことが読み取れる。
イ しかしながら、本願明細書の実施例1に示された試験は、あくまで、ヒト化Tauモノクローナル抗体の安全性及び認容性を確認することを目的とした、単回あるいは複数回用量漸増試験の結果あって(【0200】)、本願発明が発明特定事項として含む「抗体が4500mgの単位用量で投与され」、「抗体が、2週間に1回、少なくとも3回投与され、その後は4週間に1回投与される」という特定の用法及び用量で、アルツハイマー病を有する患者に適用したことにより奏される治療効果を示すものではないから、当該試験の結果をもって、本願発明の構成が奏するものとして、当業者の予測を超える顕著な効果を奏することの根拠とすることはできない。
ウ このことは、本願明細書の実施例1の【図2】~【図6】に示される試験の結果について検討しても同様である。すなわち、最小の副作用の下で最大の薬効・薬理効果が得られるような用量の検討を目的とした試験において、漸増させた用量が忍容性であること自体は、当業者において予測可能であり、本願明細書の【図2】~【図5】は、単に、血清中又はCSF中のhMTAUの時間依存的な濃度を示すものにすぎないところ、本願明細書をみても、本願発明にて特定されている「4500mgの単位用量」に係る臨界的意義は見いだせない。
エ また、本願明細書の【図6】には、血漿中のTAUの平均濃度-時間プロファイルが示されているが、引用文献1の記載事項及び本願優先日当時の技術常識より当業者が予測可能なものにすぎない。すなわち、引用文献1には、カニクイザルを用いた試験において、hu37D3.v28.A4 hIgG4-S228P.YTEの投与により、有意な血漿Tauレベルの増加をもたらしたこと、投与された抗体が、脳内でTauに結合し、結果としてTauが脳から末梢へと除去されることを示唆することが記載されており(摘記1f)、当該記載からみて、ヒトにおいても血漿中のTAUが検出されることは、当業者が予測し得るものといえる。また、脳脊髄液中に高い量のタウを有するアルツハイマー病患者において、hMTAUの投与により末梢へとタウが除去され、結果として健康なボランティアよりも血漿中のタウ量が高くなるという効果についても、アルツハイマー病患者の脳脊髄液中のタウ量が、非アルツハイマー患者に比べて高いという本願優先日当時の技術常識2(前記第4の5(4))、及び、引用文献1における「血漿Tauレベルの増加は、当該抗体が「脳内でTauに結合し、結果としてTauが脳から末梢へと除去されることを示唆する」旨の記載(摘記1f)を併せ考慮すると、当業者の予測を超える格別なものとは認められない。
オ また、実施例2は、臨床試験の試験設計の記述であり、抗体が4500mgの単位用量で投与され」、「抗体が、2週間に1回、少なくとも3回投与され、その後は4週間に1回投与される」という特定の用法及び用量で、アルツハイマー病を有する患者に適用したことにより奏される治療効果を示すものではない。
カ 以上のとおりであるから、本願発明の構成により奏される効果が当業者の予測し得ない顕著な効果であるということはできない。
(4) 審判請求人の主張について
ア 請求人は、令和7年3月6日受付の意見書、令和5年3月2日受付の手続補正書により補正された審判請求書の請求の理由、及び令和4年8月26日受付の意見書において、主に以下の点を主張している。
(ア) 動機付け及び効果について
「引用文献1の段落00359(記載事項1c)には、
「1つの典型的な1日用量は、・・・約1μg/kg~100mg/kg以上の範囲であり得る」
と非常に広い範囲が記載されていますが、例示的な体重に基づいた投薬量として挙げられているのは、約0.05mg/kg~約10mg/kgという、その中間の一部に過ぎず、具体的には、
「約0.5mg/kg、2.0mg/kg、4.0mg/kgもしくは10mg/kg(またはこれらの任意の組み合わせ)の1回以上の用量が、患者に投与され得る」
と記載されています。本願請求項1等に記載の固定用量は、一般的な体重、例えば60~80kgを有する患者にとって、約56~75mg/kgに相当し、これは、引用文献1の段落00359に記載された、例示的な投薬量よりも遙かに多い用量です。また、引用文献1には、毎週または3週間毎という、補正後の本願発明と異なる投与間隔についても記載されています。当業者が、これらの教示に反して補正後の本願請求項に記載の用量や投与計画にする動機づけを得ることはありません。したがって、補正後の本願発請求項に記載された4500mgの単位用量と投与計画に到達するためには、当業者が引用文献1の明示的な教示を無視し、ヒトで広範な試行錯誤を伴う実験を行う必要があります。ヒト患者で広範囲の用量および投与計画にわたる広範な試行錯誤を伴う実験は、当業者が通常行うものではありません。」
(イ) 参考文献1について
「本意見書に添付の参考文献1(タイトル:"Phase 2 Trial of Semorinemab in Mild to Moderate Alzheimer's Disease (Lauriet): Topline Results"、仮訳:「軽度~中度のアルツハイマー病におけるセモリネマブの第二相試験(Lauriet):トップライン結果」)には、4500mgの用量でのセモリネマブの第二相臨床試験のトップライン結果が記載されています(スライド6)。セモリネマブは、本願請求項に記載された配列を含んでいます。スライド9に示されている通り、4500mgの用量でのセモリネマブは、軽度~中等度のアルツハイマー病を有する患者において、ADAS-Cog11により測定される認知低下の速度を減速させました。このADAS-Cog11により測定される治療効果は、主に記憶ドメインの改善によるものです(スライド11)。本願請求項に規定された「4500mg」との用量を用いることにより得られる技術効果は、引用例1及び引用例2から予測できたものではありません。」
「参考文献1は本願発明の効果を更に立証するものとして参酌されるべきものであると思料する。本願明細書に記載されているように、本発明の解決しようとする課題の1つは、「抗Tau抗体を用いて神経変性疾患を治療する方法を提供する」ことであり、「出願人は、Tauに結合する抗体を用いた免疫療法が、健康なボランティア及びADを患う患者の両方に高用量で投与される場合であっても、安全かつ忍容性であることを発見した」([0007])。ここでの「治療する方法」あるいは「(免疫)療法」は、例えば、本願発明による抗体で処置される患者をモニタリングまたは評価し、患者が治療から効果を得ているかどうかを判定することを含み、「治療効果」は、ADの進行の減速、遅延、もしくは休止、または臨床的、機能的、もしくは認知的低下における低減を含む、といえる([0190]等)。更に言えば、ここでの「効果」とは、例えば「(1)進行の減速及び完全な停止を含む疾患進行のある程度までの阻害、(2)プラークの量の低減もしくは脳アミロイド沈着の低減及び/また神経原線維変化の低減及び/または脳Tau沈着の低減、(3)CDR-SB、RBANS、及び/またはADAS-Cog13スコアが挙げられるが、これらに限定されない1つ以上の評価指標における改善、(4)患者の日常の機能における改善、(5)脳脊髄液中のAbetaまたはTauなどのADを示すバイオマーカーの減少、及び(6)ADの改善を示すバイオマーカーの増加」を挙げることができる([0190])。このように、本願明細書には、本願発明による効果として安全性や忍容性の他、少なくとも上記の効果についても記載されている。」
(ウ) 参考文献2について
「補正後の本願請求項に係る発明について、4200mg以上の単回固定容量が、いくつかの低用量よりも優れていることを示すデータを添付します。本願明細書の実施例1には、セモリネマブの安全性及び忍容性を軽度~中等度のアルツハイマー病を有する患者コホートにおいて評価するための第I相臨床試験が記載されており、225mg~16800mgの範囲の用量が試験されました(図1)。この試験データは、後にAyalonらによって公開され(参考文献2:Sci Tansl Med. 2021; 13(593): eabb2639)、セモリネマブが単回用量で静脈内注射される場合の効果に関するデータ(参考文献2の図5B)も含まれています。
参考文献2の図5Bには、225mg~16800mg(225、675、2100、4200、8400、または16800mg)のセモリネマブの単回投与後のアルツハイマー病患者における平均血漿総Tau濃度-時間プロファイルが示されています。血漿総Tau濃度は、セモリネマブの用量が増加すると、4200mgの用量群まで増加しました(5頁、左欄、最初の段落: "above this dose, the plasma total tau PD response appeared to saturate (Fig. 5B)";仮訳:「この用量を超えると、血漿総tau PD応答は飽和しているように見えた(図5B)」)。これらの結果から、例えば、30日目で4200mg以上の用量範囲が、他の低い固定用量(図5Bにおける225mg、625mg、および2100mgなど)と比較して優れた技術的効果を有することは、明らかです。Ayalonらは、次のようにも述べています: 「The rise in plasma tau after dosing is likely primarily due to the stabilization of plasma tau, which, upon binding to semorinemab, adopts a longer half-life ... It is also possible that a portion of the total tau detected in plasma reflects the efflux of bound tau from brain ISF into plasma」(6頁右欄、最後の段落;仮訳:「投与後の血漿総tauの上昇は、主に血漿tauの安定化によるものである可能性が高い。血漿tauは、セモリネマブに結合すると、半減期が長くなる・・・また、血漿中に検出された総tauの一部が、脳内ISFから血漿への結合tauの流出を反映している可能性もある。」)。」
イ しかしながら、以下に示すとおりであるから、請求人の主張は採用することができない。
(ア) 動機付け及び効果について
臨床試験において、最小有効量のみならず、有効で安全な最大量をできるだけ検討し、有効量と安全量の範囲を明らかにしておくことが望ましいことは、本願優先日当時において技術常識であったことを考慮すれば(前記第4の4摘記A3)、引用発明の薬学的組成物について、薬効又は副作用の面から医薬の適切な投与量を設定するに際して、十分に高い投与量まで検討することには動機付けがあるといえる。また、引用文献1には、抗体の投与量について「約1μg/kg~100mg/kg以上の範囲であり得る」ことが記載されており(前記第4の1(1)摘記1c)、成人の一般的な体重である60kgで換算すると、0.06mg~6000mg以上の数値が記載されているといえるところ、初期の臨床試験の目的は、薬効又は副作用の面から投与量を徐々に上げながら決定して行くことであるという本願優先日当時の技術常識(前記第4の4摘記A2)に照らせば、引用文献1におけるカニクイザルを用いた試験における投与量から、体表面積正規化法を用いて算出されたヒト等価用量である16.1mg/kg(60kgの成人では約970mgに相当)を起点として、投与量を徐々に上げながら、引用文献1に記載された用量の数値範囲である0.06mg~6000mg以上との数値範囲にも包含される4500mgという用量について、薬効又は副作用を検討することには十分な動機付けがあるといえる。
さらに、請求人は、引用文献1の【00359】における「約0.5mg/kg、2.0mg/kg、4.0mg/kgもしくは10mg/kg(またはこれらの任意の組み合わせ)の1回以上の用量が、患者に投与され得る」との例示的な用量の記載と比較して本願発明での用量が高い数値であるから、本願発明に係る用量について動機付けがない旨主張しているものの、引用文献1における前記記載は、単に「抗体の一例示的な投薬量」として記載されているにすぎないものであるから、当該記載があり、さらに、本願発明の用量が当該数値よりも高い値であるからといって、本願発明で特定する用量とする動機付けがないとする理由はない。
また、請求人は、引用文献1には、毎週又は3週間毎という、補正後の本願発明と異なる投与間隔について記載されているために、当業者がこれらの教示に反して、「抗体が、2週間に1回、少なくとも3回投与され、その後は4週間に1回投与される」ことの動機付けが得られないことを主張しているが、前記2(2)において説示したとおり、引用文献1には投与量レジメンについて当業者が適宜柔軟に設定し得ることが示唆されているものといえるし(前記第4の1(1)摘記1c)、引用文献1に示された毎週又は3週間毎という投与間隔の記載(前記第4の1(1)摘記1c)に接した当業者であれば、むしろ当該記載を手がかりとして、その中間の2週間毎という投与間隔を採用することを容易に想到し得るものといえる。
さらに、前記2(2)において説示したとおり、引用文献1には、断続的に複数回投与することや、高い負荷用量の後に低い用量を投与することの示唆があるといえるし(前記第4の1(1)摘記1c)、一般に、副作用の回避や患者の負担軽減等の観点から、一定の投与期間の後にその投与頻度を低減させていくことは当業者が通常想起し得ることも併せ考慮すれば、「抗体が、2週間に1回、少なくとも3回投与され、その後は4週間に1回投与される」との構成に至ることに特段の困難性があるということはできない。
そして、本願発明は、「抗体が4500mgの単位用量で投与され」、「抗体が、2週間に1回、少なくとも3回投与され、その後は4週間に1回投与される」ことを特徴とする発明であるにもかかわらず、本願明細書において、
当該用法・用量についてヒト等に係る具体的試験を実施した結果は一切開示されていない上に、用法・用量について記載のある【0188】~【0189】を初めとして本願明細書全体をみても、本願発明に係る特定の用法及び用量でアルツハイマー病の治療に適用した点に、他の用法及び用量で投与した場合と比較して特に優れた効果が奏される等、この点に技術的意義があることが形式的にすら記載されていないから、本願発明の構成により奏される効果が当業者の予測し得ない顕著な効果であるということはできない。
(イ) 参考文献1について
請求人が、参考文献1において示される効果が、本願明細書に記載されている根拠として挙げる段落【0190】には、以下の記載がされている(下線は、当審合議体による。)。
「【0190】
G.治療処置に対する応答のモニタリング/評価
いくつかの実施形態において、
本明細書に記載の抗体で処置される患者は、モニタリングまたは評価され、患者が治療から効果を得ているかどうかを判定する。
いくつかの実施形態において、治療効果は、ADの進行の減速、遅延、もしくは休止、または臨床的、機能的、もしくは認知的低下における低減である。例えば、効果としては、(1)進行の減速及び完全な停止を含む疾患進行のある程度までの阻害、(2)プラークの量の低減もしくは脳アミロイド沈着の低減及び/また神経原線維変化の低減及び/または脳Tau沈着の低減、(3)CDR-SB、RBANS、及び/またはADAS-Cog13スコアが挙げられるが、これらに限定されない1つ以上の評価指標における改善、(4)患者の日常の機能における改善、(5)脳脊髄液中のAbetaまたはTauなどのADを示すバイオマーカーの減少、及び(6)ADの改善を示すバイオマーカーの増加を挙げることができるが、これらに限定されない。
患者は、患者に対する有益性を検出することができる任意の尺度を用いて評価されてもよい。
」
しかしながら、前記下線部のとおり、本願明細書の段落【0190】は、本願発明の医薬の治療効果を、どのような観点でモニタリング又は評価するかについて示すものであって、本願発明の医薬を用いて、実際にそのような効果が得られたことを示すものとはいえず、本願明細書は、参考文献1で示されるような「認知低下の速度の減少」を本願発明が奏することを記載するものではないから、本願の出願日後に提出された参考文献1に記載の内容を参酌することはできない。
また、本願明細書において、
本願発明の用法・用量について何らかの技術的意義があることを形式的にすら記載していないことを考慮すれば、
本願明細書において、参考文献1で示されるような「認知低下の速度の減少」を、「抗体が4500mgの単位用量で投与され」、「抗体が、2週間に1回、少なくとも3回投与され、その後は4週間に1回投与される」ことが特定された本願発明が奏することを当業者が認識できたものとは考えられないから、本願の出願日後に提出された参考文献1に記載の内容を参酌することはできない。
(ウ) 参考文献2について
本願出願日後に公開された参考文献2について、請求人が意見書において言及する図5Bをみると、セモリネマブの用量を225、675、1200、2100、4200、8400、16800mgと増加させた場合に、投与後30日目の血漿総Tau濃度が、4200mgまでは増加していき、8400mg以上では4200mgの場合とはほぼ変わらないことが示されているといえる。
しかしながら、そもそも本願明細書において、血漿Tau濃度について確認しているのは、【図6】における8400mgという用量で投与した試験のみであるところ、本願明細書は、参考文献2で示されるような血漿総Tau濃度と用量との関係、特に4200mgという用量が血漿総Tau濃度との関係で意義があることを当業者に認識させるに足りる記載はされていないといえるから、参考文献2の図5Bの結果を本願明細書の記載から当業者が推論することはできないといえる。
したがって、本願の出願日後に提出された参考文献2に記載の内容を参酌することはできない。
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明、引用文献1に記載された事項、技術常識及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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