sokuhyo

Trademark Appeal Case

カテゴリー変更補正の却下

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号2023015926
審判種別記載はありません。
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由テキスト

理 由

第1 手続の経緯

本願は、平成31年4月10日(パリ条約による優先権主張 2018年4月10日(US)アメリカ合衆国 2018年5月2日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。

令和 5年 1月12日付け:拒絶理由通知書

令和 5年 4月11日 :意見書、手続補正書の提出

令和 5年 5月15日付け:拒絶査定

令和 5年 9月21日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和5年9月21日付け手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

令和5年9月21日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1.本件補正

本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を以下のように補正することを含むものである(下線部は補正箇所である。)。

補正前:

「【請求項1】

神経栄養因子を分泌する間葉系幹細胞(MSC-NTF細胞)に由来する単離されたエキソソーム集団であって、

神経栄養因子(NTF)を含む少なくとも1つのカーゴタンパク質を、対照MSCに由来する単離されたエキソソーム集団における前記少なくとも1つのカーゴタンパク質の量と比較して増加した量で含み、

前記NTFが、白血病抑制因子(LIF)タンパク質、血管内皮増殖因子A(VEGFA)タンパク質、増殖分化因子15(GDF15)タンパク質、またはこれらの任意の組み合わせを含む、単離されたエキソソーム集団。」

補正後:

「【請求項1】

神経栄養因子を分泌する間葉系幹細胞(MSC-NTF細胞)に由来する単離されたエキソソーム集団

を生産する方法

であって、

前記単離されたエキソソーム集団が、

神経栄養因子(NTF)を含む少なくとも1つのカーゴタンパク質を、対照MSCに由来する単離されたエキソソーム集団における前記少なくとも1つのカーゴタンパク質の量と比較して増加した量で含み、

前記NTFが、白血病抑制因子(LIF)タンパク質、血管内皮増殖因子A(VEGFA)タンパク質、増殖分化因子15(GDF15)タンパク質、またはこれらの任意の組み合わせを含

み、

前記方法が、3Dバイオリアクター内で前記MSC-NTF細胞を採取するステップと、前記MSC-NTF細胞を低せん断応力および10%の血小板溶解物を補充したDMEM中で増殖させるステップと、増殖させた前記MSC-NTF細胞をタンジェンシャルフロー濾過(TFF)を使用して精製し、0.22μmフィルターを通じて濾過するステップとを含む、方法

。」

2.本件補正の適否の判断

(1)本件補正の目的について

本件補正は、本件補正前の請求項1に係る「物」の発明を、本件補正後の請求項1に係る「物を生産する方法」の発明とする、発明のカテゴリーを変更する補正を含むものであって、特許法第17条の2第5項第1号ないし第4号に掲げる、請求項の削除、特許請求の範囲の限定的減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれかを目的とするものにも該当しない。

(2)請求人の主張について

請求人は、審判請求書において、本件補正は、「3Dバイオリアクター内で前記MSC-NTF細胞を採取するステップと、前記MSC-NTF細胞を低せん断応力および10%の血小板溶解物を補充したDMEM中で増殖させるステップと、増殖させた前記MSC-NTF細胞をタンジェンシャルフロー濾過(TFF)を使用して精製し、0.22μmフィルターを通じて濾過するステップとを含む」という記載を追加したことに伴い、「単離されたエキソソーム集団」という物の発明にその物の製造方法が特定される場合に不明確と判断されることから、発明のカテゴリーを「単離されたエキソソーム集団を生産する方法」に変更したものであり、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものであることを主張する。

しかしながら、発明のカテゴリーを変更せずに補正をした場合に明確性違反と判断され得る可能性があるからといって、明らかに特許法第17条の2第5項第2号に掲げる目的のいずれにも当たらない、発明のカテゴリーの変更を伴う補正を適法とすべき根拠はない。請求人の主張は、法が明文で要求する補正要件を無視するものであって、採用できない。

もっとも、仮に、本件補正前の請求項1の末尾が「・・・単離されたエキソソーム集団。」ではなく、「・・・単離されたエキソソーム集団を生産する方法。」であったとしても、本件補正前の請求項1には、「単離されたエキソソーム集団」の生産・製造工程が何ら特定されていないのだから、上記「3Dバイオリアクター内で前記MSC-NTF細胞を採取するステップと、・・・濾過するステップとを含む」という生産・製造工程に係る記載の追加は、特許法第17条の2第5項第2号に規定される、特許請求の範囲の限定的減縮(請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するもの)を目的とするものとはいえず、不適法な補正である。

3.補正の却下の決定のむすび

以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明

本件補正は上記のとおり却下されたので、この出願の請求項1~33に係る発明は、令和5年4月11日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~33に記載の事項により特定される発明であり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】

神経栄養因子を分泌する間葉系幹細胞(MSC-NTF細胞)に由来する単離されたエキソソーム集団であって、

神経栄養因子(NTF)を含む少なくとも1つのカーゴタンパク質を、対照MSCに由来する単離されたエキソソーム集団における前記少なくとも1つのカーゴタンパク質の量と比較して増加した量で含み、

前記NTFが、白血病抑制因子(LIF)タンパク質、血管内皮増殖因子A(VEGFA)タンパク質、増殖分化因子15(GDF15)タンパク質、またはこれらの任意の組み合わせを含む、単離されたエキソソーム集団。」

第4 原査定の理由

令和5年5月15日付け拒絶査定(原査定)は、「本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない」という理由を含むものである。

引用例1.国際公開第2018/015945号

引用例2.米国特許出願公開第2018/0036348号明細書

引用例3.米国特許出願公開第2017/0296588号明細書

引用例4.米国特許出願公開第2017/0258843号明細書

引用例5.Neural Regen. Res., 2016, 11(6), p.904-905

引用例6.BioNanoScience, 2017, vol.7, p.240-245

第5 当審の判断

1.引用例・周知例の記載

(1)引用例1(国際公開第2018/015945号)の記載事項

本願優先日前に頒布された刊行物であり、本願出願人が出願した国際出願の国際公開である引用例1には、次の事項が記載されている。なお、引用例1は英語で記載されているため、対応する日本語公報(特表2019-527218号公報)の記載に基づく訳文で示す(記載箇所を示す括弧内には当該日本語公報における記載箇所を示す。)。下線は当審で付したものである(以下、同様。)。

ア 特許請求の範囲

「【請求項22】

組成物であって、

少なくとも1つの神経栄養因子(NTF)を分泌するように誘導された間葉系幹細胞(MSC)を含む細胞集団を、神経変性疾患の治療を必要とする対象にとっての治療有効量で含有し、

前記細胞集団がMSC-NTF細胞を含む組成物

・・・

【請求項26】

前記MSC-NTF細胞における前記少なくとも1つのNTFの基礎分泌が、非分化間葉系幹細胞における前記NTFの基礎分泌よりも多い

、請求項22ないし25のいずれかに記載の組成物。

【請求項27】

前記神経栄養因子(NTF)が、

血管内皮膚増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、

白血病抑制因子(LIF)

、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、腫瘍壊死因子誘導遺伝子6タンパク質(TSG-6、TNF刺激遺伝子6タンパク質の別名でも知られている)、骨形成タンパク質2(BMP2)、線維芽細胞増殖因子2(FGF2)、ニューブラスチン、及びそれらの任意の組み合わせからなる群

より選択される

、請求項22ないし26のいずれかに記載の組成物。」

イ 発明を実施するための形態

「【0052】

一実施形態では、

本開示のMSC-NTF細胞は

、血管内皮膚増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、

白血病抑制因子(LIF)

、脳由来神経栄養因子(BDNF)、腫瘍壊死因子誘導遺伝子6タンパク質(TSG-6、TNF刺激遺伝子6タンパク質の別名でも知られている)、骨形成タンパク質2(BMP2)、線維芽細胞増殖因子2(FGF2)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、及びそれらの任意の組み合わせからなる群

より選択される少なくとも1つのNTFを分泌する

・・・

【0055】

いくつかの実施形態では、

本開示のMSC-NTF細胞は、少なくとも1つのmiRNA分子を発現する

。いくつかの実施形態では、

本開示のMSC-NTF細胞は、少なくとも1つのmiRNA分子を発現及び分泌する

。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されたmiRNA分子は、生体試料中に存在する。

【0056】

いくつかの実施形態では、MSC-NTF細胞における少なくとも1つのmiRNA分子の発現は、対照MSCにおいて観察されるものよりも大きい。いくつかの実施形態では、MSC-NTFが投与された対象から取得された生体試料、例えばCSF生体試料中の少なくとも1つのmiRNA分子の濃度は、同等の対照生体試料中で観察されるものよりも高い。

いくつかの実施形態では、miRNAは、例えばエキソソームによって、MSC-NTF細胞から分泌され得る

いくつかの実施形態では、MSC-NTF細胞からの少なくとも1つのmiRNA分子の発現及び/または分泌は、対照MSCで観察されるものよりも大きい

。」

「【0077】

LIF

【0078】

白血病抑制因子(LIF)は、サイトカインのインターロイキン-6ファミリーのメンバーであり、異なる細胞型に対して異なる効果を発揮する多機能性サイトカインである

。LIFは、インビトロでのMNの生存を支援すること、及び神経損傷後のMN損失を減少させることが分かっている。加えて、LIFが神経筋接続性の制御に関与することが実証されている。LIFはまた、乏突起膠細胞前駆体の増殖を促進し、軸索再ミエリン化を増強することによって、乏突起膠細胞(オリゴデンドロサイト)の機能を支援する。」

ウ 実施例

「【0174】

実施例1

ヒトBM-MSCの単離及び分化

【0175】

分化ヒトBM-MSCの調製

【0176】

目的:神経栄養因子を分泌するヒト骨髄間葉系幹細胞を生産すること

【0177】

方法:

【0178】

ヒト骨髄間葉系幹細胞(BM-MSC)を単離する方法は当分野で公知であり、PCT国際特許出願公開第WO2015/121859号、及び同第WO2014/024183号に完全に開示されている(これらの内容の全体は、参照により本明細書に援用される)

【0179】

診断処置の過程で

骨髄穿刺を受けている成人ドナーの後腸骨稜から、骨髄サンプル(30-60ml)をヘパリン含有チューブに収集した

。骨髄穿刺物をHBSSで1:1に希釈し、

単核細胞をFicoll(Ficoll-Paque PREMIUM)含有チューブ上での密度勾配遠心分離(1000×G、20分間)により分離した

。単核細胞画分を収集し、DMEM中で洗浄した。

細胞を、10%血小板溶解物(PM)を含有する増殖培地中に再懸濁し、トリパンブルー排除色素によってカウントし、225cm

2

の組織培養フラスコ中に150、000-300、000細胞/cm

2

の濃度で播種した

。フラスコを、5%CO

2

加湿インキュベータ中で、37°Cでインキュベートした。

【0180】

PM増殖培地は、L-グルタミン溶液200mM(Sigma,Aldrich)、ピルビン酸ナトリウム溶液100mM(Sigma,Aldrich)、2IU/mlヘパリン(APP Pharmaceuticals)、及び10%血小板溶解物が添加された低グルコースダルベッコ改変イーグル培地(Sigma,Aldrich)から成る

16-24時間後、PM培地を吸引してフラスコから非接着細胞を除去し、接着細胞を10mlのDMEMで軽く洗浄し、30mlの新鮮なPMをフラスコに添加した

hMSC細胞をPM培地中で12-15日間増殖させた

。PM培地は、週に2回交換した。12-15日後、またはフラスコがコンフルエンスに達したとき、細胞を、全ての増殖培地を除去することによって採取し、37°CのTrypLE(TM)溶液(Invitrogen)中で5分間インキュベートした。その後、その細胞をDMEM中で洗浄し、カウントし、PM培地中に再懸濁し、そして、CellStack中に1000-3000細胞/cm

2

の密度で播種した。

【0181】

サブコンフルエントな細胞層をTrypLE(TM)溶液(Invitrogen)で分離することによって、MSC培養物を週に2回継代した。細胞は、2-4継代後に移植した。したがって、細胞は、分化を誘導する前に、PM中で最低2週間継代された。

【0182】

1mMジブチリル環状AMP(cAMP)、20ng/mlヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(hbFGF)、5ng/mlヒト血小板由来増殖因子(PDGF-AA)、及び50ng/mlヒトヘレグリンβ1が添加された低グルコースダルベッコ改変イーグル培地(Sigma,Aldrich)中でMSCを3日間インキュベートすることによって、神経栄養因子(NTF)分泌を誘導した

。培養物は、採取されるまで、分化培地中で3日間維持した。

【0183】

hBM MSC-NTF細胞(すなわち、NTFを分泌するように誘導されたhMSC)は、2-8°Cで約5-72時間安定していた。

【0184】

血小板溶解物の調製

【0185】

血小板溶解物は、当分野で既知の任意の方法を用いて調製され得る

例えば、一実施形態では、血小板溶解物は、下記のような凍結融解プロトコルを使用して調製され得る

【0186】

多血小板血漿(PRP)は、感染性因子(すなわち、HIV、HTLV、HCV、HBsAg)を含有しないことが判明している、血液バンクから提供されたものであり得る。PRP含有バッグを-80°Cで貯蔵し、次いで、37°Cの水浴中で解凍した。解凍後、複数のドナーの多血小板血漿をプールし、混合し、そして、14000×Gで10分間遠心分離して血小板粒子及び膜を除去した。その後、血小板溶解物上清を収集し、使用するまで-80°Cで凍結した。血小板溶解物を、内毒素、ヘモグロビン、pH、総タンパク質、アルブミン、浸透圧、無菌性、及びマイコプラズマについて試験した。」

「【0187】

実施例2

分化ヒトBM-MSC(hBM MSC-NTF)の特徴付け

【0188】

目的:骨髄MSCと実施例1で調製した分化骨髄MSCとの差異を特徴付けること

【0189】

方法:

【0190】

細胞

【0191】

細胞は、健康なドナーまたは筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者から取得した。

【0192】

遺伝子発現-mRNA qPCR測定

【0193】

定量逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RNA qPCR)を用いて、骨髄(BM)MSC及びBM由来MSC-NTF細胞におけるいくつかの遺伝子の発現を比較した

。簡潔に説明すると、標的遺伝子を、β2ミクログロブリン(B2M)、伸長因子1アルファ(EF1a)、及びリボソームタンパク質L17(RPL17)の幾何平均に正規化した。B2M、EF1a及びRPL17は、MSC細胞及びMSC-NTF細胞において同等に発現することが分かっているため、公表されている正規化遺伝子のパネルから選択された。RNA qPCRにおいて、クロスポイント(Cp)は、増幅からの蛍光がバックグラウンド蛍光を超えるサイクルである。より低いCP値は、分析される遺伝子のより高い発現と相関する。qPCR Cp>35を有するサンプルは、検出されなかったと見なし、計算のために35のCP値を与えた。P値は、両側t検定を用いて計算した。健康なドナーは、D12、D26、D22、D23、及びD24であった。ALS患者は、07-RI、08-RS、11-AG、及び12-NMであった。

【0194】

分泌物の測定

【0195】

MSC及びMSC-NTFからの標的化合物及びポリペプチドの分泌を、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、例えば、既知の市販されているQuantikine(登録商標)(ELISAキットの一例)またはRay Bio市販アッセイキット(多重検定システムの一例)を使用して測定した

【0196】

結果

【0197】

健康なドナー及びALS患者の両方からのMSC及びMSC-NTFにおけるmRNA発現を測定することによって、遺伝子発現を分析した

分析した遺伝子としては

、細胞周期遺伝子(TOP2Aなど)、

分泌遺伝子

(BMP2、

LIF

、FGF2、WNT5A、AREG、HGF、BDNF)、間葉系遺伝子(MEST)、分泌関連遺伝子(PCSK1、RAB27B、SNAP25)、グルタミン酸トランスポーター遺伝子[SLC1A1(EAAC1)、SLC1A3(GLAST)]、ニューロン遺伝子TUBB3(TUJ1)、及びSLC16A6

が挙げられる

【0198】

結果は、正常ドナーのMSC-NTF対MSCにおいて、Top2A発現の有意な減少(<0.0001)を示し、これは、MSC-NTF細胞が細胞周期停止の状態にあることを示唆する(図1A)。図1Bは、サンプルあたりの倍率変化を示し、Top2Aの発現は71倍減少した(MSC-NTF/MSC)(P値=2.9×10

-7

、n=9)。

【0199】

正常ドナー及びALS患者のMSC-NTF対MSCにおいて

、BMP2(53.7倍)及び

LIF(6.8倍)の発現の有意な増加が観察され、これにより、MSC-NTFにおいて神経栄養因子遺伝子LIFの発現が増加したことが実証された

(図2A及び図2B、

図3A及び図3B

)。一部のドナーのMSC-NTF細胞(患者由来の細胞は試験しなかった)において、FGF2発現の減少が観察された(図4A及び図4B)。これらの結果に対するP値は、BMP2では9.73×10

-9

(n=9)、LIFでは6.9×10

-4

(n=9)、FGF2では0.015(n=5)であった。BMP2遺伝子の発現増加は、第IIa相臨床試験において、ドナー及びALS患者から取得したMSC細胞と比較して、MSC-NTF細胞で観察されたBMP-2分泌の増加と良好に相関した(図17A及び図17B)。同様に、LIF発現は、第IIa相及び第II相の臨床試験において、大多数の正常ドナー及びALS患者のMSC-NTF細胞で観察された神経栄養因子の分泌の増加(MSCと比較して14倍)と相関した(図19A及び図19B)。

【0207】

G-CSF

【0208】

長年にわたり、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)は非常に特異的な造血成長因子だと考えられてきた。最近の研究では、脳内のG-CSF/G-CSF-受容体(G-CSFR)系の存在と、それの神経保護、神経組織修復、及び機能回復の向上における役割が分かってきている。ALSのマウスモデルにおいて、G-CSFは、運動能力及び運動ニューロン生存性を有意に改善し、脱神経萎縮を減少させた。臨床前の知見に基づいて、ALS患者におけるいくつかの小規模な研究が結果を期待して開始された。

【0209】

分化前の同一の被験者のMSCと比較した、ALS患者及び正常ドナーのMSC-NTF細胞の培養上清中のG-CSFの分泌を、G-CSFのためのELISAアッセイ(R&D Systems)を使用して評価した

この結果は、MSC-NTF細胞におけるpg/10

6

細胞のG-CSF分泌の特定生産性を示す

【0210】

MSC中のG-CSFの検出可能な分泌は存在しなかったが、MSC-NTF細胞によって有意な量のG-CSFが分泌された(図18A及び図18B)。MSC-NTF細胞におけるG-CSF分泌の増加(MSCと比較した)を示す、この神経栄養因子の発現及び分泌の増加の測定値が、2つの臨床試験において、大部分(しかし、全てではない)の正常ドナー及びALS患者で観察された(図18A及び図18B)。

同様に、ALS患者から取得したMSCと比較して、MSC-NTFにおいてLIF(図19A及び図19B)及びTSG-6(図20)の分泌が増加した

【0211】

要約

【0212】

分泌関連遺伝子(PCSK1及びRAB26B)の増加は、分化プロセスが、VEGF、HGF、LIF、BMP2などの複数の分泌神経栄養因子の検出に反映される分泌機序を誘導することを示唆する。MESTの減少は、分化プロセス後のナイーブMSC表現型からの変化を示唆する。細胞周期関連遺伝子TOP2Aの減少は、MSC-NTF細胞の細胞周期停止及び増殖減少、並びにMSC-NTF細胞の分化と相関する。」

「【0213】

実施例3

MSC-NTF細胞で治療されたALS患者のCSF中の神経栄養因子及び炎症性因子の調節

【0214】

目的:この研究の主な目的は、実施例1及び実施例2で説明した増殖させた自己MSC-NTF細胞の移植の安全性を評価することであった。

【0215】

材料及び方法

【0216】

BM-MSC-NTF細胞(NurOwn(登録商標))

【0217】

神経栄養因子(NTF)の分泌が増加したMSCは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患に罹患している患者に対して複数のNTFを送達するとともに、免疫調節効果などのMSCの潜在的な治療上の利点を活用するための新規の方法を提供する

。様々な神経栄養因子(NTF)を増加したレベルで分泌するようにMSCを誘導することができる培養方法が開発されている。上記に詳述したように、

BM-MSCから分泌され得るNTFとしては

、グリア由来神経栄養因子(GDNF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、

白血病抑制因子(LIF)

、顆粒球刺激因子(G-CSF)、BMP-2、TSG-6及び肝細胞増殖因子(HGF)

が挙げられる

(実施例2の結果も参照されたい)。NTF分泌MSC(MSC-NTF細胞またはNurOwn(登録商標))は、骨髄由来MSCから生じた自家療法である(実施例1参照)。一実施形態では、「MSC-NTF」及び「NurOwn」という用語は、相互互換的に使用され、互いに同一の意味及び性質を有する。

【0218】

簡潔に説明すると、MSC-NTF細胞の生産は、患者の骨髄吸引物の単核画分からのMSCの単離、エクスビボ増殖、及びNTF分泌を誘導する独自の培養条件下での誘導から開始される。

MSC-NTF細胞は、動物には、筋肉内(IM)、髄腔内(IT)、及び脳室内(ICV)投与を介して投与され、ALS患者には、IM及びITの一方または組み合わせを介して投与される

・・・

【0221】

研究の評価項目

【0222】

本研究の主要評価項目は、ALS患者における、髄腔内(IT)投与と、右上腕二頭筋及び三頭筋への24回の筋肉内(IM)注射とを組み合わせて単一の機会で投与した、増殖させた自己MSC-NTF細胞の移植の安全性及び耐容性の評価を目的としている。

【0223】

副次的評価項目は有効性であり、ALS機能評価尺度改訂版(ALSFRS-R:ALS疾患進行の有効な結果尺度)及び静的肺活量(SVC)肺機能検査によって決定される、治療処置群とプラセボ群との間での移植前期間から移植後期間までの疾患進行の変化を比較した

。副次的評価項目は、移植前の12~16週間のベースライン期間と比較して、24週間の移植後期間にわたって治療処置群及びプラセボ群において評価した。ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)をプラセボとして使用した。

・・・

【0366】

結論

【0367】

ALS患者に髄腔内移植された自己MSC-NTF細胞は、インビボでCSF中にNTFを活発に分泌し、治療処置患者のCSF中の炎症性因子のレベルの有意な減少をもたらす

。プラセボ患者のCSFでは、NTFレベルの変化も炎症性因子レベルの変化も検出されなかった。

【0368】

NTFの分泌はまた、細胞からのNTFの分泌の増加、移植2週後の炎症性因子の減少、及びALSFRS-R勾配の移植後の改善の間の相関によって決定されるように、疾患進行の変化とも相関した。炎症性因子は、実際にはALSの病理に関与していると考えられる。

【0369】

さらに、主な目的は達成され、MSC-NTF細胞が、安全性及び良好な耐容性を有することが実証された。

【0370】

この実施例で得られたデータが示すように、MSC-NTF細胞(NurOwn(登録商標))の単回投与は、ALSFRS-R評価尺度及びCSFバイオマーカーの両方に関して臨床的に意義のある有益な反応を生成させた

【0371】

「レスポンダー」の全ての定義にわたって、24週後の時点を除いて、治療意図(ITT)集団において、レスポンダーの割合は、MCS-NTF細胞(NurOwn(登録商標))治療処置患者の方がプラセボ患者よりも高かった

【0372】

緩徐進行患者を除いた事前に指定されたサブグループ分析において、MCS-NTF細胞(NurOwn(登録商標))治療処置患者はプラセボ処置患者と比較して顕著な良好な成績を示した

【0373】

2週後に観察されたCSF中の増殖因子レベルの増加及び炎症マーカーの減少は、生物学的効果のさらなる証拠である。」

エ 図面

「図3A

66

93

0001430425000001.jpg

「図19A

91

132

0001430425000002.jpg

(2)周知例1(Neural Regen. Res., 2016, 11(6), p.904-905)の記載事項

本願優先日前に頒布された刊行物である周知例1には、次の事項が記載されている。なお、周知例1は英語で記載されているため、当審による訳文で示す。

ア 表題

「間葉系幹細胞由来の細胞外小胞の神経保護特性」

イ 本文

細胞外小胞(EV)は、タンパク質、脂質、及びmiRNAの輸送を介して、細胞外コミュニケーションの新しい機構を提供する

現在では、EVの輸送物は細胞の型とその生理学的状態に依存することが広く認められている

したがって、健常な細胞由来のEVは、細胞自体と同等の治療効果を有する可能性がある

実際、幾つかの研究がこの考えを確認し、様々な臨床現場におけるEVの治療効果を実証した

エキソソームは、EVの一種であって、血液脳関門を通過できるものであり(Alvarez-Erviti et al., 2011)、そのため、脳神経外科的介入を必要とせず、静脈内又は鼻腔内経路で中枢神経系に送達され得る

この特性により、エキソソームは神経再生療法の新たなツールとして特に魅力的である

しかし、新しいプロトコルは、イン・ビトロで増殖させた細胞のみから得られる大量のEVを必要とする

この点で、ヒト間葉系幹細胞(MSC)は、EVの最も有望な細胞源の一つである

。」(第904頁左欄第1段落)

「骨髄はMSCの最も一般的な供給源であるが、骨髄由来MSC(BM-MSC)由来のエキソソーム(EV)の神経保護作用に焦点を当てた研究は比較的少ない。

興味深いことに、ヒトBM-MSCとBM-MSC由来のEVは、C57BL6マウスにおける脳卒中後の神経再生を同様に改善した(Doeppner et al., 2015)

EVは神経再生と神経機能の回復を促進し、虚血後の免疫抑制の軽減を通じて全身の免疫応答を調節した

これらの結果は、EVの神経機能の回復における全身の免疫応答の調節因子としての重要性を示している

このように、EVは局所(損傷部位)と全身(免疫応答の調節)の両レベルで同時に作用することで、神経再生を促進する可能性がある

。ラットBM-MSC由来のEVも、外傷性脳損傷後の機能回復と神経血管可塑性を促進した。」(第904頁右欄第3段落)

(3)周知例2(BioNanoScience, 2017, vol.7, p.240-245)の記載事項

本願優先日前に頒布された刊行物である周知例2には、次の事項が記載されている。なお、周知例2は英語で記載されているため、当審による訳文で示す。

ア 表題

「再生医療の最新動向:

細胞療法から無細胞療法へ

イ 要約

「外傷性または虚血性組織損傷における再生と血管新生を促進する最も有望なアプローチの一つが、幹細胞療法である。胚性幹細胞と胎児性幹細胞は、多様な細胞タイプへの分化可能性が最も高い一方で、同時に奇形腫形成のリスクが最も高い特徴を有している。

成人幹細胞は、体外での長期培養中に変異する可能性や、遺伝子細胞療法の応用時に遺伝的変化によるリスクを伴う可能性がある

この点において、細胞療法と遺伝子細胞療法の潜在的なリスクを低減する技術は特に注目されている

パラクライン仮説によると、幹細胞療法の有益な効果は、細胞間接触による常在細胞の刺激、生物活性分子の分泌、及び細胞外小胞の放出によるものである

。本レビューでは、細胞から細胞外小胞に基づく無細胞療法への再生医療の発展について議論する。」

ウ 2 幹細胞療法

間葉系幹細胞(MSC)を用いた細胞療法の主要な応用分野の一つは神経変性疾患である

神経組織は再生能力が限られているため、MSCはアルツハイマー型認知症、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)等の神経変性疾患に加えて、損傷した脊髄や末梢神経の治療に用いられている

。」(第241頁左欄第3段落第1~6行)

エ 3 幹細胞療法のリスクと限界

再生促進のための幹細胞(SC)の応用は有望な治療戦略である。しかし、SCを用いた細胞療法には、無制限の細胞増殖と腫瘍形成のリスクがある

。」(第241頁右欄第3段落第1~3行)

オ 4 パラクライン仮説

「長らく、幹細胞療法の有効性は、死んだ細胞の置き換えと関連していると考えられてきた。グリセロールの毒性用量を注射して引き起こされた腎損傷のモデルにおいて、移植された幹細胞は損傷部位に数日間留まり、その後、組織内で検出されなくなったことが判明した。さらに、幹細胞の馴化培養液が、幹細胞自体と類似した再生能力を有することが示された。

Takahashiらは、ラットにおける心筋梗塞の負の影響を、MSC馴化培養液の投与により軽減することを示した

MSC投与後、毛細血管密度の上昇、損傷サイズの縮小、心臓機能の改善が観察された

これは、幹細胞移植の有益な効果が、幹細胞が微小環境の細胞に及ぼすパラクライン効果によるものであることを示唆している-パラクライン刺激の理論である

移植された細胞は、インスリン様成長因子(IGF-1)、血管内皮成長因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子-2(FGF-2)、肝細胞成長因子(HGF)等の生物活性分子を細胞外に分泌することで、常在細胞に影響を及ぼす

生物活性分子を用いた治療の主な利点は安全性である。しかし、細胞外培地の生物活性分子は急速な加水分解にさらされる。例えば、ヒト血液中のVEGFの半減期は30分未満であり、血清中のDNAの半減期は最大10分である。」(第241頁右欄第4段落~第242頁左欄第2段落)

カ 5 細胞外小胞

精製された成長因子を再生促進に用いる方法は、細胞外空間での半減期が短いため効果的ではない

そのため、細胞外小胞(EV)が特に注目されている

。EVは、血液、リンパ液、唾液、汗、尿、母乳、脳脊髄液を含む、ヒトの生物学的液体中に存在する。多くのヒト細胞型がEVを放出することが知られており、腫瘍細胞に加えて、白血球、赤血球、平滑筋細胞、内皮細胞、幹細胞、腫瘍細胞等が含まれる。当初、EVは細胞の生命活動中に放出される無害な「廃棄物」と考えられていた。蓄積する証拠は、EVが様々な生理的、病理的過程において重要な役割を果たすことを示唆している。EVのプールは異質であり、エキソソームと微小胞を含む。・・・」(第242頁左欄第3段落)

キ 6 細胞外小胞を用いた無細胞療法

EVは天然のベクターとして機能し、その内容物を他の細胞や組織に伝達する

その結果、EVは治療目的で生物活性分子を運搬するための有望なツールとなっている

EV MSCに関する文献のレビューでは、急性腎障害(6件)、心筋梗塞(4件)、肝線維症(1件)、肺高血圧症(1件)、及び虚血性後肢(1件)に対するEVの治療効果が評価された

これらの研究全てにおいて、EVは親細胞であるSCと同様の再生能力を有し、副作用もなかったことが示された

無細胞アプローチは、EVが分裂しないため、無制限な細胞増殖や腫瘍形成のリスクを回避できる。EVは、未改変又は遺伝子改変されたヒト幹細胞から分離され、親幹細胞の代わりに使用可能である。EVの治療応用における主な障害は、高価な装置を使用した時間のかかる分離手順である。精製された小胞の収量は限られており、広範な臨床応用には不十分である。・・・」(第242頁右欄第2~3段落)

(4)周知例3(J. Control Release, 2016, vol.228, p.179-190)の記載事項

本願優先日前に頒布された刊行物である周知例3には、次の事項が記載されている。なお、周知例3は英語で記載されているため、当審による訳文で示す。

ア 表題

治療薬としてのエキソソーム:分子組成とエキソソームの異質性の意義

イ 要約

エキソソームを治療用薬物の送達媒体として活用するためには、エキソソームの組成と作用機序に関するより深い理解が不可欠である

。エキソソームの全成分(タンパク質、脂質、RNA成分)を十分に理解することは、効果的なエキソソームに基づく、又はエキソソームを模倣する薬物キャリアの設計において重要である。本レビューでは、ほとんど研究されてこなかったエキソソーム内に高濃度で存在する非コードRNAの存在について説明する。

生物学的、治療的な効果におけるエキソソームの分子組成と異質性の意義を議論する

。最後に、エキソソームへのRNA積載、エキソソームとその亜集団を分離する分析手法、及びエキソソームのタンパク質と脂質が受容細胞に与える影響、に関する未解決の課題に焦点を当てる。・・・」

ウ 本文

「エキソソームは、核酸、タンパク質、脂質を運ぶバイオベシクルとしての機能と、細胞間コミュニケーションにおける役割から、薬物送達のための多機能なプラットフォームとして注目されている。

治療的観点から、エキソソームは多様な形態で利用されてきた

。エキソソームは本質的に生物活性を持つため、細胞から分離後、追加の改変なしで下流の用途に利用可能である。例えば、

間葉系幹細胞から分離されたエキソソームは、マウスにおける心筋梗塞誘発モデルにおいて、心筋梗塞後の組織損傷領域を著しく減少させる

。」(第180頁左欄第3~10行)

幹細胞から分離されたエキソソームには、シグナル伝達に関連するタンパク質が比較的多く含まれていた

幹細胞エキソソームに含まれるシグナル伝達分子には、多くのサイトカイン

(例:

LIF

、CSF1-3、FAM3B)、ケモカイン(例:CCL 2、7、20、28、CXCL 2、16)、インターロイキン(例: IL-3、5、7、9、10、17B、19、23A、36G、OSM)、及び成長因子(例:VEGF、HGF、ITGB1、TGFB1、FGF18、PDGFA、TGFB2、ESM1、INHBB、FGF19、NRG2、GDF5、GDF3、INHBA、FGF16、GDF11、PDGFC、GDF1、GDF9)

が含まれる

最近、幹細胞の治療効果の多くがエキソソームを介して媒介されることが報告されているため、幹細胞エキソソームに含まれるタンパク質が、その全体的な生物学的機能にどのように貢献するかを理解することが重要である

。例えば、幹細胞エキソソームは、心筋梗塞(MI)後の心臓組織に用いた際に治療効果を示すことが示されている。この治療効果は、多くのタンパク質成分の相乗効果、又は少数だが非常に有能なタンパク質の効果の結果かもしれない。

MSCエキソソーム内の異なるタンパク質クラスターを分析すると

、ニューレグリン(NRG)、VEGF、HGF、線維芽細胞成長因子(FGFs)等の成長因子、及びサイトカイン(コロニー刺激因子と

白血病抑制因子

)

を含む様々な因子が、MI後の心臓機能の改善に関与する可能性がある

。」(第186頁左欄第3段落)

(5)周知例4(米国特許出願公開第2018/0010133号明細書)の記載事項

本願優先日前に頒布された刊行物である周知例4には、次の事項が記載されている。なお、周知例4は英語で記載されているため、対応する日本語公報(特開2018-064550号公報)の記載に基づく訳文で示す(記載箇所を示す括弧内には当該日本語公報における記載箇所を示す。)。

ア 表題

「幹細胞からエキソソームを生成する方法およびその使用」

イ 技術分野

「【0002】

エキソソームは、膜およびサイトゾルタンパク質、脂質、および、RNAを細胞間で移動させることにより細胞間の情報伝達を媒介することができる

(非特許文献1)。これらの移動分子は、受容細胞において機能し得る(非特許文献2)。

【0003】

また、

特許文献1は、培養された神経幹細胞株(NSCL)から単離されたエキソソームを開示している

このエキソソームは、線維芽細胞の移動、ヒト臍帯静脈内皮細胞の分岐、および、神経突起の伸長を促進し得る

特許文献1は、神経幹細胞の幹細胞ホメオスタシスを維持し得る「基礎培養条件」において神経幹細胞株からエキソソームを収集することを開示している

。特許文献1は、神経幹細胞株からのエキソソームが、線維芽細胞の移動、ヒト臍帯静脈内皮細胞の分岐、および、PC-12細胞株の神経突起の伸長を促進させることを示すインビトロデータを唯一提供している。」

ウ 発明の概要

「【0008】

本発明の一態様では、人工エキソソームを生成する方法であって、幹細胞から人工エキソソームが放出されるよう誘導する有効量のプロスタグランジンEレセプター4(EP4)アンタゴニストに単離された幹細胞を接触させるステップと、人工エキソソームを単離するステップと、を含む方法が提供される

【0009】

いくつかの実施形態では、接触させるステップは、EP4アンタゴニストを含む培地で幹細胞を人工エキソソームを放出させるのに十分な期間培養することによって実行される。 例えば、幹細胞は、4~8日間培養されてよい。

【0010】

いくつかの実施形態では、

EP4アンタゴニストは

、抗PGE2抗体、EP4に対抗するsiRNA、EP4に対抗するshRNA、COX-2アンタゴニスト、mPGES-1アンタゴニスト、

GW627368x

、AH23848、L-161,982、CJ-023、423、ONO AE3 208、BGC20-1531塩酸塩、MF498、および、CJ-42794からなるグループから選ばれる。使用されるEP4アンタゴニストの有効量は、1.0~40μg/mlであってよい。

【0011】

幹細胞は

、胚幹細胞、人工多能性幹細胞、がん幹細胞、

間葉系幹細胞

、造血幹細胞、乳房幹細胞、神経幹細胞、小腸幹細胞、皮膚幹細胞、臍帯血幹細胞、角膜輪部幹細胞、毛包幹細胞、脂肪組織由来幹細胞、骨髄幹細胞、角膜幹細胞、および、卵巣幹細胞

から選択されてよい

。」

エ 実施例

「【0033】

実施例1

EP4アンタゴニストにより幹細胞からエキソソームを生成し、放出した

【0034】

非接着/間葉系乳房上皮幹細胞(NAMEC)から人工エキソソームを生成し、単離する。

・・・

【0036】

単離したヒト乳房上皮基底幹細胞(NAMEC)を、

EP4アンタゴニスト

を含むまたは含まない、すなわち、1μg/mlの

GW627368X(GW)

・・・

・・・

【0038】

間葉系幹細胞(MSC)から人工エキソソームを生成し、単離する

【0039】

単離した間葉系幹細胞(MSC)を、EP4アンタゴニスト(20μg/mlのGW)を含むまたは含まないMSC培地(475mlの低糖DMEM、25mlの小胞枯渇ウシ血清、1%のGlutaMAX(登録商標))において8日間培養した

。培養期間の3日目に、10μg/mlのGWを培地に供給し、4日目に、新たに調製した20μg/mlのGWを含む新鮮な培地と交換し、7日目に、10μg/mlのGWを供給した。

【0040】

培地を300gの遠心力で5分間遠心分離することにより死細胞を除去し(P1)、2,000gの遠心力で20分間遠心分離することによりセルデブリスを除去し(P2)、その後、10,000gの遠心力で30分間遠心分離した(P3)。遠心分離はすべて温度4°Cで行った。最終的に、110,000gの遠心分離を60分間行うことにより、

上清からエクソソーム(P4)を分離した

。細胞外小胞(EV)/エキソソームのペレットをPBSで一旦洗浄し、さらなる応用に向けてPBS中に再懸濁した。」

「【0049】

実施例2

EPアンタゴニストに誘導されたエキソソームの性質および含量を分析した

本実施例では、EP4アンタゴニストGWに誘導されたエキソソーム、および、EP4アゴニストPGE2に誘導されたエキソソームの含量をさらに分析し、幹細胞の状態を転換するそれらの異なる能力の原因となる相違点を見出した

。・・・

・・・

【0064】

GWで処理した間葉系幹細胞(MSC)

でもNAMECと同様の結果が得られた(図10A、および、B、図19(A)~(D)参照)。

EP4が媒介するシグナル伝達をEP4アンタゴニストにより遮断することによって、EV/エキソソームの放出を増大させ、GWに誘導されたエキソソーム中の細胞表面MSCマーカー、細胞表面レセプター、シグナル伝達タンパク質、および、サイトカイン

PSA、VCAM1、VEGFR2、VEGFR3、PDGFβ、NGFR、MPIF1、IL-2Rβ、IL-18Rβ、BMP-7、MIP-3α、RANTES DR6、

LIF

、BDNF、TIMP1、VEGFa、IL-10

を含む、MSCの性質を維持する必須タンパク質の濃度を向上させた

(図10B、および、

図19(B)~(D)参照

)。」

オ 図面

「図19(C)

197

94

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2.引用発明の認定

引用例1には、特許請求の範囲において、「少なくとも1つの神経栄養因子(NTF)を分泌するように誘導された間葉系幹細胞(MSC)を含む細胞集団を、神経変性疾患の治療を必要とする対象にとっての治療有効量で含有し、前記細胞集団がMSC-NTF細胞を含む組成物」であって、「前記MSC-NTF細胞における前記少なくとも1つのNTFの基礎分泌が、非分化間葉系幹細胞における前記NTFの基礎分泌よりも多い」、及び「前記神経栄養因子(NTF)」が「白血病抑制因子(LIF)」等の因子から選択される、と特定される組成物が記載されている(前記1.(1)アの請求項22、26、27)。さらに、これら特徴を有する前記「MSC-NTF細胞」に係る実施例として、成人ドナーから単離したヒト骨髄間葉系幹細胞(BM-MSC)を用い、非接着細胞を除去した後、分化培地である、ジブチリル環状アデノシン一リン酸、ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子、ヒト血小板由来増殖因子、及びヒトヘレグリン-β1を含む低グルコースDMEM培地で培養し、NTFを分泌するように誘導されたMSC-NTF細胞を生産したこと(前記1.(1)ウの【0178】~【0182】)、分化工程を経ていないMSCと比較して、MSC-NTFでは、LIFのmRNA発現量が大きく増加したこと(前記1.(1)ウの【0192】~【0193】、【0197】、【0199】、前記1.(1)エの図3A)、さらに培養上清中に分泌されるLIF量が大きく増加したこと(前記1.(1)ウの【0188】、【0194】~【0195】、【0209】~【0210】、前記1.(1)エの図19A)が具体的に記載されている。

そうすると、引用例1から、次のとおりの発明を認定できる。

「神経栄養因子を分泌するように分化誘導された間葉系幹細胞(MSC-NTF細胞)であって、神経栄養因子(NTF)であるLIFについて、MSC-NTF細胞に分化させる前の対照MSCと比較して、そのmRNAを増加した量で発現し、そのタンパク質を増加した量で培養上清中に分泌するMSC-NTF細胞。」(以下、「引用発明」という。)

3.対比

本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「神経栄養因子を分泌するように分化誘導された間葉系幹細胞(MSC-NTF細胞)」は、本願発明の「神経栄養因子を分泌する間葉系幹細胞(MSC-NTF細胞)」に相当する。この点は、本願の発明の詳細な説明において、「本開示は、単離された細胞型特異的エキソソームに関し、該細胞型は、少なくとも1つの神経栄養因子(NTF)を分泌するように誘導されている分化した間葉系幹細胞(MSC)を含む。分化した細胞は、「MSC-NTF」、MSC-NTF細胞・・・と称される。」(【0001】)と記載されており、本願発明の「神経栄養因子を分泌する間葉系幹細胞(MSC-NTF細胞)」は、神経栄養分子を分泌するように分化誘導された間葉系幹細胞を意味するか、少なくともこれを含むものであることからも明らかである。

そうすると、本願発明と引用発明とは、「神経栄養因子(NTF)であるLIFを分泌する間葉系幹細胞(MSC-NTF細胞)」に係る発明である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>

本願発明の一態様は、「MSC-NTF細胞に由来する単離されたエキソソーム集団」であって、「神経栄養因子(NTF)を含む少なくとも1つのカーゴタンパク質を、対照MSCに由来する単離されたエキソソーム集団における前記少なくとも1つのカーゴタンパク質の量と比較して増加した量で含み、前記NTFが、白血病抑制因子(LIF)タンパク質を含む」ものであるのに対して、引用発明は、「MSC-NTF細胞」であって、「神経栄養因子(NTF)であるLIFについて、MSC-NTF細胞に分化させる前の対照MSCと比較して、そのmRNAを増加した量で発現し、そのタンパク質を増加した量で培養上清中に分泌する」ものである点。

4.相違点についての判断

引用例1には、MSC-NTF細胞が発現、又は分泌する分子として、LIFタンパク質等の神経栄養因子が挙げられた後、miRNA分子が挙げられるとともに、miRNAは例えばエキソソームによって分泌され得ること(前記1.(1)イの【0052】、【0055】~【0056】)が記載されており、MSC-NTF細胞が発現、又は分泌する分子とエキソソームによる分泌物の関係が触れられている。

そして、周知例1には、エキソソームを含む細胞外小胞の輸送物であるタンパク質、脂質、及びmiRNAは、細胞の型とその生理学状態に依存するところ、細胞自体の治療効果が、当該細胞由来の細胞外小胞でも同等に有する可能性があること、エキソソームは、血液脳関門を通過できるから、外科的介入を必要とせずに中枢神経系に送達でき、特に神経再生療法の治療ツールとして魅力的であること、治療には大量の細胞外小胞が必要となるから、ヒトMSCが最も有望な細胞源の一つになることが記載されている(前記1.(2)イの第904頁左欄第1段落)とともに、実際にヒト骨髄由来MSC(BM-MSC)と当該細胞由来のエキソソームを比較し、マウスにおける脳卒中後の神経再生を同様に改善した報告例があること、MSC由来のエキソソームは、局所(損傷部位)と全身(免疫応答の調節)の両レベルで作用して神経再生を促進する可能性があることが記載されている(前記1.(2)イの第904頁右欄第3段落)。

周知例2には、MSCを用いた細胞療法の主要な応用分野の一つは神経変性疾患であり、MSCは損傷した脊髄や末梢神経の治療に用いられていること(前記1.(3)ウ)、組織損傷における再生と血管新生を促進するための幹細胞療法では、幹細胞は多様な生物タイプへの分化可能性が高い一方、同時に無制限の細胞増殖と腫瘍形成のリスクがあること(前記1.(3)イ、エ)、幹細胞療法の効果は、生物活性分子の分泌、細胞外小胞の放出等によるものである、というパラクライン仮説が知られること(前記1.(3)オ)が記載された上で、エキソソームと微小胞を含む細胞外小胞を用いた治療が注目されており、種々の疾患に対して、MSC由来の細胞外小胞がMSCと同等の治療効果が確認されたことを報告する多くの文献が存在すること(前記1.(3)カ、キ)が記載されている。

周知例3は、治療薬として機能するエキソソームの分子組成について議論する総説文献であって(前記1.(4)ア、イ)、同文献には、エキソソームが多様な形態で治療用途に利用されてきた中で、MSC由来のエキソソームが、マウスにおける心筋梗塞モデルにおいて治療効果が確認されていること(前記1.(4)ウの第180頁左欄第3~10行)が記載されているとともに、MSC由来のエキソソームは、サイトカインである白血病抑制因子(LIF)を含む多くの分子を含むこと(前記1.(4)ウの第186頁左欄第3段落)が記載されている。

周知例4は、神経幹細胞株から単離されたエキソソームが神経突起の伸長を促進させるインビトロデータが報告されていることを背景技術として説明した上で(前記1.(5)イの【0003】)、幹細胞からのエキソソーム分泌を誘導する、GW627368x(GW)等のEPアンタゴニストを用いた、人工エキソソームの単離方法を記載する文献であって(前記1.(5)ウの【0008】~【0010】、エの実施例1)、同文献には、GWで処理したMSCから得られるエキソソームを未処理のMSCから得られるエキソソームと比較して、LIF等の各種タンパク質濃度が向上したこと(前記1.(5)エの実施例2)が記載されている。そして、当該実験結果のデータに対応する図19(C)(前記1.(5)オ)の「7.LIF」に着目すると、GWで処理したMSCから得られるエキソソームに限らず、未処理のMSCから得られるエキソソームでもLIFタンパク質が検出されていることを確認できる。

以上の周知例1、2の記載から把握されるとおり、エキソソーム等の細胞外小胞は、その由来となる細胞の型や状態に応じて、当該細胞の発現、分泌するタンパク質、脂質、miRNA等を輸送するものであり、幹細胞由来のエキソソーム等の細胞外小胞を用いた治療について、幹細胞を用いた治療と同等の効果が示された例が多く存在すること、そして特に神経変性疾患に対して、MSCを用いた治療と比較してMSC由来のエキソソームが、血液脳関門を通過でき、外科的介入を必要とせずに中枢神経系に送達できるという大きな利点を有することは、本願優先日前の周知事項であった。周知例3、4においても、上記のとおり、MSC又は神経幹細胞由来のエキソソームを用いた治療の有用性が示されている。

そうすると、神経変性疾患の治療という用途、目的において使われる、神経栄養因子を分泌するよう分化誘導され、分化させる前の対象MSCと比較して、LIFをmRNAの発現としても、培養上清中へのタンパク質分泌としても、増加した間葉系幹細胞(MSC-NTF細胞)に係る引用発明において、それに由来するエキソソームも、MSC-NTF細胞と同等の治療効果を発揮できるであろうことは当業者にとって自明であり、上述のとおり、エキソソームが細胞よりも治療上の利点を有することが周知なのだから、引用発明に基づいてそれに由来するエキソソームの発明を想起することは当業者にとって、ごく容易なことである。

そして、上記のとおり、エキソソーム等の細胞外小胞の治療効果は、その由来となる細胞が発現、分泌する分子を輸送することによるものであることが本願優先日前の周知事項であるとともに、上記周知例3、4の記載事項から把握されるとおり、MSC由来のエキソソームは、MSCが発現、分泌するLIFを輸送することが本願優先日前の周知事項であった。

これら周知事項によると、「神経栄養因子(NTF)であるLIFについて、MSC-NTF細胞に分化させる前の対照MSCと比較して、そのmRNAを増加した量で発現し、そのタンパク質を増加した量で培養上清中に分泌する」という特徴を有する、引用発明のMSC-NTF細胞から得られるエキソソームは、LIFタンパク質を当然に含むものであるし、引用例1の図3Aや図19A(前記1.(1)エ)に示されるとおり、NTFを含むように分化誘導したMSC-NTF細胞は、分化誘導工程を経ていないMSCに比べてLIFがmRNA発現量でもタンパク質分泌量でも顕著に向上するものであるから、引用発明のMSC-NTF細胞から得られるエキソソームは、本願発明において、NTFとしてLIFタンパク質を選択した場合の「神経栄養因子(NTF)を含む少なくとも1つのカーゴタンパク質を、対照MSCに由来する単離されたエキソソーム集団における前記少なくとも1つのカーゴタンパク質の量と比較して増加した量で含み」という特徴を満たすものであると考えるのが自然である。

したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

さらに、念のため、引用例1の実施例に記載されたMSC-NTF細胞の生産工程を、本願の実施例に記載されたMSC-NTF細胞の生産工程と比較するという観点から、以下に検討する。

引用例1は、上述のとおり、本願出願人が出願した国際出願の国際公開であって、その実施例1(前記1.(1)ウの【0174】~【0182】)に記載されている、MSC-NTF細胞の具体的な生産方法は、成人ドナーの腸骨稜由来の骨髄試料から、密度遠心分離によって単核細胞画分を取得し、これを増殖培地である、L-グルタミン溶液200mM、ピルビン酸ナトリウム溶液100mM、2IU/mlのヘパリン、及び10%の血小板溶解物を補充した、低グルコースDMEM培地で培養し、非接着細胞を除去することにより、ヒトMSCを取得した後、当該増殖培地で培養し、分化誘導培地である、1mMのジブチリル環状アデノシン一リン酸(cAMP)、20ng/mLのヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(hbFGF)、5ng/mLのヒト血小板由来増殖因子(PDGF-AA)、及び50ng/mLのヒトヘレグリン-β1を含有する無血清DMEM培地で培養する、というものであり、当該生産方法と同一である又は実質的に同一といえるMSC-NTF細胞の生産方法が、本願の実施例1(【0354】~【0359】)に記載されている。さらに、本願の実施例1(【0360】~【0372】)では、生産されたMSC-NTF細胞を培養して得られる培養上清を回収し、0.22μmフィルターによる濾過、タンジェンシャルフロー濾過(TFF)等を経て、MSC-NTF細胞由来のエキソソームを取得したこと、本願の実施例4(【0467】~【0474】)では、当該エキソソームは、対照MSC由来のエキソソームと比較して、LIF等のタンパク質の含有量が増加していることが示されている。

このとおり、本願の実施例1は、引用例1の実施例1と同一又は実質的に同一といえる方法で生産されたMSC-NTF細胞から得られたエキソソームが、対象MSC細胞から得られたエキソソームと比較して、LIF等のタンパク質の含有量が増加していたことを示したものである。このことは、引用発明のMSC-NTF細胞に由来するエキソソームが、対象MSCに由来するエキソソームと比較して増加した量でLIFを含むと考えるのが自然であるとの上記判断と矛盾しないものである。

最後にMSC-NTF由来のエキソソームに係る本願発明の効果について検討すると、本願の実施例3においては、当該エキソソームとMSC由来のエキソソームをそれぞれヒト神経前駆幹細胞と共培養し、前者の場合に後者と比較して、神経突起伸長において高い効果(特に図5C)、すなわち優れた神経保護効果が確認されたこと、本願の実施例6においては、当該エキソソームを作用させた場合にニューロンにおいて発現が変化する遺伝子を解析し、細胞外マトリックス及び接着タンパク質の発現調節に対する効果が確認されたことが記載されている。

本願の実施例における、これら開示内容に基づく本願発明の効果について、引用例1には、MSC-NTF細胞の筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者に対する治療効果が具体的に示されていること(前記1.(1)ウの実施例3)、及び上記のとおり、幹細胞由来のエキソソーム等の細胞外小胞を用いた治療について、幹細胞を用いた治療と同等の効果が示された例が多く存在することが本願優先日前の周知事項であったことに鑑みると、引用例1に記載のMSC-NTF細胞から得られるエキソソームが、内包する成分によって神経関連疾患に対する治療効果を有すること、又は当該治療効果を示唆する実験結果が得られることは、当業者が十分に予測し得たことであるから、本願発明の効果を格別顕著なものとは認められない。

以上のとおりであるから、本願発明に進歩性を認めることはできない。

5.請求人の主張について

令和5年4月11日付け意見書において請求人は、参考資料2~5を提示して、エキソソームは、親細胞から分泌される全てのタンパク質が含まれるとは限らず、その内容は親細胞の内容とは大きく異なる場合があるから、本願発明は引用例1記載の発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない旨主張している。

そこで、各参考資料に記載されている事項を以下に検討する。

参考資料2は、心血管疾患の治療のための治療薬送達に用い得る細胞外小胞(EV)について、そのカーゴ選別の仕組み等に焦点を当てる総説文献であって(要約)、同資料には、同じ細胞であっても、核酸、脂質、タンパク質の成分が異なるEVを分泌する可能性があり、ストレス刺激等の条件もEV成分に影響を及ぼし得ること、EVを分離、調製する技術によってカーゴ成分の分析が影響を受けるかもしれないこと(第2頁下から第2行~第3頁第4行、上記意見書における摘示箇所)が記載されている。

参考資料3は、エキソソーム分泌とその特異的なカーゴ選別に関連した分子機構を議論する総説文献であって(要約)、同資料には、エキソソームは、親細胞に応じて、タンパク質、RNA、脂質の成分が異なること、エキソソームのカーゴ選別機構には、ESCRT依存のものとESCRT非依存のものが存在すること、低酸素症等のストレスもエキソソームの成分を変化させ得ること(第167頁右欄第1段落、上記意見書における摘示箇所)が記載されている。

参考資料4は、エキソソームの生合成、カーゴの積載等に関する既知の機構を概説する総説文献であって(要約)、同資料には、出芽時の膜の物理的構造の変化やカーゴの動員に重要な選別機能を有する物質の特定は、依然として不明であること、細胞内の多小胞体(MVB)は、それぞれが全く同じではないかもしれず、MBVの複数の異質なサブ集団が存在する可能性があること(第1頁下から第5行~下から第1行、上記意見書における摘示箇所)が記載されている。

参考資料5は、エキソソームのカーゴの生物学的役割とその選別機構を主に説明する総説文献であって(要約)、同資料には、エキソソームは種々の治療目的で外来又は内在のカーゴを輸送するための担体として実証されており、エキソソームと対応する起源の細胞との間のカーゴの違いが選別機構を示唆しており、これを理解することは重要であること(第8186頁左欄下から第2行~右欄第5行、上記意見書における摘示箇所)が記載されている。

参考資料2~5に記載されたこれらの事項は、せいぜい、エキソソームのカーゴ選別について未解明の部分が多く、研究途上であることを示すにとどまり、引用発明のMSC-NTF細胞からエキソソームを想起することを妨げたり、当該エキソソームが対象MSCに由来するエキソソームと比較してLIFを多く含有するとは考えられないなど、本願発明の容易想到性を否定する事情を示すものとまではいえない。

したがって、請求人の上記主張は採用できない。

6.小括

前記1.~5.の次第であるから、本願発明は、引用例1に記載された発明、及び周知例1~4から把握される周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび

以上のとおり、この出願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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