結論テキスト
本件審判の請求は、成り立たない。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 2024009234 |
|---|---|
| 審判種別 | 記載はありません。 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理 由
特願2021-513874号は、2019年(令和 1年)9月11日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2018年(平成30年) 9月11日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和 5年 6月30日付け 拒絶理由通知
12月 5日 意見書の提出
令和 6年 2月13日付け 拒絶査定
6月 4日 審判請求書の提出
本願の特許請求の範囲の請求項1~10に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定されるものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
ガラス系物品であって、
第1の表面;
第2の表面;及び
第1の表面から圧縮の第1の深さDOC
1
まで延びる第1の圧縮領域、第2の表面から圧縮の第2の深さDOC
2
まで延びる第2の圧縮領域、及びDOC
1
からDOC
2
まで延びる引張領域を有する応力プロファイル
を含み、
前記引張領域が、1.31MPa・√(m)以上かつ1.8・K
IC
未満の引張応力係数K
T
を有しており、ここで、K
IC
は、前記ガラス系物品の中心と同じ組成を有するガラス系基板の破壊靭性である、
ガラス系物品。」
拒絶査定の拒絶の理由は、令和5年6月30日付け拒絶理由通知書に記載した理由1であって、本願の願書に添付された特許請求の範囲(以下、「本願特許請求の範囲」という。)の記載は特許法第36条第6項第1号(いわゆる「サポート要件」)に適合するものではないため、本願は、同項に規定する要件を満たしていない、というものである。
本願の願書に添付された明細書(以下、「本願明細書」という。)の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。なお、下線は当審が付した。
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、
イオン交換などによって強化することができ、破壊時に多数の破片を生じないガラスが必要とされている。
」
「【発明を実施するための形態】
【0064】
イオン交換などによってガラス系物品が化学的に強化される度合いが増すにつれて、これまで以上の耐破壊性を追求する中で、ガラス系物品が、脆弱性と呼ばれうる多数の破片を生成する望ましくない破壊状態を示すリスクが高まっている。
以前は、強化ガラスの脆弱性を回避するための基準は、強化ガラス系物品の最大中央張力(CT)、蓄積歪みエネルギー(SSE)、又は引張応力係数(K
T
)を制限することに基づいていた。しかしながら、これらの制限は普遍的に適用できるわけではない。本明細書では、ガラス系物品、特に以前のガラス系物品よりも厚さに対して高い破壊靭性及び/又は圧縮の深さを有するガラス系物品の脆弱性を決定するための新しい基準について説明する。これらの基準は、破壊靭性及びヤング率などのガラス系物品の形成に利用されるガラス系基板の特性と、圧縮の深さ及び引張応力係数などの応力プロファイルの特性との関係に基づいている。加えて、これらの基準は、幾つかの実施形態ではガラス系物品を破壊することなく適用することができ、品質管理用途での使用を可能にする。
【0065】
本明細書で利用される場合、ガラス系物品は、脆弱性試験の結果として、試験領域において次のうちの少なくとも1つを示す場合に「非脆弱性」と見なされる:(1)最大寸法が少なくとも1mmである破片が4つ以下である、及び/又は(2)分岐の数が1亀裂枝あたり1.5分岐以下である。
破片、分岐、及び亀裂枝は、衝撃点を中心とする5cm×5cmの正方形に基づいてカウントされる。したがって、ガラスは、以下に説明する手順に従って、破損が発生する衝撃点を中心とする5cm×5cmの正方形について試験(1)及び(2)の一方又は両方を満たしている場合に、非脆弱性と見なされる。脆弱性試験では、衝撃プローブをガラスと接触させ、衝撃プローブがガラス内に延びる深さは、連続する接触の反復で増加する。衝撃プローブの深さを段階的に増加させることにより、衝撃プローブによって生成させた欠陥を張力領域に到達させることができると同時に、ガラスの壊れやすい挙動の正確な決定を妨げる過度の外力の印加を防ぐ。ガラス系物品は、Newport Corporation社から入手可能なMVN精密垂直ステージなどの鋼表面上に配置される。衝撃プローブは、炭化タングステンチップを備えた、重量40gのスタイラスであり(Fisher Scientific Industries社から商標TOSCO(登録商標)及び製造業者識別番号#13-378の下、60度の円錐球チップで入手可能)、該スタイラスを上下に動かすギア駆動機構のクランプに接続されている。一実施形態では、ガラス内の衝撃プローブの深さは、各反復で約5μmだけ増加させることができ、衝撃プローブは、各反復の合間にガラスとの接触から解除される。試験領域は、衝撃点を中心とする5cm×5cmの正方形である。図1は、非脆弱性試験の結果を示している。図1に示されるように、試験領域は、衝撃点135を中心とする正方形であり、正方形の1辺の長さdは5cmである。図1に示される非脆弱性試料は、3つの破片142、並びに2つの亀裂枝140及び単一の分岐150を含んでいる。したがって、図1に示される非脆弱性試料は、最大寸法が少なくとも1mmである破片を4つ未満で含み、分岐の数が亀裂枝の数以下である(1亀裂枝あたり0.5分岐)。本明細書で利用されるように、亀裂枝は衝撃点で発生し、破片のいずれかの部分が試験領域内に延びている場合、破片は試験領域内にあると見なされる。コーティング、接着剤層などはを、本明細書に記載される強化されたガラス系物品と組み合わせて使用することができるが、このような外部拘束はガラス系物品の脆弱性又は脆弱挙動の決定には用いない。幾つかの実施形態では、ガラス系物品の破壊挙動に影響を及ぼさない膜を、脆弱性試験の前にガラス系物品に施して、ガラス系物品からの破片の放出を防ぎ、試験を実施する人の安全性を高めることができる。
【0066】
脆弱性試料が図2に示されている。脆弱性試料は、最大寸法が少なくとも1mmの6つの破片142を含む。図2に示される試料は、2つの亀裂枝140及び4つの分岐150(1亀裂枝あたり2つの分岐)を含み、亀裂枝より多くの分岐を生成する。したがって、図2に示される試料は、4つ以下の破片、又は1亀裂枝あたり1.5以下の分岐を示さない。図1及び2は、衝撃点135で発生する亀裂枝140を2つ含んでいるが、3つ以上の亀裂枝など、2つより多くの亀裂枝が衝撃点で発生する可能性があるものと理解されたい。
【0067】
本明細書に記載される脆弱性試験では、衝撃は、強化ガラス物品内に存在する内部に蓄積されたエネルギーを放出するのにちょうど十分な力でガラス物品の表面に伝達される。すなわち、点衝撃力は、強化ガラスシートの表面に少なくとも1つの新しい亀裂を生成し、該亀裂を、圧縮応力CS領域を通って(すなわち、圧縮の深さを通過して)中央の引張領域内へと延ばすのに十分である。
【0068】
したがって、本明細書に記載されるガラス系物品は「非脆弱性」である(すなわち、鋭利な物体によって衝撃を受けたときに、上記のような脆弱挙動を示さない)。
・・・
【0106】
幾つかの実施形態では、引張応力係数K
T
及び引張歪みエネルギーTSEに関するガラス系物品の脆弱性限界は、一定ではなく、ガラスの破壊靭性K
IC
に依存する。図5は、異なる破壊靭性を有する3つの異なるSASガラス組成物についての引張応力係数K
T
の関数としての1亀裂枝あたりの平均分岐数を示している。亀裂枝の数は、通常2又は3であり、各々が5cm×5cmの正方形のガラス系物品の中心にある破壊起点位置から発生していた。図5の実験では、ガラス系物品の厚さは0.8mmであった。図5の組成は、下記表1に詳細が示されている。実際上は、脆弱性限界は、K
T
又はTSEの臨界値として定義され、それを超えるとガラス系物品は脆弱になる。図5に示される組成では、分枝あたり1.5分岐の臨界値は、組成1、2、及び3について、それぞれK
T
値1.18、1.215、及び1.29で発生した。
【0107】
【表1】
119
137
0001430667000001.jpg
【0108】
組成8は透明なガラスセラミックである。この組成物は、前駆体ガラスをセラミック化することによって形成した。
【0109】
下記表2及び3に示されるように、図5の例は、主にKNO
3
と少量のNaNO
3
で構成される浴を用いた一段階イオン交換を使用して生成した。イオン交換の期間を表2に記載されている範囲で変化させて、さまざまな引張応力係数及びDOC/tを有する試料を生成した。結果として生じる圧縮応力は、組成物2では約800MPa、組成物1及び3では750MPaから800MPaの間であった。DOCは、43~60μmの範囲であった。図5に示される曲線の急勾配領域は、組成物1及び3については約53μmを超え、組成物2については約47μmを超えるDOCで始まった。図5の曲線の急勾配領域の開始時のDOC/t比は、すべての組成物について0.058から0.070の間に入った。
【0110】
【表2】
84
133
0001430667000002.jpg
【0111】
IOX条件10及び11では、同じ塩濃度及び同じイオン交換時間を利用した。しかしながら、条件10では、高密度充填(塩1kgあたり0.01m
2
以上のガラス)のガラス試料を使用し、一方、条件11では、低密度充填(塩1kgあたり0.005m
2
未満のガラス)を使用した。
【0112】
【表3-1】
80
127
0001430667000003.jpg
・・・
【0115】
ここで、「L」は試料が脆弱性限界にあることを示し、「N」は試料が非脆弱性であることを示し、「Y」は試料が脆弱性であることを示し、「L/Y」は試料が限界にあるか、又は場合によってはわずかに脆弱性であることを示す。」
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下、この観点に立って検討する。
本願特許請求の範囲の請求項1の記載は、上記第2のとおりである。
(1)本願明細書の発明の詳細な説明には、上記第4において摘記した記載があるところ、当該記載によれば、特に、以下の記載事項を認めることができる。
ア 本願発明の課題に関する記載事項
(ア)「発明が解決しようとする課題」として、「イオン交換などによって強化することができ、破壊時に多数の破片を生じないガラスが必要とされている。」(【0005】)と記載されている。
(イ)また、「発明を実施するための形態」欄には、「イオン交換などによってガラス系物品が化学的に強化される度合いが増すにつれて、これまで以上の耐破壊性を追求する中で、ガラス系物品が、脆弱性と呼ばれうる多数の破片を生成する望ましくない破壊状態を示すリスクが高まっている。」(【0064】)、「本明細書で利用される場合、ガラス系物品は、脆弱性試験の結果として、試験領域において次のうちの少なくとも1つを示す場合に「非脆弱性」と見なされる:(1)最大寸法が少なくとも1mmである破片が4つ以下である、及び/又は(2)分岐の数が1亀裂枝あたり1.5分岐以下である。」(【0065】)と記載されている。
さらに、「本明細書に記載されるガラス系物品は「非脆弱性」である(すなわち、鋭利な物体によって衝撃を受けたときに、上記のような脆弱挙動を示さない)。」(【0065】)とも記載されている。
イ 本願発明の実験例に関する記載事項
(ア)本願発明の具体的な実験例として、特定の組成(組成1~9、【表1】)を有するガラス系基板に特定のイオン交換条件(IOX条件1~14、【表2】)でイオン交換を行い、14個のガラス系物品を得たこと(【0106】~【0115】)、上記組成1~9のガラス系基板のK
IC
などの物性(【0107】【表1】)、並びに、得られた14個のガラス系物品のK
T
などの物性や、脆弱性限界「L」、非脆弱性「N」、脆弱性「Y」、脆弱性限界又は脆弱性「L/Y」で示された脆弱性試験結果(【0112】【表3-1】)が記載されている。
(イ)上記(ア)の実験例で使用したガラス系基板のK
IC
と得られたガラス系物品のK
T
、脆弱性試験結果を整理すると次のとおりである。
組成 IOX K
IC
K
T
脆弱性試験結果
条件 MPa√m MPa√m
(2)本願発明の課題の認定
上記(1)アによれば、本願発明は「イオン交換などによって強化することができ、破壊時に多数の破片を生じないガラス」を提供することを課題としているといえる。
そして、脆弱性試験において、「(1)最大寸法が少なくとも1mmである破片が4つ以下である、及び/又は(2)分岐の数が1亀裂枝あたり1.5分岐以下であるガラス」は「非脆弱性」であるとされ、「本明細書に記載されるガラス系物品は「非脆弱性」である」とも記載されている。
ここで、脆弱性試験において(1)を満たすことは、最大寸法が少なくとも1mmである破片が少ないことを意味し、これは、言い換えれば「破壊時に多数の破片を生じない」ことであるといえる。また、脆弱性試験の(2)を満たすことは、分岐の数が少ないことを意味し、これも、言い換えれば、「破壊時に多数の破片を生じない」ことであるといえる。
そうすると、脆弱性試験の(1)、(2)を満たすことは、本願発明の課題である「イオン交換などによって強化することができ、破壊時に多数の破片を生じないガラス」を具体的に数値化した指標で表しているものであり、本願発明の課題を満たすガラスは、脆弱性試験において(1)、(2)を満たすガラス、すなわち、「非脆弱性」のガラスであると言い換えることができるといえる。
してみれば、本願発明の課題は「イオン交換などによって強化することができ、非脆弱性のガラス」を提供することであるともいえる。
(3)特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比
ア 本願明細書の発明の詳細な説明には、上記(1)イに記載したとおりの実験例が記載され、組成7を有するガラス系基板を、IOX条件11の条件でイオン交換して、ガラス系物品を得た実験例(以下、「実験例7-11」という。)では、ガラス系基板の破壊靱性K
IC
は0.948MPa・√(m)であり、得られたガラス系物品の引張応力係数K
T
は1.569MPa・√(m)であることが記載されている。
そうすると、実験例7-11のガラス系物品は、「第1の表面;第2の表面」を有するものであるし、イオン交換がされているから、「第1の表面から圧縮の第1の深さDOC
1
まで延びる第1の圧縮領域、第2の表面から圧縮の第2の深さDOC
2
まで延びる第2の圧縮領域、及びDOC
1
からDOC
2
まで延びる引張領域を有する応力プロファイルを含」むものである。
また、1.8×K
IC
は1.7064(=1.8×0.948)MPa・√(m)となるため、K
T
(1.569MPa・√(m))は、1.8×K
IC
(1.7064MPa・√(m))未満となる。
よって、実験例7-11は、本願発明の「前記引張領域が、1.31MPa・√(m)以上かつ1.8・K
IC
未満の引張応力係数K
T
を有しており、ここで、K
IC
は、前記ガラス系物品の中心と同じ組成を有するガラス系基板の破壊靭性である」を満たしている。
そうすると、実験例7-11は、本願発明の特定事項をすべて満たすものであるといえ、本願発明の一態様であるといえる。
イ 他方、実験例7-11の脆弱性試験の結果は、「Y」、すなわち、脆弱性であったとされている。
してみれば、実験例7-11は「イオン交換などによって強化することができ、非脆弱性のガラス」を提供すること、すなわち、「イオン交換などによって強化することができ、破壊時に多数の破片を生じないガラス」を提供すること、という本願発明の課題を解決しているとはいえない。
ウ 前記ア、イを踏まえると、本願発明は、本願発明の課題を解決しない態様を含むため、当該課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえない。
よって、上記1の判断手法に従えば、特許請求の範囲の請求項1の記載は、サポート要件に適合しない。
請求人は、審判請求書の「3-3-2-2.」において、「IOX条件11によって処理された組成7は、脆弱性を示す「Y」であり、K
T
/K
IC
=1.87>1.8の値を有します。」、「特定のガラス組成が脆弱性限界(例えば、請求項1に記載されているように1.8・K
IC
)を超えるように化学強化された場合、ガラスは(IOX条件11によって処理された組成7に反映されるように)破壊可能になり、一方、特定のガラス組成が脆弱性限界未満の引張応力係数に対応する程度まで化学強化された場合、それは(IOX条件10によって処理された組成7に反映されるように)非破壊性(非脆弱性)のままです。したがって、表3の結果は、請求項1に記載された技術的特徴と一致し、その意義を裏付けていると言えます。」と主張している。
しかし、IOX条件11によって処理された組成7である、実験例7-11では、K
T
=1.569MPa・√(m)、K
IC
=0.948MPa・√(m)であるから、K
T
/K
IC
=1.655であり、K
T
/K
IC
=1.655<1.8となるから、その主張は、前提において誤っている。
したがって、請求人の当該主張は採用できない。
以上のとおり、特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合しない。
上記第5で検討したとおり、特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるとはいえないから、本願は同項に規定する要件を満たしていないため、その余の事項について検討するまでもなく、本願は、同法第49条第4号に該当するため拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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