結論テキスト
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 2024800010 |
|---|---|
| 審判種別 | 記載はありません。 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理 由
特許第7365067号発明の特許請求の範囲の請求項1~4に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。
本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。
特許第7365067号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、令和3年12月22日を出願日とする出願であって、令和5年10月11日に請求項1~4に係る発明についての特許権が設定登録されたものである。
本件特許無効審判は、株式会社リブレ(以下「請求人」という。)から、株式会社昭和商会(以下「被請求人」という。)を特許権者とする、本件特許の請求項1~4に係る発明の特許に対して請求されたものであり、手続の経緯の概略は、以下のとおりである。
令和6年 2月 1日 :審判請求書(以下「請求書」という。)の提出
令和6年 8月 5日 :審判事件答弁書(以下「答弁書」という。)の提出
令和6年12月10日付け:審理事項通知書
令和7年 1月16日 :口頭審理陳述要領書(以下「請求人要領書」という。)の提出(請求人)
令和7年 1月16日 :口頭審理陳述要領書(以下「被請求人要領書」という。)の提出(被請求人)
令和7年 1月30日 :第1回口頭審理
本件特許の請求項1~4に係る発明(以下「本件発明1」のようにいう。また、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ本件特許の特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1~4の記載は、次のとおりである。
【請求項1】
ペルチェ素子を有し、冷却または発熱面を備えるペルチェ素子ユニットと、
前記ペルチェ素子との間を配線コードにより接続され、前記配線コードを通じて前記ペルチェ素子に電流を供給するモバイルバッテリと、
衣服の後ろ身頃に形成され、前記ペルチェ素子ユニットを着用時に着用者の身体に密着するように取り付けるための挿入孔と、
を備え、
前記ペルチェ素子ユニットは、
前記冷却または発熱面に垂直な方向において前記冷却または発熱面より前記ペルチェ素子側の前記冷却または発熱面の周囲から前記冷却または発熱面に平行に張り出したフランジと、前記ペルチェ素子ユニットから脱着可能であり、前記フランジに対向し、前記冷却または発熱面に垂直な方向において前記フランジより前記冷却または発熱面側とは反対側から螺合により装着されるリング体と、を備え、
前記挿入孔の周囲の前記後ろ身頃の生地が、衣服の内側に設けられた前記フランジと衣服の外側に設けられた前記リング体により挟み込まれ、前記冷却または発熱面が前記フランジよりも衣服の内側に突出した状態で取り付けられる、
温度調節衣服。
【請求項2】
前記ペルチェ素子ユニットは、着用時に着用者の首筋、背中または脇の下に密着する位置に設けられた、
請求項1に記載の温度調節衣服。
【請求項3】
前記挿入孔は、複数箇所に形成され、
前記ペルチェ素子ユニットは、前記挿入孔に脱着可能に取り付けられた、
請求項1または2に記載の温度調節衣服。
【請求項4】
前記後ろ身頃の前記挿入孔が形成された箇所を含む部分を袋状に覆う後ろ身頃カバー部材と、
前記後ろ身頃カバー部材を開閉するファスナーと、を設け、
前記後ろ身頃カバー部材の内側に前記配線コードを収納した、
請求項1から3のいずれか1項に記載の温度調節衣服。
請求人は、審判請求書に添付して甲第1号証~甲第6号証を、請求人要領書に添付して甲第7号証を提出し、以下の無効理由を主張している。
以下、甲第1号証等を「甲1」等と略記する。
(1)無効理由1(実施可能要件)
明細書の発明の詳細な説明の記載は、次のア、イの理由で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項1~4に係る特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
ア 図3の記載、段落(0025)、及び段落(0026)の記載によれば、排気を行うための排気孔49は記載されているが、吸気を行うための吸気孔の記載が欠如しており、外気は、回転している排熱ファン53の外側の狭い空間から排熱ファン53の下部空間に流入するため、外気はそのまま近くに位置する排熱ファン53に吸い上げられて、外側に排気されてしまい、外気のうち、放熱板46に接触する外気の量は極めて少ないこととなる。本件のペルチェ素子ユニット24では、放熱板46が外気により十分冷却されることがなく冷却効率が悪いため、ペルチェ素子44が焼損する恐れが大きく、明細書の実施例の記載は、当業者がその実施をできる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。(審判請求書「7-4-3(1)実施可能要件違反その1」)
イ 本件の放熱板46を冷却するための空気は、被服の外側の空気を吸気しているため、50°Cを越える空気を冷却用の空気として吸気する場合があり、そのような場合、ペルチェ素子44の放熱板46を効率的に冷却することは困難であり、ペルチェ素子44が焼損する恐れが大きく、明細書の実施例の記載は、当業者がその実施をできる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。(審判請求書「7-4-3(2)実施可能要件違反その2」)
(2)無効理由2(新規事項)
令和5年6月26日の手続補正のうち、次の補正は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、請求項1~4に係る特許は、特許法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。
特許請求の範囲の請求項1に「前記冷却または発熱面が前記フランジよりも衣服の内側に突出した状態で取り付けられる」との事項を追加する補正は、甲3の図15に示すような、吸気孔を有するものを含んでしまうため、新規事項の追加に該当する。(審判請求書「7-5-2 本件発明1の新規事項の追加について」)
(3)無効理由3(進歩性)
本件特許の請求項1~4に係る発明は、甲5に記載された発明(主たる証拠)及び甲6に記載された発明(従たる証拠)から容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、請求項1~4に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。(審判請求書「7-6無効審判請求の根拠(特許法第29条第2項 進歩性違反)」)
(4)証拠方法
請求人が提出した証拠方法は以下のとおりである。
甲1 :特許第7365067号公報
甲2 :“ペルチェ素子って何?”,[online],日本女子大学数物科学科目白祭、2018年10月、[令和5年11月30日検索],インターネット<URL:https://mcm-www.jwu.ac.jp/
~
physm/buturi18/perutye/WPE.htm> (当審注:「数物科学科」は当時の名称。現在は「数物情報科学科」。)
甲3 :特許第7396605号公報
甲4 :本件特許に係る出願の令和5年6月26日付け意見書の写し
甲5 :特開2021-113371号公報
甲6 :国際公開第2020/090483号
甲7 :特開2023-92711号公報
被請求人は、請求人の主張する無効理由1~3はいずれも理由がない旨主張している。
物の発明について実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者において、その記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、当該発明に係る物を作り、使用することができる程度のものでなければならない。以下、当該観点に立って検討する。
(1)吸気孔の記載の欠如に関して
上記第4の1(1)アにおける吸気孔の記載の欠如に関して検討する。(なお、「・・・」は摘記の省略を示す。また摘記箇所を示す行数は空白行も含めた。以下同様。)
本件特許の明細書の【0025】には、「・・・ペルチェ素子44の他方の面に当接された放熱板46は、ペルチェ素子44の他方の面に発生した熱が伝えられ、排熱ファンに対向する面から放熱する。伝熱板45および放熱板46は、例えばアルミニウム等の金属板により形成される。」と記載され、【0026】には、「排熱ファンカバー部41は、円筒形状をなし、円筒形状の頂側に位置する円板状の頂部47とリング体48と結合する側部の間に排熱のための排気孔49が設けられている。・・・排熱ファン53は、放熱板46より放出された熱を排気孔49を通じて外側に排気する。」と記載されている。また、同【図3】には次の図が記載されている。
「
67
132
0001430900000001.jpg
」
これらの記載を踏まえれば、ペルチェ素子44で発生した熱は放熱板46より放出され、排熱ファンによって排気孔49を通じて排気ファンカバー部41から排気されることが理解できる。そして、排気ファンカバー部41は特に密閉されてはいないから、吸気孔についての記載がなくても、当業者であれば、排気に対応して適宜吸気がなされることも十分に理解可能なものである。
請求人は、外気のうち放熱板46に接触する外気の量は極めて少なく放熱板46の周囲の空気は滞留していると考えられ放熱板46を十分冷却することは困難(審判請求書16ページ4~6行)であり、冷却効率が悪いため伝熱板45を有効に冷却することは困難でありペルチェ素子が焼損する恐れが大きい(審判請求書16ページ10~13行)旨を主張する。しかし、仮に十分冷却することが困難であるとしても、それは冷却効率の良し悪しの問題に過ぎないし、それによって直ちにペルチェ素子が焼損するとも認められず、本件発明を実施することができないというほどのものではない。
また、請求人は、過度の試行錯誤が必要である旨や未完成発明である旨(請求人要領書2~3ページ)も主張するが、当該主張は上記と同様に冷却効率が悪いという主張を前提とするものであるところ、仮に冷却効率が悪いとしても、それが過度の試行錯誤が必要であるとか未完成発明であるとまではいえないから、やはり本件発明を実施することができないというほどのものではない。
(2)50°Cを越える冷却用の空気に関して
上記第4の1(1)イにおける50°Cを越える冷却用の空気に関して検討する。
請求人は、本件の放熱板46を冷却するための空気は被服の外側の空気を吸気しているため、50°Cを越える空気を冷却用の空気として吸気する場合にはペルチェ素子44の放熱板46を効率的に冷却することは困難である(審判請求書17ページ下から2行~18ページ2行)旨を主張する。しかし、この点についても冷却効率の良し悪しの問題に過ぎず、上記と同様、本件発明を実施することができないというほどのものではない。
(3)小括
よって、実施可能要件に係る無効理由には、理由がない。
令和5年6月26日の手続補正のうち、特許請求の範囲の請求項1に追加された「前記冷却または発熱面が前記フランジよりも衣服の内側に突出した状態で取り付けられる」との事項が、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項との関係で新たな技術的事項を導入するものであるか否かについて検討する。
(1)新たな技術的事項を導入するものであるか否かについて
当初明細書の【0025】には、「・・・伝熱板45は、ペルチェ素子44に当接する面とは反対の面が、着用者の体に接触するように設けられている。ペルチェ素子44により冷却された伝熱板45は、着用者の体に当接することにより、当接された冷却面を通じて着用者の体を冷却する。」と記載されている。この記載と【図3】を踏まえれば、伝熱板45の【図3】における下方の面が着用者の体に接触・当接する面であり、本件発明における「冷却または発熱面」である。そして、この「冷却または発熱面」がフランジ43よりも【図3】における下方、すなわち着用者の体の側である衣服の内側に突出した状態で取り付けられていることが看て取れるし、上記【0025】における伝熱板45が着用者の体に当接するという記載とも整合する。したがって、上記補正は新たな技術的事項を導入するものではなく、当初明細書等に記載された事項の範囲内のものである。
(2)請求人の主張について
請求人は、下記に示す甲3の図15に示すような吸気孔を有するものを含んでしまうため、新規事項の追加に該当すると主張する(審判請求書18~20ページ)。
「
81
142
0001430900000002.jpg
」(甲3の【図15】)
しかしながら、新規事項の追加に当たるか否かは、当該補正が当初明細書等に記載した事項との関係で新たな技術的事項を導入するものであるか否かで判断されるものであり、他人の製品等の態様との関係で判断するものではなく、請求人の主張は当を得ていない。もっとも、他人の製品等の態様を含むことで、新たな技術的事項を導入することになる場合も考えられるが、本件において、当該補正により新たな技術的事項が導入されていないことは上記のとおりである。
そうすると、請求人の主張は採用することはできない。
(3)小括
よって、新規事項に係る無効理由には、理由がない。
(1) 甲号証等について
ア 甲号証等一覧
甲5 :特開2021-113371号公報
甲6 :国際公開第2020/090483号
イ 甲号証等の記載事項
(ア) 甲5
a 甲5の記載事項
甲5には以下の記載がある。(下線は当審で付した。「・・・」は摘記の省略を示す。以下同様。)
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
空気調和ユニット及びそれを備えた衣服に関し
、特に着衣者の身体を冷房又は暖房する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衣服に取り付けたファンにより、外部の空気を衣服内に取り込み、着衣者の身体を冷却するファン付の衣服が知られている(例えば特許文献1)。しかし、ファン付き衣服は外部の空気を衣服内に送り込むだけであるため、外気温が高い場合には冷房効果が低く、快適な衣服であるとは言えない。
【0003】
また、従来、衣服内部に設けた水路に冷水又は温水を流すことにより、身体を冷房又は暖房できるようにした衣服も知られている(例えば特許文献2)。しかし、衣服の内部に冷水や温水を流す構成では、衣服の重量が増すため、着衣者の動作が鈍くなるという欠点がある。
・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ペルチェ素子を利用すれば、冷却又は加熱を行うことができるため、これを衣服に取り付けて衣服の内部を冷房又は暖房することが考えられる。しかし、ペルチェ素子は消費電力が大きいため、衣服の内面側に多数取り付けると電力消耗が激しく実用に耐えない。そのため、ペルチェ素子を利用する場合は、ペルチェ素子の数を減らし、着衣者の身体を効率的に冷房又は暖房できるようにすることが望ましい。
【0006】
そこで本発明は、
ペルチェ素子を利用して着衣者の身体を効率的に冷房又は暖房できる空気調和ユニット及びそれを備えた衣服を提供することを目的とする
。」
「【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に関する好ましい実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。尚、以下に説明する実施形態において互いに共通する部材には同一符号を付しており、それらについての重複する説明は省略する。
【0021】
図1は、本実施形態における空気調和ユニット1を示す斜視図であり、(a)及び(b)はそれぞれ異なる方向から観た図を示している。図2は、空気調和ユニット1を取り付けた衣服100を示す図である。図3は、空気調和ユニット1の構成を示す分解斜視図である。これらの図面に示す本実施形態の空気調和ユニット1は、ペルチェ素子17を用いた熱交換を行い、衣服100の着衣者の身体を冷房又は暖房するためのものである。例えば、図2に示すように、空気調和ユニット1は、衣服100の後身頃の生地101に取り付けられ、着衣者の身体の背を冷房又は暖房する。この空気調和ユニット1は、着衣者の肩胛骨の間から腰に至る部分を冷房又は暖房する装置である。
【0022】
図3に示すように、
空気調和ユニット1は、主として、ファンカバー11と、ファン14と、ヒートシンク15と、ペルチェ素子17と、保持部材18と、金属板19と、熱交換プレート20と、断熱パッド30と、固定パッド40とを備えて構成される
。この空気調和ユニット1は、保持部材18がペルチェ素子17を保持する。
【0023】
ペルチェ素子17は、概略矩形状の薄板状素子であり、表面側と裏面側とに異なる2種類の金属が配置されており、その2種類の金属の接合部に電流を流すことにより、一方の金属から他方の金属へ熱が移動するというペルチェ効果を利用した半導体素子である。例えば、一方の金属から他方の金属へ直流電流を流すと、ペルチェ素子17の一方の面が吸熱し、他方の面に発熱が起こる。直流電流の極性を反転させると、吸熱作用及び発熱作用が生じる面が反転する。空気調和ユニット1は、このペルチェ素子17の特性を利用して衣服内の着衣者の身体を冷房又は暖房する。
【0024】
ペルチェ素子17の衣服外側に対応する面には、空気調和ユニット1によって熱交換された廃熱を外部へ放出する放熱機構が設けられる。具体的に説明すると、ペルチェ素子17の衣服外側に対応する面には、ヒートシンク15が接合するように配置される。例えばヒートシンク15は、その周囲が保持部材18に固定される
。ヒートシンク15は、その周縁部に熱交換効率を高めるために多数のフィン16が設けられている。ヒートシンク15の更に衣服外側には、ファン14が配置される。ファンカバー11は、ヒートシンク15の周縁部に取り付けられるカバー部材であり、衣服100の外側においてファン14及びヒートシンク15を覆う状態に装着される。ファンカバー11には、空気をカバー内に導入するための吸気窓12と、カバー内の空気を外部に放出するための排気窓13とが設けられる。例えば、ファンカバー11は、有底の円筒形状を有しており、吸気窓12は、ファンカバー11の底部に多数形成され、排気窓13はファンカバー11の周側面に形成される。
【0025】
これに対し、
ペルチェ素子17の衣服内側に対応する面には、ペルチェ素子17による冷却又は加熱効果を着衣者の身体に効率よく伝えるための熱伝導機構が設けられる。具体的に説明すると、ペルチェ素子17の衣服内側に対応する面には、金属板19が接合するように配置される
。この金属板19は、例えばその周縁部が保持部材18の衣服内側の面に接着された状態で固定される。金属板19は、その一面がペルチェ素子17の一方の面に接合した状態に取り付けられることにより、ペルチェ素子17の吸熱又は発熱作用により降温又は昇温する。この金属板19は例えばアルミ金属で形成される。アルミ金属は、熱伝導率が比較的高く、しかも軽量であるため、衣服装着用として適している。ただし、金属板19は、アルミ製に限られるものではなく、比較的高い熱伝導率を示す金属であればどのような金属を用いても構わない。例えば、銅や錫などを用いて金属板19を形成しても良い。
・・・
【0028】
熱交換プレート20は、金属板19の衣服内側に対応する面に接合するように配置される金属製のプレートである
。衣服100の内側に配置され、着衣者の身体を冷却又は加熱するプレートである。例えば、熱交換プレート20は、金属板19よりも大きなサイズとして形成される。そのため、熱交換プレート20の熱容量は、金属板19よりも大きい。また、熱交換プレート20は、例えば、銅板、錫板、アルミ板などを用いて形成される。
・・・
【0032】
熱交換プレート20は、着衣者の肩胛骨の間から腰に至る部分に直接的又は間接的に接触し
、その部分を効率的に冷却又は加熱できるようにするため、概略逆T字状の形状を有しており、上部の幅よりも下部の幅が広くなるように形成されている。上部の幅が狭いのは、着衣者の動作によって肩胛骨が動いたとしても、熱交換プレート20が着衣者の肩胛骨に干渉せず、着衣者に違和感を生じさせないためである。一方、熱交換プレート20の下部の幅を上部よりも広くすることにより、着衣者の背から腰の辺りを広く冷却又は加熱することができる。尚、熱交換プレート20は、概略逆T字状の形状に限られるものではなく、例えば台形状であっても良いし、三角形状であっても良い。
【0033】
また、
熱交換プレート20には、金属板19と接合する接合部21の中心位置にビス29を挿通する孔23が設けられる
。ビス29は、この孔23に対して衣服内側から外側に向かって挿入され、金属板19の衣服内側の面に設けられた螺子孔と螺合し、熱交換プレート20と金属板19とを互いに接合させた状態に固定する。ただし、これに限らず、熱交換プレート20と金属板19とは、接着剤などによって互いに接着されるものであっても構わない。
・・・
【0036】
一方、
断熱パッド30の前面側(衣服内側)は、図1に示すように熱交換プレート20を露出させるように開放されており、その周縁部に熱交換プレート20の周縁部を保持する保持部33が設けられている
。つまり、断熱パッド30は、熱交換プレート20の背面側と前面側の周縁部とを覆う状態で熱交換プレート20を保持するのである。断熱パッド30は、熱交換プレート20の衣服外側に対応する背面側を覆うことにより、熱交換プレート20による吸熱作用などが着衣者の身体に向けて良好に生じ、熱交換ロスを防ぐことができる。
【0037】
固定パッド40は、例えば樹脂製のパッドであり、衣服100の外側から衣服100の内側に配置される固定パッド40に対して固定されるパッドである。固定パッド40は、例えば断熱パッド30と略同一の形状として形成される。固定パッド40にはファンカバー11の外形よりも若干大きいサイズの孔41が形成されており、ファンカバー11は、この孔41を通して固定パッド40から衣服外側に突出した状態に取り付けられる。また、
固定パッド40の衣服内側の面には、断熱パッド30の固定部32に対応する位置に上述した係合突起42が設けられている。例えば、固定パッド40は、係合突起42が断熱パッド30の固定部32に嵌入することにより、断熱パッド30に固定される
。このとき、
衣服100は、断熱パッド30と固定パッド40との間に挟まされた状態に配置される
。これにより、空気調和ユニット1は、図2に示すように衣服100の後身頃の生地101に装着される。尚、係合突起42は、固定部32の筒状の孔に嵌め込まれた状態で係合状態となる構造であるため、装着が簡単であるだけでなく、簡単に取り外すことも可能である。」
「【0038】
図4は、衣服100に装着された空気調和ユニット1の断面構造を示す図である。空気調和ユニット1は、ペルチェ素子17に直流電流が供給され、ファン14が駆動されることにより、衣服100を着用した着衣者の身体200を冷却又は加熱する。ペルチェ素子17に直流電流が供給されると、ペルチェ素子17は、着衣者の身体200に対向する一方の面に吸熱作用又は発熱作用を生じさせる。この吸熱作用又は発熱作用は、金属板19に熱伝導される。金属板19の熱容量は、熱交換プレート20の熱容量よりも小さい。そのため、ペルチェ素子17は、電流消費量を増加させることなく、金属板19を効率的に冷却又は加熱することができる。
【0039】
ペルチェ素子17の吸熱作用又は発熱作用によって金属板19が降温又は昇温すると、その熱は接合部21を介して熱交換プレート20に伝わる。その結果、熱交換プレート20の温度が下降又は上昇し、着衣者の身体200を直接的又は間接的に冷却又は加熱することができる。つまり、ペルチェ素子17は、金属板19を介して熱交換プレート20を冷却又は加熱することができるのである。特に、熱交換プレート20は、上述のように比較的熱伝導率の高い金属を使用して形成されるため、金属板19から伝わる熱が比較的効率よく熱交換プレート20の全体に行き渡るようになっている。それ故、空気調和ユニット1は、1つのペルチェ素子17で着衣者の背の比較的広い範囲を効率的に冷却又は加熱することが可能である。
【0040】
また、ペルチェ素子17は、上述のように、着衣者の身体200と対向しない他方の面に、上記とは反対の作用を生じさせる。例えば、着衣者の身体200を冷却するときには、ペルチェ素子17の衣服外側に対向する面に発熱作用が生じる。この熱は、ヒートシンク15によって吸熱される。また、ファン14が駆動されると、図4に示すようにファンカバー11に設けられた吸気窓12から矢印F1で示すように外部の空気がファンカバー11内に進入する。この空気がヒートシンク15の熱を奪い、暖気となって排気窓13からファンカバー11の外側へ排気される。
【0041】
また、着衣者の身体200を加熱するときには、ペルチェ素子17の衣服外側に対向する面に吸熱作用が生じる。この熱も、ヒートシンク15によって吸熱される。そしてファン14によってファンカバー11内に進入する空気がヒートシンク15の熱を奪い、冷気となって排気窓13からファンカバー11の外側へ排気される。
【0042】
空気調和ユニット1は、上記のようにして着衣者の身体200を冷却又は加熱する。特に、夏場に冷房目的で空気調和ユニット1を衣服100に装着すると、身体200の皮膚温度は約33°Cであるのに対し、金属製の熱交換プレート20は皮膚温度よりも低い温度であることが多い。そのため、着衣時には、身体200が熱交換プレート20に振れることにより、一定の涼感を着衣者に与えることができる。ただし、着衣時に得られる涼感は一時的なものであり、ペルチェ素子17が駆動されていない場合には、熱交換プレート20は、身体200の皮膚温度と同じ温度まで次第に上昇していくことになる。
【0043】
一方、着衣後に直ぐにペルチェ素子17を駆動すると、熱交換プレート20が温度上方し始める前にペルチェ素子17は、熱交換プレート20を冷却し始める。そのため、熱交換プレート20の温度上方を抑えることができる。つまり、夏の冷房目的で使用するときには、熱交換プレート20の温度上昇を抑えるようにペルチェ素子17が熱交換プレート20の熱を吸熱すれば良い。したがって、上述した空気調和ユニット1は、ペルチェ素子17の消費電力量を増加させることなく、着衣時から着衣者に涼感を与えることが可能であり、しかもその涼感を長時間継続させることができるという利点がある。
【0044】
上記のような空気調和ユニット1を装着する衣服100は、夏服であっても冬服であっても良いが、着衣者が最も外側に着用する衣服であることが好ましい。また、空気調和ユニット1を装着する衣服100には、予めファンカバー11や係合突起42を貫通させるための孔を形成しておくことが好ましい。図5は、そのような衣服100の一例を示す図である。例えば、
衣服100の後身頃の生地101には、ファンカバー11を挿通させるための孔102と、係合突起42を貫通させるための孔103とを予め形成しておくことが好ましい
。更に、衣服100には、図5において斜線で示すように、空気調和ユニット1を装着する部分に、生地101の破損や衣服100の型くずれを防止するために補強用の当て布などを用いた補強部材110を配置しておくことがより好ましい。この補強部材110は、図1に示すように、断熱パッド30と固定パッド40との間に配置されることになる。衣服100に対して補強部材110を設けることにより、空気調和ユニット1の装着によって負荷がかかる孔102,103の周縁の生地101が破損することを防ぐことができ、衣服100を長い期間に亘って使用することができる。また、衣服100を着用したときの型くずれを防止することもできる。尚、補強部材110は、空気調和ユニット1と略同形状とすることが好ましいが、孔102,103の周縁部だけを補強する目的であれば、孔102,103の周縁部だけに配置するようにしても良い。
【0045】
また、上記のような空気調和ユニット1は、固定パッド40の係合突起42を断熱パッド30の固定部32から取り外すことにより、衣服100から簡単に取り外すことができる。そのため、空気調和ユニット1を取り外した状態で衣服100の洗濯やクリーニングを行うことが可能である。また、1つの空気調和ユニット1を異なる衣服100に装着して利用することも可能である。
【0046】
次に、図6は、空気調和ユニット1の制御機構を示すブロック図である。上述した空気調和ユニット1は、通電の必要な部品として、ペルチェ素子17と、ファン14とを備えている。そのため、
空気調和ユニット1は、その制御機構として、コントローラ5と、モバイルバッテリー6とを備えている。モバイルバッテリー6は、例えば充電式のバッテリーであり、コントローラ5に対して電力を供給する。コントローラ5は、モバイルバッテリー6から供給される電力を空気調和ユニット1へ供給することにより、ペルチェ素子17及びファン14を駆動する
。このコントローラ5は、ペルチェ素子17に供給する直流電流の極性を切り替えることにより、冷房と暖房とを切り替えることが可能である。ただし、冷房及び暖房のいずれであっても、ファン14を駆動する方向(回転方向)は変わらない。このようなコントローラ5及びモバイルバッテリー6は、例えば衣服100に設けられるポケット(図示省略)などに収容された状態で携行される。」
「【図3】
100
153
0001430900000003.jpg
」
「【図4】
127
70
0001430900000004.jpg
」
b 甲5発明
上記aを総合的に勘案すると、甲5には、次の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されている。
「空気調和ユニットを備えた衣服に関し、(【0001】)
空気調和ユニット1は、ファンカバー11と、ファン14と、ヒートシンク15と、ペルチェ素子17と、保持部材18と、金属板19と、熱交換プレート20と、断熱パッド30と、固定パッド40とを備え、(【0022】)
ペルチェ素子17の衣服外側に対応する面には、空気調和ユニット1によって熱交換された廃熱を外部へ放出する放熱機構が設けられ、当該放熱機構において、ペルチェ素子17の衣服外側に対応する面には、ヒートシンク15が接合するように配置され、ヒートシンク15は、その周囲が保持部材18に固定されており、(【0024】)
ペルチェ素子17の衣服内側に対応する面には、ペルチェ素子17による冷却又は加熱効果を着衣者の身体に効率よく伝えるための熱伝導機構が設けられ、当該伝熱機構において、ペルチェ素子17の衣服内側に対応する面には、金属板19が接合するように配置されており、(【0025】)
熱交換プレート20は、金属板19の衣服内側に対応する面に接合するように配置される金属製のプレートであり、着衣者の肩胛骨の間から腰に至る部分に直接的又は間接的に接触し、金属板19と接合する接合部21の中心位置にビス29を挿通する孔23が設けられており、(【0028】、【0032】、【0033】)
断熱パッド30の前面側(衣服内側)は、熱交換プレート20を露出させるように開放されており、その周縁部に熱交換プレート20の周縁部を保持する保持部33が設けられており、(【0036】)
固定パッド40の衣服内側の面には、断熱パッド30の固定部32に対応する位置に係合突起42が設けられ、固定パッド40は、係合突起42が断熱パッド30の固定部32に嵌入することにより、断熱パッド30に固定され、衣服100は、断熱パッド30と固定パッド40との間に挟まされた状態に配置され、(【0037】)
衣服100の後身頃の生地101には、ファンカバー11を挿通させるための孔102と、係合突起42を貫通させるための孔103とが形成されており、(【0044】)
空気調和ユニット1は、その制御機構として、コントローラ5と、モバイルバッテリー6とを備え、モバイルバッテリー6はコントローラ5に対して電力を供給し、コントローラ5は、モバイルバッテリー6から供給される電力を空気調和ユニット1へ供給することにより、ペルチェ素子17及びファン14を駆動する、(【0046】)
空気調和ユニットを備えた衣服。」
(イ) 甲6
a 甲6の記載事項
甲6には以下の記載がある。
「[0045] 以下、
上着11に着脱可能に構成されたファンユニット8の構成
について説明する。図3に示すように、
ファンユニット8は、本体部81と、本体部81とは別体として形成され、本体部81に着脱可能なリング部材89とを備えている
。
[0046] まず、本体部81について説明する。
本体部81は、モータ82と、モータ82によって駆動されるファン83と、モータ82およびファン83を収容するハウジング84とを主体として構成されている
。
[0047] モータ82およびファン83は、ハウジング84内に同軸状に配置されている。モータ82は、ロータと共に回転軸A1周りに回転駆動されるモータシャフト821を有する。ファン83は、複数の羽根を備えた軸流ファンとして構成されている。ファン83は、モータ82の駆動に伴って、回転軸A1周りにモータシャフト821と一体的に回転される。
[0048]
ハウジング84は、リング部材89が取り付けられる筒状部841と、吸気口844を有する吸気部843と、吸気部843の周囲に設けられたフランジ部845と、排気口848を有する排気部847とを含む
。なお、本実施形態では、ハウジング84は、上着11のカバー領域213と同じ色である。
[0049]
筒状部841は円筒状に形成された部分であって、モータ82およびファン83と同軸状に配置されている
。詳細な図示は省略するが、
筒状部841の外周面には、雄ネジ部が形成されている。吸気部843は、筒状部841の2つの開口端のうち、ファン83の吸気側の端を覆うように配置されている
。詳細な図示は省略するが、吸気部843は、中央部に配置された板状部と、板状部から放射状に延びる複数のリブとを含む。吸気口844は、板状部と複数のリブの間に形成された貫通孔であって、吸気部843を回転軸A1方向に貫通している。つまり、ファンユニット8は、後方から前方へ向かう方向に外気を吸引する。
フランジ部845は、吸気部843の外周から径方向外側に突出するように設けられている
。排気部847は、全体としては円形ドーム状に形成され、筒状部841の2つの開口端のうち、ファン83の排気側の端を覆うように配置されている。詳細な図示は省略するが、排気部847も、中央部に配置された板状部と、板状部から放射状且つアーチ状に延びる複数のリブとを含む。排気口848は、板状部と複数のリブの間に形成された貫通孔であって、排気部847を回転軸A1方向および回転軸A1に交差する方向に貫通している。つまり、ファンユニット8は、後方から前方へ向かう方向に加え、回転軸A1から概ね径方向外側へ向かう方向にも外気を送出する。
[0050] 次に、リング部材89について説明する。
リング部材89は、筒状部891と、フランジ部893とを主体として構成されている
。筒状部891は、本体部81の筒状部841の外周に着脱可能に構成された短尺状の円筒体として形成されている。詳細な図示は省略するが、本実施形態では、
筒状部891の内周面には、雌ネジ部が形成されている。筒状部841の外周面に形成された雄ネジ部に対してこの雌ネジ部が螺合されることで、リング部材89が本体部81に対して同軸状に取付けられる。フランジ部893は、筒状部841の軸方向における一端部から径方向外側に突出するように設けられている
。フランジ部893の外径は、本体部81のフランジ部845の外径と概ね同一に設定されている。
[0051] 以下、上着11の使用態様とその効果について説明する。
[0052] 例えば、高温環境下での作業時、運動時等、身体の冷却が望まれる場合には、使用者は、上着11にファンユニット8を取り付けた状態で上着11を着用することができる。ファンユニット8を上着11に取り付ける手順は、次の通りである。
[0053] 使用者は、まず、図1に示すように、スライドファスナ61を開いて後身頃21からカバー51を取り外し、取付け孔211を露出させる(カバー51を開状態とする)。また、使用者は、ファンユニット8のリング部材89を本体部81から取り外す。使用者は、
本体部81の排気部847側を、表地2の外面側から上着11の取付け孔211に挿入する。これにより、フランジ部845の前側にファン取付け部212(表地2)が配置された状態となる。更に、開口33を通して、表地2の内面側からリング部材89を本体部81に取り付ける
。具体的には、図3に示すように、
外側のフランジ部845と内側のフランジ部893によってファン取付け部212(表地2)が挟持される位置まで、リング部材89(筒状部891)を本体部81(筒状部841)に螺合させる
。このようにしてファンユニット8が取付けられると、排気部847は、裏地3に対向するように、表地2と裏地3の間に配置される。使用者は、図2に示すように、ファンユニット8に接続されたケーブル91を、ポケット28または38に収容されたバッテリホルダ96のケーブル961に接続して、スライドファスナ34を閉じる。」
「[図3]
170
94
0001430900000005.jpg
」
b 甲6記載事項
上記aを総合的に勘案すると、甲6には、衣服にファンユニットを着脱可能に取り付ける構造について、次の事項(以下「甲6記載事項」という。)が記載されている。なお、下線は、後述(2)イの判断における理解促進のために付したものである。
「ファンユニット8は、本体部81と、本体部81とは別体として形成され、本体部81に着脱可能なリング部材89とを備え、([0045])
本体部81は、モータ82と、モータ82によって駆動されるファン83と、モータ82およびファン83を収容するハウジング84とを主体として構成され、([0046])
ハウジング84は、リング部材89が取り付けられる筒状部841と、吸気口844を有する吸気部843と、
吸気部843の周囲に設けられたフランジ部845
と、排気口848を有する排気部847とを含み、([0048])
筒状部841は円筒状に形成された部分であって、モータ82およびファン83と同軸状に配置されており、筒状部841の外周面には、雄ネジ部が形成されており、吸気部843は、筒状部841の2つの開口端のうち、ファン83の吸気側の端を覆うように配置され、フランジ部845は、吸気部843の外周から径方向外側に突出するように設けられ、([0049])
リング部材89は、筒状部891と、フランジ部893とを主体として構成され
、筒状部891の内周面には、雌ネジ部が形成され、
筒状部841の外周面に形成された雄ネジ部に対してこの雌ネジ部が螺合される
ことで、
リング部材89が本体部81に対して同軸状に取付けられ
、フランジ部893は、筒状部841の軸方向における一端部から径方向外側に突出するように設けられており、([0050])
本体部81の排気部847側を、表地2の外面側から上着11の取付け孔211に挿入することにより、フランジ部845の前側にファン取付け部212(表地2)が配置された状態となり、更に、
開口33を通して、表地2の内面側からリング部材89を本体部81に取り付けて、外側のフランジ部845と内側のフランジ部893によってファン取付け部212(表地2)が挟持される位置まで、リング部材89(筒状部891)を本体部81(筒状部841)に螺合させる
、([0053])
衣服にファンユニットを着脱可能に取り付ける構造。」
(2) 本件発明1について
ア 対比
(ア) 本件発明1と甲5発明を対比する。
甲5発明の「空気調和ユニットを備えた衣服」は、その機能に鑑みれば、本件発明1の「温度調節衣服」に相当する。
甲5発明の「空気調和ユニット1」は、「ペルチェ素子17」「を備え」ており、「ペルチェ素子17の衣服内側に対応する面には、ペルチェ素子17による冷却又は加熱効果を着衣者の身体に効率よく伝えるための熱伝導機構が設けられ」ているから、本件発明1の「ペルチェ素子を有し、冷却または発熱面を備えるペルチェ素子ユニット」に相当する。
甲5発明の「モバイルバッテリー6」は「電力を空気調和ユニット1へ供給することにより、ペルチェ素子17」「を駆動する」ものである。そして、電力を供給する際に電力を供給する側と受け取る側との間を配線コードにより接続することは技術的に見て自明であるから、甲5発明の「モバイルバッテリー6」は、本件発明1の「前記ペルチェ素子との間を配線コードにより接続され、前記配線コードを通じて前記ペルチェ素子に電流を供給するモバイルバッテリ」に相当する。
甲5発明の「空気調和ユニット1」に備えられた「熱交換プレート20」は、「着衣者の肩胛骨の間から腰に至る部分に直接的」に「接触」する態様を含むものであるから、これは、本件発明1の「ペルチェ素子ユニット」が「着用時に着用者の身体に密着するように取り付け」られていることに相当する。してみれば、甲5発明の「衣服100の後身頃の生地101」に形成された「ファンカバー11を挿通させるための孔102」は、本件発明1の「衣服の後ろ身頃に形成され、前記ペルチェ素子ユニットを着用時に着用者の身体に密着するように取り付けるための挿入孔」に相当する。
(イ) そうすると、本件発明1と甲5発明の一致点と相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「ペルチェ素子を有し、冷却または発熱面を備えるペルチェ素子ユニットと、
前記ペルチェ素子との間を配線コードにより接続され、前記配線コードを通じて前記ペルチェ素子に電流を供給するモバイルバッテリと、
衣服の後ろ身頃に形成され、前記ペルチェ素子ユニットを着用時に着用者の身体に密着するように取り付けるための挿入孔と、
を備える、
温度調節衣服。」
<相違点>
衣服とペルチェ素子ユニットの取り付け態様について、本件発明1が、「ペルチェ素子ユニットは、
前記冷却または発熱面に垂直な方向において前記冷却または発熱面より前記ペルチェ素子側の前記冷却または発熱面の周囲から前記冷却または発熱面に平行に張り出したフランジと、前記ペルチェ素子ユニットから脱着可能であり、前記フランジに対向し、前記冷却または発熱面に垂直な方向において前記フランジより前記冷却または発熱面側とは反対側から螺合により装着されるリング体と、を備え、
前記挿入孔の周囲の前記後ろ身頃の生地が、衣服の内側に設けられた前記フランジと衣服の外側に設けられた前記リング体により挟み込まれ、前記冷却または発熱面が前記フランジよりも衣服の内側に突出した状態で取り付けられる」のに対し、
甲5発明は、「固定パッド40の衣服内側の面には、断熱パッド30の固定部32に対応する位置に係合突起42が設けられ、固定パッド40は、係合突起42が断熱パッド30の固定部32に嵌入することにより、断熱パッド30に固定され、衣服100は、断熱パッド30と固定パッド40との間に挟まされた状態に配置され」るものであり、本件発明1とはその取り付け態様が異なる点。
イ 判断
甲6記載事項には、特に上記(1)イ(イ)bに示した下線部を踏まえれば、衣服にファンユニットを脱着可能に取り付ける構造として、ファンユニットの本体部81に設けられている外側のフランジ部845と、リング部材89に設けられている内側のフランジ部893によってファン取付け部212(表地2)を挟持する態様が示されている。
甲5発明と甲6記載事項は、いわゆる空調服として、衣服にファンユニットを取り付けるという点で技術分野の共通性がある。しかし、本件発明1は、衣服の外側からリング体をペルチェ素子ユニットに螺合しているのに対して、甲6記載事項のものは、表地2の内側面、すなわち衣服の内側からリング部材89を取り付けるものであるから、甲5発明に甲6記載事項を適用したとしても、そもそも当該相違点に係る本件発明1の特定事項を充足しない。
また、仮にこの点を横に置くとしても、甲5発明における空気調和ユニット1の衣服への取り付け態様は、甲6記載事項のものとは相当程度異なっており、甲6記載事項の取り付け態様を甲5発明に適用することは当業者といえども容易ではない。加えて、甲5発明では、ペルチェ素子による冷却又は加熱を身体に効率よく伝えるべく熱交換プレート20を衣服内側に備え、さらにこの熱交換プレートを保持する断熱パット30と、固定パッド40で衣服を挟持して空気調和ユニット1を固定するものであるところ、仮に固定構造として甲6記載事項のものを採用した場合、当該断熱パット30及び熱交換プレート20の保持ができなくなる。そうすると、身体に冷却又は加熱を効率よく伝えるべく設けられている熱交換プレート20を廃してまで、甲6記載事項の取り付け態様を適用することには、阻害要因がある。
そうすると、相違点に係る本件発明1の構成とすることは、甲5発明及び甲6記載事項から当業者が容易に想到し得たことではない。
ウ 小括
よって、本件発明1は、甲5発明及び甲6記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるところ、上記(2)で述べたように、本件発明1は、甲5発明及び甲6記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2~4も、甲5発明及び甲6記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4) 進歩性についてのまとめ
よって、進歩性に係る無効理由には、理由がない。
以上のとおりであるから、請求人が主張する無効理由によっては、本件発明1~4についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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