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Trademark Appeal Case

特許訂正の新規事項

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号2024700086
審判種別記載はありません。
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

結 論
特許第7320054号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9、12〕について訂正することを認める。
特許第7320054号の請求項1、3~5、7~13に係る特許を維持する。
特許第7320054号の請求項2、6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由テキスト

理 由

第1 手続の経緯

本件の特許第7320054号の請求項1~13に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2021-517499号。以下「本願」という。)は、令和 2年11月30日を国際出願日とする出願であって、令和 5年 7月25日にその特許権の設定登録がされ、同年 8月 2日に特許掲載公報が発行されたものである。

その後、令和 6年 2月 2日に、特許異議申立人である安藤 慶治(以下「申立人」という。)により本件特許の請求項1~13に係る特許に対して特許異議の申立てがされ、以後の経緯は以下のとおりである。

令和 6年 6月17日付け 取消理由通知書

令和 6年 9月 6日提出 訂正請求書及び意見書(特許権者)

令和 6年 9月26日付け 手続補正指令書(方式)

令和 6年10月 2日提出 手続補正書(方式)

令和 6年11月21日提出 意見書(申立人)

令和 7年 2月14日付け 取消理由通知書(決定の予告)

令和 7年 4月21日提出 訂正請求書及び意見書(特許権者)

なお、令和 7年 4月21日提出の訂正請求書による訂正の後、申立人に対し期間を指定して意見を求めたが、申立人から意見書の提出はなかった。

第2 本件訂正請求について

1 請求の趣旨及び訂正の内容

令和 7年 4月21日提出の訂正請求書により特許権者が行った訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)の請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~9、12について訂正することを求める、というものであり、本件訂正請求に係る訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。

なお、訂正箇所には、当合議体が下線を付した。

(1)訂正事項1

訂正前の特許請求の範囲の請求項1に単に「Mg合金」と記載されているのを、「

重量を測定した試料を93°Cの2% KCl水溶液に一定時間浸漬し、取り出した後に乾燥させて重量(mg)を測定し、減少した質量を1日あたり表面積(1cm

2

)あたりに換算した分解速度が、1017mg/cm

2

/day以上である

Mg合金。」に訂正する。

(2)訂正事項2

訂正前の特許請求の範囲の請求項1のMg合金の組成を「Mg、Al、

Zn、

Mn、Niを含有し、」に訂正し、Znの含有量を「

Znは0.20質量%≦Zn≦1.5質量%であり、

」に訂正する。

(3)訂正事項3

訂正前の特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(4)訂正事項4

訂正前の特許請求の範囲の請求項3に「・・・請求項1又は2に記載のMg合金」と記載されているのを請求項2の削除に伴い「請求項1に記載のMg合金」に訂正する。

(5)訂正事項5

訂正前の特許請求の範囲の請求項5に「・・・請求項1~4いずれか一項に記載のMg合金」と記載されているのを請求項2の削除に伴い「・・・請求項1、3及び4いずれか一項に記載のMg合金」に訂正する。

(6)訂正事項6

訂正前の特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(7)訂正事項7

訂正前の特許請求の範囲の請求項8に「・・・請求項1~6いずれか一項に記載のMg合金」と記載されているのを請求項2及び請求項6の削除に伴い「・・・請求項1、3~5いずれか一項に記載のMg合金」に訂正する。

(8)訂正事項8

訂正前の特許請求の範囲の請求項9に「請求項1~8いずれか一項に記載のMg合金」と記載されているのを請求項2及び請求項6の削除に伴い「・・・請求項1、3~5、7、8いずれか一項に記載のMg合金」に訂正する。

(9)訂正事項9

訂正前の特許請求の範囲の請求項12に「請求項1~9いずれか一項に記載のMg合金」と記載されているのを請求項2及び請求項6の削除に伴い「・・・請求項1、3~5、7~9いずれか一項に記載のMg合金」に訂正する。

2 訂正の適否についての当合議体の判断

(1)訂正事項1について

ア 訂正の目的について

訂正事項1に係る訂正は、「Mg合金」に対し、「重量を測定した試料を93°Cの2% KCl水溶液に一定時間浸漬し、取り出した後に乾燥させて重量(mg)を測定し、減少した質量を1日あたり表面積(1cm

2

)あたりに換算した分解速度」(以下、「所定の分解速度」ということがある。)が「1017mg/cm

2

/day以上である」という規定を付すものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ 新規事項の追加の有無について

所定の分解速度が「1017mg/cm

2

/day」であることは、本願の願書に添付した明細書(以下「本願明細書」という。)の【0049】【表1A】の試料10で示されており、所定の分解速度がそれ以上である例も、同表の試料11等で示されているから、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について

訂正事項1に係る訂正は、上記アのとおり「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 独立特許要件について

本件は、本件訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(2)訂正事項2について

ア 訂正の目的について

訂正事項2に係る訂正は、Mg合金が含有する元素に「Zn」を追加し、その含有量について「0.20質量%≦Zn≦1.5質量%」と規定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ 新規事項の追加の有無について

Mg合金が「Zn」を「Zn≦1.5質量%」で含有することは、本件訂正前の請求項2及び6に記載されており、「0.20質量%≦Zn」で含有することは、後述する甲1号証第28頁表1の「Zn<0.2」との重なりを除くものであるから、訂正事項2に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について

訂正事項2に係る訂正は、上記アのとおり「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 独立特許要件について

本件は、本件訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(3)訂正事項3~9について

ア 訂正の目的について

訂正事項3~9に係る訂正は、本件訂正前の請求項2、6を削除し、当該削除に伴い他の請求項における引用関係を整理するものであるから、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、及び同法同条同項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。

イ 新規事項の追加の有無について

訂正事項3~9に係る訂正は、上記アのとおり請求項の削除と引用関係の整理を行うものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について

訂正事項3~9に係る訂正は、上記アのとおり請求項の削除と引用関係の整理を行うものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 独立特許要件について

本件は、本件訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(4)一群の請求項について

本件訂正前の請求項1~9、12について、訂正前の請求項2~9、12はそれぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1~9、12に対応する本件訂正後の請求項〔1~9、12〕は一群の請求項である。

3 本件訂正請求についてのむすび

以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とし、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

したがって、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9、12〕について訂正することを認める。

第3 本件発明

上記第2の3のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、本件特許の請求項1~13に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、以下において、本件特許の訂正後の請求項1~13に係る発明をそれぞれ「本件発明1」~「本件発明13」といい、これらを総称して「本件発明」という。

「【請求項1】

Mg、Al、Zn、Mn、Niを含有し、Znは0.2質量%≦Zn≦1.5質量%であり、晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有する合金であって、重量を測定した試料を93°Cの2% KCl水溶液に一定時間浸漬し、取り出した後に乾燥させて重量(mg)を測定し、減少した質量を1日あたり表面積(1cm

2

)あたりに換算した分解速度が、1017mg/cm

2

/day以上であるMg合金。

【請求項2】

(削除)

【請求項3】

Caをさらに含有する、請求項1に記載のMg合金。

【請求項4】

Al

2

Ca、(Mg、Al)

2

Ca、又は、Mg

2

Caからなる群から選択される1以上の化合物を含む、請求項3に記載のMg合金。

【請求項5】

Mg合金全量に対し、前記Alは0.1質量%以上16質量%以下であり、前記Mnは0.05質量%以上である、請求項1、3及び4いずれか一項に記載のMg合金。

【請求項6】

(削除)

【請求項7】

Mg合金全量に対し、前記Caは0.1質量%以上2.0質量%以下である、請求項3に記載のMg合金。

【請求項8】

前記Al-Mn-Ni系金属間化合物に対し、Niが0.1質量%以上である、請求項1、3~5いずれか一項に記載のMg合金。

【請求項9】

前記Al-Mn-Ni系金属間化合物は、単位断面積あたり1個/cm

2

以上である、及び、1nm以上25μm以下の大きさを有する、請求項1、3~5、7、8いずれか一項に記載のMg合金。

【請求項10】

Mg合金の製造方法であって、

該Mg合金の製造方法は鋳造工程を含み、

前記鋳造工程は、

Mg、Al、Mn及びNiを配合して混合物を作製する工程と、

前記作製された混合物を720°C以上に加熱し溶湯を作製する工程と、

前記作製された溶湯を攪拌して完全溶解物を作製する工程と、

前記攪拌して作製された完全溶解物を鋳造する工程と、

を含む、晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有するMg合金の製造方法。

【請求項11】

前記混合物を作製する工程において、さらにZn及び/又はCaを配合する、請求項10に記載のMg合金の製造方法。

【請求項12】

請求項1、3~5、7~9いずれか一項に記載のMg合金を用いた土木材料又は生体材料であって、前記Mg合金の分解性により使用後の回収が不要である、土木材料及び生体材料。

【請求項13】

請求項10又は11に記載のMg合金の製造方法で製造された土木材料又は生体材料であって、前記Mg合金の分解性により使用後の回収が不要である、土木材料及び生体材料。」

第4 申立理由の概要

申立人は、証拠方法として、甲第1~5号証(以下、それぞれ「甲1」等という。)を提出し、以下の申立理由1~5により、本件特許の請求項1~13に係る特許を取り消すべきである旨主張している。

1 申立理由1(新規性、取消理由として一部採用)

本件特許の請求項1、2、5、6、8、9に記載された発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 申立理由2(新規性、取消理由として不採用)

本件特許の請求項1~9に記載された発明は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

3 申立理由3(進歩性、取消理由として一部採用)

本件特許の請求項1、2、5、6、8~11に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

4 申立理由4(進歩性、取消理由として不採用)

本件特許の請求項1~13に記載された発明は、甲1、甲2に記載された発明に基いて(特に、本件特許の請求項1~9、12に記載された発明は甲2に記載された発明に甲1に記載された発明を適用することにより、また本件特許の請求項10、11、13に記載された発明は、甲1に記載された発明に甲2に記載された発明を適用することにより)、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

5 申立理由5(サポート要件、取消理由として不採用)

本件発明は、マグネシウム合金にNiを添加して溶解させたり、合金中に完全に分散させることは難しいため、分解速度を高める性質を有するNiを単にマグネシウム合金中に添加しても、意図に沿った分解の促進が可能なMg合金になりにくいという事情に鑑みて、マグネシウム合金中に含まれる金属とともにNiをマグネシウム合金中に分散させた、Mg合金を提供することを課題としたものである。

一方、本件発明1は、晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物以外に含まれる成分として、Al、Mn、Niを含有するMg合金であることのみが特定されており、これらの成分比については何ら特定されていないし、本件発明2~4も、さらにZn、Ca、Al

2

Ca等を含有することが特定されているものの、本件発明1と同様にこれらの成分比については何ら特定されていないため、本件発明1~4には、Al-Mn-Ni系金属間化合物が含まれる量がごく微量であり、実質的にはまったく分解の促進に寄与せず、上記課題を解決できないMg合金も含まれてしまうことになる。

よって、本件特許の請求項1~4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

6 証拠方法

甲1:Hai Zhi Ye et al., "In situ formation of aluminide intermetallic particles in a magnesium alloy", Materials Science and Engineering A 427 (2006), 第27~34頁

甲2:中国特許出願公開第110923531号明細書

甲3:特許第7320054号公報(本件特許公報)

甲4:本件出願中令和 4年 1月 5日提出の拒絶査定不服審判請求書

甲5:本件出願中令和 4年12月26日提出の意見書

第5 令和 6年 6月17日付け取消理由の概要

当合議体は、上記第4の各申立理由のうち、申立理由1、3それぞれの一部を採用し、令和 6年 6月17日付けで以下の取消理由1、2を通知した。

1 取消理由1(新規性)、取消理由2(進歩性)

本件特許の請求項1、2、5、8、9に記載された発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

また、本件特許の請求項1、2、5、8、9に記載された発明は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

第6 取消理由通知書(決定の予告)(令和 7年 2月14日付け)の概要

令和 6年 9月 6日提出の訂正請求書により特許権者が行った訂正請求(請求項1~13について訂正。令和 7年 4月21日提出の訂正請求書により、当該訂正は取り下げられたものとみなされる。)を踏まえ、当合議体は、令和 7年 2月14日付けで以下の取消理由3、取消理由1’、2’を通知した。

1 取消理由3(明確性要件)

請求項1に記載の「易分解性のあるMg合金」における「易分解性」について、Mg合金が「易分解性」を有するのか否かの基準が不明であることにより、第三者に不測の不利益を及ぼすおそれがあるといえる。

したがって、請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない。また、請求項1を引用する請求項2~9、12の記載についても同様である。

よって、本件特許の請求項1~9、12に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

2 取消理由1’(新規性)、取消理由2’(進歩性)

本件特許の請求項1、2、5、8、9に記載された発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

また、本件特許の請求項1、2、5、8、9に記載された発明は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

第7 当合議体の判断

以下に述べるとおり、当合議体は、上記第4の申立理由1~5、上記第5の取消理由1、2、上記第6の取消理由3、1’、2’のいずれによっても、本件特許の請求項1、3~5、7~13に係る特許を取り消すことはできないと判断する。

1 申立理由1、3の一部、4の一部、取消理由1、2、取消理由1’、2’(本件発明1、3~5、7~9、12の、甲1に対する新規性、進歩性)について

(1)甲1の記載事項

本願の出願前に公知となった甲1には、次の記載がある。なお、以下において、下線は当合議体が付したものである。以下同様。

ア 「

67

141

0001431095000001.jpg

115

135

0001431095000002.jpg

44

135

0001431095000003.jpg

」(第27頁右欄下から8行~第28頁右欄第7行)

(当審仮訳:2.実験方法

2.1.試料の調製

AM60Bマグネシウム合金の組成を表1に示す

溶融は、

図1に模式的に示すように、

普通炭素鋼のるつぼを用いた真空誘導炉で行った。炉は、まず10

-4

Torrの真空まで排気し、その後Arを約100Torrまで戻した。Niは

粉末又は

ワイヤーの形でAM60B溶湯に添加した。

使用した粉末の純度は99.8%で、平均粒径は10~15μmである。合金中のNi粉末の濃度は、それぞれ0.5wt.%と5wt.%を目指した。Ni粉末は、るつぼ内の2つのAM60Bブロックの間に置かれた。

AM60Bブロックが溶融した後、アルゴンガス用兼熱電対用の炭素鋼管を溶融合金中に下ろし、アルゴンガスをバブリングした。使用したNiワイヤーは直径1mmであった。マグネシウムブロックが溶融した後、Niワイヤーを上記鋼管にくくりつけて溶湯中に下ろした。ワイヤー状でニッケルが導入された合金におけるニッケル濃度は0.5wt.%であった。

アルゴンガス撹拌の効果は、アルゴンガスをバブリングする場合としない場合の2つの同じ溶融を行うことで調べた。いずれの場合も、

溶融温度は700°C、溶融時間は

30分又は

60分であった。溶融後、溶融合金を室温に保たれた鋼製るつぼに傾斜注湯した。

注湯後、Ni粉末を添加した合金では、溶融るつぼの底に固形片が残っていることが観察された。残った固形片の大きさは、溶融時間が長いほど、Ni添加濃度が高い合金ほど大きかった。ニッケル添加の効果を比較するために、ニッケルを添加しないAM60B合金を、アルゴンガスをバブリングせずに700°Cで2分間と60分間溶融した後、それぞれ受入れるつぼに鋳造した。異なる溶融パラメータの実験と対応する試料を表2にまとめた。)

イ 「

69

135

0001431095000004.jpg

」(第28頁左欄)

(当審仮訳:表1 AM60B合金の公称組成(規格))

ウ 「

80

135

0001431095000005.jpg

」(第28頁左欄)

(当審仮訳:図1 溶融セットアップの模式図)

エ 「

43

145

0001431095000006.jpg

」(第28頁下段)

(当審仮訳:表2 試料の様々な処理

処理 試料呼称

1.Niを添加せず、アルゴンをバブリングせずに2分間溶融

1-IN:受入れるつぼに鋳造されたインゴット

2.Niを添加せず、アルゴンをバブリングせずに60分間溶融

2-IN:受入れるつぼに鋳造されたインゴット

3.0.5wt.%のNi粉末を添加し、アルゴンをバブリングしながら60分間溶融

3-IN:受入れるつぼに鋳造されたインゴット

3-RE:溶融るつぼ内の残留物

4.0.5wt.%のNi粉末を添加し、アルゴンをバブリングしながら30分間溶融

4-IN:受入れるつぼに鋳造されたインゴット

4-RE:溶融るつぼ内の残留物

5.5.0wt.%のNi粉末を添加し、アルゴンをバブリングしながら30分間溶融

5-IN:受入れるつぼに鋳造されたインゴット

5-RE:溶融るつぼ内の残留物

6.0.5wt.%のNiワイヤーを添加し、アルゴンをバブリングせずに60分間溶融

6-IN:受入れるつぼに鋳造されたインゴット

7.0.5wt.%のNiワイヤーを添加し、アルゴンをバブリングしながら60分間溶融

7-IN:受入れ受入ルツボに鋳込まれたインゴット

)

オ 「

70

135

0001431095000007.jpg

」(第28頁右欄第8~17行)

(当審仮訳:2.2.材料の特性評価と引張試験

微細構造の特性評価と組成分析のために、鋳造インゴットから試料を切り出し、オリンパス社製PMG3光学顕微鏡と日立社製S-3500走査型電子顕微鏡(SEM)及びエネルギー分散型分光計(EDS)を用いて分析した。さらに、25vol.%の酢酸を含むエタノール溶液でインゴットから合金中の粒子を抽出し、その後、SEM/EDSとフィリップス社製X線回折装置を用いて相構造を調べた。

)

カ 「

107

135

0001431095000008.jpg

21

135

0001431095000009.jpg

」(第28頁右欄第24行~第29頁左欄第3行)

(当審仮訳:3.実験結果

3.1.微細構造と相組成

・・・(略)・・・対照的に、

0.5wt.%のニッケルをワイヤー状で溶湯に添加した場合、このような凝固残留物は溶融るつぼでは観察されず

、粉末の代わりにワイヤーを使用するプロセス上の利点が明確に示された。)

キ 「

101

135

0001431095000010.jpg

」(第29頁右欄第7~22行)

(当審仮訳:

微細組織に及ぼす溶融時間、ガス撹拌、Ni添加の影響を図5に示す。

アルゴンガス撹拌を伴う長い溶融時間(60分)は、アルゴンガス撹拌を伴わない短い溶融時間(2分)の試料よりも粒子密度が高くなった。

試料1-IN(Ni無添加、Arバブリングなし)、2-IN(Ni無添加、Arバブリングあり)、6-IN(Niワイヤー0.5wt.%,Arバブリングなし)及び

7-IN(Niワイヤー0.5wt.%、Arバブリングあり)の光学顕微鏡写真を図6に示す。

インゴット1-IN、2-IN、6-IN、7-INの平均粒径は、それぞれ400、200、200、150μm程度であり、試料中に形成された粒子の密度が増加していることがわかる。この結果は、より長い溶融時間とアルゴンガスのバブリングの両方が、粒子の形成と結晶粒の微細化に有益であることを示している。また、図6は、粒子のほとんどが結晶粒内に位置していることを示している。)

ク 「

111

144

0001431095000011.jpg

」(第30頁)

(当審仮訳:図5 鋳造試料のSEM顕微鏡写真:(a)及び(b)1-IN;(c)及び(d)7-IN)

ケ 「

110

144

0001431095000012.jpg

」(第30頁)

(当審仮訳:図6 鋳造インゴットの光学像:(a)試料1-IN;(b)試料2-IN;(c)試料6-IN;(d)試料7-IN)

コ 「

21

135

0001431095000013.jpg

50

135

0001431095000014.jpg

」(第31頁右欄下から3行~第32頁左欄第8行)

(当審仮訳:

試料7-INの抽出残さは、図9に示すように、5μm前後の大きさの粒子から構成されていた。これらの微粒子の組成は、48.3wt.%Al-23.9wt.%Mn-20.9wt.%Ni-0.9wt.%Fe-1.1wt.%Mg-4.9wt.%Oであった。抽出粒子のXRDパターンを図10に示す。抽出残さの主相は金属間化合物Al

60

Mn

11

Ni

4

であることが明らかになった。

これらの結果から、溶融中にマグネシウム合金にニッケルを添加し、溶融手順を適切に制御することで、マグネシウムマトリックス中に微細に分散したアルミナイド粒子を形成できることが確認された。)

サ 「

111

135

0001431095000015.jpg

」(第31頁右欄)

(当審仮訳:図9 試料7-INから抽出した粒子のSEM像)

シ 「

93

135

0001431095000016.jpg

」(第32頁左欄)

(当審仮訳:図10 試料7-INから抽出した粒子の(CuKα)XRDパターン

ス 「

77

135

0001431095000017.jpg

」(第32頁右欄第1~11行)

(当審仮訳:ニッケルは、通常、市販のマグネシウム合金では有害な不純物とみなされており、耐食性への悪影響を防ぐために避けられている。本研究では、ニッケルを意図的に添加し、金属間化合物の形成挙動と機械的特性への影響を調査した。実験の結果、

AM60B合金では、ニッケル細線を溶解してニッケルを0.5wt.%添加した試料のように、Ni濃度が低く、Niが溶湯中に完全に溶解している場合、ニッケルは主に金属間化合物Al

60

Mn

11

Ni

4

としてマトリックス中に存在することが明らかになった。

)

(2)甲1に記載された発明

ア 上記(1)ア、イ、エ、コ及びスに記載の試料7-INに着目すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。

イ 「るつぼ内の、Alの含有量が5.6~6.4wt.%、Mnの含有量が0.26~0.5wt.%、Znの含有量が0.2wt.%未満、Siの含有量が0.05wt.%未満、Cuの含有量が0.008wt.%未満、Feの含有量が0.004wt.%未満、Niの含有量が0.001wt.%未満、残部がMgの組成を有するAM60Bマグネシウム合金のブロックが溶融した後、直径1mmのNiワイヤーをアルゴンガス用兼熱電対用の炭素鋼管にくくりつけて溶湯中に下ろし、ワイヤー状でニッケルが導入された合金におけるニッケル濃度を0.5wt.%とするとともに、アルゴンガスをバブリングし、溶融温度は700°C、溶融時間は60分の溶融後、溶融合金を室温に保たれた鋼製るつぼに傾斜注湯して鋳造されたインゴットであって、マトリックス中に存在する5μm前後の大きさの粒子から構成されている微粒子は、組成が48.3wt.%Al-23.9wt.%Mn-20.9wt.%Ni-0.9wt.%Fe-1.1wt.%Mg-4.9wt.%Oであり、主相が金属間化合物Al

60

Mn

11

Ni

4

であるインゴット。」(以下、「甲1発明」という。)

(3)本件発明1について

ア 対比

(ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「Alの含有量が5.6~6.4wt.%、Mnの含有量が0.26~0.5wt.%、Znの含有量が0.2wt.%未満、Siの含有量が0.05wt.%未満、Cuの含有量が0.008wt.%未満、Feの含有量が0.004wt.%未満、Niの含有量が0.001wt.%未満、残部がMgの組成を有するAM60Bマグネシウム合金のブロックが溶融した後、」「Niワイヤーを」「溶湯中に下ろし、ワイヤー状でニッケルが導入された合金におけるニッケル濃度を0.5wt.%と」「して鋳造されたインゴット」は、本件発明1における「Mg、Al、Zn、Mn、Niを含有し」、「Zn≦1.5質量%」「であるMg合金」に相当する。

(イ)また、本件発明1における「晶出」は、液体から結晶が析出する現象を意味する技術用語であるから、甲1発明における「鋳造されたインゴット」の「マトリックス中に存在する」「組成が48.3wt.%Al-23.9wt.%Mn-20.9wt.%Ni-0.9wt.%Fe-1.1wt.%Mg-4.9wt.%Oであり、主相が金属間化合物Al

60

Mn

11

Ni

4

である」「微粒子」は、本件発明1における「晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物」に相当する。

(ウ)上記(ア)、(イ)を踏まえると、本件発明1と甲1発明とは、

「Mg、Al、Zn、Mn、Niを含有し、Zn≦1.5質量%であり、晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有する、Mg合金。」

の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>

本件発明1に係る「Mg合金」は、「重量を測定した試料を93°Cの2% KCl水溶液に一定時間浸漬し、取り出した後に乾燥させて重量(mg)を測定し、減少した質量を1日あたり表面積(1cm

2

)あたりに換算した分解速度」が「1017mg/cm

2

/day以上」であるのに対し、甲1発明に係る「インゴット」の上記所定の分解速度が不明である点。

<相違点2>

本件発明1に係る「Mg合金」のZnは0.2質量%以上であるのに対し、甲1発明に係る「インゴット」のZnは0.2wt.%未満である点。

イ 判断

事案に鑑み、相違点2について検討する。

相違点2が実質的な相違点であることは明らかである。

また、上記(1)ア、イ、エ、コ、スの記載から、甲1発明においてZnは原料であるAM60B合金に由来する不純物であり、甲1の他の記載を参酌しても、その含有量を増やそうとする動機付けは存在しない。

したがって、甲1発明において、相違点2に係る点は、当業者にとって容易に想到し得たものであるとはいえない。

ウ 小括

したがって、相違点1については検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明3~5、7~9、12について

本件発明1を直接又は間接的に引用する請求項3~5、7~9、12においても、甲1発明とは少なくとも上記(3)ア(ウ)の相違点1、2で相違し、(3)イと同様、甲1発明において、相違点2に係る点は、当業者にとって容易に想到し得たものであるとはいえない。

したがって、相違点1については検討するまでもなく、本件発明3~5、7~9、12は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 申立理由3の一部、4の一部(本件発明10、11、13の、甲1に対する進歩性)について

(1)甲1の記載事項

本願の出願前に公知となった甲1には、上記1(1)ア~スの記載がある。

(2)甲1に記載された発明

ア 上記1(1)ア、イ、エ、コ及びスに記載の試料7-INの製造方法に着目すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。

イ 「るつぼ内の、Alの含有量が5.6~6.4wt.%、Mnの含有量が0.26~0.5wt.%、Znの含有量が0.2wt.%未満、Siの含有量が0.05wt.%未満、Cuの含有量が0.008wt.%未満、Feの含有量が0.004wt.%未満、Niの含有量が0.001wt.%未満、残部がMgの組成を有するAM60Bマグネシウム合金のブロックを溶融する工程と、直径1mmのNiワイヤーをアルゴンガス用兼熱電対用の炭素鋼管にくくりつけて溶湯中に下ろし、ワイヤー状でニッケルが導入された合金におけるニッケル濃度を0.5wt.%とするとともに、アルゴンガスをバブリングし、溶融温度は700°C、溶融時間は60分で溶融する工程と、溶融合金を室温に保たれた鋼製るつぼに傾斜注湯して鋳造する工程と、を含む、マトリックス中に存在する5μm前後の大きさの粒子から構成されている微粒子は、組成が48.3wt.%Al-23.9wt.%Mn-20.9wt.%Ni-0.9wt.%Fe-1.1wt.%Mg-4.9wt.%Oであり、主相が金属間化合物Al

60

Mn

11

Ni

4

である、インゴットの製造方法。」(以下、「甲1方法発明」という。)

(3)本件発明10について

ア 対比

(ア)本件発明10と甲1方法発明とを対比すると、甲1方法発明における「るつぼ内の、Alの含有量が5.6~6.4wt.%、Mnの含有量が0.26~0.5wt.%、Znの含有量が0.2wt.%未満、Siの含有量が0.05wt.%未満、Cuの含有量が0.008wt.%未満、Feの含有量が0.004wt.%未満、Niの含有量が0.001wt.%未満、残部がMgの組成を有するAM60Bマグネシウム合金のブロックを溶融する工程と、直径1mmのNiワイヤーをアルゴンガス用兼熱電対用の炭素鋼管にくくりつけて溶湯中に下ろし、ワイヤー状でニッケルが導入された合金におけるニッケル濃度を0.5wt.%とするとともに、アルゴンガスをバブリングし、溶融温度は700°C、溶融時間は60分で溶融する工程」は、本件発明10における、「Mg、Al、Mn及びNiを配合して混合物を作製する工程と、前記作製された混合物を」「加熱し溶湯を作製する工程」に相当する。

(イ)また、甲1方法発明は「溶融合金を室温に保たれた鋼製るつぼに傾斜注湯して鋳造する工程」を含むから、本件発明10と同じく、「該Mg合金の製造方法は鋳造工程を含」むといえる。

(ウ)また、上記1(2)の対比を踏まえると、甲1方法発明における「マトリックス中に存在する5μm前後の大きさの粒子から構成されている微粒子は、組成が48.3wt.%Al-23.9wt.%Mn-20.9wt.%Ni-0.9wt.%Fe-1.1wt.%Mg-4.9wt.%Oであり、主相が金属間化合物Al

60

Mn

11

Ni

4

である、インゴットの製造方法」は、本件発明10における「晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有するMg合金の製造方法」に相当する。

(エ)上記(ア)~(ウ)を踏まえると、本件発明10と甲1方法発明とは、

「Mg合金の製造方法であって、

該Mg合金の製造方法は鋳造工程を含み、

前記鋳造工程は、

Mg、Al、Mn及びNiを配合して混合物を作製する工程と、

前記作製された混合物を加熱し溶湯を作製する工程と、

を含む、晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有するMg合金の製造方法。」

の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点3>

本件発明10では、鋳造工程において溶湯を作製する温度が720°C以上であるのに対し、甲1方法発明では700°Cである点。

<相違点4>

本件発明10では、鋳造工程において、「作製された溶湯を攪拌して完全溶解物を作製する工程」と、「攪拌して作製された完全溶解物を鋳造する工程」とを含むのに対し、甲1方法発明では「完全溶解物」を作製し、これを鋳造することが記載されていない点。

イ 判断

事案に鑑み、相違点4について検討する。

ここで、本件発明10における「完全溶解物」は、本願明細書の【0040】に記載されるとおり、「配合した地金や金属塊、晶出してきた化合物が、Mg合金から沈殿したり分離したりすることなく、むらなく混合された液状の状態をいう。」と定義されるとおりのものであり、作製された溶湯を攪拌して「完全溶解物」の状態にした上で鋳造する点は、実質的な相違点である。

また、上記1(1)ア、イ、エ、コ、スの記載から、甲1には、甲1方法発明について、Niワイヤーを含めた原料を溶融することが記載されるのみであり、混合状態については何ら記載されていない。また、甲1の他の記載を参酌しても、混合状態を変更して、完全溶解物とする動機付けを見いだすこともできない。

したがって、甲1方法発明において、相違点4に係る点は、当業者にとって容易に想到し得たものであるとはいえない。

ウ 小括

したがって、相違点3については検討するまでもなく、本件発明10は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明11、13について

本件発明10を直接又は間接的に引用する請求項11、13においても、甲1方法発明とは少なくとも上記(3)ア(エ)の相違点3、4で相違し、上記(3)イと同様、甲1方法発明において、相違点4に係る点は、当業者にとって容易に想到し得たものであるとはいえない。

したがって、相違点3については検討するまでもなく、本件発明11、13は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 申立理由2、4の一部(本件発明1、3~5、7~9、12の、甲2に対する新規性、進歩性)について

(1)甲2の記載事項

本願の出願前に公知となった甲2には、次の記載がある。

ア 「

22

140

0001431095000018.jpg

(当審仮訳:請求項1 本発明は低コスト高塑性可溶マグネシウム合金材料及びその製造方法を開示し、前記マグネシウム合金の組成はMg

a

Al

b

Zn

c

Mn

d

Ca

e

Ni

f

Si

g

Sn

h

であり、ここでa、b、c、d、e、f、g、hはそれぞれ各素の質量分率を表し、bの範囲は0.5-15%であり、cの範囲は0.1-6%であり、dの範囲は0.05-2%であり、eの範囲は0.01-3%であり、fの範囲は0.01-6%であり、gの範囲は0-2%であり、hの範囲は0-5%、a+b+c+d+e+f+g+h=100%である。)

イ 「

43

140

0001431095000019.jpg

(当審仮訳:請求項2 請求項1に記載の低コスト高塑性可溶マグネシウム合金材料及びその製造方法であって、その特徴は以下のとおりである:前記合金の製造方法は以下のステップを含む:

(1)溶融:合金成分に基づき、必要な原料を割合で秤量し、まず純マグネシウムを坩堝に入れ、溶融した後に、中間合金等の材料を加え、完全に溶融した後に撹拌して均質に混合する;

(2)鋳造:マグネシウム合金溶融物を晶析装置に導入し、合金の半連続鋳造を行う;

(3)均質化処理:出来上がったインゴットを一定温度で一定時間保持する;

(4)熱間押出し:得られたインゴットを所定の温度で熱間押出しして、合金棒を得る;

(5)時効処理:得られた合金押出棒は、一定の温度で時効処理される。)

ウ 「

17

140

0001431095000020.jpg

(当審仮訳:技術分野

[0001] 本発明は金属材料分野のマグネシウム合金材料の製造に関し、具体的には低コストの高塑性可溶マグネシウム合金材料及びその製造方法に関するものである。)

エ 「

22

135

0001431095000021.jpg

(当審仮訳:[0007] 低コスト高塑性可溶マグネシウム合金材料及びその製造方法であって、前記マグネシウム合金組成はMg

a

Al

b

Zn

c

Mn

d

Ca

e

Ni

f

Si

g

Sn

h

であり,そのうちa,b,c,d,e,f,g,hはそれぞれ各元素の質量分率を表し、bの範囲は0.5-15%であり、cの範囲は0.1-6%であり、dの範囲は0.05-2%であり、eの範囲は0.01-3%であり、fの範囲は0.01-6%であり、gの範囲は0-2%であり、hの範囲は0-5%、a+b+c+d+e+f+g+h=100%である。)

オ 「

17

140

0001431095000022.jpg

(当審仮訳:[0019] 従来技術と比較して、本発明に記載の技術を用いて製造されたマグネシウム合金材料は、機械的強度が高く、可塑性が良好で、塩溶液への迅速な溶解を達成でき、低コストで大量生産しやすく、油・ガス田の破砕工程で使用する閉塞工具に適しており、工具が整備された後に自己溶解し、その後の再加工、研削工程が不要で、施工効率が改善されます。)

カ 「

58

140

0001431095000023.jpg

(当審仮訳:具体的な実施方法

[0022] 以下の実施形態は、本発明をさらに説明するものである。

[0023] 実施例1:Mg-3Al-1Zn-0.5Mn-0.1Ca-0.3Ni-0.1Si-0.15Sn合金

[0024] 必要な合金原料を割合で秤量し、純マグネシウムを坩堝に加えて750°Cで溶融し、ガスで保護しながら、精錬剤を投入し、純マグネシウムがすべて溶融した後に他の金属原料を加え、撹拌してスラグを除去し、鋳造し、鋳造(引抜)速度は20cm/minである。その後、インゴットを保温温度350°C、保持時間48hで均質化処理する。均質化されたインゴットを円柱体に加工して押出加工を行う。押出温度は320°Cであり、押出速度は5mm/sであり、押出比は5である。押出し後に棒材を、170°C、48hで時効処理する。

[0025] 上記ステップで得られたMg-3Al-1Zn-0.5Mn-0.1Ca-0.3Ni-0.1Si-0.15Sn合金の室温での引張強度は300MPaであり、降伏強度は218MPaであり、伸び率は15.78%であり、93°Cで3%のKCl溶液における腐食速度は65mg/cm

2

/hである。)

キ 「

27

140

0001431095000024.jpg

22

140

0001431095000025.jpg

(当審仮訳:[0026] 実施例2:Mg-9Al-0.7Zn-0.3Mn-0.3Ca-0.2Ni-0.2Si合金

[0027] 必要な合金原料を割合で秤量し、純マグネシウムを坩堝に加えて780°Cで溶融し、ガスで保護しながら、精錬剤を投入し、純マグネシウムがすべて溶融した後に他の金属原料を加え、撹拌してスラグを除去し、鋳造し、鋳造(引抜)速度は20cm/minである。その後、インゴットを保温温度400°C、保持時間40hで均質化処理する。均質化されたインゴットを円柱体に加工して押出加工を行う。押出温度は340°Cであり、押出速度は2mm/sであり、押出比は5である。押出し後に棒材を、150°C、36hで時効処理する。

[0028] 上記ステップで得られたMg-9Al-0.7Zn-0.3Mn-0.3Ca-0.2Ni-0.2Si合金の室温での引張強度は306MPaであり、降伏強度は217MPaであり、伸び率は7.3%であり、93°Cで3%のKCl溶液における腐食速度は120mg/cm

2

/hである。)

(2)甲2に記載された発明

ア 上記(1)の特にカの実施例1に着目し、また各実施例におけるマグネシウム合金の他の成分の含有率は、上記(1)のエの記載から質量%であるから、甲2には以下の発明が記載されていると認められる。

イ 「Mg-3Al-1Zn-0.5Mn-0.1Ca-0.3Ni-0.1Si-0.15Sn合金(質量%)であって、必要な合金原料を割合で秤量し、純マグネシウムを坩堝に加えて750°Cで溶融し、ガスで保護しながら、精錬剤を投入し、純マグネシウムがすべて溶融した後に他の金属原料を加え、撹拌してスラグを除去し、20cm/minの鋳造(引抜)速度で鋳造し、鋳造したインゴットを保温温度350°C、保持時間48hで均質化処理し、均質化されたインゴットを円柱体に加工して、押出温度320°C、押出速度5mm/s、押出比5で押出加工を行い、押出し後に棒材を、170°C、48hで時効処理した、93°Cで3%のKCl溶液における腐食速度が65mg/cm

2

/hであるMg合金。」(以下、「甲2発明」という。)

(3)本件発明1について

ア 対比

本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明のMg合金はMg、Al、Zn、Mn、Niを含有し、Znの含有量は1質量%であるから、「Mg、Al、Zn、Mn、Niを含有し、Znは0.2質量%≦Zn≦1.5質量%であるMg合金」の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点5>

本件発明1のMg合金は「晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有する」のに対し、甲2発明のMg合金は当該金属間化合物を有するのか不明である点。

<相違点6>

本件発明1のMg合金は「重量を測定した試料を93°Cの2% KCl水溶液に一定時間浸漬し、取り出した後に乾燥させて重量(mg)を測定し、減少した質量を1日あたり表面積(1cm

2

)あたりに換算した分解速度が、1017mg/cm

2

/day以上である」のに対し、甲2発明のMg合金は、「93°Cで3%のKCl溶液における腐食速度が65mg/cm

2

/hである」点。

イ 判断

事案に鑑み、相違点5について検討する。

甲2発明のMg合金の製造方法は、純マグネシウムを坩堝に加えて750°Cで溶融し、ガスで保護しながら、精錬剤を投入し、純マグネシウムがすべて溶融した後に、Al、Mn、Ni等の他の金属原料を加え、撹拌してスラグを除去し、鋳造し、鋳造したインゴットを保温温度350°Cで均質化処理し、均質化されたインゴットを押出温度320°Cで押出加工を行う工程を含むものである。

ここで、甲2の請求項2における「純マグネシウムを坩堝に入れ、溶融した後に、中間合金等の材料を加え、完全に溶融した後に撹拌して均質に混合する」との記載を踏まえると、甲2発明において、溶湯は鋳造前に完全に溶融しているものと認められる。

一方、本件発明1に係るMg合金の製造方法において、鋳造前の溶湯は、「完全溶解物」であり、「完全溶解物」とは、「配合した地金や金属塊、晶出してきた化合物が、Mg合金から沈殿したり分離したりすることなく、むらなく混合された液状の状態」、すなわち、未溶解の地金や金属塊、晶出してきた化合物が存在している状態であると認められる(本願明細書の【0040】)。

そうすると、本件発明1に係るMg合金の製造方法と甲2発明とは、鋳造前の溶湯の状態が異なるため、両者は、鋳造後のビレット(インゴット)の状態も異なると認められるから、甲2発明において、鋳造したインゴットの状態で、Al-Mn-Ni系金属間化合物が晶出しているかどうかは不明である。

また、甲2発明のMg合金は、Mg、Al、Mn、Niのほかに、Zn、Ca、Si、Snを含有するものであるところ、Mg合金に含まれる複数の成分どうしの相互作用によって、他の金属間化合物や化合物等が晶出し、「Al-Mn-Ni系金属間化合物」が晶出しないことも想定されることから、Mg、Al、Mn、Niのほかに、Zn、Ca、Si、Snを含む甲2発明のMg合金において、実際に「Al-Mn-Ni系金属間化合物」が晶出するかどうかは不明である。

したがって、相違点5は、実質的な相違点である。

そして、上記のとおり、甲2発明は、鋳造前に、溶湯を完全に溶融させること前提とするものであるから、甲2発明において、鋳造前の溶湯を「完全溶解物」とすること、すなわち、「配合した地金や金属塊、晶出してきた化合物が、Mg合金から沈殿したり分離したりすることなく、むらなく混合された液状の状態」とする(それにより「晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有する」ようにする)動機付けがあるとはいえない。

したがって、甲2発明において、相違点5に係る点は、当業者にとって容易に想到し得たものであるとはいえない。

ウ 小括

したがって、相違点6については検討するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明3~5、7~9、12について

本件発明1を直接又は間接的に引用する請求項3~5、7~9、12においても、甲2発明とは少なくとも上記(3)アの相違点5で実質的に相違し、上記(3)イと同様、甲2発明において、相違点5に係る点は、当業者にとって容易に想到し得たものであるとはいえない。

したがって、相違点6については検討するまでもなく、本件発明3~5、7~9、12は、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4 申立理由4の一部(本件発明10、11、13の、甲2に対する進歩性)について

(1)甲2の記載事項

本願の出願前に公知となった甲2には、上記3(1)ア~キの記載がある。

(2)甲2に記載された発明

ア 上記3(1)の特にカ、キの実施例に着目すると、甲2には以下の発明が記載されていると認められる。

イ 「Mg-3Al-1Zn-0.5Mn-0.1Ca-0.3Ni-0.1Si-0.15Sn合金(質量%)の製造方法であって、必要な合金原料を割合で秤量し、純マグネシウムを坩堝に加えて750°Cで溶融し、ガスで保護しながら、精錬剤を投入し、純マグネシウムがすべて溶融した後に他の金属原料を加え、撹拌してスラグを除去し、20cm/minの鋳造(引抜)速度で鋳造し、その後、鋳造したインゴットを保温温度350°C、保持時間48hで均質化処理し、均質化されたインゴットを円柱体に加工して、押出温度320°C、押出速度5mm/s、押出比5で押出加工を行い、押出し後に棒材を、170°C、48hで時効処理する、Mg合金の製造方法。」(以下、「甲2方法発明」という。)

(3)本件発明10について

ア 対比

(ア)本件発明10と甲2方法発明とを対比すると、甲2方法発明は「20cm/minの鋳造(引抜)速度で鋳造」する工程を含むため、鍛造工程を含むMg合金の製造方法であることは明らかである。

(イ)また、甲2方法発明における「Mg-3Al-1Zn-0.5Mn-0.1Ca-0.3Ni-0.1Si-0.15Sn合金」のために「必要な合金材料」は、Mg、Al、Mn及びNiを含む。

(ウ)上記(ア)、(イ)を踏まえると、本件発明10と甲2方法発明とは、

「Mg合金の製造方法であって、該Mg合金の製造方法は鋳造工程を含み、前記鋳造工程は、Mg、Al、Mn及びNiを含有する溶解物を鋳造する工程と、を含む、Mg合金の製造方法。」

の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点7>

鍛造工程について、本件発明10では、

「Mg、Al、Mn及びNiを配合して混合物を作製する工程と、前記作製された混合物を720°C以上に加熱し溶湯を作製する工程と、前記作製された溶湯を攪拌して完全溶解物を作製する工程と、前記攪拌して作製された完全溶解物を鋳造する工程と、を含む」

のに対し、甲2方法発明では、

「必要な合金原料を割合で秤量し、純マグネシウムを坩堝に加えて750°Cで溶融し、ガスで保護しながら、精錬剤を投入し、純マグネシウムがすべて溶融した後に他の金属原料を加え、撹拌してスラグを除去」する工程

である点。

<相違点8>

Mg合金について、本件発明10では、「晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有する」のに対し、甲2方法発明では、Mg合金中に「晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有する」か不明である点。

イ 判断

事案に鑑み、相違点7について検討すると、上記3(3)イで判断したのと同様に、甲2方法発明における溶湯は鋳造前に完全に溶融しているものと認められる一方、本件発明10では鋳造前の溶湯は「完全溶解物」、すなわち、未溶解の地金や金属塊、晶出してきた化合物が存在している状態であると認められる。

そうすると、本件発明10と甲2方法発明とは、少なくとも「作製された溶湯を攪拌して完全溶解物を作製する工程」の有無において実質的に相違する。

また、甲2方法発明は鋳造前に溶湯を完全に溶解させることを前提とするものであるから、甲2発明において、鋳造前の溶湯を「完全溶解物」とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

したがって、甲2方法発明において、相違点7に係る点は、当業者にとって容易に想到し得たものであるとはいえない。

ウ 小括

したがって、相違点8については検討するまでもなく、本件発明10は、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明11、13について

本件発明10を直接又は間接的に引用する請求項11、13においても、甲2方法発明とは少なくとも上記(3)ア(ウ)の相違点7で実質的に相違し、上記(3)イと同様、甲2方法発明において、相違点7に係る点は、当業者にとって容易に想到し得たものであるとはいえない。

したがって、相違点8については検討するまでもなく、本件発明11、13は、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

5 申立理由4の一部(本件発明1、3~5、7~13の、甲1、2の組み合わせに対する進歩性)について

(1)甲1、甲2の記載事項

本願の出願前に公知となった甲1には、上記1(1)ア~スの記載があり、本願の出願前に公知となった甲2には、上記3(1)ア~キの記載がある。

(2)甲1、2に記載された発明

甲1には、上記1(2)イに記載したとおりの「甲1発明」、及び上記2(2)イに記載したとおりの「甲1方法発明」が記載されており、甲2には、上記3(2)イに記載したとおりの「甲2発明」、上記4(2)イに記載したとおりの「甲2方法発明」が記載されている。

(3)本件発明1、3~5、7~9、12について

申立理由4においては、主に甲2を主引用例とした進歩性について記載されているから、まず甲2を主引用例とする場合について検討する。また、まず本件発明1について検討する。

ア 対比

本件発明1と甲2発明とは、上記3(3)アに記載した点で一致し、相違点5、6で相違する。

イ 判断

事案に鑑み、相違点5について検討すると、甲1には晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有するMg合金が記載されている。

しかし、甲2発明と甲1に記載された晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有するMg合金とは、Ca、Sn、Cu、Feの有無や配合比など合金組成において違いが大きく、また甲1、2のいずれにも「完全溶融物」を形成して鋳造することは記載も示唆もされていないから、甲2発明のMg合金の組成で甲1のように晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を形成する動機付けがあるとはいえない。

したがって、甲2発明において甲1の記載を考慮しても、相違点5に係る点は、当業者にとって容易に想到し得たものであるとはいえない。

ウ 小括

したがって、相違点6については検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明と、甲1の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

また、本件発明3~5、7~9、12も、甲2発明とは少なくとも上記相違点5、6で相違し、相違点5に係る点は甲1の記載を考慮しても容易に想到し得たものであるとはいえないから、同様に相違点6については検討するまでもなく、本件発明3~5、7~9、12は、甲2発明と、甲1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

なお、甲1を主引用例とした場合についても、上述したのと同様、合金組成において違いが大きい甲2と組み合わせる動機付けがあるとはいえないから、本件発明1~9、12は、甲1発明と、甲2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明10、11、13について

申立理由4においては、主に甲1を主引用例とした進歩性について記載されているから、甲1を主引例とする場合について検討する。また、まず本件発明10について検討する。

ア 対比

本件発明10と甲1方法発明とは、上記2(3)ア(エ)に記載した点で一致し、相違点3、4で相違する。

イ 判断

事案に鑑み、相違点4について検討すると、上記4(3)ア(ウ)及びイ記載したとおり、甲2にも「完全溶解物」を作製し、これを鋳造することは記載も示唆もされていない。

したがって、甲1方法発明において甲2の記載を考慮しても、相違点4に係る点は、当業者にとって容易に想到し得たものであるとはいえない。

ウ 小括

したがって、相違点3について検討するまでもなく、本件発明10は、甲1方法発明と、甲2の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

また、本件発明11、13も、甲1方法発明とは少なくとも上記相違点3、4で相違し、相違点4に係る点は甲1の記載を考慮しても容易に想到し得たものであるとはいえないから、同様に相違点3については検討するまでもなく、本件発明11、13は、甲1方法発明と、甲2の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

なお、甲2を主引用例とした場合についても、甲1、甲2のいずれにも「完全溶解物」を作製し、これを鋳造することは記載も示唆もされていない以上、本件発明10、11、13は、甲2方法発明と、甲1の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

6 申立理由5(本件発明1、3、4のサポート要件)について

(1)解決しようとする課題

本件発明の解決しようとする課題は、「分解の促進が可能なMg合金を提供すること」(本願明細書【0021】)であると把握される。

(2)課題を解決する手段

上記課題を解決する手段として、本願明細書には以下の記載がある。

「Mg合金において、晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有する」、「マグネシウム合金中に含まれる金属のAl、MnとともにNiを含むAl-Mn-Ni系金属間化合物を形成させて晶出させ、Niをマグネシウム合金中に分散させる」(本願明細書【0021】)

(3)判断

本件発明1が「晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有する合金であって、重量を測定した試料を93°Cの2% KCl水溶液に一定時間浸漬し、取り出した後に乾燥させて重量(mg)を測定し、減少した質量を1日あたり表面積(1cm

2

)あたりに換算した分解速度が、1017mg/cm

2

/day以上である」との特定事項を備えていることにより、晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有し、かつNiが分散されたマグネシウム合金であって、所定以上の分解速度を有するマグネシウム合金が特定されているといえるから、上記課題が解決されることは明らかである。

この点は、本件特許の請求項1を直接又は間接的に引用する請求項3、4においても同様である。

(4)申立人の主張について

申立人は、特許異議申立書において、本件訂正前の請求項1~4に対し、「晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物以外に含まれる成分として、Al、Mn、Niを含有するMg合金であること以外、これらの元素の成分比についてなんら特定されていない」(第22頁第31~33行)、「Al-Mn-Ni系金属間化合物が含まれる量がごく微量・・・しか含まれておらず、実質的にはまったく分解の促進に寄与しないMg合金も本件特許発明1の範囲に含まれてしまう」(第22頁第37~末行)と主張している。

しかし、上記(1)~(3)に記載したとおり、本件訂正後の本件発明1、3、4が「晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有する合金であって、重量を測定した試料を93°Cの2% KCl水溶液に一定時間浸漬し、取り出した後に乾燥させて重量(mg)を測定し、減少した質量を1日あたり表面積(1cm

2

)あたりに換算した分解速度が、1017mg/cm

2

/day以上である」との特定事項を有することにより、本件発明の課題が解決されることは明らかであるから、上記主張は採用することができない。

(5)小括

以上より、本件発明1、3、4は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるとはいえない。

したがって、本件特許の請求項1、3、4の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されているものであるといえ、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるといえる。

よって、申立理由5によって、本件特許の請求項1、3、4に係る特許を取り消すことはできない。

7 取消理由3(本件発明1、3~5、7~9、12の明確性)について

本件訂正により、「易分解性のある」との記載は、本件請求項1には存在しないものとなった。

したがって、特許請求の範囲の請求項1、及び該請求項を直接又は間接的に引用する請求項3~5、7~9、12の記載は、本件発明1、3~5、7~9、12について、特許を受けようとする発明が明確である。

第8 むすび

以上のとおり、申立人による特許異議の申立ての申立理由1~5、及び当合議体における取消理由1~3、1’、2’のいずれによっても、本件特許の請求項1、3~5、7~13に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に本件特許の請求項1、3~5、7~13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

そして、本件訂正によって異議申立がされた請求項2、6が削除され、特許異議申立ての対象が存在しないものとなったため、請求項2、6に係る特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

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