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Trademark Appeal Case

熱変位補正の訂正

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号2024700981
審判種別記載はありません。
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

結 論
特許第7466801号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕、〔8~10〕、11について訂正することを認める。
特許第7466801号の請求項1、8、11に係る特許を維持する。

理由テキスト

理 由

第1 手続の経緯

特許第7466801号の請求項1、8、11に係る特許についての出願は、2023年(令和5年)7月21日を国際出願日とする出願であって、令和6年4月4日にその特許権の設定登録がされ、同月12日に特許掲載公報が発行された。

本件特許異議の申立ての主な経緯は、次のとおりである。

令和6年10月 8日 :特許異議申立人 野原利雄(以下「申立人」という。)による請求項1、8、11に係る特許に対する特許異議の申立て

令和7年 3月18日付け:取消理由通知

令和7年 4月28日 :特許権者 三菱電機株式会社(以下「特許権者」という。)による意見書及び訂正請求書の提出

令和7年 5月14日 :訂正請求書を補正の対象とする手続補正書(方式)及びこれに添付された補正後の訂正請求書(以下、この補正後の訂正請求書を単に「訂正請求書」といい、当該訂正請求書により請求がされた訂正を「本件訂正」ということがある。)の提出

令和7年 6月19日 :申立人による意見書(以下「申立人意見書」という。)及び参考資料1~2の提出

第2 訂正の適否

1 訂正の内容

訂正請求書により、特許権者は特許請求の範囲及び明細書の訂正を求めているところ、その訂正の内容は以下の訂正事項1~9のとおりである(下線部は、訂正により変更又は追加された箇所を示す)。

(1) 請求項1~7

ア 訂正事項1

訂正前の特許請求の範囲の請求項1の、

「工具とワークとを互いに相対的に動作させる1または複数の送り駆動系と、前記工具または前記ワークを回転させる主軸駆動系とを備える工作機械を制御する制御装置であって、

前記送り駆動系および前記主軸駆動系のうちの少なくとも1つである駆動系の発熱に起因する前記駆動系の変形量である第1の変形量を、前記駆動系の状態量を表す運転情報と前記駆動系の温度を示す温度情報との少なくとも一方を第1の変形量推定モデルへ入力することによって算出する第1の変形量推定部と、

前記工作機械の運動学的な構成情報を用いて、前記第1の変形量を、前記工具と前記ワークとの間の相対的な変位量である熱変位量に変換する熱変位量算出部と、

前記送り駆動系へ指令される位置を前記熱変位量に基づいて補正させる補正指令を生成する補正指令生成部と、を備え、

前記熱変位量算出部は、前記駆動系の位置と、前記工作機械のうち前記駆動系を位置決めさせる別の送り駆動系の幾何誤差とに応じて、前記第1の変形量を前記熱変位量に変換し、

前記工作機械の運動学的な構成情報は、前記工作機械における前記工具に固定された座標系である工具座標系から前記工作機械における前記ワークに固定された座標系であるワーク座標系への座標変換を表し、

前記別の送り駆動系の幾何誤差は、前記別の送り駆動系の位置と前記別の送り駆動系の温度とに依存する誤差である

ことを特徴とする制御装置。」という記載を、

「工具とワークとを互いに相対的に動作させる1または複数の送り駆動系と、前記工具または前記ワークを回転させる主軸駆動系とを備える工作機械を制御する制御装置であって、

前記送り駆動系および前記主軸駆動系のうちの少なくとも1つである駆動系の発熱に起因する前記駆動系の変形量である第1の変形量を、前記駆動系の状態量を表す運転情報と前記駆動系の温度を示す温度情報との少なくとも一方を第1の変形量推定モデルへ入力することによって算出する第1の変形量推定部と、

前記工作機械の構成要素のうち前記送り駆動系および前記主軸駆動系以外の構成要素である構造部材の温度を示す温度情報を第2の変形量推定モデルへ入力することによって、前記工作機械が設置されている環境の温度変化に起因する前記構造部材の変形量である第2の変形量を算出する第2の変形量推定部と、

前記工作機械の運動学的な構成情報を用いて、前記第1の変形量を、前記工具と前記ワークとの間の相対的な変位量である熱変位量に変換

し、前記変換した熱変位量に前記第2の変形量が合成された熱変位量を算出

する熱変位量算出部と、

前記送り駆動系へ指令される位置を前記

合成された

熱変位量に基づいて補正させる補正指令を生成する補正指令生成部と、を備え、

前記熱変位量算出部は、前記駆動系の位置と、前記工作機械のうち前記駆動系を位置決めさせる別の送り駆動系の幾何誤差とに応じて、前記第1の変形量を前記熱変位量に変換し、

前記工作機械の運動学的な構成情報は、前記工作機械における前記工具に固定された座標系である工具座標系から前記工作機械における前記ワークに固定された座標系であるワーク座標系への座標変換を表し、

前記別の送り駆動系の幾何誤差は、前記別の送り駆動系の位置と前記別の送り駆動系の温度とに依存する誤差である

ことを特徴とする制御装置。」に訂正する。

(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~4、6~7も同様に訂正する。)

イ 訂正事項2

願書に添付した訂正前の明細書【0007】の、

「上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示にかかる制御装置は、工具とワークとを互いに相対的に動作させる1または複数の送り駆動系と、工具またはワークを回転させる主軸駆動系とを備える工作機械を制御する制御装置である。本開示にかかる制御装置は、送り駆動系および主軸駆動系のうちの少なくとも1つである駆動系の発熱に起因する駆動系の変形量である第1の変形量を、駆動系の状態量を表す運転情報と駆動系の温度を示す温度情報との少なくとも一方を第1の変形量推定モデルへ入力することによって算出する第1の変形量推定部と、工作機械の運動学的な構成情報を用いて、第1の変形量を、工具とワークとの間の相対的な変位量である熱変位量に変換する熱変位量算出部と、送り駆動系へ指令される位置を熱変位量に基づいて補正させる補正指令を生成する補正指令生成部と、を備える。熱変位量算出部は、駆動系の位置と、工作機械のうち駆動系を位置決めさせる別の送り駆動系の幾何誤差とに応じて、第1の変形量を熱変位量に変換する。工作機械の運動学的な構成情報は、工作機械における工具に固定された座標系である工具座標系から工作機械におけるワークに固定された座標系であるワーク座標系への座標変換を表す。別の送り駆動系の幾何誤差は、別の送り駆動系の位置と別の送り駆動系の温度とに依存する誤差である。」という記載を、

「上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示にかかる制御装置は、工具とワークとを互いに相対的に動作させる1または複数の送り駆動系と、工具またはワークを回転させる主軸駆動系とを備える工作機械を制御する制御装置である。本開示にかかる制御装置は、送り駆動系および主軸駆動系のうちの少なくとも1つである駆動系の発熱に起因する駆動系の変形量である第1の変形量を、駆動系の状態量を表す運転情報と駆動系の温度を示す温度情報との少なくとも一方を第1の変形量推定モデルへ入力することによって算出する第1の変形量推定部と、

工作機械の構成要素のうち送り駆動系および主軸駆動系以外の構成要素である構造部材の温度を示す温度情報を第2の変形量推定モデルへ入力することによって、工作機械が設置されている環境の温度変化に起因する構造部材の変形量である第2の変形量を算出する第2の変形量推定部と、

工作機械の運動学的な構成情報を用いて、第1の変形量を、工具とワークとの間の相対的な変位量である熱変位量に変換

し、変換した熱変位量に第2の変形量が合成された熱変位量を算出

する熱変位量算出部と、送り駆動系へ指令される位置を

合成された

熱変位量に基づいて補正させる補正指令を生成する補正指令生成部と、を備える。熱変位量算出部は、駆動系の位置と、工作機械のうち駆動系を位置決めさせる別の送り駆動系の幾何誤差とに応じて、第1の変形量を熱変位量に変換する。工作機械の運動学的な構成情報は、工作機械における工具に固定された座標系である工具座標系から工作機械におけるワークに固定された座標系であるワーク座標系への座標変換を表す。別の送り駆動系の幾何誤差は、別の送り駆動系の位置と別の送り駆動系の温度とに依存する誤差である。」に訂正する。

ウ 訂正事項3

訂正前の特許請求の範囲の請求項5を削除する。

なお、後述する4(1)ア(イ)で参照するため、訂正前の特許請求の範囲の請求項5の記載を以下に示す。

「前記工作機械の構成要素のうち前記送り駆動系および前記主軸駆動系以外の構成要素である構造部材の温度を示す温度情報を第2の変形量推定モデルへ入力することによって、前記工作機械が設置されている環境の温度変化に起因する前記構造部材の変形量である第2の変形量を算出する第2の変形量推定部を備え、

前記熱変位量算出部は、前記第1の変形量から変換された前記熱変位量に前記第2の変形量を合成し、

前記補正指令生成部は、前記送り駆動系へ指令される位置を、前記第2の変形量が合成された前記熱変位量に基づいて補正させる前記補正指令を生成する

ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の制御装置。」

エ 訂正事項4

訂正前の特許請求の範囲の請求項6の、

「前記第1の変形量推定モデルと前記第2の変形量推定モデルとの少なくとも一方は、ニューラルネットワークモデルである

ことを特徴とする請求項5に記載の制御装置。」という記載を、

「前記第1の変形量推定モデルと前記第2の変形量推定モデルとの少なくとも一方は、ニューラルネットワークモデルである

ことを特徴とする請求項

1

に記載の制御装置。」に訂正する。

オ 訂正事項5

訂正前の特許請求の範囲の請求項7の、

「前記第1の変形量推定モデルと前記第2の変形量推定モデルとの少なくとも一方は、時系列信号を入力とする計算式、または、入力情報の時間遅れ項が含まれる回帰モデルである

ことを特徴とする請求項5に記載の制御装置。」という記載を、

「前記第1の変形量推定モデルと前記第2の変形量推定モデルとの少なくとも一方は、時系列信号を入力とする計算式、または、入力情報の時間遅れ項が含まれる回帰モデルである

ことを特徴とする請求項

1

に記載の制御装置。」に訂正する。

(2) 請求項8~10

ア 訂正事項6

訂正前の特許請求の範囲の請求項8の、

「工具とワークとを互いに相対的に動作させる1または複数の送り駆動系と、前記工具または前記ワークを回転させる主軸駆動系とを備える工作機械と、

前記工作機械を制御する制御装置と、を備え、

前記制御装置は、

前記送り駆動系および前記主軸駆動系のうちの少なくとも1つである駆動系の発熱に起因する前記駆動系の変形量である第1の変形量を、前記駆動系のサーボ制御に関わる前記駆動系の状態量を表す運転情報と前記駆動系の温度を示す温度情報との少なくとも一方を第1の変形量推定モデルへ入力することによって算出する第1の変形量推定部と、

前記工作機械の運動学的な構成情報を用いて、前記第1の変形量を、前記工具と前記ワークとの間の相対的な変位量である熱変位量に変換する熱変位量算出部と、

前記送り駆動系へ指令される位置を前記熱変位量に基づいて補正させる補正指令を生成する補正指令生成部と、を備え、

前記熱変位量算出部は、前記駆動系の位置と、前記工作機械のうち前記駆動系を位置決めさせる別の送り駆動系の幾何誤差とに応じて、前記第1の変形量を前記熱変位量に変換し、

前記工作機械の運動学的な構成情報は、前記工作機械における前記工具に固定された座標系である工具座標系から前記工作機械における前記ワークに固定された座標系であるワーク座標系への座標変換を表し、

前記別の送り駆動系の幾何誤差は、前記別の送り駆動系の位置と前記別の送り駆動系の温度とに依存する誤差である

ことを特徴とする工作機械システム。」という記載を、

「工具とワークとを互いに相対的に動作させる1または複数の送り駆動系と、前記工具または前記ワークを回転させる主軸駆動系とを備える工作機械と、

前記工作機械を制御する制御装置と、を備え、

前記制御装置は、

前記送り駆動系および前記主軸駆動系のうちの少なくとも1つである駆動系の発熱に起因する前記駆動系の変形量である第1の変形量を、前記駆動系のサーボ制御に関わる前記駆動系の状態量を表す運転情報と前記駆動系の温度を示す温度情報との少なくとも一方を第1の変形量推定モデルへ入力することによって算出する第1の変形量推定部と、

前記工作機械の構成要素のうち前記送り駆動系および前記主軸駆動系以外である構造部材の温度を示す温度情報を第2の変形量推定モデルへ入力することによって、前記工作機械が設置されている環境の温度変化に起因する前記構造部材の変形量である第2の変形量を算出する第2の変形量推定部と、

前記工作機械の運動学的な構成情報を用いて、前記第1の変形量を、前記工具と前記ワークとの間の相対的な変位量である熱変位量に変換

し、前記変換した熱変位量に前記第2の変形量が合成された熱変位量を算出

する熱変位量算出部と、

前記送り駆動系へ指令される位置を前記

合成された

熱変位量に基づいて補正させる補正指令を生成する補正指令生成部と、を備え、

前記熱変位量算出部は、前記駆動系の位置と、前記工作機械のうち前記駆動系を位置決めさせる別の送り駆動系の幾何誤差とに応じて、前記第1の変形量を前記熱変位量に変換し、

前記工作機械の運動学的な構成情報は、前記工作機械における前記工具に固定された座標系である工具座標系から前記工作機械における前記ワークに固定された座標系であるワーク座標系への座標変換を表し、

前記別の送り駆動系の幾何誤差は、前記別の送り駆動系の位置と前記別の送り駆動系の温度とに依存する誤差である

ことを特徴とする工作機械システム。」に訂正する。

(請求項8の記載を引用する請求項10も同様に訂正する。)

イ 訂正事項7

訂正前の特許請求の範囲の請求項9を削除する。

なお、後述する4(2)ア(イ)で参照するため、訂正前の特許請求の範囲の請求項9の記載を以下に示す。

「前記制御装置は、

前記工作機械の構成要素のうち前記送り駆動系および前記主軸駆動系以外である構造部材の温度を示す温度情報を第2の変形量推定モデルへ入力することによって、前記工作機械が設置されている環境の温度変化に起因する前記構造部材の変形量である第2の変形量を算出する第2の変形量推定部を備え、

前記熱変位量算出部は、前記第1の変形量から変換された熱変位量に前記第2の変形量を合成し、

前記補正指令生成部は、前記送り駆動系へ指令される位置を、前記第2の変形量が合成された前記熱変位量に基づいて補正させる前記補正指令を生成する

ことを特徴とする請求項8に記載の工作機械システム。」

ウ 訂正事項8

訂正前の特許請求の範囲の請求項10の、

「複数の変形量推定モデルを記憶する記憶装置を備え、

前記第1の変形量推定モデルと前記第2の変形量推定モデルとの少なくとも一方が、複数の前記変形量推定モデルの中から選択された前記変形量推定モデルである

ことを特徴とする請求項9に記載の工作機械システム。」という記載を、

「複数の変形量推定モデルを記憶する記憶装置を備え、

前記第1の変形量推定モデルと前記第2の変形量推定モデルとの少なくとも一方が、複数の前記変形量推定モデルの中から選択された前記変形量推定モデルである

ことを特徴とする請求項

8

に記載の工作機械システム。」に訂正する。

(3) 請求項11

ア 訂正事項9

訂正前の特許請求の範囲の請求項11の、

「工具とワークとを互いに相対的に動作させる1または複数の送り駆動系と、前記工具または前記ワークを回転させる主軸駆動系とを備える工作機械によって、前記ワークを加工するステップと、

前記送り駆動系および前記主軸駆動系のうちの少なくとも1つである駆動系の発熱に起因する前記駆動系の変形量である第1の変形量を、前記駆動系の状態量を表す運転情報と前記駆動系の温度を示す温度情報との少なくとも一方を第1の変形量推定モデルへ入力することによって算出するステップと、

前記工作機械の運動学的な構成情報を用いて、前記第1の変形量を、前記駆動系の位置と、前記工作機械のうち前記駆動系を位置決めさせる別の送り駆動系の幾何誤差とに応じて、前記工具と前記ワークとの間の相対的な変位量である熱変位量に変換するステップと、

前記送り駆動系へ指令される位置を前記熱変位量に基づいて補正させる補正指令を生成するステップと、を含み、

前記工作機械の運動学的な構成情報は、前記工作機械における前記工具に固定された座標系である工具座標系から前記工作機械における前記ワークに固定された座標系であるワーク座標系への座標変換を表し、

前記別の送り駆動系の幾何誤差は、前記別の送り駆動系の位置と前記別の送り駆動系の温度とに依存する誤差である

ことを特徴とする加工方法。」という記載を、

「工具とワークとを互いに相対的に動作させる1または複数の送り駆動系と、前記工具または前記ワークを回転させる主軸駆動系とを備える工作機械によって、前記ワークを加工するステップと、

前記送り駆動系および前記主軸駆動系のうちの少なくとも1つである駆動系の発熱に起因する前記駆動系の変形量である第1の変形量を、前記駆動系の状態量を表す運転情報と前記駆動系の温度を示す温度情報との少なくとも一方を第1の変形量推定モデルへ入力することによって算出するステップと、

前記工作機械の構成要素のうち前記送り駆動系および前記主軸駆動系以外の構成要素である構造部材の温度を示す温度情報を第2の変形量推定モデルへ入力することによって、前記工作機械が設置されている環境の温度変化に起因する前記構造部材の変形量である第2の変形量を算出するステップと、

前記工作機械の運動学的な構成情報を用いて、前記第1の変形量を、前記駆動系の位置と、前記工作機械のうち前記駆動系を位置決めさせる別の送り駆動系の幾何誤差とに応じて、前記工具と前記ワークとの間の相対的な変位量である熱変位量に変換

し、前記変換した熱変位量に前記第2の変形量が合成された熱変位量を算出

するステップと、

前記送り駆動系へ指令される位置を前記

合成された

熱変位量に基づいて補正させる補正指令を生成するステップと、を含み、

前記工作機械の運動学的な構成情報は、前記工作機械における前記工具に固定された座標系である工具座標系から前記工作機械における前記ワークに固定された座標系であるワーク座標系への座標変換を表し、

前記別の送り駆動系の幾何誤差は、前記別の送り駆動系の位置と前記別の送り駆動系の温度とに依存する誤差である

ことを特徴とする加工方法。」に訂正する。

2 一群の請求項について

訂正前の特許請求の範囲の請求項1~7は、請求項2~7がそれぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。

また、訂正前の特許請求の範囲の請求項8~10は、請求項9~10がそれぞれ請求項8を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、訂正事項6によって記載が訂正される請求項8に連動して訂正されるものである。

したがって、本件訂正は、特許法(以下、単に「法」ということがある。)120条の5第4項に規定する一群の請求項である請求項〔1~7〕、〔8~10〕、及び請求項11について請求をするものである。

3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1) 一群の請求項1~7について

ア 訂正事項1について

(ア) 訂正の目的

訂正事項1は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1について、1(1)アの下線部の事項をさらに特定するものである。

したがって、訂正事項1に係る訂正は、法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(イ) 新規事項

訂正事項1は、1(1)ウで示した訂正前の特許請求の範囲の請求項5において特定していた事項を請求項1に組み入れて特定したものであるから、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。

したがって、訂正事項1に係る訂正は、法120条の5第9項において準用する法126条5項の規定に適合する。

(ウ) 特許請求の範囲の拡張・変更

訂正事項1は、(ア)のとおり、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことが明らかである。

したがって、訂正事項1に係る訂正は、法120条の5第9項において準用する法126条6項の規定に適合する。

イ 訂正事項2について

(ア) 訂正の目的

訂正事項2は、訂正事項1に伴い、願書に添付した明細書【0007】の記載を、訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載と整合させたものである。

したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(イ) 新規事項

訂正事項2は、(ア)のとおり、訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載と整合させたものであって、新規事項についてはア(イ)と同様のことがいえるから、訂正事項2に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。

したがって、訂正事項2に係る訂正は、法120条の5第9項において準用する法126条5項の規定に適合する。

(ウ) 特許請求の範囲の拡張・変更

訂正事項2は、(ア)のとおり、訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載と整合させたものであって、特許請求の範囲の拡張・変更についてはア(ウ)と同様のことがいえるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことが明らかである。

したがって、訂正事項2に係る訂正は、法120条の5第9項において準用する法126条6項の規定に適合する。

(エ) 明細書の訂正と関係する請求項について

訂正事項2は、訂正事項1に伴い、願書に添付した明細書【0007】の「制御装置」に関する記載を、訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載と整合させたものである。

ここで、請求項〔1~7〕は一群の請求項であるため、当該訂正事項2と各請求項との関係は、請求項1~7が訂正事項2による明細書の訂正に係る請求項である。また、訂正請求書において、訂正事項2は、「7 請求の理由」の「(1)一群の請求項1~7に係る訂正」において説明がされること、明細書【0007】の記載は、「制御装置」に関するものであって、「工作機械システム」や「加工方法」に関する記載ではないことからみて、請求項〔8~10〕、11については、訂正事項2による明細書の訂正とは関連しない。

したがって、訂正事項2は、明細書の訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全てである請求項〔1~7〕について行うものであるから、法120条の5第9項で準用する法126条4項に適合する。

ウ 訂正事項3について

(ア) 訂正の目的

訂正事項3は、訂正前の特許請求の範囲の請求項5を削除するものである。

したがって、訂正事項3に係る訂正は、法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(イ) 新規事項

訂正事項3は、訂正前の特許請求の範囲の請求項5を削除するものであるから、訂正事項3に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。

したがって、訂正事項3に係る訂正は、法120条の5第9項において準用する法126条5項の規定に適合する。

(ウ) 特許請求の範囲の拡張・変更

訂正事項3は、(ア)のとおり、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことが明らかである。

したがって、訂正事項3に係る訂正は、法120条の5第9項において準用する法126条6項の規定に適合する。

エ 訂正事項4~5について

(ア) 訂正の目的

訂正事項4~5は、訂正事項3による請求項5の削除に伴い、それぞれ請求項6~7における引用請求項を、訂正前の請求項5から訂正後の請求項1に変更することで、請求項6~7の記載を、訂正後の特許請求の範囲において整合させるものである。

したがって、訂正事項4~5に係る訂正は、法120条の5第2項ただし書3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(イ) 新規事項

訂正事項4~5は、(ア)のとおり引用請求項を整合させるものであって、新たな技術的事項を導入するものではないから、訂正事項4~5に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。

したがって、訂正事項4~5に係る訂正は、法120条の5第9項において準用する法126条5項の規定に適合する。

(ウ) 特許請求の範囲の拡張・変更

訂正事項4~5は、(ア)のとおり引用請求項を整合させるものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことが明らかである。

したがって、訂正事項4~5に係る訂正は、法120条の5第9項において準用する法126条6項の規定に適合する。

(2) 一群の請求項8~10について

ア 訂正事項6について

(ア) 訂正の目的

訂正事項6は、訂正前の特許請求の範囲の請求項8について、1(2)アの下線部の事項をさらに特定するものである。

したがって、訂正事項6に係る訂正は、法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(イ) 新規事項

訂正事項6は、1(2)イで示した訂正前の特許請求の範囲の請求項9において特定していた事項を請求項8に組み入れて特定したものであるから、訂正事項6に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。

したがって、訂正事項6に係る訂正は、法120条の5第9項において準用する法126条5項の規定に適合する。

(ウ) 特許請求の範囲の拡張・変更

訂正事項6は、(ア)のとおり、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことが明らかである。

したがって、訂正事項6に係る訂正は、法120条の5第9項において準用する法126条6項の規定に適合する。

イ 訂正事項7について

(ア) 訂正の目的

訂正事項7は、訂正前の特許請求の範囲の請求項9を削除するものである。

したがって、訂正事項7に係る訂正は、法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(イ) 新規事項

訂正事項7は、訂正前の特許請求の範囲の請求項9を削除するものであるから、訂正事項7に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。

したがって、訂正事項7に係る訂正は、法120条の5第9項において準用する法126条5項の規定に適合する。

(ウ) 特許請求の範囲の拡張・変更

訂正事項7は、(ア)のとおり、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことが明らかである。

したがって、訂正事項7に係る訂正は、法120条の5第9項において準用する法126条6項の規定に適合する。

ウ 訂正事項8について

(ア) 訂正の目的

訂正事項8は、訂正事項7による請求項9の削除に伴い、請求項10における引用請求項を、訂正前の請求項9から訂正後の請求項8に変更することで、請求項10の記載を、訂正後の特許請求の範囲において整合させるものである。

したがって、訂正事項8に係る訂正は、法120条の5第2項ただし書3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(イ) 新規事項

訂正事項8は、(ア)のとおり引用請求項を整合させるものであって、新たな技術的事項を導入するものではないから、訂正事項8に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。

したがって、訂正事項8に係る訂正は、法120条の5第9項において準用する法126条5項の規定に適合する。

(ウ) 特許請求の範囲の拡張・変更

訂正事項8は、(ア)のとおり引用請求項を整合させるものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことが明らかである。

したがって、訂正事項8に係る訂正は、法120条の5第9項において準用する法126条6項の規定に適合する。

(3) 請求項11について

ア 訂正事項9について

(ア) 訂正の目的

訂正事項9は、訂正前の特許請求の範囲の請求項11について、1(3)アの下線部の事項をさらに特定するものである。

したがって、訂正事項11に係る訂正は、法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(イ) 新規事項

訂正事項9は、訂正事項1と同様のものであって、訂正前の特許請求の範囲の請求項5において特定していた事項を、加工方法の発明である請求項11に組み入れて特定したものであるから、訂正事項9に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。

したがって、訂正事項9に係る訂正は、法120条の5第9項において準用する法126条5項の規定に適合する。

(ウ) 特許請求の範囲の拡張・変更

訂正事項9は、(ア)のとおり、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことが明らかである。

したがって、訂正事項9に係る訂正は、法120条の5第9項において準用する法126条6項の規定に適合する。

4 独立特許要件

(1) 訂正前の請求項1、8、11について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項1、8、11に係る訂正事項1、6、9に関して、法120条の5第9項で読み替えて準用する法第126条7項の独立特許要件は課されない。

また、訂正事項2、4~5、8は、法120条の5第2項3号に掲げる事項を目的とする訂正であるから、法120条の5第9項で読み替えて準用する法126条7項の独立特許要件は課されない。

さらに、訂正事項3、7は、請求項5、9を削除する訂正であり、対象が存在しないものとなったため、法120条の5第9項で読み替えて準用する法126条7項の独立特許要件は課されない。

(2) そのため、訂正後の一群の請求項である請求項〔1~7〕、〔8~10〕のうち、請求項2~4、6~7、10については特許異議の申立てがされておらず、かつ、訂正事項1及び6は、法120条の5第2項1号に掲げる事項を目的とする訂正であるから、訂正事項1による請求項1の訂正に連動して訂正される請求項2~4及び6~7、並びに、訂正事項6による請求項8の訂正に連動して訂正される請求項10については、それぞれ、法120条の5第9項で読み替えて準用する法126条7項の規定が課されるため、以下検討する。

(3) 訂正後の請求項2~4、6~7は訂正後の請求項1を直接的又は間接的に引用する関係にあり、訂正後の請求項10は訂正後の請求項8を引用する関係にあるところ、訂正後の請求項1、8に係る発明は、以下の第4の2に説示するとおり、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証~甲第3号証に記載された技術、及び参考資料1~2に例示される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、訂正後の請求項2~4、6~7、10に係る発明も同様に、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証~甲第3号証に記載された技術、及び参考資料1~2に例示される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

そして、訂正後の請求項2~4、6~7、10の記載について不備は見当たらないし、他に請求項2~4、6~7、10に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由も見当たらない。

5 訂正の適否についての小括

以上のとおりであるから、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕、〔8~10〕、11について訂正することを認める。

第3 本件発明

第2のとおり、本件訂正は認められたから、本件の請求項1、8、11に係る発明(以下、まとめて「本件発明」という。また、個別に請求項1に係る発明を「本件発明1」といい、他の請求項に係る発明についても同様にいう。)は、次の事項により特定されるものである。

1 請求項1

工具とワークとを互いに相対的に動作させる1または複数の送り駆動系と、前記工具または前記ワークを回転させる主軸駆動系とを備える工作機械を制御する制御装置であって、

前記送り駆動系および前記主軸駆動系のうちの少なくとも1つである駆動系の発熱に起因する前記駆動系の変形量である第1の変形量を、前記駆動系の状態量を表す運転情報と前記駆動系の温度を示す温度情報との少なくとも一方を第1の変形量推定モデルへ入力することによって算出する第1の変形量推定部と、

前記工作機械の構成要素のうち前記送り駆動系および前記主軸駆動系以外の構成要素である構造部材の温度を示す温度情報を第2の変形量推定モデルへ入力することによって、前記工作機械が設置されている環境の温度変化に起因する前記構造部材の変形量である第2の変形量を算出する第2の変形量推定部と、

前記工作機械の運動学的な構成情報を用いて、前記第1の変形量を、前記工具と前記ワークとの間の相対的な変位量である熱変位量に変換し、前記変換した熱変位量に前記第2の変形量が合成された熱変位量を算出する熱変位量算出部と、

前記送り駆動系へ指令される位置を前記合成された熱変位量に基づいて補正させる補正指令を生成する補正指令生成部と、を備え、

前記熱変位量算出部は、前記駆動系の位置と、前記工作機械のうち前記駆動系を位置決めさせる別の送り駆動系の幾何誤差とに応じて、前記第1の変形量を前記熱変位量に変換し、

前記工作機械の運動学的な構成情報は、前記工作機械における前記工具に固定された座標系である工具座標系から前記工作機械における前記ワークに固定された座標系であるワーク座標系への座標変換を表し、

前記別の送り駆動系の幾何誤差は、前記別の送り駆動系の位置と前記別の送り駆動系の温度とに依存する誤差である

ことを特徴とする制御装置。

2 請求項8

工具とワークとを互いに相対的に動作させる1または複数の送り駆動系と、前記工具または前記ワークを回転させる主軸駆動系とを備える工作機械と、

前記工作機械を制御する制御装置と、を備え、

前記制御装置は、

前記送り駆動系および前記主軸駆動系のうちの少なくとも1つである駆動系の発熱に起因する前記駆動系の変形量である第1の変形量を、前記駆動系のサーボ制御に関わる前記駆動系の状態量を表す運転情報と前記駆動系の温度を示す温度情報との少なくとも一方を第1の変形量推定モデルへ入力することによって算出する第1の変形量推定部と、

前記工作機械の構成要素のうち前記送り駆動系および前記主軸駆動系以外である構造部材の温度を示す温度情報を第2の変形量推定モデルへ入力することによって、前記工作機械が設置されている環境の温度変化に起因する前記構造部材の変形量である第2の変形量を算出する第2の変形量推定部と、

前記工作機械の運動学的な構成情報を用いて、前記第1の変形量を、前記工具と前記ワークとの間の相対的な変位量である熱変位量に変換し、前記変換した熱変位量に前記第2の変形量が合成された熱変位量を算出する熱変位量算出部と、

前記送り駆動系へ指令される位置を前記合成された熱変位量に基づいて補正させる補正指令を生成する補正指令生成部と、を備え、

前記熱変位量算出部は、前記駆動系の位置と、前記工作機械のうち前記駆動系を位置決めさせる別の送り駆動系の幾何誤差とに応じて、前記第1の変形量を前記熱変位量に変換し、

前記工作機械の運動学的な構成情報は、前記工作機械における前記工具に固定された座標系である工具座標系から前記工作機械における前記ワークに固定された座標系であるワーク座標系への座標変換を表し、

前記別の送り駆動系の幾何誤差は、前記別の送り駆動系の位置と前記別の送り駆動系の温度とに依存する誤差である

ことを特徴とする工作機械システム。

3 請求項11

工具とワークとを互いに相対的に動作させる1または複数の送り駆動系と、前記工具または前記ワークを回転させる主軸駆動系とを備える工作機械によって、前記ワークを加工するステップと、

前記送り駆動系および前記主軸駆動系のうちの少なくとも1つである駆動系の発熱に起因する前記駆動系の変形量である第1の変形量を、前記駆動系の状態量を表す運転情報と前記駆動系の温度を示す温度情報との少なくとも一方を第1の変形量推定モデルへ入力することによって算出するステップと、

前記工作機械の構成要素のうち前記送り駆動系および前記主軸駆動系以外の構成要素である構造部材の温度を示す温度情報を第2の変形量推定モデルへ入力することによって、前記工作機械が設置されている環境の温度変化に起因する前記構造部材の変形量である第2の変形量を算出するステップと、

前記工作機械の運動学的な構成情報を用いて、前記第1の変形量を、前記駆動系の位置と、前記工作機械のうち前記駆動系を位置決めさせる別の送り駆動系の幾何誤差とに応じて、前記工具と前記ワークとの間の相対的な変位量である熱変位量に変換し、前記変換した熱変位量に前記第2の変形量が合成された熱変位量を算出するステップと、

前記送り駆動系へ指令される位置を前記合成された熱変位量に基づいて補正させる補正指令を生成するステップと、を含み、

前記工作機械の運動学的な構成情報は、前記工作機械における前記工具に固定された座標系である工具座標系から前記工作機械における前記ワークに固定された座標系であるワーク座標系への座標変換を表し、

前記別の送り駆動系の幾何誤差は、前記別の送り駆動系の位置と前記別の送り駆動系の温度とに依存する誤差である

ことを特徴とする加工方法。

第4 取消理由通知で通知した取消理由について

1 取消理由の概要

取消理由通知で通知した取消理由(以下、単に「取消理由」という。)の概要は以下のとおりである。当該取消理由は、特許異議申立書における申立の理由と同趣旨である。

(1) 進歩性

訂正前の本件特許の請求項1、8、11に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(下記(2)アの甲第1号証に記載された発明及び甲第2~3号証に記載された技術)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、8、11に係る特許は、法29条2項の規定に違反してされたものである。

(2) 証拠方法

ア 申立書に添付して提出された証拠

甲第1号証:特許第5399624号公報

甲第2号証:特許第3154946号公報

甲第3号証:特開平2-106252号公報

以下、「甲第1号証」等を単に「甲1」等という。

イ 申立人意見書に添付して提出された参考資料

参考資料1:特開2006-65716号公報

参考資料2:特開平7-75937号公報

以下、「参考資料1」等を単に「参考1」等という。

2 取消理由についての判断

第2のとおり本件訂正は認められたから、本件発明について前記1の取消理由を検討する。

(1) 本件発明1の進歩性

ア 甲1に記載された発明

(ア) 甲1の記載事項

甲1には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付与)。

「【0001】

本発明は、工作機械等の制御のために用いられる数値制御方法及び

数値制御装置

に関する。

【背景技術】

【0002】

図1は、並進軸および回転軸を有する5軸制御工作機械の模式図である。

図において1はフレームで、フレーム1の正面には主軸頭2が設けられている。この主軸頭2は、並進軸であって互いに直交するX軸、Z軸によって並進2自由度の運動が可能である。また、主軸頭2の下方に設けられる

テーブル3は、

トラニオン4を介してサドル5に支持されて、互いに直交する回転軸である

A軸、C軸によって回転2自由度の運動が可能

で、並進軸でありX・Z軸に直交するY軸により並進1自由度の運動が可能となっている。各軸は後述する数値制御装置により制御されるサーボモータにより駆動され、被加工物をテーブル3に固定し、

主軸頭2に工具を装着して回転させ

、被加工物を任意の形状に加工する。

【0003】

このような5軸制御工作機械において、その運動精度及び運動精度が転写される被加工物の形状精度に影響を及ぼす要因の一つとして、例えば、回転軸と並進軸の平行度や各回転軸間の回転中心の不一致など製造、組立により発生する各軸間の幾何学的な誤差(以下、幾何誤差と呼ぶ)が大きな割合を占める場合がある。この幾何誤差を製造上無くすことは非常に困難であり、この幾何誤差を補償する手段として、特許文献1のような制御装置が提案されている。ここでは機械の幾何誤差を基に、工具とワークの相対関係が誤差のない機械と同じになるように各軸指令位置を補償して各軸を駆動している。

一方、他の要因として、並進軸の位置決め誤差、真直度誤差が挙げられる。各並進軸の位置決め誤差は、同軸の位置に依存して同軸方向に発生する誤差であり、真直度誤差は、各軸の位置に依存して他の2軸方向に発生する誤差であるため、併せて3軸方向に発生する位置決め誤差と考えることができる。そこで、特許文献2では、3次元格子状に可動空間を区切り、各格子交点に誤差ベクトルを設定し、各軸の位置とそれに対応する誤差ベクトルから3軸方向の誤差を算出して指令値を補償するようにしている。

また、その他の要因として、機械の動作に伴う変形誤差が挙げられる。例えば、5軸制御工作機械においてA軸を旋回させると重心位置が変化し、A軸の回転軸部材のねじれやこれらを支える部材の変形が生じる。また、テーブル上に搭載される被加工物の重量や重心が変化しても同様な変形が発生する。この変形誤差が主軸頭とテーブル間の相対誤差として現れる。この変形誤差のうち回転部材のねじれに対しては、公知である回転軸割り出し位置に対応した補償値を基に割り出し位置を補償することで精度良く割り出すことを可能にしている。

さらに、その他の要因として、

機械の要素の発熱や環境温度変化による熱変位

が挙げられる。特許文献3では、主軸頭側に回転軸を有する5軸機械において、

主軸の回転による発熱

が原因で主軸に熱変位が生じた場合に、温度センサの情報を基に熱変位量を推定し、その熱変位量を回転軸の位置に応じて各並進軸方向に分配して各軸を補償することで、精度良い制御を可能にしている。

・・・

【0010】

以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。

[形態1]

ここでも本発明の対象となる機械の一例として、図1で示した5軸制御工作機械を用いて説明する。なお、本発明に関わる機械としては5軸に限定するものではなく、

2軸以上の並進軸

1軸以上の回転軸

を有するものであれば、工作機械に限らず、ロボット、産業機械、建築機械などでもよい。

まず、従来の数値制御装置のブロック図を図2に示す。

この数値制御装置には、各軸の所望の動作が記述された加工プログラム11が格納される。この加工プログラム11は、指令位置算出手段12により制御周期毎の各軸の指令位置に変換され、変換された指令位置は、サーボ指令値変換手段13にてサーボアンプ14に対する指令値に変換され、指令値を基に各軸のサーボアンプ14a~14eにより各軸のサーボモータ15a~15eが駆動されて所望の動作を行うことになる。

【0011】

次に、本発明の数値制御装置のブロック図を図3に示す。ここでも図2と同様に指令位置算出手段12とサーボ指令値変換手段13とを備えている。なお、加工プログラム11、サーボアンプ14a~14e、サーボモータ15a~15eは簡略化のため図示を省略している。

ここでは、指令位置算出手段12より算出された

指令位置

を基に変形誤差推定手段18にて

変形誤差の推定値

が演算される。また、指令位置を基に位置決め誤差推定手段19にて

位置決め誤差の推定値

が演算される。さらに機械の各所に組み込んだ温度センサで計測した

温度や指令情報を基に熱変位推定手段20にて熱変位の推定値が演算される

これらの各推定値は機械の幾何誤差の一部として他の幾何誤差と共に扱われ、

幾何誤差補償値演算手段16にて各軸に対する幾何誤差の補償値が演算される

。この

補償値を補償値加算手段17にて指令位置に加算

することでサーボ指令値変換手段13に渡る

指令位置が更新

され、新しい指令位置を基に最終的にサーボモータ15a~15eが制御される。

【0012】

次に、各推定手段18~20及び幾何誤差補償値演算手段16による各種誤差の推定値および補償値の演算について説明する。

上述の工作機械では、

主軸頭2およびテーブル3上にそれぞれ座標系を考慮

しており、主軸頭2の座標系上の点、すなわち工具先端点ベクトル

T

Pをワーク座標系に変換する場合、X、Y、Z、A、C軸の指令位置を夫々x、y、z、a、cとすると、各軸の変換行列は数1の通りとなるため、数2を用いて同次

座標変換

を行うことができる。これにより誤差のない場合のワーク座標系での工具先端点ベクトル

W

P

I

を求めることができる。

・・・

【0024】

また、変形誤差は一部の幾何誤差として扱うことができる。例えば、ワークの積載によりA軸回転軸のねじれが発生した場合、A軸とY軸間の回転誤差α

AY

(幾何誤差変換行列ε

AY

の成分)として扱うことができ、A・C軸指令位置およびテーブル上のワーク質量および重心などによりα

AY

を変更することで、該変形誤差がある場合のワーク座標系での工具先端点ベクトルを数4から求めることができる。

さらにまた、変形誤差の別の例として、ワークの積載によりトラニオン4が変形した場合、C軸とA軸間の並進誤差δx

CA

、δy

CA

、δz

CA

(幾何誤差変換行列ε

CA

の成分)として扱うことができ、A・C軸指令位置およびテーブル上のワーク質量および重心などによりδx

CA

、δy

CA

、δz

CA

を変更することで、該変形誤差がある場合のワーク座標系での工具先端点ベクトルを数4から求めることができる。

【0025】

一方、熱変位がある場合、例えば

C軸回転による発熱

に起因したトラニオン4の熱変位はC軸とA軸間の並進幾何誤差δx

CA

、δy

CA

、δz

CA

として扱うことができ、従来技術により推定した熱変位の推定値を用いてδx

CA

、δy

CA

、δz

CA

を更新することで、該熱変位がある場合のワーク座標系での工具先端点ベクトルを数4から求めることができる。

また、別の例として、環境温度変化によりフレーム1が変形し、Z軸を支える部材が変位しながらX軸周りに傾いた場合、Z軸とX軸の間の並進誤差δy

XY

、回転誤差α

XZ

(幾何誤差変換行列ε

XZ

の成分)として扱うことができ、推定した熱変位を用いてδy

XY

、回転誤差α

XZ

を更新することで該熱変位がある場合のワーク座標系での工具先端点ベクトルを数4から求めることができる。」

「【図3】

90

121

0001431124000001.jpg

(イ) 甲1から理解できる事項

主軸頭2は装着した工具を回転させるものであり(【0002】)、ワークといえる被加工物を固定するテーブル3はA軸、C軸で回転させるものである(【0002】)。

そして、甲1のものは1軸以上の回転軸を有するものであるから(【0010】)、回転軸が1軸である場合は、工具又はワークのどちらか一方を回転させることになる。

(ウ) 甲1発明

(ア)及び(イ)から、甲1に記載された事項を、本件発明1の発明特定事項に合わせて整理すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

「工具とワークとを相対運動させる2軸以上の並進軸(【0010】)と、前記工具または前記ワークを回転させる1軸以上の回転軸(前記(イ))とを有する工作機械を制御する数値制御装置(【0001】)であって、

前記並進軸および前記回転軸のうちの少なくとも1つの発熱(【0003】、【0025】)に起因する熱変位の推定値(【0011】)を、指令情報と温度を基に推定する熱変位推定手段20(【0011】)と、

主軸頭2及びテーブル3上のそれぞれの座標系を考慮して(【0012】)、前記熱変位の推定値を、各軸に対する並進幾何誤差の補償値として演算する幾何誤差補償値演算手段16(【0011】、【0025】)と、

指令位置に前記補償値を加算して前記指令位置を更新する補償値加算手段17(【0011】)と、を備え、

前記幾何誤差補償値演算手段16は、前記指令位置と、変形誤差の推定値と、位置決め誤差の推定値と、前記熱変位の推定値を前記補償値に変換し(【0011】、図3)、

前記主軸頭2及びテーブル3上のそれぞれの座標系を考慮することは、前記工作機械における前記主軸頭2の座標系から前記工作機械におけるワーク座標系への座標変換である(【0012】)

数値制御装置。」

イ 甲2に記載された事項

(ア) 甲2の記載事項

甲2には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付与)。

「【0001】

【発明の属する技術分野】本発明は、

工作機械における熱変位補正方法

に関する。

・・・

【0004】

【発明が解決しようとする課題】送りねじのボールネジに初期張力を与え、熱による膨脹の影響を受けないような構造としたり、センサを設けて熱変位を補正する方法では、構造的限界や、センサの取り付け位置、センサをクーラントや切り粉から保護しセンサの信頼性を得るための手段を講じる必要がある等の問題がある。また、センサを設けた場合では、測定に時間がかかり、結果的に加工時間が長くかかったり、立ち上がり時の変位を補正できないという問題がある。そこで、本発明の目的は、

センサ必要とせず(当審注:「センサを必要とせず」の誤記)

、簡単で低コストで熱変位を補正できる熱変位補正方法を提供することにある。さらにセンサを併用することでより正確な熱変位の補正ができる熱変位補正方法を提供することにある。

【0005】

【課題を解決するための手段】本発明は、数値制御装置を用いて制御される工作機械において、

送り軸の平均移動速度、移動頻度及び移動位置

から、熱変位に対する補正量を求める近似式及び該近似式によって求められた補正量より指令位置に対する位置補正量を求める近似式を予め数値制御装置に記憶させておく。そして、送り軸の位置をモニタリングし、送り軸の平均移動速度及び移動頻度を求めて上記近似式より送り軸の指令位置に対する位置補正量を求める。指令位置を該位置補正量で補正する。

・・・

【0018】図3は、工作機械で加工を開始し、送りねじを駆動した際、送りねじを構成するボールネジの伸び、及び加工を停止し放熱によるボールネジの縮みの状態を示す概念図である。ボールネジが駆動されると、ボールネジは軸受部等の摩擦による発熱等による伸び、最初は急激にのびるが発熱と放熱にバランスがとれとその伸びの増大量は緩やかになる。一方、加工を停止し送りねじの移動を停止すると、放熱によってボールネジは縮み、図3に示すような時間に対する熱変位曲線となる。そこで、本発明は、工作機械(立型ボール盤1)を実験駆動してこの発熱、放熱によるボールネジの熱変位曲線を検出し、検出した熱変位曲線より、熱変位量予測近似式を求め記憶しておき、実際に立型ボール盤1(工作機械)を駆動して加工を行なう際には、この

熱変位量予測近似式に基づいて、指令位置を補正

するようにした。」

(イ) 甲2から理解できる事項

甲2には、工作機械の熱変位補正方法に関する技術であって(【0001】)、温度センサを必要とせず(【0004】)、送り軸の平均移動速度、移動頻度及び移動位置から(【0005】)、熱変位量予測近似式に基づいて、指令位置を補正するもの(【0018】)が開示されている(以下「甲2技術」という。)。

ウ 甲3に記載された事項

(ア) 甲3の記載事項

甲3には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付与)。

「2.特許請求の範囲

数値制御され互いに直交する3つの制御軸を持ち、いずれかの制御軸に平行で且つ、主軸中心線と直交する主軸の回転軸を持つ数値制御工作機械に於て、数値制御工作機械の本体に

温度検出器

を設け、機械の温度を入力し、登録された機械の

熱変位の相関式

を用いてワークテーブルと主軸の相対熱変位量を演算し、主軸の回転軸と主軸先端間の

熱変位量を、主軸の回転角に相関して算出

し、制御軸ごとの相対熱変位量に分配して制御軸の座標系を補正する数値制御装置またはその他の制御装置を持つことを特徴とする熱変位補正機能付数値制御工作機械。」

「本発明は、

数値制御工作機械の温度を検出して制御軸の熱変位補正を行う数値制御工作機械

に関する。」(1ページ左欄末行~右欄2行)

(イ) 甲3から理解できる事項

甲3には、数値制御工作機械の温度を検出して制御軸の熱変位補正を行う数値制御工作機械に関する技術であって(1ページ左欄末行~右欄2行)、数値制御工作機械の本体に温度検出器を設け、機械の温度を入力し、登録された機械の熱変位の相関式を用いてワークテーブルと主軸の相対熱変位量を演算し、主軸の回転軸と主軸先端間の熱変位量を、主軸の回転角に相関して算出するもの(特許請求の範囲)が開示されている(以下「甲3技術」という。)。

エ 本件発明1と甲1発明との対比

(ア) 甲1発明の「相対運動させる」は本件発明1の「相対的に動作させる」に相当し、以下同様に、「2軸以上の並進軸」は「複数の送り駆動系」に、「1軸以上の回転軸」は「主軸駆動系」に、「数値制御装置」は「制御装置」にそれぞれ相当する。

(イ) 甲1発明の「前記並進軸および前記回転軸のうちの少なくとも1つの発熱に起因する熱変位の推定値」は、本件発明1の「前記送り駆動系および前記主軸駆動系のうちの少なくとも1つである駆動系の発熱に起因する前記駆動系の変形量である第1の変形量」に相当する。

(ウ) 甲1発明の「指令情報と温度を基に推定する熱変位推定手段20」と本件発明1の「前記駆動系の状態量を表す運転情報と前記駆動系の温度を示す温度情報との少なくとも一方を第1の変形量推定モデルへ入力することによって算出する第1の変形量推定部」とは、「前記駆動系の状態量を表す運転情報と前記駆動系の温度を示す温度情報によって算出する第1の変形量推定部」という概念では一致する。

(エ) 甲1発明の「主軸頭2及びテーブル3上のそれぞれの座標系を考慮して」は、後述する(キ)のとおり本件発明1の構成情報が座標変換に関するものであることに照らせば、本件発明1の「前記工作機械の運動学的な構成情報を用いて」に相当する。

また、甲1発明の「各軸に対する並進幾何誤差の補償値として演算する」は、工具とワークとの間に各軸があることを踏まえると、本件発明1の「前記工具と前記ワークとの間の相対的な変位量である熱変位量に変換し」に相当する。

これらを踏まえると、甲1発明の「主軸頭2及びテーブル3上のそれぞれの座標系を考慮して、前記熱変位の推定値を、各軸に対する並進幾何誤差の補償値として演算する幾何誤差補償値演算手段16」と本件発明1の「前記工作機械の運動学的な構成情報を用いて、前記第1の変形量を、前記工具と前記ワークとの間の相対的な変位量である熱変位量に変換し、前記変換した熱変位量に前記第2の変形量が合成された熱変位量を算出する熱変位量算出部」とは、「前記工作機械の運動学的な構成情報を用いて、前記第1の変形量を、前記工具と前記ワークとの間の相対的な変位量である熱変位量に変換する熱変位量算出部」という概念では一致する。

(オ) 甲1発明の「指令位置に前記補償値を加算して前記指令位置を更新する補償値加算手段17」と本件発明1の「前記送り駆動系へ指令される位置を前記合成された熱変位量に基づいて補正させる補正指令を生成する補正指令生成部」とは、甲1発明の指令位置が本件発明1でいう送り駆動系へ指令される位置を含むものであることに照らせば、「前記送り駆動系へ指令される位置を前記熱変位量に基づいて補正させる補正指令を生成する補正指令生成部」という概念では一致する。

(カ) 甲1発明の「前記幾何誤差補償値演算手段16は、前記指令位置と、変形誤差の推定値と、位置決め誤差の推定値と、前記熱変位の推定値を前記補償値に変換」することについて、細分化して以下に本件発明1との対比を検討する。

ここでの甲1発明の「指令位置」は、本件発明1の「駆動系の位置」に相当する。

また、甲1発明の「変形誤差の推定値」や「位置決め誤差の推定値」は、並進軸及び回転軸のどちらにも生じ得るものであるところ、並進軸についてのものである本件発明1の「前記工作機械のうち前記駆動系を位置決めさせる別の送り駆動系の幾何誤差」を含むものである。

そうすると、前述した甲1発明の「前記幾何誤差補償値演算手段16は、前記指令位置と、変形誤差の推定値と、位置決め誤差の推定値と、前記熱変位の推定値を前記補償値に変換」することは、本件発明1の「前記熱変位量算出部は、前記駆動系の位置と、前記工作機械のうち前記駆動系を位置決めさせる別の送り駆動系の幾何誤差とに応じて、前記第1の変形量を前記熱変位量に変換」することに実質的に相当する。

(キ) 甲1発明の「前記主軸頭2及びテーブル3上のそれぞれの座標系を考慮することは、前記工作機械における前記主軸頭2の座標系から前記工作機械におけるワーク座標系への座標変換である」ことは、本件発明1の「前記工作機械の運動学的な構成情報は、前記工作機械における前記工具に固定された座標系である工具座標系から前記工作機械における前記ワークに固定された座標系であるワーク座標系への座標変換を表」すことに相当する。

オ 一致点と相違点

エによると、本件発明1と甲1発明との一致点・相違点は以下のとおりである。

(ア) 一致点

「工具とワークとを互いに相対的に動作させる複数の送り駆動系と、前記工具または前記ワークを回転させる主軸駆動系とを備える工作機械を制御する制御装置であって、

前記送り駆動系および前記主軸駆動系のうちの少なくとも1つである駆動系の発熱に起因する前記駆動系の変形量である第1の変形量を、駆動系の状態量を表す運転情報と前記駆動系の温度を示す温度情報によって算出する第1の変形量推定部と、

前記工作機械の運動学的な構成情報を用いて、前記第1の変形量を、前記工具と前記ワークとの間の相対的な変位量である熱変位量に変換する熱変位量算出部と、

前記送り駆動系へ指令される位置を前記熱変位量に基づいて補正させる補正指令を生成する補正指令生成部と、を備え、

前記熱変位量算出部は、前記駆動系の位置と、前記工作機械のうち前記駆動系を位置決めさせる別の送り駆動系の幾何誤差とに応じて、前記第1の変形量を前記熱変位量に変換し、

前記工作機械の運動学的な構成情報は、前記工作機械における前記工具に固定された座標系である工具座標系から前記工作機械における前記ワークに固定された座標系であるワーク座標系への座標変換を表す

制御装置。」

(イ) 相違点1

送り駆動系が、本件発明1では「1」つの場合もあるのに対し、甲1発明では「2軸以上」である点。

(ウ) 相違点2

第1の変形量推定部について、本件発明1では「前記駆動系の状態量を表す運転情報と前記駆動系の温度を示す温度情報との少なくとも一方を第1の変形量推定モデルへ入力することによって算出する」のに対し、甲1発明では「指令情報と温度を基に推定する」ものである点。

(エ) 相違点3

本件発明1は「前記工作機械の構成要素のうち前記送り駆動系および前記主軸駆動系以外の構成要素である構造部材の温度を示す温度情報を第2の変形量推定モデルへ入力することによって、前記工作機械が設置されている環境の温度変化に起因する前記構造部材の変形量である第2の変形量を算出する第2の変形量推定部」を備えており、これに伴って、熱変位量算出部においても本件発明1では(第1の変形量を)変換した熱変位量に「前記第2の変形量が合成された熱変位量を算出する」のに対し、甲1発明では第2の変形量推定部に相当するものがなく、これに伴って熱変位量算出部において熱変位量に第2の変形量を合成していない点。

(オ) 相違点4

別の送り駆動系に関して、本件発明1では「前記別の送り駆動系の幾何誤差は、前記別の送り駆動系の位置と前記別の送り駆動系の温度とに依存する誤差である」という特定がされているのに対し、甲1発明では前記特定がされていない点。

カ 判断

事案に鑑み、相違点3について検討する。

甲2技術及び甲3技術はもとより、甲2及び甲3の全体をみても、相違点3の「第2の変形量」や「第2の変形量推定部」に関して取り上げるべき記載内容が見当たらない。

そうすると、甲1発明に甲2技術や甲3技術を適用したとしても、相違点3に係る本件発明1の構成は当業者が容易に想到できたものであるとはいえないことが明らかである。

キ 本件発明1の進歩性についての小括

以上のとおりであるから、相違点1~2、4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、甲2技術及び甲3技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

したがって、本件発明1に係る特許が、法29条2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。

(2) 本件発明8、11の進歩性

甲1には、工作機械と甲1発明の数値制御装置とを備えた工作機械システムの発明(以下「甲1発明8」という。)や、甲1発明の数値制御装置を用いて工作機械で加工をする加工方法の発明(以下「甲1発明11」という。)が開示されているといえる。

本件発明8、11を、それぞれ甲1発明8、11と対比すると、(1)オの相違点1~4と同様の点で相違することになるから、(1)カと同様に判断できるので、本件発明8、11は、甲1発明8又は甲1発明11、甲2技術及び甲3技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

したがって、本件発明8、11に係る特許が、法29条2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。

(3) 進歩性についての小括

以上のとおりであるから、本件発明1、8、11に係る特許は、当審が取消理由通知で通知した取消理由である法29条2項(進歩性)の規定に違反してされたものであるとはいえない。

(4) 申立人意見書の主張について

ア 主張の概要

申立人は、「駆動系以外の構造部材の温度情報を変形量推定モデルヘ入力することで構造部材の変形量を算出し、その変形量に基づいて熱変位量を推定して位置指令を補正する」ことが参考1~2に示されるように周知技術であって(申立人意見書2ページ)、甲1発明、甲1発明及び甲2技術、又は、甲1発明及び甲3技術において、熱変位をより高精度に補正可能とするために、参考1~2に例示される周知技術を参照して環境温度変化に起因する構造部材の変形も考慮し、駆動系の第1の変形量を算出する第1の変形量推定部に加えて、環境温度変化に起因する構造部材の変形量である第2の変形量を算出する第2の変形量推定部を設けて、熱変位量算出部では、第1の変形量を熱変位量に変換すると共に、変換した変位量に第2の変形量を合成して、補正指令生成部では合成された熱変位量に基づいて補正指令を生成するようにすることは、設計的事項として当業者が容易に想到できたものであるから、本件発明1は、依然として進歩性を有さず、取り消されるべきものである(同4ページ)と主張している。

また、本件発明8、11についても、本件発明1と同様に進歩性を有さず、取り消されるべきものである(同4~5ページ)と主張している。

イ 主張に対する判断

(ア) 合議体は、申立人意見書の内容も参酌し、審理するところ、意見の内容が、実質的に新たな理由及び証拠を提示しているときは、公益に及ぼす影響や特許異議の申立ての期間が特許掲載公報発行の日から6月以内に制限されている趣旨を踏まえ、訂正により追加された事項についての見解など訂正の請求の内容に付随して生じる理由である場合や、適切な取消理由を構成することが一見して明らかな場合を除き、当該実質的に新たな理由及び証拠は採用していない(審判便覧67-05.4の1(2)を参照。)。

(イ) (ア)を踏まえたうえで前記アの主張をみると、訂正により追加された事項についての見解ではあるものの、この追加された事項の内容は、特許異議の申立てのなかった訂正前の請求項5又は請求項9で特定されていた事項を訂正後の請求項1、8、11に実質的に取り込んだものであるから、かかる主張は、特許異議の申立ての期間内に主張すべきであったものといえるので、採用しない。

また、予備的に、参考1~2が、適切な取消理由を構成することが一見して明らかなものであるか否か確認したが、以下のとおり明らかなものであるとはいえなかった。

すなわち、参考1~2には、機械各部の温度を測定して熱変位量を算出する技術(参考1の【0007】、図17等、参考2の【0013】、【0046】、図1~2等)が開示されているものの、本件発明のように、駆動系の発熱に起因する前記駆動系の変形量である第1の変形量とは別に、駆動系以外の発熱に起因するといえる「送り駆動系および主軸駆動系以外の構成要素である構造部材の温度を示す温度情報」による第2の変形量に関する技術的思想が開示されているとは一見して明らかでなかった。

(ウ) したがって、申立人意見書の主張は採用しない。また、予備的に参考1~2を検討しても、本件発明1、8、11に係る特許が、法29条2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。

第5 むすび

以上のとおりであるから、本件発明1、8、11に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載された申立ての理由によっては、取り消すことはできない。

さらに、他に本件発明1、8、11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

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