sokuhyo

Trademark Appeal Case

請求項訂正の適否

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号2024701054
審判種別記載はありません。
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

結 論
特許第7475072号の特許請求の範囲を令和 7年 6月 5日受付の訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項7、〔8~17〕について訂正することを認める。
特許第7475072号の請求項7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
特許第7475072号の請求項1~6、8~17に係る特許を維持する。

理由テキスト

理 由

第1 手続の経緯

本件の特許第7475072号(以下「本件特許」という。)の請求項1~17に係る特許についての出願(特願2021-576861号。以下、「本願」という。)は、2020年(令和 2年) 6月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2019年 6月27日(GB)英国)を国際出願日とする出願であって、令和 6年 4月18日にその特許権の設定登録がされ、同年 4月26日に特許掲載公報が発行されたものである。

その後、その請求項1~17(全請求項)に係る特許に対し、令和 6年10月25日に特許異議申立人である河合 麻里(以下、「申立人」という。)によって特許異議の申立てがされ、以後の経緯は以下のとおりである。

令和 7年 3月28日付け 取消理由通知書

令和 7年 6月 5日 訂正請求書及び意見書(特許権者)

なお、下記第2の1のとおり、令和 7年 6月 5日受付の訂正請求書による訂正は、請求項の削除、当該削除に伴う請求項の引用関係の訂正、及び明瞭でない記載の釈明を目的とする軽微な記載の訂正のみであり、申立人に意見書提出の機会を与える必要がないと認められる特別な事情がある場合に該当するから、上記訂正請求書及び意見書は申立人に送付しなかった。

第2 本件訂正請求について

1 請求の趣旨及び訂正の内容

令和 7年 6月 5日提出の訂正請求書により特許権者が行った訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)の請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項7~17について訂正することを求めるものであり、本件訂正請求に係る訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。

(1)訂正事項1

特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(2)訂正事項2

特許請求の範囲の請求項8の「請求項1乃至7のいずれかに記載の装置。」を「請求項1乃至6のいずれかに記載の装置。」に訂正する。

(3)訂正事項3

特許請求の範囲の請求項9の「請求項1乃至8のいずれかに記載の装置。」を「請求項1乃至6のいずれか、または、請求項8に記載の装置。」に訂正する。

(4)訂正事項4

特許請求の範囲の請求項10に「前記触媒被覆基板は、」と記載されているのを、「前記触媒被覆基板の基板は、」に訂正する。(請求項10の記載を引用する請求項11乃至16も同様に訂正する。)

(5)訂正事項5

特許請求の範囲の請求項11の「請求項1乃至10のいずれかに記載の装置。」を「請求項1乃至6のいずれか、または、請求項8乃至10のいずれかに記載の装置。」に訂正する。

(6)訂正事項6

特許請求の範囲の請求項12の「請求項1乃至11のいずれかに記載の装置。」を「請求項1乃至6のいずれか、または、請求項8乃至11のいずれかに記載の装置。」に訂正する。

(7)訂正事項7

特許請求の範囲の請求項13の「請求項1乃至12のいずれかに記載の装置。」を「請求項1乃至6のいずれか、または、請求項8乃至12のいずれかに記載の装置。」に訂正する。

(8)訂正事項8

特許請求の範囲の請求項14の「請求項1乃至13のいずれかに記載の装置。」を「請求項1乃至6のいずれか、または、請求項8乃至13のいずれかに記載の装置。」に訂正する。

(9)訂正事項9

特許請求の範囲の請求項16の「請求項1乃至15のいずれかに記載の装置。」を「請求項1乃至6のいずれか、または、請求項8乃至15のいずれかに記載の装置。」に訂正する。

(10)訂正事項10

特許請求の範囲の請求項17の「請求項1乃至16のいずれかに記載の装置。」を「請求項1乃至6のいずれか、請求項8乃至9のいずれか、または請求項11乃至16のいずれかに記載の装置」に訂正する。

2 訂正の適否についての当合議体の判断

(1)訂正事項1~3、5~9について

ア 訂正の目的について

訂正事項1~3、5~9に係る訂正は、本件訂正前の請求項7を削除し、当該削除に伴い他の請求項における引用関係を整理するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、及び特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の追加の有無について

訂正事項1~3、5~9に係る訂正は、上記アのとおり請求項の削除と引用関係の整理を行うものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について

訂正事項1~3、5~9に係る訂正は、上記アのとおり請求項の削除と引用関係の整理を行うものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 独立特許要件について

本件は、本件訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(2)訂正事項4について

ア 訂正の目的について

訂正事項4に係る訂正は、本件訂正前の請求項10の「前記触媒被覆基板は、炭素布と、炭素紙と、炭素フェルトと、ステンレス鋼フォームと、ニッケルベースのフォームと、のいずれか1つであることができる」との記載における「前記触媒被覆基板」を、「前記触媒被覆基板の基板」に訂正するものである。

ここで「炭素布と、炭素紙と、炭素フェルトと、ステンレス鋼フォームと、ニッケルベースのフォームと、のいずれか1つ」(以下、「炭素布等」という。)は触媒被覆を備える材でないことは明らかであり、また本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0024】の記載を踏まえると、「炭素布等」は触媒を被覆するための基板、すなわち「触媒被覆基板の基板」であることは明らかである。

したがって、訂正事項4に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の追加の有無について

訂正事項4に係る訂正は、上記アのとおり本件明細書の【0024】から把握される内容に基づくものであるから、訂正事項4に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について

訂正事項2に係る訂正は、本件訂正前の「触媒被覆基板」が「炭素布等」であるという、上記アで検討したとおり明らかに不合理であった記載を釈明するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 独立特許要件について

本件は、本件訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(3)訂正事項10について

ア 訂正の目的について

訂正事項10に係る訂正は、請求項17について、請求項7、10を引用しないものとする補正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、及び特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の追加の有無について

訂正事項10に係る訂正は、上記アのとおり引用する請求項の数を減少させるものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について

訂正事項10に係る訂正は、上記アのとおり引用する請求項の数を減少させるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 独立特許要件について

本件は、本件訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3 一群の請求項について

本件訂正前の請求項7~17について、訂正前の請求項8~17はそれぞれ請求項7を直接又は間接的に引用するものであって、請求項7の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項7~17に対応する本件訂正後の請求項7~17は一群の請求項である。

ここで、本件訂正請求について、「訂正後の請求項8~17については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求める。」との求めがなされている。

よって、本件訂正請求は、訂正後の請求項7、〔8~17〕を訂正単位とする訂正を請求するものである。

4 本件訂正請求についてのむすび

以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とし、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

したがって、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔7〕、〔8~17〕について訂正することを認める。

第3 本件発明

上記第2の4のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、本件特許の請求項1~17に係る発明は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項7~17に記載されたものと、本件訂正の対象となっていない特許請求の範囲の請求項1~6に記載された、次のとおりのものである。なお、以下において、本件特許の訂正後の請求項1~17に係る発明をそれぞれ「本件発明1」~「本件発明17」といい、これらを総称して「本件発明」という。

「【請求項1】

含水液体からの水素と酸素との電解的製造のための装置であって、

アノード電極を含むアノードハーフセルと、

カソード電極を含むカソードハーフセルと、

前記アノードハーフセルと前記カソードハーフセルとの間に位置する陰イオン交換膜(AEM)と、

を有してなり、

前記アノード電極と前記カソード電極と前記AEMとは、MEAを形成し、

前記アノードハーフセルと前記カソードハーフセルとの一方のみに、前記含水液体を供給する手段が設けられ、

少なくとも、他方の、実質的に乾式のハーフセルの電極は、アイオノマフリーおよび/またはバインダフリーであり、

前記AEMは、ポリマ主鎖の架橋を含み、官能基と結合した前記ポリマ主鎖から形成されて、

前記官能基は、アンモニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、のうちのいずれか1つまたは複数であり、

前記含水液体は、前記アノードハーフセルに供給され、他方の、実質的に乾式の前記ハーフセルは、前記カソードハーフセルである、

ことを特徴とする装置。

【請求項2】

前記装置は、7以上のpHを有する前記含水液体からの水素と酸素との電解的製造のための装置である、

請求項1記載の装置。

【請求項3】

前記装置は、12と14との間のpHを有する前記含水液体からの水素と酸素との電解的製造のための装置である、

請求項1記載の装置。

【請求項4】

前記装置は、0.1%と10%との間のKOHを含む前記含水液体からの水素と酸素との電解的製造のための装置である、

請求項1乃至3のいずれかに記載の装置。

【請求項5】

前記装置は、40°C乃至80°Cの範囲の温度において水素と酸素との電解的製造のための装置である、

請求項1記載の装置。

【請求項6】

前記電極は、再生可能エネルギの供給源である電源に接続される、

請求項1乃至5のいずれかに記載の装置。

【請求項7】(削除)

【請求項8】

前記装置は、1バールを超える高圧で水素を生成する、

請求項1乃至6のいずれかに記載の装置。

【請求項9】

前記アノード電極または前記カソード電極のいずれかは、

触媒被覆膜、

触媒被覆基板、または、

直接堆積、

により製造される、

請求項1乃至6のいずれか、または、請求項8に記載の装置。

【請求項10】

前記触媒被覆基板の基板は、

炭素布と、

炭素紙と、

炭素フェルトと、

ステンレス鋼フォームと、

ニッケルベースのフォームと、

のいずれか1つであることができる、

請求項9記載の装置。

【請求項11】

触媒は、白金族を含まない金属製である、

請求項1乃至6のいずれか、または、請求項8乃至10のいずれかに記載の装置。

【請求項12】

酸素発生反応のためのアノードにおける触媒は、非化学量論的遷移金属酸化物を含む、

請求項1乃至6のいずれか、または、請求項8乃至11のいずれかに記載の装置。

【請求項13】

水素発生反応のためのカソードにおける触媒は、

カルコゲニド、

ニクトゲン化物、

遷移金属硫化物、

遷移金属リン化物、

導電性基板に分散された遷移金属、または、

スピネル構造もしくはペロブスカイト構造を有する他の非化学量論的な遷移金属酸化物

または遷移金属錯体、

を含む、

請求項1乃至6のいずれか、または、請求項8乃至12のいずれかに記載の装置。

【請求項14】

前記官能基は、陰イオンを輸送するのに適していて、

前記ポリマ主鎖は、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリベンズイミダゾール、ポリフェニレンオキシド、スチレンブタジエンブロック共重合体、ポリエチレンのいずれか1つである、

請求項1乃至6のいずれか、または、請求項8乃至13のいずれかに記載の装置。

【請求項15】

前記ポリマ主鎖と前記官能基との間にスペーサが存在する、

請求項14記載の装置。

【請求項16】

前記アノード電極と前記カソード電極とは、バインダフリーである、

請求項1乃至6のいずれか、または、請求項8乃至15のいずれかに記載の装置。

【請求項17】

前記アノード電極と前記カソード電極とは、

触媒被覆膜、または、

直接堆積、

により製造される、

請求項1乃至6のいずれか、請求項8乃至9のいずれか、または請求項11乃至16のいずれかに記載の装置。」

第4 申立理由の概要

申立人は、証拠方法として、以下の3に示す甲第1~21号証(以下、それぞれ「甲1」等という。)を提出し、以下の申立理由1、2により、本件特許の請求項1~17に係る特許を取り消すべきである旨主張している。

1 申立理由1(進歩性、取消理由として不採用)

本件訂正前の請求項1~17に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2~5、11~21に記載された事項並びに周知技術(甲6~10)に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 申立理由2(記載不備)

(1)申立理由2-1(サポート要件及び実施可能要件、取消理由として不採用)

本件特許の本件訂正前の請求項1には「少なくとも、他方の、実質的に乾式のハーフセルの電極は、アイオノマフリーおよび/またはバインダフリーであり」との構成が記載され、本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0024】には「アイオノマおよび/またはバインダの必要性を排除するために、触媒がDDまたはCCMのいずれかに含まれることが想定される」との説明が記載されている。

しかしながら、触媒については、請求項1において何ら規定されておらず、請求項1の装置においては、「触媒がDDまたはCCMのいずれかに含まれ」ていない場合が含まれている。また、本件明細書にも、触媒がいずれかの電極に含まれた具体的な実施形態や実施例は一つも記載されていない。

よって、本件特許の本件訂正前の請求項1~17に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

また、本件特許の本件訂正前の請求項1~17に係る特許は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)申立理由2-2(サポート要件及び実施可能要件、取消理由として不採用)

本件特許の本件訂正前の請求項1には「前記官能基は、アンモニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、のうちのいずれか1つまたは複数であり」との構成が記載され、本件明細書の【0031】には「適切なイオンには、アンモニウム、スルホニウム、またはホスホニウム塩が含まれる」との説明が記載されている。

しかしながら、本件明細書には、列挙されたアンモニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩のいずれかを用いた実施例は一つも記載されていない。

よって、本件特許の本件訂正前の請求項1~17に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

また、本件特許の本件訂正前の請求項1~17に係る特許は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)申立理由2-3(サポート要件及び実施可能要件、取消理由として不採用)

本件特許の本件訂正前の請求項2には「前記装置は、7以上のpHを有する前記含水液体からの水素と酸素との電解的製造のための装置である」との構成が記載され、本件特許の本件訂正前の請求項3には「前記装置は、12と14との間のpHを有する前記含水液体からの水素と酸素との電解的製造のための装置である」との構成が記載されている。

しかしながら、本件明細書には、請求項2や請求項3に記載したpHの条件下で行われた実施例や比較例などが全く記載されていない。

よって、本件特許の本件訂正前の請求項2~4、6~17に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

また、本件特許の本件訂正前の請求項2~4、6~17に係る特許は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(4)申立理由2-4(明確性要件、取消理由として採用)

本件特許の本件訂正前の請求項4には「前記装置は、0.1%と10%との間のKOHを含む前記含水液体からの水素と酸素との電解的製造のための装置である」との構成が記載されている。

しかしながら、本件明細書の記載を参酌しても、上記構成における「0.1%」及び「10%」との記載は、質量パーセント濃度を表しているのか体積パーセント濃度を表しているのかが不明である。

よって、本件特許の本件訂正前の請求項4、6~17に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(5)申立理由2-5(明確性要件、取消理由として一部採用)

本件特許の本件訂正前の請求項5には「前記装置は、40°C乃至80°Cの範囲の温度において水素と酸素との電解的製造のための装置である」との構成が記載されている。

しかしながら、本件明細書の記載を参酌しても、「40°C乃至80°Cの範囲の温度において」とは、いつの段階のどこの温度を表しているのかが不明である。

よって、本件特許の本件訂正前の請求項5~17に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(6)申立理由2-6(サポート要件及び実施可能要件、取消理由として一部採用)

本件特許の本件訂正前の請求項7には「前記MEAは、前記ポリマ主鎖と触媒との間の分子間結合力を改善すること、より大きな膜厚、または、上記のいずれかの組み合わせ、のうちの1つまたは複数により、バインダフリーである」との構成が記載され、本件訂正前の請求項16には「前記アノード電極と前記カソード電極とは、バインダフリーである」との構成が記載されている。

しかしながら、請求項7の上記構成における「前記ポリマ主鎖と触媒との間の分子間結合力を改善する」とは具体的にどのようにすることなのか、本件明細書には具体的な実施例や比較例などが全く記載されていない。

また、本件明細書の【0017】には、バインダが存在しないことにより生じ得る「膜からの剥離」、「触媒層の安定性の確保」等の課題が記載され、そのために採用し得る構成として「膜のポリマ主鎖の架橋」、「より厚い膜の使用」、「ポリマと触媒との分子間結合力の改善」等が挙げられているが、バインダフリーとしたことにより上記課題を解決できたのかどうかも不明である。

よって、本件特許の本件訂正前の請求項7~17に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

また、本件特許の本件訂正前の請求項7~17に係る特許は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

3 証拠方法

甲第1号証:国際公開第2011/004343号

甲第2号証:国際公開第2018/026743号

甲第3号証:特表2013-505825号公報

甲第4号証:特開2018-127506号公報

甲第5号証:国際公開第2016/147720号

甲第6号証:西敏夫、“架橋の物理化学”、日本ゴム協会誌、一般社団法人日本ゴム協会、2002年、第75巻、第2号、第48~54ページ

甲第7号証:三菱ケミカル株式会社ウェブサイト 強塩基性陰イオン交換樹脂ダイヤイオンシリーズ(2017年9月13日公開又は更新(WayBackMachine))

https://www.m-chemical.co.jp/products/departments/mcc/ion/product/1200471_7274.html

甲第8号証:特開平2-35448号公報

甲第9号証:西村正人、“イオン交換膜の知識と応用”、実務表面技術、社団法人金属表面技術協会、1974年8月1日、第21巻、第8号、第376~384ページ

甲第10号証:試薬ダイレクト(林純薬工業) 1%水酸化カリウム溶液GR(20L)ウェブサイトに掲載のSDS(安全データシート)、2010年12月10日

https://direct.hpc-j.co.jp/shop/g/g16689-1/?srsltid=AfmBOopamzkYPzB49CTBxG2HhrUGCTMRUZkrz2V09wHSIg9YE3W8uhAH

甲第11号証:竹中啓恭、外4名、“固体高分子電解質水電解に関する研究II. 膜-触媒電極接合体の作製方法”、電気化学および工業物理化学、公益社団法人電気化学会、1985年4月5日、第53巻、第4号、第261~265ページ

甲第12号証:竹中啓恭、外4名、“固体高分子電解質水電解の研究IV. 電流効率とガス純度”、電気化学および工業物理化学、公益社団法人電気化学会、1989年3月5日、第57巻、第3号、第229~236頁

甲第13号証:川口奈月、“アニオン交換膜水電解における電極構造最適化および基礎特性評価”、東京大学新領域創成科学研究科環境学研究系人間環境学専攻学位論文(修士論文)要旨、2019年2月15日

https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/records/51504

甲第14号証:日野上麗子、外2名、“水電解アノード触媒開発における第一原理計算の活用”、パナソニック技報、パナソニックホールディングス株式会社、2017年5月15日、第63巻、第1号、第89~94ページ

https://holdings.panasonic/jp/corporate/technology/technology-journal/back-number/v6301.html

甲第15号証:Huawei Huang et al., “Iron-tuned super nickel phosphide microstructures with high activity for electrochemical overall water splitting”, Nano Energy, 2017年3月8日, Volume 34, p.472-480

甲第16号証:Feng-Cui Shen et al., “Hierarchically phosphorus doped bimetallic nitrides arrays with unique interfaces for efficient water splitting”, Applied Catalysis B: Environmental, 2018年10月9日, Volume 243, p.470-480

甲第17号証:Kaili Sun et al., “High-performance Fe-Co-P alloy catalysts by electroless deposition for overall water splitting”, International Journal of Hydrogen Energy, 2018年12月17日, Volume 44, p.1328-1335

甲第18号証:特開昭55-31195号公報

甲第19号証:特開2009-179871号公報

甲第20号証:特開2016-216826号公報

甲第21号証:元根正晴、外5名、“OH

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伝導型固体高分子電解質水電解に関する研究I. 槽電圧特性に及ぼす表面粗化とニッケル電極触媒量の影響”、電気化学および工業物理化学、公益社団法人電気化学会、1994年1月5日、第62巻、第1号、第71~77ページ

第5 令和 7年 3月28日付け取消理由の概要

当合議体は、上記第4の各申立理由のうち、申立理由2-4を採用し、申立理由2-5、2-6のそれぞれ一部を採用するとともに、職権により発見した理由を追加し、以下の取消理由1~6を通知した。

1 取消理由1(明確性要件、申立理由2-4)

(1)本件特許の本件訂正前の請求項4には「0.1%と10%との間のKOHを含む前記含水液体」と記載されている。

(2)ここで、上記「0.1%」及び「10%」が質量パーセント濃度と体積パーセント濃度のいずれを表しているのかについては、本件明細書において何ら説明がされていないため不明である。また、本件特許の出願時の技術常識を踏まえても、いずれと解すべきかが一義的に定まるとはいえない。

(3)したがって、本件訂正前の請求項4に係る発明が明確であるとはいえない。また、請求項4の記載を直接又は間接的に引用する請求項6~17の記載についても同様であるから、本件訂正前の請求項6~17に係る発明も明確であるとはいえない。

(4)よって、本件特許の本件訂正前の請求項4、6~17の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

2 取消理由2(明確性要件、申立理由2-5の一部)

(1)本件特許の本件訂正前の請求項5には「前記装置は、40°C乃至80°Cの範囲の温度において水素と酸素との電解的製造のための装置である」と記載されている。

(2)ここで、上記「40°C乃至80°Cの範囲の温度」がいつの段階のどこの温度を表しているのかについては、本件明細書において何ら説明がされていないが、本件訂正前の請求項5に係る発明が「水素と酸素との電解的製造のための装置」であることに照らせば、水素と酸素との電解的製造時(装置稼働時)の電解装置セル1a(図1A参照)の温度を表していると解される。

(3)しかしながら、本件明細書の【0035】に記載のとおり、電解装置セル1aは、アノードハーフセル3と、カソードハーフセル4と、MEA10と、を含むものであり、各電極で生じる半反応の違いや各ハーフセルにおける水溶液の導入の有無を考慮すると、電解装置セル1a内の場所によって温度は異なると解されるから、上記「40°C乃至80°Cの範囲の温度」がどの場所における温度を表しているのか不明である。

(4)したがって、本件訂正前の請求項5に係る発明が明確であるとはいえない。また、請求項5の記載を直接又は間接的に引用する請求項6~17の記載についても同様であるから、本件訂正前の請求項6~17に係る発明も明確であるとはいえない。

(5)よって、本件特許の本件訂正前の請求項5~17の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

3 取消理由3(実施可能要件、申立理由2-6の一部)

(1)本件特許の本件訂正前の請求項7には「前記MEAは、前記ポリマ主鎖と触媒との間の分子間結合力を改善すること、より大きな膜厚、または、上記のいずれかの組み合わせ、のうちの1つまたは複数により、バインダフリーである」と記載されている。

(2)ここで、上記「ポリマ主鎖と触媒との間の分子間結合力を改善する」については、本件明細書において詳細が記載されていないため、ポリマ主鎖と触媒とをどのような関係(材料の組合せ、配置等)にすると両者間の分子間結合力を改善することができるのか理解できない。

(3)したがって、本件訂正前の請求項7に係る発明を当業者が実施できるとはいえない。また、請求項7の記載を直接又は間接的に引用する請求項8~17の記載についても同様であるから、本件訂正前の請求項8~17に係る発明も当業者が実施できるとはいえない。

(4)よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許の本件訂正前の請求項7~17に係る発明について当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第4項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

4 取消理由4(明確性要件、職権により追加)

(1)本件特許の本件訂正前の請求項7には「前記MEAは、前記ポリマ主鎖と触媒との間の分子間結合力を改善すること、より大きな膜厚、または、上記のいずれかの組み合わせ、のうちの1つまたは複数により、バインダフリーである」と記載されている。

(2)ここで、上記「より大きな膜厚」については、本件明細書の記載及び本願出願時の技術常識を考慮しても、大きさの比較の基準が不明であるから、不明確な記載であるといえる。

(3)したがって、本件訂正前の請求項7に係る発明が明確であるとはいえない。また、請求項7の記載を直接又は間接的に引用する請求項8~17の記載についても同様であるから、本件訂正前の請求項8~17に係る発明も明確であるとはいえない。

(4)よって、本件特許の本件訂正前の請求項7~17の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

5 取消理由5(明確性要件、職権により追加)

(1)本件特許の本件訂正前の請求項10には「前記触媒被覆基板は、炭素布と、炭素紙と、炭素フェルトと、ステンレス鋼フォームと、ニッケルベースのフォームと、のいずれか1つであることができる」と記載されている。

(2)ここで、上記(1)の記載からすると、「炭素布」等は、触媒を含む「触媒被覆基板」であると解される。

(3)一方、本件明細書の【0024】に「触媒でコーティングされた基板を使用してもよいと考えられ、例えば、炭素ベースの布、紙、またはフェルト、ステンレス鋼フォームまたはニッケルベースのフォームなどである」と記載されていることからすると、「炭素布」等は、触媒が被覆される「基板」であるとも解される。

(4)そうすると、上記(2)と(3)のいずれと解すべきかが不明であるため、本件訂正前の請求項10に係る発明が明確であるとはいえない。また、請求項10の記載を直接又は間接的に引用する請求項11~17の記載についても同様であるから、本件訂正前の請求項11~17に係る発明も明確であるとはいえない。

(5)よって、本件特許の本件訂正前の請求項10~17の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

6 取消理由6(明確性要件、職権により追加)

(1)本件特許の本件訂正前の請求項17には「前記アノード電極と前記カソード電極とは、触媒被覆膜、または、直接堆積、により製造される、請求項1乃至16のいずれかに記載の装置。」と記載されている。

(2)ここで、上記(1)の記載からすると、請求項17の記載は、請求項10の記載を引用し得るものであるが、請求項10の記載(請求項9も参照のこと。)は「前記アノード電極または前記カソード電極のいずれかは、」「触媒被覆基板」「により製造される」ことを特定するものであり、請求項17の記載が請求項10の記載を引用する場合、アノード電極とカソード電極の両方が「触媒被覆膜、または、直接堆積、により製造される」ことはあり得ないといえる。

(3)したがって、請求項17の記載は、矛盾する事項を含むものであるから、本件訂正前の請求項17に係る発明が明確であるとはいえない。

(4)よって、本件特許の本件訂正前の請求項17の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

第6 当合議体の判断

以下に述べるとおり、当合議体は、上記第4の申立理由1、2-1~2-6、上記第5の取消理由1~6のいずれによっても、本件特許の請求項1~17に係る特許を取り消すことができないと判断する。

1 申立理由1(進歩性)について

(1)甲1の記載事項

本願の出願前に公知となった甲1には、以下の記載がある。なお、原文は省略し、当審訳のみを記載する。

ア「本発明は、電気分解による水素の生産のための装置の分野に関する。」(第1頁第5~6行)

イ「水の電気分解は、水素を製造するために用いられる方法の中でも、高純度のガスを得ることを可能にするものであり、電気分解のためのエネルギー源は、再生可能な供給源に起因する場合には、環境への影響が少ない点である。」(第1頁第12~14行)

ウ「本発明の目的は、水性溶液、場合によっては直接再生可能なエネルギー源から供給される、間欠の電気分解により、純粋で乾燥した、加圧された水素の生産は、工業的スケールであっても、安全な装置を提供することである。」(第2頁第30行~第3頁第2行)

エ「本発明により、水素産生のために現在市販されている電解装置に関連する問題を克服することができる。水性アルカリ溶液から水素を電解製造するための電解装置を用い、乾燥カソードから開始され、デバイスは以下を含む(図1参照):

-アノード(4)とカソード(1)の2つのハーフセルがアニオン交換膜(AEM)によって分離され、カソードハーフセルと接触するAEM表面は、膜電極アセンブリ(MEA)であり、

-アルカリ溶液は、アノードハーフセル(4)にのみ存在する。」(第3頁第9~17行)

オ「膜の間の密接な接触を可能にするために、カソード電極は、イオン交換膜上に直接堆積されMEA(膜-電極接合体)デバイスとしたカソード電極触媒からなることが好ましい。

MEAの種類としては、限定はされないが、米国特許第WO2006/074829に記載されているもの、またはアルカリ水溶液の電気分解反応の促進において活性を有するとして文献に記載されているものを用いることができる。アノードハーフセルの電解触媒に適当な導電性基材は、種々のワイヤメッシュおよびテクスチャ、あるいはイオン交換膜(MEA)上に直接堆積させることができる。

装置の動作電圧を低減するために、活性アノードおよびカソードの電極触媒は、非貴金属(例えばFe、Cu、Co、Ni、Zn、Mo、Mn)または貴金属(Re、Ru、Rh、Os、Ir、Pt、Pd、Au、Agなどに限定されない)に基づいて、水電解反応のための公知の、例えば金属又は金属合金を使用することができる。例えば、電極触媒としてのMn、Mo、Fe、Co、Ni、Pd、Irおよびそれらの混合物を含むWO2007/082898に記載されているものを使用することができる。」(第4頁第8~24行)

カ「実施例1-アノード電極の製造

4.5gのCuSO

4

・5H

2

Oと10gのCoCl

2

・6H

2

Oを蒸留水200mLに溶解した。この溶液を150mLの蒸留水に溶解した12gのNa

2

CO

3

の溶液に添加した。形成された沈殿物を濾過し、水で洗浄した。粉末を、真空オーブン中で乾燥させた後、空気中、400°Cで5時間にわたって熱分解した。混合物をテフロン(登録商標)10重量%蒸留水溶液と混合し、塗布可能なペーストを得るのに十分な量とした。このペーストは、金属ニッケルの網の上に適用した。

実施例2-膜カソード電極接合体の製造

直径50mmの円形としたアニオン交換膜Acta M6(特許WO2009/007922の実施例1と同様に、試料SBSF14を調製)を1M KOH溶液で1時間処理して膜をヒドロキシル形態に交換可能とし、これを内径48mmの環状の中空金型内に固定し、シールした。

2gのNiSO

4

・6H

2

Oと、2gのNaH

2

PO

3

と、5gのクエン酸ナトリウムを100mlの蒸留水に溶解し、次いで、水酸化アンモニウムでpHを10に加えることによって作製した溶液を、金型キャビティ内に配置し、膜の一方の表面と接触させた。1.5時間後、この溶液を鋳型から除去し、次いで、膜を脱イオン水で3回洗浄した。

実施例3-装置の組み立て

1つの好ましいセル装置は、組み付けたMEA2に直接接触させてカソード側のみ金属被覆され(実施例2に記載されたように)、アノード3は実施例1に沿って製造されている。アノードハーフセル4は、アルカリ溶液が供給され、カソードハーフセルは、電解プロセスによって生成した水素のみを含有している。

実施例4-水素製造

電解装置の電極の総面積は78.5cm

2

であった。アノードハーフセルは、1重量%KOHを含有するアルカリ水溶液を供給した。

セル温度は30°Cであり、印加電圧は1.9V、電流密度0.5A/cm

2

であった。測定された1時間当たりの生産量は13.5L/時間であり(誘導電流効率75%)、50バールの圧力に達した。試験は、生成される水素の量の有意な変化なしに1008時間(6週間)を行った。

実施例5-水素製造

電解装置の電極の総面積は63.6cm

2

であった。アノードハーフセルは、1重量%K

2

CO

3

を含有するアルカリ水溶液を供給した。

セル温度は45°Cであり、印加された電圧は、対応する電流密度0.47A/cm

2

で2.25Vであった。測定された1時間当たりの生産量は14.3L/時間であり(104%の誘導電流効率)、40barの圧力に達した。また、テストは、生成される水素の量の有意な変化を伴わずに4週間行った。」(第6頁第14行~第8頁第2行)

(2)甲1に記載された発明

ア 上記(1)エに記載されるとおり、甲1には水性アルカリ溶液から水素を電解製造するための電解装置であって、乾燥カソードハーフセルと、アルカリ溶液が存在するアノードハーフセルと、これらを分離するアニオン交換膜(AEM)とを備え、カソードハーフセルと接触するAEM表面は膜電極接合体(MEA)である、電解装置が記載されている。また、上記(1)カには、水性アルカリ溶液として1重量%KOHを用いることも記載されている(実施例4)。

イ 上記アの電解装置の各部位について、上記(1)カには、以下のような具体例が示されている。

(ア)「4.5gのCuSO

4

・5H

2

Oと10gのCoCl

2

・6H

2

Oを蒸留水200mLに溶解し」、「この溶液を150mLの蒸留水に溶解した12gのNa

2

CO

3

の溶液に添加し」、「形成された沈殿物を濾過し、水で洗浄し」、「粉末を、真空オーブン中で乾燥させた後、空気中、400°Cで5時間にわたって熱分解し」、「混合物を蒸留水にテフロン(登録商標)10重量%と混合し」、「塗布可能なペースト」としたものから得られたアノード電極(実施例1)。

(イ)「直径50mmの円形としたアニオン交換膜Acta M6(特許WO2009/007922の実施例1と同様に、試料SBSF14を調製)」、及び、「2gのNiSO

4

・6H

2

Oと、2gのNaH

2

PO

3

と、5gのクエン酸ナトリウムを100mlの蒸留水に溶解し、次いで、水酸化アンモニウムでpHを10に加えることによって作製した溶液を、」「膜の一方の表面と接触させた」ことによる、膜カソード電極接合体(実施例2)。

(ウ)ここで、上記(イ)の「Acta M6(特許WO2009/007922の実施例1と同様に、試料SBSF14を調製)」について、WO2009/007922A2の実施例1の「SBSF14」を参照すると、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)にp-クロロメチルスチレン(VBC)をグラフトした後、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(Dabco)で処理し、所定の四級アンモニウム基(Claim 1のformula(II)を参照。)を導入したものであることが把握される。

ウ 上記ア、イを総合すると、甲1には以下の発明が記載されている。

「1重量%KOHの水性アルカリ溶液から水素を電解製造するための電解装置であって、乾燥カソードハーフセルと、水性アルカリ溶液が存在するアノードハーフセルと、これらを分離するアニオン交換膜(AEM)とを備え、

前記カソードハーフセルと接触するAEM表面は膜電極接合体(MEA)であり、

該MEAは、2gのNiSO

4

・6H

2

Oと、2gのNaH

2

PO

3

と、5gのクエン酸ナトリウムを100mlの蒸留水に溶解し、次いで、水酸化アンモニウムでpHを10に加えることによって作製した溶液を、所定の四級アンモニウム基を有するアニオン交換膜Acta M6の一方の表面と接触させることで形成され、

該アノードハーフセルは、4.5gのCuSO

4

・5H

2

Oと10gのCoCl

2

・6H

2

Oを蒸留水200mLに溶解し、この溶液を150mLの蒸留水に溶解した12gのNa

2

CO

3

の溶液に添加し、形成された沈殿物を濾過し、水で洗浄し、真空オーブン中で乾燥させた後、空気中、400°Cで5時間にわたって熱分解し、混合物を蒸留水にテフロン(登録商標)10重量%と混合し、塗布可能なペーストとした上で形成されたものである、

電解装置」(以下、「甲1発明」という。)

(3)本件発明1について

ア 対比

本件発明1と甲1発明とを対比する。

(ア)甲1発明における「1重量%KOHの水性アルカリ溶液」は含水液体であるから、「1重量%KOHの水性アルカリ溶液から水素を電解製造するための電解装置」は、本件発明1の「含水液体からの水素と酸素との電解的製造のための装置」に相当する。

(イ)甲1発明における「乾燥カソードハーフセル」について、当該セルがカソード電極を含むことは明らかであるから、本件発明1の「カソード電極を含むカソードハーフセル」、「実質的に乾式の前記ハーフセル」に相当する。

(ウ)甲1発明における「水性アルカリ溶液が存在するアノードハーフセル」について、当該セルがアノード電極を含むことは明らかであるから、本件発明1の「アノード電極を含むアノードハーフセル」に相当し、また当該セルが存在する装置は「含水液体は、前記アノードハーフセルに供給され」るものである。

(エ)甲1発明における「乾燥カソードハーフセルと、水性アルカリ溶液が存在するアノードハーフセルと」「を備え」る「電解装置」は、本件発明1の「前記アノードハーフセルと前記カソードハーフセルとの一方のみに、前記含水液体を供給する手段が設けられ」る「装置」に相当する。

(オ)甲1発明における「乾燥カソードハーフセルと、水性アルカリ溶液が存在するアノードハーフセルと、これらを分離するアニオン交換膜(AEM)」における「アニオン交換膜(AEM)」は、本件発明1の「アノードハーフセルと前記カソードハーフセルとの間に位置する陰イオン交換膜(AEM)」に相当する。また、甲1発明の「アニオン交換膜(AEM)」の具体例である「所定の四級アンモニウム基を有するアニオン交換膜Acta M6」について、「四級アンモニウム基」は「アンモニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、のうちのいずれか1つ」であるから、本件発明1の「官能基と結合した前記ポリマ主鎖から形成されて、前記官能基は、アンモニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、のうちのいずれか1つまたは複数であ」る「AEM」に相当する。

(カ)甲1発明の「前記カソードハーフセルと接触するAEM表面は膜電極接合体(MEA)であり、該MEAは、2gのNiSO

4

・6H

2

Oと、2gのNaH

2

PO

3

と、5gのクエン酸ナトリウムを100mlの蒸留水に溶解し、次いで、水酸化アンモニウムでpHを10に加えることによって作製した溶液を、所定の四級アンモニウム基を有するアニオン交換膜Acta M6の一方の表面と接触させることで形成され」た、という構成において、「カソードハーフセル」は、「2gのNiSO

4

・6H

2

Oと、2gのNaH

2

PO

3

と、5gのクエン酸ナトリウムを100mlの蒸留水に溶解し、次いで、水酸化アンモニウムでpHを10に加えることによって作製した溶液」から形成されており、この溶液の原料にアイオノマやバインダを含まないことは明らかであるから、本件発明1の「実質的に乾式のハーフセルの電極は、アイオノマフリーおよび/またはバインダフリーであ」る構成に相当する。

(キ)上記(ア)~(カ)を踏まえると、本件発明1と甲1発明とは、

「含水液体からの水素と酸素との電解的製造のための装置であって、

アノード電極を含むアノードハーフセルと、

カソード電極を含むカソードハーフセルと、

前記アノードハーフセルと前記カソードハーフセルとの間に位置する陰イオン交換膜(AEM)と、

を有してなり、

前記アノードハーフセルと前記カソードハーフセルとの一方のみに、前記含水液体を供給する手段が設けられ、

少なくとも、他方の、実質的に乾式のハーフセルの電極は、アイオノマフリーおよび/またはバインダフリーであり、

前記AEMは、官能基と結合した前記ポリマ主鎖から形成されて、

前記官能基は、アンモニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、のうちのいずれか1つまたは複数であり、

前記含水液体は、前記アノードハーフセルに供給され、他方の、実質的に乾式の前記ハーフセルは、前記カソードハーフセルである、

ことを特徴とする装置。」

の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>

本件発明1に係る装置では、「前記アノード電極と前記カソード電極と前記AEMとは、MEAを形成し」ているのに対し、甲1発明に係る電解装置では「前記カソードハーフセルと接触するAEM表面は膜電極接合体(MEA)であ」るものの、アノードハーフセルの電極とAEM表面とがMEAを形成しているか不明である点。

<相違点2>

本件発明1に係る装置では、「AEMは、ポリマ主鎖の架橋を含」むのに対し、甲1発明に係る電解装置では「AEM」である「アニオン交換膜Acta M6」は、ポリマ主鎖の架橋を含まない点。

イ 判断

事案に鑑み、相違点2について検討する。

(ア)相違点2が実質的な相違点であることは明らかである。

(イ)ここで、申立人は上記第4の1に記載したとおり、本件発明1~17は、甲1に記載された発明及び甲2~5、11~21に記載された事項並びに周知技術(甲6~10)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張しているところ、特に本件発明1と甲1発明との相違点2に係る点(特許異議申立書第32~33頁の「相違点1」に対応。)に着目すると、甲2、甲3及び周知技術(甲6)、並びに、周知技術(甲7~9)に基づいて主張を行っている。具体的には、甲2、甲3及び周知技術(甲6)について、甲2、3には「AEMは、ポリマ主鎖の架橋を含む」構成が開示されており、甲6には「高分子が架橋すると強度や耐熱性が向上する」ことが開示されていることから、甲1発明に甲2発明、甲3発明及び周知技術(甲6)を組み合わせて、相違点2に係る構成とすることは当業者が容易になし得ることである旨を主張している。また、周知技術(甲7~9)について、甲7には市販されているイオン交換樹脂として「強塩基性陰イオン交換樹脂は、架橋したスチレン骨格に四級アンモニウム基を持つ陰イオン交換樹脂」であることが開示されており、甲8にはスチレンブタジエン共重合体に四級アンモニウム基を導入した陰イオン交換膜が記載されており、甲9には「イオン交換膜とは、高分子の電解質であるイオン交換樹脂を膜状にしたもの」と記載されているから、甲1発明の装置において、水酸化物イオンを適切に輸送するために、甲7~9等に開示されているイオン交換膜に関する周知技術に基づいて、相違点2に係る構成とすることは、格別な創作性を必要とせず、設計事項に過ぎない旨を主張している。

(ウ)しかし、甲2に記載されたポリマは、式(A)の繰り返し単位を含む架橋ポリマ(請求項1等を参照。)であり、甲3に記載されたポリマも、少なくとも部分的にフッ素化された多環芳香族ポリマ主鎖と、それからペンダントしている少なくとも1つの陽イオン性官能基とを含むポリマ(請求項1等を参照。)であり、いずれも甲1発明の電解装置に用いられた「Acta M6」とは、架橋の有無のみならず、ポリマ主鎖の構造を含めて大きく異なるものである。

したがって、甲1~3に触れた当業者が、甲1発明のActa M6を、甲2、甲3に記載される主鎖の異なるポリマと同様に架橋しようとする動機付けがあるとはいえない。この点は、甲6に記載された高分子の架橋に関する周知の技術的事項を加味しても、同様である。

(エ)また、甲7~9に記載されるように、陰イオン交換樹脂として架橋されたものが公知であり、これを成膜すれば陰イオン交換膜が得られることは把握できたとしても、甲1発明の「Acta M6」を別の樹脂に敢えて変更する動機付けがあるとはいえない。

(オ)したがって、甲2、甲3及び周知技術(甲6)、又は、周知技術(甲7~9)を考慮しても、相違点2に係る点は、当業者にとって容易に想到し得たものであるとはいえない。

ウ よって、相違点1については検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明と、甲2、甲3及び周知技術(甲6)、又は、周知技術(甲7~9)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明2~6、8~17について

本件発明1を直接又は間接的に引用する請求項2~6、8~17においても、甲1発明とは少なくとも上記(3)ア(キ)の相違点1、2で相違するから、上記(3)ウのとおり、本件特許発明1が甲1発明と、甲2、甲3及び周知技術(甲6)、又は、周知技術(甲7~9)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、同様に、本件発明2~6、8~17は、甲1発明と、甲2、甲3及び周知技術(甲6)、又は、周知技術(甲7~9)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)小括

以上(3)、(4)で検討したとおり、申立理由1によっては、本件特許の請求項1~6、8~17に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由2-1、2-2、2-3の内、サポート要件について

(1)解決しようとする課題

本件発明の解決しようとする課題は、「水素の製造のための改良された装置を提供すること」(本件明細書【0007】)であると把握される。

(2)課題を解決する手段

上記課題を解決する手段として、本件明細書には以下の記載がある。

「アイオノマおよび/またはバインダの添加はコストを追加し、またパフォーマンスの低下につながる可能性がある。例えば、アイオノマは耐久性を低下させる可能性がある一方、バインダは導電率に影響を与える。」、「本発明によれば、...実質的に乾式のハーフセルの電極は、アイオノマフリーおよび/またはバインダフリーである」(本件明細書【0006】、【0008】)

(3)判断

本件発明1が「少なくとも、他方の、実質的に乾式のハーフセルの電極は、アイオノマフリーおよび/またはバインダフリーであり」との特定事項を備えていることにより、アイオノマおよび/またはバインダを添加する必要がない点で、水素の製造のための装置が改良されているといえるから、上記課題が解決されることは明らかである。

また、本件発明1が「前記AEMは」、「官能基と結合した前記ポリマ主鎖から形成されて、前記官能基は、アンモニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、のうちのいずれか1つまたは複数であり」との特定事項を備えている点、及び、本件発明2、3が「前記装置は、7以上のpHを有する前記含水液体からの水素と酸素との電解的製造のための装置である」、「前記装置は、12と14との間のpHを有する前記含水液体からの水素と酸素との電解的製造のための装置である」との特定事項を備えている点について、本件明細書に実施例が記載されていなくとも、上述したとおり本件発明1が「アイオノマフリーおよび/またはバインダフリーであ」るとの特定事項を備えていることにより課題が解決されることは上述のとおりであるから、申立人の主張は採用しない。

これらの点は、本件特許の請求項1、または請求項2、3を直接又は間接的に引用する請求項2~6、8~17においても同様である。

(4)小括

以上より、本件発明1~6、8~17は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるとはいえない。

したがって、本件特許の請求項1~6、8~17の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されているものであるといえ、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるといえる。

よって、申立理由2-1~2-3のうち、サポート要件違反との理由によって、本件特許の請求項1~6、8~17に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立理由2-1のうち、実施可能要件について

本件特許の請求項1の「少なくとも、他方の、実質的に乾式のハーフセルの電極は、アイオノマフリーおよび/またはバインダフリーであり」との構成について、本件明細書【0022】に「アノード電極とカソード電極との両方は、触媒被覆膜(Catalyst Coated Membrane:CCM)、触媒被覆基板(Catalyst Coated Substrate:CCS)、または直接堆積(Direct Deposition:DD)など様々なプロセスにより製造され得ることが想定されるが、これらに限定されない。」と記載されるとおり、その製造方法は限定されておらず、本件明細書【0024】にも「想定される」と記載されるとおり、「DDまたはCCM」はあくまで想定される一例に過ぎないものと解される。

また、技術常識を考慮すれば、アイオノマフリーおよび/またはバインダフリーである電極を種々の方法により製造し得ることは自明であり、実施例がないからといって、当業者が実施することができないものであるとはいえない。

この点は、本件特許の請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~6、8~17においても同様である。

したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件特許の請求項1~6、8~17について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

よって、申立理由2-1のうち、実施可能要件違反との理由によって、本件特許の請求項1~6、8~17に係る特許を取り消すことはできない。

4 申立理由2-2のうち、実施可能要件について

本件特許の請求項1の「前記AEMは」、「官能基と結合した前記ポリマ主鎖から形成されて、前記官能基は、アンモニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、のうちのいずれか1つまたは複数であり」との構成について、このような周知のポリマ(要すれば甲3の請求項18、甲4の【0033】、甲5の[0030]を参照。)を入手乃至製造することは当業者にとって容易であり、実施例が無いからといって実施をすることが困難であるとはいえない。

この点は、本件特許の請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~6、8~17においても同様である。

したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件特許の請求項1~6、8~17について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。

よって、申立理由2-2のうち、実施可能要件違反との理由によって、本件特許の請求項1~6、8~17に係る特許を取り消すことはできない。

5 申立理由2-3のうち、実施可能要件について

本件特許の請求項2の「前記装置は、7以上のpHを有する前記含水液体からの水素と酸素との電解的製造のための装置である」との構成と、本件特許の請求項3の「前記装置は、12と14との間のpHを有する前記含水液体からの水素と酸素との電解的製造のための装置である」との構成について、このような含水液体を購入乃至製造して電解的製造のための装置に供給することは当業者にとって容易であり、実施例が無いからといって実施をすることが困難であるとはいえない。

この点は、本件特許の請求項2、3を直接又は間接的に引用する請求項4、6、8~17においても同様である。

したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件特許の請求項2~4、6、8~17について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。

よって、申立理由2-3のうち、実施可能要件違反との理由によって、本件特許の請求項2~4、6、8~17に係る特許を取り消すことはできない。

6 申立理由2-4、取消理由1(明確性要件)について

(1)本件特許の請求項4には「0.1%と10%との間のKOHを含む前記含水液体」と記載されている。

(2)ここで、単に「%」と記載した場合、それが質量パーセント濃度を示していると、直ちに解することはできない。

(3)しかし、特許権者が令和 7年 6月 5日受付の意見書において主張するとおり、質量パーセント濃度はKOH製品に関する安全性データシートで使用される単位であるから(要すれば、https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0116-2181JGHEJP.pdfを参照。)、当業者であれば、「0.1%と10%との間のKOHを含む前記含水液体」との記載における「%」は質量パーセント濃度として解することができる。

(4)したがって、本件特許の請求項4に係る発明は明確である。また、請求項4の記載を直接又は間接的に引用する請求項6、8~17の記載についても同様であるから、本件特許の請求項6、8~17に係る発明も明確である。

(5)よって、申立理由2-4、取消理由1(明確性要件)によって、本件特許の請求項4、6、8~17に係る特許を取り消すことはできない。

7 申立理由2-5、取消理由2(明確性要件)について

(1)本件特許の請求項5には「前記装置は、40°C乃至80°Cの範囲の温度において水素と酸素との電解的製造のための装置である」と記載されている。

(2)ここで、「前記装置」が「水素と酸素との電解的製造のための装置」であることに照らせば、この「40°C乃至80°Cの範囲の温度」は水素と酸素との電解的製造時(装置稼働時)の電解装置セル1a(図1A参照)の温度を表していると解される。

(3)また、本件明細書の【0035】に記載のとおり、電解装置セル1aは、アノードハーフセル3と、カソードハーフセル4と、MEA10と、を含むものであり、各電極で生じる半反応の違いや各ハーフセルにおける水溶液の導入の有無を考慮すると、電解装置セル1a内の場所によって温度は異なると一応解される。

(4)しかし、特許権者が令和 7年 6月 5日受付の意見書において主張するように、「電解装置セルは、アノードハーフセルとカソードハーフセルとの間の熱伝達が温度を平衡させるために十分である」場合においては、電解装置セル1a内の場所によって温度が異なることはなく、「40°C乃至80°Cの範囲の温度」との記載についても明確である。

(5)この点、現実には電解装置セル1aの各部位の材質や装置内部の液体・気体の種類に応じ、熱伝達速度の違いによる温度差が皆無ではないと推認されるが、特に熱絶縁などを意図しない装置において、いずれかの場所で「40°C乃至80°Cの範囲の温度」にある場合に、その他の場所でこの温度範囲を著しく逸脱する温度であるほどの温度差が生じることは考えにくいから、結局、「40°C乃至80°Cの範囲の温度」との記載は、電解装置セル1a内の任意の場所(特許権者が令和 7年 6月 5日受付の意見書において主張する「電解質(すなわち、アノードハーフセルに導入される水)」を含む)の温度が当該範囲内であることを規定しているものと解するのが自然である。

(6)したがって、本件特許の請求項5に係る発明は明確である。また、請求項5の記載を直接又は間接的に引用する請求項6、8~17の記載についても同様であるから、本件特許の請求項6、8~17に係る発明も明確である。

(7)よって、申立理由2-5、取消理由2(明確性要件)によって、本件特許の請求項5、6、8~17に係る特許を取り消すことはできない。

8 申立理由2-6、取消理由3(サポート要件及び実施可能要件)、取消理由4(明確性要件)

本件訂正により、当該理由が対象としていた請求項7は削除された。

9 取消理由5(明確性要件)

本件訂正により、本件特許の請求項10の「炭素布」等が「前記触媒被覆基板の基板」であることが明らかとなり、本件明細書の【0024】の記載とも整合するものとなった。

したがって、本件特許の請求項10に係る発明は明確である。また、請求項10の記載を直接又は間接的に引用する請求項11~17の記載についても同様であるから、本件特許の請求項11~17に係る発明も明確である。

よって、取消理由5(明確性要件)によって、本件特許の請求項10~17に係る特許を取り消すことはできない。

10 取消理由6(明確性要件)

本件訂正により、本件特許の請求項17は請求項10を引用しないものとなり、請求項10と請求項17との間の矛盾は解消された。

したがって、本件特許の請求項17に係る発明は明確である。

よって、取消理由6(明確性要件)によって、本件特許の請求項17に係る特許を取り消すことはできない。

第7 むすび

以上のとおり、申立人による特許異議の申立ての理由1、2-1~2-6、及び当合議体における取消理由1~6のいずれによっても、本件特許の請求項1~6、8~17に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に本件特許の請求項1~6、8~17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

そして、本件訂正によって特許異議申立てがされた請求項7が削除され、特許異議の申立ての対象が存在しないものとなったため、請求項7に係る特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

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