結論テキスト
特許第7534475号の明細書、特許請求の範囲及び図面を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲及び図面のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。
特許第7534475号の請求項1~5、7~8及び10に係る特許を維持する。
特許第7534475号の請求項6及び9に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 2025700188 |
|---|---|
| 審判種別 | 記載はありません。 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理 由
特許第7534475号(以下「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願は、令和5年3月29日の出願であって、令和6年8月5日にその特許権の設定登録がされ、同年8月14日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許に対し、令和7年2月13日に特許異議申立人 合同会社SAS(以下「申立人A」という。)により、同年2月14日に特許異議申立人 河井 清悦(以下「申立人B」という。)により、同年2月14日に特許異議申立人 弁理士法人 鷲田国際特許事務所(以下「申立人C」という。)により、いずれも対象請求項を全請求項とする特許異議の申立てがされたものである。なお、申立人Aによる特許異議の申立てについて、令和7年3月14日に、特許異議申立書を補正対象とする手続補正書(方式)が提出された。
その後の経緯は次のとおりである。
令和7年 5月 9日付け 取消理由通知
7月22日 訂正請求書・意見書の提出(特許権者)
7月30日付け 訂正請求があった旨の通知
8月28日 意見書の提出(申立人A)
8月29日 意見書の提出(申立人B)
なお、当審からの令和7年7月30日付け訂正請求があった旨の通知に対し、申立人Cによる意見書の提出はなかった。
また、特許権者は、令和7年7月22日に提出した意見書に添付して、次の乙第1号証(以下「乙1」という。)を提出した。
乙1:藤 正督、他、セラミックス粉体成形の壁、セラミックス基盤工学研究センター年報(2007)、Vol.7、p.29-43
令和7年7月22日の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の明細書、特許請求の範囲及び図面を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲及び図面のとおり、訂正後の請求項1~10について訂正することを求めるものであって、その内容は以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「乾式シリカ粒子を含み」と記載されているのを、「乾式シリカ粒子
と、有機繊維である、繊維の長手方向に延びる芯部と、この本部の外周面を被覆するように形成された鞘部とを有する芯鞘構造のバインダ繊維、及び、有機材料である、ホットメルトパウダーのうち少なくとも一方
を含み」に訂正する(請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2~5、7、8及び10も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「内部に細孔を有する熱伝達抑制シートであって、」と記載されているのを、「内部に細孔を有する熱伝達抑制シートであつて、
前記バインダ繊維及び前記ホットメルトパウダーのうち少なくとも一方が、前記乾式シリカ粒子を含んだ状態でバインダ部を形成しており、
」に訂正する(請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2~5、7、8及び10も同様に訂正する)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「モード径が68nm以下」と記載されているのを、「
細孔
径が68nm以下」に訂正する(請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2~5、7、8及び10も同様に訂正する)。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に「前記細孔の全容積に対して10%以上であること」と記載されているのを、「前記細孔の全容積に対して10%以上であ
り、縦軸を細孔容積とし、横軸を細孔径とした場合の、前記乾式シリカ粒子の細孔径分布を示すグラフにおいて、前記細孔径が100nm以下の範囲で、前記乾式シリカ粒子の一次粒子に由来する細孔を表すピークを有し、かつ、前記細孔径が100nmを超える範囲で、前記乾式シリカ粒子の二次粒子、三次粒子に由来する細孔を表すピークを有す
ること」に訂正する(請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2~5、7、8及び10も同様に訂正する)。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6を削除
する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7の「請求項1~6のいずれか1頂」を「請求項1~
5
のいずれか1項」に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に「前記乾式シリカ粒子を含む材料混合物を」と記載されているのを、「前記乾式シリカ粒子
と、有機繊維である、繊維の長手方向に延びる芯部と、この芯部の外周面を被覆するように形成された鞘部とを有する芯鞘構造のバインダ繊維、及び、有機材料である、ホントメルトパウダーのうち少なくとも一方
を含む材料混合物を」に訂正する(請求項7を直接的に引用する請求項8も同様に訂正する)。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9を削除
する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項10の「請求項1~6のいずれか1項」を「請求項1~
5
のいずれか1項」に訂正する。
(10)訂正事項10
明細書の段落【0010】、【0027】、【0036】、【0037】、【0039】、【0041】、【0042】及び【0075】に、それぞれ「モード径」と記載されているのを「
細孔
径」に訂正する。
(11)訂正事項11
明細書の段落【0027】及び【0037】に、それぞれ「図4は、縦軸を細孔径(モード径)とし、」と記載されているのを「図4は、縦軸を
細孔のモード径
とし、」に訂正する。
(12)訂正事項12
図面の【図3】におけるグラフの横軸に「細孔のモード径(nm)」と記載されているのを「
細孔径
(nm)」に訂正する。
(13)訂正事項13
図面の【図4】におけるグラフの縦軸に「細孔径のモード径(nm)」と記載されているのを「
細孔
のモード径(nm)」に訂正する。
本件訂正前の請求項1~10について、請求項2~10は請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、請求項2~10は訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1~10に対応する訂正後の請求項1~10は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。したがって、訂正事項1~9に係る訂正は、一群の請求項1~10に対してなされたものである。
また、明細書及び図面に係る訂正事項10~13は、一群の請求項1~10についてなされたものである。
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
本件訂正前の請求項1に記載された発明は、「熱伝達抑制シート」の構成材料について、「乾式シリカ粒子」のみが特定されているところ、訂正後の請求項1は、「乾式シリカ粒子と、有機繊維である、繊維の長手方向に延びる芯部と、この芯部の外周面を被覆するように形成された鞘部とを有する芯鞘構造のバインダ繊維、及び、有機材料である、ホットメルトパウダーのうち少なくとも一方を含み」との記載により、訂正後の請求項1に記載された発明における「熱伝達抑制シート」の構成材料をより具体的に特定し、更に限定するものであるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
前記アのとおり、訂正事項1は、訂正後の請求項1に記載された発明における「熱伝達抑制シート」の構成材料をより具体的に特定し、更に限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
バインダ繊維に係る説明として、本件訂正前の明細書の段落【0065】には、「有機繊維として、繊維の長手方向に延びる芯部と、この芯部の外周面を被覆するように形成された鞘部とを有する芯鞘構造のバインダ繊維を含んでいてもよい。」と記載されており、また、ホットメルトパウダーに係る説明として、【0070】には、「本実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、その他の有機材料として、ホットメルトパウダーを含んでいてもよい。」と記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的
本件訂正前の請求項1に記載された発明は、「熱伝達抑制シート」の構造について、「内部に細孔を有する」ことが特定されているところ、訂正後の請求項1は、「内部に細孔を有する熱伝達抑制シートであって、前記バインダ繊維及び前記ホットメルトパウダーのうち少なくとも一方が、前記乾式シリカ粒子を含んだ状態でバインダ部を形成しており、」との記載により、訂正後の請求項1に記載された発明における「熱伝達抑制シート」の構造をより具体的に特定し、更に限定するものであるから、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
前記アのとおり、訂正事項2は、訂正後の請求項1に記載された発明における「熱伝達抑制シート」の構造をより具体的に特定し、更に限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
バインダ繊維に係る説明として、本件訂正前の明細書の段落【0065】には、「有機繊維として、繊維の長手方向に延びる芯部と、この芯部の外周面を被覆するように形成された鞘部とを有する芯鞘構造のバインダ繊維を含んでいてもよい。・・・(中略)・・・熱伝達抑制シート10を製造する温度や、芯部及び鞘部を構成する有機材料の融点によっては、熱伝達抑制シートの製造時において、芯部のみが有機繊維の形状で残存し、鞘部は無機粒子を含んだ状態でバインダ部となり、その一部が芯部に溶着する。」と記載されており、また、ホットメルトパウダーに係る説明として、【0070】には、「その後、材料混合物を冷却すると、溶融状態となったホットメルトパウダーが乾式シリカ粒子1等の周囲の材料を含んだ状態で硬化して、バインダ部3が形成される。」と記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的
「モード径」について、細孔径分布において最頻値となる細孔径を意味することが、技術常識である。
そうすると、本件訂正前の請求項1の「モード径が68nm以下の前記細孔の合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上であること」との記載は、その技術的な意味が不明なものであった。
一方、本件訂正前の明細書の段落【0038】には、「そこで、本発明者は、空気の平均自由工程である68nm以下の径を有する細孔2の容積率を規定することにより、対流による熱伝達を抑制し、より一層断熱性能を向上させることができることを見出した。」と記載され、【0040】には、「なお、本実施形態に係る熱伝達抑制シートは、乾式シリカ粒子の他にも種々の成分が含有されることがあるが、意図的にナノオーダーの材料が多量に含有されない限り、68nm以下の細孔の合計容積の割合が変化することはない。」と記載され、更に【0044】には、「また、図5に示すように、乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径が大きくなるに従って、68nm以下の細孔の容積率は減少する。特に、乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径が25nmを超えた場合に、68nm以下の細孔の容積率が10%を下回り、断熱性能が著しく低下する。これらのことから、68nm以下の細孔の容積率を上記範囲に制御するためには、平均一次粒子径が25nm以下である乾式シリカ粒子1を使用する必要があることがわかる。」との記載がある。
そうすると、本件訂正前の請求項1の「モード径が68nm以下」との記載は、明細書の記載との関係で、誤りであることが明らかであり、かつ、明細書、特許請求の範囲又は図面の記載全体から、「細孔径が68nm以下」が正しい記載であることが明らかであるから、「モード径が68nm以下」を「細孔径が68nm以下」と訂正する訂正事項3は、誤記の訂正を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
前記アのとおり、訂正事項3は誤記を訂正するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
前記アのとおり、訂正事項3は、本件訂正前の明細書の【0038】、【0040】、【0044】に記載される事項であるから、訂正事項3は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
(4)訂正事項4
ア 訂正の目的
本件訂正前の請求項1に記載された発明は、「熱伝達抑制シート」において、「前記細孔の全容積に対して10%以上である」ことが特定されているところ、訂正後の請求項1は、「前記細孔の全容積に対して10%以上であり、縦軸を細孔容積とし、横軸を細孔径とした場合の、前記乾式シリカ粒子の細孔径分布を示すグラフにおいて、前記細孔径が100nm以下の範囲で、前記乾式シリカ粒子の一次粒子に由来する細孔を表すピークを有し、かつ、前記細孔径が100nmを超える範囲で、前記乾式シリカ粒子の二次粒子、三次粒子に由来する細孔を表すピークを有すること」との記載により、訂正後の請求項1に記載された発明における「熱伝達抑制シート」に含まれる「細孔」をより具体的に特定し、更に限定するものであるから、訂正事項4は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
前記アのとおり、訂正事項4は、訂正後の請求項1に記載された発明における「熱伝達抑制シート」に含まれる「細孔」をより具体的に特定し、更に限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
細孔径分布を示すグラフに係る説明として、本件訂正前の明細書の段落【0037】には、「なお、図3において、細孔径が100nm以下の範囲で現れているピークは、乾式シリカ粒子1の一次粒子に由来する細孔を表す。また、細孔径が100nmを超える範囲で現れているなだらかなピークは、乾式シリカ粒子1の二次粒子、三次粒子に由来する細孔を表す。」と記載されているから、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
(5)訂正事項5
ア 訂正の目的
訂正事項5は、本件訂正前の請求項6を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項5は、本件訂正前の請求項6を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項5は、本件訂正前の請求項6を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
(6)訂正事項6
ア 訂正の目的
訂正事項6は、本件訂正前の請求項7における「請求項1~6のいずれか1項」との記載を、訂正事項5により本件訂正前の請求項6を削除したことに伴い、訂正後の請求項7において、「請求項1~5のいずれか1項」と訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項6は、訂正事項5により本件訂正前の請求項6を削除したことに伴い、請求項7の記載を整合させるために行うものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項6は、訂正事項5により本件訂正前の請求項6を削除したことに伴い、請求項7の記載を整合させるために行うものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
(7)訂正事項7
ア 訂正の目的
本件訂正前の請求項7に記載された発明は、「熱伝達抑制シート」を製造するための原料である「材料混合物」について、「乾式シリカ粒子」のみが特定されているところ、訂正後の請求項7は、「前記乾式シリカ粒子と、有機繊維である、繊維の長手方向に延びる芯部と、この芯部の外周面を被覆するように形成された鞘部とを有する芯鞘構造のバインダ繊維、及び、有機材料である、ホットメルトパウダーのうち少なくとも一方を含む材料混合物を」との記載により、訂正後の請求項7に記載された発明における「熱伝達抑制シート」を製造するための原料である「材料混合物」をより具体的に特定し、更に限定するものであるから、訂正事項7は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
前記アのとおり、訂正事項7は、訂正後の請求項7に記載された発明における「熱伝達抑制シート」を製造するための原料である「材料混合物」をより具体的に特定し、更に限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
バインダ繊維に係る説明として、本件訂正前の明細書の段落【0065】には、「有機繊維として、繊維の長手方向に延びる芯部と、この芯部の外周面を被覆するように形成された鞘部とを有する芯鞘構造のバインダ繊維を含んでいてもよい。」との記載がなされており、また、ホットメルトパウダーに係る説明として、【0070】には、「本実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、その他の有機材料として、ホットメルトパウダーを含んでいてもよい。」と記載されているから、訂正事項7は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
(8)訂正事項8
ア 訂正の目的
訂正事項8は、本件訂正前の請求項9を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項8は、本件訂正前の請求項9を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項8は、本件訂正前の請求項9を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
(9)訂正事項9
ア 訂正の目的
訂正事項9は、本件訂正前の請求項10における「請求項1~6のいずれか1項」との記載を、訂正事項5により本件訂正前の請求項6を削除したことに伴い、訂正後の請求項10において、「請求項1~5のいずれか1項」と訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項9は、訂正事項5により本件訂正前の請求項6を削除したことに伴い、請求項10の記載を整合させるために行うものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項9は、訂正事項5により本件訂正前の請求項6を削除したことに伴い、請求項10の記載を整合させるために行うものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
(10)訂正事項10
ア 訂正の目的
本件訂正前の明細書の【0028】には、「熱伝達抑制シート内に形成された所定のサイズの細孔の容積率を規定することが効果的であることを見出した。」と記載され、また、【0038】、【0040】、【0044】の記載(前記(3)ア参照)を踏まえると、本件特許は、所定のサイズの細孔の容積率を特定したものと理解できる。
そして、明細書の段落【0010】、【0027】、【0036】、【0037】、【0039】、【0041】、【0042】及び【0075】に記載される「モード径」は、前記(3)アの「技術常識」を踏まえると、上記理解と整合しないものであり、「細孔径」の誤りであることは明らかである。
したがって、訂正事項10は、誤記の訂正を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
前記アのとおり、訂正事項10は誤記の訂正であるから、訂正事項10は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
前記アのとおり、訂正事項10は、本件訂正前の明細書の【0028】、【0038】、【0040】、【0044】の記載に基いて誤記を訂正するものであるから、訂正事項10は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
(11)訂正事項11
ア 訂正の目的
本件訂正前の明細書の段落【0027】及び【0037】に記載された「細孔径(モード径)」は、技術的な意味が異なる2つの用語について、「細孔径」を「モード径」に言い換え可能であるかのように、かっこ書きを用いて併記されているため、当該「細孔径(モード径)」の技術的な意味が不明なものとなっている。
そして、本件訂正前の明細書段落【0044】には、「なお、図4に示すように、熱伝達抑制シート10に形成される細孔のモード径は、乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径に比例する。」と記載されていることから、【0027】及び【0037】に記載された「細孔径(モード径)」は、「細孔のモード径」の誤りであることは明らかである。
したがって、訂正事項11は、誤記の訂正を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
前記アのとおり、訂正事項11は誤記の訂正であるから、訂正事項11は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
前記アのとおり、訂正事項11は、本件訂正前の明細書の段落【0044】に記載されている「細孔のモード径」という正しい記載に基づいて誤記を訂正するものであるから、訂正事項11は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
なお、訂正事項10は、【0027】、【0037】について「「
モード径
」と記載されているのを「
細孔径
」に訂正する」ことを含むものであるところ、本件訂正前の明細書【0027】、【0037】の記載は次のとおりである。なお、下線は強調のため付与。以下同様。
「【0027】
【図1】・・・(略)・・・
【図4】図4は、縦軸を細孔径(
モード径
)とし、横軸を乾式シリカ粒子の平均一次粒子径とした場合の、平均一次粒子径と細孔径との関係を示すグラフ図である。
【図5】図5は、縦軸を
モード径
が68nm以下である細孔の容積率とし、横軸を乾式シリカ粒子の平均一次粒子径とした場合の、平均一次粒子径と容積率との関係を示すグラフ図である。」
「【0037】
<細孔>
(
モード径
が68nm以下である細孔の合計容積:10%以上)
本実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、内部に複数の細孔2を有する。以下、細孔2の大きさの断熱性能に対する影響について、詳細に説明する。図3は、縦軸を細孔容積とし、横軸を細孔径とした場合の、乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径毎の細孔径分布を示すグラフ図である。図4は、縦軸を細孔径(
モード径
)とし、横軸を乾式シリカ粒子の平均一次粒子径とした場合の、平均一次粒子径と細孔径との関係を示すグラフ図である。図5は、縦軸を
モード径
が68nm以下である細孔の容積率とし、横軸を乾式シリカ粒子の平均一次粒子径とした場合の、平均一次粒子径と容積率との関係を示すグラフ図である。・・・(略)・・・」
そして、訂正事項11が、「【0027】、【0037】に、それぞれ「図4は、縦軸を細孔径(モード径)とし、」と記載されているのを「図4は、縦軸を細孔のモード径とし、」に訂正する。」ものであるから、訂正事項10及び訂正事項11により、訂正後の明細書【0027】、【0037】について、訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、次のように訂正するものと認める。
「【0027】
【図1】・・・(略)・・・
【図4】図4は、縦軸を
細孔のモード径
とし、横軸を乾式シリカ粒子の平均一次粒子径とした場合の、平均一次粒子径と細孔径との関係を示すグラフ図である。
【図5】図5は、縦軸を
細孔径
が68nm以下である細孔の容積率とし、横軸を乾式シリカ粒子の平均一次粒子径とした場合の、平均一次粒子径と容積率との関係を示すグラフ図である。」
「【0037】
<細孔>
(
細孔径
が68nm以下である細孔の合計容積:10%以上)
本実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、内部に複数の細孔2を有する。以下、細孔2の大きさの断熱性能に対する影響について、詳細に説明する。図3は、縦軸を細孔容積とし、横軸を細孔径とした場合の、乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径毎の細孔径分布を示すグラフ図である。図4は、縦軸を
細孔のモード径
とし、横軸を乾式シリカ粒子の平均一次粒子径とした場合の、平均一次粒子径と細孔径との関係を示すグラフ図である。図5は、縦軸を
細孔径
が68nm以下である細孔の容積率とし、横軸を乾式シリカ粒子の平均一次粒子径とした場合の、平均一次粒子径と容積率との関係を示すグラフ図である。・・・(略)・・・」
(12)訂正事項12
ア 訂正の目的
図3のグラフは、乾式シリカ粒子の平均一次粒子径毎の細孔径分布を示したものであることから、仮に横軸が「細孔のモード径(nm)」である場合には、細孔径分布との関係で技術的な意味が不明であることが明らかである。
ここで、本件訂正前の明細書段落【0027】及び【0037】には、「図3は、縦軸を細孔容積とし、横軸を細孔径とした場合の、乾式シリカ粒子の平均一次粒子径毎の細孔径分布を示すグラフ図である。」と明記されていることから、【図3】におけるグラフの横軸に記載された「細孔のモード径(nm)」は、「細孔径(nm)」の誤記であることが当業者にとって自明である。
したがって、訂正事項12は、誤記の訂正を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
前記アのとおり、訂正事項12は、単に図面中の誤記を訂正するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
前記アのとおり、訂正事項12は、本件訂正前の明細書の段落【0027】、【0037】に記載されている「細孔径」という正しい記載に基づいて誤記を訂正するものであるから、訂正事項12は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
(13)訂正事項13
ア 訂正の目的
本件訂正前の図面の【図4】におけるグラフの縦軸に記載された「細孔径のモード径(nm)」は、明らかに技術的に意味を成しておらず、「細孔径のモード径(nm)」の技術的な意味が不明なものとなっている。
そして、本件訂正前の明細書の段落【0044】には、「なお、図4に示すように、熱伝達抑制シート10に形成される細孔のモード径は、乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径に比例する。」と記載されていることから、本件訂正前の図面の【図4】におけるグラフの縦軸に記載された「細孔径のモード径(nm)」は、「細孔のモード径(nm)」の誤記であることが当業者にとって自明である。
したがって、訂正事項13は、誤記の訂正を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
前記アのとおり、訂正事項13は、単に図面中の誤記を訂正するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
前記アのとおり、訂正事項13は、本件訂正前の明細書の段落【0044】に記載されている「細孔のモード径」という正しい記載に基づいて誤記を訂正するものであるから、訂正事項13は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
(14)独立特許要件
訂正事項1~13に係る請求項1~10は、いずれも、本件特許異議の申立てがされた請求項であるから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の適用はない。
令和7年8月28日に申立人Aにより提出された意見書(以下「意見書A」という。)において、次の主張をする。(意見書A 3~4頁)
(1)訂正事項4は、「乾式シリカ粒子の細孔径分布」に関するが、本件明細書[0037]に、「本実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、内部に複数の細孔2を有する。」と記載された上で、図3の説明がされているから、図3は熱伝達抑制シートの細孔分布であり、新規事項である。本件明細書[0037]に、図3については「乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径毎の細孔径分布」とは記載されているが、「乾式シリカ粒子の細孔径分布」とは記載されていない。
(2)訂正事項1は、熱伝達抑制シートの素材を特定するものであり、訂正事項2は、熱伝達抑制シートを特定するものであり、両者は特定する内容が異なり、カテゴリーが異なるから、この訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更する訂正である。
上記(1)の主張について検討する。
本件訂正前の明細書には、次の事項が記載されている。
「【0030】
[熱伝達抑制シート]
図1は、
本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シート
の一部を拡大して示す模式図である。図1に示すように、
熱伝達抑制シート10は、乾式シリカ粒子1を含み、
内部に複数の細孔2を有する。なお、乾式シリカ粒子1は、例えば、
バインダ部3によって保持されている
。まず、乾式シリカ粒子1及び細孔2について詳細に説明する。」
「【0037】
<細孔>
(モード径が68nm以下である細孔の合計容積:10%以上)
本実施形態に係る熱伝達抑制シート10は
、内部に複数の細孔2を有する。以下、細孔2の大きさの断熱性能に対する影響について、詳細に説明する。
図3は、
縦軸を細孔容積とし、横軸を細孔径とした場合の、
乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径毎の細孔径分布を示すグラフ図である。
・・・(略)・・・」
上記【0037】の「本実施形態に係る熱伝達抑制シート10」は、【0030】における「本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シート」であるから、図3の乾式シリカ粒子の平均一次粒子径毎の「細孔径分布を示すグラフ図」は、「バインダ部3によって保持されている」「乾式シリカ粒子1を含」む(【0030】)熱伝達抑制シートの細孔径分布を示すグラフ図であると理解でき、また、熱伝達抑制シートの細孔は、乾式シリカ粒子により形成されるものと理解することができるから、図3の細孔径分布を示すグラフ図は、熱伝達抑制シートにおける乾式シリカ粒子により形成される細孔径分布を示すグラフ図ということができる。
そうすると、図3の細孔径分布を示すグラフ図は、熱伝達抑制シートにおける乾式シリカ粒子の細孔径分布を示すグラフ図ということができるから、訂正事項4は、新規事項を追加するものではない。
また、上記(2)について、検討すると、訂正事項1及び2は、いずれも熱伝達抑制シートを限定するものであるから、本件訂正前の請求項1のカテゴリーを変更するものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更する訂正ではない。
よって、訂正要件に関する申立人Aの意見は採用できない。
令和7年8月29日に申立人Bにより提出された意見書(以下「意見書B」という。)において、次の主張をする。(意見書B 1~2頁)
訂正事項3により、「モード径」という発明特定事項が削除された結果、請求項1に係る発明から「モード径によって細孔を特定する」という技術的限定がなくなり、特許請求の範囲が拡張及び変更されてしまっている。例えば「細孔径が68nm以下の細孔の合計容積が、全容積に対して10%であること」を満たせば、「モード径が68nmを超える細孔であっても良い(細孔のモード径は問われない)」という解釈が可能となる。
すなわち、このような訂正は、本件訂正前の請求項1に記載した事項(「モード径が68nm以下の細孔」)を別の意味をあらわす表現(「細孔径が68nm以下の細孔合計容積が10%以上であること」)に入れ替えることで、特許請求の範囲をずらす訂正にほかならず、「特許請求の範囲の変更」に相当する。また、上記訂正は、本件訂正前の請求項1に記載した事項(「モード径が68nm以下の細孔」)をより広い意味を表す表現(「モード径を一切限定することのない細孔」)に入れ替える訂正にほかならず、「特許請求の範囲の拡張」に相当する。
しかしながら、訂正事項3は、前記3(3)アのとおり誤記を訂正するものであるから、訂正事項3による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。
よって、訂正要件に関する申立人Bの意見は採用できない。
以上より、本件訂正は適法なものと認められるから、本件特許の明細書、特許請求の範囲及び図面を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲及び図面のとおり、訂正後の請求項1~10について訂正することを認める。
本件特許の請求項1~10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明10」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。なお、請求項1について、A~Fの符号を付して分説し、それぞれの分説を、以下「発明特定事項A」などのようにして参照する。
【請求項1】
A 乾式シリカ粒子と、有機繊維である、繊維の長手方向に延びる芯部と、この芯部の外周面を被覆するように形成された鞘部とを有する芯鞘構造のバインダ繊維、及び、有機材料である、ホットメルトパウダーのうち少なくとも一方を含み、内部に細孔を有する熱伝達抑制シートであって、
B 前記バインダ繊維及び前記ホットメルトパウダーのうち少なくとも一方が、前記乾式シリカ粒子を含んだ状態でバインダ部を形成しており、
C 前記乾式シリカ粒子の平均一次粒子径は、25nm以下であり、
D 細孔径が68nm以下の前記細孔の合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上であり、
E 縦軸を細孔容積とし、横軸を細孔径とした場合の、前記乾式シリカ粒子の細孔径分布を示すグラフにおいて、前記細孔径が100nm以下の範囲で、前記乾式シリカ粒子の一次粒子に由来する細孔を表すピークを有し、かつ、前記細孔径が100nmを超える範囲で、前記乾式シリカ粒子の二次粒子、三次粒子に由来する細孔を表すピークを有することを特徴とする、
F 熱伝達抑制シート。
【請求項2】
前記乾式シリカ粒子の平均一次粒子径は、7nm以上であることを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項3】
前記細孔の全容積は、2.0(cc/g)以上であることを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項4】
前記乾式シリカ粒子の含有量は、熱伝達抑制シート全質量に対して、50質量%以上80質量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項5】
さらに、チタニア、ジルコン、ジルコニア、炭化ケイ素、酸化亜鉛及びアルミナから選択された少なくとも1種の無機粒子を含むことを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シートを製造する製造方法であって、
前記乾式シリカ粒子と、有機繊維である、繊維の長手方向に延びる芯部と、この芯部の外周面を被覆するように形成された鞘部とを有する芯鞘構造のバインダ繊維、及び、有機材料である、ホットメルトパウダーのうち少なくとも一方を含む材料混合物を、乾式法によリシート状に加工する加工工程を
有し、前記乾式シリカ粒子の平均一次粒子径は、25nm以下であることを特徴とする、熱伝達抑制シートの製造方法。
【請求項8】
前記乾式シリカ粒子の含有量は、前記材料混合物の固形成分全質量に対して、50質量%以上80質量%以下であることを特徴とする、請求項7に記載の熱伝達抑制シートの製造方法。
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
複数の電池セルと、請求項1~5のいずれか1頂に記載の熱伝達抑制シートを有し、前記複数の電池セルが直列又は並列に接続された、組電池。
以下、申立人Aの証拠方法である「甲第○号証」を「甲A○」といい、申立人Bの証拠方法である「甲第○号証」を「甲B○」といい、申立人Cの証拠方法である「甲第○号証」を「甲C○」という。
また、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~10に係る発明を、それぞれ本件訂正前発明1~10といい、これらをまとめて「本件訂正前発明」という。
手続補正書(方式)により補正された申立人Aが提出した特許異議申立書(以下「異議申立書A」という。)において、進歩性に関して、次の記載がされている。
「(3)申立ての根拠」の欄
「請求項1~10
条文 特許法第29条第2項(同法113条第2号)
証拠 甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証」(異議申立書A 9頁)
「(5)むすび」の欄
「イ 特許法第29条第2項について(同法113条第2号)
請求項3は、甲第1号証及び甲第2号証、又は甲第1号証及び甲第3号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に到達することができた発明である。
請求項10は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に到達することができた発明である。
請求項3は、甲第4号証及び甲第2号証、又は甲第4号証及び甲第3号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に到達することができた発明である。
請求項5及び9は、甲第4号証及び甲第1号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に到達することができた発明である。
請求項6は、甲第4号証及び甲第3号証、又は甲第4号証及び甲第1号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に到達することができた発明である。
請求項10は、甲第4号証及び甲第3号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に到達することができた発明である。
請求項1~10は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証及び甲第5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に到達することができた発明である。」(異議申立書A 42頁)
そして、「ウ 本件特許発明と証拠に記載された発明との対比」(異議申立書A 24頁~40頁)において、本件特許発明と、甲第1号証または甲第4号証とを対比していることから、申立人Aの特許法第29条第2項についての申立ての理由は、以下の「(3)申立理由A2(進歩性)」のとおりであると認める。
<申立ての理由の概要>
(1)申立理由A1-1(新規性)
本件訂正前発明1、2及び4~10は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲A1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、これらの発明に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものである。(同法第113条第2号)
(2)申立理由A1-2(新規性)
本件訂正前発明1、2、4、7、8及び10は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲A4に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、これらの発明に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものである。(同法第113条第2号)
(3)申立理由A2(進歩性)
本件訂正前発明1~10は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲A1、又は甲A4に記載された発明、並びに甲A1~甲A5に記載された事項に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(同法第113条第2号)
(4)申立理由A3(実施可能要件)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(同法第113条第4号)
本件訂正前の明細書には、断熱性能の測定方法が記載されていないため、当業者はどのように断熱性能を確認してよいかわからない。したがって、本件訂正前発明1~10は、実施可能要件を満たしていない。(異議申立書A 41頁)
(5)申立理由A4(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(同法第113条第4号)
ア 本件訂正前発明の課題は、「優れた断熱性能を有する熱伝達抑制シート等を提供すること」であるところ、本件訂正前の明細書において、断熱性能は確認されていない。したがって、当業者は、本件訂正前発明が課題を解決できることを認識することができない。したがって、本件訂正前発明1~10は、発明の詳細な説明に記載されていない。(異議申立書A 41頁)
イ 本件訂正前発明3について、細孔の全容積は、2.0(cc/g)以上であることは、発明の詳細な説明に記載されていない。(異議申立書A 41頁)
ウ 本件訂正前の明細書には、乾式シリカ粒子の具体的な配合量について記載がない。そして、乾式シリカ粒子の含有量と細孔の容積率との関係が示されていない。したがって、本件訂正前発明4は、発明の詳細な説明に記載されていない。(異議申立書A 41頁)
(6)申立理由A5(明確性要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(同法第113条第4号)
本件訂正前発明1~10の「モード径が68nm以下の前記細孔の合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上である」の定義するところが不明確である。(異議申立書A 40~41頁)
<証拠方法>
甲A1:特開平2-199077号公報
甲A2:特開平10-1376号公報
甲A3:特開2018-146098号公報
甲A4:特開昭63-303877号公報
甲A5:日本アエロジル株式会社製品案内
甲A6:特開2022-21738号公報
甲A7:特開2021-34278号公報
また、申立人Aは、意見書Aに添付して次の参考資料を提出した。
参考資料1:笛田・山田技術士事務所、「フュームドシリカ」、[online]、2022年12月19日、[2025年8月12日検索]、インターネット<URL:https://ce-fuedayamada.com/727/>
参考資料2:特開2011-1204号公報
<申立理由の概要>
(1)申立理由B1(新規性)
本件訂正前発明1~5は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲B1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、これらの発明に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものである。(同法第113条第2号)
(2)申立理由B2-1(進歩性)
本件訂正前発明1~10は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲B1に記載された発明、並びに周知技術及び技術常識に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(同法第113条第2号)
(3)申立理由B2-2(進歩性)
本件訂正前発明1~10は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲B2に記載された発明、並びに周知技術及び技術常識に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(同法第113条第2号)
(4)申立理由B3(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(同法第113条第4号)
本件訂正前発明が解決しようとする課題について、本件訂正前の明細書の段落0008には、「優れた断熱性能を有する熱伝達抑制シート、製造方法、並びに組電池を提供することにある」と記載されているが、実質的な課題は、段落0038に記載されるように、「空気の平均自由行程である68nm以下の径を有する細孔の容積率を規定することにより、対流による熱伝達を抑制し、より一層断熱性能を向上させることが可能な熱伝達抑制シートなどを提供する」ことにある。
本件訂正前発明の詳細な説明、本件特許の出願時の技術常識に照らしても、モード径が68nm以下の細孔の合計容積をわずか10%(10%以上)と特定することで、なぜに本件特許の課題(実質的な課題)を解決し得ることになるのか不明であり、モード径が68nm以下の細孔の合計容積の下限を10%とする数値根拠は特に説明されておらず、また、数値根拠を裏付ける試験結果もない。
よって、本件訂正前発明の請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。(異議申立書B 39~41頁)
(5)申立理由B4(実施可能要件)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(同法第113条第4号)
熱伝達抑制材の技術分野において、本件訂正前発明の数値範囲の細孔合計容積のみを限定することによって効果が得られるという現象は、空気の対流による熱伝達を抑制できるという効果を得るためには、「モード径が68nm以下の細孔の合計容積が10%では到底足りず、より多くの容積が必要とされる」という出願時の技術常識とは異なるものであり、本件特許の本件訂正前の明細書には、試験結果が記載されていないから、当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤を要する。(異議申立書B 41~43頁)
(6)申立理由B5(明確性要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(同法第113条第4号)
「乾式シリカの平均一次粒子径を規定し、該当する細孔の合計容積をわずか10%(10%以上)と特定した」ことの発明特定事項のみによって、「空気の対流による熱伝達を抑制し、断熱性能を向上させた熱伝達抑制シートを実現できる」とすることは、発明の詳細な説明に特に裏付けられておらず、出願時の技術常識を考慮すると発明特定事項が不足していることが明らかと言え、「発明特定事項の技術的意味を当業者が理解できず、さらに、出願時の技術常識を考慮すると発明特定事項が不足していることが明らかであるため、発明が不明確となる場合」に相当する。(異議申立書B 43~44頁)
<証拠方法>
甲B1:特開2011-1204号公報
甲B2:特開2007-169158号公報
甲B3:特開2004-347092号公報
甲B4:特表2016-517161号公報
甲B5:特開2020-170707号公報
甲B6:特開2009-24615号公報
甲B7:特表2023-511851号公報
甲B8:特開2012-149658号公報
甲B9:特開2010-223408号公報
甲B10:特開2022-138608号公報
甲B11:特開2021-96935号公報
<申立理由の概要>
(1)申立理由C1-1(進歩性)
本件訂正前発明1~5、7~8及び10は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲C1に記載された発明及び甲C2に記載された事項に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(同法第113条第2号)
(2)申立理由C1-2(進歩性)
本件訂正前発明6及び9は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲C1に記載された発明、並びに甲C2及び甲C3に記載された事項に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(同法第113条第2号)
(3)申立理由C2(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(同法第113条第4号)
本件特許の本件訂正前の明細書には、平均一次粒子径が25nm以下であること、及び、モード径が68nm以下の細孔の合計容積は、細孔の全容積に対して10%以上であることで、課題を解決できることが示された実施例が何ら記載されていない。このため、平均一次粒子径やモード径の数値を定めたことによる意義を当業者が理解することができない。
そうすると、たとえ当業者といえども、本件訂正前の請求項1の数値範囲内であれば課題を解決できると認識できない。したがって、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。(異議申立書C 22頁)
(4)申立理由C3(明確性及び実施可能要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(同法第113条第4号)
また、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(同法第113条第4号)
「モード」とは、最頻値を表す用語であり、「モード径」とは、全細孔の径分布において最頻が最大の径の値を示すものであるために、シリカ粒子の個々の細孔について、当該細孔の細孔径が「モード径が68nm以下」であるかどうかを判別することはできない。したがって、たとえ当業者といえども、「モード径が68nm以下の前記細孔の合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上である」という記載の意味内容を理解することはできない。
また、本件特許の本件訂正前の明細書には、平均一次粒子径が25nm以下であること、及び、モード径が68nm以下の細孔の合計容積は、細孔の全容積に対して10%以上であることで、課題を解決できることが示された実施例が何ら記載されていないから、その結果、当業者が「モード径が68nm以下の前記細孔の合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上である」特定を含む本件訂正前発明1を実施することもできない。(異議申立書C 22~23頁)
<証拠方法>
甲C1:特開2007-169158号公報
甲C2:特開2021-34278号公報
甲C3:特開2020-122228号公報
当審において、令和7年5月9日付けで通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(前記申立理由A5及び申立理由C3)
本件訂正前の請求項1の「モード径が68nm以下の前記細孔の合計容積」は、「モード径が68nm以下」の「熱伝達抑制シート」の細孔の「全容積」に他ならないと解されるから、「10%以上である」との特定が、何を特定しているのか理解できない。
また、「モード径が68nm以下の前記細孔の合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上であること」の技術的な意味は、発明の詳細な説明の記載を参酌しても理解することができない。
本件訂正前の請求項1を直接的または間接的に引用する本件訂正前の請求項2~10も同様である。
よって、本件特許の本件訂正前の請求項1~10の記載は、明確でない。
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(前記申立理由C3)
本件訂正前の請求項1の「モード径が68nm以下の前記細孔の合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上であること」の技術的な意味は、発明の詳細な説明の記載を参酌しても理解することができないから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が実施することができる程度に記載されているとはいえない。
よって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
本件訂正前発明1~10は、本件特許出願前に日本国内において頒布された、甲A1に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(前記申立理由A2)
本件訂正前発明1~10は、本件特許出願前に日本国内において頒布された、甲A4に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(前記申立理由A2)
本件訂正により、請求項1は「細孔径が68nm以下の前記細孔の合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上であり、」と訂正されたことにより、当該取消理由は解消した。
(1)甲A1
ア 甲A1の記載内容
甲A1には以下の記載がある。
(ア)「2.特許請求の範囲
1
微粒子粉末が成形されてなる微細多孔体において、熱可塑性樹脂からなる繊維が分散され
、同繊維同士、および、同繊維と前記微粒子とが互いに融着されていることを特徴とする微細多孔体。」(1頁左下欄4~9行)
(イ)「〔発明が解決しようとする課題〕
しかし、前記バインダーを用いると、微粒子の凝集体がバインダーで結合されてしまうため、固体を通しての伝導が大きくなり、また、微細な空隙を埋めてしまう結果、熱伝導率が高くなり、断熱材としての性能を著しく低下させていた。
この発明は、上記の事情に鑑み、微粒子の集合体の有する、
優れた断熱性を保持した
まま、機械的強度が十分にあって取り扱い易い微細多孔体を提供することを課題とする。」(1頁右下欄16行~2頁左上欄5行)
(ウ)「〔作 用〕
この発明の微細多孔体は、断熱材の微粒子の集合体の部分と、融着して構成された樹脂繊維の骨組み部分からなっている。樹脂分は断熱材の微粒子に比べて容量が小さく、ほとんどが微粒子の集合体である微細多孔体となっているため、断熱性は極めて高い。また、樹脂繊維を融着により結合させるため、結合部分の面積(接着面積)は非常に小さくなり、樹脂自体も、熱伝導率が比較的小さい材料であることから、固体伝導の増加は小さい。したがって断熱性能は、従来の性能をほぼ保持できる。
強度については、結合力の小さい微粒子集合体を、樹脂繊維の骨組みが取り囲むため、機械的強度が増加し、取扱性の良好なものとなる。」(2頁左上欄13行~右上欄7行)
(エ)「 第1図は、この発明の微細多孔体の一実施例をあらわす。第1図(a)は微細多孔体全体をあらわす模式図であり、第1図(b)は樹脂固体として樹脂繊維を用いた場合の拡大図であり、第2図は、樹脂固体として樹脂繊維および樹脂微粒子を併用した別の一実施例の拡大図である。
これらの図にみるように、
微細多孔体1は、多数の微粒子2・・・によって構成される空隙Sが、
たとえば、
1~60nmという非常に小さい空隙となっており
、また微粒子2・・・は、凝集力(ファンデアワールス力)で凝集している微細多孔体となっている。」(2頁右上欄9行~左下欄3行)
(オ)「 この発明の微細多孔体は、たとえば、以下のようにして作られているが、製法を下記のものに限定するものではない。断熱材料の微粒子等をあらかじめ混合して、混合粉体としておき、これに樹脂固体(樹脂繊維、または、樹脂繊維および樹脂微粒子)を混合して、均一に分散させる。次に金型に、この混合物を充填し、圧縮成形する。このとき断熱材の微粒子は十分に小さい空隙(好ましくは1~60nm)をもった微細多孔体に成形されることになり、樹脂分は、多孔体の一部に均一に分散した状態となっている。次に、この成形体を圧縮したまま、樹脂をその融点以上の温度に加熱して融着させ、そのまま融点以下の温度まで冷却して樹脂を硬化(固化)させる。冷却後、金型から取り出して、成形された微細多孔体ができる。」(2頁左下欄14行~右下欄8行)
(カ)「 この発明では、
微粒子として、
下記の超微粒子Aおよび微粒子Bのうち、
少なくとも超微粒子Aを用い
、必要に応じて、下記の微粒子Bおよび/または無機繊維を超微粒子Aとともに用いるのがよい。これは、微粒子Bおよび/または無機繊維だけを断熱材料として用いると構成される空隙が大きくなり、十分な断熱効果が得られないが、超微粒子Aを用いると構成される空隙が小さくなり(たとえば、1~60nm)、高性能な断熱材を得ることができるからである。
超微粒子Aと、微粒子Bおよび/または無機繊維とを併用する場合、これらの使用割合は、使用温度、取り扱い状態などにより異なるが、たとえば、超微粒子Aを30~100重量%、微粒子Bを0~70重量%、無機繊維を5~20重量%とするのがよい。無機繊維については、この範囲を外れると、強度、断熱性において問題が生じることがある。
超微粒子A
として
は、乾式製法
または湿式製法
による超微粒子シリカ
が、1例として挙げられる。超微粒子シリカは、必要ならば凝集防止処理して用いられる。
超微粒子Aの粒径
として
は、1~20nm程度が好ましく、10nm以下のもの、3~8nmのものがより好ましい
。」(2頁右下欄20行~3頁右上欄3行)
(キ)「
超微粒子Aとこれよりも一次粒子径の大きい他の微粒子Bとを混合して成形する
と、粒子径の大きな微粒子Bの間の大きな空隙に、粒径の小さな超微粒子Aが充填されており、そのため、微細多孔体内の空隙は、実質的には、超微粒子A間の空隙とみることができる。このため、静止空気の熱伝導率の影響を受けない微細な空隙を形成することが可能となる。」(3頁右下欄12~19行)
(ク)「 超微粒子Aよりも一次粒子径の大きな微粒子Bとしては、パーライトやシラスバルーンの微粉砕物、スス、コージェライト、粘土等の無機層状化合物、ケイソウ土、ケイ酸カルシウム、カーボンブラック、SiC、TiO
2
、ZrO、CrO
2
、Fe
2
O
4
、CuS、CuO、MnO
2
、SiO
2
、Al
2
O
3
、CoO、Li
2
O、CaO等の微粒子が挙げられる。・・・(略)・・・もっとも、この発明では、-次粒子径の大きな微粒子Bの種類は、上記熱放射率の大きなものに限定されるものでなく、粒径が5~10000nm程度の微粒子であれば、上記以外のものであっても良いのである。」(4頁左上欄5行~右上欄9行)」
(ケ)「 前記
樹脂繊維
3、樹脂微粒子4
は、
それぞれ、
加熱によって融着可能な熱可塑性の樹脂からなる
。熱可塑性の樹脂としては、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、熱可塑性ポリエステル、ポリアクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル系合成樹脂、合成ポリアミドおよびそれらの複合物等が用いられる。熱可塑性の樹脂の形状は、上記のように、繊維状か、微粒子である。この発明では、樹脂繊維および樹脂微粒子のうちの少なくとも樹脂繊維を必ず用いるようにする。」(4頁左下欄17行~右下欄7行)
(コ)「 なお、この発明は、第1図および第2図に例示したものに限られない。超微粒子Aは、凝集防止処理したもの、未処理のもののいずれを用いてもよい。」(5頁左上欄11~14行)
(サ)「-実施例1-
断熱材料として、超微粒子シリカのヘキサメチルジシラザンによる表面処理物(徳山曹達(株)製、特注品、平均粒径8nm)、TiO
2
ルチル粉末(古河鉱業(株)製FR-41、粒径0.2μm)をそれぞれ重量比で3:1となるように混合したものを用い、これに、樹脂繊維としてポリエステル繊維(東洋紡製、PET繊維、直径15μm、長さ3mm)を断熱材料に対する重量比で5%になるように、断熱材料粉体に空気を含ませて流動状態にしてから、少しずつ添加し、ゆっくりと攪拌して均一に分散した。次に、この混合粉体を金型に流し込み、5分間静置して、自然脱気させた。その後、上型を載せて、直圧プレスで20kg/cm
2
の成形圧でプレスしたまま、金型温度を220°Cにし、温度が一定になってから30分間保持した。次に金型のまま別のプレスに移し、成形圧を20kg/cm
2
にしたまま冷却した。冷却後に金型から取り出して、板状に成形された微細多孔体(断熱体)を得た。同微細多孔体の外形寸法は、直径80mm、厚さ約7mmであった。」(第5頁左上欄18行~右上欄18行)
(シ)「-実施例2-
樹脂繊維として、ポリエチレンをコーティングしたポリエステル繊維
(東洋紡製、PE-PET繊維、直径15μm、長さ2mm)を重量比で、断熱材料の3%になるように混合し、加熱温度を180°Cにしたこと以外は、実施例1と同様にして微細多孔体(断熱体)を得た。」(5頁左下欄9~15行)
(ス)「
78
151
0001431141000001.jpg
」
(セ)「
211
151
0001431141000002.jpg
」
イ 甲A1に記載された発明
前記アより、甲A1には、微細多孔体に関して、次の発明(以下「甲A1発明」という。)が記載されていると認められる。
「微粒子粉末が成形されてなる微細多孔体において、熱可塑性樹脂からなる繊維が分散されており、(前記ア(ア))
優れた断熱性を保持しており、(前記ア(イ))
微細多孔体1は、多数の微粒子2・・・によって構成される空隙Sが、1~60nmという非常に小さい空隙となっており、(前記ア(エ))
微粒子として、少なくとも超微粒子Aを用い、(前記ア(カ))
超微粒子Aは、乾式製法による超微粒子シリカであり、(前記ア(カ))
超微粒子Aの粒径は、1~20nm程度が好ましく、10nm以下のもの、3~8nmのものがより好ましく、(前記ア(カ))
樹脂繊維は、加熱によって融着可能な熱可塑性の樹脂からなり、(前記ア(ケ))
樹脂繊維として、ポリエチレンをコーティングしたポリエステル繊維である(前記ア(シ))
微細多孔体」
(2)甲A4
ア 甲A4の記載内容
甲A4には以下の記載がある。
(ア)「2.特許請求の範囲
(1)微粒子粉末の成形によって作られる微細多孔体であって、前記微粒子として、一次粒子径の異なる2種以上の微粒子を共存させることを特徴とする微細多孔体。」(1頁左下欄4行~8行)
(イ)「〔技術分野〕
この発明は、
断熱性に優れた微細多孔体
に関する。」(1頁右下欄1行~3行)
(ウ)「〔発明の目的〕
この発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであって、常圧において、静止空気の熱伝導率より遙かに低い熱伝導率を有し、経年変化が少なく、しかも、比較的安価に製造することができる微細多孔体を得ることを目的としている。」(2頁左上欄17行~右上欄2行)
(エ)「第2図あるいは第3図にみるように、この発明の
微細多孔体は、一次粒子径の異なる2種以上の微粒子A,Bを加圧成形等で一体化してなるものである
。なお、ここで言う、粒子とは、球や角型等のものを指し、繊維状のものは含まない。
粒子Aとしては、発泡パーライトの微粉砕物、シラスバルンの微粉砕物、スス、コロイダルゾルの乾燥物、および、エアロゲル等が挙げられるが、下記粒径の範囲内であれば、これらに限定されるものではない。これらは単独で、あるいは、複数混合して使用することができる。
粒子B
として
は、
前記コロイダルゾルの乾燥物やエアロゲルの他に、ポリケイ酸、湿式製法微粉末シリカ、乾式製法微粉末シリカ等が挙げられるが、後述する範囲内程度の粒径を有し、前述した、気体の熱伝導の影響を無くすことができる程度の小さな空隙(すなわち、
空気の平均自由工程よりも小さい空隙
)
を形成できる
のであれば、これらに限定されるものではない。これらは単独で、あるいは、複数混合して使用することができる。
粒子Aの粒径は、従来のものと同様5nm~10000nm(=10μm)程度であることが好ましく、5nm~1μmの範囲内であることがより好ましい。また、粒子Bの粒径は1~10nm程度であることが好ましく、3~8nmの範囲内であることがより好ましい。
粒子Bとして、
湿式製法微粉末シリカや
乾式製法微粉末シリカ
等
を用い
る場合には、これらの
粒径は、1~100nm程度であることが好ましく、6~30nmであることがより好ましい
。なお、以上に示した粒径の範囲には重複している部分があるが、粒子A,Bのうち少なくとも一方がその範囲内にある場合でも、両者の関係がA>Bであることには変わりはない。」(2頁左下欄20行~3頁左上欄12行)
(オ)「 一般に、空隙径と空気の熱伝導率との間には、第5図(a)に示した関係がある。ここで、粒子Bを、第5図(b)にみるように、最密充填した場合を考えると、形成される空隙の大きさxは、粒子の粒径をbとすると、
x=b(√3-1)で概算できる。第5図(a)からは、空気の熱伝導率以下にするには、空隙の大きさを1μm程度にすればよいと考えられるが、実際には、粒子自身による個体部の熱伝導(0.006~0.008kcal/mhr°C程度)があり、また、第5図(b)のように最密充填状態になることは希であるため、第5図(a)に二点鎖線で示したように粒子径を100nm以下、空隙の大きさにして60~70nm以下にすることにより、空気の熱伝導率程度か、それより小さい熱伝導率を有する断熱材を得ることができるようになる。
たとえば、粒子Bとして、湿式製法あるいは乾式製法微粉末シリカを用いる場合、その粒径が1nm以下では、形成される空隙は0.7nm程度になる。しかし、このように小さい空隙では空気中のガス(O
2
、N
2
等)や水蒸気が吸着すると、空気の熱伝導率よりも熱伝導率が高くなる恐れがある。したがって粒子Bとして湿式製法あるいは乾式製法微粉末シリカを用いる場合には、その粒径は1~100nm程度であることが好ましいのである。」(3頁左上欄15行~左下欄1行)
(カ)「 微粒子粉末の成形方法も、この発明では特に限定されず、通常、このような多孔体を成形するために使用されている方法、たとえば、加圧成形等を、そのまま用いることができる。」(3頁左下欄2行~5行)
(キ)「 なお、以下の実施例ならびに比較例における粒子の粒径は窒素吸着法によってその比表面積を求め、密度を2.5と仮定して算出したものである。」(4頁左上欄1行~3行)
(ク)「 (実施例1)
発泡粉砕パーライト(粒径1.6μm、宇部パーライト(株)製PC-ライト)をボールミルにより微粉砕して得られた微粉砕物(粒径100nm)と、エアロゲル(粒径7nm、日本アエロジル(株)製アエロジル380)とを重量比1:1で混和したものを、10kgW/cdの成形圧で成形し、微細多孔体試料を得た。」(4頁左上欄4行~11行)
(ケ)「 (実施例14)
粒径の小さい粒子として、乾式製法シリカ(粒径12nm
、日本アエロジル(株)製アエロジル20
0)を使用した
以外は、実施例1と同様にして、微細多孔体試料を得た。」(4頁右下欄11行~15行)
(コ)「 また、実施例ならびに比較例で得られた試料の細孔構造の評価を、水銀圧入法を用いて測定した。結果を第4図(a)~(l)に示す。図中縦軸は分布頻度、横軸は空隙の大きさをあらわす。なお、これら図は、各実施例ならびに比較例と、下記のように対応している。
実施例1→第4図(a) 実施例9→第4図(h)
実施例2→第4図(b) 比較例1→第4図(i)
実施例3→第4図(c) 比較例2→第4図(j)
実施例4→第4図(d) 比較例3→第4図(k)
実施例5→第4図(e) 比較例4→第4図(l)
実施例6→第4図(f)
実施例8→第4図(g)」(5頁左下欄3行~15行)
(サ)「第1表の結果より、この発明の微細多孔体である実施例1~9は、いずれも、比較例1~3、5よりも遙かに低い熱伝導率を有するものであることがわかった。比較例4は上記実施例1~6と同程度の熱伝導率であったが、このものでは、成形効率が悪く、同じ大きさの成形品を得るのに、多量の粒子を必要とした。
また、第4図(a)~(l)の結果より、実施例では、
60~70nm程度の細孔が得られる
こともわかった。」(6頁左下欄1行~10行)
(シ)「
118
151
0001431141000003.jpg
」
イ 甲A4に記載された発明
前記アより、甲A4には、次の発明(以下「甲A4発明」という。)が記載されていると認められる。
「断熱性に優れた微細多孔体であって、(前記ア(イ))
微細多孔体は、一次粒子径の異なる2種以上の微粒子A,Bを加圧成形で一体化してなるものであり、(前記ア(エ))
粒子Bは、空気の平均自由工程よりも小さい空隙を形成でき、(前記ア(エ))
粒子Bとして、乾式製法微粉末シリカを用い、粒径は、1~100nm程度であることが好ましく、6~30nmであることがより好ましく、(前記ア(エ))
乾式製法シリカとして、粒径12nmを用い、(前記ア(ケ))
60~70nm程度の細孔が得られる(前記ア(サ))
微細多孔体」
(3)本件発明1と甲A1発明との対比・判断
ア 本件発明1と甲A1発明とを対比する。
(ア)発明特定事項A及びFについて
甲A1発明の「超微粒子A」は、「乾式製法による超微粒子シリカ」であるから、本件発明1の「乾式シリカ粒子」に相当する。
甲A1発明の「微細多孔体」において分散されている「熱可塑性樹脂からなる繊維」は、「樹脂繊維」であり、「ポリエチレンをコーティングしたポリエステル繊維」である。そして、「ポリエチレンをコーティングしたポリエステル繊維」の構造は芯鞘構造ということができ、「融着可能」であるからバインダ繊維ということができるから、甲A1発明の「ポリエチレンをコーティングしたポリエステル繊維」は、本件発明1の「有機繊維である、長手方向に延びる芯部と、前記芯部の外周面を被覆するように形成された鞘部と、を備えた芯鞘構造を有するバインダ繊維」に相当する。
甲A1発明の「微細多孔体」には「空隙S」が構成されており、「空隙S」は「細孔」ということができるから、甲A1発明の「微細多孔体」は、内部に細孔を有するものである。
甲A1発明の「微細多孔体」は「断熱性を保持」するものであり、熱伝達を抑制するものであるから、甲A1発明の「微細多孔体」と本件発明1の「熱伝達抑制シート」とは、「熱伝達抑制体」である点で共通する。
以上より、本件発明1と甲A1発明とは、「乾式シリカ粒子と、有機繊維である、繊維の長手方向に延びる芯部と、この芯部の外周面を被覆するように形成された鞘部とを有する芯鞘構造のバインダ繊維、及び、有機材料である、ホットメルトパウダーのうち少なくとも一方を含み、内部に細孔を有する熱伝達抑制体」で共通する。
他方、熱伝達抑制体の形状について、甲A1発明は、「シート」の形状であることは特定されていない。
(イ)発明特定事項Bについて
甲A1発明において、「樹脂繊維」は、「融着可能な熱可塑性の樹脂」であり、「微粒子粉末が成形されてなる微細多孔体において、熱可塑性樹脂からなる繊維が分散されて」いるから、「微細多孔体」において、微粒子粉末を含んだ状態で融着されていると解される。
そして、融着している部分は、バインダ部ということができるから、本件発明1と甲A1発明とは、「前記バインダ繊維及び前記ホットメルトパウダーのうち少なくとも一方が、前記乾式シリカ粒子を含んだ状態でバインダ部を形成しており、」の点で一致する。
(ウ)発明特定事項Cについて
甲A1発明は、「超微粒子Aの粒径は、1~20nm程度が好ましく、10nm以下のもの、3~8nmのものがより好ましい」ものである。
ここで、前記(1)ア(キ)の「超微粒子Aとこれよりも一次粒子径の大きい他の微粒子Bとを混合して成形する」との記載を踏まえると、甲A1発明の「超微粒子Aの粒径」は、「超微粒子A」の一次粒子径を意味すると解されるから、本件発明1と甲A1発明とは、「乾式シリカ粒子の平均一次粒子径は、25nm以下であ」る点で一致する。
(エ)発明特定事項Dについて
甲A1発明では、細孔径が68nm以下の前記細孔の合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上であることは特定されていない。
(オ)発明特定事項Eについて
甲A1発明では、細孔径分布を示すグラフについて、特定されていない。
(カ)以上より、本件発明1と甲A1発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「 乾式シリカ粒子と、有機繊維である、繊維の長手方向に延びる芯部と、この芯部の外周面を被覆するように形成された鞘部とを有する芯鞘構造のバインダ繊維、及び、有機材料である、ホットメルトパウダーのうち少なくとも一方を含み、内部に細孔を有する熱伝達抑制体であって、
前記バインダ繊維及び前記ホットメルトパウダーのうち少なくとも一方が、前記乾式シリカ粒子を含んだ状態でバインダ部を形成しており、
前記乾式シリカ粒子の平均一次粒子径は、25nm以下である、
熱伝達抑制体」
そして、両者は、以下の点で相違する。
<相違点A1-1>
熱伝達抑制体の形状について、本件発明1は「シート」の形状であるのに対して、甲A1発明は、「シート」の形状とは特定されていない点
<相違点A1-2>
本件発明1は「細孔径が68nm以下の前記細孔の合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上であ」ることを特定しているのに対して、甲A1発明は当該事項を特定していない点
<相違点A1-3>
本件発明1は「縦軸を細孔容積とし、横軸を細孔径とした場合の、前記乾式シリカ粒子の細孔径分布を示すグラフにおいて、前記細孔径が100nm以下の範囲で、前記乾式シリカ粒子の一次粒子に由来する細孔を表すピークを有し、かつ、前記細孔径が100nmを超える範囲で、前記乾式シリカ粒子の二次粒子、三次粒子に由来する細孔を表すピークを有する」ことを特定しているのに対して、甲A1発明は当該事項を特定していない点
イ 判断
事案に鑑み、相違点A1-3について検討する。
甲B1には、後記第6 2(1)アで摘記するように、ヒュームドシリカなどの微細粉末を主成分とする従来の高性能断熱材(【0002】)について、「細孔径の大きさが0.01~0.1μm、0.1~10μmおよび10~1000μm範囲内の3つの領域に分かれて、それぞれの範囲内に細孔分布の前記ピークの位置が存在するような細孔分布を示す粒子構造をもつもので構成され」、「細孔径が0.01~0.1μmの範囲内にピークをもつ細孔というのは、原料となるヒュームド酸化物からなる1次粒子が凝集し2次粒子を構成している1次粒子間に生じている空隙に相当」すること(【0018】)、「一方、細孔径が0.1~10μmの範囲内の位置にピークが存在する細孔というのは、前述の2次粒子間の隙間に相当する」(【0019】)ことが記載されている。
しかしながら、甲A1の「微細多孔体1は、多数の微粒子2・・・によって構成される空隙Sが、たとえば、1~60nmという非常に小さい空隙となっており、また微粒子2・・・は、凝集力(ファンデアワールス力)で凝集している微細多孔体となっている。」(前記2(1)ア(エ))との記載を踏まえると、微細多孔体は、微粒子2が凝集して、多数の微粒子2によって構成される空隙Sが1~60nmという非常に小さい空隙となっているから、甲A1発明の微細多孔体は、微粒子2(超微粒子A)が凝集した状態で、空隙が1~60nmとなっていると解される。
そして、凝集した微粒子2は、二次粒子、三次粒子に対応するから、甲A1発明は、二次粒子、三次粒子に由来する細孔を含めて、1~60nmという非常に小さい空隙となっていると解するのが自然であり、細孔径が100nmを超える範囲で、二次粒子、三次粒子に由来する細孔を表すピークを有しているということはできない。
そうすると、甲A1発明においても、上記甲B1の記載の細孔径分布となっているということはできず、また、甲A1発明において、甲B1の上記記載の事項を適用すると、甲A1発明における空隙の大きさが変更されることになるから、適用する動機付けがあるともいえない。
また、提出されたその他の証拠には、相違点A1-3に係る構成について記載されていない。
よって、相違点A1-3に係る構成は、当業者が容易になし得たものとはいえない。
ウ 申立人A及び申立人Bの主張について
(ア)申立人Aは、当該相違点(意見書Aにおける「相違点A1-3」と同じ)について、概略次の主張をする。(意見書A 11~16頁)
甲A1には、「超微粒子Aは、凝集防止処理したもの、未処理のものいずれを用いてもよい。」(甲A1:第5頁左上欄11~14行)、「表面処理剤によって凝集防止処理するに際しては、その処理の程度を制御してもよい。」(甲A1:第3頁左下欄5~6行)と記載され、甲A1発明において、乾式シリカ粒子が未処理である場合、凝集防止処理程度が低い場合には、乾式シリカ粒子は、一次粒子に加え、二次粒子、三次粒子となっていることが自明であり、また、本件発明と甲A1発明とは、乾式シリカ粒子の平均一次粒子径が一致するから、本件発明の乾式シリカ粒子の粒子径分布と甲A1発明における未処理である場合、凝集防止処理程度が低い場合の乾式シリカ粒子の粒子径分布とは、同様の分布を有するということができる。
また、参考資料2には、ヒュームドドシリカを含む高性能断熱材の技術分野において、「従来の高性能断熱材は、細孔径の大きさが0.01~0.1μm、0.1~10μmおよび10~1000μm範囲内の3つの領域に分かれて、それぞれの範囲内に細孔分布の前記ピークの位置が存在するような細孔分布を示す粒子構造をもつもので構成されている。」、「細孔径が0.01~0.1μmの範囲内にピークをもつ細孔というのは、原料となるヒュームド酸化物からなる1次粒子が凝集し2次粒子を構成している1次粒子間に生じている空隙に相当し、」(【0018】)、「一方、細孔径が0.1~10μmの範囲内の位置にピークが存在する細孔というのは、前述の2次粒子間の隙間に相当するものであり、」(【0019】)と記載されていることからも、微細多孔体が0.01~0.1μm(10~100nm)に乾式シリカの一次粒子に由来する細孔を表すピークを有し、0.1~10μm(100~1000nm)に乾式シリカの二次粒子に由来する細孔を表すピークを有することは周知であった。
当該主張について検討する。
甲A1は、前記(ア)のとおり、甲A1発明は、二次粒子、三次粒子に由来する細孔を含めて、1~60nmという非常に小さい空隙となっていると解されるものであり、細孔径が100nmを超える範囲で、二次粒子、三次粒子に由来する細孔を表すピークを有しているということはできない。
また、乾式シリカ粒子について未処理である場合、凝集防止処理程度が低い場合であっても、凝集した微粒子により、空隙が1~60nmとなっているから、未処理である場合であっても、同様である。
さらに、参考資料2は、甲B1と同じ文献であるところ、前記イのとおり、参考資料2をみても、甲A1発明が、「前記細孔径が100nm以下の範囲で、前記乾式シリカ粒子の一次粒子に由来する細孔を表すピークを有し、かつ、前記細孔径が100nmを超える範囲で、前記乾式シリカ粒子の二次粒子、三次粒子に由来する細孔を表すピークを有」しているとはいえない。
よって、申立人Aの当該主張は採用できない。
(イ)申立人Bは、当該相違点(意見書Bにおける「相違点A1-3」と同じ)について、概略次の主張をする。(意見書B 4~6頁)
相違点A1-3に係る構成は、甲B1、甲B4に記載の周知技術及び本件特許の出願時における技術常識を参酌すれば、当業者にとって容易に想到し得たものである。
当該主張について検討する。
上記(ア)のとおり、甲A1発明は、二次粒子、三次粒子に由来する細孔を含めて、1~60nmという非常に小さい空隙となっているものであり、前記イのとおり、甲A1発明に、甲B1に記載される事項を適用する動機付けがあるとはいえないから、当業者が容易になし得たものとはいえない。
また、甲B4の図11、図12は、いずれも「双峰性の分布を呈」して(【0029】、【0030】)いるが、一次粒子に由来する細孔を表すピーク、二次粒子、二次粒子に由来する細孔を表すピークを示すものではないから、相違点A1-3に係る構成に対応しない。
よって、申立人Bの当該主張は採用できない。
エ まとめ
以上によれば、相違点A1-1、A1-2について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者といえども、甲A1発明から容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明2~5、7~8及び10と甲A1発明との対比・判断
本件発明2~5、7~8及び10は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定を加えたものであるから、少なくとも上記相違点A1-1~A1-3の点で、甲A1発明とは相違する。
そして、相違点A1-3は、前記(3)イのとおり、当業者が容易になし得たものとはいえないから、本件発明2~5、7~8及び10は、当業者といえども、甲A1発明から容易に発明をすることができたものではない。
(5)本件発明1と甲A4発明との対比・判断
ア 本件発明1と甲A4発明とを対比する。
(ア)発明特定事項A及びFについて
甲A4発明の「微粒子B」と「粒子B」とは同じものを意味していると解される。また、「乾式製法微粉末シリカ」と「乾式製法シリカ」とは同じものを意味していると解されるから、甲A4発明は、「粒子B」として、「乾式製法シリカ」を用いるものであり、「乾式製法シリカ」は、本件発明1の「乾式シリカ粒子」に相当する。
甲A4発明の「微細多孔体」は「空隙を形成」できるものであり、「空隙」は「細孔」ということができるから、甲A4発明の「微細多孔体」は、内部に細孔を有するものである。
甲A4発明の「微細多孔体」は、「断熱性に優れた」ものであり、熱伝達を抑制するものであるから、甲A4発明の「微細多孔体」と本件発明1の「熱伝達抑制シート」とは、「熱伝達抑制体」である点で共通する。
以上より、本件発明1と甲A4発明とは、「乾式シリカ粒子を含み、内部に細孔を有する熱伝達抑制体」で共通する。
他方、熱伝達抑制体の形状について、甲A4発明は、「シート」の形状であることは特定されておらず、「有機繊維である、繊維の長手方向に延びる芯部と、この芯部の外周面を被覆するように形成された鞘部とを有する芯鞘構造のバインダ繊維、及び、有機材料である、ホットメルトパウダーのうち少なくとも一方を含」むことについて特定されていない。
(イ)発明特定事項Bについて
甲A4発明は、当該事項を特定していない。
(ウ)発明特定事項Cについて
甲A4発明は、「乾式製法微粉末シリカを用い、粒径は、1~100nm程度であることが好ましく、6~30nmであることがより好まし」いものであり、「乾式製法シリカとして、粒径12nmを用い」るものである。
そして、甲A4発明の「粒径」は、一次粒子径を意味すると解されるから、本件発明1と甲A4発明とは、「乾式シリカ粒子の平均一次粒子径は、25nm以下であ」る点で一致する。
(エ)発明特定事項Dについて
甲A4発明の「微細多孔体」の「空隙」は、「細孔」ということができる。
そして、甲A4発明の「細孔」は、「60~70nm程度」であるが、「細孔径が68nm以下の前記細孔の合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上であ」るか明らかではない。
(オ)発明特定事項Eについて
甲A4発明では、細孔径分布を示すグラフについて、当該事項は特定されていない。
(カ)以上より、両者は、以下の点で一致する。
<一致点>
「 乾式シリカ粒子を含み、内部に細孔を有する熱伝達抑制体であって、
前記乾式シリカ粒子の平均一次粒子径は、25nm以下である、
熱伝達抑制体」
そして、両者は、以下の点で相違する。
<相違点A4-1>
熱伝達抑制体の形状について、本件発明1は「シート」の形状であるのに対し、甲A4発明は、「シート」の形状とは特定されていない点
<相違点A4-2>
本件発明1は、「有機繊維である、繊維の長手方向に延びる芯部と、この芯部の外周面を被覆するように形成された鞘部とを有する芯鞘構造のバインダ繊維、及び、有機材料である、ホットメルトパウダーのうち少なくとも一方を含」むことを特定しているのに対して、甲A4発明は、当該事項を特定していない点
<相違点A4-3>
本件発明1は、「前記バインダ繊維及び前記ホットメルトパウダーのうち少なくとも一方が、前記乾式シリカ粒子を含んだ状態でバインダ部を形成して」いることを特定しているのに対して、甲A4発明は、当該事項を特定していない点
<相違点A4-4>
本件発明1は、「細孔径が68nm以下の前記細孔の合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上であ」ることを特定しているのに対して、甲A4発明は、当該事項を特定していない点
<相違点A4-5>
本件発明1は、「縦軸を細孔容積とし、横軸を細孔径とした場合の、前記乾式シリカ粒子の細孔径分布を示すグラフにおいて、前記細孔径が100nm以下の範囲で、前記乾式シリカ粒子の一次粒子に由来する細孔を表すピークを有し、かつ、前記細孔径が100nmを超える範囲で、前記乾式シリカ粒子の二次粒子、三次粒子に由来する細孔を表すピークを有する」ことを特定しているのに対して、甲A4発明は、当該事項を特定していない点
イ 判断
事案に鑑み、相違点A4-5について検討する。
甲A4発明において、「乾式製法シリカとして、粒径12nmを用い」ることは、甲A4の「実施例14」であるところ、「実施例14」は、粒径の小さい粒子として、乾式製法シリカを使用した以外は実施例1と同様であり(前記(2)ア(ケ))、実施例14と粒径の小さい粒子としてエアロゲル(粒径7nm)を用いた実施例1(前記(2)ア(ク))とは、粒径の小さい粒子の粒径が類似することから、実施例14における細孔構造は、実施例1における細孔構造と同様の細孔構造であると想定される。
そして、縦軸が分布頻度、横軸が空隙の大きさを表すグラフ(第4図)は、本件発明1の「細孔径分布」といえるものであり、実施例1の細孔構造を示す第4図(a)(前記(2)ア(コ))は、0~60nmの空隙の大きさの範囲にピークをもち、60nm以上の空隙の大きさの範囲においてピークを有していない(前記(2)ア(シ))ことが見てとれる。
以上を踏まえると、甲A4発明においても、細孔径分布は、0~60nmの空隙の大きさの範囲にピークをもち、60nm以上の空隙の大きさの範囲においてピークを有していないと認められる。
そうすると、甲B1の【0002】、【0018】、【0019】に記載される事項(前記(3)イ、及び後記第6 2(1)ア)をみても、甲A4発明は、0~60nmの空隙の大きさの範囲にピークをもち、60nm以上の空隙の大きさの範囲においてピークを有していないことから、細孔径が100nmを超える範囲で、二次粒子、三次粒子に由来する細孔を表すピークを有しているということはできず、また、甲A4発明に甲B1に記載される事項を適用する動機付けがあるとはいえない。
また、提出されたその他の証拠には、相違点A4-5に係る構成について記載されていない。
よって、相違点A4-5に係る構成は、当業者が容易になし得たものとはいえない。
ウ 申立人A及び申立人Bの主張について
(ア)申立人Aは、相違点A4-5に係る構成について、概略次の主張をする。(意見書A 18~20頁)
甲A4発明において、乾式シリカ粒子は、一次粒子に加え、二次粒子、三次粒子となっていることは自明である。また、特許発明の甲A4発明とは、乾式シリカ粒子の平均一次粒子径が一致することから、特許発明の乾式シリカ粒子の細孔径分布と甲A4発明における乾式シリカ粒子の細孔径分布とは、同様の分布を有するということができる。
当該主張について検討する。
甲A4発明における乾式シリカ粒子の細孔径分布は、前記(ア)のとおり、0~60nmの空隙の大きさの範囲にピークをもち、60nm以上の空隙の大きさの範囲においてピークを有さないもので、相違点A4-5とは異なる細孔径分布であるから、同様の分布を有するということはできない。
よって、申立人Aの当該主張は採用できない。
(イ)申立人Bは、相違点A4-5に係る構成について、前記(3)ウ(イ)と同様の主張をするものであり、前記(3)ウ(イ)と同様に、当該主張は採用できない。
エ まとめ
以上によれば、相違点A4-1~A4-4について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者といえども、甲A4発明から容易に発明をすることができたものではない。
(6)本件発明2~5、7~8及び10と甲A4発明との対比・判断
本件発明2~5、7~8及び10は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定を加えたものであるから、少なくとも上記相違点A4-1~A4-5の点で、甲A4発明とは相違する。
そして、相違点A4-5は、前記(3)イのとおり、当業者が容易になし得たものとはいえないから、本件発明2~5、7~8及び10は、当業者といえども、甲A4発明から容易に発明をすることができたものではない。
申立理由A1-1(新規性)は甲A1を主たる証拠とし、申立理由A1-2(新規性)は甲A4を主たる証拠とする申立てである。
本件発明と甲A1発明とは、前記第5 2(3)、(4)のとおり相違点があるから、同一とはいえない。
また、本件発明と甲A4発明とは、前記第5 2(5)、(6)のとおり相違点があるから、同一とはいえない。
よって、当該申立理由は、理由がない。
申立理由B1(新規性)及び申立理由B2-1(進歩性)は、いずれも甲B1を主たる証拠とする申立理由である。
(1)甲B1
ア 甲B1の記載内容
甲B1には以下の記載がある。
「【0001】
本発明は、高温で使用される高性能断熱材、特に、耐水性にも優れる高性能断熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
有機材料が使用できないような高温(≧500°C)で使用することができ、静止空気に近い低熱伝導率を示す断熱材としては、従来、
ヒュームドシリカなどの微細粉末を主成分とする微細多孔質成形体
(以下、これを「
高性能断熱材
」という)を用いたものがある(非特許文献1、特許文献1))。
【0003】
この文献に開示された高性能断熱材は、超微細固体粒子(数nm~数10nm)で構成されているため、熱伝導が微細粒子の点接触に依存すること、気孔率が高く(80vol%以上)、その気孔も微細で気体の平均自由工程よりも小さい(100nm以下)気孔を多く含み、かつ赤外線を反射する材料を含むために、低熱伝導率であることが特徴である。
【0004】
前記超微細固体粒子としては、ヒュームド酸化物、例えば、ヒュームドシリカが代表的であり
、
ドイツのデグサ社製アエロジル(登録商標)などが知られている。かかるヒュームド酸化物は、金属酸化物を原料に火炎加水分解法(MCln+2mH
2
+mO
2
、ここでM=Si、Al、Ti、Zrなど;Siの場合1000°C程度)によって得ることができる。このようにして得られるヒュームド酸化物、例えば、
ヒュームドシリカは、
BET比表面積5~600m2/g、
1次粒子径5~50nm
、密度2.2g/cc、見掛比容積1000~2000ml/100gで、鎖状の集塊粒子からなるものが代表的なものである。」
「【0016】
水銀圧入法では、大気圧から徐々に圧力を上げて試料に水銀を浸入させ、各圧力における水銀の浸入量から試料の細孔径分布を測定する方法である。水銀は物質を濡らすことはないが、加圧することにより物質の細孔に浸入する性質がある。このとき、圧力を上げるに従い、大きな孔から順に小さな孔へ水銀が浸入するので、圧力を上げながら累積浸入量を順次に、測定し、その圧力値を細孔径に換算することで、一定の径以上の累積細孔体積を求めることができる。通常、細孔径分布は、ある細孔径より大きい(または小さい)細孔の単位試料重量当たり体積を細孔径に対してプロットして表す場合(積分型)と、ある微小細孔径範囲に属する細孔の単位試料重量当たり体積を細孔径に対してプロットしヒストグラムとして表す場合(微分型)とがある。いずれの場合も、細孔径は対数で表される。
【0017】
本発明で言うピークとは、微分型で表した細孔径分布のグラフ上に山形に見られるところ、極大値である。通常、横軸の細孔径を1桁当たり3~10程度に分割したヒストグラムで表わすので、その極大値の有無は容易に判別できる。
【0018】
この点、
従来の高性能断熱材は、細孔径の大きさが0.01~0.1μm、0.1~10μmおよび10~1000μm範囲内の3つの領域に分かれて、それぞれの範囲内に細孔分布の前記ピークの位置が存在するような細孔分布を示す
粒子構造をもつもので構成されている。即ち、高性能断熱材において、
細孔径が0.01~0.1μmの範囲内にピークをもつ細孔
というの
は、
原料となる
ヒュームド酸化物からなる1次粒子が凝集し2次粒子を構成している1次粒子間に生じている空隙に相当し、
原料粒子固有の形状を反映している。また、このピークは非常にシャープな山形を示し、この山形は細孔径でおおよそ0.5桁程度の範囲に収まる。
【0019】
一方、
細孔径が0.1~10μmの範囲内の位置にピークが存在する細孔というのは、前述の2次粒子間の隙間に相当する
ものであり、2次粒子の充填状態を反映しているものである。これは上記小径側のピークに比較して、ブロードでやや低い山形を示し、山形の裾に相当する2つ谷の部分(極小値)の幅は1~3桁程度と広いものとなる。具体的には、「細孔径の大きさが0.1~10μmの範囲内には山形のピークがない細孔分布」とは、細孔径が0.1μmでの浸入量と10μmでの浸入量の高い方の値に対して、細孔径の大きさが0.1μm~10μmの範囲内での浸入量の値がそれ以下である場合を言う。」
「【0031】
なお、
従来の高性能断熱材の粒子構造は
、未使用の状態で、
細孔径の大きさが0.01~0.2μmの範囲内のものが0.3~1.0ml/g、細孔径の大きさが0.1~10μmの範囲内のものが0.7~3.0ml/g、細孔径の大きさが10~1000μmの範囲内のものが0.6~1ml/g程度の細孔が存在する細孔径分布となっている
。
【0032】
これに対し、本発明の高性能断熱材は、細孔径の大きさが0.01~0.1μmの範囲内のものおよび10~1000μmの範囲内にある細孔の量は従来のものと大差がないが、細孔径の大きさが0.1~10μmの範囲内にある細孔については、0.5ml/g以下、好ましくは0.3ml/g以下である。その結果、本発明の高性能断熱材は、成形体の吸水、乾燥の処理時に消失する0.1~10μmの範囲内にピークのある細孔分布を示す細孔の量が少ないため、寸法安定性も高く、熱抵抗が劣化するようなことがない。」
「【実施例】
【0033】
2種の高性能断熱材を用意し、これらを常温の水中に6時間浸漬した後、110°Cで18時間乾燥して発明例1、2の高性能断熱材とした。その発明例1、2に係る高性能断熱材および従来の高性能断熱材(比較例1、2)を、再び常温の水中に6時間浸漬した後、110°Cで18時間乾燥する試験を両者に対して行った(水中浸漬と乾燥を2回繰り返した)。この試験の結果について、熱伝導率を表1に、そして、細孔径分布を図1、図2に示した。なお、熱伝導率についてはホットディスク法(京都電子工業製)、細孔径分布は水銀ポロシメータにて測定した。」
「【図1】
134
151
0001431141000004.jpg
」
「【図2】
134
151
0001431141000005.jpg
」
イ 甲B1に記載された発明
前記アの【0031】の記載において、「0.01~0.2μmの範囲内」は、その後に「0.1~10μmの範囲内」と続くこと、【0032】において、「これに対し、」「0.01~0.1μmの範囲内」、「0.1~10μmの範囲内」と記載されていることから、「0.01~0.2μmの範囲内」は、「0.01~0.1μmの範囲内」の誤記と認める。
そうすると、前記アより甲B1には、従来の高性能断熱材について、次の発明(以下「甲B1発明」という。)が記載されていると認められる。
「ヒュームドシリカなどの微細粉末を主成分とする高性能断熱材である微細多孔質成形体において、(【0002】)
ヒュームドシリカは、1次粒子径5~50nmであり、(【0004】)
細孔径の大きさが0.01~0.1μm、0.1~10μmおよび10~1000μm範囲内の3つの領域に分かれて、それぞれの範囲内に細孔分布の前記ピークの位置が存在するような細孔分布を示し、細孔径が0.01~0.1μmの範囲内にピークをもつ細孔は、ヒュームド酸化物からなる1次粒子が凝集し2次粒子を構成している1次粒子間に生じている空隙に相当し、細孔径が0.1~10μmの範囲内の位置にピークが存在する細孔は、2次粒子間の隙間に相当し、(【0018】、【0019】)
細孔径の大きさが0.01~0.1μmの範囲内のものが0.3~1.0ml/g、細孔径の大きさが0.1~10μmの範囲内のものが0.7~3.0ml/g、細孔径の大きさが10~1000μmの範囲内のものが0.6~1ml/g程度の細孔が存在する細孔径分布となっている(【0031】)
微細多孔質成形体」
(2)本件発明1と甲B1発明との対比・判断
ア 本件発明1と甲B1発明とを対比する。
(ア)発明特定事項A及びFについて
甲B1発明の「ヒュームドシリカ」は、本件発明1の「乾式シリカ」に相当する。
甲B1発明の「微細多孔質形成体」は「微細多孔質」であるから、細孔を有するものである。
甲B1発明の「微細多孔質形成体」は、「断熱材」であるから、甲B1発明の「微細多孔質形成体」と本件発明1の「熱伝達抑制シート」とは、「熱伝達抑制体」である点で共通する。
以上より、本件発明1と甲B1発明とは、「乾式シリカ粒子を含み、内部に細孔を有する熱伝達抑制体」で共通する。
他方、熱伝達抑制体の形状について、甲B1発明は、「シート」の形状であることは特定されておらず、「有機繊維である、繊維の長手方向に延びる芯部と、この芯部の外周面を被覆するように形成された鞘部とを有する芯鞘構造のバインダ繊維、及び、有機材料である、ホットメルトパウダーのうち少なくとも一方を含」むことについて特定されていない。
(イ)発明特定事項Bについて
甲B1発明は、当該事項を特定していない。
(ウ)発明特定事項Cについて
甲B1発明の「ヒュームドシリカ」は、「1次粒子径5~50nm」であり、25nm以下とはされていない。
(エ)発明特定事項Dについて
甲B1発明は、「細孔径の大きさが0.01~0.1μmの範囲内のものが0.3~1.0ml/g、細孔径の大きさが0.1~10μmの範囲内のものが0.7~3.0ml/g、細孔径の大きさが10~1000μmの範囲内のものが0.6~1ml/g程度の細孔が存在する細孔径分布」であり、0.01~0.1μm(10~100nm)の範囲内の細孔の合計容積を特定するものであるから、「68nm以下」の範囲において、どの程度の合計容積となるかは、明らかでない。また、0.01~0.1μmの範囲内、0.1~10μmの範囲内、10~1000μmの範囲内の細孔の容積を、それぞれ数値範囲で特定することから、「細孔径が68nm以下の前記細孔の合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上」であるか、明らかとはいえない。
甲B1の図1及び図2をみても、同様である。
そうすると、「細孔径が68nm以下の前記細孔の合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上」であることは、特定されていない。
(オ)発明特定事項Eについて
甲B1発明の「細孔径の大きさが0.01~0.1μm、0.1~10μmおよび10~1000μm範囲内の3つの領域に分かれて、それぞれの範囲内に細孔分布の前記ピークの位置が存在するような細孔分布を示し、細孔径が0.01~0.1μmの範囲内にピークをもつ細孔は、ヒュームド酸化物からなる1次粒子が凝集し2次粒子を構成している1次粒子間に生じている空隙に相当し、細孔径が0.1~10μmの範囲内の位置にピークが存在する細孔は、2次粒子間の隙間に相当」することは、本件発明1の「縦軸を細孔容積とし、横軸を細孔径とした場合の、前記乾式シリカ粒子の細孔径分布を示すグラフにおいて、前記細孔径が100nm以下の範囲で、前記乾式シリカ粒子の一次粒子に由来する細孔を表すピークを有し、かつ、前記細孔径が100nmを超える範囲で、前記乾式シリカ粒子の二次粒子、三次粒子に由来する細孔を表すピークを有する」ことに相当する。
(カ)以上より、両者は、以下の点で一致する。
<一致点>
「 乾式シリカ粒子を含み、内部に細孔を有する熱伝達抑制体であって、
縦軸を細孔容積とし、横軸を細孔径とした場合の、前記乾式シリカ粒子の細孔径分布を示すグラフにおいて、前記細孔径が100nm以下の範囲で、前記乾式シリカ粒子の一次粒子に由来する細孔を表すピークを有し、かつ、前記細孔径が100nmを超える範囲で、前記乾式シリカ粒子の二次粒子、三次粒子に由来する細孔を表すピークを有する
熱伝達抑制体」
そして、両者は、以下の点で相違する。
<相違点B1-1>
熱伝達抑制体の形状について、本件発明1は「シート」の形状であるのに対し、甲B1発明は、「シート」の形状とは特定されていない点
<相違点B1-2>
本件発明1は、「有機繊維である、繊維の長手方向に延びる芯部と、この芯部の外周面を被覆するように形成された鞘部とを有する芯鞘構造のバインダ繊維、及び、有機材料である、ホットメルトパウダーのうち少なくとも一方を含」むことを特定しているのに対して、甲B1発明は、当該事項を特定していない点
<相違点B1-3>
本件発明1は、「前記バインダ繊維及び前記ホットメルトパウダーのうち少なくとも一方が、前記乾式シリカ粒子を含んだ状態でバインダ部を形成して」いることを特定しているのに対して、甲B1発明は、当該事項を特定していない点
<相違点B1-4>
本件発明1は、「前記乾式シリカ粒子の平均一次粒子径は、25nm以下であ」ることを特定しているのに対して、甲B1発明は、「1次粒子径5~50nm」である点
<相違点B1-5>
本件発明1は、「細孔径が68nm以下の前記細孔の合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上であ」ることを特定しているのに対して、甲B1発明は、「細孔径の大きさが0.01~0.1μmの範囲内のものが0.3~1.0ml/g、細孔径の大きさが0.1~10μmの範囲内のものが0.7~3.0ml/g、細孔径の大きさが10~1000μmの範囲内のものが0.6~1ml/g程度の細孔が存在する細孔径分布」である点
イ 判断
事案に鑑み、相違点B1-5について検討する。
提出されたすべての証拠をみても、相違点B1-5に係る構成は記載されておらず、また、甲B1発明において、「細孔径が68nm以下の前記細孔の合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上」とすることが当業者に自明であるともいえない。
よって、少なくとも相違点B1-5に係る本件発明1の構成は、実質的な相違点であり、本件発明1と甲B1発明とは、同一とはいえない。また、相違点B1-5に係る構成は、当業者が容易になし得たものとはいえない。
ウ 申立人Bの主張
申立人Bは、相違点B1-5に係る構成について、「モード径が68nm以下の細孔合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上」であることは、図2の「本発明例2」の細孔径分布から見てとれると主張する。(異議申立書B 15~16頁)
しかしながら、本件発明1は、本件訂正により、「細孔径が68nm以下の前記細孔の合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上」と訂正されている。
そして、図2における本発明例2の細孔径分布は、細孔径が68nm以下の細孔の合計容積及び細孔の全容積がどの程度であるのか不明であり、細孔径が68nm以下の細孔の合計容積が、細孔の全容積に対して10%以上であることが明らかとはいえないから、当該主張は採用できない。
エ まとめ
以上によれば、相違点B1-1~B1-4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲B1発明と同一ではなく、また、当業者といえども、甲B1発明から容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~5、7~8及び10と甲B1発明との対比・判断
本件発明2~5、7~8及び10は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定を加えたものであるから、少なくとも上記相違点B1-1~B1-5の点で、甲B1発明とは相違する。
そして、相違点B1-5は、前記(2)イのとおり、当業者が容易になし得たものとはいえない。
よって、本件発明2~5は、甲B1発明と同一ではなく、また、本件発明2~5、7~8及び10は、当業者といえども、甲B1発明から容易に発明をすることができたものではない。
(4)小括
したがって、申立理由B1(新規性)及び申立理由B2-1(進歩性)は理由がない。
申立理由B2-2(進歩性)は、甲B2を主たる証拠とする申立理由であり、申立理由C1-1(進歩性)及び申立理由C1-2(進歩性)は、甲C1を主たる証拠とする申立理由である。
甲B2と甲C1とは同じ文献である(前記第4 2及び3の<証拠方法>参照)から、以下、「甲C1」は「甲B2」と置き換えて表す。
(1)甲B2
ア 甲B2の記載内容
甲B2には以下の記載がある。
「【請求項1】
90%以上がシリカ(二酸化珪素)からなるシリカ成形体であって、そのかさ密度が0.2~1.5g/cm
3
、BET比表面積が15~400m
2
/g、平均粒子径が0.001~0.5μm、積算総細孔容積が0.3~4cm
3
/gであり、その細孔の平均細孔径1μm以下である細孔の積算細孔容積が成形体中の積算総細孔容積の70%以上かつ平均細孔径0.1μm以下である細孔の積算細孔容積が成形体中の積算総細孔容積の10%以上であることを特徴とするシリカ成形体からなる断熱材。」
「【0001】
本発明は、摩擦、断熱性を利用する各種の用途、例えば研磨材、
断熱材等の用途に好適なシリカ成形体
、及びその製造法として原料であるシリカ超微粉末の特性を制御し成形加工に適した粉末とした上でシリカ成形体を製造する方法に関する。」
「【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、粉末特性、成形体の微構造、成形方法等に工夫を凝らすことにより、シリカの超微粉末を多孔体に単独で成形したシリカ成形体及びその製造法並びにその成形体を焼結することで優れた性質を有した主としてシリカからなる断熱体、研磨体等が得られることを見出だし、本発明を完成するに至った。
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のシリカ成形体は、
主としてシリカ
(二酸化珪素)
からなり、
かさ密度が0.2~1.5g/cm
3
、BET比表面積が15~400m
2
/g、
平均粒子径が0.001~0.5μmであるシリカ成形体において、
成形体中の積算総細孔容積が0.3~4cm
3
/gであり、その細孔の平均細孔径1μm以下である細孔の積算細孔容積が成形体中の積算総細孔容積の70%以上かつ
平均細孔径0.1μm以下である細孔の積算細孔容積が成形体中の積算総細孔容積の10%以上である
。
【0015】
ここでシリカ成形体の成分としては、主として
シリカ
からなり、シリカ成分が全量の90%以上有するものが好ましく用いられ、例えば、
その種類として、乾式法シリカ
、湿式法シリカ
などが挙げられる
。」
「【0018】
平均粒子径の範囲としては、0.001~0.5μmの範囲内にあるのが必須であり、その理由は、成形体の平均粒子径が0.001μmよりも小さくなるということは原料粉末の1次粒子径が0.001μmよりも小さくなければならず、多孔体に単独で成形することが非常に難しくなるために実用的でなく、逆に0.5μmよりも大きくなると、例えば、かさ密度を上記範囲に維持するためにはBET比表面積を上記範囲に維持することが難しくなったり、研磨加工において適用した場合に被研磨材料の表面の欠陥が無視できない程度となり平滑な面を得ることができなくなるなどの問題が生じるので好ましくないからである。」
「【0020】
上記の成形体中の細孔分布は平均細孔径1μm以下である細孔の積算細孔容積が成形体中の積算総細孔容積の70%以上かつ平均細孔径0.1μm以下である細孔の積算細孔容積が成形体中の積算総細孔容積の10%以上であることが必須である。この理由として、この細孔分布の範囲であれば、多孔体へ単独で成形することが容易となり、又、より低い熱伝導度を維持できるからである。
【0021】
上記の成形体中の細孔モ-ド径の範囲としては、0.01~0.3μm、細孔メジアン径の範囲としては、多孔体へ単独で成形することを容易とし、又、より低い熱伝導度を維持するために、0.01~0.3μmであることが好ましい。このとき平均細孔径は0.01~0.8μmとなる。
【0022】
本明細書においては、「細孔モ-ド径」は微分細孔分布において微分値が最大となるところの細孔径を意味し、「細孔メジアン径」は積分細孔分布において積算総細孔容積の最小値と最大値の中央値に対応する細孔径を意味する。尚、細孔モ-ド径、細孔メジアン径は体積基準であり、平均細孔径(Dp、とする)は水銀圧入法により測定した細孔構造の結果の中、比容積(単位重量当たりの体積であり、V、とする)と比表面積(単位重量当たりの表面積であり、S、とする)の値から、公知の下記(1)式により算出できる。」
「【0025】
本発明のシリカ成形体の製造法は、上記特徴を満たす成形体が製造できれば特に限定されるものではない。例えば、主としてシリカからなる粉末を成形、焼成して得られる。原料粉末の主としてシリカからなる粉末の粉末特性は形状保持性がよく、低い熱伝導度を維持でき、又、研磨加工プロセスへの適用が可能な成形体が得られれば特に限定されるものではないが、BET比表面積が25~400m
2
/g、平均粒子径が0.5~50μmであり、かつBET比表面積から算出される1次粒子径をDb(単位はμm)、平均粒子径をDs(単位はμm)としたときにこれらの関係が1≦Ds/Db≦4000の範囲にあり、粉末かさ密度が20~140g/リットルである粉末を用い、この粉末を予備成形した後に分級してBET比表面積が25~400m
2
/g、平均粒子径が10~300μmであり、かつ1≦Ds/Db≦20000の範囲にあり、粉末かさ密度が50~500g/リットルとなるように粉末特性を制御して成形用の原料粉末とすることが好ましい。このような粉末特性を有する粉末となるような処理を施して用いると上記特徴を有するシリカ成形体を得ることが容易となる。」
「【0032】
さらに、
粉末の成形性を向上させるため、
スプレ-ドライ法や転動法などにより造粒したり、
バインダ-
、ワックス等
を添加してもよい
。成形性を向上させるために成形前にワックスやバインダ-などの有機物を添加する場合には、焼成前に脱脂することが好ましい。脱脂の方法は特に限定されるものではないが、例えば大気脱脂、又は窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性雰囲気中での加圧脱脂などが挙げられる。また、同様の効果を得るために、水分を添加し、その後焼成操作の前に乾燥させることも可能である。」
「【0035】
本発明のシリカ成形体は、研磨材、断熱材、触媒担体、吸着剤や、芳香剤,殺菌剤等を担持させるための薬剤担体などの用途に使用可能である。」
「【0047】
実施例1
表1に示す特性のシリカ粉末を圧力7kg/cm
2
にて油圧プレス機を用いてプレス成形して直径280mmのシリカ成形体を得、これを焼成炉(光洋リンドバーグ社製、型式:51668)にて700°Cで2時間焼成してシリカ成形体を得た。得られたシリカ成形体を200mm角に加工した後、前記した方法により、シリカ成形体のかさ密度、細孔径分布、BET表面積、細孔容積の測定値、モード径、メジアン径、曲げ強度、熱伝導率等の測定を行ない、その結果を表2に示した。」
「【表2】
35
153
0001431141000006.jpg
」
イ 甲B2に記載された発明
前記アより甲B2には、次の発明(以下「甲B2発明」という。)が記載されていると認められる。
「断熱材等の用途に好適なシリカ成形体であって、(【0001】)
主としてシリカからなり、平均粒子径が0.001~0.5μmであるシリカ成形体において、(【0014】)
平均細孔径0.1μm以下である細孔の積算細孔容積が成形体中の積算総細孔容積の10%以上であり、(【0014】)
シリカの種類として、乾式法シリカが挙げられ、(【0015】)
粉末の成形性を向上させるため、バインダ-を添加してもよい(【0032】)
シリカ成形体」
(2)本件発明1と甲B2発明との対比・判断
ア 本件発明1と甲B2発明とを対比する。
(ア)発明特定事項A及びFについて
甲B2発明の「シリカの種類として」挙げられる「乾式法シリカ」は、本件発明1の「乾式シリカ」に相当する。
甲B2発明の「シリカ成形体」は「平均細孔径0.1μm以下である細孔の積算細孔容積が成形体中の積算総細孔容積の10%以上であ」るから、細孔を有するものである。
甲B2発明の「シリカ成形体」は、「断熱材等の用途に好適」であるから、本件発明1の「熱伝達抑制シート」とは「熱伝達抑制体」である点で共通する。
甲B2発明は、「バインダーを添加してもよい」ものであり、本件発明1の「有機繊維である、繊維の長手方向に延びる芯部と、この芯部の外周面を被覆するように形成された鞘部とを有する芯鞘構造のバインダ繊維、及び、有機材料である、ホットメルトパウダー」は、バインダーといえるから、本件発明1と甲B2発明とは、「バインダーを含む」点で共通する。
以上より、本件発明1と甲B2発明とは、「乾式シリカ粒子と、バインダーを含み、内部に細孔を有する熱伝達抑制体」で共通する。
他方、熱伝達抑制体の形状について、甲B2発明は、「シート」の形状であることは特定されておらず、「バインダー」について、甲B2発明は、「有機繊維である、繊維の長手方向に延びる芯部と、この芯部の外周面を被覆するように形成された鞘部とを有する芯鞘構造のバインダ繊維、及び、有機材料である、ホットメルトパウダーのうち少なくとも一方」であることは特定されていない。
(イ)発明特定事項Bについて
甲B2発明は、「粉末の成形性を向上させるため、バインダーを添加してもよい」のものであるから、粉末である乾式法シリカをバインダーで保持するものと解される。
よって、本件発明1と甲B2発明とは、「バインダーが、前記乾式シリカ粒子を含んだ状態でバインダ部を形成して」いる点で共通する。
(ウ)発明特定事項Cについて
甲B2発明の「シリカ」は、「乾式法シリカ」であり、「平均粒子径が0.001~0.5μmである」。
甲B2発明の「平均粒子径」は、本件発明1の「平均一次粒子径」に対応すると認められるが、「平均一次粒子径は、25nm以下」とはされていない。
(エ)発明特定事項Dについて
甲B2発明において、「平均細孔径0.1μm以下である細孔の積算細孔容積が成形体中の積算総細孔容積の10%以上であり」、「細孔径が68nm以下の前記細孔の合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上」であることは、特定されていない。
(オ)発明特定事項Eについて
甲B2発明では、細孔径分布を示すグラフについて、特定されていない。
(カ)以上より、両者は、以下の点で一致する。
<一致点>
「 乾式シリカ粒子と、バインダーを含み、内部に細孔を有する熱伝達抑制体であって、
バインダーが、前記乾式シリカ粒子を含んだ状態でバインダ部を形成している、
熱伝達抑制体」
そして、両者は、以下の点で相違する。
<相違点B2-1>
熱伝達抑制体の形状について、本件発明1は「シート」の形状であるのに対し、甲B2発明は、「シート」の形状とは特定されていない点
<相違点B2-2>
バインダーについて、本件発明1は「有機繊維である、繊維の長手方向に延びる芯部と、この芯部の外周面を被覆するように形成された鞘部とを有する芯鞘構造のバインダ繊維、及び、有機材料である、ホットメルトパウダーのうち少なくとも一方を含」むことを特定しているのに対して、甲B2発明は、当該事項を特定していない点
<相違点B2-3>
本件発明1は、「前記乾式シリカ粒子の平均一次粒子径は、25nm以下であ」ることを特定しているのに対して、甲B2発明は、乾式法シリカの「平均粒子径が0.001~0.5μmである」点
<相違点B2-4>
本件発明1は、「細孔径が68nm以下の前記細孔の合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上であ」ることを特定しているのに対して、甲B2発明は、「平均細孔径0.1μm以下である細孔の積算細孔容積が成形体中の積算総細孔容積の10%以上であ」る点
<相違点B2-5>
本件発明1は、「縦軸を細孔容積とし、横軸を細孔径とした場合の、前記乾式シリカ粒子の細孔径分布を示すグラフにおいて、前記細孔径が100nm以下の範囲で、前記乾式シリカ粒子の一次粒子に由来する細孔を表すピークを有し、かつ、前記細孔径が100nmを超える範囲で、前記乾式シリカ粒子の二次粒子、三次粒子に由来する細孔を表すピークを有する」ことを特定しているのに対して、甲B2発明は、当該事項を特定していない点
イ 判断
事案に鑑み、相違点B2-4について検討する。
甲B2発明は、平均細孔径0.1μm以下である細孔の積算細孔容積が成形体中の積算総最高容積の10%以上であることを特定しているが、68nm以下の細孔の合計容積については、不明であり、提出されたいずれの証拠にも記載されていない。
そして、甲B2発明において、細孔径が68nm以下の細孔の合計容積が、細孔の全容積に対して10%以上であることが自明であるともいえない。
よって、相違点B2-4に係る構成は、当業者が容易になし得たものとはいえない。
ウ 申立人Bの特許異議申立書の主張
(ア)申立人Bは、概略、相違点B2-4に係る構成は、甲B1、甲B3、甲B4に記載されるように周知である旨、主張する。(異議申立書B 31頁)
しかしながら、当該主張は、本件訂正前の「モード径が68nm以下の細孔の合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上である」ことに対するものであり、相違点B2-4の構成に対応するものではない。
そして、甲B1の【0031】、【0032】及び図1、2(前記1(1)ア)の記載をみても、前記1(1)ウ(イ)のとおり、細孔径が68nm以下の細孔の合計容積が、細孔の全容積に対して10%以上であるとはいえない。
甲B3には、「最頻細孔径(D
max
)は通常5nm以上、50nm以下、好ましくは30nm以下である。」(【0021】)、「加えて、本発明のシリカは、上記の最頻細孔径(D
max
)の値の±20%の範囲にある細孔の総容積が、全細孔の総容積の通常50%以上、中でも60%以上、更には70%以上であることが好ましい。」(【0031】)と記載されている。
しかしながら、甲B3は、「更に、必要に応じて粉砕、分級することで、最終的に目的としていた本発明のシリカを得る。・・・(中略)・・・具体的には、例えば粒径が10μm以下の微細なシリカを得るには、・・・(中略)・・・これらの中でも、粒径が2μm以下の超微細なシリカを得る際には、ボールミル、撹拌ミルが好ましい。」(【0091】)と記載されており、シリカの粒径が本件発明と大きく異なるものであり、甲B2発明において、「細孔径が68nm以下の細孔の合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上である」ことを示す証拠とはいえない。
さらに、甲B4は、ナノ多孔質複合セパレータであるから、甲B2発明の「断熱材等の用途に好適」な「シリカ成形体」とは異なるものである。
よって、甲B1、甲B3、甲B4の記載を踏まえても、甲B2発明において、相違点B2-4に係る構成が周知であるとはいえない。
(イ)また、申立人Bは、相違点B2-4に係る構成について、付言として、概略、次の主張をする。(異議申立書B 32頁)
請求項1に係る発明の実質的な課題、目的は、「空気の平均自由行程である68nm以下の径を有する細孔の容積率を規定することで、対流による熱伝達を抑制し、より一層断熱性能を向上させることが可能な熱伝達抑制シートを提供する」ことにある。
他方で、甲B5の段落0102、甲B6の段落0016、甲B8の段落0019にあるように、上記課題、目的は周知であり、このような課題解決、目的達成のために数値範囲を最適化又は好適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内でなされるものである。すなわち、これら文献との対比、また本件発明には試験データがないことを鑑みて、構成(1C)に係る数値限定は、新規な課題を解決し、顕著な効果(異質な効果)を得るという技術的意義を有するものではない。
しかしながら、本件特許の明細書には、「そこで、本発明者は、空気の平均自由行程である68nm以下の径を有する細孔2の容積率を規定することにより、対流による熱伝達を抑制し、より一層耐熱性能を向上させることができることを見出した。」(【0038】)、「細孔径が68nm以下である細孔2の合計容積が、細孔2の全容積に対して10%未満であると、対流及び熱伝導によって熱が伝達されるため、優れた断熱性能を得ることができない。したがって、細孔径が68nm以下である細孔2の合計容積は、細孔2の全容積に対して10%以上とし、15%以上であることが好ましい。」(【0039】)と記載されており、発明特定事項D(相違点B2-4、異議申立書Bにおける構成(1C))により、より優れた断熱性能を得ることができるものである。
そして、甲B5、甲B6、甲B8には、細孔径が68nm以下である細孔2の合計容積と、細孔2の全容積との関係について記載されておらず、本件発明の課題、目的は周知であるとしても、本件発明が技術的意義を有するものではないといえない。
エ 申立人Cの特許異議申立書の主張
申立人Cは、相違点B2-4に係る構成について、概略、次の主張をする。(異議申立書C 13~14頁)
甲B2には、成形体中の積算総細孔容積が0.3~4cm
3
/gであり、その細孔の平均細孔径1μm以下である細孔の積算細孔容積が成形体中の積算総細孔容積の70%以上かつ平均細孔径0.1μm(100nm)以下である細孔の積算細孔容積が成形体中の積算総細孔容積の10%以上であることが記載され(段落0014)、上述した実施例では、平均細孔径1μm以下である細孔の積算細孔容積が成形体中の積算総細孔容積の割合が、実施例1及び実施例2でそれぞれ49%及び46%である(表2)。そうすると、甲C1(甲B2)には、「平均粒子径が100nm以下の細孔の合計容積は、細孔の全容積に対して49%である」こと、及び、「平均粒子径が100nm以下の細孔の合計容積は、細孔の全容積に対して46%である」ことが記載されている。
甲B2において、実施例1では平均粒子径(「一次粒子径」に相当)が0.015μm(15nm)、実施例2で0.020μm(20nm)である。そうすると、甲C1(甲B2)の実施例1及び2は、いずれも平均一次粒子径は25nm未満であり、モード径が68nm以下の前記細孔の合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上である蓋然性が高い。
しかしながら、甲B2の表2における実施例1及び2で記載されているのは、0.1μm以下の細孔径の容積の割合であるから、68nm以下での細孔径の容積の割合がどの程度であるかは不明であり、「細孔径が68nm以下の前記細孔の合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上である」とまではいえない。
オ まとめ
以上によれば、相違点B2-1~B2-3、B2-5について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者といえども、甲B2発明から容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~5、7~8及び10と甲B2発明との対比・判断
本件発明2~5、7~8及び10は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定を加えたものであるから、少なくとも上記相違点B2-1~B2-5の点で、甲B2発明とは相違する。
そして、相違点B2-4は、前記(2)イのとおり、当業者が容易になし得たものとはいえないから、本件発明2~5、7~8及び10は、当業者といえども、甲B2発明から容易に発明をすることができたものではない。
(4)小括
したがって、申立理由B2-2(進歩性)、申立理由C1-1(進歩性)、及び申立理由C1-2(進歩性)は理由がない。
(1)本件特許の明細書の記載
本件特許の明細書には、次の記載がある。
「【0030】
[熱伝達抑制シート]
図1は、本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シートの一部を拡大して示す模式図である。図1に示すように、熱伝達抑制シート10は、乾式シリカ粒子1を含み、内部に複数の細孔2を有する。なお、乾式シリカ粒子1は、例えば、バインダ部3によって保持されている。まず、乾式シリカ粒子1及び細孔2について詳細に説明する。
【0031】
<乾式シリカ粒子>
本実施形態に係る熱伝達抑制シート10に含有される乾式シリカ粒子1は、断熱性が高いシリカからなり、例えば、球形又は球形に近い形状を有し、平均一次粒子径が25nm以下のナノ粒子である。このようなナノ粒子は低密度であるため伝導伝熱を抑制し、細孔が細かく分散するため、対流伝熱を抑制する優れた断熱性を得ることができる。
また、乾式シリカ粒子1は優れた圧縮特性を有するため、熱伝達抑制シート10を複数の組電池の間に介在させた組電池において、優れた効果を得ることができる。具体的に、電池セルの熱暴走に伴う膨張によって熱伝達抑制シート10が圧縮され、内部の密度が上がった場合であっても、熱伝達抑制シート10の伝導伝熱の上昇を抑制する効果を有する。これは、ナノ粒子が静電気による反発力で粒子間に細かな空隙ができやすく、かさ密度が低いため、クッション性があるように粒子が充填されるからであると考えられる。
【0032】
(乾式シリカ粒子の平均一次粒子径:25nm以下)
図2は、横軸を乾式シリカ粒子1の比表面積とし、縦軸を熱伝達抑制シートにおける非加熱面ピーク温度とした場合の、乾式シリカ粒子1の比表面積と断熱性能との関係を示すグラフ図である。縦軸の非加熱面ピーク温度は、種々の平均一次粒子径を有する乾式シリカ粒子1を使用して作成した
熱伝達抑制シートについて、所定の圧力にて加圧した状態にて、一対の主面のうち一方の主面に対して、例えば800°Cの温度で所定の時間加熱し、他方の主面のピーク温度を測定した
値である。なお、これらの熱伝達抑制シートは、全て互いに同一の条件で製造されたものであり、乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径のみを変化させている。また、図2中には、それぞれの平均一次粒子径を有する乾式シリカ粒子の凝集粒径及び水分率も併せて示している。
【0033】
図2に示すように、
乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径が30nmである場合に、非加熱面ピーク温度は190°Cを超え、優れた断熱性能を得ることができない。
これは、乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径が大きいと、粒子同士の接触面積が増加し、粒子同士の接点は減少するため、固体間を熱が伝導される熱伝導が増加するからであると考えられる。一方、
乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径が25nm以下であると、
図1に示すように、
乾式シリカ粒子1同士の接触面積が減少し、粒子同士の接点が増加(界面抵抗が増加)するため、固体間の熱伝導4が減少する
。したがって、
乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径は、25nm以下とし、20nm以下とすることが好ましく、15nm以下とすることがより好ましい
。
【0034】
一方、本実施形態において、乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径の下限は特に限定しない。上述のとおり、乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径が小さい方が、熱伝導4が減少して断熱性能が向上する。しかし、熱伝達抑制シート10の保管条件等によっては、乾式シリカ粒子1の比表面積が大きくなるに従って、熱伝達抑制シート10への水分の吸着量が増加することがある。そして、熱伝達抑制シート10に含まれる水分量が増加すると、粒子同士が凝集して接触面積が増加するとともに、図2に示すように凝集粒径が大きくなるため熱伝達抑制シート10内に形成される細孔2の径も大きくなる。その結果、熱伝導や対流による熱の伝達が増加するため、断熱性能は飽和する。したがって、熱伝達抑制シート10への水分の吸着を抑制し、断熱性能をより一層向上させるためには、乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径は、7nm以上であることが好ましい。
【0035】
なお、平均一次粒子径が25nm以下である乾式シリカ粒子1は、ゆるみかさ密度が0.005(g/cm
3
)程度である。したがって、例えば、熱伝達抑制シート10の両側に配置された電池セルが熱膨張し、熱伝達抑制シート10に対して大きな圧縮応力が加わった場合であっても、乾式シリカ粒子1同士の接点の大きさ等が著しく大きくなることはなく、断熱性を維持することができる。
【0036】
(乾式シリカ粒子の含有量:50質量%以上80質量%以下
熱伝達抑制シート中の乾式シリカ粒子の、熱伝達抑制シート全質量に対する含有量が適切に規定されていると、後述する所定の細孔径径を有する細孔の容積率を制御することができる。すなわち、後述する細孔の容積率を得るためには、乾式シリカ粒子の含有量は、50質量%以上、80質量%以下であることが好ましい。なお、熱伝達抑制シートちゅうの乾式シリカ粒子の含有量は、蛍光X線分析(XRF:X-Ray Fluorescence)やICP発光分光分析法(ICP-AES:Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy)等の化学分析法によって測定することができる。
【0037】
<細孔>
(細孔径が68nm以下である細孔の合計容積:10%以上)
本実施形態に係る熱伝達抑制シート10は
、内部に複数の細孔2を有する。以下、細孔2の大きさの断熱性能に対する影響について、詳細に説明する。図3は、縦軸を細孔容積とし、横軸を細孔径とした場合の、乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径毎の細孔径分布を示すグラフ図である。図4は、縦軸を細孔のモード径とし、横軸を乾式シリカ粒子の平均一次粒子径とした場合の、平均一次粒子径と細孔径との関係を示すグラフ図である。
図5は、縦軸を細孔径が68nm以下である細孔の容積率とし、横軸を乾式シリカ粒子の平均一次粒子径とした場合の、平均一次粒子径と容積率との関係を示すグラフ図である。
なお、図3において、細孔径が100nm以下の範囲で現れているピークは、乾式シリカ粒子1の一次粒子に由来する細孔を表す。また、細孔径が100nmを超える範囲で現れているなだらかなピークは、乾式シリカ粒子1の二次粒子、三次粒子に由来する細孔を表す。
【0038】
細孔2の大きさは、断熱性能に影響を及ぼす。すなわち、細孔2の大きさが空気の平均自由工程である68nmを超えると、分子同士の衝突、及び分子と壁面との衝突が発生し、対流及び熱伝導の両方により熱が伝達される。一方、細孔2の大きさが空気の平均自由工程以下であると、分子同士の衝突よりも分子と壁面との衝突が支配的となり、対流による熱の伝達が抑制される。そこで、本発明者は、空気の平均自由工程である68nm以下の径を有する細孔2の容積率を規定することにより、
対流による熱伝達を抑制し、より一層断熱性能を向上させることができる
ことを見出した。
【0039】
細孔径が68nm以下である細孔2の合計容積が、細孔2の全容積に対して10%未満であると、対流及び熱伝導によって熱が伝達されるため、優れた断熱性能を得ることができない。したがって、細孔径が68nm以下である細孔2の合計容積は、細孔2の全容積に対して10%以上とし、15%以上であることが好ましい。
一方、本実施形態において、細孔径が68nm以下である細孔2の合計容積率の上限は特に限定されない。
【0040】
なお、本実施形態に係る熱伝達抑制シートは、乾式シリカ粒子の他にも種々の成分が含有されることがあるが、意図的にナノオーダーの材料が多量に含有されない限り、68nm以下の細孔の合計容積の割合が変化することはない。
【0041】
ここで、熱伝達抑制シート10の内部に形成された細孔2の細孔径及び容積は、水銀圧入法により求めることができる。また、細孔径が68nm以下である細孔2の合計容積率Vrは、以下の式により算出することができる。
【0042】
Vr=(Vs/Va)×100
ただし、Vsは、細孔径が68nm以下となった細孔2の全容積を表し、Vaは、全細孔の合計容積Vaを表す。また、Vrは、細孔径が68nm以下である細孔2の合計容積率を表す。
【0043】
(細孔の全容積:2.0(cc/g)以上)
本実施形態に係る熱伝達抑制シートは、平均一次粒子径が25nm以下である乾式シリカ粒子を含んでおり、内部に複数の細孔が形成されている。特に、乾式法により熱伝達抑制シートを製造することにより、全てのサイズの細孔の全容積(合計容積)を大きくすることができ、これにより、断熱性を向上させることができる。したがって、細孔の全容積は、熱伝達抑制シートの単位質量に対して、2.0(cc/g)以上であることが好ましい。
【0044】
なお、図4に示すように、熱伝達抑制シート10に形成される細孔のモード径は、乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径に比例する。また、図5に示すように、乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径が大きくなるに従って、68nm以下の細孔の容積率は減少する。特に、乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径が25nmを超えた場合に、68nm以下の細孔の容積率が10%を下回り、断熱性能が著しく低下する。これらのことから、68nm以下の細孔の容積率を上記範囲に制御するためには、平均一次粒子径が25nm以下である乾式シリカ粒子1を使用する必要があることがわかる。」
「【図2】
84
151
0001431141000007.jpg
」
「【図5】
104
151
0001431141000008.jpg
」
(2)申立理由A3(実施可能要件)(第4 1(4))について
前記(1)のとおり、本件特許の明細書には、【0032】に「熱伝達抑制シートについて、所定の圧力にて加圧した状態にて、一対の主面のうち一方の主面に対して、例えば800°Cの温度で所定の時間加熱し、他方の主面のピーク温度を測定」することが記載されているから、断熱性能の測定方法が記載されていると認められる。
よって、申立理由A3は理由がない。
(3)申立理由B4(実施可能要件)(第4 2(5))について
前記(1)より、本件特許の明細書における「本実施形態に係る熱伝達抑制シート10」の「平均一次粒子径と容積率との関係を示すグラフ図」(【0037】)である図5からは、乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径が25nmである場合、68nm以下の細孔の容積率(%)は概ね13%程度であり、平均一次粒子径が30nmでは5%となっていることが見てとれるものである。
そして、「乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径が30nmである場合に」は、「優れた断熱性能を得ることができ」ず、「乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径が25nm以下であると」、「乾式シリカ粒子1同士の接触面積が減少し、粒子同士の接点が増加(界面抵抗が増加)するため、固体間の熱伝導4が減少する」(【0033】)ことが記載されている。
そうすると、本件特許の明細書には、「細孔径が68nm以下の前記細孔の合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上であ」ることにより、「対流による熱伝達を抑制し、より一層断熱性能を向上させることができる」(【0038】)ことが記載されるものであり、「モード径が68nm以下の細孔の合計容積が10%では到底足りず、より多くの容積が必要とされる」との主張は採用できない。
よって、申立理由B4は理由がない。
(1)申立理由A4(サポート要件)(前記第4 1(5))について
ア 前記第4 1(5)アについて
前記4(2)のとおり、【0032】に「温度を測定」することが記載されているから、断熱性能を確認していると認められる。
イ 前記第4 1(5)イについて
細孔の全容積について、本件特許の明細書【0043】(前記4(1))に記載されている。
ウ 前記第4 1(5)ウについて
乾式シリカ粒子の配合量について、本件特許の明細書【0036】(前記4(1))に記載されている。
エ 小括
よって、申立理由A4は理由がない。
(2)申立理由B3(サポート要件)(前記第4 2(4))について
前記4(3)のとおり、本件特許の明細書には、「細孔径が68nm以下の前記細孔の合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上であ」ることにより、「対流による熱伝達を抑制し、より一層断熱性能を向上させることができる」(【0038】)ことが記載されるものであるから、申立人Bの主張は採用できない。
よって、申立理由B3は理由がない。
(3)申立理由C2(サポート要件)(前記第4 3(3))について
前記4(1)より、本件特許における「本実施形態に係る熱伝達抑制シート10」の「平均一次粒子径と容積率との関係を示すグラフ図」(【0037】)である図5から、乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径が25nmである場合、68nm以下の細孔の容積率(%)は概ね13%程度であり、平均一次粒子径が30nmでは5%となっていることが見てとれる。
そして、「乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径が30nmである場合に」は、「優れた断熱性能を得ることができ」ず、「乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径が25nm以下であると」、「乾式シリカ粒子1同士の接触面積が減少し、粒子同士の接点が増加(界面抵抗が増加)するため、固体間の熱伝導4が減少する」(【0033】)ことが記載されている。
そうすると、本件特許の明細書には、「前記乾式シリカ粒子の平均一次粒子径は、25nm以下であり」、「細孔径が68nm以下の前記細孔の合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上であ」ることにより、「対流による熱伝達を抑制し、より一層断熱性能を向上させることができる」(【0038】)ことが記載されるものであるから、当業者は、本件発明の平均一次粒子径や細孔径が68nm以下の細孔の合計容積を定めたことの技術的意義を理解することができ、本件発明の数値範囲内であれば課題を解決できると認識できる。
よって、申立理由C2は理由がない。
前記4(3)のとおり、本件特許の明細書には、「細孔径が68nm以下の前記細孔の合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上であ」ることにより、「対流による熱伝達を抑制し、より一層断熱性能を向上させることができる」(【0038】)ことが記載されるものであり、本件発明は、発明の詳細な説明に裏付けられたものと認められる。
よって、申立理由B5は理由がない。
(1)申立人Aは、「あ.訂正事項1及び訂正事項2に関する実施可能要件およびサポ―卜要件について」において、概略次の主張をする。(意見書A 4頁)
バインダ繊維及びホットメルトパウダーの種類及び融点が本件発明には規定されていない。また、加熱温度についても、本件明細書には記載がない。
したがって、本件発明は、訂正事項2を達成できない範囲を含む。また、これらの記載がなければ、当業者は訂正事項2を実施できない。
当該主張について検討する。
ア 本件特許は、「優れた断熱性能を有する熱伝達抑制シート及びその製造方法、並びにこの熱伝達抑制シートを有する組電池を提供することを目的とする。」(【0008】)ものであり、本件発明1は、発明特定事項A~Fを課題解決手段とするものである。
イ 本件特許の明細書には、芯鞘構造のバインダ繊維及びホットメルトパウダーに関連して次の事項が記載されている。
「【0061】
また、本実施形態に係る熱伝達抑制シート10には、上記乾式シリカ粒子1及びその他の無機粒子の他に、有機繊維や無機繊維が含まれていてもよい。さらに、
これらの全ての繊維及び粒子は、有機材料を含むバインダ部3によって保持されていてもよい
。
【0062】
<有機繊維>
熱伝達抑制シート10が有機繊維を含んでいると、シートの強度及び形状を保持することができる。有機繊維を構成する有機材料は特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン及びナイロンから選択された少なくとも1種からなる有機繊維が挙げられる。」
「【0065】
(芯鞘構造のバインダ繊維)
有機繊維として、繊維の長手方向に延びる芯部と、この芯部の外周面を被覆するように形成された鞘部とを有する芯鞘構造のバインダ繊維を含んでいてもよい。芯鞘構造のバインダ繊維において、芯部を構成する有機材料よりも鞘部を構成する有機材料の方が、融点が低いことが好ましい。熱伝達抑制シート10を製造する温度や、芯部及び鞘部を構成する有機材料の融点によっては、熱伝達抑制シートの製造時において、
芯部のみが有機繊維の形状で残存し、鞘部は無機粒子を含んだ状態でバインダ部となり
、その一部が芯部に溶着する。このように、芯鞘構造のバインダ繊維を使用すると、熱伝達抑制シート10としての強度及び形状を保持する効果と、乾式シリカ粒子1を含む無機粒子や、その他の材料の保持性を向上させる効果の両方を実現することができる。」
「【0068】
上記のような芯鞘構造を有するバインダ繊維は、一般的に市販されており、芯部と鞘部を構成する材質は、同一でも互いに異なっていてもよい。芯部及び鞘部が同一の材質であって、
異なる融点を有するバインダ繊維の例としては、例えば、芯部及び鞘部がポリエチレンテレフタレートからなるもの、ポリプロピレンからなるもの、ナイロンからなるもの等が挙げられる。芯部及び鞘部が互いに異なる材質からなるバインダ繊維の例としては、芯部がポリエチレンテレフタレートからなり、鞘部がポリエチレンからなるもの、芯部がポリプロピレンからなり、鞘部がポリエチレンからなるもの等が挙げられる
。」
「【0070】
(その他の有機材料)
本実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、その他の有機材料として、ホットメルトパウダーを含んでいてもよい。ホットメルトパウダーは、加熱により溶融する性質を有する粉体である。熱伝達抑制シート10の材料としてホットメルトパウダーを使用する場合に、熱伝達抑制シート10の製造時に、材料混合物を加熱することにより
ホットメルトパウダーが溶融する
。その後、材料混合物を冷却すると、溶融状態となったホットメルトパウダーが乾式シリカ粒子1等の周囲の材料を含んだ状態で硬化して、
バインダ部3が形成される
。これにより、材料の保持力をより一層高めることができる。なお、
ホットメルトパウダーを構成する成分としては、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、エチレン酢酸ビニル等が挙げられる
。」
「【0076】
なお、バインダ材料として、芯鞘構造のバインダ繊維を使用する場合に、加熱温度を適切に調整することにより、芯部を残して鞘部を溶融させることができる。具体的に、加熱温度は、鞘部を構成する有機材料の融点よりも高く、芯部を構成する有機材料の融点よりも低い温度とすることが好ましい。
【0077】
加熱する工程における加熱温度は、鞘部を構成する有機材料の融点よりも10°C以上高く設定することが好ましく、20°C以上高く設定することがより好ましい。一方、加熱温度は、芯部を構成する有機繊維の融点よりも10°C以上低く設定することが好ましく、20°C以上低く設定することがより好ましい。また、加熱時間については特に限定されないが、鞘部を十分に溶融させることができるための加熱時間を設定することが好ましい。例えば、3分以上15分以内に設定することができる。
【0078】
本実施形態に係る熱伝達抑制シートにおいて、バインダ材料として、芯鞘構造のバインダ繊維を使用する場合に、芯部を残して鞘部を溶融させたうえで、材料混合物を冷却すると、芯部により、熱伝達抑制シートの強度を確保することができる。また、冷却後に、乾式シリカ粒子等を含んだバインダ部3が形成されるため、乾式シリカ粒子等を保持することができる。また、芯部の周囲には乾式シリカ粒子を含んだ状態でバインダ部が溶着し、芯部は太い繊維径を有するものとなるため、高強度の熱伝達抑制シートを得ることができる。さらに、材料混合物中に芯鞘構造のバインダ繊維が不規則な方向で存在しており、一部でバインダ繊維同士が接触していると、隣接している芯部同士が、鞘部の溶融により形成されたバインダ部によって互いに融着され、立体的な骨格が形成される。その結果、熱伝達抑制シートの全体の形状をより一層高強度に保持することができる。
【0079】
なお、熱伝達抑制シート10の材料として、ホットメルトパウダー等の接着剤を使用することもできる。ホットメルトパウダーの種類及び含有量を適切に調整すると、乾式シリカ粒子1等の保持力を向上させ、粉落ちをより一層抑制することができる。」
ウ 本件発明1は「前記バインダ繊維及び前記ホットメルトパウダーのうち少なくとも一方が、前記乾式シリカ粒子を含んだ状態でバインダ部を形成芯鞘構造のバインダ繊維、又はホットメルトパウダーによりバインダ部が形成して」いることを特定するものであるところ、バインダ部は「これらの全ての繊維及び粒子」を「保持」(【0061】)するものであり、「芯部のみが有機繊維の形状で残存し、鞘部は無機粒子を含んだ状態でバインダ部とな」(【0065】)り、又は「ホットメルトパウダーが溶融する」ことで「バインダ部3が形成される」(【0070】)ものである。
そして、バインダ繊維の例(【0068】)、ホットメルトパウダーの例(【0070】)が挙げられていることから、バインダ部を形成できる芯鞘構造のバインダ繊維、又はホットメルトパウダーであれば、本件特許の課題(前記ア)を解決できると当業者は認識できる。
また、加熱温度について、「鞘部を構成する有機材料の融点よりも高く、芯部を構成する有機材料の融点よりも低い温度」(【0076】)、又は「ホットメルトパウダーが溶融する」(【0070】)温度であることが記載されており、用いる芯鞘構造のバインダ繊維、又はホットメルトパウダーの種類に応じて加熱温度が決定されることを当業者は当然に理解することから、用いる芯鞘構造のバインダ繊維、又はホットメルトパウダーに応じて加熱温度を決定することに、過度の試行錯誤を要するとはいえないから、本件発明は実施可能であると認められる。
また、本件発明2~5、7~8及び10についても、同様である。
よって、本件発明は、訂正事項1及び2に関して、サポート要件を満たすものであり、また、実施可能要件を満たすものである。
したがって、当該主張は採用できない。
(2)申立人Aは、「い.訂正事項3に関する実施可能要件、サポート要件及び明確性について」において、概略次の主張をする。(意見書A 4~5頁)
訂正事項3を含む「細孔径が68nm以下の前記細孔の合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上」には、「細孔径」が何の細孔径であるか明示されて」おらず、「当業者は訂正事項3を含む「細孔径が68nm以下の前記細孔の合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上」という要件どのように達成してよいかわからない。また、請求項の記載が明確でない。さらには、本件明細書には、訂正事項3を含む上記要件が「乾式シリカ粒子の構造」に関することは記載されていない。
当該主張について検討する。
本件発明1は「熱伝達抑制シート」に係る発明であるから、「細孔径」は、熱伝達抑制シートにおける細孔径であることは、明確に理解できるから、本件発明は、訂正事項3に関して、明確であり、実施可能要件、サポート要件、明確性要件を満たすものである。
したがって、当該主張は採用できない。
(3)申立人Aは、「う.訂正事項3及び訂正事項4に関する実施可能要件及びサポート要件について」において、概略次の主張をする。(意見書A 5~7頁)
乙1の記載に基づけば、成形圧の程度によって細孔分布が異なる成形体が得られるから、加圧条件の記載がなければ、本件発明における細孔径に係る要件である「細孔径が68nm以下の前記細孔の合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上である」という要件(訂正事項3)および「縦軸を細孔容積とし、横軸を細孔径とした場合の、前記乾式シリカ粒子の細孔径分布を示すグラフにおいて、前記細孔径が100nm以下の範囲で、前記乾式シリカ粒子の一次粒子に由来する細孔を表すピークを有し、かつ、前記細孔径が100nmを超える範囲で前記乾式シリカ粒子の二次粒子、三次粒子に由来する細孔を表すピークを有する」という要件(訂正事項4)を、当業者は、どのように達成すればよいかわからなく、実施が不可能である。本件明細書には、訂正要件3および4を満たすために、製造において必要な要件につき、記載がない。
したがって、本件発明は、実施可能要件を満たさない。また、課題を解決できるか不明であるから、明細書に記載された事項ではない。
当該主張について検討する。
本件特許の明細書には、「本発明において、加圧条件等の製造条件については特に限定されない。材料混合物の質量と、熱伝達抑制シート10をシート状に加工するための成形型の体積等を適宜調整することにより、熱伝達抑制シート10を得ることができる。」(【0074】)ことが記載されている。
そして、乙1(31頁「(2)圧縮にともなう粒子充填構造の変化」)によれば、「成形圧の程度によって細孔分布が異なる成形体が得られる」から、成形圧を調整することにより所望の細孔分布が得られることは技術常識といえる。
そして、成形圧(加圧条件)を調整することに過度の試行錯誤を要するとはいえないから、「細孔径が68nm以下の前記細孔の合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上であり、」、「縦軸を細孔容積とし、横軸を細孔径とした場合の、前記乾式シリカ粒子の細孔径分布を示すグラフにおいて、前記細孔径が100nm以下の範囲で、前記乾式シリカ粒子の一次粒子に由来する細孔を表すピークを有し、かつ、前記細孔径が100nmを超える範囲で前記乾式シリカ粒子の二次粒子、三次粒子に由来する細孔を表すピークを有する」ようにすることは、当業者が過度の試行錯誤を要することなく実施できるものである。
また、本件発明2~5、7~8及び10についても、同様である。
よって、本件発明は、訂正事項3及び訂正事項4に関して、実施可能であり、実施可能要件及びサポート要件を満たすものである。
したがって、当該主張は採用できない。
(4)申立人Aは、「え.訂正事項4に関する実施可能要件、サポート要件及び明確性について」において、概略次の主張をする。(意見書A 7頁)
訂正事項4は、「乾式シリカ粒子の細孔径分布」に関するが、「乾式シリカ粒子の細孔」とは、乾式シリカ粒子表面の細孔をいうのか、乾式シリカ粒子の粒子間の細孔をいうのか不明であり、一次粒子においては、何を細孔というのか不明確であるし、二次粒子であれば二次粒子内の細孔であるのか、二次粒子と二次粒子との間の細孔であるのか不明である。さらには、原料の乾式シリカ粒子の細孔を示すのか、熱伝達抑制シート中の乾式シリカ粒子の細孔を示すのかも不明である。両者は、成形圧の程度及びバインダの存在によりー致しないものと考えられる。
当該主張について検討する。
本件発明は、「乾式シリカ粒子」と、「芯鞘構造のバインダ繊維」及び「ホットメルトパウダー」のうち少なくとも一方を含む熱伝達抑制シートであり、「前記バインダ繊維及び前記ホットメルトパウダーのうち少なくとも一方が、前記乾式シリカ粒子を含んだ状態でバインダ部を形成して」いるものであるから、熱伝達抑制シートの細孔は乾式シリカ粒子により形成されているものであり、「前記乾式シリカ粒子の細孔径分布を示すグラフ」(図3)について、熱伝達抑制シートにおける乾式シリカ粒子により形成される細孔径分布を示すグラフと理解することができる。
そうすると、「乾式シリカ粒子の細孔」とは、熱伝達抑制シートにおいて「乾式シリカ粒子」により形成されている「細孔」であると当業者は当然に理解するものである。
また、本件発明2~5、7~8及び10についても、同様である。
よって、本件発明は、訂正事項4に関して、明確であり、実施可能要件、サポート要件及び明確性要件を満たすものである。
したがって、当該主張は採用できない。
(5)申立人Aは、「お.訂正事項4に関する実施可能要件及びサポート要件について」において、概略次の主張をする。(意見書A 8頁)
本件明細書に実施形態として記載されている熱伝達抑制シートは、無機粒子を含有していてもよい(本件明細書[0046])。したがつて、熱伝達抑制シートは、無機粒子に由来する細孔を含み得る。さらには、バインダを含んでいる。
訂正事項4の根拠となる図3は、本実施形態に係るものであり、無機粒子を含み得る熱伝達抑制シートの細孔径分布である。乾式シリカの粒子径毎のグラフとなっているが、乾式シリカのみを含むシートである旨の記載はない。したがって、乾式シリカ粒子の一次粒子、二次粒子に由来するピークの他に、無機粒子のピークを含み得る。
また、訂正事項2によれば乾式シリカ粒子はバインダ部に含まれるから、本件明細書図1に示されるように粒子間、二次粒子、二次粒子の細孔にバインダが入り込んでいることが想定される。
本件明細書には、図3における細孔径が100nm以下の範囲のピークが、乾式シリカ粒子の一次粒子に由来すること、及び、細孔径が100nmを超える範囲のピークが乾式シリカ粒子の二次粒子、三次粒子に由来することを確認したデータはない。つまり、それらのピークが乾式シリカ粒子に由来するものなのか、無機粒子によるものなのか、確認できるデータは明細書に記載されていない。また、二次粒子の粒子間にバインダが入り込み、細孔径が100nm以下の範囲にピークが現れている可能性もある。したがって、上記ピークの帰属が正しいのか確認できない。
以上より、訂正事項4は、実施可能要件を満たさない。また、無機粒子を含む場合、及び乾式シリカ粒子がバインダ部に含まれることにより、課題を解決できるか不明であるから、明細書に記載された事項ではない。
当該主張について検討する。
本件特許の明細書によると、【0037】の「本実施形態に係る熱伝達抑制シート10」は、【0030】における「本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シート」であるから、図3の乾式シリカ粒子の平均一次粒子径毎の「細孔径分布を示すグラフ図」は、「バインダ部3によって保持されている」「乾式シリカ粒子1を含」む(【0030】)熱伝達抑制シートの細孔径分布を示すグラフ図であると理解でき、また、熱伝達抑制シートの細孔は、乾式シリカ粒子により形成されるものと理解することができる。(前記第2 4参照)
そうすると、図3における100nmを超える範囲のピークも、乾式シリカ粒子によるものといえるから、乾式シリカ粒子の二次粒子、三次粒子に由来するものであると当業者は想定できる。
また、本件発明2~5、7~8及び10についても、同様である。
よって、本件発明は、実施可能であり、実施可能要件及びサポート要件を満たすものである。
したがって、当該主張は採用できない。
訂正前の構成(D)「モード径が68nm以下の細孔」を満たさないものまで包含するものとなっている。
しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識から鑑みて、訂正前の構成(D)「モード径が68nm以下の細孔」を超えるものまで包含された広い数値範囲の全体にわたって、当業者が、本件特許の「空気の平均自由行程である68nm以下の径を有する細孔の容積率を規定することで、対流による熱伝達を抑制し、よりー層断熱性能を向上させることが可能な熱伝達抑制シートなどを提供する」という課題(本件特許明細書の段落【0010】)を解決できると認識し得るものではない。(意見書B 3~4頁)
当該主張について検討する。
本件訂正における訂正事項3は、誤記の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない(前記第2 3(3)及び前記第2 5)と認められる。
そうすると、本件発明は、課題を解決できると認識できるものといえるから、当該主張は採用できない。
前記第5、第6及び第7によれば、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議の申立ての理由によっては、本件発明1~5、7~8及び10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~5、7~8及び10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項6及び9に係る特許は、本件訂正により削除されたため、申立人A、申立人B及び申立人Cによる特許異議の申立てにおける請求項6及び9に係る特許についての申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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