sokuhyo

Trademark Appeal Case

腸音評価装置の進歩性

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号2025700883
審判種別記載はありません。
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

結 論
特許第7644456号の請求項1ないし13に係る特許を維持する。

理由テキスト

理 由

第1 手続の経緯

特許第7644456号(以下「本件」という。)の請求項1ないし13に係る特許についての出願は、令和4年9月7日に出願され、令和7年3月4日にその特許権の設定登録がされ、同年同月12日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1ないし13に係る特許に対し、同年9月12日に特許異議申立人 徳本浩一(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明

本件の請求項1ないし13の特許に係る発明(以下、請求項の番号に従い「本件特許発明1」などという。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「 【請求項1】

被験者の胃腸の状態を評価する評価装置であって、

前記被験者から得られた音響データから複数の腸音を抽出する抽出部と、

前記各腸音の周波数領域に関連する特徴量を演算する特徴量演算部と、

前記各特徴量の分布を示す分布データを生成する分布データ生成部と、

前記分布データに基づいて、前記被験者の胃腸の状態を評価する評価部と、

を備え、

前記評価部は、

前記被験者の胃腸の状態が所定の状態であるときに前記被験者から得られた音響データに含まれる、複数の腸音の前記特徴量の分布を示す参照用分布データを取得する参照用データ取得部と、

前記分布データ生成部によって生成された分布データと前記参照用分布データとの類似度を演算する類似度演算部と、

を備え、

前記所定の状態および前記類似度に基づいて前記状態を評価する、評価装置。

【請求項2】

被験者の胃腸の状態を評価する評価装置であって、

前記被験者から得られた音響データから複数の腸音を抽出する抽出部と、

前記各腸音の周波数領域に関連する特徴量を演算する特徴量演算部と、

前記各特徴量の分布を示す分布データを生成する分布データ生成部と、

前記分布データに基づいて、前記被験者の胃腸の状態を評価する評価部と、

を備え、

前記特徴量は代表周波数であり、

前記特徴量演算部は、

前記各腸音を一定の時間間隔で複数のセグメントに分割する分割部と、

前記各セグメントのピーク周波数を算出するピーク周波数算出部と、

前記ピーク周波数から最大のピーク周波数を前記代表周波数として選択する代表周波数選択部と、

を備える、評価装置。

【請求項3】

前記特徴量は代表周波数である、請求項1に記載の評価装置。

【請求項4】

前記特徴量演算部は、

前記各腸音を一定の時間間隔で複数のセグメントに分割する分割部と、

前記各セグメントのピーク周波数を算出するピーク周波数算出部と、

前記ピーク周波数から最大のピーク周波数を前記代表周波数として選択する代表周波数選択部と、

を備える、請求項3に記載の評価装置。

【請求項5】

請求項1または4に記載の評価装置と、

前記被験者から前記音響データを得るための集音装置と、

を備える、評価システム。

【請求項6】

コンピュータが被験者の胃腸の状態を評価する評価方法であって、

前記被験者から得られた音響データから複数の腸音を抽出する抽出ステップと、

前記各腸音の周波数領域に関連する特徴量を演算する特徴量演算ステップと、

前記各特徴量の分布を示す分布データを生成する分布データ生成ステップと、

前記分布データに基づいて、前記被験者の胃腸の状態を評価する評価ステップと、

を有し、

前記評価ステップは、

前記被験者の胃腸の状態が所定の状態であるときに前記被験者から得られた音響データに含まれる、複数の腸音の前記特徴量の分布を示す参照用分布データを取得する参照用データ取得ステップと、

前記分布データ生成ステップで生成された分布データと前記参照用分布データとの類似度を演算する類似度演算ステップと、

を有し、

前記所定の状態および前記類似度に基づいて前記状態を評価する、評価方法。

【請求項7】

コンピュータが被験者の胃腸の状態を評価する評価方法であって、

前記被験者から得られた音響データから複数の腸音を抽出する抽出ステップと、

前記各腸音の周波数領域に関連する特徴量を演算する特徴量演算ステップと、

前記各特徴量の分布を示す分布データを生成する分布データ生成ステップと、

前記分布データに基づいて、前記被験者の胃腸の状態を評価する評価ステップと、

を有し、

前記特徴量は代表周波数であり、

前記特徴量演算ステップは、

前記各腸音を一定の時間間隔で複数のセグメントに分割する分割ステップと、

前記各セグメントのピーク周波数を算出するピーク周波数算出ステップと、

前記ピーク周波数から最大のピーク周波数を前記代表周波数として選択する代表周波数選択ステップと、

を有する、評価方法。

【請求項8】

前記特徴量は代表周波数である、請求項6に記載の評価方法。

【請求項9】

前記特徴量演算ステップは、

前記各腸音を一定の時間間隔で複数のセグメントに分割する分割ステップと、

前記各セグメントのピーク周波数を算出するピーク周波数算出ステップと、

前記ピーク周波数から最大のピーク周波数を前記代表周波数として選択する代表周波数選択ステップと、

を有する、請求項8に記載の評価方法。

【請求項10】

被験者の胃腸の状態を評価する評価プログラムであって、

前記被験者から得られた音響データから複数の腸音を抽出する抽出ステップと、

前記各腸音の周波数領域に関連する特徴量を演算する特徴量演算ステップと、

前記各特徴量の分布を示す分布データを生成する分布データ生成ステップと、

前記分布データに基づいて、前記被験者の胃腸の状態を評価する評価ステップと、

をコンピュータに実行させ、

前記評価ステップは、

前記被験者の胃腸の状態が所定の状態であるときに前記被験者から得られた音響データに含まれる、複数の腸音の前記特徴量の分布を示す参照用分布データを取得する参照用データ取得ステップと、

前記分布データ生成ステップで生成された分布データと前記参照用分布データとの類似度を演算する類似度演算ステップと、

を有し、

前記所定の状態および前記類似度に基づいて前記状態を評価する、評価プログラム。

【請求項11】

被験者の胃腸の状態を評価する評価プログラムであって、

前記被験者から得られた音響データから複数の腸音を抽出する抽出ステップと、

前記各腸音の周波数領域に関連する特徴量を演算する特徴量演算ステップと、

前記各特徴量の分布を示す分布データを生成する分布データ生成ステップと、

前記分布データに基づいて、前記被験者の胃腸の状態を評価する評価ステップと、

をコンピュータに実行させ、

前記特徴量は代表周波数であり、

前記特徴量演算ステップは、

前記各腸音を一定の時間間隔で複数のセグメントに分割する分割ステップと、

前記各セグメントのピーク周波数を算出するピーク周波数算出ステップと、

前記ピーク周波数から最大のピーク周波数を前記代表周波数として選択する代表周波数選択ステップと、

を有する、評価プログラム。

【請求項12】

前記特徴量は代表周波数である、請求項10に記載の評価プログラム。

【請求項13】

前記特徴量演算ステップは、

前記各腸音を一定の時間間隔で複数のセグメントに分割する分割ステップと、

前記各セグメントのピーク周波数を算出するピーク周波数算出ステップと、

前記ピーク周波数から最大のピーク周波数を前記代表周波数として選択する代表周波数選択ステップと、

を有する、請求項12に記載の評価プログラム。」

第3 申立理由の概要

申立人は、主たる証拠として特開2016-36637号公報(以下「甲第1号証」という。)及び従たる証拠として特開2021-74238号公報(以下「甲第2号証」という。)、特開2013-150723号公報)(以下「甲第3号証」という。)を提出し、

本件特許発明1、6、10は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術(甲第2号証、甲第3号証)に基づいて、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術的事項に基づいて、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術的事項に基づいて、

本件特許発明2ないし4、7ないし9、11ないし13は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、

本件特許発明5は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術(甲第2号証、甲第3号証)に基づいて、

当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件の請求項1ないし13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである旨主張する。

第4 甲号証の記載

1 甲第1号証

(1)記載事項

甲第1号証には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審にて付与した。以下同様)。

(甲1ア)腸音測定装置

「【0014】

本発明の腸音測定装置は、被験者の腸の音を測定する装置であって、腸の蠕動運動を適切に把握できるものである。

とくに、本発明の

腸音測定装置は、過敏性腸症候群等のように、ストレス等の影響による腸の状態(腸の蠕動運動の状態など)の変化を、音の信号として測定することができるようにした

ことに特徴を有している。

【0015】

(本実施形態の腸音測定装置1)

本実施形態の

腸音測定装置1は、腸音測定手段10と、解析手段20と、ストレス負荷手段30と、を備えている

【0016】

(腸音測定手段10)

腸音測定手段10は、被験者の腸音を測定するためのセンサ11と、このセンサ11の信号を解析手段20に送信する送信部12とを備えている。

・・・

【0021】

(解析手段20)

解析手段20は、腸音測定手段10から送信される電気信号を解析して、腸音測定手段10が測定した音に含まれる腸蠕動音のエネルギーを算出するものである

この解析手段20は、腸蠕動音を抽出する機能(蠕動音抽出機能)と、音の信号をスペクトル解析する機能(スペクトル解析機能)と、を備えている

【0022】

(蠕動音抽出機能)

蠕動音抽出機能は、腸音測定手段10から送信される電気信号から、腸音(腸蠕動音)を抽出する機能を有している

言い換えれば、腸音測定手段10から送信される電気信号から、腸音(腸蠕動音)以外の信号(ノイズ)を除去する機能を有している

。例えば、蠕動音抽出機能は、電気信号に含まれる低周波のノイズ(例えば心音や雑音等)をフィルタ(例えばハイパスフィルタやバタワースフィルタ等)によって除去する機能を有している。なお、蠕動音抽出機能がノイズを除去する方法はとくに限定されず、種々の方法を採用することができる。

【0023】

(スペクトル解析機能)

スペクトル解析機能は、蠕動音抽出機能によってノイズが除去された電気信号をスペクトル解析して、パワースペクトル密度を算出する機能を有している

具体的には、ノイズ除去後の電気信号における一定期間について、その期間のパワースペクトル密度を算出する機能を有している

例えば、電気信号のうち、腸音(腸蠕動音)が測定されていると考えられる期間を選択する

そして、その期間の信号について、パワースペクトル密度を算出すれば、腸音(腸蠕動音)に含まれる各周波数のエネルギーを含んだパワースペクトル密度を把握することができる

【0024】

なお、電

気信号のパワースペクトル密度を算出するのは、腸の運動が活発になると、通常時に比べて、腸音(腸蠕動音)の音圧が大きくなるからである

つまり、腸音(腸蠕動音)のパワースペクトル密度が把握できれば、腸の運動の状態を適切に把握できるのである

【0025】

また、電気信号において、腸音(腸蠕動音)が測定されていると考えられる期間が複数ある場合には、全ての期間の腸音(腸蠕動音)に含まれるパワースペクトル密度を合計する機能を、スペクトル解析機能は有していてもよい

【0026】

上記のごとき、蠕動音抽出機能とスペクトル解析機能とを有する解析手段20を有しているので、抽出された腸蠕動音のエネルギーに基づいて、腸の蠕動運動の状況を把握できる。したがって、腸の蠕動運動に基づいて、腸の状態やその変化を把握することができる。」

(甲1イ)腸音測定方法

「【0033】

(腸音測定方法)

上記

本実施形態

の腸音測定装置1を用いて、腸音を測定する方法

を説明する。

以下では、図3に示す

スケジュールに沿って腸音を測定する方法

を説明する。このスケジュールは、

安静時における腸の蠕動運動に起因する腸音と、ストレスを加えた場合における腸の蠕動運動に起因する腸音を両方測定することに適したスケジュールである

【0034】

図3に示すように、腸音を測定する被験者をベッドなどで仰向けに寝かせる。

その状態で、腸音測定手段10のセンサ11を被験者のへその鉛直上方(例えば20cm)の位置に配置して、測定準備が完了する。

【0035】

測定準備が完了すると、

一定時間(例えば5分間)、被験者を安静にした状態で腸音測定手段10

のセンサ11

によって腸音を測定する

すると、

安静時における腸の蠕動運動に起因する腸音を測定できる。

測定された腸音は、解析手段20において解析され、測定期間における腸の蠕動運動が生じた時のパワースペクトル密度が把握できる

【0036】

安静時の測定が終了すると、被験者にストレスを負荷して、一定時間(例えば5分間)、腸音測定手段10

のセンサ11

によって腸音を測定する

すると、

ストレス負荷時における腸の蠕動運動に起因する腸音を測定できる。

測定された腸音は、解析手段20において解析され、測定期間における腸の蠕動運動が生じた時のパワースペクトル密度が把握できる

【0037】

ストレスを負荷時の測定が終了すると、1セット目の測定を終了し、被験者に休憩をとらせる。そして、一定時間(例えば3分間)、休憩をすると、2セット目の腸音測定を開始する。

【0038】

2セット目の腸音測定は、1セット目と同等の方法で測定を行い、2セット目のストレス負荷時の測定が終了すると、測定が完了する。

【0039】

上記測定を行ったのち、

安静時のデータとストレス負荷時のデータを比較すれば、腸の蠕動運動の差に基づいて、医師は被験者が過敏性腸症候群等の疑いがあるか否かを客観的なデータに基づいて判断することができる

。」

(甲1ウ)診断データが測定できたかの確認

「【実施例1】

【0043】

本実施形態の

腸音測定装置1を使用して、図3

および図4

のスケジュールで腸音を測定して解析することによって過敏性腸症候群を診断できるデータが測定できるか否かを確認した

。図3および図4のスケジュールは、腸音の測定方法は同じであるが、解析方法が異なる。すなわち、図3の方法では、

1セットおよび2セット目の安静時の5分間、ストレス負荷時の5分間の全ての腸音の解析を行なった

。これに対して、図4の方法では、安静時およびストレス負荷時の後半部分において腸音(つまり腸の蠕動運動)の変化がより大きくなるのではないかと考え、各々5分間の中で測定開始から2分経過後の3分間の腸音の解析を行なった。

【0044】

実験では、複数の被験者の腸音を電子聴診器によって測定し、その腸音の測定データを複数の期間に分割して、各期間のデータからARMAシステムによってパワースペクトル密度を算出した。そして、各期間のパワースペクトル密度に基づいて、ストレスに起因する腸の蠕動運動の変化が生じているか否かを確認した。

なお、複数の被験者は、過敏性腸症候群の可能性がある被験者(SIBS)10名と、過敏性腸症候群の可能性がない被験者(Non-SIBS)10名と、について行った。

【0045】

ストレスに起因する腸の蠕動運動の変化が生じているか否かは、以下の式で得られる総和エネルギーの平均変化率C

B

の値に基づいて判断した

なお、E

b

は、パワースペクトル密度から腸の蠕動運動の音と判断された信号の各期間ごとの総和エネルギーである

そして、1セット目の安静時のE

b

の総和をE

r1

、1セット目のストレス負荷時のE

b

の総和をE

s1

、2セット目の安静時のE

b

の総和をE

r2

、2セット目のストレス負荷時のE

b

の総和をE

s2

とした

C

B

=(C

B1

+C

B2

)/2

C

B1

=(E

s1

+E

r1

)/E

r1

×100

C

B2

=(E

s2

+E

r2

)/E

r2

×100

・・・

【0047】

図6に結果を示す。

図6(A)は、指尖容積脈波解析でストレスが負荷されていると判断された被験者に関するデータである。これらの被験者について、図3のスケジュールで腸音測定を行った場合、総和エネルギーの平均変化率C

B

の値を確認した。すると、図6(B)に示すように、

過敏性腸症候群の可能性がない被験者では、平均変化率C

B

が減少し、腸の蠕動運動が抑制されていると考えられる

これに対して、過敏性腸症候群の可能性がある被験者では、平均変化率C

B

が増加しており、ストレスによって腸の蠕動運動が活発になっていると考えられる

【0048】

また、図4のスケジュールで腸音測定を行った場合、総和エネルギーの平均変化率CBの値を確認した。すると、図7に示すように、過敏性腸症候群の可能性がない被験者では、平均変化率C

B

が減少していた。これに対して、過敏性腸症候群の可能性がある被験者では、平均変化率C

B

が増加していた。しかも、過敏性腸症候群の可能性がある被験者では、図3のスケジュールよりも、平均変化率C

B

が大きくなっている被験者が見られた。

【0049】

以上の結果より、本実施形態の

腸音測定装置1を使用して、図3

および図4

のようなスケジュールで腸音を測定すれば、過敏性腸症候群を診断できるデータが測定できる可能性があることが確認された

。」

(甲1エ)図1

55

82

0001431171000001.jpg

(甲1オ)図3

23

87

0001431171000002.jpg

(2)甲1発明

前記(1)の記載事項及び図面から、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる(参考のため、括弧内に認定の根拠となる記載箇所を示す。)。

「過敏性腸症候群等のように、ストレス等の影響による腸の状態(腸の蠕動運動の状態など)の変化を、音の信号として測定することができるようにした腸音測定装置であって、(【0014】)

腸音測定装置1は、腸音測定手段10と、解析手段20と、ストレス負荷手段30と、を備え、(【0015】)

解析手段20は、腸音測定手段10から送信される電気信号を解析して、腸音測定手段10が測定した音に含まれる腸蠕動音のエネルギーを算出するものであり、この解析手段20は、腸蠕動音を抽出する機能(蠕動音抽出機能)と、音の信号をスペクトル解析する機能(スペクトル解析機能)と、を備え、(【0021】)

蠕動音抽出機能は、腸音測定手段10から送信される電気信号から、腸音(腸蠕動音)を抽出する機能を有しており、言い換えれば、腸音測定手段10から送信される電気信号から、腸音(腸蠕動音)以外の信号(ノイズ)を除去する機能を有しており、(【0022】)

スペクトル解析機能は、蠕動音抽出機能によってノイズが除去された電気信号をスペクトル解析して、パワースペクトル密度を算出する機能を有しており、具体的には、ノイズ除去後の電気信号における一定期間について、その期間のパワースペクトル密度を算出する機能を有しており、例えば、電気信号のうち、腸音(腸蠕動音)が測定されていると考えられる期間を選択し、そして、その期間の信号について、パワースペクトル密度を算出すれば、腸音(腸蠕動音)に含まれる各周波数のエネルギーを含んだパワースペクトル密度を把握することができ、(【0023】)

電気信号のパワースペクトル密度を算出するのは、腸の運動が活発になると、通常時に比べて、腸音(腸蠕動音)の音圧が大きくなるからであり、つまり、腸音(腸蠕動音)のパワースペクトル密度が把握できれば、腸の運動の状態を適切に把握できるのであり、(【0024】)

また、電気信号において、腸音(腸蠕動音)が測定されていると考えられる期間が複数ある場合には、全ての期間の腸音(腸蠕動音)に含まれるパワースペクトル密度を合計する機能を、スペクトル解析機能は有している、(【0025】)

腸音測定装置1であり、(【0015】)

上記の腸音測定装置1を用いて、腸音を測定する方法は、安静時における腸の蠕動運動に起因する腸音と、ストレスを加えた場合における腸の蠕動運動に起因する腸音を両方測定することに適したスケジュールに沿って腸音を測定する方法であり、(【0033】)

一定時間(例えば5分間)、被験者を安静にした状態で腸音測定手段10によって腸音を測定すると、測定された腸音は、解析手段20において解析され、測定期間における腸の蠕動運動が生じた時のパワースペクトル密度が把握でき、(【0035】)

安静時の測定が終了すると、被験者にストレスを負荷して、一定時間(例えば5分間)、腸音測定手段10によって腸音を測定すると、ストレス負荷時における腸の蠕動運動に起因する腸音を測定でき、測定された腸音は、解析手段20において解析され、測定期間における腸の蠕動運動が生じた時のパワースペクトル密度が把握でき、(【0036】)

安静時のデータとストレス負荷時のデータを比較すれば、腸の蠕動運動の差に基づいて、医師は被験者が過敏性腸症候群等の疑いがあるか否かを客観的なデータに基づいて判断することができ、(【0039】)

腸音測定装置1を使用して上記のスケジュールで腸音を測定して解析することによって過敏性腸症候群を診断できるデータが測定できるか否かを確認するために、1セットおよび2セット目の安静時の5分間、ストレス負荷時の5分間の全ての腸音の解析を行ない、(【0043】)

ストレスに起因する腸の蠕動運動の変化が生じているか否かは、以下の式で得られる総和エネルギーの平均変化率C

B

の値に基づいて判断し、

C

B

=(C

B1

+C

B2

)/2

C

B1

=(E

s1

+E

r1

)/E

r1

×100

C

B2

=(E

s2

+E

r2

)/E

r2

×100

なお、Ebは、パワースペクトル密度から腸の蠕動運動の音と判断された信号の各期間ごとの総和エネルギーであり、そして、1セット目の安静時のE

b

の総和をE

r1

、1セット目のストレス負荷時のE

b

の総和をE

s1

、2セット目の安静時のE

b

の総和をE

r2

、2セット目のストレス負荷時のE

b

の総和をE

s2

とし、(【0045】)

過敏性腸症候群の可能性がない被験者では、平均変化率C

B

が減少し、腸の蠕動運動が抑制されていると考えられ、これに対して、過敏性腸症候群の可能性がある被験者では、平均変化率C

B

が増加しており、ストレスによって腸の蠕動運動が活発になっていると考えられ、(【0047】)

腸音測定装置1を使用して、上記のようなスケジュールで腸音を測定すれば、過敏性腸症候群を診断できるデータが測定できる可能性があることが確認された、(【0049】)

腸音測定装置1。」

2 甲第2号証

甲第2号証には、図面とともに次の事項が記載されている。

(甲2ア)測定装置

「【0010】

(第1実施形態)

図1は、本発明の第1実施形態における測定装置の機能構成を示すブロック図である。

【0011】

測定装置100は、

被測定者の腸の状態を測定する装置

である。本実施形態の測定装置100には、集音装置1、入力装置2及び表示装置3がそれぞれ接続されている。

【0012】

集音装置1は、生体音を集音する装置であり、例えば電子聴診器、非接触マイクロフォン又はこれらの組合せによって構成される。集音装置1は、被測定者から集音した音を示す音響データを生成する。この集音装置1は、被測定者の腹部に当てられる。通常、集音装置1は、被測定者のお腹に当てられるが、お腹周りの背中の部分に当てられることもある。

【0013】

被測定者の腹部に当てられた集音装置1は、被測定者の腸蠕動音(BS:Bowel sound)が含まれる音響データを生成し、その音響データを測定装置100に出力する。集音装置1によって生成される音響データは、有線又は無線を介して測定装置100に送信されてもよく、SDカードなどの記録媒体を介して測定装置100に入力されてもよい。

【0014】

入力装置2は、利用者の入力操作を受け付ける受付手段である。入力装置2は、例えば、キーボード、タッチパネル及びマウスによって構成される。入力装置2は、例えば、腸の状態を測定するにあたり、被測定者の属性を示す属性情報又は体組成を示す体組成情報を受け付ける。属性情報としては、例えば性別、年齢、身長、体重及び腸の活動度合いなどが挙げられる。体組成情報としては、例えばBMI(Body Mass Index)、肥満度及び体脂肪率などが挙げられる。

【0015】

本実施形態の入力装置2は、利用者の入力操作により、生体から生じる腸蠕動音の基準となる基準情報を受け付け、その基準情報を示す操作信号を生成する。入力装置2は、受け付けた入力操作によって生成された操作信号を測定装置100に出力する。

【0016】

表示装置3は、入力装置2によって生成された操作信号、又は測定装置100によって測定された結果などの情報を表示する表示手段である。表示装置3は、例えば液晶ディスプレイなどによって構成される。

【0017】

測定装置100は、例えば、汎用或いは専用のコンピュータ、又は携帯端末などによって構成される。測定装置100は、記憶部10と、取得部20と、演算部30と、腸内情報生成部40と、を備える。

【0018】

記憶部10は、揮発性メモリ(RAM:Random Access Memory)及び不揮発性メモリ(ROM:Read Only Memory)によって構成される。記憶部10は、例えば、ハードディスクドライブ(HDD)又はソリッドステートドライブ(SSD)などによって構成される。

【0019】

記憶部10は、測定装置100の動作を制御するためのプログラムを記憶する記憶装置である。すなわち、記憶部10は、本実施形態における測定方法を実行するためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。このプログラムは、あらかじめ記憶部10に記憶されてもよく、測定装置100の外部から通信回線を介して取得されてもよい。

【0020】

記憶部10には、さらに、上述した基準情報が保持される。すなわち、本実施形態の記憶部10は、生体の腸蠕動音の基準となる基準情報を保持する保持手段を構成する。基準情報には、例えば、個人又は団体の被験者の腸蠕動音に関する実験又はシミュレーションなどの結果、又は腸蠕動音に関する統計データを用いて設定される閾値又は基準量が含まれる。以下、基準情報に示される閾値は「BS閾値」と称される。

【0021】

また、この基準情報は、記憶部10に限らず、測定装置100の外部の装置などで保持されてもよい。この場合、測定装置100の取得部20は、基準情報を保持する外部の装置などから、通信回線を介して基準情報を取得してもよい。

【0022】

本実施形態ではBS閾値として、音響データから腸蠕動音を検出するための複数の検出閾値と、腸蠕動音に基づいて腸内ガス量を判定するための判定閾値と、が記憶部10に保持されている。

【0023】

これらのBS閾値は、例えば、炭酸水などの腸内ガス量が増加しやすい特定の飲料を被験者が摂取した後の腸蠕動音を含む音響データに基づいてあらかじめ定められる。あるいは、主観評価において腹部の膨満感が強いと回答した人の腸蠕動音、又は、腸に不調がある人の腸蠕動音を基準にBS閾値を定めてもよい。または、人の属性、又は体組成に基づいてBS閾値を定めてもよい。

【0024】

取得部20は、測定装置100の外部に配置された集音装置1及び入力装置2から出力される信号を取得する。本実施形態の取得部20は、操作信号取得部21と音響データ取得部22とを備える。

【0025】

操作信号取得部21は、入力装置2から出力された操作信号を取得する。操作信号取得部21は、入力装置2から上述のBS閾値を示す操作信号を取得した場合には、その操作信号に示されたBS閾値を記憶部10に記録する。

【0026】

音響データ取得部22は、集音装置1から被測定者の腸蠕動音が含まれる音響データを取得する取得手段を構成する。音響データ取得部22は、集音装置1から取得した音響データを演算部30に出力する。

【0027】

演算部30は、取得部20によって取得された音響データに基づいて被測定者の腸内ガス量を演算する演算手段を構成する。ここにいう腸内ガス量は、腹部の膨満感又は腸の不調度合いを評価するための指標であり、例えば、腸内に存在するガスの体積を示す指標、又は腸の容積に対するガスの体積の比率を示す指標が腸内ガス量として用いられる。

【0028】

演算部30は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)又はDSP(digital signal processor)などのプロセッサによって構成される。あるいは、演算部30は、ASICなどの専用のハードウェアによって構成されてもよく、プロセッサと専用のハードウェアとを組み合わせて構成されてもよい。

【0029】

本実施形態において、演算部30は、記憶部10又は取得部20から基準情報を取得するとともに音響データ取得部22から音響データを取得し、その基準情報と音響データとを用いて、被測定者の腸内ガス量を演算する。演算部30は、腸音検出部31と腸内ガス量演算部32とを備える。

【0030】

腸音検出部31は、

集音装置1によって生成される音響データに基づいてその音響データに示される腸蠕動音を検出する

例えば、腸音検出部31は、音響データ取得部22から音響データを取得すると、その音響データの中から、腸蠕動音の長さ及び発生頻度を検出する

。以下、腸蠕動音の長さは「BS長」と称され、腸蠕動音の発生頻度は「BS頻度」と称される。

【0031】

腸音検出部31は、音響データ取得部22から取得した音響データに基づいてBS長を検出する検出手段を構成する。

【0032】

例えば、腸音検出部31は、音響データの信号レベルが連続して所定値を超える期間を計測し、計測した期間をBS長として腸内ガス量演算部32に出力する。音響データの信号レベルとしては、例えば音の強さ、音圧又はSNR(Signal to Noise Ratio)などを用いることができる。

【0033】

本実施形態における腸音検出部31は、上述の所定値として記憶部10からBS閾値である第1検出閾値を読み出し、STE(Short term energy)法を用いて音響データのSNRが第1検出閾値以上となる期間を計測する。

【0034】

具体的には、腸音検出部31は、所定の時間単位ごとに音響データを複数のセグメントに分割し、分割したセグメントごとに、式(1)に示すようにSNRを算出する。所定の時間は、例えば数十ms(ミリセカンド)であり、本実施形態では36msに設定される。

【0035】

12

60

0001431171000003.jpg

なお、P

S

は音響データに示される信号のパワーであり、P

N

は雑音のパワーである。P

N

は、視聴試験を行った際にサイレンスであると判断された1秒の区間内のエネルギーから算出される。

【0036】

算出されたSNRが第1検出閾値以上である場合には、腸音検出部31は、そのセグメントに対し、腸蠕動音が含まれている可能性があるので「1」を付与する。一方、SNRが第1検出閾値を下回る場合には、そのセグメントは腸蠕動音が含まれていないとみなされ、腸音検出部31は、SNRが第1検出閾値を下回るセグメントに対して「0」を付与する。

【0037】

腸音検出部31は、「1」を示すセグメントが連続する複数の有効セグメントを特定し、特定した有効セグメントの数をカウントする。腸音検出部31は、カウントした数が第2検出閾値を上回る場合には、連続する有効セグメントの音響データに示される音が有効なBSであると判定し、有効なBSに対しては、カウントした数に所定の時間を乗じてBS長を算出する。

【0038】

第2検出閾値は、記憶部10から読み出されるBS閾値の一つであり、腸蠕動音のSNRの基準となる基準情報である。第2検出閾値は、炭酸水などの特定の飲料を被験者が摂取した後のBS長に基づいてあらかじめ定められる。本実施形態の第2検出閾値は「7」に設定される。

【0039】

腸音検出部31は、音響データから複数の有効なBSを検出した場合は、検出した複数の有効なBSについてのBS長の平均値、中央値又は最頻値などの統計値をBS長として算出してもよい。腸音検出部31は、算出したBS長を腸内ガス量演算部32に出力する。また、腸音検出部31は、音響データから複数の有効なBSを検出した場合は、有効なBSの発生頻度をBS頻度として算出してもよい。

【0040】

腸内ガス量演算部32は、腸音検出部31によって検出されるBS長を用いて被測定者の腸内ガス量を演算するガス量演算手段を構成する。

【0041】

腸内ガス量演算部32は、腸音検出部31から出力されるBS長を取得し、そのBS長に基づいて被測定者の腸内ガス量を算出する。

【0042】

例えば、腸内ガス量演算部32は、記憶部10からBS閾値の一つである判定閾値を読み出し、BS長が判定閾値以上である場合には、腸内ガス量が多いと判定し、BS長が判定閾値を下回る場合には、腸内ガス量が少ないと判定する。判定閾値は、腸内ガス量を判定するための腸蠕動音の基準となる基準情報であり、例えば、特定の飲料を摂取した後の被験者のBS長に基づいてあらかじめ定められる。あるいは、判定閾値は、下痢又は便秘気味などの腸が不腸である人のBS長を基準に定められてもよい。

【0043】

本実施形態では、被測定者のBS長と腸内ガス量との関係を示す変換テーブルが記憶部10にあらかじめ記憶されている。そして腸内ガス量演算部32は、腸音検出部31からBS長を取得すると、記憶部10の変換テーブルを参照し、取得したBS長の値に関係付けられた腸内ガス量の値を算出する。

【0044】

記憶部10に記憶された変換テーブルは、実験又はシミュレーションなどの結果を用いてあらかじめ定められる。腸内ガス量演算部32は、腸音検出部31から出力されたBS長が長くなるほど、腸内ガス量として大きな値を設定する。

【0045】

このように、腸内ガス量演算部32は、音響データとBS閾値とを用いて被測定者の腸内ガス量を判定する。そして腸内ガス量演算部32は、判定した腸内ガス量を腸内情報生成部40に出力する。

【0046】

腸内情報生成部40は、演算部30によって演算された腸内ガス量に基づいて腸内ガス量に関する腸内情報を生成する生成手段を構成する。腸内情報としては、例えば、BS長、BS頻度、腸内ガス量、及び腹部における膨満感の程度などが含まれる。腸内情報生成部40は、例えば画像処理装置によって構成される。」

(甲2イ)図1

60

80

0001431171000004.jpg

3 甲第3号証

甲第3号証には、図面とともに次の事項が記載されている。

(甲3ア)背景技術

「【背景技術】

【0002】

これまで、消化器の活性度を評価する定量的な評価装置および評価方法は実用化されていない。そのため、消化器(例えば腸)が活性であるか否かの評価は、医師によって行われている。具体的には、医師は聴診器を用いて腹部の蠕動音を聞き、その蠕動音に基づいて腸が活性であるか否かを評価する。言い換えれば、腸の活性度は、評価者である医師の経験および主観に基づいて評価される。

【0003】

このように、消化器の活性度を評価するためには、(i)当該消化器の発する音を検知する、(ii)検知した音を音響解析し評価する、という2つのステップを経る。」

(甲3イ)蠕動音検出装置10

「【0030】

図1に示すように蠕動音検出装置10は、音響センサ11、周波数スペクトル算出部12、マッチング係数算出部13、記憶部14、および、蠕動音判定部15を備えている。

【0031】

蠕動音検出装置10は、

腸が発する生体音を検知および解析することによって、当該腸が発する音が蠕動音であるか否かを判定する装置

である。言い換えると、蠕動音検出装置10は腸が発する生体音を検出する装置である。以下において「腸が発する生体音」を単に「生体音」とも表記する。

【0032】

以下に、図1および図3を参照しながら蠕動音検出装置10が備える各部について説明する。蠕動音検出装置10が、生体音が蠕動音であるか否かを判定する際の流れは、図2に示すフローチャートを参照しながら後述する。

【0033】

(音響センサ11)

生体音検知手段である音響センサ11は、検知する音声信号を電気信号に変換するものである。音響センサ11としては、たとえば密着型音響マイクを用いることができる。音響センサ11は、蠕動音検出装置10を操作する人によって、被験者の生体音を検知できる位置に固定されてもよい。生体音を検知する音響センサ11の数は限定されず、1つでもよいし複数であってもよい。音響センサ11は、検知する生体音を電気信号として周波数スペクトル算出部12に出力する。

【0034】

音響センサ11は、電気信号を増幅するための増幅器(図示せず)を備えていてもよい。なお、上記増幅器は、音響センサ11に設けられる構成に限定されず、周波数スペクトル算出部12に設けられていてもよい。

【0035】

(周波数スペクトル算出部12)

周波数スペクトル算出手段である周波数スペクトル算出部12は、アナログ/デジタル変換部(A/D変換部)を備えていることが好ましい。A/D変換部は、音響センサ11より電気信号を受け取り、デジタルデータである生体音データに変換する。

【0036】

次に、

周波数スペクトル算出部12は、生体音データに対して所定の時間ごとに高速フーリエ変換(Fast Fourier Transformation,FFT)処理を行う

。当該所定の時間を、以下においてFFT処理間隔とも呼ぶ。FFT処理間隔は0.3秒から1.0秒の範囲内であることが好ましい。更には、FFT処理間隔は0.3秒から0.5秒の範囲内であることがより好ましい。

【0037】

FFT処理間隔を長い時間に設定すると、複数の腸蠕動音がFFT処理間隔の時間内に含まれる虞がある。言い換えると、複数の腸蠕動音を1回の腸蠕動音と誤って数える可能性が生じる。この腸蠕動音の検知漏れを防ぐために、FFT処理間隔は1.0秒以下であることが好ましく、更には0.5秒以下であることがより好ましい。

【0038】

一方、FFT処理時間を短い時間に設定すればするほど、FFT処理を実行する頻度が増加する。すなわち、FFT処理の回数増加に伴い、周波数スペクトル算出部12における計算負荷が増大する。その結果として、後述するリアルタイム処理が難しくなる虞がある。したがって、FFT処理間隔は0.3秒以上であることが好ましい。

【0039】

なお、このFFT処理間隔の下限値は周波数スペクトル算出部12の演算能力に依存する。周波数スペクトル算出部12の演算能力が十分に高ければ、FFT処理間隔を0.3秒より短い時間に設定してもリアルタイム処理を実現することができる。すなわち、FFT処理時間の下限値は0.3秒に限定さるものではない。

【0040】

本実施形態では、FFT処理間隔を0.32秒に設定している。すなわち、時間的に連続する生体音データを、周波数スペクトル算出部12は0.32秒ごとの生体音データに区切る。その上で、区切られた各生体音データを順次FFT処理する。

【0041】

FFT処理の方法には、周知の方法からいずれかの方法を選択して用いることができる。本実施形態において周波数スペクトル算出部12は、MathWorks社製MATLAB(登録商標)に組み込まれている関数spectrogramを用いてFFT処理を実行する。

【0042】

周波数スペクトル算出部12は、生体音データをFFT処理する

ことにより、生体音データの周波数スペクトル

(以下において、生体音スペクトルとも記載する)

を算出する

。より詳しくは、周波数スペクトル算出部12は、0.32秒間の生体音データをFFT処理することによって、1つの生体音スペクトルを算出する。

【0043】

周波数スペクトル算出部12は、所定の時間ごとに算出される生体音スペクトルを、順次、マッチング係数算出部13に出力する。なお、以下においては、各部の説明を分かりやすくするために、所定の時間ごとに算出される生体音スペクトルのうち1つの生体音スペクトルに着目して説明する。

【0044】

(標準周波数スペクトル)

後述するマッチング係数算出部13は、周波数スペクトル算出部12から生体音スペクトルを受け取るとともに、生体音スペクトルとマッチングするための標準周波数スペクトルを記憶部14から読み出す。この際、マッチング係数算出部13は、記憶部14から複数の標準周波数スペクトルを読み出す。本実施形態では、あらかじめ医師が蠕動音であると認識した生体音(以下において標準蠕動音と呼ぶ)を複数抽出し、それぞれの標準蠕動音をFFT処理したものを標準周波数スペクトルとして記憶部14に格納している。

【0045】

腸が蠕動運動する際、発生する蠕動音の発生モードは複数ある。そして、それぞれの発生モードに応じて、腸は異なる蠕動音を発する。したがって、マッチングに用いる標準周波数スペクトルは、複数の異なる発生モードに起因する蠕動音をFFT処理したものであることが好ましい。

【0046】

蠕動音は個人によって大きくばらつくことがあるため、複数の人から抽出した複数の標準蠕動音をFFT処理することによって複数の標準周波数スペクトルとしてもよい。また、複数の標準蠕動音をFFT処理し、共通のスペクトルを特に抽出したものを標準周波数スペクトルとしてもよい。さらに、腸活動が良好な時に発生する生体音をFFT処理し、統計処理することで標準周波数スペクトルを算出してもよい。なお、複数の標準周波数スペクトルは、異なる発生モードに起因する標準蠕動音から得られる標準周波数スペクトルと、複数の人から抽出した標準蠕動音から得られる標準周波数スペクトルとを組み合わせることにより構成されてもよい。

【0047】

本実施形態では、第1の標準周波数スペクトル(図3の(a))、第2の標準周波数スペクトル(図3の(b))、および、第3の標準周波数スペクトル(図3の(c))を比較参照用の標準周波数スペクトルとして用いる。

【0048】

なお、マッチングに用いる標準周波数スペクトルは図3の(a)~(c)に示す3つに限られない。すなわち、2つ、または、4つ以上の標準周波数スペクトルをマッチングに用いてもよい。

【0049】

(マッチング係数算出部13)

マッチング係数算出手段であるマッチング係数算出部13は、生体音スペクトルと、それぞれの標準周波数スペクトルとをマッチングする(相関を見る、比較する、合致点を抽出する、とも言う)ことによって、複数のマッチング係数(相関係数)を算出する。

【0050】

より具体的には、生体音スペクトルと第1の標準周波数スペクトルとをマッチングすることによって、第1のマッチング係数C1を算出する。同様にマッチング係数算出部13は、生体音スペクトルと第2の標準周波数スペクトルとをマッチングすることによって第2のマッチング係数C2を算出し、生体音スペクトルと第3の標準周波数スペクトルとをマッチングすることによって第3のマッチング係数C3を算出する。

【0051】

マッチング係数とは、生体音スペクトルと、標準周波数スペクトルとにおける類似の程度を表す係数である。別の言い方をすれば、生体音スペクトルが含んでいる標準周波数スペクトルの要素の大きさを表す係数である。したがって、マッチング係数が大きいほど生体音スペクトルと、標準周波数スペクトルとが類似している、すなわち、生体音スペクトルが標準周波数スペクトルの要素を多く含んでいることを意味する。

【0052】

生体音スペクトルおよび標準周波数スペクトルとのマッチングには、周知の手法を用いることができる。本実施形態においてマッチング係数算出部13は、MathWorks社製MATLAB(登録商標)に組み込まれている関数corrcoefを用いてマッチング係数を算出する。

【0053】

マッチング係数算出部13は、0~1の範囲に含まれる実数となるマッチング係数を算出するように構成されていてもよい。マッチング係数算出部13がこのように構成されている場合、マッチング係数が1であることは、蠕動音スペクトルと標準スペクトルとが一致していることを意味する。

【0054】

マッチング係数算出部13は、マッチングにより算出した複数のマッチング係数C1、C2およびC3を蠕動音判定部15に出力する。

【0055】

腸が発する生体音が、複数の発生モードのうち少なくとも1つの発生モードに起因する蠕動音の要素を含んでいると、蠕動音検出装置10はその蠕動音の要素をC1、C2およびC3の少なくとも1つとして検知することができる。言い換えると、生体音が複数の発生モードに起因する蠕動音の組み合わせからなる場合であっても、蠕動音検出装置10はそれぞれの蠕動音の要素を別個に検知することができる。したがって、蠕動音の検知漏れを低減し、生体音が蠕動音であるか否かを精度良く判定することができる。

【0056】

なお、複数の人から抽出した蠕動音をFFT処理することによって複数の標準周波数スペクトルとすると、蠕動音の個人差に起因する蠕動運動の検出漏れを低減することができる。

【0057】

(蠕動音判定部15)

蠕動音判定手段である蠕動音判定部15は、マッチング係数算出部13より受け取る複数のマッチング係数C1、C2およびC3を演算処理することによって、判定用マッチング係数Cmを算出する。具体的には、C1、C2およびC3の大小関係を比較演算し、C1、C2およびC3のうち最大のマッチング係数を判定用マッチング係数Cmとする。

【0058】

さらに、蠕動音判定部15は、判定用マッチング係数Cm、および、規定の閾値Cthの大小関係を比較する。その結果、Cm>Cthであれば生体音が蠕動音であると判定し、Cm≦Cthであれば生体音が蠕動音でないと判定する。

【0059】

閾値Cthは正の実数であれば任意に設定することができ、経験的には0.5≦Cth≦0.9の範囲に設定されていることが好ましい。たとえば、閾値Cthを0.8とすることができる。閾値Cthを大きな値に設定すると、蠕動音であると判定する基準が厳しくなる。一方、閾値Cthを小さな値に設定すると、蠕動音であると判定する基準が甘くなる。言い換えると、閾値Cthが大きすぎると腸蠕動音を腸蠕動音ではないと誤検出する可能性が高くなり、閾値Cthが小さすぎると腸蠕動音以外の生体音を腸音として誤検出する可能性が高くなる。」

(甲3ウ)付記事項

「【0100】

(付記事項)

上述した蠕動音検出装置10の各ブロックは、集積回路(ICチップ)上に形成された論理回路によってハードウェア的に実現してもよいし、CPU(Central Processing Unit)を用いてソフトウェア的に実現してもよい。」

(甲3エ)図1

30

63

0001431171000005.jpg

(甲3オ)図2

70

63

0001431171000006.jpg

(甲3カ)図3

87

47

0001431171000007.jpg

第5 当審の判断

1 本件特許発明1について

(1)対比

本件特許発明1と甲1発明とを対比する。

ア 抽出部について

甲1発明(【0022】)の「腸音測定手段10から送信される電気信号から、腸音(腸蠕動音)以外の信号(ノイズ)を除去する」ことで「腸音(腸蠕動音)を抽出する機能」は、本件特許発明1の「前記被験者から得られた音響データから」「腸音を抽出する抽出部」に相当する。

また、甲1発明(【0023】、【0025】)の「蠕動音抽出機能によってノイズが除去された」「電気信号において、腸音(腸蠕動音)が測定されていると考えられる期間が複数ある場合」とは、「腸音測定手段10から送信される電気信号」「において、腸音(腸蠕動音)が測定されていると考えられる期間が複数ある場合」のことである。

そうすると、甲1発明の「腸音測定手段10から送信される電気信号から」「複数」の「腸音(腸蠕動音)を抽出する機能」は、本件特許発明1の「前記被験者から得られた音響データから複数の腸音を抽出する抽出部」に相当する。

イ 特徴量演算部について

甲1発明の「パワースペクトル密度」は、本件特許発明1の「特徴量」に相当する。

甲1発明(【0023】)では、「電気信号のうち、腸音(腸蠕動音)が測定されていると考えられる」「期間の信号について、パワースペクトル密度を算出」することから、「複数」の「腸音(腸蠕動音)」が「抽出」された場合、「複数」の「腸音(腸蠕動音)」の各「期間の信号について、パワースペクトル密度を算出」することは明らかである。

そうすると、甲1発明の各「腸音(腸蠕動音)」「の期間の信号について、パワースペクトル密度を算出す」る「機能」と、本件特許発明1の「前記各腸音の周波数領域に関連する特徴量を演算する特徴量演算部」とは、「前記各腸音の」「特徴量を演算する特徴量演算部」という点で共通する。

ウ 分布データ生成部について

甲1発明の「合計」「パワースペクトル密度」が、本件特許発明1の「データ」に相当する。

甲1発明(【0025】)では、「電気信号において、腸音(腸蠕動音)が測定されていると考えられる期間が複数ある場合には、全ての期間の腸音(腸蠕動音)に含まれるパワースペクトル密度を合計する機能を」「有している」ので、甲1発明では、各「腸音(腸蠕動音)」「の期間の信号」において「算出」された「パワースペクトル密度」を「合計」した「合計」「パワースペクトル密度」を生成していることは明らかである。

また、パワースペクトル密度は、信号のフーリエ変換の大きさの2乗の時間平均として、一般に定義されるものであるから、甲1発明(【0023】)の「パワースペクトル密度」は、「腸音(腸蠕動音)に含まれる各周波数のエネルギーを含んだ」1つの数値であって、1つの腸音(腸蠕動音)の期間における各周波数のエネルギーの分布データ(パワースペクトル)ではない。このことは、甲1発明(【0045】)が、「総和エネルギーの平均変化率C

B

の値に基づいて判断」することからも明らかである。

そうすると、甲1発明の各「パワースペクトル密度」を「合計」した「合計」「パワースペクトル密度」を生成する「機能」と、本件特許発明1の「前記各特徴量の分布を示す分布データを生成する分布データ生成部」とは、「前記各特徴量」「を示す」「データを生成する」「データ生成部」という点で共通する。

エ 評価部について

甲1発明(【0039】)は、「安静時のデータとストレス負荷時のデータ」「に基づいて、医師は被験者が過敏性腸症候群等の疑いがあるか否かを」「判断することができ」る。ここでの「安静時のデータとストレス負荷時のデータ」は、「安静時」及び「ストレス負荷時」の各「測定期間における腸の蠕動運動が生じた時のパワースペクトル密度」(【0035】、【0036】)であるから、「安静時のデータとストレス負荷時のデータ」が、「安静時」と「ストレス負荷時」の各「合計」「パワースペクトル密度」であることは明らかである。

そして、甲1発明の「安静時」と「ストレス負荷時」の各「合計」「パワースペクトル密度」のうち、「ストレス負荷時」の各「合計」「パワースペクトル密度」は、本件特許発明1の「前記分布データ生成部によって生成された分布データ」における「前記」「データ生成部によって生成された」「データ」に相当し、「安静時」の各「合計」「パワースペクトル密度」は、本件特許発明1の「参照用データ取得部」によって「取得」された「参照用分布データ」における「参照用データ取得部」によって「取得」された「参照用」「データ」(下記オ参照)に相当する。

そうすると、甲1発明の「ストレス負荷時」の各「合計」「パワースペクトル密度」「に基づいて、医師は被験者が過敏性腸症候群等の疑いがあるか否かを」「判断することができ」る機能と、本件特許発明1の「前記分布データに基づいて、前記被験者の胃腸の状態を評価する評価部」とは、「前記」「データに基づいて、前記被験者の胃腸の状態を評価する評価部」という点で共通する。

オ 参照用データ取得部について

甲1発明(【0035】)の「被験者を安静にした状態」(「安静時」)は、本件特許発明1の「前記被験者の胃腸の状態が所定の状態であるとき」に相当する。そして、甲1発明(【0039】)の「安静時の」「合計」「パワースペクトル密度」は、「ストレス負荷時の」「合計」「パワースペクトル密度」との「比較」に用いられる参照データである。

そうすると、甲1発明は、「安静時」の各「合計」「パワースペクトル密度」を生成しているから、本件特許発明1の「前記被験者の胃腸の状態が所定の状態であるときに前記被験者から得られた音響データに含まれる、複数の腸音の前記特徴量の分布を示す参照用分布データを取得する参照用データ取得部」と、「前記被験者の胃腸の状態が所定の状態であるときに前記被験者から得られた音響データに含まれる、複数の腸音の前記特徴量」「を示す参照用」「データを取得する参照用データ取得部」という点で、共通する構成を備えている。

カ 類似度演算部について

甲1発明は、「安静時」と「ストレス負荷時」の各「合計」「パワースペクトル密度」を生成しているが、それらの「差」の算出(【0039】)又は「総和エネルギーの平均変化率C

B

の値」の算出(【0045】)を「腸音測定装置1」の機能が行うか不明である。

しかしながら、甲1発明(【0047】)では、「過敏性腸症候群の可能性がない被験者では、平均変化率C

B

が減少し、」「過敏性腸症候群の可能性がある被験者では、平均変化率C

B

が増加」することから、医師が、「過敏性腸症候群の可能性」を、「ストレス負荷時の」「合計」「パワースペクトル密度」が「安静時の」「合計」「パワースペクトル密度」に近いか遠いかの類似度(「平均変化率C

B

」)で「判断」しているものと認められる。

そうすると、甲1発明は、本件特許発明1の「前記分布データ生成部によって生成された分布データと前記参照用分布データとの類似度を演算する類似度演算部」と、「前記」「データ生成部によって生成された」「データと前記参照用」「データとの類似度を演算する」という点で、共通する構成を備えている。

キ 上記オ及びカでの対比を踏まえると、甲1発明(【0049】)の「過敏性腸症候群を診断できるデータが測定できる可能性があることが確認された」「腸音測定装置1」は、本件特許発明1の「前記所定の状態および前記類似度に基づいて、」「被験者の胃腸の状態を評価する評価装置」に相当する。

(2)一致点・相違点

(1)の対比を踏まえると、本件特許発明1と甲1発明とは、次の点で一致し、次の各点で相違する。

(一致点)

「被験者の胃腸の状態を評価する評価装置であって、

前記被験者から得られた音響データから複数の腸音を抽出する抽出部と、

前記各腸音の」「特徴量を演算する特徴量演算部と、

前記各特徴量」「を示す」「データを生成する」「データ生成部と、

前記」「データに基づいて、前記被験者の胃腸の状態を評価する評価部と、

を備え、

前記評価部は、

前記被験者の胃腸の状態が所定の状態であるときに前記被験者から得られた音響データに含まれる、複数の腸音の前記特徴量」「を示す参照用」「データを取得する参照用データ取得部」

「を備え、」

「前記」「データ生成部によって生成された」「データと前記参照用」「データとの類似度を演算」し、

「前記所定の状態および前記類似度に基づいて前記状態を評価する、評価装置。」

(相違点1)

特徴量演算部によって演算される各腸音の特徴量が、本件特許発明1では、各腸音の「周波数領域に関連する」特徴量であるのに対し、甲1発明(【0023】)では、各「腸音(腸蠕動音)に含まれる各周波数のエネルギーを含んだパワースペクトル密度」である点。

(相違点2)

分布データ生成部によって生成された各特徴量を示すデータが、本件特許発明1では、各特徴量「の分布」を示す「分布」データであるのに対し、甲1発明では、「ストレス負荷時」の各「パワースペクトル密度」を「合計」した「合計」「パワースペクトル密度」である点。

(相違点3)

評価部によって評価される被験者の胃腸の状態が、本件特許発明1では、前記「分布」データに基づいて評価されるのに対し、甲1発明では、「ストレス負荷時」の各「パワースペクトル密度」を「合計」した「合計」「パワースペクトル密度」に基づいて評価される点。

(相違点4)

参照用データ取得部によって取得される参照用データが、本件特許発明1では、複数の腸音の前記特徴量「の分布」を示す参照用「分布」データであるのに対し、甲1発明では、「安静時」のの各「パワースペクトル密度」を「合計」した「合計」「パワースペクトル密度」である点。

(相違点5)

類似度演算部によって演算される類似度が、本件特許発明1では、前記「分布」データ生成部によって生成された「分布」データと前記参照用「分布」データとの類似度であるのに対し、甲1発明では、「ストレス負荷時の」「合計」「パワースペクトル密度」が「安静時の」「合計」「パワースペクトル密度」に近いか遠いかの類似度(「平均変化率C

B

」)である点。

(相違点6)

類似度を、本件特許発明1では、「類似度演算部」が演算するのに対し、甲1発明では、「腸音測定装置1」の機能が行うか不明である点。

(3)判断

事案に鑑み、上記相違点1~3についてまとめて検討する。

ア 上記(1)ウにて説示したとおり、「パワースペクトル密度」は1つの数値であるから、甲1発明の「合計」「パワースペクトル密度」は1つの数値であって、各特徴量「分布」データではない。また、甲1発明(【0024】)において、「電気信号のパワースペクトル密度を算出するのは、腸の運動が活発になると、通常時に比べて、腸音(腸蠕動音)の音圧が大きくなるからであり、つまり、腸音(腸蠕動音)のパワースペクトル密度が把握できれば、腸の運動の状態を適切に把握できる」からである。そうすると、「腸の運動の状態を適切に把握」するために、この腸の運動を反映する「腸音(腸蠕動音)の音圧」に由来する、1つの数値で表す「合計」「パワースペクトル密度」を採用した甲1発明において、当該「合計」「パワースペクトル密度」を、腸音の音圧の把握には必ずしも適切ではない、『各腸音の「周波数領域に関連する」特徴量「の分布」を示す「分布」データ』に変更する動機付けがあるとはいえない。

イ 上記相違点1~3に係る本件特許発明1の構成である『各腸音の「周波数領域に関連する」特徴量「の分布」を示す「分布」データ』に基づいて被験者の胃腸の状態を評価することについて、甲第2号証又は甲第3号証に記載ないし示唆されているか、念のため確認する。

甲第2号証(【0011】、【0030】)には、「被測定者の腸の状態を測定する装置」において、「集音装置1によって生成される音響データに基づいてその音響データに示される腸蠕動音を検出」し、「例えば、腸音検出部31は、音響データ取得部22から音響データを取得すると、その音響データの中から、腸蠕動音の長さ及び発生頻度を検出する」ことが記載されているが、甲第2号証に記載の「腸蠕動音の長さ及び発生頻度」は、『各腸音の「周波数領域に関連する」特徴量「の分布」を示す「分布」データ』ではない。

また、甲第3号証(【0030】、【0036】、【0042】)には、「腸が発する生体音を検知および解析することによって、当該腸が発する音が蠕動音であるか否かを判定する装置」において、「周波数スペクトル算出部12は、生体音データに対して所定の時間ごとに高速フーリエ変換(Fast Fourier Transformation,FFT)処理を行う」「ことにより、生体音データの周波数スペクトル」「を算出する」ことが記載されているが、甲第3号証に記載の「生体音データの周波数スペクトル」は、「所定の時間ごとに高速フーリエ変換(Fast Fourier Transformation,FFT)処理を行う」「ことにより」「算出」したものであるから、『腸音の「周波数領域に関連する」特徴量』であっても、『各腸音の「周波数領域に関連する」特徴量「の分布」を示す「分布」データ』ではない。また、甲第3号証は、「腸が発する音が蠕動音であるか否かを判定する」ために、「生体音データの周波数スペクトル」「を算出する」ものであって、被測定者の腸の状態を評価するために「生体音データの周波数スペクトル」「を算出する」ものではない。

そうすると、『各腸音の「周波数領域に関連する」特徴量「の分布」を示す「分布」データ』に基づいて被験者の胃腸の状態を評価することについて、甲第2号証、甲第3号証に記載も示唆もされていないし、本件出願時における周知技術といえる証拠もない。

ウ したがって、上記相違点1~3に係る本件特許発明1の構成(『各腸音の「周波数領域に関連する」特徴量「の分布」を示す「分布」データ』に基づいて被験者の胃腸の状態を評価すること)は、甲1発明及び甲第2号証、甲第3号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることではない。

(4)申立人の主張について

ア 申立人は、以下のとおり、甲第1号証に記載の○6(○囲み数字を○数字で代用。以下同様)及び○7に基づき、甲第1号証には、本件特許発明1の「特徴量演算部」及び「分布データ生成部」に相当する構成が記載されていると主張する。

○6「(嬬動音抽出機能)

蠕動音抽出機能は、腸音測定手段10から送信される電気信号から、腸音(腸蠕動音)を抽出する機能を有している。言い換えれば、腸音測定手段10から送信される電気信号から、腸音(腸蠕動音)以外の信号(ノイズ)を除去する機能を有している。例えば、蠕動音抽出機能は、電気信号に含まれる低周波のノイズ(例えば心音や雑音等)をフィルタ(例えばハイパスフィルタやバタワースフィルタ等)によって除去する機能を有している。なお、蠕動音抽出機能がノイズを除去する方法はとくに限定されず、種々の方法を採用することができる。」(段落【0022】)

○7「(スペクトル解析機能)

スペクトル解析機能は、蠕動音抽出機能によってノイズが除去された電気信号をスペクトル解析して、パワースペクトル密度を算出する機能を有している。具体的には、ノイズ除去後の電気信号における一定期間について、その期間のパワースペクトル密度を算出する機能を有している。例えば、電気信号のうち、腸音(腸蠕動音)が測定されていると考えられる期間を選択する。そして、その期間の信号について、パワースペクトル密度を算出すれば、腸音(腸蠕動音)に含まれる各周波数のエネルギーを含んだパワースペクトル密度を把握することができる。」(段落【0023】)

・・・

(C)上記○7には、「スペクトル解析機能は、蠕動音抽出機能によってノイズが除去された電気信号をスペクトル解析して、パワースペクトル密度を算出する機能を有している。」ことが記載されている。前述のとおり上記○6には「蠕動音抽出機能は、腸音測定手段10から送信される電気信号から、腸音(腸蠕動音)を抽出する機能を有している。」と記載されていることも踏まえれば、「蠕動音抽出機能によってノイズが除去された電気信号」は「腸音」であると認識できる。また、パワースペクトル密度は信号のパワーを各周波数のパワー密度として表しその分布を示すところ、各周波数のパワー密度は、「各腸音の周波数領域に関連する特徴量」であると認識できる。

したがって、甲第1号証には、「前記各腸音の周波数領域に関連する特徴量を演算する特徴量演算部」(構成要件1C)ならびに「前記各腸音の周波数領域に関連する特徴量を演算する特徴量渡算ステップ」(構成要件6Cおよび10C)が記載されている。

(D)前述のとおり、上記○7には、「スペクトル解析機能は、・・・パワースペクトル密度を算出する機能を有している。」ことが記載されている。「パワースペクトル密度」は、「各特徴量の分布を示す分布データ」であると認識できる。

したがって、甲第1号証には、「前記各特徴量の分布を示す分布データを生成する分布データ生成部」(構成要件1D)ならびに「前記各特徴量の分布を示す分布データを生成する分布データ生成ステップ」(構成要件6Dおよび10D)が記載されている。」(特許異議申立書第18頁~第22頁)

イ 上記アでの主張について検討する。

上記1(1)ウにて説示したとおり、パワースペクトル密度は、信号のフーリエ変換の大きさの2乗の時間平均として、一般に定義されるものであるから、甲1発明(【0023】)の「パワースペクトル密度」は、「腸音(腸蠕動音)に含まれる各周波数のエネルギーを含んだ」1つの数値であって、1つの腸音(腸蠕動音)の期間における各周波数のエネルギーの分布データ(パワースペクトル)ではない。このことは、甲1発明(【0045】)が、「総和エネルギーの平均変化率C

B

の値に基づいて判断」することからも明らかである。そうすると、腸音(腸蠕動音)に含まれる各周波数のエネルギーで表した分布は、「パワースペクトル」であって、1つの数値で表す「パワースペクトル密度」ではないから、「パワースペクトル密度」が、「各腸音の周波数領域に関連する特徴量の分布を示す分布データ」であるとは認識できない。よって、申立人の主張は採用できない。

なお、仮に、甲1発明の「腸音(腸蠕動音)に含まれる各周波数のエネルギー」を本件特許発明1の「腸音の周波数領域に関連する特徴量」に相当するとした場合、パワースペクトル密度を算出する過程で得られる「腸音(腸蠕動音)に含まれる各周波数のエネルギーで表した分布」(パワースペクトル)は、1つの「腸音の周波数領域に関連する特徴量の分布を示す分布データ」に相当することになるが、本件特許発明1の「抽出部」によって「抽出」された「複数」の「各腸音の周波数領域に関連する特徴量の分布を示す分布データ」に相当しない。よって、上記の仮定を前提にしても申立人の主張は採用できない。

(5)小括

したがって、本件特許発明1は、他の相違点について検討するまでもなく、甲1発明及び甲第2号証、甲第3号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本件特許発明2~4について

本件特許発明2~4は、本件特許発明1と同じ評価装置のカテゴリーに属する発明であり、上記相違点1~3に係る本件特許発明1の構成を備えるものである。

してみると、本件特許発明2~4は、本件特許発明1と同じ理由により、甲1発明及び甲第2号証、甲第3号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 本件特許発明5について

本件特許発明5は、本件特許発明1の評価装置を備えた評価システムのカテゴリーに属する発明であり、上記相違点1~3に係る本件特許発明1の構成を備えるものである。

してみると、本件特許発明5は、本件特許発明1と同じ理由により、甲1発明及び甲第2号証、甲第3号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4 本件特許発明6~9について

本件特許発明6~9は、本件特許発明1~4に対応する評価方法のカテゴリーに属する発明であり、上記相違点1~3に係る本件特許発明1の構成に対応する構成を備えるものである。

してみると、本件特許発明6~9は、本件特許発明1と同じ理由により、甲1発明及び甲第2号証、甲第3号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

5 本件特許発明10~13について

本件特許発明10~13は、本件特許発明1~4に対応する評価プログラムのカテゴリーに属する発明であり、上記相違点1~3に係る本件特許発明1の構成に対応する構成を備えるものである。

してみると、本件特許発明10~13は、本件特許発明1と同じ理由により、甲1発明及び甲第2号証、甲第3号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび

以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した申立理由及び証拠によっては、本件請求項1ないし13に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に本件請求項1ないし13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

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