sokuhyo

Trademark Appeal Case

ホットメルト接着剤の進歩性

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号2025700967
審判種別記載はありません。
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

結 論
特許第7666715号の請求項1~10に係る特許を維持する。

理由テキスト

理 由

1 手続の経緯

特許第7666715号(以下「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願は、令和6年7月5日(優先権主張令和5年7月5日)の出願であって、令和7年4月14日にその特許権の設定登録がなされ、同月22日に特許掲載公報が発行された。その後、同年10月7日に、請求項1~10に係る特許に対し、特許異議申立人白井菜穂子(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。

2 本件発明

本件特許の請求項1~10に係る発明(以下「本件発明1」等という。まとめて「本件発明」ということもある。)は、その特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】

ホットメルト接着剤が溶融袋で包装された塊状体であって、

前記溶融袋は、少なくともスチレン系エラストマー(A)を含有し、160°Cにおける溶融粘度が30,000mPa・s以下であり、

前記溶融袋の軟化点が前記ホットメルト接着剤の軟化点よりも高く、

剥離材により包装されていない塊状体。

【請求項2】

前記ホットメルト接着剤がPETボトルラベルに用いられるホットメルト接着剤である、請求項1に記載の塊状体。

【請求項3】

前記スチレン系エラストマー(A)として少なくともスチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロックコポリマーを含有する、請求項1または2に記載の塊状体。

【請求項4】

前記溶融袋の軟化点は50°C以上150°C以下であり、

前記ホットメルト接着剤の軟化点は40°C以上110°C以下である、請求項1または2に記載の塊状体。

【請求項5】

前記ホットメルト接着剤の酸価は15~100mgKOH/gである、請求項1または2に記載の塊状体。

【請求項6】

前記ホットメルト接着剤は少なくとも酸価を有する粘着付与剤を含有し、酸価を有する粘着付与剤の含有率は、ホットメルト接着剤100質量%中、0.1~70質量%である、請求項1または2に記載の塊状体。

【請求項7】

前記ホットメルト接着剤の軟化点と前記溶融袋の軟化点の差が50°C以内である、請求項1または2に記載の塊状体。

【請求項8】

請求項1または2に記載の塊状体のシート状成形物である、ホットメルトシート。

【請求項9】

厚さ25μmにおけるボールタックが4以上である、請求項8記載のホットメルトシート。

【請求項10】

請求項8に記載のホットメルトシート、被着体の順に配置されたホットメルト積層体。」

3 申立理由の概要

申立人は、特開2013-133472号公報(以下「甲1」という。)及び特開2019-119811号公報(以下「甲2」という。)を提出し、請求項1~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1~10に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

4 当審の判断

(1) 文献の記載

ア 甲1について

(ア) 甲1の記載

甲1には以下の記載がある(下線は当審において付した。また、「・・・」は省略を示す。)。

「【請求項1】

下記(a)~(d)を組成物の総重量に対して下記重量比率:

(a)20~60重量%の、式A-B-Aのトリブロック・コポリマー(ここで、Aは非エラストマーのスチレン・ブロック(またはポリスチレン)を表し、Bは全部または部分的に水素化されたポリブタジエン・エラストマーのブロックを表す)、式A-Bのジブロック・コポリマー(AおよびBは上記定義のもの)およびこれらの混合物から成る群の中から選択される少なくとも一種のスチレン・ブロック共重合体

(b)5~55重量%の、下記(i)~(iii)によって得られる樹脂から成る群の中から選択される、(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で求めた、ポリスチレン基準の)数平均分子量が200Da~10kDaの間にある少なくとも一種の粘着付与樹脂:

(i)石油カットに由来する炭素原子数が約5または9の不飽和脂肪族炭化水素の混合物の水素化、重合または((芳香族炭化水素を含んでいてもよい)共重合、(当審注:原文ママ。「((芳香族炭化水素を含んでいてもよい)」との記載は「(芳香族炭化水素を含んでいてもよい)」の明らかな誤記。)

(ii)フリーデル-クラフト触媒の存在下でのテルペン炭化水素の重合、

(iii)α-メチルスチレン単位および任意成分のスチレンの重合と、それに続く必要に応じて行う少なくとも部分的な水素化、

(c)10~40重量%の、融点が75~125°Cで、(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で求めた、ポリスチレン基準の数平均分子量が500~1500Daの少なくとも一種のワックス、

(d)1~30重量%の、メタロセン触媒を用いて重合したポリエチレン・ワックスおよびポリオレフィンの中から選択される少なくとも一種の成分、

で有する、フィルムを形成するためのホットメルト接着剤組成物

であって、、

180°Cでのブルックフールド粘度が3,000~70,000mPa.sの範囲内にあり、軟化点が80~130°C、好ましくは90~120°Cの範囲内

にあり、150°Cから10°Cへの温度で10°C/分の速度、10rad/sの一定周波数でレオロジカルスキャンニングで測定した時の60°Cでの弾性係数が2×10

5

~10

8

Pa、好ましくは2×10

7

の範囲内にあることを特徴とする

ホットメルト接着剤組成物

・・・

【請求項6】

成分(a)がSEBSタイプのコポリマー

である接着剤1~5のいずれか一項に記載の組成物。(当審注:原文ママ。「接着剤1~5」との記載は「請求項1~5」の明らかな誤記。)

・・・

【請求項13】

請求項1~12のいずれか一項に記載の少なくとも一つの組成物から成る、少なくとも一種のホットメルト接着剤材料で構成されるホットメルト接着剤製品用のフィルム。

【請求項14】

下記(1)と(2)から成る直ちに使用可能なホットメルト接着剤製品:

(1)少なくとも一種のホットメルト接着剤物質から成る少なくとも一種のホットメルト接着剤製品、

(2)請求項13に記載のフィルムから成る、上記ホットメルト接着剤製品を被覆した少なくとも一つの被覆。

「【0001】

本発明は、ホットメルト接着剤製品を包装するのに適したフィルムを形成するための接着剤組成物

に関するものである。

本発明は

特に、直ちに使用可能なホットメルト接着剤製品

、特に、包装製品が共押出プロセスで作られる場合のホットメルト接着剤製

を包装するのに適したフィルムを形成するための接着剤組成物

に関するものである。

【背景技術】

【0002】

一般にホットメルト接着剤製品は室温で固体であるが、塗布される時は溶融状態または少なくとも半剛性状態である。

ホットメルト接着剤製品は通常は固体のブロックまたはペレットの形でドラム缶または小袋(以下、サシェト(sachets)という)にして円柱の形で供給される。ホットメルト接着剤製品、特にHMPSA(ホットメルト感圧接着剤)は極めて粘着性が強く、および/または、室温で軟らかいため、一般に約35g~約2kgの範囲の重さを有するサシェト(またはピロー形状)のホットメルト接着剤製品は取扱いおよび貯蔵が難しい。

【0003】

そのため、ハンドリングおよび貯槽を容易にし、しかも環境から保護するために上記サシェトを包装するのに適したフィルムを形成するのに適した組成物が開発されている。このフィルムはサシェトの周りに一種の「スキン」を形成するもので、一般にはサシェトを形成する際にその周りに共押出によって形成される。サシェト使用時には、それを包んだ上記フィルムがホットメルト接着剤製品と同時に溶融する。

すなわち、包装されたサシェトに存在する上記フィルム組成物の重量百分比率は少量であり、理論的には溶融時に実質的に均一な材料となり、接着剤の目的に合ったものとなる。」

「【0008】

「包装(wrapping)」または被覆(coating)」とは一般に外側表面全体をカバーすることを意味する。

「ホットメルト(hot-melt)」とは一般に少なくとも50°Cで溶融する場合を意味する。

「【発明を実施するための形態】

【0013】

本発明組成物は180°Cでのブルックフィールド粘度が3,000~70,000mPa.s、好ましくは3,500~40,000mPa.sの範囲内にある。

この粘度はASTM D3236規格の方法で測定される。この粘度は一般にThermosel Brookfield装置またはその他の適切な粘度計を使用し、ASTMに記載のテスト方法を使用して測定できる。」

「【0019】

A-B-AはSEBSとよばれるポリスチレン-ポリ(エチレンブチレン)-ポリスチレン構造のブロック共重合体を表す。

「【0022】

好ましいスチレン・ブロック共重合体はKraton Polymers社

(登録商標

Kraton G

)またはDynasol社またはEnichem社

から入手可能なSEBS

である。

【0023】

直鎖SEBS構造を有するコマーシャル製品

の例

としては下記がある

:

KratonG1726(登録商標)(70%のジブロック・コポリマーと30%のスチレン単位から成る)、

KratonG1652(登録商標)(0%のジブロック・コポリマーと30%のスチレン単位から成る)、

Kraton G1657

(登録商標)(30%のジブロック・コポリマーと13%スチレン単位から成る)」

「【0054】

直ちに使用可能なホットメルト接着剤製品すなわち本発明に従って包装したホットメルト接着剤製品は接着剤製品を塗布するための機械の融解タンクに直接装入することができ、廃棄物は無く、時間のロスもない。

【0055】

ホットメルト接着剤製品は工業的に使われるHMPSAの一つ、特に

自動接着用途、テープおよび

ラベル用のものであるのが好ましい。

最も代表的な例はスチレン・イソプレン・スチレン(SlS)タイプのポリマーまたはスチレン・ブタジエン・スチレン(SBS)タイプのポリマーのホットメルト接着剤製品である。これらの製品は多量(30~70%)の粘着付与樹脂と、0質量%~50質量%の鉱油とを含む。これらのHMPSA製品の粘度は170°Cで1~100,000mPa.s程度である。」

「【実施例】

【0058】

以下の実施例は本発明を例示するもので、本発明の範囲を限定するためのものではない。特に断らない限り、全ての百分比は重量/重量で与えられる。

1.

実験プロトコール

1.1.

研究室で手動で作ったサシェト

実験を行うために研究室で手動で作った

各サシェトはホットメルト粘着物質で構成した

各サシェトは

通常の方法で加熱混合し、冷却して固化して調製し、

得られたホットメルト接着材料を切断して寸法が1cm×1cm×8cm=8cm

3

の平行四辺形の矩形にした

。この実験で使用した3つの異なるホットメルト粘着物質は以下のものである:

【0059】

1. 30%のEVAコポリマー(酢酸ビニール含有量が25~35%+55%のペンタエリスリトールベースのロジンンエステル+15%のナフテン系鉱油)(以下、MATIという材料)

2. 30%のSISコポリマー(スチレン含有量が12~20%+49%のC5/C9粘着付与樹脂+21%のナフテン系鉱油)(以下、MAT2とよぶ材料)

3. 35%のSBSコポリマー(スチレン含有量が25~32%+46%のペンタエリスリトールベースのロジンエステル+19%のナフテン系鉱油(以下、MAT3とよぶ材料)。

【0060】

さらに、

厚さ70μmの「スキン」材料(すなわちテストされるホットメルト接着剤組成物)の

均一フィルムを例えば研究室でギヤポンプを用いて供給される

溶融物を、

MAT1、MAT2またはMAT3材料から成る

サシェトのコアの周りに、

180°Cに加熱したフラット押出ダイ(またはリップノズル)から

押出す。このフィルムは冷却された時にホットメルト粘着物質から成るサシェトのコアを取囲む「スキン」を構成する。

温度および機械的ストレスの作用下に経時的ホットメルト接着剤材料がリークするのを避けるためにフィルム端を複数回折り重ねる。」

「【0070】

3.

本発明の組成物

:

発明組成物であるINV1、INV2、INV3およびINV4は以下である:

【0071】

3.1.

本発明組成物1(INV1)

組成物INV1は40重量%の

スチレン・ブロック共重合体Kraton

(登録商標)

G1657

(成分a)と、2種類の粘着付与樹脂(成分b)すなわち7重量%のNorsolene(登録商標)W85と17重量%のEastotac(登録商標)H100と、32重量%のPolywax(登録商標)500ワックス(成分c)と、3重量%のAC(登録商標)8ポリエチレン・ワックス(成分d)と、1重量%のIrganox(登録商標)1010

とから成る。

組成物INV1は180°Cの粘度が15,000のmPa.s

で、

軟化点が108°C

で、本発明定義のレオロジカル・テストによる60°Cでの弾性係数(G’)が5.8×10

5

Paで、弾性モジュラスと粘性モジュラスの交点が81.8°Cである。この組成物INV1はさらに、20°C/分でのDSCエンタルピーが61.2J/gである。」

(イ) 甲1発明

上記(ア)を踏まえると、甲1には、特に、実施例における本発明組成物1(INV1)に着目すると、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている(括弧内は特に関連する記載箇所である。)。

「寸法が1cm×1cm×8cm=8cm

3

の平行四辺形の矩形であるホットメルト接着材料からなるサシェトと(【0058】)、サシェトを取囲み、ホットメルト接着剤組成物であるスキン(【0060】)とからなり、接着剤製品を塗布するための機械の融解タンクに直接装入することができ、廃棄物は無いホットメルト接着剤製品(【0054】)であって、

ホットメルトとは一般に少なくとも50°Cで溶融するものであり(【0008】)、

前記スキンの材料は、40重量%のスチレン・ブロック共重合体KratonG1657を含み、180°Cの粘度が15,000のmPa.sで、軟化点が108°Cであり(【0071】)、

KratonG1657は、SEBSとよばれるポリスチレン-ポリ(エチレンブチレン)-ポリスチレン構造のブロック共重合体(【0019】、【0023】)である、

ホットメルト接着剤製品。」

(ウ) 甲1記載技術

上記(ア)の【請求項1】、【0013】を踏まえると、甲1には、以下の技術(以下「甲1技術」という。)が記載されている。

「フィルムを形成するためのホットメルト接着剤組成物の180°Cでのブルックフィールド粘度を3,000~70,000mPa.sの範囲内とすること」

イ 甲2について

甲2には、以下の技術(以下「甲2技術」という。)が記載されている。

「接着強度に優れ、アルカリ分散性に優れ、ラベルをペットボトルから手で引き剥がしやすいとされるホットメルト接着剤において(【0006】)、

アルカリ分散性を考慮して、酸価が100~300mgKOH/gであるロジン系粘着付与剤を含有する技術(【請求項1】、【0013】、【0020】)」

(2) 本件発明1について

ア 対比

本件発明1と甲1発明とを対比する。

甲1発明の「ホットメルト接着材料からなるサシェト」、「ホットメルト接着剤組成物であるスキン」は、それぞれ本件発明1の「ホットメルト接着剤」、「溶融袋」に相当する。また、甲1発明の「ホットメルト接着剤製品」は、「寸法が1cm×1cm×8cmの平行四辺形の矩形であるホットメルト接着材料からなるサシェト」を「スキン」で取囲んだものであるから、その形状からみて、本件発明1の「塊状体」に相当する。そうすると、甲1発明における「寸法が1cm×1cm×8cm=8cm

3

の平行四辺形の矩形であるホットメルト接着材料からなるサシェトと、サシェトを取囲み、ホットメルト接着剤組成物であるスキンとからな」る「ホットメルト接着剤製品」は、本件発明1における「ホットメルト接着剤が溶融袋で包装された塊状体」に相当する。

甲1発明の「スチレン・ブロック共重合体KratonG1657」は、本件発明1の「スチレン系エラストマー(A)」に相当するから、甲1発明における「前記スキンの材料は、40重量%のスチレン・ブロック共重合体KratonG1657を含み、180°Cの粘度が15,000のmPa.sで、軟化点が108°Cであ」る構成は、本件発明1における「前記溶融袋は、少なくともスチレン系エラストマー(A)を含有し、160°Cにおける溶融粘度が30,000mPa・s以下であ」る構成と、「前記溶融袋は、少なくともスチレン系エラストマー(A)を含有」する構成に限り一致する。

甲1発明の「ホットメルト接着材料からなるサシェト」の軟化点は、「ホットメルトとは一般に少なくとも50°Cで溶融するものであ」るということを踏まえると、少なくとも50°Cであると認められ、「前記スキンの材料」の「軟化点が108°C」は「サシェト」の軟化点よりも高いといえるから、甲1発明における「スキン」と「サシェト」の軟化点の関係は、本件発明1における「前記溶融袋の軟化点が前記ホットメルト接着剤の軟化点よりも高」いという条件を満たす。

甲1発明における「接着剤製品を塗布するための機械の融解タンクに直接装入することができ、廃棄物は無いホットメルト接着剤製品」は、廃棄物が生じないのであるから、本件発明1における「剥離材により包装されていない塊状体」に相当する。

してみると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>

ホットメルト接着剤が溶融袋で包装された塊状体であって、

前記溶融袋は、少なくともスチレン系エラストマー(A)を含有し、

前記溶融袋の軟化点が前記ホットメルト接着剤の軟化点よりも高く、

剥離材により包装されていない塊状体。

<相違点>

本件発明1の溶融袋は、160°Cにおける溶融粘度が30,000mPa・s以下であるのに対し、甲1発明のスキンは、160°Cにおける溶融粘度が不明である点。

イ 判断

以下、上記相違点について検討する。

溶融粘度は一般的に温度依存性があり、温度が下がると粘度が上昇する。そして、温度と粘度との関係は、物質の組成によって変化するところ、甲1発明のスキン材料の溶融粘度が温度変化に伴ってどのように変化するかが明らかでなく、160°Cにおいて30,000mPa・s以下になるかどうかも特定できないから、甲1発明が上記相違点に係る本件発明1の事項を備えているとはいえない。

また、甲1には、甲1技術、すなわち、フィルムを形成するためのホットメルト接着剤組成物の180°Cでのブルックフィールド粘度を3,000~70,000mPa.sの範囲内とすることが記載されており、この数値範囲には、甲1発明よりもはるかに低い粘度の数値も含まれているが、甲1技術の粘度も160°Cでの粘度ではない。

仮に、甲1技術の粘度範囲における一部の粘度を有するホットメルト接着剤組成物の粘度が、160°Cで測定した際に30,000mPa・s以下になるものであったとしても、甲1技術の数値範囲には甲1発明よりも高い粘度の数値も含まれており、甲1技術の粘度の上限値についての技術的意義も明らかでない。そうすると、すでに甲1技術の数値範囲内の粘度である甲1発明において、160°Cで測定した際に30,000mPa・s以下となるような低い粘度範囲に限定しなければならない理由はみられない。

そして、本件発明1は、溶融袋は、160°Cにおける溶融粘度が30,000mPa・s以下とすることで、破砕性と相溶性を両立する、という効果を奏するところ(【0023】)、破砕性と相溶性を両立するために溶融袋の160°Cにおける溶融粘度を30,000mPa・s以下とする事項は、いずれの証拠にも記載も示唆もされておらず、当該事項が周知技術であるという証拠もない。

そうすると、甲1発明において、相違点に係る本件発明1の事項を備えることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

ウ 申立人の主張について

申立人は、異議申立書の第8ページ第6~11行において「ここで、180°Cにおける溶融粘度は160°Cにおける溶融粘度に換算可能であり、180°Cにおける溶融粘度3,000~70,000mPa・Sは換算すると160°Cにおける溶融粘度は6,000~140,000mPa・sとなる。したがって、本件発明1における溶融粘度の範囲は甲第1号証の溶融粘度の範囲と重複する。」と主張しているが、何ら換算の根拠を示していない。そして、上記イのとおり、温度と粘度との関係は、物質によって異なるため、必ずしも申立人の主張する換算が成立するとはいえない。

仮に、申立人の主張する換算ができたとしても「160°Cにおける溶融粘度は6,000~140,000mPa・s」という数値範囲は、その範囲の全体が、本件発明1の「160°Cにおける溶融粘度が30,000mPa・s以下」という条件を満たすものとはならないし、甲1において一体のものとして記載された数値範囲のうち、本件発明1の粘度の数値範囲と重複する特定の数値範囲のみを個別に認識し得る特段の理由もみられないから、甲1に「160°Cにおける溶融粘度が30,000mPa・s以下」という事項が記載されているとはいえない。そして、本件発明1は「160°Cにおける溶融粘度が30,000mPa・s以下」となるように数値範囲を規定することで破砕性と相溶性を両立するという甲1に記載も示唆もされていない効果を奏するものであるから、甲1の「160°Cにおける溶融粘度は6,000~140,000mPa・s」という数値範囲の上限値を限定し、「160°Cにおける溶融粘度が30,000mPa・s以下」の範囲内とすることは単なる設計事項でもない。

そうすると、申立人の主張は採用できない。

エ 小括

したがって、本件発明1は、甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3) 本件発明2~10について

本件発明2~10は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えた発明であるから、本件発明2~10と甲1発明は少なくとも上記相違点で相違する。そうすると、上記(2)イと同様の理由により、本件発明2~10は、甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5 むすび

したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~10に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に請求項1~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

Next Action

次の一手につながるサービス

類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。

次の一歩へ

商標の登録可能性を無料で確認するか、費用の目安を料金表・シミュレーターで把握できます。