結論テキスト
特許第7373005号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
特許第7373005号の請求項1~3に係る特許を維持する。
特許第7373005号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 2024700379 |
|---|---|
| 審判種別 | 記載はありません。 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理 由
特許第7373005号(以下「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、令和4年3月24日に出願され、令和5年10月24日にその特許権の設定登録(特許掲載公報令和5年11月1日発行)がされ、その後、その特許について、令和6年4月19日に特許異議申立人東レ株式会社(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和6年11月1日付けで取消理由が通知され、令和6年12月24日に特許権者から意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされ、令和7年5月7日に、本件訂正請求について申立人から意見書が提出されたものである。
本件訂正請求は、「特許第7373005号の明細書、特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求める。」ものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次の訂正事項からなるものである。なお、下線は、当審において訂正箇所に付したものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「であることを特徴とする食品用の濾過布、フィルター、ストレーナ、またはスクリーン用生分解性繊維製品。」と記載されているのを、「であ
り、前記熱処理前および前記熱処理後の前記生機における、下記式(1)によって算出した開口部対角線寸法の変動係数の変化比率CV(b/a)は、2.0以下であ
ることを特徴とする食品用の濾過布、フィルター、ストレーナ、またはスクリーン用生分解性繊維製品。
CV(b/a)=CVb/CVa (1)
(式中、CV(b/a)は熱処理前後の変動係数の変化比率を示し、CVaは熱処理前の生機の対角線寸法の変動係数を示し、CVbは熱処理後の生機の対角線寸法の変動係数を示す。)
」に訂正する。(請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2、3も同様に訂正する)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(3)訂正事項3
明細書の【0048】に「カネボウエンジニアリング社製熱収縮応力測定装置KE-2LS型を用い、初期応力0.01cN/dtex、昇温速度1.1°C/秒で生機の熱収縮応力を測定した。」と記載されているのを、「カネボウエンジニアリング社製熱収縮応力測定装置KE-2LS型を用い、初期応力0.01cN/dtex、昇温速度1.1°C/秒で生機の
うちの長繊維フィラメントの
熱収縮応力を測定した。」に訂正する。
(4)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2~4は、直接的又は間接的に請求項1を引用するものであるから、訂正後の請求項〔1~4〕は、一群の請求項である。
また、明細書に係る訂正は、一群の請求項〔1~4〕について請求されたものである。
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1の生分解性繊維製品に用いられる生機について、熱処理前および熱処理後の開口部対角線寸法の変動係数の変化比率の範囲を特定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1は、本件訂正前の請求項4の記載、本件明細書の【0043】及び【0053】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3について
ア 訂正事項3は、本件明細書の【0048】の記載について、「カネボウエンジニアリング社製熱収縮応力測定装置KE-2LS型」により熱収縮応力を測定する対象を、「生機」から「生機のうちの長繊維フィラメント」に訂正するものであるところ、「カネボウエンジニアリング社製熱収縮応力測定装置KE-2LS型」は、申立人が提出した甲第9号証(カネボウエンジニアリング社製熱収縮応力測定装置KE-2LS型のカタログ)に記載されるように、「フィラメント糸」を測定する仕様であり、織物である「生機」を測定するものではないから、熱収縮応力を測定する対象を「生機」とする記載は誤記にあたるものである。
そうすると、訂正事項3は、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものに該当する。
イ 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)の【0025】には「長繊維フィラメントの熱収縮応力測定における最大熱収縮発現温度TSmaxは80°C以上100°C以下であり、最大熱収縮発現温度での応力値(最大熱収縮応力値)σmaxは0.05cN/dtex以上0.20cN/dtex以下である。」と、熱収縮応力測定が「長繊維フィラメント」を対象とする旨記載されており、さらに、実施例と比較例の結果をまとめた【表1】に、熱収縮応力測定で得られる最大熱収縮発現温度TSmaxと最大熱収縮応力値σmaxが、「原糸特性値」である旨記載されていることからみて、測定の対象は「生機」ではなく「長繊維フィラメント」であることは明らかであるから、この訂正は当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものである。
ウ また、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
エ 申立人は、意見書(3ページ11~17行)において、「訂正事項3における訂正では、「
生機のうちの長繊維フィラメント
の熱収縮応力を測定した。」とありますから、これは生機(織物)を現に構成している繊維(糸)を抜き出して(所謂、「分解糸」もしくは「抜き出し糸」)測定した物性値を意味します。すると、訂正前においては原糸の最大熱収縮発現温度及び最大熱収縮応力値であったのを、生機(織物)の分解糸の最大熱収縮発現温度及び最大熱収縮応力値に訂正するものですから、特許請求の範囲が変更されていることになります。」と主張する。
しかしながら、訂正事項3の「生機のうちの長繊維フィラメントの熱収縮応力を測定した。」との記載は、生機が「長繊維フィラメントを経糸および緯糸の少なくとも一方に配する」(請求項1)ものであり、長繊維フィラメント以外の糸も用い得るところ、それらのうちの「長繊維フィラメント」について測定することを記載するものであり、本件明細書の記載全体からみて生機(織物)の分解糸を意味するとは解されない。そうすると、当該訂正事項3は、特許請求の範囲に記載されている「長繊維フィラメント」について、「分解糸」もしくは「抜き出し糸」であることを特定するものではなく、申立人の上記主張は採用できない。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正後の請求項〔1~4〕について訂正を認める。
上記のとおり、本件訂正請求は認められるから、本件特許の請求項1~3に係る発明(以下「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】
単糸繊度が15dtex以上50dtex以下、構成単糸本数が1本以上5本以下、総繊度が15dtex以上150dtex以下の長繊維フィラメントを経糸および緯糸の少なくとも一方に配する織物である生機を熱処理して構成される生分解性繊維製品であって、
前記長繊維フィラメントは、ポリ乳酸重合体によって構成されており、熱収縮応力測定における最大熱収縮発現温度TSmaxが80°C以上100°C以下であり、最大熱収縮発現温度での最大熱収縮応力値σmaxが0.05cN/dtex以上0.20cN/dtex以下であり、
前記熱処理前および前記熱処理後の前記生機における、下記式(1)によって算出した開口部対角線寸法の変動係数の変化比率CV(b/a)は、2.0以下であることを特徴とする食品用の濾過布、フィルター、ストレーナ、またはスクリーン用生分解性繊維製品。
CV(b/a)=CVb/CVa (1)
(式中、CV(b/a)は熱処理前後の変動係数の変化比率を示し、CVaは熱処理前の生機の対角線寸法の変動係数を示し、CVbは熱処理後の生機の対角線寸法の変動係数を示す。)
【請求項2】
前記長繊維フィラメントは、融点Tmにおける結晶融解熱量ΔHmが50J/g以上70J/g以下である請求項1に記載の生分解性繊維製品。
【請求項3】
前記生機は、織組織が平織または綾織であり、目開き寸法が0.100mm以上0.250mm以下であり、開口率が45%以上75%以下である請求項1または2に記載の生分解性繊維製品。」
(1)取消理由1(引用文献1を主引例とする進歩性)
本件特許の請求項1~3に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)取消理由2(引用文献2を主引例とする進歩性)
本件特許の請求項1~3に係る発明は、引用文献2に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)取消理由3(実施可能要件)
本件特許の請求項1~4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
本件明細書の【0048】のカネボウエンジニアリング社製熱収縮応力測定装置KE-2LS型を用いた熱収縮応力測定の説明が、引用文献6(カネボウエンジニアリング社製熱収縮応力測定装置KE-2LS型のカタログ)の「*仕様」欄の記載と、測定対象(生機か長繊維フィラメントか)及び昇温速度の点で異なるため、発明の詳細な説明は当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
(4)引用文献一覧
引用文献1:国際公開2019/208352号(申立人が提出した甲第1号証)
引用文献2:特開2007-321266号(申立人が提出した甲第2号証)
引用文献3:実験成績証明書(申立人が提出した甲第3号証)
引用文献4:特開2019-183287号公報(申立人が提出した甲第4号証)
引用文献5:特開2009-263826号公報(申立人が提出した甲第6号証)
引用文献6:カネボウエンジニアリング社製熱収縮応力測定装置KE-2LS型のカタログ(申立人が提出した甲第9号証)
当審合議体は以下のとおり、上記取消理由で通知した取消理由1~3によっては、本件発明1~3に係る特許は取り消されるべきものではないと判断する。
(1)取消理由1(引用文献1を主引用例とする進歩性)について
ア 引用文献1に記載された発明
引用文献1([0026]、[0027]、[0053]、図2)には、特に実施例1に着目すると、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「以下の製造工程Aにより製造された生分解性のポリ乳酸系モノフィラメント。
製造工程A:
加熱手段によりポリ乳酸系ポリマーを加熱し、溶融させる紡糸ブロック4と、紡糸ブロック4に装着され、ポリ乳酸系ポリマーを吐出して糸条1を形成する紡糸口金5と、紡糸口金5の下流側に設け、糸条1を均一に冷却する冷却装置と、冷却した糸条1に油剤を付与する給油装置6と、油剤を付与された糸条1を延伸する第1ゴデーロール7、8及び第2ゴデーロール9、10と、延伸された糸条1をトラバースさせるマイクロカムトラバース方式のトラバース装置11と、トラバースされた糸条1を巻き取り、パッケージ3を形成する巻取装置15とを備えた紡糸装置を用い、
重量平均分子量20万のポリ乳酸ポリマーPを230°Cで溶融し、溶融紡糸用パックに供して紡糸口金5吐出孔から吐出させた糸条を冷却する工程と、オイリングローラー方式の給油装置6にて鉱物油で希釈したストレート紡糸油剤を付与(付着量は0.8重量%)する工程と、100°Cに加熱した第1ゴデーロール7、8と115°Cに加熱した第2ゴデーロール9、10で引き回し、4.0倍に延伸、熱処理する工程と、マイクロカムトラバース方式のトラバース装置11にて綾角5.6°、トラバース揺動幅3%、トラバース揺動周期4秒でトラバースさせながら、面圧85N/m、RB駆動OF率0.1%、設定巻取速度(V)3000m/min、スピンドル減速速度25m/secの製造条件にて巻幅70mm、巻厚40mm、巻量1.0kg、25dtexのポリ乳酸モノフィラメントのドラム状パッケージを得る工程。」
イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「ポリ乳酸系モノフィラメント」は、「重量平均分子量20万のポリ乳酸ポリマーP」から製造されているところ、当該「ポリ乳酸ポリマーP」は、ポリ乳酸重合体であることが明らかである。また、当該「ポリ乳酸系モノフィラメント」は、「糸条1を延伸」して製造されているから、長繊維であるといえる。そうすると、当該「ポリ乳酸系モノフィラメント」は、本件発明1の「ポリ乳酸重合体によって構成され」た「長繊維フィラメント」に相当する。
引用発明1の「25dtexのポリ乳酸系モノフィラメント」は、本件発明1の「単糸繊度が15dtex以上50dtex以下、構成単糸本数が1本以上5本以下、総繊度が15dtex以上150dtex以下の長繊維フィラメント」と、「単糸繊度が15dtex以上50dtex以下の長繊維フィラメント」という限りで一致する。
以上のことから、本件発明1と引用発明1の一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点1]
「単糸繊度が15dtex以上50dtex以下の長繊維フィラメントであって、
前記長繊維フィラメントは、ポリ乳酸重合体によって構成されている長繊維フィラメント。」
[相違点1-1]
長繊維フィラメントに関して、本件発明1は「熱収縮応力測定における最大熱収縮発現温度TSmaxが80°C以上100°C以下であり、最大熱収縮発現温度での最大熱収縮応力値σmaxが0.05cN/dtex以上0.20cN/dtex以下である」のに対して、引用発明1はそのような特定がない点。
[相違点1-2]
本件発明1は「単糸繊度が15dtex以上50dtex以下、構成単糸本数が1本以上5本以下、総繊度が15dtex以上150dtex以下の長繊維フィラメントを経糸および緯糸の少なくとも一方に配する織物である生機を熱処理して構成される生分解性繊維製品」であるに対して、引用発明1は生分解性のポリ乳酸系フィラメントであり、当該ポリ乳酸系フィラメントを織物にすることや当該織物からなる生機を熱処理して構成される生分解性繊維製品にすることが特定されていない点。
[相違点1-3]
本件発明1は「食品用の濾過布、フィルター、ストレーナ、またはスクリーン用生分解性繊維製品」であるに対して、引用発明1はそのような特定がない点。
[相違点1-4]
本件発明1は「前記熱処理前および前記熱処理後の前記生機における、下記式(1)によって算出した開口部対角線寸法の変動係数の変化比率CV(b/a)は、2.0以下であることを特徴とする食品用の濾過布、フィルター、ストレーナ、またはスクリーン用生分解性繊維製品。
CV(b/a)=CVb/CVa (1)
(式中、CV(b/a)は熱処理前後の変動係数の変化比率を示し、CVaは熱処理前の生機の対角線寸法の変動係数を示し、CVbは熱処理後の生機の対角線寸法の変動係数を示す。)」のに対し、引用発明1はそのような特定がない点。
(イ)判断
事案に鑑み、上記相違点1-4について検討する。
引用発明1は、「高速解舒性が良好なポリ乳酸系モノフィラメントパッケージ」(引用文献1の[0004])を提供することを発明の課題とするもので、引用文献1に熱処理前および熱処理後の生機における開口部の対角線寸法の変動に関する記載ないし示唆はなく、また、申立人が提出した他の証拠にも記載も示唆もされていない。
さらに、引用発明1において、生機における開口部の対角線寸法の変動に着目し、これを調整することで本件発明1の相違点1-4に係る構成を採用しようとする動機付けもない。
よって、本件発明1の相違点1-4に係る構成は、引用発明1に基いて当業者が容易に想到し得たものではない。
(ウ)小括
以上より、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるところ、上記イで述べたように、本件発明1は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2、3も、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)取消理由2(引用文献2を主引用例とする進歩性)について
ア 引用文献2に記載された発明
引用文献2(【請求項1】、【0047】~【0055】)には、特に実施例1及び比較例1に着目すると、以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「以下の製造工程Bにより製造された生分解性の30dtexのポリ乳酸系モノフィラメント。
製造工程B:
光学純度99.5%のL-乳酸から製造したラクチドを、ビス(2-エチルヘキサノエート)スズ触媒(ラクチド対触媒モル比=10,000:1)、GE社製“Ultranox626”(ラクチド対“Ultranox626”重量比=99.8:0.2)を存在させてチッソ雰囲気下180°Cで350分間重合を行い、重量平均分子量200,000のポリ乳酸ポリマP1を得る工程と、
ポリ乳酸ポリマP1を、エクストルーダー型紡糸機を用いて220°Cで溶融紡糸し、溶融ポリマは、紡糸パック中で20μの金属不織布フィルターで濾過した後、孔径0.52φ、孔長1.25mmで10ホールの口金から紡出し、口金面より3cm下には15cmの加熱筒および15cmの断熱筒を取り付け、筒内雰囲気温度が250°Cとなるように加熱する工程(ここで筒内雰囲気温度とは、加熱筒長の中央部で、内壁から1cm離れた部分の空気層温度である。)と、
加熱筒の直下には環状吹きだし型チムニーを取り付け、糸条に30°Cの冷風を30m/分の速度で吹き付け冷却固化した後、糸条に油剤を付与する工程(油剤は、イソC24アルコール/チオジプロピオン酸エステル(40重量%)、C11~15アルコールAOA/チオジプロピオン酸エステル(30重量%)、トリメチローラプロパンAOAジステアレート(10重量%)、C8アルコールAOA(10重量%)硬化ヒマシ油(7重量%)、ステアリルアミンEO15(3重量%)を鉱物油で20%に希釈した非水系油剤を用いる。)と、
油剤を付与された未延伸糸条は、2個のローラを一対とするネルソン型ローラ(表面速度800m/分:表面温度50°C:捲数5回)に捲回して引き取り、引き取り糸条は一旦巻き取ることなく、次のネルソン型ローラ(表面速度820m/分:表面温度100°C:捲数5回)に捲回して糸条を引き揃える工程と、
引き揃えられた糸条は、引き続いて順次設置された3組のネルソンローラ間で2段熱延伸-弛緩処理を実施する工程(各ローラの表面速度および表面温度および捲数はそれぞれ表面速度2700m/分:表面温度110°C:捲数5回、表面速度3200m/分:表面温度130°C:捲数8回、表面速度3150m/分:表面温度100°C:捲数4回である。)と、
弛緩処理後の糸条は、巻き取り機にてチーズ条パッケージに巻き取り、総繊度300dtex、単糸数10、強度3.5cN/dtexのポリ乳酸マルチフィラメントを得る工程と、
前記ポリ乳酸マルチフィラメントをカンダ技研製ストレート分繊機で分繊して得られたポリ乳酸モノフィラメントを紙管にパーン状に巻き取り、この時ポリ乳酸マルチフィラメントを巻き取る直前の張力は0.7cN/dtexにし、得られたポリ乳酸モノフィラメントは分繊から12時間経過後にリワインド装置で張力0.1cN/dtex又は0.7cN/dtexでリワインドして紙管にパーン状に巻き取り、ポリ乳酸モノフィラメント糸条パッケージを得る工程。」
イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明2とを対比する。
引用発明2の「ポリ乳酸系モノフィラメント」は、「重量平均分子量200,000のポリ乳酸ポリマP1」から製造されているところ、当該「ポリ乳酸ポリマP1」は、ポリ乳酸重合体であることが明らかである。また、当該「ポリ乳酸系モノフィラメント」は、糸条を延伸して製造されている点を踏まえると長繊維であるといえる。そうすると、当該「ポリ乳酸系モノフィラメント」は、本件発明1の「ポリ乳酸重合体によって構成され」た「長繊維フィラメント」に相当する。
引用発明2の「30dtexのポリ乳酸系モノフィラメント」は、本件発明1の「単糸繊度が15dtex以上50dtex以下、構成単糸本数が1本以上5本以下、総繊度が15dtex以上150dtex以下の長繊維フィラメント」と、「単糸繊度が15dtex以上50dtex以下の長繊維フィラメント」という限りで一致する。
以上のことから、本件発明1と引用発明2との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点2]
「単糸繊度が15dtex以上50dtex以下の長繊維フィラメントであって、
前記長繊維フィラメントは、ポリ乳酸重合体によって構成されている長繊維フィラメント。」
[相違点2-1]
長繊維フィラメントに関して、本件発明1は「熱収縮応力測定における最大熱収縮発現温度TSmaxが80°C以上100°C以下であり、最大熱収縮発現温度での最大熱収縮応力値σmaxが0.05cN/dtex以上0.20cN/dtex以下である」のに対して、引用発明2はそのような特定がない点。
[相違点2-2]
本件発明1は「単糸繊度が15dtex以上50dtex以下、構成単糸本数が1本以上5本以下、総繊度が15dtex以上150dtex以下の長繊維フィラメントを経糸および緯糸の少なくとも一方に配する織物である生機を熱処理して構成される生分解性繊維製品」に対して、引用発明2は生分解性のポリ乳酸系フィラメントであり、当該ポリ乳酸系フィラメントを織物にすることや当該織物からなる生機を熱処理して構成される生分解性繊維製品にすることが特定されていない点。
[相違点2-3]
本件発明1は「食品用の濾過布、フィルター、ストレーナ、またはスクリーン用生分解性繊維製品」であるに対して、引用発明2はそのような特定がない点。
[相違点2-4]
本件発明1は「前記熱処理前および前記熱処理後の前記生機における、下記式(1)によって算出した開口部対角線寸法の変動係数の変化比率CV(b/a)は、2.0以下であることを特徴とする食品用の濾過布、フィルター、ストレーナ、またはスクリーン用生分解性繊維製品。
CV(b/a)=CVb/CVa (1)
(式中、CV(b/a)は熱処理前後の変動係数の変化比率を示し、CVaは熱処理前の生機の対角線寸法の変動係数を示し、CVbは熱処理後の生機の対角線寸法の変動係数を示す。)」のに対し、引用発明2はそのような特定がない点。
(イ)判断
事案に鑑み、上記相違点2-4について検討する。
引用発明2は、「糸条パッケージのまま保管した場合にも経時での物性低下の極めて小さなポリ乳酸モノフィラメントの糸条パッケージ」(引用文献2の【0008】)を提供することを発明の課題とするもので、引用文献2に熱処理前および熱処理後の生機における開口部の対角線寸法の変動に関する記載ないし示唆はなく、また、申立人が提出した他の証拠にも記載も示唆もされていない。
さらに、引用発明2において、生機における開口部の対角線寸法の変動に着目し、これを調整することで本件発明1の相違点2-4に係る構成を採用しようとする動機付けはない。
よって、本件発明1の相違点2-4に係る構成は、引用発明2に基いて当業者が容易に想到し得たものではない。
(ウ)小括
以上より、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるところ、上記イで述べたように、本件発明1は、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2、3も、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
取消理由3のうち、測定対象については、本件訂正により、カネボウエンジニアリング社製熱収縮応力測定装置KE-2LS型を用いて行う熱収縮応力測定の対象が、長繊維フィラメントであることが明確になり、引用文献6の記載と整合するものとなった。
また、昇温速度については、特許権者の意見書(4ページ)に説明されるように、引用文献6(カネボウエンジニアリング社製熱収縮応力測定装置KE-2LS型のカタログ)の「*仕様」欄の昇温速度の記載「300°C/120sec、300°C/180sec、300°C/240sec」は、昇温速度が、300°Cから室温を減算して算出されるものと理解でき、本件明細書の「昇温速度1.1°C/秒」との記載は、引用文献6の記載と矛盾しない。
そうすると、本件明細書の【0018】~【0066】の記載により、本件発明の実施に際して、過度の試行錯誤は要しないものである。
よって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
申立人は、取消理由通知で採用した取消理由のほか、次の申立理由を主張する。
(1)新規性、進歩性に係る申立理由
ア 申立理由1(新規性)
本件特許の請求項1に係る発明は、引用文献1又は引用文献2に記載された発明である。
イ 申立理由2(進歩性)
本件特許の請求項1~3に係る発明は、引用文献4に記載された発明、甲第5号証(特開2006-22444号公報)及び引用文献5に記載された技術的事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)記載不備に係る申立理由
ア 申立理由4(サポート要件)
本件明細書の【0048】の記載からは、生機から長繊維フィラメントを抜き出し、その抜き出したフィラメントについて熱収縮応力測定を行ったとも解釈でき、その場合、請求項1に記載されている事項は発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本件特許の特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たしていない。
イ 申立理由5(明確性要件)
本件特許の請求項1の「最大熱収縮発現温度TSmax」と「最大熱収縮発現温度での最大熱収縮応力値σmax」が、織物にする前の長繊維フィラメントにおけるものなのか、織物である生機を構成している長繊維フィラメントにおけるものなのか定まらず、本件特許の特許請求の範囲の記載は明確性要件を満たしていない。
当審合議体は以下のとおり、上記申立理由によっては、本件発明1~3に係る特許は取り消されるべきものではないと判断する。
(1)申立理由1(新規性)、申立理由2(進歩性)について
上記「第4の2(1)」及び「第4の2(2)」で述べたように、本件特許の請求項1に係る発明の「前記熱処理前および前記熱処理後の前記生機における、下記式(1)によって算出した開口部対角線寸法の変動係数の変化比率CV(b/a)は、2.0以下であることを特徴とする食品用の濾過布、フィルター、ストレーナ、またはスクリーン用生分解性繊維製品。
CV(b/a)=CVb/CVa (1)
(式中、CV(b/a)は熱処理前後の変動係数の変化比率を示し、CVaは熱処理前の生機の対角線寸法の変動係数を示し、CVbは熱処理後の生機の対角線寸法の変動係数を示す。)」との事項は、申立人が提出したいずれの証拠にも記載も示唆もされていないから、上記1(1)ア、イの新規性、進歩性に係る申立理由1、2はいずれも理由がない。
(2)記載不備に係る申立理由について
ア 申立理由4(サポート要件)について
本件特許の請求項1では、「長繊維フィラメント」について、「熱収縮応力測定における最大熱収縮発現温度TSmaxが80°C以上100°C以下であり、最大熱収縮発現温度での最大熱収縮応力値σmaxが0.05cN/dtex以上0.20cN/dtex以下であ」ることが特定されている。
そして、当該事項は、発明の詳細な説明の【0018】~【0028】にその技術的意義も含め記載されており、また、当該事項によって、本件特許の課題解決手段の一部が構成されてていることが理解できる。さらに、この点は、本件特許の実施例と比較例を記載した表(【0066】【表1】、「原糸特性値」の項目を参照)からも整合的に理解できる。
ここで、【0048】の記載は、一見、生機から長繊維フィラメントを抜き出し、その抜き出したフィラメントについて熱収縮応力測定を行うものと読むこともできるが、このような解釈しか生じ得ないものではなく、むしろ、そう解釈することは、他の記載からみて不自然であり、この点に関する請求人の主張は採用し得ない。
してみれば、本件特許の特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載されたものであって、本件特許に係る発明の課題が解決できることを当業者が認識できるものである。
そうすると、請求項1~3に係る特許が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるという申立理由4は理由がない。
イ 申立理由5(明確性要件)について
本件特許の請求項1において、生機を構成する「長繊維フィラメント」が所与の「最大熱収縮発現温度TSmax」と「最大熱収縮発現温度での最大熱収縮応力値σmax」の数値範囲を有することが記載されているところ、その記載は、「長繊維フィラメント」が有する数値範囲として、文理上明確である。また、この点、上記アで述べたとおり、本件明細書の記載を参酌しても明らかであって、【0048】の記載があるとしても、当該判断を左右しない。
してみれば、申立人の当該主張にかかわらず、本件特許の特許請求の範囲の記載は、ある具体的な物や方法が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを当業者が理解できるように記載されているものであり、すなわち、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
そうすると、請求項1~3に係る特許が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるという申立理由4は理由がない。
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項4に係る特許についての特許異議の申立ては、本件訂正により申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する特許法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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