結論テキスト
特許第7447799号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~12〕について訂正することを認める。
特許第7447799号の請求項1、3~7、9~12に係る特許を維持する。
特許第7447799号の請求項2、8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 2024700814 |
|---|---|
| 審判種別 | 記載はありません。 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理 由
特許第7447799号(以下「本件特許」という。)の請求項1~12に係る特許についての出願は、2019年(令和元年)12月4日(優先権主張平成30年12月6日、平成31年3月29日)を国際出願日とする出願であって、令和6年3月4日にその特許権の設定登録がされ、同年3月12日に特許掲載公報が発行されたものである。その後の本件特許に対する特許異議申立てに係る手続の概要は、以下のとおりである。
令和6年8月27日 :特許異議申立人早川いづみ(以下「申立人」という。)による請求項1~12に対する特許異議の申立て
令和7年1月21日付け :取消理由の通知
3月21日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
5月13日 :申立人による意見書の提出
令和7年3月21日に提出された訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線は、訂正箇所を示すものとして当審において付与した。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に記載の「前記式(2)を満たす突起部の、高さ0.2μmの位置における断面の直径が0.4~10μmである、ガスバリア性フィルム。」を、「前記式(2)を満たす突起部の、高さ0.2μmの位置における断面の直径が0.4~10μmであ
り、
前記基材フィルムがアンチブロッキング剤をさらに含み、
前記突起部が、前記アンチブロッキング剤に由来する、
ガスバリア性フィルム。」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項3~5、12も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に記載の「請求項1または2に記載のガスバリア性フィルム。」を、「請求項
1に
記載のガスバリア性フィルム。」に訂正する。
(請求項3の記載を引用する請求項4、5も同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
ア 訂正事項4-1
特許請求の範囲の請求項5に記載の「前記基材フィルムが、ポリオレフィン系樹脂フィルム、ポリエステル系樹脂フィルム、またはポリアミド系樹脂フィルムである、」を、「前記基材フィルムが、ポリオレフィン系樹脂フィル
ムで
ある、」に訂正する。
イ 訂正事項4-2
特許請求の範囲の請求項5に記載の「請求項1~4のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。」を、「請求項
1、3、4
のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に記載の「前記ガスバリア層の厚さt(μm)が、下記式(3)を満たす、ガスバリア性フィルム。」を、「前記ガスバリア層の厚さt(μm)が、下記式(3)を満た
し、
前記基材フィルムがアンチブロッキング剤をさらに含み、
前記突起部が、前記アンチブロッキング剤に由来する、
ガスバリア性フィルム。」に訂正する。
(請求項6の記載を引用する請求項7、9~12も同様に訂正する。)
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8を削除する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9に記載の「請求項6~8のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。」を、「請求項
6または7
に記載のガスバリア性フィルム。」に訂正する。
(請求項9の記載を引用する請求項10、11も同様に訂正する。
(8)訂正事項8
ア 訂正事項8-1
特許請求の範囲の請求項11に記載の「前記基材フィルムが、ポリオレフィン系樹脂フィルム、ポリエステル系樹脂フィルム、またはポリアミド系樹脂フィルムである、」を、「前記基材フィルムが、ポリオレフィン系樹脂フィル
ムで
ある、」に訂正する。
イ 訂正事項8-2
特許請求の範囲の請求項11に記載の「請求項6~10のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。」を、「請求項
6、7、9、10
のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。」に訂正する。
(9)訂正事項9
明細書の【0009】に記載の「式(2)を満たす突起部の、高さ0.2μmの位置における断面の直径が0.4~10μmである。」を、「式(2)を満たす突起部の、高さ0.2μmの位置における断面の直径が0.4~10μmであ
り、前記基材フィルムがアンチブロッキング剤をさらに含み、前記突起部が、前記アンチブロッキング剤に由来する。
」に訂正する。
(10)訂正事項10
明細書の【0010】に記載の「高さ0.3μm以上の突起部の平均高さ(μm)をhとしたときに、ガスバリア層の厚さt(μm)は、下記式(3)を満たす。」を、「高さ0.3μm以上の突起部の平均高さ(μm)をhとしたときに、ガスバリア層の厚さt(μm)は、下記式(3)を満た
し、前記基材フィルムがアンチブロッキング剤をさらに含み、前記突起部が、前記アンチブロッキング剤に由来する。
」に訂正する。
(1)特許請求の範囲の訂正について
本件訂正前の請求項2~5、12は、請求項1の記載を引用する請求項であるから、請求項1~5、12は、一群の請求項である。また、請求項7~12は、請求項6の記載を引用する請求項であるから、請求項6~12は、一群の請求項である。その上で、請求項12において、請求項1、6の記載を引用しているから、両群は組み合わさり、請求項1~12は一群の請求項を形成している。そして、本件訂正は、一群の請求項〔1~12〕について請求されたものである。
(2)明細書の訂正について
明細書の【0009】、【0010】は、それぞれ訂正前の請求項1、6に対応する記載がされているところ、請求項〔1~12〕は一群の請求項であるから、訂正事項9、10に係る訂正は、一群の請求項すべてについて行うものである。
(1)訂正事項1、5について
これらの訂正事項は、いずれも「基材フィルム」がアンチブロッキング剤含むこと、及び「突起部」が当該アンチブロッキング剤に由来することを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1は願書に添付した特許請求の範囲の請求項2等の記載に、訂正事項5は同請求項8等の記載にそれぞれ基づくものであるから、新規事項の追加ではなく、また、この訂正によって実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでないことは明らかである。
(2)訂正事項2、6について
これらの訂正は、請求項2、8を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加には当たらず、また、この訂正によって実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでないことは明らかである。
(3)訂正事項3、7について
訂正事項3は、請求項2の削除により、請求項3において引用する請求項の記載を請求項1のみとするものであり、また、訂正事項7は、請求項8の削除により、請求項9において引用する請求項の記載を請求項6または7にするものである。そうすると、これらの訂正は、特許請求の範囲の減縮又は明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加には当たらず、また、この訂正によって実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでないことは明らかである。
(4)訂正事項4、8について
ア 訂正事項4-1、8-1について
これらの訂正は、それぞれ請求項5、11において、「基材フィルム」が「ポリオレフィン系樹脂フィルム、ポリエステル系樹脂フィルム、またはポリアミド系樹脂フィルム」と択一的に特定されていたものを、「ポリオレフィン系樹脂フィルム」に特定したものである。そうすると、これらの訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加には当たらず、また、この訂正によって実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでないことは明らかである。
イ 訂正事項4-2、8-2について
訂正事項4-2は、請求項2の削除により、請求項5において引用する請求項の記載を請求項1、3、4のいずれかとするものであり、また、訂正事項8-2は、請求項11において引用する請求項の記載を請求項6、7、9、10のいずれかとするものである。そうすると、これらの訂正は、特許請求の範囲の減縮又は明瞭でない記載の釈明を目的するものであって、新規事項の追加には当たらず、また、この訂正によって実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでないことは明らかである。
(5)訂正事項9、10について
訂正事項9は、訂正事項1に伴い、請求項1の記載と整合させるためのものであり、また、訂正事項10は、訂正事項5に伴い、請求項6の記載と整合させるためのものである。そうすると、これらの訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また、これらの訂正が新規事項の追加に当たらないことは、上記(1)と同様であり、さらに、この訂正によって実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでないことは明らかである。
以上のとおり、訂正事項1~10は、それぞれ、特許法120条の5第2項ただし書第1又は3号に掲げる事項を目的とするものであり、また、いずれも特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
よって、明細書及び特許請求の範囲を本件訂正のとおり、訂正後の請求項〔1~12〕について訂正することを認める。
上記第2のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1、3~7、9~12に係る発明(以下「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、本件訂正により訂正された特許請求の範囲の請求項1、3~7、9~12に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。
「【請求項1】
樹脂を含む基材フィルムと、
酸素バリア性を有し、前記基材フィルムの少なくとも一方の面に接して位置するガスバリア層と、
を備え、
前記ガスバリア層はアルカリ金属ポリシリケートを含有せず、
前記ガスバリア層の表面は、
平面部と、
前記平面部から突出した複数の突起部と、を有し、
前記ガスバリア層の厚さ(μm)をd、前記複数の突起部それぞれの高さ(μm)をfとしたときに、
下記式(1)を満たす突起部の数が0~200個/mm
2
であり、
下記式(2)を満たす突起部の数が20個/mm
2
以上であり、
前記式(2)を満たす突起部の、高さ0.2μmの位置における断面の直径が0.4~10μmであり、
前記基材フィルムがアンチブロッキング剤をさらに含み、
前記突起部が、前記アンチブロッキング剤に由来する、
ガスバリア性フィルム。
d×2≦f (1)
0.2≦f<d×2 (2)」
「【請求項3】
前記ガスバリア層が、水溶性高分子と無機層状鉱物とを含むコーティング剤から形成された皮膜である、
請求項1に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項4】
前記コーティング剤が、酸基を有するポリウレタン樹脂とポリアミン化合物とを含む水性ポリウレタン樹脂をさらに含む、
請求項3に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項5】 前記基材フィルムが、ポリオレフィン系樹脂フィルムである、
請求項1、3、4のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項6】
樹脂を含む基材フィルムと、
前記基材フィルムの少なくとも一方の表面に接して位置する、ウェットコート法により設けられた酸素バリア性皮膜であるガスバリア層と、
を備え、
前記ガスバリア層はアルカリ金属ポリシリケートを含有せず、
前記基材フィルムの前記ガスバリア層と接する表面は、平面部と、前記平面部から突出した複数の突起部とを備え、
前記基材フィルムの前記ガスバリア層と接する表面の無作為に選択された0.66mm
2
以上の領域について、前記複数の突起部それぞれの高さを3D測定レーザー顕微鏡測定により計測し、高さ0.3μm以上の突起部の平均高さ(μm)をhとしたときに、前記ガスバリア層の厚さt(μm)が、下記式(3)を満たし、
前記基材フィルムがアンチブロッキング剤をさらに含み、
前記突起部が、前記アンチブロッキング剤に由来する、
ガスバリア性フィルム。
0.25×h+0.15≦t≦0.8×h (3)
【請求項7】
前記基材フィルムの前記ガスバリア層と接する表面において、高さが前記ガスバリア層の5倍以上ある突起部の数が10個/mm
2
以下である、請求項6に記載のガスバリア性フィルム。」
「【請求項9】
前記ガスバリア層が、水溶性高分子と無機層状鉱物とを含むコーティング剤から形成された皮膜である、
請求項6または7に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項10】
前記コーティング剤が、酸基を有するポリウレタン樹脂とポリアミン化合物とを含む水性ポリウレタン樹脂をさらに含む、
請求項9に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項11】
前記基材フィルムが、ポリオレフィン系樹脂フィルムである、
請求項6、7、9、10のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項12】
前記ガスバリア層が水性ポリウレタン樹脂を含む、
請求項1または6に記載のガスバリア性フィルム。」
当審が通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
<刊行物>
特開2015-208924号公報(以下「甲1」という。)
(1)甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥食品・菓子・パン・珍味などの湿気や酸素を嫌う食品、および、使い捨てカイロ、錠剤・粉末薬または湿布・貼付剤などの医薬品の包装分野に用いられるガスバリア性フィルムおよびガスバリア性積層体に関する。」
・「【0056】
[実施例]
〔水系コーティング剤(C)〕
水溶性高分子(A)(以下、「成分(A)と」記すことがある。)として、ポリビニルアルコール樹脂であるクラレ社製のポバールPVA-105(鹸化度98~99%、重合度500)、および、カルボキシルメチルセルロース(CMC)を用いた。
無機層状鉱物(B)(以下、「成分(B)」と記すことがある。)として、水膨潤性合成雲母(コープケミカル社製のソマシフMEB-3)、または、モンモリロナイト(クニミネ工業社製のクニピア-F)を用いた。
水性ポリウレタン樹脂(以下、「成分(E)と記すことがある。」)として、三井化学社製のポリウレタンディスパージョン「タケラックWPB-341」を用いた。
成分(A)、成分(B)および成分(E)を、表1に示す固形分配合比率で配合して、80°Cにて加熱、混合した後、室温まで冷却して、溶媒中の10質量%がイソプロパノールであり、表1に示す固形分濃度となるように、イオン交換水とイソプロパノールで希釈し、塗液を調製した。
硬化剤を配合しない塗液は、そのまま塗工した。
硬化剤を配合する塗液は、塗工直前に表1に記載の硬化剤(三井化学社製の水分散性ポリソシアネート タケネートWD-725)を添加して、実施例1~6の水系コーティング剤(C)を調製した。」
・「【0060】
[比較例]
成分(A)、成分(B)および成分(E)を、表2に示す固形分配合比率で配合して
、80°Cにて加熱、混合した後、室温まで冷却して、溶媒中の10質量%がイソプロパノールであり、表2に示す固形分濃度となるように、イオン交換水とイソプロパノールで希釈し、塗液を調製した。
硬化剤を配合しない塗液は、そのまま塗工した。
硬化剤を配合する塗液は、塗工直前に表2に示す硬化剤(三井化学社製の水分散性ポリソシアネート タケネートWD-725)を添加して、
比較例1~8の水系コーティング剤(C)を調製した。
【0061】
〔比較例1~6〕
グラビア印刷機を用いて、樹脂フィルム基材である、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:P-60、厚さ12μm、東レ社製)のコロナ処理面に、比較例1~4の水系コーティング剤(C)を塗工するか、または、二軸延伸ポリプロピレンフィルム(商品名:U-1、厚さ20μm、三井化学東セロ社製)のコロナ処理面に、比較例5~6の水系コーティング剤(C)を塗工し、比較例1~6の水系コーティング剤(C)からなる皮膜を膜厚が0.5μmとなるよう形成し、比較例1~6のガスバリア性フィルムを得た。
なお、水系コーティング剤(C)からなる皮膜の膜厚を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって確認した。」
・「【0068】
【表2】
76
153
0001432039000001.jpg
」
(2)甲1に記載の発明
上記1(1)の記載からみて、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる(ただし、カッコ内は、特に参照すべき箇所を参考として付したものである。)。
「グラビア印刷機を用いて、樹脂フィルム基材である、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:P-60、厚さ12μm、東レ社製)のコロナ処理面に水系コーティング剤(C)を塗工し、皮膜を膜厚が0.5μmとなるように形成したガスバリア性フィルムであって(【0061】)、
水系コーティング剤(C)は、水溶性高分子(A)として、ポリビニルアルコール樹脂であるクラレ社製のポバールPVA-105(鹸化度98~99%、重合度500)、および、カルボキシルメチルセルロース(CMC)を用い、無機層状鉱物(B)として、水膨潤性合成雲母(コープケミカル社製のソマシフMEB-3)を用い、水性ポリウレタン樹脂(E)として、三井化学社製のポリウレタンディスパージョン「タケラックWPB-341」を用いた(【0056】、【0060】)、ガスバリア性フィルム。」
2.本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
ア 甲1発明の「樹脂フィルム基材である、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:P-60、厚さ12μm、東レ社製)」は、本件発明1の「樹脂を含む基材フィルム」に相当する。
イ 甲1発明の、樹脂フィルム基材のコロナ処理面に塗布した、「水系コーティング剤(C)」による「皮膜」は、本件発明1の「酸素バリア性を有し、前記基材フィルムの少なくとも一方の面に接して位置するガスバリア層」に相当する。
ウ 甲1発明の「水系コーティング剤(C)」は、「水溶性高分子(A)として、ポリビニルアルコール樹脂であるクラレ社製のポバールPVA-105(鹸化度98~99%、重合度500)、および、カルボキシルメチルセルロース(CMC)を用い、無機層状鉱物(B)として、水膨潤性合成雲母(コープケミカル社製のソマシフMEB-3)を用い、水性ポリウレタン樹脂(E)として、三井化学社製のポリウレタンディスパージョン「タケラックWPB-341」を用いた」ものであるところ、これらはアルカリ金属ポリシリケートではないから、「水系コーティング剤(C)」による「皮膜」は、本件発明1の「ガスバリア層はアルカリ金属ポリシリケートを含有せず」という条件を充足する。
エ 甲1発明の「ガスバリア性フィルム」は、本件発明1の「ガスバリア性フィルム」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「樹脂を含む基材フィルムと、酸素バリア性を有し、前記基材フィルムの少なくとも一方の面に接して位置するガスバリア層と、を備え、前記ガスバリア層はアルカリ金属ポリシリケートを含有しない、ガスバリア性フィルム。」
一方、両発明は、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1では、「ガスバリア層の表面は、平面部と、前記平面部から突出した複数の突起部と、を有し、前記ガスバリア層の厚さ(μm)をd、前記複数の突起部それぞれの高さ(μm)をfとしたときに、
下記式(1)を満たす突起部の数が0~200個/mm
2
であり、
下記式(2)を満たす突起部の数が20個/mm
2
以上であり、
前記式(2)を満たす突起部の、高さ0.2μmの位置における断面の直径が0.4~10μmであり、
前記基材フィルムがアンチブロッキング剤をさらに含み、
前記突起部が、前記アンチブロッキング剤に由来する、
ガスバリア性フィルム。
d×2≦f (1)
0.2≦f<d×2 (2)」とされているのに対し、甲1発明の「樹脂フィルム基材」は、そもそもアンチブロッキング剤を含んでいるか不明であり、結果、所与の条件を満たす突起部の個数や直径も不明である点。
(2)判断
上記相違点1は、実質的なものである。その上で、甲1において、基材にアンチブロッキング剤を含めることについては、記載も示唆もされていない。また、仮に基材にアンチブロッキング剤を含めることが技術常識であったとしても、上記相違点1に係る所与の条件を満たすような突起部の個数、高さ等を満たすように配合することは、当業者にとって容易ではなく、また、その動機づけもない。
ここで、本件の発明の詳細な説明に記載されている実施例では、「基材3」として「アンチブロッキング剤を含む二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:P60、厚さ12μm、東レ社製、片面がコロナ処理面)」(【0126】)を用いると共に、「水性ポリウレタン樹脂の水性分散体(A)と水溶性高分子(B)と無機層状鉱物(C)とを、固形分比率(A):(B):(C)が20:70:10となるように配合し」、「乾燥後の膜厚が0.5μmになるよう塗布」することが記載されている。
しかし、甲1発明の基材が本件発明1の実施例における「基材3」と同一の材料であったとしても、そこにアンチブロッキング剤を含んでいるかは不明であるというほかなく、さらに、甲1発明における「水系コーティング剤(C)」の膜厚が本件発明1と同じ0.5μmであったとしても、「水溶性高分子(A)」、「無機層状鉱物(B)」、「水性ポリウレタン樹脂(E)」の配合量は等量であり(上記1(1)、【0068】【表2】、実施例5参照)、本件発明の実施例における配合量とは異なっている。
そうすると、甲1発明において、本件発明の実施例に類似する点があるとしても、当該相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有している蓋然性は高くないし、これを得ることが容易想到ではないことは、上述のとおりである。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は甲1発明ではないし、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
本件発明3~5と甲1発明とを対比すると、これらの発明は、少なくとも上記2(1)で記載した相違点1において相違する。そうすると、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明3~5は甲1発明ではないし、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(1)対比
本件発明6と甲1発明を対比する。
ア 甲1発明の「樹脂フィルム基材である、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:P-60、厚さ12μm、東レ社製)」は、本件発明6の「樹脂を含む基材フィルム」に相当する。
イ 甲1発明の、樹脂フィルム基材のコロナ処理面に塗布した、「水系コーティング剤(C)」による「皮膜」は、本件発明6の「前記基材フィルムの少なくとも一方の表面に接して位置する、ウェットコート法により設けられた酸素バリア性皮膜であるガスバリア層」との関係において、「前記基材フィルムの少なくとも一方の表面に接して位置する、酸素バリア性皮膜であるガスバリア層」に限り相当する。
ウ 甲1発明の「水系コーティング剤(C)」は、「水溶性高分子(A)として、ポリビニルアルコール樹脂であるクラレ社製のポバールPVA-105(鹸化度98~99%、重合度500)、および、カルボキシルメチルセルロース(CMC)を用い、無機層状鉱物(B)として、水膨潤性合成雲母(コープケミカル社製のソマシフMEB-3)を用い、水性ポリウレタン樹脂として、三井化学社製のポリウレタンディスパージョン「タケラックWPB-341」を用いた」ものであるところ、これらはアルカリ金属ポリシリケートではないから、「水系コーティング剤(C)」による「皮膜」は、本件発明6の「ガスバリア層はアルカリ金属ポリシリケートを含有せず」という条件を充足する。
エ 甲1発明の「ガスバリア性フィルム」は、本件発明6の「ガスバリア性フィルム」に相当する。
そうすると、本件発明6と甲1発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「樹脂を含む基材フィルムと、前記基材フィルムの少なくとも一方の表面に接して位置する、酸素バリア性皮膜であるガスバリア層と、を備え、前記ガスバリア層はアルカリ金属ポリシリケートを含有しない、ガスバリア性フィルム。」
一方、これらの発明は、以下の点で相違する。
<相違点6-1>
「ガスバリア層」の形成に関し、本件発明6では、「ウェットコート法」により設けているのに対して、甲1発明では、ウェットコート法によるものか不明である点。
<相違点6-2>
本件発明6では、「前記基材フィルムの前記ガスバリア層と接する表面は、平面部と、前記平面部から突出した複数の突起部とを備え、
前記基材フィルムの前記ガスバリア層と接する表面の無作為に選択された0.66mm
2
以上の領域について、前記複数の突起部それぞれの高さを3D測定レーザー顕微鏡測定により計測し、高さ0.3μm以上の突起部の平均高さ(μm)をhとしたときに、前記ガスバリア層の厚さt(μm)が、下記式(3)を満たし、
前記基材フィルムがアンチブロッキング剤をさらに含み、
前記突起部が、前記アンチブロッキング剤に由来する、
ガスバリア性フィルム。
0.25×h+0.15≦t≦0.8×h (3)」とされているのに対して、甲1発明の「樹脂フィルム基材」は、そもそもアンチブロッキング剤を含んでいるか不明であり、結果、所与の条件を満たす突起部の個数や直径も不明である点。
(2)判断
事案に鑑み、上記相違点6-2から検討するに、その判断は、上記2(2)で記載した相違点1と同じである。してみれば、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明6は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件発明7、9~11と甲1発明とを対比すると、これらの発明は、少なくとも上記4(1)で記載した相違点6-2において相違する。そうすると、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明7、9~11は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
本件発明12と甲1発明とを対比すると、少なくとも上記2(1)記載した相違点1、又は4(1)で記載した相違点6-2において相違する。そうすると、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明12は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
申立人は、令和7年5月13日の意見書で、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(商品名P60、ないしP-60)について、商品名が同じであれば同じものであることは常識であること、また、本件の明細書【0007】に記載のとおり、アンチブロッキング剤を基材に添加することは一般的であることを、特許権者も認識していた旨主張する。
しかし、双方同じ商品であり、また、アンチブロッキング剤を基材に添加することが一般的であったとしても、本件発明1、6における所与の条件を満たすような突起部の個数、高さ等を満たすように配合することは、当業者にとって容易ではなく、また、その動機づけもないことは、上記2(2)のとおりである。
よって、申立人の主張は採用できない。
申立人は、特許異議申立書において、概略以下の申立理由を主張する。
(1)申立理由1(新規性)
請求項6~12に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(実施可能要件)
発明の詳細な説明の記載が以下の点で不備のため、請求項1~12に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
ア 本件の発明の詳細な説明には、請求項1の構成要素を満足するガスバリア層の表面をいかに形成するのか不明であり、実施可能要件を満たしていない。請求項1を引用する請求項2~5、12も同様である。
イ 本件の発明の詳細な説明には、請求項6の構成要素を満足する基材フィルムのガスバリア層と接する表面をいかに形成するのか不明であり、実施可能要件を満たしていない。請求項6を引用する請求項7~12も同様である。
(3)申立理由3(サポート要件)
請求項1~12に係る特許は、以下の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
ア 本件の発明の詳細な説明には、水性ポリウレタン樹脂を含むガスバリア層しか記載されておらず、これを含まない場合を含む請求項1~3、5~9、11、12は、サポート要件を満たしていない。
イ 請求項1のパラメータの数値範囲に比べ、実施例で効果が示された範囲は著しく狭く、請求項1に係る発明は課題が解決できると認識できる範囲を超えている。また、請求項1を引用する請求項2~5、12も同様である。
ウ 請求項6は、突起部の数が限定されていないため、請求項6に係る発明は課題が解決できると認識できない。請求項7~12も同様である。
エ 請求項6の式(3)では、高さ0.3μm以上の突起部の平均高さhとガスバリア層の厚さtで規定されているが、実施例の例4-1と5-1では、hが同じ値でtもほぼ同じ値であるにも関わらず、酸素透過度が大きく異なる。そうすると、hとtの関係だけで課題解決できるとは認識できない。請求項6を引用する請求項7~12も同様である。
(1)申立理由1(新規性)について
甲1に記載された発明は、上記第5の1(2)に記載した甲1発明のとおりである。そして、本件発明6と甲1発明とを対比すると、これらの発明は、少なくとも同4(1)に記載した相違点6-2を有するものであるところ、当該相違点6-2は、実質的なものである。
そうすると、本件発明6は、甲1発明ではないから、申立理由1は当たらない。また、本件発明6を引用する本件発明7、9~12も同様である。
(2)申立理由2(実施可能要件)について
上記1(2)ア、イについてまとめて検討するに、本件の発明の詳細な説明には、添加するアンチブロッキング剤の平均粒径や含有量、ガスバリア層の厚さにより突起部の数を調整できること(【0029】)、ガスバリア層の厚さは、ガスバリア層の表面における突起部の数、要求される酸素バリア性に応じて設定されるところ0.2~5μmが好ましいこと(【0033】)、基材フィルムとして市販品を用いても良いこと(【0092】)などが記載されている。その上で、実施例において、使用する基材やガスバリア層を構成する材料、配合量、製造方法が具体的に記載(【0125】~【0160】)されている。
そうすると、本件の発明の詳細な説明には、本件発明1、3~7、9~12を実施することが可能なよう具体的に記載されており、申立理由2は当たらない。
(3)申立理由3(サポート要件)について
ア 本件発明の課題等について
本件発明は、ガスバリア性フィルムに関し、基材の表面平滑性を高めたり、基材表面の突起を少なくしたりすることで、ガスバリア性が向上する一方、ガスバリア性フィルムをロール状に巻き取った際に、フィルムの表裏面が密着してブロッキングが発生するという技術背景の下、ガスバリア性に優れ、かつブロッキングの発生が抑制されたガスバリア性フィ ルムを提供することを課題としたものである(【0004】~【0008】参照)。
そして、当該課題に対し、本件発明は、「基材表面からのアンチブロッキング剤の突出状態と、酸素バリア性皮膜の厚さと、アンチブロッキング剤の上での酸素バリア性皮膜の欠損の有無およびそのサイズとの関係を把握」(【0013】)することにより解決したものである。
当該認識に立ち、以下判断する。
イ 申立人の主張について
(ア)上記1(3)アに関し、本件発明は、ガスバリア性に優れ、かつブロッキングの発生を抑制するという課題に対し、上記のとおり「基材表面からのアンチブロッキング剤の突出状態と、酸素バリア性皮膜の厚さと、アンチブロッキング剤の上での酸素バリア性皮膜の欠損の有無およびそのサイズとの関係」によって解決を図ったものであり、ガスバリア層に水性ポリウレタンを含有させることは必須ではない。してみれば、申立人の当該主張は当たらない。
(イ)上記1(3)イに関し、本件明細書の「突起部5bは、高さfがd×2μm以上であるので、突起部5bのところでガスバリア層5の厚さが薄くなり、酸素バリア性を損なうおそれがある。突起部5bの数が200個/mm
2
以下であれば、酸素バリア性が優れる。」(【0027】)と記載され、実際にd×2以上の突起部が「213個/mm
2
」である比較例2の酸素透過度は「86cm
3
/(m
2
・day・MPa)」となり、ガスバリア性が劣るものとなっている。
また、「突起部5cは、高さfが0.2μm以上であるので、ガスバリア層5の表面でのガスバリア性フィルム10のブロッキングを抑制する。また、高さfが(d×2)μm未満であるので、ガスバリア層5の酸素バリア性を損ないにくい。突起部5cの数が20個/mm
2
以上であれば、ガスバリア性フィルム10のブロッキングを抑制でき、ガスバリア性フィルム10の加工適性が優れる。」(【0028】)と記載され、d×2未満の突起部が「3個/mm
2
」である比較例1の耐ブロッキング性は「×」となっている。
そうすると、発明の詳細な説明に記載されている実施例及び比較例の双方を考慮すれば、本件発明1におけるパラメータ範囲が著しく広くサポートされていないということはできない。してみれば、申立人の当該主張は当たらない。
(ウ)上記1(3)ウに関し、本件訂正により請求項6には基材フィルムにアンチブロッキング剤を含むこと、及び突起部が当該アンチブロッキング剤に由来することが特定された。すなわち、当業者であれば、相当数の突起が形成されているものと認識するものである。
その上で、上記(ア)と同様、本件発明は「基材表面からのアンチブロッキング剤の突出状態と、酸素バリア性皮膜の厚さと、アンチブロッキング剤の上での酸素バリア性皮膜の欠損の有無およびそのサイズとの関係」によって課題解決を図ったものであって、本件発明6はそのパラメータ範囲を満たせば足り、突起数について特定することは要しない。してみれば、申立人の当該主張は当たらない。
(エ)上記1(3)エに関し、例4-1はガスバリア層の厚さが「0.31」であり、本件発明6に係るパラメータ範囲である「0.325」以上、「0.56」未満を満たしていない。一方、例5-1は、同厚さが「0.33」であり、これを満たしている。その結果、例5-1は酸素透過度が低くなっているものである。そうすると、この結果は当然と言え、申立人の当該主張は当たらない。
上記2(1)~(3)のとおりであるから、当該申立理由により請求項1、3~7、9~12に係る特許を取り消すことはできない。
以上により、請求項1、3~7、9~12に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によって取り消すことはできない。また、他にこれを取り消すべき理由も発見しない。
さらに、申立人による請求項2、8に係る特許に対する特許異議の申立は、本件訂正により請求項2、8が削除され、その対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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