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Trademark Appeal Case

訂正請求後の意見書機会

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号2024700866
審判種別記載はありません。
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

結 論
特許第7447027号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-27〕について訂正することを認める。
特許第7447027号の請求項8~18及び20~27に係る特許を維持する。
特許第7447027号の請求項1~7及び19に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由テキスト

理 由

第1 手続の経緯

特許第7447027号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、令和1年6月7日を国際出願日(パリ条約による優先権主張 平成30年6月11日 米国(US))とする出願(特願2020-567987)であって、令和6年3月1日にその特許権の設定登録(請求項の数21)がされ、同年同月11日に特許掲載公報が発行されたものである。

その後、令和6年9月11日に、本件特許の請求項1~21に係る特許に対して、特許異議申立人 渡辺 陽子(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた(以下「特許異議申立書」を「申立書」という。)。

以後の手続は以下のとおりである。

令和6年11月29日付け 取消理由通知

令和7年 2月28日 応対記録(最終応対日)

同年 3月 4日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)

同年 同月13日付け 訂正請求があった旨の通知

(特許法第120条の5第5項)

同年 4月16日 意見書の提出(申立人)

同年 5月30日付け 取消理由通知(決定の予告)

同年 8月26日 応対記録(最終応対日)

同年 9月 3日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)

同年 同月 9日 上申書の提出(申立人)

同年 同月18日付け 手続補正指令書(方式)

同年10月 3日 手続補正書(方式)の提出(特許権者)

令和7年3月4日提出の訂正請求書は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたとみなす。

また、申立人には既に意見書の提出の機会が与えられており、令和7年9月3日にされた訂正請求によって特許請求の範囲が相当程度減縮されており、提出された全ての証拠や意見等を踏まえてさらに審理を進めたとしても、特許を維持すべきとの結論になると合議体が判断し、特許法第120条の5第5項ただし書に規定された「特別の事情があるとき」といえることから、申立人に再度の意見書を提出する機会を与えることはしなかった。なお、令和7年9月9日提出の上申書において、申立人は再度の意見を実質的に主張している。

第2 訂正の適否についての判断

令和7年10月3日提出の手続補正書(方式)による令和7年9月3日提出の訂正請求書の補正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第133条第1項の規定により、訂正請求書について補正をすべきことを命じられた場合において、当該命じられた事項についてしたものであり、同法第131条の2第1項ただし書第3号に該当するものである。

1 訂正の内容

令和7年10月3日に手続補正された令和7年9月3日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、「特許第7447027号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~27について訂正することを求める。」ことを請求の趣旨とするものであって、その訂正の内容は以下のとおりである。

<訂正事項1>

請求項1~7を削除する。

<訂正事項2>

請求項1~7のいずれか一項を引用する請求項8のうち、請求項1を引用する請求項8を独立形式に改め、さらに、請求項9の「前記ポリマー組成物が、酸化防止剤、酸捕捉剤、又はこれらの混合物を更に含有する」及び請求項19の「前記プロピレン-エチレンコポリマーは、90重量%を超える量で前記ポリマー組成物中に存在している」という特定を加えて、

「プロピレン-エチレンコポリマーを含有するポリマー組成物であって、

前記ポリマー組成物が、酸化防止剤、酸捕捉剤、又はこれらの混合物を更に含有し、

前記プロピレン-エチレンコポリマーは、90重量%を超える量で前記ポリマー組成物中に存在しており、

前記プロピレン-エチレンコポリマーは、高い流動特性を有し、

前記プロピレン-エチレンコポリマーは、90重量%を超えるプロピレン含量を含み、

前記プロピレン-エチレンコポリマーは、2.0重量%~5.0重量%の量のエチレン(ET)を含有し、

前記プロピレン-エチレンコポリマーは、前記プロピレン-エチレンコポリマーが1.2~1.5のXS/ET比を有するように、キシレン可溶画分(XS)を有し、

前記プロピレン-エチレンコポリマーは、230°Cの温度かつ2.16kgの荷重で45g/10分を超えるメルトフローレートを有し、

前記プロピレン-エチレンコポリマーは、2.8を超える分子量分布(Mw/Mn)を有する、

ポリマー組成物。」と訂正する。(請求項8を引用する請求項9~18、20~27も同様に訂正する。)

<訂正事項3>

請求項9に、「前記ポリマー組成物が、酸化防止剤、酸捕捉剤、又はこれらの混合物を更に含有する、請求項8に記載のポリマー組成物。」と記載されているのを、

「前記ポリマー組成物が、酸化防止剤及び酸捕捉剤を含有する、請求項8に記載のポリマー組成物。」と訂正する。

<訂正事項4>

請求項10に、「清澄化剤を更に含む、請求項9に記載のポリマー組成物。」と記載されているのを、「清澄化剤を更に含む、請求項8に記載のポリマー組成物。」と訂正する。

<訂正事項5>

請求項19を削除する。

<訂正事項6>

請求項1~7のいずれか一項を引用する請求項8のうち、請求項2~7をそれぞれ引用する請求項8について、訂正後の請求項8に従属する形式に改め、さらに、請求項9の「前記ポリマー組成物が、酸化防止剤、酸捕捉剤、又はこれらの混合物を更に含有する」及び請求項19の「前記プロピレン-エチレンコポリマーは、90重量%を超える量で前記ポリマー組成物中に存在している」という特定を加えて、新たに請求項22~27とする。

なお、訂正前の請求項1~21について、請求項2~21は、請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~21に対応する訂正後の請求項1~27は特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1、5

訂正事項1及び5による請求項1~7及び19についての訂正は、請求項の削除であるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

そして、当該訂正は、本件特許の明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2

ア 訂正の目的について

訂正事項2は、請求項1~7のいずれか一項を引用する請求項8のうち、請求項1を引用する請求項8を独立形式に改め、さらに請求項9及び請求項19の特定を加えるものであるから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」及び「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について

訂正事項2は、上記のとおり、訂正前の請求項1を引用する請求項8において、請求項9及び請求項19の特定を加えるものであるから、本件特許の明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3

ア 訂正の目的について

訂正事項3は、訂正前の請求項9において、「酸化防止剤、酸捕捉剤、又はこれらの混合物を更に含有する」と記載されていたのを、「酸化防止剤及び酸捕捉剤を含有する」に限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について

訂正事項3は、上記のとおり、訂正前の請求項9を限定するものであるから、本件特許の明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項4

ア 訂正の目的について

訂正事項4は、上記(2)のとおり、訂正後の請求項8が、訂正前の請求項9及び請求項19の特定を加えたものとなったことに伴い、訂正前の請求項10が引用する請求項を、「請求項9」から「請求項8」とするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について

訂正事項3は、上記のとおり、上記(2)の訂正に伴い、引用する請求項を変更するものであるから、本件特許の明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5)訂正事項6

ア 訂正の目的について

訂正事項6は、請求項1~7のいずれか一項を引用する請求項8のうち、請求項2~7をそれぞれ引用する請求項8について、訂正後の請求項8を引用するものとし、請求項9及び請求項19の特定を加えて、新たに請求項22~27とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について

訂正事項6は、上記のとおり、訂正前の請求項2~7をそれぞれ引用する請求項8において、請求項9及び請求項19の特定を加えるものであるから、本件特許の明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

なお、本件においては、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1~6による請求項1~27の訂正に関して、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

3 訂正の適否についての判断のまとめ

以上のとおり、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

したがって、本件訂正は適法なものであり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-27〕について訂正することを認める。

第3 本件発明

上記第2のとおり、本件訂正が認められたため、本件特許の請求項1~7及び19は削除され、請求項8~18及び20~27に係る発明(以下「本件発明8」等といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項8~18及び20~27に記載された事項により特定される次のとおりのものである。また、本件訂正後の明細書を「本件明細書」という。

「【請求項1】

(削除)

【請求項2】

(削除)

【請求項3】

(削除)

【請求項4】

(削除)

【請求項5】

(削除)

【請求項6】

(削除)

【請求項7】

(削除)

【請求項8】

プロピレン-エチレンコポリマーを含有するポリマー組成物であって、

前記ポリマー組成物が、酸化防止剤、酸捕捉剤、又はこれらの混合物を更に含有し、

前記プロピレン-エチレンコポリマーは、90重量%を超える量で前記ポリマー組成物中に存在しており、

前記プロピレン-エチレンコポリマーは、高い流動特性を有し、

前記プロピレン-エチレンコポリマーは、90重量%を超えるプロピレン含量を含み、

前記プロピレン-エチレンコポリマーは、2.0重量%~5.0重量%の量のエチレン(ET)を含有し、

前記プロピレン-エチレンコポリマーは、前記プロピレン-エチレンコポリマーが1.2~1.5のXS/ET比を有するように、キシレン可溶画分(XS)を有し、

前記プロピレン-エチレンコポリマーは、230°Cの温度かつ2.16kgの荷重で45g/10分を超えるメルトフローレートを有し、

前記プロピレン-エチレンコポリマーは、2.8を超える分子量分布(Mw/Mn)を有する、

ポリマー組成物。

【請求項9】

前記ポリマー組成物が、酸化防止剤及び酸捕捉剤を含有する、請求項8に記載のポリマー組成物。

【請求項10】

清澄化剤を更に含む、請求項8に記載のポリマー組成物。

【請求項11】

前記清澄化剤が、ジベンジルソルビトールを含む、請求項10に記載のポリマー組成物。

【請求項12】

前記清澄化剤が、ノニトールを含む、請求項10に記載のポリマー組成物。

【請求項13】

前記ポリマー組成物が、40ミルで15%未満のヘイズを呈し、55°Cで24時間熱老化した後、前記ヘイズの増加が15%以下である、請求項11又は12に記載のポリマー組成物。

【請求項14】

請求項8~13のいずれか一項に記載のポリマー組成物から形成される射出成形物品。

【請求項15】

請求項8~13のいずれか一項に記載のポリマー組成物から形成されるフィルム。

【請求項16】

請求項8~13のいずれか一項に記載のポリマー組成物から製造される高温充填包装容器。

【請求項17】

前記容器が射出成形によって形成されている、請求項16に記載の高温充填包装容器。

【請求項18】

請求項8~13のいずれか一項に記載のポリマー組成物から形成される保存容器。

【請求項19】

(削除)

【請求項20】

請求項8に記載のプロピレン-エチレンコポリマーを含有するポリマー組成物であって、前記プロピレン-エチレンコポリマーは、95重量%を超える量で前記ポリマー組成物中に存在している、ポリマー組成物。

【請求項21】

前記ポリマー組成物が、40ミルで15%未満のヘイズを呈し、55°Cで24時間熱老化した後、前記ヘイズの増加が12%以下である、請求項11又は12に記載のポリマー組成物。

【請求項22】

前記プロピレン-エチレンコポリマーの前記エチレン含有量が、3.0重量%~5.0重量%である、請求項8に記載のポリマー組成物。

【請求項23】

前記プロピレン-エチレンコポリマーの前記エチレン含有量が、3.1重量%~4.7重量%である、請求項8に記載のポリマー組成物。

【請求項24】

前記コポリマーが、45g/10分~140g/10分のメルトフローレートを有する、請求項8、22及び23のいずれか一項に記載のポリマー組成物。

【請求項25】

前記コポリマーが、4重量%~7重量%のキシレン可溶画分を有する、請求項8、22、23及び24のいずれか一項に記載のポリマー組成物。

【請求項26】

前記コポリマーが、80g/10分~100g/10分のメルトフローレートを有する、請求項8、22及び23に記載のポリマー組成物。

【請求項27】

前記コポリマーが、50g/10分~80g/10分のメルトフローレートを有する、請求項8、22及び23に記載のポリマー組成物。」

第4 申立書に記載した申立ての理由、証拠方法及び取消理由通知の概要

1 申立書に記載した申立ての理由の概要及び証拠方法

(1)申立人が提出した申立書に記載された申立理由は、以下のとおりである。

ア 申立理由1(甲第1号証を主引例とする新規性及び進歩性)

本件特許の請求項1、2、4、5及び7に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、また、本件特許の請求項1~21に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

イ 申立理由2(甲第2号証を主引例とする進歩性)

本件特許の請求項1~9及び14~20に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

ウ 申立理由3(甲第3号証に基づく拡大先願)

本件特許の請求項1、4、5、8~11及び13~21に係る発明は、本件特許出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた甲第3号証の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(2)申立人が申立書に添付して提出した証拠方法

甲第1号証:特表2005-530900号公報

甲第2号証:特開平9-25316号公報

甲第3号証:特開2018-203864号公報(特願2017-110149号)

参考資料1:特表2012-504062号公報

参考資料2:ネロ・パスクイーニ編著、横山裕・坂本浩基翻訳監修

「新版 ポリプロピレンハンドブック」、初版第1刷、

2012年9月28日、日刊工業新聞社、21頁

参考資料3:特開平7-117196号公報

(以下「甲第1号証」等を「甲1」等といい、「参考資料1」等を「参1」等という。)

2 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要

令和7年5月30日付けの取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要は、以下のとおりである。

ア 取消理由3(明確性)

本件発明8、14~18、20及び22~27に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

・本件発明8は、「プロピレン-エチレンコポリマーを含有するポリマー組成物であって、前記プロピレン-エチレンコポリマーは、90重量%を超える量で前記ポリマー組成物中に存在しており、・・・ポリマー組成物」と特定されているが、当該「ポリマー組成物」は、「プロピレン-エチレンコポリマー」に加え、他の添加剤又は他の成分を含有する組成物であると解釈するのか、「プロピレン-エチレンコポリマー」が「100重量%」でポリマー組成物中に存在する、すなわち、コポリマーそのものであってもよいと解釈するのかが不明確である。

イ 取消理由1(甲1を主引例とする新規性)

本件発明8、20、22、24、25及び27は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

ウ 取消理由2(甲1を主引例とする進歩性)

本件発明8、20及び22~27は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

第5 当審の判断

以下に述べるように、当審で通知した取消理由通知(決定の予告)の取消理由及び申立書に記載した申立理由によっては、本件発明8~18及び20~27に係る特許は取り消すことはできない。

また、上記第2で示したとおり、本件特許の請求項1~7及び19は本件訂正により削除され、この特許に対する申立ては、申立ての対象を欠くこととなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。

1 取消理由3(明確性)について

取消理由3について、上記第4の2のアに示した点を指摘した。

これに対し、本件訂正により、本件発明8の「ポリマー組成物」は、「プロピレン-エチレンコポリマー」に加え、「酸化防止剤、酸捕捉剤、又はこれらの混合物を更に含有」するものとなり、「プロピレン-エチレンコポリマー」が「100重量%」でポリマー組成物中に存在するもの、すなわち、コポリマーそのものを包含しないことが明らかであるから、上記の点は解消された。

そして、他に本件発明8~18及び20~27について、不明確となる点を見いだせない。

よって、本件発明8~18及び20~27は明確であり、取消理由3によっては、本件発明8~18及び20~27に係る特許を取り消すことはできない。

2 取消理由1及び2並びに申立理由1(甲1を主引例とする新規性及び進歩性)について

申立理由1は、甲1を主引例とする新規性及び進歩性についてのものであるから、取消理由1及び2と併せて検討する。なお、申立理由1のうち、甲1を主引例とする新規性についての理由の対象とされていた訂正前の請求項1、2、4、5及び7は削除されたため、当該請求項に対する申立て理由はなくなった。

(1)甲1に記載された発明

ア 甲1の請求項1には、「組成物が、20g/10分以上のMFR(230°C、2.16kg)値、20%以上のエチレンの総含量、4.5%以上のC

4

~C

10

α-オレフィン(類)の総含量、2.3以上のエチレンの総含量とC

4

~C

10

α-オレフィン(類)の総含量との比、18重量%未満の室温におけるキシレンに可溶な全フラクション、および1.7dl/g以下の室温におけるキシレンに可溶なフラクションの極限粘度を有し、

重量%で:

1)エチレンおよび/またはC

4

~C

10

α-オレフィン(類)を15%まで含み、かつ少なくとも25g/10分のMFR値を有する結晶性プロピレンホモポリマーまたはコポリマー55~90%;ならびに

2)10~40%のC

4

~C

10

α-オレフィン(類)を含む、1以上の該C

4

~C

10

α-オレフィン(類)とエチレンとのコポリマー10~45%を含むポリオレフィン組成物。」について記載されている。

また、甲1には、上記ポリオレフィン組成物の奏する効果について、「物性(特に、曲げ弾性率、耐衝撃性、延性/脆性転移温度(ductile/brittletransitiontemperature)およびヘイズ)の高いバランスとともに比較的高いMFR値を示すので、特に射出成形技法を用いて、種々の完成品または半完成品に容易に変換され得る。

さらに、これらは、白化が低いかまたは非常に低く、ブルーミングが減少され、かつ有機溶媒中で抽出可能なフラクションの含量が非常に低い。」(【0006】)と記載されている。

そして、実施例には、【0031】~【0034】に記載されるとおり、気相反応器中で予備重合された触媒システムを用いて重合反応を行い、成分1及び成分2を得た後、【0035】~【0037】に記載されるように、両成分を含むポリマー粒子を各種添加剤と混合し、二軸スクリュー押出機にて押し出して、【0051】【表1】に報告されている最終ポリマー組成物を得ることが記載されており、このうち、実施例1として、請求項1の「1)」に対応する「第一の気相反応器-結晶プロピレン-エチレンコポリマー」67wt%及び請求項1の「2)」に対応する「第二の気相反応器-エチレン-ブテン-1コポリマーゴム」33wt%を含む「最終生成物」(最終ポリマー組成物)が各物性値と共に示されている。

イ 甲1の【表1】における実施例1の「第一の気相反応器-結晶性プロピレン-エチレンコポリマー」及び【0031】~【0033】における成分1の重合方法に着目すると、以下の発明が記載されていると認める。

「第一の気相重合反応器中において、以下の予備重合された触媒システム、水素(分子量調整剤として用いられる)ならびに気相状態のプロピレンおよびエチレンモノマーを連続的かつ一定の流量で供給し、重合温度80°Cで重合することにより製造され、

MFR“L”が70.5g/10’、

コポリマー中のエチレン含量が3.0wt%、

キシレン可溶フラクションが4.2wt%である、

第一の気相反応器-結晶性プロピレン-エチレンコポリマー。

<予備重合された触媒システム>

約2.5重量%のチタンおよび内部供与体としてのジイソブチルフタレートを含む、マグネシウムクロライド上に担持された、高い立体特異性チーグラー-ナッタ触媒を固体触媒成分とし、重合反応器に導入する前に、当該固体触媒成分を、アルミニウムトリエチル(TEAL)およびジシクロペンチルジメトキシシラン(DCPMS)と、TEAL/DCPMS重量比が約4に等しく、かつTEAL/Tiモル比が65に等しくなるような量で、-5°Cで5分間接触させ、次いで、第一重合反応器中に導入する前に、液体プロピレン中に20°Cで約20分間懸濁状態で維持することにより、予備重合に付したもの。」(以下「甲1発明」という。)

(2)本件発明8について

ア 対比

本件発明8と甲1発明とを対比する。

(ア)甲1発明の「第一の気相反応器-結晶性プロピレン-エチレンコポリマー」は、本件発明8の「プロピレン-エチレンコポリマー」に相当し、本件発明8の「ポリマー組成物」とは、「プロピレン-エチレンコポリマーを有する物」である限りにおいて一致する。

(イ)甲1発明のコポリマーは、「コポリマー中のエチレン含量が3.0wt%」であって、構成成分がプロピレン及びエチレンのみであるから、コポリマー中のプロピレン含量は、97.0wt%であると認められ、本件発明8の「前記プロピレン-エチレンコポリマーは、90重量%を超えるプロピレン含量を含み、前記プロピレン-エチレンコポリマーは、2.0重量%~5.0重量%の量のエチレン(ET)を含有し」に相当する。

(ウ)甲1発明の「MFR“L”」は、甲1の【0038】に「-

メルトフローレート(MFR)

ASTMD1238、条件Lにより決定(MFR“L”)」と記載され、【0004】に「MFR(230°C、2.16kg)値」と記載されていることに加え、参1の【0059】における「MFRは、ASTMD1238に従って、条件L、230°Cおよび2.16kgなる負荷の下で、メルトインデックス測定装置を用いて測定した」との記載も踏まえると、230°C、2.16kgにおけるMFR値であると認められ、「g/10’」は「g/10分」を意味することが明らかであるから、甲1発明の「MFR“L”が70.5g/10’」は、本件発明8の「前記プロピレン-エチレンコポリマーは、230°Cの温度かつ2.16kgの荷重で45g/10分を超えるメルトフローレートを有し」に相当する。

(エ)甲1発明の「キシレン可溶フラクション」(wt%)は、【0039】に、「-

キシレンに可溶および不溶なフラクション

・・・ポリマー2.5gおよびキシレン250mlを、冷蔵装置および磁気撹拌器を備えたガラスフラスコに導入する。30分間で溶媒の沸点まで温度を上げる。このようにして得られた清澄な溶液を、次いでさらに30分間還流撹拌下に維持する。密封したフラスコを、次いで30分間氷水浴中に維持し、25°Cの恒温水浴中に30分間維持する。

このようにして形成された固体を、即(quick)ろ紙上でろ過する。ろ液100mlを、窒素気流下に加熱板上で加熱され、予め秤量されたアルミニウム容器中に注入して、蒸発により溶媒を除去する。次いで、容器を一定重量が得られるまで、真空下にオーブン中80°Cで維持する。次いで、室温でキシレンに溶解するポリマーの重量%を計算する。」と記載される方法により求められるものであって、本件明細書の【0017】に記載の「キシレン可溶分(XS)は、ポリプロピレンランダムコポリマー樹脂のサンプルを熱いキシレンに溶解し、溶液を25°Cまで冷却させた後に溶液中に残存する樹脂の重量パーセントとして定義される」ものに該当するから、本件発明8の「キシレン可溶画分(XS)」(重量%)に相当する。

そして、甲1発明のコポリマーにおいて、「コポリマー中のエチレン含量が3.0wt%、キシレン可溶フラクションが4.2wt%」であることを踏まえて、XS/ET比を計算すると、1.4(=4.2/3.0)であり、本件発明8の「前記プロピレン-エチレンコポリマーは、前記プロピレン-エチレンコポリマーが1.2~1.5のXS/ET比を有するように、キシレン可溶画分(XS)を有し」に相当する。

(オ)さらに、本件発明8は、コポリマーが「高い流動特性を有し」と特定されている点について、本件明細書の【0005】には、「本開示のプロピレンランダムコポリマーは、上記特性を用いて製造することができ、依然として優れた流動特性を有することができる。例えば、コポリマーは、約45g/10分を超えるメルトフローレートを有することができ、これによりポリマーは、射出成形用途での使用に適するようになる。高メルトフロー特性は、例えば、比較的薄い壁及び/又は複雑な形状を有する物品及び製品の射出成形にポリマーが使用されることを可能にする」と記載されており、優れた流動特性を有することの指標として、「約45g/10分を超えるメルトフローレートを有する」ことを挙げている。

そうすると、甲1発明のコポリマーも「MFR“L”が70.5g/10’である」から、本件発明8の「前記プロピレン-エチレンコポリマーは、高い流動特性を有し」に相当する。

以上のことを踏まえると、本件発明8と甲1発明とは、

「プロピレン-エチレンコポリマーを有する物であって、

前記プロピレン-エチレンコポリマーは、高い流動特性を有し、

前記プロピレン-エチレンコポリマーは、90重量%を超えるプロピレン含量を含み、

前記プロピレン-エチレンコポリマーは、2.0重量%~5.0重量%の量のエチレン(ET)を含有し、

前記プロピレン-エチレンコポリマーは、前記プロピレン-エチレンコポリマーが1.2~1.5のXS/ET比を有するように、キシレン可溶画分(XS)を有し、

前記プロピレン-エチレンコポリマーは、230°Cの温度かつ2.16kgの荷重で45g/10分を超えるメルトフローレートを有する、

プロピレン-エチレンコポリマーを有する物。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1-1>

プロピレン-エチレンコポリマーを有する物が、本件発明8では「酸化防止剤、酸捕捉剤、又はこれらの混合物を更に含有し」、「前記プロピレン-エチレンコポリマーは、90重量%を超える量で前記ポリマー組成物中に存在して」いる「ポリマー組成物」であるのに対し、甲1発明は、プロピレン-エチレンコポリマーそのものであって、酸化防止剤、酸捕捉剤、又はこれらの混合物を更に含有するものではない点

<相違点1-2>

プロピレン-エチレンコポリマーの分子量分布(Mw/Mn)が、本件発明8では「2.8を超える分子量分布(Mw/Mn)を有する」と特定されているのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点

イ 相違点1-1についての判断

(ア)甲1の実施例1には、【0031】~【0034】に記載されるとおり、気相反応器中で予備重合された触媒システムを用いて重合反応を行い、成分1及び成分2を得た後、【0035】~【0037】に記載されるように、両成分を含むポリマー粒子を、「Irganox(登録商標)B215(1重量部のトリス(2,4-ジtert-ブチルフェニル)ホスファイトと混合した1重量部のペンタエリスリル-テトラキス[3(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-フェニル])」等の各種添加剤と混合し、二軸スクリュー押出機にて押し出して、【0051】【表1】に報告されている「最終ポリマー組成物」を得ることは記載されている。

しかし、上記「最終ポリマー組成物」は、「第一の気相反応器-結晶プロピレン-エチレンコポリマー」の含有量が67wt%であるから、「酸化防止剤、酸捕捉剤、又はこれらの混合物を更に含有し」、かつ、「前記プロピレン-エチレンコポリマーは、90重量%を超える量で前記ポリマー組成物中に存在して」いる「ポリマー組成物」に該当しない。

また、甲1には、上記成分1に該当する甲1発明の「第一の気相反応器-結晶性プロピレン-エチレンコポリマー」そのものに、酸化防止剤及び/又は酸捕捉剤を添加することも記載されていない。

したがって、少なくとも相違点1-1は、実質的な相違点である。

(イ)次に、甲1の請求項1には、「1)エチレンおよび/またはC

4

~C

10

α-オレフィン(類)を15%まで含み、かつ少なくとも25g/10分のMFR値を有する結晶性プロピレンホモポリマーまたはコポリマー55~90%」を含み、「20g/10分以上のMFR(230°C、2.16kg)値、20%以上のエチレンの総含量、4.5%以上のC

4

~C

10

α-オレフィン(類)の総含量、2.3以上のエチレンの総含量とC

4

~C

10

α-オレフィン(類)の総含量との比、18重量%未満の室温におけるキシレンに可溶な全フラクション、および1.7dl/g以下の室温におけるキシレンに可溶なフラクションの極限粘度を有」する「ポリオレフィン組成物」が記載されており、甲1の実施例1に照らすと、「最終ポリマー組成物」が、上記「ポリオレフィン組成物」であり、甲1発明である「第一の気相反応器-結晶プロピレン-エチレンコポリマー」が、上記「1)」に相当する「コポリマー」成分といえる。

また、甲1には、ポリオレフィン組成物の作用効果や用途について、「本発明の組成物は、物性(特に、曲げ弾性率、耐衝撃性、延性/脆性転移温度(ductile/brittletransitiontemperature)およびヘイズ)の高いバランスとともに比較的高いMFR値を示すので、特に射出成形技法を用いて、種々の完成品または半完成品に容易に変換され得る。

さらに、これらは、白化が低いかまたは非常に低く、ブルーミングが減少され、かつ有機溶媒中で抽出可能なフラクションの含量が非常に低い。」(【0006】)と記載されており、また、添加剤について、「本発明の組成物は、酸化防止剤、光安定剤、熱安定剤、成核剤、着色剤および充填剤のような、当該技術で広く採用されている添加剤を含むこともできる。」(【0028】)と記載されているものの、これらの「本発明の組成物」とは、請求項1に係る「ポリオレフィン組成物」(実施例1の「最終ポリマー組成物」)のことであり、「1)」に相当する「コポリマー」成分は、上記「ポリオレフィン組成物」のポリマー組成の一部を構成する成分に過ぎず、甲1には、「1)」に相当する「コポリマー」成分そのものの作用効果や用途については記載も示唆もされておらず、「1)」に相当する「コポリマー」成分のみを取り出して使用することは想定されていない。

そして、甲1の請求項1に係る上記「ポリオレフィン組成物」において、「1)」に相当する「コポリマー」成分の含量は、「55~90%」であるところ、仮に「1)」に相当する「コポリマー」成分を、単独で又は90重量%を超える量で用いた場合には、得られる最終ポリマー組成物(「コポリマー」成分そのものである場合を含む。)のポリマー組成及び物性が、請求項1に係る所定のポリマー組成及び物性を有する「ポリオレフィン組成物」とは異なるものとなり得ることから、ポリオレフィン組成物中の「1)」に相当する「コポリマー」成分の量を増加させて、「90重量%を超える量」とすることを、当業者が動機付けられるとはいえない。

また、他の証拠方法における記載を考慮しても、甲1に記載の「1)」に相当する「コポリマー」成分を、射出成形された物品等を製造するなどのために、単独で又は90重量%を超える量で用いて、これに上記添加剤を含有させることを動機付ける周知技術等があるともいえない。

したがって、甲1発明において、「酸化防止剤、酸捕捉剤、又はこれらの混合物を更に含有し」、「前記プロピレン-エチレンコポリマーは、90重量%を超える量で前記ポリマー組成物中に存在」している「ポリマー組成物」とすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。

ウ 本件発明8の効果について

本件発明8は、本件明細書の【0005】の記載からみて、ポリマー組成物に含有されるコポリマーが、「非常に低いキシレン可溶画分又は含量を有するランダムコポリマーを生成する方法で、チーグラー・ナッタ触媒(メタロセンを使用せず)によって作製され」、「比較的高い剛性特性を有し、熱老化中のブルーミングに耐性を有し、ポリマーに優れた透明性を与え」、「比較的高い荷重たわみ温度を有するように作製することができ、これによりポリマーは、過去に作製された多くのコポリマーに関してより高い温度での使用に適」し、「優れた流動特性を有することができ」、「例えば、コポリマーは、約45g/10分を超えるメルトフローレートを有することができ、これによりポリマーは、射出成形用途での使用に適するようになる」といった効果を奏するものであると認められる。

一方、甲1には、上記イ(イ)のとおり、「ポリオレフィン組成物」の効果については記載されているものの、甲1発明の「第一の気相反応器-結晶プロピレン-エチレンコポリマー」を単独で又は90重量%を超える量で用いた場合の作用効果は明らかでないから、本件発明8の上記効果は、当業者が予測できたものではない。

エ 小括

よって、相違点1-2について検討するまでもなく、本件発明8は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明9~18及び20~27について

本件発明9~18及び20~27は、本件発明8を直接又は間接的に引用しており、本件発明8の発明特定事項を全て含むものであるから、甲1発明とは、少なくとも相違点1-1において相違し、上記(2)イ及びウで説示したのと同様の理由により、本件発明9~18及び20~27は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)申立人の主張について

ア 申立人は、令和7年9月9日提出の上申書において、概略以下の主張をしている。

本件特許の明細書には、「プロピレン-エチレンコポリマー」が「90重量%を超える量」という範囲内とすることによる予測し得ない効果は何ら実証されていないから、甲1において、「90重量%を超える量」という範囲内とすることは、当業者が適宜なし得る数値範囲の最適化又は好適化に過ぎず、一方、甲1には、請求項1に係る特定のポリオレフィン組成物が、成分1)として特定の結晶性プロピレンホモポリマーまたはコポリマー55~90%を含むことが規定されているところ、甲1には、当該ポリマーまたはコポリマーの量が上記範囲外である場合に、課題を解決できないことを示すような比較例はなく、当業者であれば、甲1において、当該ポリマーまたはコポリマーの量を90%超とすることは容易に想到し得たものであり、よって、甲1において、コポリマー90%超と酸化剤等のありふれた添加剤とを組み合わせて、訂正発明9~13及び21に係るポリマー組成物とすることも、当業者が容易に想到し得たものである。(上申書2頁最終行~3頁14行)

イ しかしながら、上記(2)イにおいて説示したように、甲1には、請求項1に係る「ポリオレフィン組成物」についての作用効果や用途が記載されているものの、上記「ポリオレフィン組成物」における「1)」に相当する「コポリマー」成分の含量は、「55~90%」であるところ、仮に「1)」に相当する「コポリマー」成分を、単独で又は90重量%を超える量で用いた場合には、得られる最終ポリマー組成物のポリマー組成及び物性が、請求項1に係る所定のポリマー組成及び物性を有する「ポリオレフィン組成物」とは異なるものとなり得ることから、当該「1)」に相当する「コポリマー」成分を、90重量%を超える量で用いることが、当業者が適宜なし得る数値範囲の最適化又は好適化に過ぎないとはいえない。

したがって、上記主張は採用できない。

(5)取消理由1及び2並びに申立理由1についてのまとめ

よって、本件発明8~18及び20~27は、特許法第29条第1項第3号及び同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、取消理由1及び2並びに申立理由1によっては、本件発明8~18及び20~27に係る特許を取り消すことはできない。

3 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった申立理由2(甲2を主引例とする進歩性)について

訂正前の請求項1~7及び19は削除されたため、訂正前の本件特許の請求項1~9及び14~20に係る発明に対応する本件発明8、9、14~18、20及び22~27について検討する。

(1)甲2に記載された発明

ア 甲2には、「エチレンまたは炭素数が4~20であるα-オレフィンの共重合割合が0.1~2.5重量%であり、かつ下記(1)~(3)の物性を有するプロピレン-α-オレフィンランダム共重合体。

(1)25°Cにおけるキシレン抽出不溶部:96.5重量%以上

(2)アイソタクチックペンタッド分率:96.5%以上

(3)クロス分別クロマトグラフにより測定される温度100°C以下の溶出量Wf(重量%)が次式に示される範囲にあること:

Wf ≦10+14A

(式中、Aはα-オレフィンの含有量(重量%)を表す)」(請求項1)及び当該共重合体を成形して得られる「射出成形体」(請求項6)について記載されている。

そして、甲2の実施例には、【0018】~【0023】の製造方法によってプロピレン、エチレン、水素を装入して重合され、【0025】【表1】の組成及び物性を有する「RPP3」という「プロピレン-エチレンランダム共重合体」が記載されており、さらに、【0026】及び【0027】【表2】には、実施例3として、RPP3を安定剤等と共に混合し、得られた混合物をペレット化し、さらに、ペレットからフィルムを得て、放射線の照射前及び照射後のMFRを測定する等して、耐放射線性を評価したことが記載されている。ここで、MFRは、【0014】及び【0015】によると、「JIS K7210 表1条件14に準拠」して測定され、参3の【0019】によると、条件14は「230°C、2.16kg荷重」である。また、放射線の照射とは、【0017】によると、「コーガアイソトープ協会製γ線照射装置によりコバルト60を25kGy照射」することである。

イ 甲2の実施例3において、RPP3を安定剤等と共に混合して得られた混合物に着目すると、以下の発明が記載されていると認める。

「RPP3 100重量部並びに安定剤としてジ-t-ブチル-p-クレゾール 0.05重量部、ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドキシフェニルプロピオネート 10重量部及びカルシウムステアレート 0.10重量部を混合して得られた混合物であって、

上記RPP3は、エチレンの共重合割合が2.3重量%であり、XI(キシレン抽出不溶部)が97.5重量%であるプロピレン-エチレンランダム共重合体であり、

上記混合物をペレット化し、フィルムとしたものについて測定したMFR(230°C、2.16kg荷重)が、放射線(コバルト60を25kGy)の照射前/照射後において、「5.0/180」(g/10分)である、混合物。」(以下「甲2発明」という。)

(2)本件発明8について

ア 対比

本件発明8と甲2発明とを対比する。

(ア)甲2発明の「プロピレン-エチレンランダム共重合体」である「RPP3」は、本件発明8の「プロピレン-エチレンコポリマー」に相当し、混合物中の「RPP3」の含量は、約90.8重量%(=100×100/(100+0.05+10+0.10))であるから、甲2発明の「混合物」は、本件発明8の「前記プロピレン-エチレンコポリマーは、90重量%を超える量で前記ポリマー組成物中に存在」している「ポリマー組成物」に相当する。

(イ)甲2発明の「RPP3」は、「エチレンの共重合割合が2.3重量%」であって、構成成分がプロピレン及びエチレンのみであるから、共重合体中のプロピレン含量は、97.7wt%であると認められ、本件発明8の「前記プロピレン-エチレンコポリマーは、90重量%を超えるプロピレン含量を含み、前記プロピレン-エチレンコポリマーは、2.0重量%~5.0重量%の量のエチレン(ET)を含有し」に相当する。

(ウ)甲2発明の「RPP3」における「XI(キシレン抽出不溶部)」は、【0015】に、「2.5gのRPPを135°Cのオルトキシレン(230ml)に溶解した後冷却し、25°Cで析出したポリマーをXI(重量%)とした」ものである。

他方、本件発明8の「キシレン可溶分(XS)」の定義は、上記2(2)ア(エ)に示したとおりであるから、甲2について、上記XI(キシレン抽出不溶部)の残部が、本件発明8の「キシレン可溶分(XS)」に相当するといえる。

そうすると、甲2発明において、XI(キシレン抽出不溶部)が97.5重量%であることから、「キシレン可溶画分(XS)」の量は2.5重量%(=100-97.5)と計算される。

そして、甲2発明の共重合体が「エチレンの共重合割合が2.3重量%」であることも踏まえて、XS/ET比を計算すると、1.09(=2.5/2.3)であり、本件発明8の「前記プロピレン-エチレンコポリマーは、前記プロピレン-エチレンコポリマーが1.2~1.5のXS/ET比を有するように、キシレン可溶画分(XS)を有し」とは、「前記プロピレン-エチレンコポリマーは、キシレン可溶画分(XS)を有し」の限りにおいて一致する。

(エ)甲2発明の「ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドキシフェニルプロピオネート」は、本件明細書の【0117】において、「ヒンダードフェノール酸化防止剤」として例示されている化合物であるから、本件発明8の「酸化防止剤」に相当する。

以上のことを踏まえると、本件発明8と甲2発明とは、

「プロピレン-エチレンコポリマーを含有するポリマー組成物であって、

前記ポリマー組成物が、酸化防止剤、酸捕捉剤、又はこれらの混合物を更に含有し、

前記プロピレン-エチレンコポリマーは、90重量%を超える量で前記ポリマー組成物中に存在しており、

前記プロピレン-エチレンコポリマーは、90重量%を超えるプロピレン含量を含み、

前記プロピレン-エチレンコポリマーは、2.0重量%~5.0重量%の量のエチレン(ET)を含有し、

前記プロピレン-エチレンコポリマーは、キシレン可溶画分(XS)を有する、

ポリマー組成物。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点2-1>

プロピレン-エチレンコポリマーのキシレン可溶画分(XS)について、本件発明8では「前記プロピレン-エチレンコポリマーが1.2~1.5のXS/ET比を有するように、キシレン可溶画分(XS)を有」すると特定されているのに対し、甲2発明においては、XS/ET比を計算すると、1.09である点

<相違点2-2>

プロピレン-エチレンコポリマーの流動特性及びメルトフローレートについて、本件発明8では「高い流動特性を有し」、「230°Cの温度かつ2.16kgの荷重で45g/10分を超えるメルトフローレートを有する」と特定されているのに対し、甲2発明では、当該混合物をペレット化し、フィルムとしたものについて測定したMFR(230°C、2.16kg荷重)が、放射線(コバルト60を25kGy)の照射前/照射後において、「5.0/180」(g/10分)である点

<相違点2-3>

プロピレン-エチレンコポリマーの分子量分布(Mw/Mn)について、本件発明8では「2.8を超える分子量分布(Mw/Mn)を有する」と特定されているのに対し、甲2発明ではそのような特定がない点

イ 相違点2-1についての判断

まず、甲2に例示された共重合体(【0025】【表1】RPP1~5)のうち、「2.0重量%~5.0重量%の量のエチレン(ET)」を満たすものはRPP3のみであり、エチレンの共重合体割合が「2.0重量%~5.0重量%の量」で、かつ、XS/ET比が「1.2~1.5」を満たすような具体例は存在しない。

次に、甲2の請求項1には、「エチレンまたは炭素数が4~20であるα-オレフィンの共重合割合が0.1~2.5重量%であり、かつ下記(1)~(3)の物性を有するプロピレン-α-オレフィンランダム共重合体。」であって、「(1)25°Cにおけるキシレン抽出不溶部:96.5重量%以上」であることが記載されており、さらに、「本発明におけるプロピレン-α-オレフィンランダム共重合体は、プロピレンとエチレンまたは炭素数4~20のα-オレフィンとのランダム共重合体(以下「RPP」という)である。・・・本発明のRPPに占めるα-オレフィンの共重合割合は0.1~2.5重量%であり、好ましくは0.3~2.2重量%、特に好ましくは0.5~2.0重量%である。α-オレフィンの割合が0.1重量%未満では耐衝撃性およびヒートシール性が劣る。一方、2.5重量を超えると剛性などの機械的強度が劣るので好ましくない。」(【0006】)、「さらに、本発明のRPPは、(1)25°Cにおけるキシレン抽出不溶部(以下「XI」という)が96.5重量%以上であり、好ましくは97.0重量%以上、特に好ましくは97.5量%以上である。XIが96.5重量%未満では、剛性が劣りベタツキの原因を招きやすく、耐溶媒性、衛生的にも好ましくない。」(【0007】)と記載されている。

しかしながら、甲2には、「XS/ET比」を調整することについては記載も示唆もされていない。

また、上記のとおり、甲2は、「キシレン抽出不溶部」を、剛性、耐溶媒性等の観点から、96.5重量%以上とすることを企図するものであるから、その残部に過ぎないキシレン可溶画分(XS)とエチレン共重合割合の比、すなわち「XS/ET比」に着目して、その範囲を調整し、「1.2~1.5のXS/ET比を有するように、キシレン可溶画分(XS)」を有するものと特定することは、甲2の記載から当業者が動機付けられるものではない。

また、他の証拠方法における記載を考慮しても、甲2発明において、「1.2~1.5のXS/ET比を有するように、キシレン可溶画分(XS)」を有するものとすることを動機付ける周知技術等があるともいえない。

したがって、甲2発明において、「1.2~1.5のXS/ET比を有するように、キシレン可溶画分(XS)」を有するものとすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。

ウ 本件発明8の効果について

本件発明8の効果は、上記2(2)ウにおいて述べたとおりであるところ、甲2の記載を考慮しても、本件発明8の上記効果(特に、熱老化中のブルーミングに耐性を有し、ポリマーに優れた透明性を与えるという効果)は、当業者が予測できたものではない。

エ 小括

よって、相違点2-2及び2-3について検討するまでもなく、本件発明8は、甲2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明9、14~18、20及び22~27について

本件発明9、14~18、20及び22~27は、本件発明8を直接又は間接的に引用しており、本件発明8の発明特定事項を全て含むものであるから、甲2発明とは、少なくとも相違点2-1において相違し、上記(2)イ及びウで説示したのと同様の理由により、本件発明9、14~18、20及び22~27は、甲2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)申立人の主張について

ア 申立人は、申立書において、「XS/ET比」について、概略以下の主張をしている。

本件特許の明細書には、「XS/ET比」を「1.2~1.5」の範囲内とすることによる予測し得ない効果は何ら実証されていないから、「XS/ET比」を「1.2~1.5」の範囲内とすることは、当業者が適宜なし得る数値範囲の最適化又は好適化に過ぎず、したがって、甲2の実施例において、「キシレン可溶画分(XS)」/「RPP」における「エチレン」の「共重合割合」を、「1.2~1.5」の範囲内とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。(62頁10~17行)

イ しかしながら、上記(2)イにおいて説示したように、甲2には、キシレン抽出不溶部(XI)の残部に過ぎないキシレン可溶画分(XS)とエチレン共重合割合の比、すなわち「XS/ET比」に着目して、その範囲を調整し、「1.2~1.5のXS/ET比を有するように、キシレン可溶画分(XS)」を有するものとすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

したがって、上記主張は採用できない。

(5)申立理由2についてのまとめ

よって、本件発明8、9、14~18、20及び22~27は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由2によっては、本件発明8、9、14~18、20及び22~27に係る特許を取り消すことはできない。

4 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった申立理由3(甲3に基づく拡大先願)について

訂正前の請求項1~7及び19は削除されたため、訂正前の本件特許の請求項1、4、5、8~11及び13~21に係る発明に対応する、本件発明8~11、13~18、20、21、24及び25について検討する。

(1)先願明細書等に記載された発明

ア 甲3の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲(以下「先願明細書等」という。)には、「ポリオレフィンと、炭素数10~30の飽和脂肪酸のエステル化物である高級脂肪酸エステルと、片ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、下記化学式(I)又は下記化学式(II)で示されるリン系酸化防止剤とを含有し、前記高級脂肪酸エステルの含有量がポリオレフィン100質量部に対して0.1~1.0質量部、前記片ヒンダードフェノール系酸化防止剤の含有量がポリオレフィン100質量部に対して0.03~0.3質量部、前記リン系酸化防止剤の含有量がポリオレフィン100質量部に対して0.03~0.3質量部である、ポリオレフィン樹脂組成物。」(請求項1。当審注:化学式(I)又は(II)は省略。)について記載されている。

そして、先願明細書等の実施例3(【0027】、【0029】、【0031】、【0032】【表1】)には、ポリプロピレンとしてPP2を用い、高級脂肪酸エステル、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等と混合して得られた混合物が記載されている。ここで、先願明細書等の【表1】における各成分の「質量部」は、請求項1及び【0039】の記載を踏まえると、ポリプロピレン100質量部に対する質量部であると認められる。また、メルトフローレート(MFR)は、【0026】によると、JIS K7210-1に準拠し、温度230°C、荷重:2.16kgの条件で測定したものである。

イ 先願明細書等の実施例3に着目すると、以下の発明が記載されていると認める。

「PP2(ポリプロピレン)100質量部に対して、高級脂肪酸エステル(A)(ステアリン酸モノグリセリド)0.2質量部、片ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B-1)((3,9-ビス〔1,1-ジメチル-2-[β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル〕-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)0.1質量部、リン系酸化防止剤(C-1)(トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト)0.1質量部、結晶造核剤(E-2)(1,3:2,4-ビス-O-(4-メチルベンジリデン)-D-ソルビトール)0.15質量部を混合し、さらに中和剤としてカルシウムステアレートを0.05質量%添加して得られた混合物であって、

上記PP2(ポリプロピレン)は、2.5質量%のエチレン由来単位を含み、MFR(温度230°C、荷重:2.16kg)が45g/10分であり、プロピレン-エチレンコポリマーであるポリプロピレン重合体(ランダムポリプロピレン)である、混合物。」(以下「甲3先願発明」という。)

(2)本件発明8について

ア 対比

本件発明8と甲3先願発明とを対比する。

(ア)甲3先願発明の「プロピレン-エチレンコポリマーであるポリプロピレン重合体(ランダムポリプロピレン)」である「PP2(ポリプロピレン)」は、本件発明8の「プロピレン-エチレンコポリマー」に相当し、混合物中の「PP2(ポリプロピレン)」の含量は、約99.4重量%(=100×100/(100+0.2+0.1+0.1+0.15+0.05))であるから、甲3先願発明の「混合物」は、本件発明8の「前記プロピレン-エチレンコポリマーは、90重量%を超える量で前記ポリマー組成物中に存在」している「ポリマー組成物」に相当する。

(イ)甲3先願発明の「PP2(ポリプロピレン)」は、「2.5質量%のエチレン由来単位を含み」、構成成分がプロピレン及びエチレンのみであるから、共重合体中のプロピレン含量は、97.5質量%であると認められ、本件発明8の「前記プロピレン-エチレンコポリマーは、90重量%を超えるプロピレン含量を含み、前記プロピレン-エチレンコポリマーは、2.0重量%~5.0重量%の量のエチレン(ET)を含有し」に相当する。

(ウ)甲3先願発明の「片ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B-1)((3,9-ビス〔1,1-ジメチル-2-[β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル〕-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)」及び「リン系酸化防止剤(C-1)(トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト)」は、本件発明8の「酸化防止剤」に相当する。

以上のことを踏まえると、本件発明8と甲3先願発明とは、

「プロピレン-エチレンコポリマーを含有するポリマー組成物であって、

前記ポリマー組成物が、酸化防止剤、酸捕捉剤、又はこれらの混合物を更に含有し、

前記プロピレン-エチレンコポリマーは、90重量%を超える量で前記ポリマー組成物中に存在しており、

前記プロピレン-エチレンコポリマーは、90重量%を超えるプロピレン含量を含み、

前記プロピレン-エチレンコポリマーは、2.0重量%~5.0重量%の量のエチレン(ET)を含有する、

ポリマー組成物。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点3-1>

プロピレン-エチレンコポリマーのキシレン可溶画分(XS)について、本件発明8では「前記プロピレン-エチレンコポリマーが1.2~1.5のXS/ET比を有するように、キシレン可溶画分(XS)を有」すると特定されているのに対し、甲3先願発明ではそのような特定がない点

<相違点3-2>

プロピレン-エチレンコポリマーの流動特性及びメルトフローレートについて、本件発明8では「高い流動特性を有し」、「230°Cの温度かつ2.16kgの荷重で45g/10分を超えるメルトフローレートを有する」と特定されているのに対し、甲3先願発明においては、「MFR(温度230°C、荷重:2.16kg)が45g/10分」である点

<相違点3-3>

プロピレン-エチレンコポリマーの分子量分布(Mw/Mn)について、本件発明8では「2.8を超える分子量分布(Mw/Mn)を有する」と特定されているのに対し、甲3先願発明ではそのような特定がない点

イ 相違点3-1についての判断

先願明細書等の【0029】におけるPP2の製造方法をみても、PP2のキシレン可溶画分(XS)の量は不明であるから、XS/ET比も不明である。

また、先願明細書等の【0026】には、「3)キシレン可溶分の極限粘度(XSIV)

以下の方法によってポリプロピレン系樹脂のキシレン可溶分を得て、キシレン可溶分の極限粘度(XSIV)を測定した。

ポリプロピレンのサンプル2.5gを、o-キシレン(溶媒)を250mL入れたフラスコに入れ、ホットプレート及び還流装置を用いて、135°Cで、窒素パージを行いながら、30分間撹拌し、樹脂組成物を完全溶解させた後、25°Cで1時間、冷却した。これにより得られた溶液を、濾紙を用いて濾過した。濾過後の濾液を100mL採取し、アルミニウムカップ等に移し、窒素パージを行いながら、140°Cで蒸発乾固を行い、室温で30分間静置して、キシレン可溶分を得た。」という記載があることから、実施例のポリプロピレンがキシレン可溶分を有する可能性が高いと解されるものの、実際にキシレン可溶分及びその極限粘度を測定した結果は示されていない。

そして、先願明細書等には、他にプロピレン-エチレンコポリマーのXS/ET比やキシレン可溶画分(XS)について記載も示唆もされていない。

そうすると、甲3先願発明が、相違点3-1に係る特定を有すると認めることはできず、また、周知慣用技術等を考慮しても、相違点3-1に係る特定を有することが、課題解決のための具体化手段における微差に過ぎないともいえない。

ウ 小括

したがって、相違点3-2及び3-3について検討するまでもなく、本件発明8は、甲3先願発明と同一ないし実質同一ではない。

(3)本件発明9~11、13~18、20、21、24及び25について

本件発明9~11、13~18、20、21、24及び25は、本件発明8を直接又は間接的に引用しており、本件発明8の発明特定事項を全て含むものであるから、甲3先願発明とは、少なくとも相違点3-1において相違し、上記(2)イ及びウで説示したのと同様の理由により、本件発明9~11、13~18、20、21、24及び25は、甲3先願発明と同一ないし実質同一ではない。

(4)申立人の主張について

ア 申立人は、申立書において、「XS/ET比」について、概略以下の主張をしている。

甲3には、「PP2」の「キシレン可溶画分(XS)」の量について記載されていないが、甲3の実施例に記載された「PP2」は、甲1の実施例1に記載された「結晶性プロピレン-エチレンコポリマー」と、重合の際の触媒系が共通していることから、両プロピレン-エチレンコポリマーのMFR(甲1の実施例1は70.5g/10分、甲3発明は45g/10分)及びエチレン含量(甲1の実施例1は3.0重量%、甲3発明は2.5重量%)における若干の違いを考慮したとしても、特性が共通している蓋然性があり、甲3の実施例に記載された「PP2」は、甲1の実施例に記載された「結晶性プロピレン-エチレンコポリマー」と同様、「前記プロピレン-エチレンコポリマーが1.2~1.5のXS/ET比を有するように、キシレン可溶画分(XS)を有し」との要件を満たす蓋然性がある。

イ しかしながら、甲3先願発明の「PP2」と、甲1の実施例1に記載されたコポリマーとで、重合の際の触媒系が共通していたとしても、申立人も指摘するとおり、エチレン含量やMFRに違いがあることからすると、甲1の実施例1の特性をそのまま参照することはできず、甲3先願発明が、相違点3-1に係る特定を満たすものである蓋然性が高いとまではいえない。

したがって、上記主張は採用できない。

(5)申立理由3についてのまとめ

よって、本件発明8~11、13~18、20、21、24及び25は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由3によっては、本件発明8~11、13~18、20、21、24及び25に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび

上記第5のとおり、本件特許の請求項8~18及び20~27に係る特許は、当審で通知した取消理由通知(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。

さらに、他に本件特許の請求項8~18及び20~27に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

そして、本件特許の請求項1~7及び19に係る特許についての特許異議の申立ては、申立ての対象を欠くこととなったため、却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

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