結論テキスト
特許第7552611号の、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。
特許第7552611号の請求項1~8に係る特許を維持する。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 2025700310 |
|---|---|
| 審判種別 | 記載はありません。 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理 由
特許第7552611号(以下「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)11月4日(優先権主張 令和元年11月11日)を国際出願日として出願され、令和6年9月9日に特許権の設定登録がされ、同年同月18日に特許掲載公報が発行され、その請求項1~8に係る発明の特許に対し、令和7年3月17日付けで、田中 理紗(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後の主な手続の経緯は次のとおりである。
令和7年 5月20日付け 取消理由通知書
同年 7月18日 意見書・訂正請求書の提出(特許権者)
同年 8月 1日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 9月 3日 意見書の提出(申立人)
令和7年7月18日に提出された訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の「請求の趣旨」は、
「特許第7552611号の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~8について訂正することを求める。」
というものである。
本件訂正の内容は、訂正請求書の記載及び訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の記載からみて、次の訂正事項1~3からなるものであると認められる。下線は、訂正による記載の変更箇所を、「・・・」は記載の省略を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「下記(A)単量体、(B)単量体及び(C)単量体に由来する構成単位を有する共重合体を含む水性ポリマーエマルションであって、
前記水性ポリマーエマルション中の全カルボキシ基量の35~75モル%を、前記(A)単量体、前記(B)単量体及び前記(C)単量体を含む単量体混合物の重合により形成された粒子の内部に有し、かつ、前記水性ポリマーエマルション中の揮発性有機化合物の濃度が2000ppm以下である、水性ポリマーエマルション。
(A)単量体:炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体及び環状構造を有するラジカル重合性単量体よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体
(B)単量体:炭素数8~22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体
(C)単量体:不飽和カルボン酸単量体及びその無水物よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体」
と記載されているのを、
「下記(A)単量体、(B)単量体及び(C)単量体に由来する構成単位を有する共重合体を含む水性ポリマーエマルションであって、
前記(A)単量体が、下記のうち、炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体のみからなり、
前記水性ポリマーエマルション中の全カルボキシ基量の35~75モル%を、前記(A)単量体、前記(B)単量体及び前記(C)単量体を含む単量体混合物の重合により形成された粒子の内部に有し、
前記共重合体のガラス転移温度が-15°C以上であり、
かつ、前記水性ポリマーエマルション中の揮発性有機化合物の濃度が2000ppm以下である、水性ポリマーエマルション。
(A)単量体:炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体及び環状構造を有するラジカル重合性単量体よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体
(B)単量体:炭素数8~22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体
(C)単量体:
アクリル酸
及び
メタクリル酸
よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体」
に訂正する。
また、請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~8についても同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に、
「前記(C)単量体がメタクリル酸である、請求項1又は2に記載の水性ポリマーエマルション。」
と記載されているのを、
「前記(C)単量体がメタクリル酸
を含む
、請求項1又は2に記載の水性ポリマーエマルション。」
に訂正する。
また、請求項3の記載を直接又は間接的に引用する請求項4~8についても同様に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に、
「前記共重合体のガラス転移温度が-20~20°Cである、請求項1~3のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルション。」
と記載されているのを、
「前記共重合体のガラス転移温度が
-15
~20°Cである、請求項1~3のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルション。」
に訂正する。
また、請求項4の記載を直接又は間接的に引用する請求項5~8についても同様に訂正する。
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、下記の訂正事項1-1~1-3からなる。
訂正事項1-1
訂正前の請求項1において、「
前記(A)単量体が、下記のうち、炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体のみからなり、
」との記載を追加する訂正。
訂正事項1-2
訂正前の請求項1において、「
前記共重合体のガラス転移温度が-15°C以上であり、
」との記載を追加する訂正。
訂正事項1-3
訂正前の請求項1の「(C)単量体」における「不飽和カルボン酸単量体」及び「その無水物」との記載を、それぞれ、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」との記載とする訂正。
イ 訂正事項1-1について
訂正事項1-1は、訂正前の請求項1における「単量体(A)」が「炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体及び環状構造を有するラジカル重合性単量体よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体」であったところ、「環状構造を有するラジカル重合性単量体」の選択肢を削除し、「炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体のみから」なるものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項1-1は、上記のとおり、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下「特許明細書等」という。)の訂正前の請求項1における「単量体(A)」の範囲を限定するものであるから、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正に該当することは明らかであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
ウ 訂正事項1-2について
訂正事項1-2は、訂正前の請求項1に「前記共重合体のガラス転移温度が-15°C以上であり、」との記載を追加するものである。これは、請求項1における共重合体のガラス転移温度を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」に該当する。
また、訂正事項1-2は、特許明細書等の【0035】に記載された「本開示のエマルション中の共重合体のガラス転移温度は、-15°C以上がより好ましく」との記載に基づくものであり、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正に該当する。
さらに、訂正事項1-2は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
エ 訂正事項1-3について
訂正事項1-3は、訂正前の請求項1の「(C)単量体」が「不飽和カルボン酸単量体及びその無水物よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体」であったところ、「アクリル酸及びメタクリル酸よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体」に限定するものである。よって、訂正事項1-3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」に該当する。
また、訂正事項1-3は、特許明細書等の【0019】に記載された「(C)単量体は、不飽和カルボン酸単量体及びその無水物よりなる群から選択される少なくとも1種である。不飽和カルボン酸単量体及びその無水物の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸・・・を用いることができる。」との記載に基づくものであり、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正に該当する。さらに、当該訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
オ 訂正事項1のまとめ
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項3において、「メタクリル酸である」との記載が、「メタクリル酸のみからなる」ことを意味するのか、「メタクリル酸を含む」ことを意味するのか明確ではなかったところ、「メタクリル酸を含む」ことを意味するものであることを明確にするためにされた訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
また、訂正事項2は、上記のとおり、「メタクリル酸である」との記載が、「メタクリル酸を含む」ことであるのか否か不明瞭であったところ、それを明確にするものであるから、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正に該当することは明らかであり、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項4における「共重合体のガラス転移温度」が「-20~20°C」であったものを、「-15~20°C」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」に該当する。
また、訂正事項3は、上記(1)エにおいて示した特許明細書等の【0019】の記載に基づくものであり、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正に該当する。さらに、当該訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(4)独立特許要件について
本件特許異議申立においては、訂正前の全ての請求項1~8について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項1~8について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定する要件(いわゆる「独立特許要件」)は課されない。
(5)一群の請求項について
本件訂正に係る訂正前の請求項1~8について、その請求項2~8は請求項1を引用するものであるから、訂正前の請求項1~8は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してなされたものである。
以上のとおり、訂正事項1~3による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。
本件訂正により訂正された請求項1~8に係る発明(以下「本件訂正発明1」等といい、併せて「本件訂正発明」ともいうことがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1~8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
下記(A)単量体、(B)単量体及び(C)単量体に由来する構成単位を有する共重合体を含む水性ポリマーエマルションであって、
前記(A)単量体が、下記のうち、炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体のみからなり、
前記水性ポリマーエマルション中の全カルボキシ基量の35~75モル%を、前記(A)単量体、前記(B)単量体及び前記(C)単量体を含む単量体混合物の重合により形成された粒子の内部に有し、前記共重合体のガラス転移温度が-15°C以上であり、かつ、前記水性ポリマーエマルション中の揮発性有機化合物の濃度が2000ppm以下である、水性ポリマーエマルション。
(A)単量体:炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体及び環状構造を有するラジカル重合性単量体よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体
(B)単量体:炭素数8~22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体
(C)単量体:アクリル酸及びメタクリル酸よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体
【請求項2】
前記共重合体は、前記共重合体を構成する単量体に由来する構成単位の合計を100質量%として、前記(A)単量体に由来する構成単位を70~95質量%、前記(B)単量体に由来する構成単位を3~25質量%、及び前記(C)単量体に由来する構成単位を0.1~5質量%有する、請求項1に記載の水性ポリマーエマルション。
【請求項3】
前記(C)単量体がメタクリル酸を含む、請求項1又は2に記載の水性ポリマーエマルション。
【請求項4】
前記共重合体のガラス転移温度が-15~20°Cである、請求項1~3のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルション。
【請求項5】
前記水性ポリマーエマルション中の揮発性有機化合物の濃度が100ppm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルション。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルションを製造する方法であって、
前記(A)単量体、前記(B)単量体及び前記(C)単量体を含む単量体混合物を乳化重合して得られたエマルションを、減圧が可能な容器に仕込み、前記容器内のエマルションの温度を50°C~85°Cの範囲にし、前記容器内の圧力を12KPa~57KPaの範囲にし、かつ前記容器内を水が沸騰する状態に維持して、前記容器内に加圧水蒸気を供給することにより、前記エマルション中の揮発性有機化合物を除去する、水性ポリマーエマルションの製造方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルションを含有する、化粧料用水性ポリマーエマルション組成物。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルションを含有する化粧料。」
申立人は、証拠方法として、特許異議申立書(以下「申立書」という。)に添付して下記(11)に示す甲第1号証~甲第17号証(以下「甲1」等という。)を提出し、本件訂正前の請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由として、下記(1)~(9)に示す特許異議の申立ての理由(以下「申立理由」という。)を主張している。また、令和7年9月3日提出の意見書(以下、「申立人意見書」という。)において、本件訂正に伴い、下記(10)に示す申立理由を主張している。
申立理由の概要は、申立書の記載全体及び申立人意見書からみて、以下のとおりであると認められる。
(1)申立理由1-2(甲2に基づく新規性欠如)
本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、これらの請求項に係る特許は、同法同条同項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由1-3(甲3に基づく新規性欠如)
本件特許の請求項1、3~5、7及び8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された、甲3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、これらの請求項に係る特許は、同法同条同項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由1-4(甲4に基づく新規性欠如)
本件特許の請求項1、3~5、7及び8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された、甲4に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、これらの請求項に係る特許は、同法同条同項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)申立理由2-1(甲1に基づく進歩性欠如)
本件特許の請求項1、3及び5~8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された、甲1に記載された発明、並びに甲1、5、7~9、12及び13に記載された事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの請求項に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(5)申立理由2-2(甲2に基づく進歩性欠如)
本件特許の請求項1~6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された、甲2に記載された発明、又は甲2及び甲5~13に記載された事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの請求項に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(6)申立理由2-3(甲3に基づく進歩性欠如)
本件特許の請求項1~8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された、甲3に記載された発明、又は甲3及び甲5~13に記載された事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの請求項に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(7)申立理由2-4(甲4に基づく進歩性欠如)
本件特許の請求項1~8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された、甲4に記載された発明、又は甲4~13に記載された事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの請求項に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(8)申立理由3(サポート要件違反)
請求項1の単量体Cは、メタクリル酸及びアクリル酸以外の酸も含まれるところ、そのような不飽和カルボン酸を用いた場合において、カルボキシ基量の35~75モル%を粒子内部に有するものとする方法については明らかでないから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものでなく、本件特許の請求項1~8に係る特許は、同法同条同項に規定する要件を満たしていない特許に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(9)申立理由4(実施可能要件違反)
実施例として、具体的に示された水性ポリマーエマルション以外において、過度の試行錯誤なく、本件請求項1~8に係る発明の課題を解決できる水性ポリマーエマルションを製造できるとは認められないので、本件特許の請求項1~8に係る発明は、特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、本件特許の請求項1~8に係る特許は、同法同条同項に規定する要件を満たしていない特許に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(10)申立理由5(明確性要件違反)
訂正後の請求項1の「炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体のみからなる」との記載は、「環状構造を有するラジカル重合性単量体」が、共重合体から、「(A)単量体」以外の単量体として含まれる場合が除外されているのかが明確ではないから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものでなく、本件特許の請求項1~8に係る特許は、同法同条同項に規定する要件を満たしていない特許に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(11)異議申立書に添付された証拠
甲第1号証 :特許第4914590号公報
甲第2号証 :特開2005-008805号公報
甲第3号証 :特開2018-109047号公報
甲第4号証 :特表2015-503513号公報
甲第5号証 :特開2004-250597号公報
甲第6号証 :特開2002-060415号公報
甲第7号証 :特開昭54-151139号公報
甲第8号証 :特開平01-203313号公報
甲第9号証 :特開2007-001969号公報
甲第10号証:特開平03-182504号公報
甲第11号証:特表2016-507623号公報
甲第12号証:特願2021-556038号の令和6年7月18日付け意見書、インターネット、<URL:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7552611/15/ja>
甲第13号証:奥田平、稲垣寛編、「合成樹脂エマルジョン」、株式会社高分子刊行会、1978年1月30日、p.15-21
甲第14号証:特開2013-177589号公報
甲第15号証:「アクリル系エマルションの設計」、サイデン化学株式会社、[令和7年3月12日検索]、インターネット、<URL:https://www.saiden-chem.co.jp/t_sekkei_ema.html>
甲第16号証:「メタクリル酸 (Methacrylic Acid)」、三菱ケミカル株式会社、[令和7年3月12日検索]、インターネット、<URL:https://www.m-chemical.co.jp/products/departments/mcc/mma_pmma/product/1200315_9330.html>
甲第17号証:「フリーラジカル開始剤によって得られたポリ(メタクリル酸アリル)の合成と特性化」(Journal of Macromolecular Science, Part A, Pure and Applied Chemistry、45巻4/6号、p301-311の抄録)、国立研究開発法人科学技術振興機構、[令和7年3月12日検索]、インターネット、<URL: https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200902238201555335>
本件訂正前の請求項1~8に係る特許について、当審合議体が令和7年5月20日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
[取消理由1](明確性要件違反)
本件特許の特許請求の範囲の記載が、下記の点で、特許法第36条第6項第2号に適合するものでないから、本件特許の請求項3~8に係る特許は、同法同条同項に規定する要件を満たしていない特許に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
[取消理由2](新規性欠如)
本件特許の請求項1~4、7及び8に係る発明は、下記の甲2~甲4に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、上記請求項1~4、7及び8に係る特許は、同法同条同項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
[取消理由3](進歩性欠如)
本件特許の請求項1~8に係る発明は、下記の甲1~4に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、上記請求項1~8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
[取消理由4](サポート要件違反)
請求項1の単量体Cは、メタクリル酸及びアクリル酸以外の酸も含まれるところ、そのような不飽和カルボン酸を用いた場合において、カルボキシ基量の35~75モル%を粒子内部に有するものとする方法については明らかでないから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものでなく、本件特許の請求項1~8に係る特許は、同法同条同項に規定する要件を満たしていない特許に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
[取消理由5](実施可能要件違反)
請求項1の単量体Cは、メタクリル酸及びアクリル酸以外の酸も含まれるところ、そのような不飽和カルボン酸を用いた場合において、カルボキシ基量の35~75モル%を粒子内部に有するものとする方法については明らかでなく、本件特許の請求項1~8は、特許法第36条第4項第1号に適合するものでないから、本件特許の請求項1~8に係る特許は、同法同条同項に規定する要件を満たしていない特許に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
取消理由と申立理由の関係は以下のとおりである。
取消理由1:当審合議体が職権で通知したものである。
取消理由2:申立理由1-2、並びに申立理由1-3及び1-4のうちの請求項1、3、4、7及び8に対する申立理由を採用したものである。
取消理由3:申立理由2-1のうちの請求項1、3、5及び6に対する理由、及び申立理由2-2~2-4を採用したものである。
取消理由4:申立理由3を採用したものである。
取消理由5:申立理由4を採用したものである。
そして、取消理由2及び3において、提示した証拠は次のとおりである。(甲1~11は、申立人が提出した甲1~11と同じ文献である。)
甲1:特許第4914590号公報
甲2:特開2005-008805号公報
甲3:特開2018-109047号公報
甲4:特表2015-503513号公報
甲5:特開2004-250597号公報
甲6:特開2002-060415号公報
甲9:特開2007-001969号公報
甲10:特開平03-182504号公報
甲11:特表2016-507623号公報
文献A:特開2006-199921号公報
当審合議体は、本件請求項1~8に係る特許は、取消理由通知で通知した取消理由及び申立人が申し立てた申立理由によっては、取り消すことはできないものと判断する。その理由は以下のとおりである。
なお、以下の記載事項の摘記において、下線は特に注釈がない限り当審合議体が付したものであり、「・・・」は摘記の省略を示す。
(1)取消理由1(明確性要件違反)について
ア 取消理由通知における指摘
取消理由通知では、本件訂正前の請求項3における「(C)単量体がメタクリル酸である」との記載は、「(C)単量体」が、メタクリル酸のみからなることを意味するのか、メタクリル酸を含むことを意味するのか判然とせず、明確でない旨を指摘した。
イ 判断
これに対して、本件訂正後の請求項3においては、「(C)単量体」について「メタクリル酸を含む」とする訂正がされ、その範囲が明確になった。
ウ 小括
よって、本件訂正後の請求項3の記載は、明確であるので、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものである。
(2)取消理由2(新規性欠如)及び取消理由3(進歩性欠如)について
ア 引用文献の記載事項
(ア)甲1の記載事項
甲1には、次の事項が記載されている。
摘記1a:
「【請求項1】
アクリル酸メチル5~35重量%、炭素数4~12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル60~90重量%、並びにアクリル酸及びメタクリル酸を合計で2~15重量%、を含有してなる単量体混合物を、該単量体混合物全量に対して0.5~5重量%の共重合性乳化剤を用いて乳化共重合して得られる共重合体を含有してなる人体貼付用粘着剤用共重合体エマルション。」
摘記1b:
「【0022】
・・・
重合終了後、必要に応じて、残留単量体の除去、pH調整、濃縮等の後処理を行う。その方法も特に限定されない。」
摘記1c:
「【実施例】
【0035】
以下に、実施例により本発明を説明する。なお、
各例中の部及び%は特に断りのない限り、質量基準である。
また、各特性の評価方法は、以下のとおりである。
・・・
【0045】
[実施例1]
アクリル酸2-エチルヘキシル82部、アクリル酸メチル10部、メタクリル酸メチル4部、アクリル酸1部、メタクリル酸3部、これら全単量体100部に対してチオグリコール酸オクチル0.1部、反応性アンモニア中和型アニオン性界面活性剤
(第一工業製薬社製、商品名「アクアロンKH-10」)
2部をイオン交換水32部に溶解したものを加えて攪拌して乳化し、乳化物を得
、これを滴下ロートに入れた。
撹拌機、冷却管、温度計及び上記滴下ロートを取り付けた4つ口フラスコに、
イオン交換水75部及びアニオン性乳化剤
ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩(日本乳化剤社製、商品名「RA-9607」
)0.2部を仕込み、
フラスコ内部を窒素ガスで置換し、
撹拌しながら内温を80°Cまで昇温し、過硫酸カリウム0.1部を含有する3%水溶液を添加した。
5分後、上記滴下ロートから上記乳化物の滴下を開始し、これと並行して過硫酸カリウム0.35部を含有する3%水溶液を別の滴下口から3時間掛けて滴下した。
内温を80°Cに保ったまま、上記乳化物滴下終了60分後に1%t-ブチルハイドロパーオキサイド水溶液2部及び1%ロンガリット水溶液2部を3回に分けて30分おきに添加した。
更に撹拌を続けながら80°Cで60分間熟成した後、冷却し、アンモニア水で中和し、固形分45%のアクリル系共重合体エマルション
(人体貼付用粘着剤用共重合体エマルション)を得た。粒径測定装置(日機装社製、商品名「マイクロトラック」)で測定した平均粒子径は、0.1μmであった。
【0046】
得られたアクリル系共重合体エマルション(人体貼付用粘着剤用共重合体エマルション)に、消泡剤及びレベリング剤を、加え、更にアンモニア水でpHを8.0に調整し、更に粘度調整剤で18,000mPa・s(BL型粘度計、#4ローター使用、12rpm)に調整し、人体貼付用粘着剤組成物を得た。
この人体貼付用粘着剤組成物を、ポリエステルフィルム(東レ社製、商品名「ルミラー」)25μmに対して乾燥後の厚みが25μmとなるように塗布し、オーブンにより乾燥して粘着シート(人体貼付用貼付材)を得た。
この粘着シートについて、各特性を評価した。結果を表1に示す。
【0047】
[実施例2~3及び比較例1~2]
単量体組成を表1に示すように変更したほかは、実施例1と同様にして、人体貼付用粘着剤用共重合体エマルション及び人体貼付用粘着剤組成物を得た。結果を表1に示す。
表1に示す人体貼付用粘着剤組成物を用いて、実施例1と同様にして、粘着シート(人体貼付用貼付材)を得た。
この粘着シートについて、実施例1と同様に各特性を評価した。結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
71
108
0001432076000001.jpg
」
(イ)甲2の記載事項
甲2には、次の事項が記載されている。
摘記2a:
「【請求項1】
エチレン性不飽和二重結合および重合性カルボニル基を分子中に有するモノマー(a1)、(メタ)アクリルアミドないしマレイン酸アミド(a2)、スチレンないしビニルトルエン(a3)、メチルメタクリレート(a4)、エチレン性不飽和二重結合及びカルボキシル基を有するモノマー(a5)及び必要に応じてその他のラジカル重合性モノマー(a6)、乳化剤(a7)及び水性媒体(a8)を含有するモノマーエマルション(A)の一部と、前記モノマー(a1)~(a6)の合計100重量部に対して0.3~1重量部の重合開始剤(B)、乳化剤(C)及び水性媒体(D)を仕込んだ反応容器中に、前記モノマーエマルション(A)の残り及びメルカプトプロピオン酸エステル化物(E)を滴下し、乳化重合してなるポリマーエマルション(F)、
及び2個以上のヒドラジノ基を含む化合物(G)を含有することを特徴とする水性接着剤組成物。」
摘記2b:
「【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、残留モノマー臭及び重合時に発生する凝集物が少ない接着剤であって、
光沢、耐水性に優れる積層物を形成し得る接着剤を提供することである。」
摘記2c:
「【0050】
実施例1
容積2Lの
4つ口フラスコに
還流冷却器、攪拌機、温度計、窒素導入管、原料投入口を用意。
イオン交換水230部
、アクアロンKH-10〔第一工業製薬(株)製
アニオン性反応性乳化剤〕1部、
ハイテノール08E〔第一工業製薬(株)製
アニオン性反応性乳化剤〕1部を入れ、
窒素を導入しつつ攪拌しながら、内温を73°Cに加温した。
一方イオン交換水230部、アクリル酸2-エチルヘキシル(以後、2-EHAと略す)50部、メタクリル酸メチル(以後、MMAと略す)23部、アクリル酸ブチル(以後、BAと略す)364.5部、スチレン(以後、Stと略す)22.5部、メタクリル酸(以後、MAAと略す)10部、アクリル酸(以後、AAと略す)5部,ダイアセトンアクリルアマイド(以後、DAAmと略す)20部、アクリルアミド(以後AAmと略す)5部、アクアロンKH-10〔第一工業製薬(株)製アニオン性反応性乳化剤〕9部、ハイテノール08E〔第一工業製薬(株)製アニオン性反応性乳化剤〕9部をホモミキサーで乳化し、モノマーエマルジョンを作製した。
上記の容器中に、モノマーエマルジョンの2%をプレチャージし、同時に5%過硫酸アンモニウム水溶液70部を添加して乳化重合を開始した。
次いで10分後に、別途モノマーエマルジョンの残りにメルカプトプロピオン酸メトキシブチル5部添加し再乳化したものを4時間かけて滴下した
。この間容器内は80°Cに保った。滴下終了後、3時間80°Cに保ち、熟成を行った。その後冷却を開始し、30°Cまで冷却し
ポリマーエマルジョンを得た。
この得られたポリマーエマルジョンに、アンモニア水を10部、アジピン酸ジヒドラジド20.6部(DAAm1モルに対して1モル)を添加して一液型水性接着剤を得た。
得られた一液型水性接着剤の固形分濃度は50.6%、pH7、粘度260mPa・sであった。単量体組成、性状、及び樹脂のガラス転移点(計算値)を表1に示した。
【0051】
実施例1~5、比較例1~9の単量体組成、性状、及び樹脂のガラス転移点(計算値)を表1に示した。
【0052】
実施例2
実施例1において、ポリマーのガラス転移点(計算値)を-15°Cに変更した以外は実施例1と同様に行い、水性接着剤を得た。
・・・
【0068】
(臭気評価) 得られた各接着剤を官能的評価及びガスクロマトグラフィーにより残留モノマー量を測定し、下記の基準で評価した。
○=殆ど臭わない及び200ppm以下
△=やや臭う及び200~600ppm
×=臭い及び600ppm以上
・・・
【表1】
170
111
0001432076000002.jpg
」
(ウ)甲3の記載事項
甲3には、次の事項が記載されている。
摘記3a:
「【請求項1】
重合体を含むパーソナルケア組成物であって、
(a)1以上の重合体であって、重合単位として
(i)前記重合体の重量を基準として75重量%~35重量%の、ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、メタアクリル酸およびスチレンからなる群から選択される2つ以上と、
(ii)前記重合体の重量を基準として25重量%~65重量%の、エチルヘキシルアクリレート、べヘニルメタクリレート、ラウリルアクリレート及びべヘニルアクリレートからなる群から選択される1以上の疎水性モノマーと、
(iii)架橋剤と、
を含む、1以上の重合体と、
(b)サンケア有効成分以外の1以上のパーソナルケア有効成分と、を含む、
パーソナルケア組成物。
・・・
【請求項3】
請求項1に記載のパーソナルケア組成物であって、前記パーソナルケア有効成分が、保湿剤等の保湿有効成分、皮膚軟化剤、抗酸化剤、植物成分、皮膚美白剤、パーソナルケア用クレンジング有効成分、パーソナルケア用洗浄有効成分、ビタミン、葉酸誘導体、角質除去剤、デオドラント有効成分、芳香性有効成分、皮膚角質除去有効成分、パーソナルケア用局所薬用有効成分、パーソナルケア用化粧剤、ヘアコンディショナー、フェイシャルケア有効成分、顔料、着色料シリコーン、局所用製剤、パーソナルケア用赤外線(IR)吸収剤、にきび用薬剤、及びこれらの組み合わせ、のうち1つ以上である、パーソナルケア組成物。」
摘記3b:
「【0004】
一の実施形態において、本発明は、重合体を含むパーソナルケア組成物であって、
(a)1以上の重合体であって、重合単位として(i)前記重合体の重量を基準として75重量%~35重量%の、C1-C4(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、スチレン、又は置換スチレン、のうち少なくとも1つから選択される1以上の(メタ)アクリレートモノマーと、(ii)前記重合体の重量を基準として25重量%~65重量%の、アルキル鎖長がC8~C22である疎水的に置換された(メタ)アクリレートモノマーを含む1以上の疎水性モノマーと、
(iii)任意で架橋剤と、を含む、1以上の重合体と、(b)サンケア有効成分以外の1以上のパーソナルケア有効成分と、を含む、パーソナルケア組成物を提供する。この結果得られる重合体は、優れた美的印象と高い膜形成性を有し、また、水の存在下における有効成分の保持性に優れる。」
摘記3c:
「【実施例】
【0028】
本明細書内で説明される実施例において、以下の略称が用いられる。
BA=アクリル酸ブチル
Sty=スチレン
MAA=メタクリル酸
MMA=メチルメタクリレート
EHA=エチルヘキシルアクリレート
SMA=ステアリルメタクリレート
CEMA=セチル-エイコシルメタクリレート
ALMA=アリルメタクリレート
【0029】
実施例1
本発明の1段階重合体が表1に列挙される。
【表1】
23
126
0001432076000003.jpg
標準の乳化重合法を用いる。
例えば、オーバーヘッド撹拌機と、熱電対と、コンデンサと、モノマーと開始剤の投入用の注入口と、を備えた2リットルの丸
底フラスコに、183.5gの脱イオン水と、26.6gの50%
CAVASOLTM W7 M TL(Wacker Fine Chemicalsから入手の
シクロデキストリン
)と、
6.1gの30%
DISPONIL(商標)FES 32(Cognis)
界面活性剤と、1.8gの炭酸ナトリウムと、を投入する。
フラスコを撹拌し、92°Cに加熱する。
モノマーエマルションを調製する。363gの脱イオン水と13.6gのDISPONIL(商標)FES 32界面活性剤とを適切な容器に投入し
、撹拌用にセットする。界面活性剤が水と同化した後、
175gのBAと、203gのスチレンと、105gのMAAと、217gのSMAとを、撹拌混合物に徐々に加える。コフィード(cofeed)触媒溶液も、0.69gの過硫酸ナトリウムと96gの脱イオン水とを投入することで調製する。
【0030】
92°Cの反応温度で、上記調製したモノマーエマルション25gを、11グラムの脱イオン水リンスと共に釜に投入し、その後2.11gの過硫酸ナトリウムと12gの水との開始剤溶液を投入する。
【0031】
初期重合後、85°Cで、モノマーエマルションのコフィードを開始し、毎分6.33gの速度で10分間、及び毎分12.7gの速度で75分間行う。同時に、触媒のコフィードも開始し、毎分1.1gで88分間行う。モノマーエマルションと触媒とのコフィードが完了すると、残留モノマーの量を減らすために反応混合物をチェースする。結果として得られた重合体1ラテックスは、以下の特性を有する。
固体は、ラテックスが蒸発乾燥された後に残った固形物の重量であり、ラテックスの総重量のパーセンテージである。粗粒は、メッシュ袋に保持された物体の量である。平均粒子径は、Brookhaven Instruments Corp.のBI-90機器で測定した。残留モノマーの量は、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーによって測定した。
固体:44.7%
粗粒:<100ppm
平均粒子径:205nm
残留スチレン:7ppm
【0032】
重合体2は、適宜変更を加えたほかは、上記と該同様にして作成された。
・・・
【0034】
実施例3
本発明の2段階重合体が表3に列挙される。
【表3】
71
131
0001432076000004.jpg
標準の乳化重合法を用いる。例えば、重合体9の場合、オーバーヘッド撹拌機と、熱電対と、コンデンサと、モノマーと開始剤の投入用の注入口と、を備えた2リットルの丸底フラスコに、252gの脱イオン水と、8gの23%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムと、2gの炭酸ナトリウムと、を投入する。フラスコを撹拌し、92°Cに加熱する。モノマーエマルション(第1段階)を以下のように調製する。146gの脱イオン水と5.6gのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(23%)とを適切な容器に投入し、撹拌用にセットする。界面活性剤が水と同化した後、90gのBAと、180gのEHAと、174gのMMAと、6.8gのMAAと、0.34gのALMAとを、撹拌混合物に徐々に加える。コフィード触媒溶液も、0.86gの過硫酸ナトリウムと50gの脱イオン水とを投入することで調製する。
【0035】
88°Cの反応温度で、上記調製されたモノマーエマルション19gを、5gの脱イオン水リンスと共に釜に投入し、その後1.9gの過硫酸ナトリウムと15gの水との開始剤溶液を投入する。初期重合後、85°Cで、第1段階モノマーエマルションのコフィードを開始し、毎分4.72gの速度で15分間、及び毎分10.1gの速度で83分間行う。同時に、触媒のコフィードも開始し、毎分0.61gで88分間行う。モノマーエマルションと触媒とのコフィードの完了後、反応混合物を10分間保持する。
【0036】
第1段階のフィードの間に、第2段階モノマーエマルションと触媒とを調製する。第2段階モノマーエマルションは以下のように調製する。52gの脱イオン水と2gのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(23%)とを適切な容器に投入し、撹拌用にセットする。界面活性剤が水と同化した後、112gのMMAと、1.1gのMAAと、0.09gのALMAとを、撹拌混合物に徐々に加える。第2段階コフィード触媒溶液も、0.12gの過硫酸ナトリウムと14gの脱イオン水とを投入することで調製する。第1段階の保持の完了後、第2段階モノマーエマルションのコフィードを開始し、毎分6.55gの速度で29分間行う。
【0037】
第2段階モノマーエマルションと触媒とのコフィードの完了後、残留モノマーの量を減らすために反応混合物をチェースする。結果として得られたラテックスは、以下の特性を有する。
固体:43.5%
粗粒:<100ppm
平均粒子径:103nm
残留EHA:29ppm
【0038】
重合体3~8は、適宜変更を加えたほかは、上記と該同様にして作成された。
【0039】
実施例4
表4に重量パーセントで列挙された成分から、本発明のパーソナルケア製剤を調製する。比較例の製剤は本発明の1又は複数の重合体を含まない。
【表4】
92
147
0001432076000005.jpg
以下のとおり化粧製剤を調製する。全てのフェーズA成分を容器に投入し、75°Cに加熱する。全てのフェーズB成分を別の容器に投入し、75°Cに加熱して油相を形成する。その後、75°CでpHを7未満に調節し、フェーズAとフェーズBとを混合し、フェーズC(あれば)を加える。製剤を45°Cに冷却し、フェーズD成分を加え、その後製剤を室温まで放冷する。」
(エ)甲4の記載事項
甲4には、次の事項が記載されている。
摘記4a:
「【請求項1】
(a)1種または複数のポリマーであって、重合単位として、
(i)前記ポリマーの重量に基づいて、重量で75%から35%の、少なくとも1種のC1~C4の(メタ)アクリル酸塩、(メタ)アクリル酸、スチレン、または置換されたスチレンから選択される1種または複数の(メタ)アクリル酸モノマー、および
(ii)前記ポリマーの重量に基づいて、重量で25%から65%の、アルキル鎖長がC8からC22の疎水的に置換された(メタ)アクリル酸モノマーを含む、1種または複数の疎水性のモノマー、ならびに
(iii)場合によっては架橋剤、
を含む前記ポリマー、ならびに
(b)少なくとも1種のサンケア活性物質、
を含むポリマーを含むパーソナルケア組成物。」
摘記4b:
「【実施例】
【0030】
本明細書に記載される実施例において、以下の略記が用いられる:
BA=アクリル酸ブチル
Sty=スチレン
MAA=メタクリル酸
MMA=メタクリル酸メチル
EHA=アクリル酸エチルヘキシル
SMA=メタクリル酸ステアリル
CEMA=メタクリル酸セチル-エイコシル
ALMA=メタクリル酸アリル
【0031】
実施例1
本発明の1段階ポリマーを表1に記載する:
【表1】
26
147
0001432076000006.jpg
標準的乳化重合法を用いる
。例えば、塔頂撹拌機、熱電対、凝縮装置ならびにモノマーおよび開始剤の追加のための注入口を備えた2リットルの丸底
フラスコに、183.5gの脱イオン水、26.6gの50%
CAVASOL(商標) W7 M TL(Wacker Fine Chemicalsからの
シクロデキストリン)、6.1gの30%
DISPONIL(登録商標) FES 32(Cognis)
界面活性剤および1.8gの炭酸ナトリウムを入れる
。フラスコを撹拌して92°Cに加熱する。
モノマーエマルションを、363gの脱イオン水および13.6gのDISPONIL(登録商標) FES 32界面活性剤を適切な容器に入れることにより調製し、撹拌を始める。界面活性剤を水に混合した後、175gのBA、203gのスチレン、105gのMAAおよび217gのSMAを撹拌している混合物にゆっくり加える。0.69gの過硫酸ナトリウムおよび96gの脱イオン水を入れることにより共供給(cofeed)触媒溶液も調製する
。
【0032】
反応温度92°Cで、上記で調製したモノマーエマルション25gを11グラムの脱イオン水リンス液と共に釜に入れ、続いて過硫酸ナトリウム2.11gおよび水12gの開始剤溶液を入れる。
【0033】
初期重合後に85°Cで、毎分6.33gの速度で10分間および毎分12.7gで75分間、モノマーエマルション共供給を開始する。同時に、毎分1.1gの速度で88分間、触媒共供給を開始する。モノマーエマルションおよび触媒共供給の完了時に、残留モノマーの量を減らすために反応混合物を追い出す。得られるポリマー1ラテックス
は、以下の特徴を有する。固形分は、ラテックスの総重量の割合として、ラテックスを蒸発乾固させた時に残る固形物質の重量である。粗粒は、メッシュバッグ内に保持される物質の量である。平均粒径は、Brookhaven Instruments Corp.のBI-90機器で測定した。残留モノマー量は、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーによって測定した。
固形分:44.7%
粗粒:<100ppm
平均粒径:205nm
残留スチレン:7ppm
【0034】
ポリマー2を実質的に上で述べた通りに作成し、適切な変更を行った。
・・・
【0037】
実施例3
本発明の2段階ポリマーを表3に記載する:
【表3】
77
142
0001432076000007.jpg
標準的乳化重合法を用いる。例えば、ポリマー9については、252gの脱イオン水、8gの23%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムおよび2gの炭酸ナトリウムを、塔頂撹拌機、熱電対、凝縮装置ならびにモノマーおよび開始剤の追加のための注入口を備えた2リットルの丸底フラスコに入れる。フラスコを撹拌して92°Cに加熱する。146gの脱イオン水および5.6gのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(23%)を適切な容器に入れることによりモノマーエマルション(段階1)を調製し、撹拌を開始する。界面活性剤を水に混合した後、90gのBA、180gのEHA、174gのMMA、6.8gのMAAおよび0.34gのALMAを撹拌している混合物にゆっくり加える。0.86gの過硫酸ナトリウムおよび50gの脱イオン水を入れることにより共供給触媒溶液も調製する。
【0038】
反応温度88°Cで、上記で調製したモノマーエマルション19gを脱イオン水リンス液5gと共に釜に入れ、続いて過硫酸ナトリウム1.9gおよび水15gの開始剤溶液を入れる。初期重合後に85°Cで、毎分4.72gの速度で15分間および毎分10.1gで83分間、段階1のモノマーエマルション共供給を開始する。同時に、毎分0.61gの速度で88分間、段階1の触媒共供給を開始する。モノマーエマルションおよび触媒共供給の完了時、反応混合物を10分間保持する。
【0039】
段階1の供給中に、段階2のモノマーエマルションおよび触媒を調製する。52gの脱イオン水および2gのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(23%)を適切な容器に入れることにより段階2のモノマーエマルションを調製し、撹拌を開始する。界面活性剤を水に混合した後、112gのMMA、1.1gのMAA、および0.09gのALMAを撹拌している混合物にゆっくり加える。0.12gの過硫酸ナトリウムおよび14gの脱イオン水を入れることにより段階2の共供給触媒溶液も調製する。段階1の保持が完了したらすぐ、毎分6.55gの速度で29分間、段階2のモノマーエマルション共供給を開始する。
【0040】
段階2のモノマーエマルションおよび触媒の共供給の完了時、残留モノマーの量を減らすために反応混合物を追い出す。得られるラテックスは、以下の特徴を有する。
固形分:43.5%
粗粒:<100ppm
平均粒径:103nm
残留EHA:29ppm
ポリマー3~8を実質的に上で述べた通りに作成し、適切な変更を行う。
【0041】
実施例4
審美的検査および耐水性評価を試験するために、表4に重量パーセントで記載する構成成分で日焼け止め基剤(1)および非イオン性日焼け止め基剤(2)を調製する。
【表4】
118
146
0001432076000008.jpg
相A成分全てを容器に加え、75°Cに加熱することにより日焼け止め配合物を調製する。相B成分全てを別の容器に加え、75°Cに加熱して確実にオキシベンゾンを十分溶解させる。次いで相AおよびBを高せん断(high sheer)で混合する。溶液を55~60°Cに冷却し、相D成分を加える。温度が45°Cに達した時、相C成分を加える。温度が40°Cを下回った時、相Eを加える。pHを6.0~7.0に調節する。」
(オ)甲5の記載事項
甲5には、次の事項が記載されている。
摘記5a:
「【請求項1】
残留揮発成分が50ppm以下であり
、固形分濃度が40~70重量%である(メタ)
アクリル系樹脂水性分散液
。」
摘記5b:
「【0031】
上記の気体の流通処理によって得られる水性分散液の
残留揮発成分量
(水性分散液単位重量あたりの揮発成分重量をいい、ppm単位で示す。)は、
50ppm以下がよく
、45ppm以下が好ましい。50ppm以下とすることにより、得られる水性分散液は脱臭され、異臭を感じにくくなる。50ppmより多いと、異臭があり、化粧品等の用途には不適当である。」
(カ)甲6の記載事項
甲6には、次の事項が記載されている。
摘記6a:
「【請求項1】 水を媒体とし、この媒体に1種以上のモノマーを分散乳化させ、重合開始剤を加えて乳化重合を行うエマルジョン樹脂の製造法において、
前記重合反応が終了した際に、水蒸気を前記媒体中に吹き込むことを特徴とするエマルジョン樹脂の製造法
。
・・・
【請求項3】 酢酸ビニルモノマー単独、又は酢酸ビニルモノマーと該酢酸ビニルモノマーと共重合可能なモノマーとを、保護コロイド・乳化剤の存在下、重合開始剤を用いて乳化重合する酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの製造法において、重合開始剤を全量滴下終了後に、
撹拌中のエマルジョンに水蒸気を直接吹き込んで加熱することを特徴とするエマルジョン樹脂の製造法。
【請求項4】 請求項1~3の何れかに記載の製造法において、
加熱により発生する蒸発成分を、排気装置により強制的に排除することを特徴とするエマルジョン樹脂の製造法。
」
摘記6b:
「【0025】〔実施例1〕乳化重合の完了したエマルジョン中に1kg/cm
2
圧の
水蒸気を直接吹き込みながら90~95°Cの温度を維持し
、排気装置により20m
3
/minの風量の排気ガスを吸引し、48時間加熱・保持を行った。蒸発した水分は、直接吹き込まれる水蒸気により自然補充される形となった。」
(キ)甲9の記載事項
甲9には、次の事項が記載されている。
摘記9a:
「【0064】
上記重合工程により得られたウレタン系複合樹脂(A)の水性エマルジョンには、
未反応の(b)成分が残存しており、これに由来する臭気を抑えるために、その濃度を100ppm以下とする必要があり、70ppm以下であるとより好ましく、0に近いほど好ましい。
【0065】
(b)成分の濃度を低減させる方法としては、例えば、水性エマルジョンを加熱することにより残存する(b)成分を揮発させて取り除く方法や、エマルジョンの気相部に空気等の気体を流通させる方法、エマルジョンに水蒸気を吹き込む方法、(b)成分を減圧留去する方法等があげられる(以下、この工程を「脱臭工程」と称する。)。
【0066】
具体的には、水性エマルジョンを入れた容器を直接加熱する方法や、
水蒸気及び/又は気体を水性エマルジョン中に必要に応じて攪拌しながら吹き込みながら残留する重合性単量体(b)を除去する方法がある。
また、水性エマルジョンを加熱しつつ水蒸気及び/又は気体を吹き込んだり、気相部に気体を流通させたりするとより効果的に(b)成分の濃度を低減させることができる。
【0067】
上記の水性エマルジョンを入れた容器を加熱する場合、水性エマルジョンの液温は40°C以上であると好ましく、
60°C以上であるとより好ましい。一方で、その液温は、水性媒体の沸点以下である必要があり、100°C以下であると好ましい。また、気体を吹き込んだり流通させたりする場合は、その気体の温度は20°C以上、100°C以下であると好ましく、60°C以上、95°C以下であるとより好ましい。なお、水蒸気を吹き込む場合も、水性エマルジョンの液温は上記の条件を満たしていることが好ましい。
・・・
【0070】
上記のようにして、(b)成分の残留量を100ppm以下とした水性エマルジョン組成物は、整髪料等の化粧料に用いると、臭気がほとんど無い化粧料として用いることができる。さらにこの発明にかかる化粧料用水性エマルジョン組成物は、髪の毛の整髪に用いた場合に、熱戻り性(セット性を含む)が良好で、また、髪のすべり等の感触も良好なものとなる。」
(ク)甲10の記載事項
甲10には、次の事項が記載されている。
摘記10a:
「(実施例1)
・・・
次いで、得られた
共重合体ラテックス
を水酸化ナトリウムを用いてpH7に調整した後に、
水蒸気を吹き込んで未反応単量体を除去し
、さらに加熱減圧蒸溜によって共重合体ラテックスの固形分濃度を50%とした。このようにして実施例の共重合体ラテックスを得た。」
(ケ)甲11の記載事項
甲11には、次の事項が記載されている。
摘記11a:
「【0027】
・・・全て添加した後に、混合物を70~90°Cで1~2時間保持して
後重合を実施する。
次に、混合物を65~85°Cに冷却し、t-ブチルヒドロペルオキシド溶液(10%)62.0gとアセトン重亜硫酸ナトリウム(13%)69.2gとを同時に滴加し、かつ1~3時間、反応させる。次に、水酸化ナトリウム溶液(10%)60.0gをゆっくり攪拌しながら添加し、生じる混合物を室温へ冷却し、殺真菌剤ACTICIDE MV13.3gを添加し、次に固体含量を、脱イオン水によって48~50%へ調節する。次に、pH値を水酸化ナトリウム溶液(10%)によって7~9へ調節する。最後に、
生成物中の揮発性有機化合物をスチームストリッピングによって除去する。
」
(コ)文献Aの記載事項
文献Aには、次の事項が記載されている。
摘記Aa:
「【請求項2】
沸点が105°Cを超えるアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステル単量体からなる単位を有し、かつ酸価が0.05meq/g以上である共重合体中の酸性基の一部又は全部を塩基で中和して得られる重合体塩及び水性媒体からなる共重合体水性液を、
減圧蒸留の可能な容器に仕込み、撹拌下に、共重合体液の温度を55~85°Cとしかつ該容器内を水が沸騰する圧力に維持した状態で、該容器内の共重合体水性液中に加圧水蒸気を吹き込むとともに、該容器内の気相部の水蒸気及び該共重合体水性液から気化した揮発性有機化合物を排気ポンプにより系外に除去することを特徴とする請求項1記載の共重合体水性液の製造方法。
」
摘記Ab:
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記のとおり、(メタ)アクリル酸エステル/スチレン系共重合体の水性液を用いた不織布バインダーや、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の水性液を用いた粘着剤やコーティング剤には臭気が残り易いという問題があった。
本発明においては、臭気成分の残らない(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の水性液を安定性良く製造して提供することを課題とした
。」
イ 甲1を主引用例とした場合について
(ア)甲1に記載された発明
甲1には、請求項1、実施例1及び実施例3(【0045】~【0047】)並びに表1の記載(摘記1a及び1c)からみて、実施例3として次の発明が記載されていると認められる。
「下記の全単量体100部に対して、チオグリコール酸オクチル0.1部と反応性アンモニア中和型アニオン性界面活性剤2部をイオン交換水32部に溶解したものを加えて乳化して乳化物を得、
イオン交換水75部及びアニオン性乳化剤0.2部を仕込み、過硫酸カリウム水溶液0.1部を添加して昇温し、さらに上記乳化物及び過硫酸カリウム水溶液を滴下して重合し、
アンモニア水で中和して得られたアクリル系共重合体エマルション。
単量体組成(部)
アクリル酸2-エチルへキシル 66
アクリル酸メチル 30
アクリル酸 1
メタクリル酸 3」
(以下「甲1発明」という。)
(イ)本件訂正発明1について
a 対比
本件訂正発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「アクリル酸メチル」は、本件訂正発明1における「(A)単量体:炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体及び環状構造を有するラジカル重合性単量体よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体」に相当する。
また、甲1発明のアクリル系共重合体は、構成される単量体のうち、上記「(A)単量体」に該当する単量体は、アクリル酸メチルのみであるから、本件訂正発明1の「(A)単量体が、下記のうち、炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体のみからなる」ことにも相当する。
甲1発明における「アクリル酸2-エチルへキシル」は、本件訂正発明1における「(B)単量体:炭素数8~22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体」に相当する。
甲1発明における「アクリル酸」及び「メタクリル酸」は、本件訂正発明1における「(C)単量体:アクリル酸及びメタクリル酸よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体」に相当する。
甲1発明における「アクリル系共重合体エマルション」の「アクリル系共重合体」は、上記「アクリル酸メチル」、「アクリル酸2-エチルへキシル」、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」を重合して得られた重合体であるから、本件訂正発明1における「(A)単量体、(B)単量体及び(C)単量体に由来する構成単位を有する共重合体」に相当する。
また、甲1発明における「アクリル系共重合体エマルション」は、水中で乳化重合して得られたものであるから、本件訂正発明1における「水性ポリマーエマルション」にも相当する。
そうすると、本件訂正発明1と甲1発明は、
「下記(A)単量体、(B)単量体及び(C)単量体に由来する構成単位を有する共重合体を含む水性ポリマーエマルションであって、
前記(A)単量体が、下記のうち、炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体のみからなる、水性ポリマーエマルション。
(A)単量体:炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体及び環状構造を有するラジカル重合性単量体よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体
(B)単量体:炭素数8~22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体
(C)単量体:アクリル酸及びメタクリル酸よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体」
である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1-1
本件訂正発明1では、「水性ポリマーエマルション中の全カルボキシ基量の35~75モル%を、前記(A)単量体、前記(B)単量体及び前記(C)単量体を含む単量体混合物の重合により形成された粒子の内部に有」するのに対し、甲1発明では、そのような特定はされていない点。
相違点1-2
本件訂正発明1では、「水性ポリマーエマルション中の揮発性有機化合物の濃度が2000ppm以下」であるのに対し、甲1発明では、そのような特定はされていない点。
相違点1-3
本件訂正発明1では、「共重合体のガラス転移温度が-15°C以上」であるのに対し、甲1発明では、そのような特定はされていない点。
b 相違点の判断
(a)相違点1-1について
本件明細書【0050】には、
「<不飽和カルボン酸及びその無水物の分布の制御について>
重合後の不飽和カルボン酸及びその無水物の分散粒子内での分布は、不飽和カルボン酸及びその無水物の種類や添加条件を選ぶことにより所望の分布が得られる。例えば、
不飽和カルボン酸、特にアクリル酸のような親水性が極めて大きい単量体は、他の単量体よりも分散粒子の表面又はエマルションの水相に分布しやすい
。・・・。
メタクリル酸など、アクリル酸よりも親水性が小さい単量体は、添加の初期から完了まで添加割合を一定に近いものとしてもよいし、添加割合が前半の方が後半より大きくなる様に行ってもよい。
」
との記載があり、不飽和カルボン酸の種類に応じて重合体の粒子内部に存在する割合がある程度決まるものと解される。
また、本件実施例1~21では、不飽和カルボン酸単量体としてメタクリル酸のみを含む一段重合で得られたポリマーエマルションにおける、全カルボキシ基のうちの重合体粒子の内部に有するカルボキシ基の割合(以下、「重合体内部のカルボキシ基の割合」ということがある。)が42.9モル%~58.2モル%であり、平均すると50.3モル%であるから、不飽和カルボン酸単量体として、メタクリル酸のみを一段階で重合させた場合の重合体内部のカルボキシ基の割合は50.3モル%程度となると解される。
また、アクリル酸のみを一段階で重合させた同カルボキシ基の割合は、比較例3の記載からみて18.1モル%となると解される。
そうすると、メタクリル酸とアクリル酸を併用した場合は、それぞれの重量比にそれぞれの上記重合体内部のカルボキシ基の割合(50.3モル%、18.1モル%)を乗じて合計した値がおおよその重合体内部のカルボキシ基の割合となると推定される。
そこでそのように本件明細書の実施例22の値を推定すると、
0.503×1/3+0.181×2/3≒0.287
28.7モル%となり、実測値である28.4モル%と近似しているので、上記のように推定することはある程度合理性があると解される。
そして、このような推定方法により、甲1発明の重合体内部のカルボキシ基の割合について推定すると、メタクリル酸3部及びアクリル酸1部を重合させているので(「部」は甲1【0035】(摘記1c)の記載より質量に基づく量である。)、
0.503×3/4+0.181×1/4=0.423
と算出され、甲1発明の重合体内部のカルボキシ基の割合は42.3モル%程度となると認められる。
そうすると、相違点1-1は実質的な相違点とはいえない。
(b)相違点1-2について
甲1【0022】(摘記1b)には、重合終了後に残留単量体を除去することが示唆されている。
ここで、甲2(摘記2b及び2c)には接着剤の臭気等の問題から残留モノマー量を200ppm以下とすることが記載され(下記のウ(イ)b(b)でも述べるように、揮発性成分の大部分は、その原料からみて残留モノマーに由来すると解される。)、また、甲5(摘記5a及び5b)には、アクリル系樹脂水性分散液の残留揮発成分量を50ppm以下とすることが記載されているとおり、水性ポリマーエマルション中の揮発性有機化合物の濃度を2000ppm以下とすることは周知である。
よって、甲1発明において、揮発性有機化合物の濃度を2000ppm以下とすることは当業者が容易になし得たことである。
(c)相違点1-3について
甲1のアクリル系共重合体エマルションのガラス移転温度は、単量体組成及び各単量体の単独重合体のガラス転移温度を本件明細書【0036】に記載の式に当てはめて、そのガラス転移温度を計算すると、約-46°C程度となると認められる。
そして、甲1発明において、アクリル系共重合体エマルションのモノマーを変更してガラス移転温度を変更する動機付けはなく、甲1発明のアクリル系共重合体エマルションのガラス転移温度を-15°C以上とすることは当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
c 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明並びに甲2及び甲5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、甲1に記載された発明を、実施例1、実施例2、比較例1、比較例2及び特許請求の範囲(摘記1a及び1c)に基づいて認定しても、本件訂正発明1は、実施例3に基づいて認定した甲1発明と同様の相違点を有し、その判断は上述したものと同様である。
(ウ)本件訂正発明3、5及び6について
本件訂正発明3、5及び6は、本件訂正発明1の水性ポリマーエマルジョンについて、さらに限定した発明である。
上述のとおり、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明並びに甲2及び甲5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件訂正発明1がより限定された本件訂正発明3、5及び6も、甲1に記載された発明並びに甲2及び甲5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 甲2を主引用例とした場合について
(ア)甲2に記載された発明
甲2には、請求項1の記載、実施例1及び実施例2の製造方法に関する記載、並びに表1の実施例2の記載(摘記2a及び2c)からみて、次の発明が記載されていると認められる。
「容器中にイオン交換水230部とアニオン性反応性乳化剤2部を混合して加温し、
イオン交換水230部、下記の単量体組成からなるモノマー全500部、及びアニオン性反応性乳化剤18部を乳化してモノマーエマルションを作成し、
上記容器中に、モノマーエマルションをプレチャージし、5%硫酸アンモニウム水溶液70部を添加して乳化重合を開始し、
その後、前記モノマーエマルションの残りにメルカプトプロピオン酸メトキシブチル5部を添加し再乳化したものを滴下することにより得られた、ガラス転移温度が-15°Cである、ポリマーエマルション。
単量体組成(%)
スチレン 11.5
メタクリル酸メチル 11.5
アクリル酸ブチル 59.0
アクリル酸2エチルヘキシル 10
メタクリル酸 2
アクリル酸 1
ダイアセトンアクリルアマイド 4
アクリルアミド 1」
(以下「甲2発明」という。)
(イ)本件訂正発明1について
a 対比
本件訂正発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明における「スチレン」、「メタクリル酸メチル」及び「アクリル酸ブチル」は、本件訂正発明1における「(A)単量体:炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体及び環状構造を有するラジカル重合性単量体よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体」に相当する。
甲2発明における「アクリル酸2エチルへキシル」は、本件訂正発明1における「(B)単量体:炭素数8~22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体」に相当する。
甲2発明における「アクリル酸」及び「メタクリル酸」は、本件訂正発明1における「(C)単量体:アクリル酸及びメタクリル酸よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体」に相当する。
甲2発明における、ポリマーエマルションの「ガラス転移温度が-15°C」であることは、本件訂正発明1の共重合体の「ガラス転移温度が-15°C以上」であることに相当する。
甲2発明における「ポリマーエマルション」の「ポリマー」は、上記「スチレン」、「メタクリル酸メチル」「アクリル酸ブチル」、「アクリル酸2エチルへキシル」、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」を重合して得られた重合体であるから、本件訂正発明1における「(A)単量体、(B)単量体及び(C)単量体に由来する構成単位を有する共重合体」に相当する。
また、甲2発明における「ポリマーエマルション」は、水中で乳化重合して得られたものであるから、本件訂正発明1における「水性ポリマーエマルション」にも相当する。
そうすると、本件訂正発明1と甲2発明は、
「下記(A)単量体、(B)単量体及び(C)単量体に由来する構成単位を有する共重合体を含む水性ポリマーエマルションであって、
前記共重合体のガラス転移温度が-15°C以上である、水性ポリマーエマルション。
(A)単量体:炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体及び環状構造を有するラジカル重合性単量体よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体
(B)単量体:炭素数8~22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体
(C)単量体:アクリル酸及びメタクリル酸よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体」
である点で一致し、次の点で相違する。
相違点2-1
本件訂正発明1では、「水性ポリマーエマルション中の全カルボキシ基量の35~75モル%を、前記(A)単量体、前記(B)単量体及び前記(C)単量体を含む単量体混合物の重合により形成された粒子の内部に有」するのに対し、甲2発明では、そのような特定はされていない点。
相違点2-2
本件訂正発明1では、「水性ポリマーエマルション中の揮発性有機化合物の濃度が2000ppm以下」であるのに対し、甲2発明では、そのような特定はされていない点。
相違点2-3
本件訂正発明1では、「(A)単量体」が、「炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体のみからなる」のに対し、甲2発明では、「スチレン」を含む点。
b 相違点の判断
(a)相違点2-1について
甲2発明において、単量体組成中におけるメタクリル酸及びアクリル酸の含有量はそれぞれ2重量%及び1重量%である。
そうすると、上記イ(イ)b(a)で述べた理由と同様の理由により、重合体内部のカルボキシ基の割合は、下記の計算式により39.7%程度となると推定される。
0.503×2/3+0.181×1/3≒0.397
よって、相違点2-1は実質的な相違点とはいえない。
(b)相違点2-2について
甲2の表1(摘記2c)において、実施例2において得られた接着剤組成物の臭気の評価は「○」である。
そして、甲2の【0068】(摘記2c)には、「○=殆ど臭わない及び200ppm以下」と記載されていることからみて、甲2における実施例2の接着剤の残留モノマー量は200ppm以下であると認められる。
ここで、甲2における実施例2の接着剤組成物は、【0050】~【0052】(摘記2c)の記載より甲2発明のポリマーエマルジョンにアンモニア水とアジピン酸ジヒドラジドを添加して得られたものであるから、残留モノマー量は、ポリマーエマルションに由来するものであると解される。
そして、甲2発明のポリマーエマルションの製造に使用した原料に占める揮発性有機化合物の大部分はモノマー成分である。
よって、甲2発明の残留モノマーの濃度は実質的に揮発性有機化合物の濃度であると認められるので、甲2発明の揮発性有機化合物の濃度は200ppm以下程度であり、すなわち2000ppm以下の範囲にあると認められる。
したがって、上記相違点2-2は実質的な相違点とはいえない。
(c)相違点2-3について
「スチレン」は、「環状構造を有するラジカル重合性単量体」であるので、相違点2-3は実質的な相違点である。
そして、甲2発明は、甲2の請求項1(摘記2a)の実施例である実施例2に基づく発明であるところ、甲2の請求項1(摘記2a)には、ポリマーエマルションの原料となるモノマーとして「スチレンないしビニルトルエン(a3)」が特定されており、これは必須のモノマーであると解されるので、甲2発明のポリマーエマルションにおいて、「スチレン」をモノマー成分から除く動機付けはない。
よって、甲2発明において、原料となるモノマーからスチレンを除いて、炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体のみからなるものとすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
c 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲2に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
さらに、甲2に記載された発明を、実施例1、3~5、比較例1~9及び特許請求の範囲(摘記2a及び2c)に基づいて認定しても、本件訂正発明1は、実施例2に基づいて認定した甲2発明と同様の相違点を有し、その判断は上述したものと同様である。
(ウ)本件訂正発明2~6について
本件訂正発明2~6は、本件訂正発明1の水性ポリマーエマルジョンについて、さらに限定した発明である。
上述のとおり、本件訂正発明1が甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件訂正発明1がより限定された本件訂正発明2~6も、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(エ)申立人の主張について
a 申立人は、甲2を主引用例とした取消理由2及び3に関連して、申立書及び申立人意見書において、下記の「主張(b)」と「主張(c)」の主張を、また、上記取消理由に関連すると解される本件訂正発明1が明確性でない旨の「主張(a)」の主張をしていると認められる。
主張(a)
「(A)単量体」が、「炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体及び環状構造を有するラジカル重合性単量体よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体」のうち、「炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体のみからなる」との記載は、「環状構造を有するラジカル重合性単量体」が、共重合体から、「(A)単量体」以外の単量体として含まれる場合が除外されているのかが明確ではない。(申立人意見書1~2頁)
主張(b)
甲2発明における「メタクリル酸メチル」及び「アクリル酸ブチル」は、本件訂正発明1における「(A)単董体」である「炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体及び環状構造を有するラジカル重合性単量体よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体のうち、炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体のみからなるもの」に相当する。
また、甲2発明のポリマーのガラス転位温度は「-15°C
以上
」の範囲内にある。(意見書においては「-15°C
以下
」と記載されていたが、「以上」の誤記であると認定した。)
よって、本件訂正発明1は、甲2に記載された発明であるか、又は、甲2に記載された発明及び周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。(申立人意見書2~3頁)
主張(c)
甲2には、異議申立書(22~23頁)において記載した以下の甲2K発明が記載されており、甲2K発明における「メチルメタクリレート」は、本件訂正発明1の「炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体」に相当し、甲2【0032】には、ポリマーのガラス転移温度が-40~0°C又は-30~-10°Cであることが好ましいことが記載されていること、及び甲2【0024】には、モノマー(a5)は、特にメタクリル酸が好ましいことが記載されていることから、本件訂正発明1は、甲2K発明に基づいて当業者が容易になし得たものである。
よって、本件訂正発明2~8についても、甲2に記載された発明から当業者が容易になし得たものである。(申立人意見書3~4頁)
<甲2K発明>
「a、a1、a2、a3: エチレン性不飽和二重結合および重合性カルボニル基を分子中に有するモノマー(a1)、(メタ)アクリルアミドないしマレイン酸アミド(a2)、スチレンないしビニルトルエン(a3)、メチルメタクリレート(a4)、エチレン性不飽和二重結合及びカルボキシル基を有するモノマー(a5)及び必要に応じてその他のラジカル重合性モノマー(a6)、乳化剤(a7)及び水性媒体(a8)を含有するモノマーエマルション(A)の一部と、前記モノマー(a1)~(a6)の合計100重量部に対して0.3~1重量部の重合開始剤(B)、乳化剤(C)及び水性媒体(D)を仕込んだ反応容器中に、前記モノマーエマルション(A)の残り及びメルカプトプロピオン酸エステル化物(E)を滴下し、乳化重合してなる、
d: ポリマーエマルション(F)。」
b しかしながら、以下のとおり申立人の主張は採用できない。
主張(a)について
訂正後の請求項1における「(A)単量体:炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体及び環状構造を有するラジカル重合性単量体よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体」との記載から、本件訂正発明1における「(A)単量体」に該当する単量体は「炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体及び環状構造を有するラジカル重合性単量体よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体」であると解される。
言い換えると、「環状構造を有するラジカル重合性単量体」は、全て本件訂正発明1における上記(A)単量体に該当するといえ、本件訂正発明1の共重合体には、「(A)単量体」以外の「環状構造を有するラジカル重合性単量体」に由来する構成単位を含むものを包含するとは解されない。
よって、本件訂正発明1において、「(A)単量体は、炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体のみからなり」と特定されていることは、共重合体全体から、「環状構造を有するラジカル重合性単量体」に由来する構成単位を含む場合が除外されていることを意味することは明らかである。
主張(b)について
上記「主張(a)について」において述べたとおり、本件訂正発明1における「(A)単量体が、下記のうち、炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体のみからなる」との記載は、実質的に、本件訂正発明1の共重合体が「環状構造を有するラジカル重合性単量体」に由来する構成単位を含まないことであると解される。
そして、甲2発明においては、「スチレン」をモノマー成分として含むので、本件訂正発明1とは相違する。
また、上記(イ)b(c)で述べた理由により甲2発明のモノマー成分から「環状構造を有するラジカル重合性単量体」を除くことが容易であるとはいえない。
主張(c)について
甲2K発明は、「ポリマーエマルション(F)」の原料である「モノマーエマルション(A)」中に「スチレンないしビニルトルエン(a3)」を含むことが特定されている。
そして、「スチレンないしビニルトルエン(a3)」は、「環状構造を有するラジカル重合性単量体」に該当するところ、甲2K発明において、少なくとも(a3)成分を除くことが容易であるとはいえない。
よって、甲2に記載された発明として、甲2K発明を認定しても、本件訂正発明1は、当該発明から当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
エ 甲3を主引用例とした場合について
(ア)甲3に記載された発明
甲3には、請求項1、実施例1の製造方法、表1の「重合体1」及び【0028】の略称の説明の記載(摘記3a及び3c)からみて、次の発明が記載されていると認められる。
(なお、表1には組成の数値の単位が記載されていないが、実施例1において、モノマー成分はgで配合量が記載され、それらの重量割合と整合するので「重量%」であると認められる。)
「フラスコに、183.5gの脱イオン水と、26.6gの50%シクロデキストリンと、6.1gの30%界面活性剤と、1.8gの炭酸ナトリウムとを投入し、攪拌及び加熱し、
363gの脱イオン水と13.6gの界面活性剤及び下記の組成のモノマー700部とを混合してモノマーエマルションを調製し、
0.69gの過硫酸ナトリウムと96gの脱イオン水とを投入することでコフィード触媒溶液を調整し、
92°Cの反応温度で、上記調製したモノマーエマルション25gを、11グラムの脱イオン水リンスと共にフラスコに投入し、その後2.11gの過硫酸ナトリウムと12gの水との開始剤溶液を投入して乳化重合を開始し、
初期重合後、85°Cで、モノマーエマルションと触媒のコフィードを開始し、完了後、残留モノマーの量を減らすために反応混合物をチェースして得られた、
残留スチレンが7ppmである重合体1ラテックス。
モノマー組成(重量%)
ステアリルメタクリレート 31
アクリル酸ブチル 25
スチレン 29
メタクリル酸 15」
(以下「甲3A発明」という。)
また、上記記載、特に実施例1の【0032】の「重合体2は、適宜変更を加えたほかは、上記と該同様にして作成された。」との記載、及び表1の「重合体2」の組成物の記載からみて、次の発明も記載されていると認められる。
「フラスコに、183.5gの脱イオン水と、26.6gの50%シクロデキストリンと、6.1gの30%界面活性剤と、1.8gの炭酸ナトリウムとを投入し、攪拌及び加熱し、
363gの脱イオン水と13.6gの界面活性剤及び下記の組成のモノマー700部とを混合してモノマーエマルションを調製し、
0.69gの過硫酸ナトリウムと96gの脱イオン水とを投入することでコフィード触媒溶液を調整し、
92°Cの反応温度で、上記調製したモノマーエマルション25gを、11グラムの脱イオン水リンスと共にフラスコに投入し、その後2.11gの過硫酸ナトリウムと12gの水との開始剤溶液を投入して乳化重合を開始し、
初期重合後、85°Cで、モノマーエマルションと触媒のコフィードを開始し、完了後、残留モノマーの量を減らすために反応混合物をチェースして得られた、重合体2ラテックス。
モノマー組成(重量%)
アクリル酸ブチル 20
エチルヘキシルアクリレート 40
メチルメタクリレート 38.5
メタクリル酸 1.5
アリルメタクリレート 0.075」
(以下「甲3B発明」という。)
(イ)本件訂正発明1について
a 甲3A発明と本件訂正発明1の対比・判断
(a)対比
本件訂正発明1と甲3A発明を対比する。
甲3A発明における「アクリル酸ブチル」及び「スチレン」は、本件訂正発明1における「(A)単量体:炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体及び環状構造を有するラジカル重合性単量体よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体」に相当する。
甲3A発明における「ステアリルメタクリレート」は、本件訂正発明1における「(B)単量体:炭素数8~22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体」に相当する。
甲3A発明における「メタクリル酸」は、本件訂正発明1における「(C)単量体:アクリル酸及びメタクリル酸よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体」に相当する。
甲3A発明における「重合体1ラテックス」の「重合体1」は、上記「アクリル酸ブチル」、「スチレン」、「ステアリルメタクリレート」及び「メタクリル酸」を重合して得られた重合体であるから、本件訂正発明1における「(A)単量体、(B)単量体及び(C)単量体に由来する構成単位を有する共重合体」に相当する。
また、甲3A発明における「重合体1ラテックス」は、水中で乳化重合して得られたものであるから、本件訂正発明1における「水性ポリマーエマルション」にも相当する。
そうすると、本件訂正発明1と甲3A発明は、
「下記(A)単量体、(B)単量体及び(C)単量体に由来する構成単位を有する共重合体を含む水性ポリマーエマルション。
(A)単量体:炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体及び環状構造を有するラジカル重合性単量体よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体
(B)単量体:炭素数8~22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体
(C)単量体:アクリル酸及びメタクリル酸よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体」
である点で一致し、次の点で相違する。
相違点3A-1
本件訂正発明1では、「水性ポリマーエマルション中の全カルボキシ基量の35~75モル%を、前記(A)単量体、前記(B)単量体及び前記(C)単量体を含む単量体混合物の重合により形成された粒子の内部に有」するのに対し、甲3A発明では、そのような特定はされていない点。
相違点3A-2
本件訂正発明1では、「水性ポリマーエマルション中の揮発性有機化合物の濃度が2000ppm以下」であるのに対し、甲3A発明では、そのような特定はされていない点。
相違点3A-3
本件訂正発明1では、「(A)単量体」が、「炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体のみからなる」のに対し、甲3A発明では、「スチレン」を含む点。
相違点3A-4
本件訂正発明1では、「共重合体のガラス転移温度が-15°C以上」であるのに対し、甲3A発明では、そのような特定はされていない点。
(b)相違点の判断
α 相違点3A-1について
甲3A発明において、「(C)単量体」に該当するモノマーはメタクリル酸のみである。
そして、上記イ(イ)b(a)で述べた理由と同様の理由により、不飽和カルボン酸単量体として、メタクリル酸のみを重合させた場合の重合体内部のカルボキシ基の割合は50.3モル%程度となると認められる。
よって、上記相違点3A-1は実質的な相違点とはいえない。
β 相違点3A-2について
甲3A発明の重合体1は、残留スチレンが7ppmである。
スチレンが7ppmであったことを考慮すると、他の種類の残留モノマーについても、同程度か、多くとも100ppm以下程度になっていると認められるので、残留モノマー全体では多くとも400ppm程度となると認められる。
また、甲3A発明の重合体1エマルションの製造に使用した原料に占める揮発性有機化合物の大部分はモノマー成分であると認められる。
よって、甲3A発明の残留モノマーの濃度は、実質的に揮発性有機化合物の濃度であると認められ、2000ppm以下の範囲にあると認められる。
したがって、上記相違点3A-2は実質的な相違点とはいえない。
γ 相違点3A-3及び相違点3A-4について
(α)「スチレン」は、「環状構造を有するラジカル重合性単量体」であるので、上記相違点3A-3は実質的な相違点である。
(β)甲3A発明の重合体1は、モノマー組成及び各モノマーの単独重合体のガラス転移温度を本件明細書【0036】に記載の式に当てはめて、そのガラス転移温度を計算すると、約-26°C程度となると認められる(なお、ステアリルメタクリレートのガラス転移温度は、特開2011-162594号公報【0017】の記載より-100°Cとして算出した。)。
よって、上記相違点3A-4は実質的な相違点である。
(γ)甲3A発明から相違点3A-3及び相違点3A-4に係る構成とすることが容易であるかについて検討する。
甲3A発明の重合体1は、甲3の請求項1において特定された重合体についての実施例の一つであって、モノマーとして29%のスチレンを含むものとして調製されたものである。そして、甲3には、重合体のガラス転移温度を特定の範囲にする旨の記載はない。
そうすると、甲3A発明の重合体1について、モノマーとしてスチレンのみを含有しないものとし、ガラス転移温度を-15°C以上となるように、その他のモノマー組成を変更する動機付けがあるとは認められず、甲3A発明の重合体1について、モノマーとしてスチレンを含有せず、さらにガラス転移温度を-15°C以上とすることは当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
b 甲3B発明と本件訂正発明1との対比・判断
(a)対比
本件訂正発明1と甲3B発明を対比する。
甲3B発明における「アクリル酸ブチル」及び「メチルメタクリレート」は、本件訂正発明1における「(A)単量体:炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体及び環状構造を有するラジカル重合性単量体よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体」に相当する。
また、甲3B発明の重合体2は、構成される単量体のうち、(A)単量体に該当する単量体は、「アクリル酸ブチル」及び「メチルメタクリレート」のみであるから、本件訂正発明1の「(A)単量体が、下記のうち、炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体のみからなる」ことにも相当する。
甲3B発明における「エチルヘキシルアクリレート」は、本件訂正発明1における「(B)単量体:炭素数8~22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体」に相当する。
甲3B発明における「メタクリル酸」は、本件訂正発明1における「(C)単量体:アクリル酸及びメタクリル酸よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体」に相当する。
甲3B発明における「重合体2ラテックス」の「重合体2」は、上記「アクリル酸ブチル」、「メチルメタクリレート」、「エチルへキシルアクリレート」及び「メタクリル酸」を重合して得られた重合体であるから、本件訂正発明1における「(A)単量体、(B)単量体及び(C)単量体に由来する構成単位を有する共重合体」に相当する。
また、甲3B発明における「重合体2ラテックス」は、水中で乳化重合して得られたものであるから、本件訂正発明1における「水性ポリマーエマルション」にも相当する。
そうすると、本件訂正発明1と甲3B発明は、
「下記(A)単量体、(B)単量体及び(C)単量体に由来する構成単位を有する共重合体を含む水性ポリマーエマルションであって、
前記(A)単量体が、下記のうち、炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体のみからなる、水性ポリマーエマルション。
(A)単量体:炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体及び環状構造を有するラジカル重合性単量体よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体
(B)単量体:炭素数8~22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体
(C)単量体:アクリル酸及びメタクリル酸よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体」
である点で一致し、次の点で相違する。
相違点3B-1
本件訂正発明1では、「水性ポリマーエマルション中の全カルボキシ基量の35~75モル%を、前記(A)単量体、前記(B)単量体及び前記(C)単量体を含む単あh量体混合物の重合により形成された粒子の内部に有」するのに対し、甲3B発明では、そのような特定はされていない点。
相違点3B-2
本件訂正発明1では、「水性ポリマーエマルション中の揮発性有機化合物の濃度が2000ppm以下」であるのに対し、甲3B発明では、そのような特定はされていない点。
相違点3B-3
本件訂正発明1では、「共重合体のガラス転移温度が-15°C以上」であるのに対し、甲3B発明では、そのような特定はされていない点。
(b)相違点の判断
α 相違点3B-1について
上記イ(イ)b(a)で述べた理由と同様の理由により、不飽和カルボン酸単量体として、メタクリル酸のみを重合させた場合の重合体内部のカルボキシ基の割合は50.3モル%程度となると認められる。
よって、相違点3B-1は実質的な相違点とはいえない。
β 相違点3B-2について
上記a(b)βで述べたとおり、甲3A発明の揮発性有機化合物の含有量は2000ppm以下であると認められる。
そして、重合体2についても、同様に製造した旨の記載があるので(【0032】摘記3c)、甲3B発明の重合体2ラテックスの揮発性有機化合物の含有量も2000ppm以下程度であると認められる。
また、仮に相違するとしても、重合体1ラテックスと同様に、揮発性有機化合物の含有量を2000ppm以下程度にすることは当業者が容易になし得たことである。
γ 相違点3B-3について
(α)甲3B発明の重合体2は、モノマー組成及び各モノマーの単独重合体のガラス転移温度を本件明細書【0036】に記載の式に当てはめて、そのガラス転移温度を計算すると、約-19°C程度となると認められる。
よって、上記相違点3B-3は実質的な相違点である。
(β)甲3B発明の重合体2は、甲3の請求項1において特定された重合体についての実施例の一つである。そして、甲3には、重合体のガラス転移温度を特定の範囲にする旨の記載はない。
よって、甲3B発明の重合体2について、ガラス転移温度を-15°C以上となるようにモノマーの含有量を変更する動機付けはなく、甲3B発明の重合体2について、ガラス転移温度を-15°C以上とすることは当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
c 小括
以上のとおりであるから、甲3に記載された発明を実施例1の重合体1及び2に基づいて認定すると、本件訂正発明1は甲3に記載された発明であるとはいえず、また、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、甲3に記載された発明を比較例A、重合体3~9、及び【0034】~【0036】の記載に基づいて認定しても、本件訂正発明1は、甲3に記載された発明であるとはいえず、また、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(ウ)本件訂正発明2~8について
本件訂正発明2~8は、本件訂正発明1の水性ポリマーエマルジョンについて、さらに限定した発明である。
上述のとおり、本件訂正発明1が甲3に記載された発明であるとはいえず、また、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件訂正発明1がより限定された本件訂正発明2~8も、甲3に記載された発明であるとはいえず、また、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(エ)申立人の主張について
a 申立人は、下記の理由により、本件訂正発明1は、申立書(33~35頁)において、甲3に記載された発明として認定した、下記の(a)に記載される甲3J発明、甲3G発明、甲3H発明及び甲3I発明は、下記の(b)及び(c)のとおり、重合体内部のカルボキシ基の割合及びガラス転移温度が本件訂正発明1と同一であるから、本件訂正発明1~8は甲3に記載された発明であるか、あるいは甲3に記載された発明から当業者が容易になし得たものである旨主張している。
(a)申立人が認定した甲3J発明、甲3G発明、甲3H発明及び甲3I発明(申立書33~35頁)
<甲3J発明>
a、a1、a2、a3: オーバーヘッド撹拌機と、熱電対と、コンデンサと、モノマーと開始剤の投入用の注入口と、を備えた2リットルの丸底フラスコに、252gの脱イオン水と、8gの23%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムと、2gの炭酸ナトリウムとを投入し、フラスコを撹拌し、92°Cに加熱し、モノマーエマルション(第1段階)を以下のように調製し、146gの脱イオン水と5.6gのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(23%)とを適切な容器に投入し、撹拌用にセットし、界面活性剤が水と同化した後、90gのBAと、180gのEHAと、174gのMMAと、6.8gのMAAと、0.34gのALMAとを、撹拌混合物に徐々に加え、コフィード触媒溶液も、0.86gの過硫酸ナトリウムと50gの脱イオン水とを投入することで調製し、
88°Cの反応温度で、上記調製されたモノマーエマルション19gを、5gの脱イオン水リンスと共に釜に投入し、その後1.9gの過硫酸ナトリウムと15gの水との開始剤溶液を投入し、初期重合後、85°Cで、第1段階モノマーエマルションのコフィードを開始し、毎分4.72gの速度で15分間、及び毎分10.1gの速度で83分間行い、同時に、触媒のコフィードも開始し、毎分0.61gで88分間行い、モノマーエマルションと触媒とのコフィードの完了後、反応混合物を10分間保持し、
第1段階のフィードの間に、第2段階モノマーエマルションと触媒とを調製する。第2段階モノマーエマルションは以下のように調製し、52gの脱イオン水と2gのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(23%)とを適切な容器に投入し、撹拌用にセットし、界面活性剤が水と同化した後、112gのMMAと、1.1gのMAAと、0.09gのALMAとを、撹拌混合物に徐々に加え、第2段階コフィード触媒溶液も、0.12gの過硫酸ナトリウムと14gの脱イオン水とを投入することで調製し、第1段階の保持の完了後、第2段階モノマーエマルションのコフィードを開始し、毎分6.55gの速度で29分間行い、
第2段階モノマーエマルションと触媒とのコフィードの完了後、残留モノマーの量を減らすために反応混合物をチェースして得られた、
c : 残留モノマーの最は、残留EHA:29ppmである、
d : ラテックス。
<甲3G発明>
a、a1、a2、a3: 組成が
段階1 (85%) :20 BA/40 EHA/38.5 MMA/1.5 MAA/0.075 ALMA
段階2 (15%) :99 MMA/1 MAA
である2段重合体を含み、適宜変更を加えたほかは、重合体9と該同様にして作成された、
d: ラテックス。
<甲3H発明>
a、a1、a2、a3: 組成が
段階1 (80%) :20 BA/40 EHA/38.5 MMA/1.5 MAA/0.075 ALMA
段階2 (20%) :99 MMA/1 MAA
である2段重合体を含み、適宜変更を加えたほかは、重合体9と該同様にして作成された、
d : ラテックス。
<甲3I発明>
a、a1、a2、a3: 組成が
段階1 (70%) :20 BA/40 EHA/38.5 MMA/1.5 MAA/0.075 ALMA
段階2 (30%) :99 MMA/1 MAA
である2段重合体を含み、適宜変更を加えたほかは、重合体9と該同様にして作成された、
d : ラテックス。
(b)甲3J発明について
α 重合体内部のカルボキシ基の割合について
(α)取消理由通知書に記載されているとおり、メタクリル酸のみを1段階で重合させた場合の重合体内部のカルボキシ基の割合は50.3モル%である。
(β)本件明細書の不飽和カルボン酸単量体としてメタクリル酸のみを用いた本件明細書の比較例5(以下、「本件比較例5」という。)、及び同実施例25(以下、「本件実施例25」という。)を参酌すると、2段目の重合後の重合体内部のカルボキシ基の割合は、それぞれ82.7モル%及び68.4モル%に増加している。
(γ)本件実施例25では、2段目の重合にメタアクリル酸を使用しない本件比較例5よりも、2段目の重合によって増加する重合体内部のカルボキシ基の割合が小さいことから、カルボキシ基の割合の増加は、2段目の重合時に取り込まれる1段目由来のカルボキシ基の量と、2段目の重合時に加えられるカルボキシ基の量とに依存し、2段目の重合時に取り込まれる1段目由来のカルボキシ基の量が多いほど、また、2段目の重合時に加えられるカルボキシ基の量が少ないほど、大きくなると推定できる。
(δ)これらを考慮して、甲3J発明において、2段目の重合後の重合体内部のカルボキシ基の割合は、下記式により算出できると仮定する。
(式1)
重合体内部のカルボキシ基の割合(モル%)
= 1段目の重合後の重合体内部のカルボキシ基の割合(モル%) + 2段目の重合による重合体内部のカルボキシ基の割合の増加分(モル%)
= 50.3モル% + 2段目の重合による重合体内部のカルボキシ基の割合の増加分(モル%)
(式2)
2段目の重合による重合体内部のカルボキシ基の割合の増加分(モル%)
=本件実施例25の2段目の重合による重合体内部のカルボキシ基の割合の増加分(モル%)×(2段目の重合に使用されるモノマーの組成(重量%)/本件実施例25の2段目の重合に使用されるモノマーの組成(質量%))
=(68.4モル%-50.3モル%)×(2段目の重合に使用されるモノマーの組成(重量%)/49.5質量%)
甲3J発明において、2段目の重合後の重合体内部のカルボキシ基の割合は、(式1)及び(式2)により、
50.3モル%+18.1モル%×(20重量%/49.5質量%)=57.6モル%
と算出される。
(ε)また、上記の仮定とは別に、2段目の重合によって重合体内部に存在することとなるカルボキシ基の割合が1段目に比べて増加せずに、1段目及び2段目ともに50.3モル%程度であるとすると、甲3J発明の重合体内部のカルボキシ基は、
50.3×1.2/1.4+50.3×0.2/1.4=50.3モル%
と算出される。
(φ)さらに別の計算として、2段目の重合によって重合体内部に存在することとなるカルボキシ基が、本件比較例5と同程度にまで大きく増加すると仮定すると、甲3J発明の重合体内部のカルボキシ基の割合は、
50.3モル%+(82.7-50.3)モル%×(20重量%/48.5質量%)=63.7%
と算出される。
β ガラス転移温度について
甲3J発明において、本件明細書の【0036】の記載に従い重合体9のガラス転移温度を求めると、-1°Cとなる。
(b)甲3G発明、甲3H発明、及び甲3I発明について
甲3G発明、甲3H発明、及び甲3I発明について、上記甲3J発明と同様に、内部のカルボキシ量とガラス転移温度を算出すると、以下のとおりとなる。
重合体内部のカルボキシ基の割合(モル%)
甲3G発明 55.8
甲3H発明 57.6
甲3I発明 61.3
ガラス転移温度(°C)
甲3G発明 -5
甲3H発明 -1
甲3I発 9
b しかしながら、以下のとおり申立人の主張は採用できない。
(a)申立人は、上記a(b)α(α)~(γ)に記載の理由により、重合体内部のカルボキシ基の割合を、上記a(b)α(δ)に記載の式(1)及び(2)によって算出できるとしている。
しかしながら、2段重合によって得られた重合体について、2段目の重合体の重量割合の量に比例して、一段目の内部カルボキシル基量から一定の比率で、重合体内部のカルボキシ基の割合が上昇する、という法則が成り立つという理論的根拠が不明であり、上記式(1)及び(2)のような計算方法で重合体内部のカルボキシ基の割合を計算可能であるということに疑義がある。
また、それを裏付ける根拠として、上記a(b)α(γ)において本件実施例25と本件比較例5の重合体内部のカルボキシ基の割合の2段目重合後の増加傾向を上げているが、その2点の例のみをもって上記式(1)及び(2)の計算方法によって、重合体内部のカルボキシ基の割合が計算できるということを肯定できるとも解されない。
よって、申立人の主張する、上記式(1)及び(2)による計算方法によっては、甲3J発明、甲3G発明、甲3H発明、及び甲3I発明の重合体内部のカルボキシ基の割合を計算できると解されず、よって、その計算値も採用できない。
(b)申立人は、2段重合によって得られた重合体であっても、重合体内部のカルボキシ基の割合が一定であることを前提に、甲3J発明の重合体内部のカルボキシ基の割合を、上記a(b)α(ε)において50.3%であると算出しているが、本件明細書【0050】には、不飽和カルボン酸の添加割合が前半に大きいか後半が大きいかによって重合体内部のカルボキシ基の割合に影響する旨の記載があるから、1段重合の割合を2段重合の割合に適用できるとは解されず、採用できない。
(c)上記a(b)α(φ)に記載された重合体内部のカルボキシ基の割合の計算方法についても、結局上記(a)で述べたものと同様の理由により採用できない。
(d)以上のとおり、甲3に記載された発明として、甲3J発明、甲3G発明、甲3H発明及び甲3I発明を認定しても、申立人の主張する方法によっては、それらの重合体内部のカルボキシ基の割合を認定できず、また、ほかにそれらについて同割合を推定する手段もないので、上記甲3J発明、甲3G発明、甲3H発明及び甲3I発明が、本件訂正発明1と同一であるとはいえない。
したがって、本件訂正発明1~8は、甲3に記載された発明であるとはいえず、また、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
オ 甲4を主引用例とした場合について
(ア)甲4に記載された発明
甲4には、請求項1及び実施例1の製造方法、表1の「ポリマー1」、並びに【0030】の略称の説明の記載(摘記4a及び4b)からみて、次の発明が記載されていると認められる。
(なお、表1には組成の数値の単位が記載されていないが、実施例1において、モノマー成分はgで配合量が記載され、それらの重量割合と整合するので「重量%」であると認められる。)
「フラスコに、183.5gの脱イオン水と、26.6gの50%シクロデキストリンと、6.1gの30%界面活性剤と、1.8gの炭酸ナトリウムとを投入し、攪拌及び加熱し、
363gの脱イオン水と13.6gの界面活性剤及び下記の組成のモノマー700部とを混合してモノマーエマルションを調製し、
0.69gの過硫酸ナトリウムと96gの脱イオン水とを投入することで共供給触媒溶液を調整し、
92°Cの反応温度で、上記調製したモノマーエマルション25gを、11グラムの脱イオン水リンスと共にフラスコに投入し、その後2.11gの過硫酸ナトリウムと12gの水との開始剤溶液を投入して乳化重合を開始し、
初期重合後、85°Cで、モノマーエマルションと触媒の共供給を開始し、完了後、残留モノマーの量を減らすために反応混合物を追い出して得られた、残留スチレンが7ppmであるポリマー1ラテックス。
モノマー組成(重量%)
メタクリル酸ステアリル 31
アクリル酸ブチル 25
スチレン 29
メタクリル酸 15」
(以下「甲4A発明」という。)
また、上記記載、特に実施例1の【0034】の「ポリマー2を実質的に上で述べたとおりに作成し、適切な変更を行った。」との記載、及び表1の「ポリマー2」の組成物の記載からみて、次の発明も記載されていると認められる。
「フラスコに、183.5gの脱イオン水と、26.6gの50%シクロデキストリンと、6.1gの30%界面活性剤と、1.8gの炭酸ナトリウムとを投入し、攪拌及び加熱し、
363gの脱イオン水と13.6gの界面活性剤及び下記の組成のモノマー700部とを混合してモノマーエマルションを調製し、
0.69gの過硫酸ナトリウムと96gの脱イオン水とを投入することで共供給触媒溶液を調整し、
92°Cの反応温度で、上記調製したモノマーエマルション25gを、11グラムの脱イオン水リンスと共にフラスコに投入し、その後2.11gの過硫酸ナトリウムと12gの水との開始剤溶液を投入して乳化重合を開始し、
初期重合後、85°Cで、モノマーエマルションと触媒の共供給を開始し、完了後、残留モノマーの量を減らすために反応混合物を追い出して得られた、ポリマー2ラテックス。
モノマー組成(重量%)
アクリル酸ブチル 20
アクリル酸エチルヘキシル 40
メタクリル酸メチル 38.5
メタクリル酸 1.5
メタクリル酸アリル 0.075」
(以下「甲4B発明」という。)
(イ)本件訂正発明1について
a 甲4A発明と本件訂正発明1との対比・判断
(a)対比
本件訂正発明1と甲4A発明を対比する。
甲4A発明における「アクリル酸ブチル」及び「スチレン」は、本件訂正発明1における「(A)単量体:炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体及び環状構造を有するラジカル重合性単量体よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体」に相当する。
甲4A発明における「メタクリル酸ステアリル」は、本件訂正発明1における「(B)単量体:炭素数8~22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体」に相当する。
甲4A発明における「メタクリル酸」は、本件訂正発明1における「(C)単量体:アクリル酸及びメタクリル酸よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体」に相当する。
甲4A発明における「ポリマー1ラテックス」の「ポリマー1」は、上記「アクリル酸ブチル」、「スチレン」、「メタクリル酸ステアリル」及び「メタクリル酸」を重合して得られた重合体であるから、本件訂正発明1における「(A)単量体、(B)単量体及び(C)単量体に由来する構成単位を有する共重合体」に相当する。
また、甲4A発明における「ポリマー1ラテックス」は、水中で乳化重合して得られたものであるから、本件訂正発明1における「水性ポリマーエマルション」にも相当する。
そうすると、本件訂正発明1と甲4A発明は、
「下記(A)単量体、(B)単量体及び(C)単量体に由来する構成単位を有する共重合体を含む水性ポリマーエマルション。
(A)単量体:炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体及び環状構造を有するラジカル重合性単量体よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体
(B)単量体:炭素数8~22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体
(C)単量体:アクリル酸及びメタクリル酸よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体」
である点で一致し、次の点で相違する。
相違点4A-1
本件訂正発明1では、「水性ポリマーエマルション中の全カルボキシ基量の35~75モル%を、前記(A)単量体、前記(B)単量体及び前記(C)単量体を含む単量体混合物の重合により形成された粒子の内部に有」するのに対し、甲4A発明では、そのような特定はされていない点。
相違点4A-2
本件訂正発明1では、「水性ポリマーエマルション中の揮発性有機化合物の濃度が2000ppm以下」であるのに対し、甲4A発明では、そのような特定はされていない点。
相違点4A-3
本件訂正発明1では、「(A)単量体」が、「炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体のみからなる」のに対し、甲4A発明では、「スチレン」を含む点。
相違点4A-4
本件訂正発明1では、「共重合体のガラス転移温度が-15°C以上」であるのに対し、甲4A発明では、そのような特定はされていない点。
(b)相違点の判断
α 相違点4A-1について
甲4A発明において、「(C)単量体」に該当するモノマーはメタクリル酸のみである。
そして、上記イ(イ)b(a)で述べたとおり、不飽和カルボン酸単量体として、メタクリル酸のみを重合させた場合の重合体内部のカルボキシ基の割合は50.3モル%程度となると認められる。
よって、相違点4A-1は実質的な相違点とはいえない。
β 相違点4A-2について
甲4A発明のポリマー1は、残留スチレンが7ppmである。
スチレンが7ppmであったことを考慮すると、他の種類の残留モノマーについても同程度か、多くとも100ppm以下程度になっていると認められるので、残留モノマー全体では多くとも400ppm程度となると認められる。
また、甲4A発明のポリマー1エマルションの製造に使用した原料の組成に占める揮発性有機化合物の大部分はモノマー成分であると認められる。
よって、甲4A発明の残留モノマーの濃度は、実質的に揮発性有機化合物の濃度であると認められ、2000ppm以下の範囲にあると認められる。
したがって、上記相違点4A-2は実質的な相違点とはいえない。
γ 相違点4A-3及び相違点4A-4について
(α)「スチレン」は、「環状構造を有するラジカル重合性単量体」であるので、上記相違点4A-3は実質的な相違点である。
(β)甲4A発明のポリマー1は、上記エ(イ)a(b)γ(β)で述べたようにそのガラス転移温度を計算すると、約-26°C程度となると認められる。
よって、上記相違点4A-4は実質的な相違点である。
(γ)甲4A発明から相違点4A-3及び相違点4A-4に係る構成とすることが容易であるかについて検討する。
甲4A発明のポリマー1は、甲4の請求項1において特定されたポリマーについての実施例の一つであって、モノマーとして29%のスチレンを含むものとして調製されたものである。そして、甲4には、ポリマーのガラス転移温度を特定の範囲にする旨の記載はない。
そうすると、甲4A発明のポリマー1について、モノマーとしてスチレンのみを含有しないものとし、ガラス転移温度を-15°C以上となるように、その他のモノマー組成を変更する動機付けがあるとは認められず、甲4A発明のポリマー1について、モノマーとしてスチレンを含有せず、さらにガラス転移温度を-15°C以上とすることは当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
b 甲4B発明と本件訂正発明1との対比・判断
(a)対比
本件訂正発明1と甲4B発明を対比する。
甲4B発明における「アクリル酸ブチル」、「メタクリル酸メチル」及び「メタクリル酸アリル」は、本件訂正発明1における「(A)単量体:炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体及び環状構造を有するラジカル重合性単量体よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体」に相当する。
甲4B発明における「アクリル酸エチルヘキシル」は、本件訂正発明1における「(B)単量体:炭素数8~22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体」に相当する。
甲4B発明における「メタクリル酸」は、本件訂正発明1における「(C)単量体:アクリル酸及びメタクリル酸よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体」に相当する。
甲4B発明における「ポリマー2ラテックス」の「ポリマー2」は、上記「アクリル酸ブチル」、「メタクリル酸メチル」、「メタクリル酸アリル」、「アクリル酸エチルヘキシル」及び「メタクリル酸」を重合して得られた重合体であるから、本件訂正発明1における「(A)単量体、(B)単量体及び(C)単量体に由来する構成単位を有する共重合体」に相当する。
また、水中で乳化重合して得られたものであるから、本件訂正発明1における「水性ポリマーエマルション」にも相当する。
そうすると、本件訂正発明1と甲4B発明は、
「下記(A)単量体、(B)単量体及び(C)単量体に由来する構成単位を有する共重合体を含む水性ポリマーエマルションであって、
前記(A)単量体が、下記のうち、炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体のみからなる、水性ポリマーエマルション。
(A)単量体:炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体及び環状構造を有するラジカル重合性単量体よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体
(B)単量体:炭素数8~22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体
(C)単量体:アクリル酸及びメタクリル酸よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体」
である点で一致し、次の点で相違する。
相違点4B-1
本件訂正発明1では、「水性ポリマーエマルション中の全カルボキシ基量の35~75モル%を、前記(A)単量体、前記(B)単量体及び前記(C)単量体を含む単量体混合物の重合により形成された粒子の内部に有」するのに対し、甲4B発明では、そのような特定はされていない点。
相違点4B-2
本件訂正発明1では、「水性ポリマーエマルション中の揮発性有機化合物の濃度が2000ppm以下」であるのに対し、甲4B発明では、そのような特定はされていない点。
相違点4B-3
本件訂正発明1では、「共重合体のガラス転移温度が-15°C以上」であるのに対し、甲4B発明では、そのような特定はされていない点。
(b)相違点の判断
α 相違点4B-1について
上記イ(イ)b(a)で述べた理由と同様の理由により、不飽和カルボン酸単量体として、メタクリル酸のみを重合させた場合の重合体内部のカルボキシ基の割合は50.3モル%程度となると認められる。
よって、相違点4B-1は実質的な相違点とはいえない。
β 相違点4B-2について
上記a(b)βで述べたとおり、甲4A発明の揮発性有機化合物の含有量は2000ppm以下であると認められる。
そして、ポリマー2についても、同様に製造した旨の記載があるので(【0034】摘記4b)、甲4B発明のポリマー2ラテックスの揮発性有機化合物の含有量も2000ppm以下程度であると認められる。
また、仮に相違するとしても、ポリマー1ラテックスと同様に、揮発性有機化合物の含有量を2000ppm以下程度にすることは当業者が容易になし得たことである。
γ 相違点4B-3について
(α)甲4B発明のポリマー2は、上記エ(イ)a(b)γ(β)で述べたものと同様にそのガラス転移温度を計算すると、約-19°C程度となると認められる。
よって、上記相違点4B-3は実質的な相違点である。
(β)甲4B発明のポリマー2は、甲4の請求項1において特定されたポリマーについての実施例の一つである。そして、甲4には、ポリマーのガラス転移温度を特定の範囲にする旨の記載はない。
よって、甲4B発明のポリマー2について、ガラス転移温度を-15°C以上となるようにモノマーの含有量を変更する動機付けはなく、甲4B発明のポリマー2について、ガラス転移温度を-15°C以上とすることは当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
c 小括
以上のとおりであるから、甲4に記載された発明を実施例1のポリマー1及び2に基づいて認定すると、本件訂正発明1は甲4に記載された発明であるとはいえず、また、甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、甲4に記載された発明を比較例A、ポリマー3~9、及び【0034】~【0036】の記載に基づいて認定しても、本件訂正発明1は、甲4に記載された発明であるとはいえず、また、甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(ウ)本件訂正発明2~8について
本件訂正発明2~8は、本件訂正発明1の水性ポリマーエマルジョンについて、さらに限定した発明である。
上述のとおり、本件訂正発明1が甲4に記載された発明であるとはいえず、また、甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件訂正発明1がより限定された本件訂正発明2~8も、甲4に記載された発明であるとはいえず、また、甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(エ)申立人の主張について
申立人は、申立人意見書において、上記エ(エ)aで述べたのと同様の理由により、申立書において記載した甲4J発明、甲4G発明、甲4H発明及び甲4I発明は、本件訂正発明1と同一であるから、本件訂正発明1~8は甲4に記載された発明であるか、あるいは甲4に記載された発明から当業者が容易になし得たものである旨主張している。
しかしながら、上記エ(エ)bで述べた理由と同様の理由により、申立人の主張は採用できない。
(3)取消理由4(サポート要件違反)について
ア サポート要件の判断の前提
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、その記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
イ 本件訂正発明の課題
本件訂正発明の課題は、本件明細書の発明の詳細な説明(特に【0010】)の記載からみて、「経時安定性に優れ、更に耐水性、耐油性及び低臭気性に優れた水性ポリマーエマルションを提供すること」であると認められる。
ウ 本件明細書の記載
本件明細書の発明の詳細な説明の【0027】には、
「本開示のエマルションは、分散粒子内部に存在するカルボキシ基量が、エマルション中の全カルボキシ基量の25~75モル%である。・・・その理由は、分散粒子内部に存在するカルボキシ基量が、エマルション中の全カルボキシ基量に対して25モル%未満である場合又は75モル%を超える場合には、耐水性、耐油性が不良となるためである。」
との記載があり、本件訂正発明は、「水性ポリマーエマルション中の全カルボキシ基量の35~75モル%を、前記(A)単量体、前記(B)単量体及び前記(C)単量体を含む単量体混合物の重合により形成された粒子の内部に有」することにより、耐水性及び耐油性に優れた水性ポリマーエマルションを提供できるものと認められる。
そして、この全カルボキシ基量の35~75モル%を、重合体粒子の内部に含有させるための手段として、同【0050】には、
「<不飽和カルボン酸及びその無水物の分布の制御について>
重合後の不飽和カルボン酸及びその無水物の分散粒子内での分布は、不飽和カルボン酸及びその無水物の種類や添加条件を選ぶことにより所望の分布が得られる。例えば、不飽和カルボン酸、特にアクリル酸のような親水性が極めて大きい単量体は、他の単量体よりも分散粒子の表面又はエマルションの水相に分布しやすい。そのため、分散粒子内部に存在する不飽和カルボン酸単位の割合を所望の範囲(25~75モル%)とするためには、反応器への単量体混合物の添加に際して、不飽和カルボン酸の添加の割合を反応の前半に大きく、後半を小さくするという様に制御することにより実現することができる。メタクリル酸など、アクリル酸よりも親水性が小さい単量体は、添加の初期から完了まで添加割合を一定に近いものとしてもよいし、添加割合が前半の方が後半より大きくなる様に行ってもよい。」
と記載されている。
また、本件明細書の発明の詳細な説明の実施例1~21及び23~28には、(C)単量体として、アクリル酸又はメタクリル酸を用いて全カルボキシ基量の35~75モル%を、重合体粒子の内部に含有するポリマーを製造した例が記載されている。
エ 取消理由通知における指摘
訂正前の請求項1の(C)単量体は、「
不飽和カルボン酸単量体及びその無水物よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体
」であって、その中には「クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ケイ皮酸、無水マレイン酸」等のアクリル酸とメタアクリル酸以外の不飽和カルボン酸又はその無水物も包含し得るところ、それらのアクリル酸に比した親水性の大きさについては本件発明の詳細な説明には記載されておらず、また、仮にそれらの不飽和カルボン酸又はその無水物についてのアクリル酸に比した親水性が当業者において理解できたとしても、それらの単量体について、重合体における表面への分布の傾向が実際に親水性のみによって決まるかどうかも不明である。また、実際にその分布がどの程度となるかについては発明の詳細な説明に説明はなく、そのような技術常識があるものとも認めらない。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明には、(C)単量体としてアクリル酸又はメタクリル酸を用いた場合以外については「水性ポリマーエマルション中の全カルボキシ基量の35~75モル%を、前記(A)単量体、前記(B)単量体及び前記(C)単量体を含む単量体混合物の重合により形成された粒子の内部に有」する手段について記載されているとはいえず、技術常識を参酌しても、訂正前の請求項1~8に係る発明の課題を解決できるとは認められない、旨を指摘していた。
オ 判断
本件訂正により、請求項1の(C)単量体は、「アクリル酸及びメタクリル酸よりなるよりなる群から選択される少なくとも1種の単量体」に限定された。
よって、本件訂正発明は、本件訂正発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであると認められる。
カ 申立人の主張について
(ア)申立人は、以下の主張をしている。(申立人意見書11~12頁)
本件訂正発明1について、カルボキシ基の中には、「クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ケイ皮酸、無水マレイン酸」等のアクリル酸とメタアクリル酸以外の不飽和カルボン酸又はその無水物に由来するカルボキシ基も含まれる。そして、本件明細書の【0050】、【0090】等には、アクリル酸とメタアクリル酸以外の不飽和カルボン酸又はその無水物に由来するカルボキシ基の分布の制御に関する記載はない。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明には、水性ポリマーエマルション中の全カルボキシ基を導入するための不飽和カルボン酸又はその無水物として「アクリル酸又はメタクリル酸のみ」を用いた場合以外については、「水性ポリマーエマルション中の全カルボキシ基量の35~75モル%を、・・・を含む単量体混合物の重合により形成された粒子の内部に有」する手段について記載されているとはいえず、技術常識を参酌しても本件訂正発明の課題を解決できるとは認められない。
(イ)しかしながら、以下のとおり、申立人の主張は採用できない。
申立人の主張は、本件訂正発明1の「共重合体」には、「(C)単量体」すなわち「アクリル酸及びメタクリル酸」以外の不飽和カルボン酸又はその無水物に由来するカルボキシ基が含まれる可能性があり、そのような場合については、「水性ポリマーエマルション中の全カルボキシ基量の35~75モル%を、・・・を含む単量体混合物の重合により形成された粒子の内部に有」する手段について記載されているとはいえない旨主張していると解される。
文言上、本件訂正発明1の共重合体は、「(C)単量体に由来する構成単位を有する重合体」とされているので、本件訂正発明1の共重合体は、(A)単量体~(C)単量体以外の単量体に由来する構成単位を含み得るとも解される。
しかしながら、本件明細書【0019】には、「(C)単量体は、不飽和カルボン酸単量体及びその無水物よりなる群から選択される少なくとも1種」と記載され、「アクリル酸及びメタクリル酸」は、その具体例であることが示されている。そして、訂正前の請求項1に係る発明は、「(C)単量体」は、「不飽和カルボン酸単量体及びその無水物よりなる群から選択される少なくとも1種」と定義されていたから、訂正前の請求項1においては、共重合体に含まれる「不飽和カルボン酸単量体及びその無水物よりなる群から選択される少なくとも1種」は、全て「(C)単量体」に該当し、本件訂正においては、その中から「アクリル酸及びメタクリル酸」に限定したものと解釈し、訂正後の請求項1においては、共重合体中に「アクリル酸及びメタクリル酸」以外の「不飽和カルボン酸単量体及びその無水物よりなる群から選択される少なくとも1種」は含まれないと解釈するのが自然である。
よって、本件訂正発明1において、共重合体中に、「アクリル酸及びメタクリル酸」以外に、「不飽和カルボン酸単量体及びその無水物」以外に由来する構成単位を有すると解釈することはできないから、申立人の主張は採用できない。
仮に、共重合体において「アクリル酸及びメタクリル酸」以外の「不飽和カルボン酸単量体及びその無水物よりなる群から選択される少なくとも1種」に由来するそれらの単量体が含まれると仮定しても、アクリル酸及びメタアクリル酸は、本件明細書の記載から重合体内部への分布の傾向が予測できると解されること、及び、その他の「不飽和カルボン酸単量体及びその無水物よりなる群から選択される少なくとも1種」に由来する構成単位について、重合体における表面への分布の傾向を分析し、「アクリル酸及びメタクリル酸」を含む限りにおいて、「水性ポリマーエマルション中の全カルボキシ基量の35~75モル%を、」「重合により形成された粒子の内部に有」するように調製することは、過度の試行錯誤を要するとはいえない。
よって、申立人の主張は採用できない。
キ まとめ
したがって、本件訂正発明1~8は、発明の詳細な説明に記載したものであるといえるので、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。
(4)取消理由5(実施可能要件違反)について
ア 取消理由通知での指摘
上記(3)で述べたとおり、(C)単量体として、アクリル酸又はメタクリル酸を用いた場合以外については、本件訂正前の請求項1~8に係る発明における「水性ポリマーエマルション中の全カルボキシ基量の35~75モル%を、前記(A)単量体、前記(B)単量体及び前記(C)単量体を含む単量体混合物の重合により形成された粒子の内部に有」させる手段について、本件明細書には具体的に記載がなく、また、そのような技術常識があるものともいえない。
よって、本件訂正前の請求項1~8に係る発明について、(C)単量体として、アクリル酸又はメタクリル酸を用いた場合以外について本件訂正前の請求項1~8に係る発明を実施するためには当業者において過度の試行錯誤を要すると認められるので、本件発明の詳細な説明は、当業者が請求項1~8に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
イ 判断
本件訂正により、請求項1の(C)単量体は、「アクリル酸及びメタクリル酸よりなるよりなる群から選択される少なくとも1種の単量体」に限定された。
よって、本件訂正発明1~8について、本件発明の詳細な説明は、その発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
ウ 申立人の主張について
申立人は、申立人意見書11~12頁において、上記(3)カ(ア)において主張したものと同様の理由により、本件訂正発明は実施可能要件を満たさない旨の主張をしている。
しかしながら、上記(3)カ(イ)において述べたものと同様の理由により、申立人の主張は採用できない。
エ まとめ
したがって、本件訂正発明1~8について、本件発明の詳細な説明は、その発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえるので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである。
(5)取消理由のまとめ
以上のとおりであるから、取消理由1~5は理由がない。
(1)申立理由2-1(甲1に基づく進歩性欠如)のうち、請求項7及び8に対する申立理由について
甲1には、上記1(2)イ(ア)で述べたとおり、甲1発明が記載されている。
そして、上記1(2)イ(イ)で述べたとおり、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明及び甲2及び甲5に記載された事項から当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
よって、本件訂正発明7及び8は、本件訂正発明1の水性ポリマーエマルションを化粧料用組成物、あるいは化粧料としたものであるから、これらの発明についても甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
(2)申立理由1-3(甲3に基づく新規性欠如)のうち、請求項5に対する申立理由について
甲3には、上記1(2)エ(ア)で述べたとおり、甲3A発明及び甲3B発明が記載されている。
そして、上記1(2)エ(イ)で述べたとおり、本件訂正発明1は、甲3に記載された発明であるとはいない。
よって、本件訂正発明5は、本件訂正発明1の水性ポリマーエマルションの揮発性有機化合物の濃度を100ppm以下としたものであるから、甲3に記載された発明であるとはいえない。
(3)申立理由1-4(甲4に基づく新規性欠如)のうち、請求項5に対する申立理由について
甲4には、上記1(2)オ(ア)で述べたとおり、甲4A発明及び甲4B発明が記載されている。
そして、上記1(2)オ(イ)で述べたとおり、本件訂正発明1は、甲4に記載された発明であるとはいない。
よって、本件訂正発明5は、本件訂正発明1の水性ポリマーエマルションの揮発性有機化合物の濃度を100ppm以下としたものであるから、甲4に記載された発明であるとはいえない。
(4)まとめ
以上のとおりであるから、請求項7及び8に対する申立理由2-1、請求項5に対する申立理由1-3及び請求項5に対する申立理由1-4には理由がない。
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由並びに申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、請求項1~8に係る特許を取り消すことはできず、ほかに請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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