結論テキスト
登録第6521920号の登録を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 2023890093 |
|---|---|
| 審判種別 | 記載はありません。 |
| 結論 | 勝訴(請求認容) |
理 由
本件登録第6521920号商標(以下「本件商標」という。)は、「日本食育防災士」の文字を標準文字で表してなり、令和3年11月2日に登録出願、同年12月28日に登録査定され、第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,教育上の試験の実施,教育の分野における情報の提供,実地教育,個人に対する知識の教授,知識又は技芸の教授,セミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,オンラインによる電子出版物の提供(ダウンロードできないものに限る。),図書及び記録の供覧,図書の貸与,書籍の制作,オンラインで提供される電子書籍及び電子定期刊行物の制作,コンピュータを利用して行う書籍の制作,書籍の制作(広告物を除く。),インターネットを利用して行う映像の提供,放送番組の制作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供」を指定役務として、同4年3月3日に設定登録されたものである。
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由(商標法第4条第1項第6号、同項第7号、同項第10号、同項第11号、同項第15号、同項第19号)を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証から甲第159号証(以下、「甲(乙)第○号証」の表示は、「甲(乙)○」と表記する。)を提出した。
(1)請求の利益について
請求人は、請求人ウェブサイトに掲載されている定款(甲2)記載のとおり「災害に対する減災と社会の防災力向上のための活動が期待される、相当程度の専門性を持った防災士と呼称する指導的役割を持つ人材の養成、確保、活用等により、わが国の防災と危機管理に寄与すること」を目的として(定款第3条)、「防災士の認証を行い、及び防災士の資格称号を附与し、並びに防災士登録台帳を備え付ける事業」等の事業(定款第5条)を行う、平成13年(2001年)に任意団体日本防災士機構として設立後、平成14年(2002年)に法人としての認証の申請がなされ、同年7月に内閣府から認証を受けた特定非営利活動法人であり、その後、平成30年(2018年)に東京都(東京都知事)から認定を受けた認定特定非営利活動法人である(甲3)。
請求人は、「公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章」であって、「著名な標章」といえる「防災士」を、請求人の事業において、長きにわたって使用してきており、本件商標はこれと同一又は類似の商標である。
さらに、請求人は、本件商標の登録出願以前から、引用商標「防災士」及びその他「防災士」関連商標を複数所有し、その業務において長きにわたって使用してきている(甲4~甲8)。
その結果、本件商標の登録出願日より前から、請求人の使用に係る商標「防災士」は、その業務に係る商品、役務を表示するものとして、需要者、取引者に広く認識されるに至っており、これは、本件商標の登録査定の時点でも同様である。
本件商標の指定役務は、請求人の事業に係る商品、役務と同一、類似であり、本件商標と請求人の使用に係る商標「防災士」とは同一、類似であるため、本件商標をその指定役務に使用すると商品、役務の出所の混同を生ずる。
以上より、請求人は本件審判を請求することについて、法律上の利害関係を有する。
(2)本件商標が商標法第4条第1項第6号に該当する具体的な理由
ア 「防災士」が「公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章であって、著名なもの」に該当すること。
(ア)請求人について
様々な社会貢献活動を行い、団体の構成員に対し、収益を分配することを目的としない団体である非営利活動法人(「Non-Profit Organization」又は「Not-for-Profit Organization」)の中で特定非営利活動促進法に基づき法人格を取得した法人が、不特定かつ多数のものの利益に寄与することを目的とする事業を行う法人である「特定非営利活動法人」と呼ばれる。また、特定非営利活動法人の中で、実績判定期間(直前の2事業年度)において一定の基準を満たすものとして所轄庁(都道府県、指定都市)の「認定」を受けた法人が、認定特定非営利活動法人となる(甲9、甲10)。
この点、請求人は、任意団体であった「日本防災士機構」が、平成14年(2002年)4月に特定非営利活動法人認証申請を行い、同年7月に内閣府から認証を得た特定非営利活動法人であり、その後、平成30年(2018年)に東京都(東京都知事)から認定を受けた認定特定非営利活動法人である(甲3)。
なお、認定特定非営利活動法人は、その活動を支援するために、より高い税制優遇が適用されることになるが、実績判定期間(直前の2事業年度)において、一定の基準を満たす者のみが、所轄庁(都道府県、指定都市)から認定を受けることができるものである。比較的形式的にその認証がなされる「特定非営利活動法人」と比較すれば、より公益性を有する事業を行っているとの判断がなされた法人であるということができ、請求人についてもそのように判断された認定特定非営利活動法人である。
請求人は、定款第3条記載のとおり「災害に対する減災と社会の防災力向上のための活動が期待される、相当程度の専門性を持った防災士と呼称する指導的役割を持つ人材の養成、確保、活用等により、わが国の防災と危機管理に寄与すること」を目的としている(甲2)。
請求人は、この目的を達成するために、同定款の第5条のとおり「防災士の認証を行い、及び防災士の資格称号を附与し、並びに防災士登録台帳を備え付ける事業」、「防災士の資質向上を図る事業」、「防災士相互の連携を強める事業」、「公的機関、自主防災組織、及び企業内等において防災士の活用を図る事業」、「防災・危機管理・災害救援ボランティア・医療等を目的とする団体や個人との連携を計る事業」、「防災と危機管理に関わる情報発信事業、及び講演会・シンポジウム等の啓もう事業」等を特定非営利活動に係る事業として行っている(甲2)。
(イ)「防災士」とは
「防災士」とは“自助”“共助”“協働”を原則として、社会の様々な場で防災力を高める活動が期待され、そのための十分な意識と一定の知識、技能を修得したことを請求人が認証した人を指す語であり(甲11)、「防災士」には、災害からの被害を最小限にとどめる地域防災力の担い手としての活動、災害時の避難所運営やボランティア活動への取組、地域自治体と連携した防災意識の啓発活動等がその役割として期待されている(甲12)。
防災士は民間資格であり、これを称することができるのは、その資格を有する者に限定される。この資格を取得するためには、まず、請求人が認証した民間研修機関、大学等学校、自治体が開催する研修講座を受講し、その後、請求人が実施する「防災士資格取得試験」を受験して合格する必要がある。さらに、別途、消防署、日本赤十字社が実施する「救急救命講座」の受講終了証を取得する必要がある。その上で、請求人に対して、防災士認証登録申請を行い、日本防災士機構認証委員会の資格審査を受けた後に、請求人から「防災士認証状」、「防災士証(カード)」の交付が行われる資格が防災士である(甲12、甲13)。
「防災士」に関する各種事業は、「防災士」の資格の認証を行い、その事業を主導する請求人のみならず、「防災士」の資格取得の前提条件となる防災士養成のための研修を行う、地方自治体や学校並びに民間研修機関、「防災士」の資格を取得した者のうちの有志から構成され、会員相互の交流と親睦を図り、一人一人のスキルアップと地域防災力の向上を目指すことを目的として設立され、全国各地に支部を有する特定非営利活動法人日本防災士会(甲14)等が一体となって活動を行い、長年にわたる活動の結果として「防災士」に対する信用を蓄積してきたものである。
「防災士」の資格を有する者は、災害発生時における活動の担い手としての働きが期待されるとともに、平時においても防災や減災に関する啓もう活動等を広く行っている。当該資格は、民間の資格ではあるものの、その設立の経緯や防災や減災という公益的な目的の活動内容等を踏まえれば、単なる民間の資格にとどまるものではない。
(ウ)「防災士」の制度の成り立ち
阪神・淡路大震災、北海道・有珠山の噴火、東京都・三宅島の噴火、静岡県・伊豆地方の群発地震、新潟県中越地震など大きな災害にみまわれ、災害列島とも言われる日本において、「防災」は日本各地の防災関係者の情報交流と連帯が最も基本となるものであるから、防災関係者は従来から防災を所管とする国土庁防災局(現・内閣府防災部門)及び自治省(現・総務省)消防庁に対して、防災に関する基礎的な専門知識や技能を有する専門家としての資格が必要であると考え、これを「防災士」と命名した上で、「防災士」の創設、制度化に向けて具体的な運動を行っていた。しかし、国の基本方針である行財政改革及び規制緩和の観点から、「防災士」を国の制度として創設することが難しい状況にあった。
しかしながら、こうした状況に手をこまねいていることはできず、防災関係者の切実なる要望に応える形で、平成11年(1999年)10月に「防災情報機構特定非営利活動法人」(以下「防災情報機構」という。)が設立された。
この防災情報機構は、防災、災害救援、危機管理、環境並びにそれらに関係するボランティア活動に関する諸問題について、個人・団体・機関等を支援する事業、情報提供に関する事業、研究と啓発に関する事業及びそれに関連する事業を行い、国民の生命・財産の保全と安全で快適な生活に寄与することを目的とするもので、その目的の一つとして「防災士制度」の創設、事業を行うものであった。
防災情報機構の会長には、上記阪神・淡路大震災において総理官邸で救援、復旧作業の実務を指揮した元内閣官房副長官が就任し、この機構の評議員、顧問等には、消防、ライフライン、経済団体、労働団体、自治体の重要な任にある人々、歴代消防庁長官、気象庁長官の有志、防災専門の学識経験者等が就任した。
防災情報機構では、直ちに「防災士制度」の検討に着手するとともに、平成12年(2000年)6月には「防災士制度」の実現を定期総会において事業決定し、同年10月に「防災士制度研究会」を設置、発足させ、さらにこれを発展させて平成13年(2001年)3月には「防災士制度に関する検討委員会」を東京大学社会情報研究所長(当時)を委員長として設置、発足させた。
その後、平成13年(2001年)12月12日に「防災士制度に関する答申書」が委員長から防災情報機構の会長宛に出され、防災士制度に関する基本が示され、その中で「防災士」の資格と認定のために新たに「日本防災士機構」を結成し、早急に制度を発足させることが必要であるとの答申がなされた(甲15)。
この答申に基づいて、防災情報機構では直ちに「防災士制度推進委員会」を設置し、防災情報機構を母体として新たに「特定非営利活動法人日本防災士機構」(請求人)を設立することとした。その会長には阪神・淡路大震災当時の兵庫県知事が就任して、平成14年(2002年)7月に内閣府認証の下に発足した(甲16)。
そこで、「防災情報機構」は、「防災士」に関する事業全般を日本防災士機構へ全面的に移管することを決定し、これが実行された、この点は甲12の防災士制度のあゆみ(年表)等にも記載のとおりである。
このような経緯を経て、請求人は、防災情報機構から移管された「防災士」の事業について、その研修大綱、認証制度についてさらに検討を行い、研修機関の選定を進め、「防災士」の研修養成事業を開始した。
第1回の防災士資格取得試験は、平成15年(2003年)9月28日に東京で行われ、198名の合格者を出した。さらに、同年10月26日までの3回の試験で合計648名の合格者が出ている。そして、上記資格試験合格者について第一次の防災士認証を同年10月22日に行い、216名の防災士が初めて誕生したが、認証状授与式の模様はNHKによって全国ニュースとしても報道された(甲3)。
以降、その認証者数は年々増加し、平成18年(2006年)には1万人、平成27年(2015年)には10万人、平成30年に(2018年)には15万人、令和2年(2020年)には20万人、令和5年(2023年)には25万人を超えている状況である(甲3)。なお、防災士養成事業には、これまで32府県及び74市区町村の自治体が参加しており、350を超える自治体が住民を対象に資格取得助成を実施している状況にある(甲12)。
(エ)「防災士」が「公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章」であること
請求人が不特定かつ多数のものの利益に寄与することを目的とする事業を行う法人「特定非営利活動法人」、さらに所轄庁から認定を受けた「認定特定非営利活動法人」であることは前述のとおりである。
請求人が実施している事業、すなわち、「防災士の認証を行い、及び防災士の資格称号を附与し、並びに防災士登録台帳を備え付ける事業」、「防災士の資質向上を図る事業」、「防災士相互の連携を強める事業」、「公的機関、自主防災組織、及び企業内等において防災士の活用を図る事業」、「防災・危機管理・災害救援ボランティア・医療等を目的とする団体や個人との連携を計る事業」、「防災と危機管理に関わる情報発信事業、及び講演会・シンポジウム等の啓もう事業」等の事業(甲2、定款第5条)は、「防災士」の資格自体は民間資格ではあるものの、防災や災害時に活躍することができる人材である「防災士」を育成等するという公益に資するものである。
また、請求人は、上述した公益に資する事業を行うにあたり、一貫して、「防災士」の語をその事業を表示する標章として使用している(甲12、甲17~甲23ほか)。
そこで、「防災士」は「公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章」に該当する。
(オ)「防災士」の著名性について
「防災士」が広く知られているものであることは、前述の資格認定者数のみならず、例えば公的機関との関係における「防災士」の位置づけや活動の内容、新聞・雑誌等への掲載事例等からもうかがい知ることができると考えられるため、以下この点について説明する。
a 請求人発行の「防災士REPORT」について
請求人は「防災士」に関する事業や取組、「防災士」の活動紹介するための「防災士REPORT」を毎年発行しており、その中では、防災士に関する自治体や大学及び企業等の取組などが紹介されている(甲17~甲23)。
これら「防災士REPORT」は、本件商標の登録査定が2021年12月であることから、これに近い年月の一部のものについての提出にとどめるが、各記事の内容からすれば、請求人のみならず、地方公共団体や学校などが「防災士」の育成やこれに関する活動に参画しており、「防災士」は、災害の多い我が国において、災害からの被害を最小限にとどめる地域防災力の強化の担い手としての活動、災害時の避難所運営やボランティア活動への取組、地域自治体と連携した防災意識の啓発活動等がその役割として期待されている有資格者(甲13)及びこれに関連する事業を指し示す語として広く知られていることがわかる。
b 「防災士」が取り上げられたその他の事例
既に述べたとおり、防災士の養成事業には、これまでに32府県、74市区町村の自治体が参加し、350を超える自治体が住民を対象に資格取得助成を実施している状況にある(甲12)。この点、一部の事例は前記の項においても紹介しているとおりである。
また、例えば、平成22年(2010年)年度版の「防災白書」において、「「新しい公共」の力を活かした防災力の向上」と題する特集において、民間における防災リーダーの育成の取組として既に「防災士」が取り上げられており(甲24)、国土交通省が「マイ・タイムライン」の普及、啓発を図るためとして、防災士向けの研修を開催している事例などもある(甲25)。
さらに「防災士」については、これまでの国会において度々言及された例もある。例えば、平成27年(2015年)2月23日「第189回国会衆議院予算委員会」(甲26)、平成29年(2017年)3月1日「第193回国会参議院予算委員会」(甲27)、平成31年(2019年)2月28日「第198回国会衆議院予算委員会」(甲28)、令和3年(2021年)3月10日「第204回国会衆議院予算委員会」(甲29)であり、防災に関連し、防災士がより活用されるべきであることなどについて言及されている。
以上のような点からみても、国や地方公共団体の認識としても、「防災士」が、災害時の活動の担い手や、防災・減災に関する地域の防災力強化の担い手として育成され、活用されるべき人材であり、その人材育成及び資格取得者の増加が必要な資格であると認識されていることが明らかであり、また、「防災士」がこのように取り上げられていることから、これが広く知られていることを伺い知ることができる。
c 「辞典」の類への掲載例
インターネット上で、出版社などが提供する辞書・辞典・データベースを横断して検索できるウェブサイトである「コトバンク」において「防災士」の語を検索してみると、朝日新聞社が提供する現代用語事典「知恵蔵mini」及び小学館が提供する「デジタル大辞泉」に、「防災士」について、「NPO法人日本防災士機構が認定する民間資格」であることなどが掲載されている事実を確認することができる(甲30)。
ここから、「防災士」が民間資格であって、請求人が提供する事業に係るものであることが、辞典の類に掲載される程度に広く知られていることを伺い知ることができる。
d 新聞記事等への掲載例
「防災士」に関する記事が各種新聞やウェブサイト版ニュース記事として掲載された例は、毎年枚挙に暇がなく、これをすべてあげることは難しいが、その一例を以下に紹介する。
まず、平成25年(2013年)の1月から12月の掲載例であるが、甲31にまとめたとおり、請求人が記事内容を確認できているものだけでも防災士に関する記事が57件掲載されている。
次に、平成26年(2014年)の1月から12月の掲載例であるが、甲32にまとめたとおり、請求人が記事内容を確認しているものだけで防災士に関する記事が63件掲載されている。
また、平成16年(2004年)6月から平成22年(2010年)2月については、53件の掲載例が確認できている(甲33)。
これらの記事の内容は様々であるが、各地域において防災士の養成講座が開催され、防災士の取得が奨励されていることを示すもの、地方自治体が資格取得のための助成を行っていることを示すもの、防災士が講演会等や勉強会などを行ない、防災、減災についての講演や啓もう活動を行っていることを示すもの、学生などの若年層における資格取得の奨励がなされていることを示すもの等、「防災士」が地域社会における防災、減災に関する活動の担い手として、着実に浸透していることを表すものである。
e インターネットでの検索結果
さらに、インターネットで「防災士」の語を検索した結果を提出する(甲35、甲36)。
このように、「防災士」という語について非常に多くの検索結果が得られるとともに、それらが請求人の提供する事業及び事業に係る民間資格である「防災士」に関して使用されているものであり、他に「防災士」を冠した使用例がほとんど存在しないことや、それと同時に、数多くの地方公共団体や学校などが、防災士の養成研修や助成事業などを行っていることも確認できる。この点は、本件商標の登録査定の時点よりも前の検索結果においても同様である。
このような検索結果からは、資格としての「防災士」やこれに関連する事業が、国とともに特に災害時における地域住民の安全確保や支援を担う地方公共団体等を中心に、地域の防災や減災、災害時における専門的な知識を有する活動の担い手として活用されるべきものであるとして認識され、かつ、広く知られるに至っているということができる。
f まとめ
以上のように、地方公共団体や、大学、企業等が、その人材育成を重要視し、実際にその資格取得者が増加している「防災士」は、災害の多い我が国において、災害からの被害を最小限にとどめる地域防災力強化の担い手としての活動、災害時の避難所運営やボランティア活動への取組、地域自治体と連携した防災意識の啓発活動等がその役割として期待されている有資格者を指し示すとともに、請求人による「防災士」を育成し、普及させる事業等を指し示す語として広く知られ著名の程度に至っている。
イ 本件商標が請求人の標章「防災士」と同一又は類似であること
本件商標は「日本食育防災士」を横書きしてなり、「ニホンショクイクボウサイシ」「ショクイクボウサイシ」「ニホンショクイク」「ボウサイシ」の称呼を生じ、全体としては特定の観念を生じない造語であるが、その構成中の「防災士」から「災害に関する資格(民間資格)である防災士」程度の観念を生ずる。
「日本」と「食育」と「防災士」が結合した本件商標「日本食育防災士」は、一連で特定の意味合いをもって認識されるというべき事情は見いだせないため、これを必ずしも一体不可分のものとしてのみ捉えなければならない特別な事情はなく、「防災士」の部分から「ボウサイシ」の称呼を生じ、請求人の著名な標章「防災士」に相応した「災害に関する資格(民間資格)である防災士」の観念を生ずる。そのため、これに「日本」及び「食育」の語が付加されているとしても、「防災士」の語を含む本件商標が使用されると、請求人の標章「防災士」と相紛らわしく、混同を生ずるおそれがある。
よって、本件商標「日本食育防災士」は、請求人標章「防災士」と同一又は類似の商標である。
ウ 小括
以上のとおり、本件商標は、請求人が長きにわたって使用している、「公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章」であって、「著名な標章」であるといえる「防災士」と同一、類似の商標であり、商標法第4条第1項第6号に該当する。
(3)本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当する具体的な理由
請求人はその事業を行うに際して「防災士」を長きにわたり使用してきており、「防災士」は請求人の提供する事業及び役務に係る名称及びその事業に関連した民間資格の名称として広く知られるに至っている。また、「防災士」は、前記で述べたとおり、「防災に関する基礎的な専門知識や技能を有する専門家としての資格」を創設することを企図された際に命名された「造語」であって、従来から存在した成語ではなく、その後防災情報機構が「防災士」の制度の創設に関する事業に着手し、さらに請求人がその事業を引き継ぎ長きにわたって使用してきたものである。なお、請求人は引用商標「防災士」及び「防災士の語を含む関連商標」、すなわち「日本防災士機構」、「防災士手帖」、「日本防災士会」、「ジュニア防災士」等の関連商標を所有している(甲4~甲8)。
さらに「防災士」は、民間資格の名称として使用されているものの、この「防災士」は、災害の多い我が国において防災、減災に関する啓もう活動や災害時のボランティア活動など、地域の防災力強化の担い手として、地方公共団体や学校までもがその育成や資格取得助成に積極的に参画している等、いわば公的な場面も含めた活動が期待されている側面を持つものであり、これを名乗ることを許されるのは、一定の研修を受購した上で、資格試験を受験し、これに合格した後に請求人に対して申請し、その認定がなされた災害に関する一定の専門的知識及び技能を有する者のみに限られている。
このように、その名を称するためには一定の知識と技能を有することが前提で、さらに試験合格及び資格の取得が必要な名称である「防災士」という資格が存在している一方で、本件商標のように、「防災士」に、例えば「日本」と「食育」のような他の語を付加したにすぎず、全体として一連の観念も生じない「日本食育防災士」の語のような併存登録を認め、その両者の使用を異なる者に許容することは、その需要者、取引者に、当該商標が請求人の事業に係る「防災士」と何らかの関連を有するものであるかのごとき誤認を生じせしめることになる。
この点、本件商標の指定役務をみても、例えば「技芸・スポーツ又は知識の教授,教育上の試験の実施,教育の分野における情報の提供,実地教育,個人に対する知識の教授,知識又は技芸の教授」のような請求人の業務に係る役務と同一、類似の役務が含まれており、本件商標が使用されれば、混同を生ずることが明らかである。
また、「防災に関連する一定の知識や資格をもった者」等を表しうる語は、例えば「防災アドバイザー」、「防災プランナー」のように、他にも存在するにもかかわらず、そもそも請求人以外の無関係の第三者が、造語である「防災士」という語に、他の語を結合したにすぎない商標を採択する必然性は皆無である。本件商標のように「○○防災士」のような商標が、安易に請求人の「防災士」とは非類似商標であると判断され、これが多数登録されていく状況になり、このような商標が何ら制限なく使用されるとすれば、無用な混乱を生ずるおそれがあることが明らかであり、前記のように「防災士」を名乗ることが許される者を資格取得者に限定し、これまで防災、減災に携わる者としての信用を蓄積してきた「防災士」の信用を毀損することにつながるばかりか、公正な競業秩序も保たれないことにもなる。このような事態が起こることは、災害時における国民の安全の確保といった社会公共の利益にも反し、社会の一般的道徳観念に反するものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(4)本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当する具体的な理由
請求人が長きにわたってその事業を行うに際して使用している「防災士」が造語であって、かつ、広く知られるに至っている点は既に述べているとおりである。この状況は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において変わるものではない。
また、民間資格としての「防災士」を称することができるのは、その資格を有する者に限定され、この資格を取得するためには、請求人に対して防災士認証登録申請を行う必要があるが、この申請を行うにあたっては、請求人が認定した民間研修機関・大学等学校・自治体が開催する研修講座を受講し、その後、請求人が実施する「防災士資格取得試験」を受験して合格し、さらに、消防署、日本赤十字社が実施する「救急救命講座」の受講終了証を取得することが要件になっている(甲5)。
また、資格授与後の防災士に対しても、請求人は、スキルアップのための研修等を提供し、その他、防災、減災等に関する各種セミナー、シンポジウムなども実施している。
この点は、既に提出した各種証拠資料からもわかるとおりである。これらは、本件商標の指定役務中の「セミナーの企画・運営又は開催」と同一、類似の役務である。
また、本件商標は、標準文字で「日本食育防災士」と横書きしてなるものであるが、「日本食育」又は「食育」と「防災士」の語に特段強い結びつきが存在する事情が見当たらず、「日本食育防災士」が、一連で特定の意味合いをもって認識され、全体をもって一体不可分のものとして捉えなければならない特別な事情がない点からすれば、ここからは「ニホンショクイクボウサイシ」等の称呼を生ずるほか、「防災士」の部分から「ボウサイシ」の称呼を生じ、「災害に関する資格(民間資格)である防災士」程度の観念を生ずる。
以上からすれば、本件商標「日本食育防災士」と請求人が長きにわたってその業務に使用している「防災士」は同一、類似の商標である。
したがって、本件商標は他人(請求人)の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されるに至っている商標「防災士」と同一、類似の商標であって、その商品若しくは役務と同一、類似の商品若しくは役務に使用するものである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。
(5)本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当する具体的な理由
ア 本件商標の態様
本件商標は標準文字で「日本食育防災士」を横書きしてなり、「ニホンショクイクボウサイシ」の称呼を生ずるほか、全体として造語であり特定の観念は生じないものの、その構成中の「防災士」の語が前述のとおり広く知られていること等も考慮すれば、「防災士」の部分から「ボウサイシ」の称呼を生じ、「災害に関する資格(民間資格)である防災士」程度の観念を想起させる語である(甲1)。
イ 請求人の所有する引用商標等の態様について
請求人の所有する引用商標は、漢字で「防災士」と横書きしてなり、「ボウサイシ」の称呼を生じ、「災害に関する資格(民間資格)である防災士」を想起させる語である(甲4)。当該引用商標は、本件商標の登録出願日より、15年以上前である平成15年(2003年)4月22日に登録出願され、平成17年(2005年)1月21日にその登録がなされ、平成27年(2015年)1月20日に商標権存続期間更新登録が行われており、現在も有効に存続しているものである。
なお、請求人はその他に「日本防災士機構」、「防災士手帖」、「日本防災士会」、「ジュニア防災士」といった「防災士」に関連する商標を複数所有しており、これらも引用商標と同じく、本件商標の登録出願前に設定登録がなされている(甲5~甲8)。
ウ 本件商標と引用商標の類否について
本件商標「日本食育防災士」について、「日本食育防災士」、「日本食育防災」や「食育防災」という成語や広く知られた語はないため、「日本」と「食育」と「防災士」の語からなる結合商標である。
結合商標である本件商標について考察するに、本件商標は、標準文字で「日本食育防災士」を横書きに表したものではあるものの、「日本」が我が国の呼び名であり、「食育」の語が「食材・食習慣・栄養など、食に関する教育」(甲37)程度の観念を有する語であり、「防災士」は、元来、造語であって、請求人が古くから使用してきたことで広く知られるに至った語である。また、「日本食育」又は「食育」と「防災士」に、観念上のつながりはなく、「日本食育防災士」の語が使用され広く知られている事情もないため、「日本食育防災士」全体から特定の観念を生じず、需要者、取引者がこれを常に一連一体の語であると認識すると理解すべき理由はない。
以上からすれば、本件商標については、これを一連一体不可分の結合商標であると判断すべき理由はないため、その構成中の「防災士」の部分に相応した「ボウサイシ」の称呼を生じ「災害に関する資格(民間資格)である防災士」の観念を生ずる。
一方で、引用商標「防災士」(甲23)からは「ボウサイシ」の称呼が生ずることは明らかであり、「災害に関する資格(民間資格)である防災士」の観念を生ずる。
したがって、結合商標である本件商標と、引用商標とは、称呼、観念において相紛れるおそれがある、同一、類似の商標である。
エ 本件商標と引用商標の役務の類否について
本件商標の指定役務「技芸・スポーツ又は知識の教授,教育上の試験の実施,教育の分野における情報の提供,実地教育,個人に対する知識の教授,知識又は技芸の教授」と、引用商標の指定役務中「技芸・スポーツ又は知識の教授(防災専門知識及び技能・防災又は災害情報公表の知識及び技能・救急救命知識及び技能・避難誘導知識及び技能の検定試験,防災専門知識及び技能・防災又は災害情報公表の知識及び技能・救急救命知識及び技能・避難誘導知識及び技能の教授,防災専門知識及び技能・防災又は災害情報公表の知識及び技能・救急救命知識及び技能・避難誘導知識及び技能の質の証明を含む。)」とは、同一又は類似の役務である。
オ まとめ
以上のとおり、本件商標と引用商標は類似する商標であり、同一、類似の役務を指定するものである。さらに、引用商標は本件商標の登録出願前にその設定登録がなされ、本件商標の登録査定時に存在していた引用商標の商標権は今日まで有効に存続している。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(6)本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当する具体的な理由
請求人が「防災士」を目印として、その事業に係る役務を長きにわたって提供してきており、これが広く知られるに至っている点は前述のとおりである。この状況は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において変わるものではない。
また、「防災士」は、もともと存在していた成語等ではなく、「防災に関する基礎的な専門知識や技能を有する専門家としての資格」を創設することを企図された際に命名されたものであって、その後「防災情報機構」が、「防災士」の制度の創設に関する事業に着手し、さらに請求人がその事業を引き継ぎ長きにわたって使用してきた造語であって、かつ、請求人は、「防災士」の商標のみならず、「日本防災士機構」、「防災士手帖」、「日本防災士会」、「ジュニア防災士」等の「防災士」に関連する商標を複数所有してきている(甲4~甲8)。
このような状況において、「日本」と「食育」と「防災士」という語を結合したにすぎず、「日本食育防災士」全体からは何ら特定の観念を生ずるとはいえない本件商標がその指定役務に使用されると、その構成中に「防災士」の語を含むことから、請求人の業務に係る役務又は請求人と何らかの関連があるものの業務に係る役務であるかのごとく役務の提供の主体に混同を生ずるおそれがある。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(7)本件商標が商標法第4条第1項第19号に該当する具体的な理由
「防災士」が、請求人が長きにわたって使用している、「公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章」であって、「著名な標章」であるという点や、長年にわたり、その事業を行うにあたって、商標「防災士」を使用してきている点、請求人が「防災士」に関連する各種商標を所有していること等は既に述べたとおりである。
また、本件商標「日本食育防災士」と請求人の商標「防災士」が同一、類似の商標である点も既に述べたとおりである。
このような状況において、「防災に関連する一定の知識や資格をもった者」を表し得る代替語は、例えば「防災アドバイザー」、「防災プランナー」のように他にも存在するにもかかわらず、もともと成語として存在したわけではなく、請求人が長きにわたり使用し広く知られるに至った造語である「防災士」の語に、「日本」と「食育」という平易な成語を付加したにすぎず、全体として一連の観念も生ずることのない本件商標「日本食育防災士」を使用することは、その商標の使用を採択した時点で「防災士」との混同を生じさせることを企図とした不正の目的があるといわざるを得ず、「防災士」の資格を付与するのに種々の要件を定め、資格取得者としての「防災士」を名乗ることができる者を、災害、防災に関して一定の専門的知識及び技能を有する者に限定し、請求人が長年にわたって事業を行ってきたことによって「防災士」に蓄積してきた信用を毀損させるものにほかならない。
仮に、「日本食育防災士」の使用により「防災士」との間において、出所の混同のおそれまではなくても、出所表示機能を稀釈化させたり、その名声等を毀損させる目的をもって出願したものといわざるを得ず、引用使用商標「防災士」及び適式に資格を取得して「防災士」を名乗る者の信用を守るためには、このような登録が認められる状況を到底看過することはできない。
以上のとおり、本件商標は、請求人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内において広く認識されている商標「防災士」と同一、類似の商標であって、不正の目的をもって使用するものであるから、商標法第4条第1項第19号に該当する。
(1)被請求人について
答弁書の記載からすると、N氏は2021年3月の「おうち防災セミナー」までは、「防災食育」という用語を使用し、同年3月29日以降「日本食育防災士」という語の使用をし、その後同年6月25日に防災士の認証を受けたということになっている。しかしながら、この経緯からは、答弁書に記載されているように、「災害時における食の問題を解消しよう」と被請求人を設立し、「食と災害の知識が身につく「食育防災アドバイザー認定講座」を開講」していたN氏や被請求人が、請求人から「防災士」の認定を受けていない者であっても「防災士」の語を含む「日本食育防災士」として被請求人によって認定されることになる「日本食育防災士養成講座」のように「防災士」の語を構成中に含む「日本食育防災士」の語を採択することになった事情、「防災士」の語を構成中に含む「日本食育防災士」の語を採択する必要性については明らかでない。
(2)商標法第4条第1項第6号について
「○○弁護士」といった同一の国家資格の中において、得意分野や専門性などのPRや区別化を示すために商標登録を行うことと、「日本食育防災士」のように「防災士」に類似する名称を使用すること、及び請求人から「防災士」の認定を受けていない者であっても「防災士」の語を含む「日本食育防災士」として被請求人によって認定されることになる民間資格に「防災士」の語を含む「日本食育防災士」の語を採択し、これを商標登録することでは、次元が異なる話である。
また、被請求人が挙げる「弁護士」や「保育士」は国家資格であり、「防災士」は民間資格であるという大きな違いが存在する。
「国家資格」について、例えば文部科学省のウェブサイトを見ると「国家資格とは、国の法律に基づいて、各種分野における個人の能力、知識が判定され、特定の職業に従事すると証明される資格。法律によって一定の社会的地位が保証されるので、社会からの信頼性は高い。」との記述がある(甲38)。
一方、「民間資格」は民間団体・協会・公益法人や企業等が独自の基準を設けその資格を認定するものであり、これを保護するための個別の法律は存在せず、自助努力にかかっている。この点において、「国家資格」と「民間資格」はそもそもの前提条件が大きく異なっている。
そのうえで「防災士」という語が、国家資格として定めている「弁護士」「保育士」等とは異なり、請求人が業務の移管を受けた前身の組織である「防災情報機構特定非営利活動法人」が命名した「造語」であって、それ以前には使用されていなかった語であるということを踏まえれば、本件商標は「弁護士」や「保育士」の例と同列に論ずることはできない。
(3)ア 「防災士」は、請求人が業務の移管を受けた前身の組織である「防災情報機構特定非営利活動法人」が命名した「造語」であって、自他商品役務の識別力の強い語である。この点、国家資格の名称である、例えば「弁護士」「保育士」等とは前提が異なっている。
イ 熊本地震は2016年(平成28年)4月14日に発生したものであるが、上述したように、N氏は2021年(令和3年)3月まで、「防災食育」という用語を使用しており、「日本食育防災士」という語の使用が開始されたのは、2021年(令和3年)6月25日に請求人から防災士の認定を受けた年である同年3月29日以降である。
ウ 乙28では、「平時は学校給食の配給センターとして稼働しつつ「食べる力=生きる力」をはぐくむ食育啓発施設として、さらに災害時は避難所へ応急給食機能(炊き出しなど)を発揮しつつ、自ら避難所となる「防災食育センター」」とされており、3件の「防災食育センター」と、1件の「食育交流センター」が紹介されているにすぎないから、乙28から「「食育防災」の語は「災害時の職に関する教育」や、「災害時の食の安全確保」といったまとまった意味を有する」等と認定することはできない。
むしろ、乙28における記載からすれば、「日本食育防災士」に一連で特定の意味合いをもって認識されるべき事情は見いだせず、審判請求書で主張したとおり、本件商標「日本食育防災士」は請求人標章「防災士」と同一又は類似の商標と認定されるべきである。
(4)乙26には、「今日のゲストは、食育プロデューサーのNさんです!」と記載されているのみであり、その放送内容は全く不明であるし、その放送日も同様に不明である。なお、「1月22日 今回はこんな防災トーク!!」との記載があり、その下部に2023年1月22日の記載があるが、もし、これがN氏の活動が紹介された放送日を指すものであるとすれば、本件商標の登録以降のものであり、これらは被請求人が本件商標の出願時や登録時に「日本食育防災士」として活動することを黙認していたことの何の証左にもならない。
また、仮にM氏が、N氏が日本食育防災士として活動していることを紹介していた事例があるとしても、そもそも本件について問題となるのは、出所の混同を防いで需要者の利益を保護するという公益保護の観点から、本件商標「日本食育防災士」の登録が認められたことについて、商標法上における商標登録の無効理由が存在していたのか否かということであり、被請求人が答弁書で主張しているような事情は、本件商標が商標法第4条第1項第6号に該当する無効理由を有していることに対する何の抗弁にもなっていない。
(5)商標法第4条第1項第7号について
請求人から「防災士」の認定を受けたことで「防災士」を名乗ることが許されていることによって、「防災士」の文字を含む「日本食育防災士」の文字からなる商標を出願して商標登録を受けること、すなわち、「日本食育防災士」の商標について独占排他的な効力を有する商標権を取得する「正当な理由がある」等とすることは許されるものではない。
請求人から「防災士」の認定を受けることと、「防災士」の文字を含む文字からなる商標を出願して商標登録を受けることで当該商標について独占排他的効力を有する商標権を取得し、さらにはその「防災士」の語を含む独占権の付与された商標をもって事業を行う事が許容されるか否かは全く無関係な問題である。
また、N氏が「防災士」の認定を受けた者であるとしても、本件審判請求時の被請求人は「防災士」の認定は受けていない(そもそも請求人は自然人以外に対して「防災士」の認定をしていない。)。なお、現在の被請求人は、「現時点の」代表者がN氏であるとしても、同様に防災士の認定を受けていない。そうすると、本件商標は「防災士」以外の者が出願、登録して、所有及び使用をしている。また、仮に本件商標の出願人、権利者がN氏であったとしても、本件商標を使用した事業が遂行されると「防災士」の認定を受けていない者について、「日本食育防災士」の認定がなされ当該語が使用される事態が生じ得るが、これにより「防災士」という名称を巡って混乱が生ずることは想像に難くない。商標法の目的が「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護すること」とされている点に鑑みても、先願、先登録、かつ、長きにわたり事業を行ってきた請求人の業務上の信用の保護は図られるべきである。
このような点に、被請求人の事業を継続するにおいて、その資格名称に「防災士」という語を含め、これを商標登録する必要性が皆無であることからすれば本件商標を登録することが「社会公共の利益に反しない」「社会一般の道徳観念に反しない」という被請求人の主張は失当である。
(6)商標法第4条第1項第10号について
請求人から防災士の認定を受けた2021年(令和3年)6月25日より前の、同年3月29日から「日本食育防災」という用語は使用が開始されている。
(7)商標法第4条第1項第11号について
被請求人は「「食育」と「防災」は密接な関係を有しており、「災害時の食育に関する教育」や「災害時の食の安全の確保」といった観念上のつながりを有していることから、これら2語を分離して観察すべきではない。」との主張をしているが、被請求人が根拠としてあげている乙28から、このような認定ができない点は、既に述べたとおりである。
(8)商標法第4条第1項第15号について
請求人は本件商標の出願前から本件商標の登録時、そして今日に至るまで、一貫して「防災士」に係る資格認定や資格認定の前提となる研修事業(養成講座の事業)、及び研修機関の認定、防災士に対するフォローアップ研修を行っている。また、防災、減災に関する各種セミナー等も請求人、認定研修機関、日本防災士会が一体となって広く防災士に関する事業を行っている(甲17~甲23)。
請求人がこれらの事業の目印として使用している「防災士」は、請求人が長きにわたって使用している「公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章であって、著名なもの」である。
本件商標「日本食育防災士」が請求人標章又は引用商標「防災士」と類似の商標であることは審判請求書においても詳述したとおりである。
また、本件商標の審判請求時の権利者は「防災士」ではなく、仮に現在の権利者について考慮しても、やはり「防災士」ではなく、いずれも、請求人とは無関係の企業、団体である。
そこで、請求人の業務に係る商標として広く知られている「防災士」に類似している本件商標「日本食育防災士」は、他人の業務に係る役務と混同を生ずるおそれがある商標であるので、被請求人の主張は失当である。
(9)商標法第4条第1項第19号について
上述したように、請求人から防災土の認定を受けた2021年(令和3年)6月25日より前の、同年3月29日から「日本食育防災士」という用語は使用が開始されている。
また、「防災士として「防災士」と名乗ること」が認められているのは、請求人から「防災士」の認定を受けているからであり、「請求人から防災士の認定を受けた後に本件商標「日本食育防災士」の出願を行ったことから、防災士として「防災士」を名乗ること」が認められているのではない。
請求人によって防災士の認定を受けたからといって、請求人が商標権を取得している引用商標に類似する商標であって、請求人がその事業の目印として長きにわたり使用することで「公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章であって、著名なもの」になっている「防災士」に類似しており、「防災士」の語を構成中に含む「日本食育防災士」について、独占排他権が付与される商標権を取得する権能までもが、防災士の認定を受けている者に対して与えられているものでない。
また、N氏は「防災士」の認定を受けた者であるとしても、本件審判の審判請求時の被請求人は「防災士」の認定は受けていない(そもそも請求人は自然人以外に対して「防災士」の認定をしていない。)。なお、現在の被請求人も、「現時点の」代表者がN氏であるとしても、同様に防災士の認定を受けていない。そうすると本件商標は「防災士」以外の者が出願、登録して、所有及び使用をしているものである。また、仮に本件商標の出願人、権利者がN氏であったとしても、本件商標を使用した事業が遂行されると「防災士」の認定を受けていない者について、「日本食育防災士」の認定がなされ当該語が使用されることになるが、これにより「防災士」という名称を巡って混乱が生ずることは想像に難くない。商標法の目的が「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護すること」とされている点に鑑みても、先願、先登録かつ、長きにわたり事業を行ってきた請求人の業務上の信用の保護が図られるべきである。
このような点に、被請求人の事業を継続し、特に「災害時の食のリーダー」の養成の事業を行うにおいて、その資格名称に「防災士」という語を含め、これを商標登録する必要性が皆無であることからすれば「本件商標を登録することが「防災士」に蓄積された信用を毀損されることにはならない。」という被請求人の主張は失当である。
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証から乙第28号証(枝番号を含む。なお、枝番号を有する証拠において、枝番号の全てを示すときは、枝番号を省略する。)を提出した。
(1)被請求人について
本件商標は、令和6年3月12日に商標権移転登録申請書が提出され、商標権者は変更されている。
被請求人の代表理事であるN氏は、旧商標権者に所属していたタレントであり(乙1、乙2)、本件商標については専ら被請求人の代表理事であるN氏が使用するために登録を受けたものである。今回の商標登録無効審判の請求を受けたことにより、所属元に迷惑がかかることを考慮し、被請求人に本件商標の商標権を移転した次第である。
(2)N氏について
ア 略歴
N氏は出身地から上京した後、トータルボディセラピストとして勤務していた。その後、美容に関するワークショップや講師等の活動を行う中、体にとって一番大切な「食」について興味を持つ。
2005年に成立された「食育基本法」が世界的に例のない法律として注目されていることを知り、少しでも多く広めていきたいと地産地消支援、食文化の継承、商品やレシピ開発等、食育専門家として日本のみならず世界へ向け幅広く活動を行う。
災害支援経験後、災害時における食の問題を解消しようと一般社団法人を設立(乙3)。食と災害の知識が身につく「食育防災アドバイザー認定講座」(乙3の2)と、災害時の食のリーダー「日本食育防災士養成講座」を開講中である(乙3の3)。なお、N氏は、請求人が認証した研修機関が実施する「防災士養成研修講座」を受講し、請求人が実施する「防災士資格取得試験」に合格した上で正式な「防災士」となっており、2021年6月25日を認証日とする適式な防災士証を有している(乙4)。
イ N氏のこれまでの活動
N氏のこれまでの活動を時系列的にまとめたものを乙5として提出する。
ウ 動画配信サイト「YouTube」での活動
N氏は、独自のチャンネルを持っており、「日本食育防災士」の肩書の下で食育と防災をテーマに動画を配信し、災害時の食事に関する情報の発信を行ってきている(乙6~乙9)。
エ 防災又は食育についてのイベントの開催及び出演(乙10~乙15)
オ 各種新聞記事
被請求人及びその代表理事であるN氏が防災及び食育について情報発信したことや、活動に関する紹介記事が各種新聞に掲載されてきた(乙16~乙22)。
カ レスキューキッチンカーについて
「レスキューキッチンカー」とは、災害現場で機動的に活動できるキッチンカーであり被請求人が開発したものである。令和4年2月27日の発表の時点では、同様のキッチンカーは国内で初めての登場といわれた。排気量1500CCのトラックをベースに改造してあり、開発費用は500万円程であった。飲料水は、通常の2倍の200リットルのタンクを搭載し、200人分の食料が収納できるようになっている(乙18)。なお、「レスキューキッチンカー」を通じた食育と防災に関する活動が認められ、2024年4月12日付けにて、農林水産省から教育関係者・事業者部門で「消費・安全局長賞」を受賞している(乙23の1、2)。
(3)商標法第4条第1項第6号について
ア 「防災士」の文字について
「防災士」の文字のうち、「防災」は「災害を防止すること。」を意味する語であり(広辞苑第7版)、「士」は「一定の資格・役割をもった者」を意味する(同)。したがって、これら2語を組み合わせた「防災士」からは、「災害を防止するための一定の資格」又は「災害を防止する役割を持った者」程の意味合いが生じる。請求人も述べているように、「防災士」は一定の資格を持った「人」を表しているのであって、公益団体等の名称でもなく、事業を表示するものともいえない。
イ 「防災士」が「公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章」ではないこと
請求人が「特定非営利活動法人」であることについては争わないが、「防災士」が「公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章」であるという請求人の主張は失当である。請求人は定款の表紙にも記載されているとおり、その名のもとに「防災士の認証を行い、及び防災士の資格称号を附与し、並びに防災士登録台帳を備え付ける事業」、「防災士の資質向上を図る事業」、「防災士相互の連携を強める事業」、「公的機関、自主防災組織、及び企業内等において防災士の活用を図る事業」等を行っているのであり、その名称が「公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章」に該当するとみるのが相当である。もし、「防災士」がここでいう標章に該当するというのなら、防災士が「防災士」の認証を行ったり、資格を付与し、「防災士」の資質向上を図る事業を行っていることになり、請求人の活動内容との整合性が取れない。
そもそも、「防災士」とは社会の様々な場で防災力を高める活動が期待されている者であり、その資格を有する者が防災に関する活動において「防災士」と名乗ることに意味があり、各々の活動の下で自由に名乗ることが出来るようにしておくことが当然である。
なお、請求人は、「請求人は、上述した公益に資する事業を行うにあたり、一貫して「防災士」の語をその事業を表示する標章として使用している。」と述べ、甲12及び甲17から甲23を提示しているが、いずれにおいても「防災士」の語は「防災に関する一定の資格を持った人」又はその資格の名称として使用されており、その事業を表示する標章として使用されていない。「事業を表示する標章」として使用されているのは各冊子の表紙の下段又は最終頁の下段に表示されている名称である。
仮に、「防災士」のような資格の名称が請求人の述べるように「公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章」であるとすれば、正当に「防災士」の資格を有する者は、自己の業務に関する役務について商標登録を得ようとする際に、「防災士」と他の語を組み合わせた商標について一切登録が認められない事態が生じる。しかしながら、例えば、著名な国家資格に「弁護士」があり、「弁護士」と他の語を組み合わせた登録商標は多数存在するし(乙24)、また、同じく国家資格として著名な「保育士」があるが、「保育士」と他の語を組み合わせた登録商標も多数存在している(乙25)。このことから「〇〇士」との構成からなる資格の名称が「公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章」と判断することは妥当ではなく、これは「防災士」についても同様に考えられるべきである。
ウ 「防災士」の著名性について
(ア)「防災士REPORT」について
請求人は、「防災士」に関する事業や取組、「防災士」の活動紹介をするための「防災士REPORT」なるものを毎年発行していると述べているが、これがどこで発行又は掲載されているか不明である。また、「防災士」の資格取得者の人数や、各地域で防災士の養成講座が開かれたり、育成が行われていることが述べられているが、結局は「防災士」という「災害を防止する一定の知識を持った専門家」についての認知度に関することであり、「公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章」として「防災士」が著名性を得ていることを証明していることにはならない。
(イ)「防災士」が取り上げられたその他の事例
請求人が提出した平成22年(2010年)度版の「防災白書」(甲24)は本件商標の登録査定日から14年も前のものであり、平成27年(2015年)2月23日「第189回国会衆議院予算委員会」(甲26)は6年前、平成29年(2017年)3月1日「第193回国会参議院予算委員会」(甲27)は4年前と古く、参考になるか疑問であるが、その他の資料(甲28、甲29)を見ても「防災士」という資格又は資格を有する者について取り上げられているのであって、「公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章」として周知性があることを証明するものではない。
(ウ)新聞記事等への掲載例について
請求人は、「防災士」に関する記事が各種新聞やウェブサイト版ニュース記事として掲載された例を一例として挙げている(甲31~甲34)。しかしながら、いずれの資料も日付、新聞名称、記事名及び補足事項の一覧のみで、実際の記事に掲載された具体的な内容が不明である。また、当該一覧は誰が作成した物か不明なため客観性がない。
(エ)インターネットでの検索結果について
請求人はインターネット検索エンジン「Google」を使用して「防災士」の語を検索した結果のウェブページの写しを提示し(甲35、甲36)、その結果は請求人が事業として行う「防災士」に関するものがほとんどであると主張しているが、中には「日本防災士機構」と「防災士」の語が使用されているものがあるものの、そのほとんどが請求人の業務に係るものかは証拠からは明らかではない。
(オ)まとめ
上記のとおり、「防災士」は「防災に関する一定の知識を有する専門家」又はその資格の名称を表す語であって、請求人の事業を表示する標章として使用されるものではない。請求人は「防災士」の認証や資格の付与を行い、その活用を図る事業をその名のもとに行っているのであるから、当該機構の名称が事業を表示する標章である。「防災士」の名称はその資格を有する者が自らそのように名乗ることが認められているものであるので、各有資格者がその名の下に各々の事業として行っていることがほとんどであると思われる。したがって、「防災士」の使用例をいくら挙げても請求人の事業を表示する標章として著名であることを証明することにはならない。
エ 本件商標と「防災士」の名称の類否について
請求人が自己の営業を表示するものとして主張する「防災士」の語は、既述のとおり「防災に関する一定の知識を有する専門家」程の観念を有し、仮にこれが請求人の事業を表示する標章だとしても、その業務である「防災士」の認証や資格の付与を行い、その活用を図る事業との関係ではその役務の内容を表示するものであるため識別力はかなり低いものと思料する。外観は「防災士」の漢字3文字からなり、当該文字からは「ボウサイシ」の称呼が生じる。
これに対して本件商標は、「日本食育防災士」の文字からなり、「食育」の語は「食材・食習慣・栄養など、食に関する教育。」を意味し(広辞苑第七版)、「防災」は「災害を防止すること。」(前掲書)といった意味を有する。「食育」と「防災」は一見、相容れない語であるが、「食育スペシャリスト」であったN氏が、熊本地震後に、災害時の食の安全を確保する必要性を感じ「食育防災」の語を使用し、社会の意識を高める活動をしてきたのは上記のとおりである。また、災害時の食育活動の意味を有するものとして「食育防災」又は「防災食育」の語が使用されている例もある(乙28)。このことから本件商標のうち「食育防災」の語は「災害時の食に関する教育」や、「災害時の食の安全の確保」といった意味を有することから、「食育」と「防災」の語を分離し、「防災士」の部分のみを抽出して他の商標と対比すべきではない。
すると本件商標からは「ニホンショクイクボウサイシ」又は「ショクイクボウサイシ」の称呼のみが生じる。請求人の商標「防災士」から生じる「ボウサイシ」の称呼が5音であるのに対し、本件商標の「ニホンショクイクボウサイシ」は12音、「食育ボウサイシ」は9音で大きく異なり称呼は類似しない。また、観念についてはその意味内容が異なり、外観は引用使用商標が3文字で、本件商標が7文字と大きく異なるため、これらを総合的に観察すると商標として類似しない。
オ 請求人と被請求人の関係について
被請求人の代表理事であるN氏は本件商標の登録査定時より前に、請求人の認定の下で防災士の資格を有していた。また、請求人の参与を務めている東京大学教授M氏は、N氏にとっては以前より防災に関しては師と仰ぐ存在であり、M氏のラジオ番組にゲストとして招かれて「日本食育防災士」の活動を紹介したこともある(乙26、乙27)。したがって、被請求人と何ら無関係のものでもなく、「日本食育防災士」として活動することを黙認されていた。
カ 小括
以上のとおり、本件商標と「防災士」は商標として類似せず、「防災士」の語が公益団体である請求人の業務に係る事業を表示するものではなく、また、著名なものではない。さらに、被請求人の権威を損なうものでもない。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第6号に該当しない。
(4)商標法第4条第1項第7号について
本件商標は、「日本食育防災士」の文字を標準文字で表してなるところ、「食育」の語は「食材・食習慣・栄養など、食に関する教育。」を意味し(広辞苑 第七版)、「防災」は「災害を防止すること。」を意味し(前掲書)、そして「士」の文字は「一定の資格・役割をもった者。」を意味することから(前掲書)、商標全体からは「日本において食に関する教育をし、災害を防止する一定の知識を有する一定の資格・役割を持った者」程の意味合いを有する。当該意味合いからして、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激又は他人に不快な印象を与えるような構成でない。
そして、本件商標が「防災士」の文字を有するとしても、上述のとおり、「防災士」の語自体が識別力の弱い語であって、全体で一連一体に構成される「日本食育防災士」と「防災士」は類似する商標とはいえないし、本件商標に接する取引者、需要者が、その構成中の「日本食育」の文字を捨象し、殊更に「防災士」の文字のみに着目すると判断しなければならない特段の事情はない。また、「日本食育防災士」の文字が、国家資格等であるかのごとく、誤信させるような事情は見いだせず、かつ、「日本食育防災士」と同一又は類似する名称の国家資格等の存在や本件商標と同一又は類似する名称が法令によって使用を規制されている事実も見受けられない。請求人は、「防災士」の名称について「これを名乗ることを許されるのは、一定の研修を受講した上で、資格試験を受験し、これに合格した後に請求人に対して申請し、その認定がなされた災害に関する一定の専門的知識及び技能を有する者のみに限られている」、「そもそも請求人以外の無関係の第三者が、造語である「防災士」という語に、他の語を結合したにすぎない商標を採択する必然性は皆無である。」と述べているが、上記で述べたとおり、本件商標の登録査定時の権利者に所属のN氏は、登録査定の前である令和3年6月25日を認証日として請求人から「防災士」の認定を受けていた(乙4)。つまり、N氏は「防災士」を名乗ることを許されており、「防災士」の文字を含む「日本食育防災士」の文字からなる商標を登録する正当な理由を有していたのである。
上記に記載のとおり、N氏が各地で食育と防災に関するイベントに参加していることや様々な普及活動を行っていることを見れば、請求人が本件商標を指定役務に使用しても社会公共の利益に反しないばかりか、社会一般の道徳観念に反しない。
よって、本件商標は、商標法第4条1項7号に該当しない。
(5)商標法第4条第1項第10号について
本件商標と「防災士」の商標は前記で述べた理由により類似しない。また、請求人の商標「防災士」は請求人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標とはいえない。
なお、請求人は本件商標について「「日本食育」又は「食育」と「防災士」の語に特段強い結びつきが存在する事情が見当たらず、「日本食育防災士」が一連で特定の意味合いをもって認識され、全体をもって行った不可分のものとして捉えなければならない特別な事情がないことからすれば、」と述べているが、「防災士」の文字のみに着目し「食育」の文字から生じる意味や印象等を考慮しておらず妥当でない。「食材・食習慣・栄養など、食に関する教育。」といった意味を有する「食育」と、「災害を防止する。」との意味を有する「防災」の語は、指定役務のうち、例えば「知識の教授」との関係では「食育」や「防災」の語はその教授する内容を表すため識別力が極めて弱い語であるが、各語が組み合わさった「食育防災」の語からは「災害時の食に関する教育」や、「災害時の食の安全の確保」といった意味を有することから、「食育防災」又は「日本食育防災士」の語をひとまとまりの造語と見るべきである。また、N氏が本件商標の登録出願時の権利者に所属している頃から、「食育」に関する普及活動を行い、やがて「防災食育」という造語を使うようになり、請求人によって「防災士」の認定を受けた後に「防災」とは異なる「食育防災」という新たなジャンルを打ち立て「日本食育防災士」の造語からなる名称の下で各地で講義や普及活動を行い現在に至るのである。この観点からしても、本件商標から「防災士」の部分を抽出し「ボウサイシ」の称呼をもって請求人の商標と対比することは妥当ではない。
よって、本件商標は、商標法4条1項10号には該当しない。
(6)商標法第4条第1項第11号について
本件商標と引用商標の指定役務が同一又は類似することについては争わないが、本件商標と「防災士」の商標は前記で述べた理由により類似しない。
なお、請求人は、「「日本食育」又は「食育」と「防災士」に、観念上のつながりはなく、」と述べているが、日本国内で大きな災害が繰り返される中で、災害時の食事の確保や食の安全というものが重要視されるようになり、各地で「食育」と「防災」に関するイベントが頻繁に行われてきたことは上記で述べた。また、災害時の食の確保や、防災と食育について学ぶことを目的とした「防災食育センター」が次々と開設されている実情がある(乙28)。したがって、「食育」と「防災」は密接な関係を有しており、「災害時の食事に関する教育」や「災害時の食の安全の確保」といった観念上のつながりを有していることから、これら2語を分離して観察すべきではない。
したがって、本件商標は、商標法4条1項11号には該当しない。
(7)商標法第4条第1項第15号について
前記で述べたとおり、本件商標と引用使用商標は類似しない。
引用使用商標の周知度については請求人の資料から明らかではなく、周知性の程度は低いと考えられる。
「防災士」の文字は「災害を防止すること」を意味する「防災」及び「一定の資格・役割を持った者」を意味する「士」と一般に親しまれた既成語を組み合わせたものであり独創性がない。むしろ本件商標が「食育」と「防災」を掛け合わせた「食育防災」の語を一部に含んでいることの方が独創性がある。
引用使用商標は資格の名称であって、また請求人の業務に係る事業を表示する商標ではないので、ハウスマークには該当しない。
請求人は特定の分野において活動することを目的とした特定非営利活動法人である。請求人はその定款の第4条及び第5条に規定しているように「防災士」の認定や防災に関する事業を主に行っているため(甲2)、多角経営の可能性は低い。
請求人が行っている事業と本件商標の指定役務については一定程度の関連性はある。
請求人の提供する役務の需要者は「災害を防止するための一定の知識」を取得したい者であるところ、本件商標の指定役務のうち「知識の教授」の需要者はこれを含むと考えられるため需要者に一定の共通性はある。
しかしながら、すべての事情を総合的に考慮すると、被請求人が本件商標を使用しても請求人の業務と混同を生じるおそれはない。
なお、そもそも被請求人は請求人から正規に「防災士」の認定を受けた者であり、被請求人が本件商標を使用することにより請求人と何らかの関係があると認識するとしても、それは請求人が認定した資格を有する者ということを認識させるにとどまり、被請求人が請求人と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品等と誤認するおそれはない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(8)商標法第4条第1項第19号について
請求人の商標「防災士」が請求人の業務に係る役務を表示するものとして著名ではないこと、及び本件商標と請求人の商標「防災士」が類似しないことは先述のとおりである。
また、請求人は、被請求人が「防災士」の語を含む本件商標を使用することについて、「その商標の使用を採択した時点で「防災士」との混同を生じさせることを企図した不正の目的があるといわざるを得ず、「防災士」の資格を付与するのに種々の要件を定め、資格取得者としての「防災士」を名乗ることが出来る者を、災害・防災に関して一定の専門的知識及び技能を有する者に限定し、請求人が長年にわたって事業を行って来たことによって「防災士」に蓄積してきた信用を棄損させるものにほかならない。」と述べている。しかしながら、先述のとおり、N氏が2021年6月25日に請求人の認定を受けて「防災士」の資格を取得しており、その後同年11月2日に本件商標の登録出願をしているため、防災士として「防災士」を名乗ることは認められており、資格を持った「防災士」が各地で活動することにより、社会一般の防災意識を高めることになるのであるから、本件商標を登録することが「防災士」に蓄積された信用を棄損させることにはならない。さらに、N氏は「食育」や「防災」に関する知識を習得し、またその知識を有する者を「日本食育防災士」として認定することによって社会の防災意識を高め、また災害時には被災者を救援することを目的に「日本食育防災士」の名称について商標登録を受けたのであり、上記で述べたとおり同様の活動を数多く行ってきたのであるから不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的、その他の不正の目的をもって使用するものには該当しない。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号第には該当しない。
請求人は、「防災士」を自己の事業において長きにわたって使用してきており、本件商標はそれと同一又は類似の商標であるから、本件審判を請求することについて、法律上の利害関係を有する旨を主張するところ、被請求人は当該利害関係については争っておらず、当事者間に争いがない。
したがって、当審は請求人が本件審判の請求について利害関係を有すると認める。
(1)本件商標について
ア 本件商標は、「日本食育防災士」の文字を標準文字で表してなり、その全体が一行でまとまりよく表示されている。
本件商標からは、「ニホンショクイクボウサイシ」の称呼が生じる。
「日本食育防災士」は造語であると認められるが、その構成中、「日本」は我が国の国名であり、「食育」は「食材・食習慣・栄養など、食に関する教育」を、「防災」は「災害を防止すること」を意味し、「士」は「一定の資格・役割を持った者」をも意味し、「弁護士」「栄養士」などの国家資格のほか、多くの民間資格の名称に用いられる語であるから (甲37、甲38、甲67)、本件商標からは、「我が国における食育と防災に関する何らかの資格、その資格を有する者」という観念を生じ得る。
イ なお、被請求人の主張及び提出証拠(甲135~甲152)、さらに、被請求人及び被請求人代表者の事業や活動の実績等(乙3、乙5~乙23、乙28)を検討しても、「防災食育センター」「食育防災センター」といった用語が使用されていることは認められる(乙28)ものの、本件登録査定日において、「食育防災」という用語が一般的に使用されていたり、本件商標の指定役務の需要者(後記(3)エ)において、広く知られるに至っていたりしていたとまでは認められない。
(2)引用商標について
引用商標は、「防災士」の文字を一行で表示されてなり、「ボウサイシ」の称呼が生じ、前記の「防災」と「士」の語義から、「防災に関する何らかの資格、その資格を有する者」という観念を生じる。
(3)本件商標の分離観察の可否
請求人は、「防災士」の語について、請求人が認証する民間資格及びその有資格者を指し示すとともに、請求人による「防災士」の育成・普及事業等を指し示す語として、需要者に広く知られた著名な語であるから、本件商標の「防災士」の文字部分は、自他識別標識として機能する商標の要部であり、分離観察が許される旨主張するので、この点について検討する。
ア 複数の構成部分を組み合わせた結合商標は、その構成部分全体によって他人の商標と識別すべく考案されているものであるから、その構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判定することは原則として許されない。しかし、商標の構成部分の一部が、当該商標の指定商品・役務の取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合等、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合には、商標の構成部分の一部を抽出し、当該構成部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・集民228号561頁 参照)。
イ 請求人は、民間資格である「防災士」の認証、資格称号の付与、防災士の資質向上を図る事業等を行っているところ(甲2、甲3、甲11~甲13など)、提出された証拠(以下の各項に掲げる。)によれば、この「防災士」について、以下の事実が認められる。
(ア)「防災士」については、防災に関する基礎的な専門知識や技能を有する専門家の資格として、防災関係者有志によって制度化に向けた運動が進められ、平成14年3月、請求人の設立総会が開催され、その会長にはA・元兵庫県知事が就任し、同年7月、特定非営利活動法人の認証(甲81)を受けた。現在の代表者理事長は、元総務省消防庁次長である(甲3、甲12、甲14~甲16、甲22、甲81、乙27)。
(イ)請求人は、平成30年1月5日、東京都知事より、特定非営利活動法人のうち、その運営組織及び事業活動が適正であって公益の増進に資するもの(特定非営利活動促進法第44条第1項)としての認定を受け、令和5年6月20日、同認定の更新を受けた(甲82、甲83)。
(ウ)請求人は、平成15年以降、「防災士」の資格取得試験を実施し、資格を認証する事業を行っており、その累計認証者数は、令和3年4月時点で21万人を超えた(甲12、甲23)。なお、令和5年6月時点の認証登録者数は25万9063人(甲11)であり、請求人作成の一覧表(甲62)によれば、令和6年8月末現在では29万6214人となり、認証登録者数は毎年増加していることがうかがえる。認証登録者の所在地は全都道府県にわたっている(甲3、甲11、甲12、甲17~甲23、甲62)。 被請求人は、これらの数字の信用性を争うが、請求人の活動実績等((ア)、(イ)、(エ)、(オ))に照らすと、少なくとも公表資料に掲載された数字は一定の根拠と正確性を有するものと認められ、これを左右するに足りる証拠はない。
(エ)請求人から「防災士」の認証を受けるためには、原則として、請求人が認証した研修機関が実施する「防災士養成研修講座」を履修した後に、請求人の実施する資格取得試験に合格する必要があるところ、令和5年3月時点で、32の府県、74の市区町等が、請求人との間で防災士研修実施に関する協定を締結し、44の大学、高等専門学校等が研修機関として認証されており(甲12。請求人作成の一覧表(甲60)では、令和6年度における防災士養成研修実施機関の数は、府県等が28、市・町等が48、大学、高等専門学校等が50、民間法人が3となっている。)、研修費用及び認証費用の助成を行っている自治体も多数あった(甲12、甲13、甲17~甲23、甲41~甲61)。
なお、この防災士養成研修実施機関の数は、本件登録査定日(令和3年12月28日)より後のものであるが、前記(ウ)の防災士の認証者数や上記証拠の内容から、本件登録査定日においても、これに近い状況にあったことは推認することができる。
(オ)請求人は、平成26年以降、防災士に関する事業や、防災士の実際の活動を紹介する冊子である「防災士REPORT」を毎年発行しており、同冊子は、地方公共団体の防災担当部署、防災士有志により設立された特定非営利活動法人日本防災士会(以下「日本防災士会」という。)の各都道府県支部のほか、各種防災イベントにおいて配布されている。令和3年12月までに発行されたこれらの冊子では、地方自治体、大学による前記(エ)の「防災士養成研修講座」等の防災士養成に関する事例のほか、請求人、地方自治体、各種機関・団体による防災士の活動の支援、資格取得後の研修、日本防災士会や地域の防災士による地域、職場等の防災訓練における指導、災害対応マニュアルの作成支援、防災に関する啓発活動等の、防災に関するさまざまな活動の事例が紹介されている(甲14、甲17~甲23、甲84)。
(カ)内閣府発行の平成22年版防災白書(甲24)において、民間における防災リーダーの育成の事例として、請求人の認証する「防災士」が取り上げられた。また、内閣府等が毎年主催する「防災推進国民大会(ぼうさいこくたい)」においては、平成29年から令和3年までの毎年、日本防災士会による企画出展と、防災士による講演等がなされている(甲88~甲98)。
(キ)「防災士」の語は、インターネット版の辞典類である朝日新聞社提供の現代用語事典「知恵蔵 mini」及び小学館提供の「デジタル大辞泉」に、請求人が認定する民間資格であると掲載されているが、これら以外の一般的な国語辞典、用語辞典、百科事典等に掲載されていることを示す証拠はない。なお、少なくとも「知恵蔵mini」には、一般消費者に周知とはいい難い用語も相当数掲載されている(甲30、甲131、甲132)。
(ク)各種新聞やウェブサイトニュースでは、防災士に関する記事が、平成16年6月から平成22年2月までに53件(甲87)、平成25年には57件(甲31)、平成26年には63件(甲86)、令和2年には40件(甲34)掲載された。もっとも、請求人提出の各証拠からは、見出し以外の記事内容が必ずしも明らかでなく、紙媒体のものは記事の大きさが不明で、相当割合あるウェブサイトニュースの閲覧件数も不明である。
(ケ)防災に関する資格を紹介する6つのウェブサイトでは、4つから5つの主な資格のみを取り上げたものにおいても、請求人の認証する「防災士」が取り上げられている(甲63~甲68)。
ウ 以上の認定事実によれば、請求人が認証する民間資格である「防災士」は、本件登録査定日(令和3年12月28日)において、認証者数が21万人を超えており、日本全国の多数の地方自治体や大学等による資格試験受験のための防災士養成研修や資格取得の支援、地方自治体、各種機関・団体による防災士の活動の支援、研修(請求人によるものを含む)、日本防災士会や各地域の防災士によるさまざまな防災に関する活動がなされてきたこと、これらの実績等は、新聞等を通じて一定程度報道され、請求人も毎年発行する「防災士REPORT」の配布等を通じて紹介していることが認められる。
これらの実績等は、官公庁、地方自治体といった公的な防災関係機関の施策や、防災士を含め、防災に関する各種団体等の関係者によるものが中心であるが、その結果として、防災について請求人が認証する民間資格である「防災士」、ひいては「防災士」の語は、本件登録査定日(令和3年12月28日)において、防災に関する関係機関、団体の関係者と、防災又は防災に関する資格について関心を有する者の間においては、広く知られていたと認められ、これに反する証拠はない。
エ 他方、本件商標の指定役務は、「技芸・スポーツ又は知識の教授」、その他前記第1のとおりであるところ、本件商標には「防災士」の文字が含まれており、本件商標から「我が国における食育と防災に関する何らかの資格、その資格を持った者」という観念が生じ得ることを考慮すると、本件商標の指定役務の需要者にも防災又は防災に関する資格について関心を有する者が当然に含まれるものと考えられる。したがって、少なくともこのような本件商標の指定役務の需要者の間においては、「防災士」の語は、広く知られていたということができる。
オ しかしながら、そのことから直ちに、本件商標の「防災士」の構成部分が、その指定役務の需要者に対し、役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものとして、当該構成部分だけを抽出して本件各使用商標と比較し、本件商標そのものの類似を判断することができるということはできない。すなわち、「防災士」の語は、防災又は防災に関する資格について関心を有する者にとっては広く知られていたとはいえ、一般の国語辞典や用語辞典等に掲載されるほど周知性があったわけではない。
他方、本件商標は「日本食育防災士」の標準文字を一行でまとめて表してなるもので、「防災士」の文字部分だけが独立して見る者の注意を引くように構成されているわけではない。また、本件商標に含まれる 「食育」の文字は、「防災」とは別に「食材・食習慣・栄養など、食に関する教育」という独自の意味を有するものであり、「食育」と「防災」 との組合せも、証拠上、ありふれた組合せであるとは認められないから、「食育防災士」は新たに造られた言葉として、独自の識別機能を有するというべきである。
したがって、本件商標の「防災士」の部分以外の構成部分又はその組合せからおよそ出所識別標識としての称呼、観念が生じないなどということはできず、かつ、前記の「防災士」の語自体の周知性の程度を併せ考慮すると、本件商標の「防災士」の構成部分を分離観察することは相当でなく、本件商標は一連一体の商標とみるべきであるから、請求人の主張は、採用することができない。
(4)本件商標と引用商標の対比
本件商標と引用商標は、前記(1)及び(2)のとおり、外観、称呼及び観念を異にするものである。両者は、外観の「防災士」の部分、称呼の「ボウサイシ」の部分及び観念の一部内容において共通するといえるとしても、共通する文字は3文字にすぎず、本件商標を一連一体の商標とみるべきことからすると、その差は大きく、判別は容易である。「日本食育防災士」が「防災士」と取り違えられたことにより出所の誤認混同が生じていることを認めるに足りる証拠もない。本件商標と引用商標が与える印象、記憶、連想等を総合し、本件商標と引用商標との類似性を全体的に考察した場合、本件商標それ自体は、商標法第4条第1項第11号の「これに類似する商標」とはいえない。
(5)商標法第4条第1項第11号該当性についての結論
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当するということはできない。
引用使用商標は、「防災士」の文字からなり、実質的に引用商標と同一の商標というべきであるから、前記1と同様の理由から、本件商標は、引用使用商標と類似する商標とはいえない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号の「これに類似する商標」 に該当するということはできず、同号に該当しない。
(1)「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれ」について
商標法第4条第1項第15号は、周知表示へのただ乗り及び希釈化を防止し、商標の自他識別機能を保護することによって、商標使用者の業務上の信用の維持及び需要者の利益の保護を目的とするものであるから、同号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には、当該商標をその指定商品又は指定役務(以下「指定商品等」という。)に使用したときに、当該商品等が他人の商品又は役務(以下「商品等」という。)に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品等がこの他人との間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ(広義の混同を生ずるおそれ)がある商標を含むものと解するのが相当である。
そして、同号の「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである(最高裁第三小法廷平成12年7月11日判決・平成10年(行ヒ)第85号・民集54巻6号1848頁〔レールデュタン事件〕参照)。
(2)本件商標と本件各使用商標との類似性の程度
ア 前記したところによれば、本件商標は、商標法第4条第1項第10号又は同項第11号の適用との関係では、本件各使用商標と類似するものではないが、 本件商標の外観のうち「防災士」の部分、称呼のうち「ボウサイシ」の部分は、それぞれ本件各使用商標と同一であり、観念においても「防災に関する何らかの資格、その資格を有する者」という要素において共通性が認められる。
イ 本件商標は、本件各使用商標との関係で、このような共通性を有する限度では類似性を有する一方、本件商標の指定役務の需要者であって、防災又は防災に関する資格について関心を有する者(前記2(3)エ)の間においては、本件各使用商標は周知である。そうすると、本件商標「日本食育防災士」は、本件各使用商標「防災士」と区別して識別することができるものではあっても、その需要者からみれば、「防災士」と全く無関係なものではなく、何らかの関連性を有する資格ではないかという連想を生じさせ得るものである。
(3)本件各使用商標の周知著名性及び独創性の程度
ア 前記2(3)エのとおり、本件商標の指定役務の需要者には、防災又は防災に関する資格について関心を有する者が含まれており、このような需要者の間においては本件各使用商標は周知であると認められる。
イ 本件各使用商標は、「防災」の語に資格者を示す「士」を加えたにすぎず、その独創性の程度は高いとはいえない。
(4)本件商標の指定役務と請求人の業務に係る役務との間の性質、用途又は目的における関連性の程度、役務の取引者及び需要者の共通性、その他取引の実情
ア 請求人は、防災に関する民間資格である「防災士」の資格の認証、防災士の資質向上を図る事業や防災に関する啓蒙活動等を行うことを目的とし(甲2、甲3、甲11~甲13など)、前記2(3)イによれば、請求人は自ら実際にそれらの活動を行っているほか、請求人の認定を受けた多数の地方自治体や大学等が、防災士養成研修実施機関として、防災士の資格試験受験のための研修を実施するなど、請求人の「防災士」に係る役務の提供は、請求人のみならず、請求人が認めた関係団体を通じても行われていること、請求人から認証を受けた防災士や防災士の団体である日本防災士会が、地域、職場等の防災訓練における指導、災害対応マニュアルの作成支援、防災に関する講演等の啓発活動等、防災に関するさまざまな活動を行っていることが認められる。
しかるところ、防災と食に関連するテーマは、本件登録査定日前から、防災士が講師として参加する防災に関する地方自治体等の行う啓蒙活動等において繰り返し取り上げられている(甲121~甲130)。このことは、「防災」と「食」とが密接に関連しており、防災に関係する食の問題が請求人の業務に係る役務(防災士の育成及び活用、防災等を目的とする団体・個人との連携、講演会・シンポジウム等の啓蒙活動等)の対象分野の一つであることを示すものである。
他方、本件商標の指定役務(技芸・スポーツ又は知識の教授、教育上の試験の実施、セミナーの企画・運営または開催、電子出版物の提供、放送番組の製作等)は、被請求人の事業の一つである「防災・非常用途の食糧品及びツールに関する商品情報の収集、危機管理情報の収集、分析、提供サービス」(乙3の1・定款第2条)に係る役務として提供されるときは、いずれも、防災と食をテーマとするという意味において、本件各使用商標を使用して行う請求人の啓蒙活動等の業務と対象分野が重なることになる。被請求人代表者は、現に災害時の食料の確保、備蓄、配給、食の安全等について普及活動等を行っており(甲74、乙6~乙22)、その活動を紹介する記事の多くでは「日本食育防災士」に対する言及がされていることが認められる(乙11~乙13、乙15~乙18、乙20)。
そうすると、本件商標の指定役務と請求人の業務に係る役務との間の性質、用途又は目的における関連性の程度は、高いというべきである。
イ 本件商標の指定役務の需要者と本件各使用商標に係る請求人の業務の需要者は、いずれも防災又は防災に関する資格に関心を有する者が含まれるから、需要者の共通性が認められる。
ウ その他の取引の実情
静岡県は、請求人から防災士養成研修実施機関の認定を受けているほか、平成17年以降、名称に関する請求人の承諾を得て、独自に「静岡県ふじのくに防災士」(平成21年までは「静岡県防災士」)を養成しており、請求人が認証する「防災士」とは別のものであることの注意喚起とともに、ホームページにおいて告知している(甲12、甲61、甲102、甲106の6-4)。このことは、逆にいえば、一般に「防災士」の名称は、その前に付加される語句如何にかかわらず、請求人の認証する「防災士」と関係するものであるとの誤解が生じやすいという現状認識を示すものということができる。
(5)混同のおそれについての判断
以上の事情は、本件登録査定日のほか、その約2か月前である本件商標の登録出願日においても(商標法第4条第3項)認められる。これらの事情を総合すると、本件商標をその指定役務に使用するときは、その需要者の普通に払われる注意力を基準としても、その役務が請求人の「防災士」と何らかの関係を有する防災関係の資格であって、請求人又は請求人が認めた関係機関が運営・管理するものの業務に係る役務であるとの混同(広義の混同)を生ずるおそれがあるということができる。
(6)被請求人の主張について
ア 本件商標と本件各使用商標の類似性の程度及び本件各使用商標の周知性・独創性については、それぞれ前記の限度で認められ、被請求人の主張のうち、これに反する部分は採用することができない。
イ 被請求人は、請求人が行う事業は、防災士になろうとする者又は防災士を対象とするものであるから、需要者の通常の注意力をもってすれば、その出所を誤ることはない旨主張する。
しかし、請求人が行う事業は、防災に関する啓蒙活動や情報発信を含むものであり、需要者は、防災に関心のある者であれば、防災士又は防災士になろうとする者に限られない。また、防災士に関する資格を取得しようとする者であっても、必ずしも資格制度に精通しているわけではないから、本件各引用商標と同じ「防災士」の構成部分を有する本件商標が請求人の業務に類似する役務に使用された場合に、その役務の出所を識別することができるとは限らない。したがって、被請求人の前記主張は採用することができない。
ウ 被請求人は、本件商標の指定役務のうち「技芸・スポーツ又は知識の教授」等は、特に需要者を限定しておらず、被請求人が本件商標を使用して行ってきた事業は、防災の中でも、災害時の食事の重要性、調理方法、栄養管理といった分野に特化したものであるから、請求人と被請求人との業務とでは、需要者の範囲が異なる上、具体的な取引の実情においても、混同を生ずるおそれはない旨主張する。
しかし、本件商標の指定役務の「技芸・スポーツ又は知識の教授」等が、商標登録の文言上その需要者が限定されていないとしても、例えば被請求人の行う事業を前提に考察した場合、防災又は防災に関する資格について関心を有する者が当該指定役務の需要者に含まれ、本件各使用商標を使用した請求人の業務に係る役務と需要者を共通にすることは前記のとおりである。そして、これらの点を踏まえ、当該指定役務について一般的に考察すると、本件商標を当該指定役務に使用したときは請求人の業務に係る役務と広義の混同を生ずるおそれがあると認められることも前記のとおりであるから、被請求人の主張は採用することができない。
(7)商標法第4条第1項第15号該当性についての結論
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当する。
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第10号及び同項第11号には該当しないとしても、同項第15号に違反してされたものであるから、その余の点の無効事由について判断するまでもなく、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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